説明

体外培養による胚の製造方法、並びに胚を選別するための方法、装置、及びシステム

【課題】受胎率が高い哺乳動物胚を効率的に取得するための手段を提供する。
【解決手段】第一の形態は、受精卵から体外培養された哺乳動物の胚を選別する方法であって、受精から第一卵割が完了するまでの時間、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態、及び、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量、のうち2つ以上を指標として胚を選別する工程を含む前記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体外培養により得られる哺乳動物の胚のなかから受胎率が高い胚を選別する方法、体外培養によって哺乳動物の受精卵(接合子と同義)から、受胎率が高い胚を製造する方法、これらの方法により得られた胚を用いて哺乳動物を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウシなどの多くの哺乳動物において、体外受精により受精卵を取得し、体外培養によって受精卵から胚を発生させる技術が確立されている。得られた胚をレシピエント雌個体の子宮に移植し受胎させ産仔を得る。
【0003】
しかしながら体外培養胚は受胎率が低いという問題がある。例えばウシの場合は40〜50%であり、ヒトの妊娠成功率は25〜35%程度である。原因としては、体外培養環境と生体内環境とが相違するための発育不良などが考えられる。
【0004】
受胎率の高い胚を形態や生化学指標に基づき選別する手法の開発が従来から試みられている。
【0005】
非特許文献1では、ヒト受精卵において、第三卵割時の細胞数とフラグメンテーションに応じて受胎率が異なることが開示されている。
【0006】
非特許文献2では、ヒト受精卵において、第三卵割時にフラグメンテーションが少ない場合に受胎率が向上することが開示されている。
【0007】
非特許文献3及び非特許文献4では、ウシ受精卵において、第三卵割時の細胞数が5-8細胞でない場合に特に染色体異常が起きやすいことが記載されている。
【0008】
非特許文献5では、ウシ受精卵において呼吸量(酸素消費量)に応じて受胎率が変動すること、呼吸量が0.78-1.10 nl/hの時に最も受胎率が高くなることが記載されている。
【0009】
非特許文献6では、ブタ受精卵において、初期卵割時の細胞数、初期卵割までの到達時間、初期卵割時の2細胞の均一性、第二卵割時の細胞数、アミノ酸量などの複数の指標の組合せと、胚盤胞率との関係が検討されている。
【0010】
特許文献1には胚品質の評価方法に関する発明が開示されている。同文献には品質評価の指標として、卵割時の非同期の細胞分裂や断片化(フラグメンテーション)現象を用いることができると記載されている。これらの指標は、さらに呼吸数などの他の指標と組み合わせても良いことも記載されている。
【0011】
特許文献2には胚品質を評価するために単一胚あたりの酸素消費量を測定するための装置および方法が開示されている。
【0012】
このように個別の指標と胚品質の関係は調べられている。しかしながら、複数の指標の組合せと受胎率との関係を具体的に検討した先行技術は存在しない。さらにウシの場合には個別の指標と受胎率の関係性ですらほとんど調べられていないのが実情である。
【0013】
一方、非ヒト哺乳動物の受精卵の培養は、培養容器上のウェル内に培養液の液滴を載せ、該微小滴の表面をミネラルオイルで被覆し、1つの液滴中に複数の受精卵を入れる方法(ドロップレット法)により行われることが通常であった。この方法では、個々の胚を区別して管理することは困難であるため、培養完了時(初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期)の胚の形態観察結果のみを指標として胚の品質が判定される。従来の胚培養方法では、初期卵割から培養完了時に至るまでの胚の成長過程を経時的に追跡してデータを取得し、異なる時点でのデータを組み合わせて高受胎率胚の選別指標とすることは困難であり、従来検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特表2009-539387号公報
【特許文献2】特許第3693907号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Human Reproduction Vol.16, No.9 pp. 1970-1975, 2001
【非特許文献2】Human Reproduction Vol.17, No.9 pp. 2402-2409, 2002
【非特許文献3】BIOLOGY OF REPRODUCTION 63, 1143-1148 (2000)
【非特許文献4】Journal of Reproduction and Development, Vol.54, No.6, 465-472 (2008)
【非特許文献5】Human Reproduction Vol.22, No.2 pp. 558-566, 2007
【非特許文献6】BIOLOGY OF REPRODUCTION 77, 765-779 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、受胎率が高い哺乳動物胚を効率的に取得するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、特願2010-022463として特許出願済みの、細胞を個別管理可能な培養容器(本願図1a〜1fに示す)を利用して、初期卵割から培養完了時(初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期)に至るまでの胚の成長過程を経時的に追跡してデータを取得した。そして、一つの胚について異なる時点で取得されたデータと、受胎率との関係を検討した。その結果、驚くべきことに、4つの異なる胚発生段階での所定の条件のうち2つ、3つ又は4つを満足する胚が高い受胎率を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明は以下の発明を包含する。
(1) 受精卵から体外培養された哺乳動物の胚を選別する方法であって、
受精から第一卵割が完了するまでの時間;
第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態;
第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態; 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量;
のうち2つ以上を指標として胚を選別する工程を含む前記方法。
(2) 前記工程において選別される胚が以下の条件:
受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率との相関関係に基づいて、当該確率が40%以上となることが確認されている時間であること(条件d1)、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IGF2Rの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.45以上となることが確認されている時間であること(条件d2)、並びに、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IFN-tauの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.2以上となることが確認されている時間であること(条件d3)、から選択される少なくとも1つの条件を満足すること(条件d);
第一卵割後かつ第二卵割前の段階において、2細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件a);
第三卵割後かつ第四卵割前の段階において、5細胞、6細胞、7細胞または8細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件b); 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と当該胚が脱出胚盤胞に到達する確率との相関関係に基づいて、当該確率が50%以上となることが確認されている酸素消費量であること(条件c);
のうち2つ以上を満足する胚である、(1)の方法。
(3) 哺乳動物がウシであり、
条件dにおける、受精から第一卵割が完了するまでの時間が27時間以下であり、
条件cにおける酸素消費量が単一胚あたり0.91×10-14 mol s-1以上である
(2)の方法。
(4) 体外培養によって、哺乳動物の受精卵から胚を製造する方法であって、
受精から第一卵割が完了するまでの時間;
第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態;
第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態; 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量;
のうち2つ以上を指標として胚を選別する選別工程を含む前記方法。
(5) 前記選別工程において選別される胚が以下の条件:
受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率との相関関係に基づいて、当該確率が40%以上となることが確認されている時間であること(条件d1)、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IGF2Rの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.45以上となることが確認されている時間であること(条件d2)、並びに、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IFN-tauの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.2以上となることが確認されている時間であること(条件d3)、から選択される少なくとも1つの条件を満足すること(条件d);
第一卵割後かつ第二卵割前の段階において、2細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件a);
第三卵割後かつ第四卵割前の段階において、5細胞、6細胞、7細胞または8細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件b); 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と当該胚が脱出胚盤胞に到達する確率との相関関係に基づいて、当該確率が50%以上となることが確認されている酸素消費量であること(条件c);
のうち2つ以上を満足する胚である、(4)の方法。
(6) 哺乳動物がウシであり、
条件dにおける、受精から第一卵割が完了するまでの時間が27時間以下であり、
条件cにおける酸素消費量が単一胚あたり0.91×10-14 mol s-1以上である
(5)の方法。
(7) (1)〜(3)のいずれかの方法により選別された胚、又は(4)〜(6)のいずれかの方法により製造された胚を、雌個体に移植し受胎させる工程を含む、哺乳動物個体の生産方法。
(8) 受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別装置であって、
判別部と、解析部とを含み、
前記判別部が、
候補胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標情報が、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第1指標判別部、
候補胚の、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標情報が、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第2指標判別部、
候補胚の、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標情報が、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第3指標判別部、及び
候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標情報が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第4指標判別部
のうちM個(Mは2、3、又は4の数である)を含み、
前記解析部が、前記判別部において判別された条件のうちN個(Nは2以上M以下の数である)以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する
ことを特徴とする前記胚選別装置。
(9) 画像抽出部を更に備える(8)の胚選別装置であって、
前記判別部が前記第1指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第1指標選別基準条件における、受精から第一卵割が完了するまでの時間の閾値の時点における画像、又は、第一卵割の完了時点を確認可能な画像を抽出する、第1画像抽出部を含み、前記第1指標判別部は、前記第1画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第1指標情報として判別を行い、
前記判別部が前記第2指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第一卵割後かつ第二卵割前の段階の画像を抽出する、第2画像抽出部を含み、前記第2指標判別部は、前記第2画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第2指標情報として判別を行い、
前記判別部が前記第3指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での画像を抽出する、第3画像抽出部を含み、前記第3指標判別部は、前記第3画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第3指標情報として判別を行う
前記胚選別装置。
(10) 受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別システムであって、
(9)の胚選別装置と、
候補胚を撮像し、撮像された画像を前記画像抽出部へと出力する撮像装置とを備え、
前記判別部が前記第4指標判別部を含む場合には、候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量を測定し、測定された酸素消費量値を前記第4指標判別部へと出力する酸素消費量測定装置を更に備える
前記胚選別システム。
(11) 受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、該方法が、判別工程と、解析工程とを含み、
前記判別工程が、
候補胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標情報が、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第1指標判別工程、
候補胚の、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標情報が、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第2指標判別工程、
候補胚の、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標情報が、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第3指標判別工程、及び
候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標情報が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第4指標判別工程
のうちM個(Mは2、3、又は4の数である)を含み、
前記解析工程が、前記判別工程において判別された条件のN個(Nは2以上M以下の数である)以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する解析工程を含む、
前記プログラム。
【0019】
本発明は更に以下の態様を包含する。
(12) 体外培養によってヒトの受精卵から胚を発生させる方法において、
受精から第一卵割が完了するまでの時間;
第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態;
第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態; 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量;
のうち2つ以上を指標として胚の受胎率を予測する方法。
(13) 以下の条件:
受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率との相関関係に基づいて、当該確率が40%以上となることが確認されている時間であること(条件d1)、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IGF2Rの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.45以上となることが確認されている時間であること(条件d2)、並びに、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IFN-tauの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.2以上となることが確認されている時間であること(条件d3)、から選択される少なくとも1つの条件を満足すること(条件d);
第一卵割後かつ第二卵割前の段階において、2細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件a);
第三卵割後かつ第四卵割前の段階において、5細胞、6細胞、7細胞または8細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件b); 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と当該胚が脱出胚盤胞に到達する確率との相関関係に基づいて、当該確率が50%以上となることが確認されている酸素消費量であること(条件c);
のうち2つ以上を満足する胚を受胎率の高い胚であると予測する、(12)の方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、受胎率が高い哺乳動物の胚を効率的に取得することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1a】本発明の方法の実施のために用いることができる培養容器Cを示す平面図である。
