説明

体内音取得装置、及び、それを備えた電子聴診器

【課題】筐体を体表に接触させて音を採取するための体内音取得装置において、マイクロフォンの感度を下げることなく、外部からの雑音を抑える。
【解決手段】音を採取する時の密閉空間を形成するための凹部240と体表に接する面とを有する集音部構成部材24と、集音部構成部材24の外周に接して設けられ筐体の一部をなす保持部材26とを設ける。集音部構成部材24の音響インピーダンスをα[Pa・s/m]、保持部材26の音響インピーダンスをβ[Pa・s/m]、γ=1.5×106[Pa・s/m]とした場合に、(α−γ)2/(α+γ)2<(β−γ)2/(β+γ)2を満たすように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体内音取得装置、および、それを備えた電子聴診器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内で生じる音を取得し診断する装置として聴診器が広く一般に使われている。一般的に聴診器は身体表面から発せられる聴診音(すなわち、体内音)を受信する体内音取得装置として機能するチェストピースと、これに接続され聴診音を音波として伝達する中空のチューブと、両耳用に2つに分岐した中空のチューブの先端に取り付けられたイヤーチップとから構成されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
最近では、聴診音を一旦、電気信号に変換し電気回路により信号処理を施し、再度、音波に変換された聴診音を耳で聴取できる電子聴診器がある(例えば、非特許文献2参照)。さらに、聴診音を耳で聴取するだけでなく、信号処理装置により聴診音のデータ解析できるものもある。
従来の一般的な聴診器は体内音取得装置からイヤーチップまで空洞を伝播する音波を耳で聴取するため、その音の大きさや周波数特性は体内音取得装置の形状や空洞の体積に依存する。特に、体内音取得装置は皮膚表面に接触させるため、聴取される音の大きさは体内音取得装置の大きさに依存する。新生児や乳幼児を聴診する時は聴診部位が小さいため、よりサイズの小さい体内音取得装置を使用するのが望ましい。しかしながら、サイズの小さい体内音取得装置を使用する場合、聴取する音も小さくなり聞こえ難くなる。
【0004】
ところで、電子聴診器は電気信号により信号処理を施すことができるため、信号を増幅して聴診することは可能である。電子聴診器の多くは、形状や大きさが昔ながらのアコースティック聴診器に類似しており、狭い部位の聴診には適さない。アコースティック聴診器に類似した体内音取得装置に一般的なマイクロフォンを装着した電子聴診器も知られている(例えば、特許文献1参照)。この電子聴診器の体内音取得装置は、ダイアフラムが人体の皮膚の音響インピーダンスに近い部材で構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平8−506495号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】3M Littmann CLASSIC II S.E. STETHOSCOPE 、[online]、3M、[平成23年1月14日検索]、インターネット<URL:http://solutions.3m.com/wps/portal/3M/en_US/Littmann/stethoscope/products/product-catalog-us/?PC_7_RJH9U5230GE3E02LECIE20KFI1_nid=GS5P3ND5JDbeD77LGQCVJWgl>
【非特許文献2】3M Littmann ELECTRONICS TETHOSCOPE MODEL4100、[online]、3M、[平成23年1月14日検索]、インターネット<URL:http://docs.google.com/viewer?a=v&q=cache:J6D_qnnimP8J:multimedia.3m.com/mws/mediawebserver%3FmwsId%3D66666UuZjcFSLXTtMxf2mxTEEVuQEcuZgVs6EVs6E666666--%26fn%3DManual_Model_4100.pdf+%EF%BC%93%EF%BC%AD+Littmann+ELECTRONICS+TETHOSCOPE+MODEL4100&hl=ja&gl=jp&pid=bl&srcid=ADGEEShE_T7TPKXcloWHfE3uDNZdHWoX8kVC25n7pKZRRNcX6jCosmYrovr55f6kWJAyUijeJhPMVZX7G6P55XlerEuGOW29QOTXg8nSoYI41kbKWquAcw3_E5vcYhIX5QoDwNXFNPhe&sig=AHIEtbTT0n7z_IyIeDHb03lBg65tDiMI9Q>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の電子聴診器で従来のアコースティック聴診器と同様の聴診をすることは可能である。しかし、外部から体内音取得装置へ進入する雑音の対策は十分ではなく、より雑音の少ない体内音取得装置の実現が求められていた。
