説明

低電圧MEMSオシレータ

微小電気機械システム(MEMS)を基礎にした電気振動信号を生成するための電子デバイスを開示する。電子デバイスは、一般に基板(104)と、この基板(104)に対して移動可能な可動素子(102)と、アクチュエータ手段と、センサとを備える。アクチュエータ手段は、可動素子(102)の振動を誘導するために使用し、2個の誘導素子、すなわち基板(104)に固定して設けた第1誘導素子および可動素子(102)に固定して設けた第2誘導素子を備える。誘導された可動素子(102)の振動はセンサを用いて検知し、電気振動信号に変換する。この信号は増幅して少なくとも部分的にアクチュエータ手段の電力として使用することができ、これにより安定した共振周波数および一定の振幅を有する振動信号を得ることができる。異なるコンポーネントをチップ上に高度に集積することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロエレクトロニクス、特にオシレータ(発振器)に関する。より詳細には、本発明は微小電気機械システム(MEMS)に基づいて電気振動信号を生成する方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロプロセッサやマイクロコントローラへの応用、通信への応用など、広汎な電子工学の応用分野において、クウォーツ水晶オシレータ(発振器)がおおよそ正確な値を有する基準周波数を生成するために使用されている。クウォーツ水晶オシレータ(発振器)は一般に高い品質係数を有し、極めて安定している。しかし、このクウォーツ水晶オシレータ(発振器)には、素子がかさばり、半導体基板内に集積するのが困難であるという短所がある。すなわち、クウォーツ水晶オシレータ(発振器)は高度な半導体集積手法にはうまく適合しない。
【0003】
基板、例えば半導体基板に集積が可能なオシレータ、リゾネータ(共振器)、その他同様の電子コンポーネントを設計するための様々な互いに異なる試みがなされてきた。いくつかの設計は、静電効果に基づくシステムがあるが、これは比較的高い電圧を必要とするため現代のIC技術とは容易に両立しない。他の設計としては、微小電気機械システム(MEMSとも称する。)に基づくオシレータ(発振器)または他の電子コンポーネントがある。一般に微小電気機械システムは、機械的または液圧的機能を電気的機能に組み合わせるマイクロ‐エレクトロメカニカルシステムである。その典型的な用途として、半導体チップに埋め込んだ、光学スイッチ、調節可能レーザ、センサ、バルブ、ギア、ミラーおよびアクチュエータ手段がある。MEMSの特殊な用途として、電子フィルタまたは電子スイッチがすでに報告されている。特許文献1(米国特許出願第2003/0030527号)には、MEMS装置を電子フィルタに使用することについて記載している。この文献は、静電気的原理に基づいて動作するフィルタと比較して高周波に対する感度を向上させるため、強磁性体材料を用いて電気エネルギーを磁気エネルギー、さらに力学的エネルギーに変換する電子フィルタについて記載している。したがって、このMEMS装置の製造には少なくとも1個の強磁性体材料を用いることが必要となるが、これは非標準的でありかつ標準的な半導体加工技術とほとんど親和性がない。
【特許文献1】米国特許出願第2003/0030527号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電子デバイスに用いるための改良した振動電子コンポーネントの製造および動作方法ならびに装置を得ることを目的とする。製造および動作方法ならびに装置は、微小電気機械システムに基づく。上記の目的は、本発明による方法および装置により達成される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、微小電気機械システムに基づく電気振動信号を生成する電子デバイスであって、基板と、アクチュエータ手段と、基板に対して移動可能な可動素子と、センサとを備え、前記アクチュエータ手段は前記可動素子の運動を生起するよう構成し、前記センサは前記可動素子の運動を電気振動信号に変換するよう構成した該電気振動信号を生成する電子デバイスにおいて、前記アクチュエータ手段は、第1誘導素子と、少なくとも第2誘導素子とを有する構成とし、前記第1誘導素子を前記基板に固定し、前記第2誘導素子を前記可動素子に固定することを特徴とする電子デバイスに関する。本発明によれば、電気振動信号を生成する電子デバイスをシリコン基板などの半導体基板に集積することができるため、高度な集積の手法、すなわちチップ上に種々の機能を集積した装置を提供できるという利点がある。電気振動信号を生成する本電子デバイスは、標準的な半導体加工技術を用いて容易に集積することが可能であるという利点がある。この利点の結果、振動を生起する電子デバイスをより簡易に、低コストで実現することができる。さらに本装置は低い電圧を必要とするのみであるという利点もある。また、薄膜(メンブレイン)の特性を選択することにより、生起する振動周波数選択を決めることができるのも本発明の利点である。加えて、本電子デバイスが非標準的な材料、例えば強磁性体材料を含まないという利点がある。
【0006】
本電子デバイスのセンサは、前記可動素子に固定した素子であって磁場を誘導する誘導素子と、該磁場を誘導する誘導素子にDC電流を供給するDC電流源とを有する構成とすることができる。
【0007】
本発明による電子デバイスのセンサは、基板に作用する変化する磁気力を電気振動信号に変換するための、基板に固定した素子であって、磁場を検知する誘導素子を有する構成とすることができる。本発明による電子デバイスには、デバイスのセンサが高度かつ容易に集積可能であり、標準的な半導体加工技術により作ることができるという利点がある。またこのセンサは、ホール効果センサまたは磁歪素子により構成することもできる。
【0008】
前記第1誘導素子と前記少なくとも第2誘導素子とは、互いに電気的に接続することができる。第1誘導素子と少なくとも第2誘導素子とを接続することにより、これらの誘導素子に同一の交流電流信号を供給することができる。この結果、位相差が生じないため、第1誘導素子と少なくとも第2の誘導素子との間で最適な力の相互作用を得ることができる。
【0009】
本発明による電子デバイスは、さらに、電気振動信号をセンサから受信して増幅し、この増幅した電気振動信号をアクチュエータ手段に供給するよう構成した電子増幅回路を有する構成とすることができる。本発明による電子デバイスによれば、一定の振幅を有する共振振動信号を得ることができ、これを容易に基準信号として用いることができるという利点がある。電子増幅回路は、増幅器用ゲイン入力信号としてDC電流信号を受信するよう構成することができる。これにより、電子デバイスのゲインを容易に制御することができるという利点がある。
【0010】
本発明電子デバイスは、第1誘導素子および第2誘導素子に交流電流を供給するための交流電流源を有する構成とすることができる。本発明電子デバイスには、生成した共振振動信号の一部を再利用することができるという利点がある。本発明には、低い動作用電圧を用いることができるという利点がある。
【0011】
