説明

体液中の酵素活性を測定するための方法及び装置

本発明は、体液中の酵素活性を測定するための方法及び装置に関する。該方法は、以下の工程:a)測定される酵素活性に特異的な基質がその上に固定化されている伝導性表面を有する担体を提供する工程、該基質は電気活性残基を含む;b)該体液のサンプルを該基質と反応させ、酵素反応を引き起して電気活性生成物を生成する工程;c)該酵素を含有する媒体と接触している担体を用いる電流測定によって、電気活性生成物の量を検出する工程を含む。本発明は、血液凝固に関連する酵素活性を測定するのに特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、生物学的な分析の分野に関し、さらに詳細には体液中、特に全血中の酵素活性を測定するための方法及び装置に関する。
【0002】
ある種の体液中の所定の酵素活性の測定は、ある種の病気の診断及び治療のために特に重要である。
これは、特に全血の凝固と関係のある種々の酵素活性の測定にあてはまる。実際、これらの酵素活性の測定は、該体液が濁っている及び/又は着色されており、それによって視覚的な分析方法における障害を生じ得るときに特別な問題を呈する。
濁った着色液体である全血の場合、その後の分析のために血漿を確実に抽出することができる。しかし、血漿の調製は複数の前分析工程を必要とし、さらなる潜在的な過失の原因となる。
【0003】
凝固性システムにおいてプロテアーゼ及びアンチプロテアーゼを滴定する方法は、すでにNigretto及びJozefowicz名義の米国特許第4,304,853号明細書から公知である。
この特許は、より詳細には、プロテアーゼ及びアンチプロテアーゼを滴定する方法、特に凝固性システム且つ補体においてプロテアーゼ及びアンチプロテアーゼを滴定する方法を記載している。この方法は、滴定される酵素を基質と反応させることからなり、該基質は、電気化学的に中性であるが酵素による加水分解の後に該システムの電気活性範囲内で電気化学的に酸化又は還元され得る加水分解生成物を生じるものであり、この生成物は続いて2〜10のpHで電流測定によって測定する。
酵素の滴定は、ここでは該特許で定義されている特別な電気的測定によって行われている。
用いられる基質の具体例は、ベンゾイル-D,L-アルギニル-p-アミノジフェニルアミドクロライドである。従って、酵素反応は、対応するアミン、すなわちp-アミノジフェニルアミン、略してpADAを遊離することができる。
しかし、この凝固プロテアーゼ及び凝固アンチプロテアーゼを滴定及び測定する公知な方法は、均一な媒体、すなわち溶液でのみ行われている。
【0004】
法人ASULAB名義の欧州特許第1,031,830号明細書は、上記の米国特許第4,304,853号明細書から主に電気化学的検出器の原理を取り上げている。
ASULABは、トロンビンによってその鎖から切断され得る荷電基によって形成される起電性基質との酵素反応によって生成される電気活性を測定することにより、プロトロンビン時間を測定することを提案している。
米国特許第4,304,853号明細書のように、該反応は均一媒体、すなわち溶液で行われている。
【0005】
ROCHE DIAGNOSTICS名義の公開WO 01/63271号明細書は、電気化学的な測定法を用いて凝固物を測定する考えを取り上げている。この特許は、均一媒体における反応を記載しており、固体担体には固定されていない試薬を用いてトロンビンを検出している。記載されている装置は、パラジウム製の電極を測定することを含む。しかし、この公開は、凝固性因子を測定することを明白には述べていない。
【0006】
Messrs PENTAPHARMの米国特許第6,495,336号明細書は、凝固したプロテインの活性、より正確にはトロンビン活性の電気化学的な測定を可能にする生成物を記載している。該特許は、金電極又は白金電極の存在下の均一な媒体における反応で請求しており、測定原理は上記の米国特許第4,304,853号明細書に記載されている技術に関連している。
企業I-STATによる公開WO 01/36666号明細書は、電気化学的センサーを用いて凝固物を測定するための装置に関する。該装置は、凝固性反応を誘発する試薬を用いる。続いて、センサーが凝固の原因となる酵素活性を直接測定している。
