説明

体液漏出防止剤

【課題】流動性に優れ、器具1を使用して装填する際に、軽い力で遺体の体腔に装填できる吸水性能が高い体液漏出防止剤2を提供する。
【解決手段】体液漏出防止剤2は、アルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散しており、且つその吸水性樹脂の分散安定剤としてポリアクリル酸部分中和物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体からの体液漏出を防止するために、遺体の体腔に装填される体液漏出防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
人体は、死亡後に胃液、肺液、腹水、排泄物等の体液を漏出することがある。このため、死亡確認後、遺体の口、鼻、耳、肛門、腔等の体腔にガーゼや脱脂綿等を装填し、体液の漏出を防ぐことが行われている。また、事故や手術後の遺体の開口部にも同様な処置がとられている。しかしながら、体腔へのガーゼ、脱脂綿等の装填作業の多くは、従業者や看護師等の手によって行われることが多い。そして、その作業の煩雑さや不衛生さと同時に、ガーゼ、脱脂綿等は吸水能力が低いため、作業中もしくは作業後にしばしば体液が漏出してしまうという問題がある。さらに、作業従事中にこの漏出物質による死後感染の可能性もあり、その解決が強く求められていた。
【0003】
このようなことから、ガーゼ、脱脂綿等に代えて吸水性樹脂を口、鼻、耳、咽喉などに装填することが知られている。例えば、装填器を使って口、鼻、耳に吸水性樹脂を含むゼリー状の体液漏出防止剤を装填する方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、ポリエチレングリコール等のアルコールにカルボキシビニルポリマー等の分散安定剤及び水溶性増粘剤を溶解させた粘液基材に、吸水性樹脂が分散している体液漏出防止剤が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−275001号公報
【特許文献2】特開2009−179581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の体液漏出防止剤は、アルコール系を主成分とするゼリーの中に吸水性樹脂を分散しているために、流動性が高く、鼻腔、耳穴等の狭い体腔であっても装填されやすい。しかしながら、未だ流動性や吸水性能に改善の余地がある。
【0007】
また、特許文献2の体液漏出防止剤でも、装填抵抗が大きく流動性や吸水性能が不足している。
【0008】
特に、いずれの体液漏出防止剤でも、装填器等を使用して体腔に装填した時の装填後半には、強く押し込まないと装填できないことが発生していた。この現象は、装填後半には粘液基材が少なくなって、吸水性樹脂が多く残っているためと推測される。
【0009】
本発明の目的は、流動性に優れ、吸水性能が高い体液漏出防止剤を提供することにある。特に装填器等の器具を使用して装填する際に、軽い力で体腔に装填できるようにした体液漏出防止剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、遺体の体腔に装填される体液漏出防止剤に関するものであり、この体液漏出防止剤は、アルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散しており、且つ分散安定剤としてポリアクリル酸部分中和物を含有することを特徴とする。
【0011】
上記アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びグリセリンの少なくとも1種を用いることができる。
【0012】
好ましいのは、分散安定剤として、さらに、カルボキシビニルポリマーを含有することである。
【0013】
上記吸水性樹脂としては、図1に示す顆粒状吸水性樹脂、図2に示す真球状吸水性樹脂、図3に示す真球凝集状吸水性樹脂など種々のものを用いることができる。また、吸水性樹脂の吸水速度については、限定するわけではないが、生理食塩水の吸水速度で80秒以下であることが好ましい。例えば、生理食塩水の吸水速度が10秒以下である吸水性樹脂、生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下である吸水性樹脂などを好適に採用することができる。
【0014】
上記吸水性樹脂としては、1種類の吸水性樹脂を単独で用いることができ、或いは種類の異なる複数の吸水性樹脂を併用することもできる。
【0015】
上記生理食塩水の吸水速度が10秒以下である吸水性樹脂の中位粒子径は20μm以上300μm以下であることが好ましく、上記生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下である吸水性樹脂の中位粒子径は180μm以上400μm以下であることが好ましい。
【0016】
上記ポリアクリル酸部分中和物の中和度は40%以上80%以下であることが好ましい。
【0017】
上記ポリアクリル酸部分中和物の中位粒子径は10μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0018】
上記吸水性樹脂の含有量は10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。
【0019】
上記ポリアクリル酸部分中和物の含有量は0.05質量%以上5質量%以下であることが好ましい。
【0020】
上記体液漏出防止剤の粘度は80,000mPa・S以上200,000mPa・S以下であることが好ましい。
【0021】
体液漏出防止剤のpHは6以上9以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散してなる体液漏出防止剤において、分散安定剤としてポリアクリル酸部分中和物を含有するため、吸水性樹脂と粘液基材との相分離が抑えられる。その結果、体液漏出防止剤の流動性が良くなり、体腔内に装填し易くなるとともに、必要部位に必要量を集中的に装填する上で有利になる。
【0023】
特に、装填器等の器具を使用して体液漏出防止剤を体腔に装填する際に、初めから終わりまで、軽い力で体腔に滑らかに装填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】顆粒状吸水性樹脂の一例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2】真球状吸水性樹脂の一例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図3】真球凝集状吸水性樹脂の一例を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施形態に係る体液漏出防止剤の使用状態を説明する図である。
