説明

体外循環用白血球除去器

【課題】製造が容易であり、高い白血球除去性能と、大量の血液を処理できる性能を併せ持った体外循環用白血球除去器を提供する。
【解決手段】血液の入口と出口を有する容器に、血液に含まれる凝集物を除去するための凝集物除去フィルター材からなるプレフィルター層と、血液に含まれる白血球を除去するための白血球除去フィルター材からなるメインフィルター層とから構成されるフィルター層が収容され、前記凝集物除去フィルター材は、繊度が0.7dtex〜4.0dtex、繊維長が1mm〜80mmである短繊維と、平面方向に繊維軸が配向した長繊維からなる基布とを含み、該短繊維を該基布に交絡させて総目付10g/m2〜80g/m2とし、該短繊維の層が立体構造を形成していることを特徴とする体外循環用白血球除去器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末梢血から白血球を有効に除去するためのフィルター材を充填した体外循環用白血球除去器に関する。詳しくは、1L〜10Lの大量血液中の凝集物を効率良く除去するための凝集物除去フィルター材と、白血球除去用のフィルター材とを含む体外循環用白血球除去器に関する。
【背景技術】
【0002】
全身性エリテマトーデス、慢性若しくは悪性関節リウマチ、多発性硬化症等の自己免疫疾患、または潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患、白血病、癌などに対する治療の目的で、あるいは臓器移植術前の免疫抑制の目的で、体外循環用白血球除去器を用いて末梢血に含まれる白血球を除去する技術が開発されている。
【0003】
末梢血を体外に取り出して循環する間に、血液中に凝集物が生成する場合がある。凝集物は、赤血球、白血球、血小板、フィブリン、フィブリノゲン、その他の変性タンパク質、脂肪球等が凝集してできたものである。凝集物には、白血球と同等程度の大きさのものから数十μm程度の「マイクロアグリゲート」と呼ばれる比較的小型のものから、それ以上の大きさで大きいものでは1mmを超えるような「マクロアグリゲート」と呼ばれる大型のものまで様々であり、粘着性に富んでいる。このような凝集物が生成した場合、白血球除去フィルター材だけで血液をろ過すると、凝集物によって白血球除去フィルター材が目詰まりしてしまい、体外循環用白血球除去器に要求される血液量を処理することが困難となる。
【0004】
体外循環用白血球除去器においては、高い白血球除去性能はもちろんのこと、1L〜10Lの大量の血液を処理できる性能を併せ持つことが要求される。
【0005】
大量の血液処理に適したライフタイムの長い体外循環用白血球除去器としては、例えば、円筒状に巻いた白血球除去フィルターの外周部に、2層以上の特定の層を含むプレフィルターを配した体外循環用白血球除去器がある(特許文献1)。該体外循環用白血球除去器のプレフィルターは、繊維径が血液入口側から血液出口側に向かって次第に細くなり、充填密度は次第に粗くなるように構成されている。特許文献1の体外循環用白血球除去器によれば、100mL/min以下という低流速で血液を処理しても1L−10Lの大量の血液を処理することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許4187460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示されている体外循環用白血球除去器は、高い白血球除去性能と、1L〜10Lの大量の血液を処理できる性能を併せ持った白血球除去器ではあるが、2層以上のプレフィルターを含む構成となっているため、白血球除去器の製造工程が複雑であるという欠点を有していた。
本発明の目的は、製造が容易であり、高い白血球除去性能と、大量の血液を処理できる性能を併せ持った体外循環用白血球除去器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、繊度が0.7〜4.0dtex、繊維長が1〜80mmの短繊維と、平面方向に繊維軸が配向した長繊維からなる基布とを含み、該短繊維を該基布に交絡させて総目付を10〜80g/m2とし、短繊維の層が立体構造を形成している凝集物除去フィルター材を配した体外循環用白血球除去器を用いると本発明の目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば以下の発明が提供される。
[1] 血液の入口と出口を有する容器に、血液に含まれる凝集物を除去するための凝集物除去フィルター材からなるプレフィルター層と、血液に含まれる白血球を除去するための白血球除去フィルター材からなるメインフィルター層とから構成されるフィルター層が収容され、前記凝集物除去フィルター材は、繊度が0.7dtex〜4.0dtex、繊維長が1mm〜80mmである短繊維と、平面方向に繊維軸が配向した長繊維からなる基布とを含み、該短繊維を該基布に交絡させて総目付10g/m2〜80g/m2とし、該短繊維の層が立体構造を形成していることを特徴とする体外循環用白血球除去器。
[2] 長繊維からなる基布の目付は5g/m2以上である凝集物除去フィルター材を含む[1]記載の体外循環用白血球除去器。
[3] 長繊維からなる基布と短繊維の目付の比が1:0.1〜1:10である凝集物除去フィルター材を含む[1]または[2]に記載の体外循環用白血球除去器。
[4] 長繊維と短繊維の繊度の比は1:0.5〜1:2である凝集物除去フィルター材を含む[1]ないし[3]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[5] 長繊維がスパンボンド繊維である凝集物除去フィルター材を含む[1]ないし[4]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【0010】
[6] 長繊維からなる基布と短繊維をスパンレース法で交絡させた凝集物除去フィルター材を含む[1]ないし[5]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[7] 通気抵抗が4〜11Pa・s・m/gである凝集物除去フィルター材を含む[1]ないし[6]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[8] 長繊維の層と短繊維の層の2層構造からなる凝集物除去フィルター材を含む[1]ないし[7]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[9] 長繊維の層とその両面に短繊維の層を有する3層構造からなる凝集物除去フィルター材を含む[1]ないし[7]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【0011】
