説明

体液処理器用ヘッダー

【課題】ルアーロック型ノズルの寸法を高精度に維持しつつ、回路接続性、耐衝撃性及び生産性の向上を図ることができる体液処理器用ヘッダーを提供する。
【解決手段】体液処理器用ヘッダー1は、ルアーロック型のノズル3を有し、ゴム成分又はエラストマー成分を10〜50%含有する合成樹脂からなり、ノズル3は、ノズル本体4と、ノズル本体4の外周部を取り囲み、ねじ山6a及びねじ溝6bから成るルアー部6が内周面5aに形成された外筒部5とにより構成されており、ノズル本体4の外表面4a及び外筒部5の内周面5aの少なくとも一方には、凹凸部Aが形成されており、凹凸部Aは、測定レンジ700μm×700μmmにおける平均表面粗さ(Ra)が3.0〜25.0μmであると共に、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)が0.020〜0.095μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析器等の体液処理器に装着される体液処理器用ヘッダーに関する。
【背景技術】
【0002】
血液透析器に代表される体液処理器には、胴体部分の両端に、体液の入口又は出口となるノズルが一体成型されたヘッダーが取り付けられている。製品安全性を担保する目的から、ノズル部分には、血液回路や医療用チューブ等との接続をより確実にする、すなわち、液漏れや不用意な脱着を阻止するためにルアーロックが採用されており、その寸法はISO8637 2004及びJIS T 3250:2005規格によって厳密に定められている。
【0003】
このようなルアーロックのヘッダーでは、標準規格によって高い製品安全性が担保されているが、ノズル部分に回路を挿入するのに大きな力が必要となる。また、回路が接続された使用中に緩みが生じる等、回路との接続性が低下するといった問題が生じていた。そこで、ルアーロック部の寸法精度は厳密に維持しながらも回路との接続性を改善するために、ノズルの表面やルアーロック部分の表面に微細な凹凸を付与する加工技術が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−183337号公報
【特許文献2】国際公開WO99/49914号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献に開示されている技術は、専らポリプロピレン樹脂や環状ポリオレフィン樹脂から成るヘッダーに適用されるものであり、比較的硬くて脆いといった樹脂素材に効果的なものである。
【0006】
ここで、上述のように、体液処理器用ヘッダーは、寸法精度と回路接続性を兼ね備えることが要求されると共に、耐衝撃性も要求されている。治療の準備工程においては、流路(体液処理器と回路の内部)が洗浄された後、生理食塩水が満たされる際、体液処理器内部のエアー溜りを排除するために、治具や鉗子等でヘッダー部分が何度も叩かれる。そのため、万一ヘッダーが破損したり、治療が開始された後に破損が発見されると、体液処理器を交換して準備工程や治療をやり直す必要がある。したがって、体液処理器用ヘッダーでは、体液処理器の胴体部分以上に耐衝撃性を有することが要請されている。
【0007】
これについて、体液処理器用ヘッダーの破損を防止するために、肉厚化や材質の最適化が考えられるが、ヘッダーの肉厚化は樹脂量の増加、すなわち生産コストの増加を招来する。また、材質の最適化についても、耐衝撃性の高い樹脂は一般にコストが高い。そこで、材質の最適化の一手段として、汎用樹脂にゴム成分やエラストマー成分を配合して耐衝撃性を改善する手段が提案されている。
【0008】
しかし、このような比較的柔軟性を有する材質で体液処理器用ヘッダーを射出成型しようとすると、体液処理器用ヘッダーを金型から外す際、ノズル部分の寸法精度を維持するために厳密な工程管理が必要となる。すなわち、体液処理器用ヘッダーのノズルのような中空の突起部分を射出成型した際、通常は、金型を回転して成型物から分離するが、その際、ノズルの引っ張り変形を防止するために樹脂を十分に冷却し、固化させる必要がある。