説明

作業機械のキャブ

【課題】要求された強度を確保しながら支柱の断面形状を比較的自由に変更することができる作業機械のフレームを提供すること。
【解決手段】後部支柱23は、当該支柱23の長手方向に沿って延びる複数の板部材33〜36を組み合わせることにより閉断面が形成されたものであり、この閉断面において互いに隣り合う板部材のうち、板部材33、34の端面33b、33c、34b、34cを板部材35、36の内側面35a、36aに突き当てた状態で、その突き当てられた部分が各板部材33〜36の全長にわたり隅肉溶接S1〜S4が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機械のキャブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、前記キャブは、運転席を取り囲んで保護するようになっている。具体的に、キャブは、運転席の周囲に立設された複数の支柱を備えている。
【0003】
前記支柱には、プレス加工された複数の板を組み合わせることにより閉断面が形成されたものがある。この種の支柱は、各板に長手方向に沿って形成された溶接しろ同士を面接触させた上で、これら溶接しろが長手方向に断続的にスポット溶接されている。
【0004】
しかし、前記支柱では、当該支柱を構成する各板の厚み寸法を、プレス加工が可能となる厚み寸法を超えて設定することができないので、支柱の強度に限界がある。さらに、前記支柱では、各板を長手方向に断続的に接合しているので、板同士の接合強度も弱かった。
【0005】
そこで、支柱の一部にパイプ材を採用する技術(例えば、特許文献1及び特許文献2)が知られている。このようなパイプ材を使用すれば、プレス加工された板を組み合わせる場合と異なり単一の部材(パイプ材)によって支柱が形成されているので接合強度の不安も緩和される。
【特許文献1】特開2004−42739号公報
【特許文献2】特開2004−42740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1、2の技術のようにパイプ材を採用する場合には、その製造工程上、断面形状や断面積の調整が難しかった。
【0007】
特に、作業機械のフレームの支柱は、その立設場所等に応じて要求された強度及び形状を満たすように断面形状を設定することが望まれるが、そのような条件を満たす断面のパイプ材を機種ごとに用意するのは、コスト面及び設備面から考えて事実上困難だった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、要求された強度を確保しながら支柱の断面形状を比較的自由に変更することができる作業機械のフレームを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、作業機械の運転席の周囲に立設される複数の支柱を有し、前記運転席を取り囲んで保護するキャブであって、前記各支柱のうち少なくとも一本の支柱は、当該支柱の長手方向に沿って延びる複数の板部材を組み合わせることにより閉断面が形成された組合せ支柱であり、この閉断面において互いに隣り合う板部材のうちの一方の幅方向の端面を他方の内側面に突き当てた状態で、その突き当てられた部分が両板部材の略全長にわたり隅肉溶接されていることを特徴とする作業機械のキャブを提供する。
【0010】
本発明によれば、特定の支柱を、複数の板部材で形成するとともに互いに隣り合う板部材のうちの一方の幅方向の端面を他方の内側面に突き当てた状態で溶接した構造とすることにより、この組合せ支柱について要求された強度を確保しながら断面形状を比較的自由に変更することができる。
【0011】
すなわち、本発明では、組合せ支柱を構成する複数の板部材のうちの一方の端面が隣り合う他方の内側面に溶接されているので、各板部材の選定や、板部材同士の接合箇所の変更等によって断面形状等を比較的自由に変更することができる。例えば、各板部材に同じものを使用した場合であっても、これら板部材の溶接箇所を変更することにより断面形状の異なる支柱を形成するといったこともできる。
【0012】
さらに、本発明では、組合せ支柱が複数の板部材により形成されているので、この支柱にパイプ材を採用する場合と異なり、各板部材の断面形状(肉厚や外形)を比較的自由に変更することができ、この断面形状次第で様々な断面形状等の支柱を形成することができる。
【0013】
