説明

作動液としてのポリエステル組成物の使用

【課題】完全に再生可能な原料をベースとして構成される合成エステルで、耐酸化性、適当な粘度温度挙動等を有し、かつ、高度の環境適合性を有する基油を提供する。
【解決手段】少なくとも1種のポリエステル又は少なくとも1種のポリエステル誘導体又はポリエステル混合物を含み、ポリエステルが少なくとも1種のカルボン酸、少なくとも1種のカルボン酸誘導体又はそれらの混合物によってエステル化された、ラクチトール、マルチトール、キシリトール、イソマルト、6−0−α−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール(1,6−GPS)、1−0−α−D−グルコピラノシル−D−マンニトール(1,1−GPM)、1−0−α−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール(1,1−GPS)およびそれらの混合物からなる群から選択される炭水化物からなる、生物学的に迅速に分解可能な組成物の、作動油のための基油としての使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも1種の炭水化物と少なくとも1種のカルボン酸からなるポリエステル及びそれらの混合物の作動液又は作動油としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧駆動装置は比較的簡単な部品で大きな力を伝達し、動作速度を無段階で変化させることを可能にする。その場合作動液によりゼネレータ部即ちポンプとモータ部即ち油圧モータ又はタービンの間で油圧エネルギー伝達が行われる。機能に応じて流体静力学的駆動装置と、あまり多くないが流体動力学的駆動装置が区別される。流体静力学的駆動装置は閉じた変化する空間で押しのけ容積の原理に従って動作する。ポンプは、流体に働く圧力により、行程又は回転のつど所定の容積の作動液を押しのける(油圧モータ)。流体動力学的駆動装置は、移動する作動液を回転対称に配列された羽根列で方向転換することにより慣性の原理に従って働く(タービン)。
【0003】
油圧系の機能遂行において作動液は重要である。作動液の基本的役割は動力又は信号を油圧系に伝達することである。従って作動油又は作動液とは、流体静力学的又は流体動力学的(流体力学的)系のエネルギー伝達に適した液状物質又は混合物のことである。作動液はエネルギー伝達のほかに摩擦部の十分な潤滑と油圧駆動装置の部品の腐食防止にも配慮し、系から熱を除去するものでなければならない。様々な油圧系の様々な条件にかかわらず、油圧作動媒質は常に個々の油圧部品が問題なく機能することを保証しなければならない。従って作動液は円滑なエネルギー伝達のために適当な流動挙動と優れた圧縮性、即ち圧力下での僅かな体積及び圧力変化のほかに、潤滑のためになるべく良好なすべり特性、冷却のために高い比熱、設備材料との良好な相容性及び防食性を持たねばならない。
【0004】
様々な油圧機械及び装置は異なる運転条件、例えば極めて高い又は極めて低い温度を有する。従って作動液は用途に応じて上記の一般的機能特性だけでなく、用途に特有の性質も持たねばならない。こうした性質はそれぞれの場合によって大きな相違がある。例えば飛行機の油圧設備のための作動液は特に優れた低温特性を備えていなければならない。火災の危険がある、例えば炭鉱の油圧装置では特に難燃性の作動液が使用される。同じく作動液に属するブレーキ液は例えば寒冷、熱及び老化又は酸化に耐え、腐食性がなく、ゴムに影響しないことが必要である。
【0005】
応用技術的観点から見て、作動油の特に興味深い具体的な特性データとして、粘度温度挙動、粘度圧力挙動及び密度温度依存性の決定がある。圧力又は温度とともに粘度が変化することは、在来の多くの作動液、特に鉱油の群から得られた作動液でよく知られている。例えば作動液として使用される鉱油は、温度の上昇とともに、低い温度の場合より著しく低い粘度を有する。あまりに高い温度によって粘度の下限を下回るならば、油圧部品に混合摩擦又は固体摩擦が起こり、このため全体として摩擦が増大し、摩耗が激しくなる。これに対してあまりに高い粘度は、とりわけエネルギーの観点から回避しなければならない。
【0006】
他の油圧部品と同様に油圧作動媒質も時のたつにつれて老化をこうむる。老化は物理的特性値及び化学的特性値の変化となって現われる。油圧作動媒質は例えば良好なトライボロジー的性質を失い、本来の役割、即ち部品の防食が逆転して、油圧駆動装置の部品に対して腐蝕作用を生じるようになる。
