説明

体細胞核初期化物質のスクリーニング方法

(a) ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と被験物質とを接触させる工程、および(b) 前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の出現の有無を調べ、該細胞を出現させた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、を含む、体細胞の核初期化物質のスクリーニング方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、体細胞核初期化物質の新規なスクリーニング方法に関する。より詳細には、本発明は、ECAT遺伝子を利用し、ES様細胞化をマーカー遺伝子の発現でモニターすることにより、体細胞からES様細胞への変換を誘導する物質(体細胞の核初期化(Nuclear reprogramming)を誘導する物質)を効率的に同定する方法に関する。また本発明は、ECAT遺伝子を利用し、ES様細胞化をマーカー遺伝子の発現でモニターすることにより、ES様細胞を効率的に選択する方法に関する。さらに本発明は、ECAT遺伝子を利用し、ES細胞の未分化・多能性維持(ES細胞としての状態維持)をマーカー遺伝子の発現でモニターすることにより、ES細胞の未分化・多能性維持物質を効率的に選択する方法に関する。
【背景技術】
胚性幹細胞(ES細胞)は哺乳動物胚盤胞の内部細胞塊より樹立した幹細胞であり、すべての細胞へと分化する能力(分化多能性)を維持したまま、無限に増殖させることができる。この特性から、ES細胞から大量合成した心筋細胞や神経細胞を心筋梗塞やパーキンソン病患者に移植して治療する幹細胞療法が期待されている。しかしES細胞にはヒト受精卵を利用し、犠牲にするという致命的とも言える倫理的問題が存在する。一方、生体の各組織には神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞などの組織幹細胞が存在する。組織幹細胞は受精卵を使わないので倫理的問題が無く、また患者自身の細胞が使えるので拒絶反応も回避することができる。しかし組織幹細胞は単離が難しく、増殖能や分化能もES細胞に比べると比べものにならないほど限られている。組織幹細胞や分化細胞等の体細胞を何らかの手段により高い増殖能と分化多能性を有するES細胞に類似した細胞に変換することができたなら、このES様細胞は臨床応用にとって理想的な幹細胞となる。具体的には、例えば患者の体細胞を採取し、これを核初期化因子(核初期化を誘導する因子)で刺激してES様細胞に変換し、これを幹細胞として臨床応用することが期待される。しかしながら、そのような核初期化因子の探索を効率良く行える系は存在していない。
ECAT遺伝子(ES cell associated transcript gene)は、ES細胞等の分化全能性細胞で特異的に発現する遺伝子の総称である。これまでにECAT遺伝子として報告されているものとしては、転写因子Oct3(Oct4、POU5f1とも呼ばれる。以下Oct3/4という)遺伝子が知られている。また、同様な遺伝子がヒトでも報告されているが(hOct3/4遺伝子;Takeda et al.,Nucleic Acids Research,20:4613−4620(1992))、hOct−3/4遺伝子についてはES細胞特異的な発現を証明したという報告はない。
近年我々のグループは、ESTデータベースを利用したコンピューター解析およびノザンブロット解析に基づき、ES細胞で特異的に発現する9個の遺伝子を見出し、これをECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT遺伝子6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、およびECAT9遺伝子と命名した(WO02/097090号公報)。このうちECAT4はNanogとも呼ばれる因子であり、ES細胞が有する全能性(分化多能性)の維持に必須の因子であることが明らかとなった(Mitsui,K.,et al.,Cell,113:631−642(2003))。またECAT5はERasとも呼ばれる因子であり、ES細胞の増殖を促進する因子であることが明らかになっている(Takahashi,K.,et al.,Nature,423:541−545(2003))。
またECAT3はF−box含有タンパクの1種、Fbx15であり、F−boxを有することからユビキチンリガーゼであると考えられている。ECAT3遺伝子の発現調節領域を解析した結果、ES細胞特異的転写因子であるOct4とSox2の2つにより協調的に発現調節を受けていることが明らかとなった(Tokuzawa,Y.,et al.,Molecular and Cellular Biology,23(8):2699−2708(2003))。
ECAT3の機能を調べるために、ECAT3遺伝子のコーディング領域にβgeo(βガラクトシダーゼとネオマイシン耐性遺伝子の融合遺伝子)をノックインして作製したノックインマウスを解析した結果、当該マウスには明らかな異常が認めらず、またホモ変異ES細胞にも増殖や分化能において明らかな異常は認められなかった。このことからECAT3遺伝子は、ES細胞の維持や増殖にとって必須の因子ではないと考えられている(Tokuzawa,Y.,et al.,Molecular and Cellular Biology,23(8):2699−2708(2003))。
【発明の開示】
本発明の目的は、ECAT遺伝子を利用し、ES類似細胞を効率良く選択するシステムと、同システムを利用した体細胞(組織幹細胞、分化細胞)の核初期化物質のスクリーニング法を提供することにある。また本発明の別の目的は、ECAT遺伝子を利用した、ES細胞の未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法を提供することにある。
前述のように、体細胞を何らかの手段により高い増殖能と分化多能性を有するES細胞に類似した細胞に変換することができたなら、このES様細胞は臨床応用にとって理想的な幹細胞となる。本発明者はこのようなES様細胞への変換を誘導する物質(体細胞の核初期化物質)を効率的にスクリーニングすることの可能な方法につき鋭意検討した。
本発明者はまず、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた体細胞を作製した。具体的には、ECAT3遺伝子にマーカー遺伝子であるβgeo遺伝子をノックインしたノックインマウスから体細胞(リンパ球)を調製した。この体細胞をES細胞の培養条件で培養し、G418で選択したところ、全て死滅し、薬剤耐性コロニーは一つも得られなかった。一方、前記体細胞を正常ES細胞と融合し、ES細胞の培養条件で培養し、G418で選択したところ、生存細胞が出現した。この生存細胞を解析した結果、ECAT4やOct3/4を発現し、ES細胞としての性質を有するES様細胞であることが分かった。以上の実験結果より、体細胞とES細胞との融合により体細胞の核が初期化(リプログラミング)されたためにES様細胞が出現し、そしてECAT3遺伝子に置き換えられたβgeoが発現して薬剤耐性となったことが明らかとなった。
以上のようにECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞は、ES様細胞に変換された時にのみ、マーカー遺伝子を発現する。すなわちES様細胞への変換を薬剤耐性等のマーカー遺伝子の発現で容易にモニターすることができる。この性質を利用すれば、体細胞からES様細胞への変換を誘導する核初期化因子を、薬剤耐性等のマーカー遺伝子の発現を指標として効率的にスクリーニングすることができる。また同様に、前記マーカー遺伝子の発現を指標として、ES様細胞を効率的に選択することができる。
本発明者らはさらに、ECAT3のみならず、ECAT2やECAT5等の他のECATに関しても、前記スクリーニングやES様細胞の選択に利用できることを見出した。ECAT遺伝子(ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子)はいずれもES細胞で特異的に発現する遺伝子であることが知られているため、いずれのECATについても前記のスクリーニングに用いることができる。特に、ECAT遺伝子をノックイン等の手法により破壊する場合には、ES細胞の維持や増殖において必須ではないECAT2およびECAT3が非常に有効に利用される。
さらに「ES様細胞への変換を薬剤耐性等のマーカー遺伝子の発現で容易にモニターする」という前記システムは、ES細胞の未分化・多能性維持物質のスクリーニングにも応用することができる。マウスES細胞はサイトカインLIFにより未分化・多能性が維持できる。さらに細胞数が多いときはLIFを添加した無血清培地によりフィーダー細胞を用いずに維持することができる。しかし低密度では血清もしくはフィーダー細胞が必須である。これは血清やフィーダー細胞の分泌産物にLIF以外のES細胞維持因子が含まれることを示す。またヒトES細胞もマウスフィーダー細胞上で一部の細胞は未分化・多能性が維持されるが、全ての細胞を未分化状態で維持することはできない。さらにマウスES細胞と異なりヒトES細胞ではLIFは無効である。これはやはり、フィーダー細胞がLIF以外のES細胞未分化・多能性維持因子を分泌することを示唆すると同時に、フィーダー細胞分泌産物とも異なる更なる因子の必要性を示唆している。ヒトES細胞を臨床応用する場合、動物血清やフィーダー細胞を用いずに培養することが必須であり、ES細胞の未分化・多能性維持因子の同定が求められている状況にあるが、効率的な同定法は未だ見出されていない。
本発明の前記システムによれば、ES細胞状態を薬剤耐性等のマーカー遺伝子の発現で容易にモニターすることができるため、例えばES細胞状態を維持できない培養条件下に被験物質を添加し、マーカー遺伝子発現細胞の存在の有無を調べることにより、ES細胞の未分化・多能性維持(候補)物質を容易にスクリーニングすることができる。
本発明はこのような知見に基づき完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、下記に掲げるものである:
(1) 以下の(a)および(b)の工程を含む、体細胞の核初期化物質のスクリーニング方法:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の出現の有無を調べ、該細胞を出現させた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
(2) ECAT遺伝子が、ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(1)記載のスクリーニング方法、
(3) マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、前記(1)または(2)記載のスクリーニング方法、
(4) 体細胞が、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞である、前記(1)〜(3)いずれか記載のスクリーニング方法、
(5) 体細胞が、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する体細胞である、前記(4)記載のスクリーニング方法、
(6) ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(4)または(5)記載のスクリーニング方法、
(7) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(1)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT2遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
(8) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(1)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT3遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
(9) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(1)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT5遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
(10) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(1)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子に、それぞれ薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
(11) ECAT2遺伝子とECAT3遺伝子が、それぞれ異なる薬剤耐性遺伝子でノックインされている、前記(10)記載のスクリーニング方法、
(12) 体細胞が、ECAT遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する体細胞である、前記(7)〜(11)いずれか記載のスクリーニング方法、
(13) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(1)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
(14) 体細胞が、ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をヘテロで含有する体細胞である、前記(13)記載のスクリーニング方法、
(15) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(13)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞にECAT4を供給し、被験物質を接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
(16) 体細胞が、ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する体細胞である、前記(15)記載のスクリーニング方法、
(17) 前記(1)〜(16)いずれか記載のスクリーニング方法を用いて選択される核初期化物質、
(18) ES細胞由来の遺伝子またはタンパク質である、前記(17)記載の核初期化物質、
(19) ES細胞がNAT1遺伝子破壊ES細胞である、前記(18)記載の核初期化物質、
(20) NAT1遺伝子破壊ES細胞に由来する物質、
(21) cDNAライブラリー、タンパク質ライブラリー、または細胞抽出物である、前記(20)記載の物質、
(22) ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有するノックインマウスの、前記(1)〜(16)いずれか記載のスクリーニング方法において用いる体細胞の供給源としての使用、
(23) ノックインマウスが、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有するノックインマウスである、前記(22)記載の使用、
(24) ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(22)または(23)記載の使用、
(25) マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、前記(22)〜(24)いずれか記載の使用、
(26) ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞、
(27) ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(26)記載の体細胞、
(28) マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、前記(26)または(27)記載の体細胞、
(29) ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有する、前記(26)〜(28)いずれか記載の体細胞、
(30) ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する、前記(29)記載の体細胞、
(31) ECAT4遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する分化ES細胞である、前記(30)記載の体細胞、
(32) ECAT4が細胞内に供給された、前記(31)記載の体細胞、
(33) 以下の(a)および(b)の工程を含む、ES様細胞の選択方法:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞をES様細胞として選択する工程、
(34) ECAT遺伝子が、ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(33)記載の選択方法、
(35) マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、前記(33)または(34)記載の選択方法、
(36) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(33)記載の選択方法:
(a)ECAT2遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
(37) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(33)記載の選択方法:
(a)ECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
(38) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(33)記載の選択方法:
(a)ECAT5遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
(39) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(33)記載の選択方法:
(a)ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
(40) ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に、それぞれ異なる薬剤耐性遺伝子が存在する、前記(39)記載の選択方法、
(41) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(33)記載の選択方法:
(a)ECAT4遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
(42) 体細胞が、ECAT遺伝子発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を挿入したベクターを含有する体細胞である、前記(33)〜(41)いずれか記載の選択方法、
(43) ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(42)記載の選択方法、
(44) 前記(26)〜(32)いずれか記載の体細胞の、前記(1)〜(16)いずれか記載のスクリーニング方法または前記(33)〜(43)いずれか記載の選択方法における使用、
(45) 前記(1)〜(16)いずれか記載のスクリーニング方法において出現したマーカー遺伝子発現細胞または生存細胞、若しくは前記(33)〜(43)いずれか記載の選択方法において選択されたES様細胞、