誘導素子のそれぞれまたは一部を電磁コイルとすることができる。電磁コイルは標準的な半導体加工技術を用いて実装することができるという利点がある。本発明の実施形態には、先進的IC技術に準拠して高くない電圧、すなわち多くの従来技術システムにおけるような20V〜40Vの電圧を必要とせず、本発明の場合、より低い電圧、すなわちわずか5V、3V、さらには1Vといった低電圧で使用することができるという利点がある。本システムが電流を使用するとき、低インピーダンスの素子中で電流を生成することができ、増幅器を形成することが可能である限り、電源電圧はできる限り低いものとすることができる。これは、チップに極めて高い電圧を必要としない電流ベースのオシレータを用いることにより得ることができる。このようにして、高電圧を生成するのに必要な付加的な回路を省くことができる。
【0012】
誘導素子は、基板と同一平面上に設けることができる。これにより極めて高効率なデバイスが得られる。
【0013】
本発明電子デバイスには、電気振動信号を一定の振幅に維持するための位相シフトおよびレベル制御手段を有する構成とすることができる。このデバイスを使用して基準周波数を生成することができるという利点がある。
【0014】
本発明微小電気機械システムは、閉鎖したキャビティ内に設けることができる。閉鎖したキャビティは、閉鎖した真空キャビティとすることができる。閉鎖したキャビティには、キャビティを閉鎖するためのキャップ基板、および封止素子を有する構成とすることができる。本発明の実施形態には、装置の品質係数を高くすることができるという利点がある。
【0015】
可動素子は薄膜(メンブレイン)とすることができる。薄膜特性を選択することにより、共振周波数を選択することができる。
【0016】
本発明はまた、基板上の微小電気機械システムに基づく電気振動信号を生成する方法において、基板に固定した第1誘導素子および可動素子に固定した少なくとも第2誘導素子に交流電流を供給して前記可動素子の振動を生起するステップと、前記可動素子の前記振動を前記基板に作用する交互変動の磁気力に変換するステップと、該基板上の交互変動磁気力を電気振動信号に変換するステップと、を有する方法に関する。
【0017】
交互変動磁気力を変換するステップは、磁場を感知する誘導素子により該交互変動磁気力を感知するステップを有するものとすることができる。
【0018】
振動を変換するステップは、前記可動素子上に設けた素子であって磁場を誘導する誘導素子にDC電流を供給するステップを有するものとすることができる。
【0019】
本方法はさらに、電気振動信号を増幅するステップと、増幅した電気振動信号を第1誘導素子および少なくとも第2誘導素子に供給するステップとを有するものとすることができる。電気振動信号の増幅は、DC電流を用いて制御することができる。
【0020】
本方法はさらに、電気振動信号を一定の振幅に維持するステップを有するものとすることができる。本発明の実施形態の中で説明する電気振動信号を生成する電子デバイスは、低電圧基準オシレータ(発振器)として有利に用いることができる。
【0021】
また、本発明には、電気振動信号を生成する電子デバイスにより、小型化が可能になるという利点がある。このように、本発明の実施形態には、電気振動信号を生成する電子デバイスの寸法が小さいという利点がある。電気振動信号を生成する電子デバイスのサイズは、全方向において数百ミクロンに限定することができる。
【0022】
本発明には、本発明に係る電気振動信号を生成する電子デバイスを、集積システム内にオシレータ(発振器)を使用可能なほぼあらゆるシステムで用いることができるという利点がある。電気振動信号を生成する電子デバイスは、基準周波数を用いる応用分野であって、基準周波数にある程度の正確な値が要求されるようなすべての分野に有利に利用することができる。
【0023】
本発明の特定の好適な態様を、添付の独立請求項および従属請求項に規定する。従属請求項の特徴は、独立請求項の特徴および他の適切な従属請求項の特徴と組み合わせることができ、請求項に明示したものに限られない。
【0024】
この技術分野においては、絶え間ない装置の進歩、変化および進化があるが、本件構想は、実質的に新規でありかつこれまでにない進歩を示すものであり、従前の例の範囲を超え、この分野により効率的、安定的かつ信頼性のあるデバイスをもたらすものであると信ずる。
【0025】
本発明の教示するところによれば、例えば通信分野やマイクロコンピュータなどに使用が可能な電気振動信号、例えば基準電気振動信号などを生成するためのさらに高度な方法および装置の設計が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明による上述のおよび他の特性、特徴および利点は、添付した図面を参照して、下記の詳細な説明から明らかになるであろう。図面は説明の手段として本発明の原理を示すものである。以下の説明は例示のためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。下記に引用した参照符号は添付の図面を示すものである。異なる図において、同一の符号は同一または類似の素子を示す。
【0027】
本発明を以下に特定の実施形態に関して、一定の図面を参照しながら説明する。しかし本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲のみにより規定されるものである。特許請求の範囲内における参照符号は、どれも範囲を限定するものと解釈されてはならない。記載の図面は概略的なものにすぎず、限定するものではない。図面において、一部要素のサイズを説明の便宜のため誇張しており、縮尺通りとしていないことがある。本明細書および請求項内で用語「備える」を使用する場合、他の要素またはステップを排除するものではない。単数名詞を指す際に不定冠詞または定冠詞、例えば「a」または「an」、「the」を用いる場合、他に特に断りがない限りその名詞が複数ある場合をも含む。
【0028】
さらに、明細書および特許請求の範囲内で、用語「第1」、「第2」、「第3」などは、類似の要素間を区別するために用いるもので、必ずしも順序通りまたは時系列順に用いているものではない。このように使用する用語は適当な状況下では相互に置き換えることが可能であり、ここに説明する本発明の実施形態は、ここに記載または図示したものと異なる順序で実施することもできるということを理解されたい。
【0029】
加えて、明細書および特許請求の範囲内の用語「頂部」、「底部」、「上方」、「下方」その他は説明の目的で用いるものであって、必ずしも相対的な位置を示すものではない。このように使用する用語は適当な状況下では相互に置き換えることが可能であり、本明細書で説明する本発明の実施形態は、本明細書に記載のまたは図示したものとは異なる向きにして実施することもできるということを理解されたい。
【0030】
本発明の実施形態において、用語「基板」は使用可能な任意の下層材料(群)、またはその上方にデバイス、回路またはエピタキシャル層を形成することが可能な任意の材料(群)を含むものとすることができる。この「基板」には、半導体基板、例えばドープしたシリコン、ガリウムヒ素(GaAs)、ガリウムヒ素リン化物(GaAsP)、リン化インジウム(InP)、ゲルマニウム(Ge)、またはシリコンゲルマニウム(SiGe)の基板がある。「基板」は、半導体基板部分に加えて、絶縁層、例えばSiOまたはSi3N4の層とすることもできる。このように、用語「基板」は、ガラス上シリコンやサファイヤ上シリコンも含む。こうして、用語「基板」は、関係する層または部位の下層の要素を一般的に規定するものとして用いる。また「基板」は、例えばガラスや金属層など、その上に層を形成することが可能な、その他任意の基礎とすることができる。
【0031】
