説明

低pHであり、最適ORPを有し、臭気が低減された繊維、その繊維の製造方法、及び、それから製造される物品

本発明は、繊維が存在する水性環境におけるpH及び酸化還元電位(ORP)を調整するための、添加物により処理される低pH繊維であって、好ましくはセルロース繊維が再生した後に添加物により処理される低pH繊維を提供する。低pH繊維は、タンポン又はワイプなどの繊維質物品に形成され得る。添加物を有する低pH繊維は、有害バクテリアが増殖する能力を抑制する点において、ユーザーに健康効果を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pHを低減することができ、それが使用される環境における酸化還元電位に影響し得る繊維に関する。この繊維は、ワイプやタンポンなどの吸収物品に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
膣のpHは、通常、4〜4.5に維持される。膣排泄物は酸性であり、その酸性は、デーデルライン菌(Doederlein bacteria)などのグラム陽性菌の存在に関連している。膣における「サワー環境」は、低pH(すなわち、pH4−4.5の範囲)において最もよく繁殖し生き延び得る乳酸菌の成長を促進する傾向がある。乳酸菌コロニーの増殖は栄養を得るための競争であるので、他のより有害なバクテリアが増殖することを妨げ、これにより不快な感染症や炎症から身体が保護される。
【0003】
殆どの病原菌及び病原性真菌は、かなり限定されたpH領域を有する。一般的に、有害バクテリア及び害菌は、約pH7.5において最もよく繁殖し、成長し、生き延びる傾向にあると言われている。血液のpHは、典型的に7.2−7.7であり、正常な膣分泌物のpHよりはるかに高い。したがって、当然のことながら、生理中における月経液のpHは、典型的には、約pH6.9−7.2の範囲に上昇する。性交後における女性の膣のpHは、精液のpH範囲が典型的に7−8であるため、典型的には同様に増大する。
【0004】
特定の病原菌の至適増殖は、窒素代謝に関連する電気化学的酵素反応にも関係している。したがって、酸化還元電位(ORP)が膣の衛生に同様に重要である。病原菌の繁殖を抑制し、全体的な膣の衛生を促進するために、抗酸化環境が好ましい。すなわち、環境はより「還元的」であり、低ORPを示すべきである。女性の月経液及び膣液サンプルは、典型的に、異なる原子価値を有し得る要素(例えば、銅、亜鉛、鉄及び塩素)から構成されるため、ORP膣調節は、確実に意味を成し得る。更に、細胞における電子輸送機構は、実際に電気化学を主とすることが多い。
【0005】
ORP値は、特定の制限の範囲内にあるべきである。通常、ORP値はミリボルト(mV)で表される。CRCハンドブックは、電気化学系列を−3100mVから3030mVの範囲にある半反応について載せている。ORPの非常に強い還元値は、大きな負の数(<−1500)であり、一方、ORPの強い酸化値は大きな正の数(>1200)である。大部分において、生体系におけるORP値は、わずかに負の数である(すなわち、所定の還元あるいは抗酸化性能を有する)。
【0006】
また、多くの女性が月経臭という問題を抱えている。原因は、細菌性膣炎、イースト菌(真菌)感染症;トリコモナス属(異なる細菌感染)、発汗、尿、残存タンポン、及び、各女性の個人に特異的な臭いであり得る。多くの女性が、「魚臭症候群」として知られる、あるいはトリメチルアミン尿症の別名で知られる症状を有しており、それは罹患者が、息、汗、尿、及び他の分泌液中に自然に生ずる過量の第三級アミン トリメチルアミンを排出する遺伝性代謝性疾患である。このアミンは腐った魚のような鼻をつく臭いであり、かなり低い濃度において(100万当たり1部未満でさえ)、人の鼻で容易に感知される強烈さである。
【0007】
肌において健康的なpHは、4.5−6.0であるとされている。例えばベビー用品など、非常に多数のスキンケア製品が約5.5のpHに調合されている。殆どの市販用抗菌性ワイプは、約4.5のpHを示す溶液で処理されている。皮膚の平均pHに適合するパーソナルケア製品を有し、皮膚をその標準pHに維持することが、皮膚の健康のためになると一般的に信じられている。しかしながら、乳児の皮膚はしばしば糞尿残渣に曝され、乳児の皮膚のpHが所望される値を超えて押し上げられる。上記に説明したのと同じように、これは有害バクテリアが繁殖し得る環境に導き得る。
【0008】
したがって、例えば、タンポンやワイプのような吸収物品などのデバイスであって、pH、ORP及び膣臭の双方に有利に影響を及ぼし得るデバイスが必要とされる。
【発明の概要】
【0009】
本発明により、水性環境において、低pHであり、制御されたORPを有し、且つ、臭いを低減することのできる繊維、並びに、その製造方法が提供される。この繊維は、タンポン又は女性により膣領域に使用される他の物品、もしくはワイプなどに使用される繊維質物品に取り込まれ得る。
【0010】
繊維は、以下に説明するように、低pH、ORP及び臭気低減を達成するために数種の添加物で処理される。添加物には、酸(単独で、あるいは酸の対応する無機塩との組み合わせとして存在し得る)、仕上げ剤、及び任意のいくつかの追加成分が含まれる。本発明により、この特定の組み合わせが、水性環境におけるpHの低減、ORPへの影響、並びに、臭いの低減に効果的であることが見出される。
【0011】
本発明に係る繊維は、女性の膣領域に認められるような水溶液中におかれたとき、後述する方法に従い測定された場合に約3.5乃至約4.7のpHを示す。他の態様において、測定される水溶液のpHは約3.7乃至約3.9であり得る。繊維はまた、溶液に対し好ましいORP特性を示し、臭いの低減に貢献する。上述したように、これにより有害バクテリア及び有害菌類の繁殖を抑制できるため、ユーザーに対し多くの利点をもたらす。
【0012】
このように、一態様において、本発明により、所定の酸から選択される第一添加物を繊維の質量に対して約0.05%乃至約0.8%の範囲で含有し、且つ、所定の仕上げ剤から選択される第二添加物を繊維の質量に対して約0.08%乃至約0.7%の範囲で含有する低pH繊維が提供される。
【0013】
他の態様において、本発明により、繊維質物品が提供される。この繊維質物品は、複数の低pH繊維と、この複数の低pH繊維の質量に対して約0.30%乃至約0.65%の範囲において、所定の酸及びその塩から選択される第一添加物と、この複数の低pH繊維の質量に対して約0.08%乃至約0.7%の範囲において、所定の仕上げ剤から選択される第二添加物とを含有する。
【0014】
更に他の態様において、本発明により、低pH繊維の製造方法が提供される。この方法は、天然セルロースをセルロースキサントゲン酸塩に変換する工程、前記セルロースキサントゲン酸塩をアルカリに溶解させ、コロイドビスコースを形成する工程、前記コロイドビスコースを凝固させる工程、前記コロイドビスコースを乾燥する工程、前記乾燥コロイドビスコースから繊維を引き出す工程、クエン酸、乳酸、イソアスコルビン酸、及び、これらの任意の組み合わせから選択される酸を、前記コロイドビスコース又は前記繊維のいずれかに添加し、低pH繊維を形成する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る繊維における乳酸濃度とpHとの関係を示すプロットである。
