体臭判定用指標剤
【課題】ヒトの体臭を的確に再現し、客観的に評価することができる指標や、化粧料、香料、洗浄剤などの体臭の消臭効果などを簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる手段を提供すること。
【解決手段】式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物を含有する体臭判定用指標剤、これを用いる体臭の消臭効果の評価方法、デオドラント剤の評価方法および体臭の判定方法ならびに前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物を用いて前記体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制する体臭抑制剤のスクリーニング方法。
【解決手段】式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物を含有する体臭判定用指標剤、これを用いる体臭の消臭効果の評価方法、デオドラント剤の評価方法および体臭の判定方法ならびに前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物を用いて前記体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制する体臭抑制剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体臭判定用指標剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、体臭を気にするヒトに適した化粧料、香料、洗浄剤などの開発などに有用な体臭判定用指標剤、体臭の消臭効果の評価方法、デオドラント剤の評価方法、体臭の判定方法および体臭抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体臭は、腋窩部、頭部、体幹部、足指部、足裏部などの各部位から発生する複数のにおいが混じり合ったものである。これらの部位のなかでも、例えば、腋窩部および頭部は、汗の分泌量が多い部位であるが、汗が蒸発しにくく、皮膚常在微生物が繁殖しやすい環境となっている。かかる腋窩部および頭部では、汗中に含まれる成分が皮脂、垢などとともに皮膚常在微生物によって分解されることにより、強いにおいを発する物質が生成される。そのため、腋窩部のにおい(以下、「腋臭」という)および頭部のにおい(以下、「頭部臭」という)は、強く、しかも他人に感知されやすい。
【0003】
近年、清潔志向が高まりつつあり、自分や他人の体臭を気にするヒトが増える傾向がある。そこで、体臭の消臭効果を発現する化粧料、香料、洗浄剤などが提案されている。
【0004】
化粧料、香料、洗浄剤などによる体臭の消臭効果は、多くの場合、モニターに化粧料、香料、洗浄剤などを使用させた後、当該モニターの体臭の有無をパネラーに評価させる方法、モニターが使用した衣服などに化粧料、香料、洗浄剤などを塗布した後、衣服に付着した体臭の有無をパネラーに評価させる方法などよって評価されている。しかしながら、これらの方法は、モニターおよびパネラーの体調などの影響を受けやすいため、体臭の消臭効果を客観的かつ的確に評価することが困難である。
【0005】
これに対して、体臭の原因物質を用いた擬似体臭を、体臭の消臭効果の評価に用いることが考えられる。
【0006】
例えば、腋臭の原因物質として、3−メチル−2−ヘキセン酸、4−エチルヘキサン酸、7−オクテン酸などの炭素数2〜11の脂肪酸;アンドロステノン(5α−16−アンドロステン−3−オン)、アンドロステノール(5α−16−アンドロステン−3α−オールまたは5α−16−アンドロステン−3β−オールなど)、アンドロスタジエノン(4,16−アンドロスタジエン−3−オン)などのステロイド類などが知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。これらのうち、炭素数2〜5のカルボン酸は、においが強く、不快なにおいである酸臭の原因物質であると考えられている。しかしながら、前記原因物質が配合された擬似腋臭組成物のにおいは、腋臭を十分に再現するものではなく、実際の腋臭とは異なっている。
【0007】
また、頭部臭の原因物質として、例えば、酢酸、プロピオン酸などの脂肪酸などが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、前記原因物質が配合された擬似頭部臭組成物のにおいは、頭部臭を十分に再現するものではなく、実際の頭部臭とは異なっている。
【0008】
したがって、ヒトの体臭を的確に再現し、客観的に評価することができる指標や、化粧料、香料、洗浄剤などの体臭の消臭効果などを簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる手段が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−62159号公報
【特許文献2】特開2001−220593号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本化学会編、「味とにおいの分子認識」、季刊化学総説、学会出版センター、1999年3月発行、第40巻、p.205−211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、ヒトの体臭を的確に再現し、客観的に評価することができる体臭判定用指標剤を提供することを目的とする。また、本発明は、体臭の消臭効果を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる体臭の消臭効果の評価方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、デオドラント剤の性能を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができるデオドラント剤の評価方法を提供することを目的とする。また、本発明は、簡便な操作で客観的かつ的確に体臭の種類や強度を判定することができる体臭の判定方法を提供することを目的とする。本発明は、体臭抑制剤を簡便な操作で効率よくスクリーニングすることができる体臭抑制剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)体臭の判定の指標として用いるための体臭判定用指標剤であって、一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物を含有することを特徴とする体臭判定用指標剤、
(2)炭素数2〜5の脂肪酸をさらに含有してなる前記(1)に記載の体臭判定用指標剤、
(3)炭素数6〜10の脂肪酸をさらに含有してなる前記(1)に記載の体臭判定用指標剤、
(4)ノネナールをさらに含有してなる前記(3)に記載の体臭判定用指標剤、
(5)被験試料と前記(1)〜(4)のいずれかに記載の体臭判定用指標剤とを接触させた後、前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、前記においの強度および前記においの不快度からなる群より選ばれた少なくとも1種を調べ、においの有無、被験試料との接触の有無によるにおいの強度の差異および被験試料との接触の有無によるにおいの不快度の差異からなる群より選ばれた少なくとも1種によって体臭の消臭効果を評価することを特徴とする体臭の消臭効果の評価方法、
(6)デオドラント剤の適用箇所に存在する物質を採取し、当該物質中に含まれる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によってデオドラント剤の性能を評価することを特徴とするデオドラント剤の評価方法、
(7)皮膚上に存在する物質を採取し、得られた物質中に含まれる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の体臭判定用指標剤の量を調べ、当該体臭判定用指標剤の量によって体臭の種類または体臭の強度を判定することを特徴とする体臭の判定方法、
(8)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤のスクリーニング方法であって、
(A)一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物の産生能を有する微生物を、被験物質および前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地で培養するステップ、
(B)前記ステップ(A)で得られた培養物における前記微生物の生菌数および/または前記ジケトン化合物の量を測定することにより、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制するかどうかを判定するステップ、および
(C)前記ステップ(B)において、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を体臭抑制剤として選択するステップ
を含むことを特徴とする体臭抑制剤のスクリーニング方法、ならびに
(9)前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物がスタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスからなる群より選ばれた少なくとも1種である前記(8)に記載のスクリーニング方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の体臭判定用指標剤は、ヒトの体臭を的確に再現し、客観的に評価することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の体臭の消臭効果の評価方法は、体臭の消臭効果を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明のデオドラント剤の評価方法は、デオドラント剤の性能を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の体臭の判定方法は、簡便な操作で客観的かつ的確に体臭の種類や強度を判定することができるという優れた効果を奏する。本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法は、体臭抑制剤を簡便な操作で効率よくスクリーニングすることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は実験例1において、頭の部位と頭部臭に占める汗臭の比率との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実験例1において、頭の部位と頭部臭に占めるアブラ臭の比率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図2】実施例1において、アブラ臭を有する被験者が使用した枕カバーに付着した成分を分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図3】実施例1において、アブラ臭の有無とジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図4】実施例1において、ガスクロマトグラフ−質量分析法で検出された各化合物の量を調べた結果を示すグラフである。
【図5】(A)は実施例2において、頭皮におけるアブラ臭の強い被験者のヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した結果を示すクロマトグラム、(B)は実施例2において、頭皮におけるアブラ臭の弱い被験者のヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図6】実施例3において、アブラ臭レベルとジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図7】実施例4において、頭部臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図8】実施例4において、アブラ臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図9】(A)は実施例5において、腋臭のタイプとジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実施例5において、腋臭のタイプと酢酸に対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図10】(A)は実施例6において、酸臭の強い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した結果を示すクロマトグラム、(B)は酸臭の弱い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図11】(A)は実験例3において、培養物におけるピルビン酸の濃度とスタフィロコッカス属細菌の種類との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実験例3において、培養物におけるジアセチルの濃度とスタフィロコッカス属細菌の種類との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図12】(A)は実験例3において、培養物におけるピルビン酸の濃度とコリネバクテリウム属細菌の種類との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実験例3において、培養物におけるジアセチルの濃度とコリネバクテリウム属細菌の種類との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図13】実験例4において、炭素源の種類と培養物におけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図14】実施例19において、被験物質の種類と阻害率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の体臭判定用指標剤は、前記したように、体臭の判定の指標として用いるための体臭判定用指標剤であって、
一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の体臭判定用指標剤は、前記ジケトン化合物を含有しているので、ヒトの体臭、とりわけ頭部におけるアブラ臭および腋窩部における酸臭を的確に再現することができる。したがって、本発明の体臭判定用指標剤は、体臭の消臭効果または防臭効果の評価、ヒトの体臭の種類、体臭の強度、デオドラント剤の性能などの判定に有用である。
【0017】
本明細書において、「体臭」とは、皮膚の表面から発生するにおいをいう。また、本明細書において、「頭部臭」とは、体臭のうち、頭皮および頭髪を含む頭部から発生するにおいをいう。
【0018】
また、本明細書において、「アブラ臭」とは、古くなった油のにおいに似ており、発酵したようなにおいをいう。さらに、本明細書において、「酸臭」とは、蒸れたような酸っぱいにおいをいう。
【0019】
さらに、本明細書において、「体臭の消臭」の概念には、体臭をマスキングすること、体臭の原因物質の分解、吸収、吸着、洗浄、拭浄などによって除去すること、体臭の原因物質の構造を変化させて不快なにおいを除去することおよび体臭の原因物質の揮発を抑制することが包含される。
【0020】
また、本明細書において、「体臭の防臭」とは、体臭の発生を抑制することをいう。
【0021】
一般式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基である。前記アルキル基の炭素数は、1〜4であるが、好ましくは1〜3、より好ましくは1または2、さらに好ましくは1である。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、ヒトの体臭を的確に再現する観点から、メチル基が好ましい。
【0022】
前記ジケトン化合物としては、ジアセチル、2,3−ペンタンジオンおよび2,3−ヘキサンジオンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記ジケトン化合物のなかでは、ヒトの体臭、とりわけ頭部におけるアブラ臭および腋窩部における酸臭を的確に再現することができることから、ジアセチルおよび2,3−ペンタンジオンが好ましく、ジアセチルがより好ましい。一般式(I)で表されるジケトン化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
本発明の体臭判定用指標剤における前記ジケトン化合物の含有量は、体臭判定用指標剤の用途などによって異なるため、一概には決定することができない。したがって、当該含有量は、体臭判定用指標剤の用途などに応じて適宜決定することが望ましい。
【0024】
本発明の体臭判定用指標剤における前記ジケトン化合物の含有率は、例えば、体臭の消臭効果の評価に用いる場合、ニオイの強度の差をより正確に評価し、かつニオイの特徴を正確に再現する観点から、好ましくは0.0001〜0.1質量%、より好ましくは0.001〜0.05質量%である。本発明の体臭判定用指標剤におけるジケトン化合物の含有率は、その使用時に、希釈剤などによって容易に調整することができる。また、本発明の体臭判定用指標剤におけるジケトン化合物の含有率は、予め調整されていてもよい。前記希釈剤としては、例えば、ミネラルオイル、プロピレングリコール、1.3-ブチレングリコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0025】
本発明の体臭判定用指標剤は、例えば、体臭の判定またはデオドラント剤の評価に用いる場合、ジケトン化合物のみで構成されていてもよく、前記ジケトン化合物と体臭の種類に応じた成分などとの混合物であってもよい。
【0026】
前記体臭が腋臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、前記体臭の種類に応じた成分として、炭素数2〜5の脂肪酸をさらに含有することが好ましい。前記脂肪酸の炭素数は、腋臭を正確に再現する観点から、2〜5、好ましくは2または3である。前記炭素数2〜5の脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、酢酸およびプロピオン酸が好ましい。これらの炭素数2〜5の脂肪酸は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
本発明の体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記炭素数2〜5の脂肪酸の量は、脂肪酸の種類、各脂肪酸の嗅覚閾値、ニオイ特性などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記炭素数2〜5の脂肪酸の量は、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、好ましくは1〜10000質量部、より好ましくは10〜1000質量部である。
【0028】
前記体臭が腋臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、炭素数2〜5の脂肪酸以外の脂肪酸、希釈剤、炭素数1〜10のアルデヒドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0029】
前記炭素数2〜5の脂肪酸以外の脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸 、カプリン酸などの炭素数6〜10の脂肪酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
前記炭素数1〜10のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、吉草酸アルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナールなどの飽和アルデヒド;オクテナール、ノネナール、デセナールなどの不飽和アルデヒドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0031】
本発明の体臭判定用指標剤が前記他の成分を含有する場合、当該体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記他の成分の量は、前記他の成分の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記他の成分量は、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、好ましくは1〜1000000質量部、より好ましくは10〜100000質量部、さらに好ましくは30〜10000、さらに一層好ましくは50〜1000である。
【0032】
前記体臭が頭部臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、ヒトの頭部臭をより的確に再現する観点から、前記体臭の種類に応じた成分として、炭素数6〜10の脂肪酸をさらに含有することが好ましい。
【0033】
前記脂肪酸の炭素数は、ヒトの頭部臭を的確に再現する観点から、6〜10、好ましくは7〜10以下である。前記炭素数6〜10の脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、イソカプロン酸、エナント酸、イソエナント酸、カプリル酸、イソカプリル酸、ペラルゴン酸、イソペラルゴン酸、カプリン酸、イソカプリン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、ヒトの頭部臭を的確に再現する観点から、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸が好ましい。これらの炭素数6〜10の脂肪酸は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
本発明の体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記炭素数6〜10の脂肪酸の量は、脂肪酸の種類、各脂肪酸の嗅覚閾値、ニオイ特性などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記炭素数6〜10の脂肪酸の量は、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、好ましくは10〜40000質量部、より好ましくは30〜8000質量部、さらに好ましくは50〜5000である。
【0035】
前記体臭が頭部臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、ヒトの頭部臭をより一層的確に再現する観点から、ノネナールをさらに含有することが好ましい。
【0036】
本発明の体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記ノネナールの量は、目的とするニオイの特性などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記ノネナールの量は、ヒトの腋臭をより一層的確に再現する観点から、好ましくは0.01〜1000質量部、より好ましくは0.05〜500質量部、さらに好ましくは0.1〜300質量部である。
【0037】
前記体臭が頭部臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、本発明の目的を阻害しない範囲内で、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、炭素数6〜10の脂肪酸以外の脂肪酸、希釈剤、炭素数1〜10のアルデヒドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0038】
前記炭素数6〜10の脂肪酸以外の脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などの炭素数2〜5の脂肪酸;ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸などの炭素数11〜18の脂肪酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0039】
前記炭素数1〜10のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、吉草酸アルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナールなどの飽和アルデヒド;オクテナール、ノネナール、デセナールなどの不飽和アルデヒドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0040】
本発明の体臭判定用指標剤が前記他の成分を含有する場合、当該体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記他の成分の量は、前記他の成分の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記他の成分量は、ヒトの頭部臭を的確に再現する観点から、好ましくは1〜1000000質量部、より好ましくは10〜100000質量部、さらに好ましくは30〜10000質量部、より一層好ましくは50〜1000質量部である。
【0041】
本発明の体臭判定用指標剤の発するにおいは、前記したように、ヒトの体臭、特に頭部臭および腋臭を的確に再現していることから、体臭の消臭効果を評価するのに有用である。したがって、本発明の体臭判定用指標剤を用いて被験試料による体臭の消臭効果を評価することができる。
【0042】
