説明

体圧分散型クッション布帛とクッション体

【課題】クッション体20のクッション面21に腰を下ろしたとき、体重が寛骨全体に分散し、寛骨の一部に痛みを感じることなく、長時間着座して疲労感を受けず、座り心地のよい体圧分散型クッション布帛を得る。
【解決手段】フレーム11に向かい合わせに設けられた支桿12と支桿12の間に直接または治具を介して張設されるクッション布帛13において、支桿12と支桿12が向き合う幅方向Gにおける中間部(15)の奥行き方向Hにおける伸縮性(ρc )を、その中間部(15)から幅方向Gに続く左右の側部16・16の奥行き方向Hにおける伸縮性(ρs )よりも少なくし、その中間部の伸縮性(ρ)の少ない低伸縮部(中間部)15を、奥行き方向Hにおける中心部17から後端縁18に至るまで連続させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向き合ってフレームを構成している支桿と支桿の間に布帛を架け渡して、踏む、載る、載せる、座る、腰掛ける、凭れる、凭れ掛かる等々、体重をあづけて使用する体重支持面(本発明では、クッション面と言う。)を構成した航空機、客車、長距離バス、自動車その他の車両の座席、座椅子、ソファー、事務椅子その他の腰掛けや背凭れ、枕やマットレスその他の寝装家具(本発明では、これらをクッション体と総称する。)、および、その支桿と支桿の間に架け渡してクッション面を構成するために使用される布帛(本発明では、クッション布帛と言う。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛を支桿と支桿の間に架け渡して車両の座席を構成することは公知である(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。熱融着性繊維を混用したポリエステル繊維詰綿を車両の座席のクッション材に使用することは公知である(例えば、特許文献4参照)。支桿と支桿の間に平行に架け渡した多数条の帯状バネの上にポリウレタンフォームやポリエステル繊維詰綿等のクッション材を設置したクッション体は公知である(例えば、特許文献5、特許文献6)。弾性糸条を用いた弾性織物地や弾性経編地は公知である(例えば、特許文献7、特許文献8参照)。
【特許文献1】特開2002−142923号公報(特許請求の範囲、図5)
【特許文献2】特開2002−143579号公報(特許請求の範囲、図8)
【特許文献3】特開2002−143580号公報(特許請求の範囲、図7)
【特許文献4】特許第3288857号公報(特許請求の範囲、0037)
【特許文献5】特開2000−175761号公報(特許請求の範囲、図1、図7)
【特許文献6】特開2001−128783号公報(特許請求の範囲、図15)
【特許文献7】特開2002−13045号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2002−4156号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来クッション体のクッション面は、その上に体重をあづけたとき、柔らかく弾力性があって心地よさが感じられるようにするため、ウレタンフォームや繊維積層硬綿等を下敷材とし、その上に布帛や皮革等の表地を積層して構成されている。しかし、ウレタンフォームや繊維積層硬綿等の下敷材は重厚で嵩張り、取扱い難いことからして、近時は、向き合ってクッション体のフレームの一部を構成している支桿と支桿の間に布帛を架け渡してクッション面を構成する試みがなされている。
【0004】
クッション面に要求される弾力性は、その部位によって異なり、特に、自動車、列車、航空機、船舶等の交通機関の座席のように大型のクッション体では、その腰掛け部には体重の多くが掛かるので伸び難い強い弾力性が要求され、背凭れ部には掛かる体重が比較的少ない弱く伸び易い弾力性が要求され、脚載せ部には掛かる体重が最も少ないので更に弱く伸び易い弾力性が要求される。そして、クッション体の同じ腰掛け部の部内でも、その臀部の当接する部分(臀部)には伸び難い強い弾力性が要求され、その大腿部の当接する部分(大腿部)には弱く伸び易い弾力性が要求される。
【0005】