第1の実施形態において、本発明は、微小電気機械システム(MEMSとも呼ぶ。)に基づいて電気振動信号を生成する電子デバイスおよび方法に関する。装置は、例えば振動膜などの可動素子と、振動周波数発生器としてのアクチュエータ手段と、振動周波数を検出してこれを電気振動信号に変換するセンサとを用いる。その際、周波数生成、および望ましくはその周波数検出は、2個の誘導素子のセット(組)に基づいて行い、これによりこのデバイスを半導体加工技術と完全な親和性をもって製造することができる。使用する特定の半導体加工技術は限定しないが、例えばMOS処理など、非常に低い電圧で動作するシステムを得ることが可能な技術が好適である。好適な実施形態では、標準的な半導体加工技術と組み合わせてMEMS構体を形成するための追加的ステップをできる限り少ないものとし、例えば可動素子をフリーな状態にするためのただ1個のステップが追加されるものとする。
【0032】
システムには、さらにフィードバックシステムを設けることができ、このフィードバックシステムにより安定的な共振振動が可動素子の主共振周波数において得られるようにする。従来のシステムとは対照的に、オシレータ(発振器)は、標準的な半導体加工技術に対して親和性の低いまたは親和性がない非標準的な材料、例えば強磁性体材料を使用する必要がない。以下、図面を参照しながらデバイスの各異なるコンポーネント(構成部材)を詳細に説明する。電気振動信号を生成するための電子デバイス100の概略図を図1に示す。電気振動信号を生成するための電子デバイス100は、基板104の上に、該基板104に対して自由に振動することができるように装着または形成した可動素子102を備える。実際には、可動素子102は一般に基板104から完全に切り離すことができず、基板への固定点を有するであろう。この固定点は力学的にいえば枢動点またはターンオーバー点と見ることができる。固定点は一般にアクチュエータ手段域と検知域の間に設けることができる。とはいっても、可動素子102の大部分は自由に動くことができる。可動素子は、平面状構体、例えば薄い平坦なプレートまたは薄膜とすることができる。可動素子102は、該可動素子102が振動するのに適当な材料により形成する。したがって、可動素子102例えば薄膜は、金属、ポリシリコン、窒化物など任意の堅固な素材により実現することができる。可動素子102として例えばアルミまたは銅の層を用いる場合、その厚さは、本発明を限定するものではないが、一般に1μm〜10μmの範囲とすることができる。可動素子102は、主たる共振周波数、例えば薄膜の場合可撓モード(flexive mode)の主共振周波数を有する。このように、主共振周波数は、好適には可動素子102の可撓モードの主共振周波数に対応するものとする。
【0033】
装置はさらに、膜のその主共振周波数における振動を生成するよう構成したアクチュエータ手段を備える。アクチュエータ手段は、誘導素子の第1の組(セット)、例えば2個以上の電磁コイルを備える。この誘導素子の組は、第1誘導素子106、例えば第1電磁コイルと、少なくとも1個の第2誘導素子108、例えば第2電磁コイルとを備える。誘導素子の第1の組は、1個の第1誘導素子106と1個第2の誘導素子108とを備えることができる。第1誘導素子106は基板104上に設け、例えば基板104上の第1金属層として設けた電磁コイルとする。このように、第1誘導素子106は基板104に関して固定位置とする。すなわち基板104に固定しまたは基板104内に形成する。第2誘導素子108は基板104に対して自由に浮遊するように設ける。この第2誘導素子108は、例えば第2金属層として設けた電磁コイルとすることができる。第2誘導素子108は可動素子102、例えば薄膜と機械的に結合する。すなわち、可動素子102に固定または一体化する。第2誘導素子108は、したがって、膜102を構成する一部分とすることができ、または可動素子102、例えば薄膜に対して、個別薄膜に付加される質量として連結することができる。2個の誘導素子106,108は、同一の基板上に形成することができるが、別々の基板上に形成することもできる。誘導素子は例えば電磁コイルとすることができるが、これらは損失を低くするために金属製とすることができる。その典型的な例としては、アルミニウム、銀、金、銅などがある。好適には、2個の誘導素子106,108は、例えばアンダーエッチング技術を基礎として同一基板上に形成する。これは必要な作業および製造コストを抑えることができるためである。任意で、第1誘導素子106および第2誘導素子108を、導電ビア110により、第2誘導素子108が第1誘導素子106に対して自由に振動することができるような方法で互いに電気的に接続することができる。誘導素子106,108は互いに実質的に重なり合うようにし、誘導素子に電流を供給することで誘導素子間に相互作用する力が生じるようにする。第1誘導素子106と第2誘導素子108の双方に交流電流(AC電流)を供給することにより、誘導素子106,108に変化する力が生じ、誘導素子106,108が互いに相対的に運動する。これを用いて可動素子102、例えば薄膜を移動させ、または薄膜の運動を維持する。換言すれば、アクチュエータ手段は、少なくとも2個の誘導素子、磁場生成用の第1誘導素子と、この磁場に対する反応用の少なくとも第2の誘導素子とを備える。こうしてアクチュエータ手段は可動素子102の振動を生じさせる「モータ」として作用する。第1および第2の誘導素子106,108に流れる交流電流により、変化する力が誘導素子を互いに引き離し、電流の変化により誘導素子を引き離した力が変化する。このようにして可動素子102の振動を生成する。原理的には2個の同様の交流電流を用いて、各信号を誘導素子106,108の一方に供給することができるものの、好適には、導電ビア110を用いて2個の誘導素子106,108を電気的に結合することにより、同一の信号を誘導素子106,108の双方に供給する。この導電ビア110により、両誘導素子の位相が合うことから、両誘導素子間の力の結合が向上する。これにより、可動素子102の振動は可動素子102の主共振周波数、例えば薄膜の可撓モードの主共振周波数でのみ誘発されることになる。従って、AC信号の周波数はこの主共振周波数と同一になるよう選択する。このようにして、薄膜の周波数は電子回路ではなく機械的要素にのみ依存する。その際、システムのQ値(ファクタ)を最大化および安定化することにより、振動の減衰を減少させることができる。このため、MEMSを真空中、例えば真空キャビティ内に設けることができる。このように、可動素子102、例えば薄膜は機械的フィルタとして作用し、高いQ値を有する装置を得ることができる。
【0034】