【図5】実施形態に係るシリンジとピストンの側面断面図である。
【図6】実施形態に係る供給管の斜視図である。
【図7】実施形態に係り、供給管との接続状態を説明する部分拡大断面図である。
【図8】体液漏出防止剤の評価試験装置を模式的に示す図である。
【図9】実施例1〜6及び比較例1の評価結果を示すグラフである。
【図10】実施例8〜15の評価結果を示すグラフである。
【図11】実施例16〜21及び比較例2の評価結果を示すグラフである。
【図12】実施例22〜25の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0026】
本発明の好ましい実施形態に係る体液漏出防止剤は、アルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散しており、その吸水性樹脂の分散安定剤としてカルボキシビニルポリマーとポリアクリル酸部分中和物とを含有する。
【0027】
(アルコール類)
アルコール類としては、体液漏出防止剤の使用温度(例えば、0℃以上40℃以下)で液状である親水性を有する各種のものを採用することができる。限定するわけではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、グリセリン等が挙げられる。このうちでは、吸水性樹脂の分散状態の安定性の点から、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類やグリセリンが好ましく、とりわけ取り扱いが容易であるエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びグリセリンが好ましい。
【0028】
(エーテル類およびエステル類)
エーテル類およびエステル類としては、上記使用温度で液状である親水性の化合物であれば使用できるが、特にポリオキシエチレンジメチルエーテルおよびポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルよりなる群から選ばれた少なくとも1種を好適に用いることができる。ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルとしては、一般式R1COO(CH2CH2O)nCOR2で表され、R1およびR2は炭素数17以下のアルキル基が好ましい。ここで、R1およびR2は同一でも異なっていてもよい。ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルとしては、例えばジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中でも、ポリオキシエチレンジメチルエーテルが好ましい。また、エーテル類およびエステル類の重合度は、上記使用温度で液状となる重合度であればよく、特に限定されるものではない。
【0029】
(カルボキシビニルポリマー)
カルボキシビニルポリマーとしては、例えば、α,β−不飽和カルボン酸類と架橋剤であるエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物とを含む重合性材料を重合することで得られるα,β−不飽和カルボン酸類の架橋物が挙げられる。
【0030】
上述の重合性材料において用いられるα,β−不飽和カルボン酸類は、限定するわけではないが、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸およびフマル酸等を挙げることができる。
【0031】
エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリオールの2置換以上のアクリル酸エステル類、ポリオールの2置換以上のアリルエーテル類、フタル酸ジアリル、リン酸トリアリル、メタクリル酸アリル、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、アジピン酸ジビニル、クロトン酸ビニル、1,5−ヘキサジエンおよびジビニルベンゼン等を挙げることができる。ここで、アクリル酸エステル類およびアリルエーテル類を形成するためのポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、サッカロースおよびソルビトール等を挙げることができる。
【0032】
カルボキシビニルポリマーは、ラジカル重合開始剤の存在下において、不活性溶媒中で所定の重合性材料、例えば上述の重合性材料を重合させることで製造することができ、水分散性を有する。
【0033】
(吸水性樹脂)
吸水性樹脂としては、各種のものを採用することができ、限定するわけではないが、例えば、アクリル酸塩重合体の架橋物、澱粉−アクリル酸塩グラフト共重合体の加水分解生成物の架橋物、ビニルアルコール−アクリル酸塩共重合体の架橋物、無水マレイン酸グラフトポリビニルアルコールの架橋物、架橋イソブチレン−無水マレイン酸共重合体、および酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体のケン化物等が挙げられる。このうち、大量の液体を吸収して、水不溶性ゲル状物を形成することができ、多少の荷重をかけても吸収した液体を分子内に安定に保持可能なアクリル酸塩重合体の架橋物を用いるのが好ましい。
【0034】
アクリル酸塩の具体例としては、例えば、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウム等が挙げられる。これらのアクリル酸塩の中では、アクリル酸ナトリウムおよびアクリル酸カリウムが好ましく、アクリル酸ナトリウムがより好ましい。
【0035】
吸水性樹脂の粒子形状は、顆粒状であっても、真球状であっても、真球凝集状であってもよい。このような吸水性樹脂は、代表的な製造方法である逆相懸濁重合法や水溶液重合法等によって製造することができる。また、各種の重合方法で製造したものを必要に応じて粉砕、造粒または分級等することで調整することもできる。
【0036】
また、体液漏出を速やかに止めるために、吸水性樹脂の吸水速度が大きいことが好ましい。限定するわけではないが、生理食塩水の吸水速度が80秒以下であることが好ましい。例えば、生理食塩水の吸水速度が10秒以下であり、中位粒子径が20μm以上300μm以下である顆粒状ないし真球状吸水性樹脂や、生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下であり、中位粒子径が180μm以上400μm以下である真球凝集状吸水性樹脂を好適に用いることができる。
【0037】
