説明

低透水性材料の測定方法及び測定装置並びに止水材

【課題】合理的な時間の範囲内で低透水性材料の透水性を測定することが可能な測定方法を提案する。
【解決手段】同じ試料の透水性を所定の載荷圧力で測定する一回以上のメインステップで構成される。各メインステップは、予め決定した一定の基準圧力を載荷して上記試料の透水性を測定することを3回以上繰り返す第1のサブステップと、第1のサブステップで測定された透水性の測定値のばらつきを評価する第2のサブステップと、上記第2のサブステップにおいての各測定値のばらつきの程度が基準値以下であるときにそれらの複数の測定値を最終の測定値として採用し、ばらつきの程度が基準値以上であるときには、当該ステップの基準圧力よりも大きな新たな基準圧力を採用して、次のメインステップに移行することを決定する第3のサブステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低透水性材料の測定方法及び測定装置並びに止水材に関する。低透水性材料とは、主として1×10−8〜1×10−12(m/s)の範囲の透水性を有する材料をいう。
【背景技術】
【0002】
従来の測定方法は、水供給部から試料収納部を経て流量測定部へ至る流路を含む透水性測定装置を用いて、その試料収納部の上流側及び下流側の水圧の圧力差を計測することで行っている。圧力の計測のために上記上流側及び下流側に大気圧に開放された開口部を設け、各開口部での水頭差を測定できるようにしている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3381991号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ISO A 1218:2009 日本工業規格「土の透水試験方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、コンクリートやセメント系改良土などの低透水性材料の透水性を正確に求めることが要求されている。外部に漏れてはならない物質を密閉する場合に、従来では実質的に非透水性と見なされていた材料で周囲を囲って密閉していた。しかしながら、こうした材料でも透過性が0ではないため、透水性の定量評価の必要性が指摘されている。
【0006】
上記材料の透水性は非常に小さいので、非特許文献1の方法で測定しようとすると膨大な時間を要する。試験時間を合理的な範囲で短くするためには、試料への載荷圧力を大きくすることが考えられるが、それでも水位管理方式で所定の圧力を得ようとすると、試料収納セルの上流側に非常に高い水柱を立てなければならず、実用的ではない。
【0007】
こうした低透水性材料の合理的な測定方法はこれまで確立されていない。例えば特許文献1は、低透水性測定材料の透水性測定に関して2種類の方法(定水位透水測定方法及び変水位測定方法)で測定が可能なことを特徴とする測定装置を提案しており(段落0034〜0035,0040)、また試料収納セルと試料との間に止水材としてベントナイトを用いることやベントナイトと試料との膨張率を同じとすることなども開示されている(段落0014)。
【0008】
しかしながら、大量の低透水性材料の試験体を適正に一定の時間に処理するためにはどうすればよいかということには開示していない。
【0009】
止水材に関しては、ベントナイトは膨潤性が大きいので、膨潤による試料との体積変化の差により試料から止水材が外れることを防止するために両者の膨張率を同じにするということを提案しているだけであって、低透水性材料を測定する場合に好適な止水材の性能に関しては開示していない。
【0010】
本発明の第1の目的は、合理的な時間の範囲内で低透水性材料の透水性を精度よく測定することが可能な測定方法を提案することである。
【0011】
本発明の第2の目的は、給水圧力の調整によって1×10−8〜1×10−12(m/s)の低透水性領域内で透水係数が高い材料から低い材料まで対応可能な範囲が広い測定装置を提案することである。
【0012】
本発明の第3の目的は、ベントナイトの高膨潤性を利用して正確な透水流量を求めることができる止水材を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の手段は、低透水性材料の透水性測定方法の発明であり、
高圧水供給部から試料収納部を経て流量測定部へ至る流路を含むとともに試料収納部への載荷圧力を測定するための圧力測定部を有する透水性測定装置を用いて、透水性が1×10−8〜1×10−12(m/s)である低透水性材料の透水性の測定に適した方法であって、