【図2】本発明に係る繊維の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
上述したように、繊維が水性環境にある場合に、低pH及びORP制御を達成するために、繊維にいくつかの添加物が加えられる。これらの添加物には、酸(単独、あるいは酸の無機塩との組み合わせ)、及び仕上げ剤が含まれる。一態様において、酸(及び任意にその無機塩)は、セルロースがビスコースから再生された後に加えられる。他の任意の成分を繊維に加えてもよく、例えば、非酸、封入剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
A.酸
繊維を処理するために使用する添加物の一つは酸であり、単独でもよく、その無機酸との組み合わせでもよい。本開示において使用される用語「無機塩」は、酸として同じアニオンを発生する選択された酸の塩を意味するものとして使用され、pH緩衝効果を示す。本発明における無機塩に好適な金属の具体例としては、限定するものではないが、ナトリウム、カリウム、カルシウム、他のアルカリ及びアルカリ土類金属が挙げられる。したがって、一例として、選択された酸が乳酸である場合には、その好適な無機塩には乳酸ナトリウム、乳酸カリウムが含まれる。
【0018】
酸は、クエン酸、乳酸、イソアスコルビン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコリド(環状二量体又は加水分解して二つのグリコール酸分子を形成するグリコール酸)、酢酸、デヒドロ酢酸、ホウ酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、パームカーネル酸(palm kernal acid)、獣脂酸、サリチル酸、アスコルビン酸、ソルビン酸、安息香酸、コハク酸、アクリル酸(ポリマー形態:ポリアクリル酸及びポリアクリル酸ナトリウム緩衝液を含む)、又はこれらの任意の組み合わせであり得る。上述したように、酸及び酸に対応する無機塩(例えば、乳酸と乳酸ナトリウム)は一緒に添加され、緩衝効果を提供し得る。これは、繊維が長時間にわたり接触し得る環境曝露に対しpH安定性を維持するのに役立つ。好ましい酸として、クエン酸、乳酸、イソアスコルビン酸、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる。正常な健康の膣フローラ(vaginal flora)に存在するラクトバシラス・アシドフィルス・バクテリア(Lactobacillus acidophilus bacteria/好酸性乳酸桿菌)は、代謝性副生成物として乳酸を産出するため、これらの中で、乳酸及び対応する無機塩(例えば、乳酸ナトリウム又は乳酸カリウム)の併用が特に好ましい。乳酸、クエン酸及びイソアスコルビン酸等の酸は、幾分疎水性であり、繊維又は不織布処理の間に通常行われる水処理により洗い流されそうにないことからも好ましい。
【0019】
使用することのできる潜酸のより完全なリストが、参照により本発明に取り込まれるCRCハンドブック(CRC Handbook of Chemistry and Physics、54版、Cleveland、OH:CRC Press、1973−1974)、特に、セクションD129及びD130に記載されている。一般に、好適な膣pH範囲は3乃至7、より好適にはpH3.5乃至5.5であるため、弱酸性(すなわち、2<pKa<6)の有機材料が好ましい。非常に強い酸は、かなり希釈されない限りpHが危険なほどに低く、膣の健康を促進するよりもむしろ悪影響を与え得ることから、通常は好ましくない。理論に縛られることなく、本発明の繊維の処理に公的な酸は、身体において抗酸化物質として作用し、病原菌、病原性真菌、病原性原生動物等の繁殖を促進し得る活性酸素を攻撃すると信じられる。
【0020】
酸(単独でもよく、その無機塩との組み合わせでもよい)は、約0.05%乃至約0.8%、あるいは正確に0.05%乃至0.8%の量において存在する。一態様において、酸は、約0.30%乃至約0.65%、あるいは正確に0.30%乃至0.65%の量において存在する。他の態様において、酸は、約0.40%乃至約0.60%、あるいは正確に0.40%乃至0.60%の量において存在する。これらの質量百分率は、繊維の質量を基準とするか、あるいは、吸収物品中に複数の繊維がある場合には、物品に含まれる繊維の合計質量を基準とする。図1は、酸が乳酸である場合に、酸の量が物品中の繊維のpHにどのように影響するかを示すプロットである。
【0021】
上述した弱酸及びその無機塩に加えて、pH及びORPを調整するために塩が単独で添加され得る。例えば、弱塩基の塩(例えば、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、塩化ベンザルコニウム、パルミットアミドプロピルトリアンモニウムクロリド(palmitamidopropyltriammonium chloride)、及び同様の弱塩基の塩)が、水を使用した加水分解反応を受け得る。アンモニウム塩の例では、アンモニウムイオンがヒドロキシルイオンと反応してアンモニアと水素イオンを生成し、これによりpHを下げる。また、そのような材料は一般にORPを低減する傾向にあり、抗菌性を示す。「弱塩基」とは、pKb値が2乃至6の範囲にある任意の塩基を意味する。
【0022】
加えて、強酸(すなわち、pKaが2未満)は有害すぎて単独で使用され得ないことがあるが、その塩は本発明の繊維を処理するために使用され得る。例えば、亜硫酸水素ナトリウム又は重硫酸ナトリウムなどの二陽子の強酸塩は、亜硫酸水素塩又は重硫酸塩イオンが分解して水素イオンと、各々亜硫酸塩又は硫酸塩アニオンを形成する。
【0023】
本発明の酸は、本発明の繊維又は物品が使用される環境において臭いの低減に大いに貢献し得る。多くの月経臭は、ソースに関係なく実際にはアルカリ性である。安全な天然酸を使用してこれらの物質を処理して中和し、無臭の塩を形成することにより、ユーザーに多大な利点が提供される。例えば、乳酸(HLと略称する)は、以下に示すように、トリメチルアミン(Me−N)と反応してプロトン化した第4級アミン塩を形成する。
【化1】

【0024】
この反応は、膣の水性環境において急速に進行する。同様の反応が、女性特有の臭いの原因となる他のアルカリ性種について記載され得る。乳酸は、その安全性、無色及び「天然」(すなわち、殆どの健康な女性において自然に産出される)の理由から、特に有利である。上記に記載したような他の同様の酸もこの反応に貢献し得る。これは本発明の更なる利点である。
【0025】
B.仕上げ剤(湿潤剤)及び追加化合物