その結果、体液処理器用ヘッダーの成型タクトタイムが伸びてしまうため、生産性を確保するには、金型の冷却設備を増強するか、金型を増設せざるを得なかった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ルアーロック型ノズルの寸法を高精度に維持しつつ、回路接続性、耐衝撃性及び生産性の向上を図ることができる体液処理器用ヘッダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねて検討した結果、体液処理器用ヘッダーの組成とノズル表面の微細な凹凸に着目し、特に表面の凹凸について、比較的マクロなレンジと比較的ミクロなレンジの両面から凹凸を特定することが極めて重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明に係る体液処理器用ヘッダーは、ルアーロック型のノズルを有する体液処理器用ヘッダーであって、ゴム成分又はエラストマー成分を10〜50%含有する合成樹脂からなり、ノズルは、ノズル本体と、当該ノズル本体の外周部を取り囲み、ねじ山及びねじ溝から成るルアー部が内周面に形成された外筒部とにより構成されており、ノズル本体の外表面及び外筒部の内周面の少なくとも一方には、凹凸部が形成されており、凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmmにおける平均表面粗さ(Ra)が3.0〜25.0μmであると共に、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)が0.020〜0.095μmであることを特徴とする。
【0012】
凹凸部は、ノズル本体の外表面及び外筒部の内周面の少なくとも一方において、ノズルの先端側から5〜12mmの範囲に少なくとも形成されている。
【0013】
凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmmにおける最大表面高さ(Rz)が20.0〜48.0μmであると共に、測定レンジ10μm×10μmにおける最大表面高さ(Rz)が0.2〜0.5μmである。
【0014】
合成樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン6樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びアクリル樹脂の何れかから選ばれる。
【0015】
ゴム成分が天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム及び加硫ゴムの何れかから選ばれ、かつ、エラストマー成分がエチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー及びスチレン系エラストマーの何れかから選ばれる。
【0016】
ノズル本体の外表面及び外筒部の内周面の凹凸部に対応する形状の金型を用いた射出成型により形成されている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ルアーロック型ノズルの寸法を高精度に維持しつつ、回路接続性、耐衝撃性及び生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る体液処理器用ヘッダーを示す断面図である。
【図2】射出成型金型の模式図である。
【図3】実施例及び比較例の評価結果を示す表である。
【図4】実施例及び比較例の評価結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、各図面中、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り図面に示す位置関係に基づくものとし、さらに図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る体液処理器用ヘッダーを示す断面図である。図1に示す体液処理器用ヘッダー1は、体液処理器である血液透析器(ダイアライザー)等に取り付けられる。この体液処理器用ヘッダー1は、血液透析器に装着される装着部2と、ノズル3を有している。ノズル3は、ISO8637 2004及びJIS T 3250:2005規格等で規定されているルアーロック型のノズルである。体液処理器用ヘッダー1のノズル3には、血液透析用の血液回路や医療用チューブ(何れも図示せず)等が接続され、血液等の体液は、ノズル3を介して血液透析器に流入又は流出する。
【0021】
ノズル3は、ノズル本体4と、外筒部5とにより構成されている。ノズル本体4は、体液処理器用ヘッダー1の中央部に位置して円筒形状をなしている。外筒部5は、円筒形状をなしており、ノズル本体4の外周部を取り囲むように、ノズル本体4の外側にノズル本体4と所定の間隔を有して配置されている。これにより、ノズル本体4の外表面4aと外筒部5の内周面5aとの間には、空間Sが形成されている。
【0022】
外筒部5の内周面5aには、ルアー部6が設けられている。ルアー部6は、螺旋状に形成されており、ノズル本体4側に突出するねじ山6aと、ねじ溝6bとから構成されている。ルアー部6は、血液回路等の接続部に設けられた雌ねじと螺合する雌ねじである。体液処理器用ヘッダー1と血液回路等との接続は、ノズル本体4の外表面4aと接続部の内表面との摩擦抵抗、及び、ルアー部6と接続部の外周面に形成されたねじ部とが螺着されることにより行われる。