ここに、上記顆粒状ないし真球状吸水性樹脂は、吸水速度は大きいものの、真球凝集状のものに比べて、流動性に劣るとともに、凝集し易いことから、限られた量の粘液基材に対して多量に分散させにくい。一方、上記真球凝集状吸水性樹脂は、吸水速度は小さいものの、流動性が良く、また、凝集し難いことから、粘液基材に対して比較的多量に分散させ易い。
【0038】
上記顆粒状吸水性樹脂、真球状吸水性樹脂及び真球凝集状吸水性樹脂を各々単独で用いても、或いは併用してもよい。例えば、体液の漏出を速やかに止めるケースでは、吸水速度が大きい顆粒状ないし真球状吸水性樹脂のみを分散させた体液漏出防止剤を用いるようにすればよい。或いは二種以上の吸水性樹脂を併用する場合は、顆粒状ないし真球状吸水性樹脂の割合が多い体液漏出防止剤を用いるようにすればよい。また、体液の多量な漏出が見込まれるケースでは、吸水性樹脂として上記分散性が良い真球凝集状吸水性樹脂のみを多量に分散させた体液漏出防止剤を用いるようにすればよい。或いは二種以上の吸水性樹脂を併用する場合は、真球凝集状吸水性樹脂の割合が多い体液漏出防止剤を用いるようにすればよい。
【0039】
吸水性樹脂の中位粒子径は、良好な流動性を得る観点から、20〜400μmであることが好ましい。
【0040】
吸水性樹脂の含有量は、10〜60質量%であることが好ましい。吸水性樹脂の含有量が10質量%未満の場合、体液を吸収して漏出を防止することができなくなる可能性がある。逆に、吸水性樹脂の含有量が60質量%を超える場合、流動性が悪化し体腔内に滑らかに装填できなくなる可能性がある。
【0041】
上記生理食塩水の吸水速度は次の方法で求められる。すなわち、25℃±1℃に調節された室内において、100mL容のビーカーに、生理食塩水50±0.1gを量りとり、マグネチックスターラーバー(8mmφ×30mmのリング無し)を投入する。ビーカーを恒温水槽に浸漬して、液温を25±0.2℃に調節する。次に、マグネチックスターラー上にビーカーを置いて、回転数600r/minとして、生理食塩水に渦を発生させる。その状態で、吸水性樹脂2.0±0.002gを、ビーカーに素早く添加し、ストップウォッチを用いて、吸水性樹脂を添加した時点から液面の渦が収束する時点までの時間(秒)を測定し、これを吸水性樹脂の吸水速度とする。
【0042】
上記中位粒子径は、次の方法で測定した値である。JIS標準篩を上から、目開き850μmの篩、目開き500μmの篩、目開き250μmの篩、目開き180μmの篩、目開き150μmの篩、目開き106μmの篩、目開き75μmの篩及び受け皿の順に組み合わせた最上の篩に、吸水性樹脂100gを入れ、ロータップ式振とう器を用いて20分間振とうさせて分級する。分級後、各篩上に残った吸水性樹脂の質量を全量に対する質量百分率として計算し、粒子径の大きい方から順に積算することにより、篩の目開きと篩上に残った吸水性樹脂の質量百分率の積算値との関係を対数確率紙にプロットする。確率紙上のプロットを直線で結ぶことにより、積算質量百分率50質量%に相当する粒子径を中位粒子径とする。
【0043】
(ポリアクリル酸部分中和物)
ポリアクリル酸部分中和物(非架橋型)としては、アクリル酸およびその塩を重合する際に、極度な低分子量体や極度な高分子量体が生成しないように重合度をコントロールしたものが好ましく用いられる。ポリアクリル酸部分中和物の粒子形状は、球状、破砕状など特に問わないが、球状であることが好ましい。このようなポリアクリル酸部分中和物は、代表的な製造方法である逆相懸濁重合法や水溶液重合法等の他、各種の重合方法で製造することができる。また、必要に応じて粉砕、造粒または分級等することで調製することができ、水溶性を有する。
【0044】
アクリル酸塩の具体例としては、例えば、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、アクリル酸アンモニウム等が挙げられる。これらのアクリル酸塩の中では、アクリル酸ナトリウムおよびアクリル酸カリウムが好ましく、アクリル酸ナトリウムがより好ましい。
【0045】
ポリアクリル酸部分中和物の中和度は、通常、40〜80%が好ましく、50〜70%がより好ましい。ポリアクリル酸部分中和物の中和度が40%未満の場合、pHが低下し吸液量が低下する可能性がある。逆に、ポリアクリル酸部分中和物の中和度が80%を超える場合、ゲルが軟らかくなり必要部位に集中的に装填しづらくなる可能性がある。
【0046】
ポリアクリル酸部分中和物の中位粒子径は、10〜100μmが好ましく、20〜80μmがより好ましい。ポリアクリル酸部分中和物の中位粒子径が10μm未満の場合および100μmを超える場合には、流動性が悪化する可能性がある。
【0047】
ポリアクリル酸部分中和物の含有量は、通常、0.05〜5質量%が好ましく、0.05〜3質量%がより好ましい。ポリアクリル酸部分中和物の含有量が0.05質量%未満の場合、吸水性樹脂の分散安定性が低下し流動性が悪化する。一方、ポリアクリル酸部分中和物の含有量が5質量%を超えて多くなっても、含有量に見合う流動性改善効果が得られにくく、却って不経済になる。
【0048】
なお、ポリアクリル酸部分中和物の中位粒子径は、上述した吸水性樹脂の中位粒子径と同様の方法で測定した値である。
【0049】
(体液漏出防止剤の粘度,pH)
体液漏出防止剤の粘度は、通常、80,000〜200,000mPa・Sが好ましく、90,000〜180,000mPa・Sがより好ましい。体液漏出防止剤の粘度が80,000mPa・S未満の場合には、体腔には入りやすいが、例えば、咽喉部への注入の場合、咽喉部よりも奥に入り込み過ぎて咽喉部での漏出を防止することができなくなる可能性がある。逆に、粘度が200,000mPa・Sを超えると、流動性が悪化して、供給管から体液漏出防止剤が吐出しにくくなる可能性がある。
【0050】
体液漏出防止剤のpHは、通常、6〜9が好ましい。pHが6よりも低くなると、粘性が不足し、粘度の有効な範囲を外れる可能性がある。逆に、pHが9より高くなると、粘度が変動して不安定となり、体腔に装填することが難しくなる可能性がある。pHは体液漏出防止剤の粘度を適正な値にするバロメーターとして使われる。
【0051】
体液漏出防止剤のpHを適正な値に維持するための中和剤としては、特に限定はされないが、例えば、トリエタノールアミン等が用いられる。この中和剤は、最終的に、体液漏出防止剤のpHを調整できれば良いものであり、粘液基材を調製する際に添加しても良く、粘液基材に吸水性樹脂やポリアクリル酸部分中和物を混合分散した後に添加しpHを調整するようにしても良い。或いは、粘液基材を調製する場合及び体液漏出防止剤を調製する場合の両方に添加しても良い。
【0052】
(体液漏出防止剤の製造方法)