繊維はまた、第二添加物、すなわち、仕上げ剤(湿潤剤ともいう)によって処理される。多くの仕上げ剤は非イオン性界面活性剤であるが、陰イオン界面活性剤も同様に使用することができる。ラウリル硫酸ナトリウムなどの陰イオン界面活性剤は、わずかに酸性であり、pHも下げるように作用し得る。仕上げ剤は、脂肪酸及び脂肪族酸のポリオキシエチレンエステル(例えば、Afilan(登録商標)PNS及びAfilan HSG−Vなど)、エトキシル化されたソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tween20及びTween80など)、N−セチル−N−エチルモルホリニウムエチルサルフェート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン200カストルグリセリド、オレイン酸カリウム、トールオイル脂肪酸のナトリウム塩、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポロキサマー(例えば、Pluronic(登録商標)ブロックコポリマー界面活性剤など)、エチレンオキシド及びプロピレンオキシド系四官能性ブロックコポリマー(例えば、Tetronic(登録商標)ブロックコポリマー界面活性剤など)、アルキルフェノールエトキシレート、脂肪族アミンエトキシレート、リン酸エステル、アルコールエトキシレート、ポリアルコキシル化されたポリエーテル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセロール、グリセロールモノラウレート(Med−Chemから市販されているLuricidin(登録商標))、Sokalan(登録商標)ポリアクリル酸分散剤、及び、これらの任意の組み合わせであり得る。これらの化学データ及び可能性のある繊維の仕上げ剤の他の例は、McCutcheon’s Emulsifiers & Detergents, International Edition, Glen Rock, NJ: Manufacturing Confectioner Publication, 1981、又は、Encyclopedia of Chemical Technology, Volume 22, Surfactants and Detersive Systems, pp. 360-377、の記載を参照することができる。
【0026】
好ましい仕上げ剤としては、Tween20を挙げることができる。Tween20はCroda(UK)から商業的に入手することができ、その化学名は、ポリオキシエチレン20ソルビタンモノラウレートである。Tween20はポリソルベート20としても知られている。Tween20はその高いHLB値のために本発明における使用に適しており、親水性であり、吸収性の利点を提供する。
【0027】
仕上げ剤は、約0.08乃至約0.7%の量において存在し、もしくは正確に0.08%乃至0.7%の量において存在する。必要とされる仕上げ剤の量は、使用される特定の仕上げ剤や、続く処理工程においてなされる不織布処理に依存する。より好ましい態様において、仕上げ剤は、約0.25%乃至約0.40%の量において存在し、もしくは正確に0.25%乃至0.40%の量において存在する。この質量範囲は、仕上げ剤がTween20の場合に好適である。上記に挙げたAfilan化合物など、異なる仕上げ剤においては、仕上げ剤の量はより低くすることができ、例えば約0.10%乃至約0.15%であり、もしくは正確に0.10%乃至0.15%である。上述した酸と同様に、仕上げ剤の質量百分率は、繊維の質量を基準とするか、あるいは、吸収物品中に複数の繊維がある場合には、物品に含まれる繊維の合計質量を基準とする。
【0028】
本発明の物品がワイプである場合、他の化合物が添加されてもよい。これらの化合物は、上記に挙げた化合物よりもpH及びORPへの効果は低いものではあるが、肌効果、抗菌効果及び/又は他の健康効果をもたらし得る。そのような化合物としては、キサンタンガム、PEG−40水素化ヒマシ油、SDアルコール40、アロエ・バーバデンシス葉汁、PEG−60ラノリン、クウォーターニウム−52、PEG−8ジメチコーン、カプリロアフォプロピオン酸ナトリウム、フェノキシエタノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、カプリルカプリン酸トリグリセリド、オリーブ木抽出物、ビス−PEG/PPG−16/16PEG/PPG、ローズマリー油、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、マルトデキストリン、オリーブ葉、カモミール抽出物、ローズマリー葉、グリセリン、芳香調製物、又はこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0029】
本発明の物品がワイプである場合、上述した酸及び仕上げ剤の中には更に防腐効果を奏し得るものがあるため、低pH又は超低pH繊維により、必要とされる防腐剤の量が低減されるという更なる効果がもたらされ得る。坪量はワイプに一般的な範囲であればよく、例えば、約40乃至約70グラム毎平方メートルであればよい。ワイプに使用される繊維の混合物には、ポリオレフィン、ポリエステル又はセルロース誘導体が含まれ得るが、少なくとも一つの成分は本発明の低pH繊維である。
【0030】
C.非酸
上述した酸試薬に加えて、他の非酸添加物もpH及びORPを調整するために使用することができる。このような添加物には、電気化学反応の結果として原子価を変え得るアニオン及び/又はカチオンを発生する物質が含まれる。具体例として、亜鉛含有塩及び化合物(例えば、酸化亜鉛)、銅含有塩及び化合物(例えば、硫酸銅)、鉄含有塩及び化合物(例えば、ソルビット鉄(グルシトール鉄複合体、クエン酸との化合物)、安息香酸カリウム、安息香酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、エチレンジアミン4酢酸(及びその塩)、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、シュウ酸カリウム一水和物、キトサン(カチオン性多糖類)塩、又はこれらの任意の組み合わせが含まれる。これら化合物は、上述した酸及び仕上げ剤と同様の方法で本発明の物品に添加することができる。上記の中には、pHをも低下させ得るもの(例えば、特に亜硫酸水素ナトリウムのような酸塩)が含まれ、また、pHを増加させ得るもの(例えば、クエン酸三ナトリウム等)も含まれ、適切な最終の所望されるpHを達成するために他の調整が必要となり得る。
【0031】
多くの化学物質(特に、重金属塩)が、pH及びORPに影響を及ぼし得るが、毒性又は安全性のために検討材料から除外される。しかしながら、幅広い種類の他の弱酸化剤又は弱還元剤が、健康を促進するために低濃度(しばしば極低濃度)において身体に使用され得る。本発明の物品が膣内に使用される場合、膣のORPは、膣の健康促進のために、必要に応じて先に示した化合物のような成分を使用して調整され得る。更に、これら成分の中には、第二の効果、すなわち、他の健康機能(pH又はORPに関連するかもしれないし関連しないかもしれない)の促進を果たし得るものが含まれている。第二の効果には、皮膚潤滑、潤い、皮膚刺激薬の隔離、臭気制御、加熱/冷却、又は美観が含まれる。
【0032】
D.繊維の製造方法
本発明はまた、上述した低pH又は極低pH繊維の製造方法を提供する。先に説明したように、上記に挙げた添加物の添加は、繊維合成の間、繊維を含有する不織ウェブの製造の間、そのウェブが関連する転換プロセスの間、もしくは不織ウェブが使用される物品の形成の間になされ得る。
