説明

作業機械の動力回生装置

【課題】オペレータの操作フィーリングを良好に保持することができる作業機械の動力回生装置を提供すること。
【解決手段】操作装置4Aと、油圧シリンダ3aと、油圧ポンプ6とを備える作業機械において、油圧シリンダの油圧室55に接続され、当該油圧室からの戻り油を発電機25に接続された油圧モータ24を介してタンクに導く回生回路53と、油圧室55からの戻り油をタンクに導く流量調整回路54と、操作装置の操作量ごとに定められた第1設定流量Q1に基づいて、回生回路を流れる戻り油の流量を調整する油圧モータ24及び発電機25と、操作装置の操作量ごとに定められた第2設定流量Q2に基づいて、流量調整回路を流れる戻り油の流量を調整するコントロールバルブ5Aとを備え、第1設定流量Q1及び第2設定流量Q2を、油圧シリンダに作用する油圧負荷の増加に伴って減少するように補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械等の作業機械のエネルギー回生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油圧ショベルをはじめとする油圧作業機械に対して燃料消費率(燃費)の向上に関する要求が高まっている。
【0003】
例えば、特開2003−329012号公報には、ブームシリンダ(油圧シリンダ)のボトム側油圧室に接続されブーム下げ時の戻り油が流通する油路(戻り油油路)に切替弁を設置し、油圧モータ及びこれに連結された発電機を備える回生回路を当該切替弁の下流側に接続した油圧ショベルが開示されている。当該油圧ショベルでは、モニタパネルで選択された作業モードに応じて当該切替弁の切替位置が切り換えられるようになっており、作業モードに応じて当該回生回路とボトム側油圧室との連通状態が選択的に切り換えられるようになっている(例えば、掘削作業ではボトム側油圧室と回生回路が連通され、微操作作業ではボトム側油圧室と回生回路は遮断される)。したがって、例えば、ブーム下げ時にボトム側油圧室と回生回路が連通する作業モードが選択されている場合には、ブームを下げるとボトム側油圧室から排出される戻り油によって当該油圧モータ及び当該発電機が駆動されて回生電流が発生する。しかし、この油圧ショベルでは、オペレータによって作業モードが切り換えられなければ回生されないため、作業モードの変更作業が繁雑で回生すべきときに回生されないおそれがあった。
【0004】
この点を鑑みた油圧ショベルとして、戻り油油路を2本以上の油路に分流する分岐部と、当該分岐部で分流された圧油の一部を発電機が接続された油圧モータを介してタンクに導く回生回路と、操作レバーの操作量に応じて通過流量が変更されるオリフィス(流量調整手段)を介して当該分岐部で分流された圧油の残りをタンクに導く流量調整回路を備えたものがある(特開2007−107616号公報)。すなわち、この油圧ショベルでは、ブーム下げ時の操作レバーの操作量に応じて当該回生回路と当該流量調整回路に流出する戻り油の流量を制御することで、操作性の急変を招くことなく回生量と操作性の両立を図ろうとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−329012号公報
【特許文献2】特開2007−107616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献2には、ブーム下げ操作時における操作レバーの操作量に応じて回生回路に流出させる戻り油の量を変化させる旨の記載があるものの、ブーム下げ操作時におけるレバー操作量に対してブームシリンダのボトム側油圧室からどの程度の量の戻り油を流出させるかという点については具体的に開示されていない。すなわち、上記のように回生回路を備える油圧ショベルを実用するに際して、レバー操作量に対するブーム下げ時のメータアウト流量(以下、ブーム下げメータアウト流量と称することがある)の関係を通常の油圧ショベル(回生回路を備えず動力源がエンジンのみである油圧ショベル)のものと同等に設定しなければ、ブーム下げ時の操作フィーリングにオペレータが違和感を覚える結果となってしまう。
【0007】