ここで再び、該特許に記載されている反応は、均一媒体、すなわち溶液における反応である。
【0007】
本発明は、特に、先行技術の欠点を回避する体液中の酵素活性を測定するための新規方法及び新規装置を提案することによって、状況を改善することを目的とする。
本発明の特別な目的は、異なるタイプの体液、特に全血の場合のような濁った及び/又は着色された体液中の異なる酵素活性を測定するのに好適なこの種の方法及び装置を提供することである。
本発明のさらなる目的は、血液に存在する酵素活性、特に血液凝固に関係のある酵素活性を測定するのに好適なこの種の方法及び装置を提供することである。
本発明のさらなる目的は、異なるタイプの媒体中の反応を、均一媒体だけでなく不均一媒体でも行うことのできるこの種の方法及び装置を提供することである。
【0008】
本発明は、より詳細には、以下の工程を含む、体液中の酵素活性を測定する方法に関する:
a)測定される酵素活性に特異的な基質がその上に固定化されている伝導性表面を有する担体を提供する工程、該基質は電気活性残基を含む;
b)該体液のサンプルを該基質と反応させ、酵素加水分解によって生じる電気活性生成物を生成する酵素反応を引き起こす工程;
c)該酵素を含有する媒体と接触している担体を用いる電流測定によって、電気活性生成物の量を検出する工程。
【0009】
従って、本発明は、担体から遊離され得るか又は担体に付着したままであり得るマーカーとして作用する電気活性生成物であって、その量が電流測定による酵素活性の直接的な測定を提供する生成物を検出することができる。
【0010】
本出願では、以下に挙げられる用語は特定の意味を有する:
-電流測定:瞬間的な電位励起又は時間依存の電位励起によって生成される電流の測定;
-基質:酵素によって認識及び転化される分子;
-マーカー:電極によって検出することのできる電気活性基である酵素反応の生成物;
-電気活性:酸化又は還元することができる;
-拡散:濃度勺配の影響下における移動;
-換算体積:マイクロ-又はサブマイクロ体積測定(典型的には100マイクロリットルよりも小さい);
-作用電極:導体、測定値を提供する電気化学反応又は容量性反応の基部。
【0011】
本発明の好ましい実施態様では、基質が、以下の一般式I及びIIの一つに対応する分子の少なくとも1種の単分子層形態で沈着する:
S-Cn-(E)-P-X (I)
S-Cn-(E)-X-P (II)
式中:
Sは、伝導性表面との結合を形成することのできる化学基を意味し、
Cnは、n個の炭素原子からなる脂肪族メチレン鎖を意味し、
Eは、鎖Cnを満たすために任意に存在し得るポリエチレングリコールタイプの非電気活性親水性スペーサーを意味し、
Pは、測定される酵素活性に特異的なポリペプチドシーケンスを意味し、及び
Xは、媒体で受け得る電位範囲内で酸化又は還元することのできる電気活性残基を意味する。
式I及びIIでは、nは9〜18の自然数である。
【0012】
従って、担体の伝導性表面は、それぞれが上記の一般式I及びIIのいずれかに対応する分子の単分子層又は単分子複層を沈着することによって改良される。これらの分子は、伝導性表面上に自発的に自己組織化する特性を有する。これらは、英語用語“SELF-ASSEMBLED MONOLAYERS”を略して、SAMとしても公知である。
【0013】
親水性スペーサーEは任意である。式I又は式IIのシーケンスにおけるその挿入は、溶液に対する基質の表面親水性を増加させるのに有用であり、それによって、表面に近づくことによる酵素の短距離の反発力、不可逆的な吸着又は変性などの全ての現象を減らす。
【0014】
好ましい実施態様では、式I及びIIにおいて、Sがチオール基を意味し、Cnがn個の炭化水素要素、特にメチレンを含み、且つ親水性スペーサーEを有する疎水性炭素鎖を意味し、Pが測定される酵素活性に特異的な基質の少なくとも2種のアミノ酸を有するペプチドシーケンスを意味し、及びXが芳香族アミン、特にパラ-アミノジフェニルアミドである。
【0015】
従って、Sは、n個のメチレン要素(nは典型的には10のオーダーである)を含み、且つ親水性スペーサーEを有する炭素鎖に結合されている、メルカプトとしても公知なチオール基を意味する。このスペーサーは、好ましくはエチレングリコールタイプである。