本発明は、上述した従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的はより雑音の少ない聴診音を得ることのできる体内音取得装置、および、それを備えた電子聴診器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明による体内音取得装置は、筐体を体表に接触させて音を採取するための体内音取得装置であって、
音を採取する時の密閉空間を形成するための凹部又は接触する体表と共に音を採取する時の密閉空間を形成するための開口部を有する集音部構成部材と、前記集音部構成部材の外周に接して設けられ前記筐体の一部をなす保持部材とを備え、前記集音部構成部材の音響インピーダンスと前記保持部材の音響インピーダンスが異なり、且つ、
前記集音部構成部材の音響インピーダンスをα[Pa・s/m]、前記保持部材の音響インピーダンスをβ[Pa・s/m]、γ=1.5×106[Pa・s/m]とした場合に、
(α−γ)2/(α+γ)2 <(β−γ)2/(β+γ)2
を満たすことを特徴とする。この構成によれば、マイクロフォンの感度を下げることなく、外部からの雑音を抑えることができる。
【0009】
また、上記体内音取得装置において、前記集音部構成部材が体表に接する面を有することが望ましい。この構成によれば、集音部構成部材が体表に接するため、聴診音を明瞭に聴取することができる。
また、上記体内音取得装置において、音を採取する時の密閉空間の体積に対する、前記密閉空間内の振動する部位の面積の値が0.1/mmより大きいことが望ましい。この構成によれば、密閉空間の体積に対する、振動部位面積すなわち凹部の体表に接する面側の底面積または開口部の底面積の値を適切に設定でき、狭い部位の聴診音を明瞭に聴取することができる。
【0010】
また、上記体内音取得装置において、前記凹部の前記体表に接する面側の底面から前記体表に接する面までの厚みが0.01mmから2.0mmまでのいずれかの値であることが望ましい。この構成によれば、マイクロフォンの感度を高めることができ、生体音をより拾いやすくなる。
上記体内音取得装置において、筐体内部に設けられたマイクロフォンを有し、前記凹部又は前記開口部は、前記マイクロフォンの内部空間と共に音を採取する時の密閉空間を形成するようになってことが望ましい。この構成によれば、マイクロフォンの感度を高めることができ、生体音をより拾いやすくなる。
【0011】
さらに、上記体内音取得装置において、前記凹部内に設けられ、前記体表に接する面が前記体表に接触している時に前記密閉空間の体積の変化を抑えるための凸部を有するのが望ましい。この構成によれば、密閉空間の体積の変化を抑え、密閉空間の体積に対する、凹部の底面積の値を適切に設定でき、生体音を良好に取得することができる。
なお、上記体内音取得装置において、前記マイクロフォンはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子で構成されていることが望ましい。この構成によれば、体内音取得装置の音を採取する時の密閉空間の体積に対する、凹部の底面積の値を適切に設定することができ、生体音を良好に取得することができる。
【0012】
本発明による電子聴診器は、棒状の筐体を有し、上記体内音取得装置が前記棒状の筐体の端部に設けられていることを特徴とする。このような構成を採用することにより、棒状筐体の先端部を生体表面に接触させることによって、生体音を良好に取得することができ、しかも聴診する医師の手や腕の姿勢が自然になり、手や腕の疲れが少なくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、集音部構成部材の音響インピーダンスをα[Pa・s/m]、保持部材の音響インピーダンスをβ[Pa・s/m]、γ=1.5×106[Pa・s/m]とした場合に、
(α−γ)2/(α+γ)2 <(β−γ)2/(β+γ)2
を満たすように体内音取得装置を構成することによって、マイクロフォンの感度を下げることなく、外部からの雑音を抑えることができ、より雑音の少ない聴診音を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の体内音取得装置の第1の構成例を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は外側から見た図である。