下敷材に従来使用されている嵩高で重厚なウレタンフォームや繊維積層では、それに掛かる体重に応じて局部的に窪み、身体に作用するクッション面から反力が平均化される。それに対し、布帛に成るクッション面では、何れの部位に体重が掛かっても、その体重はテンションとなって布帛全体に均等に伝わり、体重が掛かる部位だけが局部的に窪むことがなく、全体が同じ伸び率をもって沈み、伸び易い布帛では全体がすり鉢状に窪み、その窪に身体が嵌まり込む恰好になり、そのすり鉢状窪の周縁から側圧を受けて窮屈に感じられ、伸び難い布帛では、布帛からの反力が、その体重の掛かる部位から集中して作用するので、痛く感じられ、長時間体重をあづけるに耐え難くなる。
【0006】
そこで本発明は、フレームの支桿と支桿の間にクッション布帛を架け渡して構成されるクッション面に掛かる体重が各部位に異なるとしても、各部位に同じ程度の窪みが出来、クッション布帛から身体に均等に分散して反力が作用し、身体にフィットしたクッション体を得ることを目的とする。本発明の他の目的は、そのようにクッション布帛の伸縮弾性が部位によって異なるようにするとしても、その伸縮弾性の差異が外観の差異となってクッション面に現れず、美的統一がとれてインテリアとしての商品価値が高く、座り心地のよいクッション体を得ることである。
【0007】
本発明者は、上記目的をもって、腰を下ろしたとき、どの部位が硬ければ痛みを感じさせることになるのかを調べるために、太い弾性糸条の軸芯を一定方向に揃えて構成され、伸び難いクッション布帛13を、フレーム11に 支持されて向き合う左右の支桿12・12の間に、その弾性糸条の軸芯方向を左右の支桿12・12が向き合う幅方向Gに向け、その幅方向Gに直交する奥行き方向Hにおける前後両端縁18・19をフリーにし、充分に緊張させて張設して成るクッション体20のクッション面21に補強布片22を、そのクッション面の部位と補強布片22のサイズと数を変えて縫合一体化し(図3)、その縫合部位と補強布片22のサイズを変える度に、その補強布片22の縫合されたクッション面21に腰を降ろして座り心地を確かめたところ、左右の支桿12と支桿12の間の中間部(15)に奥行き方向Hへと続く補強布片22、特に、奥行き方向Hにおける中心部17から後端縁18まで続く補強布片22をクッション布帛20に縫合するとき(図4)、その補強布片22が硬く感じられることがなく、座り心地がよく、長時間着座して疲労感を与えないとの知見を得て本発明を完成するに到った。尚、本発明の完成に到る過程での実験において、キルティングのように重ね合わせた補強布片22とクッション布帛13に細かくミシンを当て、貼り合わせるかのようにそれらを強固に縫合一体化している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るクッション布帛は、クッション体のフレーム11に向かい合わせに固定された支桿12と支桿12の間に直接または治具を介して張設して使用される弾性糸条の織編込まれているクッション布帛13において、そのクッション布帛13の縦横の何れか一方を幅方向(G)とし、その他方を奥行き方向(H)とするとき、(a) 奥行き方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fg)が、幅方向(G)における位置によって異なり、(b) 幅方向(G)の中間部15の奥行き方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fc)が、その中間部15の左右に続く幅方向(G)の側部16の奥行き方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fs)よりも大きく、(c) その中間部15の伸長応力( Fc)が大となる低伸縮部(中間部15)が、奥行き方向(H)における中心部17から後端縁18に至るまで連続していることを第1の特徴とする。
【0009】
本発明に係るクッション布帛の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、(d) 低伸縮部(中間部15)の幅方向(G)におけるサイズgが5〜15cmであり、奥行き方向(H)における低伸縮部(中間部15)のサイズhが10cm以上であり、且つ、低伸縮部(中間部15)の奥行き方向(H)におけるhが、幅方向(G)におけるサイズg以上(h≧g)である点にある。
【0010】
本発明に係るクッション布帛の第3の特徴は、上記第1および第2の何れかの特徴に加えて、(e) 幅方向(G)における伸び率10%に伸長時の伸長応力Fwが50N/5cm以上であり、(f) 幅方向(G)の中間部15の奥行き方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fc)が、その中間部15の左右に続く幅方向(G)の側部16の奥行き方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fs)の1.1倍以上である点にある。
