説明

体内埋め込み型リアルタイム式マイクロ線量計装置ならびに測定方法

【課題】 照射線量をリアルタイムに計測できる体内埋め込み型のマイクロ線量計装置およびその測定方法を提供する。
【解決手段】 ショットキ型CdTe検出器8に放射線が入射することにより発生する電流を電流電圧変換器9を介し電圧制御型増幅器10に制御信号として入力し、発信回路11からの基本信号に対して振幅変調を行う。変調信号を元にコイル12から一定周波数の交流磁場を発生させる。ショットキ型CdTe検出器8、電圧制御型増幅器10、発信回路11、コイル12は一体型の筐体に収めて生体内に埋め込む。コイル12より発生した信号磁場を体外のフラックスゲート磁束計14でリアルタイムで測定する。測定データをコンピュータ15により周波数解析することで信号磁場の変動に対応した放射線線量を知る事ができる。以上の構成から成る体内埋め込み型のマイクロ線量計装置により生体内の局所に照射される放射線線量をリアルタイムに計測する事が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線測定等に用いる体内埋め込み型リアルタイム式マイクロ線量計装置およびその測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療技術は定位放射線治療、強度変調放射線治療(IMRT)に始まり、近年急速に進歩している分野で、照射精度の向上も著しい。にもかかわらずウエッジフィルタの計算ミスによる過照射など、放射線治療における医療事故が多発しているのが現状である。こうした医療事故の原因は体内の照射線量をリアルタイムに知ることができないことに起因している。
従来、この種の装置としては熱蛍光線量計(TLD)が用いられていた。これは素子に放射線が照射される事で結晶内の電子が励起され捕獲中心に移ると、加熱によって蛍光を発するもので、その蛍光量は吸収した放射線量に比例するため、この性質を放射線測定に利用したものである。しかし、この方法では、線量測定のためにいったん体外に出さなくてはならず、またリアルタイムに線量をモニターできないという欠点がある。また口腔内や膀胱、直腸といった臓器に電離箱式マイクロ線量計が用いられてきた。これは電離箱に放射線を照射すると、その線量率に比例した電離電流が発生することを利用して放射線量を測定するものである。しかしこの方法によると、ごく限られた臓器にのみ利用可能であり、無線形式ではないという問題がある。またさらに半導体を用いて腫瘍内に線量計を埋め込み、照射線量を無線信号の形で外部に出力させる体内埋め込み型線量計も開発された。特許文献1、2に開示された方法は体内埋め込み型半導体を用いて放射線量測定をするというものであるが、積算線量を計れるのみでありリアルタイムに放射線量をモニタリングするという問題を解決できていない。なおこの特許1,2の内容において無線信号の形で外部に出力させ情報を得るという構想は、非特許文献1にあるようにすでに電波を用いた方法が考案されている。また従来の装置は大きく、その電力消費量も大きいという欠点を持っている。
【特許文献1】特表2002−525153
【特許文献2】US 6,402,689 B1
【非特許文献1】WG Scanlon, NE Evans, GC Crumley and ZM McCreesh Low-powerradio telemetry: the potential for remote patient monitoring. Journal ofTelemedicine and Telecare 1996; 2; 185-191
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のように従来のマイクロ線量計の技術では、リアルタイムに照射装置から照射される人体への放射線量をモニタリングできないという問題があった。また電力部分の装置が大がかりになってしまうという欠点が発生する。
本発明は、放射線検出素子として半導体素子を用い小型化したマイクロ線量計を構成し、放射線の照射ターゲットとなる体内部分に当該マイクロ線量計を埋め込み、体外の離れた場所から非接触、無線形式、且つリアルタイムで体内部の放射線線量の計測が可能な体内埋め込み型放射線線量計を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、体内埋め込み型リアルタイム式マイクロ線量計としてショットキ型CdTe(Cadmium
