説明

体積型ホログラムおよびその製造方法ならびに回折光の波長スペクトラムの偏移方法

【課題】コピープロテクションの機能が向上された体積型ホログラムおよびその製造方法ならびに回折光の波長スペクトラムの偏移方法を提供する。
【解決手段】体積型ホログラムの製造方法は、ホログラム記録層に対して、情報を記録するホログラム記録の工程と、情報が記録されたホログラム記録層の少なくとも一部を押圧するホログラム記録層の押圧の工程とを備える。ホログラム記録層の押圧の工程が、情報が記録されたホログラム記録層の変化を伴う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、体積型ホログラムおよびその製造方法ならびに回折光の波長スペクトラムの偏移方法に関する。特に、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を備える体積型ホログラムおよびその製造方法ならびに回折光の波長スペクトラムの偏移方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立体表示が可能なホログラムは、クレジットカード、身分証明書などの真贋判定のために使用されている。ホログラムの中でも、近年では、干渉パターンを記録層内部の屈折率の差として記録する体積型ホログラムが使用されることが多い。これは、体積型ホログラムの製造において、記録画像の制作に高度な技術を必要とすることおよび記録材料が入手困難なことによる。
【0003】
体積型ホログラムは、例えば、ホログラムが記録された原版(以下、オリジナル原版と適宜称する。)に対してホログラム用記録材料を密着または近接させ、オリジナル原版およびホログラム用記録材料に対してレーザ光を照射することにより、製造(量産)することができる。原版に記録されたホログラムをレーザ光により再生させ、原版に密着または近接させたホログラム用記録材料にホログラムを複製する手法は、コンタクトコピーと呼ばれる。
【0004】
コンタクトコピーの手法によれば、真正に製造された体積型ホログラムに対して未露光のホログラム用記録材料を近接させ、記録波長と近い波長のレーザ光を照射することにより、体積型ホログラムの不正な複製が不可能ではない。そのため、真正に製造された体積型ホログラムが、コピープロテクションの機能を備えていることが望まれる。
【0005】
体積型ホログラムに対して、コピープロテクションの機能を与える方法として、例えば、下記の特許文献1には、ホログラム記録層より観察者側に、部分的にパターニングされた光機能性フィルムを被着することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−217864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
体積型ホログラムに対しては、コピープロテクションの機能を向上させることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
体積型ホログラムの好ましい実施の態様は、体積型ホログラムが、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を1以上備える。
体積型ホログラムの好ましい実施の態様は、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域における厚さと残余の領域における厚さとが異なる。
【0009】
体積型ホログラムの好ましい他の実施の態様は、体積型ホログラムが、変化を伴って形成された領域を1以上有するホログラム記録層を備える。
変化を伴って形成された領域が、情報が記録されたホログラム記録層の少なくとも一部を押圧することにより得られる。
【0010】
体積型ホログラムの製造方法の好ましい実施の態様は、体積型ホログラムの製造方法が、ホログラム記録層に対して、情報を記録するホログラム記録の工程と、情報が記録されたホログラム記録層の少なくとも一部を押圧するホログラム記録層の押圧の工程とを備える。
ホログラム記録層の押圧の工程が、情報が記録されたホログラム記録層の変化を伴う。
【0011】
回折光の波長スペクトラムの偏移方法の好ましい実施の態様は、感光性材料に対して部分的に押圧することにより、回折光の波長スペクトラムを部分的に異ならせる。
【0012】
本技術は、ホログラムが記録されたホログラム記録層の少なくとも一部を押圧し、情報が記録されたホログラム記録層に変化を生じさせる。例えば、ホログラム記録層の少なくとも一部を押圧しながらホログラム記録層を硬化させることにより、押圧された部分が、変化を伴って硬化する。または、ホログラム記録層の少なくとも一部を押圧しながらホログラム記録層を硬化させることにより、押圧されなかった部分が、変化を伴って硬化する。
【0013】
該変化としては、コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象(複製品)に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化、厚さ方向の屈折率の変化、干渉パターンの変化、厚さの変化または所定の角度から白色光を照射したときの回折光の波長スペクトラムの変化を挙げることができる。例えば、該変化が、コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化であれば、不正なコンタクトコピーを試みても、複製品に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる。したがって、体積型ホログラムのコピープロテクションの機能が向上する。
【0014】
例えば、ホログラム記録層が、所定の角度から白色光を照射したときの回折光の波長スペクトラムの変化を伴う場合には、押圧した領域と残余の領域との間において、ホログラムからの回折光の波長スペクトラムが異なったものとなる。そのため、記録波長に近い波長のレーザ光を用いてコンタクトコピーを行うと、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域からは、記録されたホログラムが鮮明に再生されないため、複製品において、該領域に対応する領域の記録が不完全となる。すなわち、体積型ホログラムのコピープロテクションの機能が向上する。
【0015】
本技術では、ホログラム記録層へのホログラムの記録の後に、ホログラム記録層の少なくとも一部に対して変化を発生させる。そのため、体積型ホログラムに、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を形成させるために、記録波長の異なる複数のレーザ光源を用いる必要がない。
【発明の効果】
【0016】
少なくとも1つの実施例によれば、コンタクトコピーに対するコピープロテクションの機能が向上された体積型ホログラムおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aは、本開示の一実施の形態にかかる体積型ホログラムの一構成例を示す平面図である。図1Bは、図1Aに示す体積型ホログラムのA−A断面の一部について示す模式図である。
【図2】図2Aは、記録済み感光材料に対する分光特性の測定方法を説明するための略線図である。図2Bは、分光特性の測定結果の一例を示す図である。
【図3】図3A〜図3Cは、光重合型フォトポリマの感光プロセスを示す略線図である。
【図4】図4Aは、コンタクトコピーの説明に使用する略線図である。図4Bは、本開示の体積型ホログラムを原版とする不正なコンタクトコピーを行ったときの干渉パターンの記録の説明に使用する略線図である。図4Cは、本開示の体積型ホログラムからの再生像を模式的に示す平面図である。図4Dは、本開示の体積型ホログラムを原版とする不正なコンタクトコピーがなされた記録媒体からの再生像を模式的に示す平面図である。
【図5】図5A〜図5Dは、ホログラム記録層形成工程の説明に用いる図である。
【図6】図6A〜図6Cは、ホログラム記録層形成工程の他の構成例の説明に用いる図である。
【図7】図7A〜図7Dは、ホログラム記録工程の説明に用いる図である。
【図8】図8Aは、ホログラムの押圧の工程および露光の工程に用いるプレス型の一構成例を示す斜視図である。図8B〜図8Dは、ホログラムの押圧の工程および露光の工程の説明に用いる図である。
【図9】図9Aは、ホログラム記録層の露出面の面積に対して凸部の占める割合が小さくされたプレス型を用いての押圧の工程の説明に用いる図である。図9Bは、ホログラム記録層の露出面の面積に対して凸部の占める割合が大きくされたプレス型を用いての押圧の工程の説明に用いる図である。
【図10】図10Aは、サンプル1−1〜サンプル1−4の分光特性の測定結果を示す図である。図10Bは、サンプル1−1〜サンプル1−4の回折効率のピークに対応する点をCIEが定めるYxy表色系の色度図上に示した図である。
【図11】図11Aは、サンプル2−1〜サンプル2−4の分光特性の測定結果を示す図である。図11Bは、サンプル2−1〜サンプル2−4の回折効率のピークに対応する点をCIEが定めるYxy表色系の色度図上に示した図である。
【図12】図12Aは、体積型ホログラムの第1の変形例を示す平面図である。図12Bは、体積型ホログラムの第2の変形例を示す平面図である。図12Cは、体積型ホログラムの第3の変形例を示す平面図である。
【図13】図13Aは、体積型ホログラムの第4の変形例を示す平面図である。図13B〜図13Dは、体積型ホログラムの第4の変形例の製造工程の説明に用いる図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、体積型ホログラムおよび体積型ホログラムの製造方法ならびに回折光の波長スペクトラムの偏移方法の実施形態について説明する。説明は、以下の順序で行う。
<1.一実施の形態>
[一実施の形態の概要]
[体積型ホログラムの構成]
[コピープロテクション]
[体積型ホログラムの製造方法]
<2.変形例>
[体積型ホログラムの第1の変形例]
[体積型ホログラムの第2の変形例]
[体積型ホログラムの第3の変形例]
[体積型ホログラムの第4の変形例]
【0019】
なお、以下に説明する実施形態は、体積型ホログラムおよび体積型ホログラムの製造方法ならびに回折光の波長スペクトラムの偏移方法の好適な具体例である。以下の説明においては、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、特に本技術を限定する旨の記載がない限り、体積型ホログラムおよび体積型ホログラムの製造方法ならびに回折光の波長スペクトラムの偏移方法の例は、以下に示す実施形態に限定されないものとする。
【0020】
<1.一実施の形態>
本開示の体積型ホログラムおよび体積型ホログラムの製造方法ならびに回折光の波長スペクトラムの偏移方法は、以下の検討の結果により案出されたものである。
【0021】
[一実施の形態の概要]
コンタクトコピーを利用した不正な複製においては、真正に製造された体積型ホログラムからの回折光(再生光)を物体光として利用し、真正に製造された体積型ホログラムに対して密着または近接させたホログラム用記録材料に、ホログラムの記録を行う。すなわち、真正に製造された体積型ホログラムに記録されている情報を再生させる必要があることから、コンタクトコピーには、真正品の体積型ホログラムの記録波長と近い波長のレーザ光が用いられる。
【0022】
体積型ホログラムは、白色光で再生できることを特長とする。白色光により照明した体積型ホログラムの回折効率のピークに対応する波長は、体積型ホログラムへの記録に使用した記録波長と同一となる。例えば、波長が約532nmの緑色レーザにより、オリジナル原版のホログラムを体積型ホログラムに記録した場合、体積型ホログラムの回折効率のピークに対応する波長は、約532nmとなる。したがって、白色光のもとで体積型ホログラムを観察したときの画像が、緑色の色みとして知覚される。
【0023】
ここで、本発明者らは、例えば、体積型ホログラムの一部に、回折光の波長スペクトラムが他の部分からの回折光の波長スペクトラムと異なる領域を設けておくと、不正なコンタクトコピーの防止に有効であることを見出した。例えば、体積型ホログラムが、白色光により照明したときに、記録されたホログラムが緑色の色みとして知覚される領域と、記録されたホログラムが赤色の色みとして知覚される領域とを有していたとする。この体積型ホログラムを不正にコンタクトコピーしようとして、例えば、緑色レーザを用いると、ホログラムが緑色の色みとして知覚される領域の情報は再生されるが、ホログラムが赤色の色みとして知覚される領域の情報が再生されない。したがって、ホログラムが赤色の色みとして知覚される領域の情報が、不正な複製品に記録されない。
【0024】
回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を設けるには、例えば、発振波長の異なるレーザ光源を2以上使用し、体積型ホログラムに対して、2以上の異なる波長により、オリジナル原版からホログラムの記録を行うことが考えられる。
【0025】
しかしながら、発振波長の異なるレーザ光源を2以上使用する場合には、ホログラムの記録装置が大型化してしまうとともに、2以上の記録波長に対応した記録材料が必要となってしまう。また、ホログラムをオリジナル原版として使用する場合には、オリジナル原版の制作における露光量や回折効率の調整が難しく、レーザ光源の波長の選択やレーザ光のアラインメントも慎重に行わなければならない。したがって、単一波長で記録を行う場合と比較して、体積型ホログラムの製造工程が複雑化してしまう。
【0026】
発振波長の異なるレーザ光源を2以上使用するオリジナル原版の制作が複雑なものである。そのため、発振波長の異なるレーザ光源を2以上使用する手法は、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を1以上備える体積型ホログラムの製造に適さず、特に、少量多品種生産には不向きである。したがって、大量生産の都合上、同じホログラムの図柄が多数の品物に共通で使用されることとなり、体積型ホログラムの真贋判定のセキュリティの向上が妨げられてしまう。
【0027】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、単一の波長でホログラムの記録を行うものでありながら、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を1以上備える体積型ホログラムおよびその製造方法を見出すに至った。
【0028】
[体積型ホログラムの構成]
一実施の形態では、体積型ホログラムが、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を1以上備える。したがって、体積型ホログラムを、単一波長のレーザ光により不正にコンタクトコピーしようとしても、不正に複製されたホログラムには、複製が不完全な領域が生じる。すなわち、体積型ホログラムのコピープロテクションの機能を向上させることができる。
【0029】
一実施の形態では、体積型ホログラムが、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を1以上備える。好ましくは、所定の角度から白色光を照射したときの、隣接する領域間における色差が、0.5以上とされる。また、好ましくは、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域における厚さと残余の領域における厚さの差の絶対値が、残余の領域における厚さに対して、0を超え30%以下の範囲内とされる。なお、本技術によれば、体積ホログラムが、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を備えていることを気付かれにくくすることもできる。体積ホログラムが、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を備えているかどうかは、分光光度計による測定から判断することができる。すなわち、体積型ホログラムに対して、器具などを使わないと判定しにくいコバート(Covert)の技術要素を付与することもできる。
【0030】
ここで、本明細書でいう色差とは、CIE1976L***表色系における色差をいう。CIE1976L***表色系は、国際照明委員会(Commission Internationale de l'Eclairage(CIE))が策定した色空間であり、均等色空間(Uniform Color Space(UCS))の代表的なものである。したがって、CIE1976L***表色系は、等色差性を有し、色差を均等に測ることができるという利点を有する。以下、CIE1976L***表色系における色差を、色差△E*abと適宜記載する。また、CIE1976L***表色系を、L***表色系と適宜記載する。
【0031】
***表色系において、1番目の色および2番目の色に関する(L*,a*,b*)がそれぞれわかっているときには、色差△E*abは、1番目の色と2番目の色の(L*,a*,b*)の間のユークリッド距離で表される。すなわち、1番目の色および2番目の色の(L*,a*,b*)を、それぞれ(L*1,a*1,b*1)、(L*2,a*2,b*2)とすると、色差△E*abは、以下の式(1)により定義される。
【0032】
【数1】