本発明の体臭の消臭効果の評価方法は、被験試料と前記体臭判定用指標剤とを接触させた後、前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、前記においの強度および前記においの不快度からなる群より選ばれた少なくとも1種を調べ、においの有無、被験試料との接触の有無によるにおいの強度の差異および被験試料との接触の有無によるにおいの不快度の差異からなる群より選ばれた少なくとも1種によって体臭の消臭効果を評価することを特徴とする。
【0043】
本発明の体臭の消臭効果の評価方法は、被験者自身が発する体臭を用いずに前記体臭判定用指標剤によってヒトの体臭を的確に再現することができることから、被験試料によるヒトの体臭の消臭効果を、簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる。
【0044】
前記被験試料としては、例えば、香料、フレーバーなどのにおい成分、体臭判定用指標剤を吸収または吸着することが期待される物質、体臭判定用指標剤の構造を変化させることが期待される物質、体臭判定用指標剤を分解することが期待される物質、体臭判定用指標剤の揮発を抑制することが期待される物質、体臭判定用指標剤を付着させた部位から当該体臭判定用指標剤を分離させることが期待される物質または基材などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0045】
被験試料と体臭判定用指標剤との接触は、被験試料の種類に応じた方法によって行なうことができる。
【0046】
被験試料が、におい成分、体臭判定用指標剤を吸収または吸着することが期待される物質、体臭判定用指標剤の構造を変化させることが期待される物質、体臭判定用指標剤を分解することが期待される物質または体臭判定用指標剤の揮発を抑制することが期待される物質である場合、被験試料と体臭判定用指標剤との接触は、被験試料と体臭判定用指標剤とを混合することなどによって行なうことができる。
【0047】
被験試料と体臭判定用指標剤との混合に際して、被験試料と体臭判定用指標剤との混合比〔被験試料/体臭判定用指標剤(質量比)〕は、体臭判定用指標剤の種類、被験試料の種類、消臭効果の評価手法などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、被験試料と体臭判定用指標剤との混合比〔被験試料/体臭判定用指標剤(質量比)〕は、被験試料によるヒトの体臭の消臭効果を客観的かつ的確に評価する観点から、好ましくは0.1/1〜1000000/1、より好ましくは1/1〜100000/1、さらに好ましくは1/1〜10000/1である。
【0048】
被験試料が、体臭判定用指標剤を付着させた部位から当該体臭判定用指標剤を分離させることが期待される物質である場合、被験試料と体臭判定用指標剤との接触は、被験試料によって前記部位を洗浄することなどによって行なうことができる。
【0049】
体臭判定用指標剤を付着させる対象となる部位としては、例えば、身体における体臭が発生する部分の肌、発生した体臭が付着する可能性のある衣服または布製品などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0050】
洗浄に用いられる被験試料の量は、体臭判定用指標剤を付着させた部位、被験試料の種類などによって異なるため、一概には決定することができないことから、被験試料の種類などに応じて適宜設定することが望ましい。
【0051】
さらに、被験試料が、体臭判定用指標剤を付着させた部位から当該体臭判定用指標剤を分離させることが期待される基材である場合、被験試料と体臭判定用指標剤との接触は、被験試料によって前記部位を拭浄することなどによって行なうことができる。
【0052】
拭浄に用いられる前記基材の大きさは、体臭判定用指標剤を付着させた部位などによって異なるため、一概には決定することができないことから、体臭判定用指標剤を付着させた部位などに応じて適宜設定することが好ましい。なお、前記体臭判定用指標剤を付着させた部位から当該体臭判定用指標剤を分離させることが期待される基材には、前記物質の少なくとも1つを含浸させた基材も含まれる。この場合、基材に含まれる前記物質の量は、体臭判定用指標剤を付着させた部位、被験試料の種類などによって異なるため、一概には決定することができないことから、被験試料の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0053】
前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、においの強度およびにおいの不快度は、例えば、官能評価などにより調べることができる。
【0054】
本発明の体臭の消臭効果の評価方法では、
(a)前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、
(b)被験試料と体臭判定用指標剤との接触前後のにおいの強度の変化、
(c)対照物質と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度と、被験試料と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度との間の差異、
(d)被験試料と体臭判定用指標剤との接触前後のにおいの不快度の変化、
(e)対照物質と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの不快度と、被験試料と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの不快度との間の差異
などにより、被験試料による体臭の消臭効果を評価することができる。
【0055】
ここで、被験試料によって前記体臭判定用指標剤の発するにおいが無くなっている場合、被験試料によって前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度が低下している場合または被験試料によって前記体臭判定用指標剤の発するにおいの不快度が低下している場合には、当該被験試料が体臭の消臭効果を発現すると評価することができる。また、被験試料と体臭判定用指標剤との接触前後のにおいの強度の変化の度合い、または対照物質と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度と、被験試料と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度との間の差異の程度により、被験試料による体臭の消臭効果の程度を評価することができる。
【0056】
本発明の体臭判定用指標剤の発するにおいは、ヒトの体臭、特に頭部臭および腋臭を的確に再現しており、かつ当該体臭判定用指標剤の検出は、容易であることから、本発明の体臭判定用指標剤は、デオドラント剤の性能の評価に有用である。したがって、本発明の体臭判定用指標剤を用いてデオドラント剤を評価することができる。
【0057】
本発明のデオドラント剤の評価方法は、デオドラント剤の適用箇所に存在する物質を採取し、前記物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によってデオドラント剤の性能を評価することを特徴とする。
【0058】
本発明のデオドラント剤の評価方法は、官能評価によってデオドラント剤の付着後のヒトの体臭を評価してデオドラント剤の性能の評価を行なうのではなく、前記体臭判定用指標剤の量をデオドラント剤の性能の指標として用いてデオドラント剤の性能の評価を行なうことから、簡便な操作で客観的かつ的確にデオドラント剤を評価することができる。
【0059】
なお、本明細書において、「デオドラント剤」とは、皮膚に直接塗布するデオドラント剤および体臭が付着することがある箇所に適用するデオドラント剤のいずれをも含む概念である。前記体臭が付着することがある箇所としては、例えば、毛髪、衣類、靴、寝具、カーペット、カーテンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0060】
デオドラント剤の適用に際して、デオドラント剤の使用量は、デオドラント剤の種類、デオドラント剤に含まれる有効成分の量などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、デオドラント剤の使用量は、実際のデオドラント剤の使用状態を反映して当該デオドラント剤の性能を評価する観点から、適用箇所1cm2あたり、好ましくは0.1〜100mg、より好ましくは1〜50mgである。
【0061】
デオドラント剤の適用箇所としては、例えば、腋窩、体幹部、足裏、頭部などの皮膚の部分、前記体臭が付着することがある箇所などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0062】
前記適用箇所へのデオドラント剤の接触時間は、適用箇所の種類、デオドラント剤の種類、デオドラント剤の使用量、デオドラント剤に含まれる有効成分の量などによって異なるため、一概には決定することができない。例えば、適用箇所が前記皮膚の部分である場合、通常、皮膚へのデオドラント剤の接触時間は、デオドラント剤の効果を客観的かつ的確に判断できる観点から、好ましくは1〜72時間、より好ましくは3〜24時間である。
【0063】
前記デオドラント剤の適用箇所に存在する物質の採取は、例えば、
(a)前記デオドラント剤の適用箇所のヘッドスペースガスを採取すること、
(b)前記デオドラント剤の適用箇所に試験片を接触させ、前記試験片に付着した物質を抽出すること、
(c)前記デオドラント剤の適用箇所に直接溶媒を加え、適用箇所に存在する物質を抽出すること
などにより、行なうことができる。
【0064】
前記デオドラント剤の適用箇所に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量の測定方法としては、例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法、ガスクロマトグラフ−水素炎イオン検出法、ガスクロマトグラフ−電子捕獲式検出法、高速液体クロマトグラフ−紫外可視分光法、高速液体クロマトグラフ−質量分析法、半導体センサを用いた検出法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法では、クロマトグラムにおける体臭判定用指標剤に対応するピークの面積から、前記体臭判定用指標剤の量を算出することができる。
【0065】
本発明のデオドラント剤の評価方法では、デオドラント剤の適用前の皮膚から採取した物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量と前記デオドラント剤の適用箇所に存在する物質中に含まれる体臭判定用指標剤の量との間の差異などにより、デオドラント剤の性能を評価することができる。例えば、デオドラント剤によって前記体臭判定用指標剤の量が低減する場合、デオドラント剤が体臭の消臭効果および/または防臭効果を有すると判定することができる。
【0066】
本発明の体臭判定用指標剤の発するにおいは、ヒトの体臭、特に頭部臭および腋臭を的確に再現しており、かつ当該体臭判定用指標剤の検出が容易であることから、本発明の体臭判定用指標剤は、体臭の判定に有用である。したがって、本発明の体臭判定用指標剤を用いて体臭の種類または体臭の強度を判定することができる。
【0067】
本発明の体臭の判定方法は、皮膚上に存在する物質を採取し、得られた物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によって体臭の種類または体臭の強度を判定することを特徴とする。
【0068】
本発明の体臭の判定方法は、官能評価によって体臭の判定を行なうのではなく、前記体臭判定用指標剤の量を体臭の指標として用いて体臭の判定を行なうことから、簡便な操作で客観的かつ的確に、被験者の体臭の種類または体臭の強度を判定することができる。
【0069】
前記物質の採取は、例えば、
(a)被験者の体表の部位のヘッドスペースガスを採取すること、
(b)被験者の皮膚に試験片を接触させ、前記試験片に付着した物質を抽出すること、
(c)被験者の皮膚に溶媒を接触させ、前記溶媒によって皮膚上に存在する物質を抽出すること
などにより、行なうことができる。
【0070】
前記体表の部位としては、例えば、頭部、腋窩部、足部、体幹部、背部などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記試験片としては、例えば、綿製シート、セルロース製シート、ポリエチレン製シート、ポリエチレンテレフタレート製シートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0071】
皮膚上に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量の測定方法としては、例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法、ガスクロマトグラフ−水素炎イオン検出法、ガスクロマトグラフ−電子捕獲式検出法、高速液体クロマトグラフ−紫外可視分光法、高速液体クロマトグラフ−質量分析法、半導体センサを用いた検出法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法では、クロマトグラムにおける体臭判定用指標剤に対応するピークの面積から、前記体臭判定用指標剤の量を算出することができる。
【0072】
本発明の体臭の判定方法では、例えば、前記皮膚上に存在する物質が被験者の頭部に由来する物質である場合、頭部のヘッドスペース中に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量がジアセチルの量として2ppb以上である場合には、被験者の頭部臭の種類がアブラ臭であると判定することができる。特に、前記頭部のヘッドスペース中に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量が、ジアセチルの量として3ppb以上である場合には、被験者の頭部臭の強度、特にアブラ臭の強度が高いと判定することができる。
【0073】
一方、本発明の体臭の判定方法では、例えば、前記皮膚上に存在する物質が被験者の腋窩部に由来する物質である場合、腋窩から採取したコットンシート中に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量がジアセチルの量として50ng以上である場合には、被験者の腋臭の種類が酸臭であると判定することができる。特に、前記腋窩から採取したコットンシート中に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量がジアセチルの量として100ng以上である場合には、被験者の腋臭の強度、特に酸臭の強度が高いと判定することができる。
【0074】
前記ジケトン化合物は、微生物により産生されていることが、本発明者らにより見出されている。したがって、前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物に作用してジケトン化合物の生成を抑制する物質は、前記体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤として有用である。
【0075】
本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法は、前記体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤のスクリーニング方法であって、
(A) 前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物を、被験物質および前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地で培養するステップ、
(B)前記ステップ(A)で得られた培養物における前記微生物の生菌数および/または前記ジケトン化合物の量を測定することにより、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制するかどうかを判定するステップ、および
(C)前記ステップ(B)において、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を、体臭抑制剤として選択するステップ
を含むことを特徴とする。
【0076】
本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法では、前記微生物の生菌数および/または前記微生物により産生されるジケトン化合物の量により、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を体臭抑制剤として選択する。したがって、本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法は、官能評価によって体臭抑制剤を選択する場合と比べ、簡便な操作で客観的かつ的確に、体臭抑制剤を評価することができる。
【0077】
ステップ(A)では、前記微生物を、被験物質および前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地(以下、「培地A」という)で培養する。
【0078】
前記微生物は、ジケトン化合物の産生能を有する。前記微生物としては、ジケトン化合物の産生能を有するものであればよく、例えば、土壌微生物、皮膚常在微生物、腸内常在微生物、発酵食品に用いられる微生物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記微生物のなかでは、ヒトの体臭を抑制するのにより適した体臭抑制剤をスクリーニングする観点から、皮膚常在微生物が好ましい。
【0079】
前記皮膚常在微生物としては、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法では、前記皮膚常在微生物は、前記ジケトン化合物の産生能に優れる観点から、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。スタフィロコッカス・オウレウスとして、例えば、Staphylococcus aureus NBRC13276などを用いることができる。また、スタフィロコッカス・エピデルミディスとして、Staphylococcus epidermidis IAM1296などを用いることができる。なお、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスは、遺伝学上近縁種であって、ジケトン化合物の産生能を有する種であってもよい。
【0080】
前記被験物質としては、例えば、香料、フレーバーなどのにおい成分、体臭判定用指標剤を吸収または吸着することが期待される物質、体臭判定用指標剤の構造を変化させることが期待される物質、体臭判定用指標剤を分解することが期待される物質、体臭判定用指標剤の揮発を抑制することが期待される物質などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0081】
前記培地Aにおける被験物質の含有率は、被験物質の種類、被験物質の用途などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記培地Aにおける被験物質の含有率は、デオドラント剤などに配合するための体臭抑制剤として用いるのに適した被験物質を選択する観点から、好ましくは0.000001〜5質量%、より好ましくは0.00001〜2質量%である。
【0082】
前記ジケトン化合物の前駆体としては、例えば、ピルビン酸、乳酸、セリンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、前記微生物によって資化されやすく、ジケトン化合物の産生量が高いことから、好ましくはピルビン酸および乳酸であり、より好ましくは乳酸である。
【0083】
前記培地Aにおける前記ジケトン化合物の前駆体の含有率は、前記ジケトン化合物の前駆体の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物の前駆体の含有率は、実際の体臭が発生する際の条件を再現する観点から、好ましくは0.01〜20mM、より好ましくは0.1〜5mMである。
【0084】
なお、培地Aにおける被験物質および前記ジケトン化合物以外の成分は、前記微生物の培養に用いられる培地成分であればよい。かかる培地成分としては、例えば、酵母エキス、リン酸、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化マンガン、塩化鉄、塩化カルシウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0085】
前記微生物の培養時間は、微生物の種類、培地の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記微生物の培養時間は、微生物による前記ジケトン化合物の前駆体からのジケトン化合物の生成に要する時間を十分に確保する観点から、好ましくは0.5〜72時間、より好ましくは3〜24時間である。
【0086】
前記微生物の培養温度は、微生物の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記微生物の培養温度は、微生物を良好に生育させる観点から、好ましくは20〜50℃、より好ましくは30〜40℃である。
【0087】
ステップ(B)では、前記ステップ(A)で得られた培養物(以下、「培養物A」という)における前記微生物の生菌数および/または前記ジケトン化合物の量を測定することにより、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制するかどうかを判定する。
【0088】
培養物Aにおける前記微生物の生菌数の測定方法は、特に限定されないが、本発明においては、例えば、培養物Aを寒天培地に塗布し、一定時間培養後に生成したコロニーの数を計測するコロニーカウント法、顕微鏡観察によって培養物Aにおける前記微生物の数を測定する方法などが挙げられる。
【0089】
培養物Aにおける前記ジケトン化合物の量の測定方法としては、本発明においては、例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法、ガスクロマトグラフ−水素炎イオン検出法、ガスクロマトグラフ−電子捕獲式検出法、高速液体クロマトグラフ−紫外可視分光法、高速液体クロマトグラフ−質量分析法、半導体センサを用いた検出法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法では、クロマトグラムにおけるジケトン化合物に対応するピークの面積から、前記ジケトン化合物の量を算出することができる。
【0090】
前記判定は、例えば、
(a)前記ステップ(A)において、培地Aの代わりに、被験物質を含まず、前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地を用いたことを除き、前記ステップ(A)と同様の操作を行ない、得られた培養物(以下、「培養物B」という)における前記微生物の生菌数を、前記培養物Aにおける前記微生物の生菌数と比較すること、
(b)前記培養物B中に含まれる前記ジケトン化合物の量と、前記培養物A中に含まれる前記ジケトン化合物の量とを比較すること、
(c)前記(a)および(b)の操作を行なうこと
などにより行なうことができる。この場合、
(1)培養物Aにおける前記微生物の生菌数が培養物Bにおける前記微生物の生菌数よりも少ないこと、および/または
(2)培養物A中に含まれる前記ジケトン化合物の量が培養物B中に含まれる前記ジケトン化合物の量よりも少ないこと
を満たす場合、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制する物質であると判定することができる。
【0091】
ステップ(C)では、前記ステップ(B)において、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を、体臭抑制剤として選択する。
【0092】
このように、本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法によれば、前記体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤をスクリーニングすることができる。
【0093】
以上説明したように、本発明の体臭判定用指標剤によれば、ヒトの体臭を的確に再現することができる。本発明の体臭の消臭効果の評価方法によれば、体臭の消臭効果を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる。さらに、本発明のデオドラント剤の評価方法によれば、デオドラント剤の性能を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる。また、本発明の体臭の判定方法によれば、簡便な操作で客観的かつ的確に体臭の種類や強度を判定することができる。また、本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法は、体臭抑制剤を簡便な操作で効率よくスクリーニングすることができる。
【0094】
したがって、本発明の体臭判定用指標剤、体臭の消臭効果の評価方法、デオドラント剤の評価方法、体臭の判定方法および体臭抑制剤のスクリーニング方法は、体臭を気にするヒトに適した化粧料、香料、洗浄剤などの開発などに有用である。
【実施例】
【0095】
つぎに、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0096】
(実験例1)
被験者26人〔40〜50歳代の健康な日本人男性10人および20歳代の健康な日本人男性16人〕それぞれの頭皮および頭髪を無香料シャンプーで洗浄した。パネラー4人〔男性3人および女性1人〕により、洗浄終了から12時間経過時の前頭部、頭頂部、後頭部および側頭部におけるにおいの種類を評価させた。においの種類の評価基準は、以下のとおりである。
【0097】
〔においの種類の評価基準〕