Telluride)検出器, 電流電圧変換器, 電圧制御型増幅器, 発信器, コイルが一体化したマイクロ線量計、線量計からの情報を外部から受けるフラックスゲート磁束計、データ収集用パソコンから成る事を特徴とした体内埋め込み型リアルタイム式マイクロ線量計が得られる。これは放射線治療時の照射線量を体内でリアルタイムに計測することができ、信号の受け渡しを磁場で行うことが可能である。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、体内に埋め込まれた半導体素子に照射される放射線線量に対応した磁場を発生させそれを外部から測定するので、体外から非接触で且つ、離れた場所からリアルタイムで放射線線量をモニタリングできるという効果が得られる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の実施の形態による線量計1および磁場測定装置2の概略構成である。ここで1は線量計であり、半導体ダイオード検出器3と磁場発生回路4から構成される。半導体ダイオード検出器3は、Si、Ge、CdTe(テルル化カドミウム)、HgI(ヨウ化第2水銀)、CdZnTe(テルル化カドミウム化亜鉛)、GaAs(ガリウムヒ素)などの半導体結晶をPN接合等で整流作用をもつダイオード構造として、P型の面とN型の面に金属を電極として蒸着することで作製される。半導体結晶内への放射線が入射したとき、半導体結晶内部には放射線のエネルギーによって、放射線の付与したエネルギーに比例した数の電子および正孔が発生する。半導体結晶内に発生した電子および正孔は、寿命により電子正孔再結合を生じ消滅するまで、通常は電気伝導を示さない半導体結晶に電気伝導性をもたらす。半導体結晶のバルクの形状を直方体と仮定し、半導体結晶のバルクの向かい合う2面に電極を設けて電極間に電圧を印加した場合、その電極間を電子および正孔が電界によって移動して、電極間に電流が生じる。半導体ダイオード検出器3は空乏領域に電位勾配を持っており、入射した放射線のエネルギーによって空乏領域内で生じた放射線の付与したエネルギーに比例した数の電子および正孔はそれぞれ逆方向に移動するため、半導体ダイオード検出器3は電極間に電流を生じ、その電流値は放射線の付与したエネルギーに比例することになる。
【0007】
磁場発生装置4は放射線の照射により半導体ダイオード検出器から発生した電流を入力としており、その入力に対応した信号磁場を発生する装置である。半導体ダイオード検出器3からの電流は、入射した放射線が半導体ダイオード3に付与したエネルギーに対して比例関係にあるため、磁場発生装置4の発生する磁場の強度は半導体ダイオード検出器3の電極間に生じた電流に比例したものとなる。
2は磁場測定装置であり、磁束計5とデータ収集・解析システム6から構成される。磁束計5は周囲の磁場強度の時間系列データを測定することが可能であり、測定した磁場強度を時間系列で電気信号として出力する。データ収集・解析システム6は磁束計5から出力された電気信号を入力とし、雑音磁場から信号磁場を抽出し、それをもとに信号磁場の強度をリアルタイムで解析する装置である。さらに、データ収集・解析システム6は、データ収集・解析システム6の内部に設けられている記憶媒体に測定した磁場の強度の離散化された時間系列データおよび信号磁場の時間系列データを保存する。
【0008】
図2は本発明の実施の具体例である。なお、この具体例は本発明を特定するものではない。
7は体内埋め込み型線量計であり、ショットキ型CdTe検出器8と電流電圧変換器9と電圧制御型増幅器10と発振器11とコイル12から構成されている。ショットキ型CdTe検出器8は直方体の形状をしたCdTe結晶の向かい合う2面の1面にインジウム、もう1面に白金を蒸着することで電極とし、CdTe結晶の蒸着面に生じる電気的な仕事関数によって整流作用を持ったダイオード構造を持った半導体ダイオード検出器である。ショットキ型CdTe検出器8は逆バイアス条件下で放射線検出器として動作する。放射線のスペクトロスコピーにはSi、Geなどの半導体結晶を使った放射線検出器が多用されている。X線やガンマ線などの光子に対する感度は半導体結晶内の原子と光子が相互作用を起こす確率によって決まり、相互作用起こす確率は半導体結晶の密度と半導体結晶の組成原子の原子番号が大きいほど高くなる。
【0009】
CdTe結晶は、Si結晶やGe結晶より高密度であり、組成原子の原子番号も大きい。このため、CdTe検出器は高エネルギーの光子に対する感度がこれらの検出器よりも大きく、高エネルギーX線による治療時の線量測定に関して、同一の線量率を照射した場合でもSi検出器やGe検出器よりも多くの電子および正孔を発生する。
【0010】
照射された放射線がショットキ型CdTe検出器に付与したエネルギーによって、ショットキ型CdTe検出器8の内部には付与されたエネルギーに比例した電子および正孔する。放射線によって付与されたエネルギーにより、ショットキ型CdTe検出器8の内部のダイオード構造であるために生じている空乏領域内で電子および正孔が発生すると、電子および正孔は空乏領域内の電界によって、互いに逆方向に移動し、ショットキ型CdTe検出器の電極間に電流を発生する。図3は4×4×0.5mmの大きさのショットキ型CdTe結晶に、1グレイ毎分から6グレイ毎分の線量率の放射線治療装置ライナックからのX線を照射した場合の、各照射線量率に対する電流の発生値であり、発生電流値は照射線量率に対して線形に近い相関を持つ。このため、ショットキ型CdTe検出器8の電極間に生じる電流を知ることによって、照射線量率を測定することが可能である。