【0033】
式(1)からわかるように、色差△E*abは、2色のL*の差、a*の差、b*の差をそれぞれ2乗して加え、その平方根をとることにより求められる。なお、L*は、明度指数と呼ばれ、0≦L*≦100の範囲である。L*=0は、黒を表し、L*=100は、白の拡散色を表す。a*およびb*は、クロマティクネス指数と呼ばれ、a*およびb*の値の範囲は、変換元の色空間により異なる。a*およびb*は、色空間において、色相と彩度に相当する位置を示す。
【0034】
図1Aは、本開示の一実施の形態にかかる体積型ホログラムの一構成例を示す平面図である。図1Aに示すように、体積型ホログラム1には、例えば、オリジナル原版から複製された画像情報などが、ホログラフィックに記録されている。
【0035】
体積型ホログラム1の観察者は、例えば、蛍光灯などの照明のもとで、体積型ホログラム1に記録されたホログラムを観察することができる。このとき、例えば、オリジナル原版のホログラムを、波長が約532nmの緑色レーザにより体積型ホログラム1に記録した場合であれば、体積型ホログラム1の再生像から知覚される色みは、緑色となる。これは、体積型ホログラム1の回折効率のピークに対応する波長が、記録波長と略等しい約532nmとなるからである。
【0036】
一実施の形態では、体積型ホログラム1は、回折光の波長スペクトラムが、他の領域における回折光の波長スペクトラムとは異なるようにされた領域R2を備える。具体的には、例えば、体積型ホログラム1は、回折効率のピークに対応する波長が記録波長と略等しい約532nmとなる領域R1のほかに、回折効率のピークに対応する波長が領域R1におけるものと異なるようにされた領域R2を備えている。図1Aに示す構成例では、「COPY」の文字の形状に領域R2が設けられている。図1Aでは、領域R2を、網掛け領域として示した。
【0037】
なお、領域R2の形状や、体積型ホログラム1の全体に占める位置および大きさは、任意に設定することができ、文字の形状に限られない。例えば、領域R2の形状を、点状、縞状、格子状、その他の模様状、円状、多角形状、記号状、符号状もしくはバーコード状またはこれらの結合としてもよい。また、回折光の波長スペクトラムが領域R1における回折光の波長スペクトラムと異なるようにされた領域を、領域R2のほかに、さらに複数設けるようにしてもよい。このとき、それぞれの領域における回折効率のピークに対応する波長は、互いに異なるようにされていることが好ましい。体積型ホログラム1のコピープロテクションの機能をより向上させることができるからである。
【0038】
ここで、本明細書でいう回折光の波長スペクトラムとは、ホログラムの回折効率(分光特性)の測定により得られる波長スペクトラムをいうものとする。また、本明細書でいうホログラムの回折効率は、以下の方法により測定されたものである。
【0039】
図2Aは、記録済み感光材料に対する分光特性の測定方法を説明するための略線図である。図2Bは、分光特性の測定結果の一例を示す図である。図2Aに示すように、記録済み感光材料に対する分光特性の測定では、光源53、コリメータレンズ55、絞り57、測定試料51、検出器63が順に配置される。検出器63と分光計65とから分光光度計61が構成され、分光光度計61からの出力が、解析用コンピュータ67に送られる。以下に、この測定で使用する分光光度計および光源を示す。
分光光度計…OCEAN OPTICS製 USB4000
光源(白色光源)…ハロゲンランプ(Yxy色度図上 Y:96.0, x:0.4508, y:0.4075)
【0040】
分光特性の測定の測定試料51は、例えば、記録済みの体積型ホログラムである。測定試料51は、その表面にたてた法線Nと、光源53から入射する光の光軸とのなす角θが、所定の角度となるように配置される。所定の角度とは、例えば、45°である。
【0041】
光源53からの照射光ILが、コリメータレンズ55および絞り57を介して、測定試料51に入射する。測定試料51に入射した照明光ILは、その一部が測定試料51により回折され、残余の光TL(透過光TL)が測定試料51を透過し、検出器63に到達する。測定試料51からの透過光TLが検出器63に入射し、解析用コンピュータ67により、測定試料51に入射した光の各波長に対する透過率T[%]が計算される。
【0042】
図2Bは、横軸を透過光の波長λ[nm]、縦軸を透過率T[%]としたグラフである。図2Bでは、測定試料51において白が印画された部分の透過率を実線により示し、黒が印画された部分の透過率を破線により示した。なお、図2Bに示すFWHMは、回折光強度の半値全幅(full width at half maximum)である。
【0043】
回折効率は、以下の式(2)により定義される。
(回折効率)=(I/I0)×100[%] ・・・(2)
ここで、図2Bに示すI0は、ある波長λdにおける、黒が印画された部分の透過率である。図2Bに示すIは、波長λdにおける、黒が印画された部分の透過率と白が印画された部分の透過率との差である。
【0044】
図1Bは、図1Aに示す体積型ホログラムのA−A断面の一部について示す模式図である。図1Bに示すように、一実施の形態にかかる体積型ホログラム1は、フォトポリマなどのホログラム感光材料からなるホログラム記録層5を含んでいる。図1Bに示す構成例では、体積型ホログラム1は、ホログラム記録層5の観察者側(図1Bにおいて上側)に、保護層3を備えている。また、図1Bに示す構成例では、体積型ホログラム1は、ホログラム記録層5の観察者側と反対側に、基材層7、粘着層11およびセパレータ13を備えている。以下、ホログラム記録層5、保護層3、基材層7および粘着層11について、順に説明する。
【0045】
(ホログラム記録層)
ホログラム記録層5は、体積型ホログラムが記録される層である。ホログラム記録層5を構成する材料としては、例えば、光重合性樹脂材料、光架橋性樹脂材料、銀塩材料、重クロム酸ゼラチンなどの感光性材料を挙げることができる。光重合性樹脂材料としては、露光後に特別な現像処理を施す必要がないことから、例えば、光重合型フォトポリマが使用されることが好ましい。
【0046】
図3A〜図3Cは、光重合型フォトポリマの感光プロセスを示す略線図である。光重合型フォトポリマは、初期状態では、図3Aに示すように、モノマMがマトリクスポリマに均一に分散している。これに対して、図3Bに示すように、10〜400mJ/cm2程度のパワーの光LAを照射すると、露光部においてモノマMが重合する。そして、ポリマ化するにつれて周囲からモノマMが移動してモノマMの濃度が場所によって変化し、これにより、屈折率変調が生じる。この後、図3Cに示すように、1000mJ/cm2程度のパワーの紫外線または可視光LBを全面に照射することにより、モノマMの重合が完了する。このように、光重合型フォトポリマは、入射された光に応じて屈折率が変化するので、参照光と物体光との干渉によって生じる干渉パターンを、屈折率の変化として記録することができる。
【0047】
光重合型フォトポリマを用いた体積型ホログラム1は、露光後に特別な現像処理を施す必要がない。したがって、光重合型フォトポリマをホログラム記録層5に用いることにより、体積型ホログラム1の製造装置の構成を簡略化することができる。
【0048】
後述するように、一実施の形態では、ホログラム記録層5の少なくとも一部が押圧される。ホログラム記録層5の少なくとも一部に対する押圧は、例えば、モノマMの重合を完了させるための光LBの照射と同時とされる。ホログラム記録層5の少なくとも一部を押圧するとともに、ホログラム記録層5の全面に対して所定のパワーの光を照射することにより、ホログラム記録層5が、変化を伴って硬化する。該変化は、例えば、体積型ホログラム1を原版とするコンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化である。
【0049】
ホログラム記録層5の少なくとも一部に対する押圧は、ホログラム記録層5への情報の記録の後であれば、モノマMの重合を完了させるための光LBの照射と同時でなくともよい。例えば、モノマMの重合を完了させるための光LBの照射の前または後に、ホログラム記録層5の少なくとも一部に対して押圧するようにしてもよい。ホログラム記録層5の少なくとも一部を押圧することで、回折光の波長スペクトラムが領域R1のものと異なるようにされた領域R2を形成することができる。なお、図1Bでは、領域R2を、網掛け領域として示した。
【0050】
(保護層)
保護層3は、例えば、樹脂材料からなる透明な保護フィルムである。保護層3は、傷や帯電の防止、フィルム形状形成、ホログラム形状の安定化などのために設けられる。保護層3を構成するための樹脂材料としては、例えば、紫外線硬化樹脂を挙げることができるが、これに限られない。保護層3を構成する材料としては、複屈折が十分に小さいことが好ましい。また、保護層3の光学屈折率が、ホログラム記録層5の光学屈折率と大きく異ならないことが好ましい。保護層3が、ホログラムの観察の際の妨げとならないからである。
【0051】
(基材層)
ホログラム記録層5の観察者側と反対側には、例えば、基材層7が設けられる。基材層7は、ホログラム記録層5を保護および支持するために設けられる。基材層7を構成する材料としては、例えば、樹脂材料を使用することができる。樹脂材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエステル、ポリイミドなどを使用することができる。
【0052】
基材層7は、必ずしも透明である必要はないが、基材層7が、透明であることが好ましい。ホログラム記録層5へのオリジナル原版に記録されたホログラムの記録の際、基材層7を介して、レーザ光をホログラム記録層5に照射することができるからである。また、フォトポリマ重合のための露光の際、基材層7を介して、例えば、紫外線などをホログラム記録層5に照射することができるからである。
【0053】
(粘着層)
図1Bに示す構成例では、基材層7と隣接して、ホログラム記録層5の観察者側と反対側に粘着層11が設けられており、粘着層11と隣接して、セパレータ13が設けられている。セパレータ13は、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂からなる剥離フィルムである。粘着層11およびセパレータ13は、必要に応じて設けられる。粘着層11およびセパレータ13を設けることにより、粘着層11を介して、体積型ホログラム1を商品などの被着体に容易に貼り付けることができる。
【0054】
粘着層11を構成する材料としては、例えば、アクリル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、またはこれらの共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、天然ゴム、カゼイン、ゼラチン、ロジンエステル、テルペン樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂、クロマンインデン樹脂、ポリビニルエーテル、シリコーン樹脂を挙げることができる。また、粘着層11として、アルファ−シアノアクリレート系、シリコーン系、マレイミド系、スチロール系、ポリオレフィン系、レゾルシノール系、ポリビニルエーテル系、シリコーン系接着剤を使用してもよい。粘着層11の厚さは、4μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0055】
粘着層11として、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系、変性オレフィン系、反応型ウレタン系、エチレン酢酸ビニル共重合系などの熱可塑性ホットメルト接着剤を使用してもよい。この場合、体積型ホログラム1を、いわゆる転写箔として構成することができる。
【0056】
基材層7が透明である場合には、粘着層11が、黒色であることが好ましい。ホログラムの背景となる粘着層11を黒色とするのは、商品などに貼り付けた場合に、ホログラムのコントラストが高まり、体積型ホログラム1に記録された情報が見やすくなるからである。ここで、黒色であるとは、OD(OPTICAL DENSITY)にて1.0以上、JIS Z 8729に規定されるL***表色系における明度において30以下、または、可視光領域波長400〜750nmにおける平均反射率が20%以下の範囲であることを指す。OD、明度または平均反射率が上述した範囲内であると、ホログラムが観察しやすく、好ましい。もちろん、基材層7を黒色としてもよい。
【0057】
ホログラム記録層5の自己結集力または破断強度に比して、粘着層11の接着力が強くされていることが好ましい。体積型ホログラム1を原版とする不正なコンタクトコピーを試みようとして、体積型ホログラム1を被着体から剥がそうとすると、体積型ホログラム1が被着体から剥がれるよりも先に、ホログラム記録層5が破壊される。そのため、体積型ホログラム1を原版とする不正なコンタクトコピーを防止することができる。
【0058】
[コピープロテクション]
ここで、体積型ホログラム1のコピープロテクションの機能について説明する。
【0059】
図4Aは、コンタクトコピーの説明に使用する略線図である。図4Bは、本開示の体積型ホログラムを原版とする不正なコンタクトコピーを行ったときの干渉パターンの記録の説明に使用する略線図である。図4Cは、本開示の体積型ホログラムからの再生像を模式的に示す平面図である。図4Dは、本開示の体積型ホログラムを原版とする不正なコンタクトコピーがなされた記録媒体からの再生像を模式的に示す平面図である。
【0060】
体積型ホログラム1を原版とする不正なコンタクトコピーにおいては、例えば、図4Aに示すように、複製用記録媒体71が、体積型ホログラム1に対して直接密着されるか、屈折率調整液などを介して密着される。複製用記録媒体71は、例えば、透明基材上にホログラム記録層が形成された記録媒体であり、複製用記録媒体71のホログラム記録層が、体積型ホログラム1の保護層3側に密着される。さらに、空間フィルタ75およびコリメータレンズ77を介して、レーザ光源73からのレーザ光が、体積型ホログラム1および複製用記録媒体71に照射される。
【0061】
レーザ光の照射により、体積型ホログラム1に記録された情報が再生される。体積型ホログラム1に記録された情報が再生されることにより、複製用記録媒体71に、体積型ホログラム1からの回折光(再生光)と、入射レーザ光とによって形成される干渉パターンが記録される。したがって、体積型ホログラム1に記録された情報が、複製用記録媒体71に複製される。
【0062】
ここで、体積型ホログラム1は、回折光の波長スペクトラムが、他の領域における回折光の波長スペクトラムとは異なるようにされた領域R2を備える。具体的には、例えば、体積型ホログラム1は、回折効率のピークに対応する波長が記録波長と略等しい領域R1のほかに、回折効率のピークに対応する波長が領域R1におけるものと異なるようにされた領域R2を備えている。言い換えれば、体積型ホログラム1の回折効率のピークに対応する波長が、領域R1と領域R2とで異なっている。
【0063】
図4Bは、図4Aに示す複製用記録媒体71および体積型ホログラム1の一部を拡大して模式的に示す断面図である。不正なコンタクトコピーに際しては、体積型ホログラム1の記録波長になるべく近い波長が、レーザ光の波長として選ばれる。したがって、レーザ光の照射Bに対して、体積型ホログラム1における領域R1からの回折光D1の強度が高く、複製用記録媒体71に記録される干渉パターンの鮮明度は高くなる。すなわち、複製用記録媒体71において、体積型ホログラム1の領域R1に対応する領域r1には、体積型ホログラム1の領域R1に記録されている情報が複製される。
【0064】
一方、レーザ光の照射Bに対して、領域R2から、回折光D1と同じ角度方向へ回折される回折光D2の強度は、領域R1からの回折光D1の強度と比較して低くなる。これは、体積型ホログラム1の領域R2における回折効率のピークに対応する波長が、領域R1における回折効率のピークに対応する波長とずれているためである。したがって、複製用記録媒体71に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる。
【0065】
例えば、図4Cに例示する画像情報が記録された体積型ホログラム1を、記録波長に近い波長のレーザ光によりコンタクトコピーしたとする。すると、複製用記録媒体71において、体積型ホログラム1の領域R2に対応する領域r2への、体積型ホログラム1の領域R2に記録されている情報の複製が、不完全なものとなる。このように、体積型ホログラム1の領域R1と体積型ホログラム1の領域R2とでは、複製に寄与する回折光の強度が異なったものとなり、その結果、複製用記録媒体71に記録される干渉パターンの鮮明度が相違したものとなる。
【0066】
所定の角度から白色光を照射したときの、領域R1、領域R2間における色差△E*abが、0.5以上であることが好ましい。言い換えれば、後述するホログラム記録層の押圧の工程において、回折光の波長スペクトラムの変化が、押圧した領域と押圧しなかった領域との間の色差において、0.5以上であることが好ましい。異なる領域間の色差△E*abが0.5以上であれば、体積型ホログラム1のコンタクトコピーに対するコピープロテクションの機能を付与することができるからである。不正なコンタクトコピーに用いられる複製用記録媒体に記録される干渉パターンの鮮明度を低くする観点からは、色差△E*abの上限は、特に制限されるものではない。
【0067】
なお、色差の値の評価基準が、米国標準局により設定されている。色差の程度の標語と、色差△E*abの大きさとの対応を以下に示す。以下に示す△E*abは、NBS(National Bureau of Standards)単位により表した値である。
きわめてわずかに異なる(trace) △E*ab:0〜0.5
わずかに異なる(slight) △E*ab:0.5〜1.5
感知し得るほどに異なる(noticeable) △E*ab:1.5〜3.0
著しく異なる(appreciable) △E*ab:3.0〜6.0
きわめて著しく異なる(much) △E*ab:6.0〜12.0
別の色系統になる(very much) △E*ab:12.0以上
(上記の値は、印刷物や表示画面に関する評価である。)
【0068】
ホログラムの場合、光源の波長成分や照明角、観察角などによって、同じ部分でも知覚される色みや輝度が変わり得るが、色差△E*abが1.5以上であれば、分光特性の測定における測定誤差の影響を十分に小さくすることが可能である。
【0069】
色差△E*abの範囲を0.5以上6以下とすることにより、白色光のもとで一見しただけでは、体積型ホログラム1に領域R2が設けられていることを気づかれにくくすることもできる。図4Cでは、説明の都合上、領域R2を網掛け領域として示しているが、体積型ホログラム1に設けられた領域R2は、色差△E*abが0.5以上6以下の範囲内である場合には、一見しただけではその存在が気づかれにくく、好ましい。
【0070】
体積型ホログラム1に領域R1および領域R2が設けられていることが、一見して気づかれにくいようにされている場合には、不正なコンタクトコピーを試みようとする者は、単一波長でコンタクトコピーを試みることになる。ところが、単一波長により体積型ホログラム1をコンタクトコピーすると、上述したように、複製用記録媒体71の領域r2に複製される情報が、不鮮明なものとなる。すなわち、図4Dに示すように、複製用記録媒体71に記録される情報は、領域r2に対応する部分の情報が抜け落ちるか、または、不鮮明となる。なお、図4Dでは、説明の都合上、領域r2を、破線で囲んだ領域として示した。
【0071】
一方、色差△E*abが6を超える場合には、白色光のもとで体積型ホログラム1を観察したときに、領域R2から知覚される色みが、領域R1から知覚される色みと異なっていることを視認できるようにすることができる。なお、体積型ホログラム1に記録されているホログラムを確認するという観点から、体積型ホログラム1に領域R2が設けられていることが、ホログラムの観察の邪魔とならないことが好ましい。色差△E*abが6を超える場合であっても、体積型ホログラム1の全体に占める領域R2の割合を小さくすることにより、体積型ホログラム1に領域R2が設けられていることを気づかれにくくすることも可能である。例えば、体積型ホログラム1の全面に占める領域R2の大きさや、体積型ホログラム1の全面に対する領域R2の位置によっては、領域R1、領域R2間の回折光の色差△E*abが、6を超えるように設定することもできる。
【0072】
領域R1、領域R2間の回折光の色差△E*abが、60以上となるようにしてもよい。色差△E*abが60以上である場合には、白色光のもとで体積型ホログラム1を観察したときの領域R2の色みと領域R1の色みとが、より異なっているように知覚させることができ、好ましい。このとき、体積型ホログラム1に記録されている情報の劣化を抑制する観点から、色差△E*abが80以下であることが好ましい。色差△E*abが80以下の場合には、後述するホログラム記録層の押圧の工程において、押圧された部分の変化が極端に大きくなることによる再生像の劣化を抑制できるからである。なお、色差△E*abが60以上の場合であっても、体積型ホログラム1の全体に占める領域R2の割合を小さくすることにより、体積型ホログラム1に領域R2が設けられていることを気づかれにくくすることも可能である。
【0073】
本開示の体積型ホログラムを原版として複製を行った場合には、例えば、領域R2が形成されているパターンが、複製後のホログラムに現れる。したがって、不正なコンタクトコピーが行われた複製品から観察される情報は、真正な体積型ホログラム1から観察される情報とは異なったものとなる。体積型ホログラム1に設けられた領域R2は、複製後のホログラムに対する、ウォーターマークの効果を与える。このことによって、ホログラムが複製品であるか否かが一見して分かるようになり、体積型ホログラムの真贋判定のセキュリティを高くすることができる。
【0074】
さらに、本開示は、体積型ホログラム1が領域R1および領域R2を有していることを、不正なコンタクトコピーを試みようとする者に気づかれたとしても、体積型ホログラム1がコピープロテクションの機能をただちに失うことを意味しない。
【0075】
例えば、体積型ホログラム1が、回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を複数有していたとする。この場合、複数領域間における、回折効率のピークに対応する波長のずれも含めて、体積型ホログラム1に記録されている情報を複製するには、多重露光を行う必要がある。しかしながら、一般的に、発振波長の異なるレーザ光源を2以上使用したホログラムの多重露光は、各波長間の露光量や回折効率の調整が困難である。さらに、本開示では、発振波長の異なるレーザ光源を複数用いてコンタクトコピーを行おうとしても、ある波長のもとである領域の像を再生させると、他の領域の像も弱いながら再生されてしまい、各波長に対応した露光が困難である。
【0076】
このように、本開示では、不正なコンタクトコピーにより、真正な体積型ホログラム1から観察される情報を再現することは、極めて困難である。したがって、本開示では、体積型ホログラムのコンタクトコピーに対するコピープロテクションの機能を向上させることができる。
【0077】
[体積型ホログラムの製造方法]
以下、図5〜図8を参照しながら、一実施の形態にかかる体積型ホログラムの製造方法の各工程について説明する。なお、図面の大きさの制約から、一連の製造工程を複数の図に分割して示しているが、生産性を考慮して、製造方法の一部または全部のプロセスをロールツーロール(Roll to Roll)により行うようにしてもよい。
【0078】
一実施の形態では、体積型ホログラムの製造工程は、ホログラム記録層に対して、情報を記録するホログラム記録の工程と、情報が記録されたホログラム記録層の少なくとも一部を押圧するホログラム記録層の押圧の工程とを備える。ホログラム記録層の押圧の工程では、情報が記録されたホログラム記録層の変化を伴う。
【0079】
一実施の形態では、ホログラム記録層5の少なくとも一部が、押圧される。ホログラム記録層5の少なくとも一部に対する押圧は、例えば、モノマMの重合を完了させるための光LBの照射と同時とされる。または、ホログラム記録層5の少なくとも一部に対する押圧は、モノマMの重合を完了させるための光LBの照射の前もしくは後とされる。体積型ホログラムの少なくとも一部が押圧されることにより、干渉パターンが記録されたフォトポリマ層に変性が起こる。そのため、情報が記録されたホログラム記録層には、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化、厚さ方向の屈折率の変化、干渉パターンの変化、厚さの変化または所定の角度から白色光を照射したときの回折光の波長スペクトラムの変化が生じる。ホログラム記録層のうち、フォトポリマ層に変性が生じた領域が、体積型ホログラムの領域R2を構成する。すなわち、ホログラムが記録された感光性材料に対して部分的に押圧することにより、感光性材料のうち、回折光の波長スペクトラムを部分的に異ならせ、回折光の波長スペクトラムを偏移させることができる。
【0080】
(ホログラム記録層の形成)