【図1b】図1aのIa-Ia 断面図である。
【図1c】図1aにおける細胞収容部の部分拡大図である。
【図1d】図1cのIb-Ib 断面図である。
【図1e】図1cにおける微小ウェルの部分拡大図である。
【図1f】図1eのIc-Ic 断面図である。
【図2】図2は、予備検討における、各細胞数と酸素消費との関係を示す。
【図3】図3は、予備検討における、受精31時間後の第一卵割パターンとアポトーシス陽性細胞率との関係(図3(a))、受精55時間後のフラグメンテーションの有無とアポトーシス陽性細胞率との関係(図3(b))、受精55時間後の割球数とアポトーシス陽性細胞率との関係(図3(c))、受精168時間後の酸素消費量とアポトーシス陽性細胞率との関係(図3(d))を示す。
【図4】図4は、予備検討における、受精31時間後の第一卵割パターンと透明帯脱出の関係 (図4(a))、受精168時間後の胚盤胞ステージと透明帯脱出の関係 (図4(b))、受精168時間後の酸素消費と透明帯脱出の関係(図4(c))を示す。
【図5】図5は、予備検討における、受精31時間後の第一卵割パターンと酸素消費との関係を示す。
【図6】図6は、M=4, N=2〜4の場合の、本発明の胚選別装置の一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図7】図7は、M=4, N=2〜4の場合の、本発明の胚選別装置及び胚選別システムの一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図8】図8は、M=4, N=2〜4の場合の、本発明の胚選別装置及び胚選別システムの一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図9】図9は、M=3, N=2〜3の場合の、本発明の胚選別装置の一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図10】図10は、M=2, N=2の場合の、本発明の胚選別装置の一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図11】図11は、M=3, N=2〜3の場合の、本発明の胚選別装置及び胚選別システムの一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図12】図12は、M=3, N=2〜3の場合の、本発明の胚選別装置及び胚選別システムの一実施形態を示す概略ブロック図である。
【図13】図13は、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図14】図14は、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法(M=4, N=2)の一実施形態を示すフローチャートである。
【図15】図15は、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法(M=4, N=3)の一実施形態を示すフローチャートである。
【図16】図16は、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法(M=4, N=4)の一実施形態を示すフローチャートである。
【図17】図17は、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法(M=3, N=2)の一実施形態を示すフローチャートである。
【図18】図18は、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法(M=3, N=3)の一実施形態を示すフローチャートである。
【図19】図19は、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法(M=2, N=2)の一実施形態を示すフローチャートである。
【図20】図20は、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法の概要を示すフローチャートである。
【図21】図21は、本発明の胚選別装置の一実施形態を用いて胚を選別する方法の概要を示すフローチャートである。
【図22】図22は、本発明の胚選別装置の一実施形態を用いて胚を選別する方法の概要を示すフローチャートである。
【図23a】図23aは、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法において、予め格納される、個別の候補胚を特定する情報を示す。
【図23b】図23bは、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法の第2指標判別工程において生成される結果を示す。
【図23c】図23cは、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法の第3指標判別工程において生成される結果を示す。
【図23d】図23dは、本発明の胚選別装置を用いて胚を選別する方法の第4指標判別工程において生成される結果を示す。
【図24】図24は、本発明の胚選別システムのハードウェアの構成の好適な一実施形態を示す。
【図25】図25は、第一卵割時間と、正常な染色体数を有する胚の割合との相関関係を示す。
【図26】図26は、第一卵割時間と、遺伝子IGF2R及びIFN-tauの発現量との相関関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明において哺乳動物とは温血脊椎動物を指し、例えば、ヒト及びサルなどの霊長類、マウス、ラット及びウサギなどの齧歯類、イヌ及びネコなどの愛玩動物、ならびにウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどの家畜が挙げられる。本発明の方法は、典型的には、非ヒト哺乳動物(ヒトを除く哺乳動物)に用いられる。本発明において、「ヒト」はHomo sapiensを指す。「サル」はサル目(Primates)に分類される、ヒト以外の動物を指す。「マウス」はMus musculusを指す。「ラット」はRattus norvegicusを指す。「ウサギ」はウサギ科(Leporidae)に分類される動物を指す。「イヌ」はCanis lupus に分類される動物を指し、典型的にはCanis lupus familiarisを指す。「ネコ」はFelis silvestris に分類される動物を指し、典型的にはFelis silvestris catusを指す。「ウシ」はウシ属(Bos)に分類される動物を指し、典型的にはBos taurus及びBos indicus を指す。「ウマ」はEquus caballusを指す。「ブタ」はSus scrofa に分類される動物を指し、典型的にはSus scrofa domesticusを指す。「ヒツジ」はOvis ariesを指す。
【0023】
哺乳動物の受精卵は、受精後、卵割により2細胞期、4細胞期、8細胞期と細胞数が増えていき、桑実胚を経て、胚盤胞(初期胚盤胞〜脱出胚盤胞)へと発生する。本発明において選別又は製造の対象とする胚は、8細胞期(すなわち第三卵割終了後)以後まで発生した胚であり、桑実胚、初期胚盤胞、胚盤胞、拡張胚盤胞及び脱出胚盤胞が含まれ、典型的には初期胚盤胞、胚盤胞、拡張胚盤胞及び脱出胚盤胞である。初期胚盤胞、胚盤胞、拡張胚盤胞及び脱出胚盤胞は、胎盤を形成する潜在能力がある外部細胞と胚を形成する潜在能力がある内部細胞塊を備える。
【0024】
本発明者らは驚くべきことに、
第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態;
第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態;
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量;
のうち2つ以上、好ましくは3つを指標として用いることにより受胎率の高い胚を予測することが可能であることを見出した。3つの指標のうち1つのみを予測指標として用いた場合や、3つの指標のうち1つと他の公知の指標(例えば形態的品質がCode 1であること、拡張胚盤胞に達していること等)とを組み合わせて予測指標として用いた場合には、受胎率の高い胚を選別することはできない。
【0025】
より具体的には、
第一卵割後かつ第二卵割前の段階において、2細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件a);
第三卵割後かつ第四卵割前の段階において、5細胞、6細胞、7細胞または8細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件b);
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と当該胚が脱出胚盤胞に到達する確率との相関関係に基づいて、当該確率が50%以上となることが確認されている酸素消費量であること(条件c);
のうち2つ以上を満足する胚が、高い受胎率を有することを見出した。
【0026】
本発明において条件bは、「第三卵割後かつ第四卵割前の段階において、6細胞、7細胞または8細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと」という条件であってもよい。
【0027】
本発明者らは更に、上記3つの指標に、
受精から第一卵割が完了するまでの時間
という指標を加えた4つの指標のうち2つ以上、好ましくは3つ以上、より好ましくは4つを指標として用いることにより受胎率の高い胚を予測することが可能であることを見出した。
【0028】
具体的には、
受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率との相関関係に基づいて、当該確率が40%以上となることが確認されている時間であること(条件d1)、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IGF2Rの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.45以上となることが確認されている時間であること(条件d2)、並びに、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IFN-tauの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.2以上となることが確認されている時間であること(条件d3)、から選択される少なくとも1つの条件を満足すること(条件d);
前記条件a;
前記条件b; 及び
前記条件c
のうち2つ以上、好ましくは3つ以上、より好ましくは4つを満足する胚が、高い受胎率を有することを見出した。
【0029】
本発明に用いる培養器具としては、実験1において用いた図1に示す培養器具には限定されず、任意の培養器具を用いることができる。本発明において、受精卵から胚を発生させる体外培養は個別管理が可能な培養器具を用いて行うことが好ましい。
【0030】
胚の培養に用いる培地や、温度、雰囲気ガスの組成等の諸条件は哺乳動物の種に応じて通常用いられる条件を採用することができる。
【0031】
ウシの胚の典型的な培養条件としては、好ましくは38.0〜39.5℃、より好ましくは38.5〜39℃の温度、SOF(合成卵管液)、修正SOF、IVD-101、TCM199、CR1aaなどの培地、飽和湿度の、4.5〜5.5%のCO2と残量の空気とを含むガス(例えば、飽和湿度・5% CO2 / 95% 空気)、飽和湿度の、4.5〜5.5%のCO2と4.5〜5.5%のO2と残量のN2とを含むガス(例えば飽和湿度・5% CO2/5% O2 /90% N2)などのガスなどの条件を採用することができる。
【0032】
ブタの胚の典型的な培養条件としては、NCSU23、TCM199、PZM5などの培地などの条件を採用することができる。
【0033】
受精卵(接合子)を得るための方法は特に限定されない。体外受精により卵細胞と精子とから受精卵を作成することができる。
【0034】
形態の観察は顕微鏡観察等の非侵襲的な手段により行うことができる。一般的には40倍〜200倍の倍率で形態が観察される。
【0035】
本発明において「フラグメンテーション」とは、卵割した本来の細胞以外に、断片化した細胞(細胞質の小球)が観察される現象を指す。「フラグメンテーションを有していない」胚とは、フラグメンテーションが観察されない胚を指す。本発明でいう「フラグメンテーション」では、断片化した細胞(細胞質の小球)に核が含まれるかどうかは問わないこととする。
【0036】
胚に含まれる細胞の数は、顕微鏡観察した画像から目視により判定する。ウシの場合、8細胞程度までなら目視で数を計測することが可能である。
【0037】
条件d1における「胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率との相関関係に基づいて、当該確率が40%以上となることが確認されている時間」について説明する。本発明者らは予備検討において、ウシの胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間(以下、「第一卵割時間」という場合がある)と、胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率とが相関しており、第一卵割時間が閾値以下となると、胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率が飛躍的に高まる傾向を見出している。ウシ以外の哺乳動物についても、本発明の方法に用いられるのと実質的に同一の体外培養条件において、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率との相関関係を予め確認することができる。そして高受胎率胚を選別するためには、当該確率が40%以上となることが確認されている第一卵割時間を示す胚を選別することが有効であり、より選別数を絞りこみたい場合には当該確率が50%以上、更に選別数を絞りこみたい場合には60%以上、となることが確認されている第一卵割時間を示す胚を選別することができる。
【0038】
胚盤胞期の定義は後述する通りである。染色体数が正常である胚とは、解析した全ての細胞の核相が、動物種に応じた正常な数の常染色体及び性染色体を有する胚を指す。例えばウシの場合、解析した全ての細胞の核相が58本の常染色体と2本の性染色体(2n=60)である胚を、染色体数が正常な胚とし、その他の胚を染色体数が異常な胚とする。ギムザ染色により分裂期の細胞の核相(染色体数)を解析することができる。2つ以上の分裂期の細胞を伴う胚を解析可能胚とする。
【0039】
条件d2における「胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IGF2Rの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.45以上となることが確認されている時間」について説明する。本発明者らは予備検討において、ウシの胚の第一卵割時間と、胚の胚盤胞期での遺伝子IGF2Rの発現量とが相関しており、第一卵割時間が閾値以下となると、胚の胚盤胞期でのIGF2Rの発現量が高まる傾向を見出している。ウシ以外の哺乳動物についても、本発明の方法に用いられるのと実質的に同一の体外培養条件において、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期でのIGF2Rの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係を予め確認することができる。そして高受胎率胚を選別するためには、IGF2Rの相対的発現量が0.45以上となることが確認されている第一卵割時間を示す胚を選別することが有効であり、より選別数を絞りこみたい場合には当該相対的発現量が0.50以上、更に選別数を絞りこみたい場合には0.60以上、となることが確認されている第一卵割時間を示す胚を選別することができる。
【0040】
条件d3における「胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IFN-tauの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.2以上となることが確認されている時間」について説明する。本発明者らは予備検討において、ウシの胚の第一卵割時間と、胚の胚盤胞期での遺伝子IFN-tauの発現量とが相関しており、第一卵割時間が閾値以下となると、胚の胚盤胞期でのIFN-tauの発現量が高まる傾向を見出している。ウシ以外の哺乳動物についても、本発明の方法に用いられるのと実質的に同一の体外培養条件において、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期でのIFN-tauの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係を予め確認することができる。そして高受胎率胚を選別するためには、IFN-tauの相対的発現量が0.20以上となることが確認されている第一卵割時間を示す胚を選別することが有効であり、より選別数を絞りこみたい場合には当該相対的発現量が0.25以上、更に選別数を絞りこみたい場合には0.30以上、となることが確認されている第一卵割時間を示す胚を選別することができる。
【0041】
遺伝子IGF2R、IFN-tau、及びH2AFZの発現量は、それぞれ、mRNA量(cDNA量)に基づき評価することができる。
【0042】
ウシのIGF2R遺伝子(配列番号13)、IFN-tau遺伝子(配列番号14)、H2AFZ遺伝子(配列番号15)はそれぞれNM_174352.2、X65539、NM_174809のAccession番号が付与されGeneBankに登録されている。IGF2Rはインプリント遺伝子の一種である。IFN-tauは着床関連遺伝子の一種である。H2AFZは本発明においては内部標準として利用される、ハウスキーピング遺伝子の一種である。ウシ以外の他の動物種における、ウシのIGF2R遺伝子、IFN-tau遺伝子、H2AFZ遺伝子と実質的に同一の機能を有する相同遺伝子をそれぞれ該動物種におけるIGF2R遺伝子、IFN-tau遺伝子、H2AFZ遺伝子と規定することができる。例えばヒツジのIGF2R遺伝子、IFN-tau遺伝子、H2AFZ遺伝子は、それぞれGeneBank Accession番号AF353513.1、NP_001095205.1、NP_001009270.1として登録された遺伝子である。
【0043】
条件dは、第一卵割時間に関する条件d1、d2、d3のうち少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは3つを満足するという条件である。条件dは、特に好ましくは、条件d1を満足するという条件、或いは、条件d2及びd3を両方満足するという条件、或いは、条件d1、d2、d3を全て満足するという条件である。
【0044】
