体性に由来する複数の細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊

【課題】本発明は、複数種の分化した体性細胞を組み合わせ、培養することで、原始的な器官様をなし得る細胞塊を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、体性に由来する複数の体性細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊の製造方法であって、前記複数種の体性細胞を含む培養液を用意し、前記複数種の体性細胞培養液を混合後、その混合細胞培養液にWntシグナル活性化剤を添加し、前記Wntシグナル活性化剤を含有する培養液を所定期間にわたり非平面接触性培養に委ね、前記非平面接触性培養した培養物の培地をWntシグナル活性化剤非含有培地と交換し、更に所定期間培養する、ことを含んでなり、ここで前記複数の体細胞の少なくとも1種は未分化状態を保っている、方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体性に由来する複数の細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊の製造方法及びその方法により製造された細胞塊に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医学の目覚しい進歩により、疾患の原因の除去、例えば癌の外科的切除といった対症療法的な治療技術、あるいは組織・臓器の生体移植技術などにより、人命の救われる機会は益々高まりつつある。しかしながら、患部切除に伴い、患者は治療後のQOLの大幅な低下に悩まされることがある。また、移植ドナーの不足、拒絶反応など、生体移植を頼りとする治療にも限界がある。外科的治療又は不慮の事故で失われた組織、器官、臓器などを再生させることが可能となれば、患者のQOLを大幅に改善することができる。また、再生医療は生体移植が抱える問題の解消も図ることが可能である。その観点で再生医療に対する期待度は高い。
【0003】
再生医療で成功を収めている技術は、主として人工皮膚、人工骨、人工歯といった形態面及び機能面からして比較的単純な組織が中心である。再構成された人工皮膚や人工骨は細胞に取り込まれ、組織構築に必要なシグナルを供することができるようになることある。しかしながら、再生医療技術による人工皮膚・人工骨の分化のレパートリーは限られていた。例えば、同種ケラチノサイトや皮膚繊維芽細胞などは表皮としての構造物に分化し、周囲の器官に組み込まれて、バリア性質をもった角質層や基底膜を有するに至ることはあるが、毛包や脂肪腺、汗腺といった二次的誘導物を派生することはない、とされていた。
【0004】
生体組織は通常、自己複製をするとともに、分化した細胞にシグナルを送ったり分化した細胞を供給することで組織の恒常性を維持する幹細胞的性質をもった細胞と、そのような細胞から各種信号を受けたり指令を受けたりする、分化状態に既に至った体細胞的性質を有する細胞とが共存し、両者の相互作用により成り立っている。例えば脊椎動物の場合、ほとんどの組織・器官形成において間葉系細胞と上皮系細胞との間の相互作用が必須である。毛包の場合、間葉系細胞である毛乳頭細胞が幹細胞的性質を担い、上皮系細胞であるケラチノサイトが毛のシャフト(毛質そのもの)へと分化する意味において、体細胞的性質を有する細胞に相当する。
【0005】
再生医療による器官の形成の際の難しさは、実際の生体組織内におけるような、未分化状態を保った幹細胞的性質を有する細胞と、分化に至った細胞との共存状態の達成にある。従来技術では、仮に上皮系細胞と間葉系細胞を共培養しても、共に分化に至ってしまうか、あるいは共に未分化状態を保つかのどちらかだけであり、生体組織を模倣するような未分化状態と分化状態の細胞の共存の再現はされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、複数種の分化した体性細胞を組み合わせ、培養することで、原始的な器官様をなし得る細胞塊を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は以下の発明を包含する。
(1)体性に由来する複数の体性細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊の製造方法であって、
前記複数種の体性細胞を含む培養液を用意し、
前記複数種の体性細胞培養液を混合後、その混合細胞培養液にWntシグナル活性化剤を添加し、
前記Wntシグナル活性化剤を含有する培養液を所定期間にわたり非平面接触性培養に委ね、
前記非平面接触性培養した培養物の培地をWntシグナル活性化剤非含有培地と交換し、更に所定期間培養する、
ことを含んでなり、ここで前記複数の体細胞の少なくとも1種は未分化状態を保っている、方法。
(2)前記複数種の体性細胞が、上皮系体細胞と間葉系体細胞との組み合わせからなり、当該間葉系体細胞が未分化状態を保っている、(1)の方法。
(3)前記上皮系体細胞がケラチノサイトであり、前記間葉系体細胞が毛乳頭細胞である、(2)の方法。
(4)前記細胞塊から、毛包誘導機能を有する毛包が形成される、(3)の方法。
(5)前記Wntシグナル活性化剤が6−ブロモインジルビン−3’−オキシム(BIO)である、(1)〜(4)のいずれかの方法。
(6)前記非平面接触性培養方法がハンギングドロップ方法である、(1)〜(5)のいずれかの方法。
(7)体性に由来する複数の体性細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊であって、
前記複数種の体性細胞を含む培養液を用意し、
前記複数種の体性細胞培養液を混合後、その混合細胞培養液にWntシグナル活性化剤を添加し、
前記Wntシグナル活性化剤を含有する培養液を所定期間にわたり非平面接触性培養に委ね、
前記非平面接触性培養した培養物の培地をWntシグナル活性化剤非含有培地と交換し、更に所定期間培養する、
ことを含んでなる方法により製造され、ここで前記複数の体細胞の少なくとも1種は未分化状態を保っている、細胞塊。
(8)前記複数種の体性細胞が、上皮系体細胞と間葉系体細胞との組み合わせからなり、当該間葉系体細胞が未分化状態を保っている、(7)の細胞塊。
(9)前記上皮系体細胞がケラチノサイトであり、前記間葉系体細胞が毛乳頭細胞である、(8)の細胞塊。