【0011】
電流電圧変換器9はショットキ型CdTe検出器8からの出力電流を電圧に変換して出力する。電流電圧変換器9の第1段目には電流増幅器が配置されており、ショットキ型CdTe検出器からの数10nAの電流を増幅する。その後段に電流電圧変換回路が設けられており、電流増幅器からの出力電流を電圧に変換する。電流電圧変換回路からの出力電圧は電流電圧変換器9の最終段に設けられた12ビットA/D変換器により離散化して、電圧制御型増幅器10に出力される。
【0012】
電圧制御型増幅器10は電流電圧変換器9からの電圧と発振器11からの交流信号を入力としており、交流電流を出力する。発振器11は一定周波数の交流電圧信号を発振しており、電圧制御型増幅器10は、発振器11からの交流電圧信号と同一周波数の交流電流を出力する。電圧制御型増幅器10の出力交流電流の振幅は、電流電圧変換器9から出力される離散化された12ビットの電圧信号によって制御され、電流電圧変換器9から出力される電圧信号が0である場合の出力交流電流は0Aで、電流電圧変換器9から出力される電圧信号に比例して増大する。
このことにより、ショットキ型CdTe検出器8で発生した電流に対応した振幅をもつ交流電流がコイル12に流れることになる。コイル12はフェライトビーズの核に0.26mm径の電線を巻きつけて形成されており、電流が流れることにより信号磁場を発生する。
【0013】
13は磁場測定解析装置であり、フラックスゲート磁束計14とデータ収集用パソコン15から構成される。
フラックスゲート磁束計14は、磁束の検出部であって内部にX軸センサーとY軸センサーとZ軸センサーを含む3.89×3.89×5.51cmの直方体形の検出プローブと、本体から構成されており、プローブと本体はケーブルによって接続される。検出プローブにおける3軸方向の磁束密度の時間系列の情報は、ケーブルによって本体に送られ、その情報から各軸方向の磁束密度が算出される。フラックスゲート磁束計14の本体リアパネルには磁束密度の情報を電圧信号として出力する3つのBNC端子が設置されており、磁場計測中連続的に各軸の磁束密度に比例したアナログの電圧信号を出力する。
【0014】
データ収集用パソコン15にはADC(ADコンバータ)ボードが取り付けられており、ADCボードはフラックスゲート磁束計14の本体リアパネルのBNC端子からBNCケーブルを介してアナログ電圧信号を取り込んで、離散化を行う。ADCボードによって離散化されたデータはデータ収集用パソコン15に取り込まれ、ファイルとして保存されると同時にデータの周波数解析を行い、雑音磁場の成分と信号磁場成分の分離が行われる。
【0015】
図4aは放射線治療を行う治療室において、磁場測定解析装置13を用いて計測した雑音磁場信号を周波数解析したものであり、図4bから図4dは、同じく治療室において、コイル12に80Hzの交流電流を40mAから80mAまで流したときに、磁場測定解析装置13により測定した磁場信号を周波数解析したスペクトルである。コイル12に40mA程度の交流電流が流したときに発生した信号磁場は雑音磁場から分離できている。
これらの雑音源は、フラックスゲート磁束計14とデータ収集用パソコン15の間にフィルタ回路を設けて、さらに、離散化したデータに対して周波数解析を行うことによりスペクトル上で2桁程度、影響を低減出来るため、より弱い信号磁場を雑音磁場から分離できることが可能になるため、コイル12に出力する交流電流はより低減出来る。
【0016】
図5は、図2に示した構成装置の、放射線未照射時と放射線照射時における動作をしめしており、図5上段は発振器11の出力信号であり、図5中段はショットキ型CdTe検出器への照射線量率であり、図5下段は電圧制御型増幅器の交流電流出力およびコイル12の磁場出力である。図5の中央に記載された破線の左側は放射線未照射時であり、右側は放射線照射時である。図5上段の発振器11の発振信号は常に一定の周波数と、振幅を保って発振している。図5中段において、時間軸上で左から中央の破線に達したときに一定の照射線量率で放射線照射がショットキ型CdTe検出器に行われた場合、ショットキ型CdTe検出器から流れる電流は、照射線量の時間系列と同様の変化を見せる。この電流値によって、図5下段の電圧制御型増幅器の交流電流出力の振幅が変調されて、変調された電流がコイル12に流れることとなる。コイル12によって発生する磁場は流れる電流に比例するので、変調の割合がショットキ型CdTe検出器の発生する電流で制御されている場合、測定される磁場は照射線量率に比例することになる。