ウシ胚の場合には、条件dを満足する高受胎率胚を選別するためには、第一卵割時間が27時間以下である胚を選別することが有効であり、より選別数を絞りこみたい場合には、第一卵割時間が26時間以下である胚を選別することができる。第一卵割時間の閾値を長くしすぎると、選別される胚の総数が増え、品質の低い胚も含まれてしまうため、結果として受胎率が下がる。第一卵割時間の閾値を短くしすぎると、どの胚も品質は十分なため品質面では違いはないが、選別される胚の総数が減るため、移植に用いることができる胚の数が減るというデメリットがある。
【0045】
第一卵割の完了は、顕微鏡等を用いた観察により確認することができる。第一卵割時間の閾値(例えば受精から27時間又は26時間)の時点で胚を観察し、第一卵割が完了していることが確認された場合に、第一卵割時間が閾値以下であると判断し、第一卵割が完了していないことが確認された場合に、第一卵割時間が閾値よりも長いと判断することができる。胚を経時的に観察して第一卵割時間を確認し、第一卵割時間と閾値とを比較することもできる。
【0046】
第一卵割後かつ第二卵割前の段階の胚とは、ウシ胚の場合、通常の体外培養条件下では受精から20〜40時間後、典型的には28〜33時間後の段階の胚を指す。他の哺乳動物の胚の培養においても、観察によってこの段階にある胚を特定することは容易である。同一の体外培養条件において予め胚発生が行われて、正常な胚の大多数(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)が第一卵割を終え、第二卵割を開始するまでの、受精時を基準とした時間帯が把握されていれば、この時間帯にある胚を「第一卵割後かつ第二卵割前の段階」の胚とみなすことができる。
【0047】
卵割のタイミングは動物種によって異なるが、同じ動物種であれば上記のようにおおまかな時間帯は知られている。一方、同じ動物種であっても、上記のようにある程度の個体差・バラつきがある。ウシの場合、受精後20時間よりも早い時間では、第一卵割がなされていない胚が多数となり、40時間後よりも遅い時間では第二卵割以降がなされている胚が多数となる。当業者であれば大多数(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)の胚が第一卵割を終えており、かつ、第二卵割前である時間帯を適切に選択することができる。その時間帯に形態観察を行って所定の指標を取得することができる。他の哺乳動物についても、上記のように個々の胚の卵割のタイミングにバラつきはあるものの、大多数(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)の胚が「第一卵割後かつ第二卵割前の段階」となるような時間帯を適切に選択し、その時間帯で所定の指標を取得することができる。
【0048】
第三卵割後かつ第四卵割前の段階の胚とは、ウシ胚の場合、通常の体外培養条件下では受精から36〜108時間後、典型的には40〜96時間後の段階の胚を指す。他の哺乳動物の胚の培養においても、観察によってこの段階にある胚を特定することは容易である。同一の体外培養条件において予め胚発生が行われて、正常な胚の大多数(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)が第三卵割を終え、第四卵割を開始するまでの、受精時を基準とした時間帯が把握されていれば、この時間帯にある胚を「第三卵割後かつ第四卵割前の段階」の胚とみなすことができる。哺乳動物の種毎に、個々の胚の卵割のタイミングにバラつきはあるものの、大多数(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)の胚が「第三卵割後かつ第四卵割前の段階」となる時間帯を適切に選択し、その時間帯で所定の指標を取得することができる。
【0049】
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚とは、初期胚盤胞期から、胚盤胞期を経て、拡張胚盤胞期に至るまでのいずれかの発生段階にある胚を指す。ウシ胚の場合、通常の体外培養条件下では受精から120〜216時間後、典型的には144〜192時間後の段階の胚を指す。他の哺乳動物の胚の培養においても、観察によってこの段階にある胚を特定することは容易である。同一の体外培養条件において予め胚発生が行われて、正常な胚の大多数(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)が初期胚盤胞期から拡張胚盤胞期までのいずれかの発生段階にある、受精時を基準とした時間帯が把握されていれば、この時間帯にある胚を「初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期」の胚とみなすことができる。哺乳動物の種毎に、個々の胚の発育の程度にバラつきはあるものの、大多数(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)の胚が「初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期」となる時間帯を適切に選択し、その時間帯で所定の指標を取得することができる。
【0050】
「初期胚盤胞」、「胚盤胞」、「拡張胚盤胞」の定義は Robertson I, Nelson RE (1998) Certification and identification of the embryo. In: D.A. Stringfellow and S.M. Seidel, Editors, Manual of the international embryo transfer society, IETS, Savoy, Illinois 103-116に記載されており、当業者には明確であるが、参考のために以下に具体的に説明する。
【0051】
「初期胚盤胞」とは、胚盤胞腔(胞胚腔)が顕微鏡下で認められるようになる時期の胚を指す。初期胚盤胞は指輪状の形態を示す。
【0052】
初期胚盤胞が発育し、栄養膜細胞層の分離が進み、内細胞塊の暗化により両者の明瞭な区別が可能となったものが「胚盤胞」である。胚盤胞腔は広く囲卵腔内に拡張し、囲卵腔をほぼ満たすまでになる。
【0053】
「拡張胚盤胞」とは、胚盤胞が発育して、胚盤胞腔の拡張が顕著になり、全体の大きさが増加し(胚盤胞期までの胚の大きさの1.2〜1.5倍程度)、同時に、透明帯の厚さが約1/3まで薄くなった胚を指す。
【0054】
「初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と当該胚が脱出胚盤胞に到達する確率との相関関係に基づいて、当該確率が50%以上となることが確認されている酸素消費量」について説明する。本発明者らは予備検討(実験2)において、ウシの初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と、胚が脱出胚盤胞に到達する確率とが相関しており、酸素消費量が閾値以上となると、胚が脱出胚盤胞に到達する確率が飛躍的に高まる傾向を見出している。ウシ以外の哺乳動物についても、本発明の方法に用いられるのと実質的に同一の体外培養条件において、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と、当該胚が脱出胚盤胞に到達する確率との相関関係を予め確認することができる。そして高受胎率胚を選別するためには、当該確率が50%以上となることが確認されている酸素消費量を有する胚を選別することが有効であり、より選別数を絞りこみたい場合には、当該確率が85%以上となることが確認されている酸素消費量を有する胚を選別することができる。ウシ胚の場合には、高受胎率胚を選別するためには、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の酸素消費量が、単一胚あたり0.91×10-14 mol s-1以上である胚を選別することが有効であり、より選別数を絞りこみたい場合には、単一胚あたり1.11×10-14 mol s-1以上である胚を選別することができる。酸素消費量の選別指標値を低くしすぎると、選別される胚の総数が増え、品質の低い胚も含まれてしまうため、結果として受胎率が下がる。酸素消費量の選別指標値が高すぎると、どの胚も品質は十分なため品質面では違いはないが、選別される胚の総数が減るため、移植に用いることができる胚の数が減るというデメリットがある。
【0055】
単一胚あたりの酸素消費量は、SECMシステム(HV-405; 北斗電工株式会社)等の市販の装置を用いて非侵襲的に測定することができる。酸素消費量は、呼吸アッセイ用の媒体(例えば、ERAM-2 (embryo respiration assay medium-2, 株式会社機能性ペプチド研究所製)等)中で、体外培養条件と実質的に同一の温度条件において測定されることが好ましい。
【0056】
本発明の第一の形態は、受精卵から体外培養された哺乳動物の胚を選別する方法であって、上記4つの指標のうち少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは4つを取得して評価し、評価結果に基づいて胚を選別する工程を特徴とする方法である。当該選別工程では、上記条件a〜dの少なくとも2つ、好ましくは少なくとも3つ、より好ましくは4つを満足する胚を選別する。選別される胚は、好ましくは初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期まで体外培養された胚であるが、受精から第一卵割が完了するまでの時間、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態及び第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態のうち2つ以上を指標として用いる場合は、2細胞期(すなわち第一卵割終了後)又は8細胞期(すなわち第三卵割終了後)以後の任意の発生段階まで体外培養された胚であってもよい。この選別方法を実施する者と、体外培養により胚を製造する方法を実施する者とは、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0057】
本発明の第二の形態は、体外培養によって哺乳動物の受精卵から胚を製造する方法であって、上記の選別工程を含むことを特徴とする方法である。胚は好ましくは初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期まで体外培養されるが、受精から第一卵割が完了するまでの時間、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態及び第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態のうち2つ以上を指標として用いる場合は、2細胞期(すなわち第一卵割終了後)又は8細胞期(すなわち第三卵割終了後)以後の任意の発生段階まで体外培養させ、以後の利用に供することもできる。
【0058】
本発明の第三の形態は、上記選別方法により選別された胚、又は上記製造方法により製造された胚を、雌個体に移植し受胎させる工程を含む、哺乳動物個体の生産方法である。通常、移植を受ける雌個体(レシピエント)は偽妊娠状態にあり、胚は該雌個体の子宮角、卵管等に移植される。受胎後、産仔を得る工程、産仔を成長させて個体を得る工程は常法により行うことができる。
【0059】
<胚選別装置、胚選別システム、胚選別方法>
本発明はまた、本発明の方法を実現可能な、受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別装置に関する。
【0060】
本発明の胚選別装置は、判別部と、解析部とを含み、判別部において、取得された候補胚についての第1指標情報〜第4指標情報のうちM個(Mは2、3、又は4の数である)が、予め規定された選別基準条件を満足するか否かを判別し、解析部において、前記判別部において判別された条件のN個(Nは2以上M以下の数である)以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析することを特徴とする装置である。M、Nの具体的な数は目的に応じて適宜決定することができる。Nの値が大きいほど受胎率の高い胚を選別することができるが、一方で、移植に用いる胚の数が減る傾向がある。
【0061】
以下、M=4, N=2〜4である本発明の胚選別装置の一実施形態を図6〜8を参照して説明し、M=3, N=2〜3である本発明の胚選別装置の一実施形態を図9、11、12を参照して説明し、M=2, N=2である本発明の胚選別装置の一実施形態を図10を参照して説明するが、本発明の範囲は図示された実施形態には限定されない。
【0062】
図6は、本発明の胚選別装置(M=4, N=2〜4)の一実施形態である胚選別装置600の機能構成を表す概略ブロック図である。胚選別装置600は、判別部670、解析部610を少なくとも備え、必要に応じて記憶部601を備える。記憶部601は、データの格納及び読み取りが可能なようにネットワークを介して胚選別装置600の他の部分と接続されていてもよい。胚選別装置600はコンピュータ等の情報処理装置により構成することができる。胚選別装置600には必要に応じて入力装置611、出力装置612等が接続される。
【0063】
判別部670は、第1指標判別部606、第2指標判別部607、第3指標判別部608、第4指標判別部609を少なくとも含み、通常は更に第1指標情報取得部602、第2指標情報取得部603、第3指標情報取得部604、第4指標情報取得部605を含む。
【0064】
記憶部601は、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標選別基準条件、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標選別基準条件、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標選別基準条件、及び、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標選別基準条件、並びに、これらの条件のうち、選別される胚が満足すべき条件の個数Nに関する情報を記憶する。これらの情報は、予め記憶部601に記憶される。
【0065】
「受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標選別基準条件」とは、具体的には、上記の条件dが挙げられる。胚選別装置600がウシの胚の選別に用いられる場合、条件dは、好ましくは、「受精から第一卵割が完了するまでの時間が27時間以下であること」という条件、又は「受精から第一卵割が完了するまでの時間が26時間以下であること」という条件である。
【0066】
「第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標選別基準条件」とは、具体的には、上記の条件aが挙げられる。
【0067】
「第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標選別基準条件」とは、具体的には、上記の条件bが挙げられる。
【0068】
「初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標選別基準条件」とは、具体的には、上記の条件cが挙げられる。胚選別装置600がウシの胚の選別に用いられる場合、条件cは、好ましくは、「初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量が単一胚あたり0.91×10-14 mol s-1以上であること」という条件、又は「初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量が単一胚あたり1.11×10-14 mol s-1以上であること」という条件である。
【0069】
第1指標情報取得部602は、候補胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標情報を取得して、第1指標判別部606に入力する。第1指標情報は、具体的には、候補胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間(第一卵割時間)を示すデータであってもよいし、前記第1指標選別基準条件において規定される第一卵割時間の閾値の時点での第一卵割の完了の有無を示すデータであってもよい。第1指標情報は、入力装置611を介してユーザーにより第1指標情報取得部602へ入力されてもよいし、後述するように第1画像解析部から入力されてもよい。
【0070】
第1指標判別部606は、候補胚の第1指標情報が、記憶装置601に記憶された第1指標選別基準条件を満足するか否かを判別する。具体的には、候補胚の第一卵割時間が、第1指標選別基準条件における第一卵割時間の閾値以下である場合(或いは、候補胚の第一卵割の完了が、第一卵割時間の閾値の時点で確認された場合)に、第1指標選別基準条件を満足すると判別し、候補胚の第一卵割時間が、第1指標選別基準条件における第一卵割時間の閾値よりも大きい場合(或いは、候補胚の第一卵割の完了が、第一卵割時間の閾値の時点で確認されなかった場合)に、第1指標選別基準条件を満足しないと判別する。
【0071】
第2指標情報取得部603は、候補胚の、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標情報を取得して、第2指標判別部607に入力する。第2指標情報は、具体的には、候補胚の、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での割球数を示すデータと、フラグメンテーションの有無を示すデータとを含む。第2指標情報は、入力装置611を介してユーザーにより第2指標情報取得部603へ入力されてもよいし、後述するように第2画像解析部から入力されてもよい。
【0072】
第2指標判別部607は、候補胚の第2指標情報が、記憶装置601に記憶された記憶された第2指標選別基準条件を満足するか否かを判別する。具体的には、候補胚の第一卵割後かつ第二卵割前の段階での割球数が、第2指標選別基準条件に規定される割球数の範囲内あって、なお且つ、同段階でフラグメンテーションがない場合に、第2指標選別基準条件を満足すると判別し、その他の場合には第2指標選別基準条件を満足しないと判別する。
【0073】
第3指標情報取得部604は、候補胚の、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標情報を取得して、第3指標判別部608に入力する。第3指標情報は、具体的には、候補胚の、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での割球数を示すデータと、フラグメンテーションの有無を示すデータとを含む。第3指標情報は、入力装置611を介してユーザーにより第3指標情報取得部604へ入力されてもよいし、後述するように第3画像解析部から入力されてもよい。
【0074】