しかも、プレス加工された板によって形成される従来の支柱では、板の溶接しろ同士が面接触した状態で長手方向に断続的にスポット溶接されているのに対し、本発明では、閉断面において互いに隣り合う一方の板部材の端面を他方の板部材の内側面に突き当てた状態でこれら板部材を全長にわたり隅肉溶接しているので、板部材同士の接合強度を充分に確保することができる。
【0014】
本発明では、組合せ支柱の立設位置を特に問わないが、この組合せ支柱として、前記運転席の後部に立設される支柱が含まれていることが特に好ましい。
【0015】
この構成によれば、作業機械に配置される多数の構成部材によりスペースが制限された運転席の後部に対しても、このスペースに対応して断面形状を調整した上で、支柱を立設することができる。
【0016】
特に、運転席の後部に配置される支柱には高い強度が要求されているので、この強度と前述したスペースの制限による形状との双方の要求に対し、各板部材の選定や板部材同士の接合箇所の変更等によって柔軟に対応することができる。
【0017】
そして、運転席の後部に左右一対の支柱を立設する場合には、これらの支柱の双方に組合せ支柱を採用することが特に理想的である。
【0018】
前記作業機械のキャブにおいて、前記各板部材には、内側面同士が対向配置された一対の対向板部材と、これら対向板部材の内側面の間に介在する一対の介在板部材とが含まれており、これら対向板部材と介在板部材とによって四角形の閉断面が形成されていることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、両対向板部材の間に二枚の介在板部材が介在しているので、何れかの対向板部材に対して外力が与えられた場合に、この外力を、各介在板部材を介して反対側の対向板部材へ伝達することができるので、特定方向からの外力に対する強度が特に要求されている場合に、その方向と交差するように対向板部材を配置することにより、前記要求を満たすことができる。
【0020】
この場合、前記各対向板部材は、それぞれの内側面が作業機械の前後方向に沿って対向するように配設されていることが特に好ましい。
【0021】
この構成によれば、組合せ支柱が作業機械の前後方向に曲がり変形するのを抑制することができるので、運転席をより確実に保護することができる。すなわち、キャブにおいては、作業機械の天地反転時における運転席の保護が要求されるが、上記構成のように組合せ支柱を前後に曲がり変形し難く構成すれば、作業機械の天地反転時におけるキャブの前傾又は後傾を抑制することができるので運転席をより確実に保護することができる。
【0022】
一方、前記作業機械のキャブにおいて、前記板部材には、前記閉断面において少なくとも一箇所の屈曲部を備えたものが含まれている構成とすることもできる。
【0023】
この構成によれば、支柱の側面のうちの少なくとも二面を一枚の板部材により形成することができるので、前記二面を二枚の板部材を溶接して形成する場合と異なり板部材を溶接する作業を減らすことができ、支柱製造時の作業性を向上させることができる。
【0024】
そして、前記端面が形成された板部材の少なくとも一枚がその表裏両側で相手側の板部材の内側面に隅肉溶接されている構成とすれば、表裏片側で隅肉溶接する場合よりも接合強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、要求された強度を確保しながら支柱の断面形状を比較的自由に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベルの全体構成を示す側面図である。
【0028】
図1を参照して、作業機械の一例としての油圧ショベル1は、クローラ2aを備えた下部走行体2と、この下部走行体2上に旋回自在に搭載される上部旋回体3と、この上部旋回体3の前部に起伏自在に装備されたアタッチメント4とを備えている。
【0029】
アタッチメント4は、ブーム5と、このブーム5の先端部に連結されるアーム6とから構成されており、そのアーム6の先端部にバケット7が揺動自在に取り付けられている。
【0030】
ブーム5は、ブームシリンダ8の伸縮動作によって起伏し、アーム6は、アームシリンダ9の伸縮動作によって揺動し、バケット7は、バケット用シリンダ10の伸縮動作によってアーム6に対して揺動する。
【0031】
上部旋回体3上には、図略の運転席を取り囲んで保護するキャブ11が搭載されている。なお、運転席(図示せず)に着座したオペレータの視線における前後、左右方向を用いて以下説明する。
【0032】
図2は、図1のキャブ11を拡大して示す斜視図である。図3は、図2のIII−III線断面図である。
【0033】