【0011】
従って、本発明に係るクッション体20は、上記第1、第2および第3の何れかの特徴を有する体圧分散型クッション布帛13が、伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fg)が位置によって変わる(異なる)幅方向(G)をフレーム11の幅方向Gに合わせ、そのフレーム11の幅方向Gにおける中央部分に、体圧分散型クッション布帛13の低伸縮部(中間部15)を配置して張設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、クッション体20のクッション面21に腰を下ろしたとき、体重が寛骨全体に分散し、寛骨の一部に痛みを感じることなく、長時間着座して疲労感を受けず、座り心地のよい体圧分散型クッション布帛が得られる。
その理由を推考するに、クッション体のクッション面を成すクッション布帛には弾性糸条が、軸芯方向を幅方向Gに一直線状に、又は、その軸芯方向を幅方向Gに向けて支桿12の長さ方向(H)にジグザグに織編み込まれており、その弾性糸条がクッション布帛13の幅方向Gにおいて弾性を発揮しており、その幅方向Gにおける伸び率10%に伸長時の伸長応力Fwが奥行き方向Hにおける何れの部位においても同じであっても、奥行き方向Hにおける伸縮性(ρ)が幅方向Gにおける部位によって異なり、その中間部の奥行き方向Hにおける伸縮性(ρ)が少なく伸縮し難い低伸縮部(中間部)15が奥行き方向Hにおける中心部17から後端縁18に至るまで連続していると、クッション面に腰を下ろしたとき、その低伸縮部15に比して奥行き方向Hにおいて伸縮性(ρ)が大きく伸縮し易い側部16が、奥行き方向Hにおいて弓形に彎曲して伸び、その彎曲して伸びた分だけ、その側部16を構成している糸条の奥行き方向Hの単位寸法当たりの糸条分布密度(緯糸密度または経糸密度、若しくは、コース密度またはウェール密度)が、支桿12に固定されているクッション布帛の側縁14・14や低伸縮部15の糸条分布密度(緯糸密度または経糸密度、若しくは、コース密度またはウェール密度)に比して粗くなる。
そうなると、体重に対応してクッション布帛の幅方向Gに生じる抗力が、その糸条分布密度が粗くなった彎曲の窪み23の中心部の幅方向に並んだ1本1本の糸条に集中的に作用することになるので、その窪み23において幅方向Gに軸芯方向が向けられている弾性糸条が伸び、幅方向Gにおいて彎曲することになる。
そのようなメカニズムを経て左右の側部16・16に寛骨の形状に応じた窪み23が生じるものと考えられ、その生じた窪み23に寛骨が密着嵌合すると共に、中間部の低伸縮部15が、股の間に嵌まり込むように窪み23に相対して隆起し、左右の大腿骨を支える恰好になる。
かくして、側部16の窪み23と低伸縮部15に寛骨と大腿骨が触れる接触面積が広がり、寛骨から窪み23へ、又、大腿骨から低伸縮部15へと体重が広く分散し、その体重に対応してクッション布帛から受ける反力も寛骨と大腿骨に広く分散することになり、長時間着座して硬さを感じさせることがなく、座り心地がよく疲労感を与えない体圧分散型クッション布帛が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
思うに、左右の側部16・16の窪み23に相対して隆起する中間部15の後端縁18に続く低伸縮部分24が、自転車のサドル(座席)のように股の間に嵌まり込み、寛骨と大腿骨の辺りで体重が支えられ、サドルに座った恰好となるので、クッション布帛から寛骨が受ける反力が緩和され、硬さが感じられなくなるものと考えられる。
