説明

体液ホメオスタシスのバイオマーカーとしてのMCAM

本願は、体液ホメオスタシス不均衡の新たなバイオマーカーとしてのMCAM;該バイオマーカーの測定に基づいて体液ホメオスタシス不均衡を予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法;及び前記バイオマーカーを測定し及び/又は前記方法を実施するキット及びデバイスを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、対象者における疾患又は病状の、特に損傷した体液ホメオスタシス(fluid homeostasis)及び収縮期機能不全の、予知、診断、予後予測(prognosticating)及び/又はモニタリングに使用するための、タンパク質-及び/又はペプチド-ベースのバイオマーカー並びに関連する方法、キット及びデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ホメオスタシスの維持は、全ての生物の生存にとって非常に重要である。いずれの生物も、独立の調節機構、特にポジティブ及びネガティブフィードバックループによって厳格に制御される多数の動的平衡によりその構造及び機能を維持する。この機構は、環境中のあらゆる変化又はあらゆるランダムな攪乱要因に対して、攪乱を作り出したものと同じサイズで反対方向の一連の改変により反応するように設定されている。これら改変のゴールは、内部平衡を維持することである。哺乳動物(例えばヒト)における実質的に全ての生理学的プロセス又はシステムは、ホメオスタシスのモニタリング及びコントロールに供されている。例としては、例えば、温度ホメオスタシス、サーカディアンホメオスタシス、代謝ホメオスタシス、内分泌ホメオスタシス、神経ホメオスタシス、呼吸ホメオスタシス及び体液ホメオスタシスが挙げられる。
【0003】
一方で、多くの疾患がホメオスタシスの攪乱(ホメオスタシス不均衡として知られる状態)に起因する。他方で、多くの疾患が、実際、ホメオスタシス不均衡を引き起こす。老化に際して、あらゆる生物が、最終的に、そのコントロールシステムの1以上で効率性を失う。この非効率は、徐々に、病気のリスクを増大させる不安定な内部環境を生じる。加えて、ホメオスタシス不均衡はまた、老化と関係する身体的変化の原因である。病気や老化の他の特徴より更に重大なものは死である。ホメオスタシス不均衡に起因する疾患(名目上のネガティブフィードバック機構が圧倒され、破壊的なポジティブフィードバック機構が後を引き継ぐ)には、例えば、心不全、糖尿病、脱水、低血糖症、高血糖症、痛風及び血流中に存在する毒素によって引き起こされる任意の疾患が挙げられる。ホメオスタシス不均衡、特に不均衡な体液又は水分ホメオスタシスを引き起こし得る疾患又は障害としては、例えば、低ナトリウム血症、高ナトリウム血症、グルココルチコイド欠乏症、甲状腺機能低下症、硬変、鬱血性心不全及び進行腎不全が挙げられる。
【0004】
多くの疾患及び病状において、予防的及び/又は治療的処置の好ましい転帰は、疾患又は病状の早期及び/又は正確な予知、診断及び/又は予後並びに注意深いモニタリングと強く相関している。したがって、処置の選択に指針を与える疾患及び病状の早期及び/又は正確な予知、診断及び/又は予後並びにモニタリングのための追加的で、好ましくは改善された様式に関する継続的な必要性が存在する。
ホメオスタシス不均衡の、特に体液又は水分ホメオスタシスの正確で信用できる診断、予知、予後及び/又はモニタリング並びに過剰充満状態と過少充満状態との間の区別が効果的な治療に必要とされることは明らかであり得る。本発明は、損傷した体液ホメオスタシスのバイオマーカー及びそれと関連するパラメータを同定し、その使用を提供することによって、当該分野における上記の必要性に取り組む。
【0005】
心不全は、先進国における主要な公衆衛生上の問題であり、高齢者における相当な罹患率及び死亡率の原因である。全体的に見れば、心不全と関係する心臓機能の変化が心拍出量の減少を生じる。心不全は、通常、呼吸障害の悪化を導く頻回再発性代償不全により特徴付けられる慢性疾患である。更に、診断の5年後、心不全患者の50%がこの疾患で死亡している。
幾つかの原因が心不全の基礎をなしている。具体的には、収縮期機能障害及び拡張期機能障害が心リモデリング及び心機能変化を導き、その結果、心拍出量の減少を生じる。両方の機能障害とも、心臓ポンプ機能の欠陥によって特徴付けられる。収縮期機能障害は、十中八九は変力の調整を担うシグナル変換機構の変化に起因して、本来の変力(収縮性)の喪失から生じ、収縮の間(すなわち収縮期)の血液の心臓排出(emptying)、特に心室排出の欠陥によって特徴付けられる。拡張期機能障害は、心室の伸展性がより減少する(すなわち、心室がより硬直になる)(これは、心室充満を傷害する)と生じ、よって弛緩の間(すなわち拡張期)の血液での心臓充満、特に心室充満の欠陥で特徴付けられる。
【0006】
このように、収縮期及び拡張期の機能不全の病理生理学は異なる。なぜならば、両方の機能障害に対処するための本来の代償機構が異なるからである。収縮期及び拡張期の機能不全は幾つかの共通する症状を有するが、治療の性質は少なくとも部分的に異なる。βブロッカー及びACEインヒビターは共に、場合によっては利尿剤との組合せで、収縮期及び拡張期の機能不全の両方の治療について適用を指示される一方、例えばジゴキシンのような強心剤は、収縮期機能不全の治療について特定して適用を指示され(拡張期機能不全の治療には禁忌であり)、例えばカルシウムチャンネルブロッカーは、拡張期機能不全の治療について特定して適用を指示される(収縮期機能不全の治療には禁忌である)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
収縮期及び/又は拡張期機能障害の正確で信用できる診断、予知、予後及び/又はモニタリング並びに両機能障害の識別が適切な治療に必要であることは明らかであり得る。本発明は、収縮期機能不全のバイオマーカー及びそれに関連するパラメータを同定し、その使用を提供することによって、当該分野における上記の必要性に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の要旨
多大な実験及び試験を行った結果、本発明者らは、メラノーマ細胞接着分子(MCAM;またCD146又はMUC18としても知られる)が、体液ホメオスタシスの評価に、具体的にはホメオスタシス不均衡の、特に損傷した体液ホメオスタシス及び関連パラメータの予知、診断、予後予測及び/又はモニタリングに有利である新たなバイオマーカーであることを明らかにした。
本発明者らは、MCAMレベルが対象者の体液充満状態と相関することを見出した。MCAMレベルは、高い体液含量又は体液貯留、すなわち損傷した体液/水分ホメオスタシスを有する対象者において、比較的低い体液含量、すなわち健常な体液/水分ホメオスタシスを有する対象者と比較して上昇していることが見出された。
【0009】
よって、対象者からのサンプル中のMCAM量を測定することを含んでなる、対象者における体液ホメオスタシスを決定する方法が提供される。特に、対象者からのサンプル中のMCAM量を測定することを含んでなる、対象者における損傷した体液又は水分ホメオスタシスを予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法が提供される。
本明細書を通して使用されるように、対象者からのサンプル中のMCAM及び/又は他のバイオマーカーのレベルを測定するとは、特に、方法の検査段階が対象者からのサンプル中のMCAM及び/又は他のバイオマーカーの量を測定することを含んでなることを意味し得る。疾患、病状、症状又はパラメータ値の予知、診断、予後及び/又はモニタリングの方法は、一般に、データを対象者から及び/又は対象者について収集する検査段階を含んでなることが理解される。
【0010】
1つの実施形態において、損傷した体液ホメオスタシスを予知、診断及び/又は予後予測する方法は、下記の工程:
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定する工程;
(ii)(i)で測定したMCAM量を、損傷したか又は健常な体液ホメオスタシスの既知の予知、診断及び/又は予後を表すMCAM量参照値と比較する工程;
(iii)(i)で測定したMCAM量の参照値からの逸脱又は逸脱無しを発見する工程;
(iv)前記逸脱又は逸脱無しの発見を、対象者における損傷した体液ホメオスタシスの特定の予知、診断及び/又は予後に帰する工程
を含んでなる。
【0011】
1つの実施形態において、(損傷した)体液ホメオスタシスをモニターする方法は、下記の工程:
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を2以上の一連の時点で測定する工程;
(ii)(i)で測定したサンプル間でMCAM量を比較する工程;
(iii)(ii)で比較したサンプル間でMCAM量の逸脱又は逸脱無しを発見する工程;
(iv)逸脱又は逸脱無しの発見を、2以上の一連の時点間での対象者における(損傷した)体液ホメオスタシスの変化に帰する工程
を含んでなる。
モニタリングは、対象者の内科療法(medical treatment)の経過中に適用し得る。
【0012】
したがって、バイオマーカーとしてMCAMを測定する本方法は、対象者が、過剰充満又は過剰容積である(すなわち、増加した血管充満容積若しくは圧を有するか、又は体液蓄積若しくは容量過剰負荷を受けている)かどうか、又は対象者が、過少充満又は過少容積である(すなわち、減少した血管充満容積若しくは圧を有するか、又は体液排出(drainage)若しくは体積収縮を受けている)かどうか、又は対象者が正常な充満容積若しくは圧(正常容積)であるかどうかを決定することができる。
1つの実施形態において、対象者からのサンプル中の、損傷していない(すなわち、健常な正常容積の)体液ホメオスタシスの診断若しくは予知を表すか又は損傷した体液ホメオスタシスについての良好な予後を表す参照値と比較して増加又は減少したMCAMの量(すなわち逸脱)は、対象者が損傷した体液ホメオスタシスを有するか若しくは有するリスクにあることを示すか又は対象者における損傷した体液ホメオスタシスについての不良な予後を示す。1つの実施形態において、対象者からのサンプル中の、正常容積参照値と比較して増加したMCAM量は、対象者が過剰充満であるか若しくは過剰充満になるリスクにあることを示すか、又は対象者における過剰充満についての不良な予後を示す。別の1つの実施形態において、対象者からのサンプル中の、正常容積参照値と比較して減少したMCAM量は、対象者が過少充満であるか若しくは過少充満になるリスクにあることを示すか、又は対象者における過少充満についての不良な予後を示す。
【0013】
或いは、対象者からのサンプル中の、損傷していない(すなわち、健常な正常容積の)体液ホメオスタシスの診断若しくは予知を表すか又は損傷した体液ホメオスタシスについての良好な予後を表す参照値と比較して匹敵するMCAMの量(すなわち逸脱無し)は、対象者が損傷した体液ホメオスタシスを有さないか若しくは有するリスクにないことを示すか又は対象者における損傷した体液ホメオスタシスについての良好な予後を示す。或いは、対象者からのサンプル中の、損傷した体液ホメオスタシスの診断若しくは予知を表すか又は損傷した体液ホメオスタシスについての不良な予後を表す参照値と比較して匹敵するMCAMの量(すなわち逸脱無し)は、対象者が損傷した体液ホメオスタシスを有するか若しくは有するリスクにあることを示すか又は対象者における損傷した体液ホメオスタシスについての不良な予後を示す。
本明細書に教示する体液ホメオスタシスモニタリング法の1つの実施形態において、一連の時点のより後の時点からのサンプル中のMCAM量の、より前の時点からのサンプルと比較しての増加又は減少は、前記より前の時点に対する前記より後の時点での対象者における血管充満容積又は圧のそれぞれ増加又は減少を示す。限定しないが、血管充満容積又は圧の増加は、(例えば過剰充満に罹患している患者では)有害であり得、又は(例えば過少充満に罹患している患者では)有益であり得る。血管充満容積又は圧の減少は、(例えば過少充満に罹患している患者では)有害であり得、又は(例えば過剰充満に罹患している患者では)有益であり得る。
【0014】
1つの実施形態において、充満状態又は体液ホメオスタシスは、対象者の血管充満容積又は血管充満圧(本明細書を通して互換可能に使用)によって表される。1つの更なる実施形態において、充満状態又は体液ホメオスタシスは、対象者の体重によって表される。よって、1つの実施形態において、体重増加は、肺浮腫又は下肢の浮腫のような浮腫を表し、体重減少は脱水を表す。浮腫又は脱水は、特に過剰充満状態においては、それぞれ体重増加又は体重減少につながり得る。
【0015】
よって、1つの観点において、本発明は、
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し;
(ii)(i)で測定したMCAM量を、損傷したか又は健常な体液ホメオスタシスの既知の診断、予知及び/又は予後を表すMCAM量参照値と比較し;
(iii)(i)で測定したMCAM量参照値からの逸脱又は逸脱無しを発見し;
(iv)前記発見から、損傷した体液ホメオスタシスを処置する治療法の必要性の有無を推論する
ことを含んでなる、対象者が損傷した体液ホメオスタシスを処置する治療法を必要としているか否か(例えば、依然として必要としているか又はもはや必要としていないかなど)を決定する方法に関する。
例示としてであって限定されないが、損傷した体液ホメオスタシスを有する患者は、医療センターへの入院に際して又は医療センターに滞在中に、損傷した体液ホメオスタシスの処置を継続する必要性について本明細書に教示されるように検査され得、その処置がもはや必要とされないか又は所定の限定的な程度でのみ必要とされる場合に退院し得る。
【0016】
1つの実施形態において、治療法は
(i)サンプル中のMCAM量が参照値より高い場合、血管充満容積又は圧を減少させるか又は体液蓄積に起因する体重増加を反転させることにより体液ホメオスタシスを回復する治療法であり、ここで、参照値は、健常な(正常容積の)体液ホメオスタシスを表し、及び/又はそれを超える値が血管充満容積を減少させるか又は体液蓄積に起因する体重増加を反転させる治療法の必要性を示す閾値の値を表す;又は
(ii)サンプル中のMCAM量が参照値より低い場合、血管充満容積又は圧を増加させるか又は体液排出に起因する体重減少を反転させることにより体液ホメオスタシスを回復する治療法であり、ここで、参照値は、健常な(正常容積の)体液ホメオスタシスを表し、及び/又はそれを下回る値が血管充満容積を増加させるか又は体液排出に起因する体重減少を反転させる治療法の必要性を示す閾値の値を表す。
【0017】
1つの更なる観点において、本発明はまた、
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し;
(iia)(i)で測定したMCAM量を、それを上回る値が体液含量を減少させる(血管充満容積又は圧を減少させる)治療法の必要性を示す閾値の値を表すMCAM量参照値と比較し;且つ/又は
(iib)(i)で測定したMCAM量を、それを下回る値が体液含量を増加させる(血管充満容積又は圧を増加させる)治療法の必要性を示す閾値の値を表すMCAM量参照値と比較し;
(iiia)サンプル中の、(iia)の参照値と比較してより高いMCAM値から、対象者における体液含量を減少させる治療法の必要性又は体液含量を増加させる治療法を停止する必要性を推論し;且つ/又は
(iiib)サンプル中の、(iib)の参照値と比較してより低いMCAM値から、対象者における体液含量を増加させる治療法の必要性又は体液含量を減少させる治療法を停止する必要性を推論する
ことを含んでなる、対象者が充満状態又は血管充満容積若しくは圧を調整する治療法を必要としているか否かを決定する方法に関する。
【0018】
1つの実施形態において、体液含量、血管充満容積若しくは圧を減少させ及び/又は体液蓄積に起因する体重増加を反転させることによって体液ホメオスタシスを回復させる治療法は、外因性及び/又は内因性利尿剤の投与並びに/或いは循環から塩及び対応する体液を除去する限外濾過の施術を含んでなる。本発明に従って使用することができる利尿剤の例は、CaCl2及びNH4Clのような酸性化塩;バソプレッシンの作用を阻害するアンホテリシンB及びクエン酸リチウムのようなアルギニンバソプレッシンレセプター2アンタゴニスト;アキノキリンソウ(Goldenrod)及びネズ(Juniper)のような水利尿剤;ドーパミンのようなNa-H交換体アンタゴニスト;アセタゾラミド及びドルゾラミド(dorzolamide)のような炭酸脱水酵素阻害剤;ブメタニド、エタクリン酸、フロセミド及びトルセミド(torsemide)のようなループ利尿剤;グルコース(特に制御不能の糖尿病において)及びマンニトールのような浸透圧利尿剤;アミロライド、スピロノラクトン、トリアムテレン及びカンレノ酸カリウムのようなカリウム保持性利尿剤;ベンドロフルメサイアザイド及びヒドロクロロチアジドのようなチアジド;カフェイン、テオフィリン及びテオブロミンのようなキサンチンを含むがこれらに限定されない。
別の1つの実施形態において、体液含量、血管充満容積若しくは圧を増加させ及び/又は体液排出に起因する体重減少を反転させることによって体液ホメオスタシスを回復させる治療法は、外因性及び/又は内因性抗利尿剤或いは血管収縮剤の投与を含んでなる。本発明に従って使用することができる抗利尿剤の例は、ADH/バソプレッシン、デスモプレシン、リプレシン及びテルリプレシン(terlipressin)のような抗利尿ホルモン;クロルプロパミド及びカルバマゼピンのような非ホルモン利尿剤を含むがこれらに限定されない。
【0019】
本方法は、とりわけ、容量過剰負荷に起因する呼吸困難を有する患者の同定を可能にし得、好ましくはそのような患者を他の原因(例えばCOPD又は肺炎)に起因する呼吸困難と識別し得る。過剰充満患者は、心不全(HF)であり、急性心不全(AHF)になる代償不全のリスクにあることを示し得る。
更に、Komajdaら 2010(Eur Heart J, doi: 10.1093/eurheartj/ehp604)による研究は、チアゾリジンジオンであるロシグリタゾン(rosiglitazone)での処置が体液貯留と関係すること及びRECORD臨床試験集団において2型糖尿病を有する人々でHFのリスクが増大していることを報告し、この内科療法を使用する一方で、症候性HFを発症している人々ではこの薬剤は使用を継続すべきでないとの勧告を支持している。
よって、対象者におけるMCAM量を本明細書に教示のように測定することを含んでなり、対象者が抗糖尿病治療、より具体的には1以上のインスリン増感剤、好ましくはペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ(PPAR-γ)(例えば、PPAR-γ1、2及び/又は3)の1以上のアゴニスト、より好ましくは1以上のチアゾリジンジオン(グリタゾン)(例えば、好ましくはロシグリタゾン及び/又はピオグリタゾン(pioglitazone)であるがこれらに限定されない)を受けているか又は受けたことがある、損傷した体液ホメオスタシス(好ましくは容量過剰負荷)を予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法もまた企図される。
【0020】
よって、本発明は、そのような抗糖尿病治療を受けているか又は受けたことがある対象者における損傷した体液ホメオスタシス(好ましくは容量過剰負荷)の随伴診断マーカー(companion diagnostic marker)としてのMCAM、より具体的にはMCAMの量を企図する。抗糖尿病治療は、体液貯留(容量過剰負荷)、HF又はAHFを伴う、すなわち潜在的な副作用としてこのような病状を引き起こすと知られているか又は疑われているようである。
対象者中のMCAM量を測定することを含んでなる、損傷した体液ホメオスタシスを予知、診断、予後予測及び/又はモニターするための本明細書中に開示した方法は、本明細書中に開示したような抗糖尿病治療を受けているか又は受けたことがある患者を階層化又は分類して、損傷した体液ホメオスタシスを有しているか若しくは有するリスクにある患者又は損傷した体液ホメオスタシスについて不良な予後を有する患者であり、したがって体液ホメオスタシスを回復する治療法に応答する(すなわち該治療法の恩恵を受ける)可能性が高い患者を同定するためにも用い得る。特に、体液ホメオスタシスの損傷は容量過剰負荷であり得、階層化は容量減少治療法に対する応答者を同定することができる。
【0021】
本発明者らは更に、MCAMレベルが左心室駆出率(LVEF)と相関することを見出した。LVEFが減少した対象者は、正常なLVEFを有する対象者と比較して、変化した(特に、増加した)MCAMレベルを有することが示された。減少したLVEFは収縮期機能不全のホールマークであるので、MCAMレベルは収縮期機能不全を予知、診断、予後予測及び/又はモニターするために使用することができる。
詳細には、3つの医療センターの研究(緊急入院に際して呼吸困難を示した対象者からの見込みサンプルコレクションを伴う)において、MCAMは、LVEF及び収縮期機能が温存された呼吸困難患者と比較したとき、収縮期機能不全を暗示するLVEF減少を示す呼吸困難患者(特にAHF患者)で有意に増加した。収縮期機能不全は、好ましくは、左心室の収縮期機能不全を意味し得る。
【0022】
よって、別の観点では、本発明は、対象者からのサンプル中のMCAMレベルを測定することを含んでなる、対象者における収縮期機能不全の予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法に関する。
更に、収縮期機能不全を有する心不全患者が支配的である上記AHF患者集団において、AHFを有する呼吸困難患者とAHFを有さない呼吸困難患者との間を識別するためのAUC値(ROC曲線下面積;「ROC」は受信者動作特性の略語である)は、MCAM(0.91)がBNP(0.88)及びNT-プロBNP(0.85)より僅かに高い。AUC値は感度及び特異性の組合せ尺度であり、より高いAUC値(すなわち、1への接近)は一般に当該検査の性能の向上を示す。
【0023】
本発明者らは更に、MCAMレベルが心臓充満状態と相関することを見出した。詳細には、本発明者らは、MCAMレベルが、増加した心臓充満圧を有する対象者において、正常な心臓充満圧を有する対象者と比較して、より高いことを見出した。
収縮期及び拡張期機能不全は共に、対象者で体液蓄積(fluid build-up)を引き起こすことがある。しかし、収縮期機能不全を有する対象者は、体液蓄積に対してより耐性であり、よって呼吸困難のような症状が起こる前の拡張期機能不全を有する患者と比較して、より大量に蓄積する。本発明者らは、MCAMレベルが体液蓄積、特に体液ホメオスタシスの尺度としての血管充満状態又は血管充満容積若しくは圧と相関することを見出した。詳細には、本発明者らは、MCAMレベルが、増加した心臓充満容積若しくは圧を有する対象者において、より高く、よってMCAMが対象者における体液蓄積のマーカーであることを見出した。当然の結果として、MCAMレベルは、過剰充満に起因する体重増加又は過少充満若しくは対象者の体積収縮に起因する体重減少と関係する。よって、本発明者らは、MCAMが対象者における浮腫、体積状態の変化又は脱水のマーカーであることを見出した。詳細には、MCAMレベルは、(心不全により引き起こされるような)血管循環の欠陥及び(腎機能不全又は腎不全により引き起こされるような)分泌の欠陥を有する対象者の充満状態に相関する。したがって、1つの実施形態において、本発明は、対象者において傷害した体液ホメオスタシスを診断、予知、予後予測及び/又はモニターするための本明細書に記載される方法に関し、ここで、対象者は、心不全、特に収縮期機能不全を示しているか、そう診断されているか又はその病歴を有する。
【0024】
よって、対象者からのサンプル中のMCAMレベルを測定することを含んでなる、容量過剰負荷に関係するか又は容量過剰負荷が引き起こす呼吸困難を予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法が提供される。容量過剰負荷はHF、好ましくは収縮期機能不全に起因するHFを示唆し得、AHFになる代償障害のリスクにあるか又は代償障害をおこしていてもよい。本方法は、容量過剰負荷によって引き起こされる呼吸困難(例えばHF又はAHF)と他の原因の呼吸困難(例えば、COPD又は肺炎)とを識別することができる。
対象者からのサンプル中のMCAMレベルを測定することを含んでなる、対象者において容量過剰負荷に関係するか又は容量過剰負荷が引き起こすHF、好ましくはAHFを予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法もまた開示される。容量過剰負荷は収縮期機能不全に起因し得る。
よって、対象者からのサンプル中のMCAMレベルを測定することを含んでなる、収縮期機能不全に関係するか又は収縮期機能不全が引き起こすHF、好ましくはAHFを予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法も開示される。
収縮期機能不全は、左及び/又は右心室の減少した駆出率、より具体的には減少したLVEFで特徴付けられる。本発明者らは、MCAMレベルが心室駆出率と相関することを見出した。よって、対象者からのサンプル中のMCAMレベルを測定することを含んでなる、対象者における心室駆出率を予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法もまた開示される。
【0025】
対象者の心室駆出率(例えばLVEF)は、該駆出率が任意の程度で正常を下回っている場合、正常と比較して減少しているといい得る。例えば、減少した心室駆出率は、約45%未満又は約50%未満又は約55%未満を意味し得、例えば減少した心室駆出率は約40%〜約70%、好ましくは約45%〜約65%又は約50%〜約60%、例えば約55%未満をいい得る。例示的であって非限定的な実験では、MCAMレベルは、正常LVEFと減少したLVEFとの間の閾値を55%に設定したとき、正常LVEFと減少したLVEFとの間で特に満足する識別を提供した。よって、幾つかの実施形態において、正常 対 減少した心室駆出率(特にLVEF)の閾値は、約50%と約60%の間の値、例えば50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%又は60%、好ましくは55%に設定し得る。ここで、前記閾値を上回る値は正常駆出率を反映し、前記閾値を下回る閾値は減少した駆出率を示す。この減少したLVEFはまた、左心室の収縮前の左心室の前負荷圧(preload pressure)であるLVEDP(左心室拡張末期圧)の増加に反映され得る。
【0026】
減少した心室駆出率に起因する心拍出量の低下又は減少は、腎臓の塩及び水分保持を促進する。この適切な順応は、血液容量を拡大させ、そのことによって拡張末期圧(例えばLVEDP)及び容積を上昇させる。よって、収縮期機能不全はまた、増加した心臓充満圧で特徴付けられる。よって、対象者からのサンプル中のMCAMレベルを測定することを含んでなる、対象者における心臓充満状態を予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法もまた提供される。心臓充満状態は、心臓充満圧によって表し得る。