(10)前記細胞塊から、毛包誘導機能を有する毛包が形成される、(9)の細胞塊。
(11)前記Wntシグナル活性化剤が6−ブロモインジルビン−3’−オキシム(BIO)である、(7)〜(10)のいずれかの細胞塊。
(12)前記非平面接触性培養方法がハンギングドロップ方法である、(7)〜(11)のいずれか1項記載の細胞塊。
(13)(9)〜(12)のいずれかの細胞塊に候補薬剤を適用し、育毛効果を有する薬剤をスクリーニングする方法。
(14)前記細胞塊のc−myc、BMP4及びIGFBP3から成る群から選ばれる1又は複数の遺伝子の発現量を指標とする、(13)の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の方法により作成した細胞塊の免疫染色図(1)であり、DP細胞とNHEK細胞の染色を示す。
【図2】本発明の方法により作成した細胞塊の免疫染色図(2)であり、細胞塊における毛乳頭細胞の局在を示す。
【図3】本発明の方法により作成した細胞塊の免疫染色図(3)であり、細胞塊における細胞増殖を示す。
【図4】本発明の方法により作成した細胞塊の免疫染色図(4)であり、βカテニンとNHEK細胞の染色を示す。
【図5】本発明の方法により作成した細胞塊の免疫染色図(5)であり、細胞塊におけるヘアケラチン発現を示す。
【図6】本発明の方法により作成した細胞塊の免疫染色図(6)であり、細胞塊における毛芽マーカー発現を示す。
【図7】本発明の細胞塊由来のRNAにおける各種遺伝子の発現(1)。
【図8】本発明の細胞塊由来のRNAにおけるWnt3A遺伝子の発現。
【図9】本発明の細胞塊由来のRNAにおけるWnt10B遺伝子の発現。
【図10】本発明の細胞塊由来のRNAにおける各種遺伝子の発現(2)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明により、複数種の体性細胞種をからなる原始的な器官様をなし得る細胞塊の提供が可能となる。
【0010】
本発明でいう体性細胞とは、生体の各種器官を構成する細胞へと分化するに至った細胞をいい、未分化状態の幹細胞とは相反する細胞をいう。本発明においては、2以上の体性細胞を使用することを特徴とし、好ましくは、上皮系細胞系と間葉系細胞との組み合わせ、内皮系細胞と間葉系細胞との組み合わせ、あるいは上皮系細胞と間葉系細胞と内皮系細胞と組み合わせなど、様々であってよい。
【0011】
本発明に係る細胞塊により形成し得る器官としては、特に限定されるものではないが、例えば毛包、肺、腎臓、肝臓、膵臓、脾臓、心臓、胆嚢、小腸、結腸、大腸、関節、骨、歯、血管、リンパ管、角膜、軟骨、嗅覚器官、聴覚器官、など、様々な器官が挙げられる。
【0012】
例えば、毛包を形成したい場合、例えば頭部由来の角化表皮細胞を上皮細胞系として、毛乳頭細胞を間葉系細胞として使用すればよい。ここでいう「上皮系細胞」は、皮膚の表皮または上皮の大部分を構成する細胞であり、真皮に接する1層の基底細胞から生じるものをいう。上皮系細胞としては、新生仔(もしくは胎児)に由来する上皮系細胞、成熟した皮膚、例えば休止期毛の表皮又は成長期毛の表皮に由来する細胞でも、ケラチノサイトの形態にある細胞の培養物であってもよい。かような細胞は、当業者周知の方法により所望のドナー動物の皮膚から調製することができる。「毛乳頭細胞」とは、間葉系細胞として毛包最底部に位置し、毛包の自己再生のために毛包上皮幹細胞に活性化シグナルを送る、いわば司令塔の役割を担っている細胞をいう。「毛乳頭細胞」は、例えば皮膚組織から表皮組織を取り除くことで得た真皮組織画分をコラーゲン処理して細胞懸濁物を調製し、次いで当該細胞懸濁物を凍結保存することで毛胞上皮細胞を死滅させることで調製することができる。
【0013】
また、例えば、嗅覚器官の再構築については以下のようにして調製を行うことができる。哺乳動物、例えばマウスの嗅覚上皮細胞群の存在組織部位を取り出す。コラゲナーゼ処理により組織を消化し、遠心分離し、沈殿した細胞群を調製する。続いてコラーゲン1又は4によってコーティングした細胞培養皿へ細胞懸濁液を入れ、接着性に優れる嗅覚上皮細胞を優先的に接着させるため5分程度で速やかに懸濁液を吸い取る。同皿に残った上皮系細胞は細胞培養へ移行できる。さらに残った細胞の大部分は上皮系細胞となる。吸い上げた残りの懸濁液には間葉系細胞が存在しているが、フィブロネクチンまたはゲラチンによってコーティングした培養皿へ懸濁液を入れ4時間以上、適当な雰囲気、例えば37℃、95%CO2下で静置することにより、間葉系細胞を細胞培養へ供することが可能となる。以上のように調製した上皮および間葉系細胞は、毛包器官の再構築と同様な手法により新たな嗅覚器官構築へ供することができる。
【0014】
更に、例えば腎臓糸球体の再構築については、以下のように調製を行うことができる。哺乳動物、例えばマウスの腎臓の存在組織部位を取り出す。コラゲナーゼ処理により組織を消化し遠心分離し、100umメッシュにて粗大物を取り除く。続いて40umメッシュにて糸球体をメッシュに集め、トリプシン処理にて細胞懸濁液にする。コラーゲン1又は4によってコーティングした細胞培養皿へ細胞懸濁液を入れ上皮細胞を優先的に接着させる。この処理により、本細胞の大部分は糸球体に由来する上皮系細胞となる。
【0015】
一方、腎臓の場合、発生時に存在していた間葉系細胞は生体では死滅している。従って、本発明では組織再構築に必要とされる上皮間葉相互作用を再度誘導するため以下のような手法を採ることができる。上皮系細胞は上記の腎臓由来細胞を使用する。さらに失われた間葉系細胞の代替として、同属である毛乳頭細胞または骨髄由来間葉系幹細胞を使用する。以上のような上皮および間葉系細胞は、毛包器官の再構築と同様な手法により新たな腎臓器官構築へ供することができる。
【0016】
本発明に係る細胞の起源はその目的に応じ、様々な哺乳動物を起源としてよく、限定することなくヒト、チンパンジー、その他の霊長類、家畜動物、例えばイヌ、ネコ、畜産動物、例えばウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、実験用動物、例えばウサギ、ラット、マウス、モルモット、より好ましくはヌードマウス、SCIDマウス、ヌードラットなどに由来する。また、その組み合わせは同種系でも、異種系でもよいが、同種系が好ましい。
【0017】