汗臭:汗をかいたときの酸っぱいにおい
アブラ臭:古くなった油のにおいに似ており、発酵したようなにおい
【0098】
実験例1において、頭の部位と頭部臭に占める汗臭の比率との関係を調べた結果を図1(A)、実験例1において、頭の部位と頭部臭に占めるアブラ臭の比率との関係を調べた結果を図1(B)に示す。
【0099】
図1(A)に示された結果から、頭部臭に占める汗臭の比率は、20歳代の日本人男性と40〜50歳代の日本人男性との間で差異がほとんどないことがわかる。一方、図1(B)に示された結果から、40〜50歳代の日本人男性の頭部臭に占めるアブラ臭の比率は、20歳代の日本人男性の頭部臭に占めるアブラ臭の比率と比べて高いことがわかる。したがって、これらの結果から、アブラ臭は、40〜50歳代の日本人男性の頭皮に多くみられるにおいであることが示唆される。
【0100】
(実施例1)
アブラ臭を有する被験者が使用した枕カバーは、前記被験者の頭皮と同様にアブラ臭を発する。そこで、アブラ臭を有する被験者に、無臭化した綿製シートを枕カバーとしてかけた枕を就寝時に7日間使用させた。つぎに、綿製シートを回収し、ヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れた。その後、マイクロ固相抽出法(SPME)用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、綿製シートのヘッドスペース気相部に24時間曝露した。
【0101】
つぎに、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した。まず、枕カバーに付着した揮発成分を、マイクロ固相抽出ファイバー(スペルコ社製)に吸着させた。ファイバーに吸着させた揮発成分を、ガスクロマトグラフ−質量分析装置〔アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:6890GC−5973MSD〕に供し、前記試料中に含まれる成分を分析した。なお、用いられた分析条件は、以下のとおりである。
【0102】
〔分析条件〕
使用カラム:アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:DB−1701(60m×0.25mm×1μm)
使用ガス :ヘリウムガス
温度条件 :40℃(4分間維持)、40℃から160℃までの昇温(昇温速度3℃/min)、160℃で5分間維持および160℃〜260℃までの昇温(昇温速度10℃/min)
イオン化法:電子イオン化法(EI)、60eV
【0103】
実施例1において、アブラ臭を有する被験者が使用した枕カバーに付着した成分を分析した結果を図2に示す。図中、矢印は、ジアセチルに対応するピークを示す。
【0104】
図2に示された結果から、保持時間16分前後にピークが見られることがわかる。このピークは、保持時間から、ジアセチルに帰属するピークであると推定される。したがって、アブラ臭を有する被験者が使用した枕カバーには、ジアセチルが付着していることが示唆される。
【0105】
つぎに、被験者として、アブラ臭を有する被験者7人からなるアブラ臭被験者群およびアブラ臭があまり感知されない被験者8人からなる非アブラ臭被験者群を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、被験者それぞれが使用した枕カバーに付着した成分をガスクロマトグラフ−質量分析装置で分析した。つぎに、得られたクロマトグラムを用い、ジアセチルに対応するピークの面積を算出した。
【0106】
実施例1において、アブラ臭の有無とジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を図3に示す。
【0107】
図3に示された結果から、アブラ臭を有する被験者群が使用した枕カバーに付着した成分中のジアセチルに対応するピークの面積(図中、「アブラ臭」を参照)は、アブラ臭があまり感知されない被験者群が使用した枕カバーに付着した成分中のジアセチルに対応するピークの面積(図中、「非アブラ臭」を参照)と比べて、有意に大きいことがわかる。
【0108】
また、被験者として、アブラ臭を有する被験者6人からなるアブラ臭被験者群およびアブラ臭があまり感知されない被験者5人からなる非アブラ臭被験者群を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、被験者それぞれが使用した枕カバーに付着した成分をガスクロマトグラフ−質量分析装置で分析した。つぎに、得られたクロマトグラムを用い、ジアセチルまたは既知の体臭成分である短鎖もしくは中鎖の脂肪酸に対応するピークの面積を算出した。既知量のジアセチルまたは短鎖もしくは中鎖の脂肪酸を用いて作成した検量線を用い、ジアセチルまたは短鎖もしくは中鎖の脂肪酸に対応するピークの面積からジアセチルまたは短鎖もしくは中鎖の脂肪酸の量を算出した。
【0109】
実施例1において、ガスクロマトグラフ−質量分析装置で検出された各化合物の量を調べた結果を図4に示す。図4中、化合物番号1はジアセチル、化合物番号2は炭素数2の脂肪酸(酢酸)、化合物番号3は炭素数3の脂肪酸(プロピオン酸)、化合物番号4は炭素数4の脂肪酸(酪酸)、化合物番号5は炭素数5の脂肪酸(吉草酸)、化合物番号6は炭素数6の脂肪酸(カプロン酸)、化合物番号7は炭素数7の脂肪酸(エナント酸)、化合物番号8は炭素数8の脂肪酸(カプリル酸)、化合物番号9は炭素数9の脂肪酸(ペラルゴン酸)および化合物番号10は炭素数10の脂肪酸(カプリン酸)を示す。
【0110】
図4に示された結果から、アブラ臭被験者群が使用した枕カバーに付着した成分中に含まれるジアセチルおよび炭素数6〜10の脂肪酸の量は、非アブラ臭被験者群が使用した枕カバーに付着した成分中に含まれるジアセチルおよび炭素数6〜10の脂肪酸の量と比べて有意に多いことがわかる。
【0111】
したがって、これらの結果から、ジアセチルおよび炭素数6〜10の脂肪酸は、アブラ臭被験者群が使用した枕カバーが発するアブラ臭に関連していることが示唆される。
【0112】
(実施例2)
被験者16人〔40〜50歳代の日本人男性16人〕を、頭皮におけるアブラ臭の強い被験者のグループと、頭皮におけるアブラ臭の弱い被験者のグループとにグループ分けした。被験者それぞれの頭皮および頭髪を無香料シャンプーで洗浄した。
【0113】
洗浄終了から12時間経過後、真空状の密閉容器〔エンテック・インスツルメンツ・インク(Entech Instruments Inc)社製、商品名:MiniCan〕を用い、被験者の頭部のヘッドスペースガス1Lを採取した。得られたヘッドスペースガスを窒素で3倍に希釈し、試料を得た。
【0114】
自動濃縮装置〔エンテック・インスツルメンツ・インク(Entech Instruments Inc)社製、商品名:7100A−Preconcentrator〕を接続したガスクロマトグラフ−質量分析装置〔アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:6890Nガスクロマトグラフおよび5973Nマス・セレクティヴ・ディテクター〕を用い、前記試料中に含まれる成分を分析した。なお、用いられた分析条件は、以下のとおりである。
【0115】
〔分析条件〕
試料注入量:1000mL
使用カラム:アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:DB−1701(60m×0.25mm×1μm)
使用ガス :ヘリウムガス
温度条件 :40℃(4分間維持)、40℃から160℃までの昇温(昇温速度3℃/min)、160℃で5分間維持および160℃〜260℃までの昇温(昇温速度10℃/min)
イオン化法:電子イオン化法(EI)、60eV
【0116】
また、自動濃縮装置〔エンテック・インスツルメンツ・インク(Entech Instruments Inc)社製、商品名: 7100A−Preconcentrator〕およびにおい嗅ぎポート〔ゲステル社製、商品名:ODP2スニッフィングポート〕を接続したガスクロマトグラフ−質量分析装置〔アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:6890Nガスクロマトグラフおよび5973Nマス・セレクティヴ・ディテクター〕を用い、頭部のアブラ臭の原因となる主要な成分を調べた。
【0117】
実施例2において、頭皮におけるアブラ臭の強い被験者のヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した結果を図5(A)に、頭皮におけるアブラ臭の弱い被験者のヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した結果を図5(B)に示す。図中、矢印は、ジアセチルに対応するピークを示す。
【0118】
図5に示された結果から、頭皮におけるアブラ臭の強い被験者のヘッドスペースガス中に含まれるジアセチルに対応するピークは、頭皮におけるアブラ臭の弱い被験者のヘッドスペースガス中に含まれるジアセチルに対応するピークと比べて、約3倍高いことがわかる。また、ジアセチルは、頭皮におけるアブラ臭の強い全ての被験者のヘッドスペースガスに含まれていることが確認された。
【0119】
さらに、におい嗅ぎガスクロマトグラフの結果から、前記ジアセチルに対応するピークを示す画分がアブラ臭に極めて似ている強いにおいを持っていることが確認された。
【0120】
一般に、ヒトによるジアセチルの弁別閾値は、0.00005ppmであるといわれている。一方、ヒトによる炭素数6〜10の脂肪酸それぞれの弁別閾値は、ヒトによるジアセチルの弁別閾値の10倍以上である。したがって、ジアセチルの量が炭素数6〜10の脂肪酸の量の1/10であったとしても、ヒトは、炭素数6〜10の脂肪酸のにおいよりもジアセチルのにおいのほうが強く感じる。したがって、以上の結果から、ジアセチルは、頭皮におけるアブラ臭の主要な原因となる成分であることが示唆される。
【0121】
(実施例3)
被験者13人〔40〜50歳代の日本人男性13人〕に、無臭化した綿製シートを枕カバーとしてかけた枕を就寝時に7日間使用させた。パネラー4人〔男性3人および女性1人〕により、枕カバーに付着した頭部臭の種類を評価させて頭部臭に占めるアブラ臭の比率を求めた。つぎに、頭部臭に占めるアブラ臭の比率に基づいて、アブラ臭のレベルを評価した。アブラ臭のレベルの評価基準は、以下のとおりである。
【0122】
〔アブラ臭のレベルの評価基準〕
0〜9点 :頭部臭におけるアブラ臭の比率0〜9%
10〜19点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率10〜19%
20〜29点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率20〜29%
30〜39点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率30〜39%
40〜49点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率40〜49%
50〜59点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率50〜59%
60〜69点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率60〜69%
70〜79点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率70〜79%
80〜89点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率80〜89%
90〜99点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率90〜99%
100点 :頭部臭に占めるアブラ臭の比率100%
【0123】
また、実施例1において、被験者として、前記被験者13人〔40〜50歳代の日本人男性13人〕を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、前記被験者それぞれが使用した枕カバーに付着した成分をガスクロマトグラフ−質量分析装置で分析し、ジアセチルに対応するピークの面積を算出した。
【0124】
実施例3において、アブラ臭レベルとジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を図6に示す。図中、アブラ臭のレベルは、パネラー4人によってつけられたアブラ臭のレベルの得点の平均値を示す。
【0125】
図6に示された結果から、枕カバーに付着した成分中に含まれるジアセチルに対応するピークの面積が小さいほど、枕カバーに付着したアブラ臭のレベルが小さく、前記ジアセチルに対応するピークの面積が大きいほど、アブラ臭のレベルと枕カバーに付着した成分中に含まれるジアセチルに対応するピークの面積との間には、相関性があることがわかる。
【0126】
(実施例4)
被験者16人〔40〜50歳代の健康な日本人男性16人〕それぞれの頭皮および頭髪を無香料シャンプーで洗浄した。パネラー4人〔男性3人および女性1人〕により、洗浄終了から12時間経過時の頭頂部における頭部臭の強度を評価させた。頭部臭の強度は、以下のとおりである。
【0127】
〔頭部臭の強度の評価基準〕
0点:におわない
1点:かすかににおう
2点:弱くにおう
3点:はっきりにおう
4点:やや強くにおう
5点:かなり強くにおう
【0128】
また、前記パネラー4人により、頭頂部における頭部臭の種類を評価させて頭部臭に占めるアブラ臭の比率を求めた。つぎに、頭部臭に占めるアブラ臭の比率に基づいて、アブラ臭のレベルを評価した。アブラ臭のレベルの評価基準は、以下のとおりである。
【0129】
〔アブラ臭のレベルの評価基準〕
0〜9点 :頭部臭に占めるアブラ臭の比率0〜9%
10〜19点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率10〜19%
20〜29点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率20〜29%
30〜39点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率30〜39%
40〜49点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率40〜49%
50〜59点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率50〜59%
60〜69点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率60〜69%
70〜79点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率70〜79%
80〜89点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率80〜89%
90〜99点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率90〜99%
100点 :頭部臭に占めるアブラ臭の比率:100%
【0130】
つぎに、前記頭部臭の強度またはアブラ臭のレベルに基づいて、前記被験者16人を3つのグループにグループ分けした。頭部臭のレベルの分類基準およびアブラ臭のレベルの分類基準は、以下のとおりである。なお、頭部臭の強度は、パネラー4人によってつけられた頭部臭の強度の得点の平均値を示す。また、アブラ臭のレベルは、パネラー4人によってつけられたアブラ臭のレベルの得点の平均値を示す。
【0131】
〔頭部臭のレベルの分類基準〕
頭部臭の強度 0〜2点:弱い頭部臭
頭部臭の強度 3点以上3.5点未満:中程度の頭部臭
頭部臭の強度 3.5点以上:強い頭部臭
【0132】
〔アブラ臭のレベルの分類基準〕
アブラ臭のレベル 0〜24点:弱いアブラ臭
アブラ臭のレベル 25〜39点:中程度のアブラ臭
アブラ臭のレベル 40点以上:強いアブラ臭
【0133】
また、実施例2において、被験者として、被験者16人〔40〜50歳代の日本人男性16人〕を用いたことを除き、実施例2と同様の操作を行ない、被験者それぞれのヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した。つぎに、濃度既知のジアセチル標準ガス(0.1〜10ppb/窒素ガス中)を同様の方法で分析して作成された検量線を用い、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度を算出した。
【0134】
実施例4において、頭部臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を図7に示す。また、実施例4において、アブラ臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を図8に示す。図中、矢印は、ジアセチルに対応するピークを示す。
【0135】
図7に示された結果から、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度が高いほど、頭部臭が強く、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度が低いほど、頭部臭が弱いことがわかる。したがって、この結果から、頭部臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との間には、相関性があることがわかる。
【0136】
また、図8に示された結果から、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度が高いほど、頭皮におけるアブラ臭のレベルが高く、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度が低いほど、頭皮におけるアブラ臭のレベルが低いことがわかる。したがって、この結果から、頭皮におけるアブラ臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との間には、相関性があることがわかる。
【0137】
以上の結果から、ジアセチルは、体臭判定用指標剤として用いることができることが示唆される。
【0138】
(実験例2)
被験者16人〔30〜50歳代の健康な日本人男性16人〕それぞれの腋窩を無香料石鹸で洗浄した。パネラー4人〔男性3人および女性1人〕により、洗浄終了から24時間経過時の腋窩部における腋臭の強度、においの種類およびその強度を評価させた。腋臭またはにおいの強度の評価基準およびにおいの種類の評価基準は、以下のとおりである。
【0139】
〔腋臭またはにおいの強度の評価基準〕
0点:におわない
1点:かすかににおう
2点:弱くにおう
3点:はっきりにおう
4点:やや強くにおう
5点:かなり強くにおう
【0140】
〔においの種類の評価基準〕
肌臭:ミルクのようなにおい。肌本来のにおい
酸臭:蒸れたような酸っぱいにおい
スパイシー臭:クミン油のようなスパイシーなにおい
【0141】
また、腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率を求めた。つぎに、腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率に基づいて、肌臭、酸臭またはスパイシー臭のレベルを評価した。肌臭、酸臭またはスパイシー臭のレベルの評価基準は、以下のとおりである。
【0142】
〔アブラ臭のレベルの評価基準〕
0〜9点 :腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率0〜9%
10〜19点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率10〜19%
20〜29点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率20〜29%
30〜39点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率30〜39%
40〜49点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率40〜49%
50〜59点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率50〜59%
60〜69点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率60〜69%
70〜79点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率70〜79%
80〜89点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率80〜89%
90〜99点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率90〜99%
100点 :腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率100%
【0143】
実験例2において、各被験者の腋臭の強度、においの種類およびその強度を評価した結果を表1に示す。表中、腋臭の強度は、パネラー4人によってつけられたにおいの強度の得点の平均値を示す。また、表中、においの種類の数値は、パネラー4人によってつけられた肌臭、酸臭またはスパイシー臭のレベルの得点の平均値を示す。
【0144】
【表1】
【0145】
表1に示された結果から、腋臭の強度が同じ被験者のなかにも、酸臭が強い被験者と、スパイシー臭が強い被験者とが存在することがわかる。また、肌臭の強い被験者は、腋臭の強度が比較的弱い傾向にあることがわかる。
【0146】
(実施例5)
実験例2における被験者のうち、肌臭の強い被験者3人(表1の被験者番号1〜3)、酸臭の強い被験者3人(表1の被験者番号5〜7)およびスパイシー臭の強い被験者3人(表1の被験者番号14〜16)を選択した。各被験者の腋窩を無香料石鹸で洗浄した。その後、無臭化した綿製シートを腋窩部に貼り付けたTシャツを各被験者に着用させ、綿製シートを被験者の腋窩部に接触させた。Tシャツの着用開始から24時間経過後に、Tシャツから綿製シートを回収した。
【0147】
回収した綿製シートをヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れた。つぎに、固相マイクロ抽出法(SPME)用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、綿製シートのヘッドスペース気相部に24時間曝露した。
【0148】
その後、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した。なお、用いられた分析条件は、以下のとおりである。
【0149】
〔分析条件〕
使用カラム:アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:DB−1701(60m×0.25mm×1μm)
使用ガス :ヘリウムガス
温度条件 :−10℃(3分間維持)、−10℃から160℃までの昇温(昇温速度3℃/min)、160℃から280℃までの昇温(昇温速度10℃)および280℃で3分間維持
イオン化法:電子イオン化法(EI)、60eV
【0150】
また、前記におい嗅ぎガスクロマトグラフを用い、腋臭の原因となる成分を調べた。
【0151】
その結果、腋臭の原因となる成分として、体臭を構成する既知の成分である酢酸、プロピオン酸などの飽和脂肪酸に対応するピークとともに、ジアセチルに対応するピークが確認された。
【0152】
そこで、得られたクロマトグラムを用い、ジアセチルに対応するピークの面積を算出した。つぎに、既知量のジアセチルを用いて作成した検量線を用い、ジアセチルに対応するピークの面積から、綿製シート1枚あたりのジアセチルの量を算出した。その結果を表2に示す。また、実施例5において、腋臭のタイプとジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を図9(A)に、腋臭のタイプと酢酸に対応するピークの面積との関係を調べた結果を図9(B)に示す。図中、「M」は腋臭の強度が低く、かつ酸臭が弱い被験者(被験者番号:14〜16)からなる群(以下、「肌臭群」という)、「A」は腋臭の強度が高く、かつ酸臭が強い被験者(被験者番号:5〜7)からなる群(以下、「酸臭群」という)および「C」は腋臭の強度が高く、かつスパイシー臭が強い被験者(被験者番号1〜3)からなる群(以下、「スパイシー臭群」という)を示す。
【0153】
【表2】
【0154】
表2に示された結果から、酸臭群およびスパイシー臭群それぞれにおけるジアセチルの量は、肌臭群におけるジアセチルの量に比べて多いことがわかる。なかでも、酸臭群におけるジアセチルの量は、肌臭群およびスパイシー臭群それぞれにおけるジアセチルの量と比べて著しく多いことがわかる。
【0155】
さらに、図9(B)に示された結果から、酢酸の量は、肌臭群、酸臭群およびスパイシー臭群の間で有意な差がないことがわかる。しかしながら、図9(A)に示された結果から、表2に示された結果と同様に、酸臭群およびスパイシー臭群それぞれにおけるジアセチルの量は、肌臭群におけるジアセチルの量に比べて多いことがわかる。
【0156】
したがって、これらの結果から、ジアセチルは、腋臭、特に酸臭と関連していることが示唆される。
【0157】
(実施例6)
実施例5において、被験者として、酸臭の強い被験者および酸臭の弱い被験者を用いたことを除き、実施例5と同様の操作を行ない、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した。実施例6において、酸臭の強い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した結果を図10(A)に、酸臭の弱い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した結果を図10(B)に示す。