電気振動信号を生成するため、可動素子102の機械的運動すなわち振動を感知する必要がある。このため、可動素子の振動周波数を感知するための手段を設ける。このように本装置は感知域(図1の左側)とアクチュエータ域(図1の右側)とを有する。例として、2個の誘導素子よりなる第2の組を備えた、移動素子102の振動感知および対応する電気振動信号供給を可能にするセンサについて説明する。この例示的なセンサは、磁場を誘導する誘導素子112(本明細書では、第3誘導素子とも称する。)を有し、これを可動素子102、例えば薄膜内に設ける。このセンサは、さらに、磁場を誘導する誘導素子112により生成した磁場を感知するために設ける感知素子を有する。この感知素子は、磁場を感知する誘導素子114(本明細書では第4誘導素子とも称する。)とすることができる。磁場を感知する誘導素子114は、図示の実施例では、第3誘導素子112の下方に物理的に配置した半導体基板104上または同基板内に設ける。磁場を誘導する誘導素子112は、可動素子102内または同素子上に組み込み、かつ磁場を感知する誘導素子114は基板104内に組み込むが、両誘導素子の位置を交換することもできる。第3および第4の誘導素子112,114は、例えば電磁コイルとすることができる。これらは損失低減のため金属製とすることができる。その典型例としてはアルミニウム、銀、金、銅などがある。第3誘導素子112を可動素子102、例えば薄膜上または薄膜内に設けたため、該可動素子102の振動により第3誘導素子112の振動が生じる。このように第3誘導素子112は基板104に対して固定位置を有さない。DC電流を電流供給装置(図示なし)により磁場を誘導する誘導素子に供給する。第3誘導素子112の振動が第4誘導素子114により感知される。これは、第3誘導素子112にDC電流を供給ことにより、第4誘導素子114に変化する磁場を生じるためである。すなわち、DC電流により、第3誘導素子112に対して一定の磁場が生ずるが、上記振動に伴って第4誘導素子114に近づいたり離れたりし、この結果、基板104に対しては変化する磁場が生じるからである。第3誘導素子を流れるDC電流は数ミリアンペア(mA)の範囲、例えば10ミリアンペア(mA)とすることができる。DC電流は回路全体の供給電流から供給することができる。換言すれば、電源からの余分なDC電流駆動を節約するため、DC電流を、この発振器(オシレータ)を内蔵するシステムにおける任意の場所を流れる電流から取得することができる。特別な設計においては、第2誘導素子108および第3誘導素子112用に共通の給電ポイントを設けることができる。共通給電ポイントを主給電ポイントとする場合、典型的には減結合(デカップリング)キャパシタを用いることにより、異なる誘導素子に適正な信号を生成する。代案として、共通給電ポイントを増幅器用電流源とすることができる。この場合、第3誘導素子に供給するために減結合キャパシタが必要となる。このように、第3誘導素子のDC信号のみを第3誘導素子に供給し、第1および第2の誘導素子にはAC信号を供給する。第4誘導素子114内に生成される変化する磁場により可動素子102、例えば薄膜の主共振周波数に一致する振動する電気信号が発生する。電気振動信号を生成するための電子デバイスにより得られる典型的な振動周波数はRF域にある。典型的には、例えば、本発明を限定するものではないが、下限が数百キロヘルツ(kHz)、例えば300キロヘルツ(kHz)、上限が数メガヘルツ(MHz)の範囲の周波数を得ることができる。より高い周波数を得るためには、一般により小さな素子が必要となる。しかし、これら小さな素子は製造が難しく、可撓性が少なく、脆弱性が大きいことが多い。代案として、高周波数の生成は、材料全体の振動に基づくようにすることもできる。第3誘導素子112および第4誘導素子114は、同一基板上または異なる基板上に形成することができる。好適には、第3誘導素子112および第4誘導素子114は、例えば製造の作業および経済的コストが減少するため、アンダーエッチングにより、同一基板上に形成することが望ましい。
【0035】
以上、振動周波数センサを2個の誘導素子の組み合わせを有するものとして説明したが、他の感知装置を用いることもできる。アクチュエータ手段と対照的に、基板に集積可能な検出手段であれば他の検出手段を適用することもできる。磁場を誘導する誘導素子により生成した磁場の感知は、磁場を感知する任意の他の手段、例えば集積化ホール効果センサ、磁歪素子、圧電センサのうち任意のものにより行うことができる。センサはキャパシタの変更に基づくものとすることもできるが、このキャパシタの変更は、動作を比較的高い電圧、すなわち例えば10V以上で動作させなければならないという欠点があり有利性が低くなる。センサ内で生じた電気振動信号を、いろいろな用途向けの出力信号として用いることができる。一般に生じた電気振動信号は小さく、数マイクロボルトのオーダーである。信号を増幅器116に供給して、増幅した電気振動信号を生成することができる。好適には、デバイスは、さらに、フィードバックループを有するものとすることにより、生成した電気振動信号を安定化する。このように、電気信号を生成することができるだけでなく、主共振周波数の基準電気振動信号を維持することができる。
【0036】
本発明の実施例は、さまざまな態様で実施することができる。必要とされる精度および付加的な影響因子、例えば起こりうる気温の変化や経年変化に応じて、電気振動信号を生成するための電気デバイスのコンポーネントは、材料の安定性を加減して形成する。安定度は低いが予測可能な実施態様を用いた場合、これらは例えば位相固定ループなどデジタル集積回路内のチューニングシステムにより、例えば補正表の組を用いて補正することができる。すでに述べたように、基板はその上に誘導素子を設けるのに適した任意のタイプの基板、例えば限定するものではないが半導体基板とすることができる。
【0037】
好適には、誘導素子106,108,112,114は電磁コイルとする。電磁コイルは、低電圧で動作するシステムを得ることができ有利である。好適には、電磁コイルは、ほぼ基板の平面上または基板に平行な方向に指向する電磁的螺旋状導体とする。したがって、電磁コイルの軸線は基板平面にほぼ直交する。集積可能なインダクタ(誘導原)は、2000年クルワー・アカデミック・プレス(Kluwer Academic Press)社から出版された書籍「SiRF IC用のインダクタおよびトランスフォーマの設計、シミュレーションおよび応用(Design, Simulation and Application of Inductors and transformers for Si RF IC’s)」に記載されている。本発明のデバイスでは、2個の平坦な誘導素子を用いた動作が極めて効率的であり、かつ極めて可撓性の高いワイヤで形成することができる。また、平坦な誘導素子を用いることにより、動作、および感知または検出を、誘導素子の中心軸線に沿って行うことができ、これにより可動素子に対する最適なエネルギー出入りが得られるという利点がある。電磁コイルの使用は、誘導素子を製造するための標準的な半導体加工技術の使用を可能にする。このような電磁コイルを用いるデバイス200を図2および図3に示す。図2は、電気振動信号を生成するための電子デバイスの側面からの斜視図であり、図3はX−Z断面図を示す。薄膜運動のためのアクチュエータ手段として動作する誘導素子の第1の組(セット)は、2個の電磁コイル、すなわち互いに重なり合うように巻かれた第1電磁コイル206および第2電磁コイル208を有する。第1電磁コイル206は外側すなわち外周から中心点へ向かって巻回する。第1電磁コイル206の中心点は、導電ビア110により第2電磁コイル208の中心点と接続する。第2電磁コイルは中心点から外周へ向かって外向きに巻回する。原理的には、これらコイル206,208は、同一または2個の異なる基板上に設けることができる。薄膜運動のセンサとして機能する誘導素子の第2の組(セット)は、図示の実施例において、少なくとも1個の電磁コイルを備える。この電磁コイルを第3電磁コイル212とする。随意的に第4電磁コイル214を設けることができ、この第4電磁コイル214
は第3電磁コイルと電気的に接続しない。電磁コイル212は典型的には1巻回コイルとする。原理的には、2個の電磁コイル212,214は、同一の基板上または別々の基板上に形成することができる。誘導素子の第2の組(セット)におけるコイルは個別の加工工程で形成することができるが、第1の組における誘導素子のコイル製造と同一の加工工程で形成することもできる。