【0023】
上記構成を有する体液処理器用ヘッダー1は、樹脂から形成されている。樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン6樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びアクリル樹脂等を用いることができる。これら樹脂の何れかであれば、強度や安全性の観点から体液処理器用として問題なく使用できる。なお、体液処理器が医療用器具おいて一般的に行われる放射線滅菌が施されることを考慮すると、放射線耐性に特に優れる芳香属性樹脂であるポリスチレン樹脂又はポリエチレンテレフタレート樹脂が好ましい。特に好ましくは、ポリスチレン樹脂である。
【0024】
体液処理器用ヘッダー1は、汎用樹脂において耐衝撃性を高めるために、ゴム成分又はエラストマー成分を含有している。ゴム成分としては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム及び加硫ゴム等の何れかであれば良いが、放射線滅菌時の化学的安定性の観点から、ブタジエンゴム又はイソプレンゴムが好ましい。また、エラストマー成分としては、エチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー及びスチレン系エラストマー等の何れかであれば良いが、少量の添加で優れた耐衝撃性を得られる点では、ポリプロピレン系エラストマー又はスチレン系エラストマーが好ましい。
【0025】
ゴム成分又はエラストマー成分は、体液処理器の準備工程において治具や鉗子等で繰り返し叩かれることを考慮すると、合成樹脂中に10〜50%含有されていることが必要である。含有量がこれよりも少ない(10〜50%以下である)と、体液処理器用ヘッダー1の柔軟性が低下してクラック等が起こり易くなる。一方、含有量がこれよりも多い(10〜50%以上である)と、射出成型時の寸法精度を維持することが困難となる。
【0026】
また、ゴム成分又はエラストマー成分の含有量は、15〜35%であるとより好ましい。なお、ゴム成分又はエラストマー成分は、例えばスチレン・ブタジエン共重合体、プロピレン・スチレン系エラストマー樹脂及びABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂のように、ヘッダー部材を主として構成する樹脂との共重合体であってもよく、あるいは単に配合されているだけでもよい。
【0027】
また、上述の化学組成の樹脂から成る体液処理器用ヘッダー1において、ノズル本体4の外表面4aと外筒部5の内周面5a、すなわちルアー部6のねじ山6a及びねじ溝6bの各表面には、凹凸部Aが形成されている。ここでいう凹凸とは、比較的マクロな測定レンジと比較的ミクロな測定レンジの両方を示しており、前者は測定レンジが700μm×700μmmにおける平均表面粗さ(Ra)を示し、後者は測定レンジが10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)を示している。
【0028】
ここで、従来、表面形状を特定するための指標として、平均表面粗さ(Ra)が使われることがあったが、測定レンジが厳密に定められることはなかった。これについて、本発明者らが詳細に検討したところ、比較的マクロなレンジにおける表面凹凸の程度(状態)は、金型の切削加工の程度(例えばドリル加工による傷の大小及び/又は多少)に深く関連し、主に回路との気密性や接続性に関連していた。一方、比較的ミクロなレンジにおける表面凹凸の程度は、金型と成型品との密着未着状態に深く関連し、主に成型性に関連していた。その詳細な理由は推定ではあるが、回路の捻じ込みのように大きな変形を伴う軟質樹脂表面との相互作用には、局所的な凹凸よりも広い接触面全体の寄与が大きく、他方、回転移動式金型のような硬質表面との相互作用には、局所、すなわち狭い接触面個々の寄与が大きいものと思われる。したがって、ゴム成分等を含む樹脂を射出成型して得られるヘッダーの寸法精度を論じる場合は、双方の指標を考慮する必要があることを見出した。
【0029】
体液処理器用ヘッダー1は、ノズル本体4の外表面4a、及び外筒部5におけるルアー部6のねじ山6a及びねじ溝6bの各表面において、比較的マクロなレンジ、すなわち測定レンジが700μm×700μmmにおける平均表面粗さ(Ra)が3.0〜25.0μmである。体液処理器用ヘッダー1のRaがこの範囲を超える場合は、そのレプリカである金型の切削加工の程度が甘いことをほぼ意味している。このような金型で生産された体液処理器用ヘッダー1は、例えルアー部6で回路と機械的に締結されても、回路との気密性が不十分となって液漏れする可能性が高くなる。
【0030】