Pは、少なくとも2種のアミノ酸、典型的には2〜5種のアミノ酸を有するペプチドシーケンスを意味する。このペプチドは、血液凝固に関係のある活性を測定するときに、測定される酵素、例えばトロンビンに対するその特異性のために選択される。
Xは、有利には芳香族アミン、特にパラ-アミノジフェニルアミドである。酵素加水分解は、対応するアミン、すなわちp-アミノ-ジフェニルアミンを生じる。このアミンは、その顕著な疎水性のために選択した。この特性は、分裂係数:基質中の遊離アミンの濃度/溶液中の遊離アミンの濃度が増加している限り、検出感度を促進させる。さらに、該アミンは、低い電位で酸化され、酸化性でもある妨害剤、例えばアスコルビン酸の存在下で容易に検出することができる。
【0016】
すでに指摘したように、本発明は、体液が全液のような濁った及び/又は着色された液体である場合に特に有益である。
この点において、測定される酵素活性は、凝固性因子又は全血の補体、特にトロンビンなどの凝固性因子のものでよい。凝固に関しては、酵素活性を用いて、血液凝固の阻害剤又は内因性又は外因性の補因子を滴定してもよいが、該因子及び阻害剤は生理学的又は外因性であり得る。外因性阻害剤の具体例は、血液凝固を阻害するために患者に投与される物質のヘパリンである。
【0017】
工程b)における反応では、サンプルの液滴、特に全血の液滴を、基質がその上に固定化されている担体上に直接置いてよい。これらの条件下では、測定場所である活性センサーを構成する担体及び基質上に小量の液体、例えば一滴の血液を置くことで、研究中の酵素活性の迅速且つ直接的な検出を可能とする。
全血の凝固に関係のある測定に関して、本発明は、血漿を調製するのに必要とされる従来の前分析工程を全て排除し、それによって時間を省き、且つ過失の潜在的な原因を除去する。
従って、この特別な用途では、本発明は、体液の小さなサンプルから酵素活性を測定することができる。
【0018】
液体のサンプル、例えば血液の液滴が基質と接触すると、定量化される酵素が固定化されている基質と反応する。この酵素反応は、センサーに組み込まれている測定用電極によって検出される電気活性生成物を生成する。測定される信号の振幅は、反応中に形成される生成物の量に比例し、それによって凝固性因子の活性の測定を提供する。
この測定用システムは、患者又は病院の職員によって直接用いられ得る。
本発明の利点の一つは、酵素活性、例えば凝固性因子又は凝固性阻害剤の非常に迅速な測定を可能にすることである。従って、本発明は、特定の酵素活性の増加を測定するために、救急科における迅速な診断ツールとして、又は患者の家において特に価値がある。
【0019】
伝導性表面は、有利には共有結合分子I又はII、特に金を固定化することのできる金属の層である。好ましくは、ケイ素系担体に沈着された金の層である。
検出工程は、典型的に作用電極、対電極及び任意に参照電極を含む電極で行われる。作用電極は、有利には担体自体からなる。対電極及び参照電極は分離されていてもよい;しかし、対電極及び参照電極が同一の場合は、対電極を電位基準として用いるのが有利である。
検出工程は、有利には酵素反応中に生じる電気活性生成物の量に比例する信号の振幅を測定することを含む。
【0020】
別の特徴では、本発明は、上記に定義された方法を行うのに用いることのできる、体液中の酵素活性を測定するための装置に関する。
この装置は:
-伝導性表面を有する担体;
-測定される酵素活性に特異的であり、且つ電気活性残基を含み、該伝導性表面に固定化されている基質;
-電気化学的測定、特に電流測定による検出手段、
を本質的に含む。
【0021】
この装置では、基質が、有利には上記の一般式I及びIIのどちらかに相当する分子の少なくとも1種の単分子層の形態で沈着される。従って、該方法のための上記特徴を、該装置にも適用する。
本発明の一つの実施態様では、電流測定検出手段が、作用電極及び参照電極の間に、マーカーの検出範囲に調整可能な周期的な電位差を送達することのできるポテンシオスタットを含む。
【0022】
例証として提供される以下の記載では、添付される図面を参照されたい。
本発明を、以下の実施例によって記載する。