第3指標判別部608は、候補胚の第3指標情報が、記憶装置601に記憶された記憶された第3指標選別基準条件を満足するか否かを判別する。具体的には、候補胚の第三卵割後かつ第四卵割前の段階での割球数が、第3指標選別基準条件に規定される割球数の範囲内あって、なお且つ、同段階でフラグメンテーションがない場合に、第3指標選別基準条件を満足すると判別し、その他の場合には第3指標選別基準条件を満足しないと判別する。
【0075】
第4指標情報取得部605は、候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標情報を取得して、第4指標判別部609に入力する。第4指標情報は、具体的には、候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量の値を示すデータを含む。第4指標情報は、入力装置611を介してユーザーにより第4指標情報取得部605へ入力されてもよいし、後述するように酸素消費量測定装置から入力されてもよい。
【0076】
第4指標判別部609は、候補胚の第4指標情報が、記憶装置601に記憶された記憶された第4指標選別基準条件を満足するか否かを判別する。具体的には、候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量の値が、第4指標選別基準条件に規定される酸素消費量の閾値以上である場合に第4指標選別基準条件を満足すると判別し、候補胚の前記酸素消費量の値が前記閾値よりも小さい場合に第4指標選別基準条件を満足しないと判別する。
【0077】
解析部610は、第1指標判別部606、第2指標判別部607、第3指標判別部608、第4指標判別部609の結果に基づき、第1指標選別基準条件、第2指標選別基準条件、第3指標選別基準条件、及び第4指標選別基準条件のうち、候補胚が満足する条件の個数が、記憶された個数N以上であるか否かを判別し、N以上である場合に当該候補胚を選別すべき胚(「良」)と結論付け、N未満である場合に当該候補胚を選別すべきでない胚(「不良」)と結論付ける。
【0078】
解析部610は解析結果を生成する。生成された解析結果は、出力装置612を介して出力することができる。出力装置612はディスプレイやプリンター等の任意の形態であればよい。解析結果は記憶部601に記憶されてもよい。出力又は記憶される解析結果は例えば以下の項目を含むことができる:
・候補胚を特定する情報(座標等により位置を示す情報)
・良/不良解析結果
・第1指標情報
・第2指標情報
・第3指標情報
・第4指標情報
・第1指標情報に基づく判別結果
・第2指標情報に基づく判別結果
・第3指標情報に基づく判別結果
・第4指標情報に基づく判別結果
【0079】
本発明の胚選別装置に入力される第1指標情報、第2指標情報、及び第3指標情報は、所定の段階において撮像された候補胚の画像に基づいて、ユーザーによる判断又は画像処理技術により生成することができる。
【0080】
本発明の胚選別装置は、第1指標情報、第2指標情報、及び/又は第3指標情報を生成するために参照される画像を抽出するための構成を更に備えることができる。当該構成を備えた胚選別装置の実施形態の一例を、図7及び図8に示す。図7及び8において符号701〜712、770、801〜812、870で示される構成は図6における符号601〜612、670で示される構成と同様の特徴を有するので説明を省略する。
【0081】
図7に示す胚選別装置700は、第1指標情報、第2指標情報、及び第3指標情報を生成するために参照される画像を抽出する画像抽出部780を備える。画像抽出部780は、第1画像抽出部721と、第2画像抽出部722と、第3画像抽出部723とを少なくとも備え、通常は更に画像取得部720を備える。
【0082】
画像取得部720は、ビデオカメラ等の撮像装置により撮像された候補胚の画像データを取得し、第1画像抽出部721、第2画像抽出部722、第3画像抽出部723に入力する。画像は動画であっても静止画であってもよい。
【0083】
第1画像抽出部721は、取得された候補胚の画像から、第1指標選別基準条件における、受精から第一卵割が完了するまでの時間の閾値の時点における候補胚の画像、又は、第一卵割の完了時点を確認可能な画像を抽出する。第1画像抽出部721は必要に応じて記憶部701に記憶された閾値の情報を参照することができる。抽出された画像は出力装置712によりユーザーが目視により判別可能な画像として出力されることができる。ユーザーは目視による判別により第1画像抽出部721により抽出された画像に基づいて第1指標情報を生成し、該情報を、入力装置711を介して第1指標情報取得部702に入力することができる。
【0084】
第2画像抽出部722は、取得された候補胚の画像から、第一卵割後かつ第二卵割前の段階の画像を抽出する。候補胚についての「第一卵割後かつ第二卵割前の段階」に対応する時間の情報は記憶部701に記憶されていることができ、第2画像抽出部722は必要に応じてこの時間の情報を参照することができる。抽出された画像は出力装置712によりユーザーが目視により判別可能な画像として出力されることができる。ユーザーは目視による判別により第2画像抽出部722により抽出された画像に基づいて第2指標情報を生成し、該情報を、入力装置711を介して第2指標情報取得部703に入力することができる。
【0085】
第3画像抽出部723は、取得された候補胚の画像から、第三卵割後かつ第四卵割前の段階の画像を抽出する。候補胚についての「第三卵割後かつ第四卵割前の段階」に対応する時間の情報は記憶部701に記憶されていることができ、第3画像抽出部723は必要に応じてこの時間の情報を参照することができる。抽出された画像は出力装置712によりユーザーが目視により判別可能な画像として出力されることができる。ユーザーは目視による判別により第3画像抽出部723により抽出された画像に基づいて第3指標情報を生成し、該情報を、入力装置711を介して第3指標情報取得部704に入力することができる。
【0086】
画像に基づいた第1指標情報、第2指標情報、及び第3指標情報の生成は、画像解析処理ソフトウェア等を用いて自動的に実行されることもできる。この実施形態の一例を図8に示す。図8中、符号820〜823,880で示す構成は図7中の符号720〜723,780で示す構成と同様の特徴を有する。胚判別装置800は画像解析部890を更に備える。画像解析部890は、画像抽出部880において抽出された画像に基づいて画像解析処理を行い、第1指標情報、第2指標情報、及び/又は第3指標情報を生成し、判別部870に入力する。画像解析部890は第1画像解析部831、第2画像解析部832、及び第3画像解析部833を含む。第1画像抽出部821、第2画像抽出部822、第3画像抽出部823により抽出された画像は、それぞれ第1画像解析部831、第2画像解析部832、第3画像解析部833に入力される。第1画像解析部831、第2画像解析部832、第3画像解析部833はそれぞれ、画像解析処理により第1指標情報、第2指標情報、及び第3指標情報を生成し、第1指標情報取得部802、第2指標情報取得部803、第3指標情報取得部804に入力する。画像解析処理により生成された第1指標情報、第2指標情報、及び第3指標情報の、第1指標情報取得部802、第2指標情報取得部803、第3指標情報取得部804への入力前に、各指標情報が出力装置812に出力され、当該各指標情報を、ユーザーが、第1画像抽出部821、第2画像抽出部822、第3画像抽出部823から出力装置812に出力された抽出画像と対比して妥当性を検証し、妥当であると判断されれば各指標情報が第1指標情報取得部802、第2指標情報取得部803、第3指標情報取得部804へ入力され、妥当でないと判断されれば、胚選別装置700について説明したと同様に、ユーザーにより生成された訂正後の指標情報が入力装置811を介して第1指標情報取得部802、第2指標情報取得部803、第3指標情報取得部804へ入力されるように構成されていてもよい。
【0087】
本発明の胚選別装置は、撮像装置及び酸素消費量測定装置と組み合わされた、受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別システムを構成することができる。図7及び図8に示す胚選別システム740、840はその実施形態の一例である。
【0088】
胚選別システム740、840は胚選別装置700、800と、撮像装置750、850と、酸素消費量測定装置760、860とを少なくとも備える。
【0089】
撮像装置750、850は、候補胚を撮像し、撮像された画像を画像取得部720、820へと出力する。撮像装置750、850は、必要に応じて顕微鏡対物レンズと組み合わされて、体外培養時の候補胚の動画又は静止画を撮像可能なものであれば特に限定されないが、具体例としてはデジタルビデオカメラが挙げられる。
【0090】
酸素消費量測定装置760、860は、受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量を測定し、測定された酸素消費量値を第4指標情報取得部705、805へと出力する。酸素消費量測定装置760、860は特に限定されないが、具体的に上述したような、単一胚あたりの酸素消費量を測定することが可能な装置を用いることができる。
【0091】
図9は、Mが3である場合の胚選別装置900の機能構成を表す概略ブロック図である。判別部970は図6を参照して説明した第1指標判別部606、第2指標判別部607、第3指標判別部608、第4指標判別部609から選ばれる任意の3つである、第M1指標判別部905、第M2指標判別部906、第M3指標判別部907を含む。ここでM1、M2、M3は相互排他的に1、2、3、4から選択される整数である。胚選別装置900の好適な一実施形態では、M1、M2、M3がそれぞれ2、3、4である。
【0092】
図10は、Mが2である場合の胚選別装置1000の機能構成を表す概略ブロック図である。判別部1070は図6を参照して説明した第1指標判別部606、第2指標判別部607、第3指標判別部608、第4指標判別部609から選ばれる任意の2つである、第M1指標判別部1004、第M2指標判別部1005を含む。ここでM1、M2は相互排他的に1、2、3、4から選択される整数であり、好ましくは2、3、4から選択される整数である。
【0093】
図11には、図7に示す胚選別装置700、胚選別システム740をM=3に変更した一実施形態である胚選別装置1100、胚選別システム1140を示す。
【0094】
図12には、図8に示す胚選別装置800、胚選別システム840をM=3に変更した一実施形態である胚選別装置1200、胚選別システム1240を示す。
【0095】
胚選別装置1100及び1200は、胚選別装置900においてM1=2, M2=3, M3=4である場合の例であるが、これには限定されない。
【0096】
本発明の胚選別装置により胚を選別する方法を、図13〜22に示すフローチャートを参照して説明する。以下の説明では便宜上、M=4、3、2である場合の胚判別装置の代表例として胚判別装置600、900、1000をそれぞれ参照する。
【0097】
なお以下の説明においてM1…MMは相互排他的に1…M (Mは2、3、又は4の整数である)の整数からなる群から選択される整数を意味する。
【0098】
図20は、胚判別装置600, 900, 1000により胚を選別する方法の概要を示す。判別部670,970,1070は、候補胚についての取得された第M1指標情報〜第MM指標情報が、対応する指標選別基準条件を満足するか否かを判別する(S2001)。次に、解析部610,908,1006は、S2001において満足すると判別された条件の個数が、N個以上であるか否かを解析(S2002)し、N個以上であれば選別すべき胚であることを示す「良」判定の結果を出力(S2003)し、N個未満であれば選別すべき胚でないことを示す「不良」判定の結果を出力(S2004)して処理を終える。
【0099】
図21は図7及び図11に示す、画像抽出部780,1180を備えた胚選別装置700,1100を用いた胚の選別方法の概要を示す。この方法では画像抽出部780,1180により、取得された候補胚の画像から、第1〜第3指標情報のうち必要な情報を生成するために必要な所定の画像が抽出される(S2101)。次いで、抽出された当該所定の画像に基づいて生成された第1〜第3指標情報及び/又は別途生成された第4指標情報のうち所定の情報が、判別部770, 1170により取得(S2102)される。続いて、上述のS2001〜S2004が行われる。
【0100】
図22は図8及び図12に示す、画像解析部890, 1290を更に備えた胚選別装置800,1200を用いた胚の選別方法の概要を示す。この方法では上述のS2101により抽出された所定の画像に基づき、画像解析部890, 1290により、第1〜第3指標情報のうち所定の情報が生成され、判別部870, 1270に入力される。続いて、上述のS2101、S2001〜S2004が行われる。
【0101】
図20に示すS2001〜S2004の判別・解析工程は2つの様式に大別することができる。一つの様式では、図13に示すように、第Mm指標判別工程(ここでmは1〜Mから選択される整数である)をm=1からm=Mまで実行することにより、M個の条件の満足性についての判別を全て完了した後(S1301)に、解析工程S1302を実行する。この方法は、候補胚についての必要な指標情報が全て取得された後に判別工程及び解析工程を行う場合に適している。もう一つの様式では、図14〜19に示すように、M個の条件全部の満足性についての判別の完了を待つことなく、N個の条件が満足された時点で「良」判定の結果を出力し、N個の条件が満足され得ないことが確定した時点で「不良」の結果を出力して処理を終了する。後者の様式は、候補胚についての必要な指標情報を経時的に取得しながら、判別工程及び解析工程を行う場合に適している。
【0102】
そこで図13のフローチャートに示される胚の選別方法について説明する。判別部670,970,1070内の第Mm指標判別部により、取得された候補胚の第Mm指標情報が、対応する第Mm指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第Mm指標判別工程を、第M1指標判別工程から第MM指標判別工程まで順に実行する(S1301)。ここでS1301は、第1指標判別工程、第2指標判別工程、第3指標判別工程、及び、第4指標判別工程のうちのM個の工程を、任意の順序で実行することを意味する。次に、解析部610,908,1006は、S1301(第M1指標判別工程〜第MM指標判別工程)において満足すると判別された条件がN個以上であるか否かを解析(S1302)し、N個以上であれば選別すべき胚であることを示す「良」判定の結果を出力(S1303)し、N個未満であれば選別すべき胚でないことを示す「不良」判定の結果を出力(S1304)して処理を終える。
【0103】
次に、図14〜19のフローチャートに示される胚の選別方法について説明する。これらの方法では、第Mm指標判別工程(ここでmは1〜Mから選択される整数である)をm=1から順次実行し、第M1指標判別工程から第Mm指標判別工程において判別されたm個の条件のうち、満足されると判別された条件の数(x)がNである場合(x=Nの場合)には第Mm+1指標判別工程以降に進むことなく「良」判定の結果を出力して処理を終了し、満足されると判別された条件の数(x)がN未満であって、かつ、仮に第Mm+1指標判別工程から第MM指標判別工程までの全ての工程にて判別される条件が満足されるとしても合計でN個の条件が満足され得ないことが確定する場合(x<N かつ x+(M-m)<Nの場合)には「不良」の結果を出力して処理を終了し、いずれにも該当しない場合(x<N かつ N ≦x+(M-m)の場合)には第Mm+1指標判別工程に進む。
【0104】
図14は胚選別装置600(M=4)による、解析工程での閾値をN=2とした場合の例を示す。S1401は第M1指標判別部が行う第M1指標判別工程を、S1402及びS1403は第M2指標判別部が行う第M2指標判別工程を、S1404、S1405及びS1406は第M3指標判別部が行う第M3指標判別工程を、S1407、S1408及びS1409は第M4指標判別部が行う第M4指標判別工程を示す。第M1指標判別部、第M2指標判別部、第M3指標判別部、第M4指標判別部は、判別部670に含まれる第1指標判別部606、第2指標判別部607、第3指標判別部608及び第4指標判別部609から相互排他的に選択される。S1410、S1412及びS1414は解析部610が「良」判定の結果を出力する工程を示す。S1411、S1413及びS1415は解析部610が「不良」判定の結果を出力する工程を示す。S1401にて第M1指標選別基準条件が満足される場合(x,m=1,1、x<N かつ N ≦x+(M-m))にS1402に進み、満足されない場合(x,m=0,1、x<N かつ N ≦x+(M-m))にS1403に進む。S1402にて第M2指標選別基準条件が満足される場合(x,m=2,2、x=N)にはS1410に進み、満足されない場合(x,m=1,2、x<N かつ N ≦x+(M-m))にはS1404に進む。S1404にて第M3指標選別基準条件が満足される場合(x,m=2,3、x=N)にはS1410に進み、満足されない場合(x,m=1,3、x<N かつ N ≦x+(M-m))にはS1407に進む。S1407にて第M4指標選別基準条件が満足される場合(x,m=2,4、x=N)にはS1410に進み、満足されない場合(x,m=1,4、x<N かつ x+(M-m)<N)にはS1411に進む。S1403にて第M2指標選別基準条件が満足される場合(x,m=1,2、x<N かつ N ≦x+(M-m))にS1405に進み、満足されない場合(x,m=0,2、x<N かつ N ≦x+(M-m))にS1406に進む。S1405にて第M3指標選別基準条件が満足される場合(x,m=2,3、x=N)にはS1412に進み、満足されない場合(x,m=1,3、x<N かつ N ≦x+(M-m))にはS1408に進む。S1408にて第M4指標選別基準条件が満足される場合(x,m=2,4、x=N)にはS1412に進み、満足されない場合(x,m=1,4、x<N かつ x+(M-m)<N)にはS1413に進む。S1406にて第M3指標選別基準条件が満足される場合(x,m=1,3、x=N)にはS1409に進み、満足されない場合(x,m=0,3、x<N かつ x+(M-m)<N)にはS1415に進む。S1409にて第M4指標選別基準条件が満足される場合(x,m=2,4、x=N)にはS1414に進み、満足されない場合(x,m=1,4、x<N かつ x+(M-m)<N)にはS1415に進む。
【0105】
図15は胚選別装置600(M=4) を用いる胚選別方法において、解析工程での閾値をN=3とした場合の動作の一実施形態を示す。図16は胚選別装置600(M=4) を用いる胚選別方法において、解析工程での閾値をN=4とした場合の動作の一実施形態を示す。図15及び16では、図14と同様に、S1501及び1601は第M1指標判別部が行う第M1指標判別工程を、S1502、S1503、S1602は第M2指標判別部が行う第M2指標判別工程を、S1504、S1505、S1506及びS1603は第M3指標判別部が行う第M3指標判別工程を、S1507、S1508、S1509及びS1604は第M4指標判別部が行う第M4指標判別工程を示す。S1510、S1512、S1514及びS1605は解析部610が「良」判定の結果を出力する工程を示す。S1511、S1513、S1515及びS1606は解析部610が「不良」判定の結果を出力する工程を示す。