例えば、体液処理器用ヘッダー1が、最も汎用的な体液処理器である中空糸型血液透析器に用いられる場合(使用時のノズル側血液流量は200ml/min程度、平均的な透析器の膜面積は1.5m)、入口側ノズルが受ける圧力を考慮すると、上限が25.0μmを超えると液漏れが発生する傾向がある。一方、液漏れ防止の観点から下限は低い方が好ましいが、低すぎると回路との密着性が必要以上に高くなる等、回路接続性が損なわれるため、下限は3.0μm以上を確保する必要がある。比較的マクロなレンジにおいて、より好ましいRaの範囲は3.0〜5.0μmである。
【0031】
また、体液処理器用ヘッダー1は、ノズル本体4の外表面4a及び外筒部5におけるルアー部6のねじ山6a及びねじ溝6bの各表面において、比較的ミクロなレンジ、すなわち測定レンジが10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)が0.020〜0.095μmである。耐衝撃性を高めるために、ゴム成分又はエラストマー成分を10〜50%含有する合成樹脂で体液処理器用ヘッダー1を形成する場合、ヘッダーのRaが0.020μm以上になるようにすれば、金型からの回転脱着時に金型表面との密着性が適度に軽減される。その結果、体液処理器用ヘッダー1を完全に冷却固化させなくても高い寸法精度を維持したまま金型から脱着できるので、Raを何ら制御しない場合に比べてヘッダーの生産タクトを短縮することができる。
【0032】
ただし、Raを必要以上に高くすると、比較的マクロなレンジと同様に、気密性が損なわれる傾向が現れるため、上限を0.095μm以下に抑える必要がある。比較的ミクロなレンジにおいて、より好ましいRaの範囲は、0.025〜0.065μmである。
【0033】
なお、凹凸部Aは、ノズル本体4の外表面4a及び外筒部5におけるルアー部6のねじ山6a及びねじ溝6bの各表面の少なくとも一方に形成されていれば良い。また、上記のように、ノズル本体4の外表面4a及び外筒部5のルアー部6におけるねじ山6a及びねじ溝6bの各表面の両方に形成されているとより好ましい。
【0034】
このように、ノズル本体4の外表面4a及び外筒部5におけるルアー部6のねじ山6a及びねじ溝6bの各表面において、比較的マクロなレンジと比較的ミクロなレンジの双方についてそれぞれの平均表面粗さ(Ra)が制御された凹凸部Aを形成することにより、ルアーロック型ノズルの寸法を高精度に維持しつつ、回路接続性、耐衝撃性及び生産性を兼ね備えた体液処理器用ヘッダー1が得られる。
【0035】
また、凹凸部Aは、血液回路や医療用チューブとの締結時にお互いが最も接触する部分、すなわちノズル本体4の外表面4a及び外筒部5におけるルアー部6のねじ山6a及びねじ溝6bの各表面において、ノズル3の先端から5〜12mmの範囲に少なくとも形成されていればよい。もちろん、それ以外の部分に形成されていても何ら差支えはない。
【0036】
さらに、体液処理器用ヘッダー1は、ノズル本体4の外表面4a及び外筒部5におけるルアー部6のねじ山6a及びねじ溝6bの各表面において、比較的マクロなレンジ、すなわち測定レンジ700μm×700μmmにおける最大表面高さ(Rz)が20.0〜48.0μmかつ比較的ミクロなレンジ、すなわち測定レンジ10μm×10μmにおける最大表面高さ(Rz)が0.2〜0.5μmであることが好ましい。ヘッダーのRzがそそれぞれこの範囲内であれば、血液回路や医療用チューブを接続する際の回転トルクが適正範囲に収まるため、医療従事者が回路等を接続する際に指先を痛めることがない。同時に、適度な抵抗感が生じる結果、接続時の締め付け具合がより確実なものとなる。
【0037】
本実施形態でいう平均表面粗さ(Ra)及び最大表面高さ(Rz)は、体液処理器用ヘッダー1の外筒部5を根本部から切断して分離した後、得られたノズル本体4(外筒部5が切除されたヘッダー)とルアー部6とをそれぞれ試料として測定される。試料の凹凸部Aの測定はJIS B 0601:2001に従って実施するものとし、測定装置は非接触式による超深度測定装置を用いる。測定装置は、形状測定レーザマイクロスコープ(KEYENCE社製、型式VK-8700)や走査型プローブ顕微鏡(島津製作所社製、型式SPM-9700)等を用いることができる。測定の際、測定レンジが700μm×700μmmの場合は顕微鏡の対物レンズの倍率を5〜10倍とし、測定レンジ10μm×10μmの場合は顕微鏡の対物レンズ倍率を50〜100倍として、平均表面粗さ(Ra)と最大表面高さ(Rz)を求める。
【0038】
続いて、体液処理器用ヘッダー1の製造方法について説明する。図2は、体液処理器用ヘッダーを成型する射出成型金型の模式図である。
【0039】
図2に示すように、射出成型金型10は、回転移動コア11と、回転移動コア11を回転移動させる回転駆動源12と、ヘッダーを押出すヘッダー押出しコア13と、樹脂を供給する樹脂供給ライン14と、各装置が設けられるベースプレート15とを備えている。体液処理器用ヘッダー1は、射出成型金型10を用いて射出成型により製造される。
