説明

低風圧電線

【課題】低風速域から高風速域まで臨界風速の時の抗力係数を得ることが可能な低風圧電線を提供する。
【解決手段】低風圧電線21は、菱形の形状となる粗度25を多数有し、また、多数の粗度25を長手方向P、周方向Q、及び螺旋方向Rに離散するように配置し、さらに、多数の粗度25を粗度密度が15%〜25%となる状態に配置している。粗度25は、周方向Qに一対の頂部26を有する多角形状に形成されている。粗度25は、菱形に形成されている。菱形となる粗度25は、長手方向Pに一対となる頂部27を有している。また、菱形となる粗度25は、四つの辺28を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁体の表面に凹又は凸状の加工(以下、粗度という)を有する低風圧電線に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁体の表面に凹又は凸状の加工となる粗度を有する低風圧電線としては、例えば下記特許文献1、2に開示されたものが知られている。
【0003】
図5(a)において、下記特許文献1に開示された低風圧電線1は、導体2と、この導体2を被覆する絶縁体3とを有している。絶縁体3の表面には、この表面の周方向に所定の間隔をあけて多数の粗度4が形成されている。粗度4は、断面山形形状に形成されている。多数の粗度4は、電線長手方向に真っ直ぐのびるように形成されている。多数の粗度4は、絶縁体3の表面に一様に配置されている。
【0004】
図6(a)において、下記特許文献2に開示された低風圧電線11は、導体12と、この導体12を被覆する絶縁体13とを有している。絶縁体13の表面には、円形の凸形状となる複数の粗度14を集合させて粗度集合部15が形成されている。粗度14や粗度集合部15は、絶縁体13の表面に一様に配置されている。
【0005】
図5及び図6の低風圧電線1及び11は、これに風が当たると、絶縁体3及び13の表面に設けられた粗度4や粗度集合部15の存在によって、電線の風圧荷重が低減されるようになっている。
【0006】
風圧荷重の低減に関しては、電気設備技術基準などを基にして風速40m/sでの風圧荷重が規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−118434号公報
【特許文献2】特許第2922079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図5の低風圧電線1は、上記の如く断面山形形状で電線長手方向に真っ直ぐのびる粗度4を多数有しており、多数の粗度4が絶縁体3の表面に一様に配置されている。このような低風圧電線1に関し、横軸に風速(m/s)をとり縦軸に抗力係数(Cd)をとった風速−抗力係数を示すグラフ(図5(b)参照)を見ると、低風速域においては風圧荷重を示す抗力係数が落ち込んでいることが分かる。抗力係数が落ち込んだ時の風速を臨界風速とすると、低風圧電線1は低風速域である風速40m/sよりも十分に低い風速域で臨界速度をむかえ、この後、風速が高まるにつれて抗力係数が回復してしまうことが分かる。すなわち、臨界風速の時の抗力係数を維持できてないということが分かる。
【0009】
一方、図6の低風圧電線11は、上記の如く複数の粗度14からなる粗度集合部15を有しており、粗度14や粗度集合部15が絶縁体13の表面に一様に配置されている。このような低風圧電線11の風速−抗力係数を示すグラフ(図6(b)参照)を見ると、風速55m/s程度で臨界風速をむかえ、この後は抗力係数を維持していることが分かる。しかしながら、低風速域である風速40m/sや、これよりも低い風速域で臨界速度をむかえることができないことから、低風速域から高風速域まで臨界風速の時の抗力係数を得られないことが分かる。
【0010】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、低風速域から高風速域まで臨界風速の時の抗力係数を得ることが可能な低風圧電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の低風圧電線は、導体を覆う絶縁体の表面に凹又は凸状の加工となる粗度を有する低風圧電線において、前記粗度を多数形成し、且つ、該多数の粗度を、前記絶縁体の周方向、長手方向、及び螺旋方向に離散させて配置し、且つ、前記多数の粗度を、前記絶縁体の単位表面積に対する凹面積又は凸面積の和の割合、すなわち粗度密度が15%〜25%となる状態に配置することを特徴とする。
【0012】
また、請求項2記載の本発明の低風圧電線は、請求項1に記載の低風圧電線に係り、前記多数の粗度を、各々、前記周方向に一対の頂部を有する多角形状に形成することを特徴とする。
【0013】