図1〜図3を参照して、キャブ11は、その外郭を構成するフレーム50と、このフレーム50に外装又は内装されて運転室を区画するパネル(図では、符号12a、31又は32で例示している)と、前記フレーム50の内側(運転室内)に設けられたレール37とを備えている。
【0034】
前記フレーム50は、フロントセクション12と、バックセクション14とを備え、これら両セクション12、14が前後に連結されて構成されている。
【0035】
フロントセクション12は、運転席(図示せず)の前方に立設された右前支柱15及び左前支柱16と、これら支柱15、16の下端部を左右に連結する前連結フレーム17と、前記各支柱15、16の下端部から後方へ延びる右前フレーム18及び左前フレーム19とを備えている。
【0036】
右前支柱15は、図8の(a)に示すように、それぞれプレス加工された薄板15aと、薄板15bとを備え、これら薄板15a、15b同士が接合されることにより閉断面が形成されたものである。具体的に、各薄板15a、15bは、その幅方向の両側に長手方向に沿ってそれぞれ形成された溶接しろ15A及び溶接しろ15Bが面接触した状態で長手方向に沿って断続的にスポット溶接されている。なお、左前支柱16は、前記右前支柱15と左右対称となる断面形状を有しているためここでは説明を省略する。
【0037】
また、両前支柱15、16は、図2、図3に示すように、前記上部旋回体3のベース3aから上方へ延びるとともに後方へ湾曲した形状とされ、この後端部がバックセクション14に接合されている。
【0038】
右前フレーム18及び左前フレーム19は、それぞれ前記両前支柱15、16の下端部から後方へ延びて、その後端部がバックセクション14に接合されている。
【0039】
図4は、図2のバックセクションの構成を示す斜視図である。図5は、図4のバックセクションの側面図である。図6は、図4のバックセクションの平面図である。
【0040】
図3〜図6を参照して、バックセクション14は、前記上部旋回体3のベース3a上に固定される左取付板27a及び右取付板27bと、これら取付板27a、27bの前部にそれぞれ立設された中左支柱20及び中右支柱21と、前記取付板27a、27bの後部にそれぞれ立設された後左支柱22及び後右支柱23と、これら各支柱20〜23を連結する連結フレームとを備えている。
【0041】
具体的に、この連結フレームは、中左支柱20及び後左支柱22についてその上端部同士を前後に連結する上左フレーム28a及びその下部同士を前後に連結する上下一対の下左フレーム25a、25b、中右支柱21及び後右支柱23についてその上端部同士を前後に連結する上右フレーム28b及びその下部同士を前後に連結する上下一対の下右フレーム24a、24b、後左支柱22及び後右支柱23についてその上端部同士を左右に連結する後上フレーム30並びに途中部同士を左右に連結する上下一対の後中フレーム26a、26b及び下部同士を左右に連結する後下フレーム26c、上左フレーム28aと上右フレーム28bとを左右に連結する前後三本の上フレーム29a、29b、29cを備えている。
【0042】
中右支柱21は、図8の(b)に示すように、長手方向を前後方向へ向けた断面略長方形のパイプ材である。なお、中左支柱20も同様の閉断面を有しているので、ここでは説明を省略する。また、両中支柱20、21は、その上部に前記両前支柱15、16の後端部がそれぞれ接合されている一方、その下部に左右前フレーム18、19の後端部がそれぞれ接合されている。
【0043】
後左支柱22及び後右支柱23(以下、区別を要しない場合には後部支柱22、23と総称する)は、それぞれ取付板27a、27aから上方へ延びるとともに、その上部が前方へ傾斜して、さらにその上端部が上方へ延びた側面形状とされている。
【0044】
具体的に、後部支柱22、23は、図8の(c)に示すように、当該後部支柱22、23の長手方向に沿って延びる四枚の板部材33〜36を組み合わせることにより略正方形の閉断面が形成されたものである。
【0045】
後右支柱23は、図7及び図8の(c)に示すように、当該後右支柱23の側面形状に対応する平面形状とされた右板部材(介在板部材)33及び左板部材(介在板部材)34と、これら左右板部材33、34を前後に挟み込む前板部材(対向板部材)35及び後板部材(対向板部材)36とを備えている。
【0046】
右板部材33は、その上端部が左側へ屈曲された蓋部33aとされており、この蓋部33aの周囲が左板部材34の上端面、前板部材35の内側面(後面)35a及び後板部材36の内側面(前面)36aのそれぞれに溶接されることにより、後右支柱23の上部開口を閉塞するようになっている。
【0047】