【0040】
射出成型金型10は、ノズル形成部に回転移動コア11を有している。これにより、成型された体液処理器用ヘッダー1から回転移動コア11が回転しながら脱着する。その際、回転移動コア11の表面に所定の凹凸が設けられていれば、得られるノズル本体4の外表面4a、及びルアー部6のねじ山6及びねじ溝6bの表面に特定の凹凸部Aが形成される。具体的には、体液処理器用ヘッダー1のノズル本体4及び外筒部5のルアー部6に対応する金型表面、すなわち回転移動コア11の表面に、体液処理器用ヘッダー1のレプリカ形状が形成されている。
【0041】
回転移動コア11の表面に上記の形状を付与する方法として、シボ加工、サンドブラスト加工あるいは放電加工等を例示できる。選択した表面加工方法がシボ加工であれば、エッチング処理などの指定品番に従って処理を行えばよい。また、サンドブラスト加工であれば、直径が数ミクロン〜数十ミクロンの酸化アルミニウムや酸化ケイ素等の高い硬度の粒子を、被処理表面に向かって数kg/cmのエアー圧力で噴出させて加工を施せばよい。放電加工も含め、このようにして得られた表面の凹凸状態は、一般的に梨地模様等と表現されるものである。なお、ノズル3のような円筒形の成型品を金型から抜き出すためには、抜き勾配を製品公差内で付与しておかないと、離型不良やシボカジリが発生する可能性がある。
【0042】
回転移動コア11の表面に上記の形状を付与する際、ノズル本体4の外表面4a及び外筒部5の内周面5aの凹凸を測定するのと同様にコアの凹凸を測定して、ノズル本体4の外表面4a及び外筒部5の内周面5aに所定の凹凸が形成されるように調整するとよい。
【0043】
回転移動コア11の表面加工の方法として、ドリルによる切削加工や放電加工等を行った後に鏡面磨きをし、その段階で一旦寸法精度を確認する。その後、油膜などを化学薬品で除き、シボ加工(エッチング処理)を実施し、さらにブラスト処理を行う方法が挙げられる。このような一連の処理を行うと金型表面の金属に緻密層が形成され、成型時の金型の耐久性を増すことができる。
【0044】
射出成型機として、例えば横型射出成型機を用いる場合は、成型物の取り出し機が上方に設置される。横型射出成型機では、使用する樹脂の軟化温度に合わせて溶融温度が決められ、可塑化装置で溶融された樹脂が金型内に射出される。金型には冷却装置が接続されており、金型内で樹脂を冷却する際の温度を安定化するために常時冷却されている。金型内で固化した体液処理器用ヘッダー1は、回転移動コア11が回転することにより金型から押し出され、上部に設置された取り出し機にて取り出される。
【0045】
従来、汎用樹脂を射出成型する場合、回転移動コア11からの脱着時に成型物が変形しない程度に固化させるため、10〜30秒程度の冷却時間を必要とした。これは、耐衝撃性を改善するために、ゴム成分又はエラストマー成分を含有した汎用樹脂の場合もほぼ同程度であるため、その分、成型のタクトタイムが余計にかかってしまう。
【0046】
しかしながら、回転移動コア11の表面が予め加工されており、そのレプリカとして得られる体液処理器用ヘッダー1のノズル本体4の外表面4a、及び外筒部5におけるルアー部6のねじ山6aとねじ溝6bの各表面に特定の凹凸部Aが形成されると、回転移動コア11の回転初期に金型と樹脂とが瞬時かつ容易に剥離する結果、高い寸法精度を維持した状態で取り出すことができる。この時の冷却時間は、何も加工を施さない場合に比して3〜12秒程度まで短縮される。このような成型方法は、ゴム成分又はエラストマー成分を含有する合成樹脂からなる体液処理器用ヘッダー1の成型方法として、極めて好ましい方法である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。初めに、諸数値の測定方法から説明する。
【0048】
[平均表面粗さ(Ra)及び最大表面高さ(Rz)の測定]
測定する体液処理器用ヘッダーの外筒部を根本部から切断して分離した。外筒部は縦方向に二分割してルアー部を露出させた。得られたノズル(外筒部が切除されたヘッダー)とルアー部は顕微鏡にセットできる大きさにしてそれぞれ測定試料とした。
【0049】
試料の凹凸部の測定は、「形状測定レーザマイクロスコープ(KEYENCE社製、型式VK-8700)」を用いて、JIS B 0601:2001に従って実施した。測定レンジ700μm×700μmの場合は、顕微鏡の対物レンズの倍率を10倍で測定し、測定レンジ10μm×10μmの場合は、顕微鏡の対物レンズ倍率を100倍で測定した。超深度測定として、平均表面粗さ(Ra)と最大表面高さ(Rz)を求めた。測定は1試料につき3視野実施し、1視野につきn=3点測定して計9点の算術平均を求めた。