本発明に係る体性細胞の培養に有効な培養液は特に限定されるものではなく、細胞培養において慣用されているものが使用できる。例えば、間葉系細胞については、好ましくはDMEM、MEM、F12、Changメディウム等の血清含有型培地が使用可能である。この場合、血清濃度は0−30%、好ましくは10%とし、必要不可欠な因子として、bFGF(塩基性繊維芽細胞増殖因子)及びEGF(上皮増殖因子)、2mM L−グルタミンを添加する。
上皮系細胞の場合、Epilife(登録商標)、HuMedia(登録商標)(共にクラボウ社)、Invitrogen SFM(Invitrogen社)など、無血清型のケラチノサイトに対し最適化された培地が好ましい。ケラチノサイトは場合によってはGreen法(Cell 1975 NOV;6(3):331-43, Serial cultivation of strain of human epidermal keratinocytes:the formation of keratinizing colonies from single cells. Rheinwalf J.G., Green H.)にて調製することが出来るが、この場合はその培養に上記間葉系で使用した血清含有型培地を使用できる。なお、上皮系細胞、間葉系細胞の培養に共通して使える抗生物質としてはペニシリンG、カナマイシン、ストレプトマイシン、アンフォテリシンBが挙げられる。
【0018】
本発明においては、上記複数の体性細胞の混合物にWntシグナル活性化剤を添加し、培養を行うことを特徴とする。Wntシグナルとは、β−カテニンの核移行を促し、転写因子としての機能を発揮する一連の作用をいう。本シグナルは細胞間相互作用に起因し、例えば、ある細胞から分泌されたWnt3Aというタンパクがさらに別の細胞に作用し、細胞内のβ−カテニンが核移行し、転写因子として作用する一連の流れが含まれる。一連の流れは上皮間葉相互作用を例とする器官構築の最初の現象を引き起こす。Wntシグナルはβ−カテニン経路、PCP経路、Ca2+経路の三つの経路を活性化することにより、細胞の増殖や分化、器官形成や初期発生時の細胞運動など各種細胞機能を制御することで知られる。Wntシグナルがもつその未分化状態維持機能により、分化を抑制する目的でES細胞の培養の際に利用されてはいるが(例えば、Noburo Sato et al., Nature Medicine Vol.10, No.1, Jan. 2004)、体性細胞の培養におけるその利用及び効果については全く知られていない。
【0019】
Wntシグナル活性化剤としては、特に限定されるわけではないが、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3(GSK−3)の阻害活性を示すものであればいかなるものでもよく、例えばビス−インドロ(インジルビン)化合物(BIO)((2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)、そのアセトキシム類似体BIO−アセトキシム(2’Z,3’E)−6−ブロモインジルビン−3’−アセトキシム)、チアジアゾリジン(TDZD)類似体(4−ベンジル−2−メチル−1,2,4−チアジアゾリジン−3,5−ジオン)、オキソチアジアゾリジン―3−チオン類似体(2,4−ジベンジル−5−オキソチアジアゾリジン−3−チオン)、チエニルα−クロロメチルケトン化合物(2−クロロ−1−(4,4−ジブロモ−チオフェン−2−イル)−エタノン)、フェニルαブロモメチルケトン化合物(α−4−ジブロモアセトフェノン)、チアゾール含有尿素化合物(N−(4−メトキシベンジル)−N’−(5−ニトロ−1,3−チアゾール−2−イル)ユレア)やGSK−3βペプチド阻害剤、例えばH−KEAPPAPPQSpP−NH2、などが挙げられる。
【0020】
Wntシグナル活性化剤の添加量は特に制限されるものではなく、Wntシグナル活性化、換言すれば、GSK−3の阻害が奏され、且つ細胞増殖が停止しない量であればよく、使用する薬剤の種類及び増殖すべき細胞の種類に依存し、当業者により適宜決定されるであろう。例えば、Wntシグナル活性化剤としてBIOを毛乳頭細胞に使用する場合、その量は例えば0.1μM〜10μM程度が適量であろうが、むろんそのような量に限定されるものではない。
【0021】
本発明におけるもう一つの特徴は、上記複数の体性細胞の混合物にWntシグナル活性化剤を添加したものを非平面接触性培養に委ねることである。非平面接触性培養とは、平面接着性細胞を接着させないように球面を有する界面の上にて細胞を培養する方法である。非平面接触性培養方法の例としては、ハンギングドロップ法がある(Keller G. M. et al., Curr. Opin. Cell Biol., 7, 862-869 (1995))。ハンギングドロップ法とは、培養細胞を含む培養液の液滴(一般に25〜35μL程度)を培養皿の蓋の天井側に点着し、培養液が落下又は流れ落ちないように注意深く蓋を閉じ、表面張力により培養液内の細胞を逆さの液滴の状態で培養する方法である。このように培養することで、細胞は平面培養など場合における平面との接触により受ける影響を最小限にすることができる。非平面接触性培養方法のその他の例としては、あらかじめ細胞接着ができないよう表面加工された半球状の細胞培養皿(例えば住友ベークライトから販売されている「スフェロイド」)を利用した形成方法(スフェロイド形成方法)、ニトロセルロース培地内での培養により浮遊状態で細胞凝集させる浮遊方法などがある。
【0022】
非平面接触性培養のための温度・時間は取り扱う細胞の種類や継代回数に依存して変わりうるが、例えば37℃で1〜10日間、好ましくは3〜7日間行い、必要であれば適宜培地を同様のもので交換する。
【0023】
最後に上記培地を、Wntシグナル活性化剤を含有しない培養液と交換することで細胞をWntシグナル不在下の状態でさらに非平面接触性培養する。この場合も培養時間及び温度も取り扱う細胞の種類や継代回数に依存して変わりうるが、例えば37℃で1〜10日間、好ましくは3〜7日間行い、必要であれば適宜培地を同様のもので交換する。
【0024】