【0023】
実施例
記載される実施例は、本発明の方法及び装置を試験するためのトリプシンの滴定に関する。トリプシンは、止血の酵素として同種のプロテアーゼである。
用いたシステムは、好ましくは金などの貴金属からなり、上記の一般式I及びIIのいずれかに相当する分子の単分子層又は単分子複層を沈着することによって改良した伝導性表面を含む。
これらの式では、Sがチオール基(メルカプトとしても公知である)を意味し、Cnが11個のメチレン鎖要素を有する炭素鎖であり、Eがヘキサ-エチレングリコールタイプの親水性スペーサーであり、Pがトリプシンによって加水分解される基質のトリペプチドシーケンス(その式は図2に示されている)であり、及びXがパラ-アミノジフェニルアミドである。
【0024】
酵素加水分解によって遊離されるアミン、すなわちp-アミノジフェニルアミンは、上記のようにその著しい疎水性のために選択した。このアミンは、低い電位で酸化され、酸化性でもある妨害剤、例えばアスコルビン酸の存在下で容易に検出することができる。
表面の調製をここで記載する。この表面は、チタンの層3上に沈着されるその表面上に金の層2を有する矩形のバーであり(図3参照)、チタンの層3はケイ素系のバー4上に沈着される。
【0025】
典型的には、金の層が3000Åの厚みであり、チタンの層が300Åの厚みであり、及びケイ素バーが500μmの厚みである。全体を20分間250℃の真空下で焼きなます。該方法は、マイクロプロセッサ又はマイクロエレクトロニクスにおいて情報媒体を製造するための通常の技術を用いて行う。しかし、金を前処理し、必要な特性を有する自己組織化単層の形成を最適化する必要がある。該表面は、非パラフィン化保護グローブで取り扱い、アセトン及び続いてエタノールを用いて注意深く脱脂し、続いて非常に純粋な水ですすぎ、再びエタノールですすぎ、及び最後に窒素流下で乾燥させる。
続いて、それを、3種の電極(作用電極、対電極及び参照電極)を有する従来の電気化学集合における作用電極として用い、0.5体積%の硫酸を含有する純水溶液に浸漬する。
【0026】
前処理操作をここで記載する。自己組織化単層(SAM)の形成のために表面を予め調製する方法は、真空下で電気化学的方法又は物理的方法のいずれかを用いる。電気化学的方法を用いて、再生可能且つ制御された表面状態を得ることができる。これは、該バーを、0.0〜1.5V/参照Ag/AgClの複数回のサイクロボルタモグラム(cyclovoltamograms)に反応の安定化を達成するのに十分な0.1V/秒の掃引速度で付すことを含む。これを約30サイクル行う。i/Eカーブ(電流/電位)が、1.2〜1.5Vの領域に金酸化物の形成に起因する一連のピークを生じ、続いて電位反転後に0.8Vでこれらの酸化物の還元に対する狭いピークを生じる。還元ピークの積分は、電極の有効表面を評価することができ、且つそれによって幾何学的表面の比較によりその粗さを評価することができる。電極は、該文献に記載されているように、SAMの形成に有害となり得る酸化物から金を離す0.0Vの最終電位で、該溶液から除去される。
実験は、ECHEM又はPower Suite EG & G softwareを備えたEG+G Princeton Applied Researchのポテンシオスタット、model 273Aで行う。
【0027】
組織化した単層(SAM)の沈着をここで記載する。非常に純粋な水で勢いよくすすいだ後に、該バーを周囲温度で少なくとも12時間攪拌しながら、0.1mMの全濃度を与えるように計算して0.1〜10%の割合でそれぞれC3ポリエチレングリコール鎖と結合している起電性基質及びメルカプト-ヘキサノールの均一な混合物を含有する10mLのエタノールに入れる。メルカプト-ヘキサノールは、表面上において図1の基質の希釈剤として作用する。希釈用チオールを含まないSAMで得られた否定的な先行結果は、起電性基質の表面希釈が、基質に対する酵素のより良い接近を生じ、酵素加水分解を達成するのにさらに好ましい局所的な物理化学的な条件をつくるという考えを導く。類似構造の分子のための実験室で行った他の研究及び文献で収集された情報は、12時間の改良が、SAMによって表面飽和を達成するのに十分であることを示している。固定化されたSAMの密度は、石英微量天秤方法(QCM)を用いて評価した。これは約4×1010mol/cm2に達し、類似物に関する公開データと一致している。