体液漏出防止剤の製造方法としては、例えば、アルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種、カルボキシビニルポリマー、吸水性樹脂およびポリアクリル酸部分中和物を一括で混合する方法、予めアルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材に吸水性樹脂を分散し、次いでポリアクリル酸部分中和物を混合分散する方法、予めアルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材にポリアクリル酸部分中和物を分散し、次いで吸水性樹脂を混合分散する方法等が挙げられる。
【0053】
体液漏出防止剤は、上述のアルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種とカルボキシビニルポリマーを含む粘液基材、吸水性樹脂およびポリアクリル酸部分中和物の他に、抗菌剤、抗カビ剤、消臭剤、香料、酸化防止剤、色素等の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0054】
また、本発明の体液漏出防止剤は、ヒトや動物の遺体に適用可能であって、遺体の口、鼻、耳、肛門、女性の膣等の体腔に装填して、遺体の体液の漏洩を防止することができる。
【0055】
<体液漏出防止剤の使用例>
図4は、本発明の実施形態に係る体液漏出防止剤を装填した容器に供給管を接続して、容器内の体液漏出防止剤を供給管を通して遺体の体腔(咽喉部)に装填する使用状態を示す。
【0056】
(体液漏出防止剤の装填器)
装填器1は、体液漏出防止剤2を収容する容器3と、体液漏出防止剤2を遺体の咽喉部Bへ供給する供給管4とを備えている。容器3は、シリンジ10と、ピストン11とで構成されている。シリンジ10は、図5に示すように、樹脂材による一体成形品であり、内部に体液漏出防止剤2が充填される筒状の収容部12と、収容部12に設けられたノズル部13とを有している。上記シリンジ10のノズル部13の先端には、体液漏出防止剤2が吐出される開口部13aが開口している。ノズル部13は、先端側へ行くほど縮径するテーパー外周面13bを有する。このテーパー外周面13bは、図6及び図7に示す供給管4(詳細は後述する)の接続部20の嵌合面20aに沿う形状になっており、該嵌合面20aに嵌合する。したがって、ノズル部13を供給管4の接続部20に挿入すると、嵌合面20aとテーパー外周面13bとが全周に亘って密着した状態となる。これにより、十分な液密性が確保されるようになっている。
【0057】
供給管4は、図6に示すように、鼻孔Aから咽喉部Bへ向けて挿入される挿入管部15を備えている。挿入管部15は、細長形状をなしており、鼻孔Aから咽喉部Bまでの内部形状に応じて変形可能な柔軟性と、鼻孔Aに挿入した際に挿入管部15の内部通路Rが潰れない固さとを有している。挿入管部15の断面形状は、円形状とされている。挿入管部15の挿入方向先端面(図6における左側)には、第1装填孔16が開口している。また、挿入管部15の先端面よりも基端側に離れた周壁部には、2つの第2装填孔17と2つの第3装填孔18とがそれぞれ互いに周方向に180゜離れて開口している。第2装填孔17の開口位置と第3装填孔18の開口位置とは、挿入管部15の周方向に90゜ずれている。上記第1装填孔16は円形状とされ、第2及び第3装填孔17、18は、略楕円形状とされている。
【0058】
なお、第1〜第3装填孔16〜18は、挿入管部15内の体液漏出防止剤2を咽喉部Bに装填できるものであればよく、上記の形態に限られない。すなわち、第1〜第3装填孔16〜18の形状、数、開口位置は、挿入管部15の外径、内径、挿入管部15が有する弾性や内部通路Rを流れる体液漏出防止剤2の種類、流動性等の条件によって任意に設定することが可能である。例えば、第2及び第3装填孔17、18の開口面積は、互いに異なっていてもよい。また、第2及び第3装填孔17、18は円形状にしてもよい。さらに、第1〜第3装填孔16〜18のいずれか1つまたは2つを省略してもよい。また、図示しないが、挿入管部15の第3装填孔18よりも基端側に、別の装填孔を開口させてもよい。
【0059】
また、挿入管部15の基端部(図6における右側)には、筒状の中間部19が設けられている。この中間部19の基端部には、容器3のノズル部13に接続される接続部20が設けられている。
【0060】
図7に示すように、中間部19の内周面と挿入管部15の内周面とは滑らかに連なっている。また、中間部19の外径は、挿入管部15の外径よりも大きく設定され、接続部20側に向かって徐々に大きくなっている。中間部19の外周面は、接続部20の外周面と滑らかに連なっている。中間部19の肉厚は、挿入管部15の肉厚よりも厚くなっている。
【0061】
また、接続部20の先端部側(中間部19と連続する側)の内周面は、中間部19の内周面と滑らかに連なっている。接続部20の内周面は、その基端へ向かって拡径した嵌合面20aを有し、この嵌合面20aが上記ノズル部13のテーパー外周面13bに嵌合する。接続部20の軸方向中間部には、周方向に延びる孔部23(係合部)が設けられている。この孔部23は、接続部20の径方向に対向する2か所にそれぞれ形成されている。上記挿入管部15、中間部19及び接続部20は、塩化ビニール等の柔軟性を有する合成樹脂を用いて一体成形されている。
【0062】
挿入管部15には、中間部19との境界部分近傍から径方向外方へ突出して周方向に延びるストッパー22が一体に形成されている。ストッパー22は、挿入管部15の第1〜第3装填孔16〜18が咽喉部Bに達したときに鼻先A1に当たるように位置付けられている。尚、ストッパー22は、挿入管部15の先端部が咽喉部Bの近傍に位置したときに鼻先A1に当たるように位置付けてもよい。また、ストッパー22は、周方向に連続して延びる形状に限られるものではなく、挿入管部15の周方向に断続する形状としてもよい。また、挿入管部15の周方向一部から突出する突起形状であってもよい。また、ストッパー22は、挿入管部15の基端側の他の部位や、中間部19、接続部20、或いは容器3に形成してもよい。
【0063】
また、ストッパー22の代わりに、挿入管部15の咽喉部Bへの挿入量を示すマーク(目印)を設けてもよい。このマークを設ける位置は、上記ストッパー22と同様に設定すればよい。上記ストッパー22をマークとして利用することも可能である。また、複数のマークを挿入管部15の軸線方向に間隔をあけて設けてもよい。マークは、突起部や、凹部等で構成してもよいし、文字やライン等で構成してもよい。
【0064】
ノズル部13の軸線方向中間部の外周面には、2つの突出部14、14(係合部)が周方向に離れて形成されている。図7に示すように、突出部14、14は、ノズル部13を供給管4の接続部20に完全に挿入した状態で、孔部23内に位置するように配置され、かつ、孔部23に嵌るように形成されている。