【0158】
図10(A)および(B)に示された結果から、酸臭の強い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着したジアセチルに対応するピークは、酸臭の弱い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着したジアセチルに対応するピークと比べて、著しく高いことがわかる。したがって、これらの結果から、ジアセチルの量は、腋臭、特に酸臭の強度と相関していることが示唆される。
【0159】
以上の結果から、ジアセチルは、体臭判定用指標剤として用いることができることが示唆される。
【0160】
(実施例7〜12)
表3に示される(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および希釈剤を、表3に示される組成となるように混合することにより、体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物を得た。
【0161】
(比較例1)
表3に示される(B)成分、(C)成分、(D)成分および希釈剤を、表3に示される組成となるように混合することにより、体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物を得た。
【0162】
(試験例1)
無臭化したバイアルに、実施例7〜12で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物のいずれかまたは比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物0.5gを入れた。その後、25℃、湿度50%に保たれた室内で、パネラー3人〔男性3人〕により、体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物のにおいを評価させ、頭部におけるアブラ臭に対する実施例7〜12で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物および比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物それぞれのにおいの近似レベルを判定した。その結果を表3に示す。体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物のにおいの評価基準および頭部におけるアブラ臭に対する近似レベルの判定基準は、以下のとおりである。
【0163】
〔体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物のにおいの評価基準〕
5点:明らかに頭部におけるアブラ臭として認識することができる。
4点:頭部におけるアブラ臭として認識することができる。
3点:頭部におけるアブラ臭として少し認識することができる。
2点:頭部におけるアブラ臭としてやや認識し難い。
1点:頭部におけるアブラ臭とは全く認識することができない。
【0164】
〔頭部におけるアブラ臭に対する近似レベルの判定基準〕
◎ (頭部におけるアブラ臭にかなり近似している)
・・・においの評価点の平均点が4点以上
○ (頭部におけるアブラ臭に近似している)
・・・においの評価点の平均点が3点以上4点未満
△ (頭部におけるアブラ臭とあまり近似していない)
・・・においの評価点の平均点が2点以上3点未満
× (頭部におけるアブラ臭と全く近似していない)
・・・においの評価点の平均点が1点以上2点未満
【0165】
【表3】
【0166】
表3に示された結果から、ジアセチルを含有する実施例7〜12で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物は、頭部におけるアブラ臭によく似たにおいを発することがわかる。なお、ジアセチルの代わりに、ジアセチル以外の一般式(I)で表されるジケトン化合物を用いたときも同様の結果が得られる。これに対して、ジアセチルを含有しない比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物は、頭部におけるアブラ臭とはあまり似ていないにおいを発することがわかる。
【0167】
したがって、ジアセチルを含有する体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物は、頭部におけるアブラ臭によく似たにおいを再現することができるため、頭皮におけるアブラ臭を有するヒトをターゲットとするデオドランド剤、介護臭の消臭、室内消臭、公共施設内の消臭などの消臭剤、衣料用洗浄剤、住居用洗浄剤などの洗浄剤などの開発に有用である。
【0168】
(実施例13〜18)
表4に示される(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および希釈剤を、表4に示される組成となるように配合することにより、体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物を得た。
【0169】
(比較例2)
表4に示される(B)成分、(C)成分、(D)成分および希釈剤を、表4に示される組成となるように配合することにより、体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物を得た。
【0170】
(試験例2)
無臭化したバイアルに、実施例13〜18で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物のいずれかまたは比較例2で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物0.5gを入れた。その後、25℃、湿度50%の環境下で、パネラー3人〔男性3人〕により、体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物のにおいを評価させ、腋窩における酸臭に対する実施例13〜18で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物および比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物それぞれのにおいの近似レベルを判定した。その結果を表3に示す。体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物のにおいの評価基準および腋窩における酸臭に対する近似レベルの判定基準は、以下のとおりである。
【0171】
〔体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物のにおいの評価基準〕
5点:明らかに腋窩における酸臭として認識することができる。
4点:腋窩における酸臭として認識することができる。
3点:腋窩における酸臭として少し認識することができる。
2点:腋窩における酸臭としてやや認識し難い。
1点:腋窩における酸臭とは全く認識することができない。
【0172】
〔腋窩における酸臭に対する近似レベルの判定基準〕
◎ (腋窩における酸臭にかなり近似している)
・・・においの評価点の平均点が4点以上
○ (腋窩における酸臭に近似している)
・・・においの評価点の平均点が3点以上4点未満
△ (腋窩における酸臭とあまり近似していない)
・・・においの評価点の平均点が2点以上3点未満
× (腋窩における酸臭と全く近似していない)
・・・においの評価点の平均点が1点以上2点未満
【0173】
【表4】
【0174】
表4に示された結果から、ジアセチルを含有する実施例13〜18で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物は、腋窩における酸臭によく似たにおいを発することがわかる。なお、ジアセチルの代わりに、ジアセチル以外の一般式(I)で表されるジケトン化合物を用いたときも同様の結果が得られる。これに対して、ジアセチルを含有しない比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物は、腋窩における酸臭とはあまり似ていないにおいを発することがわかる。
【0175】
したがって、ジアセチルを含有する体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物は、腋窩における酸臭によく似たにおいを再現することができるため、酸臭を有するヒトをターゲットとするデオドランド剤、介護臭の消臭、室内消臭、公共施設内の消臭などの消臭剤、衣料用洗浄剤、住居用洗浄剤などの洗浄剤などの開発に有用である。
【0176】
(実験例3)
ヒトの皮膚に常在する微生物であるスタフィロコッカス属細菌〔スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis ATCC35982)およびスタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus ATCC29970)〕およびコリネバクテリウム属細菌〔コリネバクテリウム・ジェイケイウム(Corynebacterium jeikeium ATCC43734)、コリネバクテリウム・キセロシス(Corynebacterium xerosis NBRC12684)、コリネバクテリウム・ミヌティスマム(Corynebacterium minutissumum ATCC23348)およびコリネバクテリウム・ストリアタム(Corynebacterium striatum ATCC6940)〕を、炭素源としてジアセチルの前駆体であるピルビン酸をその濃度が2mMとなるように基本培地に添加した培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%)中において、36℃で24時間、210min-1で振盪させながら培養した。得られた培養物を、ピルビン酸の分析のための分析試料として用いた。また、前記培養物に含まれる成分を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンで誘導体化し、ジアセチルの分析のための分析試料を得た。得られた分析試料を高速液体クロマトグラフ(以下、「HPLC」という)に供し、培養物におけるピルビン酸の濃度およびジアセチルの濃度が含まれるかどうかを調べた。ピルビン酸の分析条件およびジアセチルの分析条件は、以下のとおりである。
【0177】
〔ピルビン酸の分析の際のHPLC測定条件〕
検出波長 :210nm
使用カラム:YMC製、商品名:Hydrospher C18
(250mm×4.6mm*I.D)
カラム温度:30℃
流速 :0.7mL/min
注入量 :20μL
移動層 :20mMリン酸水素ナトリウム水溶液(pH2.5)・0.12M塩化ナトリウム
(20mMリン酸水素ナトリウム水溶液のpHを、リン酸で2.5に調整した後、得られた混合物に、塩化ナトリウムをその濃度が0.12Mとなるように溶解させた溶液)
【0178】
〔ジアセチルの分析の際のHPLC測定条件〕
検出波長 :365nm
使用カラム:YMC製、商品名:Hydrospher C18
(250mm×4.6mm*I.D)
カラム温度:50℃
流速 :1mL/min
注入量 :0.1mL
移動層 :アセトニトリルと水を1:1の割合で混合した溶液
【0179】
実験例3において、培養物におけるピルビン酸の濃度とスタフィロコッカス属細菌の種類との関係を調べた結果を図11(A)に、培養物におけるジアセチルの濃度とスタフィロコッカス属細菌の種類との関係を調べた結果を図11(B)に示す。また、実験例3において、培養物におけるピルビン酸の濃度とコリネバクテリウム属細菌の種類との関係を調べた結果を図12(A)に、培養物におけるジアセチルの濃度とコリネバクテリウム属細菌の種類との関係を調べた結果を図12(B)に示す。図11中、1はスタフィロコッカス・エピデルミディス、2はスタフィロコッカス・オウレウス、3はスタフィロコッカス・ホミニスおよび4はスタフィロコッカス・ヘモリティカスを示す。また、図12中、1はコリネバクテリウム・ジェイケイウム、2はコリネバクテリウム・キセロシス、3はコリネバクテリウム・ミヌティスマムおよび4はコリネバクテリウム・ストリアタムを示す。
【0180】
図11および図12に示された結果から、用いられたスタフィロコッカス属細菌およびコリネバクテリウム細菌のうち、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスそれぞれの培養物中にジアセチルが含まれていることがわかる。したがって、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスは、ピルビン酸を資化してジアセチルを生成することがわかる。
【0181】
(実験例4)
スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)およびスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)を、基本培地にピルビン酸、乳酸、アラニン、グリシンまたはセリン(0.0002質量%)を炭素源として補った培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%)中において、36℃で5時間、210min-1で振盪させながら培養した。得られた培養物に含まれる成分を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンで誘導体化し、分析試料を得た。得られた分析試料をHPLCに供し、培養物におけるジアセチルの濃度を調べた。なお、培地における酵母エキス、ピルビン酸、乳酸、アラニン、グリシンまたはセリンの濃度は、2mMとした。また、HPLC測定条件は、以下のとおりである。
【0182】
〔HPLC測定条件〕
検出波長 :365nm
使用カラム:YMC製、商品名:Hydrospher C18
(250mm×4.6mm*I.D)
カラム温度:50℃
流速 :1mL/min
注入量 :0.1mL
移動層 :アセトニトリルと水を1:1の割合で混合した溶液
【0183】
実験例4において、培地の種類と培養物におけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を図13に示す。図中、1は基本培地、2はピルビン酸が補われた培地、3は乳酸が補われた培地、4はアラニンが補われた培地、5はグリシンが補われた培地および6はセリンが補われた培地を示す。
【0184】
図13に示された結果から、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスの両方の培養の際に、炭素源としてピルビン酸または乳酸を用いた場合、他の炭素源を用いた場合と比べて、培養物におけるジアセチルの濃度が高くなることがわかる。したがって、これらの結果から、ピルビン酸または乳酸は、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスにおいて、ジアセチルの前駆体として用いられていることがわかる。
【0185】
(実施例19)
基本培地に被験物質および乳酸をそれぞれの濃度が0.01質量%および2mMとなるように添加した培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%)(以下、「培地A」という)に、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)をその濃度が1×107CFU/mLとなるように添加し、210min-1で振盪させながら36℃で6時間培養した。被験物質として、トリクロサン、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、トコフェロール、イソパルミチン酸アスコルビルまたはパントテニルアルコールを用いた。なお、トリクロサンおよび4−イソプロピル−3−メチルフェノールは、デオドラント剤における殺菌成分として用いられている物質である。また、乳酸は、ジアセチルの前駆体であると考えられる物質である。
【0186】
得られた培養物のうち0.2mLの培養物を採取した。採取された培養物に含まれる成分を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンで誘導体化した後、得られた産物をメンブランフィルターで濾過し、濾液を得た。得られた濾液をHPLC〔(株)島津製作所製、商品名:LC10Avp−紫外可視検出器〕に供し、濾液中に含まれるジアセチルの量(被験物質の存在下に培養したときのジアセチルの量)を測定した。なお、HPLC測定条件は、以下のとおりである。
【0187】
〔HPLC測定条件〕
検出波長 :365nm
使用カラム:YMC製、商品名:Hydrospher C18
(250mm×4.6mm*I.D)
カラム温度:50℃
流速 :1mL/min
注入量 :0.1mL
移動層 :アセトニトリルと水を1:1の割合で混合した溶液
【0188】
また、前記培地Aの代わりに、基本培地に1,3−ブチレングリコール(対照)および乳酸をそれぞれの濃度が0.01質量%および2mMとなるように添加した培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%)を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、濾液中に含まれるジアセチルの量(対照物質の存在下に培養したときのジアセチルの量)を測定した。
【0189】
その後、式(II):
【0190】
【数1】
【0191】
にしたがって、阻害率を算出した。また、前記培養物1mL中に含まれる生菌数を測定した。実施例19において、被験物質の種類と阻害率との関係を調べた結果を図14に示す。図中、1はトリクロサン、2は4−イソプロピル−3−メチルフェノール、3はトコフェロール、4はイソパルミチン酸アスコルビルおよび5はパントテニルアルコールを示す。また、図中、白色のバーはスタフィロコッカス・オウレウスの生菌数を低下させる被験物質および黒色のバーはスタフィロコッカス・オウレウスの生菌数を低下させない被験物質を示す。
【0192】
図14に示された結果から、被験物質として、トリクロサン、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、トコフェロールまたはイソパルミチン酸アスコルビルを用いたときの阻害率は、15%以上であることから、これらの被験物質は、ジアセチルの生成を阻害することがわかる。これに対して、被験物質として、パントテニルアルコールを用いたときの阻害率は0%であり、スタフィロコッカス・オウレウスによる乳酸からのジアセチルの生成が阻害されていないことがわかる。
【0193】
したがって、これらの結果から、トリクロサン、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、トコフェロールおよびイソパルミチン酸アスコルビルは、頭皮におけるアブラ臭や腋窩における酸臭の発生を抑制することができる物質であることが示唆される。なお、トリクロサンおよび4−イソプロピル−3−メチルフェノールは、スタフィロコッカス・オウレウスの生菌数を低下させることから、スタフィロコッカス・オウレウスを殺菌することにより、ジアセチルの量を低減させていることが示唆される。一方、トコフェロールおよびイソパルミチン酸アスコルビルは、生菌数の低下を招かないことから、スタフィロコッカス・オウレウスにおけるジアセチルの生成系を抑制していることがわかる。なお、スタフィロコッカス・オウレウスの代わりに、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスそれぞれの遺伝学上近縁種であって、ジケトン化合物の産生能を有する種を用いたときも、同様の結果が得られる。
【0194】
以上の結果から、被験物質およびジアセチルなどのジケトン化合物の前駆体の存在下にスタフィロコッカス・オウレウスなどのようなジケトン化合物の産生能を有する微生物を培養し、培養物中に含まれるジアセチルの量を調べることにより、被験物質が頭皮におけるアブラ臭や腋窩における酸臭の発生を抑制することができるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0195】
(実施例20)
ヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に、適量の被験物質と、適量の体臭判定用指標剤とを入れ、一定時間放置する。その後、SPME用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、ヘッドスペース気相部に1時間曝露する。
【0196】
つぎに、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、体臭判定用指標剤の量(A)を調べる。
【0197】
また、被験物質のかわりに、対照物質を用いることを除き、前記と同様の操作を行ない、体臭判定用指標剤の量(B)を調べる。
【0198】
その後、体臭判定用指標剤の量(A)と体臭判定用指標剤の量(B)とを比べ、被験物質によって体臭判定用指標剤が減少しているかどうかを調べる。被験物質によって体臭判定用指標剤が減少している場合、被験物質は、消臭効果を有すると評価する。
【0199】
(実施例21)
被験者の腋窩を無香料石鹸で洗浄する。つぎに、デオドラント剤を被験者の腋窩に塗布する。その後、無臭化した綿製シートを腋窩部に貼り付けたTシャツを各被験者に着用させ、綿製シートを被験者の腋窩部に接触させる。Tシャツの着用開始から24時間経過後に、Tシャツから綿製シートを回収する。
【0200】
回収した綿製シートをヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れる。つぎに、SPME用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、綿製シートのヘッドスペース気相部に24時間曝露する。
【0201】
その後、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した体臭判定用指標剤の量(C)を分析する。
【0202】
また、被験者の腋窩にデオドラント剤を塗布しないことを除き、前記と同様に操作を行ない、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した体臭判定用指標剤の量(D)を分析する。
【0203】
その後、体臭判定用指標剤の量(C)と体臭判定用指標剤の量(D)とを比べ、デオドラント剤によって体臭判定用指標剤が減少しているかどうかを調べる。被験物質によって体臭判定用指標剤が減少している場合、デオドラント剤は、消臭効果および/または防臭効果を有すると評価する。
【0204】
(実施例22)
デオドラント剤を被験者の衣服に噴霧する。その後、デオドラント剤の噴霧から24時間経過後に、衣服を回収する。
【0205】
回収した衣服の一部をヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れる。つぎに、固相マイクロ抽出法(SPME)用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、ヘッドスペース気相部に24時間曝露する。
【0206】
その後、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、体臭判定用指標剤の量(E)を分析する。
【0207】
また、被験者の衣服にデオドラント剤を噴霧しないことを除き、前記と同様に操作を行ない、体臭判定用指標剤の量(F)を分析する。
【0208】
その後、体臭判定用指標剤の量(E)と体臭判定用指標剤の量(F)とを比べ、デオドラント剤によって体臭判定用指標剤が減少しているかどうかを調べる。被験物質によって体臭判定用指標剤が減少している場合、デオドラント剤は、消臭効果および/または防臭効果を有すると評価する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、体臭判定用指標剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、体臭を気にするヒトに適した化粧料、香料、洗浄剤などの開発などに有用な体臭判定用指標剤、体臭の消臭効果の評価方法、デオドラント剤の評価方法、体臭の判定方法および体臭抑制剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
体臭は、腋窩部、頭部、体幹部、足指部、足裏部などの各部位から発生する複数のにおいが混じり合ったものである。これらの部位のなかでも、例えば、腋窩部および頭部は、汗の分泌量が多い部位であるが、汗が蒸発しにくく、皮膚常在微生物が繁殖しやすい環境となっている。かかる腋窩部および頭部では、汗中に含まれる成分が皮脂、垢などとともに皮膚常在微生物によって分解されることにより、強いにおいを発する物質が生成される。そのため、腋窩部のにおい(以下、「腋臭」という)および頭部のにおい(以下、「頭部臭」という)は、強く、しかも他人に感知されやすい。
【0003】
近年、清潔志向が高まりつつあり、自分や他人の体臭を気にするヒトが増える傾向がある。そこで、体臭の消臭効果を発現する化粧料、香料、洗浄剤などが提案されている。
【0004】
化粧料、香料、洗浄剤などによる体臭の消臭効果は、多くの場合、モニターに化粧料、香料、洗浄剤などを使用させた後、当該モニターの体臭の有無をパネラーに評価させる方法、モニターが使用した衣服などに化粧料、香料、洗浄剤などを塗布した後、衣服に付着した体臭の有無をパネラーに評価させる方法などよって評価されている。しかしながら、これらの方法は、モニターおよびパネラーの体調などの影響を受けやすいため、体臭の消臭効果を客観的かつ的確に評価することが困難である。
【0005】
これに対して、体臭の原因物質を用いた擬似体臭を、体臭の消臭効果の評価に用いることが考えられる。
【0006】