よって、対象者において収縮期機能不全を予知、診断及び/又は予後予測する方法が開示され、該方法は、下記の工程:
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定する工程;
(ii)(i)で測定したMCAM量を、既知の収縮期機能不全予知、診断及び/又は予後を表すMCAM量参照値と比較する工程;
(iii)(i)で測定したMCAM量の参照値からの逸脱又は逸脱無しを発見する工程;
(iv)前記逸脱又は逸脱無しの発見を、対象者における特定の収縮期機能不全予知、診断及び/又は予後に帰する工程
を含んでなり得る。
上記工程は、必要な変更を加えて、容量過剰負荷に関係するか又は容量過剰負荷が引き起こす呼吸困難;容量過剰負荷に関係するか又は容量過剰負荷が引き起こすHF又はAHF;収縮期機能不全に関係するか又は収縮期が引き起こすHF又はAHF;心室駆出率;又は心臓充満状態に適用できる。
【0027】
MCAMは、容量過剰負荷(例えばAHF)が引き起こす呼吸困難と他の原因の呼吸困難との改善された識別、更には実質的に完全な識別を提供する。したがって、本発明者らは、MCAMがまた、急性代償障害を有しているか又は急性代償障害を有するリスクにある対象者を選択する集団検診セットアップに有益であり得ると考える。本明細書中に記載した方法のいずれかが、集団検診(例えば、一般集団又は1以上の基準、例えば、年齢、性別、家系、職業、AHFのリスクファクターの有無などに基づいて階層化した集団における検診のような集団検診)に用い得る。本発明の上記方法のいずれかにおいて、対象者は呼吸困難の徴候を示す患者集団の一部を形成し得る。
本発明者らは、MCAMが収縮期機能不全の特異バイオマーカーとして使用できることを見出した。よって、1つの観点において、本発明は、本明細書に記載の方法を、収縮期機能不全と拡張期機能不全との間を識別するために使用することに関する。
【0028】
1つの実施形態において、
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し;
(ii)(i)で測定したMCAM量を、収縮期機能不全の診断のための閾値を表すMCAM量参照値と比較し;
(iii)対象者のサンプル中のMCAM量が閾値を越える場合、対象者における収縮期機能不全の診断を帰する
ことを含んでなる、対象者において収縮期機能不全と拡張期機能不全との間を識別する方法が提供される。
【0029】
実験の章で証明したように、本発明者らは、収縮期機能不全の予知若しくは診断又は収縮期機能不全の不良な予後が上昇したMCAMレベルと特に関係している可能性があることを示した。よって、本明細書中で教示される予知法、診断法及び/又は予後法の実施形態において、収縮期機能不全でないことの予知若しくは診断を表すか又は収縮期機能不全についての良好な予後を表す参照値と比較して、対象者からのサンプル中の上昇したMCAM量は、それぞれ、対象者が収縮期機能不全を有しているか若しくは収縮期機能不全を有するリスクにあることを示すか又は対象者における収縮期機能不全についての不良な予後を示す。上昇したMCAMレベルはまた、容量過剰負荷に関係するか若しくは容量過剰負荷が引き起こす呼吸困難;又は容量過剰負荷に関係するか若しくは容量過剰負荷が引き起こすHF若しくはAHF;又は収縮期機能不全に関係するか若しくは収縮期機能不全が引き起こすHF若しくはAHF;又は減少した心室駆出率;又は増加した心臓充満圧の予知若しくは診断又は不良な予後を示し得る。
【0030】
1つの実施形態において、収縮期機能不全をモニターする方法は、下記の工程:
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を2以上の一連の時点で測定する工程;
(ii)MCAM量を(i)で測定したサンプル間で比較する工程;
(iii)(ii)で比較したサンプル間でMCAM量の逸脱又は逸脱無しを発見する工程;
(iv)前記逸脱又は逸脱無しの発見を前記2以上の一連の時点間での対象者における収縮期機能不全の変化に帰する工程
を含んでなる。
上記工程は、必要な変更を加えて、容量過剰負荷に関係するか又は容量過剰負荷が引き起こす呼吸困難;容量過剰負荷に関係するか又は容量過剰負荷が引き起こすHF又はAHF;収縮期機能不全に関係するか又は収縮期が引き起こすHF又はAHF;心室駆出率;又は心臓充満状態に適用できる。
【0031】
モニタリングは、対象者の医学的処置の過程で適用し得る。
本明細書中で教示される予知法、診断法、予後法及び/又はモニタリング法の1つの実施形態において、この方法の感度及び/又は特異性(好ましくは、感度及び特異性)は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、又は少なくとも80%、例えば≧81%、≧82%、≧83%、≧84%、≧85%、≧86%若しくは≧87%、又は≧90%、又は≧95%(記号「≧」は「少なくとも」又は「以上」と同義である)、例えば、80%〜100%、又は81%〜95%、又は83%〜90%、又は84%〜89%、又は85%〜88%である。
本明細書中で教示される予知法、診断法、予後法及び/又はモニタリング法の別の1つの実施形態において、対象者は、体液ホメオスタシス不均衡、急性心不全、慢性心不全、収縮期機能不全又は腎機能障害若しくは不全を暗示し得る1以上の症状及び/又は徴候を示していてもよい。例えば、1つの実施形態において、対象者は呼吸困難を示していてもよい。
【0032】
本明細書中で教示される予知法、診断法、予後法及び/又はモニタリング法の1つの更なる実施形態において、対象者は、病状、症状及び/又は本発明に従うパラメータ値についての1以上のリスクファクター、例えば、遺伝的素因、又は1以上の発生、環境若しくは行動上のリスクファクター、例えば、インスリン抵抗性(血糖障害)、体幹肥満、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールの高血清レベル、高密度リポタンパク質(HDL)コレステロールの低血清レベル、高血清トリグリセリドレベル及び高い血圧(高血圧)、以前の心筋梗塞、及び/又は1以上の共存症、例えば糖尿病、冠動脈疾患、喘息、COPD及び/又は慢性腎臓疾患を示していてもよい。
本明細書を通して、「病状、症状及び/パラメータ値」への言及は、本明細書中に開示した任意の病状、症状及び/又はパラメータ値、特に(ただし、これらに限定するものではない)、損傷した体液ホメオスタシス並びに関連する体重変化(例えば、浮腫又は脱水)及び血管充満容積又は圧の変化(例えば、上昇したLVEDP);及び更なる収縮期機能不全;容量過剰負荷と関係するか又は容量過剰負荷が引き起こす呼吸困難;容量過剰負荷と関係するか又は容量過剰負荷が引き起こすHF又はAHF;収縮期機能不全と関係するか又は収縮期機能不全が引き起こすHF又はAHF;心室駆出率(例えばLVEF);及び心臓充満状態のような病状、症状及び/又はパラメータ値を包含する。
【0033】
本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を予知、診断、予後予測及び/又はモニターする本方法は、病状、症状及び/又はパラメータ値を有すると未だ診断されていない個体で(例えば予防検診)、又はそのように診断された個体で、又はそれらを有すると疑われる個体(例えば、1以上の特徴的な症状を提示する個体)で、又はそれらを発現するリスクにある個体(例えば、遺伝的素因、1以上の発生上、環境上又は行動上のリスクファクターの存在)で使用し得る。この方法はまた、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の進行又は重篤度の種々のステージを検出するために使用されてもよい。この方法はまた、予防的若しくは治療的処置又は他の介入に対する、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の応答を検出するために使用されてもよい。本方法は更に、患者の、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値からの悪化、現状維持、部分回復又は完全回復に関する医師の決定(患者の更なる治療若しくは観察又はEDからの搬出のいずれかに帰結する)を援助するために使用することができる。
本発明の方法により、医師が患者サンプル中のMCAMレベルを測定することによって疾患進行をモニターすることが可能になる。
【0034】
例えば、過充満(over-filling)(容量過剰負荷)を患っている患者において、以前(例えば、EDへの収容時)のMCAMレベルと比較したときのMCAMレベルの減少は、対象者の病状が改善しつつあるか又は改善したことを示す一方で、以前(例えば、EDへの収容時)のMCAMレベルと比較したときのMCAMレベルの増加は、対象者の病状が悪化したか又は悪化しつつあることを示す。このような悪化は、病状、症状及び/又は本発明に従うパラメータ値の再発、例えば新たな急性心不全事象を生じる可能性があり得る。
別の例で、例えば集中治療部の患者のような、過少充満(体積縮小)を患っている患者において、以前(例えば、ICUへの収容時)のMCAMレベルと比較したときのMCAMレベルの増加は、対象者の病状が改善しつつあるか又は改善したことを示す一方で、以前(例えば、ICUへの収容時)のMCAMレベルと比較したときのMCAMレベルの減少は、対象者の病状が悪化したか又は悪化しつつあることを示す。
【0035】
したがって、更に、対象者における本発明に従う病状、症状及び/又はパラメータ値の予知、診断及び/又は予後の変化をモニターする方法が提供され、この方法は、下記:
(i)上記で教示される予知、診断及び/又は予後の方法を、2以上の一連の時点で対象者に適用し、それにより対象者における病状、症状及び/又は本発明に従うパラメータ値の予知、診断及び/又は予後を該一連の時点で決定し;
(ii)(i)で決定した前記一連の時点での対象者における病状、症状及び/又は本発明に従うパラメータ値の予知、診断及び/又は予後を比較し;そして
(iii)(i)で決定した前記一連の時点での対象者における病状、症状及び/又は本発明に従うパラメータ値の予知、診断及び/又は予後間の変化の有無を発見することを含んでなる。
この観点により、対象者の病状の経時的モニタリングが可能になる。これにより、とりわけ、病状、症状及び/又は本発明に従うパラメータ値の発生の予知又は対象者における疾患進行、疾患の悪化若しくは軽減、疾患再発、処置に対する応答、他の外部若しくは内部の因子、条件若しくはストレス因子に対する応答などのモニタリングが可能になる。有利には、対象者における予知、診断及び/又は予後の変化を、対象者の医学的処置の経過中にモニターし得る。このようなモニタリングは、例えば、患者が退院しても良いのか、治療変更を必要としているのか又は更なる入院を必要としているかの決定形成に含まれ得る。
【0036】
本発明の予知、診断、予後及び/又はモニタリングの方法において、MCAMの測定はまた、病状、症状及び/又は本発明に従うパラメータ値に関連する1以上の更なるバイオマーカー又は臨床パラメータの評価と組み合せ得ることが理解される。
結果として、検査段階が、対象者からのサンプルにおいて1以上のこのような他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定することを更に含んでなる方法もまた、本明細書中に開示される。この点に関して、任意の既知又は未知の適切なマーカーが使用され得る。
【0037】
本明細書を通して、「MCAM以外の」バイオマーカー又は「他のバイオマーカー」への言及は、一般には、本明細書に開示されるような病状、症状及び/又はパラメータ値を予知、診断、予後予測及び/又はモニターするに有用である他のバイオマーカーを包含し、好ましくは、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロ-ANP、プロ-ANPの中央領域部(MR-プロANP)、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(プロBNP)、アミノ末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(NTプロBNP)のようなナトリウム利尿ペプチド、シスタチンC、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(neutrophil gelatinase-associated lipocalin;NGAL)、アルブミン(より具体的にはU-アルブミン)、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GT)、N-アセチル-β-(D)-グルコサミニダーゼ(NAG)、α-1-ミクログロブリン(A1M)、β-2-ミクログロブリン(B1M)、ウレア、クレアチニン、バソプレッシン、アルドステロン、コペプチン、アンギオテンシン、ACE及びそれらのいずれかのフラグメントからなる群より選択されるマーカーを意味し得る。
【0038】
よって、下記の工程:
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量並びに1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定する工程;
(ii)(i)の測定値を使用して、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての対象者プロフィールを確立する工程;
(iii)(ii)の対象者プロフィールを、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の既知の予知、診断及び/又は予後を表す、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての参照プロフィールと比較する工程;
(iv)(ii)の対象者プロフィールの参照プロフィールからの逸脱又は逸脱無しを発見する工程;
(v)前記逸脱又は逸脱無しの発見を、対象者における本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の特定の予知、診断及び/又は予後に帰する工程
を含んでなる、対象者において、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を予知、診断及び/又は予後予測する方法を開示する。
2以上の一連の時点で本方法を適用することにより、所望の病状、症状及び/又はパラメータ値のモニタリングが可能になる。
【0039】
本発明の方法の好適な実施形態において、MCAMタンパク質の検出は、血漿サンプル(すなわち、血球非含有血液サンプル画分)において行われる。このことは、循環性MCAMタンパク質が、この循環形態がMMPプロセシングされた可溶形態に相当するのか全長若しくは該可溶形態のMCAMの分解産物に相当するのかに関わらず、検出されることを意味する。1つの好適な実施形態において、検出されるMCAMタンパク質は、血漿又は血清中へのMCAMの放出がインビボでどのように達成されるかに関わらず、膜結合型でも細胞結合型でもなく、むしろ血漿循環形態のMCAMである。
上記のように、本方法は、他のバイオマーカーについて以前に用いられた公知の手順に従って確立され得るMCAM量についての参照値を用いてもよい。このような参照値は、本明細書で規定されるように、本発明の方法の内で確立されてもよい(すなわち、本発明の方法の1工程を構成してもよい)し、本発明の方法の外で確立されてもよい(すなわち、本発明の方法の1工程を構成していなくてもよい)。したがって、本明細書中で教示される方法の1つは、MCAM量についての参照値を確立する工程を含んでなり得る。ここで、該参照値は、(a)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの予知若しくは診断又はそれらについての良好な予後を表すか、或いは(b)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知若しくは診断又はそれらについての不良な予後を表す。
【0040】
更なる観点は、MCAM量についての参照値を確立する方法を提供し、ここで、該参照値は:
(a)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの予知若しくは診断又はそれらについての良好な予後を表すか、或いは
(b)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知若しくは診断又はそれらについての不良な予後を表し、
該方法は、以下:
(i)
(i a)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有さないか又はそれらを有するリスクにないか又はそれらについて良好な予後を有する1以上の対象者からの1以上のサンプル中、或いは
(i b)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有しているか又はそれらを有するリスクにあるか又はそれらについて不良な予後を有する1以上の対象者からの1以上のサンプル中
のMCAM量を測定し、そして
(ii)
(ii a)(i a)で測定したMCAM量を、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの予知若しくは診断を表すか又はそれらについての良好な予後を表す参照値として保存するか、或いは
(ii b)(i b)で測定したMCAM量を、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知若しくは診断を表すか又はそれらについての不良な予後を表す参照値として保存する
ことを含んでなる。
【0041】
そうでなければ、本方法は、他のバイオマーカーについて以前に用いられた公知の手順に従って確立され得る、MCAM量並びに1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての参照プロフィールを用い得る。このような参照プロフィールは、本発明の方法の内で確立されてもよい(すなわち、本発明の方法の1工程を構成してもよい)し、本発明の方法の外で確立されてもよい(すなわち、本発明の方法の1工程を構成していなくてもよい)。したがって、本明細書中で教示される方法は、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての参照プロフィールを確立する工程を含んでなり得る。ここで、該参照プロフィールは、(a)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの予知若しくは診断又はそれらについての良好な予後を表すか、或いは(b)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知若しくは診断又はそれらについての不良な予後を表す。
【0042】
更なる観点は、MCAM量並びに本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知、診断、予後予測及び/又はモニタリングに有用な1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての参照プロフィールを確立する方法を提供し、ここで、該参照プロフィールは:
(a)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの予知若しくは診断又はそれらについての良好な予後、或いは
(b)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知若しくは診断又はそれらについての不良な予後を表し、
該方法は、以下:
(i)
(i a)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有さないか又はそれらを有するリスクにないか又はそれらについて良好な予後を有する1以上の対象者からの1以上のサンプル中、或いは
(i b)本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有しているか又はそれらを有するリスクにあるか又はそれらについて不良な予後を有する1以上の対象者からの1以上のサンプル中
のMCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定し、
(ii)
(ii a)(i a)の測定値を使用して、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量のプロフィールを作成するか、或いは
(ii b)(i b)の測定値を使用して、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量のプロフィールを作成し、
(iii)
(iii a)(ii a)のプロフィールを、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの予知若しくは診断を表すか又はそれらについての良好な予後を表す参照プロフィールとして保存するか、或いは
(iii b)(ii b)のプロフィールを、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知若しくは診断を表すか又はそれらについての不良な予後を表す参照プロフィールとして保存する
ことを含んでなる。
【0043】
本発明は更に、対象者におけるMCAMのベースライン又は参照値を確立する方法を提供し、該方法は以下:
(i)対象者が本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値に罹患していない種々の時点で該対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し、そして
(ii)該対象者の範囲又は平均値(これが該対象者についてのMCAMのベースライン又は参照値である)を算出する
ことを含んでなる。
上記方法のいずれか1つの好適な実施形態において、対象者はヒトであり得る。
本明細書中で教示される方法において、MCAM量並びに/或いは1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量は、任意の適切な技術、例えば当該分野で公知であり得る技術により測定し得る。
【0044】
1つの実施形態において、MCAM量並びに/或いは1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量は、それぞれ、MCAM及び/又はそのフラグメントに特異的に結合し得る結合性物質並びに前記1以上の他のバイオマーカーに特異的に結合し得る結合性物質を用いて測定し得る。1つの実施形態において、結合性物質は、抗体、アプタマー、ホトアプタマー、タンパク質、ペプチド、ペプチド類似体又は小分子であり得る。
1つの更なる実施形態において、MCAM量並びに/或いは1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量は、イムノアッセイ技術、例えば直接ELISA、間接ELISA、サンドウィッチELISA、競合ELISA、マルチプレックスELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)若しくはELISPOT技術、又は質量分析法、クロマトグラフィー法、又は前記方法の組合せを使用して測定する。
1つの実施形態において、本明細書に教示される方法では、対象者は、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の病歴を有する。更なる1つの実施形態において、対象者は、急性又は慢性心不全の病歴を有する。尚更に別の1つの実施形態において、対象者は、腎臓機能不全又は腎不全の病歴を有する。
【0045】
別の観点は、対象者における、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知、診断、予後予測及び/又はモニタリングのためのキットを開示し、該キットは:(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定する手段;及び任意であって好ましくは(ii)MCAM量の参照値、又は該参照値を確立する手段を含んでなり、該参照値は本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の既知の予知、診断及び/又は予後を表す。
よって、このキットは、以下:手段(i)により、対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し;手段(i)により測定したMCAM量を、(ii)の参照値又は手段(ii)により確立した参照値と比較し;手段(i)により測定したMCAM量の、(ii)の参照値からの逸脱又は逸脱無しを発見し;そしてその結果として、前記逸脱又は逸脱無しの発見を、対象者における本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の特定の予知、診断及び/又は予後に帰することを可能にする。
【0046】
1つの更なる実施形態は、対象者における本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を予知、診断、予後予測及び/又はモニターするためのキットを提供し、該キットは、(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定する手段と(ii)対象者からのサンプル中の1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定する手段とを含んでなり、任意であって好ましくは(iii)MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての対象者プロフィールを確立する手段、及び任意であって好ましくは(iv)MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての参照プロフィール、又は該参照プロフィールを確立する手段を含んでなり、ここで、該参照プロフィールは本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の既知の予知、診断及び/又は予後を表す。
よって、このようなキットは、以下:それぞれ手段(i)及び(ii)により、対象者からのサンプル中のMCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定し;前記測定値に基づいて、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての対象者プロフィールを(例えば、キットに含まれる手段又は適切な外部手段を用いて)確立し;該対象者プロフィールを、(iv)の参照プロフィール又は手段(iv)により確立した参照プロフィールと比較し;前記参照プロフィールからの対象者プロフィールの逸脱又は逸脱無しを発見し;そしてその結果として、前記逸脱又は逸脱無しの発見を、対象者における本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の特定の予知、診断及び/又は予後に帰することを可能にする。
【0047】