本発明により、例えば毛包移植、各臓器移植、ならびに完全な臓器にはいたらないものの臓器を構成する微小器官、たとえば角膜、腎糸球体、嗅覚上皮組織、軟骨部位の部分移植などに有用な細胞塊を効率良く人工的に作成することが可能となる。また人工的に作成した細胞塊は、薬剤評価に供することで、より正確に生体内器官への薬剤作用を評価することが可能となる。またヌードマウス、SCIDマウスのような免疫不全動物への細胞塊移植により、より完成度の高い器官様組織を作成でき、たとえばヒト毛包、マウス腎などを異所的に作成することで新規な薬剤評価ならびに遺伝子機能評価を可能とするモデル動物の作成が可能となる。特に細胞塊を作成する際に細胞に遺伝子導入または改変を施すことでレポーターを有する再構築器官を簡便に作成することが可能となり、組織および器官レベルでの生体内分子挙動を正確に把握調査できうる。
【0025】
本発明に係る細胞塊において、上皮系体細胞がケラチノサイトかつ間葉系体細胞が毛乳頭細胞であり、そして毛包誘導機能を有する毛包が形成される場合、その細胞塊は、育毛効果を示す薬剤の評価、例えばそのような薬剤のスクリーニングに使用できる。例えば、育毛薬剤の候補薬剤をこの細胞塊に適用し、コントロールと比較して、細胞塊の成長が顕著となる場合、育毛効果を有する薬剤と判定したり、あるいは毛成長を促進させる遺伝子、例えばc−mycの発現の亢進を指標としたり、毛成長を抑制する遺伝子、例えばBMP4、IGFBP3遺伝子などの発現の抑制を指標として、育毛効果の有無を判定することができる。
【実施例】
【0026】
毛乳頭細胞
ヒト由来毛乳頭細胞はドナーより提供された頭皮組織より調製した。真皮組織を除去後、脂肪組織内に存在する毛包部位を実体顕微鏡下にてピンセットおよび眼科はさみを用いて採取した。採取した毛包は抗生剤入りの培養液内に移し、さらに同顕微鏡下にて毛乳頭細胞部位を目視にて分離採取した。分離した毛乳頭細胞は培地内にて10cm丸型ディッシュ(TRP社製)において、37℃、95%CO2下にて1週間以上培養し、後の実験に供した。使用した培地はAdvanced−DMEM(Invitrogen)、15%牛胎児由来血清、20ng/mlのbFGF、10ng/mlnoEGF、2mMのL−グルタミン、ペニシリン・ストレプトマイシン・アンフォテリシン混合液《100倍希釈》、3.5ul/500mlのβメルカプトエタノールである。細胞は適宜同じ条件下で継代培養した。継代の際には、0.5%トリプシン/EDTA溶液にて細胞剥離を行い、細胞を新たなディッシュに移し入れ、同じ組成の新鮮培地で継代培養を行った。
【0027】
BIO(Calbiochem社)を添加する場合、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1〜5μMとなるように添加した。
【0028】
ケラチノサイト
ヒト正常新生児包皮由来ケラチノサイトを以下のとおりにして調製した。ドナーから採取した包皮組織をディスパーゼ酵素存在下のPBS(−)内にて一夜程度4℃にて処理した。この処理により表皮のみがシート状で採取でき、それを継代時と同様な方法で0.25%トリプシン酵素にて消化調製し、コラーゲン処理された培養皿に培地ごと移し換え、培養した。培地としてHumedia KG2(クラボウ社)を使用した。細胞は適宜同じ条件下で継代培養した。継代の際には、0.5%トリプシン/EDTA溶液にて細胞剥離を行い、細胞を新たなディッシュに移し入れ、同じ組成の新鮮培地で継代培養を行った。上記のようにして採取され培養された細胞を、以降の実験に供した。
【0029】
BIO(Calbiochem社)を添加する場合、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1〜5μMとなるように添加した。
【0030】
ハンギングドロップ培養
培地構成
Advanced−DMEM(Invitrogen社)30%、2mMのL−グルタミン、ペニシリン・ストレプトマイシン混合液(Invitrogen社)(100倍希釈)3.5μl/500mlのβメルカプトエタノールとHumediaKG−2(クラボウ社)を1:1にて混合した。
Bio(Calbiochem社)を添加する場合、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1〜5μMとなるように添加した。
【0031】
作成方法
毛乳頭細胞はP3(継代数1をP1と表記)以上にてBio負荷有り又は無しで、表皮角化細胞についてはP3以内の細胞を準備した。
各細胞が1×105個になるように、トリプシン処理後に各々の培地により希釈した。
Bio(Calbiochem社)を添加する場合、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1〜5μMとなるように添加した。
10cm角の四角い培養皿(フタ)天井側に各培養液25〜35μlを分注して混合し、適当な大きさのドーム上の水滴を作成した。
注意深くフタを閉じ、培養液が落下しないようにして、37℃、5%CO2雰囲気にて培養した。
3日後、上記で使用したのと同じ培地にて、培地交換を行った。
さらに4日間培養後、一部は下記のRT−PCR解析(1)へ供した。残りは、すべての培地をBio無しの条件にある培地へ交換した。
3日目に同様な培地交換をおこない、7日目に生成した細胞塊を回収し、下記の免疫染色へ供した。
【0032】
免疫組織蛍光染色
ハンギングドロップ法で得られた各細胞塊を0.1%パラフォルムアルデヒドにて5分固定し、その後の染色に供した。また、一部の細胞隗は未固定でOCT液に包埋し、クライオスタットにて凍結切片を作製して、免疫組織染色を行った。
13%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS(−)内にて6時間ブロッキングを行った。
下記表に示す各種一次抗体を、上記13%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS(−)により1/200に希釈し、各サンプルに添加し、4時間、4℃にて反応させた。
0.02%のTween20を含むPBS(−)にて3回洗浄した。
上記13%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBS(−)により1/200に希釈した蛍光二次抗体(EXCELファイル参照)を各サンプルに添加した。またDAPI(4'−6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)により、細胞の核を青色に染色した。
蛍光顕微鏡(OLYMPUS)にて観察した。
【0033】