[10] 前記メインフィルター層が巻かれ、さらに前記プレフィルター層が少なくとも外周面または内周面の前記メインフィルター層の露出部分を覆うように巻かれており、両端面が液密に封止され、前記プレフィルター層が血液入口と連通し、前記メインフィルター層が血液出口と連通している[1]ないし[9]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[11] 前記メインフィルター層に比し血液がより流れやすい、実質的に連続しているシート状のスペーサ層と該メインフィルター層とが積層された状態で巻かれ、該スペーサ層がその端部を該メインフィルター層の外周面又は内周面に露出させており、さらに前記プレフィルター層が少なくとも外周面または内周面の前記スペーサ層の露出部分を覆うように巻かれている、両端面が液密に封止された[1]ないし[9]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[12] 前記プレフィルター層と前記メインフィルター層が積層されており、前記白血球除去フィルター材が3級又は4級アミン基を含有するポリマーでコートされている[1]ないし[9]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[13] 前記白血球除去フィルター材が、繊度が0.01dtex〜0.3dtexの長繊維から形成されている[1]ないし[12]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[14] 前記白血球除去フィルター材が、不織布からなる[1]ないし[13]のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
[15] 前記白血球除去フィルター材に使用される前記不織布がメルトブロー法により紡糸された不織布を含む[14]に記載の体外循環用白血球除去器。
【0012】
更に本発明によれば、繊度が0.7dtex〜4.0dtex、繊維長が1mm〜80mmである短繊維と、平面方向に繊維軸が配向した長繊維からなる基布とを含み、該短繊維を該基布に交絡させて総目付10g/m2〜80g/m2とし、該短繊維の層が立体構造を形成している凝集物除去フィルター材を用いて血液を濾過した後に、白血球除去フィルター材で濾過して体外循環血液から白血球を除去する方法が提供される。
【0013】
更に本発明によれば、体外循環用白血球除去器を製造するための凝集物除去フィルター材の使用であって、該凝集物除去フィルター材を白血球除去フィルター材よりも上流に配し、該凝集物除去フィルター材は繊度が0.7dtex〜4.0dtex、繊維長が1mm〜80mmである短繊維と、平面方向に繊維軸が配向した長繊維からなる基布とを含み、該短繊維を該基布に交絡させて総目付10g/m2〜80g/m2とし、該短繊維の層が立体構造を形成していることを特徴とする凝集物除去フィルター材の使用が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の体外循環用白血球除去器は製造が容易であり、本発明の体外循環用白血球除去器を用いることにより、高い白血球除去性能を維持しつつ、1L〜10Lの大量の血液を処理することができる。本発明の体外循環用白血球除去器は、血液処理中に目詰まりを起こし難く、血液処理を継続できなくなる程の圧上昇を起こすことはない。
【0015】
本発明の体外循環用白血球除去器に使用される凝集物除去フィルター材はさらに、形状安定性に優れる。即ち、本発明の凝集物除去フィルター材は、その生産の途中や血液のろ過の段階で、構造変形等の不具合を起こさない充分な強度を有しているため、凝集物の除去性能が安定化する。その結果、本発明の凝集物除去フィルター材を含む体外循環用白血球除去器の品質を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明を例示する体外循環用白血球除去器に収容されている凝集物除去フィルター材の断面電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、本発明を例示する体外循環用白血球除去器の模式図である。
【図3】図3は、本発明を例示する別の態様の体外循環用白血球除去器の模式図である。
【図4】図4は、本発明を例示する更に別の態様の体外循環用白血球除去器の模式図である。
【図5】図5は、本発明を例示する更に別の態様の体外循環用白血球除去器の模式図である。
【符号の説明】
【0017】
1…血液入口
2…血液出口
3…メインフィルター層(白血球除去フィルター材)
4…プレフィルター層(凝集物除去フィルター材)
5…接着剤
6…容器
7…スペーサ層
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態(以下において、「本実施形態」という。)をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施されうる。
【0019】
本実施形態に係る体外循環用白血球除去器の凝集物除去フィルター材は、体外循環血液に含まれる、大小様々な大きさの凝集物を効率よく除去するための凝集物除去フィルター材であって、繊度が0.7〜4.0dtex、繊維長が1〜80mmの短繊維と、平面方向に繊維軸が配向した長繊維からなる基布を含み、該短繊維を該基布に交絡させて総目付を10〜80g/m2とし、短繊維の層が立体構造を形成している凝集物除去フィルター材である。
【0020】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材は、平面方向に繊維軸が配向した長繊維からなる基布に短繊維を交絡させたフィルター材である。ここで言う長繊維からなる基布とは、シート状の繊維集合体であって、その中に含まれるほぼ全ての繊維の繊維軸が、そのシートの平面方向に配向しているものを言う。より具体的には、スパンボンド法によって形成されたスパンボンド繊維をシート状に加工したスパンボンド不織布や、編布あるいは織布を長繊維からなる基布の例として挙げることができる。スパンボンド不織布の場合は適度なエンボス加工で強度を付与したものが好ましい。
【0021】
また、編布あるいは織布を構成する長繊維としては、以下の式(1)で表される撚係数(K)が3,000〜30,000、好ましくは5,000〜10,000のものが強度及び短繊維との交絡の容易さの視点から好ましい。一般に編布あるいは織布の長繊維は、複数の繊維を合糸し、さらに撚った形状のため、非常に強度が強い特徴がある。
撚係数(K)=T×D0.5 (1)
T:撚数(回転数/m)、D:繊度(dtex)
(Tは単位長さ(m)あたりの撚数である。Dは積層型マルチフィラメント糸のトータル繊度であり、積層型マルチフィラメント糸と他の糸条との複合糸の場合は複合糸のトータル繊度をいう)
【0022】
長繊維からなる基布と短繊維との交絡について、次に述べる。まず、長繊維からなる基布に短繊維を均一分散させて積層し、その後その積層物に外力を加えることで短繊維と長繊維、及び短繊維同士を交絡させ、短繊維が基布から脱落しないようにする。このような方法で本発明の凝集物除去フィルター材を得る。短繊維の基布への積層に仕方としては、カード法や抄造法等を挙げることができ、抄造法の場合には短繊維を水中に均一分散させる目的で適切な界面活性剤、増粘剤を使用するのが一般的である。
【0023】