上記キットの1つの更なる実施形態において、MCAM量並びに/或いは1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定する手段は、それぞれ、MCAM及び/又はそのフラグメントに特異的に結合し得る1以上の結合性物質並びに前記1以上の他のバイオマーカーに特異的に結合し得る1以上の結合性物質を含み得る。1つの実施形態において、前記1以上の結合性物質のいずれか1つは、抗体、アプタマー、ホトアプタマー、タンパク質、ペプチド、ペプチド類似体又は小分子であり得る。1つの実施形態において、前記1以上の結合性物質のいずれか1つは、有利には、固相又は支持体に固定され得る。
上記キットの1つの更なる実施形態において、MCAM量並びに/或いは1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定する手段は、イムノアッセイ技術、例えば直接ELISA、間接ELISA、サンドウィッチELISA、競合ELISA、マルチプレックスELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)若しくはELISPOT技術を用いてもよいし、又は質量分析技術を用いてもよいし、又はクロマトグラフィー技術を用いてもよいし、前記技術の組合せを用いてもよい。
【0048】
よって、1つの実施形態は、以下:
(a)MCAM及び/又はそのフラグメントに特異的に結合し得る1以上の結合性物質;
(b)好ましくは、既知量又は既知濃度のMCAM及び/又はそのフラグメント(例えば、コントロール、標準物質及び/又は較正物質として使用するため);
(c)好ましくは、MCAM量の参照値又は該参照値を確立する手段
を含んでなる、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知、診断、予後予測及び/又はモニタリングのためのキットを開示する。
前記(a)及び/又は(c)の成分は、本明細書中他の箇所で教示されるように、適切に標識化され得る。
【0049】
別の1つの実施形態は、以下:
(a)MCAM及び/又はそのフラグメントに特異的に結合し得る1以上の結合性物質;
(b)1以上の他のバイオマーカーに特異的に結合し得る1以上の結合性物質;
(c)好ましくは、既知量又は既知濃度のMCAM及び/又はそのフラグメント並びに既知量又は既知濃度の前記1以上の他のバイオマーカー(例えば、コントロール、標準物質及び/又は較正物質として使用するため);
(d)好ましくは、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての参照プロフィール、或いは該参照プロフィールを確立する手段
を含んでなる、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知、診断及び/又は予後予測のためのキットを開示する。
前記(a)、(b)及び/又は(c)の成分は、本明細書中他の箇所で教示されるように、適切に標識化され得る
【0050】
更なる観点は、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の診断、予知、予後予測及び/又はモニタリングのための上記キットの使用に関する。
MCAM及び任意に本発明に係る1以上の他のバイオマーカーを測定するに有用な試剤及びツールもまた開示される。
例えば、更なる観点は、以下:
(a)MCAM及び/又はそのフラグメント、好ましくは既知量又は既知濃度の前記MCAM及び/又はそのフラグメント;及び
(b)任意に、そして好ましくは、1以上の他のバイオマーカー、好ましくは既知量又は既知濃度の前記1以上の他のバイオマーカー
を含んでなる、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドのアレイ又はマイクロアレイに関する。
別の1つの観点は、以下:
(a)MCAM及び/又はそのフラグメントに特異的に結合し得る1以上の結合性物質、好ましくは既知量又は既知濃度の前記結合性物質;及び
(b)任意に、そして好ましくは、1以上の他のバイオマーカーに特異的に結合し得る1以上の結合性物質、好ましくは既知量又は既知濃度の前記結合性物質
を含んでなる結合性物質のアレイ又はマイクロアレイに関する。
【0051】
自宅又は臨床設定での使用のためのポータブルデバイス(例えば、ベッドサイドデバイス)として構成された、上記で教示されるキットもまた開示される。
よって、関連する1つの観点は、以下:
(i)対象者からのサンプルを取得する手段、
(ii)前記サンプル中のMCAM量を測定する手段、及び
(iii)サンプル中で測定したMCAM量を視覚化する手段
を含んでなる、対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し得るポータブル検査デバイスを提供する。
1つの実施形態において、(ii)及び(iii)の手段は同じであり得、よって(i)対象者からのサンプルを取得する手段;及び(ii)前記サンプル中のMCAM量を測定し、サンプル中で測定したMCAM量を視覚化する手段を含んでなる、対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し得るポータブル検査デバイスを提供する。
1つの実施形態において、前記視覚化手段は、サンプル中のMCAM量が或る閾値レベルを上回っているか若しくは下回っているか及び/又はサンプル中のMCAM量がMCAM量の参照値(この参照値は、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の既知の予知、診断及び/又は予後を表す)から逸脱しているか否かを表示することができる。よって、1つの実施形態において、前記ポータブル検査デバイスは、適切には、前記参照値又は該参照値を確立する手段もまた含んでなり得る。
【0052】
1つの実施形態において、閾値レベルは、該閾値レベルを(問題の病状、症状及び/又はパラメータ値に依存して)上回るか又は下回るサンプル中のMCAM量が、対象者が本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有しているか若しくはそれらを有するリスクにあることを示すか又は対象者におけるそれらについての不良な予後を示し、前記閾値レベルを下回るか又は上回るサンプル中のMCAM量が、それぞれ、対象者が本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有していないか若しくはそれらを有するリスクにないことを示すか又は対象者におけるそれらについての良好な予後を示すように、選択される。
1つの実施形態において、ポータブル検査デバイスは、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの予知若しくは診断を表すか又はそれらについての良好な予後を表す参照値を含んでなるか、或いは該参照値を確立する手段を含んでなり、対象者からのサンプル中の、前記参照値と比較して(問題の病状、症状及び/又はパラメータ値に依存して)上昇又は減少したMCAM量が、対象者が本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有しているか若しくはそれらを有するリスクにあることを示すか又は対象者におけるそれらについての不良な予後を示す。
別の1つの実施形態において、ポータブル検査デバイスは、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知若しくは診断を表すか又はそれらについての不良な予後を表す参照値を含んでなるか、或いは該参照値を確立する手段を含んでなり、対象者からのサンプル中の、前記参照値と比較して匹敵するMCAM量が、対象者が本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有しているか若しくはそれらを有するリスクにあることを示すか又は対象者におけるそれらについての不良な予後を示す。
【0053】
1つの更なる実施形態において、ポータブル検査デバイスの測定(場合によっては、及び視覚化)手段は、近位端及び遠位端を有する固体支持体を含んでなり得、該固体支持体は:
− 近位端近傍のサンプル適用ゾーン;
− サンプル適用ゾーンに対して遠位の反応ゾーン;及び
− 反応ゾーンに対して遠位の検出ゾーン;
− 任意に、MCAMタンパク質又はペプチドフラグメントを含んでなるコントロール標準
を含んでなり、このことにより、前記支持体は、適用ゾーンに適用された流体サンプルの近位端から遠位端への向きのフローを導くキャピラリ特性を有し、
− 任意に、より粘性のサンプルのキャピラリフローを向上させる流体供給源を含んでなる。
1つの実施形態において、反応ゾーンは、検出剤に接合したMCAM-特異的結合性分子の1以上のバンドを含んでなり得、このMCAM-特異的結合性分子接合体は、流体のキャピラリフローと共に移動することができるように、固体支持体上に配置され;検出ゾーンは、固体支持体上に固定されたMCAM-特異的分子の集合を含んでなる1以上の捕捉バンドを含んでなる。
【0054】
1つの実施形態において、反応ゾーンは、閾値量のMCAM-特異的結合性分子接合体が検出ゾーンに移動することを防止するに十分な量で、1以上のMCAM-特異的結合性分子捕捉バンドを追加的に含んでなり得る。代替の実施形態において、前記デバイスは、捕捉したMCAM-特異的結合性分子接合体の量を閾値の値と比較する手段を追加的に含んでなる。
本発明のキット及びデバイスの好適な実施形態において、MCAMタンパク質の検出は、血漿サンプルにおいて行われる。このことは、循環性MCAMタンパク質が、この循環形態が可溶形態に相当するのか全長若しくは該可溶形態の分解産物に相当するかに関わらず、検出されることを意味する。1つの好適な実施形態において、キット又はデバイスにより検出されるMCAMタンパク質は、膜結合型でも細胞結合型でもない。好適には、MCAMタンパク質又はそのフラグメントを検出する手段は、全長タンパク質、成熟タンパク質又はプロセッシングを受けたタンパク質、又はその血漿循環形態をいずれも検出し得る。より好適には、MCAMタンパク質を検出する手段は、本明細書に規定する血漿循環形態のMCAMを特異的に認識する。
これら及び更なる観点並びに好適な実施形態は、以下の章及び添付の特許請求の範囲に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、NP_006491から入手したMCAMバイオマーカーのタンパク質配列(配列番号1)を説明する。このタンパク質は、メラノーマ細胞接着分子(MCAM)として又はMUC18若しくはCD146として知られる。シグナルペプチド並びに膜貫通及び細胞質ドメインは、小文字で示す。選択したMASSterclass定量化ペプチド(MASSterclass quantified peptide;pept25−太字、下線;配列番号2)もまた示す。このMASSterclass定量化ペプチドは、全長形態及び切断された可溶形態の両方のMCAMを定量することができる。
【図2】図2は、AHF患者の入院時及び同患者の退院時に測定した(A)MCAM及び(B)BNPのレベルを説明する。上のプロットは、MASSterclass又はELISAにより測定した生の値を示し、下のプロットは規格化された値(入院時と退院時との間の倍率変化)を示す。
【図3】図3:本発明による検査ストリップの平面図(A)及び側面図(B)。
【図4】図4:本発明による検査カートリッジの平面図。
【図5】図5A〜Bは、幾つかの検査パッドを含んでなる本発明による試剤ストリップのそれぞれ側面図及び上面図を示す。
【図6】図6:AHF患者における入院時の体重増加とMCAMレベルとの相関を、ボックスプロット及びウィスカープロットで示す。
【図7】図7:AHF患者における入院時のLVEFとMCAMレベルとの相関を、ボックスプロット及びウィスカープロットで示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
発明の詳細な説明
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈がそうでないことを明示していなければ、単数及び複数の両方の指示対象を含む。
本明細書で使用する場合、用語「含んでなる」及び「から構成される」は、「含む」又は「含有する」と同義であり、非排他的(inclusive)又は非限定的(open-ended)であって、追加の、言及していない部材、要素又は方法工程を排除しない。
端点による数値範囲への言及は、それぞれの範囲内に含まれる全ての数及び端数(fractions)並びに記載された端点を含む。
【0057】
本明細書で使用する用語「約」は、パラメータ、量、期間などのような測定可能な値に言及する場合、そのばらつき/変動が開示発明における実施に適切である限りにおいて、特定値のばらつき及び特定値からの変動、詳細には±10%以下、好ましくは±5%以下、より好ましくは±1%以下、なおより好ましくは±0.1%以下の特定値のばらつき及び特定値からの変動を包含することを意味する。修飾語「約」が言及する値はまた、それ自体具体的に開示され、好ましいものとしても開示されていると理解すべきである。
本明細書中で引用した全ての文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
特に明記しない限り、本発明の開示に使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味を有する。更なるガイダンスのために、本発明の教示をより良く理解するための用語の定義が含まれ得る。
【0058】
本発明は、MCAMが、価値あるバイオマーカー、特に体液ホメオスタシスについて、具体的にはホメオスタシス不均衡についての価値あるバイオマーカーであるという、本発明者らの高度に革新的な認識に由来する。本発明者らは、体液ホメオスタシスと関係する幾つかの症状又はパラメータ(例えば、増加した血管充満容積及び体重増加によって測定される増大した体液蓄積、特に浮腫、或いは減少した血管充満容積及び体重減少により測定される体液減少、特に脱水)についてのバイオマーカーとしてのMCAMの妥当性を示した。
加えて、本発明者らは、MCAMが、(急性)心不全についてのバイオマーカーとして、特に(急性)心不全の基礎原因としての収縮期機能不全(収縮期機能不全関連パラメータ、例えば駆出率(EF)並びに心臓充満容積及び充満圧を含む)に特異的なバイオマーカーとしての妥当性を示した。
用語「バイオマーカー」は、当該分野において広く知られており、対象者におけるその定性的及び/又は定量的評価が対象者の表現型及び/又は遺伝子型の1以上の観点に関して、例えば、所定の疾患又は病状についての対象者の状況に関して、予見的であるか又は情報を提供する(例えば、予知的、診断的及び/又は予後的である)生体分子及び/又はその検出可能部分を広く指称し得る。
【0059】
本明細書で使用する用語「体液ホメオスタシス」は、当該分野において確立された意味を有する。更なるガイダンスのために、用語「体液ホメオスタシス」は、対象者における体液又は水分ホメオスタシスに関する。ここで、対象者における体液又は水分含量は、内部(すなわち生理学的)条件及び/又は外部(すなわち環境的)条件の変化に応答して体液又は水分貯留又は分泌を増加又は減少させる(ポジティブ及びネガティブフィードバックループを含む)調節機構によって一定に保たれているか又は均衡を保っている。体液ホメオスタシスの攪乱は、体液のホメオスタシス不均衡又は損傷した体液ホメオスタシスに至る。したがって、本明細書で使用する「ホメオスタシス不均衡」又は「損傷したホメオスタシス」とは、体液類(fluid household)に関しての(健常な)ホメオスタシスからの逸脱をいう。このように、これら用語は、対象者に存在する体液が多すぎる(すなわち対象者が過剰充満である)か、或いは対象者に存在する体液が少なすぎる(すなわち対象者が過少充満である)状況をいう。体内水分のホメオスタシスの障害は、体内の溶質に比して体内の水分が過剰に存在する低浸透圧障害、及び体内の溶質に比して体内の水分が不足している高浸透圧障害に分けることができる。よって、浸透圧の測定(例えば、電解質濃度)は、体液ホメオスタシスの指標を与える。本発明に従う損傷した体液ホメオスタシス又は体液ホメオスタシス不均衡は、対象者における変化した血管充満容積に関する。本発明に従う損傷した体液ホメオスタシス又は体液ホメオスタシス不均衡は更に、対象者が浮腫或いは脱水を示す状況に関する。本発明によれば、体液ホメオスタシス不均衡は、例えば(限定されないが)、例えば等張性低ナトリウム血症、高張性低ナトリウム血症、低張性低ナトリウム血症、血液量減少性低浸透圧性低ナトリウム血症、腎外溶質喪失、腎溶質喪失、正常血液量低浸透圧性低ナトリウム血症、不適切抗利尿ホルモン分泌症候群、グルココルチコイド欠損、甲状腺機能低下症、血液量増加性低浸透圧性低ナトリウム血症、鬱血性心不全、硬変、進行性腎不全、重症急性症候性低ナトリウム血症、重症慢性症候性低ナトリウム血症のような低ナトリウム血症、血液量増加性高ナトリウム血症、潜在性口渇性高ナトリウム血症、水分喪失の増大による高ナトリウム血症、中枢性尿崩症、腎性尿崩症のような高ナトリウム血症によって引き起こされ得る。
【0060】
本明細書で使用する用語「体液蓄積」は、対象者における体液の増加を意味する。よって、体液蓄積は体液滞留と関係する。体液蓄積は、とりわけ、例えば、特に収縮期機能不全に起因するか或いは腎機能不全又は腎不全、特に患者において体液の正常分泌を妨げるかそうでなければこれに干渉する機能不全(例えばネフローゼ症候群)に起因する(急性)心不全によって引き起こされることがある。体液蓄積の特性としては、増加した血管充満容積(又は血管容積拡大)及び増大した血管充満圧が挙げられる。本明細書で使用する場合、「充満状態」又は「体液負荷」とは、対象者における体液含量、特に血管、組織及び間質の体液含量をいう。本明細書で使用する場合、「血管充満容積」とは、脈管構造中の体液の量又は容積をいう。本明細書で使用する場合、「血管充満圧」とは、脈管構造中の体液の量又は容積によって生じる圧をいう。本明細書で使用する場合、用語「血管充満容積」及び「血管充満圧」は互換的に使用し得る。体液蓄積一般並びに増加した血管充満容積及び/又は圧の症状としては浮腫が挙げられる。本明細書で使用する場合、「浮腫」とは、増加した血管充満容積又は圧によって引き起こされるような血管外の体液蓄積又は保持をいう。本発明によれば、体液蓄積、増大した血管充満容積及び/又は圧並びに浮腫は、(急性)心不全、収縮期機能不全、腎機能不全又はそのような体液不均衡又は異常な体液ホメオスタシスを引き起こすことが当該分野で知られている任意の病理学的機構によって引き起こされ得る。本明細書で使用する場合、用語「体重増加」とは、具体的には、体液蓄積及びその増加が浮腫に至るか又は浮腫に相関する関連パラメータ(血管充満容積及び/又は圧を含む)と関係する体重増加をいう。本明細書で使用する場合、用語「体重減少」とは、同様に、具体的には、体液の減少及びその減少が脱水に至るか又は脱水に相関する関連パラメータ(血管充満容積及び/又は圧を含む)と関係する体重増加をいう。
【0061】
本明細書で使用する場合、「腎機能不全」又は「腎不全」は、それぞれの分野で確立された意味を有する。更なるガイダンスのために、用語「腎機能不全」又は「腎不全」とは、広義には損傷した腎機能をいい、特に腎臓の濾過機能の損傷をいう。本明細書で使用する場合、「腎不全」とは、特に、腎臓が体液ホメオスタシスを維持する能力がないことをいう。腎不全の原因としては、限定されないが、腎臓への減少した血液供給(例えば、血液量減少又は脱水)、内科療法(すなわち、腎臓に対して毒性である医薬)、腎動脈又は腎静脈の閉塞に起因する腎臓への血液供給の喪失、腎発作又は外傷、敗血症、横紋筋融解症、多発性骨髄腫、急性又は慢性の糸球体腎炎又は糸球体の炎症、膀胱又は尿管の閉塞、前立腺肥大又は前立腺ガン、腎臓結石、コントロール不良の糖尿病、コントロール不良の高血圧、腎多嚢胞病、逆流性腎症などが挙げられる。
本明細書で使用する用語「心不全」、「急性心不全」及び「慢性心不全」は、それぞれの分野で確立された意味を有する。更なるガイダンスのために、本明細書で使用する用語「心不全」とは、広義に、損傷した拡張期又は収縮期血流速度、したがって心室から末梢器官への不十分な血流によって特徴付けられる病状をいう。
「急性心不全」又は「急性非代償性心不全」は、緊急治療の必要性をもたらす、異常な心機能に続発性の症状及び徴候の迅速な発症として定義され得る。AHFは、新規に(心機能不全が以前に知られていない患者における急性心不全の新たな発症)又はCHFの急性代償不全として急性に起こり得る。
【0062】
心機能不全は収縮期又は拡張期の機能不全、心リズムの異常又は前負荷及び後負荷のミスマッチに関連し得る。これは、しばしば、命にかかわり、緊急処置を必要とする。確立された分類によれば、AHFは、症候性患者の幾つかの異なる臨床状態を含む:(I)急性非代償性鬱血性心不全、(II)高血圧/高血圧性クリーゼを伴うAHF、(III)肺浮腫を伴うAHF、(IVa)心臓性ショック/低心拍出量症候群、(IVb)重篤な心臓性ショック、(V)高心拍出量性心不全、及び(VI)右急性心不全。詳細な臨床的説明、AHFの分類及び診断、並びに更なるAHF分類体系(Killip分類、Forrester分類及び「臨床重篤度」分類を含む)の概要については、とりわけ、Nieminenら,2005(「Executive summary of the guidelines on the diagnosis and treatment of acute heart failure: the Task Force on Acute Heart Failure of the European Society of Cardiology」 Eur Heart J 26: 384-416)及びその中の文献を参照。
本明細書で使用される用語「収縮期機能不全」は当該分野で確立している意味を有する。更なるガイダンスのために、用語「収縮期機能不全」は当業者に知られている同義語、例えば「収縮期心室機能不全又は心室不全」又は「収縮期心機能不全又は心不全」と互換的に使用することができる。本質的には、「収縮期機能不全」とは、心室の収縮性減少に起因する心臓ポンプ機能の不全をいう。
本明細書で使用される用語「拡張期機能不全」は当該分野で確立している意味を有する。更なるガイダンスのために、用語「拡張期機能不全」は当業者に知られている同義語、例えば「拡張期心室機能不全又は心室不全」又は「拡張期心機能不全又は心不全」と互換的に使用することができる。本質的には、「拡張期機能不全」とは、心室充満の損傷に起因する心臓ポンプ機能の不全をいう。
【0063】
本明細書で使用する場合、用語「(左)心室駆出率」は、収縮の間の(左)心室の拍出量を意味し、各々の心拍動で(左)心室から排出される血液の割合を表す。定義により、収縮直前における心室内の血液量は、拡張末期容積として知られる。同様に、収縮末期で心室に残る血液量は収縮末期容積である。拡張末期容積と収縮末期容積との間の差は一回拍出量(各拍動で駆出される血液量)である。駆出率(EF)は、各拍動で駆出される拡張末期容積の割合である。すなわち、駆出率は、一回拍出量(SV)を拡張末期容積(EDV)で割った値である:EF=SV/EDV=(EDV-ESV)/EDV。
本明細書で使用する場合、用語「心臓充満圧」は、心室が血液で満たされる圧力に関する。心臓充満圧をモニターして心臓充満容積を推測し、次に左右心室の一回拍出量を決定する。本明細書で使用する場合、心臓充満圧は、左心室拡張末期圧で表す。心臓充満圧を測定又は推測する方法は、当該分野において公知であり、超音波(心エコー検査法)及びドプラ測定法並びに心室へのカニューレ挿入による直接測定法を含む。心臓充満圧は、左心房圧、中心静脈圧又は肺動脈若しくは毛細管楔入圧の測定により間接的に推測することができる。
【0064】
用語「慢性心不全」(CHF)とは、一般に、非常にゆっくりと進行するので、種々の代償機構が当該疾患を平衡化するように機能する心不全の症例をいい得る。CHFの共通の臨床症状には、とりわけ、息切れ、運動能力の減退、疲労、嗜眠及び末梢浮腫の任意の1以上が含まれる。他のより共通性が少ない症状としては、動悸、記憶又は睡眠障害及び錯乱の任意の1以上が挙げられ、これは、通常、上記共通症状の1以上と同時に起こる。
本研究のような研究では、CHF集団は、CHF患者が急性代償不全を有さず、このため当該研究又は調査に使用される臨床サンプルを採取する時点でEDに対してそのことを説明しない点で、AHF集団と異なり得る。しかし、慢性心不全患者は、容易に代償不全になり、「急性心不全」に至り得る。
本研究のような研究において、心不全を有さない呼吸困難患者の集団は、例えば、AHF集団と同様な症状をEDに対して説明するが、呼吸困難の原因は急性非代償性心不全とは無関係である患者を含んでなり得る。代表例は、COPD又は肺炎の患者である。このような患者は、従来の診断手段(例えば、BNP又はNT-プロBNP測定)を用いる最終診断を特に複雑にし得る基礎心不全の病歴を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0065】
用語「予知」、「診断」及び「予後予測」又は「予後」は、医療及び臨床の実務において一般的な表現であり、十分に理解されている。更なる説明のために、限定されることなく、「予知」とは、一般に、(未だ)疾患又は病状を有していない対象者における当該疾患又は病状の事前の宣言、指摘又は予告をいう。例えば、対象者における疾患又は病状の予知は、対象者が例えば或る期間内に又は或る年齢までに前記疾患又は病状を発症する可能性、確率又はリスクを示し得る。前記可能性、確率又はリスクは、とりわけ、絶対値、範囲又は統計量として示されてもよいし、適切なコントロール対象者又は対象者集団(例えば、一般的な正常又は健常対象者又は対象者集団)に関して相対的に示されてもよい。よって、対象者が疾患又は病状を発症する可能性、確率又はリスクは、有利には、適切なコントロール対象者又は対象者集団に関して、増減として又は何倍増若しくは減として示されてもよい。
本明細書で使用する場合、用語 対象者における「本発明による本明細書に記載の病状、症状及び/又はパラメータの予知」、特に体液ホメオスタシス不均衡、体液蓄積又は体液減少、増加又は減少した血管充満容積及び/又は圧、体重増加又は減少、浮腫又は脱水、収縮期機能不全、(急性)心不全、LVEF、LVEDP、心臓充満圧の予知はまた、具体的には、対象者がそれらについて「陽性の」予知を有すること、すなわち、対象者がそれらを有するリスクにある(例えば、リスクが、コントロール対象者又は対象者集団に関して有意に増加している)ことを意味し得る。用語 対象者における「本発明による本明細書に記載の病状、症状及び/又はパラメータの無いことの予知」は、具体的には、対象者がそれらについて「陰性の」予知を有すること、すなわち、対象者のそれらを有するリスクは、コントロール対象者又は対象者集団に関して有意には増加していないことを意味し得る。
【0066】
用語「診断」とは、一般に、症状及び徴候に基づいて及び/又は種々の診断手順の結果から(例えば、診断する疾患又は病状に特徴的な1以上のバイオマーカーの存否及び/又は量を知ることから)対象者における疾患又は病状を認識、決定又は結論付けるプロセス又は行為をいう。