例えば、腋臭の原因物質として、3−メチル−2−ヘキセン酸、4−エチルヘキサン酸、7−オクテン酸などの炭素数2〜11の脂肪酸;アンドロステノン(5α−16−アンドロステン−3−オン)、アンドロステノール(5α−16−アンドロステン−3α−オールまたは5α−16−アンドロステン−3β−オールなど)、アンドロスタジエノン(4,16−アンドロスタジエン−3−オン)などのステロイド類などが知られている(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。これらのうち、炭素数2〜5のカルボン酸は、においが強く、不快なにおいである酸臭の原因物質であると考えられている。しかしながら、前記原因物質が配合された擬似腋臭組成物のにおいは、腋臭を十分に再現するものではなく、実際の腋臭とは異なっている。
【0007】
また、頭部臭の原因物質として、例えば、酢酸、プロピオン酸などの脂肪酸などが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、前記原因物質が配合された擬似頭部臭組成物のにおいは、頭部臭を十分に再現するものではなく、実際の頭部臭とは異なっている。
【0008】
したがって、ヒトの体臭を的確に再現し、客観的に評価することができる指標や、化粧料、香料、洗浄剤などの体臭の消臭効果などを簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる手段が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−62159号公報
【特許文献2】特開2001−220593号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本化学会編、「味とにおいの分子認識」、季刊化学総説、学会出版センター、1999年3月発行、第40巻、p.205−211
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、ヒトの体臭を的確に再現し、客観的に評価することができる体臭判定用指標剤を提供することを目的とする。また、本発明は、体臭の消臭効果を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる体臭の消臭効果の評価方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、デオドラント剤の性能を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができるデオドラント剤の評価方法を提供することを目的とする。また、本発明は、簡便な操作で客観的かつ的確に体臭の種類や強度を判定することができる体臭の判定方法を提供することを目的とする。本発明は、体臭抑制剤を簡便な操作で効率よくスクリーニングすることができる体臭抑制剤のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、
(1)体臭の判定の指標として用いるための体臭判定用指標剤であって、一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物を含有することを特徴とする体臭判定用指標剤、
(2)炭素数2〜5の脂肪酸をさらに含有してなる前記(1)に記載の体臭判定用指標剤、
(3)炭素数6〜10の脂肪酸をさらに含有してなる前記(1)に記載の体臭判定用指標剤、
(4)ノネナールをさらに含有してなる前記(3)に記載の体臭判定用指標剤、
(5)被験試料と前記(1)〜(4)のいずれかに記載の体臭判定用指標剤とを接触させた後、前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、前記においの強度および前記においの不快度からなる群より選ばれた少なくとも1種を調べ、においの有無、被験試料との接触の有無によるにおいの強度の差異および被験試料との接触の有無によるにおいの不快度の差異からなる群より選ばれた少なくとも1種によって体臭の消臭効果を評価することを特徴とする体臭の消臭効果の評価方法、
(6)デオドラント剤の適用箇所に存在する物質を採取し、当該物質中に含まれる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によってデオドラント剤の性能を評価することを特徴とするデオドラント剤の評価方法、
(7)皮膚上に存在する物質を採取し、得られた物質中に含まれる前記(1)〜(4)のいずれかに記載の体臭判定用指標剤の量を調べ、当該体臭判定用指標剤の量によって体臭の種類または体臭の強度を判定することを特徴とする体臭の判定方法、
(8)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤のスクリーニング方法であって、
(A)一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物の産生能を有する微生物を、被験物質および前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地で培養するステップ、
(B)前記ステップ(A)で得られた培養物における前記微生物の生菌数および/または前記ジケトン化合物の量を測定することにより、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制するかどうかを判定するステップ、および
(C)前記ステップ(B)において、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を体臭抑制剤として選択するステップ
を含むことを特徴とする体臭抑制剤のスクリーニング方法、ならびに
(9)前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物がスタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスからなる群より選ばれた少なくとも1種である前記(8)に記載のスクリーニング方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の体臭判定用指標剤は、ヒトの体臭を的確に再現し、客観的に評価することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の体臭の消臭効果の評価方法は、体臭の消臭効果を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができるという優れた効果を奏する。さらに、本発明のデオドラント剤の評価方法は、デオドラント剤の性能を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の体臭の判定方法は、簡便な操作で客観的かつ的確に体臭の種類や強度を判定することができるという優れた効果を奏する。本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法は、体臭抑制剤を簡便な操作で効率よくスクリーニングすることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(A)は実験例1において、頭の部位と頭部臭に占める汗臭の比率との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実験例1において、頭の部位と頭部臭に占めるアブラ臭の比率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図2】実施例1において、アブラ臭を有する被験者が使用した枕カバーに付着した成分を分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図3】実施例1において、アブラ臭の有無とジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図4】実施例1において、ガスクロマトグラフ−質量分析法で検出された各化合物の量を調べた結果を示すグラフである。
【図5】(A)は実施例2において、頭皮におけるアブラ臭の強い被験者のヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した結果を示すクロマトグラム、(B)は実施例2において、頭皮におけるアブラ臭の弱い被験者のヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図6】実施例3において、アブラ臭レベルとジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図7】実施例4において、頭部臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図8】実施例4において、アブラ臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図9】(A)は実施例5において、腋臭のタイプとジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実施例5において、腋臭のタイプと酢酸に対応するピークの面積との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図10】(A)は実施例6において、酸臭の強い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した結果を示すクロマトグラム、(B)は酸臭の弱い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した結果を示すクロマトグラムである。
【図11】(A)は実験例3において、培養物におけるピルビン酸の濃度とスタフィロコッカス属細菌の種類との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実験例3において、培養物におけるジアセチルの濃度とスタフィロコッカス属細菌の種類との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図12】(A)は実験例3において、培養物におけるピルビン酸の濃度とコリネバクテリウム属細菌の種類との関係を調べた結果を示すグラフ、(B)は実験例3において、培養物におけるジアセチルの濃度とコリネバクテリウム属細菌の種類との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図13】実験例4において、炭素源の種類と培養物におけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図14】実施例19において、被験物質の種類と阻害率との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の体臭判定用指標剤は、前記したように、体臭の判定の指標として用いるための体臭判定用指標剤であって、
一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物を含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の体臭判定用指標剤は、前記ジケトン化合物を含有しているので、ヒトの体臭、とりわけ頭部におけるアブラ臭および腋窩部における酸臭を的確に再現することができる。したがって、本発明の体臭判定用指標剤は、体臭の消臭効果または防臭効果の評価、ヒトの体臭の種類、体臭の強度、デオドラント剤の性能などの判定に有用である。
【0017】
本明細書において、「体臭」とは、皮膚の表面から発生するにおいをいう。また、本明細書において、「頭部臭」とは、体臭のうち、頭皮および頭髪を含む頭部から発生するにおいをいう。
【0018】
また、本明細書において、「アブラ臭」とは、古くなった油のにおいに似ており、発酵したようなにおいをいう。さらに、本明細書において、「酸臭」とは、蒸れたような酸っぱいにおいをいう。
【0019】
さらに、本明細書において、「体臭の消臭」の概念には、体臭をマスキングすること、体臭の原因物質の分解、吸収、吸着、洗浄、拭浄などによって除去すること、体臭の原因物質の構造を変化させて不快なにおいを除去することおよび体臭の原因物質の揮発を抑制することが包含される。
【0020】
また、本明細書において、「体臭の防臭」とは、体臭の発生を抑制することをいう。
【0021】
一般式(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素数1〜4のアルキル基である。前記アルキル基の炭素数は、1〜4であるが、好ましくは1〜3、より好ましくは1または2、さらに好ましくは1である。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、ヒトの体臭を的確に再現する観点から、メチル基が好ましい。
【0022】
前記ジケトン化合物としては、ジアセチル、2,3−ペンタンジオンおよび2,3−ヘキサンジオンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記ジケトン化合物のなかでは、ヒトの体臭、とりわけ頭部におけるアブラ臭および腋窩部における酸臭を的確に再現することができることから、ジアセチルおよび2,3−ペンタンジオンが好ましく、ジアセチルがより好ましい。一般式(I)で表されるジケトン化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
本発明の体臭判定用指標剤における前記ジケトン化合物の含有量は、体臭判定用指標剤の用途などによって異なるため、一概には決定することができない。したがって、当該含有量は、体臭判定用指標剤の用途などに応じて適宜決定することが望ましい。
【0024】
本発明の体臭判定用指標剤における前記ジケトン化合物の含有率は、例えば、体臭の消臭効果の評価に用いる場合、ニオイの強度の差をより正確に評価し、かつニオイの特徴を正確に再現する観点から、好ましくは0.0001〜0.1質量%、より好ましくは0.001〜0.05質量%である。本発明の体臭判定用指標剤におけるジケトン化合物の含有率は、その使用時に、希釈剤などによって容易に調整することができる。また、本発明の体臭判定用指標剤におけるジケトン化合物の含有率は、予め調整されていてもよい。前記希釈剤としては、例えば、ミネラルオイル、プロピレングリコール、1.3-ブチレングリコールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0025】
本発明の体臭判定用指標剤は、例えば、体臭の判定またはデオドラント剤の評価に用いる場合、ジケトン化合物のみで構成されていてもよく、前記ジケトン化合物と体臭の種類に応じた成分などとの混合物であってもよい。
【0026】
前記体臭が腋臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、前記体臭の種類に応じた成分として、炭素数2〜5の脂肪酸をさらに含有することが好ましい。前記脂肪酸の炭素数は、腋臭を正確に再現する観点から、2〜5、好ましくは2または3である。前記炭素数2〜5の脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、酢酸およびプロピオン酸が好ましい。これらの炭素数2〜5の脂肪酸は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
本発明の体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記炭素数2〜5の脂肪酸の量は、脂肪酸の種類、各脂肪酸の嗅覚閾値、ニオイ特性などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記炭素数2〜5の脂肪酸の量は、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、好ましくは1〜10000質量部、より好ましくは10〜1000質量部である。
【0028】
前記体臭が腋臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、炭素数2〜5の脂肪酸以外の脂肪酸、希釈剤、炭素数1〜10のアルデヒドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0029】
前記炭素数2〜5の脂肪酸以外の脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸 、カプリン酸などの炭素数6〜10の脂肪酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
前記炭素数1〜10のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、吉草酸アルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナールなどの飽和アルデヒド;オクテナール、ノネナール、デセナールなどの不飽和アルデヒドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0031】
本発明の体臭判定用指標剤が前記他の成分を含有する場合、当該体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記他の成分の量は、前記他の成分の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記他の成分量は、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、好ましくは1〜1000000質量部、より好ましくは10〜100000質量部、さらに好ましくは30〜10000、さらに一層好ましくは50〜1000である。
【0032】
前記体臭が頭部臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、ヒトの頭部臭をより的確に再現する観点から、前記体臭の種類に応じた成分として、炭素数6〜10の脂肪酸をさらに含有することが好ましい。
【0033】
前記脂肪酸の炭素数は、ヒトの頭部臭を的確に再現する観点から、6〜10、好ましくは7〜10以下である。前記炭素数6〜10の脂肪酸としては、例えば、カプロン酸、イソカプロン酸、エナント酸、イソエナント酸、カプリル酸、イソカプリル酸、ペラルゴン酸、イソペラルゴン酸、カプリン酸、イソカプリン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、ヒトの頭部臭を的確に再現する観点から、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸およびカプリン酸が好ましい。これらの炭素数6〜10の脂肪酸は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
本発明の体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記炭素数6〜10の脂肪酸の量は、脂肪酸の種類、各脂肪酸の嗅覚閾値、ニオイ特性などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記炭素数6〜10の脂肪酸の量は、ヒトの腋臭を的確に再現する観点から、好ましくは10〜40000質量部、より好ましくは30〜8000質量部、さらに好ましくは50〜5000である。
【0035】
前記体臭が頭部臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、ヒトの頭部臭をより一層的確に再現する観点から、ノネナールをさらに含有することが好ましい。
【0036】
本発明の体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記ノネナールの量は、目的とするニオイの特性などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記ノネナールの量は、ヒトの腋臭をより一層的確に再現する観点から、好ましくは0.01〜1000質量部、より好ましくは0.05〜500質量部、さらに好ましくは0.1〜300質量部である。
【0037】
前記体臭が頭部臭である場合、本発明の体臭判定用指標剤は、本発明の目的を阻害しない範囲内で、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、炭素数6〜10の脂肪酸以外の脂肪酸、希釈剤、炭素数1〜10のアルデヒドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0038】
前記炭素数6〜10の脂肪酸以外の脂肪酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸などの炭素数2〜5の脂肪酸;ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸などの炭素数11〜18の脂肪酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0039】
前記炭素数1〜10のアルデヒドとしては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、吉草酸アルデヒド、ヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナールなどの飽和アルデヒド;オクテナール、ノネナール、デセナールなどの不飽和アルデヒドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0040】
本発明の体臭判定用指標剤が前記他の成分を含有する場合、当該体臭判定用指標剤において、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記他の成分の量は、前記他の成分の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物100質量部あたりの前記他の成分量は、ヒトの頭部臭を的確に再現する観点から、好ましくは1〜1000000質量部、より好ましくは10〜100000質量部、さらに好ましくは30〜10000質量部、より一層好ましくは50〜1000質量部である。
【0041】
本発明の体臭判定用指標剤の発するにおいは、前記したように、ヒトの体臭、特に頭部臭および腋臭を的確に再現していることから、体臭の消臭効果を評価するのに有用である。したがって、本発明の体臭判定用指標剤を用いて被験試料による体臭の消臭効果を評価することができる。
【0042】
本発明の体臭の消臭効果の評価方法は、被験試料と前記体臭判定用指標剤とを接触させた後、前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、前記においの強度および前記においの不快度からなる群より選ばれた少なくとも1種を調べ、においの有無、被験試料との接触の有無によるにおいの強度の差異および被験試料との接触の有無によるにおいの不快度の差異からなる群より選ばれた少なくとも1種によって体臭の消臭効果を評価することを特徴とする。
【0043】
本発明の体臭の消臭効果の評価方法は、被験者自身が発する体臭を用いずに前記体臭判定用指標剤によってヒトの体臭を的確に再現することができることから、被験試料によるヒトの体臭の消臭効果を、簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる。
【0044】
前記被験試料としては、例えば、香料、フレーバーなどのにおい成分、体臭判定用指標剤を吸収または吸着することが期待される物質、体臭判定用指標剤の構造を変化させることが期待される物質、体臭判定用指標剤を分解することが期待される物質、体臭判定用指標剤の揮発を抑制することが期待される物質、体臭判定用指標剤を付着させた部位から当該体臭判定用指標剤を分離させることが期待される物質または基材などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0045】
被験試料と体臭判定用指標剤との接触は、被験試料の種類に応じた方法によって行なうことができる。
【0046】
被験試料が、におい成分、体臭判定用指標剤を吸収または吸着することが期待される物質、体臭判定用指標剤の構造を変化させることが期待される物質、体臭判定用指標剤を分解することが期待される物質または体臭判定用指標剤の揮発を抑制することが期待される物質である場合、被験試料と体臭判定用指標剤との接触は、被験試料と体臭判定用指標剤とを混合することなどによって行なうことができる。
【0047】
被験試料と体臭判定用指標剤との混合に際して、被験試料と体臭判定用指標剤との混合比〔被験試料/体臭判定用指標剤(質量比)〕は、体臭判定用指標剤の種類、被験試料の種類、消臭効果の評価手法などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、被験試料と体臭判定用指標剤との混合比〔被験試料/体臭判定用指標剤(質量比)〕は、被験試料によるヒトの体臭の消臭効果を客観的かつ的確に評価する観点から、好ましくは0.1/1〜1000000/1、より好ましくは1/1〜100000/1、さらに好ましくは1/1〜10000/1である。
【0048】
被験試料が、体臭判定用指標剤を付着させた部位から当該体臭判定用指標剤を分離させることが期待される物質である場合、被験試料と体臭判定用指標剤との接触は、被験試料によって前記部位を洗浄することなどによって行なうことができる。
【0049】
体臭判定用指標剤を付着させる対象となる部位としては、例えば、身体における体臭が発生する部分の肌、発生した体臭が付着する可能性のある衣服または布製品などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0050】
洗浄に用いられる被験試料の量は、体臭判定用指標剤を付着させた部位、被験試料の種類などによって異なるため、一概には決定することができないことから、被験試料の種類などに応じて適宜設定することが望ましい。
【0051】
さらに、被験試料が、体臭判定用指標剤を付着させた部位から当該体臭判定用指標剤を分離させることが期待される基材である場合、被験試料と体臭判定用指標剤との接触は、被験試料によって前記部位を拭浄することなどによって行なうことができる。
【0052】