短繊維の、長繊維からなる基布への交絡方法としては、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、スパンレース法、スチームジェット法等の公知の各種の方法を使用することができるが、加工の容易さ、医療用具としての安全性等の視点からニードルパンチ法、スパンレース法が好ましい。
【0024】
特に最終的に成形されたフィルター材の厚みを、体外循環用白血球除去フィルター装置に充填しやすいようにできるだけ薄くするという目的から、長繊維からなる基布内部に短繊維を高圧水流で押し込むスパンレース法(水流交絡法)で製造することがより好ましい。
【0025】
スパンレース法によって本実施形態に係るフィルター材を製造する場合、水の圧力は40〜200kgf/cm2とし、水を噴出するノズル径を80〜150μmにすると、所望のフィルター材を得ることができる。
【0026】
スパンレース法等で短繊維を基布に交絡させた場合、短繊維の繊維軸は、平面方向のみならず、縦方向及び斜め方向にも配向するようになる。さらに、短繊維そのものが水圧等の外力によってクリンプ様形状に変化し、もはや明確な繊維軸の配向を示さなくなるものも出現し、その結果、短繊維の層の部分が立体構造化する。このような立体的な構造は、大型の凝集物をフィルター材の内部まで引き込んで捕捉する機能を有することとなり、その結果、大型凝集物によるフィルター材表面近傍での閉塞が少なくなる。
【0027】
一方、長繊維からなる基布の繊維軸は平面方向に配向した緻密構造である。短繊維と交絡させた長繊維からなる基布は繊維の可動性が短繊維に比較して非常に小さいため、スパンレース法等の処理を施した後でもその構造は保たれ、短繊維の層よりも孔径は小さいのが一般的である。基布はそのような構造特性を有するため、比較的小さな凝集物の除去に有効に作用すると考えられる。このように本発明の凝集物除去フィルター材は、短繊維の層で大型の凝集物を、その基布である長繊維の層で小型の凝集物を除去するため、フィルター材の全体積を有効に利用して、様々な大きさの凝集物を効率よく除去できる構造となる。
【0028】
なお、ここで「立体構造」とは、短繊維の繊維軸が平面だけでなく縦、斜め等の様々な方向に配向した構造を言う。図1は本発明の凝集物除去フィルター材の一例として、スパンボンド長繊維層の上に短繊維を積層し、その後スパンレース法で交絡させたフィルター材の断面写真を示す。この写真からも明らかなように、基布であるスパンボンド繊維の層の繊維軸は平面方向に配向しているが、その上の短繊維の層の繊維軸はランダムであり、一定の配向を示していない。
【0029】
また、以下に述べる方法によって、立体構造の有無を判断することもできる。まず図1のような写真からフィルター材の厚みを測定し、この値と1.8cm2の面積あたり、0.4Nの一定荷重を加える定圧厚み計で求めた厚みの数値を比較し、後者が前者の10%以上、より好ましい構造としては30%以上、小さい数値である場合に短繊維層で立体構造が形成されていると判断する。短繊維で形成された立体構造は非常にソフトで容易に圧縮されることから、無負荷状態で測定した厚みよりも一定荷重で測定した厚みは極端に小さくなる。但し、写真での厚み測定において、表層部の繊維が乱れ凹凸を形成し、測定の起点を定めることが困難な場合は、大多数の繊維が存在する最表層部を起点と定め、起点−起点の長さを厚みとして測定する。写真での測定は異なる箇所で3回以上測定し、その平均値をフィルター材の厚みとする。同様に、一定荷重を加えて厚みを測定する場合も3回以上測定を行い、その平均値を用いることとする。
【0030】
本発明の凝集物除去フィルター材の構造は、上述したように短繊維の層と基布である長繊維の層からなるが、より詳しくは、長繊維層の上に短繊維層が積層した2層構造(短繊維層−長繊維層)のもの、あるいは短繊維層で長繊維層を挟んだ3層構造(短繊維層−長繊維層−短繊維層)のものを挙げることができる。
【0031】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材に使用する短繊維の繊度は、0.7〜4.0dtexである。0.7dtex未満の場合には、短繊維同士で形成される、いわゆる孔径が小さくなりすぎ、大型の凝集物の除去効率が低下する傾向にある。4.0dtexを超える場合は、短繊維同士の絡まりが低下し、短繊維の脱落が増加する傾向にある。好ましくは1.0〜2.4dtexであり、より好ましくは1.2〜1.8dtexである。
【0032】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材は、形状が安定しており、短繊維が脱落する恐れが極めて低いところに特徴がある。従来の技術、例えば、特許第2555722号公報は、第1〜第3素子を含み、第1素子はゲル(これは大きな凝集物=マクロアグリゲートと同意語)を除去するフィルター材とし、第2素子は微小凝集物(マイクロアグリゲート)を除去するフィルター材とし、第3素子は白血球を除去するフィルター材としたフィルター装置を開示している。しかし、第1素子は、針を突き刺して機械的に繊維を交絡させたニードル繊維であり、目付は70g/m2を超え、比較的厚い(約3〜5mmを超える)不織布である。特許第2555722号公報の実施例では繊維径が20〜26μm(繊度に換算すると、4.3〜7.3dtexに相当)と太い不織布が使用されているため、繊維同士の交絡は強固ではないと推察される。したがって、伸び変形や破断等の繊維構造変化が生じやすく、血液をろ過している最中にその脆弱な構造が変化し、凝集物の除去効率が安定しないといった品質上の問題や短繊維が脱落して体内に注入される恐れがあるといった安全上の問題も生じうる。そのため、第1素子には、フィルター装置に充填する際に、熱間圧縮といった煩雑な加工が施されている。この熱間圧縮によって、第1素子の形状が保持されるようになるものの、フィルター材の目が細かくなるため、凝集物による目詰まり耐性が低下するといった問題の残るものであり、高い安全性と性能を要求される体外循環用白血球除去器には採用し得ないものであった。
【0033】
なお、本実施形態において、「繊度」とは、日本工業規格(JIS) L 0104及びJIS L 1013で規定されている、繊維の長さと重さとから求められる値である。あるいは、繊維が略円柱状形状である場合には、以下の手順によって繊維径を求め、これに繊維密度(g/cm3)を用いて繊度に換算してもよい。繊維径の測定は、まず、フィルター材から任意に5ヶ所以上をサンプリングし、走査電子顕微鏡などを用い、繊維径が測定できる適度な拡大倍率で写真を撮る。次に写真の上に格子状シートを載せ、格子点にある繊維の直径を100本以上測定する。ここで直径とは、繊維軸に対して直角方向の繊維の幅をいう。測定した繊維の直径の和を、繊維の数で割った値(平均値)を繊維径とし、この値と繊維密度を用いて「繊度」を求めてもよい。但し、複数の繊維が重なり合っており、他の繊維の陰になってその幅が測定できない場合、また、複数の繊維が溶融するなどして、太い繊維になっている場合、更に著しく直径の異なる繊維が混在している場合、等々の場合には、これらのデータは削除する。なお、あきらかに繊維径の異なる複数種の繊維が混繊している場合、それぞれの繊維径の平均値からそれぞれの繊度を求め、求めた繊度が0.7〜4.0dtexに入る場合は、本実施形態の短繊維に含まれるものとする。但し、測定本数が10%以下と少ない場合は、繊度計算の対象から外すこととする。