【図2】本発明の体内音取得装置の第2の構成例を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は外側から見た図である。
【図3】本発明の体内音取得装置の第3の構成例を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は外側から見た図である。
【図4】図1の構成に両面テープを追加した構成を示す図である。同図(a)は両面テープの装着方法を示す図、同図(b)は断面図、同図(c)は人体への装着側から見た図である。
【図5】図2の構成に両面テープを追加した構成を示す図である。同図(a)は両面テープの装着方法を示す図、同図(b)は断面図、同図(c)は人体への装着側から見た図である。
【図6】図3の構成に両面テープを追加した構成を示す図である。同図(a)は両面テープの装着方法を示す図、同図(b)は断面図、同図(c)は人体への装着側から見た図である。
【図7】体内音取得装置の比較例の構成を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は外側から見た図である。
【図8】図1の構成において、内径がその厚さ方向において段階的に変化する保持部材を用いた構成を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は人体への装着側から見た図である。
【図9】図2の構成において、内径がその厚さ方向において段階的に変化する保持部材を用いた構成を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は人体への装着側から見た図である。
【図10】図3の構成において、内径がその厚さ方向において段階的に変化する保持部材を用いた構成を示す図である。同図(a)は断面図、同図(b)は人体への装着側から見た図である。
【図11】本発明の実施形態による電子聴診器の外観を示す斜視図である。
【図12】電子聴診器の一例を示す機能ブロック図である。
【図13】電子聴診器の他の例を示す機能ブロック図である。
【図14】ある所望の生体音を聴診する場合の単位開口面積当たりの高さに対する音圧の関係を示す図である。
【図15】体内音取得装置内の音圧と密閉空間体積に対する凹部底面積の値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において参照する各図では、他の図と同等部分は同一符号によって示されている。本実施形態においては人体の任意の皮膚表面に接触させて聴診に使用する体内音取得装置と、それを備えた電子聴診器について説明する。
(概要)
体内音取得装置の内部空間の周囲を人体の皮膚の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有する部材で構成し、その外周を人体の皮膚の音響インピーダンスとかけ離れた音響インピーダンスを有する部材で構成する。このように構成することにより、体音を感度良く採取しつつ、外部からくる雑音を抑制することができる。
【0016】
(体内音取得装置の第1の構成例)
図1は、本発明の実施形態による体内音取得装置の第1の構成例を示す図である。同図(a)は体内音取得装置の断面図、同図(b)は体内音取得装置を同図(a)の矢印Yの方向から見た外観構成を示す図である。
図1を参照すると、体内音取得装置2は略半球形ないし略円筒形であり、その外側筐体27の内側に、プリント基板23が設けられている。プリント基板23には、マイクロフォンパッケージ21や、その出力信号を外部に導出するためのリード線231の一端が実装されている。
【0017】
マイクロフォンパッケージ21の中にはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子であるマイクロフォンチップ22が内蔵されている。マイクロフォンパッケージ21の下側には音孔210が設けられており、さらにプリント基板23の同じ位置にも音孔230が設けられている。音孔230および210の位置が集音部構成部材24の凹部240の範囲に含まれるように、プリント基板23が外側筐体27の内側に設けられている。
【0018】
音孔230は、集音部構成部材24の凹部240に通じている。このため、マイクロフォンパッケージ21内の空間と、集音部構成部材24の凹部240とで形成される空間は、音を採取する時の密閉空間として機能する。