【0106】
図17は胚選別装置900(M=3) を用いる胚選別方法において、解析工程での閾値をN=2とした場合の動作の一実施形態を示す。図18は胚選別装置900(M=3) を用いる胚選別方法において、解析工程での閾値をN=3とした場合の動作の一実施形態を示す。図17及び18では、S1701及びS1801は第M1指標判別部905が行う第M1指標判別工程を、S1702、S1703及びS1802は第M2指標判別部906が行う第M2指標判別工程を、S1704、S1705及びS1803は第M3指標判別部907が行う第M3指標判別工程を示す。S1706、S1708及びS1804は解析部908が「良」判定の結果を出力する工程を示す。S1707、S1709及びS1805は解析部908が「不良」判定の結果を出力する工程を示す。
【0107】
図19は胚選別装置1000(M=2)を用いる胚選別方法において、解析工程での閾値をN=2とした場合の動作の一実施形態を示す。図19では、S1901は第M1指標判別部1004が行う第M1指標判別工程を、S1902は第M2指標判別部1005が行う第M2指標判別工程を示す。S1903は解析部1006が「良」判定の結果を出力する工程を示す。S1904は解析部1006が「不良」判定の結果を出力する工程を示す。
【0108】
図23a〜23dでは、一例として、胚選別装置900(ただしM1=2、M2=3、M3=4とする)を用いて、図17に示すフローチャート(M=3, N=2)に従いウシの胚の選別を行う方法を具体的に示す。
【0109】
複数の候補胚をまとめて処理する場合には、各候補胚を特定するアドレスを割り振ることができる。例えば行列状に並んだ複数のウェル(凹穴部)を備えるマルチウェルプレートの各ウェル内に候補胚を収容する場合、各候補胚をウェルの座標(行,列)により特定することができる。1つのウェルに1つの候補胚が収容される場合には胚の個別管理が容易であるが、1つのウェルに複数の候補胚が収容されてもよい。後者の場合は1つのウェル内の各胚に更にID番号を付与して区別することができる。
【0110】
図23a〜23dの例における各選別基準条件及び指標情報は以下の通りである。
第2指標判別基準条件: 受精31時間後(初期卵割終了時)において2細胞であり、且つ、フラグメンテーションが観察されないこと
第3指標選別基準条件: 受精55時間後(第三卵割終了時)において5細胞、6細胞、7細胞、8細胞のいずれかであり、且つ、フラグメンテーションが観察されないこと
第4指標選別基準条件: 受精168時間後(初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期)の、単一胚あたりの酸素消費量が0.91×10-14 mol s-1以上であること
第2指標情報: 受精31時間後における細胞数、及び、フラグメンテーションの有無
第3指標情報: 受精55時間後における細胞数、及び、フラグメンテーションの有無
第4指標情報: 受精168時間後における単一胚あたりの酸素消費量
【0111】
個別の候補胚を特定する情報(行、列、ID番号)を記憶部901に格納する(図23a)。第2指標取得部902により取得された第2指標情報が第2指標選別基準条件を満足するか否かの第2指標判別部905による判別を行い、第2指標情報及び判別結果を格納する(図23b)。O.K.は第2指標選別基準条件を満足することを示し、NGは該条件を満足しないことを示す。O.K.、NGはそれぞれ1、0等の数値に置き換えて表してもよい。次に第3指標取得部903により取得された第3指標情報が第3指標選別基準条件を満足するか否かの第3指標判別部906による判別を行い、第3指標情報及び判別結果を格納する(図23c)。第3指標判別工程終了時点で2つの条件を満足する候補胚を良品と結論付け(図17のフローチャートをS1701, S1702, S1706の順に辿る)、解析結果を記憶部901に格納する。第3指標判別工程終了時点で2つの条件をともに満足しない候補胚は不良品と結論付け(図17のフローチャートをS1701, S1703, S1709の順に辿る)、解析結果を記憶部901に格納する。次に第3指標判別工程終了時点で1つの条件を満足する候補胚については、更に第4指標取得部904により取得された第4指標情報が第4 指標選別基準条件を満足するか否かの第4指標判別部907による判別を行い、第4指標情報及び判別結果を格納する(図23d)。2つの条件を満足する候補胚は良品と結論付け、1つの条件のみを満足する候補胚は不良品と結論付け、解析結果を記憶部901に格納する。
【0112】
本発明の胚選別システムのハードウェアの構成の好適な一実施形態を図24に模式的に示す。胚選別装置は中央演算処理装置(CPU)とハードディスクドライブ(HDD)とを備えたコンピュータ2401により構成される。撮像装置は電荷結合素子(CCD)2404と、胚を観察可能な対物レンズ2405を備える。胚を培養するための培養容器2407はステージ2408上に設置される。撮像装置(2404,2405)とステージ2408との相対的な位置を制御して、撮像装置による培養容器2407内の撮影位置を位置決めする位置制御機構2409を更に備えることが好ましい。撮像装置(2404,2405)は、撮像時の対物レンズ2405による視野内に単一の候補胚が含まれるように位置制御されてもよいし、複数の候補胚が含まれるように位置制御されてもよい。コンピュータ2401には撮像装置(2404,2405)、酸素消費量測定装置2406、表示インターフェース2402及び入力インターフェース2403が接続される。
【0113】
本発明の胚選別装置の各機能は、該機能を実現するソフトウェアのプログラムコードによっても実現できる。この場合、プログラムコードを記録した記憶媒体を本発明のシステム又は装置に提供し、該システム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出す。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が前記機能を実現することになり、そのプログラムコード自体、及びそれを記憶した記憶媒体は本発明を構成する。このようなプログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROMなどが用いられる。
【0114】
また、プログラムコードの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)などが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前記機能が実現されるようにしてもよい。さらに、記憶媒体から読み出されたプログラムコードが、コンピュータ上のメモリに書きこまれた後、そのプログラムコードの指示に基づき、コンピュータのCPUなどが実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって前記機能が実現されるようにしてもよい。
【0115】
また、前記機能を実現するソフトウェアのプログラムコードがネットワークを介して配信されることにより、システム又は装置のハードディスクやメモリ等の記憶手段又はCD-RW、CD-R等の記憶媒体に格納され、そのシステム又は装置のコンピュータ(又はCPUやMPU)が当該記憶手段や当該記憶媒体に格納されたプログラムコードを読み出して実行することにより前記機能が実現されるようにしてもよい。
【0116】
以下実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。ただし本発明の実施形態、使用する材料及び器具は、実施例に示す具体例には限定されない。
【実施例】
【0117】
<実験1: 本発明の指標と受胎率の関係>
<材料及び方法>
<培養容器>
本実験では底壁2と、その外周に立設された側壁1とを備える35mm培養皿の中心に25個の微小ウェル4からなる細胞収容部3と、細胞収容部3の周囲を囲む環状の内壁5とが形成された、図1a〜1fに示す培養容器10を用いた。細胞収容部3を構成する各微小ウェル4の直径rは270μmであり、深さLは150μmである。25個の微小ウェル4は5行5列に、ウェル間の間隔aが150μmとなるように配置されている。各微小ウェルの底面6は、外周部から中心に向けて下るように傾斜して、円錐面を形成しており、円錐の中心線と母線とのなす角αが83°である。環状の内壁は直径が7mm、高さが1.5mmである。内壁5は直径dが7mm、高さが1.5mmであり、培養液の液滴を形成するために用いた。
【0118】
当該培養容器はポリスチレン製であり、通常の射出成形法により製造されたものを用いた。
【0119】
<卵母細胞の採取と体外成熟 (In Vitro Maturation, IVM)>
ウシの卵丘-卵母細胞複合体 (COCs)の採取と体外成熟はImaiらの文献(Imai K, Tagawa M, Yoshioka H, Matoba S, Narita M, Inaba Y, Aikawa Y, Ohtake M, Kobayashi S (2006) The efficiency of embryo production by ovum pick-up and in vitro fertilization in cattle. J Reprod Dev 52(suppl): 19-29)に記載の手順に沿って行った。黒毛和種雌牛 (Japanese Black heifers) 又はホルスタイン(Holsteins)から採取された卵巣を、50μg/mlゲンタマイシン(Sigma Chemical, St Louis, MO, USA)が添加された生理的食塩水により洗浄し、該生理的食塩水中で20℃にて約20時間保持した。19ゲージの針を備えた5mLシリンジを用いてCOCsを卵胞 (直径2-6 mm)から吸引し、体外成熟に用いた。体外成熟用媒体として、5%仔ウシ血清(CS; Gibco BRL)が添加された25mM Heptes緩衝TCM199 (M199; Gibco BRL, Grand Island, NY, USA)を用いた。COCsを、35-mmペトリディッシュ(Nunclon Multidishes; Nalge Nunc International, Roskide, Denmark) 中にて、飽和湿度の5% CO2 / 95% 空気の下、パラフィンオイルにより被覆された体外成熟用媒体により2回洗浄した。
【0120】
<体外受精 (In vitro Fertilization, IVF)>
上記Imaiらの文献に記載の手順に従い体外受精を行った。具体的には、0.5 ml ストロー中の凍結された黒毛和種雄牛 (Japanese Black bull)の精子サンプルを、37℃湯浴中で30秒間解凍し、次いで、90%Percoll溶液3ml中で2100×gにて10分間遠心処理した。遠心処理により形成されたペレットを6 mlの精子洗浄用液(10 mM ヒポタウリン (Sigma), 2 U/mL ヘパリン(Novo-Heparin Injection 1000; Aventis Pharma Ltd., Tokyo, Japan), 10 mg/ml ウシ血清アルブミン(BSA, 結晶化及び凍結乾燥されたもの; Sigma)が添加されたBrackett and Oliphant solution (BO溶液)(文献:Brackett BG, Oliphant G (1975) Capacitation of rabbit spermatozoa in vitro. Biol Reprod 12: 260-274参照))中に再懸濁させ、遠心処理して、最終濃度を3×106 精子/mlとした。この懸濁液の100μLの液滴を35-mm皿に形成させ、パラフィンオイルで被覆して、受精用液滴とした。COCsを、前記体外成熟用媒体から分離し、10 mg/ml BSAが添加されたBO溶液により洗浄し、各液滴あたり20個のCOCsが含まれるように受精用液滴中に加え、飽和湿度の5% CO2/ 95% 空気の下、38.5℃にて6時間培養した。
【0121】
<培養容器の前処理>
殺菌のために培養容器10に2mlのエタノールを添加した。30分後、培養容器からエタノールを除去し、加温プレート上にて空気中で乾燥させ、10分間紫外線殺菌を行った。殺菌後、5% CS が添加された125μl CR1aa媒体を環状の内壁5に囲まれた領域に加え、パラフィンオイルで被覆した。微小ウェル4内の気泡は、容器を外側から叩くことにより追い出した。培養容器は使用前に少なくとも3時間プレインキュベートした。
【0122】
<体外培養 (In Vitro Culture, IVC)>
飽和湿度の5% CO2 / 5% O2 /90% N2の下、5% CS が添加された125μl CR1aa媒体中で、38.5℃にて168時間体外培養を行った。この試験系では培養密度は胚1つあたり5μlである。この培養密度が胚盤胞期までの発生にとり最も有利であることがFujitaらの文献(Fujita T, Umeki H, Shimura H, Kugumiya K, Shiga K (2006) Effect of group culture and embryo-culture conditioned medium on development of bovine embryos. J Reprod Dev 52: 137-142)により報告されている。受精後に、プレインキュベートされた体外培養用媒体中で微細ガラスピペットにより穏やかにピペッティングすることにより、接合子と考えられる細胞を、卵丘細胞及び精子から完全に分離させた。25個の接合子を、培養容器の微小ウェル4内の液滴中に、1つの微小ウェル4に1つの接合子が配置されるように配置した。
【0123】
<単一胚あたりの酸素消費量の測定>
個別の胚による酸素消費量をSECMシステム(HV-405; 北斗電工株式会社)により非侵襲的に測定した(Abe H, Hoshi H (2003) Evaluation of bovine embryos produced in high performance serum-free media. J Reprod Dev 49: 193-202、及び、Shiku H, Shiraishi T, Ohya H, Matsue T, Abe H, Hoshi H, Kobayashi M (2001) Oxygen consumption of single bovine embryos probed by scanning electrochemical microscopy. Anal Chem 73: 3751-3758参照)。胚を1つずつ、5mlの胚呼吸アッセイ用媒体2(embryo respiration assay medium-2) (ERAM-2; 株式会社機能性ペプチド研究所製) が満たされたプレート中に移し、微小ウェルの底に沈降させた。プレートを顕微鏡ステージ上の加温プレートに載せてERAM-2液の温度を38.5℃に保持した。酸素消費量の測定は、上記Shiku H らの文献に記載の方法により行った。XYZステージとポテンショスタットはコンピュータにより制御した。ERAM-2液中のPt-マイクロディスク電極(北斗電工株式会社)のボルタンメトリーは、電流電位曲線を示す。胚の表面近傍では、他の電気化学的に活性な化学種からの応答は観察されなかった。胚の酸素消費速度はソフトウェアを用いて算出した。このソフトウェアは、バルク溶液と胚試料表面との間の酸素消費量の差(ΔC)と、1つの胚試料の酸素消費速度 (F, 単位: mol s-1)を球面拡散理論(上記Shiku H らの文献)により推定することができる。前後させて2度電極をスキャンし、各胚試料についてΔCの平均値を推定した。
【0124】
<Time-lapse cinematography TLCを用いた胚の形態の評価>
卵割状態および胚の形態をSomfai Tらの文献(Somfai T, Inaba Y, Aikawa Y, Ohtake M, Kobayashi S, Konishi K, Imai K (2009) Relationship Between the Length of Cell Cycles, Cleavage Pattern and Developmental Competence in Bovine Embryos Generated by In Vitro Fertilization or Parthenogenesis. J Reprod Dev 56: 200-207)の記載に沿って評価した。胚を、飽和湿度の5% CO2 / 5% O2/90% N2の下、38.5℃にて培養した。発生を、リアルタイムCulture Cell Monitoring System (CCM-M1.4Z; 株式会社アステック)を用いてモニタリングした。168時間の培養期間中に、胚の写真を、倍率4倍のplain objectiveを用いて15分間隔で673枚撮影した。蓄積された画像をCCM-M1.4 software (株式会社アステック)を用いて解析した。
【0125】
<性周期の同期と胚の移植>
レシピエントとなる黒毛和種/ホルスタイン交配種の性周期を3mlプロスタグランジンFにより同期化した。後述する指標に基づき選別された受精後7日目の胚を1つ、同期化されたレシピエントの黄体側子宮角に発情後7〜8日目に移植した。レシピエントはいずれも同様に給餌し管理して、少なくとも1日に2回、朝と夜に発情行動を観察した。
【0126】
<受胎診断>
胚移植後30日目及び60日目に超音波検査法(HS101V; 本多電子株式会社) を用いて受胎診断を行った。受胎していることは、子宮内の胎仔を観察することと、胎仔の心臓の拍動を認めることで確認した。
【0127】
<指標>
以下の指標を用いた。なお、下記指標1及び2は従来から胚の選別に用いられている。
【0128】
指標1: 受精168時間後の形態的品質がCode 1であること。
指標2: 受精168時間後に拡張胚盤胞に達していること。
指標3: 受精31時間後(初期卵割終了時)において2細胞であり、且つ、フラグメンテーションが観察されないこと。
指標4: 受精55時間後(第三卵割終了時)において5細胞、6細胞、7細胞、8細胞のいずれかであり、且つ、フラグメンテーションが観察されないこと。
指標5: 受精168時間後(初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期)の、単一胚あたりの酸素消費量が0.91×10-14 mol s-1以上であること。
【0129】
指標1において形態的品質の「Code 1」とは、Robertson I, Nelson RE (1998) Certification and identification of the embryo. In: D.A. Stringfellow and S.M. Seidel, Editors, Manual of the international embryo transfer society, IETS, Savoy, Illinois 103-116.での定義に従う。具体的には、受精168時間後の時点において、発育が正常で、形態異常(例えば卵細胞の不均整、変性)がない胚を形態的品質がCode 1であると評価する。
【0130】
<結果>
上記各指標を満足する移植胚の数と、受胎率の関係を次表に示す。なお、受胎の有無は胚移植後60日目の観察結果である。
【0131】
【表1】