(46) 以下の(a)および(b)の工程を含む、ES細胞の未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の存在の有無を調べ、該細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
(47) ECAT遺伝子が、ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(46)記載のスクリーニング方法、
(48) マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、前記(46)または(47)記載のスクリーニング方法、
(49) ES細胞が、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞である、前記(46)〜(48)いずれか記載のスクリーニング方法、
(50) ES細胞が、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有するES細胞である、前記(49)記載のスクリーニング方法、
(51) ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(49)または(50)記載のスクリーニング方法、
(52) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(46)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT2遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
(53) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(46)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT3遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
(54) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(46)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT5遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
(55) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(46)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子に、それぞれ薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
(56) ECAT2遺伝子とECAT3遺伝子が、それぞれ異なる薬剤耐性遺伝子でノックインされている、前記(55)記載のスクリーニング方法、
(57) ES細胞が、ECAT遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有するES細胞である、前記(52)〜(56)いずれか記載のスクリーニング方法、
(58) 以下の(a)および(b)の工程を含む、前記(46)記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
(59) ES細胞が、ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をヘテロで含有するES細胞である、前記(58)記載のスクリーニング方法、
(60) 前記(46)〜(59)いずれか記載のスクリーニング方法を用いて選択されるES細胞の未分化・多能性維持物質、
(61) フィーダー細胞の分泌産物である、前記(60)記載のES細胞の未分化・多能性維持物質、
(62) 血清由来成分である、前記(60)記載のES細胞の未分化・多能性維持物質、
(63) ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有するノックインマウスの、前記(46)〜(59)いずれか記載のスクリーニング方法において用いるES細胞の供給源としての使用、
(64) ノックインマウスが、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有するノックインマウスである、前記(63)記載の使用、
(65) ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(63)または(64)記載の使用、
(66) マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、前記(63)〜(65)いずれか記載の使用、
(67) ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有するES細胞、
(68) ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、前記(67)記載のES細胞、
(69) マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、前記(67)または(68)記載のES細胞、
(70) ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有する、前記(67)〜(69)いずれか記載のES細胞、
(71) ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する、前記(70)記載のES細胞、ならびに
(72) 前記(67)〜(71)いずれか記載のES細胞の、前記(46)〜(59)いずれか記載のスクリーニング方法における使用。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例1の概要を示した図である。ECAT3βgeo/βgeoマウスより単離したリンパ球と正常ES細胞とを融合し、G418で選択した結果、Oct3/4およびNanog(ECAT4)陽性のES様細胞が出現したことを示している。
図2は、ECAT3βgeo/βgeoマウスより単離したリンパ球と正常ES細胞とを融合し、G418で選択した細胞をフローサイトメトリー(FACS)で解析した結果を示す図である。融合前(図中WT)と比べ、融合細胞(図中Fusion)では、大きさ(FSC)は約2倍となり、DNA量(PI)も4倍体となったことを示している。
図3は、ECAT2遺伝子の各種細胞・組織における発現をRT−PCRで解析した結果を示す図である。(A)はRT−PCRによる増幅サイクルを25回繰り返し結果を示し、また(B)は30回繰り返した結果を示す。ESG1はECAT2の結果を、NAT1はポジティブコントロールであるNAT1の結果を指す。各レーンは以下の細胞・組織におけるECAT2またはNAT1の発現を示す:レーン1:未分化MG1.19細胞、レーン2:分化MG1.19細胞、レーン3:RT−MG1.19細胞、レーン4:未分化RF−8細胞、レーン5:分化RF−8細胞、レーン6:RT−RF−8細胞、レーン7:脳、レーン8:心臓、レーン9:腎臓、レーン10:精巣、レーン11:脾臓、レーン12:筋肉、レーン13:肺、レーン14:胃、レーン15:卵巣、レーン16:胸腺、レーン17:肝臓、レーン18:皮膚、レーン19:小腸。
図4は、ECAT2遺伝子をβgeo(βガラクトシダーゼとネオマイシン耐性遺伝子の融合遺伝子)またはHygro(ハイグロマイシン耐性遺伝子)でノックインするためのターゲッティングベクターと、それを用いたECAT2遺伝子破壊の概念を示した図である。
図5は、ターゲッティングベクターをES細胞に導入して得られた薬剤耐性細胞において、相同組み換えが正しく起こっていることを確認したサザンブロット解析の図である。図中、WTはベクター導入のないES細胞の結果を示す。また図中、−/−(レーンNo.27、35、36)はβgeoベクターとHygroベクターの両者で相同組換えを起こしたECAT2遺伝子ホモ変異ES細胞の結果を、β−geo+/−(レーンNo.78、30、32、33)はβgeoベクターで相同組換えを起こしたECAT2遺伝子ヘテロ変異ES細胞の結果を、またhygro+/−(レーン4、7、31、34)はHygroベクターで相同組換えを起こしたECAT2遺伝子ヘテロ変異ES細胞の結果を、それぞれ示す。
図6は、βgeoベクターとHygroベクターの両者で相同組換えを起こしたECAT2遺伝子ホモ変異ES細胞において、ECAT2遺伝子の発現が消失していることを確認したノザンブロット解析の図である。図中、各レーンの説明は図5と同じである。上図はノザンブロット解析の結果を示すオートラジオグラムであり、下図はリボゾーマルRNAをエチジウムブロマイド染色した写真を示す。
図7は、正常ES細胞(RF8)と胸腺細胞との融合効率をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。全身で緑色蛍光蛋白(EGFP)を発現するマウス(CAG−EGFPマウス)に由来する胸腺細胞と正常ES細胞をDC300Vおよび500Vの2条件で融合させ(図中RF8/TCAG−EGFP)、翌日、融合によりEGFP陽性となった細胞の割合をフローサイトメーターにより測定した。
図8は、NAT1遺伝子ノックアウトES細胞と胸腺細胞との融合効率をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。NAT1遺伝子ノックアウトES細胞(NAT1−/−(neo/Cre);ネオマイシン耐性遺伝子は除去済み)を用いて、図7と同様の実験を行った。
図9は、正常ES細胞とNAT1遺伝子ノックアウトES細胞の核初期化活性を調べた結果を示すグラフである。正常ES細胞またはNAT1遺伝子ノックアウトES細胞と、ECAT3ノックインマウス(Fbx15−/−)由来の胸腺細胞との融合実験を、様々なパルス電圧を用いて行った。G418で選択後に出現したES細胞様コロニー数を測定した。上図(RF8/TFbx15−/−);RF8とECAT3ノックインマウス(Fbx15−/−)由来胸腺細胞との融合実験結果、下図(NAT1−/−(neo/Cre)/TFbx15−/−);NAT1遺伝子ノックアウトES細胞とECAT3ノックインマウス(Fbx15−/−)由来胸腺細胞との融合実験結果。図中、横軸はパルスした電圧(V)を示し、縦軸はG418で選択後に出現したES細胞様コロニー数を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAC−IUB Commnunication on Biological Nomenclature,Eur.J.Biochem.,138:9(1984))、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、および当該分野における慣用記号に従う。
本明細書において「ECAT遺伝子(ES cell associated transcript gene)」とは、ES細胞等の分化全能性細胞で特異的に発現する遺伝子の総称である。具体的には、ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子、Oct3/4遺伝子が挙げられる(WO02/097090号公報)。本明細書において「ECAT遺伝子」という用語を用いる場合、技術内容に応じて、ECATのcDNA(mRNA)のみならず、ECATのゲノムDNAを指す場合もある。
これらECAT cDNAのマウス型・ヒト型の塩基配列およびアミノ酸配列についてはWO 02/097090号公報に記載されている。本明細書の配列表においては、以下の配列番号に示される。
【表1】

「ECAT遺伝子」(ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子)の範疇には、前記配列番号に示した塩基配列を含有する遺伝子のみならず、ES細胞に特異的に発現するという特徴を有する限り、これらの塩基配列に類似の塩基配列を含有する遺伝子も含まれる。
ここで「類似の塩基配列を含有する遺伝子」とは、前記配列番号に示される塩基配列中、1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列を含有する遺伝子や、前記配列番号で示される塩基配列と高い相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。
ここで「高い相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子」とは、各ECAT遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子を意味し、具体的には前記配列番号で示された塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有する塩基配列を含有する遺伝子が挙げられる。ここでストリンジェントな条件とは、ハイブリダイズ反応や洗浄の際の温度、塩濃度等を適宜変化させることにより調節することができ、所望の相同性に応じて設定されるが、例えば塩濃度:6×SSC、温度:65℃の条件が挙げられる。
また「ECAT」(ECAT1、ECAT2、ECAT3、ECAT4、ECAT5、ECAT6、ECAT7、ECAT8、ECAT9およびOct3/4)の範疇には、前記配列番号に示したアミノ酸配列を含有するタンパク質のみならず、ES細胞に特異的に発現するという特徴を有する限り、これらのアミノ酸配列に類似のアミノ酸配列を含有するタンパク質も含まれる。
ここで「類似のアミノ酸配列を含有するタンパク質」とは、前記類似の塩基配列を含有する遺伝子によりコードされるタンパク質を指す。
本発明のスクリーニング方法は、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた体細胞をスクリーニング用細胞として使用し、当該細胞に被験物質を接触させ、体細胞がES様細胞に変換されたことをマーカー遺伝子発現細胞の出現の有無でモニターすることにより、体細胞の核初期化物質(ES様細胞への変換物質)を効率的に同定する方法である。以下、本方法について具体的に説明する。
(1)本発明の体細胞核初期化物質のスクリーニング方法
本発明は、以下の(a)および(b)の工程:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の出現の有無を調べ、該細胞を出現させた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
を含む、体細胞の核初期化物質のスクリーニング方法を提供する。
前記で「ECAT遺伝子」とは、具体的には、ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子が挙げられる。ここで「1または2以上」とは、具体的には1または2〜3個のECAT遺伝子の組み合わせが挙げられ、好ましくは1個のECAT遺伝子、または2個のECAT遺伝子の組み合わせが挙げられる。具体的にはECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、またはこれらECAT2遺伝子とECAT3遺伝子の組み合わせが例示される。
前記ECAT遺伝子は、マウス、ラット、ヒト、サル等如何なる種由来のECAT遺伝子であっても良いが、好ましくはマウス、ヒト由来のECAT遺伝子が挙げられる。
前記で「マーカー遺伝子」とは、当該マーカー遺伝子を細胞に導入することにより、細胞の選別や選択を可能とするような遺伝子全般を指す。具体的には薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子が挙げられる。
薬剤耐性遺伝子としては、具体的にはネオマイシン耐性遺伝子(neo)、テトラサイクリン耐性遺伝子(tet)、カナマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子(zeo)、ハイグロマイシン耐性遺伝子(hygro)等が挙げられる。各薬剤を含有する培地(選択培地という)で細胞を培養することにより、薬剤耐性遺伝子が導入・発現した細胞のみが生き残る。従って、選択培地で細胞を培養することにより、薬剤耐性遺伝子を含有する細胞を容易に選択することができる。
蛍光タンパク質遺伝子としては、具体的にはGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、YFP(黄色蛍光タンパク質)遺伝子、RFP(赤色蛍光タンパク質)遺伝子、エクオリン遺伝子等が挙げられる。これら蛍光タンパク質遺伝子が発現した細胞は、蛍光顕微鏡で検出することができる。また蛍光強度の違いを利用することによりセルソーター等で分離・選択することや、細胞を限界希釈して1ウエルあたり1細胞以下とした後に培養・増殖させ、蛍光を発する細胞(ウエル)を蛍光顕微鏡下で検出することにより当該細胞を選択することができる。さらに、軟寒天培地などの上でコロニーを形成させ、蛍光顕微鏡下などでコロニーを選択することもできる。
発光酵素遺伝子としては、具体的にはルシフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。これら発光酵素遺伝子を発現した細胞は、発光基質を加えて発光光度計で発光量を測定することにより検出することができる。また細胞を限界希釈して1ウエルあたり1細胞以下とした後に培養・増殖させ、各ウエルから一部の細胞を採取し、発光基質を加えて発光光度計で発光の如何を測定することにより当該細胞を選択することができる。
発色酵素遺伝子としては、具体的にはβガラクトシダーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、アルカリフォスファターゼ遺伝子、又は分泌型アルカリフォスファターゼであるSEAP遺伝子等が挙げられる。これら発色酵素遺伝子が発現した細胞は、発色基質を加えて発色の有無を観察することにより検出することができる。また細胞を限界希釈して1ウエルあたり1細胞以下とした後に培養・増殖させ、各ウエルから一部の細胞を採取し、発色基質を加えて発色の如何を観察することにより当該細胞を選択することができる。
これらマーカー遺伝子の組み合わせに係る遺伝子としては、具体的にはネオマイシン耐性遺伝子(neo)とβガラクトシダーゼ遺伝子(β−gal)との融合遺伝子であるβgeo遺伝子が挙げられる。
以上のようなマーカー遺伝子はいずれも当業者に周知であり、このようなマーカー遺伝子を含有するベクターはインビトロジェン社、アマシャムバイオサイエンス社、プロメガ社、MBL(医学生物学研究所)等から市販されている。
前記マーカー遺伝子のうち、細胞の選択が容易であるという観点から、特に好ましいのは薬剤耐性遺伝子、または当該薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子である。
前記において「体細胞」とは、正常ES細胞等の未分化・多能性維持細胞を除く全ての細胞を意味する。具体的には、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、精子幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、(3)リンパ球、上皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞等の分化した細胞、(4)ES細胞から何らかの手法で未分化・多能性を消失させた細胞、(5)体細胞とES細胞との融合細胞であって未分化・多能性を有さない細胞、などが挙げられる。
体細胞から核初期化物質により変換されて生じた「ES様細胞」とは、ES細胞としての性質を有する細胞、すなわち未分化・多能性を有する細胞を意味する。
本発明のスクリーニング方法においては、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞を、スクリーニング用細胞として用いる。
ここで「発現調節領域」とは、遺伝子の発現(転写)を調節する領域のことであり、「プロモーター領域」、若しくは「プロモーター及びエンハンサー領域」を含む領域を意味する。
ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させる方法は、いろいろ知られており、当業者に周知の如何なる方法を用いてマーカー遺伝子を存在させても良い。大別すると、(1−1)個体(マウス)を利用してマーカー遺伝子を存在させる場合と、(1−2)個体を利用せずに細胞レベルでマーカー遺伝子を存在させる場合がある。以下に詳述する。
(1−1)個体(マウス)を利用してマーカー遺伝子を存在させる方法
個体(マウス)を利用してマーカー遺伝子を存在させる場合は、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受けるゲノム上の位置にマーカー遺伝子を存在させる。この場合、個体が有するECAT遺伝子自身は、発現可能な形で存在していても良く、またECAT遺伝子が破壊された形で存在していても良い。
遺伝子の発現調節領域は、通常エクソン1より上流域に存在する。従って、ECAT遺伝子の発現調節領域によりマーカー遺伝子が発現調節を受けるためには、当該マーカー遺伝子は、ECAT遺伝子のエクソン1開始部位より下流域に存在させることが望ましい。この場合、エクソン1開始部位より下流であれば、どのような位置に存在していても良い。
(1−1−a)ECAT遺伝子を破壊する場合
ECAT遺伝子を破壊する方法は、当業者に周知の如何なる方法を用いても良いが、最も良く使われる手法としては、マーカー遺伝子を含有し、かつECAT遺伝子の任意の位置で相同組換えを起こすベクター(以下ターゲッティングベクターと称する)を用いて、相同組換えにより当該ECAT遺伝子を標的破壊し、代わりにマーカー遺伝子をこの位置に存在させる方法が挙げられる。このようにECAT遺伝子を破壊し、その位置にマーカー遺伝子を存在させることを、「ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインする」と言う。
このようなマーカー遺伝子をノックインする方法は種々知られているが、中でもプロモータートラップ法が好適に用いられる。当該プロモータートラップ法は、プロモーターを持たないターゲッティングベクターを相同組換えによりゲノム中に挿入し、相同組換えが正しく起こった場合に内在性プロモーター(ECAT遺伝子プロモーター)によりマーカー遺伝子が発現するというものである。以下、当該プロモータートラップ法によりECAT遺伝子発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させる方法につき具体例を示す。
まず、ターゲッティングに必要なECAT遺伝子のゲノム配列を決定する。当該ゲノム配列は、例えば公的データベースであるMouse Genome Resources(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/guide/mouse/)等において既に公知である場合はこの配列情報を利用して配列決定することができる。また未知の場合は、配列番号:1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29、31、33、35または37に記載のECAT遺伝子の一部をプライマーとして用い、当業者に入手可能なゲノムライブラリーをPCR法等でスクリーニングすることにより、所望のECAT遺伝子のゲノム領域を含有するゲノミッククローンを単離することや、ゲノム塩基配列を決定することができる。ここで用いるゲノムライブラリーとしては、例えばマウスBAC(bacterial artificial chromosome)ライブラリー(Invitrogen)やPAC(Pl−derived artificial chromosome)ライブラリー(Invitrogen)等が挙げられる。
次に、前記で同定したECAT遺伝子のゲノムDNA配列に基づき、マーカー遺伝子と置き換えるECAT遺伝子ゲノム領域を決定する(以下、ECATゲノム領域Aと称する)。このECATゲノム領域Aを挟む5’側領域(5’アーム)と3’側領域(3’アーム)を、ゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことなどにより増幅する。ここで鋳型となるゲノムDNAとしては、ECAT遺伝子を含有するマウスBACクローンのゲノムDNA等が挙げられる。PCRのプライマーは前記ECAT遺伝子ゲノムDNAの配列に基づき設計することができる。増幅した5’アームおよび3’アームを、プロモータートラップ用ターゲッティングベクターのマーカー遺伝子カセットを挟む両側に挿入する。ここで用いるプロモータートラップ用ターゲッティングベクターとしては、例えばIRES(internal ribosome entry site)−βgeo(βガラクトシダーゼとネオマイシン耐性遺伝子の融合遺伝子)カセット(Mountford P.et al.,Proc.Natl.Sci.USA,91:4303−4307(1994))を含有するpBSSK(−)−IRES−βgeoや、IRES−Hygro(ハイグロマイシン耐性遺伝子)カセットを含有する同様のベクターなどを挙げることができる。ここでIRES−Hygroカセットは、前記IRES−βgeoカセットのβgeo部分をHygro(Invitrogen)に置き換えることなどにより作製することができる。
次に作製されたターゲッティングベクターを制限酵素で消化して直鎖化し、これをエレクトロポレーション等によりES細胞に導入する。
導入に用いるES細胞としては、たとえばRF8細胞(Meiner,V.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:14041−14046(1996))、JI細胞(Li,E.et al.,Cell,69:915−926(1992))、CGR8細胞(Nichols,J.et al.,Development,110:1341−1348(1990))、MG1.19細胞(Gassmann,M.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,92:1292−1296(1995))や、市販されているマウスES細胞129SV(No.R−CMTI−1−15,R−CMTI−1A)、マウスES細胞C57/BL6(No.R−CMTI−2A)、マウスES細胞DBA−1(No.R−CMTI−3A)(以上大日本製薬)等のES細胞が挙げられる。
ターゲッティングベクターのES細胞への導入は、エレクトロポレーション(Meiner,V.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:14041−14046(1996)等参照)、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin;Invitrogen)を用いる方法などにより行われる。その後当該ターゲッティングベクターが導入されたES細胞を、用いたマーカー遺伝子(例えば薬剤耐性遺伝子)の特性に基づき選択する。選択されたES細胞において正しく相同組み換えが起こっていることはECAT遺伝子の一部をプローブとして用いたサザンブロット等により確認することができる。以上のようにしてECATゲノム遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をヘテロで含有するES細胞を作製することができる。
ES細胞の培養には、当業者に知られた如何なる培地を用いても良い。例えばRF8細胞の場合、以下の組成:15%FBS、0.1mM Non Essential Amino Acids(GIBCO BRL)、2mM L−glutamine、50U/mlペニシリン−ストレプトマイシン、0.11mM 2−ME(GIBCO BRL)/Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)の培地等が挙げられる。また市販の調製済み培地(例えば大日本製薬No.R−ES−101等)を用いることもできる。
ES細胞の培養においてフィーダー細胞を用いる場合、当該フィーダー細胞は、マウス胚から常法により調製した繊維芽細胞や繊維芽細胞由来のSTO細胞株(Meiner,V.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:14041−14046(1996))を用いても良く、また市販品を用いても良い。市販品としては、例えばPMEF−N、PMEF−NL、PMEF−H、PMEF−HL(以上大日本製薬)などのフィーダー細胞が挙げられる。フィーダー細胞は、マイトマイシンC処理することにより増殖を停止させた後にES細胞の培養に用いることが望ましい。
また、ES細胞の培養において前記フィーダー細胞を用いない場合は、LIF(Leukemia Inhibitory Factor)を添加して培養を行うことができる。LIFとしてはマウス組み換えLIF、ラット組み換えLIF(ケミコン社等)などが用いられる。
次に、前記ターゲッティングベクターを含有するES細胞をマウスに導入してノックアウトマウス(マーカー遺伝子ノックインマウス)を作製する。当該マーカー遺伝子ノックインマウスの作製方法は当業者に周知である。具体的には、前記ES細胞をマウス(例えばC57BL/6等)の胚盤胞(blastocyst)にインジェクトし、偽妊娠させたメスのマウス(ICR等)の子宮内に移植することによりキメラマウスを作製する。その後キメラマウスと通常のマウス(C57BL/6等)とを交配させ、マーカー遺伝子がヘテロでノックインされたヘテロ変異マウスを作製する。ヘテロ変異マウス同士を交配させることにより、マーカー遺伝子がホモでノックインされたホモ変異マウスが得られる。
本発明のスクリーニングで用いる体細胞は、前記ヘテロ変異マウスから単離された体細胞であっても、またホモ変異マウスから単離された体細胞であっても良い。しかしながら、本発明のスクリーニングにおける体細胞からES様細胞への変換ステップ、およびES様細胞の維持を可能とするために、ES細胞の維持に必須のECAT遺伝子をノックアウトした場合は、ヘテロ変異マウス由来の体細胞を用いる必要がある。当該ES細胞の維持に必須のECAT遺伝子としては、具体的にはECAT4遺伝子(Mitsui,K.,et al.,Cell,113:631−642(2003))が挙げられる。一方、ES細胞の維持に必須でないECAT遺伝子をノックアウトする場合は、ヘテロ変異マウス由来の体細胞を用いても、ホモ変異マウス由来の体細胞を用いても良い。当該ES細胞の維持に必須でないECAT遺伝子としては、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT5遺伝子が挙げられる。すなわちECAT3遺伝子に関しては文献(Tokuzawa,Y.,et al.,Molecular and Cellular Biology,23(8):2699−2708(2003))に示されるように、ECAT5遺伝子に関しては文献(Takahashi,K.,et al.,Nature,423:541−545(2003))に示されるように、またECAT2遺伝子については後述の実施例において初めて明らかにされたように、これらのECATはES細胞の維持に影響を与えない因子である。このうちECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子はES細胞の維持だけでなく増殖にも影響を与えないため、ホモ変異マウス由来の体細胞を用いる場合は、ECAT2遺伝子またはECAT3遺伝子にマーカー遺伝子をノックインしたホモ変異ノックインマウス由来の体細胞を利用することが好ましい。
ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有することにより、ヘテロで含有した場合と比較して、マーカー遺伝子が2倍発現していることになるので、マーカー発現細胞の選択が正確かつ容易になるという利点がある。この観点からECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子は非常に有用なターゲットである。
さらに、異なるECAT遺伝子のホモ変異マウス同士を交配させることにより、ダブルノックインマウスを作製することができる。例えばECAT2遺伝子のホモ変異マウスと、ECAT3遺伝子のホモ変異マウスを交配させることにより、ECAT2遺伝子とECAT3遺伝子の両方がマーカー遺伝子に置き換えられたダブルノックインマウスを作製することができる。その際、各ECAT遺伝子には、それぞれ異なるマーカー遺伝子がノックインされていることが好ましい。この場合、2つの異なるマーカー遺伝子(例えばネオマイシン耐性遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子)により二重に選択することが可能となるため、本発明のスクリーニングにおいて擬陽性のES様細胞を選択する可能性が減少し、スクリーニングの成功確度が格段に向上できる。
具体的には、ECAT2遺伝子とECAT3遺伝子がマーカー遺伝子に置き換えられたダブルノックインマウス、ECAT2遺伝子とECAT4遺伝子がマーカー遺伝子に置き換えられたダブルノックインマウス、ECAT2遺伝子とECAT5遺伝子がマーカー遺伝子に置き換えられたダブルノックインマウス、ECAT3遺伝子とECAT4遺伝子がマーカー遺伝子に置き換えられたダブルノックインマウス、ECAT3遺伝子とECAT5遺伝子がマーカー遺伝子に置き換えられたダブルノックインマウス、ECAT4遺伝子とECAT5遺伝子がマーカー遺伝子に置き換えられたダブルノックインマウス、に由来する体細胞が例示される。好ましくはECAT2遺伝子とECAT3遺伝子がホモでマーカー遺伝子に置き換えられたダブルノックインマウス由来の体細胞が挙げられる。
(1−1−b)ECAT遺伝子を破壊しない場合
ECAT遺伝子を破壊することなく、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させる手法としては、当該ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させたBACベクターまたはPACベクター等を、マウスやラット等の個体に導入して作製したトランスジェニック非ヒト動物を利用する手法が挙げられる。以下BACベクターを例にとり説明する。
ここで用いるECAT遺伝子の発現調節領域を含有するBACクローンは、前記(1−1−a)に記述したように、ECAT遺伝子の配列情報に基づき単離・同定することができる。ECAT遺伝子含有BACクローンにおいて、ECAT遺伝子の一部をマーカー遺伝子に置き換えるには、例えばRed/ET Recombination(Gene Bridges)を用いて容易に行うことができる。各ECAT遺伝子の発現調節領域は、通常、ECAT遺伝子のエクソン1より上流域に存在する。従って、ECAT遺伝子の発現調節領域によりマーカー遺伝子が発現調節を受けるためには、当該マーカー遺伝子は、ECAT遺伝子のエクソン1より下流域に存在させることが望ましい。この場合、エクソン1より下流であれば、ECAT遺伝子上のどのような位置にマーカー遺伝子を存在させても良い。
以上のようにして作製されたECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させたBACベクター(以下、マーカー遺伝子含有BACベクターと称することがある)を導入したトランスジェニック動物を作製する方法は周知であり、例えば実験医学別冊「新遺伝子工学ハンドブック改訂第3版」(羊土社,1999年)等に基づき作製することができる。以下、マウスを例にとりトランスジェニック動物の作製につき説明する。
マウス受精卵への遺伝子の導入方法は特に限定されるものではなく、マイクロインジェクション法やエレクトロポレーション法等により導入することができる。導入後、得られた卵細胞を培養し、仮親マウスの輸卵管に移植し、その後被移植マウスを飼育し、産まれた仔マウスから所望の仔マウスを選択する。当該選択は、例えば仔マウス由来のDNAをドットブロットハイブリダイゼーション法やPCR法で導入遺伝子の可否を調べることにより行うことができる。
前記仔マウスと野生型マウスとを交配させ、ヘテロトランスジェニックマウス(導入遺伝子をヘテロで含有するマウス)を作製する。ヘテロマウス同士を交配させることにより、マーカー遺伝子含有BACベクターをホモで含有するトランスジェニックマウスを得ることができる。
本発明のスクリーニングで用いる体細胞は、前記ヘテロトランスジェニックマウスから単離された体細胞であっても、またホモトランスジェニックマウスから単離された体細胞であっても良い。本トランスジェニックマウスにおいてはECAT遺伝子自身が発現しているため、前記ノックインマウスの場合と異なり、用いたECAT遺伝子がES細胞の維持に必須の遺伝子であるか否かを考慮する必要はない。よって、いずれのECAT遺伝子(ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子)についても等しく用いることができ、マーカー遺伝子発現量が多いという観点から、マーカー遺伝子をホモで含有するトランスジェニックマウスを利用することが好ましい。
さらに、異なるECAT遺伝子のトランスジェニックマウス同士を交配させることにより、ダブルトランスジェニックマウスを作製することができる。その際、交配させる各トランスジェニックマウスは、それぞれ異なるマーカー遺伝子を含有していることが好ましい。この場合、2つの異なるマーカー遺伝子(例えばネオマイシン耐性遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子)により二重に選択することが可能となるため、本発明のスクリーニングにおいて擬陽性のES様細胞を選択する可能性が減少し、スクリーニングの成功確度が格段に向上できる。
以上のノックインマウスまたはトランスジェニックマウスから単離する体細胞は、マーカー遺伝子の発現していない(若しくは発現量の少ない)如何なる細胞であっても良い。具体的にはES細胞等の分化全能性細胞以外の細胞が挙げられ、例えば(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、精子幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)、(2)組織前駆細胞、または(3)リンパ球、上皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞等の分化した細胞が挙げられる。当該細胞は当業者に周知の手法にて単離することができる。
一方、ES細胞を単離した場合は、何らかの手法でES細胞の未分化・多能性を消失させてから用いる(後述)。
以上のように、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした体細胞、またはマーカー遺伝子を導入した体細胞を、個体(マウス)レベルで維持することにより、あらゆる組織から、いつでも容易に体細胞を調製することが可能となるため、前記手法は非常に好ましい体細胞の供給方法である。
(1−2)個体を利用せずに細胞レベルでマーカー遺伝子を存在させる方法
個体を利用せずに、細胞内において、ECAT遺伝子発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させる方法はいろいろ知られており、当業者に周知の如何なる方法を用いてマーカー遺伝子を存在させても良い。一般的には、マーカー遺伝子を含有するベクターを細胞に導入する方法が挙げられる。
遺伝子導入に用いられる細胞は、体細胞であってもES細胞であっても良い。ここで用いる体細胞としては、マウス、ヒト、サル等の如何なる種に由来する体細胞であっても良い。当該体細胞は初代培養細胞であっても株化細胞であっても良く、具体的には、胎児繊維芽細胞(MEF)、骨髄由来間葉系幹細胞、または精子幹細胞等の初代培養細胞や、NIH3T3のような株化細胞などが挙げられる。またES細胞としては、前記に挙げたマウスES細胞の他、ヒトやサルのES細胞も用いることができる。ここでヒトES細胞としては、KhES−1、KhES−2あるいはKhES−3(以上、京大再生研付属幹細胞医学研究センター)などが挙げられ、またサルES細胞としてはカニクイザルES細胞(旭テクノグラス)を挙げることができる。これらES細胞を本発明のスクリーニングに用いる場合は、何らかの手法でES細胞の未分化・多能性を消失させてから用いる。