外側筐体27の図中の下方に、集音部構成部材24の外周に接して保持部材26が設けられている。この保持部材26は、その一方の面の外周近辺が外側筐体27に接続されている。保持部材26は集音部構成部材24を保持する機能を有している。
【0019】
集音部構成部材24を、人体の任意の皮膚表面に接触させることにより、凹部240、音孔230および210を介して、マイクロフォンチップ22によって生体音が取得される。
ここで、同図(a)を参照すると、体内音取得装置2において、マイクロフォンパッケージ21、プリント基板23、および、集音部構成部材24の凹部240によって、音を採取するための密閉空間が形成される。マイクロフォンパッケージ21内の空間と、集音部構成部材24の凹部240とで形成される密閉空間内の音圧は、密閉空間の体積と凹部240の底面241の振幅との比によって決定される。
なお、筐体27の材質は特に限定されるものではなく、硬質の樹脂でも良い。
【0020】
(体内音取得装置の第2の構成例)
図2は、体内音取得装置の第2の構成例を示す図である。同図(a)は体内音取得装置の断面図、同図(b)は体内音取得装置を同図(a)の矢印Yの方向から見た外観構成を示す図である。
図2に示されている体内音取得装置の基本構成は、図1の場合と同じである。ただし、図2に示されている体内音取得装置2においては、集音部構成部材24に、開口部242が設けられている。音孔230および210の位置が開口部242の範囲に含まれるように、プリント基板23が外側筐体27の内側に設けられている。外側筐体27の開口部242の部分を、人体の任意の皮膚表面に接触させることにより、音孔230および210を介して、マイクロフォンチップ22によって生体音が取得される。
【0021】
ここで、同図(a)を参照すると、生体音聴診時に、体内音取得装置は皮膚表面に接し、マイクロフォンパッケージ21、プリント基板23、集音部構成部材24の開口部242、および、皮膚により、音を採取する時の密閉空間が形成される。この密閉空間内の音圧は、密閉空間の体積と開口部242の皮膚表面の振幅との比によって決定される。皮膚表面での生体音の振幅は、可聴域では呼吸時で0.3[μm]程度である。この場合、開口部242の単位面積当たりの密閉空間の高さを3[mm]とすると、生体音による音圧は10[Pa]となる。一般的なマイクロフォンの最大入力音圧は10〜20[Pa]程度であり、密閉空間の体積を制限することにより、生体音を歪ませること無く高感度に取得することができる。
【0022】
(体内音取得装置の第3の構成例)
図3は、図1の電子聴診器1に設けられている体内音取得装置の第3の構成例を示す図である。同図(a)は体内音取得装置の断面図、同図(b)は体内音取得装置を同図(a)の矢印Yの方向から見た外観構成を示す図である。
図3に示されている体内音取得装置の基本構成は、図1の場合と同じである。ただし、図3に示されている体内音取得装置2においては、凹部240内に凸部38が設けられている。本例では、一端がプリント基板23に接触し、かつ、他端が集音部構成部材24の凹部240の底面241に接触する位置に、凸部38が設けられている。そして、本例では、音孔230の位置を囲むように、円柱形の凸部38が4個設けられている。
【0023】
凸部38が設けられることにより体内音取得装置2を体表に強く押し付けたとき、集音部構成部材24が撓んで音孔230を塞ぎ、感度が低下するのを防ぐことができる。
なお、凸部38は集音部構成部材24と一体で形成しても良いし、プリント基板23と一体で形成しても良い。また、凸部38は、本例の場合に限定されるものではなく、体表あるいは集音部構成部材24が撓むことによる密閉空間の体積の変化を抑えることができるように、その位置や個数を適宜調整すればよい。
【0024】
(体内音取得装置を人体の皮膚に装着する場合)
体内音取得装置を人体の皮膚に装着する場合、例えば、周知の両面テープ(両面接着テープ)を用いる。両面テープを用いた体内音取得装置の構成例について図4を参照して説明する。図4(a)において、中空円板状の両面テープ30を矢印Yaのように保持部材26の表面に装着する。図4(b)は両面テープ30を保持部材26に装着した状態の体内音取得装置の断面を示す図、図4(c)は体内音取得装置の底面側すなわち人体への装着側から見た図である。
【0025】
図2のように開口部を有する体内音取得装置についても、図5(a)のように、中空円板状の両面テープ30を矢印Yaのように保持部材26の表面に装着する。図5(b)は両面テープ30を保持部材26に装着した状態の体内音取得装置の断面を示す図、図5(c)は体内音取得装置の底面側すなわち人体への装着側から見た図である。