まず、図5Aに示すように、例えば、樹脂材料から、シート状やフィルム状の基材層7を成形する。成形方法としては、例えば、溶融押出法、射出成形法などを適用できるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
次に、図5Bに示すように、例えば、光重合型フォトポリマなどの感光性材料を塗布することにより、基材層7の一主面上にホログラム記録層5を形成する。光重合型フォトポリマの塗布には、例えば、ダイコート法、マイクログラビアコート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトグラビアコート法、ディップ法、スプレーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、コンマコート法、ナイフコート法、スピンコート法などが適用できる。
【0082】
必要に応じて、遠赤外線や温風などにより、塗布された光重合型フォトポリマの乾燥が行われる。乾燥は、塗布された光重合型フォトポリマがたれることを防止するために行われる。乾燥後の光重合型フォトポリマは、例えば、未硬化または半硬化の状態(以下、この状態をウェット状態と適宜称する。)とされる。以下では、基材層7とホログラム記録層5との積層体を積層体1aと称する。積層体1aは、図5Bに示すように、露出面PSを有している。
【0083】
図5Cに示すように、例えば、基材層7、ホログラム記録層5およびセパレータ83があらかじめ積層された積層体1sを供給するようにしてもよい。図5Cに示す構成例では、サプライロール10から、積層体1sが、矢印D1の方向に向かって繰り出される。図5Dに、図5Cに破線で示すX部における積層体1sの断面模式図を示す。なお、積層体1sは、ロール状に巻かれた状態にかえて、シートの状態で供給されてもよい。
【0084】
サプライロール10から繰り出された積層体1sは、ローラ91,92の上を順に走行し、ローラ93およびローラ94の間に導入される。なお、ローラ91,92は、積層体1sが弛まないようにするため、トーションコイルばねなどにより積層体1sに張力を付与できるようになされる。
【0085】
ここで、積層体1sから、セパレータ83が分離される。分離されたセパレータ83は、ローラ95上を通過した後、矢印D2の方向に向かって走行し、巻き取りロール30に巻き取られる。なお、サプライロールから供給される積層体が、セパレータ83を含まない構成とされていても構わない。このときは、ローラ95および巻き取りロール30を省略することができる。
【0086】
一方、セパレータ83が分離された後の積層体は、ローラ94の周面に巻きつけられ、矢印D3の方向に向かって走行するようにされる。セパレータ83が分離された積層体1sは、露出面PSを有するホログラム記録層5と基材層7との積層体1aとなる。図5Bに示した断面模式図が、図5Cに破線で示すY部における積層体の断面模式図に対応する。矢印D3の方向に向かって走行する積層体1aは、例えば、ホログラムの記録を行うための複製装置100に導入される。
【0087】
なお、ホログラム記録層5の形成は、図6Aに示すように、サプライロール20から供給される基材層7の一主面上に、光重合型フォトポリマなどの感光性材料を連続的に塗布することにより行うようにしてもよい。例えば、図6Aに示すように、サプライロール20から、基材層7が、矢印D1の方向に向かって繰り出される。基材層7は、例えば、サプライロール20にロール状に巻かれた状態やシートの状態で供給される。
【0088】
サプライリール20から繰り出された基材層7は、ローラ91,92の上を順に走行し、ローラ93およびローラ94の間を通過してローラ94の周面に巻きつけられる。なお、ローラ91,92は、基材層7が弛まないようにするため、トーションコイルばねなどにより基材層7に張力を付与できるようになされる。
【0089】
次に、ローラ94の周面に巻きつけられた基材層7に、光重合型フォトポリマなどの感光性材料が、スリットダイヘッド99によって一定の膜厚となるように塗布される。必要に応じて、遠赤外線や温風などにより、塗布された光重合型フォトポリマの乾燥が行われる。乾燥後に、ホログラム記録層5(塗布された光重合型フォトポリマ)の厚みを膜厚測定装置により測定し、塗布される光重合型フォトポリマの厚みが一定となるように、スリットダイヘッド99のスリットの開閉および開口の幅を制御するようにしてもよい。
【0090】
一主面上に光重合型フォトポリマが塗布された基材層7は、露出面PSを有するホログラム記録層5と基材層7との積層体1aを構成し、矢印D3の方向に向かって走行する。図6Bに示す断面模式図は、図6Aに破線で示すY部における積層体1aの断面模式図に対応する。図6Aに示す構成例においても、図5Cに示す構成例と同様に、矢印D3の方向に向かって走行する積層体1aは、例えば、ホログラムの記録を行うための複製装置100に導入される。
【0091】
(ホログラムの記録)
次に、ホログラム記録層5に対して、例えば、オリジナル原版105に記録されたホログラムを複製する。
【0092】
積層体1aは、例えば、ホログラムの複製を行うための複製装置100に導入される。複製装置100の内部では、積層体1aが停止された状態において、ホログラム記録層5とホログラム原版105とが互いに密着され、ホログラム記録層5およびホログラム原版105に対して記録用のレーザ光が照射される。ホログラム原版105は、例えば、記録済のホログラム層105aが、ガラス板105b,105cの間に挟まれたものである。ホログラム原版105からの回折光と記録用のレーザ光との干渉パターンが、屈折率の変化としてホログラム記録層5に記録される。このようにして、ホログラム原版105のホログラムが、ホログラム記録層5にホログラムとして複製される。
【0093】
図7A〜図7Dに示すように、複製装置100は、ホログラム原版105を含む複製エリアを密閉するチャンバC(二点鎖線で示す。)と、ホログラム原版105の幅以上の周面の幅を有するローラ101,102,103,104とを備える。必要に応じて、チャンバCの全体を真空環境とする排気装置を備えるようにしてもよい。ホログラム原版105が、積層体1aのホログラム記録層5の露出面PSと対向するように配置される。ローラ101〜104が、積層体1aの基材層7側に配置される。ローラ101〜104のうち、ローラ101および104は、複製装置100の入口側および出口側にそれぞれ配置される。ローラ101および104の設置位置は固定とされている。ローラ101〜104のうち、ローラ102および103は、複製装置100の内部で、積層体1aの出口側の近傍に設置されており、ローラ102は、ホログラム原版105のエッジの下方に位置している。ローラ102および103は、垂直方向および積層体1aの移送方向に沿ってスライドができるようになされている。
【0094】
図7Aに示すように、積層体1aが複製装置100に導入されると、ホログラム原版105の下方に積層体1aの複製領域が位置するまで積層体1aが移送された後、積層体1aの移送が一旦停止される。すなわち、複製装置100への積層体1aの移送は、間欠送りとされている。積層体1aの移送が一旦停止されると、必要に応じて、チャンバCの内部が真空とされる。チャンバCの内部を真空とするのは、ホログラム原版105と積層体1aのホログラム記録層5との間に空気が入り込むのを防止するためである。
【0095】
次に、図7Bに示すように、ローラ102および103が上昇し、積層体1aが持ち上げられる。ローラ102,103は、積層体1aがホログラム原版105のエッジに接触する位置よりやや上方まで上昇する。したがって、積層体1aのホログラム記録層5がホログラム原版105のエッジに押し当てられる。
【0096】
次に、図7Cに示すように、ローラ102および103が、複製装置100の入口側に向かって略水平方向にスライドする。ローラ103により、積層体1aがホログラム原版105の出口側エッジに押し付けられる。また、ローラ102がホログラム原版105の入口側のエッジまでスライドすることにより、積層体1aのホログラム記録層5がホログラム原版105に圧着される。ホログラム記録層5を構成する光重合型フォトポリマがウェット状態であるので、ホログラム原版105およびホログラム記録層5の間に空気が入ることを抑制でき、ホログラムの複製を安定させることができる。また、別個に密着液を使用する必要がないので、ホログラム原版105およびホログラム記録層5の界面に光学密着液を塗布して密着させ、ホログラム原版105およびホログラム記録層5の間から空気を除去する工程を不要とできる。
【0097】
次に、ホログラム原版105とホログラム記録層5とが密着した状態で、下方から記録用のレーザ光が照射される。記録用のレーザ光の照射Bにより、ホログラム原版105のホログラムがホログラム記録層5に複製される。記録用のレーザ光の波長は、ホログラム原版105のホログラムの記録時と同一である。
【0098】
次に、図7Dに示すように、ローラ103が下降し、複製装置100の出口側エッジにおいて、積層体1aがホログラム原版105から剥離される。なお、チャンバCの内部が真空とされていた場合には、ローラ103の下降に先立ち、大気が導入される。積層体1aがホログラム原版105から剥離されると、ローラ102および103が図7Aに示す初期位置に戻される。そして、次の記録領域がホログラム原版105の下面に位置する状態まで積層体1aが移送され、上述と同様のホログラム記録工程がなされる。
【0099】
(押圧の工程および露光の工程)
次に、ホログラム記録層5に記録画像を定着させるために、ホログラムの記録に続けて後処理が行われる。積層体1aに対する後処理により、モノマMの重合が完了する。一実施の形態では、積層体1aに対する後処理として、所定のパワーの光の照射とともに、または、所定のパワーの光の照射の前もしくは後に、積層体1aの少なくとも一部が押圧される。所定のパワーの光の照射により、光重合型フォトポリマの屈折率変調度が増加し、ホログラム記録層5に記録画像が定着する。積層体1aの少なくとも一部が押圧されることにより、ホログラム記録層5の一部が押圧される。ホログラム記録層5のうち、押圧された部分または押圧されなかった部分では変性が起こる。ホログラム記録層5に対する押圧は、例えば、コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化を伴う。
【0100】
積層体1aの少なくとも一部を押圧するために、例えば、一部に凸部が形成されたプレス型を用いることができる。図8Aに示すように、例えば、「COPY」の文字状の凸部が形成されたプレス型107を用いることで、ホログラム記録層5に対して、「COPY」の文字状の領域に選択的に押圧することができる。この場合、プレス型に形成された凸部の形状が、体積型ホログラム1の領域R2の形状に対応する。プレス型に形成される凸部の形状は、任意に設定することができ、「COPY」の文字の形状に限定されない。プレス型107を構成する材料としては、例えば、ガラス、石英、金属、樹脂材料などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、プレス型107は、平板状に限定されず、例えば、ロール状のプレス型とされてもよい。
【0101】
積層体1aをたわみのない支持体109の上に配置した後、図8Bに示すように、プレス型107の凸部が形成された側の面を、ホログラム記録層5の露出面PSと対向させて配置する。支持体109を構成する材料としては、プレス型107を構成する材料と同様に、例えば、ガラス、石英、金属、樹脂材料などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。支持体109が透明である場合には、積層体1aに対する所定のパワーの光の照射を、支持体109を介して行うことができる。
【0102】
次に、図8Cに示すように、プレス型107に押圧力Pを加えることにより、プレス型107を介して、支持体109にのせられた積層体1aを押圧する。このとき、プレス型107には凸部が形成されているため、ホログラム記録層5のうち、プレス型107に形成された凸部の形状に対応する部分にのみ、必要な押圧力が加わる。所定のパワーの光の照射とともに、積層体1aの少なくとも一部を押圧する場合には、積層体1aの少なくとも一部を押圧した状態で、例えば、支持体109を介して、積層体1aに対して所定のパワーの光を照射する。例えば、紫外線ランプなどによる所定のパワーの紫外線の照射Lにより、ホログラム記録層5に記録画像が定着する。なお、積層体1aに対する所定のパワーの光の照射は、プレス型107を透明な材料で構成し、プレス型107を介して行うようにしてもよい。
【0103】
積層体1aに対して押圧しながら、所定のパワーの光の照射を行うには、例えば、プレス型107および支持体109の少なくとも一方を透明とし、プレス型107および支持体109の両方を、積層体1aよりも大きな寸法としておけばよい。例えば、積層体1aよりも大きくされたプレス型107および支持体109の外縁部分を挟むようにして、プレス型107および支持体109に締め付け圧を加えるようにする。このようにすることで、プレス型107および支持体109に締め付け圧を加えることにより、積層体1aのうち、プレス型107に形成された凸部と接する部分にのみ、選択的に押圧することができる。また、プレス型107および支持体109の少なくとも一方を介した所定のパワーの光の照射を行うことができ、したがって、積層体1aに対する押圧と所定のパワーの光の照射とを同時に行うことが可能である。図8Dに、押圧および所定のパワーの光の照射後の積層体1aの平面図を模式的に示す。なお、図8Cおよび図8Dでは、領域R2を網掛け領域として示した。
【0104】
所定のパワーの光の照射前に、積層体1aの少なくとも一部を押圧する場合には、プレス型107を介して積層体1aを押圧した後、所定のパワーの光の照射を行えばよい。所定のパワーの光の照射後に、積層体1aの少なくとも一部を押圧する場合には、積層体1aに対して所定のパワーの光の照射を行った後、プレス型107を介して積層体1aを押圧すればよい。所定のパワーの光の照射の前もしくは後に、積層体1aの少なくとも一部を押圧する場合には、いずれの場合も、プレス型107および支持体109の両方、または一方が透明である必要はない。
【0105】
なお、本技術によれば、プレス型107に形成される凸部と、凸部以外の部分(凹部)との間の比率を変更することや、凸部の高さや幅(凹部の深さや幅)を変更することにより、ホログラム記録層5の変性を制御することも可能である。
【0106】
例えば、図9Aに示すように、ホログラム記録層5の露出面PSの面積に対して凸部の占める割合が小さくされたプレス型107aを用いる場合には、図8Cに示した場合と同様に、ホログラム記録層5のうち、凸部に押圧された部分で変性が起こる。一方、図9Bに示すように、ホログラム記録層5の露出面PSの面積に対して凸部の占める割合が大きくされたプレス型107bを用いる場合には、積層体1aのうち、プレス型107bの凸部と接しない部分が、プレス型107bの凹部に入り込む状態となる。すなわち、積層体1aのうち、プレス型107bの凸部に押圧されない部分が、プレス型107bの凹部に入り込む。この場合においては、積層体1aのうち、プレス型107bの凹部に入り込む部分を積極的に形成することにより、ホログラム記録層5の押圧されなかった部分に変性を起こさせることができる。
【0107】
ホログラム記録層5のうち、プレス型107に形成された凸部の形状に対応する部分には、必要な押圧力が加わる。ホログラム記録層5のうち、押圧された部分または押圧されなかった部分では、例えば、コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化が生じる。すなわち、ホログラム記録層5のうち、押圧された部分または押圧されなかった部分が、体積型ホログラム1の領域R2に対応する部分となる。押圧された部分または押圧されなかった部分に生じる変化としては、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化、厚さ方向の屈折率の変化、ホログラム記録層5に記録された干渉パターンの変化、厚さの変化または所定の角度から白色光を照射したときの回折光の波長スペクトラムの変化が挙げられる。
【0108】
ホログラム記録層5に変化が生じることにより、例えば、体積型ホログラム1を観察したときに、領域R2から知覚される色みが、領域R1から知覚される色みと異なったものとなる。また、例えば、所定の角度から白色光を照射したときの回折光の波長スペクトラムの広がりが大きくなる(ブロードになる。)。
【0109】
ホログラム記録層の変化が、厚さの変化を伴う場合には、厚さの変化が、押圧した領域における厚さと押圧しなかった領域における厚さの差の絶対値において、押圧しなかった領域の厚さに対して0を超え30%以下の範囲内であることが好ましい。押圧した領域における厚さと押圧しなかった領域における厚さとの間に差が生じると、押圧された部分または押圧されなかった部分では、コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる。厚さの変化が、絶対値で30%以下であれば、コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなるとともに、押圧された部分の変化が極端に大きくなることによるホログラムからの再生像の劣化を抑制できるからである。コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなるのは、ホログラム記録層の変化が押圧による厚さの変化を伴うと、ホログラム記録層に記録された干渉パターンに変化が生じることによるものと推測される。
【0110】
体積型ホログラムにおいては、干渉縞の間隔と、ホログラムの回折効率のピークに対応する波長(ホログラムの再生波長)とは反比例の関係にある。例えば、ホログラムの再生波長が、532nmを中心とした再生波長(Yxy色度図上 Y:29.53, x:0.177 y:0.718)から、492nmを中心とした再生波長(Yxy色度図上 Y:30.21, x:0.07 y:0.35)まで変化したとすると、色差△E*abはおよそ80.11となる。このとき、シミュレーション上では、厚さの変化は、およそ−7.5%となる。また、例えば、ホログラムの再生波長が、532nmを中心とした再生波長(Yxy色度図上 Y:29.53, x:0.177 y:0.718)から、562nmを中心とした再生波長(Yxy色度図上 Y:30.21, x:0.36 y:0.56)まで変化したとすると、色差△E*abはおよそ79.64となり、このとき、厚さの変化は、およそ+5.4%となる。
【0111】
ホログラム記録層の変化が、厚さの変化を伴う場合には、押圧した領域における厚さと押圧しなかった領域における厚さの差の絶対値が、押圧しなかった領域の厚さに対して0を超え15%以下の範囲内であるとより好ましく、0を超え8%以下の範囲内であるとさらに好ましい。ホログラム記録層に対して押圧力を加えることによる再生波長のシフトと、ホログラムからの再生像の劣化の抑制とを両立させることができるからである。
【0112】
(後工程)
次に、積層体1aに対して、必要に応じて、他の機能層の形成や他の機能材料との貼り合わせが行われる。例えば、紫外線硬化樹脂を塗布、硬化させることにより、ホログラム記録層5の露出面PS側に保護層3が形成される。また、例えば、積層体1aに対して、ポリエチレンテレフタレートなどの樹脂からなるセパレータ13の一主面上に粘着層11が形成された積層体との貼り合わせが行われる。
【0113】
上述した工程を経て、一実施の形態にかかる体積型ホログラム1が得られる。必要に応じ、体積型ホログラム1に対して型抜きや裁断が行われ、体積型ホログラム1は、検査工程や集積工程などにまわされる。
【実施例】
【0114】
以下、図10Aおよび図10Bならびに図11Aおよび図11Bを参照しながら、実施例により本技術を具体的に説明するが、本技術はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0115】
[実施例1.分光特性の測定による評価]
まず、分光特性の測定により、ホログラムが記録されたホログラム記録層への押圧による回折光の波長スペクトラムの変化を調べた。
【0116】
(サンプル1−1)
まず、基材層として、厚さ36μmのポリエチレンテレフタレートからなる樹脂シートを準備した。
【0117】
次に、ダイコート法により、ポリエチレンテレフタレートの樹脂シートの一主面上に、光重合型フォトポリマ(以下、フォトポリマPP1と適宜称する。)からなる、厚さ15μmのホログラム記録層を形成した。
【0118】
次に、全面が白色とされた白色板をオリジナル原版として用い、波長532nmのレーザ光によりホログラム原版を露光し、ホログラム原版にホログラムを記録した。次に、コンタクトコピーにより、ホログラム原版のホログラムをホログラム記録層に複製した。コンタクトコピーには、波長532nmのレーザ光を用いた。
【0119】
次に、基材層およびホログラム記録層の積層体を10mm□のサイズに切り出した後、2枚のガラス基材の間に挟み、2枚のガラス基材に締め付け圧を加えることにより、ホログラム記録層に対して押圧力を加えた。2枚のガラス基材のうち、ホログラム記録層側のガラス基材には、複数の凸部が形成されたガラス基材を用い、ホログラム記録層と該凸部とを対向させるようにした。ホログラム記録層側のガラス基材には、図9Aに示すプレス型107aと同様に、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部の占める割合が、凸部以外の部分(凹部)に比して小さいものを使用した。具体的には、ホログラム記録層側のガラス基材において、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部と凸部以外の部分(凹部)との比率を1:2に設定した。このとき、2枚のガラス基材に締め付け圧を加えると同時に、紫外線ランプにより、ホログラム記録層に接する側のガラス基材を介して、ホログラム記録層に対して紫外線の照射を行った。以下に、基材層およびホログラム記録層の積層体に対する押圧力と紫外線照射の条件を示す。
押圧力:500kgf/cm2(49MPa)
紫外線の照射エネルギ:7mW/cm2×30min
【0120】
上述した手順により、サンプル1−1の体積型ホログラムを得た。
【0121】
(サンプル1−2)
基材層およびホログラム記録層の積層体を2枚のガラス基材の間に挟み、2枚のガラス基材に締め付け圧を加え、締め付け圧を解放した後に紫外線の照射を行ったこと以外はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−2の体積型ホログラムを得た。
【0122】
(サンプル1−3)
基材層およびホログラム記録層の積層体を2枚のガラス基材の間に挟み、紫外線の照射を行った後に、2枚のガラス基材に締め付け圧を加えたこと以外はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−3の体積型ホログラムを得た。
【0123】
(サンプル1−4)
2枚のガラス基材に締め付け圧を加えずに紫外線の照射を行ったこと以外はサンプル1−1と同様にして、サンプル1−4の体積型ホログラムを得た。
【0124】
[分光特性]
サンプル1−1〜サンプル1−4のそれぞれについて、図2Aに示す測定方法により、ガラス基材の凸部と接していた部分を含む領域の分光特性を測定した。図10Aに、サンプル1−1〜サンプル1−4の分光特性の測定結果を示す。
【0125】
図10Aは、横軸を透過光の波長λ[nm]、縦軸を透過率T[%]としたグラフである。図10Aにおいて、L11,L12,L13,L14が、サンプル1−1〜サンプル1−4の分光特性の測定結果にそれぞれ対応する。図10Aから、サンプル1−1の体積型ホログラムと、サンプル1−2〜1−4の体積型ホログラムとを比較すると、サンプル1−1の体積型ホログラムは、回折効率のピークに対応する波長が短波長側にずれていることがわかる。以下に、それぞれのサンプルについて、分光特性の測定から得られた回折効率のピークに対応する波長を示す。
サンプル1−1:492.6nm
サンプル1−2:523.9nm
サンプル1−3:526.7nm
サンプル1−4:527.5nm
【0126】
図10Bは、サンプル1−1〜サンプル1−4の回折効率のピークに対応する点をCIEが定めるYxy表色系の色度図上に示した図である。図10Bにおいて、点「○」は、サンプル1−1の回折効率のピークに対応する点の色度座標を表している。同様に、点「□」,点「△」,点「●」は、サンプル1−2,サンプル1−3,サンプル1−4の回折効率のピークに対応する点の色度座標をそれぞれ表している。
【0127】
図10Bにおいて、濃い網掛けにより示した領域Rgは、知覚される色みが略緑色の領域であり、薄い網掛けにより示した領域Rbは、知覚される色みが略青色の領域である。したがって、サンプル1−1の体積型ホログラムを観察したとき、サンプル1−1の体積型ホログラムは、青色の色みを帯びて見える。
【0128】
サンプル1−1〜サンプル1−4の回折効率のピークに対応する波長に関して、Yxy表色系における(Y,x,y)およびL***表色系における(L*,a*,b*)を、下記の表1にそれぞれ示す。
【0129】
【表1】

