説明

体液分析センサ及び分析チップ

【課題】少量の体液で検査でき、また複数種類の特定成分を検査でき、さらに分析チップを皮膚から剥がしたときに体液がこぼれにくい体液分析センサを提供する。
【解決手段】チップ基板41の下面に、複数の体液回収部43を凹設する。チップ基板4の内部には、体液回収部43で回収した体液を貯めるためのリザーバ44を形成する。体液回収部43の最上部から上方へ向けて体液吸引孔45が延び、体液吸引孔45の上端からリザーバ44へ向けて連通孔46が延びる。リザーバ44の底面には、体液中の特定成分と特異的に反応する試薬58を固定化する。発汗電極47の表面には、汗腺を刺激して体液の抽出を促進させる発汗促進剤を塗布する。チップ基板41の上面には、シャッタパネル42を重ねて取り付ける。シャッタパネル42には、各リザーバ44に対向させてシャッタ窓49を設ける。シャッタパネル42の上方には、光学式の測定装置54を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は体液分析センサ及び分析チップに関する。具体的には、複数のマイクロサイズの凹部からなる凹構造を有し、皮膚に接触させて体液を採取し、体液内の成分の種類や量を特定する体液分析センサに関する。また、当該体液分析センサに用いる分析チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の人間の食生活の変化、運動不足、過労やストレスによる肉体的・精神的な負担、喫煙、飲酒などによって、人間が本来備えている免疫機構に障害が生じて、様々な病気が発症している。これに関する病気の発症や進行には生活習慣が深く関わっているため、一般的に生活習慣病と言われている。生活習慣病には、肥満、高脂血症、糖尿病、高血圧をはじめ、がん、脳卒中、肝臓病、骨粗しょう病なども含まれる。
【0003】
特に、糖尿病の患者数は世界的に著しく増加している。日本では、2005年で糖尿病患者数が690万人と言われており、世界では1億7000万人と言われている。糖尿病は自覚症状がないことが多いので、糖尿病といわれても治療しないでいる人が少なくない。治療しないでいると、体の中でじわりと進行し、失明や下肢の切断にも至りかねない多くの合併症を招く。このため、病気がどの程度進んでいるのかを定期的にチェック(検査)していく必要がある。チェックを続け血糖コントロールの善し悪しを確認し、合併症の兆候を早めに見つけなければならない。
【0004】
また糖尿病は、膵臓で分泌されるインスリンの量が不足して、糖分が利用されず、血液中にあふれ出ることで生じる病気である。そのため、血糖を定期的にモニタリングし、その結果をふまえて適量のインスリンを体内に注入する必要がある。
【0005】
現在、血糖をモニタリングするには、実際に採血をし、その酵素反応を電気化学的に、もしくは呈色で検出する。しかし、採血には、数々の懸念事項がある。一つは、皮膚を侵襲して採血することによる肉体的・精神的な負担である。糖尿病患者は食前、食後など1日に数回測定することが求められる。すなわち1日に数回皮膚に針を刺して採血する必要がある。また、血は感染の恐れがある。また、重度患者では、睡眠中にもモニタリングする必要があり、連続モニタリングが強く望まれている。そのため、皮膚に針を刺さないで(すなわち、非侵襲で)血糖値をモニタリングできるセンサが強く望まれている。
【0006】
(特許文献1の発明)
血糖値を測定するための分析センサとしては、特許文献1に開示されたものがある。この分析センサは、図1(a)に示すように、保持部材11の内面に設けられた凹部内にバイオセンサチップ12を取り付けたものである。バイオセンサチップ12は、図1(b)に示すように、基板13の下面に一対の櫛歯状電極14a、14bを形成し、その表面を保護電極15で覆ったものであって、その下面には酵素膜16と分離膜17が積層されている。
【0007】
この分析センサは、バイオセンサチップ12の設けられている側の面を皮膚18の表面に圧接させて使用される。皮膚18に圧接された分析センサは、皮膚表面から分泌された汗19を分離膜17を介して採取し、酵素膜16中の酵素と汗19に含まれる成分とを反応させ、その際に生じる電気信号を櫛歯状電極14a、14bで検出する。そして、その検出信号に基づいて汗の成分の種類や量を特定する。こうして非侵襲で汗中のグルコース量を測定することで、分析センサにより血糖値を算出することができる。
【0008】
しかし、特許文献1の分析チップでは、比較的容積の大きな保持部材11の全体で汗を回収し、その一部の汗(すなわち、分離膜17に接触した汗)を分析用に用いているので、回収した汗の利用効率が低かった。また、汗を回収するための容積が大きいため、分析を行うためにたくさんの汗が必要となり、検査時間が長くなっていた。さらに、発汗を促進するための機能がないので、自然発汗によって汗を回収しなければならず、汗回収にも時間がかかっていた。
【0009】
また、特許文献1の分析チップでは、1回につき1種類の特定成分の検査しか行うことができず、検査効率が悪かった。さらに、汗を回収するためのスペースが大きいので、皮膚から取り外したときに保持部材11内に溜まっていた汗が周囲にこぼれ易く、不衛生であった。
【0010】
(特許文献2の発明)
図2及び図3は、特許文献2に開示されたサンプリング装置21の分解斜視図及びその使用状態を示す斜視図である。このサンプリング装置21は、図2に示すように、電極22と、電極22が皮膚に接触するのを防ぐ保護層23と、当該電極22及び保護層23を挟み込んで保持する一対のトランスファ粘着剤層24と、各トランスファ粘着剤層24の外側に貼り付けられた発泡層25と、上側の発泡層25の上面の粘着剤に貼り付けられた透明なトップ層26と、下側の発泡層25の下面の粘着剤に貼着された粘着剤保護層27とからなる。また、トランスファ粘着剤層24及び発泡層25にはそれぞれ円形のリザーバ28が開口している。
【0011】
測定する場合には、サンプリング装置21の粘着剤保護層27を剥がして発泡層25の粘着剤を露出させ、図3に示すように、その粘着剤で一対のサンプリング装置21を体表面に貼り付ける。各サンプリング装置21は、電源を有するコントローラ29につながれる。そして、両サンプリング装置21の電極22に異なる極性で電圧を印加して皮膚に電流を与えることで皮膚内から浸出液が分泌され、リザーバ28内に採取される。このようなサンプリング装置では、皮膚に電界を与えることによって発汗促進剤を体内注入することができるので、体液の抽出を促進することができる。
【0012】
しかし、特許文献2のサンプリング装置21でも、汗回収のためのリザーバ28の容積が大きいため、たくさんの汗が必要となり、検査時間が長くなる。また、特許文献2のサンプリング装置21でも、1回につき1種類の特定成分の検査しか行うことができず、検査効率が悪かった。
【0013】
さらに、特許文献2のサンプリング装置では、汗を回収するためのスペースが大きいので、皮膚から取り外したときに溜まっていたリザーバ28内に溜まっていた汗が周囲にこぼれ易く、不衛生であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−5296号公報
【特許文献2】特表平10−505761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、少量の体液で検査を行うことができ、また1回で複数種類の特定成分の検査を行うことのできる体液分析センサ及び分析チップを提供することにある。さらに、分析チップを皮膚から剥がしたときに体液がこぼれにくい体液分析センサ及び分析チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
このような目的を達成するために、本発明にかかる、体液中の特定成分を測定するための分析チップは、基板と、前記基板の皮膚と接触する側の面に形成された、体液を採取するための微細な複数の凹部と、前記基板の内部もしくは皮膚と接触する側と反対面に形成された、前記凹部で採取された体液を貯めるための複数のリザーバと、前記リザーバ内に保持された、体液中の特定成分と反応する試薬とを備えて構成されている。
【0017】
本発明の分析チップによれば、皮膚の表面に接触させることにより皮膚から抽出された体液を凹部で回収することができ、さらに凹部で回収された体液をリザーバに貯めてそこで体液と試薬とを反応させることができる。よって、試薬との反応の様子から体液中における特定成分の有無、量、濃度などを検出することができる。
【0018】
しかも、この分析チップでは、微細な凹部で体液を回収し、微細なリザーバに検査のための体液を貯めるようにしているので、少量の体液によって短い時間で検査を行うことができる。
また、複数の凹部と複数のリザーバを備えているので、リザーバに2種類以上の試薬を保持させておけば、一度に2以上の特定成分を検出することができる。
【0019】
さらに、試薬を保持したリザーバが基板の内部もしくは皮膚と接触する側と反対面に形成されているので、分析チップを皮膚から剥がしたときにこぼれる体液は、せいぜい凹部内に残っていた体液だけとなる。よって、分析チップを皮膚から剥がしたときに分析チップからこぼれる体液の量が少なくなり、皮膚や周囲を汚しにくくて衛生的になる。