【0028】
沈着後、SAMを種々の方法で特徴付けてよい:
-電気化学的脱着:この方法は、改良した表面を、0.5M KOH媒体において0.05V/秒で0〜-1.4Vの還元電位の掃引に付すことからなる。これらの条件下では、表面上に存在する結合(Au-S)の各組が、有機分子の脱着を導く電気化学的還元を受ける。この反応は電子を消費する。従って、脱着ピークは、各チオールに特徴的な電位で現れる。該ピークの積分は、チオールの表面密度を与える。
【0029】
-電気化学的酸化:固定化されている起電性基質は、基質に結合されているXの酸化に対応する0.4V以上の酸化信号を有する。応答の積分は、チオールの表面密度を与える。
-秤量:石英結晶によって担持されている金に沈着されたSAMを、それ自体でQCM技術による秤量に用いる。
【0030】
-可逆的酸化還元マーカーを用いる浸透:SAMによる金の進行性改良の反応速度を、公知の単純な酸化還元対のサイクロボルタメトリー(cyclovoltametric)の信号の発生によってモニターし、可逆的又は準可逆的な信号、例えば対のFe(CN)63-/4-(ヘキサシアノ鉄酸塩III/II)又はRu(CN)63+/2+(ヘキサシアノルテニウム酸塩III/II)を与える。非改良金では、信号の可逆性は、トリス 0.15M/KCl 0.5MのpH7.4媒体において65〜80mVのオーダーの酸化還元の陽極及び陰極ピークの分離によって特徴付けられる。SAMが形成されると、陽極及び陰極電流の強度は、指数関数的な変化が得られるまで弱まる。異なる理論(Amatore-Teyssier-Saveant又はFinklea理論)によれば、マーカーのボルタメーター酸化還元信号の持続に関連する欠損の密度を評価することができる。
【0031】
-電気容量:SAMの存在下で得られた残留電流は、自己組織化した分子層の容量のために露出した表面の残留電流を低下させる。露出した金の上の20μF/cm2のオーダーの二重の露出した層の典型的な容量は、改良後は2〜6μF/cm2である。0.0〜3.5Vの領域では、図1の式を有する担体のSAMの容量が、電位に対してあまり敏感にならない。
電気化学的な分析は、図4に示されるような装置を用いて行う。トリプシンの活性の電気化学的な分析は、pH7.4で5mLのトリス0.15 M/KCl 0.5 M緩衝液を含有するポリテトラフルオロエチレン製の円柱状容器で行い、作用電極としてバー1、対電極として白金ワイヤー11及び該容器の側方に挿入される参照電極としてAg/AgCl電極12を用い、溶液と接触させながら末端部のみを離し、ガラスにおけるプロテインの吸着を最小化させる。2種のみの電極:作用電極及び擬似参照として作用する銀ワイヤーを用いることもできるが、該2種の電極を十分に離して、対電極で起こる現象が作用電極で起こる減少を妨害しないように注意する。
【0032】
容器の下に水平に置かれたバーの表面を、容器の底で形成される環状の穴13を介して溶液と近づける。漏れ防止シールは、機械的クランプシステム14及び容器及びバーの間に溶媒耐久性ポリマー製の環状ジョイント15の介入によってなされる機械的圧力によって提供した。
【0033】
電気化学的信号を、ここで記載する。
トリプシンの存在下で改良した表面の応答は、0.0〜0.35Vの連続した三角形のボルタメーター信号を0.1V/秒の速度で、且つ酵素濃度に依存する割合で周期的に(10〜300秒)で適用することによって得られた。最大電圧は、0.35Vを超えるべきではなく、非加水分解基質を酸化する危険性を回避する。この制限は、SAMの保全性に影響を与えないことも意図する。該システムの暗騒音を、まずはトリプシンのサンプル溶液で記録する。これは、酵素の存在下で得られるものから電流の上書きされたボルタモグラムを与える。続いて、一端酵素が加えられると、反応速度の最初のボルタモグラムが追跡され、t=0で電流を与える。
【0034】