同じ試料の透水性を所定の載荷圧力で測定する一回以上のメインステップで構成され、
各メインステップは、
予め設定された一定の基準圧力を載荷して上述の流量測定操作を3回以上繰り返す第1のサブステップと、
第1のサブステップで測定された流量の測定値のばらつきを評価する第2のサブステップと、
上記第2のサブステップにおいての各測定値のばらつきの程度が基準値以下であるときにそれらの複数の測定値を最終の測定値として採用し、ばらつきの程度が基準値以上であるときには、当該ステップの基準圧力よりも大きな新たな基準圧力を採用して、次のメインステップに移行することを決定する第3のサブステップと
を含む。
【0014】
本手段は、一定の圧力で透水性試験を繰り返すメインステップを少なくとも一回以上行い、かつ2回以上のメインステップを実施する場合には、図1に示す如くその回を経るごとに試料への載荷圧力を階段状に高くしていく方法を提案している。例えば試験時間T内に試験結果を得なければならない場合に、その試験時間Tを想定するメインステップの数nで等分割して、さらに各メインステップ内での測定操作の数m(3以上の適当数とする)で割って個々の測定時間とする。そして各測定時間内に得られた測定流量のばらつきを評価する。ばらつき量が小さいときには測定結果を良として試験を終了し、ばらつき量が大きいときには測定結果を不良とし、載荷圧力を上げて次のメインステップを繰り返す。測定数を3以上とした理由は、図2に示す如く回帰分析を行うときに測定点が2点だけでは試験時間と流量との関係を表す直線が決まるだけでばらつき量が測定できないからである。
【0015】
「ばらつき量」は実施形態では回帰分析の決定係数Rで評価しているが、これに限られるものではない。ばらつき量が大きいことの原因の一つは、試験固有の測定誤差に比べて測定値(流量)が小さ過ぎるからである。換言すれば誤差が大き過ぎるので、こういう場合には時間をかけても良好な結果は得られない。他の原因は、試料の粒子が内部で移動することで水みちができたりして、流れの状態が変化することである。この場合も流量自体を大きくして流れの状態が安定しないと信頼性のある試験結果が得られない。ゆえにばらつき量が大きい場合に測定結果を不良と判断している。
【0016】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
透水性を測定する各メインステップの前に、上記試料収納部が有する流路の一部である周壁の内面と試料との間に試料より透水性が低い止水材を充填するメインステップを行う。
【0017】
本手段は、図6に示すように試料収納部20の内面を止水材26でシールすることを提案している。これにより止水材に水みちなどが発生することを防止し、試料の透水性を精密に測ることができる。止水材の透水係数は試料の透水係数より低くするものとし、具体的には表2に従う。
【0018】
第3の手段は、
高圧水供給部から試料収納部を経て流量計へ至る流路を含むとともに試料収納部への載荷圧力を測定するための圧力測定部を有し、透水性が1×10−8〜1×10−12(m/s)である低透水性材料の透水性の測定に適した透水性測定装置であって、
高圧水供給部は、空気圧送器から制御弁付きの空気管を経て密閉水槽の上部へ高圧空気を送り込み、かつ密閉水槽内から試料収納部へ高圧水を供給するように形成しており、
上記試料収納部は、上記一端が上記高圧水供給部にかつ他端が水管を経由して流量計にそれぞれ連通されている周壁を有する試料収納セルとして形成され、試料収納部内にその周壁との間に間隙を存して試料を配置するとともに、これら試料の外面と周壁内面との間隙に止水材を充填しており、
圧力測定部は、少なくとも制御弁下流の空気管部分又は密閉水槽内の圧力を測定可能な第1圧力計を有する。
【0019】
本手段は、図5に示す如く試料収納部20への載荷圧力を測定するための圧力測定部40を設け、かつエアコンプレッサーにより圧縮された空気を利用して試料収納部20の上流側の水を高圧化させる透水性測定装置を提案している。圧縮空気を利用して上流側の水を高圧化させるので加圧手段の負荷が過剰に高くなることがない。なお、圧力測定部40は試料収納部20の上流側及び下流側の双方の圧力を測定してもよいが、下流側の圧力計を省略してもよい。上流側に加わる圧力が高いからである。
【0020】
第4の手段は、第3の手段を有し、かつ
上記第1圧力計及び流量計の計測値に応じて、高圧水供給部が供給する水によって試料収納部に載荷圧力を調整するための制御部を有し、