また、試薬と反応した体液はリザーバに保持されているので、後から流入した体液によってリザーバから押し流されることがない。よって、特定成分の検出精度を向上させることができる。
【0020】
本発明にかかる分析チップのある実施態様は、前記凹部が、600μm以上のピッチで配置されていることを特徴としている。人の汗腺のピッチは約600μmであるので、かかる実施態様によれば、それぞれの凹部に少なくとも1つの汗腺を対応させることができ、各凹部に体液を回収させられる確実性が高くなる。また、凹部のピッチを600μm以上で、できるだけ小さくすることにより、分析チップの小型化を図ることができる。
【0021】
本発明にかかる分析チップの別な実施態様は、前記複数のリザーバにそれぞれ同じ試薬が保持されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、複数のリザーバで同一種類の検査を一度に行うことができる。よって、一部のリザーバで測定結果を得られない場合には、その測定結果をキャンセル又はNGとして残りの測定結果で診断することができ、検査の信頼性が向上する。
【0022】
本発明にかかる分析チップのさらに別な実施態様は、前記複数のリザーバに2種類以上の試薬が保持されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、複数種類の検査を一度に行うことができ、検査所要時間を短くして被験者の負担を軽減することができる。
【0023】
本発明にかかる分析チップのさらに別な実施態様は、前記基板の前記凹部が形成された側の面に、体液排出促進剤と、体液排出促進剤の投与を促進させるための電極を設けたことを特徴としている。かかる実施態様によれば、電極に電圧を印加することで体液排出促進剤(イオン)を皮下に投与することができ、体液排出促進剤で皮膚からの体液の抽出を促進させることができる。よって、検査に必要な体液を短い時間で回収することが可能になる。
【0024】
本発明にかかる分析チップのさらに別な実施態様は、前記電極が、前記基板の前記凹部が形成された側の面の全面に形成されていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、基板に電極を形成する際には、電極をパターニングすることなく基板の下面全面に形成すればよく、電極の形成を容易にすることができる。
【0025】
本発明にかかる分析チップのさらに別な実施態様は、前記電極が一対の電極からなり、前記凹部の中間領域に前記一対の電極を交互に設けたことを特徴としている。かかる実施態様によれば、皮下に生じる電界の分布を局所的にコントロールすることができるので、必要箇所のみに体液を発生させたり、場所によって体液抽出の促進度合いを調整することができる。
【0026】
本発明にかかる分析チップのさらに別な実施態様は、前記凹部が、プリズム形状、レンズ形状もしくは直方体形状であることを特徴としている。凹部の形状としては、プリズム形状、レンズ形状もしくは直方体形状といった単純な形状とすることにより、凹部の製作が容易になる。もっとも、成形型の製作の容易さや、リザーバと干渉することなく凹部の面積を大きくできる点を考慮すれば、凹部としてはプリズム形状のものが望ましい。
【0027】
本発明にかかる分析チップのさらに別な実施態様は、前記基板が、成形型を用いて成形された成形品であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、製造コストを安価にでき、安価で品質が安定した基板を作製することができる。
【0028】
本発明にかかる分析チップのさらに別な実施態様は、前記基板が、樹脂成形品であることを特徴としている。樹脂成形品の素材となる樹脂は、熱硬化性樹脂や紫外線硬化型樹脂が望ましい。かかる実施態様によれば、樹脂の柔軟性により、基板が皮膚表面に沿って湾曲しやすくなり、凹部から体液が漏れにくくなる。また、樹脂を用いることで材料コストを安価にすることができる。
【0029】
本発明にかかる分析チップのさらに別な実施態様は、前記リザーバ内に体液検知センサを配置したことを特徴としている。かかる実施態様によれば、体液検知センサによってリザーバ内に体液が入ったか否かを検知することができるので、リザーバが空であるのか、あるいはリザーバ内の体液中に試薬と反応する特定成分が含まれていないのかを区別することができる。
【0030】
本発明にかかる、体液中の特定成分を測定するための体液分析センサは、前記分析チップと、前記リザーバ内における体液と試薬との反応を検出する測定装置とを備えたことを特徴としている。
【0031】
本発明の体液分析センサによれば、リザーバ内における体液と試薬との反応を測定装置によって計測することにより、体液中における特定成分の有無、量、濃度などを検査することができる。
【0032】
しかも、この体液分析センサでは、微細な凹部で体液を回収し、微細なリザーバに検査のための体液を貯めるようにしているので、少量の体液によって短い時間で検査を行うことができる。
また、複数の凹部と複数のリザーバを備えているので、各リザーバに2種類以上の試薬を保持させておけば、一度に2以上の特定成分を検出することができる。
【0033】
さらに、試薬を保持したリザーバが基板の内部もしくは皮膚と接触する側と反対面に形成されているので、分析チップもしくは体液分析センサを皮膚から剥がしたときにこぼれる体液は、凹部内に残っていた体液だけとなる。よって、分析チップなどを皮膚から剥がしたときに分析チップからこぼれる体液の量が少なくなり、皮膚や周囲を汚しにくくて衛生的になる。
また、試薬と反応した体液はリザーバに保持されているので、後から流入した体液によってリザーバから押し流されることがない。よって、特定成分の検出精度を向上させることができる。
【0034】
本発明にかかる体液分析センサのある実施態様は、前記測定装置が、前記分析チップのリザーバに光を入射させる光源と、前記リザーバで反射した光を受光する検出器と、前記リザーバで反射した光を反射させて前記検出器へ導くハーフミラーとを備えたものである。かかる実施態様によれば、光源の光をリザーバ内に照射し、その反射光をハーフミラーで反射させることによって検出器で受光させることができる。よって、リザーバ内の体液が特定成分と反応して例えば呈色反応を生じているかどうかを検知することができ、特定成分を検出できる。
【0035】
本発明にかかる体液分析センサの別な実施態様は、前記検出器から得られる信号強度とその時間に対する変化に基づき、体液中に含まれる特定成分を検出するものである。かかる実施態様によれば、信号強度とその時間に対する変化に基づき、体液中に含まれる特定成分の有無だけでなく、濃度または含有量を算出することもできる。
【0036】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、前記リザーバの底部に光反射面を形成したことを特徴としている。かかる実施態様によれば、リザーバの底部に設けた光反射面で光源の光を反射させることができるので、検出器に入射する光の強度を強くでき、測定装置の感度を向上させることができる。
【0037】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、前記基板の前記凹部が形成された面と反対側において、前記リザーバと対応する位置にそれぞれ、光を透光あるいは遮光するためのシャッタ窓を設けたことを特徴としている。シャッタ窓としては、液晶シャッタ、電気光学シャッタ、磁気光学シャッタ、機械シャッタなどを用いることができる。かかる実施態様によれば、検査を行おうとするリザーバのシャッタ窓だけを透光状態にし、他のリザーバのシャッタ窓を遮光状態にすることができ、他のリザーバ内の体液の影響を受けることなく特定のリザーバ内の体液だけを精度よく検査することができる。
【0038】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、前記複数のシャッタ窓のうち、1つのシャッタ窓を透光状態とし、同時に他のシャッタ窓を遮光状態にし、さらに透光状態とするシャッタ窓を順次切り換えるようにしたことを特徴としている。かかる実施態様によれば、複数のリザーバ内の体液を順次一つひとつ検査することができる。しかも、そのために分析チップを動かす必要がないので、体液分析センサを小型化することができる。
【0039】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、前記シャッタ窓が所定の配列でシャッタパネルに設けられ、前記シャッタパネルは前記基板に着脱可能に取り付けられていることを特徴としている。かかる実施態様によれば、シャッタ窓を備えたシャッタパネルを基板に着脱自在にしているので、検査終了後には、体液で汚れた基板からシャッタパネルを分離して基板だけを廃棄し、シャッタパネルは再使用することができる。よって、体液分析センサのランニングコストを低廉にすることができる。