【0130】
以下に、表1に示す(L*,a*,b*)から得られる、サンプル1−4とサンプル1−1〜サンプル1−3との間に関する色差△E*abをそれぞれ示す。
サンプル1−1およびサンプル1−4間:△E*ab=65.04
サンプル1−2およびサンプル1−4間:△E*ab=14.85
サンプル1−3およびサンプル1−4間:△E*ab=13.81
【0131】
図10Aおよび図10Bならびに表1から以下のことがわかった。
【0132】
サンプル1−1〜サンプル1−4についての測定結果から、ホログラム記録層に対して、押圧力を加えることにより、回折効率のピークに対応する波長をシフトできることがわかった。サンプル1−1では、回折効率のピークに対応する波長が短波長側に30nm程度シフトしており、所定のパワーの光の照射と押圧とを同時に行うと、回折効率のピークに対応する波長をシフトさせる効果が高いことがわかった。
【0133】
次に、ホログラム記録層側のガラス基材において、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部と凸部以外の部分(凹部)との比率を変更し、同様の評価を行った。
【0134】
(サンプル2−1)
まず、基材層として、厚さ36μmのポリエチレンテレフタレートからなる樹脂シートを準備した。
【0135】
次に、ダイコート法により、ポリエチレンテレフタレートの樹脂シートの一主面上に、フォトポリマPP1とは異なる光重合型フォトポリマからなる、厚さ15μmのホログラム記録層を形成した。
【0136】
次に、全面が白色とされた白色板をオリジナル原版として用い、波長532nmのレーザ光によりホログラム原版を露光し、ホログラム原版にホログラムを記録した。次に、コンタクトコピーにより、ホログラム原版のホログラムをホログラム記録層に複製した。コンタクトコピーには、波長532nmのレーザ光を用いた。
【0137】
次に、基材層およびホログラム記録層の積層体を10mm□のサイズに切り出した後、2枚のガラス基材の間に挟み、2枚のガラス基材に締め付け圧を加えることにより、ホログラム記録層に対して押圧力を加えた。2枚のガラス基材のうち、ホログラム記録層側のガラス基材には、複数の凸部が形成されたガラス基材を用い、ホログラム記録層と該凸部とを対向させるようにした。ホログラム記録層側のガラス基材には、図9Bに示すプレス型107bと同様に、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部の占める割合が、凸部以外の部分(凹部)に比して大きいものを使用した。具体的には、ホログラム記録層側のガラス基材において、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部と凸部以外の部分(凹部)との比率を2:1に設定した。このとき、2枚のガラス基材に締め付け圧を加えると同時に、紫外線ランプにより、ホログラム記録層に接する側のガラス基材を介して、ホログラム記録層に対して紫外線の照射を行った。以下に、基材層およびホログラム記録層の積層体に対する押圧力と紫外線照射の条件を示す。
押圧力:500kgf/cm2(49MPa)
紫外線の照射エネルギ:7mW/cm2×30min
【0138】
上述した手順により、サンプル2−1の体積型ホログラムを得た。
【0139】
(サンプル2−2)
基材層およびホログラム記録層の積層体を2枚のガラス基材の間に挟み、2枚のガラス基材に締め付け圧を加え、締め付け圧を解放した後に紫外線の照射を行ったこと以外はサンプル2−1と同様にして、サンプル2−2の体積型ホログラムを得た。
【0140】
(サンプル2−3)
基材層およびホログラム記録層の積層体を2枚のガラス基材の間に挟み、紫外線の照射を行った後に、2枚のガラス基材に締め付け圧を加えたこと以外はサンプル2−1と同様にして、サンプル2−3の体積型ホログラムを得た。
【0141】
(サンプル2−4)
2枚のガラス基材に締め付け圧を加えずに紫外線の照射を行ったこと以外はサンプル2−1と同様にして、サンプル2−4の体積型ホログラムを得た。
【0142】
[分光特性]
サンプル2−1〜サンプル2−4のそれぞれについて、図2Aに示す測定方法により、ガラス基材の凸部と接していなかった部分(凹部)を含む領域の分光特性を測定した。図11Aに、サンプル2−1〜サンプル2−4の分光特性の測定結果を示す。
【0143】
図11Aは、横軸を透過光の波長λ[nm]、縦軸を透過率T[%]としたグラフである。図11Aにおいて、L21,L22,L23,L24が、サンプル2−1〜サンプル2−4の分光特性の測定結果にそれぞれ対応する。図11Aから、サンプル2−1の体積型ホログラムと、サンプル2−2〜2−4の体積型ホログラムとを比較すると、サンプル2−1の体積型ホログラムは、回折効率のピークに対応する波長が長波長側にずれていることがわかる。以下に、それぞれのサンプルについて、分光特性の測定から得られた回折効率のピークに対応する波長を示す。
サンプル2−1:536.2nm
サンプル2−2:524.9nm
サンプル2−3:525.7nm
サンプル2−4:525.7nm
【0144】
図11Bは、サンプル2−1〜サンプル2−4の回折効率のピークに対応する点をCIEが定めるYxy表色系の色度図上に示した図である。図11Bにおいて、点「○」は、サンプル2−1の回折効率のピークに対応する点の色度座標を表している。同様に、点「□」,点「△」,点「●」は、サンプル2−2,サンプル2−3,サンプル2−4の回折効率のピークに対応する点の色度座標をそれぞれ表している。
【0145】
図11Bにおいて、濃い網掛けにより示した領域Rgは、知覚される色みが略緑色の領域であり、薄い網掛けにより示した領域Ryは、知覚される色みが略黄色の領域である。したがって、サンプル2−1の体積型ホログラムを観察したとき、サンプル2−1の体積型ホログラムは、黄色の色みを帯びて見える。
【0146】
サンプル2−1〜サンプル2−4の回折効率のピークに対応する波長に関して、Yxy表色系における(Y,x,y)およびL***表色系における(L*,a*,b*)を、下記の表2にそれぞれ示す。
【0147】
【表2】