【表1】

ここで、ビメンチンに対するモノクローナル抗体は毛乳頭細胞を特異的に染色し、CD49fポリクローナル抗体は表皮細胞を特異的に染色するため、ビメンチン抗体及びCD49f抗体の免疫細胞染色への適用は、本実験系にて生成した細胞塊内での細胞の属性の評価を可能にする。
【0034】
図1は上記顕微鏡観察結果を示す白黒写真図である。同図のカラー版では、緑色でのビメンチン抗体による染色、赤色でのCD49f抗体による染色を見極めることができ、それぞれ毛乳頭細胞、ケラチノサイトであることが理解できた。また、図2に示すように毛乳頭細胞が細胞隗の中心部に凝集していることが確認できた。これらの図の結果、細胞が凝集化した後に規則的に配列したことが観察され、本実験系により上皮細胞と間葉細胞が規則正しく配列していることがわかった。BIOを添加して細胞塊を生じさせ後、BIO未添加で培養した細胞塊において、赤く染色されたケラチノサイトが枝状に規則正しく成長したことが伺えた。さらに図3は、BIOを添加して細胞塊を生じさせた場合に、毛乳頭が凝集して存在する中心部と、枝状に進展する細胞隗の先端部が、増殖マーカーのKi67に陽性であることを分かった。以上の結果、通常凝集させた体細胞は成長せず休眠状態になることが通例であったが、BIOの効果により細胞塊において細胞の増殖が起こったことは驚くべき知見といえる。
【0035】
また、β−カテニンモノクローナル抗体を幹細胞的性質のマーキングのために使用した。βカテニンは通常の体細胞において少量にて細胞膜近傍に存在しているため、通常の蛍光免疫抗体染色では微弱にしか検出できない。しかしながら、幹細胞的性質を有する細胞では、βカテニンは核内にて転写因子として作用しており、その量も増えている。さらに核内への集積しているため、蛍光免疫抗体染色法でも強く局在している様子を確認できる。本実験においても、細胞塊の一部特異的な部位でβカテニンが強く染色され、集積している状況が確認されていることから、βカテニン抗体による染色は細胞塊内での幹細胞的性質を有する細胞の検出に適しているといえる。
【0036】
図4は上記β−カテニンモノクローナル抗体染色による顕微鏡観察結果を示す白黒写真図である。同図のカラー版は、βカテニン抗体による染色部位を緑色、ケラチノサイトを赤色で示している。強く緑色に光る部位のβカテニン陽性細胞が認められ、細胞の幹細胞的性質が示された。特筆すべきは、細胞塊の球状部位において中心部が黄色に光る部分が存在したことである。この部位はβカテニン陽性かつケラチノサイトであることを示す。βカテニン陽性細胞は上記のとおり幹細胞的性質を有する細胞といえる。一方で細胞塊から枝状に進展するケラチノサイト(赤)の部位には黄色く光る部位はなく、つまり同一細胞塊内で幹細胞的性質と通常の体細胞的性質を有する細胞(ケラチノサイト)が共存していることを観察できている。通常の培養状態においては観察し得ない状況であり、上皮間葉相互作用があたかもin vivoのように再現され、未分化および分化した細胞群が自律的に細胞塊を形成し成長していると考察できる。
【0037】
ここでいう未分化のケラチノサイトとは、毛母細胞のように毛を構築するケラチノサイトを恒常的作り出す幹細胞的能力を有する細胞をさす。一方で分化したケラチノサイトは増殖回数が限定的であり、いわゆる毛になりつつある細胞運命が決定されている細胞を指す。同時に図4のカラー版において緑に光る球体を囲む細胞は毛乳頭細胞と考えられるが、この細胞塊の環境において毛乳頭細胞がβカテニン陽性細胞あることは、in vivoにおいて毛包形成および成長開始にWntシグナルが重要であることと類似しており、重要な点といえる。
【0038】
表皮角化細胞や外毛根鞘細胞で発現するサイトケラチン14(K14)に対する抗体を、これらの細胞が毛幹に分化していないことを確認する目的で使用した(赤色)。ヘアケラチン特異的に反応するAE13モノクローナル抗体(Lynch et al, J Cell Biol 103, 2593, 1986)は、44K/46Kの酸性ヘアケラチン二量体を認識することから、毛幹に分化した状態のマーキングのために使用した(緑色)。ヘアケラチンは、通常の表皮角化細胞においてほとんど全く存在しない、毛包特異的な構造タンパク質である。図5はその顕微鏡観察結果を示す白黒写真図である。同図のカラー版では、毛乳頭細胞と表皮角化細胞で作製した細胞塊では、AE13抗体によって染色される部分は認められないが、BIOで刺激すると、一部に染色が確認される。毛乳頭細胞と外毛根鞘細胞で作製した細胞塊では、BIOの刺激がない場合でのAE13抗体によって染色される部分が確認でき、BIOの刺激によってAE13抗体による染色性が著しく高まった。一方、すべての細胞塊でK14抗体(赤)とAE13抗体(緑)の両方で染色される部位(黄色く光る部位)は認められないことから、サイトケラチン14を発現する未分化な細胞からヘアケラチンを産生する細胞への変化が起きたものと考えられる。
【0039】
発毛期の毛芽において特異的に発現する(Ogawa et al, Exp Dermatol 13, 401, 2004)ヒト上皮抗原に対するBer−EP4抗体を、発毛期の毛芽のマーキングのために使用した(緑色)。図6はその顕微鏡観察結果を示す白黒写真図である。同図のカラー版では、毛乳頭細胞と外毛根鞘細胞で作製した細胞塊において、BIOで刺激した場合に、Ber−EP4抗体による免疫染色性(緑)が明瞭に観察された。K14抗体(赤)とBer−EP4抗体(緑)の両方で染色される部位(黄色く光る部位)は認められないことから、サイトケラチン14を発現する未分化な細胞からBer−EP4を発現する毛芽に分化した細胞への変化が起きたものと考えられる。
【0040】
RT−PCR解析(1)
各サンプルからTRIZOL(Invitrogen)を用い、RNAを抽出した。各RNA200ng相当をRevTraACE(TOYOBO)50μlの反応系にてcDNAへ逆転写した。得られたサンプル1μlを下記のプライマーを用い、50μlの系でPCR反応にかけた。使用した酵素はKOD−DASH(TOYOBO)、[95℃、60sec、(95℃、30sec;63℃、15sec;72℃、30sec)を40サイクル、72℃、60sec]の反応プロトコールを用いた。
反応液10μlを2%アガロースゲル(COSMOBIO)/TAEバッファー内にて100Vで電気泳動をした。使用したDNAサイズマーカーは100bpラダーマーカー(TOYOBO)である。