以上のような特徴を有する本発明によれば、多数の粗度を離散して配置し、また、その配置を粗度密度が15%〜25%となる状態にすることから、本発明の低風圧電線に風が当たると、絶縁体の表面に沿って流れる風に乱れを生じさせることができ、これにより絶縁体の表面に風を長く付着させることができる。結果、本発明の低風圧電線は、この後方の気圧の低い領域を縮小して電線の風圧荷重を低減することができる。風圧荷重の低減効果は、多数の粗度を離散して配置することや粗度密度を規制して維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載された本発明によれば、低風速域から高風速域まで臨界風速の時の抗力係数を得ることができるという効果を奏する。
【0015】
請求項2に記載された本発明によれば、粗度のより良い形状を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る低風圧電線を示す斜視図(粗度密度15%)である。
【図2】本発明に係る低風圧電線を示す斜視図(粗度密度20%)である。
【図3】風速−抗力係数のグラフである。
【図4】比較例としての低風圧電線を示す斜視図である。
【図5】従来例の低風圧電線を示す図であり、(a)は断面図、(b)は風速−抗力係数のグラフである。
【図6】従来例の低風圧電線を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は風速−抗力係数のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
低風圧電線は、凹又は凸状の加工となる粗度を多数有している。この多数の粗度は、離散して配置され、また、その配置は粗度密度が15%〜25%となる状態の配置になる。凹又は凸状の加工となる粗度は、菱形などの多角形状に形成される。また、丸形や楕円形となる形状に形成されてもよい。
【実施例】
【0018】
以下、図面を参照しながら実施例を説明する。図1及び図2は本発明の低風圧電線を示す斜視図である。また、図3は風速−抗力係数のグラフ、図4は比較例としての低風圧電線を示す斜視図である。
【0019】
図1及び図2において、本発明の低風圧電線21は、導体22と、この導体22を被覆する絶縁体23とを有している。導体22は、金属製であって導電性を有しており、公知のものと同じである。また、絶縁体23も公知のものと同じであり、樹脂製であって絶縁性を有している。絶縁体23の表面24には、凸状の加工となる粗度25が多数形成されている(特に図示しないが凹状の加工となる粗度であってもよいものとする)。図1の低風圧電線21と、図2の低風圧電線21は、後述する粗度密度が異なっているだけであり、発明としては同じものである。
【0020】
ここで図中の真っ直ぐな矢印Pは、絶縁体23の長手方向を示している。この長手方向Pは電線長手方向でもある。また、円を描くような矢印Qは、絶縁体23の周方向を示している。さらに、長手方向Pを中心に螺旋状となる矢印Rは、螺旋方向を示している。螺旋方向Rは、右巻き及び左巻きのいずれであってもよいものとする。この他、矢印Sは低風圧電線21(又は絶縁体23)に当たる風の向きを示している。
【0021】
多数の粗度25は、絶縁体23の表面24において、この長手方向P、周方向Q、及び螺旋方向Rに離散するように配置されている。多数の粗度25は、従来例の粗度4(図5参照)や粗度集合部15(図6参照)のような一様な配置ではなく、上記各方向に離散するように配置されている。
【0022】
具体的な一例としては、多数の粗度25を長手方向Pで見ると、n、n+1、n+2、n+3、…のような列で粗度25が離ればなれに配置されている。また、多数の粗度25を周方向Qで見ると、列nと列n+2で同じ位置、列n+1と列n+3で同じ位置になるように離ればなれに配置されている。さらに、多数の粗度25を螺旋方向Rで見ると、各列間で離ればなれに配置されている。
【0023】
多数の粗度25は、絶縁体23の表面24の単位表面積に対する凸面積の和の割合、すなわち粗度密度が15%〜25%となる状態に配置されている。図1の低風圧電線21の場合は、粗度密度が15%、図2の低風圧電線21の場合は、粗度密度が20%となるように多数の粗度25が配置されている。本実施例においては、粗度密度が15%から高くなるにつれて、上記の列毎の粗度25の間隔が狭くなるように配置されている。すなわち、上記長手方向Pに粗度25が増えるように配置されている。
【0024】
粗度25は、上記周方向Qに一対の頂部26を有する多角形状に形成されている。本実施例においては、菱形に形成されている。菱形となる粗度25は、上記長手方向Pに一対となる頂部27や、四つの辺28も有している(図1参照)。
【0025】
粗度25は、矢印S方向からの風を周方向Qに流す際に乱れを生じさせ、これにより後述する抗力係数(Cd)を低減させることを目的とした形状に形成されている。また、粗度25は、絶縁体23の表面24に風を長く付着させ、これにより抗力係数(Cd)を低減させることを目的とした形状にも形成されている。
【0026】