従って、そのように低伸縮部分24が自転車のサドルのように大腿骨に作用し易くする上で、低伸縮部(中間部)15の幅方向Gにおけるサイズgを5〜15cm、好ましくは9〜15cm、更に好ましくは10〜13cmとし、奥行き方向Hにおけるサイズhを20cm以上とし、且つ、その低伸縮部(中間部)15の奥行き方向Hにおけるサイズhを幅方向Gにおけるサイズgの2倍以上とすること、好ましくは低伸縮部(中間部)15を後端縁18から前端縁19に至るまで奥行き方向Hに連続させること、又、その中間部(低伸縮部)15の奥行き方向Hにおける伸び率10%に伸長時の伸長応力Fcが、側部16の奥行き方向Hにおける伸び率10%に伸長時の伸長応力Fsの少なくとも1.1倍以上に、好ましくは1.2〜10.0倍に、更に好ましくは1.3〜5.0倍になる程度に、中間部15の奥行き方向Hにおける伸縮性(ρc )を、側部16の奥行き方向Hにおける伸縮性(ρs )よりも少なくすること、つまり、低伸縮部(中間部)15を側部16に比して硬くして変形し難くすることが、本発明の好ましい実施態様となる。クッション布帛全体の幅方向Gおよび奥行き方向Hのサイズは、概して30〜50cmにするとよい(G=30〜50cm、H=30〜50cm)。左右の側部16のサイズ(0.5×G−g)は、それぞれ12〜20cmで概して15cm前後になるようにする。
【0014】
弾性糸条には、鞘成分を熱融着性ポリマーとするポリエステル芯鞘複合熱融着性繊維モノフィラメント弾性糸条(例えば、東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を使用するとよい。低伸縮部15は、弾性糸条を用いて織編され弾性布帛に、本発明の完成に至る実験段階で補強布片を縫合したように、補強布片22を縫合、或いは、補強布片22を接着して形成することも出来、又、弾性布帛の低伸縮部15に該当する部分に接着剤や塗料を塗着して伸縮性を抑えて形成することも出来る(図3)。
【0015】
しかし、本発明のクッション布帛は、耐久性や触感・風合い、或いは、美観等の点からして、織地または編地として織編することが望ましい。織地として織成する場合、弾性糸条を緯糸に適用することが望ましいが、それを経糸として織り込むことも出来る。
弾性糸条を経糸として織り込む場合は、伸び難い糸条(伸長応力が強く、総じて太手の糸条、以下、太手の糸条と言う。)を低伸縮部15のサイズgに応じた長さ分だけ織り込んでから伸び易い糸条(伸長応力が弱く、総じて細手の糸条、以下、細手の糸条と言う。)を織り込んで側部16を織成する。従って、弾性糸条を経糸に適用する場合、裁断して取り出される複数枚分のクッション布帛の低伸縮部15と側部16が繰り返し並んだ横縞(ストライプ)模様状に前後して織り出されることになる。
弾性糸条を緯糸として織り込む場合は、太手の糸条を低伸縮部15のサイズgに応じた幅で配列し、細手の糸条を側部16のサイズ(0.5×G−g)に応じた幅で配列し、それらを織り幅方向に交互させて縦縞を形成するように整経し、或いは、低伸縮部15のサイズgに応じた所要の幅で経糸密度を緻密にし、側部16のサイズ(0.5×G−g)に応じた所要の幅で経糸密度を粗くし、裁断して取り出される複数枚分のクッション布帛の低伸縮部15と側部16が織り幅方向に交互して縦縞を形成するように織成する。
【0016】
クッション布帛を編地として編成する場合、弾性糸条を、コース方向に連続して編み込み、シンカーループとニードルループの間、又は、隣合うニードルループとニードルループの間に挿入して係止すると共に、織地の場合と同様に低伸縮部15に該当する部分と側部16に該当する部分に、太手の糸条と細手の糸条を使い分けて配置し、或いは、部分的に編目の密度を変えて縞模様を構成するように編成する。
尚、経糸によってウェール方向に連続して形成されてコース方向において左右隣合うニードルループとニードルループを、ウェール方向にジグザグに続く挿入糸によって連結して編成される経編地では、その左右隣合うニードルループを連結する挿入糸に弾性糸条を適用することも出来る。その何れの編地においても、低伸縮部15のサイズgと側部16のサイズ(0.5×G−g)に応じた幅で、コース密度やウェール密度を部分的に変え、或いは、太手の糸条と細手の糸条を配置し、裁断して取り出される複数枚分のクッション布帛の低伸縮部15と側部16が交互に並んで縞模様を構成するように編成する。
【0017】
クッション布帛を織地または編地として織編する場合、低伸縮部15に熱融着性繊維を適用し、それを加熱融着させ、その部分での伸縮性を抑えることが推奨される。
何故なら、熱融着性繊維を適用する場合は、低伸縮部15に側部16を構成する糸条よりも太手の糸条を適用したり、低伸縮部15の経糸密度や緯糸密度、或いは、コース密度やウェール密度を、側部16の経糸密度や緯糸密度、或いは、コース密度やウェール密度よりも緻密にしたり、低伸縮部15に補強布片22を縫合したり、接着剤や塗料を塗着したりする必要がなく、低伸縮部15と側部16との伸縮性(ρ)の差異が外観上の差異となってクッション布帛の表面に現れ難く、クッション布帛13を織編する過程で緯糸密度やコース密度を変える必要がなく、太さや伸縮性の異なる糸条を取り揃える手間も省け、クッション布帛13が効率的に得られる。