【0033】
本発明の物品は、主として吸収性セルロース系繊維を含有する不織ウェブ(ロール又は折り畳み)を含有する。使用されるセルロース系繊維は、レーヨンであることが多い。その吸収性は高く、一般に政府規制の吸収性要件に十分適合するよう調整され得る。レーヨンビスコース法は、レーヨンの製法として慣用されており、公知である(例えば、URL:http://www. mindfully.org/Plastic/Cellulose.Rayon-Fiber.htmを参照)。この参照には、レーヨン繊維の製造には木材パルプから出発して13工程あることが記載されている。すなわち、1)浸漬、2)加圧成形、3)寸断、4)老成、5)キサント化(xanthation)、6)溶解、7)熟成、8)フィルタリング、9)脱気、10)紡糸、11)引き出し(drawing)、12)洗浄及び乾燥、13)切断、束ね、梱包(ベール)である。簡単に説明すると、レーヨン繊維を製造するために使用されるビスコース(別名、セルロース再生)法において、天然供給源から誘導されるセルロースは、まず、セルロースキサントゲン酸塩に転換され、アルカリに溶解してビスコースが形成される。次いで、キサントゲン酸塩は中和され、通常酸又は塩によってビスコースが凝固し、不溶性のセルロースを再生する。この最後の工程は、典型的には、紡糸浴の硫酸及び硫酸亜鉛の存在下において行われる。したがって、プロセスのこの工程におけるpHは一般に低い(約pH=3)。不溶性セルロースは次いで紡糸ノズルを用いて紡糸浴から押し出され、非常に小さな繊維にされる。
【0034】
繊維は通常、延伸、切断され、次いで洗浄される。繊維は、色及び不透明性の調整のために、次亜塩素酸ナトリウム又は過酸化水素等の試薬で漂白され得る。仕上げ剤が添加されpHが調整される。典型的に、これらの工程の間に、pHは約4に上昇する。最後のサワー(非常に希薄な酸)洗浄は、漂白不純物を除去するために含まれている。これにより、乾燥前のpHが約4となる。一般に、最後の洗浄が、切断前に漂白不純物を除去するために行われる。本発明の繊維とは対照的に、従来のレーヨン繊維を製造するためには、一般に、この時点でアルカリ溶液を添加することによりpHが約6に上がるよう調整される。繊維は乾燥、束ねられ、最後に梱包(ベール)される。これらのベールは、次いで不織ウェブを形成するために処理され、不織ウェブから物品(例えば、タンポン又はワイプ)が形成される。
【0035】
本発明の繊維を製造するために、酸添加物が、対応する無機塩と共に、あるいは単独で、上述したプロセスの間に添加され得る。一態様において、酸又は塩がプロセスの最後、すなわち、セルロース繊維が再生された後にpHを調整するために添加され得る。この態様では、酸、塩又は他の添加物は、上述した工程11の後、且つ、工程13の前に添加され得る。他の態様において、酸は、対応する無機塩と共に、あるいは単独で、繊維が不織ウェブに形成された時点で繊維に添加され得る。他の態様において、酸は、対応する無機塩と共に、あるいは単独で、物品形成工程の間に添加され得る。
【0036】
添加物を加える一つの方法は、タンポン形成工程の間に繊維ウェブから切断された薄くて秤量の低い一切れの不織布に、溶液を噴霧することにより添加物を施す方法である。この追加の一切れの不織布(繊維質フェルト又は発泡体であってもよい)は、次いで、ほかのセルロース系ウェブ片と組み合わされ得る。次いで、ウェブは巻かれるか折りたたまれ、最後に圧縮されて実際のタンポン綿球にされる。他の態様において、酸は、対応する無機塩と共に、あるいは単独で、ビスコース法のある時点、例えば、ビスコースが凝固される間に添加される。
【0037】
セルロース繊維の製造において、どのくらいpHが低くなるかには限界がある。上述したレーヨンビスコース法では、pHは漂白及び洗浄工程において上昇するため、典型的には、これら工程の前の方がpHは低い。しかしながら、セルロース繊維のpHが長い間2以下のままであると、セルロースは分解し得、これが繊維の品質に問題(例えば、湿潤強度の低下、及び/又は、繊維から粉末への崩壊)を生じさせ得る。したがって、漂白及び洗浄の間にpHが約4に上昇する観点から、凝固工程の後のpHは、2.5乃至3の範囲である。ビスコース法の間に酸又はその塩を添加する場合、これらの指針に適合することが重要である。
【0038】
このため、これまでは、酸を上述したような製造工程に添加することが可能あるいは望ましいとは考えられておらず、酸は、セルロース処理混合物のpHを低くし、最終物品に不利な影響を与えると考えられていた。しかしながら、本発明において、pH4を目安とするレーヨン繊維は高品質において製造され得、これは膣の病原菌の問題を解消するために必要な最適pHに近い。臨床研究では、膣領域における3よりかなり低いpHは、実際に健康問題を生じさせ得、更に、かなり低いpH値は、セルロース系繊維を粉末に崩壊させて吸収タンポンなどの最終用途使用において効果を無くす原因となり得ることが示唆されている。
【0039】
ビスコース法に加えて、セルロース系繊維を製造する他の方法として、例えば、テンセル繊維(オーストラリア、Lenzingにより販売されている)を製造するために使用されるN−メチルN−モルホリンスラリー法がある。ビスコース法と同様に、繊維のpHが低く調整され、多大な健康効果を提供している。
【0040】
ウェブ製造の間に、種々の試薬がpHを低減するため、及び/又は、ORPを調整するために添加され得る。これらには、ラテックス(化学物質)接着剤が含まれる。ウェブを結合/絡ませてタンポンを形成するために、ラテックス接着剤がよく使用される。これらは、典型的には、アクリル重合体、ビニル酢酸重合体、オレフィン重合体又はスチレンブタジエン重合体から形成された高分子接着剤である。好適な接着剤の具体例としては、ダウ・ケミカル・ローム・アンド・ハース・ディビジョン(ミシガン州ミッドランド)から入手可能なRhoplex(登録商標)NW1402が挙げられる。一般に、これらは水性の合成系であり、製造方法の間の任意の時点において酸及び/又は電解質を添加することによりpHが調整され得る。ラテックス接着剤は繊維に接着し、繊維が互いにしっかりと結合した状態を確実に維持することを促進する。これらは上述した不織布の製造工程の間に添加され得る。
【0041】
場合によっては、ウェブ製造の間に、ウェブ変換工程が採用され得る。ウェブ変換には、例えば、プリント、装飾、エンボス加工等が含まれ得る。これらの工程(他の繊維、インク、又は機械的もしくは化学的処理を含み得る)の間に、上述した添加物が最終物品のpH及びORPを調整するために添加され得る。
【0042】
E.繊維特性
多葉性(multilobal)(すなわち、「Y」型断面)の形状を有するレーヨンは、月経タンポンに使われる場合に、優れた吸収性を示す(USP5634914及び6333108(いずれもWilkes等)を参照)。この繊維は、ケルハイム(ケルハイム、ドイツ)からGalaxy(登録商標)として商業的に入手することができる。本発明により、Galaxy繊維が乳酸で処理されることにより、タンポンにおける優れた吸収性が提供されるだけでなく、女性の生理期間中における低pH環境が提供されることにより健康も促進されることが見出された。この特徴的なY型は、Y型ダイスを有する紡糸ノズルを通して繊維を押し出すことにより得られる。多葉形状は、他の形状、例えば、通常のビスコースなどの断面形状が略楕円形状(Y型に相反する形状)に勝る利点を提供する。