この制御部は、一定の基準圧力の下で予め設定された測定時間内で流量計の出力を分析して流量測定操作を実行する機能と、ある測定時間内に測定された流量が基準値以上であれば当該測定値を記憶し、測定された流量が基準値未満であるときには上記基準圧力に予め設定された増加巾を加えて新たな基準圧力として、次の流量測定操作を繰り返す機能とを有する。
【0021】
本手段では、図5に示すように第1圧力計42及び流量計36の測定値に応じて測定方法及び圧力の制御を行う制御部50を提案する。その制御の特徴は、試料収納部20への載荷圧力を制御するために、流量(試料収納部20の下流側の流量)を用いることである。低透水性材料の透水性試験では、試料収納部20への載荷圧力として予め設定した基準圧力P(但しnはn番目の流量測定操作の意味)が低過ぎると、水が殆ど流れないことがある。そこで流量qが或る基準値qに満たない場合には、上記基準圧力Pに予め設定された増加分ΔPを加えたものを新たな基準圧力Pn+1として、次の操作を行うものとしている。流量の基準値qは適宜定めることができるが、例えばその流量計の最小目盛qminとすることができる。
【0022】
第5の手段は、第4の手段を有し、かつ
上記制御部は、次の(a)から(c)のサブステップを含むメインステップを一回以上実行することを特徴とする。
(a)予め設定された一定の基準圧力を載荷して上述の流量測定操作を3回以上繰り返す第1のサブステップ。
(b)第1のサブステップで測定された流量の測定値のばらつきを評価する第2のサブステップ。
(c)上記第2のサブステップにおいての各測定値のばらつきの程度が基準値以下であるときにそれらの複数の測定値を最終の測定値として制御部に記憶し、ばらつきの程度が基準値以上であるときには、当該ステップの基準圧力よりも大きな新たな基準圧力を採用して、次のメインステップに移行する第3のサブステップ。
【0023】
本手段では、或る基準圧力の下で測定した流量の測定値のばらつきを評価し、例えば決定係数Rで評価したばらつきの程度が基準値以上であるときに、基準圧力を増大させる制御装置を提案している。前述の如くばらつき量が大きいときには適切な測定値が期待できないからである。図7には、本手段の制御方式と前の手段の制御方式とを組み合わせた制御のアルゴリズムが記載されている。すなわち、次の表1に示すように流量qが基準値q以上である、かつばらつき量が基準値以下(決定係数Rが閾値a以上)のときのみその測定値を採用し、それ以外の場合には基準圧力を上げて再度流量測定操作を繰り返すのである。
【0024】
【表1】

【0025】
第6の手段は、第2の手段の透水性測定方法又は第3の手段から第5の手段の何れかの透水性測定装置への適用に適した止水性材料であって
水とベントナイトとを混合してなり、({水の質量}/{ベントナイトの質量})×100[%]で定義される水ベントナイト比を58〜83%とした。
【0026】
本手段は、先の手段に係る透水性測定方法又は透水性測定装置への適用に適した止水材を提案している。すなわち、透水性が1×10−8〜1×10−12(m/s)である低透水性材料の透水性を測定する際に透水性測定装置の試料収納部内面と試料外面との間に充填するための止水材である。この止水材の透水係数は測定前の状態で1×10−12(m/s)以下とすることが好適である。この止水材は、水とベントナイト原料(ベントナイト粉体)との重量割合が塑性限界に近いベントナイトで形成する止水材を提案する。水ベントナイト比は、58〜83%とするとよく(図4参照)、好適には58%〜73%、さらに好適には63%とするとよい。重量割合が塑性限界に近いのでシール材の充填作業性が良く、多量の水を吸収することができ、充分に膨張し、試料と試料収納部との間のシール性能を向上できる。図3に実線で示すようにベントナイトは3.5時間以上経過すると、この止水係数は1×10−12以下に低下し、その後は一定の値に留まるので、密着性が向上し、正確に試料の透過係数が測定できる。
【発明の効果】
【0027】
第1の手段に係る方法によれば、予備試験や推定によらず、試験期間内で供試体に見合った給水圧力を導き出し、適切に制限時間内で透水係数を得られ、かつ低透水性の材料においても、透水量の時間毎のバラツキや、通水の空気溶解等の影響を受けない短時間での試験により信頼性の高い試験結果を得られる。
第2の手段に係る発明によれば、試料収納部の内面と試料との間のシール性を確実に確保できる。
第3の手段に係る測定装置の発明によれば、給水圧力の調整によって透水係数が高い材料から低い材料までの幅が広い対応が可能である。
第4の手段に係る発明によれば、測定時の試料への適当な載荷圧力を見つけて一定に維持することで透水性のばらつき量を精密に観測できる。