【0040】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、前記リザーバ内にナノサイズの周期構造を設けてその上に金属膜を形成し、当該金属膜に特定成分を捕捉する固定化膜を設けたことを特徴としている。かかる実施態様によれば、体液中に含まれる特定成分の有無や量、濃度などを局在表面プラズモン法によって測定することができる。
【0041】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、前記分析チップに電池が内蔵したことを特徴としている。本発明の体液分析センサでは、分析チップの小型化によって電池容量を小さくできるので、分析チップに電池を内蔵することが可能になる。そして、分析チップに電池が内蔵されているので、外部電源を必要としなくなる。
【0042】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、ベルトによって腕または指に巻きつけて装着可能となっている。かかる実施態様によれば、体液分析装置を腕や指に装着できるので、繰り返し検査を行う場合、あるいは一定時間毎に検査を行う場合には、体液分析センサを装着したままでも邪魔になりにくい。
【0043】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、体液排出促進剤の投与を促進させるための一対の電極のうち一方の電極を前記分析チップに設け、前記ベルトを巻き付けた腕または指の、前記分析チップと反対側となる位置において、前記ベルトに前記一対の電極のうち他方の電極を設けている。かかる実施態様によれば、電界を皮下の深くまで届かせることができるので、汗腺の根本まで電界が達し、体液の排出を促進する効果が向上する。
【0044】
本発明にかかる体液分析センサのさらに別な実施態様は、前記特定成分が、グルコース又はコレステロールであることを特徴としている。かかる実施態様によれば、グルコースやコレステロールなどの生体由来の特定成分を測定することができ、生活習慣病をモニタリングできる。または健康チェック装置としても使用することができる。
【0045】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1(a)は特許文献1に開示された分析センサの概略断面図、図1(b)はそのバイオセンサチップの構造を示す下面図である。
【図2】図2は、特許文献2に開示されたサンプリング装置の分解斜視図である。
【図3】図3は、特許文献2に開示されたサンプリング装置の使用状態を示す斜視図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態1による体液分析センサの使用状態を示す概略図である。
【図5】図5は、実施形態1の体液分析センサの構造を示す概略断面図である。
【図6】図6(a)は、体液分析センサに用いられるチップ基板の上面図である。図6(b)は、図6(a)のX−X線断面図である。図6(c)は、分析チップの下面図である。
【図7】図7は、チップ基板の一部を拡大して示す断面図である。
【図8】図8(a)は、実施形態1のチップ基板において体液を回収している様子を示す概略断面図、図8(b)は、比較例のチップ基板において体液を回収している様子を示す概略断面図である。
【図9】図9は、チップ基板の分割構造を示す断面図である。
【図10】図10(a)は、チップ基板を成形するための下成形型の平面図、図10(b)は下成形型の正面図である。
【図11】図11(a)は、チップ基板を成形するための上成形型の断面図、図11(b)は上成形型の下面図である。
【図12】図12(a)は、上成形型と下成形型からなる成形型の断面図であり、図12(b)は、当該成形型によって成形されたチップ基板の断面図である。
【図13】図13(a)〜(c)は、分析チップの製造工程を順次表した断面図である。
【図14】図14(a)〜(d)は、図13の後に続く工程を断面図である。
【図15】図15は、チップ基板の別な分割構造を示す断面図である。
【図16】図16は、チップ基板のさらに別な構造を示す断面図である。
【図17】図17は体液回収部の異なる形状を示す図であって、図17(a)はチップ基板の断面図、図17(b)はチップ基板の下面図である。
【図18】図18は体液回収部のさらに異なる形状を示す図であって、図18(a)はチップ基板の断面図、図18(b)はチップ基板の下面図である。
【図19】図19は、実施形態1のチップ基板における発汗電極の構造を示す図であって、図19(a)はチップ基板の断面図、図19(b)はチップ基板の下面図である。
【図20】図20は、発汗電極の働きを説明するための図である。
【図21】図21は、発汗電極の異なる構造を示す図であって、図21(a)はチップ基板の断面図、図21(b)はチップ基板の下面図である。
【図22】図22は、発汗電極のさらに異なる構造を示す図であって、図22(a)はチップ基板の断面図、図22(b)はチップ基板の下面図である。
【図23】図23は、発汗電極のさらに異なる構造を示す図であって、図23(a)はチップ基板の断面図、図23(b)はチップ基板の下面図である。
【図24】図24は、発汗電極のさらに異なる構造を示す図であって、図24(a)はチップ基板の断面図、図24(b)はチップ基板の下面図である。
【図25】図25(a)は皮膚の表面に並べて一対の発汗電極を配置した場合の発汗電極の作用を説明する図、図25(b)は腕の裏表に一対の発汗電極を配置した場合の発汗電極の作用を説明する図である。
【図26】図26は、シャッタパネルの異なる形態を表した分析チップの断面図である。
【図27】図27(a)、(b)、(c)は、実施形態1の体液分析センサを用いて体液中の特定成分を測定する工程を説明する概略図である。
【図28】図28(a)、(b)は、図27の工程の後に続く工程を説明する概略図である。
【図29】図29(a)、(b)、(c)は、図28の工程の後に続く工程を説明する概略図である。
【図30】図30(a)は、メディエータ型のセンサにおいて、流路内に並べて配置された試薬を示す平断面図である。図30(b)は、その側断面図である。
【図31】図31(a)は、検査電極に試薬を含む溶液を滴下する様子を示す図、図31(b)は、溶液が広がって重なり合った様子を示す図である。
【図32】図32(a)は、検査電極に試薬を含む溶液を滴下する様子を示す図、図32(b)は、溶液が広がっても重なり合わないように検査電極を離した様子を示す図である。
【図33】図33は、本発明の実施形態2による体液分析センサの一部を示す断面図である。
【図34】図34(a)は、本発明の実施形態3による体液分析センサの一部を示す断面図である。図34(b)は、図34(a)の一部を拡大した図である。
【図35】図35(a)は、本発明の実施形態4による体液分析センサの構造を示す概略図である。図35(b)は、実施形態4の体液分析センサを指に装着した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0048】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態1による体液分析センサ31を説明する。図4は、本発明の実施形態1による体液分析センサ31を腕に装着した様子を示す斜視図である。図5は、実施形態1による体液分析センサ31の構造を示す概略断面図である。
【0049】
(体液分析センサの構造)
図4に示すように、体液分析センサ31は、センサ本体32と分析チップ33により構成されている。分析チップ33は、センサ本体32の下面に取り付けられるようになっている。分析チップ33は、センサ本体32の側面に設けた装着口34からセンサ本体32の下面へ挿入でき、また取り出すことができる。センサ本体32は、体液分析センサ31を操作するためのスイッチ35や、検査結果などを表示するための液晶素子やELからなる表示部36を備えている。センサ本体32は、ベルト37によって被験者の腕や足などに装着できる。なお、図4以外の図面では、スイッチ35、表示部36及びベルト37は省略している。
【0050】
図5はセンサ本体32の下面に分析チップ33を装着した状態を表している。分析チップ33は、主としてチップ基板41(基板)とシャッタパネル42からなる。シャッタパネル42は、チップ基板41の上面に重ねて取り付けられる。チップ基板41の下面には、一方の極の発汗電極47が設けられている。他方の極の発汗電極48は、皮膚に接触するようにしてベルト37の裏面に設けている。センサ本体32は、ケーシング51で囲まれている。ケーシング51の下面には分析チップ33を収納するための収納室52が設けられ、収納室52の天面には開口53があいている。また、収納室52の上方において、ケーシング51内には光源55、ハーフミラー56及び検出器57からなる測定装置54が配置されている。
【0051】
(チップ基板の構造とその製造方法)
図6は上記分析チップ33に用いられているチップ基板41を示す図であって、図6(a)はチップ基板41の上面図、図6(b)は図6(a)のX−X線断面図、図6(c)はチップ基板41の下面図である。このチップ基板41の構造を説明する。