【0034】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材に使用できる短繊維の断面の形状としては、円形に限らず、如何なるものでも使用できる。例えば、特開平8−170221号公報、特開平8−291424号公報、特開2002−61023号公報、特開2004−225184号公報、特開2005−82939号公報等に記載されているような異形断面構造でもよい。ただし、高圧水流で加工する際の繊維分散性の容易さ、繊維そのものの生産効率の高さの観点から、円形の断面構造である方が好ましい。
【0035】
本実施形態に係わる凝集物除去フィルター材で基布として使用できる長繊維の繊度は、短繊維と交絡できるものであれば特に限定はないが、短繊維とほぼ同等の繊度である方がより交絡させやすいため好ましい。長繊維の繊度に対して短繊維の繊度が小さすぎると短繊維が長繊維からなる基布の内部深くまで入りすぎ、大型の凝集物の除去効率が低下する危険があり、逆に短繊維の繊度が大きすぎると交絡不足となって脱落する懸念も生じるためである。このことから、長繊維と短繊維の繊度比は1:0.5〜1:2、より好ましくは1:0.8〜1:1.5、さらには略同一の繊度の長繊維と短繊維を用いることが良い。
【0036】
本実施形態に関わる凝集物除去フィルター材が短繊維層−長繊維層−短繊維層の3層構造からなり、血液導入口側に近い側より短繊維層(1)−長繊維層−短繊維層(2)と配置する場合、短繊維層(1)及び(2)の繊度は同一か、あるいは短繊維層(1)の繊度が短繊維層(2)の繊度よりも大きいことが好ましい。具体的には短繊維層(1)は短繊維層(2)の繊度の1.0倍以上、好ましくは1.5倍以上が良い。さらに理想的な構造として、繊維の繊度は短繊維層(1)≧長繊維層≧短繊維層(2)の順に小さくなる方が良い。短繊維層(1)で非常に大きな凝集物を除去し、それより下流にある繊度の小さな長繊維層及び短繊維層(2)で小型の凝集物を除去する構造となるためである。
【0037】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材に用いる短繊維の繊維長は、1〜80mmである。1mm未満であると、繊維同士の交絡が不足して強度が低下する傾向にあり、80mmを超えると、縦方向に配向する繊維成分が不足し、凝集物による目詰まり耐性が低下する傾向にある。好ましくは、5〜70mmであり、より好ましくは、20〜60mmである。
【0038】
なお、ここで「繊維長」とは、任意にサンプリングした短繊維を写真に取り、起点と終点が明確な30本以上の短繊維の長さを画像解析装置等を利用して測定した平均値を言う。
【0039】
また、短繊維は予めクリンプ処理しておく方が好ましい。直線状の繊維よりも波形状のクリンプ糸はスパンレース法によって繊維同士が絡まりやすく、結果的に強度向上に寄与するため好ましい。
【0040】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材の総目付は、10〜80g/m2である。総目付が10g/m2未満であると、凝集物の除去効率の低下や強度不足が生じる傾向にある。80g/m2を超えると、フィルター装置への充填が困難となる場合がある。また、白血球除去フィルター材等と一緒にフィルター装置内に充填する場合に、白血球除去フィルター材を圧縮し、血液製剤のろ過流量を低下させうる。好ましくは15〜60g/m2、さらには20〜50g/m2であることが良い。なお、「フィルター材の総目付」は、5cm×5cmのような任意の大きさで均質と思われる箇所から3箇所以上をサンプリングし、各フィルター材の重さを測定して平均値を求め、これを単位平方メートル当たりの重量に換算することで求められる。
【0041】
本実施形態に係わる凝集物除去フィルター材で使用する長繊維からなる基布の目付は5g/m2以上、好ましくは5〜40g/m2、さらには15〜30g/m2が良い。長繊維からなる基布の目付が5g/m2未満であるとフィルター材の強度が低下する恐れがあるためである。
【0042】
なお、長繊維からなる基布と短繊維の目付比は1:0.1〜1:10とすることが好ましく、1:0.8〜1:3であることがより好ましい。3層構造のフィルター材の場合は、両側の短繊維の目付を合算し、これを長繊維の目付と比較して上述した範囲に収まることが好ましい。
【0043】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材の厚みは0.1〜1.0mmにあることが好ましい。0.1mm未満であると凝集物除去効率の低下や強度不足が懸念され、1.0mmを超えると、複数枚のフィルター材をフィルター装置に充填した際に装置を大きくせざるを得ない、あるいは下流に配置する白血球除去フィルター材を圧縮して密度を高め、その結果として流量が小さくなる等の不具合を招きかねないためである。より好ましくは0.2〜0.8mm、さらには0.3〜0.6mmであることが好ましい。なお、ここで言う厚みとは、以下の手順に従って測定する。まず、フィルター材1枚を5cm×5cmの大きさに切断し、その辺(4ヶ所)と角(4ヶ所)と中央(1ヶ所)の計9ヶ所の厚みを定圧厚み計で測定し、その平均値を厚みとする。定圧厚み計で荷重する圧力は0.4N、測定部の面積は1.8cm2とする。
【0044】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材の嵩密度は、0.05〜0.10g/cm3にあることが良い。嵩密度が0.05g/cm3未満であると、凝集物除去効率の低下や強度不足が生じる傾向にある。0.10g/cm3以上であると、短繊維同士の距離が近く、大型の凝集物が表面で捕捉されやすくなり、結果的に凝集物の捕捉効率が低下する傾向にある。なお、「フィルター材の嵩密度」は、均質と思われる箇所から5cm×5cmのような任意の大きさでフィルター材を切り出し、前述した方法で目付を、中央部の厚み定圧厚み計で測定し、目付を厚みで除して求める。ただし、切り出す部位を変えて測定を3回以上行い、その平均値を嵩密度とする。
【0045】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材の通気抵抗は、好ましくは4〜11Pa・s・m/gである。通気抵抗とは、そのフィルター材に一定流量の空気を通した時に生じる差圧として測定される値である。より詳しくは、直径2.8cmの通気穴の上にフィルター材を載せ、単位面積あたり4ml/s・cm2の空気を10秒以上通気させたときに生じる圧力損失(Pa・s/m)を測定し、この値をフィルター材の目付(g/m2)で除し、さらに10倍した値である。この値が大きいものは、空気が通過しにくく、繊維が密な状態で絡まっていること、あるいは開孔率が低い構造であることを意味し、血液製剤が流れにくい性質であることを示す。一方、この値が小さいものは、繊維数が少なくスカスカの構造であることを示す。即ち、この値が11Pa・s・m/gより大きいと、血液製剤のろ過時間の延長や、含まれている凝集物による目詰まりが発生しやすくなる。一方、4Pa・s・m/gよりも小さいと、凝集物を効率よく捕捉できず、その下流にあるフィルター材の表面が目詰まりを起こしたり、強度が不足したりする等のリスクが高くなる。より好ましくは、6〜9Pa・s・m/gである。