本明細書で使用する場合、対象者における「本発明による本明細書に記載の病状、症状及び/又は異常なパラメータ値の診断」、特に体液ホメオスタシス不均衡、体液蓄積又は体液減少、増加又は減少した血管充満容積及び/又は圧、体重増加又は減少、浮腫又は脱水、収縮期機能不全、(急性)心不全、LVEF、LVEDP、心臓充満圧の診断は、具体的には、対象者がそれらを有していること、よって対象者がそれらを有していると診断されることを意味し得る。対象者における「本発明による本明細書に記載の病状、症状及び/又は異常なパラメータ値の無いことの診断」、特に体液ホメオスタシス不均衡、体液蓄積又は体液減少、増加又は減少した血管充満容積及び/又は圧、体重増加又は減少、浮腫又は脱水、収縮期機能不全、(急性)心不全、LVEF、LVEDP、心臓充満圧の診断は、具体的には、対象者がそれらを有していないこと、よって対象者がそれらを有していないと診断されることを意味し得る。対象者は、本明細書中で教示されるように、それらを連想させる1以上の従来の症状又は徴候を示すにも関わらず、それらを有していないと診断され得る。
【0067】
用語「予後予測」又は「予後」とは、一般に、疾患又は病状の進行及び回復の見込み(例えば、確率、期間及び/又は程度)についての予見をいう。
本発明による本明細書に記載の病状、症状及び/又はパラメータの正常化の良好な予後は、一般に、好ましくは受容可能な期間内での、本発明による本明細書に記載の病状、症状及び/又はパラメータ値の正常化からの満足のいく部分的な又は完全な回復の予見を包含し得る。それらの良好な予後は、より通常には、好ましくは所定の期間内での、それらが更に悪化(worsening又はaggravating)しないとの予見を包含し得る。
本発明による本明細書に記載の病状、症状及び/又はパラメータの正常化の不良な予後は、一般に、低水準の回復及び/又は不満足に遅い回復の予見を包含し得、それらの回復が実質的にないことやAHFの更なる悪化の予見さえも包含し得る。
本明細書中で教示する種々の観点及び実施形態は、対象者からのサンプル中のMCAM量の測定、及び任意に、1以上の他の該当するバイオマーカーの有無及び/又は量の測定に依拠し得る。加えて、本発明による本明細書に記載の病状、症状及び/又はパラメータと関係する種々の臨床パラメータ、例えば、糸球体濾過速度、尿量、体重又は当該分野において所望の病状、症状及び/又はパラメータと関係することが知られている他の任意の臨床パラメータが測定され得る。本明細書で教示されるバイオマーカーと臨床パラメータとの組合せもまた企図される。
【0068】
本明細書で使用する用語「対象者」又は「患者」は、代表的には、ヒトを指称するが、非-ヒト動物、好ましくは温血動物、より好ましくは哺乳動物、例えば非-ヒト霊長類、げっ歯類、イヌ科動物、ネコ科動物、ウマ科動物、ヒツジ科動物、ブタ科動物などへの言及も包含し得る。
本明細書で使用する用語「サンプル」又は「生物学的サンプル」には、対象者から得られた任意の生物学的標本が含まれる。サンプルには、全血、血漿、血清、赤血球、白血球(例えば、末梢血単核細胞)、唾液、尿、糞便(すなわち、大便)、涙、汗、皮脂、乳頭吸引液、管洗浄液、腫瘍滲出物、滑液、脳脊髄液、リンパ、細針吸引液、羊水、間質液、任意の他の体液、細胞溶解物、細胞分泌物、炎症液(inflammation fluid)、精液及び膣分泌物が含まれるが、これらに限定されない。好適なサンプルとしては、MCAMを検出可能な量で含んでなるものが挙げられ得る。好適な実施形態において、サンプルは、全血若しくはその分画成分(例えば、血漿、血清)又は細胞ペレットであり得る。好ましくは、サンプルは最小限の侵襲法により容易に取得できる。また、サンプルとしては、組織サンプル及び生検、組織ホモジネートなどが挙げられ得る。好ましくは、MCAMレベルを検出するために使用するサンプルは血漿である。用語「血漿」は、細胞を含有しないが、栄養素、糖類、タンパク質、ミネラル、酵素などを含有する、血球(赤血球、白血球、血小板など)がその中に懸濁される血液の無色な水状液を定義する。
分子若しくは分析物(例えば、タンパク質、ポリペプチド又はペプチド)又は2以上の分子又は分析物(例えば、2種以上のタンパク質、ポリペプチド又はペプチド)の群は、該分子若しくは分析物又は該分子若しくは分析物の群の有無及び/又は量が、好ましくは他の分子及び分析物を実質的に除外して、サンプル中で検出又は決定されるとき、サンプル中で「測定される」。
【0069】
用語「量(quantity又はamount)」及び「レベル」は、同義であり、当該分野において広く十分に理解される。本明細書で使用するこの用語は、特に、サンプル中の分子若しくは分析物の絶対的な定量又はサンプル中の分子若しくは分析物の相対的な定量、すなわち、別の値(例えば、本明細書中で教示される参照値)に対するか若しくはバイオマーカーのベースライン発現を示す値の範囲に対する相対的な定量をいい得る。これらの値又は範囲は、1人の患者又は患者群から取得することができる。
サンプル中の分子又は分析物の絶対量は、有利には、重量若しくはモル量として表わし得るか、又はより一般には濃度として、例えば重量/体積若しくはモル/体積として表し得る。
サンプル中の分子又は分析物の相対量は、有利には、前記別の値(例えば本明細書中で教示する参照値)に対する増減として表し得るか又は何倍増若しくは何倍減として表し得る。第1及び第2のパラメータ(例えば、第1及び第2の量)の間の相対的比較の実施は、先ず、前記第1及び第2のパラメータの絶対値を決定してもよいが、そうしないでも済む。例えば、或る測定法は、前記第1及び第2のパラメータについて定量可能な読取値(例えば、シグナル強度)を生成することができるが、前記読取値は前記パラメータの値の関数であり、該読取値を直接比較して第1のパラメータ 対 第2のパラメータについての相対値を生成することができ、実際、読取値を先ずそれぞれのパラメータの絶対値に変換する必要はない。
【0070】
本明細書で使用する場合、用語「MCAM」は、メラノーマ細胞接着分子(MCAM)、MUC18又はCD146として一般に知られるタンパク質、すなわち当該分野においてこの呼称で通常知られるタンパク質及びポリペプチドに相当する。この用語は、それが見出される任意の生物、特に動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物(ヒト及び非-ヒト哺乳動物を含む)、更により好ましくはヒトの前記タンパク質及びポリペプチドを包含する。この用語は、特に、天然型配列を有する前記タンパク質及びポリペプチド、すなわち、その一次配列が天然に見出されるか又は天然に由来するMCAMのものと同じである前記タンパク質及びポリペプチドを包含する。当業者は、異なる種間での遺伝的分岐(genetic divergence)に起因して、当該種間でMCAMの天然型配列が異なり得ることを理解する。更に、MCAMの天然型配列は、所定の種内での通常の遺伝的多様性(変動)に起因して、同種の異なる個体間で又は異なる個体内で異なり得る。また、MCAMの天然型配列は、転写後又は翻訳後修飾に起因して、同種の異なる個体間で又は異なる個体内でさえ異なり得る。したがって、天然に見出されるか又は天然に由来する全てのMCAM配列を「天然型」とみなす。この用語は、生物、器官、組織又は細胞の一部を形成するとき、生物学的サンプルの一部を形成するとき及びこの様な供給源から少なくとも部分的に単離されたときのMCAMタンパク質及びポリペプチドを包含する。この用語はまた、組換え又は合成手段により製造されたときのタンパク質及びポリペプチドも包含する。
例示のMCAMとしては、図1に示されるUniprot/Swissprot(http://www.expasy.org/)アクセッション番号NP 006491で記載される一次アミノ酸配列(配列番号1)を有するヒトMCAMが挙げられるが、これに限定されない。当業者はまた、前記配列がMCAMの前駆体のものであり、プロセッシングされて成熟MCAMから切り離される部分を含み得ることも理解する。例えば、MCAMタンパク質は、可溶形態であることができ、又は細胞膜に接着することができる。図1において、シグナルペプチド並びに膜貫通及び細胞質ドメインは、前記アミノ酸配列において小文字で示されている。また、選択されたMASSterclass定量化ペプチド(pept25−太字、下線:配列番号2)も示されている。このMASSterclassペプチドは、全長形態及び切断された可溶形態の両方のMCAMを定量することができるが、実験セットアップに起因して、血漿循環画分(すなわち非細胞結合画分)のみが測定される。
【0071】
MCAMタンパク質は、内皮細胞及び血管平滑筋細胞に特異的であり、膜結合形態のCD146に基づいて血液細胞集団から内皮細胞を選別するツールとして使用されてきた。MCAMは、5つの免疫グロブリン様ドメイン(V-V-C2-C2-C2)、膜貫通領域及び63残基の細胞質テイルを有する免疫グロブリンスーパー遺伝子ファミリーに属する。これは、異好性の細胞-細胞相互作用に関与するCa2+非依存性細胞接着分子として機能する膜糖タンパク質である。このタンパク質は、還元形態で130kDaの分子サイズを有し(118kDa、非還元)、N連結グリコシル化が見かけの分子量の50%を説明する。可溶性CD146が(MMPの作用により)エクトドメイン脱離によって放出される。可溶性CD146の増大した血漿レベルは、Saitoら,2008(Clin Exp Nephrol. 2008 Feb;12(1):58-64. Epub 2008 Jan 5)で議論されているように、慢性腎不全を有する患者で観察された(健康な血清レベル:〜270ng/ml;腎不全患者:〜500ng/ml)。他方で、sCD146(可溶性CD146)の減少した血清レベルは、クローン病のような炎症性腸疾患(IBD)を有する患者で観察されたが、膜結合CD146発現は活性IBDで増加する(Bardinら,Inflamm. Bowel Dis. 2006 Jan;12(1):16-21及びReumauxら,Inflamm. Bowel Dis. 2007 Oct;13(10):1315-7)。後者の2つの刊行物は、患者の状態と1)可溶性MCAMレベル及び2)細胞結合又は膜結合形態のMCAMレベルとの間の相関に明確な差異が存在することを示している。本明細書で規定するような本発明の方法、キット及びデバイスの好適な実施形態において、膜結合又は細胞結合MCAMタンパク質(例えば、内皮細胞表面に存在するMCAM)ではなく、循環性MCAMタンパク質、例えば血漿中を循環する形態が検出される。
【0072】
MCAMは内皮細胞傷害マーカーとして知られているが、体液ホメオスタシス(特にホメオスタシス不均衡)又は関連する症状若しくはパラメータを評価するに有用であることは示されていないし、収縮期機能不全又は関連する症状若しくはパラメータと相関することも示されていない。更に、MCAMマーカーは、しばしば、内皮細胞を選別するツールとして使用される。このことは、膜結合(全長)タンパク質を使用することを示唆している(例えばWO2006/020936を参照)。
本明細書中におけるMCAMへの言及はまた、MCAMのフラグメントを包含し得る。よって、本明細書中でのMCAMの測定又はMCAM量の測定への言及は、MCAMタンパク質又はポリペプチドの測定、例えば、成熟及び/又はMMPによりプロセッシングされた可溶形態(以下、短く「可溶形態」と呼ぶ)のMCAMの測定並びに/或いはその1以上のフラグメントの測定を包含し得る。例えば、MCAM及び/又はその1以上のフラグメントは、測定量が一纏りで測定した種の合計量に対応するように、一纏めに測定され得る。別の例では、MCAM及び/又はその1以上のフラグメントは、各個に測定され得る。好ましくは、前記MCAMのフラグメントは、血漿循環形態のMCAMである。
【0073】
表現「血漿循環形態のMCAM」又は短く「循環形態」は、血漿中を循環する、すなわち細胞結合型でも膜結合型でもない全てのMCAMタンパク質又はそのフラグメントを包含する。如何なる理論によっても拘束されることを望まないが、このような循環形態は、天然のプロセシング(例えば、上記のような「可溶形態」へのMMP切断)により全長MCAMタンパク質から誘導され得るか、又はサンプル中に生じる既知の分解プロセスに起因し得る。或る状況では、循環形態はまた、血漿中を循環していることが見出されている全長MCAMタンパク質であり得る。よって、この「循環形態」は、サンプル中を循環している、すなわち該サンプルの細胞画分にも膜画分にも結合していない任意のMCAMタンパク質若しくは任意のプロセシングを受けた可溶形態のMCAM又は前記いずれかのフラグメントであり得る。
本明細書で使用する場合、用語 心房性ナトリウム利尿ペプチド「ANP」、プロ-ANP及びプロ-ANPの中央領域部(MR-プロANP)とは、当該分野においてこれらの呼称で通常知られているペプチドをいう。更なる説明としてであって限定ではないが、インビボで、成熟ANPは、それ自体公知の126アミノ酸プロホルモン(プロANP)のカルボキシ末端アミノ酸99〜126に由来する。中央領域プロANPは、具体的には、プロANPのほぼアミノ酸53〜90をいい得る。
【0074】
本明細書で使用する場合、用語「プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド」(「プロBNP」と略される)及び「アミノ末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド」(「NTプロBNP」と略される)及び「B型ナトリウム利尿ペプチド」(「BNP」と略される)とは、当該分野においてこれらの呼称で通常知られているペプチドをいう。更なる説明としてであって限定ではないが、インビボで、プロBNP、NTプロBNP及びBNPは、ナトリウム利尿ペプチド前駆体Bプレプロタンパク質(プレプロBNP)に由来する。詳細には、プロBNPペプチドは、プレプロBNPからN-末端分泌シグナル(リーダー)配列が除去された後のプレプロBNPの部分に相当する。BNPは、プロBNPのアミノ酸76のC末端側での切断後の該プロBNPのC末端部分に相当し、NTプロBNPはN末端部分に相当する。
本明細書で使用する場合、「シスタチンC」とは、CST3遺伝子(腎臓機能のバイオマーカーとして主に使用される)によりコードされるタンパク質をいう。別名として、シスタチン3(以前は、γトレース、ポストγグロブリン又は神経内分泌塩基性ポリペプチド)が挙げられる。これは実質的に全ての組織及び体液中に見出される。これは、リソソームプロテイナーゼ(タンパク質を分解する細胞の特別なサブユニットに由来する酵素)の強力なインヒビターであり、おそらくシステインプロテアーゼの最も重要な細胞外インヒビター(これは、特定タイプのタンパク質分解酵素による細胞外でのタンパク質分解を防ぐ)の1つである。シスタチンCは2型シスタチン遺伝子ファミリーに属する。
本明細書で使用する場合、「好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン」又は「NGAL」(ガン遺伝子リポカリン24P3、ウテロカリン又はリポカリン2(LCN2)としても知られる)とは、小さな親油性物質(例えば細菌由来リポ多糖(LSP)及びホルミルペプチド)に結合すると考えられており、炎症のモジュレータとして機能し得る25-kDタンパク質をいう。NGALは急性腎傷害に起因する腎不全のバイオマーカーとして使用することができる。
【0075】
本明細書で使用する場合、「U-アルブミン」とは、尿アルブミンをいう。よって、この用語は、腎臓疾患、特に糸球体濾過欠陥のマーカーとして尿中に見出されるアルブミン濃度に関する。
本明細書で使用する場合、用語「γ-グルタミルトランスペプチダーゼ」又は「ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ」は「ガンマグルタミルトランスフェラーゼ」(GGT)と互換的に使用される。GGTは、ガンマ-グルタミル官能基を転移する酵素である。GGTは、多くの組織(腎臓、胆管、前立腺、肝臓、脾臓、心臓、脳及び精嚢を含む)の細胞膜中に存在する。尿GGTは腎虚血傷害のマーカーとして使用することができる。
本明細書で使用する場合、「N-アセチル-β-(D)-グルコサミニダーゼ」又は「NAG」とは、N-アセチル-β-(D)-グルコサミニド中の末端N-アセチル-(D)-グルコサミド残基の加水分解に関与する酵素をいう。この酵素はヘキソサミニダーゼ群に属する。NAGは腎損傷及び腎疾患の非侵襲性マーカーとして尿中で測定される。
本明細書で使用する場合、「α-1-ミクログロブリン」又はA1Mとは、α-1-ミクログロブリン/ビクニン前駆体遺伝子(AMBP)のフラグメントをいう。A1Mはリポカリンスーパーファミリーに属する。A1Mは、腎不全のマーカーであると見なされており、尿細管機能の障害を示唆する。A1Mは、慢性腎尿細管性タンパク尿患者の尿から精製することができる。
本明細書で使用する場合、「β-2-ミクログロブリン」又はB2Mとは、ほぼ全ての有核細胞の表面上で、主要組織適合性複合体(MHC)クラスI重鎖と結合して見出される血清タンパク質をいう。長期血液透析患者において、これは凝集してアミロイド線維になり、関節腔に沈着することがある(透析関連アミロイドーシスとして知られる疾患)。B2Mの血清及び尿濃度は、糸球体及び尿細管腎症のモニタリングに使用される。
【0076】
本明細書で使用する場合、「クレアチニン」とは、筋肉中のリン酸クレアチンの分解産物をいい、通常、(筋肉質量に依存して)かなり一定の割合で身体により産生される。化学的には、クレアチニンは、クレアチンの自然形成される環状誘導体である。クレアチニンは、主に、腎臓により血液から濾去されるが、少量は腎臓により尿中に能動的に分泌される。クレアチニンの尿細管再吸収は皆無かそれに近い。腎臓の濾過が不十分である場合、血中レベルが上昇する。したがって、血中及び尿中のクレアチニンレベルは、腎機能の尺度としてのクレアチニンクリアランス(CrCl)(これは糸球体濾過速度(GFR)を反映する)を算出するために使用し得る。
本明細書で使用する場合、「バソプレッシン」は、抗利尿ホルモン(ADH)としても知られ、腎臓の尿細管において、組織の透過性に影響することによって、分子の再吸収を制御するペプチドホルモンをいう。これは、ホメオスタシス並びに血中の水分、グルコース及び塩の調節における鍵となる役割を演じている。バソプレッシンは、尿浸透圧の増加(濃度増加)及び水分排出の減少に寄与する3つの効果を有する:腎臓における集合管細胞の水に対する透過性の増加(すなわち抗利尿);集合管の内部髄質部分の尿に対する透過性の増加;及びナトリウム及び塩素再吸収の刺激。バソプレッシン放出の減少又はAVPに対する腎臓感受性の減少は、高ナトリウム血症、多尿症及び多渇症を特徴とする病状である尿崩症に至る。
【0077】
本明細書で使用する場合、「アルドステロン」とは、副腎において副腎皮質の外側部分(球状帯)により産生されるステロイドホルモン(ミネラルコルチコイドファミリー)をいい、腎臓の遠位尿細管及び集合管に作用して、ナトリウムの保存、カリウムの分泌、増加した水分貯留及び血圧増大を引き起こす。アルドステロンは、腎臓におけるナトリウム及び水分の再吸収並びにカリウムの放出(分泌)を増加させるホルモンである。これは血液容量を増加させ、したがって血圧を増大させる。血中におけるアルドステロンの測定値は、血漿アルドステロン濃度(PAC)と呼んでもよく、これはPAC/PRA比として血漿レニン活性(PRA)と比較され得る。
本明細書で使用する場合、「アンギオテンシン」とは、血管収縮、血圧増大及び副腎皮質からのアルドステロンの放出を引き起こす血中のオリゴペプチドをいう。これはホルモンであり、強力な口渇誘発剤である。これは、前駆体分子であるアンギオテンシノゲン(肝臓において産生される血清グロブリン)に由来する。これは、血圧を低下させる薬剤の主要な標的であるレニン-アンギオテンシン系の一部である。アンギオテンシンIは、アンギオテンシノゲンに対するレニンの作用によって形成される。これは、生物学的活性を有しておらず、アンギオテンシンIIの前駆体としてのみ存在しているようである。アンギオテンシンIは、酵素であるアンギオテンシン変換酵素(ACE)による2つのC末端残基の除去を通じて、アンギオテンシンIIに変換される。アンギオテンシンIIは、近位尿細管に対して、ナトリウム再吸収を増加させる直接効果を有する。本明細書で使用する場合、「アンギオテンシン変換酵素」又は「ACE」とは、身体のレニン-アンギオテンシン系(RAS)(細胞外容積(すなわち、血漿、リンパ及び間質液の容量)及び動脈血管収縮を媒介する)に関与する循環酵素であるエキソペプチダーゼをいう。これは、肺及び腎の内皮細胞により分泌され、デカペプチドであるアンギオテンシンIのオクタペプチドであるアンギオテンシンIIへの変換を触媒する。加えて、ACEは強力な血管弛緩剤であるブラジキニン及びその他の血管作用性ペプチドを分解する。
【0078】
本明細書で使用する呼称 ANP、プロANP、MR-プロANP、プロBNP、NTプロBNP、BNP、シスタチンC、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、U-アルブミン、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GT)、N-アセチル-β-(D)-グルコサミニダーゼ(NAG)、α-1-ミクログロブリン(A1M)、β-2-ミクログロブリン(B1M)、ウレア、クレアチニン、バソプレッシン、アルドステロン、アンギオテンシン及びACE(以下、「追加のバイオマーカー」と呼ぶ)とは、特に、天然型配列を有するペプチド、すなわち、その一次配列が天然に見出されるか又は天然に由来するそれぞれANP、プロANP、MR-プロANP、プロBNP、NTプロBNP、シスタチンC、好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)、U-アルブミン、γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GT)、N-アセチル-β-(D)-グルコサミニダーゼ(NAG)、α-1-ミクログロブリン(A1M)、β-2-ミクログロブリン(B1M)、ウレア、クレアチニン、バソプレッシン、アルドステロン、アンギオテンシン、ACE BNPのものと同じであるペプチドをいう。当業者は、これら追加のバイオマーカーの天然型配列が異なる種間で当該種間での遺伝的分岐に起因して異なり得ることを理解する。更に、これら追加のバイオマーカーの天然型配列は、所定の種内での通常の遺伝的多様性(変動)に起因して、同種の異なる個体間で又は異なる個体内でさえ異なり得る。また、これら追加のバイオマーカーの天然型配列は、転写後又は翻訳後修飾に起因して、同種の異なる個体間で又は異なる個体内でさえ異なり得る。したがって、天然に見出されるか又は天然に由来するこれら全ての追加のバイオマーカー配列を「天然型」とみなす。この用語は、それが見出される任意の生物、特に動物、好ましくは脊椎動物、より好ましくは(ヒト及び非ヒト哺乳動物を含む)哺乳動物、より更に好ましくはヒトに由来するペプチドを包含する。
【0079】
本明細書で使用する呼称 これら追加のバイオマーカーは、生物、器官、組織又は細胞の一部を形成するとき、生物学的サンプルの一部を形成するとき、及びそのような供給源から少なくとも部分的に単離されたときのそれぞれのペプチドを包含する。この用語はまた、組換え又は合成手段により製造されたときのそれぞれのペプチドをも包含する。
本明細書における、これら追加のバイオマーカーへの言及はまた、これら追加のバイオマーカーのいずれかのフラグメントをも包含し得る。よって、本明細書における、これら追加のバイオマーカーの有無及び/又は量の測定への言及は、これら追加のバイオマーカーのペプチドの測定及び/又はこれら追加のバイオマーカーペプチドのいずれかの1以上のフラグメントの測定をも包含し得る。例えば、これら追加のバイオマーカーペプチド及び/又はそれらのいずれかの1以上のフラグメントは、測定量が一纏りで測定した種の合計量に対応するように、一纏めに測定され得る。別の例では、これら追加のバイオマーカーペプチド及び/又はそれらのいずれかの1以上のフラグメントは、各個に測定され得る。
更に、文脈から明らかでない場合、本明細書における任意のタンパク質、ポリペプチド又はペプチド及びそのフラグメントへの言及は、一般に、前記タンパク質、ポリペプチド又はペプチド及びフラグメントの改変形態、例えば発現後修飾(例えば、リン酸化、グリコシル化、脂質化、メチル化、システイン化、スルホン化、グルタチオン化、アセチル化、メチオニンからメチオニンスルホキシド又はメチオニンスルホンへの酸化などを含む)を有する形態もまた包含し得る。
【0080】
1つの実施形態において、MCAM及びそのフラグメント、又は本明細書に記載する追加のバイオマーカー及びそのフラグメントは、ヒトであり得る。すなわち、その一次配列は、天然に存在するヒトMCAM及びそのフラグメント又は本明細書に記載の前記バイオマーカー及びそのフラグメントの一次配列又はそれらの中に存在する対応する一次配列と同じであり得る。よって、この関係で限定詞「ヒト」は、起源又は供給源よりむしろ、それぞれのタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又はフラグメントの一次配列に関する。例えば、このようなタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又はフラグメントは、ヒト対象者のサンプル中に存在していてもよいし、該サンプルから単離されていてもよく、又は他の手段(例えば、組換え発現、無細胞翻訳又は非生物学的ペプチド合成)により取得してもよい。
用語 タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの「フラグメント」は、一般に、N-末端及び/又はC-末端が欠失又は短縮化された形態の前記タンパク質、ポリペプチド又はペプチドをいう。この用語は、任意の機序、限定されないが、例えばオルタナティブ翻訳、エキソ-及び/又はエンド-タンパク質分解並びに/或いは前記タンパク質又はポリペプチドの分解(例えばインビボ又はインビトロでの、例えば物理的、化学的及び/又は酵素的タンパク質分解による)によって生じるフラグメントを包含する。限定されないが、タンパク質、ポリペプチド又はペプチドのフラグメントは、前記タンパク質、ポリペプチド又はペプチドのアミノ酸配列の少なくとも約5%、又は少なくとも約10%、例えば≧20%、≧30%又は≧40%、例えば≧50%、例えば≧60%、≧70%又は≧80%、更には≧90%又は≧95%を表し得る。
例えば、MCAMのフラグメントには、MCAMの≧5連続アミノ酸、又は≧10連続アミノ酸、又は≧20連続アミノ酸、又は≧30連続アミノ酸、例えば≧40連続アミノ酸、例えば≧50連続アミノ酸、例えば≧60、≧70、≧80、≧90、≧100、≧200、≧300、≧400、≧500又は≧600連続アミノ酸の配列が含まれ得る。
【0081】
1つの実施形態において、MCAMのフラグメントは、成熟全長MCAM(配列番号1)又はその可溶形態(図1参照)と比較して、N-末端及び/又はC-末端が1〜約20アミノ酸、例えば、1〜約15アミノ酸、又は1〜約10アミノ酸、又は1〜約5アミノ酸だけ短縮化されていてもよい。
1つの実施形態において、ANP、プロANP、MR-プロANP、プロBNP、NTプロBNP、BNP、シスタチンC、NGAL、U-アルブミン、γ-GT、NAG、A1M、B1M、クレアチニン、バソプレッシン、アルドステロン、アンギオテンシン、ACEのフラグメントは、ANP、プロANP、MR-プロANP、プロBNP、NTプロBNP、BNP、シスタチンC、NGAL、U-アルブミン、γ-GT、NAG、A1M、B1M、クレアチニン、バソプレッシン、アルドステロン、アンギオテンシン、ACEと比較して、N-末端及び/又はC-末端が1〜約20アミノ酸、例えば1〜約15アミノ酸、又は1〜約10アミノ酸、又は1〜約5アミノ酸だけ短縮化されていてもよい。例示として、バイオマーカーとして有用なプロBNP、NTプロBNP及びBNPフラグメントは、WO 2004/094460に開示されている。