【0052】
チップ基板41の下面には、複数の凹部、すなわちプリズム形状(角錐状)をした複数の体液回収部43が凹設されている。チップ基板41の内部において、隣合う体液回収部43の中間位置には、体液回収部43で回収した体液を貯めるためのリザーバ44が形成されている。リザーバ44は均一な大きさに形成されている。体液回収部43の最上部からは、それぞれ上方へ向けて細い体液吸引孔45が延びており、さらに体液吸引孔45の上端から両側のリザーバ44へ向けて水平に細い連通孔46が延びている。
【0053】
チップ基板41自体は、熱硬化性樹脂や紫外線硬化型樹脂などの素材をシート状に成形したものであって、樹脂の柔軟性によって皮膚表面に沿って容易に湾曲する厚みとなっている。
【0054】
図7に示すように、リザーバ44内の底面には金属薄膜などからなる反射膜74を設けて光反射面を形成してあり、その上には体液に含まれる特定成分と特異的に反応する試薬58が固定化されている。また、発汗電極47の表面には、汗腺を刺激して体液の抽出を促進させる発汗促進剤α(体液排出促進剤)を塗布している。
【0055】
呈色反応を起こす試薬としては、体液に含まれる特定成分と特異的に反応する酵素と発色色素からなるものがある。体液中にその特定成分が含まれていると、特定成分と酵素の反応によって過酸化水素が生成する。さらに、過酸化水素に対して触媒となる酵素(ペルオキシダーゼ)の働きで、過酸化水素から活性酸素が生成される。この活性酸素と発色色素の呈色反応により、リザーバ44内の体液の光学特性(波長または強度)が変化する。
【0056】
チップ基板41は、このような構造となっているので、下面を皮膚の一部に接触させて配置したとき、皮膚から抽出される体液を体液回収部43内に回収し、リザーバ44内に溜めることができる。すなわち、図7に示すように、下面を皮膚に接触させていると、皮膚から抽出した体液βが体液回収部43内に溜まって回収される。さらに、体液回収部43が体液βでいっぱいになると、体液βは毛細管現象によって体液吸引孔45及び連通孔46に吸い上げられ、さらに皮膚から抽出する体液βの圧力によって連通孔46内の体液βがリザーバ44内へ押し出され、リザーバ44内に体液βが溜まる。試薬58は、ある特定成分と特異的に反応して呈色反応するものである。したがって、体液中に試薬58と反応する特定成分が含まれていれば、試薬58がその特定成分と反応することで呈色反応を示すので、この呈色反応を測定装置54で測定することによって特定成分を検出できる。
【0057】
また、一つひとつの体液回収部43で体液を採取するためには、すべての体液回収部43に少なくとも1つの汗腺が対向していることが望ましい。従って、体液回収部43の配列ピッチは汗腺のピッチよりも大きいことが望ましい。汗腺は1平方センチメートル当たり250個以上あると言われている(「汗の常識・非常識」小川徳雄著、講談社刊)。すなわち汗腺のピッチは600μm以上である。よって、体液回収部43の配列ピッチが600μm以上であれば、各体液回収部43内には少なくとも1つの汗腺が含まれていると期待でき、各体液回収部43で体液を採取することができる。
【0058】
しかも、体液回収部43のピッチを600μm程度(すなわち、600μm以上で、かつ、できるだけ小さなピッチ)にすれば、体液回収部43やリザーバ44の容積も小さくなるので、一つのリザーバ44で検査を行うのに必要な体液の量が少なくて済む。その結果、検査に用いる試薬58の使用量が少なくて済み、検査時間も短くできる。また、体液回収部43のピッチが短くなることで、分析チップ33も小さくなり、分析チップ33や体液分析センサ31の小型化を図ることができる。さらに、体液回収部43の配列ピッチが600μm程度であれば、発汗電極47のピッチも小さくなることで発汗効率を向上させることができる。
【0059】
その一方で、体液回収部43のピッチがあまり大きくなると、チップ基板41に設けられている体液回収部43の数が少なくなるので、次のような不都合が生じる。
【0060】
図8(b)に示す比較例のように体液回収部43が1つ(あるいは、数個)しかない場合には、皮膚の表面に凹凸があるため(皮膚の凹凸の周期は約100〜340μmであり、深さは15〜170μmである。)、チップ基板41に圧力をかけないときには、チップ基板41の下面と皮膚との間に隙間が生じる可能性が高く、その隙間から汗が漏れ出るおそれがある。この隙間をなくすためには、チップ基板41に大きな圧力をかけて皮膚に押し付ける必要がある。そうすると被験者に違和感や痛感を与え、被験者に精神的・肉体的負担を与える。
【0061】
これに対し、図8(a)に示す実施形態1のように体液回収部43をアレイ化していると、体液回収部43間のピッチが小さくなり、複数の体液回収部43ができることになる。そのため、確率論的に周囲に隙間のない体液回収部43ができ、そこでは体液βが外に漏れることなく回収される。よって、体液βを回収ができたところのみでデータを分析することで、大きな圧力をかけて皮膚に押し付けることなく検査のエラー頻度を激減させることができる。
【0062】
また、回収できた箇所でデータ処理するので、回収できた箇所が増えれば増えるほどデータの信頼度が向上する。そのため、体液回収部43のピッチは100μmにするのが望ましいが、汗腺のピッチが約600μmであるので、上記のように体液回収部43のピッチは600μm以上であることが望ましい。これらの理由から、体液回収部43のピッチは600μm程度にするのがベターである。
【0063】
つぎに、図9〜図14に従って実施形態1によるチップ基板41の製造方法を説明する。図6に示したチップ基板41では、内部にリザーバ44が形成されているので、これを一度に成形しようとすれば成形型や成形方法が複雑にならざるを得ない。したがって、チップ基板41の成形を容易にするため、チップ基板41を図9に示すように2つの部分、すなわち下基板41aと上基板41bに分割している。体液回収部43、リザーバ44、体液吸引孔45、連通孔46は下基板41aに形成してあり、上基板41bは平板状となっている。リザーバ44内における呈色反応を光学的手段(測定装置54)によって検出するため、上基板41bは透明樹脂ないし透光性樹脂によって形成している。下基板41aは透明樹脂であってもよく、不透明樹脂であってもよい。以下においては、図9のような分割構造のチップ基板41もしくは分析チップ33を製造する工程を説明する。
【0064】
図10(a)は下成形型61の平面図、図10(b)は下成形型61の正面図である。図11(a)は上成形型65の断面図、図11(b)は上成形型65の下面図である。図12(a)は上成形型65と下成形型61を組み合わせた成形型70の断面図であり、図12(b)は当該成形型70によって成形された下基板41aの断面図である。図13(a)〜(c)及び図14(a)〜(d)は分析チップ33の製造工程を順次表した断面図である。
【0065】
図10(a)及び(b)に示すように、下成形型61は、平板部62の上面にプリズム状をした所定個数の凸部63を所定ピッチで配列し、各凸部63の上端にさらに突起部64を設けたものである。凸部63は体液回収部43を成形する部分となり、突起部64は体液吸引孔45を成形する部分となる。
【0066】
図11(a)及び(b)に示すように、上成形型65は下基板41aを成形するためのキャビティ66を下面に有する。空洞部66の天井面には、リザーバ44を成形するためのリザーバ成形用凸部67と、連通孔46を成形するための突条部68が突出している。さらに、上成形型65には、キャビティ66内に溶融した樹脂を導くためのゲート孔69が開口されている。
【0067】
しかして、図12(a)に示すように、下成形型61の上に上成形型65を重ねると、突起部64の上端面が突条部68の下面に密着し、上成形型65と下成形型61の間に下基板41aを成形するためのキャビティ66を備えた成形型70となる。
【0068】
なお、下成形型61および上成形型65を作製する方法には、切削による方法、エッチングによる方法、フォトリソグラフィによる方法がある。切削による方法では、切削刃に圧力や熱を与えて素材を削り、上成形型65又は下成形型61を作製する。エッチングによる方法では、素材(Si等の結晶基板)の表面のうちエッチングしたくない領域に防食処理を施しておき、防食処理を施していない領域を腐食剤によって腐食させることで不要部分を除去し、目的とする型形状を得る。フォトリソグラフィによる方法では、素材基板の表面にポジ型の感光剤を塗布した後、この上に開口パターンを形成されたマスクを重ね、マスクの上から感光剤に光を照射する。感光剤の露光部分は可溶性となるので、これをエッチングして露光部分を化学的に除去すると、目的とする型形状が得られる。必要に応じて、これらの型を原盤として複製し、下成形型61や上成形型65を得る。
【0069】
ついで、成形型70を閉じた状態で、ゲート孔69に接続されたスプルー71からキャビティ66内に溶融した樹脂(熱硬化型樹脂もしくは紫外線硬化型樹脂)を流し込み、樹脂が硬化した後に型開きすると、図12(b)のような下基板41aを得ることができる。