図3のように円柱形の凸部を有する体内音取得装置についても、図6(a)のように、中空円板状の両面テープ30を矢印Yaのように保持部材26の表面に装着する。図6(b)は両面テープ30を保持部材26に装着した状態の体内音取得装置の断面を示す図、図6(c)は体内音取得装置の底面側すなわち人体への装着側から見た図である。
図4ないし図6のように、両面テープ30を設けることにより、体内音取得装置を人体に装着することができる。なお、両面テープの形状は、中空円板状に限定されるものではない。
【0026】
(集音部構成部材および保持部材の音響インピーダンス)
ここで、集音部構成部材および保持部材の音響インピーダンスについて説明する。
本例の体内音取得装置においては、人体の皮膚の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有する部材のみで人体に接触させて集音するのではなく、音を採取する時の密閉空間の周囲を人体の皮膚の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有する部材とし、その外周に、人体の皮膚の音響インピーダンスとかけはなれた音響インピーダンスを有する部材を設けた構成とする。この構成により、生体音を感度良く採取しつつ、外部からくる雑音を抑制することができる。すなわち、集音部構成部材の音響インピーダンスをα[Pa・s/m]、保持部材の音響インピーダンスをβ[Pa・s/m]、γ=1.5×106[Pa・s/m]とした場合に、式(1)の関係を満たす場合に、感度を下げることなく外部からの雑音を抑えることができる。
【0027】
(α−γ)2/(α+γ)2 <(β−γ)2/(β+γ)2 …式(1)
式(1)を満たせば、集音部構成部材の音響インピーダンスαの値、保持部材の音響インピーダンスβの値について、特に限定は無い。集音部構成部材の音響インピーダンスαの好ましい範囲は、1.3×106〜1.7×106[Pa・s/m]である。保持部材の音響インピーダンスβの好ましい範囲は、1.7×106〜2.1×106[Pa・s/m]である。
なお、 人体の皮膚の音響インピーダンスは、約1.5×106 [Pa・s/m] であり、式(1)中のγの値にほぼ一致する。この人体の皮膚の音響インピーダンスは、水の音響インピーダンスにほぼ一致する。
【0028】
(音の強さの反射率)
上述したように、本例では、音を採取する時の密閉空間の周囲を人体の皮膚の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有する部材とし、その外周に、人体の皮膚の音響インピーダンスとかけはなれた音響インピーダンスを有する部材を設けた構成とする。この構成においては、異なる音響インピーダンスに変化する界面で、透過する音の成分と反射する音の成分とが生じる。
【0029】
音の強さの反射率R[%]は、式(2)で表すことができる。
R = (z1−z22/(z1+z22 …式(2)
なお、式(2)において、z1は音が入射し反射する側の媒質の音響インピーダンス、z2は音が透過する側の媒質の音響インピーダンス、である。
すなわち、式(1)を満たすことは、集音部構成部材が保持部材に比べて人体からの音をより反射させ難いことを意味している。
【0030】
(体内音取得装置の材質など)
集音部構成部材24の具体的な材質としては、シリコーンゴム、ウレタンゴムが挙げられる。また、保持部材26の具体的な材質としては、プラスチック、金属等が挙げられる。具体的にはノリル樹脂(変性PPE)やABS、アクリル樹脂が好ましい。
ここで、集音部構成部材24の底面241の厚みt1は0.01[mm]〜2.0[mm]であることが好ましく、より好ましくは0.1〜0.7[mm]である。また、集音部構成部材24の側面から凹部240までの厚みTは、体内音取得装置の直径の0.1[%]〜40[%]が好ましく、より好ましくは体内音取得装置の直径の0.5[%]〜30[%]である。
【0031】
(実施例)
発明者は、開口部の面積、密閉空間の高さを変化させて音圧レベルを測定した。ここで、密閉空間の体積をVc、凹部の底面積(すなわち、凹部の体表に接する面側の底面241の面積)をSoとすると、開口部単位面積当たりの密閉空間の高さHs=Vc/Soとなる。
図1の構成において、集音部構成部材24の凹部の底面241の面積(凹部の底面積)So=19.6[mm2](φ5.0[mm])、高さHs=1.25[mm]、集音部構成部材24の材質をシリコーンゴム(音響インピーダンスは1.5×106[Pa・s/m] )、保持部材26の材質をノリル樹脂(変性PPE)(音響インピーダンス2.0×106[Pa・s/m] )、集音部構成部材24の底面241の厚みt1=0.3[mm]とした体内音取得装置を備えた電子聴診器により、周囲を無音状態にして胸郭での呼吸音を聴診したところ、呼吸音を聞き取ることができた。このときの最大音圧レベルは約70[dB]であった。