拭浄に用いられる前記基材の大きさは、体臭判定用指標剤を付着させた部位などによって異なるため、一概には決定することができないことから、体臭判定用指標剤を付着させた部位などに応じて適宜設定することが好ましい。なお、前記体臭判定用指標剤を付着させた部位から当該体臭判定用指標剤を分離させることが期待される基材には、前記物質の少なくとも1つを含浸させた基材も含まれる。この場合、基材に含まれる前記物質の量は、体臭判定用指標剤を付着させた部位、被験試料の種類などによって異なるため、一概には決定することができないことから、被験試料の種類などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0053】
前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、においの強度およびにおいの不快度は、例えば、官能評価などにより調べることができる。
【0054】
本発明の体臭の消臭効果の評価方法では、
(a)前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、
(b)被験試料と体臭判定用指標剤との接触前後のにおいの強度の変化、
(c)対照物質と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度と、被験試料と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度との間の差異、
(d)被験試料と体臭判定用指標剤との接触前後のにおいの不快度の変化、
(e)対照物質と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの不快度と、被験試料と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの不快度との間の差異
などにより、被験試料による体臭の消臭効果を評価することができる。
【0055】
ここで、被験試料によって前記体臭判定用指標剤の発するにおいが無くなっている場合、被験試料によって前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度が低下している場合または被験試料によって前記体臭判定用指標剤の発するにおいの不快度が低下している場合には、当該被験試料が体臭の消臭効果を発現すると評価することができる。また、被験試料と体臭判定用指標剤との接触前後のにおいの強度の変化の度合い、または対照物質と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度と、被験試料と体臭判定用指標剤との接触後の前記体臭判定用指標剤の発するにおいの強度との間の差異の程度により、被験試料による体臭の消臭効果の程度を評価することができる。
【0056】
本発明の体臭判定用指標剤の発するにおいは、ヒトの体臭、特に頭部臭および腋臭を的確に再現しており、かつ当該体臭判定用指標剤の検出は、容易であることから、本発明の体臭判定用指標剤は、デオドラント剤の性能の評価に有用である。したがって、本発明の体臭判定用指標剤を用いてデオドラント剤を評価することができる。
【0057】
本発明のデオドラント剤の評価方法は、デオドラント剤の適用箇所に存在する物質を採取し、前記物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によってデオドラント剤の性能を評価することを特徴とする。
【0058】
本発明のデオドラント剤の評価方法は、官能評価によってデオドラント剤の付着後のヒトの体臭を評価してデオドラント剤の性能の評価を行なうのではなく、前記体臭判定用指標剤の量をデオドラント剤の性能の指標として用いてデオドラント剤の性能の評価を行なうことから、簡便な操作で客観的かつ的確にデオドラント剤を評価することができる。
【0059】
なお、本明細書において、「デオドラント剤」とは、皮膚に直接塗布するデオドラント剤および体臭が付着することがある箇所に適用するデオドラント剤のいずれをも含む概念である。前記体臭が付着することがある箇所としては、例えば、毛髪、衣類、靴、寝具、カーペット、カーテンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0060】
デオドラント剤の適用に際して、デオドラント剤の使用量は、デオドラント剤の種類、デオドラント剤に含まれる有効成分の量などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、デオドラント剤の使用量は、実際のデオドラント剤の使用状態を反映して当該デオドラント剤の性能を評価する観点から、適用箇所1cm2あたり、好ましくは0.1〜100mg、より好ましくは1〜50mgである。
【0061】
デオドラント剤の適用箇所としては、例えば、腋窩、体幹部、足裏、頭部などの皮膚の部分、前記体臭が付着することがある箇所などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0062】
前記適用箇所へのデオドラント剤の接触時間は、適用箇所の種類、デオドラント剤の種類、デオドラント剤の使用量、デオドラント剤に含まれる有効成分の量などによって異なるため、一概には決定することができない。例えば、適用箇所が前記皮膚の部分である場合、通常、皮膚へのデオドラント剤の接触時間は、デオドラント剤の効果を客観的かつ的確に判断できる観点から、好ましくは1〜72時間、より好ましくは3〜24時間である。
【0063】
前記デオドラント剤の適用箇所に存在する物質の採取は、例えば、
(a)前記デオドラント剤の適用箇所のヘッドスペースガスを採取すること、
(b)前記デオドラント剤の適用箇所に試験片を接触させ、前記試験片に付着した物質を抽出すること、
(c)前記デオドラント剤の適用箇所に直接溶媒を加え、適用箇所に存在する物質を抽出すること
などにより、行なうことができる。
【0064】
前記デオドラント剤の適用箇所に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量の測定方法としては、例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法、ガスクロマトグラフ−水素炎イオン検出法、ガスクロマトグラフ−電子捕獲式検出法、高速液体クロマトグラフ−紫外可視分光法、高速液体クロマトグラフ−質量分析法、半導体センサを用いた検出法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法では、クロマトグラムにおける体臭判定用指標剤に対応するピークの面積から、前記体臭判定用指標剤の量を算出することができる。
【0065】
本発明のデオドラント剤の評価方法では、デオドラント剤の適用前の皮膚から採取した物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量と前記デオドラント剤の適用箇所に存在する物質中に含まれる体臭判定用指標剤の量との間の差異などにより、デオドラント剤の性能を評価することができる。例えば、デオドラント剤によって前記体臭判定用指標剤の量が低減する場合、デオドラント剤が体臭の消臭効果および/または防臭効果を有すると判定することができる。
【0066】
本発明の体臭判定用指標剤の発するにおいは、ヒトの体臭、特に頭部臭および腋臭を的確に再現しており、かつ当該体臭判定用指標剤の検出が容易であることから、本発明の体臭判定用指標剤は、体臭の判定に有用である。したがって、本発明の体臭判定用指標剤を用いて体臭の種類または体臭の強度を判定することができる。
【0067】
本発明の体臭の判定方法は、皮膚上に存在する物質を採取し、得られた物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によって体臭の種類または体臭の強度を判定することを特徴とする。
【0068】
本発明の体臭の判定方法は、官能評価によって体臭の判定を行なうのではなく、前記体臭判定用指標剤の量を体臭の指標として用いて体臭の判定を行なうことから、簡便な操作で客観的かつ的確に、被験者の体臭の種類または体臭の強度を判定することができる。
【0069】
前記物質の採取は、例えば、
(a)被験者の体表の部位のヘッドスペースガスを採取すること、
(b)被験者の皮膚に試験片を接触させ、前記試験片に付着した物質を抽出すること、
(c)被験者の皮膚に溶媒を接触させ、前記溶媒によって皮膚上に存在する物質を抽出すること
などにより、行なうことができる。
【0070】
前記体表の部位としては、例えば、頭部、腋窩部、足部、体幹部、背部などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記試験片としては、例えば、綿製シート、セルロース製シート、ポリエチレン製シート、ポリエチレンテレフタレート製シートなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0071】
皮膚上に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量の測定方法としては、例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法、ガスクロマトグラフ−水素炎イオン検出法、ガスクロマトグラフ−電子捕獲式検出法、高速液体クロマトグラフ−紫外可視分光法、高速液体クロマトグラフ−質量分析法、半導体センサを用いた検出法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法では、クロマトグラムにおける体臭判定用指標剤に対応するピークの面積から、前記体臭判定用指標剤の量を算出することができる。
【0072】
本発明の体臭の判定方法では、例えば、前記皮膚上に存在する物質が被験者の頭部に由来する物質である場合、頭部のヘッドスペース中に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量がジアセチルの量として2ppb以上である場合には、被験者の頭部臭の種類がアブラ臭であると判定することができる。特に、前記頭部のヘッドスペース中に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量が、ジアセチルの量として3ppb以上である場合には、被験者の頭部臭の強度、特にアブラ臭の強度が高いと判定することができる。
【0073】
一方、本発明の体臭の判定方法では、例えば、前記皮膚上に存在する物質が被験者の腋窩部に由来する物質である場合、腋窩から採取したコットンシート中に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量がジアセチルの量として50ng以上である場合には、被験者の腋臭の種類が酸臭であると判定することができる。特に、前記腋窩から採取したコットンシート中に存在する物質中に含まれる前記体臭判定用指標剤の量がジアセチルの量として100ng以上である場合には、被験者の腋臭の強度、特に酸臭の強度が高いと判定することができる。
【0074】
前記ジケトン化合物は、微生物により産生されていることが、本発明者らにより見出されている。したがって、前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物に作用してジケトン化合物の生成を抑制する物質は、前記体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤として有用である。
【0075】
本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法は、前記体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤のスクリーニング方法であって、
(A) 前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物を、被験物質および前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地で培養するステップ、
(B)前記ステップ(A)で得られた培養物における前記微生物の生菌数および/または前記ジケトン化合物の量を測定することにより、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制するかどうかを判定するステップ、および
(C)前記ステップ(B)において、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を、体臭抑制剤として選択するステップ
を含むことを特徴とする。
【0076】
本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法では、前記微生物の生菌数および/または前記微生物により産生されるジケトン化合物の量により、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を体臭抑制剤として選択する。したがって、本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法は、官能評価によって体臭抑制剤を選択する場合と比べ、簡便な操作で客観的かつ的確に、体臭抑制剤を評価することができる。
【0077】
ステップ(A)では、前記微生物を、被験物質および前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地(以下、「培地A」という)で培養する。
【0078】
前記微生物は、ジケトン化合物の産生能を有する。前記微生物としては、ジケトン化合物の産生能を有するものであればよく、例えば、土壌微生物、皮膚常在微生物、腸内常在微生物、発酵食品に用いられる微生物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。前記微生物のなかでは、ヒトの体臭を抑制するのにより適した体臭抑制剤をスクリーニングする観点から、皮膚常在微生物が好ましい。
【0079】
前記皮膚常在微生物としては、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法では、前記皮膚常在微生物は、前記ジケトン化合物の産生能に優れる観点から、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。スタフィロコッカス・オウレウスとして、例えば、Staphylococcus aureus NBRC13276などを用いることができる。また、スタフィロコッカス・エピデルミディスとして、Staphylococcus epidermidis IAM1296などを用いることができる。なお、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスは、遺伝学上近縁種であって、ジケトン化合物の産生能を有する種であってもよい。
【0080】
前記被験物質としては、例えば、香料、フレーバーなどのにおい成分、体臭判定用指標剤を吸収または吸着することが期待される物質、体臭判定用指標剤の構造を変化させることが期待される物質、体臭判定用指標剤を分解することが期待される物質、体臭判定用指標剤の揮発を抑制することが期待される物質などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0081】
前記培地Aにおける被験物質の含有率は、被験物質の種類、被験物質の用途などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記培地Aにおける被験物質の含有率は、デオドラント剤などに配合するための体臭抑制剤として用いるのに適した被験物質を選択する観点から、好ましくは0.000001〜5質量%、より好ましくは0.00001〜2質量%である。
【0082】
前記ジケトン化合物の前駆体としては、例えば、ピルビン酸、乳酸、セリンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのなかでは、前記微生物によって資化されやすく、ジケトン化合物の産生量が高いことから、好ましくはピルビン酸および乳酸であり、より好ましくは乳酸である。
【0083】
前記培地Aにおける前記ジケトン化合物の前駆体の含有率は、前記ジケトン化合物の前駆体の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記ジケトン化合物の前駆体の含有率は、実際の体臭が発生する際の条件を再現する観点から、好ましくは0.01〜20mM、より好ましくは0.1〜5mMである。
【0084】
なお、培地Aにおける被験物質および前記ジケトン化合物以外の成分は、前記微生物の培養に用いられる培地成分であればよい。かかる培地成分としては、例えば、酵母エキス、リン酸、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、塩化マンガン、塩化鉄、塩化カルシウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0085】
前記微生物の培養時間は、微生物の種類、培地の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記微生物の培養時間は、微生物による前記ジケトン化合物の前駆体からのジケトン化合物の生成に要する時間を十分に確保する観点から、好ましくは0.5〜72時間、より好ましくは3〜24時間である。
【0086】
前記微生物の培養温度は、微生物の種類などによって異なるため、一概には決定することができない。通常、前記微生物の培養温度は、微生物を良好に生育させる観点から、好ましくは20〜50℃、より好ましくは30〜40℃である。
【0087】
ステップ(B)では、前記ステップ(A)で得られた培養物(以下、「培養物A」という)における前記微生物の生菌数および/または前記ジケトン化合物の量を測定することにより、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制するかどうかを判定する。
【0088】
培養物Aにおける前記微生物の生菌数の測定方法は、特に限定されないが、本発明においては、例えば、培養物Aを寒天培地に塗布し、一定時間培養後に生成したコロニーの数を計測するコロニーカウント法、顕微鏡観察によって培養物Aにおける前記微生物の数を測定する方法などが挙げられる。
【0089】
培養物Aにおける前記ジケトン化合物の量の測定方法としては、本発明においては、例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法、ガスクロマトグラフ−水素炎イオン検出法、ガスクロマトグラフ−電子捕獲式検出法、高速液体クロマトグラフ−紫外可視分光法、高速液体クロマトグラフ−質量分析法、半導体センサを用いた検出法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。例えば、ガスクロマトグラフ−質量分析法では、クロマトグラムにおけるジケトン化合物に対応するピークの面積から、前記ジケトン化合物の量を算出することができる。
【0090】
前記判定は、例えば、
(a)前記ステップ(A)において、培地Aの代わりに、被験物質を含まず、前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地を用いたことを除き、前記ステップ(A)と同様の操作を行ない、得られた培養物(以下、「培養物B」という)における前記微生物の生菌数を、前記培養物Aにおける前記微生物の生菌数と比較すること、
(b)前記培養物B中に含まれる前記ジケトン化合物の量と、前記培養物A中に含まれる前記ジケトン化合物の量とを比較すること、
(c)前記(a)および(b)の操作を行なうこと
などにより行なうことができる。この場合、
(1)培養物Aにおける前記微生物の生菌数が培養物Bにおける前記微生物の生菌数よりも少ないこと、および/または
(2)培養物A中に含まれる前記ジケトン化合物の量が培養物B中に含まれる前記ジケトン化合物の量よりも少ないこと
を満たす場合、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制する物質であると判定することができる。
【0091】
ステップ(C)では、前記ステップ(B)において、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を、体臭抑制剤として選択する。
【0092】
このように、本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法によれば、前記体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤をスクリーニングすることができる。
【0093】
以上説明したように、本発明の体臭判定用指標剤によれば、ヒトの体臭を的確に再現することができる。本発明の体臭の消臭効果の評価方法によれば、体臭の消臭効果を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる。さらに、本発明のデオドラント剤の評価方法によれば、デオドラント剤の性能を簡便な操作で客観的かつ的確に評価することができる。また、本発明の体臭の判定方法によれば、簡便な操作で客観的かつ的確に体臭の種類や強度を判定することができる。また、本発明の体臭抑制剤のスクリーニング方法は、体臭抑制剤を簡便な操作で効率よくスクリーニングすることができる。
【0094】
したがって、本発明の体臭判定用指標剤、体臭の消臭効果の評価方法、デオドラント剤の評価方法、体臭の判定方法および体臭抑制剤のスクリーニング方法は、体臭を気にするヒトに適した化粧料、香料、洗浄剤などの開発などに有用である。
【実施例】
【0095】
つぎに、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0096】
(実験例1)
被験者26人〔40〜50歳代の健康な日本人男性10人および20歳代の健康な日本人男性16人〕それぞれの頭皮および頭髪を無香料シャンプーで洗浄した。パネラー4人〔男性3人および女性1人〕により、洗浄終了から12時間経過時の前頭部、頭頂部、後頭部および側頭部におけるにおいの種類を評価させた。においの種類の評価基準は、以下のとおりである。
【0097】
〔においの種類の評価基準〕
汗臭:汗をかいたときの酸っぱいにおい
アブラ臭:古くなった油のにおいに似ており、発酵したようなにおい
【0098】
実験例1において、頭の部位と頭部臭に占める汗臭の比率との関係を調べた結果を図1(A)、実験例1において、頭の部位と頭部臭に占めるアブラ臭の比率との関係を調べた結果を図1(B)に示す。
【0099】
図1(A)に示された結果から、頭部臭に占める汗臭の比率は、20歳代の日本人男性と40〜50歳代の日本人男性との間で差異がほとんどないことがわかる。一方、図1(B)に示された結果から、40〜50歳代の日本人男性の頭部臭に占めるアブラ臭の比率は、20歳代の日本人男性の頭部臭に占めるアブラ臭の比率と比べて高いことがわかる。したがって、これらの結果から、アブラ臭は、40〜50歳代の日本人男性の頭皮に多くみられるにおいであることが示唆される。
【0100】
(実施例1)
アブラ臭を有する被験者が使用した枕カバーは、前記被験者の頭皮と同様にアブラ臭を発する。そこで、アブラ臭を有する被験者に、無臭化した綿製シートを枕カバーとしてかけた枕を就寝時に7日間使用させた。つぎに、綿製シートを回収し、ヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れた。その後、マイクロ固相抽出法(SPME)用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、綿製シートのヘッドスペース気相部に24時間曝露した。
【0101】
つぎに、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した。まず、枕カバーに付着した揮発成分を、マイクロ固相抽出ファイバー(スペルコ社製)に吸着させた。ファイバーに吸着させた揮発成分を、ガスクロマトグラフ−質量分析装置〔アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:6890GC−5973MSD〕に供し、前記試料中に含まれる成分を分析した。なお、用いられた分析条件は、以下のとおりである。
【0102】
〔分析条件〕
使用カラム:アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:DB−1701(60m×0.25mm×1μm)
使用ガス :ヘリウムガス
温度条件 :40℃(4分間維持)、40℃から160℃までの昇温(昇温速度3℃/min)、160℃で5分間維持および160℃〜260℃までの昇温(昇温速度10℃/min)
イオン化法:電子イオン化法(EI)、60eV
【0103】
実施例1において、アブラ臭を有する被験者が使用した枕カバーに付着した成分を分析した結果を図2に示す。図中、矢印は、ジアセチルに対応するピークを示す。
【0104】
図2に示された結果から、保持時間16分前後にピークが見られることがわかる。このピークは、保持時間から、ジアセチルに帰属するピークであると推定される。したがって、アブラ臭を有する被験者が使用した枕カバーには、ジアセチルが付着していることが示唆される。
【0105】
つぎに、被験者として、アブラ臭を有する被験者7人からなるアブラ臭被験者群およびアブラ臭があまり感知されない被験者8人からなる非アブラ臭被験者群を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、被験者それぞれが使用した枕カバーに付着した成分をガスクロマトグラフ−質量分析装置で分析した。つぎに、得られたクロマトグラムを用い、ジアセチルに対応するピークの面積を算出した。
【0106】
実施例1において、アブラ臭の有無とジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を図3に示す。
【0107】