【0043】
図2は、多葉形状を有する繊維100の概略的な断面図を示す。図2は、精密光学顕微鏡法から得られる本発明の繊維の好ましい形状を示し、上記で参照した特許で公開しているものに類似する。繊維100は、長さC、D及びEを有する3つの分岐105と、有効径Aを有する。一態様において、A:C:D:Eの比は、1.0:0.7:0.7:0.5であり、Aは約20乃至約50ミクロンである。各分岐105の厚さFは、顕微鏡写真からの正確な測定は極めて困難であるが、距離Aに対する比率は約0.185:1である。
【0044】
一態様において、本発明の物品を製造するために使用される繊維は、綿とレーヨンのセルロース系混合物を含み、少なくとも92質量%のセルロースを含む。一態様において、本発明の物品を製造するために使用される繊維は、98%乃至99.5%の複数に分岐したレーヨンなどのセルロース繊維を含む。
【0045】
F.封入剤
本発明は更に、上記に挙げた酸及び/又は仕上げ剤と共に種々の試薬が、酸及び/又は仕上げ剤を膣領域又は皮膚のいずれか(本発明の物品が、各々、タンポン又はワイプである)に供給するために、より効果的には持続放出型の形態において使用され得ることを期待している。この機能を達成し得る試薬の一分類は、封入剤である。封入剤の具体例として、シクロデキストリンが挙げられる。シクロデキストリンは、より小さな分子を結合及び/又は封入するためによく使用される大きな「かご状」化合物である。一例として、Cavitron(登録商標)シクロデキストリン(アメリカンメーズカンパニー、INがある。ゼオライトは、制御放出性のイオン交換型の方法を介して成分を放出する他の「かご状」化合物である。ゼラチンから製造された、又は、植物源から誘導された小さなマイクロカプセルもまた本発明の酸及び仕上げ剤を封入するために使用することができる。この目的のためにシース技術により種々の被服カプセルが製造される。Methocel(登録商標)が、酸及び仕上げ剤を供給し、それらをタンポンに使用される繊維又はウェブに結合/付着させるために使用され得る。海草抽出物系の、カーディナルヘルスのVegiCaps Softカプセル、又は、バナーファーマキャップス(NC)のEcoCapsもまた好適な封入剤である。Encapsulence(登録商標)先端マイクロカプセル化技術(Ciba)は、pH及び/又はORP調製において使用されるこれらの成分を封入するために使用可能なもう一つの手段である。
【0046】
ナノテクノロジー先端技術もまた、結合及び封入において利用することができる。そのようなナノテクノロジー先端技術の一つは、チャペルヒルにあるノースキャロライナ大学でジョゼフ・エム・デシモーネ及び共同研究者により近年記載されており(JACS、2005年7月20日)、「液体テフロン(登録商標)」として知られている。この材料は、特定源に「カーゴ」として有効成分(すなわち、pH及び/又はORP調整成分)を供給する粒子を形成するためのモールドを作製するために使用することができる。他の先端技術は、マイクロプラント(Q−Chip、UK)として知られている。これは、化学反応を制御し、放出制御目的のために種々の大きさのカプセルを製造するためにマイクロ流体技術を使用する、完全に機能するマイクロカプセルの開発基盤である。
【0047】
G.実験データ
以下に示す表1は、本発明の繊維からの水性抽出物の計算されたpHを示す。下記の例において、酸は乳酸であり、無機塩は乳酸ナトリウムである。乳酸を無機塩と共に、又は単独で、項目「A」において記載した量において添加することにより、膣の健康に所望される範囲のpHを有する水性抽出物が提供されることがデータからわかる。
【表1】

【0048】
表2は、本発明のいくつかの異なる繊維及び物品中の酸及び仕上げ剤の量を示す。表2はまた、これらの量と、pHがより高い繊維を有するタンポンとの比較も示す。表2において、酸は乳酸であり、仕上げ剤はTween20である。表2に示された乳酸の値は、十分にプロトン化した乳酸と、無機塩の形態において緩衝剤として乳酸と一緒に添加され得たラクトンイオンの双方を含む。
【表2】

【0049】
Tween20非イオン性界面活性剤の値は、0.10%の低値から0.43%の高値まで、幅広く広がっている。この表は、同じサンプルの測定値の平均を単に示すが、標準偏差が特にTween20におい高い。これは、繊維上のTween20分配による誤差と分析誤差の組み合わせの双方によるものと思われる。
【0050】
pHが非常に低い(対象:3.8)繊維における乳酸は、低pH(4.2)繊維、ウェブ及びタンポンよりもはるかに高い。おそらく、ウェビングにおいて行われる洗浄処理及び(続いて行われる)タンポンの形成のために、ウェブ及びタンポンにおいて、pH4.2に対して更に低い値にまで乳酸が希釈されるためであると推測される。これは一部には、図1に示されるように、乳酸濃度とpHとが非直線的に関係しているためである。乳酸で処理された繊維に基づくpHの計算値を示す図1は、好ましい乳酸の値が約0.30−0.65%である理由を示すものである。すなわち、約0.30−0.65%は、低くて安定したpHを維持するのに十分高く、一方、他の特性を妨害しない程度に十分低いことを示す。(以下に説明するSyngyna吸収力の結果を参照)
下記表3は、研究室で製造された2セットの袋詰めタンポンについて実施された吸収力試験の結果を示す。1セットは、本発明の低pH繊維から製造されたものであり、他の1セットは、より標準的なpHの高い繊維から製造されたものである。袋詰めタンポンの双方のセットは、後述する試験方法Iにおいて概説されるインストラクションに従い製造された。これらについて、後述する試験方法VによりSyngyna吸収力を評価し、後述する試験方法IVに従いpHを測定した。20個のタンポンを製造し、以下に概説する4つのセルの各々についてSyngyna吸収力を評価した。4つの各セルについて2つのタンポンのpHを評価した。繊維を混合し、カーディングする影響は有意ではなかった。
【表3】

【0051】
上掲の通り、2つのサンプル(対照と変形、すなわち、本発明の繊維)は、絶対でもグラム/グラムでも、ほぼ等しいSyngyna吸収力の試験結果を示した。袋詰めタンポンにおける結果は、後述する、より標準的なウェビング及び形成手順を使用して製造される標準的なタンポンよりもバラツキがあるが、対照との比較において本発明の繊維は、pHに非常に明確な相違点を有している。
【0052】
下記表4及び表5に示されるデータに関して、大規模生産により厳密に近づける方法に従いサンプルを調製するために、後述する試験方法IIIに従い、より大きな数量の低pH繊維について試験を行った。これらの試験のために、適切な対照として、商業的に入手可能なSport Super(登録商標)無香タンポンを使用した。
【0053】