【0070】
上基板41bは平板状であるので、透明ないし透光性の熱硬化性樹脂もしくは紫外線硬化型樹脂によって平板状に成形してもよく、面積の大きな樹脂板をカットして用いてもよい。
【0071】
このように下基板41a、上基板41bとして樹脂成形品を用いれば、材料コストが安くつき、金型やスタンパ等の成形型を用いた成形方式で成形できるためにプロセスコストも安価になり、また品質の安定した製品をえることができる。さらに、皮膚に装着したときに樹脂の柔軟性によってチップ基板41が皮膚に密着しやすくなり、汗が外部に漏れにくくなる。
【0072】
こうして図12(b)のような下基板41aが成形されたら、図13(a)に示すように、下基板41aの上にマスク72を位置合わせしたうえで重ね合わせる。マスク72にはリザーバ44に対応した開口73が開口している。この開口73を通して蒸着法やスパッタ法によって銀(Ag)やアルミ(Al)等の金属材料を堆積させ、図13(b)に示すように、リザーバ44の底面に金属被膜からなる反射膜74を成膜する。反射膜74が形成されたら、図13(c)のように、その上に試薬58を注入して反射膜74の上に固定化する。
【0073】
ついで、図14(a)に示すように下基板41aの上面に上基板41bを重ね合わせて接着、超音波接合または熱溶着し、リザーバ44をほぼ封止された構造とする。そして、図14(b)のように下基板41aの下面に発汗電極47を形成し、図14(c)のようにその下面に発汗促進剤αを塗布してチップ基板41を作製する。発汗電極47を作製する方法としては、スクリーン印刷法、インクジェット法、スパッタ法、真空蒸着法、熱CVD法などがある。発汗促進剤αを塗布する方法としてはインクジェット法などがある。
【0074】
図14(d)は、このチップ基板41の上にシャッタパネル42を重ね合わせて作製した分析チップ33を表している。
【0075】
なお、図9に示した実施形態1のチップ基板41では、上基板41bが平板状となるように下基板41aと上基板41bを分割していたが、分割の仕方はこれに限るものではない。例えば、図15に示すチップ基板41のように、上基板41bによって下基板41aの周囲を囲むようにしてもよい。しかし、図9のような構造であれば、上基板41bの形状を単純にできるので、図9のような構造が望ましい。
【0076】
また、図16のチップ基板41では、リザーバ44をチップ外部と連通させるための通気孔75を設けている。通気孔75は、連通孔46の延長として下基板41aと上基板41bとの間に設けている。通気孔75を設けてあれば、体液をリザーバ44内に集めるとき、リザーバ44内の空気を通気孔75から外部へ排出することができるので、体液回収部43からリザーバ44への体液の移動をスムーズにすることができる。
【0077】
また、図6に示した分析チップ33では、体液回収部43はプリズム形状をしていたが、体液回収部43の形状はプリズム形状に限らない。例えば、図17(a)(b)に示すようにレンズ形状(球面状)であってもよく、図18(a)(b)に示すように直方体形状であってもよい。これらの形状はそれぞれ特徴があるので、以下において比較する。
【0078】
チップ基板成形用の下成形型61や上成形型65の作製方法としては、上述のとおり、切削による方法、エッチングによる方法、フォトリソグラフィによる方法がある。
【0079】
切削により下成形型61を作製する場合を考えると、プリズム形状の体液回収部43であれば、その表面は平面で構成されているために素材の加工が容易となり、下成形型61の形状を得やすい。また、直方体形状の体液回収部43でも、容易に下成形型61の形状を作ることができる。これに対し、レンズ形状の体液回収部43では、その表面形状を得るためには曲面加工が必要になるので、精度の高い制御が必要となり、下成形型61の作製が難しくなる。
【0080】
また、エッチングにより下成形型61を作製する場合を考えると、プリズム形状の体液回収部43では、結晶方向に合わせて異方性エッチングすることにより体液回収部43の形状を得ることができる。また、直方体形状の体液回収部43でも、エッチングによって容易にその形状を得ることができる。これに対し、レンズ形状の体液回収部43では、エッチングによって曲面を形成しなければならないので、体液回収部43の形状を得ることが困難である。
【0081】
また、フォトリソグラフィによって下成形型61を作製する方法を考えると、プリズム形状、レンズ形状、直方体形状のいずれの体液回収部43であっても、レジストへの露光量をコントロールすることによって作製することができる。
【0082】
したがって、下成形型61の製作の容易さから言えば、プリズム形状の体液回収部43と直方体形状の体液回収部43が望ましい。
【0083】
つぎに、リザーバ44との関係から体液回収部43の形状の優劣を考える。体液回収部43は、面積が大きければ大きいほど測定時間を短縮できるので、面積の大きいことが望ましい。直方体形状の体液回収部43の場合には、体液回収部43の面積を大きくすると、体液回収部43とリザーバ44が干渉するので、その面積をあまり大きくできない。体液回収部43の面積を大きくしてもリザーバ44と干渉しないようにしようとすれば、体液回収部43とリザーバ44が高さ方向で重なり合わないようにしなければならず、チップ基板41の厚みが大きくなる。また、チップ基板41の厚みを大きくすることなく、体液回収部43とリザーバ44が高さ方向で重なり合わないようにしようとすれば、体液回収部43の高さが低くなり、分析チップ33を皮膚に密着させたとき、撓んだ皮膚によって体液回収部43が埋もれたり、体液吸引孔45が塞がったりする恐れがある(図8参照)。これに対し、プリズム形状の体液回収部43やレンズ形状の43では、下方で幅が広く上方では幅が狭くなっているので、体液回収部43の面積をある程度大きくしても体液回収部43とリザーバ44が干渉しにくく、直方体形状の体液回収部43のような不具合が起こりにくい。
したがって、体液回収部43の面積の点から言えば、プリズム形状の体液回収部43とレンズ形状の体液回収部43が望ましい。
【0084】
この結果、下成形型の製作の容易さと体液回収部の面積とを考慮すれば、プリズム形状の体液回収部43が望ましいことが分かる。
【0085】
(発汗電極の構造とその働き)
実施形態1の体液分析センサ31では、チップ基板41の下面(体液回収部43を除く領域)に発汗電極47を設けている。すなわち、図19に示すように、一列に並んだ体液回収部43間の領域に発汗電極47を設けるとともに、幅方向に並ぶ発汗電極47どうしをつないている。もう一方の発汗電極48は、ベルト37の裏面に設けている。センサ本体32内にはイオントフォレシス電源(図示せず)が内蔵されている。発汗促進時には、発汗電極47、48には、イオントフォレシス電源によって電圧が印加される。イオントフォレシス電源用の電池(ボタン電池)は、センサ本体32又は分析チップ33内に内蔵されている。
【0086】
発汗電極47の表面には、ピロカルピン等の発汗促進剤αが塗布されている。発汗促進剤αがカチオン性薬剤の場合には、発汗電極47が正極側となり、発汗促進剤αがアニオン性薬剤の場合には、発汗電極47が負極側となる。もっとも、イオントフォレシス電源により印加される電圧は、直流電圧に限らず、交流電圧やパルス電圧の場合もある。また、発汗促進剤αをゲル質のもので形成してあれば、発汗促進剤αと皮膚との密着性が向上し、また接触面積の安定性を保つことができる。
【0087】
また、皮膚に直接電極を当てる場合、電極材料によっては皮膚に影響(化学的反応)を与える恐れがある。従って、皮膚と接触する発汗電極47、48には、生体に影響のない材料、もしくは生体に影響の少ない材料を用いることが好ましい。さらには、反応への影響をさけるためイオン化しにくい材料が好ましい。例えば、電極材料としては、銀(Ag)、塩化銀(AgCl)、白金(Pt)、金(Au)、ステンレス鋼(SUS)などを用いるのが好ましい。
【0088】
しかして、図4、図20に示すように、体液分析センサ31を腕などに装着して発汗電極47、48を皮膚γに接触させた状態で、発汗電極47、48間に数ボルトの直流電圧を印加すると、皮下に電界77が発生する。この電界77によって発汗促進剤α(イオン)が体内に注入されて汗腺76が刺激され(イオン導入法 iontophoresis)、それによって体液の分泌(発汗)が促進される。
【0089】
なお、発汗電極47、48の構造としては、実施形態1以外の種々の形態が可能である。例えば、図21の形態では、体液回収部43の内面を含めてチップ基板41の下面全体に発汗電極47を設けている。発汗電極48は、ベルト37の裏面に設けている。このような構造であれば、マスクを用いることなく全面蒸着や全面スパッタなどにより、チップ基板41の下面全面に発汗電極47を形成することができるので、発汗電極47の作製が容易になる。
【0090】
図22の形態では、チップ基板41の下面端部に発汗電極48を設けている。さらに、図23の形態では、体液回収部43間の領域全体に発汗電極47を設けている。
【0091】