【0007】
ドイツでは毎年約16万トンの作動液製品が使用され、作動液の全量の約40%が動的な用途、60%が静的な用途を占める。その場合特に取り上げられるのは作動油H(作用添加物を含まない耐老化性)、HL(耐老化性と防食性を高めるための作用物質を含む)、HLP(さらに混合摩擦の領域で摩耗を減少するための作用物質を含む)及びHVLP(さらに粘度温度挙動の改善のための作用物質を含む)である。使用される作動液製品にとしてはまた難燃性作動液が挙げられる。これは特に火災の危険のある油圧装置で使用され、HFA(水中油エマルション)、HFB(油中水エマルション)、HFC(例えばポリグリコールであるポリマーの水溶液)及びHFD(無水液、例えばリン酸エステル、ケイ酸エステル、シリコーン、ハロゲン炭化水素等)が区別される。またブレーキ液もこれに属する。ブレーキ液は車両の油圧ブレーキ系統でブレーキ圧力の伝達のために使用され、通常はグリコール、グリコールエーテル及び/又はポリアルキルグリコールからなる。
【0008】
ドイツ連邦環境庁の調査(1997年)によれば、工業分野では使用した作動油の73.2%が回収され、再利用に送られる。このことは全作動液の約30%が環境に残っていることを意味する。その場合この製品の大部分はとりわけ油圧系からの漏れにより、又は例えばパワーショベルの油圧ホースの交換の際に滴下損失により環境、即ち土壌又は地下水及び地表水に入り込む。多くの作動液はその化学組成が原因で環境の自然系、例えば微生物によってはほとんど又はごく緩慢にしか分解されない。従って作動液による土壌、地下水及び地表水のこうした不断の汚染は長期的に植物相、動物相及び人間に対して重大な危険を招く。
【0009】
特に鉱油に基づく作動液から起こる環境への危険という背景のもとで、かなり以前から生物学的に分解可能な作動油の開発の努力が行われている。例えば菜種油、ヒマワリ油のような植物油及びそれらの誘導体に基づく作動油が開発された。天然の、特に植物性の油に基づくこれらの製品は比較的迅速に生物学的に分解され得るという利点があるものの、作動液として使用するのに必要な性質、例えば粘度温度挙動、長時間低温安定性、耐老化性等をまったく又は不十分にしか持たない。
【0010】
その他の再生可能な原料、例えば糖及びデンプンは、これまで作動液としての用途には未利用であり、合成エステルのためのポリオール成分としてのその可能性はほとんど研究されていない。しかしこのような原料はその入手しやすさにより大変魅力的である。特にそれは天然起源であるため迅速な生物学的分解性と環境適合性に関して有利だからである。先行技術では潤滑剤の分野で糖化合物の応用が幾つか知られているだけで、作動液の分野では未知である。
【0011】
糖と脂肪酸のエステルからなる無毒の生物学的分解性潤滑油製剤が特許文献1により周知である。ポリエステルのポリオール成分は糖、糖アルコール又はそれらの混合物であってよい。上記の無毒の潤滑油製剤は特に農業、食品工業又は化粧品製造業、製薬業で使用されるという。
【0012】
特許文献2は同じく食品製造用機械に使用できる潤滑油組成物を記載する。組成物は中鎖飽和脂肪酸とグリセリンの第1のエステル(成分A)及びカルボン酸とスクロースの第2のエステルの混合物からなる。
【0013】
特許文献3は脂肪酸と高級アルコールからなり潤滑効果を改善するエステルを添加した食用可能な潤滑剤を記載する。その場合潤滑効果の改善のための添加剤は少なくとも2つのアルコール基を持つ食用可能なアルコールの少なくとも2つのエステルからなる。アルコールとして例えばグリセリン、ペンタエリトリトール、アラビトール、マンニトール及びソルビトールを使用することができる。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0879872号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0572198号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第4229383号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで本発明の根底にある技術問題は、完全に再生可能な原料をベースとして構成され、特に低分子量糖類及び植物性供給源から単離される脂肪酸を使用して得た合成エステルを作動液の基油として提供することである。