【0065】
なお、突出部14及び孔部23の数は、2つに限られるものではく、1つや、3つ以上であってもよい。また、突出部14をノズル部13の周方向に連続する環状に形成し、孔部23に代えて、突出部14が嵌まる凹部にしても良い。
【0066】
また、図5に示すように、上記ノズル部13には、開口部13aを閉塞する樹脂製のキャップ25が装着されるようになっている。これにより、使用前に、収容部12内の体液漏出防止剤2がノズル部13から漏れることはない。
【0067】
ピストン11は、収容部12の内部の体液漏出防止剤2をノズル部13の開口部13aから押し出すためのものである。ピストン11は、収容部12のノズル部13と反対側の端部から挿入される押出部11aと、押出部11aに接続された押し棒11bと、作業者が操作することで押し棒11bを介して押出部11aを収容部12で摺動させるための操作部11cとを有する。押出部11a、押し棒11b、操作部11cは、シリンジ10と同様な樹脂材で形成されている。このため、使用後は、シリンジ10とピストン11とを一緒に廃棄処分可能である。
【0068】
(装填器の使用例)
上記のように構成された装填器1の容器3と供給管4とを接続する要領について説明する。体液漏出防止剤2が充填されたシリンジ10のノズル部13には、キャップ25が装着されている。また、ピストン11の押出部11aは、シリンジ10の内部に挿入され、これにより、シリンジ10が閉塞されている。
【0069】
まず、上記キャップ25をノズル部13から外す。その後、容器3と供給管4とを接続する。すなわち、シリンジ10のノズル部13を供給管4の接続部20に挿入する。ノズル部13を接続部20に深く挿入していくと、ノズル部13のテーパー面13bが接続部20の嵌合面20aに押し付けられる。このとき、ノズル部13及び接続部20が樹脂材で構成されているので、僅かに弾性変形しながら、テーパー面13bと嵌合面20aとが密着した状態になる。ノズル部13が接続部20に完全に挿入される直前のタイミングで、ノズル部13の突出部14が、接続部20の孔部23に嵌り始める。このとき、突出部14の挿入方向先端側に傾斜部14aが形成されていることから、突出部14が孔部23に嵌りやすい。そして、図7に示すように、突出部14が孔部23に完全に嵌った状態、即ち、ノズル部13が接続部20に完全に挿入された状態で、突出部14が孔部23に係合する。これにより、ノズル部13が接続部20から不意に抜けることが防止される。ノズル部13のテーパー面13bと接続部20の嵌合面20aとの密着状態が保たれて、高い液密性を確保できる。
【0070】
供給管4の接続部20の肉厚が、挿入管部15の肉厚より厚いので、接続部20の剛性が挿入管部15に比べて高くなっている。これにより、接続部20に外力が作用しても、該接続部20とノズル部13との密着状態を保つことができる。
【0071】
次に、体液漏出防止剤2を咽喉部Bに装填する要領について説明する。尚、図4におけるCは舌、Dは気管、Eは食道、Fは頚椎、Gは口腔をそれぞれ示している。
【0072】
まず、挿入管部15をその先端側から鼻孔Aに挿入する。このとき、挿入管部15は中間部19や接続部20よりも薄肉で柔軟であるため、鼻孔Aの内部形状に沿うように変形し易く、挿入力が小さくて済む。
【0073】
挿入管部15が鼻孔Aの奥へ深く挿入されていき、挿入管部15の第1〜第3装填孔16〜18が咽喉部Bに達すると、ストッパー22が鼻先A1に当たる。すなわち、ストッパー22は挿入管部15の先端側が咽喉部Bに到達したことを示す目印として機能する。ストッパー22が鼻先A1に当たると、挿入管部15をそれ以上挿入できなくなる。
【0074】
一方、ストッパー22が鼻先A1からかなり離れている状態で、作業者が挿入管部15の挿入を止めた場合には、挿入管部2の先端側が咽喉部Bに達していないことになる。この咽喉部Bに達していない場合には、挿入管部15を鼻孔Aにさらに挿入する。
【0075】
その後、ピストン11の押し棒11bをシリンジ10に押し込むと、押出部11aがシリンジ10の内面を摺動してノズル部13側へ進む。これにより、シリンジ10内の体液漏出防止剤2がノズル部13を通って開口部13aから供給管4の中間部19を通り、挿入管部15内に送り込まれる。挿入管部15内に送り込まれた体液漏出防止剤2は、内部通路Rを流通して、第1〜第3装填孔16〜18から咽喉部Bに装填される。この体液漏出防止剤2の装填時には、押出部11aによる圧力がノズル部13内部から供給管4内部に亘って作用するが、上記の如くテーパー面13bと嵌合面20aとが密着していることと、突出部14が孔部23に嵌っていることにより、ノズル部13が接続部20から不意に抜けることが防止される。さらに、体液漏出防止剤2がノズル部13と接続部20との間から漏れることも防止される。
【0076】
また、体液漏出防止剤2を咽喉部Bに装填する際に、例えば、挿入管部15の第2装填孔17の一部又は全部が鼻孔Aの内壁や咽喉部Bの内壁より塞がれていることが考えられる。この場合、体液漏出防止剤2は、第3装填孔18から吐出されて、挿入管部15の外周面と鼻孔Aの内壁との間を通って、咽喉部Bに導かれるとともに、第1装填孔16から咽喉部Bに装填される。
【0077】
また、体液漏出防止剤2を咽喉部Bに装填する要領としては、上記したように容器3と供給管4とを接続してから、供給管4の挿入管部15を鼻孔Aに挿入する方法以外に、供給管4の挿入管部15を鼻孔Aに挿入した後に、容器3と供給管4とを接続する方法もある。
【0078】
後者の方法では、まず、挿入管部15を鼻孔Aから咽喉部Bに向けて挿入する。そして、シリンジ10のノズル部13を供給管4の接続部20に挿入して、突出部14を孔部23に係合させる。これにより、容器3と供給管4とが接続される。そして、ピストン11を操作することで、体液漏出防止剤2が供給管4を介して咽喉部Bに装填される。
【0079】
したがって、この実施形態に係る容器3と供給管4との接続構造によれば、容器3のノズル部13の外周面に突出部14を形成するとともに、供給管4の接続部20の内周面に孔部23を形成する。そして、ノズル部13を接続部20に挿入した状態で突出部14を孔部23に嵌めるようにしたので、容器3と供給管4との接続を確実にできる。これにより、体液漏出防止剤2の遺体への装填作業中に、体液漏出防止剤2が接続部分から漏れることを防止できる。さらに、供給管4が容器3から外れることを防止できる。
【0080】
また、シリンジ10内を摺動するピストン11によって体液漏出防止剤2をシリンジ10から押し出すようにしたので、使用前においては、体液漏出防止剤2をシリンジ11内で確実に保持できる。一方、装填作業時には、ピストン11をシリンジ10に押し込むという簡単な操作で体液漏出防止剤2を咽喉部Bに装填することができる。特に、シリンジ10内の体液漏出防止剤2を最後まで軽い力で押し出すことができるので、作業性に優れる。