さらに、本実施例の体内音取得装置を用いて周囲環境のバックグラウンドノイズが65[dB]となるように周囲にスピーカを置き、バックグランドノイズがある環境下で胸郭での呼吸音を聴診したところ、呼吸音を聞き取ることができた。
【0032】
(比較例)
一方、図7の構成において、集音部構成部材24の凹部240の底面積So=19.6[mm2](φ5.0[mm])、高さHs=1.25[mm]、集音部構成部材24の材質をシリコーンゴム(音響インピーダンスは1.5×106[Pa・s/m] )、集音部構成部材24の底面241の厚みt1=0.3[mm]とした体内音取得装置を備えた電子聴診器により、周囲を無音状態にして胸郭での呼吸音を聴診したところ、呼吸音を聞き取ることができた。このときの最大音圧レベルは約70[dB]であった。
【0033】
また、図7の比較例の体内音取得装置を用いて上記と同様のバックグランドノイズがある環境下で胸郭での呼吸音を聴診したところ、呼吸音を聞き取ることができなかった。
比較例の体内音取得装置を用いた場合、雑音がそのまま透過し、マイクロフォンに入力されてしまう。これに対し、上述した実施例の体内音取得装置を用いた場合、保持部材26と集音部構成部材24とが接触している界面で雑音が反射すると考えられる。また、実施例の体内音取得装置を用いた場合に感度が低下しないのは、感度について、密閉空間直下からの音の入力の寄与度が大きく、その周囲からの音の寄与度が低いためと考えられる。
【0034】
(体内音取得装置の構造の変形例)
上述した例では、保持部材の内径がその厚さ方向において均一であったが、均一でない構造も考えられる。例えば、保持部材は、その内径がその厚さ方向において段階的に変化している形状であっても良い。例えば、図8のように、内周方向に向かって突出する凸部261を有する保持部材26’を用いる。この保持部材26’は、その内径がその厚さ方向において段階的に変化し、体内音取得装置の内側の内径よりも外側の内径が小さくなっている。この保持部材26’を用いて、集音部構成部材24’を保持する。本例の集音部構成部材24’は、保持部材26’の凸部261に対応して、その側面から凹部240までの厚みt2が段階的に変化しているため、集音部構成部材と保持部材との接触する部分すなわち界面が段階的に変化することになる。この保持部材26’を用いることにより、集音部構成部材24’が矢印Yの逆方向に脱落することを防止できる。
【0035】
図2のように開口部を有する体内音取得装置についても、図9のように、内周方向に向かって突出する凸部261を有する保持部材26’を用いることにより、集音部構成部材24’が矢印Yの逆方向に脱落することを防止できる。
図3のように円柱形の凸部を有する体内音取得装置についても、図10のように、内周方向に向かって突出する凸部261を有する保持部材26’を用いることにより、集音部構成部材24’が矢印Yの逆方向に脱落することを防止できる。
【0036】
図8ないし図10における保持部材26’は、その内径がその厚さ方向において段階的に変化している形状であるが、内径がその厚さ方向において連続的に変化し、体内音取得装置の内側の内径よりも外側の内径が小さくなっている形状の保持部材を用いても良い。その場合でも保持部材から集音部構成部材が脱落することを防止できる。
【0037】
(体内音取得装置を備えた電子聴診器)
図11は、上述した体内音取得装置を備えた、電子聴診器の外観を示す斜視図である。同図において、電子聴診器1は、円柱ないし円筒形の筐体を有しており、その一端には生体の皮膚表面(図示せず)に接触させて音を採取するための体内音取得装置2が設けられている。
また、電子聴診器1の筐体側面には、表示・操作部3が設けられている。電子聴診器1の電源の入り切り、音量の調整、モードの切替および表示が、この表示・操作部3によって行われる。
【0038】
さらに、電子聴診器1の筐体の他端には、生体音信号をヘッドホン、イヤフォン等の生体音再生装置へ伝達するための配線4が接続されている。なお、図示されていないが、電子聴診器1の筐体内部には、聴診音信号について処理を行うための信号処理回路や、信号処理回路へ電力を供給するバッテリーなどが設けられている。
電子聴診器1によって皮膚表面から取得される生体音の周波数特性は、体内音取得装置2の凹部の底面積と電子聴診器1の質量とに依存する。そして、凹部の底面積に対する質量の値を大きくするほど共振周波数は低くなり、共振周波数以下の低音の感度が増加する。
【0039】
(機能構成例1)