1つの実施形態において、所定のタンパク質、ポリペプチド又はペプチドのフラグメントは、有利にはサンプルからの検出可能なペプチドを取得するような、前記タンパク質、ポリペプチド又はペプチドのインビトロタンパク質分解により獲得されてもよい。
例えば、このようなタンパク質分解は、適切な物理的、化学的及び/又は酵素的因子により、例えば、プロテイナーゼ、好ましくはエンドプロテイナーゼにより、すなわちタンパク質、ポリペプチド又はペプチド鎖で内部切断するプロテアーゼにより行なわれてもよい。適切なエンドプロテイナーゼの非限定的なリストには、セリンプロテイナーゼ(EC 3.4.21)、スレオニンプロテイナーゼ(EC 3.4.25)、システインプロテイナーゼ(EC 3.4.22)、アスパラギン酸プロテイナーゼ(EC 3.4.23)、メタロプロテイナーゼ(EC 3.4.24)及びグルタミン酸プロテイナーゼが含まれる。
【0082】
例示の非限定的エンドプロテイナーゼとしては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、Lysobacter enzymogenesエンドプロテアーゼLys-C、Staphylococcus aureusエンドプロテアーゼGlu-C(エンドペプチダーゼV8)又はClostridium histolyticumエンドプロテイナーゼArg-C(クロストリパイン)が挙げられる。更なる公知の酵素又は未同定の酵素も使用し得る;当業者は、所望のペプチド形態を獲得するために、切断特異性及び頻度に基づいて、適切なプロテアーゼを選択することができる。
好ましくは、タンパク質分解は、トリプシン型のエンドペプチダーゼ(EC 3.4.21.4)、好ましくはトリプシン、例えば(限定されないが)ウシ膵臓、ヒト膵臓、ブタ膵臓からのトリプシン調製物、組換えトリプシン、Lys-アセチル化トリプシン、溶液状のトリプシン、固体支持体に固定化したトリプシンなどにより行い得る。トリプシンは、とりわけ高い切断特異性及び効率に起因して特に有用である。本発明はまた、任意のトリプシン-様プロテアーゼ、すなわち、トリプシンのものと同様な特異性を有するプロテアーゼの使用を企図する。
他に、化学試剤をタンパク質分解に使用してもよい。例えば、CNBrはMetで切断することができ;BNPS-skatoleはTrpで切断することができる。
処理条件、例えば、タンパク質濃度、酵素又は化学試剤濃度、pH、緩衝液、温度、時間は、用いる酵素又は化学試剤に依存して、当業者が決定することができる。
【0083】
よって、1つの観点において、本発明はまた、上記のMCAMの単離フラグメントを提供する。このようなフラグメントは、生物学的サンプル中のMCAMの存在及び量についての有用な情報をもたらし得る。このために、前記フラグメントの検出が関心事になる。よって、本明細書中に開示されるMCAMフラグメントは有用なバイオマーカーである。
特定の成分(例えば、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド又はそのフラグメント)に言及するときの用語「単離(された)」は、一般に、その成分が、その天然環境の1以上の他の成分から分離して存在していること−例えば、該他の成分から分離されているか又は該他の成分から分離して調製されていること−をいう。例えば、単離されたヒト又は動物タンパク質、ポリペプチド、ペプチド又はフラグメントは、それが天然に存在するヒト又は動物の身体から分離して存在する。
本明細書で使用する用語「単離(された)」は、好ましくは、修飾語「精製(された)」も包含し得る。本明細書で使用する場合、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド及び/又はそのフラグメントに言及する場合の用語「精製(された)」は、絶対的な純粋性を要求しない。代わりに、この用語は、そのタンパク質、ポリペプチド、ペプチド及び/又はフラグメントが、他のタンパク質との比較での豊富さ(簡便には、質量若しくは重量又は濃度で表現される)が生物学的サンプル中より大きい別個の環境にあることをいう。別個の環境は、単一の媒体、例えば単一の溶液、ゲル、沈殿物、凍結乾燥物などをいう。精製されたペプチド、ポリペプチド又はフラグメントは、例えば、実験室又は組換えの合成、クロマトグラフィー、調製用電気泳動、遠心分離、沈澱、アフィニティー精製などを含む公知の方法により取得してもよい。
【0084】
精製されたタンパク質、ポリペプチド、ペプチド及び/又はフラグメントは、別個の環境のタンパク質含量の、好ましくは≧10重量%、より好ましくは≧50重量%、例えば≧60重量%、尚より好ましくは≧70重量%、例えば≧80重量%、更により好ましくは≧90重量%、例えば≧95重量%、≧96重量%、≧97重量%、≧98重量%、≧99重量%を構成し得、100重量%を構成しさえしてもよい。タンパク質含量は、例えば、Lowry法(Lowryら,1951. J Biol Chem 193: 265)により、任意にHartree 1972(Anal Biochem 48: 422-427)により記載された方法により決定してもよい。また、ペプチド又はポリペプチドの純度は、クーマシーブルー染色又は好ましくは銀染色を使用して、還元又は非還元条件下でSDS-PAGEにより決定してもよい。
1つの更なる実施形態は、検出可能な標識を含んでなる、単離されたMCAM又は本明細書中で教示される単離されたMCAMフラグメントを提供する。これは、そのようなフラグメントの素早い検出を容易にする。本明細書を通して使用される用語「標識」は、検出可能で好ましくは定量可能な読取値又は特性を提供するために使用することができ、興味対象の実体、例えばペプチド若しくはポリペプチド又は特異的結合性物質に付着することができるか又はこれらの一部となることができる任意の原子、分子、成分又は生体分子をいう。標識は、質量分析的、分光学的、光学的、比色定量的、磁気的、光化学的、生化学的、免疫化学的又は化学的手段により適切に検出可能であり得る。標識としては(限定されないが)、染料;放射性標識、例えば32P、33P、35S、125I、131I;高電子密度試剤;酵素(例えば、イムノアッセイで通常使用される西洋ワサビペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼ);結合性成分、例えばビオチン-ストレプトアビジン;ハプテン、例えばジゴキシゲニン;発光性、リン光性又は蛍光性成分;質量タグ(mass tag);及び単独又は蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)により発光スペクトルを抑制若しくはシフトさせることができる成分との組合せでの蛍光染料が挙げられる。
【0085】
1つの実施形態において、単離されたMCAM又は本明細書中に教示される単離されたMCAMフラグメントは、質量改変標識により標識されてもよい。好ましくは、質量改変標識には、ペプチドの1以上のアミノ酸における、対応する非標識ペプチドに関して明確に区別できる安定アイソトープの存在が含まれ得る。質量-標識ペプチドは、質量分析適用において、陽性コントロール、標準物質及び較正物質として特に有用である。具体的には、1以上の明確に区別できるアイソトープを含むペプチドは、化学的にはそっくりであり、クロマトグラフィー及び電気泳動で同様に分離し、また同様にイオン化及びフラグメント化する。しかし、適切な質量分析機では、このペプチド及び任意に、選択されたそのフラグメント化イオンは、識別可能なm/z比を示し、このため識別することができる。識別可能な安定アイソトープ対の例としては、HとD、12Cと13C、14Nと15N、又は16Oと18Oが挙げられる。通常、本発明において分析する生物学的サンプルのペプチド及びタンパク質は、実質的に、自然界で高い普及率(prevalence)を有する一般的なアイソトープ、例えばH、12C、14N及び16Oのみを含有し得る。この場合、質量-標識ペプチドは、天然での普及率が低い1以上の一般的でないアイソトープ、例えば、D、13C、15N及び/又は18Oで標識されてもよい。生物学的サンプルのペプチド又はタンパク質が1以上の一般的でないアイソトープを含む場合には、質量-標識ペプチドがそれぞれの一般的なアイソトープを含んでなり得ることも考えられる。
【0086】
アイソトープ標識した合成ペプチドは、とりわけ、1以上のアイソトープ標識アミノ酸基質を使用して該ペプチドを合成若しくは組換え産生することにより、又は非標識ペプチドを化学的若しくは酵素的に改変して1以上の明確に識別可能なアイソトープを導入することによって取得してもよい。例示として、D-標識ペプチドは、市販の重水素化L-メチオニンCH3-S-CD2CD2-CH(NH2)-COOH又は重水素化アルギニンH2NC(=NH)-NH-(CD2)3-CD(NH2)-COOHの存在下で合成又は組換え産生されてもよいが、これに限定されない。標識ペプチドの合成又は組換え産生のために、重水素化形態又は15N-若しくは13C-含有形態が存在する任意のアミノ酸が考えられ得ることが理解される。別の1つの非限定例において、ペプチドは、H216O又はH218O中でトリプシンで処理されてもよく、これは前記ペプチドのCOOH-末端への2つの酸素(それぞれ16O又は18O)の組込みを導く(例えば、US 2006/105415)。
したがって、検出可能な標識を任意に含んでなるMCAM及び本明細書中に教示される単離されたMCAMフラグメントの、MCAMの定性的又は定量的検出アッセイ(測定方法)における、特に本明細書中に教示される対象者における病状、症状及び/又はパラメータを予知、診断、予後予測及び/又はモニターする方法における(陽性)コントロール、標準物質又は較正物質としての使用もまた企図される。タンパク質、ポリペプチド又はペプチドは、任意の形態で、とりわけ沈殿物、真空乾燥物、凍結乾燥物として、液状若しくは凍結物として溶液で、又は固相上、例えば固相クロマトグラフィーマトリクス若しくはガラス若しくはプラスチック若しくは他の適切な表面上に共有結合的若しくは非共有結合的に固定されて(例えば、ペプチドのアレイ及びマイクロアレイの一部として)供給され得る。ペプチドは容易に調製され得、例えば、天然の供給源から単離されてもよいし、組換え的又は合成的に製造されてもよい。
【0087】
本明細書中に教示される単離されたMCAMフラグメントの任意の1以上に特異的に結合し得る結合性物質もまた提供される。更に、本明細書中に教示される単離されたMCAMフラグメントの1つのみに特異的に結合し得る結合性物質も提供される。このような結合性物質としては、とりわけ、抗体、アプタマー、ホトアプタマー、タンパク質、ペプチド、ペプチド類似体又は小分子を挙げることができる。
1つの好適な実施形態において、前記結合性物質は膜結合型及び血漿循環形態の両方のMCAMに結合することができる。好ましくは、前記結合性物質は、血漿循環形態のMCAMに特異的に結合するか又はこれを特異的に検出することができる。
本明細書を通して使用される用語「特異的に結合する」は、物質(本明細書中で「特異的-結合性物質」とも指称される)が、ランダムな若しくは無関係な他の分子を実質的に排除し、任意に構造的に関連する他の分子をも実質的に排除して、1以上の所望の分子又は分析物に、例えば1以上の興味対象のタンパク質、ポリペプチド若しくはペプチド又はそのフラグメントに結合することを意味する。
用語「特異的に結合する」は、物質がその意図する標的に排他的に結合することを必ずしも要求しない。例えば、物質は、結合条件下での当該意図する標的についての親和性が、非標的分子についての親和性より少なくとも約2倍大きい、好ましくは少なくとも約5倍大きい、より好ましくは少なくとも約10倍大きい、尚より好ましくは少なくとも約25倍大きい、更により好ましくは少なくとも約50倍大きい、尚更により好ましくは少なくとも約100倍又はそれ以上に大きい場合に、興味対象のタンパク質、ポリペプチド、ペプチド及び/又はそのフラグメントに特異的に結合するといってもよい。
【0088】
好ましくは、物質は、意図する標的に、KA ≧ 1×106 M-1、より好ましくはKA ≧ 1×107 M-1、尚より好ましくはKA ≧ 1×108 M-1、更により好ましくはKA ≧ 1×109 M-1、尚更により好ましくはKA ≧ 1×1010 M-1又はKA ≧ 1×1011 M-1(ここで、KA = [SBA_T]/[SBA][T]、SBAは特異的結合性物質を示し、Tは意図する標的を示す)の結合親和定数(KA)で結合し得る。KAの決定は、当該分野で公知の方法により、例えば、平衡透析及びScatchardプロット分析を用いて行うことができる。
本明細書を通して使用する特異的-結合性物質は、とりわけ、抗体、アプタマー、ホトアプタマー、タンパク質、ペプチド、ペプチド類似体又は小分子を含み得る。
本明細書で使用する場合、用語「抗体」はその最も広義の意味で使用され、一般には任意の免疫学的結合性物質をいう。この用語は、具体的には、インタクトなモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から形成される多価(例えば、二価、三価又はそれ以上の価)及び/又は多特異性抗体(例えば、二特異性又はそれ以上の特異性の抗体)、並びに所望の生物学的活性(特に、興味対象の抗原に特異的に結合する能力)を示す限りにおいて抗体フラグメント及びそのようなフラグメントの多価及び/又は多特異性複合物を包含する。用語「抗体」は、免疫化を含んでなる方法により生成される抗体を含むのみならず、興味対象の抗原上のエピトープに特異的に結合し得る少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含んで作製される任意のポリペプチド、例えば組換え発現ポリペプチドもまた含む。よって、この用語は、インビトロで作製されるかインビボで産生されるかに関わらず、前記のような分子に適用される。
【0089】
1つの実施形態において、抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMクラスのいずれかであり得、好ましくはIgGクラス抗体であり得る。
1つの実施形態において、抗体は、ポリクローナル抗体、例えば抗血清又はそれから精製された(例えばアフィニティー精製された)免疫グロブリンであり得る。
別の1つの好適な実施形態において、抗体は、モノクローナル抗体又はモノクローナル抗体の混合物であり得る。モノクローナル抗体は、特定の抗原又は抗原内の特定のエピトープをより高い選択性及び再現性で標的することができる。
例として、モノクローナル抗体は、Kohlerら,1975(Nature 256: 495)により最初に記載されたハイブリドーマ法により作製してもよく、組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号のような)により作製してもよいが、これらに限定されない。モノクローナル抗体はまた、ファージ抗体ライブラリから、例えばClacksonら,1991(Nature 352: 624-628)及びMarksら,1991(J Mol Biol 222: 581-597)により記載される技術を用いて単離されてもよい。
更なる実施形態において、抗体結合性物質は抗体フラグメントであり得る。「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体の、抗原-結合性領域又は可変領域を含有する部分を含んでなる。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv及びscFvフラグメント;ダイアボディ;リニア抗体;単鎖抗体分子;及び抗体フラグメントから形成された多価及び/又は多特異性抗体、例えばダイボディ、トリボディ及びマルチボディが挙げられる。上記呼称Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、scFvなどは、当該分野において確立された意味を有するものとする。
【0090】
用語 抗体 は、任意の動物種、好ましくは脊椎動物種(例えば、トリ及び哺乳動物を含む)を起源とする抗体又は該動物種に由来する1以上の部分を含んでなる抗体を包含する。限定されないが、抗体はニワトリ、シチメンチョウ、ガン若しくはガチョウ、アヒル若しくはカモ、ホロホロ鳥、ウズラ又はキジであり得る。限定されないが、抗体はまた、ヒト、ネズミ(例えば、マウス、ラットなど)、ロバ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ラクダ(例えば、Camelus bactrianus及びCamelus dromaderius)、ラマ(例えば、Lama paccos、Lama glama又はLama vicugna)又はウマであり得る。
当業者は、抗体が1以上のアミノ酸の欠失、付加及び/又は置換(例えば、保存的置換)を、その変更がそれぞれの抗原の結合を保存する限り、含み得ることを理解する。抗体はまた、その構成要素たるアミノ酸残基の1以上の天然又は人工的改変(例えば、グリコシル化など)を含み得る。
ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体並びにそれらのフラグメントの製造方法は当該分野で周知であり、組換え抗体又はそのフラグメントの製造方法も同様である(例えば、Harlow及びLane,「Antibodies: A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbour Laboratory, New York, 1988;Harlow及びLane,「Using Antibodies: A Laboratory Manual」, Cold Spring Harbour Laboratory, New York, 1999, ISBN 0879695447;「Monoclonal Antibodies: A Manual of Techniques」,Zola編, CRC Press 1987, ISBN 0849364760;「Monoclonal Antibodies: A Practical Approach」,Dean & Shepherd編, Oxford University Press 2000, ISBN 0199637229;Methods in Molecular Biology, vol. 248: 「Antibody Engineering: Methods and Protocols」, Lo編, humana Press 2004, ISBN 1588290921を参照)。
【0091】
用語「アプタマー」とは、標的分子(例えば、ペプチド)に特異的に結合することができる、一本鎖又は二本鎖のオリゴ-DNA、オリゴ-RNA又はオリゴ-DNA/RNA或いはそれらの任意のアナログをいう。有利には、アプタマーは、その標的に関して、かなり高い特異性及び親和性を提示することができる(例えば、1×109 M-1オーダーのKA)。アプタマーの作製は、とりわけ、米国特許第5,270,163号;Ellington & Szostak 1990(Nature 346: 818-822);Tuerk & Gold 1990(Science 249: 505-510);又は「The Aptamer Handbook: Functional Oligonucleotides and Their Applications」,Klussmann編, Wiley-VCH 2006, ISBN 3527310592(参照により本明細書中に組み込む)に記載されている。用語「ホトアプタマー」とは、標的分子と共有結合又は架橋することができる1以上の光反応性官能基を含有するアプタマーをいう。用語「ペプチド類似体」とは、対応するペプチドのトポロジーアナログ(topological analogue)である非-ペプチド物質をいう。ペプチドのペプチド類似体を合理的に設計する方法は、当該分野で公知である。例えば、硫酸化8-マーペプチドCCK26-33に基づく3つのペプチド類似体及び11-マーペプチドであるサブスタンスPに基づく2つのペプチド類似体の合理的設計並びに関連するペプチド類似体の設計原理は、Horwell 1995(Trends Biotechnol 13: 132-134)に記載されている。
用語「小分子」とは、医薬に一般的に使用される有機分子に匹敵するサイズを有する化合物、好ましくは有機化合物をいう。この用語は、生物学的巨大分子(例えば、タンパク質、核酸など)を包含しない。好適な小有機分子は、サイズが約5000Daまで、例えば、約4000Daまで、好ましくは3000Daまで、より好ましくは2000Daまで、更により好ましくは約1000Daまで、例えば、約900、800、700、600まで又は約500Daまでの範囲である。
【0092】
(任意に提示キャリアに付着されていてもよい)本明細書中に教示されるMCAMフラグメントを用いて(すなわち、免疫抗原として用いて)、動物、例えば非-ヒト動物(例えば、実験動物又は家禽)を免疫する方法も提供される。免疫及び免疫血清からの抗体試剤の調製は、それ自体周知であり、本明細書の他の箇所で言及した文献に記載されている。免疫する動物には、任意の動物種、好ましくは温血種、より好ましくは脊椎動物種(例えば、トリ及び哺乳動物を含む)が包含され得る。限定されないが、抗体はニワトリ、シチメンチョウ、ガン若しくはガチョウ、アヒル若しくはカモ、ホロホロ鳥、ウズラ又はキジであり得る。限定されないが、抗体はまた、ヒト、ネズミ(例えば、マウス、ラットなど)、ロバ、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、モルモット、ラクダ、ラマ又はウマであり得る。
用語「提示キャリア」又は「キャリア」は、一般に、第2の分子に結合されると、通常は追加のT細胞エピトープの提示を通して、該第2の分子に対する免疫応答を増強する免疫原性分子を指称する。提示キャリアは、(ポリ)ペプチド性構造であってもよいし、非-ペプチド性構造、例えば、とりわけグリカン、ポリエチレングリコール、ペプチド模擬体、合成ポリマーなどであってもよい。例示の非限定的キャリアには、ヒトB型肝炎ウイルスコアタンパク質、多重C3dドメイン、破傷風毒素フラグメントC又は酵母Ty粒子が含まれる。
本明細書中で教示した免疫により取得されたか又は取得され得る免疫血清は、本明細書中に開示されたMCAMフラグメントの1以上に特異的に結合する抗体試剤を生じさせるに特に有用であり得る。
【0093】
本発明はまた、(a)本明細書中で教示される1以上のMCAMフラグメントに結合するが、(b)MCAM及び/又は他のフラグメントには実質的に結合しない、特異的結合性物質を選択する方法を教示する。好都合には、この方法は、(b)の下で所望でないMCAM分子と交差反応又は交差結合する結合性物質を抜き取るか又は除去することに基づき得る。このような抜き取りは、種々の親和性分離法(例えば、アフィニティークロマトグラフィー、親和性固相抽出、親和性磁性抽出など)によって、当該分野で公知のように容易に実施し得る。
MCAM及び/又はそのフラグメント並びに任意に本発明による病状、症状及び/又はパラメータに有用な1以上のバイオマーカーのサンプル中の有無(例えば、読取値が存在 対 存在しない であるか;又は、検出可能な量 対 検出不可能な量 である)及び/又は量(例えば、読取値は絶対量又は相対量、例えば、絶対濃度又は相対濃度 である)を測定するために、任意の既存、利用可能又は従来の分離法、検出法及び定量法を本明細書で使用することができる(サンプル中でこのように測定されるべき任意の興味対象の分子又は分析物(MCAM及びそのフラグメントを含む)を、下記で、まとめて、バイオマーカーと呼ぶこともある)。
【0094】
例えば、このような方法には、イムノアッセイ法、質量分析法若しくはクロマトグラフィー法又はそれらの組合せが含まれ得る。
用語「イムノアッセイ」とは、一般に、サンプル中の1以上の興味対象の分子又は分析物を検出するためのものとして公知である方法をいう。ここで、興味対象の分子又は分析物に関するイムノアッセイの特異性は、特異的結合性物質(一般には抗体)と興味対象の分子又は分析物との間の特異的結合により与えられる。
イムノアッセイ技術には、直接ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、間接ELISA、サンドウィッチELISA、競合ELISA、マルチプレックスELISA、ラジオイムノアッセイ(RIA)、ELISPOT技術及び当該分野で公知の他の類似技術が含まれるが、これらに限定されない。これらイムノアッセイ法の原理は、当該分野で公知である(例えばJohn R. Crowther,「The ELISA Guidebook」,第1版,Humana Press 2000, ISBN 0896037282)。
【0095】
更なる説明として、直接ELISAは、サンプル中の標的抗原に結合しそのことにより該標的抗原を定量する、マイクロウェルプレートのような固体支持体に固定化された標識一次抗体を利用するが、これに限定されない。間接ELISAは、標的抗原に結合する非標識一次抗体と、抗原に結合した一次抗体を認識し、該抗体の定量を可能にする二次標識抗体とを使用する。サンドウィッチELISAでは、標的抗原は、抗原内の1つの抗原性部位に結合する固定化「捕捉」抗体を用いてサンプルから捕捉され、こうして捕捉された抗原が、非結合分析物の除去後に、前記抗原内の別の抗原性部位に結合する「検出」抗体を用いて検出される。ここで、検出抗体は、上記のように、直接標識されていてもよいし、間接的に検出可能であってもよい。競合ELISAは、一次抗体又は標的抗原のいずれかであり得る標識「競合物質」を使用する。一例では、固定された非標識一次抗体をサンプルとインキュベートし、この反応を平衡に到達させた後、標識標的抗原を加える。後者は、その結合性部位がサンプルの非標識標的抗原によって未だ占められていない限り、一次抗体に結合する。よって、結合した標識抗原の検出量は、サンプル中の非標識抗原の量と逆相関する。マルチプレックスELISAは、単一区画(例えば、マイクロプレートウェル)内で、通常、複数のアレイアドレスで、2以上の分析物の同時検出を可能にする(更なるガイダンスについては、例えば、Nielsen & Geierstanger 2004. J Immunol Methods 290: 107-20及びLingら,2007. Expert Rev Mol Diagn 7: 87-98を参照)。理解されるように、ELISA技術、より一般的にはイムノアッセイ技術における標識は、通常、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ)接合により、エンドポイントは、代表的には、比色、化学発光又は蛍光、磁性、圧電性、焦電性などである。
【0096】
ラジオイムノアッセイ(RIA)は競合-ベースの技術であり、既知量の放射活性標識(例えば、125I-又は131I-標識)標的抗原と該抗原に対する抗体との混合、次いでサンプル由来の非標識又は「非放射性(cold)」抗原の添加、及び置き換わった標識抗原の量の測定を含む(ガイダンスのために、例えば「An Introduction to Radioimmunoassay and Related Techniques」,Chard T編, Elsevier Science 1995, ISBN 0444821198を参照)。