【0050】
[気密性評価]
両端部付近に透析液の出入口ノズルを有する血液透析器用筒状容器の両端に、測定するヘッダーを液密に接着したものを測定試料とした。
【0051】
測定試料の両端部にあるルアーロック型ノズルに、血液透析用回路(カーミラインLAPH-E1868、川澄化学工業社製)の動脈側および静脈側をそれぞれ8.5mm挿入した後、各接続部から約10cmの回路部分を鉗子で封止した。次に、透析用ノズルの一方を封止し、他方に圧縮空気回路を接続した後、測定試料を水中に沈めた。この状態で0.2Mpaの圧縮空気を60秒間負荷し、ルアーロック型ノズル部分からのエアー漏れの有無を評価した。なお、この圧力は、市販の中空糸型血液透析器の最大使用圧力67kPaに対して、安全係数3倍を乗じた値である。
【0052】
[回転トルク評価]
デジタルトルクメーター(TOHNICHI社製:2TME500CN2)を用いて評価した。評価するヘッダーを中央部円盤上に4本の冶具で固定し、血液透析用回路(カーミラインLAPH-E1868、川澄化学工業社製)をノズルに挿入する際、トルクがかからない先端から3mm程度まで一旦挿入しておき、続いて先端3mmから8.5mmまで差し込む時間を3秒程度と一定に保つように設定した。この時に発生するピークトルクを計測した。
【0053】
[締め付け感の評価]
病院の看護婦を想定して、女性ボランティア3名による使用感の定性評価を実施した。評価するヘッダーのノズルに血液透析用回路(カーミラインLAPH-E1868、川澄化学工業社製)を挿入した際、「抵抗が大きく締め難い」、「適度な抵抗」および「抵抗が小さく緩み不安」の何れに相当するかを記録し、3名中2名以上に共通する所見を採用した。
【0054】
(実施例1)
体液処理器用ヘッダーのノズル本体及びねじ部に対応する表面全体にブラスト加工を施した回転移動コアを用いて、スチレン・ブタジエン共重合体(組成比:スチレン樹脂83%、ブタジエン樹脂17%)を射出成型して体液処理器用ヘッダーを作製した。
【0055】
得られたヘッダーの表面凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmにおける平均表面粗さ(Ra)は3.5μmであり、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)は0.045μm(45nm)であった。評価結果を図3及び図4の表に示す。
【0056】
上記の凹凸部が形成されたことにより、体液処理器用ヘッダーのノズルはISO 8637:2004に規格化された寸法精度を満足すると同時に、射出成型に要した時間はブラスト加工をしていない金型を用いた場合(比較例1)に比して32%短縮された。短縮分は射出後の樹脂冷却に要した時間と回転移動コアの脱着時間に相当する。血液回路との気密性は維持されていた。また、この体液処理器用ヘッダーは適正な最大表面高さ(Rz)も有する結果、回路接続性にも優れていた。
【0057】
(比較例1)
体液処理器用ヘッダーのノズル本体及びねじ部に対応する表面が磨き表面のまま(ブラスト加工せず)である回転移動コアを用いて、スチレン・ブタジエン共重合体(組成比:スチレン樹脂83%、ブタジエン樹脂17%)を射出成型してヘッダーを作製した。
【0058】
得られたヘッダーの凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmにおける平均表面粗さ(Ra)は1.6μmであり、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)は0.016μm(16nm)であった。評価結果を図3及び図4の表に示す。
【0059】
体液処理器用ヘッダーのノズルはISO 8637:2004に規格化された寸法精度を満足していたが、この寸法精度を確保するために、射出後の樹脂冷却時間を実施例1の3.4倍も必要とした。血液回路との気密性は維持されていたが、血液回路を挿入する際の回転トルクが高く、回路接続性に劣っていた。
【0060】
(実施例2)
ポリプロピレン・スチレン系エラストマー混合樹脂(組成比:ポリプロピレン樹脂62%、スチレン系エラストマー38%)を用いた以外は、実施例1と同様に射出成型を行った。
【0061】
得られた体液処理器用ヘッダーの凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmにおける平均表面粗さ(Ra)は21.2μmであり、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)は0.084μm(84nm)であった。評価結果を図3及び図4の表に示す。
【0062】