【0038】
説明上、本発明を限定するものではないが、誘導素子を同一の基板内または同一の基板上に形成する場合における、電気振動信号を生成する電子デバイスとしていくつかの例示的実施形態を説明する。これらの例において、MEMSの一部である誘導素子はアンダーエッチング技術を用いて形成する。図4および図5はアンダーエッチングにより製造可能な電子デバイスの2個の例を示す。以下では電磁コイルに関して構造を説明するが、本発明に係る電気振動信号を生成する電子デバイスはこれに限定されるものではなく、任意の誘導素子を用いることができる。
【0039】
アンダーエッチングは、例えば特別な構造を基板上に設け、ついで基板をエッチング剤浴内に配置することにより行うことができる。まず、絶縁層のアンダーエッチングのための一般的な工程をより詳細に説明する。エッチングは、絶縁層の材料に対して選択的エッチングとなるよう選択する。例えば金属層下の絶縁層を除去するためには、第1の基板を絶縁層および金属層で被覆する。金属層の上部に、表面安定化処理(パッシベーション)層を設け、少なくとも部分的に金属層をエッチング剤から保護する。これはエッチングの選択性が完全には保証されないためである。次に絶縁層をエッチング剤と接触させることによりアンダーエッチングが生じる。十分良質なアンダーエッチングを得るためには、絶縁層とエッチング剤との間における水平方向の初期許容距離を、例えば酸化物のアンダーエッチングの場合3μm程度に限定する必要があるため、アンダーエッチングを施すべき絶縁層の全領域と材料で被覆しない領域との間の距離も、その距離に、例えば酸化物アンダーエッチングの場合は3μm以下に限定する必要がある。この結果、より広い領域をアンダーエッチングする場合、エッチング剤の絶縁層内への自由な浸透を可能にするよう、表面安定化処理層および金属内に孔を設ける必要がある。これらの孔のサイズは一般にエッチング剤の種類およびアンダーエッチングする材料に依存する。例えばブテンエチルグリコール(BEGとも称する。)浴での酸化物アンダーエッチングの場合、孔は一般に少なくとも2μm×2μmとする。この場合、孔は、アンダーエッチング薬剤が流れ込んで犠牲になるべき酸化物層を溶解し、メカニズムを解放する唯一の領域である。次いで、広範囲にわたりアンダーエッチングする場合にはできるだけ孔を通じて、この構体をエッチング剤と接触させることにより、アンダーエッチングが可能になる。
【0040】
ここで図4および図5に示す例に戻る。図4に、MEMSをアンダーエッチングにより形成した、電気振動信号を生成する電子デバイスの第1実施例例を示す。ここで第1誘導素子106および第4誘導素子114は同一の半導体加工工程により形成する必要がなく、本発明を限定するものではないが、異なる材料で形成し、また基板に対して異なる高さに配置することができる。第2誘導素子108および第3誘導素子112もまた、本発明を限定するものではないが、異なる材料で形成し、また異なる半導体加工工程により形成することができる。しかし、好適には、第1および第4の誘導素子106,114は同一の半導体加工工程において同一の第1材料により形成し、かつ第2および第3の誘導素子108,112もまた同一の半導体加工工程において同一の第2材料により形成する。これにより必要となる半導体加工工程の数を減らし、これにより装置の複雑さ、必要とされる作業、従って製造コストを減らすことができるという利点がある。2個の異なる層にのみ生成した4個の誘導素子を有する電子デバイスの第2実施例を、図5の平面図、および図6a〜図6cの断面図に示す。図7aおよび図7bは、それぞれ、第1および第4の誘導素子106,114を形成した第1の材料のレイアウト、ならびに第2および第3の誘導素子108,112を形成した第2の材料のレイアウトを示す。図5〜図7bに示した電気振動信号を生成する電子デバイスの実施例は、単に説明のために示したものであり、本発明を限定するものでないことは明らかであろう。図5に示す電気振動信号を生成する電子デバイス300は、図示の例では第1の材料による1ミクロン厚の層の3巻回から成る電磁コイルである第1誘導素子106と、図示の例では第2の材料による厚さ3ミクロンの層から成る電磁コイルである第2誘導素子108とを備える。誘導素子間には、図示の例では0.5ミクロン厚の酸化ケイ素である絶縁層(図5〜図7bには図示せず)を設ける。この絶縁層はアンダーエッチングで犠牲となり、固形物を含まないエッチング済みの空所302を生ずる。絶縁層に加えて、第1誘導素子106と第2誘導素子108との間に導電ビアを設け、これにより、誘導素子106,108は互いに電気的に接続される。図示の例において、感知素子の一部をなす第3誘導素子112は、図示の例では第2材料の3ミクロン厚の層である第2誘導素子108と同一の層に1巻回にして形成した電磁コイルとし、やはり感知素子の一部をなす第4誘導素子114は、図示の例では第1材料の1ミクロン厚の層である第1誘導素子106と同一の層に複数回巻回した電磁コイルとして設ける。このように第1誘導素子106および第4誘導素子114は同一の厚さを有し、第2誘導素子108および第3誘導素子112は同一の厚さを有する。第1材料と第2材料とは同一の材料としてもよいし、異なる材料としてもよい。これらの材料は例えばアルミニウム、金、銀、銅など低損失の金属とすることができる。第2誘導素子108および第3誘導素子112の頂部に、表面安定化処理層304、例えば窒化物層を設けることができる。図示の例では1.5μm厚の窒化物層とし、アンダーエッチングの間第2および第3の誘導素子のための保護層として使用する。一方において、窒化物などの付加的な薄い保護層を第1および第4の誘導素子の中間部に設け、他方において、図示の例では酸化物すなわち酸化ケイ素から成るエンダーエッチング可能な絶縁層を設けることができ有利である。これにより、第1および第4の誘導素子をアンダーエッチングの間保護することができる。図5から、アクセス孔306を表面安定化層ならびに第2および第3の電磁コイル内に設け、第2および第3の電磁コイルの広範囲において絶縁層のアンダーエッチング用のアクセスを可能にしている。孔は電磁コイル間の絶縁層を十分に除去することができるように設ける。図示の実施例の利点として、第1誘導素子および第4電磁的誘導素子の生産を、同一の半導体加工工程を用いて行うことができる。これは、例えば導電材料を蒸着(デポジット)し、つぎにマスクを通してエッチングして、導電素子、例えば電磁コイルを形成することにより行うことができる。代案として、誘導素子は、電磁コイル用の適切な形状を有するモールドを基板内に形成し、このモールドに導電材料を充填することにより形成することもできる。第2誘導素子および第3誘導素子の生産も、同一の半導体加工工程を用いて行うことができる。これは、導電材料の層を設け、導電素子用の適切な形状をエッチングすることにより行うことができる。さらに、第2誘導素子および第3誘導素子の下側における酸化物のアンダーエッチングは、同一の半導体加工工程を用いて行うことができる。アンダーエッチングにより第2および第3の誘導素子をフリーな状態にすることができる。図6aに、図5の線分A‐A′上の断面図を示す。この断面図に、エッチング済みの空所302により間を隔てた異なる電磁コイル106,108,112,114の相対位置を示す。さらに、表面安定化処理層304およびアクセス孔306を示す。図6bに、図5の線分B‐B′上の断面図を示す。