また、右板部材33は、その幅方向(前後方向)の前端面33bが前板部材35の内側面35aに突き当てられた状態で当該内側面35aに対し全長にわたり隅肉溶接S1が施されることにより前板部材35に接合されている。同様に、右板部材33は、その後端面33cが後板部材36の内側面36aに突き当てられた状態で当該内側面36aに対し全長にわたり隅肉溶接S2が施されることにより後板部材36に接合されている。
【0048】
左板部材34は、その幅寸法(前後寸法)が前記右板部材33と略同一に設定されている。
【0049】
そして、この左板部材34は、その幅方向の前端面34bが前板部材35の内側面35aに突き当てられた状態で当該内側面35aに対し全長にわたり隅肉溶接S3が施されることにより前板部材35に接合されている。同様に、左板部材34は、その後端面34cが後板部材36の内側面36aに突き当てられた状態で当該内側面36aに対し全長にわたり隅肉溶接S4が施されることにより後板部材36に接合されている。
【0050】
すなわち、前板部材35は、左右板部材33、34の前端面33b、34bの側面形状に対応して湾曲した形状とされている一方、後板部材36は、左右板部材33、34の後端面33c、34cの側面形状に対応して湾曲した形状とされている。
【0051】
なお、後左支柱22は、左板部材34に対し前述した蓋部33aが設けられている点のみ後右支柱23と異なり、その他の構成は後右支柱23と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0052】
再び、図3を参照して、レール37は、キャブ11の前部に配置される図略の前窓を左右両側でスライド自在に支持するために、キャブ11内で左右に設けられたものである(図3では一つのみ示している)。
【0053】
具体的に、レール37は、前支柱15、16の内側面(運転室側)に沿って上方に延びるとともに後方へ湾曲して中支柱20、21の内側を通り、さらに後端部が前記後部支柱22、23の手前位置まで延びている。
【0054】
このレール37によって、キャブ11の前部に配置される基本姿勢と、キャブ11の上部内側に配置される格納姿勢との間で図略の前窓をスライド移動させることができる。
【0055】
以上説明したように、前記油圧ショベル1のキャブ11によれば、図7及び図8に示すように、後部支柱22、23を、四枚の板部材33〜36で形成するとともに互いに隣り合う板部材のうちの板部材33、34の端面33b、33c、34b、34cを板部材35、36の内側面35a、36aに突き当てた状態で隅肉溶接S1〜S4を施した構造とすることにより、この支柱について要求された強度を確保しながら断面形状を比較的自由に変更することができる。
【0056】
すなわち、前記キャブ11では、後部支柱22、23を構成する四枚の板部材33〜36のうちの板部材33、34の端面33b、33c、34b、34cが隣り合う板部材35、36の内側面35a、36aに溶接されているので、各板部材33〜36の選定や、板部材同士の隅肉溶接S1〜S4の箇所の変更等によって断面形状等を比較的自由に変更することができる。例えば、前記実施形態では前後板部材35、36を同じ形状にしているが、この場合であっても、前後板部材35、36の形状を変更することなく隅肉溶接S1〜S4の箇所を変更することにより後部支柱22、23の断面形状を変更することができる。
【0057】
さらに、前記キャブ11では、後部支柱22、23が複数の板部材33〜36により形成されているので、後部支柱22、23をパイプ材で形成した場合と比較して、各板部材33〜36の断面形状を比較的自由に変更することができ、この断面形状次第で様々な断面形状等の後部支柱22、23を形成することができる。
【0058】
すなわち、パイプ材は、その断面積や断面形状等の相互関係がある程度制限されているため、このパイプ材に対しより大きな強度が要求された場合にパイプ材の断面積を大きくしようとすると、前記相互関係に基づきパイプ材の断面形状も一律に大きくせざるを得ず、このように必要以上に大きな断面積のパイプ材を採用する場合には、前記レール37のような周囲の構成部品との干渉を避けることができない。ここで、パイプ材の断面形状を、前記構成部品との干渉を避けることができる形状、すなわち異型断面とした上で断面積を拡大することも考えられるが、異型断面という特別仕様のパイプ材自体が高価となりコストの増加を招くだけでなく、異型断面とするためにはパイプ材の厚みが所定の薄さに制限されるため、パイプ材の増強という本来の目的を達成することが困難となる。
【0059】