80mU BAEE/mL(BAEE=ベンゾイルアルギニンエチルエステル)の最終濃度を得るのに必要とされる酵素を、反応速度の時間t0で加える。溶液を簡単に攪拌して酵素の濃度の均一化した後、ボルタメーター信号の連続的な発生が残留電流からそれのみを離して観察し、図5で示されるように0.17Vまで遊離のpADAの酸化が予期される電位の領域で電流の成長を製造する。この図は、遊離pADAの異なる濃度のためのmVの電位Eの関数としての電流Iの変化を示す。
【0035】
製造された電流は、図6に示されるような電位の2種の連続的な掃引を分離する時間中に、表面近く(溶液中及びおそらくは、pADAのわずかな疎水性のために、pADA中で)で蓄積されたアミンの酸化の結果である。
複数回の電位サイクルの後、信号は安定化し、反応速度が終わったことを示す。曲線i-f(時間)の勺配は、酵素の活性に比例する。得られた最大強度は、図7で示すように表面上の酵素に接近する基質の量に比例する。
【0036】
上記の方法及び装置を用いて、体液中の他の酵素活性、特に全血の凝固に関係のある酵素活性を測定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の基質の例の一般式。
【図2】図1の基質のペプチドシーケンスの一般式。
【図3】本発明の電極の斜視図。
【図4】本発明に用いられる測定用セルの斜視図。
【図5】図1に示される式の基質の単層で改良された金表面による溶液中のp-アミノジフェニルアミン(pADA)の電気測定検出。
【図6】80mU/mLのトリプシンの存在下における加水分解反応中に記録されたボルタメーター電流の連続的変化。
【図7】時間関数として図6の電流の発生を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液中の酵素活性を測定する方法であって、以下の工程:
a)測定される酵素活性に特異的な基質がその上に固定化されている伝導性表面を有する担体を提供する工程、該基質は電気活性残基を含む;
b)該体液のサンプルを該基質と反応させ、酵素反応を引き起して電気活性生成物を生成する工程;
c)該酵素を含有する媒体と接触している担体を用いる電流測定によって、電気活性生成物の量を検出する工程、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
基質が、以下の一般式I及びIIの一つに対応する分子の少なくとも1種の単分子層形態で沈着する、請求項1記載の方法:
S-Cn-(E)-P-X (I)
S-Cn-(E)-X-P (II)
式中:
Sは、伝導性表面との結合を形成することのできる化学基を意味し、
Cnは、n個の炭素原子からなる脂肪族メチレン鎖を意味し、
Eは、鎖Cnを満たすために存在してもよいポリエチレングリコールタイプの非電気活性親水性スペーサーを意味し、
Pは、測定される酵素活性に特異的なポリペプチドシーケンスを意味し、及び
Xは、酵素加水分解の後に、媒体で受け得る電位範囲内で酸化又は還元することのできる電気活性残基を意味する。
【請求項3】
式I及びIIにおいて、Sがチオール基を意味し、Cnがn個の炭化水素要素、特にメチレンを含み、且つ親水性スペーサーEを有する疎水性炭素鎖を意味し、Pが測定される酵素活性に特異的な基質の少なくとも2種のアミノ酸を有するペプチドシーケンスを意味し、及びXが芳香族アミン、特にパラ-アミノジフェニルアミドである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
体液が、濁っている及び/又は着色されていてもよい液体である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
体液が全血である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
酵素活性が、凝固性因子又は全血からの補体のものであり、特にトロンビンなどの凝固性因子のものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
酵素活性を用いて、血液凝固物の内因性又は外因性の阻害剤又は補因子を滴定する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程b)において、特に全血であるサンプルの一滴が、基質が固定化されている担体上に直接沈着される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