この合成エステルは一方では必要な応用技術的性質例えば耐酸化性、耐老化性、熱安定性、適当な粘度温度挙動、適当な粘度圧力挙動等を有し、他方では天然起源であるために生物学的に迅速に分解されるので、高度の環境適合性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、少なくとも1種のポリエステル又は少なくとも1種のポリエステル誘導体又はポリエステル混合物を含み、ポリエステルが少なくとも1種のカルボン酸、少なくとも1種のカルボン酸誘導体又はそれらの混合物によってエステル化された炭水化物からなる、生物学的に迅速に分解可能な組成物を作動油として使用することによって、本発明の根底にある技術的課題を解決する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
組成物に含まれるポリエステル又は糖エステルは、炭水化物とカルボン酸もしくはカルボン酸誘導体又はそれらの混合物とを化学的に連結することによって得られる。大部分の糖エステルは非イオン性界面活性剤の部類に属する。この糖エステルは両極親和性の特徴があり、特に生物学的に分解しやすく、表面特性が優れているので、これまで主として食品工業、化粧品製造業、製薬業で使われてきた。そこで本発明は初めてこのような糖エステルを作動油の基油として提供するのである。本発明によれば特にポリエステル又は糖エステルが完全に再生可能な原料、特に在来の原料例えば植物油脂をベースとして合成される。即ち本発明に基づき作動液として使用されるポリエステルの合成用の成分は全て、炭水化物成分もカルボン酸成分も再生可能な原料特に植物性原料、例えば植物油脂から得られる。かかる構成を有するポリエステルは環境、例えば土壌又は地表水又は地下水に到達した時に、それが天然成分であるため自然の系、例えば微生物、により迅速に分解される。
【0017】
本発明の発明者の研究が明らかにしたところでは、本発明に使用されるポリエステルは優れた作動液の性質、例えばこの応用分野に極めて好適な粘度挙動、荷重負担能力、摩耗挙動、極めて良好な空気分離能、極めて良好な耐酸化老化性を有する。
【0018】
本発明に関連して「作動油としての使用」、「作動流体としての使用」又は「作動液としての使用」の概念は、本来液状であるか、又は液状媒質に溶解した後液状である物質又は物質混合物が、流体静力学的又は流体動力学的(流体力学的)系でエネルギー伝達のためにこの物質を使用することを可能にする性質を有することを意味する。本発明において「作動液としての使用」は特に作動油のための基油としての使用を意味し、別の慣用の作動油用添加剤、例えばフェノール系及び/又はアミン系酸化防止剤、リン/硫黄系極圧/摩耗防止添加剤、防食剤、発泡防止剤及び性能を向上するその他の添加剤の添加を排除しない。
【0019】
そこで本発明の好ましい実施形態では、少なくとも1種のポリエステル又は少なくとも1種のポリエステル誘導体又はそれらの混合物を含み、ポリエステルが炭水化物と少なくとも1種のカルボン酸、それらの誘導体又はそれらの混合物とからなる炭水化物エステル組成物であって、さらに酸化防止剤、高圧及び摩耗添加剤、防食剤、発泡防止剤及び粘度調整剤からなる群から選ばれた作動油の典型的な添加剤を含むものの、作動油のための基油としての使用を提供する。
【0020】
本発明に関連して「生物学的に迅速に分解される」とは、本発明に使用されるポリエステル組成物が環境の生物系、特に環境に存在する微生物、例えば細菌、真菌によって迅速に分解されることを意味する。その場合発生する低分子量分解産物は、すでに自然に存在しており、植物相及び動物相に対して無毒であり、従って環境に適合する物質であるか、又は分解産物が後続の生物系、特にその他の微生物により分解され、このような自然に存在する無毒の物質となるから、環境を悪化させない。本発明によれば、本発明において作動液として用いられる組成物の自然分解は、実質的に、生物例えば動物や人間にとって危険のない産物をもたらす。
【0021】