【0148】
以下に、表2に示す(L*,a*,b*)から得られる、サンプル2−4とサンプル2−1〜サンプル2−3との間に関する色差△E*abをそれぞれ示す。
サンプル2−1およびサンプル2−4間:△E*ab=69.28
サンプル2−2およびサンプル2−4間:△E*ab=13.11
サンプル2−3およびサンプル2−4間:△E*ab=13.71
【0149】
図11Aおよび図11Bならびに表2から以下のことがわかった。
【0150】
サンプル2−1〜サンプル2−4についての測定結果から、ホログラム記録層に対して、押圧力を加えることにより、所定の角度から白色光を照射したときの回折光の波長スペクトラムをブロードとできることがわかった。また、サンプル2−1では、回折効率のピークに対応する波長が長波長側に10nm程度シフトしており、所定のパワーの光の照射と押圧とを同時に行うと、回折効率のピークに対応する波長をシフトできることがわかった。
【0151】
なお、図10Aおよび図10Bならびに表1と、図11Aおよび図11Bならびに表2とを比較すると、以下のことがわかった。
【0152】
ホログラム記録層側のガラス基材において、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部と凸部以外の部分(凹部)との比率を変更することにより、回折効率のピークに対応する波長を短波長側にも長波長側にもシフトさせられることがわかった。サンプル1−1におけるシフト量に対してサンプル2−1におけるシフト量が小さいのは、ホログラム記録層への凸部による直接的な押圧と比較して、ホログラム記録層を凹部に入り込ませる変形では、ホログラム記録層の変形量が小さくなるためと推測される。言い換えれば、同じ押圧力であっても、ホログラム記録層の面積に占める凸部と凹部の比率を変更することにより、回折効率のピークに対応する波長のシフト量を制御することができるといえる。
【0153】
以上により、ホログラムが記録されたホログラム記録層に対して、押圧することにより、回折光の波長スペクトラムを偏移できることがわかった。したがって、本技術によれば、体積型ホログラムに対して、ホログラムの複製後に回折効率のピークに対応する波長をシフトさせることもできる。さらに、回折効率のピークに対応する波長のシフトは、押圧する領域を適宜設定することにより、体積型ホログラムの一部の領域に対して、選択的に行うことが可能である。
【0154】
[実施例2.シミュレーションによる評価]
次に、シミュレーションにより、体積型ホログラムの厚さの変化と、ホログラムの再生波長との間の関係を調べた。
【0155】
(サンプル3−1)
まず、基材層として、厚さ36μmのポリエチレンテレフタレートからなる樹脂シートを準備した。樹脂シートの製作に用いたポリエチレンテレフタレートの各物性値を以下に示す。
透過率:88%
ヘイズ(Haze):2〜3%
屈折率:1.66
リタデーション(Retardation):700〜1500nm
【0156】
次に、ダイコート法により、ポリエチレンテレフタレートの樹脂シートの一主面上に、フォトポリマPP1からなるホログラム記録層を形成した。
【0157】
次に、全面が白色とされた白色板をオリジナル原版として用い、波長532nmのレーザ光によりホログラム原版を露光し、ホログラム原版にホログラムを記録した。次に、コンタクトコピーにより、ホログラム原版のホログラムをホログラム記録層に複製した。コンタクトコピーには、波長532nmのレーザ光を用いた。
【0158】
次に、基材層およびホログラム記録層の積層体を10mm□のサイズに切り出した後、2枚のガラス基材の間に挟み、2枚のガラス基材に締め付け圧を加えることにより、ホログラム記録層に対して押圧力を加えた。2枚のガラス基材のうち、ホログラム記録層側のガラス基材には、複数の凸部が形成されたガラス基材を用い、ホログラム記録層と該凸部とを対向させるようにした。ホログラム記録層側のガラス基材には、図9Aに示すプレス型107aと同様に、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部の占める割合が、凸部以外の部分(凹部)に比して小さいものを使用した。具体的には、ホログラム記録層側のガラス基材において、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部と凸部以外の部分(凹部)との比率を1:2に設定した。このとき、2枚のガラス基材に締め付け圧を加えると同時に、紫外線ランプにより、ホログラム記録層に接する側のガラス基材を介して、ホログラム記録層に対して紫外線の照射を行った。以下に、基材層およびホログラム記録層の積層体に対する押圧力と紫外線照射の条件を示す。
押圧力:500kgf/cm2(49MPa)
紫外線の照射エネルギ:7mW/cm2×30min
【0159】
上述した手順により、サンプル3−1の体積型ホログラムを得た。
【0160】
サンプル3−1の体積型ホログラムにおける、ガラス基材の凸部により押圧された領域を白色光源のもとで観察したところ、該領域における再生像の色みは青色であった。
【0161】
(サンプル3−2)
次に、ホログラム記録層に対して押圧力を加えるためのガラス基材の表面の形状を変更したこと以外はサンプル3−1と同様にして、サンプル3−2の体積型ホログラムを得た。ホログラム記録層に対する押圧においては、ホログラム記録層側のガラス基材として、図9Bに示すプレス型107bと同様に、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部の占める割合が、凸部以外の部分(凹部)に比して大きいものを使用した。具体的には、ホログラム記録層側のガラス基材において、ホログラム記録層の面積に占める複数の凸部と凸部以外の部分(凹部)との比率を2:1に設定した。
【0162】
サンプル3−2の体積型ホログラムにおける、ガラス基材の凸部により押圧されなかった領域を白色光源のもとで観察したところ、該領域における再生像の色みは赤色であった。
【0163】
(サンプル3−3)
2枚のガラス基材に締め付け圧を加えずに紫外線の照射を行ったこと以外はサンプル3−1と同様にして、サンプル3−3の体積型ホログラムを得た。なお、以下に、硬化前および硬化後におけるフォトポリマPP1の屈折率をそれぞれ示す。
屈折率(硬化前):1.492
屈折率(硬化後):1.485
【0164】
白色光源のもとでサンプル3−3の体積型ホログラムを観察したところ、再生像の色みは緑色であった。
【0165】
ここで、各サンプルの表面形状を測定することにより、押圧による、ホログラム記録層の厚さの変化を調べた。以下に、この測定で使用した測定機およびデータ解析ソフトウェアを示す。
超精密非接触三次元表面性状測定機…Taylor Hobson Ltd製 Talysurf CCI6000
データ解析ソフトウェア…Taylor Hobson Ltd製 TalyMap Platinum
【0166】
さらに、各サンプルに関するホログラム記録層の厚さの変化量から期待される、ホログラムの再生波長を計算により求め、表面形状の測定結果とホログラムの再生波長との比較を行った。
【0167】
以下、ホログラムの再生波長の計算の概略について説明する。
【0168】
まず、一辺の長さがL、厚さがtとされた平板形状のホログラム記録層を想定し、xyz直交座標において、長さLの辺に平行な方向および厚さ方向をそれぞれx軸方向およびz軸方向にとった。
【0169】
初めに、ホログラム記録層に入射した光により形成される干渉縞の間隔ΛVと、入射光の波長λとの間の関係を求めた。以下においては、光源や観察者の視点がホログラム記録層の表面から十分に離れているものとし、いずれの光も平面波であるものとみなして計算を行った。
【0170】
空気中(屈折率を1とする。)からホログラム記録層に入射する物体光および参照光の入射角をそれぞれθS、θRとすると、zx面内における、物体光の振幅分布ΣSおよび参照光の振幅分布ΣRは、以下の式(3)および(4)によりそれぞれ表される。ここで、式中、iは虚数単位、kは波数(k=2π/λ)を表す。
【0171】
【数2】