図3に示された結果から、アブラ臭を有する被験者群が使用した枕カバーに付着した成分中のジアセチルに対応するピークの面積(図中、「アブラ臭」を参照)は、アブラ臭があまり感知されない被験者群が使用した枕カバーに付着した成分中のジアセチルに対応するピークの面積(図中、「非アブラ臭」を参照)と比べて、有意に大きいことがわかる。
【0108】
また、被験者として、アブラ臭を有する被験者6人からなるアブラ臭被験者群およびアブラ臭があまり感知されない被験者5人からなる非アブラ臭被験者群を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、被験者それぞれが使用した枕カバーに付着した成分をガスクロマトグラフ−質量分析装置で分析した。つぎに、得られたクロマトグラムを用い、ジアセチルまたは既知の体臭成分である短鎖もしくは中鎖の脂肪酸に対応するピークの面積を算出した。既知量のジアセチルまたは短鎖もしくは中鎖の脂肪酸を用いて作成した検量線を用い、ジアセチルまたは短鎖もしくは中鎖の脂肪酸に対応するピークの面積からジアセチルまたは短鎖もしくは中鎖の脂肪酸の量を算出した。
【0109】
実施例1において、ガスクロマトグラフ−質量分析装置で検出された各化合物の量を調べた結果を図4に示す。図4中、化合物番号1はジアセチル、化合物番号2は炭素数2の脂肪酸(酢酸)、化合物番号3は炭素数3の脂肪酸(プロピオン酸)、化合物番号4は炭素数4の脂肪酸(酪酸)、化合物番号5は炭素数5の脂肪酸(吉草酸)、化合物番号6は炭素数6の脂肪酸(カプロン酸)、化合物番号7は炭素数7の脂肪酸(エナント酸)、化合物番号8は炭素数8の脂肪酸(カプリル酸)、化合物番号9は炭素数9の脂肪酸(ペラルゴン酸)および化合物番号10は炭素数10の脂肪酸(カプリン酸)を示す。
【0110】
図4に示された結果から、アブラ臭被験者群が使用した枕カバーに付着した成分中に含まれるジアセチルおよび炭素数6〜10の脂肪酸の量は、非アブラ臭被験者群が使用した枕カバーに付着した成分中に含まれるジアセチルおよび炭素数6〜10の脂肪酸の量と比べて有意に多いことがわかる。
【0111】
したがって、これらの結果から、ジアセチルおよび炭素数6〜10の脂肪酸は、アブラ臭被験者群が使用した枕カバーが発するアブラ臭に関連していることが示唆される。
【0112】
(実施例2)
被験者16人〔40〜50歳代の日本人男性16人〕を、頭皮におけるアブラ臭の強い被験者のグループと、頭皮におけるアブラ臭の弱い被験者のグループとにグループ分けした。被験者それぞれの頭皮および頭髪を無香料シャンプーで洗浄した。
【0113】
洗浄終了から12時間経過後、真空状の密閉容器〔エンテック・インスツルメンツ・インク(Entech Instruments Inc)社製、商品名:MiniCan〕を用い、被験者の頭部のヘッドスペースガス1Lを採取した。得られたヘッドスペースガスを窒素で3倍に希釈し、試料を得た。
【0114】
自動濃縮装置〔エンテック・インスツルメンツ・インク(Entech Instruments Inc)社製、商品名:7100A−Preconcentrator〕を接続したガスクロマトグラフ−質量分析装置〔アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:6890Nガスクロマトグラフおよび5973Nマス・セレクティヴ・ディテクター〕を用い、前記試料中に含まれる成分を分析した。なお、用いられた分析条件は、以下のとおりである。
【0115】
〔分析条件〕
試料注入量:1000mL
使用カラム:アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:DB−1701(60m×0.25mm×1μm)
使用ガス :ヘリウムガス
温度条件 :40℃(4分間維持)、40℃から160℃までの昇温(昇温速度3℃/min)、160℃で5分間維持および160℃〜260℃までの昇温(昇温速度10℃/min)
イオン化法:電子イオン化法(EI)、60eV
【0116】
また、自動濃縮装置〔エンテック・インスツルメンツ・インク(Entech Instruments Inc)社製、商品名: 7100A−Preconcentrator〕およびにおい嗅ぎポート〔ゲステル社製、商品名:ODP2スニッフィングポート〕を接続したガスクロマトグラフ−質量分析装置〔アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:6890Nガスクロマトグラフおよび5973Nマス・セレクティヴ・ディテクター〕を用い、頭部のアブラ臭の原因となる主要な成分を調べた。
【0117】
実施例2において、頭皮におけるアブラ臭の強い被験者のヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した結果を図5(A)に、頭皮におけるアブラ臭の弱い被験者のヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した結果を図5(B)に示す。図中、矢印は、ジアセチルに対応するピークを示す。
【0118】
図5に示された結果から、頭皮におけるアブラ臭の強い被験者のヘッドスペースガス中に含まれるジアセチルに対応するピークは、頭皮におけるアブラ臭の弱い被験者のヘッドスペースガス中に含まれるジアセチルに対応するピークと比べて、約3倍高いことがわかる。また、ジアセチルは、頭皮におけるアブラ臭の強い全ての被験者のヘッドスペースガスに含まれていることが確認された。
【0119】
さらに、におい嗅ぎガスクロマトグラフの結果から、前記ジアセチルに対応するピークを示す画分がアブラ臭に極めて似ている強いにおいを持っていることが確認された。
【0120】
一般に、ヒトによるジアセチルの弁別閾値は、0.00005ppmであるといわれている。一方、ヒトによる炭素数6〜10の脂肪酸それぞれの弁別閾値は、ヒトによるジアセチルの弁別閾値の10倍以上である。したがって、ジアセチルの量が炭素数6〜10の脂肪酸の量の1/10であったとしても、ヒトは、炭素数6〜10の脂肪酸のにおいよりもジアセチルのにおいのほうが強く感じる。したがって、以上の結果から、ジアセチルは、頭皮におけるアブラ臭の主要な原因となる成分であることが示唆される。
【0121】
(実施例3)
被験者13人〔40〜50歳代の日本人男性13人〕に、無臭化した綿製シートを枕カバーとしてかけた枕を就寝時に7日間使用させた。パネラー4人〔男性3人および女性1人〕により、枕カバーに付着した頭部臭の種類を評価させて頭部臭に占めるアブラ臭の比率を求めた。つぎに、頭部臭に占めるアブラ臭の比率に基づいて、アブラ臭のレベルを評価した。アブラ臭のレベルの評価基準は、以下のとおりである。
【0122】
〔アブラ臭のレベルの評価基準〕
0〜9点 :頭部臭におけるアブラ臭の比率0〜9%
10〜19点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率10〜19%
20〜29点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率20〜29%
30〜39点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率30〜39%
40〜49点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率40〜49%
50〜59点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率50〜59%
60〜69点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率60〜69%
70〜79点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率70〜79%
80〜89点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率80〜89%
90〜99点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率90〜99%
100点 :頭部臭に占めるアブラ臭の比率100%
【0123】
また、実施例1において、被験者として、前記被験者13人〔40〜50歳代の日本人男性13人〕を用いたことを除き、実施例1と同様の操作を行ない、前記被験者それぞれが使用した枕カバーに付着した成分をガスクロマトグラフ−質量分析装置で分析し、ジアセチルに対応するピークの面積を算出した。
【0124】
実施例3において、アブラ臭レベルとジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を図6に示す。図中、アブラ臭のレベルは、パネラー4人によってつけられたアブラ臭のレベルの得点の平均値を示す。
【0125】
図6に示された結果から、枕カバーに付着した成分中に含まれるジアセチルに対応するピークの面積が小さいほど、枕カバーに付着したアブラ臭のレベルが小さく、前記ジアセチルに対応するピークの面積が大きいほど、アブラ臭のレベルと枕カバーに付着した成分中に含まれるジアセチルに対応するピークの面積との間には、相関性があることがわかる。
【0126】
(実施例4)
被験者16人〔40〜50歳代の健康な日本人男性16人〕それぞれの頭皮および頭髪を無香料シャンプーで洗浄した。パネラー4人〔男性3人および女性1人〕により、洗浄終了から12時間経過時の頭頂部における頭部臭の強度を評価させた。頭部臭の強度は、以下のとおりである。
【0127】
〔頭部臭の強度の評価基準〕
0点:におわない
1点:かすかににおう
2点:弱くにおう
3点:はっきりにおう
4点:やや強くにおう
5点:かなり強くにおう
【0128】
また、前記パネラー4人により、頭頂部における頭部臭の種類を評価させて頭部臭に占めるアブラ臭の比率を求めた。つぎに、頭部臭に占めるアブラ臭の比率に基づいて、アブラ臭のレベルを評価した。アブラ臭のレベルの評価基準は、以下のとおりである。
【0129】
〔アブラ臭のレベルの評価基準〕
0〜9点 :頭部臭に占めるアブラ臭の比率0〜9%
10〜19点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率10〜19%
20〜29点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率20〜29%
30〜39点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率30〜39%
40〜49点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率40〜49%
50〜59点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率50〜59%
60〜69点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率60〜69%
70〜79点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率70〜79%
80〜89点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率80〜89%
90〜99点:頭部臭に占めるアブラ臭の比率90〜99%
100点 :頭部臭に占めるアブラ臭の比率:100%
【0130】
つぎに、前記頭部臭の強度またはアブラ臭のレベルに基づいて、前記被験者16人を3つのグループにグループ分けした。頭部臭のレベルの分類基準およびアブラ臭のレベルの分類基準は、以下のとおりである。なお、頭部臭の強度は、パネラー4人によってつけられた頭部臭の強度の得点の平均値を示す。また、アブラ臭のレベルは、パネラー4人によってつけられたアブラ臭のレベルの得点の平均値を示す。
【0131】
〔頭部臭のレベルの分類基準〕
頭部臭の強度 0〜2点:弱い頭部臭
頭部臭の強度 3点以上3.5点未満:中程度の頭部臭
頭部臭の強度 3.5点以上:強い頭部臭
【0132】
〔アブラ臭のレベルの分類基準〕
アブラ臭のレベル 0〜24点:弱いアブラ臭
アブラ臭のレベル 25〜39点:中程度のアブラ臭
アブラ臭のレベル 40点以上:強いアブラ臭
【0133】
また、実施例2において、被験者として、被験者16人〔40〜50歳代の日本人男性16人〕を用いたことを除き、実施例2と同様の操作を行ない、被験者それぞれのヘッドスペースガス中に含まれる成分を分析した。つぎに、濃度既知のジアセチル標準ガス(0.1〜10ppb/窒素ガス中)を同様の方法で分析して作成された検量線を用い、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度を算出した。
【0134】
実施例4において、頭部臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を図7に示す。また、実施例4において、アブラ臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を図8に示す。図中、矢印は、ジアセチルに対応するピークを示す。
【0135】
図7に示された結果から、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度が高いほど、頭部臭が強く、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度が低いほど、頭部臭が弱いことがわかる。したがって、この結果から、頭部臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との間には、相関性があることがわかる。
【0136】
また、図8に示された結果から、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度が高いほど、頭皮におけるアブラ臭のレベルが高く、頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度が低いほど、頭皮におけるアブラ臭のレベルが低いことがわかる。したがって、この結果から、頭皮におけるアブラ臭のレベルと頭部のヘッドスペースガスにおけるジアセチルの濃度との間には、相関性があることがわかる。
【0137】
以上の結果から、ジアセチルは、体臭判定用指標剤として用いることができることが示唆される。
【0138】
(実験例2)
被験者16人〔30〜50歳代の健康な日本人男性16人〕それぞれの腋窩を無香料石鹸で洗浄した。パネラー4人〔男性3人および女性1人〕により、洗浄終了から24時間経過時の腋窩部における腋臭の強度、においの種類およびその強度を評価させた。腋臭またはにおいの強度の評価基準およびにおいの種類の評価基準は、以下のとおりである。
【0139】
〔腋臭またはにおいの強度の評価基準〕
0点:におわない
1点:かすかににおう
2点:弱くにおう
3点:はっきりにおう
4点:やや強くにおう
5点:かなり強くにおう
【0140】
〔においの種類の評価基準〕
肌臭:ミルクのようなにおい。肌本来のにおい
酸臭:蒸れたような酸っぱいにおい
スパイシー臭:クミン油のようなスパイシーなにおい
【0141】
また、腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率を求めた。つぎに、腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率に基づいて、肌臭、酸臭またはスパイシー臭のレベルを評価した。肌臭、酸臭またはスパイシー臭のレベルの評価基準は、以下のとおりである。
【0142】
〔アブラ臭のレベルの評価基準〕
0〜9点 :腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率0〜9%
10〜19点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率10〜19%
20〜29点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率20〜29%
30〜39点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率30〜39%
40〜49点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率40〜49%
50〜59点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率50〜59%
60〜69点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率60〜69%
70〜79点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率70〜79%
80〜89点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率80〜89%
90〜99点:腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率90〜99%
100点 :腋臭に占める肌臭、酸臭またはスパイシー臭の比率100%
【0143】
実験例2において、各被験者の腋臭の強度、においの種類およびその強度を評価した結果を表1に示す。表中、腋臭の強度は、パネラー4人によってつけられたにおいの強度の得点の平均値を示す。また、表中、においの種類の数値は、パネラー4人によってつけられた肌臭、酸臭またはスパイシー臭のレベルの得点の平均値を示す。
【0144】
【表1】
【0145】
表1に示された結果から、腋臭の強度が同じ被験者のなかにも、酸臭が強い被験者と、スパイシー臭が強い被験者とが存在することがわかる。また、肌臭の強い被験者は、腋臭の強度が比較的弱い傾向にあることがわかる。
【0146】
(実施例5)
実験例2における被験者のうち、肌臭の強い被験者3人(表1の被験者番号1〜3)、酸臭の強い被験者3人(表1の被験者番号5〜7)およびスパイシー臭の強い被験者3人(表1の被験者番号14〜16)を選択した。各被験者の腋窩を無香料石鹸で洗浄した。その後、無臭化した綿製シートを腋窩部に貼り付けたTシャツを各被験者に着用させ、綿製シートを被験者の腋窩部に接触させた。Tシャツの着用開始から24時間経過後に、Tシャツから綿製シートを回収した。
【0147】
回収した綿製シートをヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れた。つぎに、固相マイクロ抽出法(SPME)用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、綿製シートのヘッドスペース気相部に24時間曝露した。
【0148】
その後、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した。なお、用いられた分析条件は、以下のとおりである。
【0149】
〔分析条件〕
使用カラム:アジレント テクノロジー(Agilent Technology)社製、商品名:DB−1701(60m×0.25mm×1μm)
使用ガス :ヘリウムガス
温度条件 :−10℃(3分間維持)、−10℃から160℃までの昇温(昇温速度3℃/min)、160℃から280℃までの昇温(昇温速度10℃)および280℃で3分間維持
イオン化法:電子イオン化法(EI)、60eV
【0150】
また、前記におい嗅ぎガスクロマトグラフを用い、腋臭の原因となる成分を調べた。
【0151】
その結果、腋臭の原因となる成分として、体臭を構成する既知の成分である酢酸、プロピオン酸などの飽和脂肪酸に対応するピークとともに、ジアセチルに対応するピークが確認された。
【0152】
そこで、得られたクロマトグラムを用い、ジアセチルに対応するピークの面積を算出した。つぎに、既知量のジアセチルを用いて作成した検量線を用い、ジアセチルに対応するピークの面積から、綿製シート1枚あたりのジアセチルの量を算出した。その結果を表2に示す。また、実施例5において、腋臭のタイプとジアセチルに対応するピークの面積との関係を調べた結果を図9(A)に、腋臭のタイプと酢酸に対応するピークの面積との関係を調べた結果を図9(B)に示す。図中、「M」は腋臭の強度が低く、かつ酸臭が弱い被験者(被験者番号:14〜16)からなる群(以下、「肌臭群」という)、「A」は腋臭の強度が高く、かつ酸臭が強い被験者(被験者番号:5〜7)からなる群(以下、「酸臭群」という)および「C」は腋臭の強度が高く、かつスパイシー臭が強い被験者(被験者番号1〜3)からなる群(以下、「スパイシー臭群」という)を示す。
【0153】
【表2】
【0154】
表2に示された結果から、酸臭群およびスパイシー臭群それぞれにおけるジアセチルの量は、肌臭群におけるジアセチルの量に比べて多いことがわかる。なかでも、酸臭群におけるジアセチルの量は、肌臭群およびスパイシー臭群それぞれにおけるジアセチルの量と比べて著しく多いことがわかる。
【0155】
さらに、図9(B)に示された結果から、酢酸の量は、肌臭群、酸臭群およびスパイシー臭群の間で有意な差がないことがわかる。しかしながら、図9(A)に示された結果から、表2に示された結果と同様に、酸臭群およびスパイシー臭群それぞれにおけるジアセチルの量は、肌臭群におけるジアセチルの量に比べて多いことがわかる。
【0156】
したがって、これらの結果から、ジアセチルは、腋臭、特に酸臭と関連していることが示唆される。
【0157】
(実施例6)
実施例5において、被験者として、酸臭の強い被験者および酸臭の弱い被験者を用いたことを除き、実施例5と同様の操作を行ない、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した。実施例6において、酸臭の強い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した結果を図10(A)に、酸臭の弱い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した成分を分析した結果を図10(B)に示す。
【0158】
図10(A)および(B)に示された結果から、酸臭の強い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着したジアセチルに対応するピークは、酸臭の弱い被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着したジアセチルに対応するピークと比べて、著しく高いことがわかる。したがって、これらの結果から、ジアセチルの量は、腋臭、特に酸臭の強度と相関していることが示唆される。
【0159】
以上の結果から、ジアセチルは、体臭判定用指標剤として用いることができることが示唆される。
【0160】
(実施例7〜12)
表3に示される(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および希釈剤を、表3に示される組成となるように混合することにより、体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物を得た。
【0161】
(比較例1)
表3に示される(B)成分、(C)成分、(D)成分および希釈剤を、表3に示される組成となるように混合することにより、体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物を得た。
【0162】
(試験例1)
無臭化したバイアルに、実施例7〜12で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物のいずれかまたは比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物0.5gを入れた。その後、25℃、湿度50%に保たれた室内で、パネラー3人〔男性3人〕により、体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物のにおいを評価させ、頭部におけるアブラ臭に対する実施例7〜12で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物および比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物それぞれのにおいの近似レベルを判定した。その結果を表3に示す。体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物のにおいの評価基準および頭部におけるアブラ臭に対する近似レベルの判定基準は、以下のとおりである。
【0163】
〔体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物のにおいの評価基準〕
5点:明らかに頭部におけるアブラ臭として認識することができる。
4点:頭部におけるアブラ臭として認識することができる。
3点:頭部におけるアブラ臭として少し認識することができる。
2点:頭部におけるアブラ臭としてやや認識し難い。
1点:頭部におけるアブラ臭とは全く認識することができない。
【0164】
〔頭部におけるアブラ臭に対する近似レベルの判定基準〕
◎ (頭部におけるアブラ臭にかなり近似している)
・・・においの評価点の平均点が4点以上
○ (頭部におけるアブラ臭に近似している)
・・・においの評価点の平均点が3点以上4点未満
△ (頭部におけるアブラ臭とあまり近似していない)
・・・においの評価点の平均点が2点以上3点未満
× (頭部におけるアブラ臭と全く近似していない)
・・・においの評価点の平均点が1点以上2点未満
【0165】
【表3】
【0166】
表3に示された結果から、ジアセチルを含有する実施例7〜12で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物は、頭部におけるアブラ臭によく似たにおいを発することがわかる。なお、ジアセチルの代わりに、ジアセチル以外の一般式(I)で表されるジケトン化合物を用いたときも同様の結果が得られる。これに対して、ジアセチルを含有しない比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物は、頭部におけるアブラ臭とはあまり似ていないにおいを発することがわかる。
【0167】