本発明に関連して「少なくとも1種のポリエステル」とは、本発明に基づき作動油のための基油として使用される組成物が少なくとも1種のポリエステルを含むが、複数の異なるポリエステルを含むこともできることを意味する。「少なくとも1種の炭水化物」とは、組成物に含まれる種々のポリエステルが少なくとも1種の炭水化物基を含み、この炭水化物が1種のカルボン酸により、また異なるカルボン酸によりエステル化されていてよいことを意味する。但し本発明に使用されるポリエステルは、ただ1種類のカルボン酸又はカルボン酸誘導体もしくは種々のカルボン酸及び/又はカルボン酸誘導体でエステル化されていてよい複数の異なる炭水化物成分を含むこともできる。「少なくとも1種のカルボン酸又はそれらの少なくとも1種の誘導体」とは、組成物に含まれる炭水化物基が少なくとも1種のカルボン酸基又はカルボン酸の少なくとも1種の誘導体によりエステル化されていてよく、異なるカルボン酸もしくは異なるカルボン酸誘導体又はそれらの混合物によりエステル化されていてもよいことを意味する。
【0022】
本発明によれば、特に本発明に使用されるポリエステル組成物を再生可能な原料、特に在来の植物性原料から直接単離し、又は天然産物から少数の工業的段階で安価に製造することができる。本発明の好ましい実施形態では、炭水化物は単糖、二糖、三糖、それから誘導された糖アルコール、デンプン加水分解物、フルクトオリゴ糖、それらの水素化産物、それらの混合物又は炭水化物の脱水中間段階、例えばソルビトール、ジアンヒドロソルビトール等である。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では炭水化物はキシロース、アラビノース、リボース、マルトース、ラクトース、スクロース、ラフィノース、グルコース、マンノース、ガラクトース、ソルボース、フルクトース、イソマルツロース、トレハルロース、ラクチトール、マルチトール、水素化マルトトリオース、ソルビタン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、エリトリトール、アラビトール、6−0−α−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール(1,6−GPS)、1−0−α−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール(1,1−GPS)、1−0−α−D−グルコピラノシル−D−マンニトール(1,1−GPM)、イソマルト又はそれらの混合物である。本発明の特に好ましい実施形態では、本発明に使用されるポリエステルの製造のための出発物質として使用され得る糖アルコールはソルビトールである。
【0024】
本発明の別の好ましい実施形態ではポリエステルが、酸成分として、再生可能な原料、特に在来の植物性原料例えば植物油脂から直接単離し、又は数段階の工業的段階により天然産物から安価に製造することができる、枝分かれしていない及び/又は枝分かれした飽和又は不飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、それらの誘導体又はそれらの異性体を含んでおり、そのために生物学的分解性が特に優れている。
【0025】
酸成分の鎖の長さはポリエステルの性質、例えば粘度温度挙動、粘度圧力挙動及び材料相容性に顕著な影響を及ぼす。そこで本発明によれば、本発明に使用される組成物の炭水化物成分は、特にモノカルボン酸、好ましくはC−C24−モノカルボン酸、より好ましくはC−C18−モノカルボン酸によりエステル化されていてよい。
【0026】
そこで本発明の特に好ましい実施形態は、炭水化物が酢酸、酪酸、イソブタン酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、エナンチン酸(Enantin−saure)、カプリル酸、2−エチルカプロン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リジヌス酸(Rhizinus−saure)、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸及びエルカ酸又はこれらの酸の混合物によりエステル化された組成物の使用に関する。
【0027】
また本発明によれば、本発明に基づき作動油として使用するためのポリエステルは酸成分としてカルボン酸の誘導体、例えば無水物、混合無水物、アルキルエステル又はカルボン酸塩化物を含んでいてもよい。無水物は酸、例えばカルボン酸の例えば脱水によって得られる生成物である。2種の異なる酸の脱水で混合無水物が得られる。アルキルエステルはカルボン酸とアルコールの酸触媒反応によって調製することができる。
【0028】
そこで本発明の別の好ましい実施形態は、開鎖及び環式D−ソルビトール及びD−マンニトール誘導体をカルボン酸誘導体、例えば無水物、混合無水物、アルキルエステル、特にカルボン酸塩化物でエステル化した組成物に関する。