この断面図は第4誘導素子114に形成した、センサ出力の近傍における異なるコンポーネントを示す。図6cは、図5の線分C‐C′上の断面図を示す。この断面図は、第2および第3の誘導素子間における遷移域近傍の異なるコンポーネントを示す。図5に示すように得られた構造は、長さが約60μm、幅が15μm×2の振動薄膜を有する。図7aは第1誘導素子106および第4誘導素子114を形成する第1材料のレイアウトを示す。図7bは第2誘導素子108および第3誘導素子112を形成した第2材料のレイアウトを示す。本発明に係る回路を製造するのに必要とされる半導体加工技術は、標準的な半導体加工技術とすることができ有利である。さらに、図5に第3誘導素子112と第2誘導素子108との間における共通入力接続ポイント308を示し、また第3誘導素子112の第2出力ポイント310を示す。さらに、センサの出力ポイント312、すなわち第4誘導素子114の出力ポイントを示す。電気的ビア314により第4誘導素子114を閉じる。さらに、初期AC信号を供給する入力ポイント316を第1誘導素子106に設ける。本発明に係る装置には、付加的な層を設けることができ、例えばキャビティの形成および電気的接続のため、シリコンウエハ上にキャップをハンダ付けすることを可能にする前処理層を設けることができる。アルミニウムを金属層として用いる場合、ニッケルゴールド層を前処理層として設けることができる。
【0041】
第2の実施形態において、本発明は、上述の実施例として説明した電子デバイスにおいて、電気振動信号を生成する電子デバイスのMEMSコンポーネントをキャビティ内に配置することを特徴とする電子デバイスに関する。キャビティは、好適には真空キャビティとするが、これに限定するものではない。キャビティには、さらに、例えばガスを充填することもできる。キャビティ、好適には真空キャビティ内にMEMSを収容して可動素子102が真空中に浮遊できるようにすることにより、可動素子102が自由に振動でき、振動周波数生成のための極めて高品質のQファクタ(係数)を得ることができる。Qファクタは、例えば真空内では、100〜1000となる。真空レベルは、極めて重要というものではなく、単に薄膜の機械的Qに影響するだけである。すなわち真空レベルが低い場合には減衰効果が生じるにすぎない。真空レベルが低い場合、振動を維持するためにより多くのエネルギーが必要となり、このためアクチュエータ手段とデバイスの薄膜との間により強い結合が必要となる。この場合、薄膜はその主共振周波数における振動の「自由度」が少なくなる。得ることのできる真空レベルの例としては、例えば10-2ミリバールとするが、本発明はこれに限定するものではない。MEMSを十分高い真空状態の真空キャビティに置いた場合、振動の減衰はほとんど生じない。ハンダの隆起(バンプ)で形成した封止リングを用いて、例えば2個のシリコン層間に半導体基板用のキャビティを形成する方法の事例は、コーニンクレッカ・フィリップス・エレクトロニクス社(Koninklijke Philips Electronics N.V.)による国際特許出願公開第03/079439号に詳細に記載されている。真空オーブン内でハンダの隆起で形成したリングのリフローを実現することにより真空キャビティを得ることができる。本発明の好適な実施形態では、シリコン基板を用いてキャビティを生成することができる。キャップ基板404により閉鎖したキャビティ402内に組み込んだMEMS構体を有する電気振動信号を生成する電子デバイス400の一部の例を図8に示す。この図には、基板104、キャップ基板404および封止素子406(例えばハンダ隆起から成る封止リング)により形成したキャビティ402内に組み込まれたMEMS構体のいくつかの代表的な素子を示す。ハンダ隆起は例えばスズなど任意の好適な材料により形成することができる。本発明を限定するものではないが、キャビティの典型的な高さHは例えば20μmとすることができる。キャップ基板404は、例えばキャビティの閉鎖以外の機能を有さないキャップ材料により形成することもできるし、キャップ基板404に付加的な機能を持たせることもでき、例えばキャビティの頂部に能動集積回路を配置する機能とする。例えば、電子デバイスで使用する増幅回路をキャップ基板404に集積することができる。このようにして、電気振動信号を生成する電子デバイスのすべての機能コンポーネントを、限定寸法、すなわち例えばデバイスのZ方向の厚さが数百ミクロンに限定されたデバイス内に集積することができる。システムの機械的部分は約120μm×60μmの寸法とすることができるため、XY平面内の寸法もきわめて限定され、真に微小な構体を得ることができる。
【0042】
第3の実施形態では、本発明は上述の実施形態に記載した電子デバイスにおいて、さらにフィードバックループを設けた電子デバイスに関する。このように、電気振動信号を生成する安定的な電子デバイス500を、図10に示すように構成し、一定の振幅を有する電気振動信号を生成する。このシステムは基準オシレータ(発振器)として有利に使用することができる。これは、センサの出力信号、すなわち例えばいくつかの実施形態における磁場を感知する誘導素子114により生成した信号を、信号増幅用の電子回路502(増幅回路とも称する。)に供給し、増幅した信号をアクチュエータ手段である第1および第2の誘導素子にフィードバックすることにより得ることができる。増幅用の電子回路502を適切に設計することにより、すなわち位相およびゲインを調整することにより、電気振動信号を生成する安定した電子デバイス500を得ることができ、これを用いて信号の振幅を一定に維持することができる。安定振動モードにおいて、感知部分近傍で可動薄膜は大きく運動するが、第2誘導素子108はそれほど大きく運動しない。これは、薄膜が自己振動し、各サイクルにおいてエネルギー損失が僅かであり、これにより、アクチュエータ手段はこの損失を補償するためにのみ使用されるからである。大きな運動は、可動素子102の感知側近傍部分における振動の高いQファクタ(係数)により生じる。可動素子102、例えば薄膜のこの部分におけるQファクタに一致する振幅比が得られると予想される。もっとも、振動の振幅は、基板に衝突しないよう制限したものに選択する。増幅回路は、出力信号を入力信号に比べて段階的に最大のゲインまで増幅しなければならない。このため、一般に位相シフトを生じ、この位相シフトはいくつかの機械的および/または電気機械的要因に依存する。同様に、ゲインはアクチュエータ手段がオーバードライブ(過剰駆動)することなく振動を維持するよう調整する。ここでゲインは振動を開始する時、すなわちスタートアップ時にはシステムが安定動作している時と比べて高くする。このように、電子増幅回路502は位相およびゲインの調整を確保しながら信号を増幅することが可能な任意の電子回路とすることができる。このような回路は、ユニポーラ(単極)トランジスタ、例えば電界効果トランジスタ(FET)に基づくものとすることができるが、他のタイプのトランジスタ、例えばMOS、PHEMT、バイポーラ(二極)接合トランジスタ(BJT)またはヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)とすることもできる。このように電子回路502は感知した小さな電圧、すなわち電気振動信号を増幅することにより、増幅された電気振動信号を生成する。これは交流電流(AC電流)であり、誘導素子の第1の組、すなわち第1誘導素子106および第2誘導素子108に供給する。