細胞へのベクターの導入方法としては、前記宿主細胞に適合した通常の導入方法を用いれば良い。具体的にはリン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法、エレクトロポレーション法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin;Invitrogen)を用いる方法などが挙げられる。
導入に用いるベクターとしては、約300kbのDNAまでクローニング可能なベクターであるBACベクターやPACベクター、プラスミドベクター、さらには前記(1−1)に記載したターゲッティングベクターなどが挙げられる。以下これら各ベクターを用いてECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた体細胞を作製する方法について記載する。
(1−2−a)BACベクター、PACベクターを用いる場合
ECAT遺伝子の発現調節領域を含有するBACベクターやPACベクターを利用することにより、ECAT遺伝子発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させることができる。以下BACベクターを例にとり説明する。
ここで用いるECAT遺伝子の発現調節領域を含有するBACクローン(以下ECAT遺伝子含有BACクローンと称する)は、前記(1−1)に記述したように、ECAT遺伝子の配列情報に基づき単離・同定することができる。ECAT遺伝子含有BACクローンにおいて、ECAT遺伝子の一部をマーカー遺伝子に置き換えるには、例えばRed/ET Recombination(Gene Bridges)を用いて容易に行うことができる。各ECAT遺伝子の発現調節領域は、通常、ECAT遺伝子のエクソン1より上流域に存在する。従って、ECAT遺伝子の発現調節領域によりマーカー遺伝子が発現調節を受けるためには、当該マーカー遺伝子は、ECAT遺伝子のエクソン1開始部位より下流域に存在させることが望ましい。この場合、エクソン1開始部位より下流であれば、ECAT遺伝子上のどのような位置にマーカー遺伝子を存在させても良い。
以上のようにして作製されたECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させたBACベクターを体細胞に導入することにより、本発明のスクリーニング用の体細胞とすることができる。ここで導入するBACベクターは1種類であっても、異なるECAT遺伝子を含有する2種類以上のBACベクターであっても良い。なお、当該BACベクター導入細胞を選択培地中で容易に選択できるように、BACベクター中に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子(以下第2の薬剤耐性遺伝子と称する)が挿入されていることが好ましい。この場合、体細胞での発現を可能とするために、当該第2の薬剤耐性遺伝子の5’側または3’側に体細胞で発現するプロモーターが付加されている必要がある。また当該第2の薬剤耐性遺伝子は、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に存在するマーカー遺伝子と同じ種類の薬剤耐性遺伝子であっても良く、異なる種類の薬剤耐性遺伝子であっても良いが、異なる種類の薬剤耐性遺伝子であることが望ましい。前記で同じ種類の薬剤耐性遺伝子を用いた場合は、第2の薬剤耐性遺伝子の両側にloxP配列またはFRT配列を付加しておき、BACベクター導入細胞を選択培地中で選択した後に、リコンビナーゼCreまたはFLPにより第2の薬剤耐性遺伝子を切り出すことができる。
前記と異なり、BACベクター中に第2の薬剤耐性遺伝子を挿入しない場合は、当該第2の薬剤耐性遺伝子を含有する第2の発現ベクターを、前記BACベクターと共に共導入(co−transfection)し、選択培地で選択しても良い。その場合、第2の発現ベクターよりもBACベクターを大過剰に用いて導入を行うことが望ましい。
前記ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させたBACベクターをES細胞に導入した場合は、用いたマーカー遺伝子の性質に基づき、マーカー遺伝子が導入・発現しているES細胞を選択することができる。その後、当該ES細胞を体細胞に分化させることにより、本発明のスクリーニングに用いる体細胞とすることができる。ES細胞はフィーダー細胞の存在しない培養条件下で分化するため、このような条件下で分化させて得られた体細胞や、レチノイン酸等の当業者に知られた分化誘導剤で分化させて得られた体細胞を、本発明のスクリーニングに用いることができる。ここでES細胞から分化させた体細胞としては、例えば組織幹細胞、組織前駆細胞、または体細胞(神経細胞、皮膚角質細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、血液細胞、膵島細胞または色素細胞など)が挙げられる。
(1−2−b)プロモーターを有さないプラスミドベクターを用いる場合
ECAT遺伝子の発現調節領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子を、プロモーターを有さないプラスミドベクターに挿入し、細胞を形質転換することにより、本発明のスクリーニング用の細胞を作製することができる。
ここで用いるベクターとしては、例えばpBluescript(Stratagene)、pCR2.1(Invitrogen)といったプロモーターを有さないプラスミドベクターが挙げられる。
ここで用いるECAT遺伝子の発現調節領域は、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbが挙げられる。
各ECAT遺伝子の発現調節領域は、例えば(i)5’−RACE法(例えば、5’full Race Core Kit(宝酒造社製)等を用いて実施される)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により5’末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5’−上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することができる。このようにして同定したECAT遺伝子発現調節領域の3’側にマーカー遺伝子を融合し、これを前記プラスミドベクターに挿入することにより、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させたプラスミドベクターを作製することができる。
以上のようにして作製したベクターを、前記(1−2−a)と同様にして体細胞やES細胞に導入することにより、本発明のスクリーニング用体細胞を作製することができる。
(1−2−c)ターゲッティングベクターを用いる場合
前記(1−1)に記載したターゲッティングベクターを体細胞若しくはES細胞に導入することによっても、本発明のスクリーニング用体細胞を作製することができる。
前記ターゲッティングベクターを体細胞に導入する場合は、ベクター導入細胞を選択培地中で容易に選択できるように、前記(1−2−a)と同様に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子(第2の薬剤耐性遺伝子)をターゲッティングベクター上に存在させるか、またはターゲッティングベクターと共に第2の薬剤耐性遺伝子を含有する第2の発現ベクターを共導入(co−transfection)し、選択培地で選択して得られた体細胞を本発明のスクリーニングに用いることがより好ましい。その場合、第2の発現ベクターよりも前記ターゲッティングベクターを大過剰に用いて導入を行うことが望ましい。
前記体細胞は、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をヘテロで含有していても良く、またホモで含有していても良い。ECAT4遺伝子を利用する場合は、前記ノックイン遺伝子をヘテロで含有することが望ましいが、ホモで含有する場合は、スクリーニングに際して細胞内にECAT4を供給すれば良い。またECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子およびECAT5遺伝子(特にECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子)を利用する場合は、前記ノックイン遺伝子をホモで含有することが望ましい。ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する体細胞は、ノックイン遺伝子をヘテロで含有する体細胞に、さらにノックイン遺伝子(マーカー遺伝子を含有するターゲッティングベクター)を導入することにより作製することができる。またノックイン遺伝子をヘテロで含有する体細胞を高濃度の薬剤を含む選択培地で培養することによっても、選択することができる。
さらに、前記ノックイン遺伝子をホモで含有する体細胞に対して別のノックイン遺伝子(別のECAT遺伝子がノックアウトされた遺伝子)を導入することにより、前記(1−1)と同様のダブルノックイン細胞を作製することができる。
前記ターゲッティングベクターをES細胞に導入する場合は、ターゲッティングベクター上のマーカー遺伝子の性質に基づいて、マーカー遺伝子導入・発現細胞を選択することができる。当該ES細胞も、前記体細胞と同様、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をヘテロで含有していても良く、またホモで含有していても良い。ホモ変異細胞の作製法としては、後述の実施例3に記載のECAT2遺伝子ホモ変異ES細胞の作製法を参照されたい。なお、ES細胞から体細胞への誘導方法は、前記(1−2−a)と同様である。
文献(Mitsui,K.,et al.,Cell,113:631−642(2003))およびWO 2004/067744)に記載されたように、ECAT4遺伝子がホモ変異したES細胞(ECAT4遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインしたES細胞)は、もはや未分化・多能性を維持していないこと、すなわち分化していることが知られている。この細胞に対してECAT4遺伝子を含有するレトロウイルスベクターを感染させ、細胞内でECAT4を正常に発現させたが、ES細胞としての機能(未分化・多能性)は回復しなかった。
ECAT4はES細胞としての機能(未分化・多能性)維持に必須の因子であることから、ECAT4ホモ変異ES細胞に対してECAT4を供給した細胞は、ES細胞に近い状態の分化細胞であると言える。よってこの細胞に被験物質を接触させるスクリーニング系は、核初期化物質がより見出し易い、効率的なスクリーニング系であり、そのようなスクリーニングに用いるECAT4ホモ変異ES細胞、および当該細胞にECAT4を供給した細胞は本発明の好ましい体細胞である。
本発明のスクリーニング工程(a)においては、以上のようにして作製した体細胞と、被験物質とを接触させる。
ここで用いられる被験物質(被験試料)は制限されないが、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物あるいはこれらの混合物などであり、本発明のスクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質を前記体細胞と接触させることにより行われる。かかる被験物質としてより具体的には、細胞抽出液、遺伝子(ゲノム、cDNA)ライブラリー、RNAiライブラリー、アンチセンス核酸、遺伝子(ゲノム、cDNA、mRNA)、タンパク質、ペプチド、低分子化合物、高分子化合物、天然化合物などが挙げられる。より具体的には、実施例に示したES細胞、卵、ES細胞や卵の細胞抽出物(抽出画分)、ES細胞や卵由来のcDNAライブラリー、ゲノムライブラリーまたはタンパク質ライブラリー、あるいは増殖因子などが挙げられる。
cDNAライブラリー、タンパク質ライブラリーまたは細胞抽出物(有機化合物や無機化合物等)の由来としては、前述のようにES細胞や卵のような未分化細胞が好ましいが、特にNAT1遺伝子を破壊(ノックアウト)したES細胞が有効である。
NAT1遺伝子は蛋白質翻訳開始因子eIF4Gに類似した遺伝子であり、ES細胞においてNAT1遺伝子を破壊すると正常よりも未分化状態が増強されることが報告されている(Yamanaka,S.et al.,Embo J.,19,5533−5541(2000))。しかしながら核初期化との関連性は示されていない。
後述の実施例に示すように、本発明者はNAT1遺伝子ノックアウトES細胞とECAT3ノックインマウス由来の胸腺細胞とを融合し、G418で選択を行ったところ、正常ES細胞を用いた時に比べて、ES細胞様コロニーの出現頻度が格段に高かった。このことは、NAT1遺伝子ノックアウトES細胞は正常ES細胞より未分化度が高いだけではなく、初期化活性も高いことを示しており、本発明のスクリーニングに用いるcDNAライブラリー等の由来として極めて有効であると考えられる。
ここでcDNAライブラリーは、市販のcDNAライブラリー作製キット(例えばクローンマイナーcDNAライブラリー作製キット(Invitrogen)やCreator SMART cDNAライブラリー作製キット(BD Biosciences)等)を用いて作製することができる。またタンパク質ライブラリーはWO 00/71580等を参考にして作製することができる。
なお前記NAT1遺伝子ノックアウトES細胞由来のcDNAライブラリー、タンパク質ライブラリーまたは細胞抽出物等は、本発明のスクリーニングのみならず、核初期化因子の如何なる機能的スクリーニングにおいても有効に用いることができる。
これら被験物質は、体細胞への取り込み可能な形態で体細胞と接触させる。例えば被験試料が核酸(cDNAライブラリー等)の場合は、リン酸カルシウム、DEAE−デキストラン、遺伝子導入用リピッドまたは電気パルス等を用いて体細胞に導入する。
体細胞と被験物質とを接触させる条件は、該細胞が死滅せず且つ被験物質が取り込まれるのに適した培養条件(温度、pH、培地組成など)であれば特に制限はない。
前記体細胞と被験物質との接触の前に、接触の際に、若しくは接触後に、ES細胞の培養条件で細胞培養を行う。ES細胞の培養は、当業者に知られた如何なる方法を用いても良い。例えばRF8細胞の場合、以下の組成:15%FBS、0.1mM Non Essential Amino Acids(GIBCO BRL)、2mM L−glutamine、50U/mlペニシリン−ストレプトマイシン、0.11mM 2−ME(GIBCO BRL)/Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)の培地等が挙げられる。また市販の調製済み培地(例えば大日本製薬No.R−ES−101等)を用いることもできる。
ES細胞の培養においてフィーダー細胞を用いる場合、当該フィーダー細胞は、マウス胚から常法により調製した繊維芽細胞や繊維芽細胞由来のSTO細胞株(Meiner,V.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:14041−14046(1996))を用いても良く、また市販品を用いても良い。市販品としては、例えばPMEF−N、PMEF−NL、PMEF−H、PMEF−HL(以上大日本製薬)などのフィーダー細胞が挙げられる。フィーダー細胞は、マイトマイシンC処理することにより増殖を停止させた後にES細胞の培養に用いることが望ましい。
また、ES細胞の培養において前記フィーダー細胞を用いない場合は、LIF(Leukemia Inhibitory Factor)を添加して培養を行うことができる。LIFとしてはマウス組み換えLIF、ラット組み換えLIF(ケミコン社等)などが挙げられる。
前記ES細胞の培養条件における培養日数は、細胞の状態等により適宜変更できるが、1日〜3日程度が好ましい。
マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で選択を行う。当該薬剤は、体細胞と被験物質との接触の際に培地に含まれていても良く、また接触後に含ませても良い。さらに、ES細胞の培養条件で培養した後に前記薬剤を培地に含ませても良い。
前記工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の出現の有無を調べ、該細胞を出現させた被験物質を体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する(工程(b))。以下当該工程(b)について記述する。
マーカー遺伝子が薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子の場合は、前記のように選択培地で培養することによりマーカー遺伝子発現細胞を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、マーカー遺伝子発現細胞を検出することができる。
被験物質添加前に比してマーカー遺伝子発現細胞が検出された場合(検出量が多くなった場合も含む)、ここで用いた被験試料(被験物質)を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
前記スクリーニングは、必要に応じて何度でも繰り返し行うことができる。例えば1回目のスクリーニングでcDNAライブラリーや細胞抽出物といった混合物を用いた場合、2回目以降は、さらに当該混合物を細分化(分画)して同様のスクリーニングを繰り返し行うことにより、最終的に、体細胞核初期化因子の候補物質を選択することができる。
なお、スクリーニングの効率を上げるための1つの例として、前記体細胞をそのままスクリーニングに用いるのではなく、体細胞とES細胞とを融合させた融合細胞に対して、被験物質を添加するスクリーニング系が有効である。即ち本発明のスクリーニング方法には、
以下の(a)および(b):
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞とES細胞とを融合させた融合細胞(体細胞)と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の出現の有無を調べ、該細胞を出現させた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
を含む、体細胞の核初期化物質のスクリーニング方法も含まれる。
ここで「融合細胞」とは、体細胞とES細胞との融合細胞であって前記マーカー遺伝子が発現していない(若しくは発現量が少ない)細胞を意味する。体細胞とES細胞とを融合させて生じるES様細胞のコロニー数に比して、さらに被験物質を添加した際にコロニー数が増加した場合、当該被験物質は体細胞核初期化候補物質として選択することができる。
以下、前記本発明のスクリーニング方法の具体例として、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子およびECAT5遺伝子を利用した本発明のスクリーニング方法につき例示するが、いずれのECAT遺伝子(ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子)についても以下を参考にして同様のスクリーニングを実施することができる。
例1:ECAT2遺伝子を利用したスクリーニング
ECAT2遺伝子を利用した本発明のスクリーニング方法の具体例として、以下(a)及び(b):
(a)ECAT2遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
後述の実施例に示したように、ECAT2遺伝子はES細胞の維持・増殖に必須の因子ではない。従って、ECAT2遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインした体細胞を用いて本発明のスクリーニングを行ことが好ましい。