したがって、ジアセチルを含有する体臭判定用指標剤としての擬似頭部臭組成物は、頭部におけるアブラ臭によく似たにおいを再現することができるため、頭皮におけるアブラ臭を有するヒトをターゲットとするデオドランド剤、介護臭の消臭、室内消臭、公共施設内の消臭などの消臭剤、衣料用洗浄剤、住居用洗浄剤などの洗浄剤などの開発に有用である。
【0168】
(実施例13〜18)
表4に示される(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および希釈剤を、表4に示される組成となるように配合することにより、体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物を得た。
【0169】
(比較例2)
表4に示される(B)成分、(C)成分、(D)成分および希釈剤を、表4に示される組成となるように配合することにより、体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物を得た。
【0170】
(試験例2)
無臭化したバイアルに、実施例13〜18で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物のいずれかまたは比較例2で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物0.5gを入れた。その後、25℃、湿度50%の環境下で、パネラー3人〔男性3人〕により、体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物のにおいを評価させ、腋窩における酸臭に対する実施例13〜18で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物および比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物それぞれのにおいの近似レベルを判定した。その結果を表3に示す。体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物のにおいの評価基準および腋窩における酸臭に対する近似レベルの判定基準は、以下のとおりである。
【0171】
〔体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物のにおいの評価基準〕
5点:明らかに腋窩における酸臭として認識することができる。
4点:腋窩における酸臭として認識することができる。
3点:腋窩における酸臭として少し認識することができる。
2点:腋窩における酸臭としてやや認識し難い。
1点:腋窩における酸臭とは全く認識することができない。
【0172】
〔腋窩における酸臭に対する近似レベルの判定基準〕
◎ (腋窩における酸臭にかなり近似している)
・・・においの評価点の平均点が4点以上
○ (腋窩における酸臭に近似している)
・・・においの評価点の平均点が3点以上4点未満
△ (腋窩における酸臭とあまり近似していない)
・・・においの評価点の平均点が2点以上3点未満
× (腋窩における酸臭と全く近似していない)
・・・においの評価点の平均点が1点以上2点未満
【0173】
【表4】
【0174】
表4に示された結果から、ジアセチルを含有する実施例13〜18で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物は、腋窩における酸臭によく似たにおいを発することがわかる。なお、ジアセチルの代わりに、ジアセチル以外の一般式(I)で表されるジケトン化合物を用いたときも同様の結果が得られる。これに対して、ジアセチルを含有しない比較例1で得られた体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物は、腋窩における酸臭とはあまり似ていないにおいを発することがわかる。
【0175】
したがって、ジアセチルを含有する体臭判定用指標剤としての擬似腋臭組成物は、腋窩における酸臭によく似たにおいを再現することができるため、酸臭を有するヒトをターゲットとするデオドランド剤、介護臭の消臭、室内消臭、公共施設内の消臭などの消臭剤、衣料用洗浄剤、住居用洗浄剤などの洗浄剤などの開発に有用である。
【0176】
(実験例3)
ヒトの皮膚に常在する微生物であるスタフィロコッカス属細菌〔スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)、スタフィロコッカス・ホミニス(Staphylococcus hominis ATCC35982)およびスタフィロコッカス・ヘモリティカス(Staphylococcus haemolyticus ATCC29970)〕およびコリネバクテリウム属細菌〔コリネバクテリウム・ジェイケイウム(Corynebacterium jeikeium ATCC43734)、コリネバクテリウム・キセロシス(Corynebacterium xerosis NBRC12684)、コリネバクテリウム・ミヌティスマム(Corynebacterium minutissumum ATCC23348)およびコリネバクテリウム・ストリアタム(Corynebacterium striatum ATCC6940)〕を、炭素源としてジアセチルの前駆体であるピルビン酸をその濃度が2mMとなるように基本培地に添加した培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%)中において、36℃で24時間、210min-1で振盪させながら培養した。得られた培養物を、ピルビン酸の分析のための分析試料として用いた。また、前記培養物に含まれる成分を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンで誘導体化し、ジアセチルの分析のための分析試料を得た。得られた分析試料を高速液体クロマトグラフ(以下、「HPLC」という)に供し、培養物におけるピルビン酸の濃度およびジアセチルの濃度が含まれるかどうかを調べた。ピルビン酸の分析条件およびジアセチルの分析条件は、以下のとおりである。
【0177】
〔ピルビン酸の分析の際のHPLC測定条件〕
検出波長 :210nm
使用カラム:YMC製、商品名:Hydrospher C18
(250mm×4.6mm*I.D)
カラム温度:30℃
流速 :0.7mL/min
注入量 :20μL
移動層 :20mMリン酸水素ナトリウム水溶液(pH2.5)・0.12M塩化ナトリウム
(20mMリン酸水素ナトリウム水溶液のpHを、リン酸で2.5に調整した後、得られた混合物に、塩化ナトリウムをその濃度が0.12Mとなるように溶解させた溶液)
【0178】
〔ジアセチルの分析の際のHPLC測定条件〕
検出波長 :365nm
使用カラム:YMC製、商品名:Hydrospher C18
(250mm×4.6mm*I.D)
カラム温度:50℃
流速 :1mL/min
注入量 :0.1mL
移動層 :アセトニトリルと水を1:1の割合で混合した溶液
【0179】
実験例3において、培養物におけるピルビン酸の濃度とスタフィロコッカス属細菌の種類との関係を調べた結果を図11(A)に、培養物におけるジアセチルの濃度とスタフィロコッカス属細菌の種類との関係を調べた結果を図11(B)に示す。また、実験例3において、培養物におけるピルビン酸の濃度とコリネバクテリウム属細菌の種類との関係を調べた結果を図12(A)に、培養物におけるジアセチルの濃度とコリネバクテリウム属細菌の種類との関係を調べた結果を図12(B)に示す。図11中、1はスタフィロコッカス・エピデルミディス、2はスタフィロコッカス・オウレウス、3はスタフィロコッカス・ホミニスおよび4はスタフィロコッカス・ヘモリティカスを示す。また、図12中、1はコリネバクテリウム・ジェイケイウム、2はコリネバクテリウム・キセロシス、3はコリネバクテリウム・ミヌティスマムおよび4はコリネバクテリウム・ストリアタムを示す。
【0180】
図11および図12に示された結果から、用いられたスタフィロコッカス属細菌およびコリネバクテリウム細菌のうち、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスそれぞれの培養物中にジアセチルが含まれていることがわかる。したがって、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスは、ピルビン酸を資化してジアセチルを生成することがわかる。
【0181】
(実験例4)
スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)およびスタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)を、基本培地にピルビン酸、乳酸、アラニン、グリシンまたはセリン(0.0002質量%)を炭素源として補った培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%)中において、36℃で5時間、210min-1で振盪させながら培養した。得られた培養物に含まれる成分を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンで誘導体化し、分析試料を得た。得られた分析試料をHPLCに供し、培養物におけるジアセチルの濃度を調べた。なお、培地における酵母エキス、ピルビン酸、乳酸、アラニン、グリシンまたはセリンの濃度は、2mMとした。また、HPLC測定条件は、以下のとおりである。
【0182】
〔HPLC測定条件〕
検出波長 :365nm
使用カラム:YMC製、商品名:Hydrospher C18
(250mm×4.6mm*I.D)
カラム温度:50℃
流速 :1mL/min
注入量 :0.1mL
移動層 :アセトニトリルと水を1:1の割合で混合した溶液
【0183】
実験例4において、培地の種類と培養物におけるジアセチルの濃度との関係を調べた結果を図13に示す。図中、1は基本培地、2はピルビン酸が補われた培地、3は乳酸が補われた培地、4はアラニンが補われた培地、5はグリシンが補われた培地および6はセリンが補われた培地を示す。
【0184】
図13に示された結果から、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスの両方の培養の際に、炭素源としてピルビン酸または乳酸を用いた場合、他の炭素源を用いた場合と比べて、培養物におけるジアセチルの濃度が高くなることがわかる。したがって、これらの結果から、ピルビン酸または乳酸は、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスにおいて、ジアセチルの前駆体として用いられていることがわかる。
【0185】
(実施例19)
基本培地に被験物質および乳酸をそれぞれの濃度が0.01質量%および2mMとなるように添加した培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%)(以下、「培地A」という)に、スタフィロコッカス・オウレウス(Staphylococcus aureus NBRC13276)をその濃度が1×107CFU/mLとなるように添加し、210min-1で振盪させながら36℃で6時間培養した。被験物質として、トリクロサン、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、トコフェロール、イソパルミチン酸アスコルビルまたはパントテニルアルコールを用いた。なお、トリクロサンおよび4−イソプロピル−3−メチルフェノールは、デオドラント剤における殺菌成分として用いられている物質である。また、乳酸は、ジアセチルの前駆体であると考えられる物質である。
【0186】
得られた培養物のうち0.2mLの培養物を採取した。採取された培養物に含まれる成分を2,4−ジニトロフェニルヒドラジンで誘導体化した後、得られた産物をメンブランフィルターで濾過し、濾液を得た。得られた濾液をHPLC〔(株)島津製作所製、商品名:LC10Avp−紫外可視検出器〕に供し、濾液中に含まれるジアセチルの量(被験物質の存在下に培養したときのジアセチルの量)を測定した。なお、HPLC測定条件は、以下のとおりである。
【0187】
〔HPLC測定条件〕
検出波長 :365nm
使用カラム:YMC製、商品名:Hydrospher C18
(250mm×4.6mm*I.D)
カラム温度:50℃
流速 :1mL/min
注入量 :0.1mL
移動層 :アセトニトリルと水を1:1の割合で混合した溶液
【0188】
また、前記培地Aの代わりに、基本培地に1,3−ブチレングリコール(対照)および乳酸をそれぞれの濃度が0.01質量%および2mMとなるように添加した培地(基本培地の組成:酵母エキス0.0002質量%、リン酸二水素カリウム0.003質量%、リン酸水素二カリウム0.0019質量%、硫酸マグネシウム七水和物0.0002質量%、塩化ナトリウム0.0014質量%、塩化アンモニウム0.001質量%、塩化マグネシウム0.00001質量%、塩化第一鉄0.00001質量%、塩化カルシウム0.00001質量%)を用いたことを除き、前記と同様の操作を行ない、濾液中に含まれるジアセチルの量(対照物質の存在下に培養したときのジアセチルの量)を測定した。
【0189】
その後、式(II):
【0190】
【数1】
【0191】
にしたがって、阻害率を算出した。また、前記培養物1mL中に含まれる生菌数を測定した。実施例19において、被験物質の種類と阻害率との関係を調べた結果を図14に示す。図中、1はトリクロサン、2は4−イソプロピル−3−メチルフェノール、3はトコフェロール、4はイソパルミチン酸アスコルビルおよび5はパントテニルアルコールを示す。また、図中、白色のバーはスタフィロコッカス・オウレウスの生菌数を低下させる被験物質および黒色のバーはスタフィロコッカス・オウレウスの生菌数を低下させない被験物質を示す。
【0192】
図14に示された結果から、被験物質として、トリクロサン、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、トコフェロールまたはイソパルミチン酸アスコルビルを用いたときの阻害率は、15%以上であることから、これらの被験物質は、ジアセチルの生成を阻害することがわかる。これに対して、被験物質として、パントテニルアルコールを用いたときの阻害率は0%であり、スタフィロコッカス・オウレウスによる乳酸からのジアセチルの生成が阻害されていないことがわかる。
【0193】
したがって、これらの結果から、トリクロサン、4−イソプロピル−3−メチルフェノール、トコフェロールおよびイソパルミチン酸アスコルビルは、頭皮におけるアブラ臭や腋窩における酸臭の発生を抑制することができる物質であることが示唆される。なお、トリクロサンおよび4−イソプロピル−3−メチルフェノールは、スタフィロコッカス・オウレウスの生菌数を低下させることから、スタフィロコッカス・オウレウスを殺菌することにより、ジアセチルの量を低減させていることが示唆される。一方、トコフェロールおよびイソパルミチン酸アスコルビルは、生菌数の低下を招かないことから、スタフィロコッカス・オウレウスにおけるジアセチルの生成系を抑制していることがわかる。なお、スタフィロコッカス・オウレウスの代わりに、スタフィロコッカス・エピデルミディス(Staphylococcus epidermidis IAM1296)、スタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスそれぞれの遺伝学上近縁種であって、ジケトン化合物の産生能を有する種を用いたときも、同様の結果が得られる。
【0194】
以上の結果から、被験物質およびジアセチルなどのジケトン化合物の前駆体の存在下にスタフィロコッカス・オウレウスなどのようなジケトン化合物の産生能を有する微生物を培養し、培養物中に含まれるジアセチルの量を調べることにより、被験物質が頭皮におけるアブラ臭や腋窩における酸臭の発生を抑制することができるかどうかを評価することができることが示唆される。
【0195】
(実施例20)
ヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に、適量の被験物質と、適量の体臭判定用指標剤とを入れ、一定時間放置する。その後、SPME用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、ヘッドスペース気相部に1時間曝露する。
【0196】
つぎに、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、体臭判定用指標剤の量(A)を調べる。
【0197】
また、被験物質のかわりに、対照物質を用いることを除き、前記と同様の操作を行ない、体臭判定用指標剤の量(B)を調べる。
【0198】
その後、体臭判定用指標剤の量(A)と体臭判定用指標剤の量(B)とを比べ、被験物質によって体臭判定用指標剤が減少しているかどうかを調べる。被験物質によって体臭判定用指標剤が減少している場合、被験物質は、消臭効果を有すると評価する。
【0199】
(実施例21)
被験者の腋窩を無香料石鹸で洗浄する。つぎに、デオドラント剤を被験者の腋窩に塗布する。その後、無臭化した綿製シートを腋窩部に貼り付けたTシャツを各被験者に着用させ、綿製シートを被験者の腋窩部に接触させる。Tシャツの着用開始から24時間経過後に、Tシャツから綿製シートを回収する。
【0200】
回収した綿製シートをヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れる。つぎに、SPME用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、綿製シートのヘッドスペース気相部に24時間曝露する。
【0201】
その後、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した体臭判定用指標剤の量(C)を分析する。
【0202】
また、被験者の腋窩にデオドラント剤を塗布しないことを除き、前記と同様に操作を行ない、被験者の腋窩部に接触させた綿製シートに付着した体臭判定用指標剤の量(D)を分析する。
【0203】
その後、体臭判定用指標剤の量(C)と体臭判定用指標剤の量(D)とを比べ、デオドラント剤によって体臭判定用指標剤が減少しているかどうかを調べる。被験物質によって体臭判定用指標剤が減少している場合、デオドラント剤は、消臭効果および/または防臭効果を有すると評価する。
【0204】
(実施例22)
デオドラント剤を被験者の衣服に噴霧する。その後、デオドラント剤の噴霧から24時間経過後に、衣服を回収する。
【0205】
回収した衣服の一部をヘッドスペース分析用バイアル〔スペルコ社製〕に入れる。つぎに、固相マイクロ抽出法(SPME)用ファイバー〔スペルコ社製〕を前記ヘッドスペース分析用バイアル内に挿入し、ヘッドスペース気相部に24時間曝露する。
【0206】
その後、前記SPME用ファイバーをガスクロマトグラフ−質量分析装置に供し、体臭判定用指標剤の量(E)を分析する。
【0207】
また、被験者の衣服にデオドラント剤を噴霧しないことを除き、前記と同様に操作を行ない、体臭判定用指標剤の量(F)を分析する。
【0208】
その後、体臭判定用指標剤の量(E)と体臭判定用指標剤の量(F)とを比べ、デオドラント剤によって体臭判定用指標剤が減少しているかどうかを調べる。被験物質によって体臭判定用指標剤が減少している場合、デオドラント剤は、消臭効果および/または防臭効果を有すると評価する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体臭の判定の指標として用いるための体臭判定用指標剤であって、一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物を含有することを特徴とする体臭判定用指標剤。
【請求項2】
炭素数2〜5の脂肪酸をさらに含有してなる請求項1に記載の体臭判定用指標剤。
【請求項3】
炭素数6〜10の脂肪酸をさらに含有してなる請求項1に記載の体臭判定用指標剤。
【請求項4】
ノネナールをさらに含有してなる請求項3に記載の体臭判定用指標剤。
【請求項5】
被験試料と請求項1〜4のいずれかに記載の体臭判定用指標剤とを接触させた後、前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、前記においの強度および前記においの不快度からなる群より選ばれた少なくとも1種を調べ、においの有無、被験試料との接触の有無によるにおいの強度の差異および被験試料との接触の有無によるにおいの不快度の差異からなる群より選ばれた少なくとも1種によって体臭の消臭効果を評価することを特徴とする体臭の消臭効果の評価方法。
【請求項6】
デオドラント剤の適用箇所に存在する物質を採取し、前記物質中に含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によってデオドラント剤の性能を評価することを特徴とするデオドラント剤の評価方法。
【請求項7】
皮膚上に存在する物質を採取し、得られた物質中に含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によって体臭の種類または体臭の強度を判定することを特徴とする体臭の判定方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤のスクリーニング方法であって、
(A)一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物の産生能を有する微生物を、被験物質および前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地で培養するステップ、
(B)前記ステップ(A)で得られた培養物における前記微生物の生菌数および/または前記ジケトン化合物の量を測定することにより、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制するかどうかを判定するステップ、および
(C)前記ステップ(B)において、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を、体臭抑制剤として選択するステップ
を含むことを特徴とする体臭抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物がスタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項8に記載の体臭抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項1】
体臭の判定の指標として用いるための体臭判定用指標剤であって、一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物を含有することを特徴とする体臭判定用指標剤。
【請求項2】
炭素数2〜5の脂肪酸をさらに含有してなる請求項1に記載の体臭判定用指標剤。
【請求項3】
炭素数6〜10の脂肪酸をさらに含有してなる請求項1に記載の体臭判定用指標剤。
【請求項4】
ノネナールをさらに含有してなる請求項3に記載の体臭判定用指標剤。
【請求項5】
被験試料と請求項1〜4のいずれかに記載の体臭判定用指標剤とを接触させた後、前記体臭判定用指標剤の発するにおいの有無、前記においの強度および前記においの不快度からなる群より選ばれた少なくとも1種を調べ、においの有無、被験試料との接触の有無によるにおいの強度の差異および被験試料との接触の有無によるにおいの不快度の差異からなる群より選ばれた少なくとも1種によって体臭の消臭効果を評価することを特徴とする体臭の消臭効果の評価方法。
【請求項6】
デオドラント剤の適用箇所に存在する物質を採取し、前記物質中に含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によってデオドラント剤の性能を評価することを特徴とするデオドラント剤の評価方法。
【請求項7】
皮膚上に存在する物質を採取し、得られた物質中に含まれる請求項1〜4のいずれかに記載の体臭判定用指標剤の量を調べ、前記体臭判定用指標剤の量によって体臭の種類または体臭の強度を判定することを特徴とする体臭の判定方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の体臭判定用指標剤に起因する体臭の発生を抑制するための体臭抑制剤のスクリーニング方法であって、
(A)一般式(I):
R1−(CO)−(CO)−R2 (I)
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で表されるジケトン化合物の産生能を有する微生物を、被験物質および前記ジケトン化合物の前駆体を含有する培地で培養するステップ、
(B)前記ステップ(A)で得られた培養物における前記微生物の生菌数および/または前記ジケトン化合物の量を測定することにより、被験物質がジケトン化合物の生成を抑制するかどうかを判定するステップ、および
(C)前記ステップ(B)において、ジケトン化合物の生成を抑制する被験物質を、体臭抑制剤として選択するステップ
を含むことを特徴とする体臭抑制剤のスクリーニング方法。
【請求項9】
前記ジケトン化合物の産生能を有する微生物がスタフィロコッカス・オウレウスおよびスタフィロコッカス・エピデルミディスからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項8に記載の体臭抑制剤のスクリーニング方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図5】
【図10】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図5】
【図10】
【公開番号】特開2013−64718(P2013−64718A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−74708(P2012−74708)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(390011442)株式会社マンダム (305)
【Fターム(参考)】
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