【0081】
尚、体液漏出防止剤2を咽喉部Bに装填した後、装填器1を廃棄する際には、容器3と供給管4とを接続した状態であってもよいし、分離した状態としてもよい。容器3と供給管4とを分離する場合には、シリンジ10のノズル部13を供給管4の接続部20から強く引き抜けばよい。
【0082】
<体液漏出防止剤についての実施例>
次に、本発明の体液漏出防止剤について、実施例に基づいて説明する。以下に実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例等によってなんら限定されるものではない。
【0083】
(実施例1〜7及び比較例1)
[体液漏出防止剤の調製法]
実施例1〜7及び比較例1に係る体液漏出防止剤の調製について説明する。攪拌機を備えた容器に溶媒としてのエチレングリコール及びポリエチレングリコールを入れ、攪拌しながら、カルボキシビニルポリマーを少量ずつ加えて、2〜8時間攪拌した。得られた粘液基材に吸水性樹脂を加え、十分に攪拌した。実施例については、さらにポリアクリル酸部分中和物を加え、十分に攪拌した。その後、吸水性樹脂が分散した粘液基材を攪拌しながら、トリエタノールアミンを少量ずつ滴下し、これにより、pH7.0の体液漏出防止剤を調製した。実施例及び比較例の各成分の配合割合及び粘度は表1に示す通りである。
【0084】
【表1】

【0085】
各成分としては次のものを使用した。
【0086】
エチレングリコール:(日本アルコール販売(株)製)
PEG200:数平均分子量が200のポリエチレングリコール(日油(株)製)
カルボキシビニルポリマー:商品名「ハイビスワコー」和光純薬工業(株)製
吸水性樹脂 TYPEI:商品名「アクアキープ10SH-PF」住友精化(株)製
ポリアクリル酸部分中和物:商品名「アクパーナAP-70」住友精化(株)製
トリエタノールアミン:(三井化学(株)製)
「アクアキープ10SH-PF」は、中位粒子径160μmの顆粒状吸水性樹脂であり、生理食塩水の吸水速度は2秒である。「アクパーナAP-70」は、中位粒子径70μm、中和度70%のポリアクリル酸部分中和物である。
【0087】
[体液漏出防止剤の特性評価試験装置]
実施例1〜7及び比較例1の各体液漏出防止剤のシリンジによる押出特性を図8に示す試験装置によって評価した。
【0088】
試験装置は、有限会社「ミナトコンセプト」のシリンジポンプ「MCIP−VII」及び「MCIP/DPCOシリーズ」の「DPCO−II」を利用して構成した。制御装置50は、制御部51、表示部52、設定部53、圧力検出部54及び吐出圧検出部55を備えている。シリンジ10は測定台60にセットされている。測定台60は、シリンジ10を固定する載置部61とピストン11の操作部11cを取り付ける取付部62とを備える。取付部62の下部62aは、測定台60にシリンジ長手方向へスライド可能に設けられている。駆動部70が制御部51からの信号に基づいて取付部62をスライド駆動する。
【0089】
設定部53では、駆動部70での送り速度(或いは送り量)、駆動部の駆動開始、駆動終了の設定等の作動初期の設定を行う。圧力検出部54は、取付部62を一定速度で押し込んでいった際に取付部62が受ける圧力を検出する。吐出量検出部55は、取付部62を一定速度で押し込んでいった際に、供給管4の第1、第2及び第3装填孔16、17、18から吐出される体液漏出防止剤の吐出量(或いは、ピストン11の押出部11aの進み量)を検出する。
【0090】
[評価方法]
次に評価方法を説明する。実施例1〜6及び比較例1の体液漏出防止剤を充填した容器2と供給管4とを接続して、シリンジ10を測定台60の載置部61にセットする。そして、ピストン11の操作部11cを取付部62に取り付ける。この状態で制御装置50を作動させる。具体的には、制御部51からの信号に基づいて駆動部70を作動させる。駆動部70の作動によって、取付部62(ピストン11の操作部11c)が一定速度で前進し、容器10内の体液漏出防止剤が供給管4の第1、第2及び第3装填孔16、17、18から一定量ずつ吐出される。この吐出中の操作部11cが受ける圧力を圧力検出部54で検出し、シリンジ内から吐出される量を吐出量検出部55で検出する。図9は吐出圧力を縦軸にとり、吐出量を横軸にとったグラフである。測定室の温度は、室温(25℃)に設定した。
【0091】
図9に示すように、実施例1〜6のいずれも、吐出圧力が吐出開始後直ぐに300KPa弱から400KPa近くまで立ち上がっている。その後は、略一定の吐出圧力で体液漏出防止剤が吐出し、或いは、吐出圧力が緩やかに上昇しながら体液漏出防止剤が吐出している。そして、吐出終了間際になって吐出圧力が急激に低下している。これに対して、比較例1では、吐出圧力が始めは実施例と同様に立ち上がるが、途中で立上りが少し緩やかになっている。その後、吐出圧力が大きく変動している。特に、比較例1では、体液漏出防止剤の吐出の終わり近くで吐出圧力が急激に高くなっている。
【0092】
このことから、比較例1では、体液漏出防止剤をシリンジ10から押し出していくと、途中から断続的に押出し抵抗が大きくなること、そして、体液漏出防止剤をシリンジ10から出し切る際に大きな力が必要になることがわかる。これに対して、実施例1〜6では吐出圧力が立ち上がった後は、体液漏出防止剤がシリンジ10から押し出されるまで吐出圧力の大きな変動がない。したがって、体液漏出防止剤を比較的軽い力で滑らかに押し出すことができる。
【0093】
実施例1〜6によれば、ポリアクリル酸部分中和物の配合割合が大きくなるほど、体液漏出防止剤の体腔への装填時の吐出圧力が低くなっている(図9)。また、体液漏出防止剤の粘度も低くなっている(表1)。ポリアクリル酸部分中和物が、粘液基材における吸水性樹脂の分散安定性を高め、ピストンで押し出されるときの体液漏出防止剤の相分離を抑制しているためである。また、実施例1と比較例1との比較から、ポリアクリル酸部分中和物は、0.05質量%という微量であっても高い相分離抑制効果が得られることがわかる。
【0094】
ポリアクリル酸部分中和物を0.05〜0.5質量%まで段階的に増加したときに、体液漏出防止剤の粘度が低下した(表1)。また、吐出圧力も低下していったことから、実施例7については、評価試験を省略した。また、ポリアクリル酸部分中和物を5質量%としたものは、実施例として作成して確認するまでもないと考えて、省略した。この5質量%は、コストアップを避けるために実用的に好ましい上限値である。
【0095】