【0046】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材に用いられる短繊維及び長繊維は、血液に悪影響を及ぼさないものであればいかなるものも使用できるが、汎用性が高く、加工が行いやすく、かつ安価であるとの理由から、合成高分子を素材とすることが好ましい、例を挙げるならば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール、ポリトリフルオロクロルエチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース、セルロールアセテート等が挙げられる。この中でも特に汎用性が高く、スパンレース法による繊維同士の交絡も行いやすいポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステルが好ましい。
【0047】
以上説明した本実施形態に係る凝集物除去フィルター材を用いることにより、大小様々な大きさの凝集物を含む体外循環血液であっても、その凝集物による目詰まりを防止しつつ、効率良く凝集物を除去することが可能となる。
【0048】
また、本実施形態に係る凝集物除去フィルター材は、実質的に問題となるような形状変形を起こしえない強度を有する。これは、本用途に適した繊度と繊維長の短繊維をスパンレース法等によって高強度の長繊維からなる基布に交絡させているためである。より具体的には、フィルター材を任意の幅に切断し、これに0.4N/cmの力で伸ばしたときのフィルター材の伸び率が3%以下の引張り強度を有することを言う。以上のような充分な強度を有する結果、本実施形態に係るフィルター材を、水洗処理や熱処理等の様々な製造工程で処理しても、形状変化を起こさずに、安定した生産を実現することが可能となる。また、形状変化が小さいため、凝集物の捕捉性能が安定化し、品質安定性も優れる。
【0049】
本発明の凝集物除去フィルター材をフィルター装置に充填する場合は、血液の導入口側に配置する。また、短繊維層を血液の導入口側に配置し、基布である長繊維層はその下流の白血球除去フィルター材側に配置する。凝集物除去フィルター材が短繊維層−長繊維層−短繊維層の3層構造の場合、より繊度の大きな短繊維層が血液導入口側になるように配置する方が好ましい。
【0050】
このように凝集物除去フィルター材の下流には白血球除去フィルター材を配置する。ここで用いる白血球除去フィルター材の例としては、連続気孔を有する多孔質構造体、あるいは極細の繊維径を有する繊維構造体のいずれでも良いが、生産性に優れ、安価であること、さらに品質が安定しているという理由から繊維状構造体、中でも不織布が良い。
【0051】
白血球除去フィルター材が連続気孔を有する多孔質構造体の場合、その素材としてはポリアクリロニトリル、ポリスルホン、セルロース、セルロースアセテート、ポリビニルホルマール、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタンなどを例示することができる。また、多孔質構造体の孔径は3〜25μmであることが好ましい。孔径が3μm未満であると、血小板の吸着などに起因する目詰まりを起こし易くなり好ましくない。孔径が25μmを超えると、白血球と多孔質構造体との衝突頻度が低下し、白血球除去性能が低下する恐れがあるため好ましくない。より好ましい孔径は5〜15μmである。なお、ここで言う孔径とは、ハーフドライ法(ASTM E1294−89)に従った方法で得られる平均流量径である。
【0052】
白血球除去フィルター材が繊維構造体の場合、メルトブロー法やフラッシュ紡糸法あるいは抄造法などによって製造された不織布の他、紙、織布、編布等の繊維構造物を使用できるが、この中でも白血球の粘着点が多くなる表面積の大きい極細繊維径の不織布が好ましい。また、その素材としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリトリフルオロエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成繊維や、セルロースなどの再生繊維や精製繊維、セルロースアセテートなどの半合成繊維、麻、綿、絹などの天然繊維、ガラス繊維などの無機繊維を挙げることができる。この中でも製造のし易さ、取扱いのし易さなどの観点からポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンの合成繊維、セルロースからなる再生繊維または精製繊維であることがより好ましい。さらに、繊維構造体の場合、ほぼ均一な繊維径を有する繊維からなる基材であっても良いし、WO97/23266号に開示されているような、繊維径の異なる、複数種の繊維が混繊された形態の基材であっても良い。
【0053】
また、白血球除去フィルター材として使用する繊維構造体の繊度は、0.01〜0.3dtex(円柱状断面のポリエステル繊維においては1.0〜5.3μmの繊維直径に相当)であることが好ましい。繊度が0.01dtex未満であると繊維としての機械的強度が低く、安定して製造できない恐れがあるため好ましくない。繊度が0.3dtexを超えると白血球との接触頻度が低くなり、白血球除去性能が低下する可能性があるため好ましくない。より好ましい繊度は0.015〜0.25dtex、さらには0.015〜0.18dtexであることが相応しい。なお、ここで言う繊度は、凝集物除去フィルター材の繊度の測定と同様の方法で求めた値である。
【0054】
また白血球除去フィルター材の通気抵抗は150〜700Pa・s・m/gの範囲にあることが好ましい。150Pa・s・m/g未満となると白血球除去性能が不足する危険があり、700Pa・s・m/gを超えると血液の充分なろ過流量が確保し難くなるためである。より好ましくは200〜600Pa・s・m/gが相応しい。なお、白血球除去フィルター材の通気抵抗も凝集物除去フィルター材の通気抵抗と同様の方法によって測定した値である。
【0055】
また、血液とフィルター材との親和性を高める、血液のフィルター装置への導入を容易にする等の目的で白血球除去フィルター材や凝集物除去フィルター材の表面を改質する処理を行っても良い。かかる表面改質に相応しい材料の例として、非イオン性親水基と塩基性含窒素官能基を有するポリマーが挙げられる。また表面改質の手段としては、コーティング法、プラズマ放電処理法、電子線照射法、放射線グラフト法等の公知の各種の方法を適用することができる。
【0056】
本発明のフィルター材を充填する容器の材質としては、硬質性樹脂、可撓性樹脂の何れでも良い。硬質性樹脂の場合、素材はアクリル樹脂、ケイ素樹脂、ABS樹脂、ナイロン、ポリウレタン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、スチレン−ブタジエン共重合体、等が挙げられ、特に、ポリカーボネート、スチレン−ブタジエン共重合体が、強度、汎用性の面から好ましい。この中でもポリカーボネートを素材とした硬質製樹脂は、安全性に優れ、耐圧強度が高く、かつγ線や高圧蒸気滅菌等の滅菌に対する変性が少ないことから特に好ましい容器素材である。