全体で、比較のために5つの「セル」があった。表4は、これら5つのセルの識別を示す。セル1と4は、標準繊維が使用されたことから対照と見なされ、セル2、3及び5は、低pH繊維の変形と見なされる。これら低pH繊維に基づいておよそ40,000個のタンポンが商業的規模で製造された。ウェブの作製又はこれらタンポンの形成のいずれにおいても問題はなかった。
【表4】

【0054】
表5には、後述する項目V及びVIにおいて概説する試験方法を用いた、これらセルからのタンポンの評価に基づく主要な結果が記載されている。
【表5】

【0055】
表5に示される通り、グラム/グラムSyngyna吸収力及び押出力において多少のバラツキはあるが、大部分は、これらの主要なタンポン性能特性において性能が同等であることを示唆している。
【0056】
セル5の吸収力試験が、最初の結果が得られてから数回繰り返された。25のSyngyna結果を平均した結果は、3.94グラム/グラムであり、表4に示される結果に一致する。一般に、低pH繊維から製造されるタンポンは、標準pH繊維から製造されたタンポンと同様に安定であり、同様の吸収力及び性能を有する。セル5からのタンポンの平均pHは4.2であり、4.0乃至4.4の範囲が観測された。セル4の対照タンポンにおいて観測された平均は5.8であった。測定は、後述する項目IVに概説される試験方法に従い実施された。
【0057】
抑制試験の領域もまた、低pH繊維からの抽出物が膣フローラ(vaginal flora)に影響を及ぼすかを決定するために行われた。後掲の項目VIIに、この試験がどのように実施されるかについての説明がある。標準繊維及び低pH繊維の双方から製造されたタンポンサンプルについて試験が実施された。結果は、双方において否定的なものであり、膣フローラへの悪影響はない。タンポンは、pHが非常に低い(対象:pH3.8)繊維の一群から製造され、好適な対照と比較された。これらの例において、繊維から直接袋詰めにされたタンポン、製造設備において製造されたタンポン、生産されているウェブから研究室で製造されたタンポンはすべて、上述した方法に従い調製された。
【表6】

【表7】

【0058】
表6は、比較例の要約を示す。表7は、Syngyna吸収力、水分、押出力、環境室に置かれた後の押出力の要約を示す。表7に示すように、pHが非常に低い繊維(サンプルE−A、E−B、E−C、及びE−D)を使用して形成されたタンポンにおいて、対照サンプル(C−A、C−B、及びC−C)と比較した場合に、Syngyna吸収力が若干低下している。上掲の表2に示されるように、pHが非常に低い繊維を使用したサンプルは、繊維の合計質量に対して0.67%という、かなりの量の乳酸を含んでおり、これは繊維の吸収性セルロース部位にかなり影響すると思われる。このより低いpHは、上掲の表3−5に記載の、乳酸の値がはるかに低い(繊維の合計質量に対して0.15%)低pH(対象:pH4.2)タンポンについては観察されなかった。したがって、利害が競合する場合のある2つ、すなわち、低pHと吸収力の間を上手に両立させるために、0.15%と0.67%の点の間のどこか、例えば、約0.60%に、酸のローディング(loading)を有することが好ましい。(図1を参照)
サンプルE−Aについて、33個の追加のサンプルが試験された。これらの結果は、絶対吸収力:10.08g、水分:10.7%、初期押出力:12.6オンスであった。
【0059】
これより、本発明のpHが非常に低い繊維がタンポンの製造に使用された場合における吸収力の落ち込みはわずかであることが確認された。
【表8】

【0060】
表8は、表6及び表7に記載されたサンプルのpH及びORPを示す。これらの測定の試験方法は後述する。これは、図1に示される乳酸高濃度におけるpHに観察される水平状態に一致すると推測される。ORP値が、本発明の低pH繊維で製造されたサンプルE−A及びE−Bにおいてわずかに上昇しているが、これらのサンプルにおけるORP値は、膣の健康において許容されると思われる範囲に十分含まれる。したがって、本発明の繊維は低pH及び満足のいくORP測定値を提供している。
【0061】
H.試験方法
以下の試験方法が、上述したサンプルにおいて使用された。
【0062】
I.袋詰めプレジェット法による新規な繊維評価の試験方法
袋詰め繊維プレジェットを含有するタンポンのいくつかのグループが、本発明の繊維を試験するために製造された。「プレジェット」(pledget)は、タンポンとして周知である圧縮され加熱された繊維束である。4つの異なる繊維サンプル、すなわち、(1)櫛で均されていない標準pH繊維、(2)櫛で均されていない本発明の低pH繊維、(3)櫛で均されカーディングされた標準pH繊維、(4)櫛で均されカーディングされた本発明の低pH繊維、を含むプレジェットが製造された。これらの各繊維のプレジェットが以下に説明する方法IIに従い袋内に置かれ、上述したように試験された。
【0063】
II.新規な繊維評価に必要とされるカバーストック袋の製造方法
方法Iに記載の袋に使用されるカバーストックは、例えば、HDKインダストリーズ(SC)から入手可能なスパンボンドポリエチレン/ポリエステルヒートシール性不織布ブレンド、16gsm(登録商標)を、自動カッター(Azco Corp.(NJ)から入手可能なSurSize(登録商標)、モデル♯SS−6/JS/SP)を用いて切断されたものが挙げられる。カバーストックは、適切なサイズのピース(本発明では、4.5”×3.75”)に切断される。これらのピースは、ストックを加熱しそれ自体をシールする超音波装置により袋に形成され得る。
【0064】
III.pHシミュレーターを使用したタンポン製造における標準的な手順
まず、ランドウェバー(Rando webber)(ランドマシーン、NY)を使用して不織ウェブを製造する。適切な不織ウェブを形成しバインドするために注射針パンチングマシンを使用する。ウェブを細長い一片に切断し、十字状パッド(cross-pad)形状に配置し、圧縮し、加熱してプレジェットを形成する。プレジェットに糸を通し、アプリケーター内に置く。この方法は、上掲の方法Iと比べて、大規模生産より厳密に近づける。
【0065】
IV.タンポン繊維の水性抽出物におけるpH及びORPの電位差定量の方法
高品質のpHメーター(例えば、オリオンモデル701A、又はこれと同等のもの)がこの測定に使用される。組み合わせのpH電極は、オリオン「lonanlyzer」♯91−04−00(又はこれと同等のもの)である。1%食塩水を用意し、7.0pHに調整する。250mlビーカーに1.00gの繊維を秤量する。100mlの1%食塩水を加える。ビーカーを覆い、磁気撹拌システムを用いて5分間撹拌する。温度を正確に25℃に調整する。繊維の塊をビーカーから除き、残存する溶液のpHを測定する。
【0066】
上記のORP測定は、同じpHメーターを使用し同様の方法を用いて測定されたが、ミリボルトにおいて酸化還元電位を測定するために特定のフィッシャーORP電極が使用された。使用した電極は、モデル♯13−620−81、Pt/Ag/AgCl組み合わせ電極である。
【0067】
V.Syngyna試験方法(吸収力)
Federal Resisterのパート801、801.43に概説される標準FDA Syngynaキャパシティに従い試験を行う。
【0068】
VI.押出力