この結果を参考にして、実際に作業者が作業した場合にどのように感じるかをテストした。5人の作業者に実際にピストンを押し込んで供給管4からシリンジ10内の体液漏出防止剤2を押し出してもらった。上記実施例1〜7については、滑らかに押し出すことができるとの評価を得た。実施例1〜7では、ポリアクリル酸部分中和物が増えると、少し粘度が下がると共に吐出圧力が少し下がる傾向になる。しかしながら、略一定の圧力で体液漏出防止剤を押し出すことができるとき、又は吐出圧力の変動が少ないときは、その吐出圧力に多少の大小があっても、その大小を作業者はあまり感じないことがわかった。
【0096】
それに対して、比較例1では、体液漏出防止剤の押出し後半に吐出圧力が急激に立ち上がるため、後半では力を強く入れる必要があり、作業者5人共に負担を感じるという結果であった。また、体液漏出防止剤の押出し途中の吐出圧力の変動のために、押出し操作に違和感を覚える作業者が2人いた。
【0097】
(実施例8〜15)
表2に示す実施例8〜15に係る体液漏出防止剤を先に説明した体液漏出防止剤の調製法に従って調製した。実施例8〜15は、溶媒としてエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びグリセリンを採用し、ポリアクリル酸部分中和物量はいずれも3gとし、実施例9〜15では吸水性樹脂としてTYPEIとTYPEIIとを用いた。「吸水性樹脂 TYPEII」は、住友精化(株)製の商品名「アクアキープSA60N TYPEII」であり、中位粒子径310μmの真球凝集状吸水性樹脂であり、生理食塩水の吸水速度は30秒である。表2には各体液漏出防止剤の成分配合量と粘度を掲載している。
【0098】
【表2】

【0099】
実施例8〜15の体液漏出防止剤のシリンジによる押出特性を図8に示す試験装置によって評価した。結果を図10に示す。
【0100】
図10によれば、実施例8〜15では、吐出圧力が吐出開始後直ぐに300KPa弱から400KPa近くまで立ち上がり、その後は吐出圧力が大きく変化することなく体液漏出防止剤が吐出した。そして、吐出終了間際になって吐出圧力が急激に低下した。このことから、実施例8〜15によれば、作業者が体液漏出防止剤をシリンジから比較的軽い力で滑らかに押し出すことができることがわかる。実施例8〜15は吸水性樹脂 TYPEIIの配合量が順に多くなっているが、吐出圧力をみると、吸水性樹脂 TYPEIIの配合量の増大には必ずしも比例していない。これは、表2からわかるように、体液漏出防止剤の粘度が影響しているためと考えられる。
【0101】
すなわち、表2によれば、吸水性樹脂としてTYPEIとTYPEIIとを併用した実施例9〜15は、吸水性樹脂としてTYPEIのみを含有する実施例8に比べて粘度が大きくなっている。しかし、実施例9〜13のように吸水性樹脂 TYPEIIの配合量が多くないケースでは、その配合量の増大は必ずしも粘度の増大に結びついていない。
【0102】
従って、体液漏出防止剤にポリアクリル酸部分中和物が配合されると、吸水性樹脂 TYPEIIの配合量が増大してもある程度までは粘度の上昇が抑えられることがわかる。また、吸水性樹脂としてTYPEIとTYPEIIとを併用すると、体液漏出防止剤の吸水性樹脂配合量を多くすることができ、体液漏出量が多いケースでの体液漏出防止に有利になることがわかる。
【0103】
実施例15は吸水性樹脂 TYPEIと吸水性樹脂 TYPEIIとを合わせた配合割合が約36質量%である。また、吸水性樹脂 TYPEIと吸水性樹脂 TYPEIIとの総量に占める吸水性樹脂 TYPEIIの比率は約40%である。吸水性樹脂 TYPEIと吸水性樹脂 TYPEIIとの併用において、体液漏出防止剤における吸水性樹脂の配合割合を36質量%以下とするとき、上記吸水性樹脂 TYPEIIの比率が40%以下であれば、体液漏出防止剤の押出しに支障がないということができる。
【0104】
(実施例16〜21及び比較例2)
表3に示す実施例16〜21及び比較例2に係る体液漏出防止剤を先に説明した体液漏出防止剤の調製法に従って調製した。実施例16〜21及び比較例2は、吸水性樹脂としてTYPEIとTYPEIIとを併用するケースであり、ポリアクリル酸部分中和物の配合量を変えている。表3には各体液漏出防止剤の成分配合量と粘度を掲載している。
【0105】
【表3】

【0106】
実施例16〜21及び比較例2の体液漏出防止剤のシリンジによる押出特性を図8に示す試験装置によって評価した。結果を図11に示す。
【0107】
図11によれば、実施例16〜21では、吐出圧力が吐出開始後直ぐに300KPa前後まで立ち上がり、その後は吐出圧力が大きく変化することなく体液漏出防止剤が吐出した。そして、吐出終了間際になって吐出圧力が急激に低下した。このことから、実施例16〜21によれば、作業者が体液漏出防止剤をシリンジから比較的軽い力で滑らかに押し出すことができることがわかる。これに対して、比較例2では、吐出圧力が400KPa程度まで立ち上がった後、360KPa程度まで下がり、最後に再び400KPa程度まで上昇するというように吐出圧力が大きく変動している。
【0108】
実施例16と比較例2との比較から、ポリアクリル酸部分中和物の微量添加(0.5g;約0.43質量%)でも高い相分離抑制効果が得られることがわかる。また、実施例16〜21はポリアクリル酸部分中和物の配合量が段階的に増えているが、図11によれば、それらの体液漏出防止剤押出特性には大差がない。したがって、ポリアクリル酸部分中和物の配合量を、5g(約4質量%)を越えて大きくしても、単に不経済になるだけで、その増量に見合う効果は得られないことがわかる。
【0109】
なお、表2の実施例14と表3の実施例19とは体液漏出防止剤の組成が同じであるが、両者は粘度が相違し、それに伴って、体液漏出防止剤の押出特性(図10,11)も若干相違する。この粘度の相違は、体液漏出防止剤の粘液基材調製時の攪拌時間の違いに基づく。すなわち、実施例1〜15及び比較例1は攪拌時間を7時間とし、実施例16〜21、比較例2及び後述の実施例22〜25は攪拌時間を8時間としている。
【0110】
(実施例22〜25)
表4に示す実施例22〜25に係る体液漏出防止剤を先に説明した体液漏出防止剤の調製法に従って調製した。実施例22〜25は、吸水性樹脂としてTYPEIIのみを採用したケースであり、その配合量を変えている。表4には各体液漏出防止剤の成分配合量と粘度を掲載している。
【0111】
【表4】

【0112】
実施例22〜25の体液漏出防止剤のシリンジによる押出特性を図8に示す試験装置によって評価した。結果を図12に示す。
【0113】