この実施形態で説明するようにフィードバックループを設けることにより、可動素子102、例えば薄膜の主共振周波数で共振する、電気振動信号を生成する電子デバイスを実現する。こうして、移動可能な薄膜の主共振周波数がデバイスの周波数を決定する。振動は、より高いループゲインで最適となり、この場合、すべての素子、すなわち増幅回路、アクチュエータおよびセンサは最大のゲインを生ずる。このようにして、このデバイスは、薄膜の可撓モードにおける主共振周波数の振動を最適に維持することができる。随意的に、センサが図10に示すような磁場を誘導する誘導素子112を備える場合には、磁場を誘導する誘導素子112に供給されるDC電流を、ループのゲインを制御するために使用することができる。このようにDC信号を増幅502用の電子回路のためのゲイン信号として用いることができる。換言すれば、増幅器ゲインは、第3誘導素子112に供給するDC電流により制御することができる。このようにして、増幅502用電子回路の電力消費に直接リンク付けし、これにより、より高いDC電流に対してより高いループゲインが得られる。第3誘導素子に供給するDC電流は、電子回路から増幅への供給用に再利用することができる。この結果、誘導素子112を流れるDC電流を増幅用電子回路の供給電流とは独立したものとし、これにより、DC入力をグラウンドに向かう電流制限抵抗に接続するか、または代案として、DC電流を再利用して増幅502用電子回路に供給し、この場合、DC入力を増幅502用電子回路のための供給電流として接続し、かつ減結合キャパシタをアクチュエータ手段の入力ポイントとグラウンドの間に設けることができる。後者の場合、電流を再使用するので消費する電流量は少なくなるが、より強力な減結合キャパシタが必要となる。振動の開始後は、振動を維持するために誘導素子106,108に追加供給する必要があるAC電流は非常に少ないものと予想される。これは、可動素子102の振動の減衰による損失、および感知用の第4誘導素子に奪われる少量のエネルギーによる損失を補償することのみが必要とされるためである。センサの出力信号の供給を受ける電子回路502は、好適には入力インピーダンスが極めて高い増幅器とすることができる。第1および第2の誘導素子に供給されるAC電流は小さいもの、例えば100μmAとすることができる。
【0043】
本発明のある実施形態に係る電気振動信号を生成する電子デバイスは、受動集積シリコン基板(Passive Integration Silicon Substrate:PICS)上に配置すると、とくに有効である。典型的には、これによりすべての受動型コンポーネントのみならずそれらの間の相互パターンをも搭載するよう単一の低コストシリコンダイを生産することができる。MEMS構体は、半導体基板、例えばシリコンに集積することが容易なため、電気振動信号を生成するための電子デバイスをPICSと有利に組み合わせることができる。換言すれば、シリコンに基づく基準オシレータ(発振器)機能のシステムインパッケージは、本発明の実施形態を用いることで有利に行うことができる。このようにして、例えば無線通信機能をすべて単一のシリコンベースのパッケージに集積することができる。能動機能、BAWフィルタ、MEMS等に基づく、異なる技術により実施した複数のダイをフリッピングすることによるさらなる集積を、有利に行うことができる。
【0044】
当業者にとって、本発明を具現化する電気振動信号を生成する電子デバイスの目的を達成するための他の構成は明らかであろう。
【0045】
好適な実施形態、特定の構造および構成ならびに材料を本発明に係る装置についてここで説明してきたが、多種多様な形状および細部の変更または修正を、本発明の範囲および精神を逸脱することなく行うことができる。例えば、上に述べた実施形態では、電気振動信号を生成する特定の代替装置の説明をしたが、本発明は誘導素子により動作するアクチュエータ手段を有するMEMSを基礎とした電気振動信号を生成する方法にも関する。この方法は、一般に、可動素子を動作させてこの可動素子の振動を生成するステップであって、この動作を高度の集積が可能なアクチュエータ手段により行うことを特徴とするステップを備える。これは、例えば2個の誘導素子の組(セット)を使用し、一方の誘導素子、例えば第1誘導素子は、装置の基板内に組み込むかまたは基板に固定し、他方の誘導素子、例えば第2誘導素子は、基板に関して可動な可動素子に組み込むかまたは可動素子に固定することによって行うことができる。これらの誘導素子は電磁コイルとすることができる。これらの誘導素子は互いに重ねて配置することができる。これらの誘導素子に交流電流を供給することにより、変化する交互の力が誘導素子間に生じ、可動素子の振動、または少なくとも可動素子の可動部の振動を生成する。このように、例えば2個の誘導素子の組に交流電流を供給することにより作動を実現することができる。次いで、可動素子の運動、すなわち振動を前記基板上、すなわち前記基板に関する交互の磁気力に変換する。この変換は、例えば誘導素子、例えば可動素子の可動部に組み込むかまたは固定した第3誘導素子にDC電流を供給することにより行うことができる。これにより可動素子に関して一定の磁気力が生じ、振動の際には基板に関して変化する磁気力が生じる。次いで基板上の変化するまたは交互の磁気力を測定して交流電気信号に変換し、これを生成する電気振動信号とすることができる。このような変換は、例えば誘導素子、例えば第4誘導素子を用いて行うことができるが、基板内に高度の集積可能性を有する別の手段を用いることもできる。第3および第4の誘導素子により構成することができるセンサ手段の出力ポイントで得られる生成電気振動信号は、直接使用することもできるし、またはまず増幅することもできる。随意的に、生成した電気振動信号を、適合する電子回路、例えば増幅器で増幅することができ、増幅した生成電気信号を少なくとも部分的に用いて可動素子を作動させることができる。これは例えば増幅した生成電気振動信号を作動手段の誘導素子に供給することにより行うことができる。これにより、増幅時に得られたゲインおよび位相を制御して、一定振幅の生成電気振動信号を生成することができる。増幅した生成電気振動信号のゲインは、少なくとも部分的に、変化する磁気力内における可動素子の運動を変換するために第3誘導素子で使用するDC信号を、適合する電子回路、例えば増幅器にゲイン制御信号として供給することにより決定することができる。上に述べた方法は、本発明の実施形態に記載した電気振動信号を生成する電子デバイスを用いて有利に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態に係る、1組の誘導素子により動作するMEMSを備えた、電気振動信号を生成する電子デバイスの斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る、1組の電磁コイルにより動作するMEMSを備えた、電気振動信号を生成する電子デバイスの斜視図である。
【図3】図2に示す1組の電磁コイルにより動作するMEMSを備えた、電気振動信号を生成する電子デバイスのX−Z断面図である。
【図4】本発明の例示的実施形態に係る、1組の電磁コイルにより作動させるMEMSを備えた電気振動信号を生成する電子デバイスの第1の可能な配置図である。
【図5】本発明の他の例示的実施形態に係る、1組の電磁コイルにより動作するMEMSを備えた、電気振動信号を生成する電子デバイスの考えられる第1のレイアウト図である。
【図6a】図5に示した電気振動信号を生成する電子デバイスのレイアウト図の線分A‐A′に沿った断面図である。