【0029】
別の好ましい実施形態では糖アルコール誘導体をカルボン酸異性体、例えば骨格内又は幾何位置におけるシス/トランス異性体でエステル化することもできる。異性体とは、一実験式は同じだが構造式が異なる化合物である。シス/トランス異性体は、三次元空間において原子配列、特に置換基配列が異なることを特徴とする立体異性体である。従って立体異性体は立体配置及び/又は立体配座が相違する。そこで本発明の特に好ましい実施形態は、炭水化物がモノカルボン酸の誘導体又は異性体によってエステル化された組成物の使用に関する。
【0030】
本発明の好ましい実施形態では、作動液として使用するための炭水化物エステルは炭水化物のすべての遊離水酸基の少なくとも75%がエステル化されているようなエステル化度を有していてよい。本発明の特に好ましい実施形態では、炭水化物のすべての遊離水酸基が少なくとも1種のカルボン酸、少なくとも1種のカルボン酸誘導体又はそれらの混合物でエステル化されていてよい。
【0031】
本発明の別の実施形態は、炭水化物又は複数の異なる炭水化物を含む混合物を溶媒中で又は無溶媒下で触媒の存在下でエステル化又はエステル交換することによりポリエステルが調製された、作動油としての炭水化物エステルの使用に関する。このように作動油又は作動液として使用するための製品は、炭水化物(ポリオール)混合物を、公知の有機溶媒、例えばトルエン、DMSO、ピリジン、DMF等で又は無溶媒下で、適当な触媒を加えて適当な試薬と共にエステル化又はエステル交換することによって調製することができる。
【0032】
本発明によれば、特に本発明に基づき作動液として使用される製品は特にSn、Ti又はZn/Cuの例えば塩、酸化物、アルキル等である遷移金属化合物、例えばHCl、HSO又はHPOである無機酸、例えばp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸又はスルホコハク酸である有機酸、酸性イオン交換体、例えばナトリウム又はカリウムの水酸化物、炭酸塩、メトキシド、エトキシドであるアルカリ金属塩、ゼオライト又はそれらの混合物を使用して調製され得る。
【0033】
本発明において触媒としてp−トルエンスルホン酸又はシュウ酸スズ触媒を使用することが特に好ましい。
【0034】
本発明によれば、作動液として使用するための炭水化物エステルは1種もしくは複数種の溶媒中で又は無溶媒下でエステル交換又はエステル化によって調製される。本発明に基づき特に好ましいのは有機溶媒、例えばトルエン、DMSO、ピリジン又はDMFである。
【0035】
本発明によれば、作動液として使用するための炭水化物エステルは120℃〜280℃の温度でエステル交換又はエステル化して調製される。特に好ましいのは、160℃〜250℃のエステル化又はエステル交換温度で調製される炭水化物エステルの使用である。
【0036】
エステル化又はエステル交換する時の炭水化物及び酸出発成分の比、特に水酸基とカルボキシル基の比は得られる炭水化物エステルのエステル化度に決定的な影響を及ぼす。反応に用いる酸成分の量と炭水化物成分の使用量の割合は、出発材料として使用される炭水化物が含む水酸基の量に依存する。本発明によれば、水酸基とカルボキシル基の比は特に1:1〜1:10であってよい。そこで本発明の特に好ましい実施態様は、調製時に出発成分の水酸基とカルボキシル基の比が1:1〜1:10である炭水化物エステルの使用に関する。特に好ましいのは、炭水化物及び酸出発成分の水酸基とカルボキシル基の当初比が1:1.5〜1:7である炭水化物エステルの使用である。
【0037】
またエステル化又はエステル交換のために使用される反応時間もまた、得られる製品のエステル化度に対して決定的な影響を及ぼす。本発明によればカルボン酸による炭水化物のエステル化又はエステル交換の時間は2〜36時間、特に好ましくは4〜26時間、最も好ましくは8〜10時間である。そこで本発明の好ましい実施態様は、カルボン酸又はカルボン酸誘導体でエステル化又はエステル交換して調製するのに2〜36時間、特に好ましくは4〜26時間、最も好ましくは8〜10時間かかる炭水化物エステルの使用に関する。
【0038】