【他の実施例】
【0017】
線量計内の交流磁場から生まれる周波数は単一であり、複数の線量計が存在する場合に個々に固有の周波数を設定することもできる。このことにより数箇所を一度に測定する事が可能となる。又、この測定データを用いれば三次元的な線量分布を構築する事も可能である。又、上記実施例では電圧制御型増幅器10での変調制御が振幅変調であるものを示したが、変調制御が周波数変調、パルス幅変調であっても同様の効果が得られる。又、上記実施例では、電流電圧変換器9および電圧制御型増幅器10で構成されたものを示したが、この部分の機能を電流制御型増幅器で構成しても同様の効果を得られる。本発明はX線、電子線、重粒子線など放射線線種にかかわらず放射線線量測定に用いる事ができる。

【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明に係る体内埋め込み型リアルタイム式マイクロ線量計装置は、ライナック等の放射線治療装置の制御部分と連動させて過剰照射になれば治療装置からのエックス線発生を自動的にストップさせる事が可能である。またこの線量計はエックス線だけでなく、電子線、重粒子線などの種々の放射線線量も測定する事が出来るためライナックのみならず種々の放射線治療装置で利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の概略を示した図である。
【図2】本発明の実施の具体例である。
【図3】CdTe検出器結晶からの発生電流の照射線量に対する相関である。
【図4a】放射線治療室においての磁場スペクトルである。
【図4b】放射線治療室において、図2中のコイル12に80Hzの交流電流を40mA流したときの磁場スペクトルである。
【図4c】放射線治療室において、図2中のコイル12に80Hzの交流電流を60mA流したときの磁場スペクトルである。
【図4d】放射線治療室において、図2中のコイル12に80Hzの交流電流を80mA流したときの磁場スペクトルである。
【図5】図2に示した構成装置の放射線未照射時と放射線照射時における動作をしめしたものである。
【符号の説明】
【0020】
1 線量計
2 磁場測定装置
3 半導体ダイオード検出器
4 磁場発生回路
5 磁場測定器
6 データ収集および解析装置
7 体内埋め込み型線量計
8 ショットキ型CdTe検出器
9 電流電圧変換器
10 電圧制御型増幅器
11 発振器
12 コイル
13 磁場測定解析装置
14 フラックスゲート磁束計
15 データ収集用パソコン













【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線線量検出用の半導体ダイオード検出器、電圧制御増幅変調回路、発信回路、コイルより成る放射線検出器において、前記半導体ダイオード検出器に放射線が入射したことにより発生した信号により、前記発信回路から出た信号を変調し、前記コイルに入力して磁場を発生させ、該磁場を磁束検出器により、前記放射線検出器から離れた場所からリアルタイムで放射線線量として検出することを特徴とする体内埋め込み型リアルタイム式線量計装置。

【請求項2】
放射線治療において体内に照射された放射線量を体内に埋め込んだ検出器で検知、磁場として体外に放出し、測定することを特徴とする体内埋め込み型リアルタイム式線量測定方法。



















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図4d】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−10516(P2006−10516A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−188332(P2004−188332)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】