ECAT2遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインしたノックインマウス(ECAT2βgeo/βgeoマウス)は、例えば後述の実施例3に記載の方法で作製することができる。このECAT2βgeo/βgeoマウスからリンパ球、皮膚細胞などの体細胞を単離する。この体細胞に対して被験物質を添加し、ES細胞の培養条件(例えばMeiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996)を参照)で細胞培養し、G418(0.25mg/ml)で選択を行う。G418による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、前記体細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418で選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
例2:ECAT3遺伝子を利用したスクリーニング
ECAT3遺伝子を利用した本発明のスクリーニング方法の具体例として、以下(a)及び(b):
(a)ECAT3遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
後述の実施例に示したように、ECAT3遺伝子はES細胞の維持・増殖に必須の因子ではない。従って、ECAT3遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインした体細胞を用いて本発明のスクリーニングを行ことが好ましい。
ECAT3遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインしたノックインマウス(ECAT3βgeo/βgeoマウス)は、例えば後述の実施例1に記載の方法で作製することができる。このECAT3βgeo/βgeoマウスからリンパ球、皮膚細胞などの体細胞を単離する。この体細胞に対して被験物質を添加し、ES細胞の培養条件(例えばMeiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996)を参照)で細胞培養し、G418(0.25mg/ml)で選択を行う。G418による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、前記体細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418で選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
例3:ECAT4遺伝子を利用したスクリーニング
ECAT4遺伝子を利用した本発明のスクリーニング方法の具体例として、以下(a)及び(b):
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
ECAT4遺伝子はES細胞の維持・増殖に必須の因子である。従って、ECAT4遺伝子にマーカー遺伝子をヘテロでノックインした体細胞を用いて本発明のスクリーニングを行う。
ECAT4遺伝子にマーカー遺伝子をヘテロでノックインしたノックインマウス(ECAT4βgeo/+マウス)の作製は、文献(Mitsui,K.,et al.,Cell,113:631−642(2003))に記載の方法等で作製することができるが、簡単に述べると以下の方法が例示される。
マウスECAT4遺伝子のエクソン2を、IRES−βgeoカセット(Mountford et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:4303−4307(1994))で置き換えるためのターゲッティグベクターを以下のように作製する。ECAT4のイントロン1を含有する4kbフラグメントを、マウスゲノムDNAを鋳型とし、プライマー(AGGGTCTGCTACTGAGATGCTCTG(配列番号:39)、AGGCAGGTCTTCAGAGGAAGGGCG(配列番号:40))を用いてPCRで増幅することにより5’側アームを作製する。またエクソン3−イントロン3−エクソン4を含有する1.5kbフラグメントを、マウスゲノムDNAを鋳型とし、プライマー(CGGGCTGTAGACCTGTCTGCATTCTG(配列番号:41)、GGTCCTTCTGTCTCATCCTCGAGAGT(配列番号:42))用いてPCRで増幅することにより3’側アームを作製する。これら5’側アームと3’側アームをIRES−βgeoカセットにライゲートし、ターゲッティングベクターを作製する。このターゲッティングベクターをSacIIで切断し、エレクトロポレーションによりRF8 ES細胞に導入する(Meiner et al.,Proc.Natol.Acad.Sci USA,93:14041−14046(1996)参照)。その後G418選択培地にて、相同組み換えが正しく起こったクローンを選択する。このβgeoとの相同組み換えES細胞をマウスのブラストシストにインジェクションすることによりキメラマウスを経てヘテロ変異マウス(ECAT4βgeo/+マウス)を樹立する。
次にこのECAT4βgeo/+マウスからリンパ球、皮膚細胞などの体細胞を単離する。この体細胞に対して被験物質を添加し、ES細胞の培養条件(例えばMeiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996)を参照)で細胞培養し、G418で選択を行う。G418による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、前記体細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418で選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
前記ECAT4遺伝子を利用した本発明のスクリーニング方法の別の具体例として、以下(a)及び(b):
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞にECAT4を供給し、被験物質を接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
文献(Cell,113:631−642(2003)、WO 2004/067744)に記載のように、ECAT4はES細胞としての機能(未分化・多能性)維持に必須の因子であることから、ECAT4ホモ変異ES細胞に対してECAT4を供給した細胞は、ES細胞に近い状態の分化細胞であると言える。よってこの細胞に被験物質を接触させるスクリーニング系は、核初期化物質がより見出し易い、効率的なスクリーニング系である。
ここで用いられるECAT4ホモ変異ES細胞は、例えば前記βgeoとの相同組み換えES細胞(ECAT4遺伝子がβgeo遺伝子でノックインされたヘテロ変異細胞)にhygroベクター(ECAT4遺伝子をHygroベクターで置き換えるためのターゲッティングベクター)を導入することにより作製することができる。
このECAT4ホモ変異ES細胞(体細胞)に対してECAT4を供給する。当該供給は、ECAT4遺伝子含有発現ベクターを細胞に導入して発現させても良く、またECAT4タンパク質を細胞内に取り込まれる形態で(例えばTATのようなタンパクと融合させて)導入しても良い。
このECAT4(遺伝子)の導入と当時に、また導入後に被験物質を添加し、ES細胞の培養条件(例えばMeiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996)を参照)で細胞培養し、G418及び/又はハイグロマイシンで選択を行う。当該選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、まず前記体細胞(ECAT4ホモ変異ES細胞)に対してECAT4遺伝子を導入する。その後リポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418及び/又はハイグロマイシンで選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
例4:ECAT5遺伝子を利用したスクリーニング
ECAT5遺伝子を利用した本発明のスクリーニング方法の具体例として、以下(a)及び(b):
(a)ECAT5遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
後述の実施例に示したように、ECAT5遺伝子はES細胞の維持に必須の因子ではない。従って、ECAT5遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインした体細胞を用いて本発明のスクリーニングを行ことが好ましい。
ECAT5遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインしたノックインマウス(ECAT5βgeo/βgeoマウス)は、例えば後述の実施例2に記載の方法(特開2003−265166号公報)で作製することができる。このECAT5βgeo/βgeoマウスからリンパ球、皮膚細胞などの体細胞を単離する。この体細胞に対して被験物質を添加し、ES細胞の培養条件(例えばMeiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996)を参照)で細胞培養し、G418(0.25mg/ml)で選択を行う。G418による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、前記体細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418で選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
例5:2つのECAT遺伝子を利用したスクリーニング
前述のように、2つの異なるECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインしたホモ変異マウス同士を交配させることによりダブルノックインマウスを作製することができ、当該マウス由来の体細胞をスクリーニングに用いることができる。具体的には、ECAT2遺伝子とECAT3遺伝子の組み合わせに係るダブルノックインマウス由来の体細胞を用いたスクリーニング方法が例示される。すなわちECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子を利用した本発明のスクリーニング方法の具体例として、以下(a)及び(b):
(a)ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子に、それぞれ薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
ここでノックインされる薬剤耐性遺伝子は、ECAT2遺伝子とECAT3遺伝子とで異なっていることが望ましい。この場合、2つの異なる薬剤耐性遺伝子(例えばネオマイシン耐性遺伝子とハイグロマイシン耐性遺伝子)により二重に選択することが可能となるため、本発明のスクリーニングにおいて擬陽性のES様細胞を選択する可能性が減少し、スクリーニングの成功確度が格段に向上される。
ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子のダブルノックインマウス(ECAT2Hygro/HygroECAT3βgeo/βgeoマウス)は、後述の実施例1および3(ただし薬剤耐性遺伝子がハイグロマイシン耐性遺伝子)で作製したECAT2Hygro/HygroマウスとECAT3βgeo/βgeoマウスとを交配されることにより得ることができる。このECAT2Hygro/HygroECAT3βgeo/βgeoマウスからリンパ球、皮膚細胞などの体細胞を単離する。この体細胞に対して被験物質を添加し、ES細胞の培養条件(例えばMeiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996)を参照)で細胞培養し、G418(0.25mg/ml)およびハイグロマイシン(0.1mg/ml)で選択を行う。この選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、前記体細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418およびハイグロマイシンで選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
例6:融合細胞を用いたスクリーニング
前記本発明の体細胞とES細胞とを融合させた融合細胞に対して被験物質を添加し、ES細胞の培養条件(例えばMeiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996)を参照)で細胞培養し、選択マーカーの性質に基づいて選択を行う。体細胞とES細胞とを融合させて生じるES様細胞のコロニー数に比して、被験物質を添加した際にコロニー数が増加した場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用い、マーカーとして薬剤耐性遺伝子を用いる場合は、前記体細胞とES細胞とを融合させた融合細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にて薬剤による選択を行い、生存細胞数を確認する。被験物質を添加しない系に比して生存細胞数(ES様細胞のコロニー数)が増加した場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて融合細胞(若しくは融合前の体細胞)にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
本発明のスクリーニングで選択された体細胞核初期化(候補)物質が体細胞の核を初期化するか否かは、(1)当該核初期化(候補)因子により体細胞から変換されたES様細胞がOct3/4やEcat4(Nanog)といったES細胞のマーカー遺伝子を発現しているか否か、(2)前記ES細胞がin vitroにおいてレチノイン酸刺激等で分化するか否か、(3)前記ES細胞をマウスブラストシストにインジェクションしてキメラマウスが誕生するか等を調べることにより、確認することができる。
(2)本発明の核初期化物質
本発明は、前記本発明のスクリーニング方法を用いて選択される体細胞核初期化物質を提供する。当該核初期化物質は、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物またはそれらの混合物である。後述の実施例で用いたES細胞も体細胞核初期化物質の1つである。具体的には、ES細胞由来の遺伝子またはタンパク質が例示される。具体例としては、例えばNAT1遺伝子破壊ES細胞由来の遺伝子またはタンパク質が例示される。本発明の核初期化物質は、幹細胞療法において有用である。すなわち、患者から体細胞(組織幹細胞、分化細胞等)を採取し、これに本発明の核初期化物質を添加することにより、ES様細胞が出現する。このES様細胞をレチノイン酸、増殖因子(例えばEGF、FGF−2、BMP−2、LIF等)、またはグルココルチコイドなどにより、神経細胞、心筋細胞または血球細胞などに分化させ、これを患者に戻すことにより、幹細胞療法を達成することができる。
(3)本発明のノックインマウスの新規用途(本発明スクリーニング用体細胞の供給源としての使用)
従来、ある遺伝子にマーカー遺伝子をノックインしたノックインマウスは、その遺伝子の機能解析のために利用されてきた。また場合によっては疾患モデル動物となり得るケースもあった。しかしながら本発明で開示された新たなスクリーニング方法で用いる体細胞の供給源としての利用はなされていない。
本発明は、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有するノックインマウスの、本発明のスクリーニングにおいて用いる体細胞の供給源としての用途を提供するものである。
当該ノックインマウスの作製法等については、前記(1)本発明のスクリーニング方法および後述の実施例において詳しく述べた通りである。当該ノックインマウスは、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子及び/又はECAT5遺伝子を用いる場合は、当該遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を、ホモで含有することが好ましい。一方、ECAT4遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を用いる場合はヘテロで含有することが好ましい。マーカー遺伝子としては、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子が挙げられる。中でも薬剤耐性遺伝子を含有する遺伝子が好ましい。
(4)本発明の体細胞
本発明は、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞を提供する。
当該体細胞の作製法等については、前記(1)本発明の体細胞核初期化物質のスクリーニング方法および後述の実施例において詳しく述べた通りである。本発明の体細胞は、前記本発明のスクリーニング方法、または後述の本発明のES様細胞の選択方法において、有効に使用される。
(5)本発明のES様細胞の選択方法
本発明はまた、以下の(a)および(b)の工程:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞をES様細胞として選択する工程、
を含むES様細胞の選択方法を提供する。
前記本発明のスクリーニング方法において述べたようなECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた体細胞は、ES様細胞の選択のためにも有効に用いられる。例えば幹細胞療法を念頭においた場合、ヒトの体細胞を核初期化物質で刺激することにより出現したES様細胞を、他の細胞(体細胞)から分離(純化)し、後の治療に用いることが望ましい。前述のように、本発明のシステムは、薬剤耐性遺伝子等のマーカー遺伝子の発現を指標として、ES様細胞を容易に選択できるシステムであるため、ES様細胞を選択・分離する際に有効に用いることができる。
ここで「ES様細胞」とは、ES細胞としての性質を有する細胞、すなわち未分化・多能性を有する細胞を意味する。
本発明のES様細胞の選択方法は、前記ヒトの治療のみならず、イン・ビトロおよびイン・ビボでのES細胞関連の様々な研究において、ES細胞を選択(分離)する如何なる目的においても使用することができる。
前記において、1)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞の作製方法、2)当該体細胞と体細胞核初期化物質との接触方法、および3)マーカー遺伝子発現細胞の選択方法については、全て「(1)本発明の体細胞核初期化物質のスクリーニング方法」に記述したものと同様である。なお、マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は選択培地で培養することにより、マーカー遺伝子発現細胞を容易に選択(分離)することができる。またマーカー遺伝子として蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、または発色酵素遺伝子を用いた場合は、セルソーター、限界希釈法または軟寒天コロニー法などを利用することにより、当該細胞を選択(分離)することができる。
前記で「核初期化物質」とは前記本発明のスクリーニングで得られるような、体細胞の核初期化に関与する物質を指す。なお、後述の実施例においては、体細胞の核初期化物質としてES細胞自身を用いることにより、マーカー遺伝子発現細胞をES様細胞として選択している。
本発明のES様細胞選択方法においては、如何なるECAT遺伝子(ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子)も使用することができる。具体例として、以下に示した選択方法が例示される。
すなわちECAT2遺伝子を利用した選択方法として、以下の(a)および(b):
(a)ECAT2遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
を含むES様細胞の選択方法が例示される。
またECAT3遺伝子を利用した選択方法として、以下の(a)および(b):
(a)ECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
を含むES様細胞の選択方法が例示される。