第5の手段に係る発明によれば、透水性のばらつき量に応じた制御手順を自動化したから、使い勝手がよい。
第6の手段に係る止水材の発明によれば、止水材として充填するベントナイトの高膨張性による高い漏水防止効果で、正確な透水流量を求めることが出来るので、試験精度の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の測定方法での載荷圧力と試験時間との関係を示す概念図である。
【図2】上記方法での流量と試験時間との関係を表す図である。
【図3】上記方法で止水材として使用されるベントナイトの養生期間と透水係数の関係を表すグラフである。
【図4】上記水ベントナイト比(W/B)と透水係数(k)との関係を表すグラフである。
【図5】本発明の測定装置の全体図である。
【図6】図5の装置の要部横断面図である。
【図7】図5の装置の制御部のアルゴリズムの説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
図1から図4は、本発明に係る透水性測定方法の実施形態を示す。この方法では、次の数式1で表されるダルシーの法則を利用した実験装置を用いる。但し、P、Pは或る流路の上流側及び下流側の各圧力、Qは計測時間tの間に流路を通る透過水量、Lは流路長さ、Aは試料断面積(流路面積)、γは水の単位体積質量、tは計測時間、kは透水係数である。この実験装置は、水の流入口と流出口とを有する試料収納セルを有し、その流入口に圧力Pの高圧水を流し込み、流出口の下流での圧力Pと透過水量Qとを測定するように構成したものである。上記ダルシーの法則により透水係数kを決定することができる。なお試料収納セルの内面は止水材で覆うものとする。
【0030】
【数1】

【0031】
まず本発明の透水性測定方法の準備手順(1)〜(3)を説明する。
【0032】
(1)測定試料の製作
被測定対象である低透水性材料(コンクリートやセメント系改良土など)が存在する現場から所定形状の試料を切り出すか、あるいはその現場の材料と同じ成分のものを実験室で配合して製作する。一般に低透水性材料は固いので、予め試料収納セルの内面に対応する形状(例えば円柱形)に形成するとよい。
【0033】
(2)脱気水の準備
本発明の測定方法では、空気を除去した脱気水を使用するので、所定量の脱気水を予め用意する。なお、脱気水を使用する理由は、飽和状態での透水係数を正確に測定できるようにするためである。
【0034】
(3)止水材の調合
止水材の透水係数は試料の透水係数より低くなければならない。そうしないと試料ではなく止水材の透過係数を測定してしまうことになるからである。具体的には後述の表2に従うとよい。本発明の測定方法は透水係数が1×10−8〜1×10−12(m/s)と予想される試料を対象としており、その範囲内で後述の表2に従うとよい。
【0035】
止水材はベントナイトであることが望ましく、これは水とベントナイト紛体とを混合させて一定時間養生させることで調整する。両者の重量割合は、水ベントナイト比(W/B)を58%〜73%、好ましくは63%程度とするとよい。この数値はベントナイトの塑性限界(塑性を獲得し得る限界)に近く、これにより低透水性が達成できるとともに、水を通水することで止水材の膨張が期待できるからである。この膨潤性は後述の通り止水材のシール性に寄与する。63%の混合比率で4.0〜6.0程度の膨潤度が得られる。膨潤度は膨潤の前後での質量比である。
【0036】
図4は、水とベントナイト粉体とを混合してなる止水材の重量比率と透水係数との関係について出願人が行った実験結果を表している。この実験によると、水ベントナイト比が0%であるときの透水係数が5.5×10−10(m/s)であり、水ベントナイト比が58〜73%であるときの透水係数が1.2〜2.3×10−12(m/s)であり、また水ベントナイト比が350%であるときの透水係数が5.2×10−9(m/s)程度であった。なお、水ベントナイト比に対する透水係数が極小値を示す理由は、混合比率が多過ぎると流動性が大となり、混合比率が少な過ぎると塑性を発揮できない紛体の状態となるからと理解される。
【0037】
なお、この実験に用いたベントナイトの養生時間は2時間である。実験例で得られた止水材の透水係数は1×10−12(m/s)よりも大きいが、前述の如く養生時間を長くすることで1×10−12未満のベントナイトを得ることが可能である。
【0038】
上記の実験結果を基に透水係数の増減に対応する2本の近似直線を作図し、本発明が適用される測定範囲を1×10−12〜1×10−8(m/s)を1ケタ毎の4つの範囲に分けて各測定範囲毎に所要の水ベントナイト比を類推すると次の表となる。適用範囲1の欄のW/B比(37.2〜127.7%)は2本の近似直線とy=1×10−11との交点の間の範囲であり、適用範囲2の欄のW/B比(15.4〜211%)は2本の近似直線とy=1×10−10との交点の間の範囲である。