使用したプライマーは下記のとおりであり、PCRの結果を図7に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
β−アクチンは実験全体のコントロールとして用いた。
Lef−1はWntシグナルの下流遺伝子であり、図7に示すとおり、BIOの存在下及び非存在下のいずれにおいても本実験系で検出された。Lef−1の遺伝子発現が認められる場合、細胞にWntシグナルが作用していることを意味する。従って、本実験系ではBIOの添加により細胞内へWntシグナルが作動していることが理解できる。
【0043】
SHH(Sonic Hedge Hog)は組織形成時に関与する遺伝子であり、図7に示すとおり、BIOの存在下及び非存在下のいずれにおいても本実験系では検出されなかった。SHHはWntならびにLef−1のシグナルを受けて転写発現される遺伝子である。本遺伝子発現はWntシグナルが細胞に作用し、更にin vivoにおいて起きているような連鎖的な遺伝子発現が起こっていることを示す。同時にSHHは上皮間葉間での細胞間シグナルを担うタンパクであり、上皮間葉相互作用が起きていることも同時に示唆する。
【0044】
STAT−3(SIGNAL TRANSDUCER AND ACTIVATOR OF TRANSCRIPTION 3)は毛包誘導関連遺伝子であり、図7に示すとおり、BIOの非存在下に比べ、存在下で顕著に検出された。STAT−3は幹細胞の自己増殖に関与するといわれる細胞内シグナル伝達タンパクである。同遺伝子の亢進は、胚性幹細胞にて自己増殖と万能性維持に必要不可欠な因子であり、その幹細胞的性質を示すマーカーの一つである。同時に論文Sano, S. et al., Nature Med. 11: 43-49, 2005"Stat3 links activated keratinocytes and immunocytes required for development of psoriasis in a novel transgenic mouse model."にあるように、毛の成長期への移行に非常に重要な遺伝子であることからも、本実験系にてSTAT−3の転写が亢進することは、後に毛包へと成長していく際の正常な段階を踏んでいることが示唆される。同時にSTAT−3シグナルそのものはBIOの影響を直接受けるものではない(Sato N, et al, Nat Med. 2004 Jan;10(1):55-63. Epub 2003 Dec 21. "Maintenance of pluripotency in human and mouse embryonic stem cells through activation of Wnt signaling by a pharmacological GSK-3-specific inhibitor")。つまり、STAT−3のBIO添加時での亢進は、上皮間葉相互作用により幹細胞維持システムが細胞塊内で生まれていること示す。
【0045】
TWIST−1は胚性間葉系幹細胞のマーカーであり、毛乳頭細胞が極めて高い幹細胞的性質を有していることを示唆する。TWIST−1は体細胞での発現は骨髄性間葉幹細胞を含む極めて希少な細胞種に限られることから、毛乳頭細胞は体細胞としても高い幹細胞的性質を持つ細胞といえる。図7RT−PCRの実験においては等量の全RNAを鋳型に用いてRT−PCRをしている。BIOの存在下において発現が低下しているように見えるのは、図1および2から観察できるように、全細胞数における毛乳頭細胞の数が相対的に低下しているためである。結論として、発現量の多少を考慮したうえでも、TWIST−1遺伝子を発現する細胞が存在し続けていることは、本実験において幹細胞的能力を有しうる毛乳頭細胞が存在し続けていることを示唆している。
【0046】
バーシカン遺伝子は発毛誘導時に強く毛乳頭細胞にて発現されることで知られる発毛マーカーである(Kishimoto et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA(1999), pp.7336-7341)。図7RT−PCRの実験においては等量の全RNAを鋳型に用いてRT−PCRをしている。BIOの存在下において発現が低下しているように見えるのは、図1および2から観察できるように、全細胞数における毛乳頭細胞の数が相対的に低下しているためである。結論として、発現量の多少を考慮したうえでも、バーシカン遺伝子を発現する細胞が存在し続けていることは、本実験において発毛誘導能を有しうる毛乳頭細胞が存在し続けていることを示唆している。
【0047】
各種遺伝子の発現レベルの変化から、細胞塊内でBIOの直接効果により、上皮および間葉細胞の未分化性が維持され、かつWntシグナルによる上皮間葉相互作用の擬似が起こったといえる。またSTAT−3のようにWntシグナルとは関連のない幹細胞的性質の出現が認められることからBIOの効果は自律的な細胞間相互作用と増殖能を有する細胞塊の創出に寄与しているといえる。
【0048】
Wnt3A RT−PCR
毛乳頭細胞はP3(継代数1をP1と表記)にてBio負荷有りで、ケラチノサイトについてはP3以内の細胞を準備した。
各細胞が3×103個になるように、トリプシン処理後に各々の培地により希釈した。
Bio(Calbiochem社)をDMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1〜5μMとなるように添加した。
10cm角の四角い培養皿(フタ)天井側に各培養液25〜35μlを分注して混合し、適当な大きさのドーム上の水滴を作成した。
注意深くフタを閉じ、培養液が落下しないようにして、37℃、5%CO2雰囲気にて培養した。
3日後、上記にて使用したのと同じ培地にて、培地交換を行った。7日目にてサンプルを回収し、下記のとおりのRT−PCR解析(2)に供した(図8の「0 day」)。さらに残りの同様の細胞については培地をBio無しの条件にある培地へ交換し、分化誘導させ、3日目に回収したサンプルを同様に下記のとおりのRT−PCR解析(2)に供した(図8の「3 days」)。
【0049】
RT−PCR解析(2)