またECAT5遺伝子を利用した選択方法として、以下の(a)および(b):
(a)ECAT5遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
を含むES様細胞の選択方法が例示される。
またECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子を利用した選択方法として、以下の(a)および(b):(a)ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
を含むES様細胞の選択方法が例示される。
またECAT4遺伝子を利用した選択方法として、以下の(a)および(b):
(a)ECAT4遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程、
を含むES様細胞の選択方法が例示される。
以上のようなES様細胞の選択方法において用いる体細胞は、ヒトの治療を念頭においた場合は、ECAT遺伝子発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を挿入したベクターを含有するヒト体細胞であることが望ましい。具体的には以下のようにして作製された体細胞が用いられる。
すなわちまず、患者の体細胞をヒトから単離することなどにより調製する。体細胞としては、疾患に関与する体細胞、疾患治療に関与する体細胞などが挙げられる。このヒト体細胞に対し、前記(1−2)の項に記載のいずれかのベクターを導入する。具体的にはBACベクター(ECAT遺伝子の発現調節領域の下流にマーカー遺伝子を存在させたBACベクター)またはPACベクターを導入することが望ましい。ここで導入するBACベクター(PACベクター)は1種類であっても、異なるECAT遺伝子を含有する2種類以上のBACベクターであっても良い。このBACベクター導入細胞に対して核初期化物質を添加することにより、ES様細胞を出現させる。このES様細胞を、用いたマーカー遺伝子の性質に応じて選択する。例えばマーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を用いた場合は、核初期化物質添加後に選択培地で選択することにより、薬剤耐性を指標として、ES様細胞を容易に選択することができる。
(6)本発明のES様細胞
本発明は、本発明の体細胞核初期化物質のスクリーニングにより出現したマーカー遺伝子発現細胞(ES様細胞)、および本発明のES様細胞の選択方法により選択されたES様細胞を提供する。当該ES様細胞は、その後のインビトロおよびインビボでの評価において有効に用いることができる。すなわち当該ES様細胞の分化誘導能や、分化誘導した細胞の個体(マウス等)への移植定着などを調べることは、ヒトにおける幹細胞療法の予備検討やES細胞に関わる種々の研究において極めて重要である。本発明のES様細胞は、そのような研究や検討において有効に用いられる。
さらに本発明のES様細胞の選択法により出現したヒトのマーカー遺伝子発現細胞(ES様細胞)を、レチノイン酸、増殖因子(例えばEGF、FGF−2、Bf−2、LIF等)、またはグルココルチコイドなどにより、神経細胞、心筋細胞または血球細胞などに分化させ、これを患者に戻すことにより、幹細胞療法を達成することができる。
(6)本発明のES細胞未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法
本発明は、以下の(a)および(b)の工程:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の存在の有無を調べ、該細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、を含むES細胞の未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法を提供する。
ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させたES細胞を、ES細胞としての状態(未分化・多能性)を維持できない培地中で培養した場合、マーカー遺伝子の発現は消失する。一方、前記培地中にES細胞の未分化・多能性維持物質が存在していれば、マーカー遺伝子の発現は存続する。この性質を利用することにより、ES細胞の未分化・多能性維持(候補)物質を容易にスクリーニングすることができる。
前記スクリーニング工程(a)において用いられるES細胞としては、ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有するES細胞であればどのようなものであっても良い。具体的には、例えば、前記(1−1−a)に記載されたノックインマウス由来のES細胞、前記(1−1−b)に記載されたトランスジェニックマウス由来のES細胞、前記(1−2−a)に記載されたBACベクター若しくはPACベクターを含有するES細胞、前記(1−2−b)に記載されたプラスミドベクターを含有するES細胞、若しくは前記(1−2−c)に記載されたターゲッティングベクターを含有するES細胞を挙げることができる。また、前述のようにECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞から変換させて生じたES様細胞も、同様に使用することができる(以下においてはES様細胞も含めて「ES細胞」と称する)。
前記スクリーニング工程(a)において用いられる「ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地」とは、ES細胞としての状態を維持できない培地、未分化状態を維持できない培地であれば、どのような培地であっても良い。例えばマウスES細胞は、低密度では、その維持(未分化・多能性維持)に血清またはフィーダー細胞が必須であることが知られているため、当該ES細胞の培養条件から血清、フィーダー細胞又はその両者を除去した条件が挙げられる。またヒトES細胞の維持(未分化・多能性維持)にはフィーダー細胞が必須であるため、ヒトES細胞の培養条件からフィーダー細胞を除去した条件が挙げられる。さらにヒトES細胞の場合はフィーダー細胞存在下でも分化する細胞が出現するため、フィーダー細胞存在下の培養条件でも良い。
具体的には、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))に記載のES細胞の培養条件から血清、フィーダー細胞又はその両者を除去した条件などが例示される。
前記工程(a)は、前ES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させることにより行われる。被験物質は、ES細胞を未分化・多能性非維持培地に移す前に、また移す際に、若しくは移した後に、当該ES細胞と接触させる。
本スクリーニングで用いられる被験物質(被験試料)は制限されないが、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物またはこれらの混合物などであり、本発明のスクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質を前記ES細胞と接触させることにより行われる。かかる被験物質としては、細胞分泌産物、血清、細胞抽出液、遺伝子(ゲノム、cDNA)ライブラリー、RNAiライブラリー、核酸(ゲノム、cDNA、mRNA)、アンチセンス核酸、低分子化合物、高分子化合物、タンパク質、ペプチド、天然化合物などが挙げられる。具体的には、動物血清またはその画分、フィーダー細胞の分泌産物またはその画分などが挙げられる。
これら被験物質(被験試料)は、体細胞への取り込み可能な形態で体細胞と接触させる。例えば被験物質が核酸(cDNAライブラリー等)の場合は、リン酸カルシウム、DEAE−デキストランや遺伝子導入用リピッドを用いて体細胞に導入する。
マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で選択を行う。当該薬剤は、ES細胞と被験物質との接触の際に培地に含まれていても良く、また接触後に含ませても良い。さらに被験物質存在下、ES細胞の未分化・多能性非維持培地中で培養した後に前記薬剤を培地に含ませても良い。
前記工程(a)の後、マーカー遺伝子発現細胞の存在の有無を調べ、該細胞を存在させた被験物質をES細胞の未分化・多能性維持の候補物質として選択する(工程(b))。当該工程(b)については、前記「(1)本発明の体細胞核初期化物質のスクリーニング方法」に記載した通りである。マーカー遺伝子発現細胞が認められた場合、ここで用いた被験試料(被験物質)を、ES細胞の未分化・多能性維持の候補物質として選択する。
前記スクリーニングは、必要に応じて何度でも繰り返し行うことができる。例えば1回目のスクリーニングでフィーダー細胞分泌産物や血清といった混合物を用いた場合、2回目以降は、さらに当該混合物を細分化(分画)して同様のスクリーニングを繰り返し行うことにより、最終的に、ES細胞の未分化・多能性維持の候補物質を選択することができる。
なお、前記のように被験試料として混合物を用いてスクリーニングを行った場合、ES細胞の未分化・多能性維持物質と共にES細胞の増殖促進物質も選択される可能性がある。すなわち、ある混合物(画分A)を前記本発明のスクリーニング方法に供し、生存細胞が確認され且つ当該生存細胞の細胞数が増加した場合には、当該画分中には、ES細胞の未分化・多能性維持物質と共に、ES細胞の増殖促進物質も含まれていると考えられる(もちろん1つの物質が両方の性質を兼ね備えている場合もある)。その場合、当該画分Aをさらに分画し、片方の画分(画分B)を本発明のスクリーニングに供した場合には生存細胞が確認されるが細胞数の増加は認めらず、もう片方の画分(画分C)を本発明のスクリーニングに供した場合は生存細胞が認められなかった場合、画分BにはES細胞の未分化・多能性維持物質が含まれ、画分CにはES細胞の増殖促進物質が含まれることが考えられる。本発明のスクリーニングは、そのようなES細胞の増殖促進(候補)物質の選択にも有用である。
以下、前記スクリーニング方法の具体例として、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子およびECAT5遺伝子を利用したスクリーニング方法につき例示するが、いずれのECAT遺伝子(ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子)についても以下を参考にして同様に実施することができる。
例1:ECAT2遺伝子を利用したスクリーニング
ECAT2遺伝子を利用したES細胞未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法の具体例として、以下(a)および(b):
(a)ECAT2遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
後述の実施例に示したように、ECAT2遺伝子はES細胞の維持・増殖に必須の因子ではない。従って、ECAT2遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインしたES細胞を用いて本発明のスクリーニングを行うことが好ましい。当該ES細胞は、例えば実施例3に記載の方法で作製することができる(ECAT2遺伝子ホモ変異RF8 ES細胞)。このES細胞を、被験物質存在下、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))に記載のES細胞の培養条件から血清、フィーダー細胞又はその両者を除去した条件で培養する。その後G418及び/又はハイグロマイシンで選択を行う。これらの薬剤による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、ES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてフィーダー細胞分泌産物を用いる場合は、前記ES細胞に対してフィーダー細胞分泌産物を添加し、前記手法にてG418及び/又はハイグロマイシンで選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、その分泌産物をさらに幾つかの画分に分けてES細胞に添加する。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞の未分化・多能性維持(候補)因子を選択することができる。また併せて生細胞数の増加を指標としてES細胞の増殖促進(候補)物質を選択することもできる。
例2:ECAT3遺伝子を利用したスクリーニング
ECAT3遺伝子を利用したES細胞未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法の具体例として、以下(a)および(b):
(a)ECAT3遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
後述の実施例に示したように、ECAT3遺伝子はES細胞の維持・増殖に必須の因子ではない。従って、ECAT3遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインしたES細胞を用いて本発明のスクリーニングを行うことが好ましい。当該ES細胞は、例えば、実施例1で作製したβgeoベクターとの相同組み換えES細胞に対して、さらにHygroベクター(ECAT3遺伝子をHygro遺伝子で置き換えるためのターゲッティングベクター)を導入することにより、ECAT3遺伝子がホモ変異となったES細胞を作製することができる。この細胞を、被験物質存在下、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))に記載のES細胞の培養条件から血清、フィーダー細胞又はその両者を除去した条件で培養する。その後G418及び/又はハイグロマイシンで選択を行う。これらの薬剤による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、ES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてフィーダー細胞分泌産物を用いる場合は、前記ES細胞に対してフィーダー細胞分泌産物を添加し、前記手法にてG418及び/又はハイグロマイシンで選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、その分泌産物をさらに幾つかの画分に分けてES細胞に添加する。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞の未分化・多能性維持(候補)因子を選択することができる。また併せて生細胞数の増加を指標としてES細胞の増殖促進(候補)物質を選択することもできる。
例3:ECAT4遺伝子を利用したスクリーニング
ECAT4遺伝子を利用したES細胞未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法の具体例として、以卞(a)および(b):
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
ECAT遺伝子はES細胞の維持・増殖に必須の因子である。従って、ECAT4遺伝子にマーカー遺伝子をヘテロでノックインしたES細胞を用いて本発明のスクリーニングを行うことが好ましい。
ECAT4遺伝子にマーカー遺伝子をヘテロでノックインしたES細胞は、前記ECAT2やECAT3と同様にターゲッティングベクター(例えばECAT4遺伝子をβgeo遺伝子で置き換えるためのターゲッティングベクター)をES細胞に導入・相同組み換えを起こすことにより作製することができる。この細胞を、被験物質存在下、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))に記載のES細胞の培養条件から血清、フィーダー細胞又はその両者を除去した条件で培養する。その後G418で選択を行う。G418による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、ES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてフィーダー細胞分泌産物を用いる場合は、前記ES細胞に対してフィーダー細胞分泌産物を添加し、前記手法にてG418で選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、その分泌産物をさらに幾つかの画分に分けてES細胞に添加する。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞の未分化・多能性維持(候補)因子を選択することができる。また併せて生細胞数の増加を指標としてES細胞の増殖促進(候補)物質を選択することもできる。
例4:ECAT5遺伝子を利用したスクリーニング
ECAT5遺伝子を利用したES細胞未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法の具体例として、以下(a)および(b):
(a)ECAT5遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程、
を含むスクリーニング方法が例示される。
後述の実施例に示したように、ECAT5遺伝子はES細胞の維持に必須の因子ではない。従って、ECAT5遺伝子にマーカー遺伝子をホモでノックインしたES細胞を用いて本発明のスクリーニングを行うことが好ましい。当該ES細胞の作製法およびそれを用いたスクリーニング法は、前記CAT2やECAT3の場合と同様である。
前記本発明のスクリーニングにより選択されたES細胞の未分化・多能性維持(候補)物質がES細胞の未分化・多能性を維持するか否かは、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中に当該候補物質を添加した培養条件下でES細胞を培養し、ES細胞としての種々の能力を調べることにより、確認することができる。具体的には、例えば前記培養条件下で培養したES細胞が、(1)Oct3/4やEcat4(Nanog)といったES細胞のマーカー遺伝子を発現しているか否か、(2)前記ES細胞がin vitroにおいてレチノイン酸刺激等で分化するか否か、(3)前記ES細胞をマウスブラストシストにインジェクションしてキメラマウスが誕生するか等を調べることにより、確認することができる。
(7)本発明のES細胞未分化・多能性維持物質
本発明は前記スクリーニング方法を用いて選択されるES細胞未分化・多能性維持物質を提供する。当該ES細胞の未分化・多能性維持物質は、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物のいずれかであり、好ましくは、フィーダー細胞分泌産物または血清由来成分が例示される。本発明のES細胞未分化・多能性維持物質は、ES細胞の臨床応用において有用である。すなわち臨床応用においては、ヒトES細胞またはそれから分化させた分化細胞を無血清下、フィーダー細胞非存在下で培養することが必須となるため、本発明のES細胞未分化・多能性維持物質の無血清培地への添加により、前記ES細胞の臨床応用が可能となる。
(8)本発明のノックインマウスの新規用途(本発明スクリーニング用ES細胞の供給源としての使用)
本発明は、本発明のノックインマウスの、ES細胞未分化・多能性維持物質スクリーニング用のES細胞の供給源としての用途を提供する。本発明のノックインマウスについては前記(3)に記載した通りである。ノックインマウスからのES細胞の単離は、当業者に周知の手法により行うことができる。
(9)本発明のES細胞
本発明は、ECAAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有するES細胞を提供する。当該ES細胞の作製法等については、前記(1)および(6)において詳しく述べたとおりである。本発明のES細胞は、ES細胞の未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法において有効に使用される。
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1
ECAT3遺伝子を利用したES類似細胞の選択システム