【0172】
【数3】

【0173】
したがって、物体光および参照光の干渉による振幅の強度分布は、以下の式(5)により求められる。
【0174】
【数4】

【0175】
よって、物体光および参照光の合成波の進行方向に関して、振幅の強度が極大となる点の間隔は、Nを整数として、以下の式(6)により求められる。
【0176】
【数5】

【0177】
θF=(θS+θR)/2とおいて式(6)を整理すれば、以下の式(7)が得られる。
【0178】
【数6】

【0179】
式(7)からわかるように、干渉縞は、z軸に対して角θFをなす方向と平行に形成される。また、jが整数であるとして、式(7)でN=(j+1)とおいたものと、式(7)でN=jとおいたものとの差をとればわかるように、干渉縞の間隔Λは、以下の式(8)により表される。
【0180】
【数7】

【0181】
したがって、ホログラム記録層の屈折率をnとすれば、結局、ホログラム記録層に入射した光により形成される干渉縞の間隔ΛVは、以下の式(9)により表されることがわかる。なお、式(9)中、ΘSは、ホログラム記録層内における物体光の入射角であり、ΘRは、ホログラム記録層内における参照光の入射角である。
【0182】
【数8】

【0183】
次に、ホログラム記録層からの再生光(回折光)の出射方向と、再生光の波長との関係について考察する。そのために、まず、再生光に対する、記録された画像をホログラム記録層から再生させるための条件を求める。
【0184】
計算の煩雑さを避けるためホログラム記録層の屈折率n=1とすると、ホログラム記録層の振幅透過率分布のうち、直接光を再生する成分TAは、以下の式(10)により表される。
【0185】
【数9】

【0186】
照明光として、以下の式(11)により表される平行光ΣCをホログラム記録層に入射させたとすると、θC´の方向へ出射される光の複素振幅分布ΣC´は、以下の式(12)の形に表される。なお、式中のkCは、平行光ΣCに関する波数である。
【0187】
【数10】

【0188】
【数11】

【0189】
ここで、式(12)中のαおよびβは、以下の式(13)および式(14)によりそれぞれ表される。
【0190】
【数12】

【0191】
【数13】

【0192】
記録された画像をホログラム記録層から再生させるには、複素振幅分布ΣC´が最大となる必要がある。すなわち、t≠0のもとで、α=0かつβ=0であることが要請され、したがって、記録された画像をホログラム記録層から虚像が再生されるためには、λC=λかつθC=θRかつθC´=θSが成り立たなければならないことがわかる。なお、λCは、平行光ΣCの波長である。
【0193】
次に、ホログラム記録層の厚さと、ホログラムの再生波長との間の関係について考察する。
【0194】
ホログラム記録層の屈折率を考慮に入れるには、ホログラム記録層の厚さおよびホログラムの再生波長に関する式(14)を、以下の式(15)の形に書き換えればよい。さらに、上述した式(9)で導入した干渉縞の間隔ΛVを用いれば、以下の式(16)を得る。なお、式(15)および式(16)中、ΘCは、ホログラム記録層内における照明光の入射角であり、ΘC´は、ホログラム記録層内における再生光の出射角である。また、式(16)中、ΘF=(ΘS+ΘR)/2である。
【0195】
【数14】

【0196】
【数15】

【0197】
ホログラム記録層から虚像が再生されるための条件である、λC=λかつθC=θRかつθC´=θSを、λC=λかつΘC=ΘRかつΘC´=ΘSと置き換え、β=0、t≠0およびsinΘF≠0のもとで式(16)に適用すれば、以下の式(17)を得る。
【0198】
【数16】