また、図24の形態では、発汗電極47、48を櫛歯状に形成し、発汗電極47と発汗電極48を体液回収部43間の領域に交互に配置している。このように発汗電極47と発汗電極48を交互に配置すれば、電極どうしの間隔を変化させたりすることで、皮下に生じる電界の分布を局所的にコントロールすることができる。よって、必要箇所のみに体液を発生させたり、場所によって体液の促進度合いを調整したりすることができる。
【0092】
図22〜図24の形態では、発汗電極47と発汗電極48が皮膚表面で近接して並ぶことになる。このように発汗電極47、48が横に並んでいる場合には、図25(a)に示すように、皮下の深さ方向に電界77が広がりにくく、汗腺76の根本まで電界77が届きにくくなる。そのため、発汗促進効果が低下するおそれがある。
【0093】
これに対し、図19や図21の形態では、発汗電極48をベルト37に設けているので、発汗電極47と発汗電極48を腕を挟んで反対側に位置させることができる。例えば、発汗電極47(つまり、分析チップ33)を手の甲の側に位置させ、発汗電極48を手の平の側に位置させることができる。このように発汗電極47、48が腕の反対側に位置していると、図25(b)に示すように、皮下の十分深くまで電界77が届き、電界77によって効率よく汗腺76の根本を刺激することができる。したがって、図19や図21のような形態の方が、発汗を促進する効果が高くなると期待できる。
【0094】
また、発汗電極47、48やイオントフォレシス電源を用いない場合には必要な量の汗が溜まるまでの時間が長くなるが、発汗促進剤αだけでも発汗を促進する効果があるので、発汗電極47、48やイオントフォレシス電源を省略しても差し支えない。
【0095】
(測定装置の構造)
図5に示すように、測定装置54は、分析チップ33の全面を照明する光源55と、光源55と収納室52の間に斜めに配置されたハーフミラー56と、特定成分と試薬58との呈色反応を検出するための検出器57とで構成されている。光源55としては、冷陰極管やLEDアレイを用いることができる。また、携帯電話などに用いられている面光源装置(特に、フロントライト型のもの)を光源55として用いてもよい。なお、各リザーバ44の大きさは均一になっているので、各リザーバ44で反射される光の強度が等しく、リザーバ44間での信号強度のばらつきを小さくできる。
【0096】
光源55から出射した光Lがハーフミラー56を透過してリザーバ44内の体液βを照射すると、そこで反射した光Lはハーフミラー56で反射されることによって検出器57に入射する。体液中に試薬58と反応する特定成分が含まれている場合には、呈色反応によってリザーバ44内の体液の光学特性(波長または強度)が変化するので、光源55から白色光を照射し、リザーバ44で反射した光を検出器57で受光し、反射光の光スペクトルを分析することで体液中の特定成分を検出し、あるいはその量や濃度を測定することができる。
【0097】
(シャッタパネルの構造)
図5に示すように、シャッタパネル42には、各リザーバ44の位置に合わせてシャッタ窓49を設けている。各シャッタ窓49は、各リザーバ44と1対1に対応しており、互いに独立して透光状態と遮光状態に切り換え可能となっている。最も簡単なシャッタパネル42は、液晶素子を用いたもの(液晶シャッタ)であるが、それ以外にも電気光学効果を利用したもの(電気光学シャッタ)、磁気光学効果を利用したもの(磁気光学シャッタ)、機械式のもの(機械シャッタ)でもよい。
【0098】
シャッタパネル42を用いれば、呈色反応を読み取るための光を、リザーバ44ごとに制御することができる。すなわち、あるシャッタ窓49を透光状態にすれば、測定装置54から対向するリザーバ44内に測定光を照射し、そこの体液を測定装置54で測定することができる。また、他のシャッタ窓49をすべて遮光状態にすれば、測定装置54からの測定光を遮蔽することができる。よって、一つのシャッタ窓49だけを透光状態にし、他のすべてのシャッタ窓49を遮光状態にしておけば、他のリザーバ44内の体液に影響されることなく、一つのリザーバ44内の体液だけを検査することができ、検査精度を向上させることができる。さらに、透光状態とするシャッタ窓49を走査して検出対象とするリザーバ44を順次切り替えれば、すべてのリザーバ44内の体液を連続的に、かつ高速で検査することができる。
【0099】
また、シャッタパネル42が無いと、測定中のリザーバ44以外からの反射光が検出器57に入射してノイズとなる恐れがあるが、本実施形態の体液分析センサ31では、各リザーバ44が独立しており、測定中のリザーバ44以外のシャッタ窓49は遮光状態となっているので、他のリザーバ44からのノイズを遮断することができ、測定精度が向上する。
【0100】
従来用いられている分析装置では測定装置(光学系)は静止しており、プレパラートに固定された複数の検査試料が測定装置の測定光集光位置に順次移動するよう、プレパラートを駆動装置によって移動させていた。そのため、従来の方式では、分析装置が大きくなっていた。これに対し、実施形態1の体液分析センサ31では、分析チップ33を静止させたままで各リザーバ内の体液を順次検査することができるので、体液分析センサ31を小型化することができる。
【0101】
また、実施形態1の体液分析センサ31では、チップ基板41に複数のリザーバ44を設けてあり、シャッタ窓49を制御することによって検査箇所を一つずつ走査可能としているので、一つの測定装置54によって複数のリザーバ44を測定することができ、体液分析センサ31の小型化が可能となる。特に、ベルト37で手や指などに装着可能な程度に小型化することができる。
【0102】
また、シャッタパネル42はチップ基板41の上面に接合一体化してあってもよいが、着脱可能となっていることが望ましい。シャッタパネル42をチップ基板41に着脱可能とする場合には、チップ基板41とシャッタパネル42とを位置合わせするための手段を設ける。例えば、チップ基板41とシャッタパネル42の各対向面に設けた突起と窪みを嵌合させて位置合わせしたり、端面基準で位置合わせしたりする方法がある。
【0103】
シャッタパネル42をチップ基板41に一体化してあれば、シャッタパネル42を着脱する手間が必要ないので、検査時の取り扱いが容易になる。これに対し、シャッタパネル42を着脱可能とすれば、検査終了後には、分析チップ33のうちチップ基板41のみを廃棄し、シャッタパネル42を再使用できる。よって、シャッタパネル42を着脱自在としてあれば、ランニングコストを安価にできるとともに省資源化に寄与できる。従って、シャッタパネル42を着脱可能とする方式が望ましい。また、チップ基板41は、下基板41aと上基板41bを分離できる構造とし、体液で汚れたチップ基板41を洗浄及び再生処理して再利用できるようにしてもよい。
【0104】
さらに、図26はシャッタパネル42の異なる形態を表している。このシャッタパネル42では、シャッタ窓49のピッチがリザーバ44のピッチよりも小さくなっており、1つのリザーバ44に複数のシャッタ窓49が対向している。あるリザーバ44に測定光を照射する場合には、そのリザーバ44に対向する複数のシャッタ窓49を同時に透光状態にする。このような形態では、他の用途に使用している液晶素子や液晶パネルをシャッタパネル42に転用することが可能になる。
【0105】
なお、シャッタパネル42は、チップ基板41でなく、センサ本体32に設けてあってもよい。例えば、センサ本体32の開口53の位置にシャッタパネル42を設けてあってもよい。その場合には、分析チップ33をセンサ本体32に取り付ける際に、分析チップ33とセンサ本体32の位置合わせを必要な範囲で精度よく行う必要がある。
【0106】
(測定方法)
つぎに、上記のような構造の体液分析センサ31を用いてグルコースやコレステロール等の特定成分を測定する方法を図27〜図29に従って説明する。
【0107】
まず、ベルト37を腕に巻きつけて体液分析センサ31(センサ本体32)を腕に装着する(図4参照)。ついで、試薬58や発汗促進剤αを備えた分析チップ33をセンサ本体32の下面に取り付ける。なお、この順序は逆であってもよい。
【0108】
体液分析センサ31を装着した状態では、図27(a)に示すように、チップ基板41の体液回収部43が形成された面は皮膚の表面に密着しており、発汗電極47の表面に塗布された発汗促進剤αも皮膚γに接触している。実施形態1の体液分析センサ31では、微細な複数個の体液回収部43がチップ基板41の下面に分散しているので、チップ基板41が皮膚に押し付けられても、被験者に不快感や痛感を与えにくくなっている。
【0109】
体液分析センサ31を装着し終えたら、検査開始のスイッチ35を押して検査を開始する。スイッチ35を押すと、(1)発汗促進、(2)体液回収、(3)測定の各プロセスが、以下に述べるようにして体液分析センサ31により順次自動的に実行される。
【0110】
(1)発汗促進のプロセスでは、イオントフォレシス電源がオンになり、発汗電極47、48に電圧が加わる。これにより、図27(b)に示すように、発汗電極47の表面に塗布されている発汗促進剤αが皮下に浸透する。所定時間が経過したら、イオントフォレシス電源はオフになる。皮下に投与された発汗促進剤αによって汗腺76が刺激されるので、しばらくすると、図27(c)に示すように汗腺76から体液β(汗)が抽出される。