低伸縮部15と側部16の間に伸縮性(ρ)の差異を設けるために、低伸縮部15に熱融着性繊維を適用するとしても、そのことは、低伸縮部15と側部16の双方を構成する弾性糸条として、鞘成分を熱融着性ポリマーとする芯鞘複合熱融着性弾性糸条の適用を妨げるものではない。
弾性糸条が、その軸芯方向を一定方向Gに一直線状に、又は、その軸芯方向を一定方向Gに向け、その方向Gに直交する方向(H)にジグザグに織編み込まれ、クッション布帛全体13の、その一定方向Gにおける伸び率10%に伸長時の伸長応力Fwが50N/5cm以上であり、クッション布帛全体13が、その伸び率10%に伸長後にクッション布帛13の原形を回復する弾性回復力を有する限り、低伸縮部15と側部16の間に伸縮性(ρ)の差異を設けるために、側部16にだけ伸縮性に富む弾性糸条、つまり伸び易い格別な弾性糸条を適用する必要はない。
クッション布帛の幅方向G、即ち、弾性糸条の軸芯の向けられる方向における引張弾性強度は、その幅方向Gにおいて伸び率10%に伸長時の伸長応力Fwが100N/5cm以上にするとよい。しかし、その伸長応力Fwが700N/5cm以上になるようにする必要はない。クッション布帛の引張弾性強度が強すぎると、体圧分散に有効に作用する側部16の窪み23や低伸縮部15の隆起が発生し難くなるからである。
【0018】
本発明の効果は、クッション布帛の中間部(15)の伸縮性を抑え、側部16に比して伸縮し難くすることによって生じるものであるから、そのクッション布帛13をクッション体20のフレーム(支桿12)に取り付ける際には、中間部(15)の下側にフレーム11から当て具を突出させて中間部15を沈み込み難くし、或いは、中間部15の前端縁19と後端縁18をフレーム11に突設した治具に固定して中間部15の奥行き方向Hにおける伸縮を積極的に抑えると効果的である。
【0019】
クッション布帛の後端縁18に沿った部分25は、中間部15と同様に織密度や編密度を緻密にし、又、他の部分よりも太手の糸条を適用し、或いは、他の部分よりも伸び難い糸条を適用して、幅方向G、つまり弾性糸条の軸芯に平行になる方向において伸び難い低伸縮部25とすると、体重を載せたとき後端縁18が沈み込み難く、相対的に側部16の窪み23が広がって寛骨との接触面積が広がるので効果的である。
中間部の低伸縮部15と同様に、後端縁18に沿った低伸縮部25にも、熱融着性繊維を混用し、それを加熱融着させ、その部分での伸縮性を抑え、或いは、織編密度を緻密にする等して、端縁の形状を安定にするとよい。
同様に、サイズ(0.5×G−g)が12〜20cm、概して15cm前後となる左右の側部16の側縁14・14にも、補強と形状安定を兼ねて熱融着性繊維を混用し、それを加熱融着させ、或いは、織編密度を緻密にして硬く仕上げることも出来る。
【0020】
支桿12は、その前後両端部分26・27を下向きに彎曲させ、その支桿12の形状に沿ってクッション布帛の後端縁18と前端縁19を、それぞれ⊂形と⊃形に折り返した恰好にすると、身体が触れたときの感触が柔らかくなり、その部分を補強したり、緩衝材を取り付ける手間も省けるので好都合である。
支桿(12)は、左右両側縁14・14と同様に、後端縁18と前端縁19に取り付けることも出来、その支桿(12)によって後端縁18と前端縁19を補強し、クッション体20の全体の構造を安定にするとよい。
クッション面21は、装飾性カバー(表面材)で被覆することが出来、又、クッション面21の上にポリウレタンフォーム等のクッション材を重ねることも出来る。その場合、そのクッション材の上面に寛骨や大腿骨の形状に合わせた凹凸(窪み)を付けることは格別必要とされない。張設されたクッション布帛が平板になっていても、体重が加わると窪み23が生じるからである。
【0021】
中間部15の奥行き方向Hにおける伸縮性(ρc )と、側部16の奥行き方向Hにおける伸縮性(ρs )との差異が、外観上の差異となってクッション布帛の表面に現れないようにするには、クッション布帛の表面をカットパイル、ループパイル、起毛毛羽等の立毛面とし、又、クッション布帛を表地と裏地との2枚の布帛を連結糸で連結した二重構造にし、その表面に現れない裏地の中間部15と側部16との間に伸縮性(ρ)の差異を付けるとよい。
【実施例1】
【0022】