更に、質量分析法がバイオマーカーの測定に適切である。
一般に、ペプチドの質量、好ましくは選択したペプチドの断片化及び/又は(部分的)アミノ酸配列に関する正確な情報を取得することができる任意の質量分析(MS)技術(例えば、タンデム質量分析ではMS/MS;ポストソース分解ではTOF MS)が本明細書中で有用である。適切なペプチドMS及びMS/MS技術及びシステムは、それ自体周知であり(例えば、Methods in Molecular Biology, vol. 146:「Mass Spectrometry of Proteins and Peptides」,Chapman編, Humana Press 2000, ISBN 089603609x;Biemann 1990. Methods Enzymol 193: 455-79;又はMethods in Enzymology, vol. 402:「Biological Mass Spectrometry」,Burlingame編, Academic Press 2005, ISBN 9780121828073を参照)、本明細書で使用し得る。
【0097】
バイオマーカーペプチド分析に適切なMSアレンジメント、装置及びシステムとしては、限定されないが、マトリクス-支援レーザ脱離/イオン化飛行時間型(MALDI-TOF)MS;MALDI-TOFポストソース分解(PSD);MALDI-TOF/TOF;表面増強レーザ脱離/イオン化飛行時間型質量分析(SELDI-TOF)MS;エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS);ESI-MS/MS;ESI-MS/(MS)n(nは0より大きい整数);ESI 3D又はリニア(2D)イオントラップMS;ESIトリプル四重極MS;ESI四重極直交TOF(Q-TOF);ESIフーリエ変換MSシステム;シリコン上での脱離/イオン化(desorption/ionization on silicon;DIOS);二次イオン質量分析(SIMS);大気圧化学イオン化質量分析(APCI-MS);APCI-MS/MS;APCI-(MS)n;大気圧光イオン化質量分析(APPI-MS);APPI-MS/MS;及びAPPI-(MS)nが挙げられ得る。タンデムMS(MS/MS)アレンジメントでのペプチドイオン断片化は、例えば衝突誘起脱離(CID)のような当該分野において確立された様式を用いて達成され得る。
1つの実施形態において、質量分析によるバイオマーカーの検出及び定量には、多重反応モニタリング(MRM)、例えば、とりわけKuhnら,2004(Proteomics 4: 1175-86)により記載されたものが含まれ得る。
1つの実施形態において、MSペプチド分析法は、有利には、例えば下記に記載されるクロマトグラフィー法その他の方法のような、上流のペプチド又はタンパク質の分離法又は断片化法と組み合わされ得る。
【0098】
クロマトグラフィーもまた、バイオマーカーの測定に使用することができる。本明細書で使用する場合、用語「クロマトグラフィー」は、当該分野においてそう呼ばれ、広範に利用可能である、化学物質を分離するための方法を包含する。好適なアプローチにおいて、クロマトグラフィーとは、液体又は気体の移動している流れ(「移動相」)により運ばれる化学物質(分析物)の混合物が、静止した液相又は固相(「静止相」)の周囲又は上部を流れるにつれ、該分析物が前記移動相と前記静止相との間で分別分布(differential distribution)する結果、成分に分離されるプロセスをいう。静止相は、通常、微粉化固体、フィルター材料のシート、固体表面上の液体の薄膜などであり得る。クロマトグラフィーはまた、例えば、アミノ酸、タンパク質、タンパク質のフラグメント又はペプチドなどのような、生物学的起源の化学化合物の分離に広く適用可能である。
本明細書で使用するクロマトグラフィーは、好ましくはカラムクロマトグラフィー(すなわち、静止相がカラム中に堆積又は詰められている)、好ましくは液体クロマトグラフィー、より好ましくはHPLCであり得る。クロマトグラフィーの詳細は当該分野で周知であるが、更なるガイダンスのためには、例えばMeyer M., 1998, ISBN: 047198373X及び「Practical HPLC Methodology and Applications」, Bidlingmeyer, B. A., John Wiley & Sons Inc., 1993を参照。
【0099】
例示のクロマトグラフィータイプとしては、限定されないが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相HPLC(NP-HPLC)、逆相HPLC(RP-HPLC)、イオン交換クロマトグラフィー(IEC)、例えばカチオン又はアニオン交換クロマトグラフィー、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(ゲル濾過クロマトグラフィー又はゲル透過クロマトグラフィーを含む)、等電点電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、例えばイムノ-アフィニティー、固定化金属アフィニティークロマトグラフィーなどが挙げられる。
1つの実施形態において、クロマトグラフィー(一次元、二次元以上の次元のクロマトグラフィーを含む)は、更なるペプチド分析法、例えば本明細書中の他の箇所に記載されるような下流の質量分析との組合せで、ペプチド断片化法として使用し得る。
本開示においてバイオマーカーの測定のために、上記の分析方法のいずれかと任意に組み合せて、更なるペプチド又はポリペプチドの分離法、同定法又は定量法を使用し得る。このような方法としては、限定されないが、化学抽出分配、等電点電気泳動(IEF)(キャピラリ等電点電気泳動(CIEF)、キャピラリ等速電気泳動(CITP)、キャピラリ通電クロマトグラフィー(CEC)などを含む)、一次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D-PAGE)、キャピラリゲル電気泳動(CGE)、キャピラリゾーン電気泳動(CZE)、ミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)、フリーフロー電気泳動(FFE)などが挙げられる。
【0100】
本明細書中で教示される種々の観点及び実施形態は、更に、サンプル中で測定されたMCAM量とMCAM量の参照値との比較に基づき得る。ここで、前記参照値は、本明細書に記載した病状、症状及び/又はパラメータの既知の予知、診断及び/又は予後を表す。
例えば、独特な参照値は、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有するリスク(例えば、異常に上昇したリスク)の予知 対 それらを有するリスク無し又は通常のリスクの予知を表し得る。別の1つの例では、独特な参照値は、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有する異なる程度のリスクの予知を表し得る。
更なる1つの例では、独特な参照値は、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の診断 対 それらの無いことの診断(例えば、健常の又は本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値から回復したことの診断など)を表すことがある。別の1つの例では、独特な参照値は、種々の重篤度の、本発明による病状、症状及び/又はそれらの代表的パラメータの診断を表し得る。
更に別の1つの例では、独特な参照値は、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値についての良好な予後 対 それらについての不良な予後を表し得る。更なる1つの例では、独特な参照値は、本発明によるパラメータによって決定される、病状又は症状について様々に(varyingly)好ましい又は好ましくない予後を表し得る。
【0101】
このような比較には、一般に、比較する値又はプロフィール間の少なくとも1つの差異の有無及び任意に該差異のサイズを決定する任意の手段が含まれ得る。比較には、測定値の目視検査、算術又は統計学的比較が含まれ得る。このような統計学的比較には、ルールの適用が含まれるがこれに限定されない。値又はバイオマーカープロフィールが少なくとも1つの標準を含むとき、当該値又はバイオマーカープロフィールにおける差異を決定するための比較は、バイオマーカーの測定値が内部標準物質の測定値と相関するように、これら標準物質の測定値を含み得る。
MCAM量についての参照値は、他のバイオマーカーについて以前に使用された公知の手順に従って確立され得る。
例えば、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の特定の予知、診断及び/又は予後についてのMCAM量の参照値は、前記本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の特定の予知、診断及び/又は予後により特徴付けられる(すなわち、前記本発明による特定の病状、症状及び/又はパラメータ値の予知、診断及び/又は予後が当てはまる)一個体又は個体集団からのサンプル中のMCAM量を決定することによって確立され得る。このような集団は、限定されないが、≧2、≧10、≧100、又は数百以上でさえある個体を含んでなり得る。
【0102】
よって、例示として、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の診断 対 それらの無いことの診断についてのMCAM量の参照値は、それぞれ本発明による特定の病状、症状及び/又はパラメータ値を有していると又はそれらを有していないと(例えば、臨床的徴候及び症状、イメージング、ECGなどのような他の適切な確定的手段に基づいて)診断された一個体又は個体集団からのサンプル中のMCAM量を決定することによって確立され得る。
1つの実施形態において、本明細書中で意図されるような参照値は、MCAMの絶対量を伝え得る。別の実施形態において、検査した対象者からのサンプル中のMCAM量は、(例えば、増減又は何倍増減に関して)参照値と直接比較して決定され得る。有利には、このことにより、MCAMのそれぞれの絶対量を先ず決定する必要なく、対象者からのサンプル中のMCAM量と参照値との比較(換言すれば、参照値に関する、対象者からのサンプル中のMCAMの相対的量の測定)が可能になり得る。
患者サンプルにおけるバイオマーカーの発現レベル又は存在は、時に、症状(の出現、悪化又は改善)の変化無しに変動し得る、すなわち、顕著に増減し得る。そのような事象において、マーカー変化は、症状の変化に先行し、症状変化より高感度の尺度になる。治療的介入をより早く開始することができ、症状の悪化を待っているより効果的であり得る。症状は、(限定されないが):息切れ、下肢の浮腫、心悸亢進、疲労などであり得る。より良性の病状での早期介入は自宅で安全に実施され得る。このことは、緊急治療室での重度に悪化した患者の治療からの大幅な改善である。
【0103】
よって、このような場合において、種々の時点で同じ患者のMCAMレベルを測定することにより、該患者の状態の連続モニタリングが可能になり、患者の病状の悪化又は改善の予知が導かれ得る。本明細書に示されるような自宅又は臨床検査キット又はデバイスは、この連続モニタリングに使用することができる。このような検査のための或る疾患状態に関連するMCAMレベルの1以上の参照値又は範囲は、例えば、当該患者において、事前に又はモニタリングプロセスの間に或る期間にわたって決定することができる。或いは、これら参照値又は範囲は、高度に類似する疾患表現型を有する幾人かの患者のデータセットより確立することができる。MCAMレベルの前記参照値又は範囲からの突然の逸脱は、(しばしば重篤な)症状を現実に感じるか又は観察する前に、(しばしば重篤な)症状を実際に感じるか又は観察することができる前に、(例えば自宅又は病院で)患者の病状の悪化を予知することができる。
したがって、本発明はまた、或る患者におけるMCAMマーカーレベルの有意な変化(臨床状態の変化(悪化又は改善)を示す)を決定する方法又はアルゴリズムを提供する。加えて、本発明は、対象者が病状から回復中であるか又は既に回復したという診断の確立を可能にする。
【0104】
1つの実施形態において、本方法は、そのような参照値を確立する工程を含み得る。1つの実施形態において、本キット及びデバイスは、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の特定の予知、診断及び/又は予後についてのMCAM量の参照値を確立する手段を含み得る。この手段は、例えば、前記本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の特定の予知、診断及び/又は予後により特徴付けられる1以上の個体からの1以上のサンプル(例えば、別個の又はプールしたサンプル)を含んでなり得る。
本明細書中で教示される種々の観点及び実施形態は、更に、対象者からのサンプル中で測定されるMCAM量と所定の参照値との間の逸脱又は逸脱無しの発見を必要とする。
第1の値の第2の値からの「逸脱(deviation)」は、一般に、いずれの方向(例えば、増加:第1の値>第2の値;又は減少:第1の値<第2の値)も、いずれの程度の変化も包含し得る。
【0105】
例えば、逸脱は、限定されないが、比較がなされる第2の値に対し、第1の値の少なくとも約10%(約0.9倍以下)又は少なくとも約20%(約0.8倍以下)又は少なくとも約30%(約0.7倍以下)又は少なくとも約40%(約0.6倍以下)又は少なくとも約50%(約0.5倍以下)又は少なくとも約60%(約0.4倍以下)又は少なくとも約70%(約0.3倍以下)又は少なくとも約80%(約0.2倍以下)又は少なくとも約90%(約0.1倍以下)の減少を包含し得る。
例えば、逸脱は、限定されないが、比較がなされる第2の値に対し、第1の値の少なくとも約10%(約1.1倍以上)又は少なくとも約20%(約1.2倍以上)又は少なくとも約30%(約1.3倍以上)又は少なくとも約40%(約1.4倍以上)又は少なくとも約50%(約1.5倍以上)又は少なくとも約60%(約1.6倍以上)又は少なくとも約70%(約1.7倍以上)又は少なくとも約80%(約1.8倍以上)又は少なくとも約90%(約1.9倍以上)又は少なくとも約100%(約2倍以上)又は少なくとも約150%(約2.5倍以上)又は少なくとも約200%(約3倍以上)又は少なくとも約500%(約6倍以上)又は少なくとも約700%(約8倍以上)などの増加を包含し得る。
【0106】
好ましくは、逸脱とは、統計学的に有意な観察された変化をいい得る。例えば、逸脱とは、所定集団における参照値の許容誤差範囲(例えば、標準偏差若しくは標準誤差、或いはそれらの所定倍、例えば±1×SD若しくは±2×SD又は±1×SE若しくは±2×SEで表される)から外れる観察された変化をいい得る。逸脱とはまた、所定集団における値により規定される参照範囲から外れる(例えば、当該集団における値の≧40%、≧50%、≧60%、≧70%、≧75%若しくは≧80%若しくは≧85%若しくは≧90%若しくは≧95%又は≧100%さえを含んでなる範囲から外れる)値をいい得る。
1つの更なる実施形態において、観察された変化が所定の閾値又はカットオフを超える場合、逸脱と結論付けられ得る。このような閾値又はカットオフは、予知法、診断法及び/又は予後法の選択された感度及び/又は特異性、例えば、少なくとも50%又は少なくとも60%又は少なくとも70%又は少なくとも80%又は少なくとも85%又は少なくとも90%又は少なくとも95%の感度及び/又は特異性を提供するように、当該分野で周知のように選択し得る。
【0107】
例えば、1つの実施形態において、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの予知若しくは診断を表すか又はそれらについての良好な予後を表す参照値と比べて、対象者からのサンプル中のMCAM量の上昇−好ましくは少なくとも約1.1倍又は少なくとも約1.2倍、より好ましくは少なくとも約1.3倍、更により好ましくは少なくとも約1.4倍、なおより好ましくは少なくとも約1.5倍、例えば約1.1倍〜3倍又は約1.5倍〜2倍−は、対象者が本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有しているか若しくはそれらを有するリスクにあることを示すか、又は対象者における本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値についての不良な予後を示す。
対象者からのサンプル中のMCAM量と或る予知、診断及び/又は予後を表す参照値との間に逸脱を発見したとき、逸脱は、対象者における本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知、診断及び/又は予後が該参照値によって表されるものとは異なるとの結論を示すか又は該結論に帰され得る。
対象者からのサンプル中のMCAM量と或る予知、診断及び/又は予後を表す参照値との間に逸脱を発見しないとき、逸脱が無いことは、対象者における本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の予知、診断及び/又は予後が該参照値によって表されるものと実質的に同じであるという結論を示すか又は該結論に帰され得る。
【0108】
上記の考察は、バイオマーカープロフィールに同様に適用される。
2以上の異なるバイオマーカーが対象者において決定されるとき、それぞれの有無及び/又は量は、測定された各バイオマーカーについての値がその一部をなすバイオマーカープロフィールとして共に表され得る。本明細書で使用する場合、用語「プロフィール」は、興味対象の病状と、例えば本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の特定の予知、診断及び/又は予後と関係する独特な特徴又は特性を表す任意のデータ組を含む。この用語は、一般に、とりわけ核酸プロフィール、例えば遺伝子型プロフィール(興味対象の病状と関係する1以上の遺伝子の遺伝子型を表す遺伝子型データ組)、遺伝子コピー数プロフィール(興味対象の病状と関係する1以上の遺伝子の増幅又は欠失を表す遺伝子コピー数データ組)、遺伝子発現プロフィール(興味対象の病状と関係する1以上の遺伝子のmRNAレベルを表す遺伝子発現データ組)、DNAメチル化プロフィール(興味対象の病状と関係する1以上の遺伝子のDNAメチル化レベルを表すメチル化データ組)、並びにタンパク質、ポリペプチド又はペプチドプロフィール、例えばタンパク質発現プロフィール(興味対象の病状と関係する1以上のタンパク質のレベルを表すタンパク質発現データ組)、タンパク質活性化プロフィール(興味対象の病状と関係する1以上のタンパク質の活性化又は不活化を表すデータ組)、タンパク質修飾プロフィール(興味対象の病状と関係する1以上のタンパク質の修飾を表すデータ組)、タンパク質切断プロフィール(興味対象の病状と関係する1以上のタンパク質のタンパク質分解性切断を表すデータ組)、並びにこれらの任意の組合せを包含する。
【0109】
バイオマーカープロフィールは、多くの方法で作成され得、比のような方法又は他のより複雑な関係付け方法若しくはアルゴリズム(例えば、ルール-ベースの方法)を用いて測定可能なバイオマーカー又はバイオマーカーの性状の組合せであり得る。バイオマーカープロフィールは、少なくとも2つの測定値を含んでなる。ここで、測定値は、同じ又は異なるバイオマーカーに対応させることができる。バイオマーカープロフィールはまた、少なくとも3、4、5、10、20、30又はそれより多い測定値を含んでなり得る。1つの実施形態において、バイオマーカープロフィールは、数百又は数千さえの測定値を含んでなる。
よって、例えば、独特な参照プロフィールは、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有するリスク(例えば、異常に上昇したリスク)の予知 対 それらを有する通常のリスク又はリスク無しの予知を表し得る。別の1つの例では、独特な参照プロフィールは、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値を有するリスクの種々の程度の予知を表し得る。
更なる1つの例では、独特な参照プロフィールは、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値の診断 対 該病状、症状及び/又はパラメータ値の無いことの診断(例えば、健常の又は本発明による病状又は症状から回復したことの診断など)を表すことができる。別の1つの例では、独特な参照プロフィールは、種々の重症度の、本発明による病状又は症状の診断を表し得る。
更に別の例では、独特な参照プロフィールは、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値についての良好な予後 対 それらについての不良な予後を表し得る。更なる1つの例では、独特な参照プロフィールは、本発明による病状、症状及び/又はパラメータ値についての様々に好ましいか又は好ましくない予後を表し得る。
【0110】
本明細書で使用する参照プロフィールは、他のバイオマーカーについて以前に使用された公知の手順に従って確立され得る。
例えば、特定の予知、診断及び/又は予後についてのMCAM量並びに本発明による病状、症状又はパラメータに関連する1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量の参照プロフィールは、前記特定の予知、診断及び/又は予後によって特徴付けられる(すなわち、前記予知、診断及び/又は予後が当てはまる)一個体又は個体集団からのサンプル中でプロフィールを決定することにより確立し得る。このような集団は、限定されないが、≧2、≧10、≧100又は数百以上の個体さえ含んでなり得る。
よって、例示として、AHFの診断 対 AHF無しの診断についての参照プロフィールは、それぞれAHFを有していると診断されたか又はAHFを有していないと診断された一個体又は個体集団からのサンプル中でバイオマーカープロフィールを決定することによって確立し得る。
1つの実施形態において、本方法は、そのような参照プロフィールを確立する工程を含み得る。1つの実施形態において、本キット及びデバイスは、特定の予知、診断及び/又は予後についての参照プロフィールを確立する手段を含み得る。このような手段は、例えば、前記特定の予知、診断及び/又は予後によって特徴付けられる1以上の個体からの1以上のサンプル(例えば、別個の又はプールされたサンプル)を含んでなり得る。
【0111】
更に、当該分野で公知の多パラメータ分析を、必要な変更を加えて用いて、値及びそれから作成されるプロフィールの群間の逸脱を決定し得る(例えば、サンプルプロフィールと参照バイオマーカープロフィールとの間で)。
サンプルプロフィールと或る予知、診断及び/又は予後を表す参照プロフィールとの間に逸脱を発見すると、逸脱は、対象者における予知、診断及び/又は予後が参照プロフィールによって表されるものとは異なるとの結論を示しているか又は該結論に帰され得る。
サンプルプロフィールと或る予知、診断及び/又は予後を表す参照プロフィールとの間に逸脱を発見しないとき、逸脱が無いことは、対象者における予知、診断及び/又は予後が参照プロフィールによって表されるものと実質的に同じであるとの結論を示しているか又は該結論に帰され得る。
【0112】
本発明は更に、患者サンプル中のMCAMマーカーのレベルを検出する手段を含んでなる、本発明による病状、症状及び/又はパラメータの診断用キット又はデバイスを提供する。より好適な実施形態において、本発明のキットは、臨床セッティング又は家庭で使用することができる。本発明によるキットは、本発明による病状又は症状の診断に、本発明による病状又は症状を患う対象者の或る薬剤での処置の有効性のモニタリングに又は本発明による病状、症状及び/又は特定のパラメータ値の発現についての対象者の予防検診に使用することができる。
キット又はデバイスは、臨床セッティングにおいてはベッドサイドデバイスの形態であり得、或いは緊急救命チームのセッティングにおいては、例えば救急車その他の救急救命移動手段の装備若しくはチーム装備の一部として又は応急処置キットの一部としてであり得る。診断キット又はデバイスは、医師、応急救助者(first-aid helper)又は看護士を補助して、観察中の患者が急性心不全を発症しているかどうかを決定することができる(その後、適切な行為又は処置を行うことができる)。
【0113】
家庭用検査キットにより、患者は、医師、応急救助者又は病院の救急救命部と連絡することができる読取り値を得られ、その後適切に行動することができる。このような家庭用検査デバイスは、本発明によるパラメータにより表される病状又は症状、例えば心不全の病歴を有するか若しくはそれらに罹患するリスクにある人々(例えば慢性心不全患者)、又は例えば急性心不全、感染、肺疾患、敗血症などにより引き起こされ得る呼吸困難(息切れ)の病歴を有するか若しくは呼吸困難に罹患するリスクにある人々に特に重要である。心不全のリスクが高いか又は呼吸困難の病歴を有する対象者は、確かに、本発明による家庭用検査デバイス又はキットを家庭に有することの恩恵を受け得る。なぜならば、彼らは、急性心不全事象と呼吸困難を引き起こす別の事象とを容易に区別することができ、問題解決のためにとるべき行動を決定する容易な方法がもたらされるからである。
【0114】
本発明による代表的なキット又はデバイスは以下のエレメント:
a)対象者からサンプルを取得する手段
b)サンプル中のMCAMマーカー量を測定し、サンプル中のMCAMマーカー量が或る閾値のレベル又は値を下回っているのか又は上回っているのか(このことが、対象者が本明細書に記載のパラメータにより表される本発明による病状又は症状に罹患しているのか否かを示す)を視覚化する手段又はデバイス
を含んでなる。
本発明の実施形態のいずれかにおいて、キット又はデバイスは、c)医師、病院の救急救命部又は応急処置所と直接連絡し、急性心不全に罹患しているのか否かを示す手段を追加的に含んでなることができる。
用語「閾値のレベル又は値」又は「参照値」は、同義語として互換的に使用され、本明細書で定義されるとおりである。この用語はまた、高度に類似する疾患状態を有する個々の患者又は患者群において決定される或る範囲のベースライン(例えば「乾燥重量」)値であり得る。
【0115】
本発明の実施形態のいずれかにおいて、本発明のデバイス又はキットは、本明細書に教示される追加のマーカーのレベルを検出する手段を追加的に含んでなることができる。
本明細書で規定されるキットはいずれも、対象者自身又は医師による使用のために、ベッドサイドデバイスとして使用することができる。