タンポン押出力は、研究室で特定の試験により測定される。集められたタンポンを、アプリケーター容器のフィンガーグリップの片側を二本の指を使って握る。プレジェットを押し出すために高精度の計量機(Weightronix WI−130 ロードセル)に出される力(オンス)が測定される。
【0069】
VII.抑制の寒天拡散ゾーン:膣フローラ
この微生物学的試験方法は、材料が膣フローラに悪影響を及ぼすか否かを試験する。試験は、US Pharmacopeia, “Biological Tests and Assays <81>, USP 26, NF 21、の開示に従い実施された。ペーパーディスクをガラスの顕微鏡用スライド上に置く。試験される繊維からの抽出物の水溶液を調製し、ディスクに塗布する。ヒトの膣に典型的にみられるラクトバシラス培養物の混合物を用意し、寒天プレート上に塗り、それに上記ペーパーディスクを加える。
【0070】
ディスク周囲のクリアー領域の存在は、抑制の肯定的領域を示し、サンプル材料が微生物の増殖を変える性能を有することを証明する。ディスク周囲のクリアー領域の不存在は、抑制の否定的領域を示し、サンプル材料が微生物の増殖を変える性能を有しないことを証明する。
【0071】
G.追加の任意態様及び成分
タンポンにも使用される綿などの他の吸収繊維は、pH調整のための同様ではあるが単純な方法を含み得る。綿は、通常、非セルロース系不純物を除去するために予備的処理がなされ、次いで漂白される。漂白の間又は漂白後、そのpHが、乾燥前にpHを3乃至4の範囲に増加させるために洗浄の間に調整される。同様に、Lyocell(登録商標)及びTencel(登録商標)(N−メチルモルホリンN−オキシド(NMNO)を使用し溶剤/スラリー法を用いて製造される2つのレーヨングレード)もまた、pH還元剤を用いて後処理され得る。ビスコール生産物について先に概説した理由と同様の理由により、約4の最小pHを達成することは可能であるが、繊維強度と完全性の損失のためにこれより下げることは困難である。
【0072】
セルロース繊維に加えて、pH及びORPを調整するために酸含有繊維を使用することができる。例えば、pHを低減するために、部分的に中和された状態において超吸収繊維を使用することができる。Oasis(登録商標)繊維(Technical Absorbent Products、UK)又はCamelot(登録商標)繊維(CA)は、ポリアクリル酸/ポリアクリル酸ナトリウムから構成される。タンポン中の繊維の値を調整することにより、及び/又は、これらの繊維におけるポリアクリル酸を一部のみ中和して酸/塩のバランスを調整することにより、pH及びORPの双方を調整し得る。他の手段として、抗菌繊維を使用することが挙げられる。Healthgard Rayon、Zincfresh Viscose(Lenzing、AU)又はTencel Silver(Lenzing、AU)は、いずれも、レーヨン系繊維に組み込まれた電解質を使用するものであり、これによりORPを調整する。これらは病原菌に対して効果を有することが証明されており、タンポンに使用することができる。
【0073】
タンポンは、通常、カバーストック材の薄い細長い一片で覆われている。ORP及び/又はpH調整剤を上記に説明した方法と同様の方法で一緒にカバーストックに添加することができる(仕上げ剤と共に添加してもよいし、仕上げ剤と共に添加しなくてもよい)。
【0074】
他の方法として、仕上げ剤、pH及び/又はORP調整剤を含有する溶液を、プラスチック又は厚紙アプリケーターに噴霧又はディップすることが挙げられる。タンポンが形成された後で、より親水性の成分を、(アプリケーターの内部から)プレジェット上に施してもよいし、もしくは(アプリケーターの外側から)膣内に施してもよい。
【0075】
また、タンポンにpH及び/又はORP調整剤を供給するために使用することができる種々の異なる試薬が存在する。そのような分類の一つには、機能性粒子が含まれる。異なるサイズ(サブミクロンからミリメーターサイズまで)の粒子が(微小)懸濁重合技術を用いて製造され、適用により要求される機能化がなされ得る。粒子の一分類には、超吸収粒子が含まれる。先に説明した超吸収繊維のように、これらの粒子は、タンポンを低pHとするために一部のみが中和され得る。これらの粒子は、セルロース繊維に機械的に、もしくは化学的に結合され得、及び/又は、他の繊維から製造される袋を使用して添加され得る。
【0076】
酸及び他の添加物は、徐放性効果のために、マイクロスポンジ技術を使用して、ポリアクリル酸塩球に導入され得る。pH及び/又はORP調整成分を供給するために使用される他の種類の粒子としては、DespersEZフルオロ粒子が挙げられる。一般に、これらの粒子は水中懸濁液として供給される。酸又は電解質分子が、必要に応じて、これらの粒子の表面に添加され放出される。
【0077】
更なる他の手段としては、Cavilink(登録商標)ポリマー(Sunstorm Technologies、CA)を使用することが挙げられる。これらは、種々の異なる試薬がタンポンに添加されることを可能とする多孔性のポリマー球である。これらは一種の「マイクロスポンジ」として作用する。成分は、孔を介して、及び/又は、これら粒子の表面を機能化する手段により添加され得る。
【0078】
液体カプセル材もまた、pH及び/又はORP調整成分を供給するために使用することができる。その例としては、LoSTRESS(登録商標)液体カプセル材(Polysciences、PA)が挙げられる。
【0079】
更なる他の手段としては、徐々に分解して身体にpH及び/又はORP成分をゆっくり放出する生分解性インプラントを使用することが挙げられる。この一態様には、何週間にもわたり分解するように設計されたDurin(登録商標)インプラント(Durect)の使用が含まれる。使用される生分解性ポリマーは、身体内で乳酸とグリコール酸に分解するポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)(poly(DL-lactide-go-glycolide))である。これは、タンポンに、繊維、ウェブ又は微粒子形態において添加され得る。ケミカリーポリラクチドポリマー(EarthWorks LLC(Dow Cargillの事業部、NE)から入手可能)はまったく同様の生分解性材料であり、Ingeo(登録商標)(Ingeo、MN)に構築されている。
【0080】
最後に、pH及びORPを測定するために、これら双方の重要な量の測定を実施すべく、組み合わせpH−ORP電極が、タンポンのように構築され得る。これは、これら二つの量の、身体におけるリアルタイムの直接的な調整を可能とする。次いで、タンポンに適用される量が、最も効率的に健康を促進するために操作/調整され得る。
【0081】