【0039】
【表2】

【0040】
(4)測定装置への試料及び止水材の適用
まず上記試料収納セルの底部上にその試料収納セルの周壁から一定の間隙を存して設置し、その間隙全体に上記止水材を充填する。この充填作業により、止水材は試料の外周面を覆うことになる。そして試料収納セルごと試料及び止水材を水槽の中において、その状態で一定時間止水材を養生させると、ベントナイトは膨潤する。
ここで図3には、養生時間と養生中のベントナイトの透水係数との関係を表している。同図中の点線は理論値、実線は実験値をそれぞれ示している。ベントナイトは、その養生期間中、図3に示す通り膨潤が進行し、透水量が減少し、試料収納セルとの密着性が向上し、止水材の透水係数が低下する。ベントナイトは、少なくとも2時間養生させるものとし、さらに3.5時間以上養生させることが望ましい。ベントナイトの膨張による試料面の流出はなく、加圧された状態のため1週間程度は横(半径方向)への膨張が卓越する。
【0041】
本発明の透水性測定方法は、次のサブステップからなるメインステップ(i=1,2,3…)を少なくとも一回実行することで行われる。図2の例では、1〜3番目のメインステップは一定の短い時間で行われており、4番目のメインステップは長い時間をかけて行われている。その意味については後述する。
【0042】
[第1のサブステップ]
予め設定された一定の基準圧力Piを試料収納部20に対して載荷して上述の流量測定操作を複数回繰り返す。但し、好ましくは第1回目の測定で計測された流量が一定の基準値qに達しないときには、繰返し操作を打ち切り、基準圧力を増大させて次のメインステップに移行することが好適である。なお、本明細書において、数値に関して「予め設定された」というときには、当該数値は操作者がその都度指定してもよく、また制御部に記憶させた数値を利用してもよい。
【0043】
各測定操作の測定回数mは、3回以上行うものとする。前述の通り2回だけではばらつき量の評価ができないからである。この測定回数は出来るだけ多くすることが好適である。
【0044】
各測定操作の測定時間tは、予め定めた同一の時間とすることが好適である。測定方法全体の測定時間(試験時間T)が一定の時間内に収まることが重要だからである。メインステップを最大n回繰り返すと想定すると、t=T/(m×n)のように各測定操作の測定時間tを設定することができる。
【0045】
[第2のサブステップ]
第1のサブステップで測定された流量の測定値のばらつきを評価する。評価の方法は、従来公知の回帰分析の決定係数Rなどを利用すればよい。ばらつき量の基準値はたとえば0.95とすることができる。
【0046】
図2の例では、1番目のメインステップでR=0.8993,2番目のメインステップでR=0.8986,3番目のメインステップでR=0.9476,4番目のメインステップでR=0.9888であった。4番目のメインステップで基準値に適合している。
【0047】
[第3のサブステップ]
上記第2のサブステップにおいての各測定値のばらつき量が基準値以下(例えば決定係数が0.95以上)であるときにそれらの複数の測定値を最終の測定値として採用する。具体的には、求めた複数の測定値よりそれぞれの透水係数を求め、それらの平均値を最終の透水係数とすればよい。またばらつき量が基準値を超えるとき(決定係数が0.95未満)には、当該ステップの基準圧力よりも大きな新たな基準圧力を採用して、次のメインステップに移行する(図7参照)。
【0048】
図2の実験例では、1〜3番目のメインステップではばらつき量を超えるためにそれぞれ載荷圧力を上げて次のメインステップに移行している。これを仮に調整段階という(図2にFで示す期間)。調整段階では、各メインステップ毎の測定操作の回数は一定である。4番目のメインステップでは、ばらつき量が基準値以下であったために、当該メインステップで観測された測定値を採用している。本測定段階という(図2にFで示す期間)。本測定段階では、ばらつき量が基準値以下と判った時点からさら測定操作を繰り返して、測定の精度を高めるようにするとよい。例えば予めメインステップの数5と設定し、4番目のメインステップでばらつき量の決定係数が0.95以上となったときに、このメインステップで測定点を増やせばよい。
【0049】