【0111】
(2)体液回収のプロセスでは、汗腺76からの体液βの抽出によって自然に処理が進行する。図28(a)に示すように、汗腺76から抽出した体液βは体液回収部43内に回収され、体液βが体液回収部43の上端まで溜まると、毛細管現象によって体液吸引孔45に吸い上げられ、さらに連通孔46へ送られる。そして、皮膚γから抽出する体液βの圧力によって体液βが連通孔46からリザーバ44へ押し出され、リザーバ44内に体液βが溜められる。実施形態1の体液分析センサ31では、体液回収部43及びリザーバ44が微細であるために必要な体液量が少なくて済み、また各体液回収部43に少なくとも1本の汗腺76が位置しているので、比較的短い時間でリザーバ44に体液βを貯めることができる。
【0112】
こうしてリザーバ44内に溜まった体液βに試薬58と特異的に反応する特定成分が含まれていると、図28(b)に示すように、体液βと試薬58が反応して体液βの光学特性が変化する。すなわち、体液βと試薬58の呈色反応により体液βの色が変化する。
【0113】
(3)測定のプロセスでは、測定装置54が動作を開始する。すなわち、光源55が発光し、検出器57が検知可能な状態となる。測定開始前には、図29(a)に示すようにすべてのシャッタ窓49が遮光状態となっているが、測定開始すると、図29(b)に示すように、いずれか一つのシャッタ窓49が透光状態に切り替わる。シャッタ窓49が透光状態となったリザーバ44内には光源55から出射した光Lが入射し、リザーバ44内の体液βで反射して戻った光Lがハーフミラー56で反射した後、検出器57に入射し受光される。検出器57は、受光した光Lのうちから呈色反応後の色に相当する波長の光を抽出し、マイクロコンピュータを用いた解析回路(図示せず)へ検出信号を出力する。解析回路では、検出器57から受け取った検出信号から呈色反応の有無を解析し、特定成分が体液βに含まれているか否かを診断する。あるいは、体液βと試薬58とが反応した後の色は、体液βに含まれる特定成分の濃度または含有量に依存するので、検出信号の信号強度とその時間に対する変化に基づいて、または呈色反応後の色の濃さに基づいて体液中に含まれる特定成分の濃度や含有量を測定することもできる。
【0114】
ついで、測定の終了したリザーバ44のシャッタ窓49を遮光状態に戻し、別な一つのリザーバ44のシャッタ窓49を透光状態とし、このリザーバ44内の体液を同じようにして検査する。このようにして各シャッタ窓49を順次透光状態に切り換えてすべてのリザーバ44の上を走査することで、各リザーバ44内の体液βを検査する。こうして検査が終了すると、検査結果を表示部36に表示する。
【0115】
こうして1サイクルの検査が終了したら、体液で汚れた分析チップ33をセンサ本体32から取り出し、シャッタパネル42をチップ基板41から分離してチップ基板41を廃棄する。
【0116】
連続して検査する場合、あるいは所定の時間をあけて再度検査を行う場合には、新しいチップ基板41を用意してその上にシャッタパネル42を取り付け、その分析チップ33をセンサ本体32に再びセットする。こうして用意ができたら、適当な時期にスタートのスイッチ35を押して上記と同様にして検査を行う。また、検査を続ける必要がなければ、センサ本体32を腕から外して検査を終える。
【0117】
このような体液分析センサ31では、小型の装置で体液の検査を行えるようになるので、腕時計のように常時身体の一部に取り付けておき、繰り返し体液の検査を行うことが可能になる。
【0118】
(同種の試薬)
上記のようにして特定成分の検査を行うとき、複数のリザーバ44には同じ特定成分と反応する同種の試薬58を固定化していてもよく、異なる特定成分と反応する異種の試薬58を固定化しておいてもよい。
【0119】
すべてのリザーバ44に同じ種類の試薬58を固定化している場合には、各リザーバ44で同じ検査を繰り返し行うことができるので、検査結果の信頼性が向上する。特に、汗腺が対応していない体液回収部43や汗の出にくい汗腺があるために測定結果を得られないリザーバ44があっても、そのデータをキャンセル又はNGとして、残りのリザーバ44のデータだけで検査結果が得られるので、何度も検査をやり直さなくても済み、1回で確実に検査を行わせることができる。
【0120】
(異種の試薬)
各リザーバ44に2種以上の試薬58を固定化しておけば、一度に複数の特定成分を検査することができ、例えばグルコースやコレステロールなど、様々な健康状態の変化を検査することができ、生活習慣病などの病状を総合的に診断することができ、診断の精度が向上する。
【0121】
また、実施形態1の体液分析センサ31においては、複数のリザーバ44にそれぞれ異なる試薬58を固定化しておき、各リザーバ44で異なる特定成分を測定するようにしているので、体液分析センサ31の検査精度が向上し、さらに試薬58(酵素)の固定化も行いやすくなる。これは従来方式と比較すれば理解しやすい。
【0122】
従来であれば、例えばグルコースをセンシングする場合に、小型で安価なセンサを実現するには、通常メディエータ型のグルコースセンサが用いられる。メディエータ型のセンサで用いるメディエータ型酵素電極では、検査電極の表面にメディエータ(電極と酵素の間の電子移動を促進する膜)を塗布してあり、特定成分の酵素反応により発生した電子がメディエータを介して検査電極で検出される。このようなメディエータ型酵素電極では、高価な貴金属の電極が必要なく、カーボンや銀ペーストの電極を用いることができ、スクリーン印刷で大量生産が可能になるという特徴がある。
【0123】
しかし、メディエータ型のセンサでは、図30(a)(b)に示すように、同一の流路81内に並んだ検査電極に異なる試薬58a、58b(酵素)を固定化した場合、上流側から体液βが流入したとき、上流側の検査電極からメディエータが流出して下流側の検査電極に到達し、センシング精度に影響を及ぼす問題があった(特許第3631740号の段落0008、0011、0012を参照)。
【0124】
また、場合によっては、上流側のメディエータ型酵素電極で非特異吸着が発生し、下流側のメディエータ型酵素電極でセンシングする特定成分が減少し、センシング精度が悪くなる可能性もある。さらには、上流側のメディエータ型酵素電極での反応によって熱が発生したり、また生成物によって体液のpHが変動する可能性がある(グルコースの反応では過酸化水素が発生する反応もある)。酵素の活性は、pHや温度に影響を受けやすいため、このような体液のpH変動によってセンシング精度が変動する可能性もある。
【0125】
また、試薬58a、58bの一般的な固定化方法は、図31(a)又は図32(a)に示すように、なんらかの溶液に試薬58a、58bを混ぜて検査電極に滴下し、これを乾燥させて固定化させる。このとき、同一流路81内に試薬58a、58bを固定化しようとすると、図31(b)のように、溶液のために試薬58a、58bが拡がり、その拡がり具合を制御することが難しく、試薬58a、58bを固定化しにくい。試薬58a、58bどうしが重ならないようにするには、図32(b)に示すように、ある程度距離をあけて試薬58a、58bを含む溶液を滴下しなければならず、必要な流路81が長くなり、結局センササイズが大きくなる。
【0126】
これに対し、実施形態1の31では、試薬58を含んだ溶液をそれぞれ区分けされていて独立したリザーバ44内に滴下すればよいので、試薬58を固定化しやすく、異なる試薬58どうしが混じり合うおそれもなく、また試薬58の拡がり具合も同じにすることができる。
【0127】
[第2の実施形態]
図33は本発明の実施形態2による体液分析センサの一部を示す断面図である。実施形態2の体液分析センサにおいては、各リザーバ44内に体液検知センサ82を設けている。体液検知センサ82は、リザーバ44内に体液が溜まっているか否かを判別するセンサであって、例えば湿度センサ、抵抗計、導通を検査する一対の電極などを用いることができる。湿度センサでは、体液がリザーバ44内に溜まると湿度が上昇するので、体液を検知できる。抵抗計では、体液がリザーバ44内に溜まると抵抗値が小さくなるので、体液を検知できる。導通を検査する一対の電極では、体液がリザーバ44内に溜まると電極間が導通するので、体液を検知できる。
【0128】
実施形態1の体液分析センサ31では、複数のリザーバ44内に同じ試薬58を固定化している場合、一部のリザーバ44内に体液が溜まらなくても、統計的処理によって信頼性のある診断を行うことができる。
【0129】
しかし、実施形態1では、各リザーバ44に異なる試薬58を固定化している場合、あるリザーバ44内で呈色反応を検出できなかった場合、その原因が体液にその試薬58と反応する特定成分が含まれていなかったからか、あるいは、そのリザーバ44に体液が送り込まれず空であったからか、ということは判別することができない。
【0130】