本発明に基づき使用されるポリエステルの調製のために炭水化物のエステル化又はエステル交換を行う時の本発明に基づく好ましい反応条件としては特に下記のパラメータが挙げられる。即ち攪拌式反応器の使用(但し、本発明に基づくエステル化は攪拌式連結タンクを用いて2〜5段階で行われてもよい);精留又は共沸精留による反応時の脱水;有機溶媒例えばトルエン、DMFもしくはエーテル中で、又は無溶媒下での反応の実施;2〜36時間、とりわけ8〜26時間の反応時間;総量に対して触媒量が0.05−10重量%とりわけ0.1−5重量%となる触媒の存在での反応の実施、である。炭水化物及び酸出発物質はモノマー単位を基準として好ましくは1:1〜1:10の割合、より好ましくは1:1.5〜1:7の割合である。反応は好ましくは300〜10mbarの減圧下で行われる。
【0039】
本発明に基づき作動液又は作動油として使用するための炭水化物エステルは、特にこの応用分野が予定されるような優秀な物理的化学的性質を有する。本発明に基づき使用される炭水化物エステルは例えば40℃で約20〜120mm/sの動粘度を有する。また研究が明らかにしたところでは、この炭水化物エステルは−25℃で数日の後になお流動性を有するから、長時間低温安定性が優れている。卓越した耐酸化老化性がタービン油安定性試験で証明される。
【0040】
そこで本発明の好ましい実施形態は20〜120mm/sの動粘度を有する炭水化物エステル組成物の作動液としての使用に関する。本発明の別の実施形態は−25℃の温度で3日後もなお流動性を有するような長時間低温安定性を示す炭水化物エステルの作動液としての使用に関する。さらに本発明の別の好ましい実施形態は、−25℃未満の流動点を有することを特徴とする炭水化物エステル組成物の、作動油のための基油としての使用に関する。本発明によればFZG A/8.3/90試験法で少なくとも荷重段階10の荷重負担能力を有する炭水化物エステル組成物を作動液として使用する。また本発明によれば、水を加えないタービン油安定性試験で2mgKOH/gの酸価に達するまでに1800時間以上を要する炭水化物エステル組成物を作動液として使用する。
【0041】
本発明を下記の実施例により詳述する。
【実施例】
【0042】
実施例1
無水カプリル酸でD−ソルビトール及びD−マンニトールをエステル化する糖エステルの調製(不連続法)
【0043】
攪拌式反応器でD−ソルビトールとD−マンニトールの1:1混合物250gを0.8gのp−トルエンスルホン酸の存在下で155℃で1.25時間脱水した。1.86kgの無水カプリル酸及び6gのシュウ酸スズを加えた後、混合物を195℃で10時間攪拌した。その際水が蒸留により除去された。反応を終了し、触媒を除去した後、過剰の酸を真空中で除去した。生成物として透明な明黄色の油を得た。
【0044】
実施例2
無水カプリル酸で完全にエステル化した生成物の作動液としての使用
【0045】
実施例1でD−ソルビトールとD−マンニトールの無水カプリル酸(n−C)によるエステル化反応から得た産物を作動油のための基油として試験した。その場合実施例1で得た生成物に作動油の代表的な添加剤、例えばフェノール系及びアミン系酸化防止剤、リン/硫黄系極圧/摩耗防止添加剤、防食剤及び発泡防止剤を添加した。続いて作動液としての適性に関してこの混合物の性質を調べた。そして次の結果が得られた。
【0046】
40℃での動粘度:36mm/s
流動点:−30℃。測定はDIN ISO3016に従って行った。この値は良と判定される。
長時間低温安定性:−25℃で3日の後に依然として流動性がある。この値は良と判定される。
50℃での空気分離能:3分。測定はDIN51381によって行った。この値は良と判定される。
抗乳化性:50℃で25分。測定はDIN51599によって行った。この値は良と判定される。
荷重負担能力/摩耗挙動:FZG A/8.3/90試験法で荷重段階11でなおダメージを受けない。DIN51350による4球形装置で摩耗痕直径が0.31mmであった。この値は優と判定される。
耐老化性:水を加えないタービン油安定性試験で2mgKOH/gの酸価に達するまでに1900時間。
【0047】
比較例1
完全にエステル化したグリセリンの作動液としての適性の試験
【0048】
基油として、カプリル酸とカプリン酸の混合物で完全にエステル化したグリセリンを使用した。その際得た生成物にフェノール系及びアミン系酸化防止剤、リン/硫黄系極圧/摩耗防止添加剤、防食剤及び発泡防止剤を添加した。添加剤は実施例2の添加剤と同じであった。その場合この基油について下記の性質が確認された。
【0049】
40℃での動粘度:15mm/s。多くの用途にとってこの値は低すぎる。