上記操作の結果、複数のメインステップが実行される場合には、試料収納セルへの載荷圧力は、図1に示すように段階的に増大することになる。載荷圧力は、例えば試料の透水係数が1×10−8であると想定されるときには基準圧力(P)を1(kN/m)程度、試料の透水係数が1×10−12(m/s)程度と想定されるときには基準圧力(P)を150(kN/m)程度が好適である。圧力の増加幅ΔPに関しては後述の表3に好適例を示す。
【0050】
この方法によれば、従来適切な測定法が確立していない低透水性材料に関して、予め設定された時間内に透水性を計測できる。
【0051】
図5から図6は、本発明に係る透水性測定装置を示している。この装置は、高圧水供給部2と試料収納部20と流量測定部30と圧力測定部40と制御部50とで構成している。
【0052】
高圧水供給部2は、本実施形態では高圧発生部4と密閉水槽12とで構成している。
【0053】
上記高圧発生部4は、空気圧送器であるエアコンプレッサー6から制御弁10付きの空気管8を経由して密閉水槽12の上部へ高圧空気を送っている。
【0054】
なお、加圧手段としてエアコンプレッサーを用いた理由は、長時間の連続加圧に対して、圧力が不足する時のみだけ断続的に稼働するエアコンプレッサー機械への負荷が小さく効果的であるためである。換言すれば従来のポンプでは、長時間の連続運転(連続稼働)となり、機械への負荷が大きかったからである。
【0055】
上記密閉水槽12は、頂部に入口14を、底部に出口16をそれぞれ有する。密閉水槽12には、頂部との間に一定の空隙を存して水を充填してある。上記入口14には上記空気管8を気密に接続する。
【0056】
上記密閉水槽12内には試料収納部20を配置しており、試料収納部20から流量測定部30の水管32を介して流量計36に接続している。装置全体としてエアコンプレッサー6から空気管8を経て密閉水槽12の上部に至る空気流路Rと、密閉水槽12の下部から水管32を介して流量計36に至る液体流路Rとが、密閉水槽12内で連続しており、これにより異相間での圧力伝達を行うようにしている。
【0057】
試料収納部20は、上下両端開口の周壁22を有する試料収納セルとして形成されている。その周壁22は、密閉水槽12の出口16の周りの底部分に密着させている。周壁22の下部には基盤24をはめ込み、基盤24の中央部に柱状(例えば円柱状)の試料28を載置する。そして上記周壁22と試料28との間の間隙に止水材26を充填している。
【0058】
上記周壁22は、図示例では密閉水槽12の底部に一体的に連続している。シール性を確実にするためである。しかし周壁22は密閉水槽12の底部とは別体でもよい。
【0059】
上記基盤24は、一定厚さで透水性を有する固い材料で形成するものとする。好適な材料はポーラスストーンである。
【0060】
上記止水材26は、ベントナイト紛体に水を混合させてなるものである。好適な重量割合は水ベントナイト比で58%〜73%である。もっとも図示例では密閉水槽12に水を充填させることで止水材26は吸水し、水の混合比率は増大している。
【0061】
上記試料28は、前述の通り柱状体であり、基盤24の上に静置可能としている。なお、発明の必須事項ではないが、本実施形態では、試料28を測定装置の構造の一部として扱っている。
【0062】
流量測定部30は、上記出口16内から延びる水管32の先部に流量計36を付設してなる。
【0063】
圧力測定部40は、試料収納部20の上流側の圧力を測定する第1圧力計42及び下流側の圧力を測定する第2圧力計44とで形成する。
【0064】
制御部50は、第1圧力計42及び第2圧力計44、並びに流量計36の各測定値に応じて測定方法の制御を行う。制御部50には測定者が操作するために操作パネル(図示せず)を設けてもよい。
【0065】
制御部50の第1の機能は、予め設定された測定時間内で流量計36の出力を記憶・集計し、流量測定操作を実行することである。各測定操作の間載荷圧力を一定に保つように制御(載荷圧力に応じてコンプレッサーの出力を調整するフィードバック制御)をするように構成してもよい。
【0066】
制御部50の第2の機能は、前述の各メインステップにおいて、一定の測定時間t毎に、試料収納部20を透過した水の流量を計算し、流量が基準値に満たないときに、基準圧力を増加させて次のメインステップに移行することである。
【0067】
制御部50の第3の機能は、前述の各メインステップにおいて、一定の測定時間t毎に、試料収納部20を透過した水の流量を計算し、流量のばらつき量を評価することである。ばらつき量が基準値以下(例えば決定係数が0.95以上)であればそのメインステップでの透水係数のデータを採用し、ばらつき量が基準値を超える(決定係数が0.95未満)ときには、基準圧力を増加させて次のメインステップに移行する。