ポリエステル繊維マルチフィラメント糸(繊度:333dtex)を経糸とし、鞘成分を熱融着性ポリマーとするポリエステル芯鞘複合熱融着性繊維モノフィラメント弾性糸条(繊度:2560dtex、東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を緯糸とし、低伸縮部(15)(サイズ:g=12cm)における経糸密度が15.4本/cm、側部(16)(サイズ:0.5G−g=15cm)における経糸密度が10.2本/cm、緯糸密度が10本/cmの平織組織による縦縞柄の弾性織地を織成し、その織地13を熱融着セット処理(190℃×3分間)し、その緯糸の長さ方向をフレーム11の幅方向Gに向け、経糸密度が15.4本/cmで緻密な低伸縮部15を支桿12と支桿12の中間部に配置し、左右端縁を支桿12・12に固定してクッション体20を作成した。
【0023】
〔比較例1〕
ポリエステル繊維マルチフィラメント糸(繊度:333dtex)を経糸とし、鞘成分を熱融着性ポリマーとするポリエステル芯鞘複合熱融着性繊維モノフィラメント弾性糸条(繊度:2560dtex、東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を緯糸とし、経糸密度が10.2本/cmであり、緯糸密度が10本/cmの平織組織による無地柄の弾性織地を織成し、その織地13を熱融着セット処理(190℃×3分間)し、実施例1と同様に、緯糸の長さ方向をフレーム11の幅方向Gに向け、左右端縁を支桿12に固定してクッション体20を作成した。
【実施例2】
【0024】
6枚筬(L1 、L2 、L3 、L4 、L5 、L6 )の経編機(22ゲージ、釜間3.2mm)の筬L1 と筬L2 と筬L3 にはポリエステル繊維ウーリー加工糸(繊度:167dtex、48f×2)を通糸し、筬L4 と筬L5 には10%伸長時の伸長応力0.35cN/dtexのポリエステル熱融着性モノフィラメント弾性糸条(繊度:500dtex、東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を通糸し、筬L6 には10%伸長時の伸長応力0.28cN/dtexのポリエステル熱融着性モノフィラメント低強度弾性糸条(繊度:500dtex、東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を通糸し、筬L1 による編組織を4544/3233/4544/3233/………………とし、筬L2 による編組織を1011/2322/1011/2322/………………とし、筬L3 による編組織を0101/1010/0101/1010/………………とし、筬L4 による編組織を0001/1110/0001/1110/………………とし、筬L5 と筬L6 による編組織を0000/7777/0000/7777/………………とし、幅10cmの低伸縮部と幅15cmの側部がウェール方向に続く縦縞柄の経編地を編成し、その経編地を熱融着セット処理(190℃×10分間)し、コース密度が23コース/25.4mm、ウェール密度が11ウェール/25.4cmのクッション布帛13を得、そのウェール方向をフレーム11の幅方向Gに向け、筬L5 により弾性糸条の編み込まれた低伸縮部15を支桿12と支桿12の中間部に配置し、その左右に筬L6 により低強度弾性糸条の編み込まれた側部16を配置し、実施例1と同様に、左右端縁を支桿12・12に固定してクッション体20を作成した。尚、筬L5 には低伸縮部15に該当する部分の筬針にのみ、筬L6 には側部16に該当する部分の筬針にのみ弾性糸条を通糸した。
【0025】
〔比較例2〕
実施例2において筬L6 に通糸した10%伸長時の伸長応力0.28cN/dtexのポリエステル熱融着性モノフィラメント低強度弾性糸条(繊度:500dtex、東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)を、筬L4 と筬L5 に通糸した10%伸長時の伸長応力0.35cN/dtexのポリエステル熱融着性モノフィラメント弾性糸条(繊度:500dtex、東洋紡績株式会社製品名:ダイヤフローラ)に替え、その他を実施例2と同様にしてクッション布帛13を得、そのウェール方向をフレーム11の幅方向Gに向け、実施例1と同様に、左右端縁を支桿12に固定してクッション体20を作成した。
【0026】