流動点:−10℃。測定はDIN ISO3016によって行われる。この値は多くの用途、特に比較的寒冷な気候で十分には低くない。
長時間低温安定性:−25℃で3日の後にもはや流動性がない。この値は寒冷な気候での適用にとって容認できない。
50℃での空気分離能:6分。測定はDIN51381によって行なった。この値は可と判定される。
抗乳化性:50℃で20分。測定はDIN51599によって行なった。この値は良と判定される。
荷重負担能力/摩耗挙動:FZG A/8.3/90試験法で荷重段階10でなおダメージを受けない。DIN51350による4球形試験機で摩耗痕直径0.35mm。この値は可と判定される。
耐老化性:水を加えないタービン油安定性試験で2mgKOH/gの酸価に達するまでに1200時間。この値は可と判定される。
【0050】
比較例2
ヒマワリ油脂肪酸でエステル化したグリセリンの作動液としての適性に関する試験
【0051】
基油としてヒマワリ油脂肪酸(高いオレイン品質、オレイン酸分80%)でエステル化したグリセリンを使用した。グリセリンエステルにフェノール系及びアミン系酸化防止剤、リン/硫黄系極圧/摩耗防止添加剤、防食剤及び発泡防止剤を添加した。その場合添加剤は実施例2で使用したものと同じであった。こうして得た基油について下記の性質が確認された。
【0052】
40℃での動粘度:38mm/s
流動点:−10℃。測定はDIN ISO3016によって行った。この値は多くの用途、特に比較的寒冷な気候で十分には低くない。
長時間低温安定性:−25℃で3日の後にもはや流動性がない。この値は寒冷な気候での適用にとって容認できない。
50℃での空気分離能:4分。測定はDIN51381によって行った。この値は可と判定される。
抗乳化性:50℃で22分。測定はDIN51599によって行った。この値は良と判定される。
荷重負担能力/摩耗挙動:FZG A/8.3/90試験法で最高の荷重段階でなおダメージを受けない。DIN51350による4球形試験機で摩耗痕直径0.31mm。2つの値は優と判定される。
耐老化性:水を加えないタービン油安定性試験で2mgKOH/gの酸価に達するまでに450時間。この値は不良と判定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のポリエステル又は少なくとも1種のポリエステル誘導体又はポリエステル混合物を含み、ポリエステルが少なくとも1種のカルボン酸、少なくとも1種のカルボン酸誘導体又はそれらの混合物によってエステル化された、ラクチトール、マルチトール、キシリトール、イソマルト、6−0−α−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール(1,6−GPS)、1−0−α−D−グルコピラノシル−D−マンニトール(1,1−GPM)、1−0−α−D−グルコピラノシル−D−ソルビトール(1,1−GPS)およびそれらの混合物からなる群から選択される炭水化物からなる、生物学的に迅速に分解可能な組成物の、作動油のための基油としての使用。
【請求項2】
カルボン酸が枝分かれしていない又は枝分かれした飽和又は不飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、それらの誘導体又はそれらの異性体である請求項1に記載の使用。
【請求項3】
モノカルボン酸がC−C24−モノカルボン酸である請求項2に記載の使用。
【請求項4】
モノカルボン酸がC−C18−モノカルボン酸である請求項2又は3に記載の使用。
【請求項5】
モノカルボン酸が酢酸、酪酸、イソブタン酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、エナンチン酸、カプリル酸、2−エチルカプロン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リジヌス酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸又はエルカ酸又はそれらの混合物である請求項2〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
カルボン酸の誘導体が無水物、混合無水物、アルキルエステル又はカルボン酸塩化物である請求項2に記載の使用。
【請求項7】
カルボン酸の異性体が骨格内又は幾何位置におけるシス/トランス異性体である請求項2に記載の使用。
【請求項8】