【0068】
第2、第3の機能を並行して行う場合に、その操作(前述の第3ステップ)は次のように表現される。
上記第2のサブステップにおいてそれら流量の測定値が基準値以上でありかつそれら流量の測定値のばらつきの程度が基準値以下(例えば決定係数が0.95以上)であるときにはそれらの複数の測定値を最終の測定値として制御部に記憶し、それら流量の測定値が基準値未満である場合あるいはそれら流量の測定値のばらつきの程度が基準値を超えるとき(決定係数が0.95未満)には、当該ステップの基準圧力よりも大きな新たな基準圧力を採用して、次のメインステップに移行する第3のサブステップ。
【0069】
この複合機能のアルゴリズムを図7及び表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表3には、本発明が対象とする透水係数の範囲を一桁単位で5つに分割し、各桁に対応して奨励される基準圧力Pの数値、奨励される基準圧力の増加分ΔPの数値、及び奨励される測定時間(前述のt)の数値を記載している。この表の内容は制御部50のメモリーに記憶されていることが望ましい。
【0072】
試料の透水性の大きさについて全く見当が付かない場合には、透水係数が1×10−8(m/s)から測定を開始するが、ある程度の検討が付く場合には、途中の透水係数から測定を開始しても構わない。
【0073】
前者の場合には、利用者は、透水係数が1×10−8(m/s)の場合の初期の基準圧力P=1(kN/m)として、この数値及び各メインステップ毎の流量測定操作の繰返し回数を制御部50に入力する。制御部50は、高圧発生部4に対して基準圧力に相当する出力を行うように指示する。第1圧力計42及び第2圧力計44の測定値の差分がPとなったときに、制御部50はPに対応する測定時間(10min)をメモリーから取り出して、各測定時間tに試料を透過した水量Qtを計測する。
【0074】
測定時間tは、表3に準じて決定する。具体的には、まず流量測定操作で想定した透水係数kに対応する測定時間の候補t’を求める。また予定する全体の試験時間T、予定するメインステップの回数n,各メインステップでの流量測定操作の回数mからt’’=T/(m×n)を求める。スケジュールに余裕のあるt’≦t’’の場合であれば、t’を測定時間tとして採用し、奨励される測定時間を確保できないt’>t’’の場合であれば、t’’を測定時間tとして採用するとともに、測定計画のうちの試験時間T,メインステップの回数n、各メインステップごとの流量測定操作の回数mを見直し、奨励される測定時間tを満足するまで繰り返し測定計画を立てる。
【0075】
一定の測定時間t内での透過水量Qtが所定の基準値Q未満であるときには、制御部50は、図7に示す如く流量測定操作の繰返しを途中で打ち切る。基準値未満では的確な測定結果が得難いからである。そして基準圧力Pに予め設定されたΔP=1〜4kN/mの範囲の増加分を加えて新たな基準圧力Pを得る。そして同じ操作を繰り返す。なお、「予め設定された」とは、本明細書において操作前に予め操作者によって設定され或いは事前に制御部に記憶された数値をいうものとする。
【0076】
上記基準値Qは流量計における透過係数の最小目盛Qminに測定操作の回数mを乗じた数とするとよい。
【0077】
また所定回数の測定操作が終わったときには、制御部50は測定された透過水量のばらつき量の決定係数Rを計算する。この係数が0.95以上であればそれらの測定操作で得られた透過水量Qtを採用し、前記ダルシーの法則を利用して透水係数を割り出す。
【0078】
なお、好適な図1の例では透水係数のばらつき量が基準値より小さかったときに、流量測定操作の回数を増やして、より高い精度の流量が得られるようにしている。この判断及び動作も制御部50が実行するようにすることができる。
【符号の説明】
【0079】
2…高圧水供給部 4…高圧発生部 6…エアコンプレッサー(空気圧送器)
8…空気管 10…制御弁 12…密閉水槽 14…入口 16…出口 20…試料収納部
22…周壁 24…基盤 26…止水材 28…試料
30…流量測定部 32…水管 36…流量計
40…圧力測定部 42…第1圧力計 44…第2圧力計
50…制御部
…空気流路 R…液体流路
m…測定操作の回数 n…メインステップの回数
T…試験時間 t…測定操作の測定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水供給部から試料収納部を経て流量測定部へ至る流路を含むとともに試料収納部への載荷圧力を測定するための圧力測定部を有する透水性測定装置を用いて、透水性が1×10−8〜1×10−12(m/s)である低透水性材料の透水性の測定に適した方法であって、