【図6b】図5に示した電気振動信号を生成する電子デバイスのレイアウト図の線分B‐B′に沿った断面図である。
【図6c】図5に示した電気振動信号を生成する電子デバイスのレイアウト図の線分C‐C′に沿った断面図である。
【図7a】図5に示した電気振動信号を生成する電子デバイスの第1実施例による電磁コイルおよび第4実施例による電磁コイルを備える第1の材料層のレイアウト図である。
【図7b】図5に示した電気振動信号を生成する電子デバイスの第2実施例による電磁コイルおよび第3実施例による電磁コイルを備える第2の材料層のレイアウト図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る、キャビティ内に包囲した1組の誘導素子により動作するMEMSを備えた、電気振動信号を生成する電子デバイスの断面図である。
【図9】本発明の第2実施例による、キャビティ内に包囲した1組の誘導素子により動作するMEMSを備えた、電気振動信号を生成する電子デバイスの断面図である。
【図10】本発明の第3実施例による、周波数共振ループを設けたMEMSを備えた、電気振動信号を生成する電子デバイスの断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小電気機械システムに基づく電気振動信号を生成する電子デバイスであって、基板と、アクチュエータ手段と、前記基板に対して移動可能な可動素子と、センサとを備え、前記アクチュエータ手段は前記可動素子の運動を生起するよう構成し、前記センサは前記可動素子の運動を電気振動信号に変換するよう構成した該電気振動信号を生成する電子デバイスにおいて、
前記アクチュエータ手段は、第1誘導素子と、少なくとも第2誘導素子とを有する構成とし、前記第1誘導素子を前記基板に固定し、前記第2誘導素子を前記可動素子に固定したことを特徴とする電子デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の電子デバイスにおいて、前記センサは、前記可動素子に固定した素子であって磁場を誘導する誘導素子と、前記磁場を誘導する誘導素子にDC電流を供給するためのDC電流源とを有する構成としたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子デバイスにおいて、前記センサは、前記基板に作用する変化する磁気力を電気振動信号に変換するための、前記基板に固定した素子であって、磁場を誘導する誘導素子を有する構成としたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電子デバイスにおいて、前記第1誘導素子と前記少なくとも第2誘導素子とを互いに電気的に接続することを特徴とする電子デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の電子デバイスにおいて、前記電子デバイスは、さらに、前記電気振動信号を前記センサから受信して増幅し、この増幅した電気振動信号を前記アクチュエータ手段に供給するよう構成した電子増幅回路を有する構成としたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項6】
請求項2に従属する請求項5に記載の電子デバイスにおいて、前記電子増幅回路は、さらに、前記DC電流信号をこの電子増幅回路用のゲイン入力信号として受信する構成としたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電子デバイスにおいて、前記電子増幅回路は、電気振動信号を一定の振幅に維持するための位相シフトおよびレベル制御手段を有する構成としたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の電子デバイスにおいて、該電子デバイスは、交流電流を前記第1誘導素子および前記第2誘導素子に供給する交流電流源を有する構成としたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の電子デバイスにおいて、前記誘導素子を電磁コイルとしたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の電子デバイスにおいて、前記微小電気機械システムを閉鎖したキャビティ内に設けたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項11】
請求項10に記載の電子デバイスにおいて、前記閉鎖したキャビティは、前記キャビティを閉鎖するためのキャップ基板および封止素子を有する構成としたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の電子デバイスにおいて、前記可動素子を薄膜としたことを特徴とする電子デバイス。
【請求項13】
基板上の微小電気機械システムに基づいて電気振動信号を生成する方法において、該方法は、
交流電流を、前記基板に固定した第1誘導素子および可動素子に固定した少なくとも第2誘導素子に供給することにより、前記可動素子の振動を生起させるステップと、
前記可動素子の前記振動を前記基板に作用する交互変動の磁気力に変換するステップと、
前記基板の前記交互変動の磁気力を電気振動信号に変換するステップと、
を有するものとしたことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記交互変動の磁気力を変換するステップは、磁場を感知する誘導素子により前記交互変動の磁気力を感知するステップを有するものとしたことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の方法において、前記振動を変換するステップは、DC電流を、前記可動素子上に設けた素子であって磁場を誘導する誘導素子に供給するステップを有するものとしたことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法において、該方法はさらに、前記電気振動信号を増幅するステップと、前記増幅した電気振動信号を前記第1誘導素子および前記少なくとも第2誘導素子に供給するステップとを有するものとしたことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項15に従属する請求項16に記載の方法において、前記電気振動信号の増幅するステップは、前記DC電流を用いて制御することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれか一項に記載の方法において、前記方法はさらに、電気振動信号を一定の振幅に維持するステップを有するものとしたことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−535432(P2008−535432A)
【公表日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504884(P2008−504884)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/IB2006/050973
【国際公開番号】WO2006/106456
【国際公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(507219491)エヌエックスピー ビー ヴィ (657)
【Fターム(参考)】