【0132】
指標1及び2は移植胚の選別指標として定着しているが、それらを単独または組み合わせて満足する移植胚を用いても受胎率は50%以下であった。受精168時間後の胚の形態のみに基づく従来の判断指標は、受胎率の高い移植胚を選別するうえでは必ずしも十分ではないことがわかる。
【0133】
指標3、4、5の1つを満足する移植胚の受胎率は高くても63.6%であった。
指標1及び2の一方又は両方と、指標3、4、5の1つとを組み合わせて満足する移植胚であっても、受胎率はいずれも70%未満であった。
【0134】
ところが驚くべきことに、指標3、4、5のうち少なくとも2つを組み合わせて満足する移植胚の受胎率は70%または80%であることが確認された。
【0135】
以上の結果から指標3、4、5のうち少なくとも2つを組み合わせて移植胚の選別指標として用いることにより、特異的に高い受胎率を実現することができると結論付けられた。
【0136】
<実験2: 予備検討>
上記指標3〜5は、実験1の前に実施された予備検討の結果から、受胎率の高い胚であることを予測する因子として有用であることが予測されていた。以下、予備検討の手順および結果を示す。
本実験において用いた胚はウシ (Bos taurus) の胚である。
【0137】
<予測指標の候補>
以下の指標を予測因子の候補とした。
【0138】
受精31時間後(初期卵割終了時):割球数、割球の均一性、フラグメンテーションの有無。
受精55時間後(第三卵割終了時):割球数、割球の均一性、フラグメンテーションの有無。
受精168時間後(初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期):胚盤胞のステージ(拡張胚盤胞まで到達しているか否か)、酸素消費量。
【0139】
<評価方法>
胚の総細胞数、内部細胞塊(inner cell mass, ICM)細胞数、栄養外胚葉(trophectoderm, TE)細胞数、ICM細胞率、透明帯脱出(ハッチング)率と、胚移植時の受胎率とは正の相関を示すことが知られている。
【0140】
胚のアポトーシス陽性細胞率と、胚移植時の受胎率とは負の相関を示すことが知られている。
【0141】
そこで、上記の指標と、胚の総細胞数、ICM細胞数、TE細胞数、ICM細胞率、アポトーシス陽性細胞率、胚の透明帯脱出率との相関関係を調べ、予測因子として有用であるか否かを確認した。
【0142】
胚を得るための体外培養の手順、卵割状態の観察方法および酸素消費量の測定手順は実験1と同様である。
【0143】
細胞数、アポトーシス陽性細胞率、透明帯脱出率、割球の不均一性は以下の手順で測定した。
【0144】
<細胞数の測定>
胚における細胞の分布を、Thouasらの文献(Thouas GA, Korfiatis NA, French AJ, Jones GM, Trounson AO (2001) Simplified technique for differential staining of inner cell mass and trophectoderm cells of mouse and bovine blastocysts. Reprod Biomed Online 3: 25-29.)の手順に従って、ICMとTEとの分染法を行い評価した。
【0145】
この方法では、胚の細胞を、0.2%(v/v) Triton X-100イオン性界面活性剤の浸透性溶液を含む、100 μg/mlプロピジウムイオダイドフルオロクロムにより40秒間染色した。次いで胚を、99.5% エタノール中にHoechst 33342が25 μg/mlの濃度で含まれる第2溶液中で5分間インキュベートして固定化した。染色・固定後の胚の細胞数を、落射蛍光顕微鏡(IX-71; オリンパス株式会社、東京)により観察した。青い核はICM細胞を示し、ピンク〜赤の核はTE細胞を示す。ICM細胞数とTE細胞数の合計が総細胞数である。
【0146】
<アポトーシス陽性細胞率の測定>
Yamanakaらの文献(Yamanaka K, Sugimura S, Wakai T, Kawahara M, Sato E (2009) Difference in sensitivity to culture condition between in vitro fertilized and somatic cell nuclear transfer embryos in pigs. J Reprod Dev 55: 299-304)の手順に従い、TUNELアッセイによりアポトーシス陽性細胞を検出した。
【0147】
胚を、0.1% ポリビニルピロリドン(Sigma)が添加されたPBS中で3回洗浄し、2% (w/v) パラホルムアルデヒド(Sigma) および 0.2% (v/v) Triton-X (Sigma) PBS(リン酸緩衝液)溶液中で、室温にて40時間固定化した。市販のキット(ApopTag; Chemicon, Temecula, CA, USA)を用いてアポトーシス陽性細胞を検出した。ポジティブコントロール試料として、胚をDNase I (10 IU/mL, Sigma)により処理したものを用いた。
【0148】
0.1 % PVA(ポリビニルアルコール)PBSにより10分間洗浄した後、胚を上記キットの緩衝液中で20分間室温にてインキュベートした。次いで湿条件のチャンバー内で、30% (v/v)ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ及びジゴキシゲニン-11-dUTPを含有する70% (v/v) 反応緩衝液とともに37℃にて2時間インキュベートした。37℃にて10分間3% (v/v) 停止/洗浄緩衝液(Chemicon)を添加して反応を停止した。0.2% (v/v) Triton-X を含有するPBSで、各回2分間、4回洗浄した後、室温で1時間、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート化抗ジゴキシゲニン抗体とともにインキュベートした。0.2 % Triton-X および0.1% PVA PBSにより4回洗浄した後、胚をPBS中にプロピオジウムイオダイドを10 μg/mL含有する溶液により、室温にて1時間染色した。全ての試料を落射蛍光顕微鏡により観察した。胚中のアポトーシス陽性の核の数と、全ての核の数を計測した。TUNEL陽性細胞は黄色〜緑色により示される。
【0149】
<透明帯脱出率>
透明帯から完全に抜け出た胚の割合。胚の拡大像を目視して判断する。
【0150】
<割球の不均一性>
胚の拡大像を目視し、割球の大きさの不均一性を判断する。
【0151】
<結果>
各予測因子(指標)と、胚の総細胞数、ICM細胞数、TE細胞数、総細胞数に対するICM細胞数の割合(ICM%)、アポトーシス陽性細胞率、胚の透明帯脱出率との関係を重回帰分析した結果を以下にまとめる。
【0152】
ロジスティック解析により予測因子と総細胞数、ICM細胞数、TE細胞、ICM%、アポトーシス陽性細胞率および透明帯脱出の成否との関係を解析した。解析は、Applied Logistic Regression Analysis, 2nd ed (Menard 2002) に準じた。従属変数を総細胞数(連続変数),ICM細胞数(連続変数),TE細胞数(連続変数),ICM%(連続変数),アポトーシス陽性細胞率(連続変数),透明帯脱出の成否(名義変数: 成を”1”, 否を”0”とした)とした。独立変数をDay1での割球数(名義変数: 2細胞を”1”,それ以外のものは”0”とした),割球の不均一性(名義変数:不均一を”1”, 均一を”0”とした), フラグメンテーションの有無 (名義変数: フラグメンテーション有を”1”,無を”0”とした),Day2での割球数(3-4細胞) (名義変数: 3-4細胞を1,それ以外を0とした),割球数(5-8細胞) (名義変数: 5-8細胞を”1”,それ以外を”0”とした)『すなわち,3-4細胞が”1,0”,5-8細胞が”0,1”,>8細胞が”0,0”となる』,割球の均一性(Day1と同様の名義変数),フラグメンテーションの有無(Day1と同様の名義変数),Day7での拡張胚盤胞への到達の成否(名義変数: 成を”1”, 否を”0”とした),酸素消費(連続変数)とした。また、95%信頼区間に1を含まない場合、統計学的に有意とした。
【0153】
【表2】