【0199】
以上により、ホログラム記録層からの再生光の出射方向と、再生光の波長との関係が、式(17)として得られた。なお、式(17)中のΘB=(ΘS−ΘR)/2は、照明光の光軸が干渉縞となす角の大きさである。
【0200】
ここで、ホログラム記録層の厚さtが変化したとすると、厚さtの変化に伴い、z軸に対する干渉縞の傾きに対応する角θFと、干渉縞の間隔ΛVとが変化するものと考えられる。また、角θFの変化に対応して、照明光の光軸が干渉縞となす角の大きさΘBも変化すると考えられる。
【0201】
式(17)は、ホログラム記録層の厚さtの変化に伴って、干渉縞の間隔ΛVおよび角ΘBが変化すると、再生光の波長が変化することを示している。すなわち、押圧前の体積型ホログラムを観察したときと同一の照明のもとで押圧後の体積型ホログラムを観察すると、押圧後の体積型ホログラムから知覚される色みが、押圧前の体積型ホログラムから知覚された色みとは異なった色みとなる。
【0202】
ホログラム記録層の厚さtの変化後における再生光の波長は、ホログラム記録層の厚さtの変化に伴う干渉縞の間隔ΛVの変化および角ΘBの変化を求め、式(17)により計算することができる。
【0203】
押圧による、ホログラム記録層の厚さの変化の測定結果と、各サンプルに関するホログラム記録層の厚さの変化量から期待される、ホログラムの再生波長のシミュレーション結果とを下記の表3に示す。下記の表3に示すホログラムの再生波長のシミュレーション結果は、ホログラム記録層の厚さの変化の測定結果から、式(17)に基づいて求めたものである。
【0204】
表3において、Ttotalは、各サンプルの総厚みの測定結果を示している。Tphは、各サンプルの各ホログラム記録層の厚さであり、Tph=Ttotal−(ポリエチレンテレフタレートの厚さ:36μm)を示している。Difは、各サンプルに関するTphの平均値と、リファレンスとしてのサンプル3−3に関するTphの平均値との差を示している。また、λsimは、各サンプルに関するDifの値から、式(17)に基づくシミュレーションにより求めたホログラムの再生波長である。なお、ホログラムの再生波長のシミュレーションにおいては、物体光の入射角度θS=180°、参照光の入射角度θR=45°、参照光の入射角度θC=45°に設定した。
【0205】
【表3】