同じ試料の透水性を所定の載荷圧力で測定する一回以上のメインステップで構成され、
各メインステップは、
予め設定された一定の基準圧力を載荷して上述の流量測定操作を3回以上繰り返す第1のサブステップと、
第1のサブステップで測定された流量の測定値のばらつきを評価する第2のサブステップと、
上記第2のサブステップにおいての各測定値のばらつきの程度が基準値以下であるときにそれらの複数の測定値を最終の測定値として採用し、ばらつきの程度が基準値以上であるときには、当該ステップの基準圧力よりも大きな新たな基準圧力を採用して、次のメインステップに移行することを決定する第3のサブステップと
を含むことを特徴とする、低透水性材料の透水性測定方法。
【請求項2】
透水性を測定する各メインステップの前に、上記試料収納部が有する流路の一部である周壁の内面と試料との間に試料より透水性が低い止水材を充填するメインステップを行うことを特徴とする、請求項1記載の低透水性試料の透水性測定方法。
【請求項3】
高圧水供給部から試料収納部を経て流量計へ至る流路を含むとともに試料収納部への載荷圧力を測定するための圧力測定部を有し、透水性が1×10−8〜1×10−12(m/s)である低透水性材料の透水性の測定に適した透水性測定装置であって、
高圧水供給部は、空気圧送器から制御弁付きの空気管を経て密閉水槽の上部へ高圧空気を送り込み、かつ密閉水槽内から試料収納部へ高圧水を供給するように形成しており、
上記試料収納部は、上記一端が上記高圧水供給部にかつ他端が水管を経由して流量計にそれぞれ連通されている周壁を有する試料収納セルとして形成され、試料収納部内にその周壁との間に間隙を存して試料を配置するとともに、これら試料の外面と周壁内面との間隙に止水材を充填しており、
圧力測定部は、少なくとも制御弁下流の空気管部分又は密閉水槽内の圧力を測定可能な第1圧力計を有することを特徴とする、低透水性材料の透水性測定装置。
【請求項4】
上記第1圧力計及び流量計の計測値に応じて、高圧水供給部が供給する水によって試料収納部に載荷圧力を調整するための制御部を有し、
この制御部は、一定の基準圧力の下で予め設定された測定時間内で流量計の出力を分析して流量測定操作を実行する機能と、ある測定時間内に測定された流量が基準値以上であれば当該測定値を記憶し、測定された流量が基準値未満であるときには上記基準圧力に予め設定された増加巾を加えて新たな基準圧力として、次の流量測定操作を繰り返す機能とを有することを特徴とする、請求項3記載の低透水性材料の透水性測定装置。
【請求項5】
上記第1圧力計及び流量計の計測値に応じて、高圧水供給部が供給する水によって試料収納部に載荷圧力を調整するための制御部を有し、
この制御部は、次の(a)から(c)のサブステップを含むメインステップを一回以上実行することを特徴とする、請求項3記載の低透水性材料の透水性測定装置。
(a)予め設定された一定の基準圧力を載荷して上述の流量測定操作を3回以上繰り返す第1のサブステップ。
(b)第1のサブステップで測定された流量の測定値のばらつきを評価する第2のサブステップ。
(c)上記第2のサブステップにおいての各測定値のばらつきの程度が基準値以下であるときにそれらの複数の測定値を最終の測定値として制御部に記憶し、ばらつきの程度が基準値以上であるときには、当該ステップの基準圧力よりも大きな新たな基準圧力を採用して、次のメインステップに移行する第3のサブステップ。
【請求項6】
請求項2の透水性測定方法又は請求項3〜5の透水性測定装置への適用に適した止水性材料であって、
水とベントナイトとを混合してなり、({水の質量}/{ベントナイトの質量})×100[%]で定義される水ベントナイト比を58〜83%としたことを特徴とする止水材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−15456(P2013−15456A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149459(P2011−149459)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 第46回地盤工学研究発表実行委員会 刊行物名 第46回地盤工学研究発表会 巻数、号数 第617〜618ページ 発行年月日 平成23年6月20日
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【Fターム(参考)】