このように、パイプ材では断面積や断面形状についての設計の自由度が制限されてしまう。
【0060】
これに対し、前記キャブ11では、各板部材33〜36の断面形状(肉厚や外形)や隅肉溶接S1〜S4による接合箇所を比較的自由に変更することができ、これにより後部支柱22、23の断面形状や強度の調整ができるので、上述したようなパイプ材を採用した場合における制限を回避することができる。
【0061】
しかも、プレス加工された板によって形成される支柱(例えば、図8の(a)に示す前支柱15、16)では、板の溶接しろ(図8では溶接しろ15A、15B)同士が面接触した状態で長手方向に断続的にスポット溶接されているのに対し、前記キャブ11の後部支柱22、23では、閉断面において互いに隣り合う板部材33、34の端面を板部材35、36の内側面35a、36aに突き当てた状態でこれら板部材33〜36に対し全長にわたり隅肉溶接S1〜S4を施しているので、板部材33〜36同士の接合強度を充分に確保することができる。
【0062】
これに加えて、図8の(a)に示す薄板15a、15bのように複雑な形状にプレス加工するためには、当該薄板15a、15bの厚み寸法をかなり薄く設定しなければならないのに対し、図7及び図8の(c)に示すように短冊状の板部材33〜36により後部支柱22、23を形成した場合には、厚み寸法を大きく確保することができるので、厚み寸法の点においてもプレス加工された薄板15a、15b同士を接合する場合よりも高い接合強度を確保することができる。
【0063】
そして、このように各板部材33〜36が大きな厚みとされた上で、その板部材33、34の端面33b、33c、34b、34cが板部材35、36の内側面35a、36aに突き当てられた状態で溶接されているので、この突き当てによっても、後部支柱22、23の断面係数を大きなものとすることができる。
【0064】
なお、前記実施形態では、左右の後部支柱22、23のそれぞれが各板部材33〜36により形成された例について示しているが、一方の後部支柱のみが各板部材33〜36により形成されていてもよい。
【0065】
また、左右の後部支柱22、23に代えて、又は加えて、右前支柱15、左前支柱16、中左支柱20又は中右支柱21の何れか、又はこれらのすべてが各板部材33〜36によって形成されていてもよい。
【0066】
すなわち、後部支柱22、23、前支柱15、16及び中支柱20、21のうち、少なくとも一本の支柱が各板部材33〜36により形成されていればよく、この場合において、各板部材33〜36により形成された支柱(組合せ支柱)以外の支柱の具体的な態様は問わず、その求められる条件に応じて適宜設定することができる。
【0067】
そして、後部支柱22、23を各板部材33〜36により形成しない場合には、当該後部支柱22、23を図8の(b)に示すようなパイプ材により形成することもできる。
【0068】
さらに、上左フレーム28a、上右フレーム28b、下左フレーム25a、25b、下右フレーム24a、24b、後上フレーム30、後中フレーム26a、26b、後下フレーム26c、又は上フレーム29a、29b、29cが各板部材33〜36によって形成されていてもよい。
【0069】
そして、前記実施形態では、前後板部材35、36の内側面35a、36aの間に左右板部材33、34が掛け渡されているので、前後板部材35、36の何れかに対して外力が与えられた場合に、この外力を、各左右板部材33、34を介して反対側の板部材35又は36へ伝達することができるので、前後方向からの外力に対し後部支柱22、23の強度を向上することができる。
【0070】
なお、前記実施形態では、図3に示すように、レール37の後端部と後部支柱22、23とが互いに干渉しない構成について説明しているが、キャブ11の小型化の要請等により後部支柱22、23の立設位置や形状等が制限される結果、当該後部支柱22、23がレール37を一例とする他の構成部材に干渉してしまう場合がある。
【0071】
例えば、図9に示すように、後部支柱22、23をより前傾した姿勢で立設する必要が生じると、当該後部支柱22、23がレール37と前後に干渉してしまうことになる。このような場合であっても、後部支柱22、23に窪み部39を形成することにより当該後部支柱22、23とレール37との干渉を回避することができる。
【0072】
すなわち、図7に示すように、レール37の側面形状に対応して前板部材35に湾曲凹部39aを形成するとともに、この湾曲凹部39aに対応して、左右板部材33、34に切欠き部39b、39cをそれぞれ形成することにより、後部支柱22、23にその長手方向の一部を窪ませた窪み部39を形成することができるので、この窪み部39によってレール37との干渉を回避することができる。