図12は、電子聴診器の一例を示す機能ブロック図である。同図において、電子聴診器1は、マイクロフォンパッケージ21と、マイクロフォンパッケージ21の出力信号の低周波成分をカットするハイパスフィルタ11と、このハイパスフィルタ11によってカットされた後の信号を増幅するパワーアンプ12とを備えている。パワーアンプ12にはイヤフォン13が接続されている。
【0040】
ハイパスフィルタ11は、遮断周波数調整部14によって、その遮断周波数が調整可能になっている。パワーアンプ12は、音量調整部15によって、そのゲインを調整することにより、出力する音量を調整できるようになっている。
このような構成において、マイクロフォンパッケージ21の出力信号の低周波成分がハイパスフィルタ11でカットされた後、パワーアンプ12によって増幅される。パワーアンプ12によって増幅された信号は、イヤフォン13に入力され、音として出力される。したがって、医師などが、このイヤフォン13を耳に装着しておけば、聴診音を聞くことができる。
【0041】
(機能構成例2)
図13は、電子聴診器の他の例を示す機能ブロック図である。同図の構成では、図12の構成において、ハイパスフィルタの代わりに、バンドパスフィルタ16を用いている。バンドパスフィルタ16は、遮断周波数調整部14によって、その遮断周波数が調整可能になっている。
このような構成において、バンドパスフィルタ16により、マイクロフォンパッケージ21の出力信号について、所定周波数範囲がパワーアンプ12に入力されて増幅される。パワーアンプ12によって増幅された信号は、イヤフォン13に入力され、音として出力される。したがって、医師などが、このイヤフォン13を耳に装着しておけば、聴診音を聞くことができる。
【0042】
(体内音取得装置内の音圧と単位開口面積当たりの高さとの関係)
図14は、ある所望の生体音を聴診する場合の単位開口面積当たりの高さに対する音圧の関係を示す図である。同図において、横軸は単位開口面積当たりの高さ、縦軸は音圧である。生体音の皮膚表面での振幅が一定で、密閉空間での空気のダンピング効果は振動の振幅が小さいため無視して考えると、同図に示されているように、音圧は単位開口面積当たりの高さに反比例する。
ここで、聴診器として使用する上で、単位開口面積当たりの高さの上限は、聴診しようとする生体音による体内音取得装置内での音圧がバックグランドノイズレベルBGNを下回る高さである。この高さの上限は、実用上3[mm]である。
【0043】
同じく単位開口面積当たりの高さの下限HDは、以下のようになる。まず、密閉空間の体積は、マイクロフォンパッケージの体積とこれに接続される体内音取得装置の体積との合計である。体内音取得装置内の空洞(すなわち、音を採取する時の密閉空間)の高さを低くするほど音圧は高くなる。しかしながら、その高さを低くしすぎると、図2のように開口部を有する体内音取得装置については、生体表面に聴診器を当てた時、体内音取得装置の空洞内において、皮膚が空洞の内壁(上側、すなわち皮膚と遠い側の内壁)に接触し、聴診できなくなる。これが高さの下限HDとなる。この高さの下限HDを数値で特定するのは困難である。また、使用するマイクロフォンパッケージの最大入力音圧によっても高さが制限される。
【0044】
体内音取得装置内の密閉空間の体積をV、体内音取得装置の開口部分の面積または集音部構成部材の凹部の底面の面積をS、開口部に接している皮膚表面または集音部構成部材の凹部の底面が均一に振動していると仮定して、その振幅をd、とする。すると、振動による体積変化は、S×dである。
密閉空間内の体積変化率は、(S×d)/Vであり、定常状態での空間内での圧力をPとすると、圧力変化は、P×(S×d)/Vとなり、これが音圧に相当する。音圧を保持したまま体内音取得装置のサイズ、すなわち上記面積Sを小さくするためには、密閉空間の体積も同時に縮小する必要がある。
【0045】
アコースティック聴診器では、体内音取得装置内の体積に、チューブの体積が加えられるため、密閉空間の体積を縮小するのは困難である。また、電子聴診器において、体内音取得装置にマイクロフォンを装着する場合、マイクロフォン自体の体積もこの密閉空間に含まれるため、従来のマイクロフォンを用いると密閉空間の体積を縮小するのは困難である。MEMS素子によるマイクロフォンパッケージを聴診器に適用することにより、マイクロフォン自体の占有体積を縮小できるので、小型化が可能となる。
【0046】
(体内音取得装置内の音圧と密閉空間体積に対する振動部位面積の値との関係)
図15は体内音取得装置内の音圧と密閉空間体積に対する、密閉空間内の振動する部位の面積の値との関係を示す図である。ここで、密閉空間内の振動する部位の面積とは、図1または図3の構成の場合は凹部の体表に接する面側の底面積(以下、凹部底面積と呼ぶ)を指し、図2の構成の場合は開口部の底面積を指す。
【0047】