本発明は、いくつかの態様に関連して記載された。上掲の記載及び例は、本発明の説明に役立つものであることが理解されるであろう。その多種多様な代替及び変更が、本発明のスピリット及び範囲から逸脱することなく当業者によりなされ得る。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の範囲内であるそのようなすべての代替、変更及び変形を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低pH繊維であって、クエン酸、乳酸、イソアスコルビン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコリド、酢酸、デヒドロ酢酸、ホウ酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、パームカーネル酸(palm kernal acid)、獣脂酸、サリチル酸、アスコルビン酸、ソルビン酸、安息香酸、コハク酸、アクリル酸、及び、これらの任意の組み合わせからなる群から選択される第一添加物を、該繊維の質量に対して約0.05%乃至約0.8%含有し、
脂肪酸及び脂肪族酸のポリオキシエチレンエステル、エトキシル化されたソルビタン脂肪酸エステル、N−セチル−N−エチルモルホリニウムエチルサルフェート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン200カストルグリセリド、オレイン酸カリウム、トールオイル脂肪酸のナトリウム塩、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポロキサマー、エチレンオキシド及びプロピレンオキシド系四官能性ブロックコポリマー、アルキルフェノールエトキシレート、脂肪族アミンエトキシレート、リン酸エステル、アルコールエトキシレート、ポリアルコキシル化されたポリエーテル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセロール、ポリアクリル酸分散剤、及び、これらの組み合わせからなる群から選択される第二添加物を、繊維の質量に対して約0.08%乃至約0.7%含有する低pH繊維。
【請求項2】
第一添加物が、クエン酸、乳酸、イソアスコルビン酸、及び、これらの組み合わせから選択される酸である、請求項1に記載の低pH繊維。
【請求項3】
前記酸の無機塩を更に含有する、請求項2に記載の低pH繊維。
【請求項4】
第二添加物がポリソルベート20である、請求項1に記載の低pH繊維。
【請求項5】
第一添加物が繊維の質量に対して約0.30%乃至約0.65%の量において存在する、請求項1に記載の低pH繊維。
【請求項6】
第二添加物がポリソルベート20であり、繊維の質量に対して約0.25%乃至約0.40%の量において存在する、請求項1に記載の低pH繊維。
【請求項7】
低pH繊維の水性抽出物のpHが約3.5乃至約4.7である、請求項1に記載の低pH繊維。
【請求項8】
低pH繊維の水性抽出物のpHが約3.7乃至約3.9である、請求項1に記載の低pH繊維。
【請求項9】
複数の低pH繊維と、
前記複数の低pH繊維の質量に対して約0.30%乃至約0.65%の、クエン酸、乳酸、イソアスコルビン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコリド、酢酸、デヒドロ酢酸、ホウ酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、パームカーネル酸(palm kernal acid)、獣脂酸、サリチル酸、アスコルビン酸、ソルビン酸、安息香酸、コハク酸、アクリル酸、これらの塩、及び、これらの任意の組み合わせからなる群から選択される第一添加物と、
前記複数の低pH繊維の質量に対して約0.08%乃至約0.7%の、脂肪酸及び脂肪族酸のポリオキシエチレンエステル、エトキシル化されたソルビタン脂肪酸エステル、N−セチル−N−エチルモルホリニウムエチルサルフェート、ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン200カストルグリセリド、オレイン酸カリウム、トールオイル脂肪酸のナトリウム塩、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポロキサマー、エチレンオキシド及びプロピレンオキシド系四官能性ブロックコポリマー、アルキルフェノールエトキシレート、脂肪族アミンエトキシレート、リン酸エステル、アルコールエトキシレート、ポリアルコキシル化されたポリエーテル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセロール、ポリアクリル酸分散剤、及び、これらの組み合わせからなる群から選択される第二添加物と、
を具備する繊維質物品。
【請求項10】
前記物品がタンポンである、請求項9に記載の繊維質物品。
【請求項11】
前記物品がワイプである、請求項9に記載の繊維質物品。
【請求項12】
前記第一添加物が乳酸である、請求項9に記載の繊維質物品。
【請求項13】
乳酸の無機塩を更に含有し、前記乳酸が前記複数の低pH繊維の質量に対して約0.40%乃至約0.60%の量において存在する、請求項12に記載の繊維質物品。
【請求項14】
前記乳酸の無機塩が、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項13に記載の繊維質物品。
【請求項15】
前記第二添加物がポリソルベート20であり、前記複数の繊維の質量に対して約0.25%乃至約0.40%の量において存在する、請求項13に記載の繊維質物品。
【請求項16】
前記複数の低pH繊維が、約3.5乃至約4.7のpHを有する水性抽出物を有する、請求項9に記載の繊維質物品。
【請求項17】
前記複数の低pH繊維が、約3.7乃至約3.9のpHを有する水性抽出物を有する、請求項9に記載の繊維質物品。
【請求項18】
天然セルロースをセルロースキサントゲン酸塩に変換する工程、
前記セルロースキサントゲン酸塩をアルカリに溶解させ、コロイドビスコースを形成する工程、
前記コロイドビスコースを凝固させる工程、
前記コロイドビスコースを乾燥する工程、
前記乾燥コロイドビスコースから繊維を引き出す工程、
クエン酸、乳酸、イソアスコルビン酸、及び、これらの任意の組み合わせから選択される酸を、前記コロイドビスコース又は前記繊維のいずれかに添加し、前記低pH繊維を形成する工程を含む、低pH繊維の製造方法。
【請求項19】
前記酸が前記凝固工程の間に添加される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
更に、前記複数の適度な低pH繊維から不織ウェブを形成する工程を含む請求項18に記載の方法であって、前記酸が前記ウェブに添加され、低pH繊維のウェブが形成される方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−519807(P2013−519807A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553996(P2012−553996)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2011/025073
【国際公開番号】WO2011/103183
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(500365915)プレイテックス プロダクツ エルエルシー (56)
【Fターム(参考)】