本発明のキットにおいて、対象者からサンプルを取得する手段(a)は、当該分野で公知の対象者からサンプルを取得する任意の手段であり得る。例えば血液サンプルを取得するための例は当該分野で公知であり、任意の種類の指又は皮膚プリック又はランセットベースのデバイスであり得る。これらは、基本的には、皮膚に穴を開け、皮膚から血液小滴を放出させる。尿サンプルを使用するとき、対象者からサンプルを取得する手段は、当該分野で公知の家庭用妊娠検査で使用されるもののような吸収ストリップの形態であり得る。同様に、唾液サンプルは、当該分野で公知の綿球(mount swab)を用いて取得し得る。採血デバイス又は他の採取デバイスの例は、例えば、米国特許第4,802,493号、同4,966,159号、同第5,099,857号、同6,095,988号、同5,944,671号、同4,553,541号、同3,760,809号、同5,395,388号、同5,212,879号、同5,630,828号、同5,133,730号、同4,653,513号、同5,368,047号、同5,569,287号、同4,360,016号、同5,413,006号及び米国出願公開2002/111565、同2004/0096959、同2005/143713、同2005/137525、同2003/0153900、同2003/0088191、WO9955232、WO2005/049107、WO2004/060163、WO02/056751、WO02/100254、WO2003/022330、WO2004/066822、WO97/46157、WO2004/039429又はEP0364621、EP0078724、EP1212138、EP0081975又はEP0292928に示されている。
【0116】
本発明のキットにおいて、サンプル中のMCAMマーカー量を測定する手段又はデバイス(b)は、サンプル中のMCAMタンパク質の量を特異的に検出することができる任意の手段又はデバイスであることができる。例は、固相、例えば当該分野で周知の側方流動ストリップ又はディップスティックデバイスなどに付着させたMCAM-特異的結合性分子を含んでなるシステムである。生化学的アッセイを実施するための1つの非限定的例は、膜の洗浄を必要としない組合せである検査-ストリップ及び標識抗体を使用することである。検査ストリップは、例えば妊娠検査キット(該キットでは、抗-hCG抗体が支持体上に存在し、hCGと複合体化して、尿のフローにより固定された第2抗体上へ運ばれて、視覚化される)の分野で周知である。このような家庭用検査デバイス、システム又はキットの他の非限定的例は、例えば以下のものに見出すことができる:米国特許第6,107,045号、同6,974,706号、同5,108,889号、同6,027,944号、同6,482,156号、同6,511,814号、同5,824,268号、同5,726,010号、同6,001,658号又は米国出願公開2008/0090305又は2003/0109067。
【0117】
1つの好適な実施形態において、本発明は側方流動デバイス又はディップスティックを提供する。このようなディップスティックは、ストリップの一方の端部(ここにサンプルが適用される)から該ストリップの他方の端部(ここでサンプル中の分析物の存在を測定する)へのキャピラリフローによるサンプルの移動を可能にする検査ストリップを含んでなる。
別の1つの実施形態において、本発明は試剤ストリップを含んでなるデバイスを提供する。このような試剤ストリップは、サンプルで湿らせたとき分析物の存在下で色変化を生じ及び/又はサンプル中のタンパク質の濃度を示す1以上の検査パッドを含んでなる。
本発明のキットの1つの好適な実施形態において、サンプル(b)中のタンパク質の量を測定する手段又はデバイス(1)は固体支持体(7)であり、該固体支持体は近位端(2)及び遠位端(3)を有し、以下:
− 近位端近傍のサンプル適用ゾーン(4)、
− サンプル適用ゾーン(4)に対して遠位の反応ゾーン(5)、及び
− 反応ゾーン(5)に対して遠位の検出ゾーン(6)
を含んでなり(これにより、該支持体は、適用ゾーンに適用された流体サンプルの近位端から遠位端への向きのフローを導くキャピラリ特性を有する)、
− 任意に、前記手段又はデバイスは、例えばコンテナ、点滴ピペット又はバイアル中に、粘性サンプルがストリップを通ってより容易に流動することを可能にする流体の供給源も含んでなる。
【0118】
反応ゾーン(5)は、検出剤(例えばコロイド金)に接合したMCAM結合性分子の1以上のバンド(10)を含んでなる。ここで、MCAM結合性分子接合体は、流体のキャピラリフローと共に移動することができるように、固体支持体上に配置する(すなわち、固定されていない)。検出ゾーン(6)は、固体支持体に固定されたMCAM結合性分子の集団を含んでなる1以上の捕捉バンド(11)を含んでなる。
サンプルは、サンプル適用ゾーン(4)に適用されると、キャピラリフローにより反応ゾーン(5)へ向かって移動する。サンプル中に存在するMCAMが標識MCAM結合性分子接合体と反応し、そうして形成された複合体がキャピラリフローにより検出ゾーン(6)へ運ばれる。検出ゾーン(6)は、その上にMCAM結合性分子が不可逆的に固定されており、複合体を捕捉し固定化する。これにより、接合体の局所的な濃縮を生じ、視覚化が可能になる。
本明細書に記載されるような2つのゾーン(5及び6)(一方のゾーンは非固定接合体を有し、他方のゾーンは固定された捕捉抗体を有する)は、一般に、重ならない。それらは、バンドの無い固体支持体の介在ギャップ有り又は無しで、隣接して配置され得る。バンドは、固体支持体上に、試剤が固定される必要があるかないかに依存して、任意の手段、例えば吸収、吸着、被覆、共有結合又は乾燥により配置され得る。
【0119】
サンプル中のMCAMタンパク質レベルが或る所定の閾値レベル又は値より高くなるとシグナルのみを生成する半定量検査ストリップを得るためには、固定されていない接合体化MCAM結合性分子を含んでなる反応ゾーン(5)はまた、所定量の固定されたMCAM捕捉抗体を含んでなり得る。これにより、サンプル中に存在する或る量(事前に決定した閾値レベル又は値に対応)のMCAMタンパク質を捕捉して除去することが可能になる。次いで、接合体化又は標識化された結合性分子が結合した残存量のMCAMタンパク質(あれば)が、検出ゾーン(6)に移動する。この場合、反応ゾーン(6)は、標識化結合性分子-MCAM複合体を受容するだけであり、サンプル中のMCAMタンパク質レベルが所定の閾値レベル又は値より高いときにのみ、その後シグナルを生成する。
サンプル中のMCAMタンパク質の量が或る閾値レベル又は値を下回っているか又は上回っているかを決定する別の可能性は、サンプル中に存在する全てのMCAMタンパク質を捕捉する一次捕捉抗体を、固相に結合されると或るシグナル又は色を発生する標識二次抗体と組み合せて使用することである。次いで、色又はシグナルの強度は参照の色又はシグナルチャートと比較され得る。シグナル強度が或る閾値シグナルを上回ると、検査は陽性である(すなわち本発明による病状、症状及び/又はパラメータが診断される)ことを示す。或いは、色又はシグナルの量又は強度は、例えば光吸収センサ又は光照射メータを含んでなる電子デバイスで測定することができる。これにより、生成されたシグナル強度又は色吸収の数値が得られ、その数値は、閾値を下回っていれば陰性結果の形で、閾値を上回っていれば陽性結果の形で対象者に提示され得る。
この実施形態は、患者におけるMCAMレベルを経時的にモニターするときに該当する。
【0120】
参照値又は範囲は、例えば、対象者が本発明による病状若しくは症状を有していない期間又は本発明によるパラメータを正常化している期間に、家庭用デバイスを使用して決定することができる。これにより、患者に、ベースラインのMCAMレベルが示される。よって、家庭用検査デバイスの定期的使用により、対象者に、ベースラインレベルと比較してのMCAMレベルの突然の変化を注意喚起することができ、医師への連絡を可能にする。
或いは、参照値は、本発明による病状若しくは症状に罹患している対象者又は本発明によるパラメータが異常である(すなわち上昇しているか又は減少している)対象者において決定することができる。この参照値は、個人的なMCAM「リスクレベル」、すなわち本発明による病状若しくは症状の事象に曝されているか又は間もなく曝されることを示すMCAMレベルを示す。このリスクレベルは、疾患進行のモニタリング又は処置効果の評価に関して興味深い。リスクレベルと比較してのMCAMレベルの減少は、患者が快方に向かっている病状を示す。
更に、参照値又はレベルは、高度に類似する疾患状態又は表現型を有する対象者における測定結果の組合せにより確立することができる。
【0121】
その原理が本発明による家庭用検査デバイスに使用され得る当該分野で公知の半定量検査の非限定的例は、Sanitoetsが販売しているHIV/AIDS検査又は前立腺ガン検査である。家庭用前立腺検査は、全血中4ng/mlより高い血中PSAレベルを検出する初期の半定量検査として意図された迅速検査である。代表的な家庭用自己検査キットは、以下の成分を含んでなる:血液サンプルが適用され、タンパク質レベルが或る閾値レベルを上回るとシグナルを生じる検査デバイス;サンプル適用ゾーンからシグナル検出ゾーンへの分析物(すなわち興味対象のタンパク質)の移行を助ける、例えば点滴ピペット中の、或る量の希釈剤、任意に、血液標本採集用の空ピペット、指穿刺デバイス、任意に、穿刺領域を清浄するための滅菌綿棒、及びキットの使用指示書。
類似の検査もまた、例えば乳ガン検出用及び心臓リスクの家庭検査を考慮したCRP-タンパク質レベル検出用に知られている。後者の検査は、検査結果の検査機関への送付を包含し、そこで結果が技術専門家又は医療専門家により解釈される。このような患者病状の電話又はインターネットベースの診断は、当然のことながら、ほとんどのキットで可能であり、推奨される。なぜならば、検査結果の解釈はしばしば、検査の実施より重要であるからである。サンプル中に存在するタンパク質レベルの数値を提供する上記のような電子デバイスを使用するとき、この値は、当然のことながら、電話、携帯電話、衛星電話、電子メール、インターネットその他の通信手段で容易に通信でき、急性心不全に罹患していることを病院、医師又は応急処置チームに警告することができる。このようなシステムの非限定的例は、米国特許第6,482,156号に開示されている。
【0122】
下記の説明で、本発明の特定の実施形態を例示する図面への言及がなされる;図面は、限定を意図するものでは全くない。当業者は、当業者の共通の実務に従って、デバイス及び代わりの成分及び特徴を適応させ得る。
図3A及びBは、本発明の検査ストリップの1つの好適な実施形態を示す。ストリップ(1)は近位端(2)及び遠位端(3)を含む。サンプル適用ゾーン(4)は近位端(2)に設けられ、反応ゾーン(5)はそれに隣接し、検出ゾーン(6)は遠位端(3)近傍にある。サンプルは、固体支持体(7)上、適用ゾーン(4)に置かれ、毛管作用により検出ゾーン(6)へ移される。サンプル適用ゾーン(4)の領域を除き固体支持体(7)の片面又は両面を覆う保護層(8)を備えていてもよい。この保護層は、サンプル及びストリップの化学成分を汚染及び蒸発から保護する。固体支持体(7)のサンプル適用ゾーン(4)と毛管接触する1以上の吸収パッド(9)が、必要に応じて、サンプルを吸収及び放出し得る;このパッド(9)は、代表的には、サンプル適用ゾーン(4)と同じか又は反対の固体支持体(7)表面に配置される。図5Bにおいて、吸収パッド(9)はサンプル適用ゾーン(4)の部分である。1以上の他の吸収パッド(9')が、固体支持体(7)の検出ゾーン(6)に毛管接触して、いずれの捕捉バンド(11)、(14)に対しても遠位に配置され得る。これらパッド(9')は、固体支持体を通過した流体を吸収し得る;このパッド(9')は、代表的には、サンプル適用ゾーン(4)と同じか又は反対の固体支持体(7)表面に配置される。固体支持体(7)は、毛管作用特性を有する任意の適切な材料から作製され得、上記のものと同じ特性を有し得る。これは、物質(例えば非固定化MCAM結合性分子)を支持することもできるべきであり、該物質は、水和したとき、毛管作用による流体フローによって、固体支持体を横切って移動することができる。
【0123】
固体支持体(7)はまた、反応ゾーン(5)中、サンプル適用ゾーン(4)に対して遠位に位置するMCAM結合性分子接合体(10)のバンドを含んでなり得る。サンプル中のMCAMは、毛管作用によりこのバンド(10)に向かって運ばれ、そこで、MCAMは不可逆的に固定されたMCAM結合性分子接合体と反応する。
MCAM結合性分子接合体には、検出が容易となるように、検出剤が結合又は付着していてもよい。ラボ検出剤の例としては、限定されないが、発光標識;色素のような比色標識;蛍光標識;又は電気活性剤(例えば、フェロシアン化物)のような化学標識;酵素;放射活性標識;又は高周波標識が挙げられる。より一般的には、検出剤は粒子である。本発明の実施に有用な粒子の例としては、限定されないが、コロイド金粒子;コロイドイオウ粒子;コロイドセレン粒子;コロイド硫酸バリウム粒子;コロイド硫酸鉄粒子;ヨウ素酸金属粒子;ハロゲン化銀粒子;シリカ粒子;コロイド金属(含水)酸化物粒子;コロイド硫化金属粒子;コロイドセレン化鉛粒子;コロイドセレン化カドミウム粒子;コロイド金属リン酸塩粒子;コロイド金属フェライト粒子;有機層又は無機層で被覆した上記コロイド粒子のいずれか;タンパク質又はペプチド分子;リポソーム;又はポリスチレンラテックスビーズのような有機ポリマーラテックス粒子が挙げられる。好ましい粒子は、コロイド金粒子である。コロイド金は、G. Frens, 1973 Nature Physical Science, 241:20(1973)に概説される方法のような任意の従来手段により作られ得る。代替法は、米国特許第5,578,577号、同第5,141,850号;同第4,775,636号;同第4,853,335号;同第4,859,612号;同第5,079,172号;同第5,202,267号;同第5,514,602号;同第5,616,467号;同第5,681,775号に記載され得る。
【0124】
固体支持体(7)は、検出ゾーン(6)に1以上の捕捉バンド(11)を更に含んでなる。捕捉バンドは、そこに不可逆的に固定されたMCAM結合性分子の集団を含んでなる。反応ゾーン(5)で形成されたMCAM:MCAM-結合性分子接合体の複合体は、検出ゾーン(6)に向かって移動し、そこで、前記バンド(11)が移動中の複合体を捕捉して濃縮する。こうして、肉眼によるか又は読取り機を用いるかのいずれかでの視覚化が可能になる。反応ゾーン(5)及び検出ゾーン(6)に存在するMCAM結合性分子は、MCAMの同じ部分と反応してもよいし、MCAMの異なる部分と反応してもよい。
1以上のコントロールバンド(12)が固体支持体(7)上に存在してもよい。例えば、非固定化ペプチド(12)がサンプル適用ゾーン(4)に存在し得る。このペプチドは、MCAM結合性分子のいずれのバンド(13)及び(14)とも交差反応しない。サンプルを適用すると、該サンプルは反応ゾーン(5)に向かって移動する。そこには、抗-ペプチド抗体接合体が配置されており(13)、ペプチド-抗体複合体が形成される。該複合体は、検出ゾーン(6)に向かって移動し、そこには抗-ペプチド抗体の捕捉バンド(14)が固体支持体上に固定されており、これが該複合体を濃縮して視覚化を可能にする。コントロール捕捉バンド(14)は、MCAM捕捉バンド(11)とは別個に位置し、したがって、陽性反応は、アッセイが正しく機能したときに、検出反応とは別個に観察することができる。
【0125】
本発明によるコントロールの特別な利点は、それが内部コントロールであること−すなわち、MCAM測定結果と比較し得るコントロールが、個々の固体支持体上に存在することである。したがって、本発明によるコントロールは、例えば、固体支持体におけるバラツキを補正するために使用され得る。このような補正は、例えば支持体の統計学的サンプリングに基づく外部コントロールでは実行不可能であろう。加えて、ロット毎、試行毎(run-to-run)の異なる支持体間の変動が、本発明によるコントロール結合性物質及びコントロール物質の使用によって最小化され得る。更に、非特異結合の影響が低減し得る。これら補正は全て、外部の、支持体上にないコントロールでは実施することが困難である。
アッセイの間、サンプルからのMCAMとMCAM結合性分子接合体とは、固体支持体(7)上で結合して濃縮する。この結合により、固体支持体(7)の背景色を超えて視覚化され得る化合物の濃縮が生じる。化合物は、反応及び検出ゾーンに結合した抗体、検出剤、その他の粒子を含む上記化合物の組合せから形成され得る。実施される特定のアッセイに基づいて、反応及び検出ゾーンは、線形又は非線形であり得る適切なダイナミックレンジを達成するように選択して提供され得る。
【0126】
アッセイを実施するための固体支持体(7)は、例えば図6に示すようなカートリッジ(20)内に収容され得る。カートリッジは、1以上の開口部を除き、好ましくは尿に対して防水性である。固体支持体(7)は、カートリッジの開口部(21)で曝されており、近位端(2)の適用ゾーン(4)を提供し、別の開口部(22)で曝されて、遠位端(3)近くの検出ゾーン(6)の読取りを可能にする。カートリッジ(20)は、読取りデバイスとの通信用のセンサコード(23)を備え得る。
サンプル中のMCAMの存在及び/又は濃度は、MCAM結合性分子が固定されているチップを使用する表面プラズモン共鳴(SPR)、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)、蛍光消光、蛍光偏光測定又は当該分野で公知のその他の手段により測定することができる。記載された結合アッセイのいずれも、サンプル中のMCAMの存在及び/又は濃度を決定するために使用することができる。そうするために、使用する結合アッセイに適切に、MCAM結合性分子をサンプルと反応させ、MCAM濃度を測定する。アッセイを検証及び較正するため、種々の濃度の標準MCAM及び/又はMCAM結合性分子を使用するコントロール反応を実施することができる。固相アッセイを用いる場合、インキュベーション後、洗浄工程を行って未結合のMCAMを除去する。所定の標識に適切なように結合MCAMを測定する(例えば、シンチレーションカウンティング、蛍光、抗体-色素など)。定性的な結果が望ましい場合、コントロール及び異なる濃度は必要ないかもしれない。当然のことながら、MCAM及びMCAM結合性分子の役割は、切り替わり得る;当業者は、MCAM結合性分子が種々の濃度のサンプルに適用されるように方法を適合させ得る。
【0127】
本発明によるMCAM結合性分子は、MCAMに特異的に結合する任意の物質である。本発明による有用なMCAM結合性分子の例としては、限定されないが、抗体、ポリペプチド、ペプチド、脂質、糖質、核酸、ペプチド-核酸、小分子、小有機分子、又は他の薬剤候補が挙げられる。MCAM結合性分子は、天然化合物又は合成化合物であり得、例えば合成小分子、動物、植物、細菌又は真菌細胞の抽出物並びに前記細胞からの条件付け培地に含有される化合物を含み得る。或いは、MCAM結合性分子は、MCAMの結合部位を有する工学的に操作されたタンパク質であり得る。本発明の1つの観点によれば、MCAM結合性分子は、10-6Mより良好な親和性でMCAMに特異的に結合する。適切なMCAM結合性分子は、MCAMの標準サンプルとの結合から決定することができる。MCAM結合性分子とMCAMとの結合を決定する方法は、当該分野で公知である。本明細書で使用する場合、用語 抗体 には、限定されないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化又はキメラ抗体、工学的に操作した抗体及びタンパク質への結合に十分な生物学的に機能的な抗体フラグメント(例えばscFv、ナノボディ、Fvなど)が含まれる。この抗体は、例えばマウス、ラット、ヒト又はヒト化モノクローナル抗体のようなMCAMに対する市販の抗体であり得る。
1つの好適な実施形態では、結合性分子又は物質は、成熟の膜結合型又は細胞結合型MCAMタンパク質又はフラグメントの両方に結合することができる。1つのより好適な実施形態では、結合性物質又は分子は、上記のような可溶性形態の、好ましくは血漿循環形態のMCAMに特異的に結合するか又はこれを特異的に検出する。
本発明の1つの観点によれば、MCAM結合性分子は、別の物質(例えばプローブ結合性パートナー)での検出を可能にするタグで標識される。このタグは、例えば、ビオチン、ストレプトアビジン、his-タグ、mycタグ、マルトース、マルトース結合性タンパク質又は結合性パートナーを有する当該分野で公知の任意の種類のタグであり得る。プローブ:結合性パートナーの組合せに利用できる組の例は、任意であり、例えばビオチン:ストレプトアビジン、his-タグ:金属イオン(例えばNi2+)、マルトース:マルトース結合性タンパク質を含む。
【0128】
別の1つの実施形態において、本発明は、簡便で正確な比色試剤ストリップ及びサンプル中のMCAMの存在を決定する方法を提供する。より具体的には、本発明はまた、試剤ストリップを含んでなるデバイスに関する。本試剤ストリップは、サンプル中のMCAMの存在を測定するための少なくとも1つの検査パッドを備えた固体支持体を含んでなる。該検査パッドは、好ましくは、MCAMと相互作用して測定可能な応答、好ましくは視覚的に又は装置により測定可能な応答を生成することができる試剤組成物が組み込まれたキャリアマトリクスを含んでなる。試剤ストリップは、任意のサイズ及び形状で製造されてもよいが、一般に試剤ストリップは縦長である。固体支持体は、任意の適切な材料から構成されてもよく、好ましくは酢酸セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリカーボネート又はポリスチレンのような堅固な材料から作られる。一般には、キャリアマトリクスは、尿サンプルが毛管力により該キャリアマトリクスを移動し、試剤組成物に接触して検出可能又は測定可能な色変化を生じさせることを可能にする吸収性材料である。キャリアマトリクスは、興味対象のアッセイを実施するに必要な化学試剤を組み込むことができる任意の物質であり得る(ただし、キャリアマトリクスが該化学試剤に対して実質的に不活性であり、液体の検査サンプルの可溶成分に関して多孔性又は吸収性である限りにおいて)。表現「キャリアマトリクス」とは、水その他の生理学的流体に不溶であり、水その他の生理学的流体に曝されたとき構造的完全性を維持する吸水性又は非吸水性のマトリクスをいう。適切な吸水性マトリクスとしては、濾紙、スポンジ材料、セルロース、木、織布及び不織布などが挙げられる。非吸水性マトリクスとしては、グラスファイバー、高分子フィルム及び成形膜又は細孔膜が挙げられる。他の適切なキャリアマトリクスとしては、親水性無機粉体、例えばシリカゲル、アルミナ、珪藻土など;粘土質物質;布;親水性天然高分子材料、特にセルロースビーズのようなセルロース材料、及び特に濾紙又はクロマトグラフィー用紙のような繊維含有紙;架橋ゼラチン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリルアミド、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリウレタン、架橋デキストラン、アガロース及び他の架橋及び非架橋水不溶性親水性ポリマーのような合成ポリマー又は改変された天然に存在するポリマーが挙げられる。疎水性で非吸収性の物質は、本発明のキャリアマトリクスとしての使用に適切ではない。
【0129】
キャリアマトリクスは、種々の化学組成物又は化学組成物の混合物からなることができる。マトリクスはまた、硬度及び柔軟性と組み合せた平滑性及び粗さに関して変化し得る。しかし、あらゆる場合で、キャリアマトリクスは、親水性又は吸収性材料を含んでなる。キャリアマトリクスは、最も有利には、吸水性濾紙又は非吸水性高分子フィルムから構築される。好適なキャリアマトリクスは、セルロース誘導材料(例えば、紙、好ましくは濾紙)を含む親水性で吸水性のマトリクス、又は高分子フィルム(例えば、ポリウレタン又は架橋ゼラチン)を含む非吸水性マトリクスである。サンプル中のMCAMと反応したとき色変化を生じる試剤組成物を、キャリアマトリクス中に均一に組み込むことができる。キャリアマトリクスは、検査サンプルの所定成分によるキャリアマトリクス浸透性を維持しつつ、試剤組成物をキャリアマトリクスを通して均一に保持する。適切な試剤組成物の例として、例えば、抗体-ベース技術の場合にはMCAM結合性分子を挙げてもよく、酵素的検出の場合にはpH緩衝液を挙げてもよい。試剤組成物は、好ましくは、固体支持体の少なくとも一方の端部に付着した検査パッド上で、乾燥されて安定化される。試剤組成物が吸着し乾燥している検査パッドは、好ましくは、最小の背景色を示す膜材料から作られる。好ましくは、検査パッドは、背景色を最小にするために、酸又は塩基で洗浄した材料から構築され得る。別の実施形態において、試剤ストリップ上で乾燥されている試剤組成物は、検査パッドの脆性を減少させる湿潤剤を更に含んでなる。好適な湿潤剤の非限定的例としては、TritonX-100、Bioterg、グリセロール、0 Tweenなどが挙げられる。試剤組成物は、当該分野で公知の任意の方法によって試剤ストリップに適用することができる。例えば、検査パッドを作っているキャリアマトリクスは、当該分野で公知の技術に従って、試剤組成物の溶液中に浸漬して乾燥させてもよい。本発明による試剤ストリップは、尿サンプル中の1より多い分析物についてアッセイするために複数の検査パッドを備えて提供され得る。(急性)心不全マーカー、収縮期機能不全マーカーBNP、NT-プロ-BNP又はそのフラグメント、腎機能不全マーカーシスタチンC、NGAL、U-アルブミン、γ-GT、NGA、A1M、B1M、クレアチニン、バソプレッシン、アルドステロン、アンギオテンシン、ACE又はそれらのフラグメントのようなタンパク質、血液、白血球、ウレウム(ureum)、亜硝酸塩、グルコース、ケトン、ビリルビン、ウロビリノゲン、タンパク質一般を含んでなる群から選択される1以上の分析物の存在を測定するための検査パッド及び/又はpH検査パッド及び/又は比重を測定するための検査パッドを含む1以上の検査パッドを備えて提供される固体支持体を含んでなる試剤ストリップが提供され得る。体液ホメオスタシス不均衡、体液蓄積又は体液減少、増加又は減少した血管充満容積及び/又は圧、体重増加又は減少、浮腫又は脱水、収縮期機能不全、(急性)心不全、LVEF、LVEDP、心臓充満圧を代表する分析物が、代替的に又は追加的に、試験パッドに含まれ得る。
【0130】
本発明による試剤ストリップ101の可能な実施形態を図5A〜Bに模式図として示す。ストリップ101は近位端102及び遠位端103を備える。その上に試剤組成物が提供される種々の検査パッド109、109'、109''が、試剤ストリップの固体支持体107上、近位端102に提供される。ストリップは、十分に大量の(任意に血液又は唾液などのような粘性サンプルのキャピラリフローを改善する生理学的流体で希釈された)サンプルで湿らせることができるように設計されなければならない。
本明細書中で規定される試剤ストリップは、以下のように使用される。簡潔には、本発明の試剤ストリップの1以上の検査パッド領域をサンプル中に浸漬させるか、又は少量のサンプルを試剤ストリップに、検査パッド領域上に適用する。視覚的に又は反射率測定により分析することができる発色が、短時間のうちに、通常0.5〜10分以内に、試剤ストリップ上で起こる。MCAMとの反応に際しての検査パッド上の試剤領域の色変化は、好ましくは、患者サンプル中のMCAM濃度に正比例する。検査パッド上で発色する色強度は、視覚的に又は例えば反射率ベースの読取機により決定されてもよい。検査パッド領域での発色を参照色と比較して、サンプル中に存在するMCAM量の推定値を決定する。検査パッド上で発色する色強度を、補正因子の適用により決定した或る範囲のMCAM濃度に対応する少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの標準色斑と比較する。