サンプルからTRIZOL(Invitrogen)を用い、RNAを抽出した。各RNA200ng相当をRevTraACE(TOYOBO)50μlの反応系にてcDNAへ逆転写した。得られたサンプル1μlを下記のプライマーを用い、50μlの系でPCR反応にかけた。使用した酵素はKOD−DASH(TOYOBO)、[94℃、2min、(94℃、30sec;63℃、10sec;72℃、30sec)を32サイクル、72℃、2min]の反応プロトコールを用いた。
Sense Primer(順鎖) caggaactacgtggagatcatg (配列番号13)
Anti-Sense Primer(逆鎖) ccatcccaccaaaactcgatgtc(配列番号14)
反応液10μlを2%アガロースゲル(COSMOBIO)/TAEバッファー内にて100Vで電気泳動をした。臭化エチヂウムにて可視化した後、目的のバンドを検出した。
【0050】
その結果を図8に示す。図中、矢印で示しているのがWnt3Aのバンドである。Wnt3Aは発現自体が稀であり、主に上皮系細胞により発現され、器官形成や上皮系細胞−間葉系細胞の相互作用に関与する遺伝子であることが知られている。図に示すとおり、BIOの存在下で培養することによりWntシグナルを活性化せしめた細胞においてはWnt3Aの発現は全く認められなかったのに対し、その後BIOを取り除くことで細胞の分化を誘導せしめた細胞ではWnt3Aの発現が認められた。よって、本実験系では、BIOの存在下で培養後、BIOを除いて培養することで、ケラチノサイトの分化、さらには自律的な器官形成が誘導されることが明らかとなった。
【0051】
Wnt10B RT−PCR
毛乳頭細胞はP3(継代数1をP1と表記)にてBio負荷なしで、外毛根鞘細胞についてはP3以内の細胞を準備した。
各細胞が3×103個になるように、トリプシン処理後に各々の培地により希釈した。
Bio(Calbiochem社)は、DMSO(ジメチルスルホオキサイド)にて10mM溶解して、0.1〜5μMとなるように添加した。
10cm角の四角い培養皿(フタ)天井側に各培養液25〜35μlを分注して混合し、適当な大きさのドーム上の水滴を作成した。
注意深くフタを閉じ、培養液が落下しないようにして、37℃、5%CO2雰囲気にて培養した。
【0052】
3日後、上記にて使用したのと同じ培地にて、培地交換を行った。7日後にサンプルを回収し、下記のとおりのRT−PCR解析(3)に供した(図9の「7日」)。さらに残りの同様の細胞については培地をBio無しの培地へ交換して分化誘導させ、10日後と14日後に回収したサンプルを同様に下記のとおりのRT−PCR解析(3)に供した(図9の「10日」および「14日」)。
【0053】
RT−PCR解析(3)
サンプルからTRIZOL(Invitrogen)を用い、RNAを抽出した。各RNA200ng相当をRevTraACE(TOYOBO)50μlの反応系にてcDNAへ逆転写した。得られたサンプル4μlを下記のプライマーを用い、20μlの系で定量PCR(LightCycler system、Roche)にかけた。LightCycler FastStart DNA Master SYBR Green I(Roche)の反応プロトコール[95℃、10sec;63℃、10sec;72℃、15secを40サイクル]を用いた。
Sense Primer(順鎖) gaagttctctcgggatttcttggatcc (配列番号15)
Anti-Sense Primer(逆鎖) cggttgtgggtatcaatgaagatgg(配列番号16)
【0054】
その結果を図9に示す。データはすべて、細胞塊においてBIOを負荷させていない場合の3日後の発現量に対する相対的な発現量として表した。Wnt10Bは毛包の形態形成期と発毛期において、主に上皮系細胞により発現され、上皮系細胞−間葉系細胞の相互作用に関与する遺伝子であることが知られている。図に示すとおり、BIOの存在下で培養することによりWntシグナルを活性化せしめた細胞においては、BIOの存在下で培養する限りはWnt10Bの発現は、BIOの非存在下で培養したコントロールと同程度しか認められなかったのに対し、その後BIOを取り除くことで細胞の分化を誘導せしめた細胞では、Wnt10Bの発現が、経時的に高まった。よって、本実験系では、BIOの存在下で培養後、BIOを除いて培養することで、毛包上皮系細胞(外毛根鞘細胞)の分化、さらには自律的な器官形成が誘導されることが明らかとなった。
【0055】
細胞塊の発毛薬剤cyclosporineAへの反応性
免疫抑制剤であるcyclosporineAは、副作用として多毛症(Lutz et al, Skin Pharmacol 7, 101, 1994)が知られている薬剤であり、発毛作用(Paus et al, Lab Invest 60, 365, 1989)や毛成長促進作用(Taylor et al, J Invest Dermatol 100, 237, 1993)を示すことが明らかになっている。
毛乳頭細胞はP3(継代数1をP1と表記)にてBio負荷なしで、外毛根鞘細胞についてはP3以内の細胞を準備した。
各細胞が3×103個になるように、トリプシン処理後に各々の培地により希釈した。
10cm角の四角い培養皿(フタ)天井側に各培養液25〜35μlを分注して混合し、適当な大きさのドーム上の水滴を作成した。
注意深くフタを閉じ、培養液が落下しないようにして、37℃、5%CO2雰囲気にて培養した。
【0056】
3日後、cyclosporineAを含む上記にて使用したのと同じ培地にて、培地交換を行った。cyclosporineA(Novartis社)は、エタノールにて10mM溶解して、0.1〜10μMとなるように添加した。
cyclosporineA添加の3日後にてサンプルを回収し、下記のとおりのRT−PCR解析(4)に供した。
【0057】
RT−PCR解析(4)
サンプルからRNeasyキット(QIAGEN)を用い、RNAを抽出した。各RNA2000ng相当をSuperScriptII(Invitrogen)20μlの反応系にてcDNAへ逆転写した。得られたサンプル1μlを下記のプライマーを用い、20μlの系で定量PCR(LightCycler system、Roche)にかけた。LightCycler FastStart DNA Master SYBR Green I(Roche)の反応プロトコール[95℃、10sec;58℃、10sec;72℃、15secを40サイクル]を用いた。
【0058】
BMP4