上記の凹凸部が形成されたことにより、体液処理器用ヘッダーのノズルはISO 8637:2004に規格化された寸法精度を満足すると同時に、射出成型に要した時間はブラスト加工をしていない金型を用いた場合(諸データは示さず)に比して27%短縮された。血液回路との気密性は維持されていた。また、この体液処理器用ヘッダーは、適正な最大表面高さ(Rz)も有する結果、回路接続性にも優れていた。
【0063】
(比較例2)
体液処理器用ヘッダーのノズル本体及びねじ部に対応する表面にエッチング処理のシボ加工を施した回転移動コアを用いて、スチレン・ブタジエン共重合体(組成比:スチレン樹脂83%、ブタジエン樹脂17%)を射出成型してヘッダーを作製した。
【0064】
得られた体液処理器用ヘッダーの凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmにおける平均表面粗さ(Ra)は30.0μmであり、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)は0.25μ、(250nm)であった。評価結果を図3及び図4の表に示す。
【0065】
上記の凹凸部が形成されたことにより、体液処理器用ヘッダーのノズルはISO 8637:2004に規格化された寸法精度を満足すると同時に、射出成型に要した時間はブラスト加工をしていない金型を用いた場合(比較例1)に比して30%短縮された。しかし、血液回路との気密性は低く、圧縮空気を負荷して14秒後に一方の接続部から連続的に気泡が出始めた。
【0066】
(実施例3)
実施例1で用いた回転移動コアに対して材料硬度が高い素材(硬度比1.10倍)で作製した回転移動コアを用いた以外は、実施例1と同様の方法で射出成型してヘッダーを作製した。
【0067】
得られた体液処理器用ヘッダーの凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmにおける平均表面粗さ(Ra)は17.2μmであり、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)は0.025μm(25nm)であった。評価結果を図3及び図4の表に示す。
【0068】
上記の凹凸部が形成されたことにより、体液処理器用ヘッダーのノズルはISO 8637:2004に規格化された寸法精度を満足すると同時に、射出成型に要した時間はブラスト加工をしていない金型を用いた場合(比較例1)に比して29%短縮された。血液回路との気密性は維持されていた。また、このヘッダーは適正な最大表面高さ(Rz)も有する結果、回路接続性にも優れていた。
【0069】
(実施例4)
実施例1で用いた回転移動コアに対して材料硬度が低い素材(硬度比0.92倍)で作製した回転移動コアを用いた以外は、実施例1と同様の方法で射出成型してヘッダーを作製した。
【0070】
得られた体液処理器用ヘッダーの凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmにおける平均表面粗さ(Ra)は3.3μmであり、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)は0.088μm(88nm)であった。評価結果を図3及び図4の表に示す。
【0071】
上記の凹凸部が形成されたことにより、体液処理器用ヘッダーのノズルはISO 8637:2004に規格化された寸法精度を満足すると同時に、射出成型に要した時間はブラスト加工をしていない金型を用いた場合(比較例1)に比して32%短縮された。血液回路との気密性は維持されていた。また、このヘッダーは適正な最大表面高さ(Rz)も有する結果、回路接続性にも優れていた。
【0072】
(比較例3)
実施例1で用いた回転移動コアに対して材料硬度が高い素材(硬度比1.17倍)で作製した回転移動コアを用いた以外は、実施例1と同様の方法で射出成型してヘッダーを作製した。
【0073】
得られた体液処理器用ヘッダーの凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmにおける平均表面粗さ(Ra)は42.3μmであり、測定レンジ10μm×10μmおける平均表面粗さ(Ra)は0.025μm(25nm)であった。評価結果を図3及び図4の表に示す。
【0074】
上記の凹凸部が形成されたことにより、体液処理器用ヘッダーのノズルはISO 8637:2004に規格化された寸法精度を満足すると同時に、射出成型に要した時間はブラスト加工をしていない金型を用いた場合(比較例1)に比して29%短縮された。しかし、血液回路との気密性は低く、圧縮空気を負荷して8秒後に一方の接続部、10秒後には他方の接続部からも連続的に気泡が出始めた。この理由は、用いた金型の材料硬度が高く、磨き加工が不足したことで金型の表面が粗かったため、成型したヘッダーのノズル表面にシボカジリが発生したことによる。