伝導性表面が、共有結合層(I)又は(II)を固定化することのできる金属の層、特に金の層である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
検出工程が、作用電極、対電極及び任意の参照電極を含む電流測定用電極を用いることを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
作用電極が担体からなる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
対電極及び参照電極が同一である、請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
検出工程が、酵素反応中に検出される電気活性生成物の量に比例する信号の振幅を測定することを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法を行うための、体液中の酵素活性を測定するための装置であって、
-伝導性表面を有する担体;
-測定される酵素活性に特異的であり、且つ電気活性残基を含み、該伝導性表面に固定化されている基質;
-電気化学的測定、特に電流測定による検出手段、
を含む、装置。
【請求項15】
基質が、以下の一般式I及びIIの一つに対応する分子の少なくとも1種の単分子層形態で沈着する、請求項14記載の装置:
S-Cn-(E)-P-X (I)
S-Cn-(E)-X-P (II)
式中:
Sは、伝導性表面との結合を形成することのできる化学基を意味し、
Cnは、n個の炭素原子からなる脂肪族メチレン鎖を意味し、
Eは、鎖Cnを満たすために存在してもよいポリエチレングリコールタイプの非電気活性親水性スペーサーを意味し、
Pは、測定される酵素活性に特異的なポリペプチドシーケンスを意味し、及び
Xは、酵素加水分解の後に、媒体で受け得る電位範囲内で酸化又は還元することのできる電気活性残基を意味する。
【請求項16】
式I及びIIにおいて、Sがチオール基を意味し、Cnがn個の炭化水素要素、特にメチレンを含み、且つ親水性スペーサーEを有する疎水性炭素鎖を意味し、Pが測定される酵素活性に特異的な基質の少なくとも2種のアミノ酸を有するペプチドシーケンスを意味し、及びXが芳香族アミン、特にパラ-アミノジフェニルアミドである、請求項15記載の装置。
【請求項17】
伝導性表面が、担体上に沈着されている貴金属、特に金の層である、請求項14から16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
検出手段が、作用電極、対電極及び任意に参照電極を含む電極を電流測定することを含む、請求項14〜17のいずれか1項に記載の装置。
【請求項19】
作用電極が担体からなる、請求項18記載の装置。
【請求項20】
対電極及び参照電極が同一である、請求項18又は19記載の装置。
【請求項21】
電流測定検出手段が、作用電極及び参照電極の間に、周期的で且つマーカーの検出範囲に調整可能な電位差を送達することのできるポテンシオスタットを含む、請求項18〜20のいずれか1項に記載の装置。
【請求項22】
それぞれが異なる酵素に特異的な一連の基質を含み、それによって診断プロフィールの同時の分析及び確立を可能にする、請求項14〜21のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−509693(P2008−509693A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526506(P2007−526506)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002031
【国際公開番号】WO2006/024788
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(507053068)
【出願人】(507053046)ユニヴェルシテ ド セルジ ポントワーズ (1)
【Fターム(参考)】