【0073】
また、後部支柱22、23は、それぞれ板部材33〜36を組み合わせて形成されているので、その組合せ前の段階において、各板部材33〜36の組合せ後に内側となる面に前もって様々な加工を施すことができる。
【0074】
例えば、図10に示すように、各板部材33〜36のうち隣り合う二枚の板部材(図10では板部材33と板部材35)に掛け渡すようにL字アングル40を設けることができる。このようにすれば、板部材33〜36同士を接合する隅肉溶接S1〜S4に加えてL字アングル40によっても隣り合う板部材33、35同士の接合を補強することができる。なお、L字アングル40は、各板部材33〜36の全長にわたり設けてもよいが、長手方向の一部に設けてもよい。さらに、図10では、L字アングル40を例に挙げているが、コの字型の補強部材を設けることにより隣り合う三枚の板部材の接合を補強することもできる。
【0075】
また、各板部材33〜36の組合せに先立って、組み立て後に各板部材33〜36の内側となる面(図10では後板部材36の内側面36a)に対しナット42を取り付ける(溶接する)ようにすれば、後板部材36の貫通孔41を通して後部支柱22、23の外側からボルトを螺合することができる。
【0076】
さらに、各板部材33〜36を組み合わせて閉断面が形成される前の段階において、特定の板部材(図10では左板部材34)の内側面についても隅肉溶接S5を行うようにすれば、当該特定の板部材についての接合強度をさらに向上することができる。
【0077】
また、前記実施形態では、断面直線状の板部材33〜36を例に挙げて説明しているが、図11の(a)に示すように、断面L字型の屈曲板部材43を採用することもできる。
【0078】
すなわち、この屈曲板部材43は、断面形状において前記右板部材33及び後板部材36に対応する構成を屈曲部43aを介して一体に有した形状とされている。なお、屈曲板部材43の形状を限定する趣旨ではないが、図示するように右側及び後方の板部材を一体に形成するのは、特に、側方及び後方からの外力に対する強度が後部支柱22、23に要求されるためである。
【0079】
そして、屈曲板部材43は、その前端面43bが前板部材35の内側面35aに突き当てられた状態で当該内側面35aに対し全長にわたり隅肉溶接S6が施されることにより前板部材35に接合されている。一方、屈曲板部材43は、前方へ向けた内側面43cに対し前記左板部材34の後端面34cが突き当てられた状態で前記隅肉溶接S4が施されることによって当該左板部材34に全長にわたり接合されている。
【0080】
このようにすれば、後部支柱22、23の側面のうちの二面を一枚の屈曲板部材43により形成することができるので、前記二面を二枚の板部材(後板部材36及び右板部材33)を隅肉溶接S2によって接合する場合と異なり板部材を溶接する作業を減らすことができ、後部支柱22、23製造時の作業性を向上させることができる。
【0081】
さらに、前記屈曲部43aは一箇所に限定されることはなく、図11の(b)に示すように、屈曲部を二箇所に形成した断面コの字型の屈曲板部材45を採用することもできる。
【0082】
すなわち、この屈曲板部材45は、断面形状において前記右板部材33、前板部材35及び、後板部材36に対応する構成を前後一対の屈曲部45a及び屈曲部45bを介して一体に有した形状とされている。
【0083】
そして、屈曲板部材45は、その互いに前後に対向する内側面45c及び内側面45dに対し、前記左板部材34の前後両端面34b、34cがそれぞれ突き当てられた状態で前記隅肉溶接S3、S4が施されることによって当該左板部材34に全長にわたり接合されている。
【0084】
この構成においては、後部支柱22、23の側面のうちの三面を一枚の屈曲板部材45により形成することができるので、前記三面を三枚の板部材(前後板部材35、36及び右板部材33)に隅肉溶接S1、S2を施す場合と異なり板部材を溶接する作業を減らすことができる。
【0085】
一方、図11の(a)に示す屈曲板部材43にもう一枚のL字型の屈曲板部材46(図12参照)を組み合わせた場合でも、後部支柱22、23を形成することができる。
【0086】
すなわち、この屈曲板部材46は、断面形状において前記前板部材35及び左板部材34に対応する構成を屈曲部46aを介して一体に有した形状とされている。
【0087】