ECAT3遺伝子のコーディング領域をβガラクトシダーゼとネオマイシン耐性遺伝子の融合遺伝子(βgeo)に置き換え、ECAT3遺伝子をノックアウトするとともに、ECAT3遺伝子の発現をX−Gal染色や薬剤耐性でモニターできるようにしたホモ変異ノックインマウス(以下、ECAT3βgeo/βgeoマウス)を作製した。このECAT3βgeo/βgeoマウスの作製は文献(Tokuzawa,Y.,et al.,Molecular and Cellular Biology,23(8):2699−2708(2003))の記載に基づき行った。簡単に述べると以下のようになる。
まず、マウスECAT3遺伝子を含有するBACクローンを、ECAT3 cDNAの一部をプライマーに用いたPCRスクリーニングにより、BACライブラリー(Research Genetics)のDNAプールから同定し、塩基配列を決定した。
マウスECAT3遺伝子のエクソン3〜エクソン7を、IRES−βgeoカセット(Mountford et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91:4303−4307(1994))で置き換えるためのターゲッティグベクターを以下のように作製した。ECAT3のイントロン1〜エクソン3を含有する1.4kbフラグメントを、前記マウスBAC DNAを鋳型とし、プライマー(ACCAAGGTCACCGCATCCAA(配列番号:43)、CTTCACCAAGATTTCCGATG(配列番号:44))を用いてPCRにより増幅することにより5’側アームを作製した。またエクソン7〜エクソン8を含有する3.5kbフラグメントを、マウスBAC DNAを鋳型とし、プライマー(GAATGGTGGACTAGCTTTTG(配列番号:45)、TGCCATGAATGTCGATATGCAG(配列番号:46))を用いてPCRにより増幅することにより3’側アームを作製した。これら5’側アームと3’側アームをβgeoカセットにライゲートし、ターゲッティングベクターを作製した。このターゲッティングベクターをNotIで切断し、エレクトロポレーションによりRF8 ES細胞(Meiner et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA,93:14041−14046(1996))に導入した。G418選択培地にて、相同組み換えが正しく起こったクローンを選択した。このβgeoとの相同組み換えES細胞をマウス(C57BL/6)のブラストシストにインジェクションすることによりキメラマウスを経てヘテロ変異マウス(ECAT3βgeo/+マウス)を樹立し、さらにヘテロ変異マウス同士の交配から、ホモ変異マウス(ECAT3βgeo/βgeoマウス)がメンデルの法則に従って誕生した。
次に、ECAT3βgeo/βgeoマウスの胸腺から常法によりリンパ球を採取した。この細胞を文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))に記載のES細胞の培養条件で2日間培養し、G418(0.25mg/ml)で選択した。その結果、これらリンパ球はすべて死滅し、薬剤耐性コロニーは一つも得られなかった。またこのG418濃度では正常ES細胞はすべて死滅することも確認された。
次に、ECAT3βgeo/βgeoマウス由来のリンパ球とRF8細胞とを、多田らの方法(Tada,M.,et al.,Curr.Biol.,11(19):p1553−1558(2001))に従って電気的に融合し、前記ES細胞の培養条件でフィーダー細胞(STO細胞)上で2日間培養し、G418(0.25mg/ml)で選択したところ、多数のES細胞様コロニーが得られた。これらのコロニーを単離、培養し、RNAを回収した。ノザンブロットによりこれらの細胞は全クローンにおいてOct3/4やECAT4(Nanog)を発現しており、またこのクローンをマウスブラストシストに移植したところキメラマウスが形成されたことから、G418で選択された細胞は確かにES細胞としての性質を有するES様細胞であることが明らかとなった(図1)。これらの細胞をフローサイトメトリー(FACS)で解析したところ、大きさ(Forward scatter)は約2倍となり、DNA量も4倍体となっていた(図2)。以上のことから、これらのコロニーはECAT3βgeo/βgeoマウス由来のリンパ球と正常ES細胞との融合により、リンパ球核の初期化(ES細胞化)が起こったためにG418耐性になったことが分かった。このようにECAT3βgeo/βgeoマウス由来の体細胞は、ES様細胞に変換された時のみ薬剤耐性となる。従ってこの性質を利用すれば、ES様細胞の選択や、ES様細胞への変換を誘導する核初期化因子を容易にスクリーニングできることが明らかとなった。
実施例2
ECAT5遺伝子を利用したES類似細胞の選択システム
ECAT5遺伝子のコーディング領域をβgeoに置き換えたホモ変異ノックインマウス(ECAT5βgeo/βgeoマウス)を文献(Takahashi,K.,K.Mitsui,and S.Yamanaka,Nature,423(6939):p541−545(2003)、特開2003−265166号公報)記載の方法に基づき作製した。このECAT5βgeo/βgeoマウス由来のリンパ球を用いて、上記と同様のプロトコールで実験を行った。ECAT5βgeo/βgeoマウス2x10個のリンパ球を4x10個のES細胞と融合し、G418で選択培養したところ、実施例1で行ったECAT3の場合よりは数が少ないものの、同様のES細胞様コロニーが得られた。よってECAT5も同様にES様細胞の選択システムに利用できることが分かった。
なおECAT3の場合よりもコロニー数が少なかった理由としては、ES細胞に極めて特異的に発現するという観点からは両者は同じであるものの、ECAT3はES細胞の維持や増殖にとっては必須ではないのに対し、ECAT5はES細胞の増殖を促進する因子であるため、その遺伝子量の減少(ノックアウト)はES細胞化にとって不利になっていることが考えられた。
実施例3
ECAT2遺伝子を利用したES類似細胞の選択システム
ECAT2遺伝子がES細胞で特異的に発現することは、既にノザンブロット解析により明らかになっている(WO 02/097090号公報参照)。さらに詳細な発現解析をRT−PCRにより行ったところ、未分化ES細胞での特異的な発現が確認された(図3A)。またサイクル数を増やすことにより精巣、および卵巣でも発現するが体組織では全く発現が認められなかった(図3B)。
マウスECAT2ゲノム配列を、公的データベースであるMouse Genome Resources(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/guide/mouse/)により同定した。このECAT2ゲノムを含有するBACクローンをPCRとサザンハイブリダイゼーションによりクローニングした。
ECAT2遺伝子をノックアウトするためにエクソン1〜3をβgeo(βガラクトシダーゼとネオマイシン耐性遺伝子の融合遺伝子)またはHygro(ハイグロマイシン耐性遺伝子)と置換するためのターゲッティングベクターを作製した。すなわち、マウスECAT2遺伝子のエクソン1〜3をIRES(internal ribosome entry site)−βgeoカセット若しくはIRES−Hygroカセットで置換するようにデザインしたターゲッティングベクターを作製した。
具体的にはまず、マウスECAT2ゲノムの5’flanking領域〜エクソン1の領域を含有するフラグメントと、エクソン3〜3’flanking領域を含有するフラグメントを、それぞれ前記BACクローンを鋳型としたPCRにより増幅し、これらをそれぞれターゲッティングベクターの5’−アームおよび3’−アームとした。5’−アームはプライマー(CCGCGGAAAGTCAAGAGATTGGGTGG(配列番号:47)、GCGGCCGCCTTTACGGGTCACGAGGGTCAC(配列番号:48))により増幅し、3’−アームはプライマー(TGTGGCCAGTGTTTGGTTCTGGCGGG(配列番号:49)、CTCGAGGACTCGCCATTCTAGCCAAG(配列番号:50))により増幅した。得られた2つの増幅断片をpBSSK(−)−IRES−βgeoまたはpBSSK(−)−IRES−HygroのIRES−βgeoカセット若しくはIRES−Hygroカセットにライゲーションすることによりターゲッティングベクターを完成し、これをSacIIで切断して直鎖化した。
前記ターゲッティングベクターによるECAT2遺伝子破壊の概略を図4に示す。
直鎖化したターゲッティングベクターをエレクトロポレーションによりRF8ES細胞(Meiner,V.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,93:14041−14046(1996))に導入し、各薬剤(βgeoの場合はネオマイシン(G418)、Hygroの場合はハイグロマイシン)により選択した。相同組み換えが正しく起こっていることの確認はサザンブロットにて行った。すなわち、前記ES細胞から抽出したゲノムDNAをPstIで切断後、電気泳動し、ナイロンメンブランへ転写した。これをECAT2遺伝子の3’領域のプローブとハイブリダイゼーションさせた。正常ゲノムからは18kbpのバンド、βgeoベクターとの相同組み換えでは13kbpのバンド、そしてHygroベクターとの相同組み換えでは9kbpのバンドが検出される。結果を図5に示す。各薬剤耐性ES細胞において相同組換えが正しく起こっていることが確認された。
さらにHygroベクターとの相同組み換えES細胞にβgeoベクターを導入し、ネオマイシンで選択したところ、両者で相同組み換えが起こった、すなわちECAT2遺伝子がホモ変異となったES細胞を3クローン得ることが出来た。βgeoベクターとHygroベクターの両者で正しく相同組換えが起こっていることは前記と同様のサザンブロットにより確認した(図5)。またノザンブロットにより、これらのクローンはECAT2の発現が消失していることが確認できた(図6)。
このホモ変異ES細胞がES細胞としての機能を保持しているかどうかを調べたところ、形態、増殖、分化能すべてが正常であった。以上の結果から、ECAT2はES細胞、精巣、卵巣に特異的に発現するが、ESの維持や初期発生には必須でない因子であることが分かった。従って、ECAT3遺伝子と同様にES細胞の選択に極めて有効に利用できることが明らかとなった。
次に、βgeoとの相同組み換えES細胞をマウス(C57BL/6)のブラストシストにインジェクションすることによりキメラマウスを経てヘテロ変異マウスを樹立した。さらにヘテロ変異マウス同士の交配から、ホモ変異マウスがメンデルの法則に従って誕生した。このホモ変異マウス由来の体細胞を用いて、実施例1と同様のプロトコールで実験を行うことにより、実施例1と同様にES細胞様コロニーを得ることができる。
すなわち、ECAT2βgeo/βgeoマウスの胸腺から常法によりリンパ球を採取し、実施例1と同様のプロトコールでこのリンパ球とES細胞(RF8細胞)とを融合し、G418で選択培養したところ、実施例1と同様に多数のES細胞様コロニーが得られた。従ってECAT2もECAT3と同様に核初期化因子のスクリーニング等に利用できることが分かった。
実施例4
ECAT4ホモ変異ES細胞を用いた体細胞核初期化物質のスクリーニング
文献(Mitsui,K.,et al.,Cell,113:631−642(2003))およびWO 2004/067744)に基づき、ECAT4遺伝子がホモ変異したES細胞(ECAT4遺伝子がβgeoベクター及びHygroベクターの両者でノックインされたRF8 ES細胞)を作製した。このECAT4ホモ変異ES細胞は、未分化・多能性を維持していないこと、すなわち分化していることが知られている(Cell,113:631−642(2003)、WO 2004/067744)。この細胞に対してECAT4遺伝子を含有するレトロウイルスベクターを感染させ、細胞内でECAT4を正常に発現させたが、ES細胞としての機能(未分化・多能性)は回復しなかった。この結果より、ECAT4のみでは分化したES細胞の核初期化を行うことはできないことが明らかとなった。
文献(Cell,113:631−642(2003)、WO 2004/067744)に記載のように、ECAT4はES細胞としての機能(未分化・多能性)維持に必須の因子であることから、ECAT4をノックアウトし、かつECAT4を供給した前記ES細胞は、ES細胞に近い状態の分化細胞であると言える。よってこの細胞に被験物質を接触させるスクリーニング系は、核初期化物質がより見出し易い、効率的なスクリーニング系であると考えられた。
前記ECAT4ホモ変異ES細胞を用いた体細胞核初期化物質のスクリーニングは、以下のようにして行う。
まず、前記ECAT4ホモ変異ES細胞に対してECAT4遺伝子発現ベクターを導入し、細胞内にECAT4を供給する。次に被験物質を添加し、ES細胞の培養条件(例えばMeiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996)を参照)で細胞培養し、G418及び/又はハイグロマイシンで選択を行う。当該選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、まず前記体細胞(ECAT4ホモ変異ES細胞)に対してECAT4遺伝子を導入する。その後リポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418及び/又はハイグロマイシンで選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
実施例5
体細胞核初期化因子探索のソースとしてのcDNAライブラリー
文献(Yamanaka,S.et al.,Embo J.,19,5533−5541(2000)に基づき、NAT1遺伝子ノックアウトES細胞を作製した。当該ES細胞は、ネオマイシン耐性遺伝子を持ったターゲティングベクターを用いて作製したためG418耐性である。しかし用いたネオマイシン耐性遺伝子が2つのLoxP配列で囲まれていることを利用して、同細胞にCRE遺伝子を発現させることによりネオマシン耐性遺伝子を除去し、再びG418感受性となったNAT1遺伝子ノックアウトES細胞を樹立した。この細胞を用いてECAT3ノックインマウス由来の胸腺細胞と細胞融合を行った結果、融合の効率は正常ES細胞と顕著な差を認めなかった(図7、8)。しかしG418で選択を行った後のES細胞様コロニーの出現頻度は、正常ES細胞を用いた時に比べて有意に増強した(図9)。以上の結果は、NAT1遺伝子ノックアウトES細胞は正常ES細胞より未分化度が高いだけではなく、核初期化活性も高いことを示しており、核初期化因子の機能的クローニングに用いるcDNAライブラリーの由来として有効であることが示された。
NAT1遺伝子ノックアウトES細胞から市販のcDNAライブラリー作製キットを用いてcDNAライブラリーを作製する。次にECAT3βgeo/βgeoマウスやECAT2βgeo/βgeoマウス等に由来する体細胞に対して、リポフェクチン法等の公知の手法で前記cDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、G418で選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
実施例6
ECAT3βgeo/βgeoマウス由来の体細胞を用いた体細胞核初期化物質のスクリーニング
ECAT3βgeo/βgeoマウスからリンパ球、皮膚細胞などの体細胞を単離する。この体細胞に対して被験物質を添加し、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))等に記載のES細胞の培養条件で細胞培養し、G418(0.25mg/ml)で選択を行う。G418による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、前記体細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418で選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
実施例7
ECAT2βgeo/βgeoマウス由来の体細胞を用いた体細胞核初期化物質のスクリーニング
ECAT2βgeo/βgeoマウスからリンパ球、皮膚細胞などの体細胞を単離する。この体細胞に対して被験物質を添加し、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))等に記載のES細胞の培養条件で細胞培養し、G418(0.25mg/ml)で選択を行う。G418による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、前記体細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にてG418で選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
実施例8
ECAT2Hygro/Hygro・ECAT3βgeo/βgeoダブルノックインマウス由来の体細胞を用いた体細胞核初期化物質のスクリーニング
ECAT2Hygro/Hygro・ECAT3βgeo/βgeoダブルノックインマウスはECAT2Hygro/HygroマウスとECAT3βgeo/βgeoマウスを交配させることにより得ることができる。このダブルノックインマウスからリンパ球、皮膚細胞などの体細胞を単離する。この体細胞に対して被験物質を添加し、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))等に記載のES細胞の培養条件で細胞培養し、G418(0.25mg/ml)およびハイグロマイシン(0.1mg/ml)で選択を行う。2つの薬剤による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、体細胞の核初期化物質の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてES細胞由来のcDNAライブラリーを用いる場合は、前記体細胞に対してリポフェクチン法等の公知の手法でcDNAライブラリー由来のcDNAプールをトランスフェクトし、前記手法にて薬剤選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、そのcDNAプールをさらに幾つかのプールに分けて体細胞にトランスフェクトする。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞由来の体細胞核初期化(候補)因子を選択することができる。
実施例9
ECAT2遺伝子ホモ変異ES細胞を用いたES細胞未分化・多能性維持物質のスクリーニング
実施例3で作製したECAT2遺伝子がホモ変異となったRF8 ES細胞を、被験物質存在下、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))に記載のES細胞の培養条件から血清、フィーダー細胞又はその両者を除去した条件で培養する。その後G418(0.25mg/ml)及び/又はハイグロマイシン(0.1mg/ml)で選択を行う。これら薬剤による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、ES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてフィーダー細胞分泌産物を用いる場合は、前記ES細胞に対してフィーダー細胞分泌産物を添加し、前記手法にてG418及び/又はハイグロマイシンで選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、その分泌産物をさらに幾つかの画分に分けてES細胞に添加する。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞の未分化・多能性維持(候補)因子を選択することができる。
実施例10
ECAT3遺伝子ホモ変異ES細胞を用いたES細胞未分化・多能性維持物質のスクリーニング