上記実施例と比較例のクッション体20に張設されたクッション布帛13の幅方向Gの10%伸長時の伸長応力Fw、幅方向Gの中間部15の奥行き方向Hの10%伸長時の伸長応力Fc、その中間部15の左右の側部16の奥行き方向Hの10%伸長時の伸長応力Fs、その中間部15と側部16の奥行き方向Hの10%伸長時の伸長応力の比(Fc/Fs)、および、クッション面の座り心地の官能評価は〔表1〕に示す通りである。
【0027】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るクッション布帛の使用状態での斜視図である。
【図2】本発明に係るクッション布帛の使用状態での斜視図である。
【図3】本発明に係るクッション布帛の試作過程での斜視図である。
【図4】本発明に係るクッション布帛の使用状態での斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
11:フレーム
12:支桿
13:クッション布帛
14:側縁
15:低伸縮部(中間部)
16:側部
17:中心部
18:後端縁
19:前端縁
20:クッション体
21:クッション面
22:補強布
23:窪み
24:部分(サドル)
25:低伸縮部
26:端部分
27:端部分
G:幅方向
H:奥行き方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッション体のフレーム(11)に向かい合わせに固定された支桿(12)と支桿(12)の間に直接または治具を介して張設して使用される弾性糸条の織編込まれているクッション布帛(13)において、
(a) 縦横何れか一方の他方に直交する方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fg)が、当該一方の方向(G)の位置によって異なり、
(b) 前記一方の方向(G)の中間部(15)の当該他方に直交する方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fc)が、当該中間部(15)に続く前記一方の方向(G)の側部(16)の前記他方に直交する方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fs)よりも大きく、
(c) その中間部(15)の伸長応力( Fc)が大となる低伸縮部(中間部15)が、前記他方に直交する方向(H)における中心部(17)から端縁(18)に至るまで連続している体圧分散型クッション布帛。
【請求項2】
(d) 前記低伸縮部(中間部15)の前記一方の方向(G)におけるサイズ(g)が5〜15cmであり、前記他方に直交する方向(H)における前記低伸縮部(中間部15)のサイズ(h)が10cm以上であり、且つ、当該低伸縮部(中間部15)の前記他方に直交する方向(H)における(h)が前記一方の方向(G)におけるサイズ(g)以上(h≧g)である前掲請求項1に記載の体圧分散型クッション布帛。
【請求項3】
(e) 前記一方の方向(G)における伸び率10%に伸長時の伸長応力(Fw)が50N/5cm以上であり、
(f) 前記一方の方向(G)の中間部( 15)の当該他方に直交する方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fc)が、当該中間部(15)に続く前記一方の方向(G)の側部(16)の前記他方に直交する方向(H)の伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fs)の1.1倍以上である前掲請求項1と請求項2の何れかに記載の体圧分散型クッション布帛。
【請求項4】
前掲請求項1と請求項2と請求項3の何れかに記載の体圧分散型クッション布帛(13)が、前記伸び率10%に伸長時の伸長応力( Fg)が位置によって異なる方向(G)をフレーム(11)の幅方向( G)に合わせ、そのフレーム(11)の幅方向(Gにおける中央部分に、当該体圧分散型クッション布帛(13)の前記低伸縮部(中間部15)を配置して張設されているクッション体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−109970(P2006−109970A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−298481(P2004−298481)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【出願人】(000148151)株式会社川島織物 (104)
【Fターム(参考)】