【0075】
(比較例4)
実施例1で用いた回転移動コアに対して材料硬度が低い素材(硬度比0.63倍)で作製し、且つ、通常は行われる「焼き入れ」を省略した回転移動コアを用いた以外は、実施例1と同様の方法で射出成型してヘッダーを作製した。
【0076】
得られた体液処理器用ヘッダーの凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmにおける平均表面粗さ(Ra)は3.2μmであり、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)は0.327μm(327nm)であった。評価結果を図3及び図4の表に示す。
【0077】
上記の凹凸部が形成されたことにより、体液処理器用ヘッダーのノズルはISO 8637:2004に規格化された寸法精度を満足すると同時に、射出成型に要した時間はブラスト加工をしていない金型を用いた場合(比較例1)に比して28%短縮された。しかし、血液回路との気密性は低く、圧縮空気を負荷して48秒後に一方の接続部から断続的に気泡が出始めた。この理由は、金型が焼き入れされていない結果、射出成型時に金型の寸法精度が維持されないことによると推察された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の体液処理器用ヘッダー1は、血液透析、血液透析濾過、血液濾過、持続血液透析濾過、持続血液濾過、血漿交換、二重濾過血漿交換、ウイルス除去、血液濃縮、腹水濾過・濃縮、吸着等、各種体液処理器に装着され、医療現場において幅広く用いられるものである。
【符号の説明】
【0079】
1…体液処理器用ヘッダー、3…ノズル、4…ノズル本体、4a…外表面、5…外筒部、5a…内周面、6…ルアー部、6a…ねじ山、6b…ねじ溝、A…凹凸部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルアーロック型のノズルを有する体液処理器用ヘッダーであって、
ゴム成分又はエラストマー成分を10〜50%含有する合成樹脂からなり、
前記ノズルは、ノズル本体と、当該ノズル本体の外周部を取り囲み、ねじ山及びねじ溝から成るルアー部が内周面に形成された外筒部とにより構成されており、
前記ノズル本体の外表面及び前記外筒部の前記内周面の少なくとも一方には、凹凸部が形成されており、
前記凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmmにおける平均表面粗さ(Ra)が3.0〜25.0μmであると共に、測定レンジ10μm×10μmにおける平均表面粗さ(Ra)が0.020〜0.095μmであることを特徴とする体液処理器用ヘッダー。
【請求項2】
前記凹凸部は、前記ノズル本体の前記外表面及び前記外筒部の前記内周面の少なくとも一方において、前記ノズルの先端側から5〜12mmの範囲に少なくとも形成されている、請求項1に記載の体液処理器用ヘッダー。
【請求項3】
前記凹凸部は、測定レンジ700μm×700μmmにおける最大表面高さ(Rz)が20.0〜48.0μmであると共に、測定レンジ10μm×10μmにおける最大表面高さ(Rz)が0.2〜0.5μmである、請求項1又は2に記載の体液処理器用ヘッダー。
【請求項4】
前記合成樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン6樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びアクリル樹脂の何れかから選ばれる、請求項1〜3の何れか一項に記載の体液処理器用ヘッダー。
【請求項5】
前記ゴム成分が天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム及び加硫ゴムの何れかから選ばれ、かつ、エラストマー成分がエチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー及びスチレン系エラストマーの何れかから選ばれる、請求項1〜4の何れか一項に記載の体液処理器用ヘッダー。
【請求項6】
前記ノズル本体の前記外表面及び前記外筒部の前記内周面の前記凹凸部に対応する形状の金型を用いた射出成型により形成される、請求項1〜5の何れか一項に記載の体液処理器用ヘッダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−22316(P2013−22316A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161216(P2011−161216)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】