実施例1で作製したβgeoベクターとの相同組み換えES細胞に対して、さらにHygroベクター(ECAT3遺伝子をHygro遺伝子で置き換えるためのターゲッティングベクター)を導入し、ECAT3遺伝子がホモ変異となったRF8 ES細胞を作製する。この細胞を、被験物質存在下、文献(Meiner,V.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U S A,93(24):p14041−14046(1996))に記載のES細胞の培養条件から血清、フィーダー細胞又はその両者を除去した条件で培養する。その後G418(0.25mg/ml)及び/又はハイグロマイシン(0.1mg/ml)で選択を行う。これらの薬剤による選択で生存細胞が認められた場合、ここで用いた被験物質を、ES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する。
例えば被験物質としてフィーダー細胞分泌産物を用いる場合は、前記ES細胞に対してフィーダー細胞分泌産物を添加し、前記手法にてG418及び/又はハイグロマイシンで選択を行い、生存細胞の有無を確認する。生存細胞が確認された場合、その分泌産物をさらに幾つかの画分に分けてES細胞に添加する。この実験を繰り返すことにより、最終的に、ES細胞の未分化・多能性維持(候補)因子を選択することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明により、体細胞核初期化物質の効率的なスクリーニング方法が提供される。核初期化物質は、幹細胞療法を現実化するために極めて重要な物質であり、本発明のスクリーニング方法により、そのような核初期化物質の早期発見が可能となる。さらに本発明により、ES細胞未分化・多能性維持物質の効率的なスクリーニング方法が提供される。ES細胞未分化・多能性維持物質はES細胞の臨床応用において極めて重要な物質であり、本発明のスクリーニング方法により、そのようなES細胞未分化・多能性維持物質の早期発見が可能となる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号:39に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:40に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:41に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:42に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:43に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:44に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:45に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:46に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:47に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:48に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:49に記載の塩基配列はプライマーである。
配列番号:50に記載の塩基配列はプライマーである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)および(b)の工程を含む、体細胞の核初期化物質のスクリーニング方法:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の出現の有無を調べ、該細胞を出現させた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程。
【請求項2】
ECAT遺伝子が、ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、請求項1または2記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
体細胞が、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞である、請求項1〜3いずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
体細胞が、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する体細胞である、請求項4記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項4または5記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT2遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程。
【請求項8】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT3遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程。
【請求項9】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT5遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程。
【請求項10】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子に、それぞれ薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程。
【請求項11】
ECAT2遺伝子とECAT3遺伝子が、それぞれ異なる薬剤耐性遺伝子でノックインされている、請求項10記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
体細胞が、ECAT遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する体細胞である、請求項7〜11いずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞と、被験物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程。
【請求項14】
体細胞が、ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をヘテロで含有する体細胞である、請求項13記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項13記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有する体細胞にECAT4を供給し、被験物質を接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を生じさせた被験物質を体細胞の核初期化候補物質として選択する工程。
【請求項16】
体細胞が、ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する体細胞である、請求項15記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
請求項1〜16いずれか記載のスクリーニング方法を用いて選択される核初期化物質。
【請求項18】
ES細胞由来の遺伝子またはタンパク質である、請求項17記載の核初期化物質。
【請求項19】
ES細胞がNAT1遺伝子破壊ES細胞である、請求項18記載の核初期化物質。
【請求項20】
NAT1遺伝子破壊ES細胞に由来する物質。
【請求項21】
cDNAライブラリー、タンパク質ライブラリー、または細胞抽出物である、請求項20記載の物質。
【請求項22】
ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有するノックインマウスの、請求項1〜16いずれか記載のスクリーニング方法において用いる体細胞の供給源としての使用。
【請求項23】
ノックインマウスが、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有するノックインマウスである、請求項22記載の使用。
【請求項24】
ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項22または23記載の使用。
【請求項25】
マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、請求項22〜24いずれか記載の使用。
【請求項26】
ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞。
【請求項27】
ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項26記載の体細胞。
【請求項28】
マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、請求項26または27記載の体細胞。
【請求項29】
ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有する、請求項26〜28いずれか記載の体細胞。
【請求項30】
ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する、請求項29記載の体細胞。
【請求項31】
ECAT4遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する分化ES細胞である、請求項30記載の体細胞。
【請求項32】
ECAT4が細胞内に供給された、請求項31記載の体細胞。
【請求項33】
以下の(a)および(b)の工程を含む、ES様細胞の選択方法:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞をES様細胞として選択する工程。
【請求項34】
ECAT遺伝子が、ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項33記載の選択方法。
【請求項35】
マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、請求項33または34記載の選択方法。
【請求項36】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項33記載の選択方法:
(a)ECAT2遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程。
【請求項37】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項33記載の選択方法:
(a)ECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程。
【請求項38】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項33記載の選択方法:
(a)ECAT5遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程。
【請求項39】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項33記載の選択方法:
(a)ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程。
【請求項40】
ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に、それぞれ異なる薬剤耐性遺伝子が存在する、請求項39記載の選択方法。
【請求項41】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項33記載の選択方法:
(a)ECAT4遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置に薬剤耐性遺伝子を存在させた遺伝子を含有する体細胞と、体細胞の核初期化物質とを接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞をES様細胞として選択する工程。
【請求項42】
請求項26〜32いずれか記載の体細胞の、請求項1〜16いずれか記載のスクリーニング方法または請求項33〜41いずれか記載の選択方法における使用。
【請求項43】
請求項1〜16いずれか記載のスクリーニング方法において出現したマーカー遺伝子発現細胞または生存細胞、若しくは請求項33〜41いずれか記載の選択方法において選択されたES様細胞。
【請求項44】
以下の(a)および(b)の工程を含む、ES細胞の未分化・多能性維持物質のスクリーニング方法:
(a)ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、マーカー遺伝子発現細胞の存在の有無を調べ、該細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程。
【請求項45】
ECAT遺伝子が、ECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項44記載のスクリーニング方法。
【請求項46】
マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、請求項44または45記載のスクリーニング方法。
【請求項47】
ES細胞が、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞である、請求項44〜46いずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項48】
ES細胞が、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有するES細胞である、請求項47記載のスクリーニング方法。
【請求項49】
ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項47または48記載のスクリーニング方法。
【請求項50】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項44記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT2遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程。
【請求項51】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項44記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT3遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程。
【請求項52】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項44記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT5遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程。
【請求項53】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項44記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT2遺伝子およびECAT3遺伝子に、それぞれ薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程。
【請求項54】
ECAT2遺伝子とECAT3遺伝子が、それぞれ異なる薬剤耐性遺伝子でノックインされている、請求項53記載のスクリーニング方法。
【請求項55】
ES細胞が、ECAT遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有するES細胞である、請求項50〜54いずれか記載のスクリーニング方法。
【請求項56】
以下の(a)および(b)の工程を含む、請求項44記載のスクリーニング方法:
(a)ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子を含有するES細胞を、ES細胞の未分化・多能性を維持できない培地中で被験物質と接触させる工程、
(b)前記(a)の工程の後、選択培地中での生存細胞の有無を調べ、該生存細胞を存在させた被験物質をES細胞未分化・多能性維持の候補物質として選択する工程。
【請求項57】
ES細胞が、ECAT4遺伝子に薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子をノックインした遺伝子をヘテロで含有するES細胞である、請求項56記載のスクリーニング方法。
【請求項58】
請求項44〜57いずれか記載のスクリーニング方法を用いて選択されるES細胞の未分化・多能性維持物質。
【請求項59】
フィーダー細胞の分泌産物である、請求項58記載のES細胞の未分化・多能性維持物質。
【請求項60】
血清由来成分である、請求項58記載のES細胞の未分化・多能性維持物質。
【請求項61】
ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有するノックインマウスの、請求項44〜57いずれか記載のスクリーニング方法において用いるES細胞の供給源としての使用。
【請求項62】
ノックインマウスが、ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有するノックインマウスである、請求項61記載の使用。
【請求項63】
ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項61または62記載の使用。
【請求項64】
マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、請求項61〜63いずれか記載の使用。
【請求項65】
ECAT遺伝子の発現調節領域により発現調節を受ける位置にマーカー遺伝子を存在させた遺伝子を含有するES細胞。
【請求項66】
ECAT遺伝子がECAT1遺伝子、ECAT2遺伝子、ECAT3遺伝子、ECAT4遺伝子、ECAT5遺伝子、ECAT6遺伝子、ECAT7遺伝子、ECAT8遺伝子、ECAT9遺伝子およびOct3/4遺伝子から選択される1または2以上の遺伝子である、請求項65記載のES細胞。
【請求項67】
マーカー遺伝子が、薬剤耐性遺伝子、蛍光タンパク質遺伝子、発光酵素遺伝子、発色酵素遺伝子またはこれらの組み合わせに係る遺伝子である、請求項65または66記載のES細胞。
【請求項68】
ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子を含有する、請求項65〜67いずれか記載のES細胞。
【請求項69】
ECAT遺伝子にマーカー遺伝子をノックインした遺伝子をホモで含有する、請求項68記載のES細胞。
【請求項70】
請求項65〜69いずれか記載のES細胞の、請求項44〜57いずれか記載のスクリーニング方法における使用。

【国際公開番号】WO2005/080598
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510284(P2006−510284)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002842
【国際出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【出願人】(501219312)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】