Sense Primer(順鎖) gggcacctcatcacacgact (配列番号17)
Anti-Sense Primer(逆鎖) ggcccaattcccactccctt(配列番号18)
【0059】
c−myc
Sense Primer(順鎖) ttctctccgtcctcggattctctg (配列番号19)
Anti-Sense Primer(逆鎖) cagcagaaggtgatccagactctgac(配列番号20)
【0060】
IGFBP3
Sense Primer(順鎖) acagccagcgctacaaagtt (配列番号21)
Anti-Sense Primer(逆鎖) tagcagtgcacgtcctcctt(配列番号22)
【0061】
その結果を図10に示す。データはすべて、cyclosporineAを添加していない場合に対する相対的な発現量として示した。BMP4は毛包の形態形成期と発毛期において、主に毛乳頭細胞により発現され、上皮系細胞−間葉系細胞の相互作用に対して抑制的に作用する遺伝子であることが知られている(Hens et al, Development 134,1221, 2007)。図に示すとおり、BMP4の発現量は60%程度にまで、有意に発現が低下した。また、c−mycは発毛期のバルジ領域や成長期の毛母細胞に強く発現して、毛包上皮細胞の増殖に対して正に働く遺伝子であることが知られている(Bull JJ et al, Invest Dermatol 116, 617, 2001)。図に示すとおり、c−mycの発現は1.5倍近くまで亢進した。さらに、IGFBP3は毛成長を抑制する因子として知られ(Weger et al, J Invest Dermatol 125, 847, 2005)、休止期において発現が高まることが明らかになっている(Schlake et al., Gene Expr. Patterns 4, 141, 2004)。図に示すとおり、IGFBP3の発現は60%程度にまで、有意に発現が低下した。よって、本実験系において発毛や毛成長に関わる遺伝子がcyclosporineAによって変動することが分かり、本実験系を発毛や毛成長に影響する薬剤の評価に利用することが可能であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体性に由来する複数の体性細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊の製造方法であって、
前記複数種の体性細胞を含む培養液を用意し、
前記複数種の体性細胞培養液を混合後、その混合細胞培養液にWntシグナル活性化剤を添加し、
前記Wntシグナル活性化剤を含有する培養液を所定期間にわたり非平面接触性培養に委ね、
前記非平面接触性培養した培養物の培地をWntシグナル活性化剤非含有培地と交換し、更に所定期間培養する、
ことを含んでなり、ここで前記複数の体細胞の少なくとも1種は未分化状態を保っている、方法。
【請求項2】
前記複数種の体性細胞が、上皮系体細胞と間葉系体細胞との組み合わせからなり、当該間葉系体細胞が未分化状態を保っている、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記上皮系体細胞がケラチノサイトであり、前記間葉系体細胞が毛乳頭細胞である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記細胞塊から、毛包誘導機能を有する毛包が形成される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記Wntシグナル活性化剤が6−ブロモインジルビン−3’−オキシム(BIO)である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記非平面接触性培養方法がハンギングドロップ方法である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
体性に由来する複数の体性細胞種からなる原始的な器官様をなし得る細胞塊であって、 前記複数種の体性細胞を含む培養液を用意し、
前記複数種の体性細胞培養液を混合後、その混合細胞培養液にWntシグナル活性化剤を添加し、
前記Wntシグナル活性化剤を含有する培養液を所定期間にわたり非平面接触性培養に委ね、
前記非平面接触性培養した培養物の培地をWntシグナル活性化剤非含有培地と交換し、更に所定期間培養する、
ことを含んでなる方法により製造され、ここで前記複数の体細胞の少なくとも1種は未分化状態を保っている、細胞塊。
【請求項8】
前記複数種の体性細胞が、上皮系体細胞と間葉系体細胞との組み合わせからなり、当該間葉系体細胞が未分化状態を保っている、請求項7記載の細胞塊。
【請求項9】
前記上皮系体細胞がケラチノサイトであり、前記間葉系体細胞が毛乳頭細胞である、請求項8記載の細胞塊。
【請求項10】
前記細胞塊から、毛包誘導機能を有する毛包が形成される、請求項9記載の細胞塊。
【請求項11】
前記Wntシグナル活性化剤が6−ブロモインジルビン−3’−オキシム(BIO)である、請求項7〜10のいずれか1項記載の細胞塊。
【請求項12】
前記非平面接触性培養方法がハンギングドロップ方法である、請求項7〜11のいずれか1項記載の細胞塊。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれか1項記載の細胞塊に候補薬剤を適用し、育毛効果を有する薬剤をスクリーニングする方法。
【請求項14】
前記細胞塊のc−myc、BMP4及びIGFBP3から成る群から選ばれる1又は複数の遺伝子の発現量を指標とする、請求項13記載の方法。

【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−59337(P2013−59337A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−248660(P2012−248660)
【出願日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【分割の表示】特願2007−166893(P2007−166893)の分割
【原出願日】平成19年6月25日(2007.6.25)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】