図12によれば、実施例22〜24では、吐出圧力が300〜350KPa程度まで立ち上がった後は、吐出圧力が大きく変化することなく、体液漏出防止剤が吐出している。吸水性樹脂 TYPEIIの配合量を117g(約60質量%)とした実施例25においても、吐出圧力が当初400KPaを越えて立ち上がっているが、その後は吐出圧力が大きく変化することなく体液漏出防止剤が吐出している。このことから、吸水性樹脂としてTYPEIIを単独で用いる場合でも、ポリアクリル酸部分中和物を配合することによって、作業者が体液漏出防止剤をシリンジから比較的軽い力で滑らかに押し出すことができることがわかる。また、吸水性樹脂の配合量を60質量%程度まで高めても、体液漏出防止剤の吐出に支障がないことがわかる。
【0114】
以上の実施例1〜25の結果から、体液漏出防止剤を押し出す場合に、ピストンを押し込む初期からシリンジ内の体液漏出防止剤をすべて出し切るまで、安定した圧力値で押し出すことができる。特に体液漏出防止剤の吐出終了間際になっても、圧力が急激に高くなることがなく、滑らかに押し出せることが判った。ポリアクリル酸部分中和物が吸水性樹脂の分散安定性を高めているので、体液漏出防止剤の吐出開始から終了に至るまで、粘液基材だけが先に出て、吸水性樹脂が相対的に多く残ることが防止される。仮に吐出後半に溶剤の残量が少なくなったときでも、吸水性樹脂だけでなく、流動性が良いポリアクリル酸部分中和物も容器内に残っているので、急激に圧力が上がることなく、滑らかに押し出すことができる。
【0115】
上記実施形態では、容器3の収容部12をシリンジ10で構成したが、これに限らず、柔軟性を有するチューブのような部材を用いて構成してもよい。この場合、体液漏出防止剤2を収容部から搾り出すようにすればよい。
【0116】
また、実施形態の供給管4を口腔G(図4に示す)から咽喉部Bに向けて挿入するようにしてもよい。或いは、口腔から咽喉部に挿入する場合には、それに適した長さ、曲がり、内径(外径)に設定した別の供給管を用いても良い。
【0117】
また、上記供給管4を幼児に使用する場合には、供給管4の先端から約5cm位の部位に目印またはストッパーを設けるのが好ましい。さらに、児童用としては、挿入管部15の先端から約8cm位の部位に目印またはストッパーを設けるのが好ましい。また、供給管4を、鼻孔Aから咽喉部Bへ挿入する場合と、口腔Gから咽喉部Bへ挿入する場合との両方へ使用する場合には、上述したような目印やストッパーを2箇所設けるようにしてもよい。また、児童用の目印を、供給管4の軸方向に広く形成し、その目印の先端側(供給管4の先端側)を口腔Gから挿入する場合に目印として用い、後端側(供給管4の基端側)を鼻孔Aから挿入する場合に目印として用いてもよい。幼児用の供給管と、児童用の供給管と、成人用の供給管とをセットにしておき、必要に応じて選択して使用可能にしてもよい。幼児用の供給管と、児童用の供給管と、成人用の供給管とに、識別マークを付してもよいし、これら供給管の色を互いに異ならせてもよい。また、幼児用と児童用と成人用とで容器3の大きさを変えてもよい。また、幼児用と児童用と成人用とで体液漏出防止剤2の成分や装填量を変えてもよい。
【0118】
なお、装填器は上記実施形態に限られるものではなく、他の装填器でもよく、装填器でなく他の装填手段であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、ヒトや動物の遺体の口、鼻、耳、肛門、腔等の体腔に装填される体液漏出防止剤として利用することができる。
【符号の説明】
【0120】
1 装填器
2 体液漏出防止剤
3 容器
4 供給管
10 シリンジ
11 ピストン
12 収容部
13 ノズル部
14 突出部(係合部)
15 挿入管部
16〜18 第1〜第3装填孔
22 ストッパー(マーク)
23 孔部(係合部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺体の体腔に装填される体液漏出防止剤であって、
アルコール類、エーテル類およびエステル類よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む粘液基材中に吸水性樹脂が分散しており、且つ分散安定剤としてポリアクリル酸部分中和物を含有することを特徴とする体液漏出防止剤。
【請求項2】
分散安定剤として、さらに、カルボキシビニルポリマーを含有する請求項1に記載の体液漏出防止剤。
【請求項3】
上記吸水性樹脂として、生理食塩水の吸水速度が10秒以下である吸水性樹脂と、生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下である吸水性樹脂との少なくとも一方を含有する請求項1又は2に記載の体液漏出防止剤。
【請求項4】
上記吸水性樹脂として、生理食塩水の吸水速度が10秒以下である吸水性樹脂と、生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下である吸水性樹脂とを含有する請求項1又は2に記載の体液漏出防止剤。
【請求項5】
上記生理食塩水の吸水速度が10秒以下である吸水性樹脂の中位粒子径が20μm以上300μm以下であり、上記生理食塩水の吸水速度が15秒以上80秒以下である吸水性樹脂の中位粒子径が180μm以上400μm以下である請求項3又は4に記載の体液漏出防止剤。
【請求項6】
上記ポリアクリル酸部分中和物の中和度が40%以上80%以下である請求項1から5のいずれか1つに記載の体液漏出防止剤。
【請求項7】
上記ポリアクリル酸部分中和物の中位粒子径が10μm以上100μm以下である請求項1から6のいずれか1つに記載の体液漏出防止剤。
【請求項8】
上記吸水性樹脂の含有量が10質量%以上60質量%以下である請求項1から7のいずれか1つに記載の体液漏出防止剤。
【請求項9】
上記ポリアクリル酸部分中和物の含有量が0.05質量%以上5質量%以下である請求項1から8のいずれか1つに記載の体液漏出防止剤。
【請求項10】
体液漏出防止剤の粘度が80,000mPa・S以上200,000mPa・S以下である請求項1から9のいずれか1つに記載の体液漏出防止剤。
【請求項11】
体液漏出防止剤のpHが6以上9以下である請求項1から9のいずれか1つに記載の体液漏出防止剤。
【請求項12】
上記アルコール類がエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンの少なくとも1種である請求項1から11のいずれか1つに記載の体液漏出防止剤。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−224614(P2012−224614A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16652(P2012−16652)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【出願人】(500329906)
【Fターム(参考)】