炭水化物のすべての遊離水酸基の少なくとも75%がエステル化されている請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
炭水化物のすべての遊離水酸基がエステル化されている請求項8に記載の使用。
【請求項10】
炭水化物又は複数の炭水化物を含む混合物を、飽和又は不飽和カルボン酸、それらの誘導体又はそれらの混合物により触媒の存在でエステル化又はエステル交換することによりポリエステルが調製される請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【請求項11】
触媒が遷移金属化合物、無機酸、有機酸、酸性イオン交換体、アルカリ金属塩、ゼオライト又はそれらの混合物である請求項10に記載の使用。
【請求項12】
遷移金属化合物がSn、Ti又はZn/Cuの塩、酸化物又はアルキルである請求項11に記載の使用。
【請求項13】
無機酸がHCl、HSO又はHPOである請求項11に記載の使用。
【請求項14】
有機酸がp−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸又はスルホコハク酸である請求項11に記載の使用。
【請求項15】
アルカリ金属塩がナトリウム又はカリウムの水酸化物、炭酸塩、メトキシド又はエトキシドである請求項11に記載の使用。
【請求項16】
触媒がp−トルエンスルホン酸又はシュウ酸スズ触媒である請求項11〜15のいずれか1項に記載の使用。
【請求項17】
エステル化又はエステル交換が1種もしくは複数種の溶媒中で、又は無溶媒下で行われる請求項10〜16のいずれか1項に記載の使用。
【請求項18】
溶媒が有機溶媒、例えばトルエン、DMSO、ピリジン又はDMFである請求項17に記載の使用。
【請求項19】
エステル化又はエステル交換のための温度が120℃〜280℃である請求項10〜18のいずれか1項に記載の使用。
【請求項20】
エステル化又はエステル交換のための温度が160℃〜250℃である請求項19に記載の使用。
【請求項21】
反応時の水酸基とカルボキシル基の比が1:1〜1:10である請求項10〜20のいずれか1項に記載の使用。
【請求項22】
反応時の水酸基とカルボキシル基の比が1:1.5〜1:7である請求項21に記載の使用。
【請求項23】
エステル化又はエステル交換のための反応時間が2〜36時間である請求項10〜22のいずれか1項に記載の使用。
【請求項24】
エステル化又はエステル交換のための反応時間が4〜26時間である請求項23に記載の使用。
【請求項25】
エステル化又はエステル交換のための反応時間が8〜10時間である請求項24に記載の使用。
【請求項26】
ポリエステル組成物が40℃で20〜120mm/sの動粘度を有する請求項1〜25のいずれか1項に記載の使用。
【請求項27】
ポリエステル組成物が−25℃で3日後になお流動性を示す長時間低温安定性を有する請求項1〜26のいずれか1項に記載の使用。
【請求項28】
ポリエステル組成物の流動点が−25℃未満である請求項1〜27のいずれか1項に記載の使用。
【請求項29】
ポリエステル組成物が、FZG A/8.3/90試験法で測定すると少なくとも荷重段階10の荷重負担能力を有する請求項1〜28のいずれか1項に記載の使用。
【請求項30】
ポリエステル組成物が水を加えないタービン油安定性試験で2mg KOH/gの酸価に達するまでに1800時間以上が必要である耐老化性を有する請求項1〜29のいずれか1項に記載の使用。

【公開番号】特開2007−254753(P2007−254753A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120039(P2007−120039)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【分割の表示】特願2003−519202(P2003−519202)の分割
【原出願日】平成14年7月22日(2002.7.22)
【出願人】(500175772)ズートツッカー アクチェンゲゼルシャフト マンハイム/オクセンフルト (47)
【出願人】(301002646)フツクス ペトロループ アクチエンゲゼルシヤフト (1)
【氏名又は名称原語表記】Fuchs Petrolub AG
【住所又は居所原語表記】Friesenheimer Strasse 17,68169 Mannheim,Germany
【Fターム(参考)】