【0154】
【表3】

【0155】
【表4】

【0156】
【表5】

【0157】
【表6】

【0158】
【表7】

【0159】
表2は、受精55時間後のフラグメンテーションの有無、168時間後の胚盤胞ステージ及び酸素消費が総細胞数と有意な相関を有することを示す。このことから、総細胞数が多い胚を選択するためには、拡張胚盤胞で酸素消費量が高く、55時間後の時点でフラグメンテーションを有していなかった胚を選択することが有効であると推定された。
【0160】
表3は、受精55時間後のフラグメンテーションの有無、168時間後の胚盤胞ステージ及び酸素消費がICM細胞数と有意な相関を有することを示す。このことから、ICM細胞数が多い胚を選択するためには、拡張胚盤胞で酸素消費量が高く、55時間後の時点でフラグメンテーションを有していなかった胚を選択することが有効であると推定された。
【0161】
表4は、受精31時間後の割球数、受精55時間後のフラグメンテーションの有無、168時間後の胚盤胞ステージ及び酸素消費がTE細胞数と有意な相関を有することを示す。このことから、TE細胞数が多い胚を選択するためには、拡張胚盤胞で酸素消費量が高く、受精31時間後の時点での発生ステージが2細胞であり、55時間後の時点でフラグメンテーションを有していなかった胚を選択することが有効であると推定された。
【0162】
表5は、受精31時間後の割球数がICM細胞率(ICM%)と有意な相関を有することを示す。このことから、ICM%が高い胚を選択するためには31時間後の時点での発生ステージが2細胞であった胚を選択することが有効であると推定された。
【0163】
表6は、受精55時間後の割球数およびフラグメンテーションの有無がアポトーシス陽性細胞率と有意な相関を有することを示す。このことから、アポトーシス陽性細胞率が低い胚を選択するためには、受精55時間後の時点で5〜8細胞期であり、かつフラグメンテーションを有していなかった胚を選択することが有効であると推定された。
【0164】
表7は、受精31時間後の割球数およびフラグメンテーションの有無、ならびに168時間後の胚盤胞ステージ及び酸素消費が透明帯からの脱出能と有意な相関を有することを示す。このことから、透明帯からの脱出能の高い胚を選択するためには、拡張胚盤胞で酸素消費量が高く、受精31時間後の時点で2細胞期でありかつフラグメンテーションを有していなかった胚を選択することが有効であると推定された。
【0165】
測定結果の一例を図2〜5に示す。
【0166】
図2は各細胞数と酸素消費との関係を示す。
【0167】
図3は、受精31時間後の第一卵割パターンとアポトーシス陽性細胞率との関係(図3(a))、受精55時間後のフラグメンテーションの有無とアポトーシス陽性細胞率との関係(図3(b))、受精55時間後の割球数とアポトーシス陽性細胞率との関係(図3(c))、受精168時間後の酸素消費量とアポトーシス陽性細胞率との関係(図3(d))を示す。
【0168】
図3(a)において、NCは2つの割球の大きさが同一でありフラグメンテーションを有さない胚を示す。MFは割球数が2であるが囲卵腔内に複数のフラグメンテーションが存在する胚を示す。UBは2つの割球の大きさが不均一である胚を示す。PTは割球数が2であるが突出部(protrusion)を有する胚を示す。3Cは1細胞期から直接3細胞や4細胞に分割した胚を示す。図4(a)及び図5においても同様である。
【0169】
図4は受精31時間後の第一卵割パターンと透明帯脱出の関係 (図4(a))、受精168時間後の胚盤胞ステージと透明帯脱出の関係 (図4(b))、受精168時間後の酸素消費と透明帯脱出の関係(図4(c))を示す。
【0170】
図4(c)の結果は、受精168時間後の単一胚あたりの酸素消費量が0.9×10-14 mol s-1以下である場合には胚の透明帯脱出能が低い(32.6%)のに対して、0.9×10-14mol s-1を超える場合には胚の透明帯脱出能が顕著に高い(87.4%)ことを示唆する。
【0171】
図5は、受精31時間後の第一卵割パターンと酸素消費との関係を示す。第一卵割パターンの違いによる酸素消費量の有意差は認められなかった。このことは、酸素消費量の測定だけでは細胞遺伝学的にも正常な(染色体異常を伴わない)胚を効率的には選択できない可能性を示唆する。
【0172】
<実験3: 第一卵割時間についての予備検討>
<染色体数>
リアルタイム細胞培養観察装置で発生過程を追跡した後、胚盤胞(初期胚盤胞もしくは拡張胚盤胞)へ達した胚の酸素消費をSECMにより解析した。なお、本実験において用いた胚はウシ (Bos taurus) の胚である。染色体の解析は、Somfaiら(2010)に準じて行った。酸素消費量を測定した後、100ng/ml vinblastine(ビンブラスチン)5%CS添加CR1aaで17時間培養し、細胞周期を分裂期(M期)で停止させた。0.4mlの1%クエン酸ナトリウムで胚を処理した後、0.02ml酢酸メタノール(1:1)を同液に注入し胚を固定した。10分後、胚をスライドグラスに乗せた。少量(1μl)の酢酸を胚に滴下した後、酢酸エタノール(1:3)で再固定した。染色体サンプルは十分風乾させた後,2%ギムザ液で10分間染色した。染色体標本は光学顕微鏡で観察した。染色体数はNIH ImageJ(v.1.40)で解析した。解析した全ての細胞が60本の染色体(58本の常染色体,2本の性染色体)を伴う胚を正常とし、それ以外を異常胚とした。タイムラプスと酸素消費量の結果から染色数に関与する要因(パラメータ)をロジスティック回帰分析により解析した。結果、第一卵割の終了時間と割球数および第3卵割終了時の割球数で有意な相関関係を示した(表8)。
【0173】
【表8】