そして、屈曲板部材46は、その後端面46bが屈曲板部材43の内側面43cに突き当てられた状態で当該内側面43cに対し全長にわたり隅肉溶接S7が施されることにより屈曲板部材43に接合されている。一方、屈曲板部材43は、その前端面43bが屈曲板部材46の内側面46cに突き当てられた状態で当該内側面46cに対し全長にわたり隅肉溶接S8が施されることにより屈曲板部材46に接合されている。
【0088】
このようにすれば、隅肉溶接S7、S8の溶接箇所を変更することにより、図12の(b)に示すように、後部支柱22、23の断面形状を変更することができるので、共通の屈曲板部材43、46を使用しながら、後部支柱22、23の強度や断面形状を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの全体構成を示す側面図である。
【図2】図1のキャブを拡大して示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2のバックセクションの構成を示す斜視図である。
【図5】図4のバックセクションの側面図である。
【図6】図4のバックセクションの平面図である。
【図7】図4の右後部支柱を分解して示す斜視図である。
【図8】(a)は図3のVIIIa−VIIIa線断面図であり、(b)は図3のVIIIb−VIIIb線断面図であり、(c)は図3のVIIIc−VIIIc線断面図である。
【図9】別の実施形態に係るキャブを示す図3相当図である。
【図10】別の実施形態に係る後部支柱を示す図8(c)相当図である。
【図11】さらに別の実施形態に係る後部支柱を示す図8(c)相当図であり、(a)はL字型の屈曲板部材、(b)はコの字型の屈曲板部材をそれぞれ示している。
【図12】図11(a)の屈曲板部材とさらに別の実施形態に係る屈曲板部材とを組み合わせた後部支柱を示す図8(c)相当図であり、(a)は断面形状を大きくした状態、(b)は断面形状を小さくした状態をそれぞれ示している。
【符号の説明】
【0090】
1 油圧ショベル(作業機械)
22、23 後部支柱(支柱)
33〜36 板部材
33b、33c、34b、34c、43b、46b 端面
35a、36a 内側面
43、45、46 屈曲板部材
43a、45a、45b、46b 屈曲部
S1〜S8 隅肉溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械の運転席の周囲に立設される複数の支柱を有し、前記運転席を取り囲んで保護するキャブであって、
前記各支柱のうち少なくとも一本の支柱は、当該支柱の長手方向に沿って延びる複数の板部材を組み合わせることにより閉断面が形成された組合せ支柱であり、この閉断面において互いに隣り合う板部材のうちの一方の幅方向の端面を他方の内側面に突き当てた状態で、その突き当てられた部分が両板部材の略全長にわたり隅肉溶接されていることを特徴とする作業機械のキャブ。
【請求項2】
前記組合せ支柱には、前記運転席の後部に立設される支柱が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の作業機械のキャブ。
【請求項3】
前記各板部材には、内側面同士が対向配置された一対の対向板部材と、これら対向板部材の内側面の間に介在する一対の介在板部材とが含まれており、これら対向板部材と介在板部材とによって四角形の閉断面が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の作業機械のキャブ。
【請求項4】
前記各対向板部材は、それぞれの内側面が作業機械の前後方向に沿って対向するように配設されていることを特徴とする請求項3に記載の作業機械のキャブ。
【請求項5】
前記板部材には、前記閉断面において少なくとも一箇所の屈曲部を備えたものが含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の作業機械のキャブ。
【請求項6】
前記端面が形成された板部材の少なくとも一枚がその表裏両側で相手側の板部材の内側面に隅肉溶接されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の作業機械のキャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−106286(P2007−106286A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299739(P2005−299739)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】