【0131】
試剤ストリップは、支持体ストリップに塗布されているか又は検査パッド中に組み込まれた蛍光色素又は赤外色素を更に含んでなり得る。これにより、検出可能又は測定可能な応答のための検出系を有する装置中での試剤ストリップの適切な配置が確実になる。
別の1つの実施形態において、本発明はまた、サンプル中のMCAMの存在を測定する検査パッドに関する。好ましくは、検査パッドは、MCAMと相互作用して測定可能な応答、好ましくは視覚的に又は装置により測定可能な応答を生成することができる試剤組成物が組み込まれたキャリアマトリクスを含んでなる。別の好適な実施形態において、本発明は、試剤ストリップ上、好ましくは本明細書に規定する試剤ストリップ上での使用のための、本明細書の規定による検査パッドを提供する。
本キット中の特異的結合性物質、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、バイオマーカーなどは、種々の形態、例えば、凍結乾燥形態、溶液中の遊離形態又は固相上に固定化された形態であり得る。これらは、例えば、マルチウェルプレート中に又はアレイ若しくはマイクロアレイとして提供されてもよいし、或いは別個に及び/又は個別に包装されていてもよい。これらは、本明細書中に教示されるように適切に標識されていてもよい。前記キットは、例えば、イムノアッセイ、ELISAアッセイ、質量分析アッセイなどのような本発明のアッセイ法の実施に特に適切であり得る。
上記の観点及び実施形態は以下の非限定的例によって更に支持される。
【実施例】
【0132】
実施例
実施例1:発見から導かれる候補マーカーの早期検証のためのMASSterclass標的化タンパク質定量
MASSterclass実験セットアップ
MASSterclassアッセイは最終段階(end-stage)のペプチド定量系として安定なアイソトープ希釈物を用いる標的化タンデム質量分析を使用する(多重反応モニタリング(MRM)及び単一反応モニタリング(SRM)とも呼ばれる)。標的化ペプチドは、興味対象の特異タンパク質に特異的(すなわち、プロテオティピック(proteotypic))である。すなわち、測定されるペプチド量は、元のサンプル中のタンパク質の量に直接関係する。複合サンプル中のバイオマーカー定量に必要とされる特異性及び感度に到達するためには、ペプチド分画を最終段階の定量工程より前に行う。
【0133】
適切なMASSterclassアッセイは、以下の工程を含み得る:
− 血漿/血清サンプル
− ProteoPrepスピンカラム(Sigma Aldrich)を使用する、抗-アルブミン抗体及び抗-IgG抗体でのアフィニティー捕捉を用るヒトアルブミン及びIgGの涸渇(タンパク質レベルでの複雑性の低減)
− 既知量のアイソトープ標識ペプチドのスパイキング。このペプチドは、興味対象のプロテオティピックペプチドと同じアミノ酸配列を有する(代表的には、1つのアイソトープ標識アミノ酸がその中に組み込まれて、質量差を生じている)。分子質量に基づく最終段階の定量工程の間を除きプロセス全体の間、該標識ペプチドは、内因性ペプチドと同一の化学的及びクロマトグラフィー的挙動を有する。
− トリプシン消化物。涸渇血清/血漿サンプル中のタンパク質を、トリプシンを用いてペプチドに消化する。この酵素は、リジン又はアルギニンのC-末端側にプロリンが存在する場合を除き、リジン及びアルギニンのC-末端でタンパク質を切断する。消化の前に、タンパク質を煮沸により変性させる。これによって、タンパク質分子は、37℃にて16時間のインキュベーションの間、トリプシン活性が接近可能になる。
【0134】
− 第1のペプチド-ベース分画:フリーフロー電気泳動(FFE;BD Diagnostic)は、連続層流中を移動している荷電分子が該流れに垂直な電界により分離される、ゲルフリー流体分離技術である。電界により、pH勾配中で荷電粒子の等電点(pI)に従う分離が引き起こされる。モニターするペプチドを含有する画分のみを、更なる分画及びLC-MS/MS分析のために選択する。興味対象の各ペプチドがFFEチャンバーから特異的な分画数(合成ペプチドホモログを用いたタンパク質アッセイ開発の間に決定される)で溶出する。特定の画分又は画分プール(複合化)を次レベルの分画に進める。
− 第2のペプチド-ベース分画:フェニルHPLC(XBridge Phenyl;Waters)は、ペプチドを、ペプチド配列中に存在するアミノ酸の疎水性及び芳香性に従って分離する。バックエンド(back-end)C18分離との直交性は、上昇したpH値(pH10)でカラムを稼動することによって達成される。Gilarら,2005, J Sep Sci 28(14): 1694-1703により証明されているように、pHは、RP-HPLCにおけるペプチド選択性を変化させる遥かに最も強烈なパラメータである。興味対象の各ペプチドは、フェニルカラムから、合成ペプチドホモログを用いるタンパク質アッセイ開発の間に決定される特定の保持時間で溶出する。サンプル分離のバッチ処理前に9つの標準ペプチドの混合物を分離する外部コントロール系の使用により、保持時間シフトを補正するための画分採集の調整が可能になる。分画の程度は、サンプル中のタンパク質濃度及び該サンプルの複雑性に依存する。
【0135】
− 逆相(C18)nanoLC(PepMap C18;Dionex)及びMRM(4000 QTRAP;ABI)/SRM(Vantage TSQ;Thermo Scientific)モードを用いるMS/MS:タンデム質量分析での更なる分離を含むLC-MS/MSベースの定量。質量分析計の供給頭部(source head)に接続したエレクトロスプレーニードルに、LCカラムを接続する。物質がカラムから溶出するにつれ、分子はイオン化し、ガス相で質量分析計に入る。質量 対 荷電の比(m/z)に基づいて、モニターするペプチドが特異的に選択されて、第1の四重極子(Q1)を通る。次いで、選択されたペプチドは、衝突小室として使用する第2の四重極子(Q2)でフラグメント化される。次いで、得られるフラグメントが第3の四重極子(Q3)に入る。(アッセイ開発期の間に決定される)装置セッティングに依存して、特定ペプチドフラグメント(いわゆる、トランジッション(transition))が検出のために選択される。
− モニターするペプチドのm/zとこのペプチドのモニターするフラグメントのm/zとの組合せは、トランジッションと呼ばれる。このプロセスは、1回の実験の間に複数のトランジッションについて行うことができる。内因性ペプチド(分析物)及びその対応するアイソトープ標識合成ペプチド(内部標準物質)の両方が、同じ保持時間で溶出し、同じLC-MS/MS実験で測定される。
− MASSterclassの読取値は、分析物に特異的なピーク下面積と合成アイソトープ標識アナログ(内部標準物質)に特異的なピーク下面積との間の比によって規定される。MASSterclass読取値は、サンプル中の元々のタンパク質濃度に直接関連する。したがって、MASSterclass読取値は、種々のサンプル間及びサンプル群間で比較することができる。
【0136】
本研究において従う代表的なMASSterclassプロトコルを下記に示す:
− 結合/平衡緩衝液として20mM NH4HCO3を使用した以外は、製造業者のプロトコルに従って、25μLの血漿を、ヒトアルブミン及びIgGの涸渇に供する(ProteoPrepスピンカラム;Sigma Aldrich)。
− 涸渇サンプル(225μL)を15分間95℃にて変性させ、氷上で直ぐに冷却する。
− 500fmolのアイソトープ標識ペプチド(カスタムメイド「Heavy AQUA」ペプチド;Thermo Scientific)をサンプル中にスパイクする。
− 20μgトリプシンをサンプルに加え、16時間37℃にて消化する。
− 消化サンプルを先ず溶媒A(0.1%ギ酸)中で1/8希釈し、次いで250amol/μLのアイソトープ標識された興味対象の全ペプチド(カスタムメイド「Heavy AQUA」ペプチド;Thermo Scientific)を含有する同じ溶媒中で1/20希釈した。
− 逆相NanoLCをMRM/SRMモードのオンラインMS/MSと併せて使用して20μLの最終希釈物を分離した:
− カラム:PepMap C18、75μm I.D.×25cm L, 100Å孔径、5μm粒子サイズ
− 溶媒A:0.1%ギ酸
− 溶媒B:80%アセトニトリル、0.1%ギ酸
− 勾配:30分;2%〜55%溶媒B
− MRMモードのMS/MS:方法は、分析物及び合成標識ペプチドのトランジッションを含有する。
− 使用したトランジッションは、タンパク質アッセイ開発の間に実験的に決定して選択した。
− 興味対象のペプチドの決定した保持時間の3分前から始まり該保持時間の3分後に終わる期間、興味対象のトランジッションの各々を測定した。これにより、確実に、各ピークが少なくとも15のデータ点を有した。
− LCQuanソフトウェア(Thermo Scientific)を使用して生データを分析し定量した:同じC18保持時間での分析物(=MCAMペプチド)ピーク下面積及び内部標準物質(標識合成MCAMペプチド)ピーク下面積を、自動ピーク検出により決定した。これらを手作業で照合した。
− MASSterclass読取値は、分析物ピーク面積と内部標準物質ピーク面積との比により規定した。
【0137】
MASSterclass統計分析
測定した比はペプチドの示差量である。換言すれば、比は、規格化したペプチド濃度である。ペプチド濃度は、質量分析法で測定した比に比例する。
【0138】
実施例2:MASSterclassを用いるMCAMの検証
臨床サンプルは、3つの異なる医療センターで、救急救命部(ED)を受診した、急性心不全に関連するか又は他の原因(=呼吸困難非AHF)に関連する急性呼吸困難患者(n=100)から先を見越して採集した。
含まれる全ての患者について、包括的症例報告ファイル(CRF)は、医学的背景、入院診断及び投薬についての詳細を完備した。ベースラインの患者特徴の概要を表1に提供する。
【0139】
【表1】

【0140】
全体メジアンAUC 0.91、95% CI 0.85〜0.96が示すように、MCAMは、EDを受診した呼吸困難患者においてAHF診断に高感度で高特異的であることが受信者動作特性(ROC)分析により証明された(図4を参照)。この診断性能は、急性呼吸困難集団におけるAHF診断について現時点で最も標準的なバイオマーカーであるBNP及びNT-プロBNPに等しい。表2に結果を列挙する。
【0141】
【表2】

【0142】
研究したAHF集団は、低いメジアンLVEF(すなわち35%)が示すように、収縮期機能不全の患者が多い。これら患者は、代表的には、体液蓄積に対してより抵抗性であり、したがって容量過剰負荷によって引き起こされる呼吸困難をEDに説明する。
【0143】
実施例3:疾患進行及び充満状態のマーカーとしてのMCAMの検証:入院時 対 退院時のレベル比較
急性心不全と診断された患者をEDへの収容時及び退院時(すなわち、患者が回復し安定しているとみなされた時点)の両方でサンプリングした。平均で、退院時サンプルは、入院時サンプルの9〜11日後に採取した。MCAMのレベルは、MASSterclassを使用して両方のサンプルにおいて測定し、同じ患者で比較した。患者の大多数について、入院時レベルと退院時レベルを比較するとMCAMの有意な減少が存在した(図2)。BNPレベルを入院時 対 退院時で比較すると、非常に類似する状況が得られる。このデータは、MCAMレベルは疾患状態の反映であり、よって急性事象をモニター及び/又は予知するために使用することができるという考えを支持する。
更に、これらAHF患者に施された主要な処置は利尿剤であり、結果として患者は体液を喪失する。よって、MCAMレベルの降下は、患者の充満状態の変化を反映する。
【0144】
実施例4:MCAMレベルは急性呼吸困難患者における体重増加及び体重減少と関係する
急性代償不全性心不全又は他の原因に起因する呼吸困難のいずれかと診断された急性呼吸困難患者(Potockiら,Journal of Internal Medicine 2010 Jan;267(1):119-29に記載されるようなBASEL V集団(cohort))からの臨床サンプルを、MASSterclassを用いてMCAMについてスクリーニングした。サンプルに関する全ての臨床データを、臨床共同研究者から入手し、MASSterclassデータ分析パイプラインに加えた。
MCAMレベルと全ての入手可能な臨床パラメータとの関係を、単変量統計検定を使用して計算した。スピアマンの順位検定を使用して相関関数を算出し、ウイルコクソンの順位和検定を2つの独立した観察サンプルが同じ集団に由来するかどうかを評価するために使用した。
この分析により、低いウイルコクソンp値で示されるように、MCAMと入院前の体重増加及び利尿剤の治療的使用後の体重減少との明確な関係が示された(表3にまとめた)。
【0145】
【表3】

図6は、MCAMレベルに対する体重増加の効果を説明する。入院前に体重が増加したAHF患者(体液蓄積)は、MCAMレベルが明らかに増加している。
【0146】
実施例5:MCAMレベルは収縮期機能不全を有するAHF患者で増加する
MCAMレベルに対する、心不全患者における収縮期機能不全 対 拡張期機能不全の効果を、BASEL V集団のMASSterclassスクリーニング結果に基づいて調べた。この集団は、減少した左心室駆出率(LVEF<55)又は維持されたLVEF(LVEF>55)のいずれかを有する十分な数のAHF患者を含む。MCAMレベルは、減少した駆出率を有するAHF患者で有意に高い(p<0.001)。図7は、これら2つのAHF亜集団における、MCAMについてのボックスプロット及びウィスカープロットを示す。
収縮期機能不全(減少したEF)を有する患者は、体液蓄積に対してより抵抗性であり、呼吸困難の症状が生じる前の拡張期機能不全を有する患者と比較してより多い容量を蓄積する。
【0147】
実施例6:更なる心不全患者集団におけるMCAMレベルとLVEDP値との相関
合計223人の種々のタイプ及び程度の心血管疾患の患者を含んでなる更なる患者集団を調べる。この集団から、種々の左心室拡張末期圧(LVEDP)値を有する患者を選択する。LDEVPレベルとMCAM血液レベルとの相関を患者において決定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者において損傷した体液ホメオスタシスを診断、予知、予後予測及び/又はモニターする方法であって、該方法の検査段階が、対象者からのサンプル中のメラノーマ細胞接着分子(MCAM)の量を測定することを含んでなる方法。
【請求項2】
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し;
(ii)(i)で測定したMCAM量を、損傷したか又は健常な体液ホメオスタシスの既知の診断、予知及び/又は予後を表すMCAM量参照値と比較し;
(iii)(i)で測定したMCAM量の参照値からの逸脱又は逸脱無しを発見し;
(iv)前記逸脱又は逸脱無しの発見を、対象者における損傷した体液ホメオスタシスの特定の診断、予知及び/又は予後に帰する
ことを含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を2以上の一連の時点で測定し;
(ii)(i)で測定したサンプル間でMCAM量を比較し;
(iii)(ii)で比較したサンプル間でMCAM量の逸脱又は逸脱無しを発見し;そして
(iv)逸脱又は逸脱無しの発見を、2以上の一連の時点間での対象者における体液又は水分ホメオスタシスの変化に帰する
ことを含んでなる、損傷した体液ホメオスタシスを、好ましくは対象者の内科療法の経過中にモニターするための請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(i)請求項1又は2に記載の方法を、2以上の一連の時点で対象者に適用し、それにより対象者における損傷した体液ホメオスタシスの診断、予知及び/又は予後を該一連の時点で決定し;
(ii)(i)で決定した前記一連の時点での対象者における損傷した体液ホメオスタシスの診断、予知及び/又は予後を比較し;そして
(iii)(i)で決定した前記一連の時点での対象者における損傷した体液ホメオスタシスの診断、予知及び/又は予後間の変化の有無を発見する
ことを含んでなる、対象者における損傷した体液ホメオスタシスの診断、予知及び/又は予後の変化を、好ましくは対象者の内科療法の経過中にモニターする方法。
【請求項5】
損傷した体液ホメオスタシスが対象者における増加又は減少した血管充満容積又は圧及び/又は対象者における体液蓄積又は体液排出に起因するそれぞれ(浮腫によって特徴付けられるような)体重増加又は(脱水により特徴付けられるような)体重減少によって特徴付けられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し;
(ii)(i)で測定したMCAM量を、損傷したか又は健常な体液ホメオスタシスの既知の診断、予知及び/又は予後を表すMCAM量参照値と比較し;
(iii)(i)で測定したMCAM量の参照値からの逸脱又は逸脱無しを発見し;
(iv)前記発見から、損傷した体液ホメオスタシスを処置する治療法の必要性の有無を推論する
ことを含んでなる、対象者が損傷した体液ホメオスタシスを処置する治療法を必要としているか否か(例えば、依然として必要としているのか又はもはや必要としていないのかなど)を決定する方法。
【請求項7】
前記治療法が
(i)サンプル中のMCAM量が参照値より高い場合、血管充満容積又は圧を減少させるか又は体液蓄積に起因する体重増加を反転させることにより体液ホメオスタシスを回復する治療法であり、ここで、参照値は、健常な(正常容積の)体液ホメオスタシスを表し、及び/又はそれを超える値が血管充満容積を減少させるか又は体液蓄積に起因する体重増加を反転させる治療法の必要性を示す閾値の値を表し、好ましくは、外因性及び/又は内因性の利尿剤の投与並びに/或いは循環から塩又は対応する体液を除去するための限外濾過の施術を含んでなる;又は
(ii)サンプル中のMCAM量が参照値より低い場合、血管充満容積を増加させるか又は体液排出に起因する体重減少を反転させることにより体液ホメオスタシスを回復する治療法であり、ここで、参照値は、それを下回る値が血管充満容積を増加させるか又は体液排出に起因する体重減少を反転させる治療法の必要性を示す閾値の値を表し、好ましくは、外因性及び/又は内因性の抗利尿剤又は昇圧剤の投与並びに/或いは液体投与を含んでなる
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
対象者が抗糖尿病治療、好ましくは1以上のインスリン増感剤、より好ましくはペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ(PPAR-γ)の1以上のアゴニスト、なおより好ましくは1以上のチアゾリジンジオン(グリタゾン)、例えばロシグリタゾン及び/又はピオグリタゾンを受けているか又は受けたことがある、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
抗糖尿病治療を受けているか又は受けたことがある患者を階層化して、損傷した体液ホメオスタシスを有しているか若しくは有するリスクにあるか又は損傷した体液ホメオスタシスについて不良な予後を有し、体液ホメオスタシスを回復する治療法に応答する可能性が高い患者を同定する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
損傷した体液ホメオスタシスが収縮期機能不全により引き起こされる請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
収縮期機能不全が、減少した左心室駆出率(LVEF)、好ましくは55%未満又は50%未満又は45%未満であるLVEF、及び/又は増加した心臓充満圧によって特徴付けられる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(i)対象者における容量過剰負荷と関係するか容量過剰負荷により引き起こされる呼吸困難又は(ii)対象者における容量過剰負荷と関係するか容量過剰負荷により引き起こされるHF若しくはAHF又は(iii)対象者における収縮期機能不全と関係するか収縮期機能不全により引き起こされるHF若しくはAHFを診断、予知、予後予測及び/又はモニターする方法であって、該方法の検査段階が、対象者からのサンプル中のMCAM量を測定することを含んでなる方法。
【請求項13】
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し;
(ii)(i)で測定したMCAM量を、それぞれの病状の既知の診断、予知及び/又は予後を表すMCAM量参照値と比較し;
(iii)(i)で測定したMCAM量の参照値からの逸脱又は逸脱無しを発見し;
(iv)逸脱又は逸脱無しの発見を、対象者におけるそれぞれの病状の特定の診断、予知及び/又は予後に帰する
ことを含んでなる、請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を2以上の一連の時点で測定し;
(ii)(i)で測定したサンプル間でMCAM量を比較し;
(iii)(ii)で比較したサンプル間でMCAM量の逸脱又は逸脱無しを発見し;
(iv)逸脱又は逸脱無しの発見を、2以上の一連の時点間での対象者におけるそれぞれの病状の変化に帰する
ことを含んでなる、それぞれの病状を、好ましくは対象者の内科療法の経過中にモニターするための請求項10〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
(i)請求項10〜13のいずれか1項に記載の方法を、2以上の一連の時点で対象者に適用し、それにより対象者におけるそれぞれの病状の診断、予知及び/又は予後を該一連の時点で決定し;
(ii)(i)で決定した前記一連の時点での対象者における収縮期機能不全の診断、予知及び/又は予後を比較し;そして
(iii)(i)で決定した前記一連の時点での対象者におけるそれぞれの病状の診断、予知及び/又は予後間の変化の有無を発見する
ことを含んでなる、対象者における請求項10〜12のいずれか1項に規定される病状の診断、予知及び/又は予後の変化をモニターする方法。
【請求項16】
検査段階が、対象者からのサンプル中の、それぞれの病状の診断、予知及び/又は予後予測に有用な1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定することを更に含んでなる請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量を測定し;
(ii)(i)の測定値を使用して、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての対象者プロフィールを確立し;
(iii)(ii)の対象者プロフィールを、MCAM量並びに前記1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量についての、それぞれの病状の既知の診断、予知及び/又は予後を表す参照プロフィールと比較し;
(iv)(ii)の対象者プロフィールの参照プロフィールからの逸脱又は逸脱無しを発見し;
(v)前記逸脱又は逸脱無しの発見を、対象者におけるそれぞれの病状の特定の診断、予知及び/又は予後に帰する
ことを含んでなる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
損傷した体液ホメオスタシス又は収縮期機能不全の診断、予知及び/又は予後予測に有用な前記他のバイオマーカーが心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、プロ-ANP、プロ-ANPの中央領域部(MR-プロANP)、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(プロBNP)、アミノ末端プロ-B型ナトリウム利尿ペプチド(NTプロBNP)、シスタチンC、NGAL、アルブミン、γ-GT、NAG、A1M、B1M、クレアチニン、ウレウム、バソプレッシン、コペプチン、アルドステロン、アンギオテンシン、ACE及びそれらのいずれかのフラグメント又は前駆体からなる群より選択される請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
(i)対象者が請求項1〜12のいずれか1項に規定の病状に罹患していない種々の時点で該対象者からのサンプル中のMCAM量を測定し、そして
(ii)該対象者についてのMCAMベースライン又は参照値である範囲又は平均値を算出する
ことを含んでなる、対象者におけるMCAMベースライン又はMCAM参照値を確立する方法。
【請求項20】
MCAM量並びに/或いは1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量が、それぞれ、MCAM及び/又はそのフラグメントに特異的に結合し得る結合性物質並びに前記1以上の他のバイオマーカーに特異的に結合し得る結合性物質を用いて測定される請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
MCAM量並びに/或いは1以上の他のバイオマーカーの有無及び/又は量が、イムノアッセイ技術、又は質量分析法、又はクロマトグラフィー法、又は前記方法の組合せを用いて測定される請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
サンプルが血漿であり、血漿循環形態のMCAMが検出される請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
(i)対象者からのサンプル中のMCAM量を測定する手段を含んでなり、好ましくは(ii)請求項1〜12のいずれか1項に規定の病状の既知の診断、予知及び/又は予後を表すMCAM量の参照値、或いは該参照値を確立する手段を更に含んでなる、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法を実施するためのキット。
【請求項24】
(i)サンプル中のMCAM量を測定する手段と、
(ii)デバイスに参照値を格納する手段と、
(iii)得られた量を格納した参照値と比較する手段と、
(iv)サンプル中で測定したMCAM量を可視化する手段と
を備えてなる、対象者からのサンプル中のMCAM量を測定することができる検査デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−508708(P2013−508708A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534699(P2012−534699)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065852
【国際公開番号】WO2011/048173
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(511185564)
【氏名又は名称原語表記】PRONOTA N.V.
【住所又は居所原語表記】Technologiepark 4, B−9052 Zwijinaarde, BELGIUM
【Fターム(参考)】