【0206】
表3から、ホログラムの再生波長のシミュレーション結果を確認すると、以下のことがわかった。
【0207】
450〜495[nm]の波長帯域の光は、青色の色みの光として認識され、620〜750[nm]の波長帯域の光は、赤色の色みの光として認識されることが知られている。また、495〜570[nm]の波長帯域の光は、緑色の色みの光として認識されることが知られている。すなわち、ホログラムの再生波長のシミュレーション結果によれば、サンプル3−1、サンプル3−2に関するホログラム記録層の厚さの変化量から期待される再生像の色みは、それぞれ青色、赤色となる。
【0208】
上述したように、サンプル3−1の体積型ホログラムの押圧された領域からの再生像の色み、サンプル3−2の体積型ホログラムの押圧されなかった領域からの再生像の色みは、それぞれ青色、赤色であった。また、サンプル3−3の体積型ホログラムの再生像の色みは、緑色であった。したがって、ホログラム記録層の厚さの変化と、再生像の色みとの間の相関もとれていることがわかった。
【0209】
以上により、ホログラムの記録時におけるホログラム記録層の厚さではなく、ホログラムの記録後におけるホログラム記録層の厚さを変化させることにより、ホログラムの再生波長を変化させ、回折光の波長スペクトラムを偏移できることがわかった。このとき、ホログラム記録層の厚さを、ホログラムの記録時におけるホログラム記録層の厚さよりも小さくすると、ホログラムの再生波長が短波長側へシフトする。また、ホログラム記録層の厚さを、ホログラムの記録時におけるホログラム記録層の厚さよりも大きくすると、ホログラムの再生波長が長波長側へシフトする。
【0210】
すなわち、ホログラムが記録されたホログラム記録層に対して、押圧することにより、回折光の波長スペクトラムを偏移できることがわかった。したがって、本技術によれば、体積型ホログラムに対して、ホログラムの複製後に回折効率のピークに対応する波長をシフトさせることもできる。さらに、回折効率のピークに対応する波長のシフトは、押圧する領域を適宜設定することにより、体積型ホログラムの一部の領域に対して、選択的に行うことが可能である。
【0211】
本技術によれば、ホログラムの記録後に回折効率のピークに対応する波長をシフトさせることができるため、回折効率のピークに対応する波長が異なるようにされた領域の形成に際して、複数の波長の光源を用いる必要がない。言い換えれば、本技術によれば、ホログラムの記録後におけるホログラム記録層の厚さを制御することにより、単一の光源を使用した1回のホログラム記録工程でありながら、疑似カラーホログラムを得ることができる。しかも、本技術では、ホログラム記録層をあらかじめ膨潤させてからホログラム記録を行う手法とは異なり、所望する再生波長に応じた膨潤率をあらかじめ求める必要がないため、ホログラム記録時の波長の設定の自由度も高い。
【0212】
本技術によれば、体積型ホログラムの製造工程を複雑化させずに、体積型ホログラムのコピープロテクションの機能を向上させることができる。
【0213】
<2.変形例>
[体積型ホログラムの第1の変形例]
図12Aは、体積型ホログラムの第1の変形例を示す平面図である。例えば、体積型ホログラム1vaには、オリジナル原版から複製された画像情報などが記録されている。また、体積型ホログラム1vaは、回折光の波長スペクトラムが領域R1におけるものと異なるようにされた領域R2を備えている。図12Aに示す構成例では、「COPY」の文字の形状に領域R2が設けられている。図12Aでは、領域R2を、網掛け領域として示した。以下においても、領域R2を、網掛け領域として示すものとする。
【0214】
図12Aに示す構成例では、体積型ホログラム1vaが、画像情報のほかに、付加情報として、ホログラフィックに記録された数字の列「490349521234」をさらに含んでいる。ここで、ホログラフィックに記録された数字の列は、体積型ホログラム1vaに識別情報IDとして付加された情報である。
【0215】
図12Aに示すように、体積型ホログラム1vaが、ホログラフィックに記録された識別情報IDを少なくとも1つ含むようにしてもよい。付加情報として、体積型ホログラム1vaが、連続したシリアル番号のようなユニークな識別情報IDを含むことにより、体積型ホログラム1vaの真贋判定機能を向上させることができる。なお、体積型ホログラム1vaに付加情報をホログラフィックに記録することに代え、または付加情報のホログラフィックな記録とともに、付加情報を別の媒体上に現すようにしてもよい。例えば、体積型ホログラム1vaをラベル台紙などと貼り合わせて一体構成とし、印刷などにより、ラベル台紙に付加情報を現すようにしてもよい。
【0216】
付加情報として記録される識別情報IDとしては、ユニークなものであれば数字の配列に限定されることはなく、種々の情報を利用してよい。例えば、シリアル番号、製造者名、ロット番号、バイオメトリクス情報などの種々の情報を記録できる。記録の形態も、文字、記号、符号、図形、これらの結合に限らず、一次元バーコード、二次元バーコードなどの識別情報以外の画像情報を記録することもできる。2以上の付加情報を記録するようにしてもよい。
【0217】
[体積型ホログラムの第2の変形例]
図12Bは、体積型ホログラムの第2の変形例を示す平面図である。図12Bに示す構成例では、体積型ホログラム1vbが、付加情報として、ホログラフィックに記録された識別情報IDを含んでいる。また、体積型ホログラム1vbが、付加情報として、ホログラフィックに記録された二次元バーコードBCをさらに含んでいる。もちろん、二次元バーコードに代えて、一次元バーコードを記録するようにしてもよい。このようにすることで、例えば、識別情報IDと二次元バーコードBCとの間に、関連付けを行うことができ、体積型ホログラム1vbの真贋判定機能を向上させることができる。
【0218】
識別情報IDと二次元バーコードBCとの間の関連付けとしては、例えば、二次元バーコードBCの少なくとも一部が、識別情報IDの少なくとも一部と一致するようにすることができる。具体的には、例えば、二次元バーコードBCをデコードした情報が数字を表すようにし、その末尾の数字が、識別情報IDとして記録された数字の列「490349521234」の少なくとも一部と一致するようにできる。または、計算式などを用いた対応をさせることにより、二次元バーコードBCをデコードした情報から、識別情報IDの少なくとも一部を復元できるようにするといったことが考えられる。なお、識別情報IDと二次元バーコードBCとの間の関連付けは必ずしも1対1である必要はなく、多対多の対応付けも可能である。識別情報IDと二次元バーコードBCとの間の関連付けに、暗号化のプロセスを介在させてもよい。
【0219】
また、例えば、図12Bに示すように、領域R2の形状と、識別情報IDまたは二次元バーコードBCの少なくとも一方とを関連付けるようにしてもよい。図12Bに示す構成例では、体積型ホログラム1vbに設けられた領域R2の形状が、「1234」の文字の形状とされている。すなわち、領域R2の形状と、識別情報IDとして記録された数字の列「490349521234」の少なくとも一部とが、一致している。言い換えれば、領域R2の形状に関する情報と識別情報IDとが関連付けられている。この場合も、領域R2の形状に関する情報と識別情報IDとの間の関連付けに、暗号化のプロセスを介在させることが可能である。
【0220】
[体積型ホログラムの第3の変形例]
図12Cは、体積型ホログラムの第3の変形例を示す平面図である。図12Cに示す構成例では、体積型ホログラム1vcが、付加情報として、ホログラフィックに記録された識別情報IDおよびホログラフィックに記録された二次元バーコードBCを含んでいる。図12Cに示す構成例では、例えば、領域R2が、体積型ホログラム1vcの記録面に対して左下に設けられ、その形状が、例えば、円形状とされている。このようにすることで、領域R2の形状、位置、もしくは面積、またはこれらの組み合わせと、識別情報IDまたは二次元バーコードBCの少なくとも一方との間に関連付けを行うことができ、体積型ホログラム1vcの真贋判定機能を向上させることができる。領域R2の形状、位置、もしくは面積、またはこれらの組み合わせと、識別情報IDまたは二次元バーコードBCの少なくとも一方との間の関連付けに、暗号化のプロセスを介在させてもよい。
【0221】
このとき、領域R2の面積が、1mm2以上50mm2以下の範囲内とされることが好ましい。体積型ホログラム1vcに対して、器具などを使わないと判定しにくいコバートの技術要素を付与することができるからである。
【0222】
領域R2の面積が、50mm2以下の範囲内であると、一見しただけでは、体積ホログラム1vcが、回折光の波長が異なるようにされた領域R2を備えていることが気づかれにくい。体積型ホログラム1vcの発行者は、体積型ホログラム1vcに設けられた領域R2の形状、位置、もしくは面積、またはこれらの組み合わせに関する情報をあらかじめ保有しておくことができる。また、体積型ホログラム1vcの発行者は、体積ホログラム1vcが、領域R2を備えているかどうかを、分光光度計による測定から判断することができる。領域R2の面積が1mm2以上であれば、分光光度計による分光特性の測定が可能である。
【0223】
図12Cに示すように、体積型ホログラム1vcの形状または状態に特徴を有するようにしておいてもよい。
【0224】
図12Cに示す構成例では、体積型ホログラム1vcの左上に、切り欠き部CCが設けられている。すなわち、切り欠き部CCを設けることにより、体積型ホログラム1vcの形状または状態の特徴に関する情報として、例えば、切り欠き部の位置や数、大きさ、切り欠きの形状といった情報を体積型ホログラム1vcに付加することができる。切り欠き部を設けることに代え、または切り欠き部を設けるとともに、体積型ホログラム1vcにパンチングなどにより開口部を設けるようにしてもよい。
【0225】
体積型ホログラム1vcの形状または状態の特徴に関する情報としては、例えば、体積型ホログラム1vcの外形、外形と記録された識別情報との相対的な位置関係、表面の凹凸形状、開口部の数,大きさ,および位置、および外形寸法のいずれか、またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0226】
体積型ホログラム1vcの形状または状態の特徴に関する情報は、領域R2の形状、位置、もしくは面積、またはこれらの組み合わせや、識別情報ID、二次元バーコードBCの少なくとも一つと関連付けることが可能である。この場合にも、関連付けに、暗号化のプロセスを介在させることができる。
【0227】
[体積型ホログラムの第4の変形例]
図13Aは、体積型ホログラムの第4の変形例を示す平面図である。図13Aに示す構成例では、体積型ホログラム1vdが、回折光の波長スペクトラムが領域R1におけるものと異なるようにされた領域R2を備えており、領域R2が、凹凸形状を有している。領域R2における凹凸形状は、例えば、光回折パターンである。具体的には、例えば、体積型ホログラム1vdの領域R2には、エンボス型ホログラム(レインボーホログラムともいう。)と同様の光回折パターンが形成される。したがって、体積型ホログラム1vdは、体積型ホログラムとエンボス型ホログラムの特徴を備えた複合型のホログラムということができる。
【0228】
エンボス型ホログラムも体積型ホログラムと同様に、記録された情報が白色光で再生される。したがって、白色光により所定の角度から体積型ホログラム1vdを照明すると、体積型ホログラム1vdのホログラム記録層5に屈折率の差として記録された情報(体積型ホログラム)と、領域R2にエンボス型ホログラムとして記録された情報とが、同じ再生角度で再生される。すなわち、所定の角度から白色光を照射して体積型ホログラム1vdを観察すると、領域R2からは、ホログラム記録層5の体積型ホログラムと、領域R2のエンボス型ホログラムとが、重なって観察される。このとき、体積型ホログラム1vdを照明する角度方向や、体積型ホログラム1vdの観察方向を変化させると、体積型ホログラムから知覚される色みは一定であるのに対して、領域R2のエンボス型ホログラムから知覚される色みが変化する。
【0229】
ここで、図4A〜図4Dを参照して説明したように、複製用記録媒体に対して、体積型ホログラム1vdを原版とする不正なコンタクトコピーを試みたとする。コンタクトコピーに際して、ホログラム記録層5に屈折率の差として記録された情報を再生させるために体積型ホログラム1vdにレーザ光を照射すると、領域R2にエンボス型ホログラムとして記録された情報も、同じ再生角度で再生される。すなわち、複製用記録媒体には、体積型ホログラム1vdのホログラム記録層5に屈折率の差として記録された情報と、領域R2にエンボス型ホログラムとして記録された情報とが記録される。
【0230】
ところが、不正なコンタクトコピーがされた複製用記録媒体(以下、不正なコピーと適宜称する。)には、体積型ホログラム1vdのホログラム記録層5に屈折率の差として記録された情報と、領域R2にエンボス型ホログラムとして記録された情報とが、体積型ホログラムとして記録される。そのため、白色光のもとで不正なコピーを観察すると、不正なコピーを照明する角度方向や、不正なコピーの観察方向を変化させても、領域R2に対応する領域r2から知覚される色みが変化しない。言い換えれば、コンタクトコピーを行っても、体積型ホログラム1vdと同様の複合型ホログラムとして不正なコピーを得ることができない。したがって、本技術によれば、体積型ホログラム1vdのコンタクトコピーに対するコピープロテクションの機能を向上させることができるとともに、真正品と不正なコピーとの判定が容易となり、体積型ホログラム1vdの真贋判定機能が向上する。
【0231】
図13B〜図13Dは、体積型ホログラムの第4の変形例の製造工程の説明に用いる図である。図13Aに示す体積型ホログラム1vdは、上述した一実施の形態にかかる体積型ホログラム1と同様の工程により製造することができる。
【0232】
図13B〜図13Dに示すプレス型108は、体積型ホログラム1vdの製造工程における押圧の工程および露光の工程に使用されるプレス型の構成例である。プレス型108は、ホログラム記録層5の露出面PSと接するようにされた凸部の表面が、エンボス型ホログラムの光回折パターンに対応する凹凸面CSとされる点で、図8A〜図8Cに示すプレス型107と異なっている。
【0233】
プレス型108の凹凸面CSをホログラム記録層5の露出面PSと対向させて積層体1aを押圧することにより、積層体1aのうち、プレス型108の凹凸面CSと接する部分にのみ、選択的に押圧することができる。ホログラム記録層5のうち押圧された部分では変性が起こるとともに、プレス型108の凹凸面CSの凹凸形状が転写される。すなわち、領域R2に、エンボス型ホログラムの光回折パターンを選択的に形成することができる。体積型ホログラム1vdの用途によっては、体積型ホログラム1vdの全面にエンボス型ホログラムの光回折パターンを形成してもよい。なお、図13Aおよび図13Dでは、領域R2を網掛け領域として示した。
【0234】
第4の構成例は、上述した第1の構成例、第2の構成例または第3の構成例に示した構成と、互いに組み合わせることももちろん可能である。例えば、体積型ホログラム1vdが、画像情報のほかに、付加情報として、ホログラフィックに記録された識別情報IDや二次元バーコードBCなどを含んでいてもよい。体積型ホログラム1vdが、体積型ホログラム1vdの形状または状態に特徴を有するようにされていてもよい。例えば、体積型ホログラム1vdが、切り欠き部CCなどを有していてもよい。領域R2の形状、位置、もしくは面積、もしくはこれらの組み合わせ、識別情報ID、二次元バーコードBC、または体積型ホログラム1vdの形状もしくは状態などとの間に関連付けを行ってもよい。
【0235】
以上、好適な実施形態について説明したが、好適な具体例は、上述した説明に限定されるものではない。
【0236】
例えば、上述の実施の形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料および数値などを用いてもよい。上述の実施の形態の構成、方法、工程、形状、材料および数値などは、本開示の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0237】
例えば、本技術は以下のような構成もとることができる。
(1)
ホログラム記録層に対して、情報を記録するホログラム記録の工程と、
情報が記録されたホログラム記録層の少なくとも一部を押圧するホログラム記録層の押圧の工程と
を備え、
前記ホログラム記録層の押圧の工程が、前記情報が記録されたホログラム記録層の変化を伴う
体積型ホログラムの製造方法。
(2)
前記ホログラム記録層の押圧の工程が、前記情報が記録されたホログラム記録層を硬化させるための所定のパワーの光の照射とともになされる
(1)に記載の体積型ホログラムの製造方法。
(3)
前記ホログラム記録層の押圧の工程が、前記情報が記録されたホログラム記録層を硬化させるための所定のパワーの光の照射の前になされる
(1)に記載の体積型ホログラムの製造方法。
(4)
前記ホログラム記録層の押圧の工程が、前記情報が記録されたホログラム記録層を硬化させるための所定のパワーの光の照射の後になされる
(1)に記載の体積型ホログラムの製造方法。
(5)
前記変化が、所定の角度から白色光を照射したときの回折光の波長スペクトラムの変化である
(1)ないし(4)のいずれかに記載の体積型ホログラムの製造方法。
(6)
前記変化が、ホログラム記録層の厚さの変化である
(1)ないし(5)のいずれかに記載の体積型ホログラムの製造方法。
(7)
前記変化が、コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化である
(1)ないし(6)のいずれかに記載の体積型ホログラムの製造方法。
(8)
前記変化が、厚さ方向の屈折率の変化である
(1)ないし(7)のいずれかに記載の体積型ホログラムの製造方法。
(9)
前記変化が、ホログラム記録層に記録された干渉パターンの変化である
(1)ないし(8)のいずれかに記載の体積型ホログラムの製造方法。
(10)
前記回折光の波長スペクトラムの変化が、前記押圧した領域と残余の領域との間の色差において0.5以上である
(5)ないし(9)のいずれかに記載の体積型ホログラムの製造方法。
(11)
前記押圧した領域における厚さと残余の領域における厚さの差の絶対値が、前記残余の領域の厚さに対して0を超え30%以下の範囲内である(6)ないし(10)のいずれかに記載の体積型ホログラムの製造方法。
(12)
回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を1以上備え、
前記回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域における厚さと残余の領域における厚さとが異なる
体積型ホログラム。
(13)
所定の角度から白色光を照射したときの、前記回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域と前記残余の領域との間における色差が、0.5以上の範囲内であり、
前記回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域における厚さと前記残余の領域における厚さの差の絶対値が、前記残余の領域における厚さに対して0を超え30%以下の範囲内である
(12)に記載の体積型ホログラム。
(14)
ホログラフィックに記録された識別情報を少なくとも1つ含む
(12)または(13)に記載の体積型ホログラム。
(15)
形状または状態に特徴を有し、
前記形状または状態に関する情報が、外形、外形と記録された識別情報との相対的な位置関係、表面の凹凸形状、開口部の数,大きさ,および位置、および外形寸法のいずれか、またはこれらの組み合わせから決められ、
前記形状または状態に関する情報と、前記識別情報のうちの少なくとも1つとが、関連付けられる
(14)に記載の体積型ホログラム。
(16)
前記回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域のうち、少なくとも1つの領域の面積が、1mm2以上50mm2以下の範囲内とされる
(12)ないし(15)のいずれかに記載の体積型ホログラム。
(17)
変化を伴って形成された領域を1以上有するホログラム記録層を備え、
前記変化を伴って形成された領域が、情報が記録された前記ホログラム記録層に対して、少なくとも一部を押圧することにより得られる体積型ホログラム。
(18)
ホログラムが記録された感光性材料に対して部分的に押圧することにより、回折光の波長スペクトラムを部分的に異ならせる、回折光の波長スペクトラムの偏移方法。
【0238】
なお、上述した実施形態では、基材層の一主面上に光重合型フォトポリマを塗布することにより、ホログラム記録層および基材層の積層体を構成する例を示したが、この例に限られない。
【0239】
例えば、保護層を支持体として、保護層の一主面上に光重合型フォトポリマを塗布することにより、ホログラム記録層および保護層の積層体を構成するようにしてもよい。この場合において、体積型ホログラムを、例えば、粘着層、ホログラム記録層および保護層の積層体として構成し、基材層を省略した構成とすることも可能である。このとき、ホログラム記録層と粘着層との間の化学反応を起こすことを防止するため、ホログラム記録層および粘着層の間にブロッキング層を介在させることが好ましい。
【0240】
本技術は、商品を梱包したパッケージ、非接触ICカード、IDカード、銀行カード、クレジットカード、社員証、学生証、定期券、運転免許証、外国旅券、ビザ、証券、通帳、印紙、切手、携帯電話、貨幣、金券、証書、商品券、絵画、切符、公共競技投票券などの真正性を識別するための識別媒体に適用が可能である。
【符号の説明】
【0241】
1 ・・・体積型ホログラム
1va ・・・体積型ホログラム
1vb ・・・体積型ホログラム
1vc ・・・体積型ホログラム
1vd ・・・体積型ホログラム
3 ・・・保護層
5 ・・・ホログラム記録層
7 ・・・基材層
R1 ・・・回折効率のピークに対応する波長が記録波長と略等しい領域
R2 ・・・他の領域とは異なる波長スペクトラムを有する領域
107 ・・・プレス型
108 ・・・プレス型
109 ・・・支持体
P ・・・押圧力
L ・・・所定のパワーの紫外線の照射
ID ・・・識別情報
BC ・・・二次元バーコード
CC ・・・切り欠き部
CS ・・・凹凸面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラム記録層に対して、情報を記録するホログラム記録の工程と、
情報が記録されたホログラム記録層の少なくとも一部を押圧するホログラム記録層の押圧の工程と
を備え、
前記ホログラム記録層の押圧の工程が、前記情報が記録されたホログラム記録層の変化を伴う
体積型ホログラムの製造方法。
【請求項2】
前記ホログラム記録層の押圧の工程が、前記情報が記録されたホログラム記録層を硬化させるための所定のパワーの光の照射とともになされる
請求項1に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項3】
前記ホログラム記録層の押圧の工程が、前記情報が記録されたホログラム記録層を硬化させるための所定のパワーの光の照射の前になされる
請求項1に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項4】
前記ホログラム記録層の押圧の工程が、前記情報が記録されたホログラム記録層を硬化させるための所定のパワーの光の照射の後になされる
請求項1に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項5】
前記変化が、コンタクトコピーを行ったときに、コピーの対象に記録される干渉パターンの鮮明度が低くなる変化である
請求項1に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項6】
前記変化が、厚さ方向の屈折率の変化である
請求項1に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項7】
前記変化が、ホログラム記録層に記録された干渉パターンの変化である
請求項1に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項8】
前記変化が、ホログラム記録層の厚さの変化である
請求項1に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項9】
前記変化が、所定の角度から白色光を照射したときの回折光の波長スペクトラムの変化である
請求項1に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項10】
前記回折光の波長スペクトラムの変化が、前記押圧した領域と残余の領域との間の色差において0.5以上である
請求項9に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項11】
前記押圧した領域における厚さと残余の領域における厚さの差の絶対値が、前記残余の領域の厚さに対して0を超え30%以下の範囲内である請求項8に記載の体積型ホログラムの製造方法。
【請求項12】
回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域を1以上備え、
前記回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域における厚さと残余の領域における厚さとが異なる
体積型ホログラム。
【請求項13】
所定の角度から白色光を照射したときの、前記回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域と前記残余の領域との間における色差が、0.5以上であり、
前記回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域における厚さと前記残余の領域における厚さの差の絶対値が、前記残余の領域における厚さに対して0を超え30%以下の範囲内である
請求項12に記載の体積型ホログラム。
【請求項14】
ホログラフィックに記録された識別情報を少なくとも1つ含む
請求項12に記載の体積型ホログラム。
【請求項15】
前記回折光の波長スペクトラムが異なるようにされた領域のうち、少なくとも1つの領域の面積が、1mm2以上50mm2以下の範囲内とされる
請求項12に記載の体積型ホログラム。
【請求項16】
形状または状態に特徴を有し、
前記形状または状態に関する情報が、外形、外形と記録された識別情報との相対的な位置関係、表面の凹凸形状、開口部の数,大きさ,および位置、および外形寸法のいずれか、またはこれらの組み合わせから決められ、
前記形状または状態に関する情報と、前記識別情報のうちの少なくとも1つとが、関連付けられる
請求項14に記載の体積型ホログラム。
【請求項17】
変化を伴って形成された領域を1以上有するホログラム記録層を備え、
前記変化を伴って形成された領域が、情報が記録された前記ホログラム記録層の少なくとも一部を押圧することにより得られる体積型ホログラム。
【請求項18】
ホログラムが記録された感光性材料に対して部分的に押圧することにより、回折光の波長スペクトラムを部分的に異ならせる、回折光の波長スペクトラムの偏移方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−256021(P2012−256021A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−2012(P2012−2012)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(594064529)株式会社ソニーDADC (88)
【Fターム(参考)】