低風圧電線21は、上記の如く菱形の凸形状となる粗度25を多数有し、また、多数の粗度25を上記の長手方向P、周方向Q、及び螺旋方向Rに離散するように配置し、さらに、多数の粗度25を粗度密度が15%〜25%となる状態に配置していることから、このような低風圧電線21に関し、図3に示す如く横軸に風速(m/s)をとり縦軸に抗力係数(Cd)をとった風速−抗力係数を示すグラフを見ると、臨界風速の時の抗力係数を維持できていることが分かる。以下、もう少し詳しく説明をする。
【0027】
図3において、「15%」と記載された正方形の点は、図1の低風圧電線21に係る風速−抗力係数のグラフを示している。図1の低風圧電線21は、絶縁体23の表面24の単位表面積に対する粗度25の凸面積の和の割合、すなわち粗度密度が15%となる本発明の低風圧電線である。また、「20%」と記載された三角形の点は、図2の低風圧電線21に係る風速−抗力係数のグラフを示している。図2の低風圧電線21は、絶縁体23の表面24の単位表面積に対する粗度25の凸面積の和の割合、すなわち粗度密度が20%となる本発明の低風圧電線である。
【0028】
一方、「10%」と記載された菱形の点は、図4の低風圧電線101に係る風速−抗力係数のグラフを示している。図4の低風圧電線101は、絶縁体23の表面24の単位表面積に対する粗度25の凸面積の和の割合、すなわち粗度密度が10%となる低風圧電線である。低風圧電線101は、粗度密度が15%〜25%に該当しない低風圧電線である。図4の低風圧電線101は、ここでは比較例として挙げられている。
【0029】
図3に戻り、「15%」のグラフを見ると、抗力係数が落ち込んだ時の風速を示す臨界風速は40m/sであることが分かる。また、「20%」のグラフを見ると、臨界風速は35m/sであることが分かる。これら「15%」及び「20%」においては、臨界風速をむかえた後に抗力係数が維持されることが分かる。「15%」及び「20%」のグラフを見ると、粗度密度をもう少し高めると(例えば粗度25を上記長手方向Pに増やして粗度密度を25%にする)、臨界風速を更に低くすることが可能であることが分かる。
【0030】
尚、特にグラフ化してないが、「30%」の場合は、隣り合う粗度25が接触してしまい、従来例のような抗力係数の回復(図5(b)参照)が見られることが分かっている。
【0031】
比較例である「10%」のグラフを見ると、臨界風速は55〜60m/sであることが分かる。従って、低風速域である風速40m/sにおいては、抗力係数が高いことが分かる。粗度25が同じであっても粗度密度が10%では、風の流れに乱れを生じさせる効果が弱く、このため絶縁体23の表面24に風を長く付着させることができず、結果、低風圧電線101後方(風が当たる側を前とするとともに、この逆側を後とする)の気圧の低い領域が縮小しないことが要因であると考えられる。
【0032】
以上、図1ないし図4を参照しながら説明してきたように、本発明に係る低風圧電線21は、菱形の凸形状となる粗度25を多数有し、また、多数の粗度25を長手方向P、周方向Q、及び螺旋方向Rに離散するように配置し、さらに、多数の粗度25を粗度密度が15%〜25%となる状態に配置していることから、低風圧電線21の後方の気圧の低い領域を縮小することができ、以て電線の風圧荷重を低減することができるという効果を奏する。また、本発明に係る低風圧電線21によれば、低風速域から高風速域まで臨界風速の時の抗力係数を得ることができるという効果を奏する。
【0033】
本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
21…低風圧電線
22…導体
23…絶縁体
24…表面
25…粗度
26、27…頂部
28…辺
P…長手方向
Q…周方向
R…螺旋方向
S…風の流れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を覆う絶縁体の表面に凹又は凸状の加工となる粗度を有する低風圧電線において、
前記粗度を多数形成し、且つ、該多数の粗度を、前記絶縁体の周方向、長手方向、及び螺旋方向に離散させて配置し、且つ、前記多数の粗度を、前記絶縁体の単位表面積に対する凹面積又は凸面積の和の割合、すなわち粗度密度が15%〜25%となる状態に配置する
ことを特徴とする低風圧電線。
【請求項2】
請求項1に記載の低風圧電線において、
前記多数の粗度を、各々、前記周方向に一対の頂部を有する多角形状に形成する
ことを特徴とする低風圧電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−243398(P2012−243398A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109040(P2011−109040)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】