これに対し、実施形態2の体液分析センサでは、体液検知センサ82によって体液を検知できるので、体液検知センサ82で体液を検知しているにもかかわらず呈色反応を検出できない場合には、体液はそのリザーバ44の試薬58と反応する特定成分を含んでいないと判断される。また、体液検知センサ82で体液を検知していない場合には、そのリザーバ44内に体液が溜まっていないと判断して、そこからのデータをキャンセルすることができる。
【0131】
よって、実施形態2の体液分析センサによれば、診断結果の信頼性をより高めることができる。
【0132】
[第3の実施形態]
図34(a)は本発明の実施形態3による体液分析センサの一部を示す断面図、図34(b)は図34(a)の一部を拡大した図である。実施形態3においては、リザーバ44の底面にナノサイズの周期構造(周期的な凹凸)を設け、その表面にAuなどの金属膜を蒸着させることでナノサイズの金属微粒子83(特に、Au微粒子)を分散させて設けてあり、さらに、その上に特定成分を捕捉する分子からなる固定膜84(例えば、特定成分と特異的に反応する酵素の層)を設けている。
【0133】
このリザーバ44に体液が流入すると、不純物85は固定膜84に捕捉されることはないが、体液中に含まれる特定成分86は固定膜84に捕捉される。これを局在表面プラズモン共鳴(LSPR)法によって観測することで、特定成分86の有無や、量、濃度を測定する。すなわち、リザーバ44に光源の光を照射すると、金属微粒子83の周囲にエバネッセント光が発生するが、酵素84に特定成分86が捕捉されていると、エバネッセント光の光学的性質が変化する。これを反射光の測定によって解析し、特定成分86の有無や、量、濃度を測定する。
【0134】
[第4の実施形態]
図35(a)は、本発明の実施形態4による体液分析センサ91の構造を示す概略図である。この体液分析センサ91は、センサ本体32の下面から突出するようにして分析チップ33をセンサ本体32に着脱自在に取り付けたものである。センサ本体32は電池を内蔵するとともに、その上面には測定結果を表示するための表示部36やスイッチなどが設けられている。また、センサ本体32には装着用のベルト37が設けられている。ここで、ベルト37は軟質樹脂や布などの柔らかな材料でできていることが望ましく、伸縮性のあるものやゴムのように弾性的に伸びるものであってもよい。
【0135】
しかして、測定を行う場合には、図35(b)に示すように、体液分析センサ31を皮膚の表面に当て、ベルト37を指92(腕でもよい。)に巻き付けて体液分析センサ31を装着する。ベルト37が柔らかい材料でできているので、被験者によって太さや形状が異なる指(または腕)に体液分析センサ31をぴったりと安定に装着することができ、体液を採取する際に体液の漏れを防止することができる。また、分析チップ33は、平らな状態でセンサ本体32の下面に取り付けられているが、センサ本体32に強固に固定されておらず、例えば両端だけを保持されている。しかも、分析チップ33はセンサ本体32の下面から突出している。したがって、体液分析センサ31を指(または腕)に装着したとき、分析チップ33は皮膚の表面に沿って弾性的に湾曲する。その結果、分析チップ33が皮膚に密着して体液が外に漏れにくくなると共に、体液を確実に採取することができる。
【0136】
また、分析チップ33は、センサ本体32の下面に着脱できるようになっており、しかも、主として合成樹脂によって安価に製作されているので、使い捨てにすることができる。
【0137】
また、発汗電極48は、実施形態1でも説明したように、指(または腕)を挟んでセンサ本体32と反対側に設けられているので、発汗電極47、48に電圧を加えたとき皮下の深部まで電界を到達させることができる。
【符号の説明】
【0138】
31 体液分析センサ
32 センサ本体
33 分析チップ
37 ベルト
41 チップ基板
42 シャッタパネル
43 体液回収部
44 リザーバ
45 体液吸引孔
46 連通孔
47、48 発汗電極
49 シャッタ窓
51 ケーシング
54 測定装置
55 光源
56 ハーフミラー
57 検出器
58 試薬
61 下成形型
65 上成形型
66 キャビティ
70 成形型
74 反射膜
75 通気孔
α 発汗促進剤
β 体液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液中の特定成分を測定するための分析チップであって、
基板と、
前記基板の皮膚と接触する側の面に形成された、体液を採取するための微細な複数の凹部と、
前記基板の内部もしくは皮膚と接触する側と反対面に形成された、前記凹部で採取された体液を貯めるための複数のリザーバと、
前記リザーバ内に保持された、体液中の特定成分と反応する試薬と、
を備えたことを特徴とする分析チップ。
【請求項2】
前記凹部は、600μm以上のピッチで配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の分析チップ。
【請求項3】
前記複数のリザーバには、それぞれ同じ試薬が保持されていることを特徴とする、請求項1に記載の分析チップ。
【請求項4】
前記複数のリザーバには、2種類以上の試薬が保持されていることを特徴とする、請求項1に記載の分析チップ。
【請求項5】
前記基板の前記凹部が形成された側の面に、体液排出促進剤と、体液排出促進剤の投与を促進させるための電極を設けたことを特徴とする、請求項1に記載の分析チップ。
【請求項6】
前記電極は、前記基板の前記凹部が形成された側の面の全面に形成されていることを特徴とする、請求項5に記載の分析チップ。
【請求項7】
前記電極は一対の電極からなり、前記凹部の中間領域に前記一対の電極を交互に設けたことを特徴とする、請求項5に記載の分析チップ。
【請求項8】
前記凹部は、プリズム形状、レンズ形状もしくは直方体形状であることを特徴とする、請求項1に記載の分析チップ。
【請求項9】
前記基板は、成形型を用いて成形された成形品であることを特徴とする、請求項1に記載の分析チップ。
【請求項10】
前記基板は、樹脂成形品であることを特徴とする、請求項9に記載の分析チップ。
【請求項11】
前記リザーバ内に体液検知センサを配置したことを特徴とする、請求項1に記載の分析チップ。
【請求項12】
体液中の特定成分を測定するための体液分析センサであって、
請求項1に記載の分析チップと、
前記リザーバ内における体液と試薬との反応を検出する測定装置と、
を備えた体液分析センサ。
【請求項13】
前記測定装置は、前記分析チップのリザーバに光を入射させる光源と、前記リザーバで反射した光を受光する検出器と、前記リザーバで反射した光を反射させて前記検出器へ導くハーフミラーとを備えていることを特徴とする、請求項12に記載の体液分析センサ。
【請求項14】
前記検出器から得られる信号強度とその時間に対する変化に基づき、体液中に含まれる特定成分の有無、濃度または含有量を算出することを特徴とする、請求項13に記載の体液分析センサ。
【請求項15】
前記リザーバの底部に光反射面を形成したことを特徴とする、請求項13に記載の体液分析センサ。
【請求項16】
前記基板の前記凹部が形成された面と反対側において、前記リザーバと対応する位置にそれぞれ、光を透光あるいは遮光するためのシャッタ窓を設けたことを特徴とする、請求項13に記載の体液分析センサ。
【請求項17】
前記複数のシャッタ窓のうち、1つのシャッタ窓を透光状態とし、同時に他のシャッタ窓を遮光状態にし、さらに透光状態とするシャッタ窓を順次切り換えるようにしたことを特徴とする、請求項16に記載の体液分析センサ。
【請求項18】
前記シャッタ窓は所定の配列でシャッタパネルに設けられ、前記シャッタパネルは前記基板に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする、請求項16に記載の体液分析センサ。
【請求項19】
前記リザーバ内にナノサイズの周期構造を設けてその上に金属膜を形成し、当該金属膜に特定成分を捕捉する固定化膜を設けたことを特徴とする、請求項12に記載の体液分析センサ。
【請求項20】
前記分析チップに電池を内蔵したことを特徴とする、請求項12に記載の体液分析センサ。
【請求項21】
ベルトによって腕または指に巻きつけて装着可能となった、請求項12に記載の体液分析センサ。
【請求項22】
体液排出促進剤の投与を促進させるための一対の電極のうち一方の電極を前記分析チップに設け、前記ベルトを巻き付けた腕または指の、前記分析チップと反対側となる位置において、前記ベルトに前記一対の電極のうち他方の電極を設けたことを特徴とする、請求項21に記載の体液分析センサ。
【請求項23】
前記特定成分が、グルコース又はコレステロールであることを特徴とする、請求項12に記載の体液分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2010−185750(P2010−185750A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29594(P2009−29594)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【Fターム(参考)】