【0174】
27.25時間以降に卵割した胚の正常胚の割合は16.7%であり、27時間以内で卵割した胚における正常胚の割合(55.0〜72.4%)と比較して、有意に低かった(表9及び図25)。
【0175】
【表9】

【0176】
<遺伝子発現>
リアルタイム細胞培養観察装置で発生過程を追跡した後、胚盤胞(初期胚盤胞もしくは拡張胚盤胞)へ達した胚の酸素消費をSECMにより解析した。なお、本実験において用いた胚はウシ (Bos taurus) の胚である。酸素消費量を測定後、50μlのRNA抽出液(Arcturus)に胚を一個ずつ入れ、42℃で30分間培養した。トータルRNAはPicoPure RNA Isolation Kit(Arcturus)を用い、メーカーの使用説明に準じて抽出した。cDNAへの逆転写にはRevaTra Ace qPCR RT Kit (Toyobo Bio)を用いた。定量リアルタイムRT-PCRはStepOnePlusTMを用いて行った。リアルタイムPCRの反応条件は以下の通り。95℃20秒の1サイクル,95℃3秒, 60℃10秒および72℃20秒の43サイクル。H2AFZ (配列番号15) を内部標準とし、各遺伝子(AKR1B1, IGF2R, IFN-tau, PLAC8およびCDX2)の相対的遺伝子発現を算出した。タイムラプスと酸素消費量の結果から,各遺伝子発現に関与する要因(パラメータ)を多重回帰分析により解析した。結果、第一卵割の終了時間および割球数がIGF2R遺伝子(配列番号13) 発現およびIFN-tau遺伝子(配列番号14)発現との有意な相関関係を示した(表10及び11)。第一卵割の終了時間が延長するにつれて,IGF2およびIFN-tauの発現量(H2AFZの発現量を1としたときの相対的発現量)は減少した(表12及び図26)。
【0177】
各遺伝子のGeneBank Accession番号、cDNAを鋳型とした各遺伝子のPCR増幅に用いたフォワードプライマーとリバースプライマーとからなるプライマーセットの配列、各プライマーセットによる増幅断片サイズを表13に示す。
【0178】
【表10】

【0179】
【表11】

【0180】
【表12】

【0181】
【表13】

【0182】
<実験4: 4つの指標と受胎率の関係>
黒毛和牛より経腟生体卵子吸引(OPU)により卵丘細胞卵子複合体(COCs)を採取し、22時間の体外成熟培養(IVM)後、体外受精(IVF)に供した。体外受精をリアルタイム細胞培養観察装置により発生過程を追跡し、胚盤胞(初期胚盤胞もしくは拡張胚盤胞)へ達した胚の酸素消費をSECMにより解析した。以下に示した指標により胚を選別し、仮親に移植した。胚移植後30および60日に超音波診断により受胎の有無を確認した。
【0183】
【表14】

ステージ:BL=胚盤胞,ExBL=拡張胚盤胞
Code: Robertson I, Nelson RE (1998) Certification and identification of the embryo. In: D.A. Stringfellow and S.M. Seidel, Editors, Manual of the international embryo transfer society, IETS, Savoy, Illinois 103-116.での定義に従う。具体的にはCode1は生存細胞が全体の85%以上,Code2は生存細胞が全体の50%以上の胚盤胞もしくは拡張胚盤胞を指す。「Code1-2」は「Code1もしくは2」を意味する。
指標#1:受精から第一卵割完了までの時間が27時間であること。
指標#2:受精31時間後(初期卵割終了時)において2細胞であり、且つ、フラグメンテーションが観察されないこと。
指標#3:受精55時間後(第三卵割終了時)において6細胞、7細胞、8細胞のいずれかであり、且つ、フラグメンテーションが観察されないこと。
指標#4:受精168時間後(初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期)の、単一胚あたりの酸素消費量が0.91×10-14 mol s-1以上であること。
【符号の説明】
【0184】
1: 側壁、2: 底壁、3: 細胞収容部、4: 微小ウェル、5: 内壁、6: 微小ウェルの底面、10:培養容器、600, 700, 800, 900, 1000, 1100, 1200: 胚選別装置、740, 840, 1140, 1240: 胚選別システム、670, 770, 870, 970, 1070, 1170, 1270: 判別部、610, 710, 810, 908, 1006, 1108, 1208: 解析部、606, 706, 806: 第1指標判別部、607, 707, 807: 第2指標判別部、608, 708, 808: 第3指標判別部、609, 709, 809: 第4指標判別部、750, 850, 1150, 1250撮像装置、760, 860, 1160, 1260: 酸素消費量測定装置、S2001: 判別工程、S2002: 解析工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受精卵から体外培養された哺乳動物の胚を選別する方法であって、
受精から第一卵割が完了するまでの時間;
第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態;
第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態; 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量;
のうち2つ以上を指標として胚を選別する工程を含む前記方法。
【請求項2】
前記工程において選別される胚が以下の条件:
受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率との相関関係に基づいて、当該確率が40%以上となることが確認されている時間であること(条件d1)、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IGF2Rの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.45以上となることが確認されている時間であること(条件d2)、並びに、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IFN-tauの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.2以上となることが確認されている時間であること(条件d3)、から選択される少なくとも1つの条件を満足すること(条件d);
第一卵割後かつ第二卵割前の段階において、2細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件a);
第三卵割後かつ第四卵割前の段階において、5細胞、6細胞、7細胞または8細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件b); 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と当該胚が脱出胚盤胞に到達する確率との相関関係に基づいて、当該確率が50%以上となることが確認されている酸素消費量であること(条件c);
のうち2つ以上を満足する胚である、請求項1の方法。
【請求項3】
哺乳動物がウシであり、
条件dにおける、受精から第一卵割が完了するまでの時間が27時間以下であり、
条件cにおける酸素消費量が単一胚あたり0.91×10-14 mol s-1以上である
請求項2の方法。
【請求項4】
体外培養によって、哺乳動物の受精卵から胚を製造する方法であって、
受精から第一卵割が完了するまでの時間;
第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態;
第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態; 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量;
のうち2つ以上を指標として胚を選別する選別工程を含む前記方法。
【請求項5】
前記選別工程において選別される胚が以下の条件:
受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での染色体数が正常である確率との相関関係に基づいて、当該確率が40%以上となることが確認されている時間であること(条件d1)、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IGF2Rの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.45以上となることが確認されている時間であること(条件d2)、並びに、受精から第一卵割が完了するまでの時間が、胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間と、当該胚の胚盤胞期での遺伝子IFN-tauの、遺伝子H2AFZの発現量を1とした相対的発現量との相関関係に基づいて、当該相対的発現量が0.2以上となることが確認されている時間であること(条件d3)、から選択される少なくとも1つの条件を満足すること(条件d);
第一卵割後かつ第二卵割前の段階において、2細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件a);
第三卵割後かつ第四卵割前の段階において、5細胞、6細胞、7細胞または8細胞であり且つフラグメンテーションを有していないこと(条件b); 及び
初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期の胚の酸素消費量と当該胚が脱出胚盤胞に到達する確率との相関関係に基づいて、当該確率が50%以上となることが確認されている酸素消費量であること(条件c);
のうち2つ以上を満足する胚である、請求項4の方法。
【請求項6】
哺乳動物がウシであり、
条件dにおける、受精から第一卵割が完了するまでの時間が27時間以下であり、
条件cにおける酸素消費量が単一胚あたり0.91×10-14 mol s-1以上である
請求項5の方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれかの方法により選別された胚、又は請求項4〜6のいずれかの方法により製造された胚を、雌個体に移植し受胎させる工程を含む、哺乳動物個体の生産方法。
【請求項8】
受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別装置であって、
判別部と、解析部とを含み、
前記判別部が、
候補胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標情報が、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第1指標判別部、
候補胚の、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標情報が、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第2指標判別部、
候補胚の、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標情報が、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第3指標判別部、及び
候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標情報が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第4指標判別部
のうちM個(Mは2、3、又は4の数である)を含み、
前記解析部が、前記判別部において判別された条件のうちN個(Nは2以上M以下の数である)以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する
ことを特徴とする前記胚選別装置。
【請求項9】
画像抽出部を更に備える請求項8の胚選別装置であって、
前記判別部が前記第1指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第1指標選別基準条件における、受精から第一卵割が完了するまでの時間の閾値の時点における画像、又は、第一卵割の完了時点を確認可能な画像を抽出する、第1画像抽出部を含み、前記第1指標判別部は、前記第1画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第1指標情報として判別を行い、
前記判別部が前記第2指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第一卵割後かつ第二卵割前の段階の画像を抽出する、第2画像抽出部を含み、前記第2指標判別部は、前記第2画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第2指標情報として判別を行い、
前記判別部が前記第3指標判別部を含む場合には、前記画像抽出部は、候補胚の画像から、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での画像を抽出する、第3画像抽出部を含み、前記第3指標判別部は、前記第3画像抽出部により抽出された画像に基づいて生成された情報を前記第3指標情報として判別を行う
前記胚選別装置。
【請求項10】
受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別システムであって、
請求項9の胚選別装置と、
候補胚を撮像し、撮像された画像を前記画像抽出部へと出力する撮像装置とを備え、
前記判別部が前記第4指標判別部を含む場合には、候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量を測定し、測定された酸素消費量値を前記第4指標判別部へと出力する酸素消費量測定装置を更に備える
前記胚選別システム。
【請求項11】
受精卵から体外培養された哺乳動物の候補胚を選別するための胚選別方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであって、該方法が、判別工程と、解析工程とを含み、
前記判別工程が、
候補胚の、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標情報が、受精から第一卵割が完了するまでの時間に関する第1指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第1指標判別工程、
候補胚の、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標情報が、第一卵割後かつ第二卵割前の段階での形態に関する第2指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第2指標判別工程、
候補胚の、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標情報が、第三卵割後かつ第四卵割前の段階での形態に関する第3指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第3指標判別工程、及び
候補胚の、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標情報が、初期胚盤胞期、胚盤胞期又は拡張胚盤胞期での酸素消費量に関する第4指標選別基準条件を満足するか否かを判別する第4指標判別工程
のうちM個(Mは2、3、又は4の数である)を含み、
前記解析工程が、前記判別工程において判別された条件のN個(Nは2以上M以下の数である)以上を満足する候補胚を、選別すべき胚であると解析する解析工程を含む、
前記プログラム。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図1f】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23a】
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【図23b】
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【図23c】
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【図23d】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2012−29686(P2012−29686A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144932(P2011−144932)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、生物系特定産業技術研究支援センター、「生物系産業創出のための異分野融合研究支援事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(301029403)独立行政法人家畜改良センター (12)
【Fターム(参考)】