【0057】
容器が可撓性樹脂の場合、素材としては軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等を好適な材料として挙げることができる。好ましくは軟質塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン、およびこれらを主成分とする熱可塑性エラストマーであり、更に好ましくは軟質塩化ビニル、ポリオレフィンである。このような可撓性樹脂を用いる場合、血液製剤の導入口を敷設したシートと導出口を敷設したシートを準備し、このシートの間にフィルター材を挟みこんで後、高周波溶着のような技術でフィルター装置を成形する。このような軟質容器からなるフィルター装置の場合にも、やはり血液製剤の導入口と導出口を敷設したシートには凹凸部を設け、シートとフィルター材の間に0.5〜5.0mm、好ましくは1.5〜3.0mmの空間を確保する加工を施すことが好ましい。
【0058】
最後に本発明の凝集物除去フィルター材と、上述した白血球除去フィルター材の両方を含む白血球除去器を用いた血液のろ過方法について述べる。
血液の入口と出口を有する容器内に、上述した本発明の凝集物除去フィルター材を血液導入口側に、白血球除去フィルター材を血液導出口側に配置した体外循環用白血球除去器を作成する。本発明の凝集物除去フィルター材と、白血球除去フィルター材の間にその他のフィルター材を充填しても良い。
【0059】
凝集物除去フィルター材を1枚あるいは複数枚充填し、その下流に充分な白血球除去が行える分量の白血球除去フィルター材を充填する。体外循環用白血球除去器には、おおよそ、凝集物除去フィルター材を1.0〜10.0g、白血球除去フィルター材を5.0〜25.0g充填し、また、体外循環用白血球除去器のフィルター材を充填した状態での内容積(白血球除去器の空隙体積)としては50〜500mlに設計することが好ましい。
【0060】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。図2は、本発明の一実施形態である円筒型の体外循環用白血球除去器の構成例を示す断面模式図である。円筒状フィルターは、中空円筒状に巻かれた白血球除去フィルター材3の外周面に、凝集物除去フィルター材4を重ねて巻くことにより形成される。円筒状フィルターの一端は接着剤5で液密に封止されており、円筒状フィルターの他端は、その中空部が円筒状の容器6の血液出口2と連通するように配置されて、接着剤5で円筒状の容器6に液密に接着されている。円筒状の容器6の血液入口1は、円筒状フィルターの最外周面を形成している凝集物除去フィルター材4と連通している。血液は、容器6に設けられた血液入口1から入って、容器6と円筒状フィルターに挟まれた空間を通って、円筒状フィルターの外周に配置された凝集物除去フィルター4を通過し、続いて内周に配置された白血球除去フィルター3を通って、円筒状フィルターの中空部を通過して血液出口2より排出される。
【0061】
図3は、本発明の別の実施形態である円筒型の体外循環用白血球除去器の構成例を示す断面模式図である。円筒状フィルターは、中空円筒状に巻かれた凝集物除去フィルター材4の外周面に、白血球除去フィルター材3を重ねて巻くことにより形成される。円筒状フィルターの一端は接着剤5で液密に封止されており、円筒状フィルターの他端は、その中空部が円筒状の容器6の血液入口1と連通するように配置されて、接着剤5で円筒状の容器6に液密に接着されている。円筒状の容器6の血液出口2は、円筒状フィルターの最外周面を形成している白血球除去フィルター材3と連通している。血液は、容器6に設けられた血液入口1から入り、円筒状フィルターの中空部を通って、円筒状フィルターの内周に配置された凝集物除去フィルター4を通過し、続いて外周に配置された白血球除去フィルター3を通って、円筒状フィルターと容器6に挟まれた空間を通過して血液出口2より排出される。
【0062】
図4は、本発明の更に別の実施形態である円筒型の体外循環用白血球除去器の構成例を示す断面模式図である。円筒状フィルターは、白血球除去フィルター材3とスペーサ層7となるメッシュを重ねて中空円筒状に巻き、その外周面に凝集物除去フィルター材4を重ねて巻くことにより形成される。円筒状フィルター以外の構成は、図2と同様である。血液は、容器6に設けられた血液入口1から入って、容器6と円筒状フィルターに挟まれた空間を通って、円筒状フィルターの外周に配置された凝集物除去フィルター材4を通過し、続いて内周に配置された白血球除去フィルター材3またはスペーサ層7を流れ、少なくとも1回以上は白血球除去フィルター材3を通過して、円筒状フィルターの中空部を通過して血液出口2より排出される。
【0063】
図5は、本発明の更に別の実施形態である平板型の体外循環用白血球除去器の構成例を示す断面模式図である。平板状フィルターは、白血球除去フィルター材3を1枚または複数枚重ねて置き、その上に凝集物除去フィルター材4を1枚または複数枚重ねて置くことにより形成される。この平板状フィルターを血液入口1および血液出口2を備えた容器6に収容して、平板型の体外循環用白血球除去器を作製する。血液は、血液入口1より入り、凝集物除去フィルター材4、白血球除去フィルター材3の順番に通過して血液出口2より排出される。
【0064】
体外循環を行う場合、体外循環用白血球除去器の血液入口と出口に軟質チューブを接続し、各々の軟質チューブの他端を患者に接続して採血と返血を行う。前記軟質チューブには血液ポンプを設置して所定の流量で体外循環を行う。ポンプの能力に応じて流量を設定すれば良いが、白血球除去器の強度や溶血等の不具合回避の観点から、10〜100ml/分の流量でろ過を行う方が良い。
【0065】
なお、ここで言う凝集物による「目詰まり耐性」効果とは、凝集物を含む血液をフィルターでろ過したときに、血液の目標処理量をろ過する前に体外循環用白血球除去器が目詰まりせずろ過が継続できること、より具体的には体外循環用白血球除去器のIN側圧力とOUT側圧力の差(差圧)が13.3kPaに到達せずにろ過が継続でき目標処理量の90%以上を処理できることを言う。但し、該差圧や該処理量は、目詰まり耐性効果を示す目安の例示であって、血液は個体差が大きく、血液の状態等によってろ過流量やろ過圧力が左右される。
【0066】
本実施形態に係る凝集物除去フィルター材を体外循環用白血球除去器の最上流側に配置すると、凝集物による目詰まりが防止され、良好な流量を維持しつつ血液をろ過することが可能となる。一般に、ろ過の途中で目詰まりを起こしてしまった場合、治療を中止せざるを得なかったが、本実施形態に係る凝集物除去フィルター材は、目詰まり耐性に優れるため、治療中止の可能性を低減することができるようになる。その結果、規定の血液を処理することができ、治療効果を十分に発揮させることができ、社会的にも極めて有用となる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本実施形態をより詳細に説明するが、本実施形態はこれらによってその範囲を限定されるものではない。
【0068】