図15において、横軸は密閉空間体積に対する凹部底面積の値[/mm]、縦軸は音圧[dB]である。
同図を参照すると、密閉空間体積に対する凹部底面積の値が0.1に満たない場合、音圧が60[dB]未満になる。この音圧の60[dB]は、バックグランドノイズレベルである。したがって、密閉空間体積に対する凹部底面積の値が0.1に満たない場合には、聴診音を聞き取ることは困難である。つまり、聴診音を聞き取ることができるように体内音取得装置を設計するには、密閉空間体積に対する凹部底面積の値を0.1より大きくする必要がある。
【0048】
なお、上述した電子聴診器の筐体は、円柱ないし円筒形であるが、これに限らず楕円柱、角柱など、各種棒状の筐体を採用すればよい。
上述した電子聴診器においては、生体音信号をヘッドホン、イヤフォン等の生体音再生装置へ伝達するための配線4が接続されているが、配線4を着脱可能にしてもよい。例えば、電子聴診器1の筐体にジャック、配線4の端部にプラグ、をそれぞれ設けておけば、配線4を着脱することもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 電子聴診器
2 体内音取得装置
3 表示・操作部
4 配線
11 ハイパスフィルタ
12 パワーアンプ
13 イヤフォン
14 遮断周波数調整部
15 音量調整部
16 バンドパスフィルタ
21 マイクロフォンパッケージ
22 マイクロフォンチップ
23 プリント基板
24、24’ 集音部構成部材
26、26’ 保持部材
27 筐体
38 凸部
210、230 音孔
240 凹部
241 底面
242 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体を体表に接触させて音を採取するための体内音取得装置であって、
音を採取する時の密閉空間を形成するための凹部又は接触する体表と共に音を採取する時の密閉空間を形成するための開口部を有する集音部構成部材と、前記集音部構成部材の外周に接して設けられ前記筐体の一部をなす保持部材とを備え、
前記集音部構成部材の音響インピーダンスと前記保持部材の音響インピーダンスが異なり、更に、
前記集音部構成部材の音響インピーダンスをα[Pa・s/m]、前記保持部材の音響インピーダンスをβ[Pa・s/m]、γ=1.5×106[Pa・s/m]とした場合に、
(α−γ)2/(α+γ)2 <(β−γ)2/(β+γ)2
を満たすことを特徴とする体内音取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の体内音取得装置において、前記集音部構成部材が体表に接する面を有することを特徴とする体内音取得装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の体内音取得装置において、音を採取する時の密閉空間の体積に対する、前記密閉空間内の振動する部位の面積の値が0.1/mmより大きいことを特徴とする体内音取得装置。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の体内音取得装置において、前記凹部の前記体表に接する面側の底面から前記体表に接する面までの厚みが0.01mmから2.0mmまでのいずれかの値であることを特徴とする体内音取得装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載の体内音取得装置において、前記凹部内に設けられ、前記体表に接する面が前記体表に接触している時に前記密閉空間の体積の変化を抑えるための凸部を有することを特徴とする体内音取得装置。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか1項に記載の体内音取得装置において、筐体内部に設けられたマイクロフォンを有し、前記凹部又は前記開口部は、前記マイクロフォンの内部空間と共に音を採取する時の密閉空間を形成することを特徴とする体内音取得装置。
【請求項7】
請求項6に記載の体内音取得装置において、前記マイクロフォンがMEMS素子で構成されていることを特徴とする体内音取得装置。
【請求項8】
棒状の筐体を有し、請求項1から請求項7のいずれか1項記載の体内音取得装置が前記棒状の筐体の端部に設けられていることを特徴とする電子聴診器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−152377(P2012−152377A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13987(P2011−13987)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)