実験A:2層構造の凝集物除去フィルター材と白血球除去フィルター材とを含む白血球除去器のポンプ式血液ろ過による評価
(実施例1〜13、比較例1〜10)
長繊維からなる基布としてスパンボンド法によって製造した15g/m2のポリエチレンテレフタレート製不織布を用い、これに繊維長が50mmのポリエチレンテレフタレート製短繊維を25g/m2乗せ、この積層体に水流交絡機の支持ネット上で90μmのノズル径から圧力100kgf/cm2の水を噴射することで繊維同士を交絡させて40g/m2のスパンレース不織布からなる凝集物除去フィルター材を得た。また、白血球除去フィルター材として、以下のものを用いた。メルトブロー法によって3種類の不織布を製造し、これを白血球除去フィルター材とした。1つは、繊度が0.043dtexで目付が80g/m2のポリエチレンフタレート製の不織布(フィルター材X)であり、もう1つは繊度が0.031dtexで目付は66g/m2のポリエチレンテレフタレート製不織布(フィルター材Y)であり、3つ目は、繊度が0.016dtexで目付は40g/m2のポリエチレンテレフタレート不織布(フィルター材Z)である。この白血球除去フィルター材のそれぞれの通気抵抗は265Ps・s・m/g(フィルター材X)、275Pa・s・m/g(フィルター材Y)、475Pa・s・m/g(フィルター材Z)であった。凝集物除去フィルター、白血球除去フィルターを直径6.8mmの円状に切り取り、白血球除去フィルターを11枚重ね、その上に凝集物除去フィルターを3枚重ねた。このようにして積層したフィルター材を、凝集物除去フィルター材が血液の導入口側になるように、導入口と導出口を有するポリエチレン製容器に充填し、ピロ亜硫酸ナトリウム水溶液で充填し、ダンボールケースに入れて包装し、25kGyのガンマ線を照射して滅菌処理した。水溶液中のピロ亜硫酸ナトリウム濃度は700ppm〜800ppmの範囲に入るように調整した。
【0069】
(実施例14)
実施例1で用いたポリエチレンテレフタレート製不織布(フィルター材X)を白血球除去フィルターとして25×16mmを1枚用意した。また凝集物除去フィルター25×16mmを1枚用意した。ポリエチレンテレフタレート製不織布(フィルター材X)の上にポリプロピレン製の巻き棒を置き巻いた。さらに凝集物除去フィルターをその上に巻き仮止めし、巻き棒を抜いて不織布円筒を作製した。不織布円筒の一端(A側)をエポキシ樹脂にて液密に封止し、もう一端(B側)は、直径2mmの穴を開けたポリエチレン製の板に、円筒状のフィルター中心部が血液出口となるようにその穴へ内径1.5mm筒状の棒を通してエポキシ樹脂でフィルター周辺部を液密に封止した。仮止めを外し、直径10mm、長さ25mmの円筒状のポリエチレン製容器の一端部に血液の出入口を設け、もう一端は開放しておき、不織布円筒のA側よりポリエチレン製容器の開放された側から挿入し、不織布円筒B側とポリエチレン製容器の淵をエポキシ樹脂で液密に封止して作製した。その後、実施例1と同様に充填液を作製、充填してガンマ線照射した。
【0070】
(実施例15)
実施例2で用いたポリエチレンテレフタレート製不織布(フィルター材Y)を白血球除去フィルターとして97×16mm用意した。またポリエチレン製メッシュを80×16mmを用意した。ポリエチレン製不織布(フィルター材Y)を46:51で二つ折りにし、その間にポリエチレン製メッシュを挟み込んだ。メッシュが不織布から露出していない側の不織布の上にポリプロピレン製の巻き棒を置き、巻き棒に巻きつけるように円筒状にポリエチレン製不織布(フィルター材Y)とメッシュを重ねて巻いた。さらにこの外周に実施例1で使用した凝集物除去フィルターを2周分巻きつけ、解けないように仮止めして巻き棒を抜いた。その後、直径15mm、長さ25mmの円筒状のポリエチレン製容器を用いた以外は実施例14と同様にして作製した。
【0071】
伸び率の測定(強度試験):
作製した凝集物除去フィルター材を幅5cm、長さ10cmに切断し、これをオートグラフ万能試験機(型式AG−1、島津製作所製)に装着した。除々にフィルター材を引っ張り、2Nの力(0.4N/cm)で引っ張ったときの長手方向への伸び長を測定し、以下の式(2)より伸び率(%)を求めた。3.0未満が伸び率が低く安定したフィルター材と見做すことができる。
実施例1〜15及び比較例1〜10の伸び率の測定結果を表1にまとめた。
(荷重負荷後の長手方向の長さ/10−1)×100(%) (2)
【0072】
健常人ボランティアより血液を採取し、抗血液凝固剤としてナファモスタットメシル酸塩10mg/100mlの溶液が12%(V/V)含まれるようにナファモスタットメシル酸塩を添加したヒト新鮮血液(ナファモスタットメシル酸塩の最終濃度1.2mg/100ml)をシリンジポンプを用いて流速0.18ml/分で60分間ろ過した。60分間で10.8mlの血液を処理することになるが、体外循環用の実カラムに換算すると、3Lの血液処理に相当する。
【0073】
血液を用いた圧力損失の評価:
ヒト新鮮血液をフィルター装置に血液を通液し、血液の入口側と出口側の圧力を測定し、その差圧が13.3kPaを超えた時点の血液の処理量をライフタイムとして、そのライフタイムの長さを評価した。評価は、評価時間の最長60分間を1.00とし、ライフタイムの比を算出した。0.90以上が目詰まりを起こし難いと見做すことができる。
実施例1〜15及び比較例1〜10の血液を用いた圧力損失の評価結果を表1にまとめた。
【0074】
白血球除去率の測定:
ろ過後の血液をポリエチレン製のスピッツ管にサンプリングし、ろ過前とろ過後の血液を自動血球数測定装置(SF−3000、Sysmex社)を用いて測定した。ろ過前の白血球数からろ過後の白血球数を引き、その値をろ過前の白血球数で割り、100を乗じた値を白血球除去率として算出した。得られた白血球除去率が80%以上であれば、そのフィルター装置は充分に高い白血球除去性能を発揮したと見做すことができる。
実施例1〜15及び比較例1〜10の白血球除去率の測定結果を表1にまとめる。
【0075】
繊度が0.7dtex〜4.0dtex、繊維長が1mm〜80mmである短繊維と、長繊維とからなる基布を含み、総目付が10g/m2〜80g/m2である2層構造の凝集物除去フィルター材を含む白血球除去器は、血液評価で80%以上の白血球除去率と0.9以上のライフタイム値を示し、高い白血球除去性能と高い血液処理性能を併せ持つことが示された(実施例1〜15)。一方、凝集物除去フィルター材が、長繊維のみからなる場合(比較例7)、あるいは短繊維のみからなる場合(比較例8〜10)は、白血球除去率は80%以上を維持するものの、ライフタイム値は0.8以下となり、血液処理性能が低下した。また、凝集物除去フィルター材の短繊維の繊度(比較例1,2)、繊維長(比較例3,4)、総目付け(比較例5,6)のいずれかが上記範囲を外れる場合にも、ライフタイム値は0.8以下となり、血液処理性能の低下が認められた。
【0076】
【表1】

【0077】
実験B:3層構造の凝集物除去フィルター材と白血球除去フィルター材とを含む白血球除去器の評価
(実施例16〜20、比較例11〜14)
ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントを紡糸温度270℃、紡糸速度1500m/分で得た未延伸糸を延伸することで得て、このマルチフィラメントを撚糸し、織布に加工することで基布とした。
ポリエチレンテレフタレート製の短繊維を水中に分散させ、この基布の上下に抄造法により積層した。その後、孔径150μmのノズルから圧力100kgf/cm2の水を噴射することで基布と短繊維、及び短繊維同士を交絡させ、3層構造の凝集物除去フィルター材を得た。
【0078】
凝集物除去フィルター材の強度として実施例1と同じ方法で伸び率を測定し、血液を用いた評価を行った。なお、血液の入口側に近い方を短繊維層(1)、白血球除去フィルター材に近い方を短繊維層(2)とした凝集物除去フィルター材を配置し、血液の出口側に白血球除去フィルター材を配置した。
実施例16〜20及び比較例11〜14で使用した凝集物除去フィルター材の特性値、伸び率、血液評価の結果を表2に示す。
【0079】
凝集物除去フィルター材が短繊維/長繊維/短繊維の3層構造からなる場合も、該凝集物除去フィルター材の短繊維の繊度が0.7dtex〜4.0dtex、繊維長が1mm〜80mmであり、長繊維からなる基布を含み、凝集物除去フィルター材の総目付が10g/m2〜80g/m2であれば、血液評価で80%以上の白血球除去率と0.9以上のライフタイム値を示し、高い白血球除去性能と高い血液処理性能を併せ持つことが示された(実施例16〜20)。一方、凝集物除去フィルター材の総目付けは80g/m2であるが、短繊維の繊度(比較例11,12)、繊維長(比較例13、14)のいずれかが上記範囲を外れる場合、ライフタイム値は0.8以下となり、血液処理性能の低下が認められた。
【0080】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本実施形態に係る凝集物除去用フィルター材、及びそのフィルター材と白血球除去フィルター材を含む体外循環用白血球除去器は、全身性エリテマトーデス、慢性若しくは悪性関節リウマチ、多発性硬化症等の自己免疫疾患、または潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患などに対する治療、あるいは臓器移植術前の免疫抑制に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液の入口と出口を有する容器に、血液に含まれる凝集物を除去するための凝集物除去フィルター材からなるプレフィルター層と、血液に含まれる白血球を除去するための白血球除去フィルター材からなるメインフィルター層とから構成されるフィルター層が収容され、前記凝集物除去フィルター材は、繊度が0.7dtex〜4.0dtex、繊維長が1mm〜80mmである短繊維と、平面方向に繊維軸が配向した長繊維からなる基布とを含み、該短繊維を該基布に交絡させて総目付10g/m2〜80g/m2とし、該短繊維の層が立体構造を形成していることを特徴とする体外循環用白血球除去器。
【請求項2】
長繊維からなる基布の目付は5g/m2以上である凝集物除去フィルター材を含む請求項1記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項3】
長繊維からなる基布と短繊維の目付の比が1:0.1〜1:10である凝集物除去フィルター材を含む請求項1または2に記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項4】
長繊維と短繊維の繊度の比は1:0.5〜1:2である凝集物除去フィルター材を含む請求項1ないし3のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項5】
長繊維がスパンボンド繊維である凝集物除去フィルター材を含む請求項1ないし4のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項6】
長繊維からなる基布と短繊維をスパンレース法で交絡させた凝集物除去フィルター材を含む請求項1ないし5のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項7】
通気抵抗が4〜11Pa・s・m/gである凝集物除去フィルター材を含む請求項1ないし6のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項8】
長繊維の層と短繊維の層の2層構造からなる凝集物除去フィルター材を含む請求項1ないし7のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項9】
長繊維の層とその両面に短繊維の層を有する3層構造からなる凝集物除去フィルター材を含む請求項1ないし7のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項10】
前記メインフィルター層が巻かれ、さらに前記プレフィルター層が少なくとも外周面または内周面の前記メインフィルター層の露出部分を覆うように巻かれており、両端面が液密に封止され、前記プレフィルター層が血液入口と連通し、前記メインフィルター層が血液出口と連通している請求項1ないし9のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項11】
前記メインフィルター層に比し血液がより流れやすい、実質的に連続しているシート状のスペーサ層と該メインフィルター層とが積層された状態で巻かれ、該スペーサ層がその端部を該メインフィルター層の外周面又は内周面に露出させており、さらに前記プレフィルター層が少なくとも外周面または内周面の前記スペーサ層の露出部分を覆うように巻かれている、両端面が液密に封止された請求項1ないし9のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項12】
前記プレフィルター層と前記メインフィルター層が積層されており、前記白血球除去フィルター材が3級又は4級アミン基を含有するポリマーでコートされている請求項1ないし9のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項13】
前記白血球除去フィルター材が、繊度が0.01dtex〜0.3dtexの長繊維から形成されている請求項1ないし12のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項14】
前記白血球除去フィルター材が、不織布からなる請求項1ないし13のいずれかに記載の体外循環用白血球除去器。
【請求項15】
前記白血球除去フィルター材に使用される前記不織布がメルトブロー法により紡糸された不織布を含む請求項14に記載の体外循環用白血球除去器。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−83312(P2011−83312A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236279(P2009−236279)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】