本発明の目的は、油圧アクチュエータからの戻り油による回生の有無に関わらず、オペレータの操作フィーリングを良好に保持することができる作業機械の動力回生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明は、上記目的を達成するために、操作量に応じた操作信号を出力する操作装置と、この操作装置から出力される操作信号に基づいて伸縮する油圧シリンダと、エンジンによって駆動され前記油圧シリンダに圧油を供給する油圧ポンプとを備える作業機械の動力回生装置において、前記油圧シリンダの油圧室に接続され、当該油圧室からの戻り油のエネルギーを電気エネルギーに変換するための回生手段を介して当該戻り油をタンクに導く第1回路と、前記油圧室に接続され、当該油圧室からの戻り油をタンクに導く第2回路と、前記操作装置の操作量ごとに定められた第1設定流量に基づいて、前記第1回路を流れる戻り油の流量を調整する第1流量調整手段と、前記操作装置の操作量ごとに定められた第2設定流量に基づいて、前記第2回路を流れる戻り油の流量を調整する第2流量調整手段とを備え、前記第1設定流量及び前記第2設定流量は、前記油圧シリンダに作用する油圧負荷の増加に伴って減少するように補正されるものとする。
【0009】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記第1設定流量と前記第2設定流量の合計値は、前記操作装置の操作量の増加に比例し、前記合計値における前記第1設定流量の割合は、前記操作装置の操作量の増加に比例するものとする。
【0010】
(3)上記(1)又は(2)において、好ましくは、前記第2設定流量は、前記操作装置の操作量の関数で定義されており、当該関数は、所定の操作量で最大値をとり、当該所定の操作量の前後で滑らかに変化しているものとする。
【0011】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、好ましくは、前記油圧シリンダに作用する油圧負荷の変化は、前記油圧シリンダのボトム側圧力及び前記エンジンの実回転数のうち少なくとも一方によって検出されるものとする。
【0012】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、好ましくは、前記回生手段は、発電機に接続され、前記油圧室からの戻り油で駆動する油圧モータであり、前記第1設定流量及び前記第2設定流量は、前記油圧シリンダが縮短される場合における前記操作装置の操作量ごとに記憶手段に記憶されているものとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、戻り油による回生の有無に関わらずオペレータの操作フィーリングを良好に保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルの外観図。
【図2】本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの駆動制御システムの概略図。
【図3】本発明の実施の形態に係る車体コントローラ11の構成図。
【図4】本発明の実施の形態に係る記憶部105に記憶されたメータリング線図。
【図5】本発明の実施の形態において第1設定値L1及び第2設定値L2を新たな設定値L1’,L2’に変更したときのメータリング線図。
【図6】本発明の他の実施の形態に係る油圧ショベルの駆動制御システムの概略図。
【図7】本発明の他の実施の形態に係る車体コントローラ11Aの構成図。
【図8】本発明の他の実施の形態における補正後のメータリング線図61B,62Bを示す図。
【図9】流量調整回路54に係るメータリング線図62Bと回生回路53に係るメータリング線図61Bの間に不整合が生じた場合を示す図。
【図10】本発明の他の実施の形態において、流量調整回路流量Q2と操作装置4Aの操作量との関係を示す他のメータリング線図62Cを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態に係るハイブリッド式油圧ショベルの外観図である。この図に示す油圧ショベルは、ブーム1a、アーム1b及びバケット1cを有する多関節型の作業装置1Aと、上部旋回体1d及び下部走行体1eを有する車体1Bを備えている。ブーム1aは、上部旋回体1dに回動可能に支持されており、ブームシリンダ(油圧シリンダ)3aにより駆動される。
【0016】
アーム1bは、ブーム1aに回動可能に支持されており、アームシリンダ(油圧シリンダ)3bにより駆動される。バケット1cは、アーム1bに回動可能に支持されており、バケットシリンダ(油圧シリンダ)3cにより駆動される。上部旋回体1dは旋回モータ(電動機)16(図2参照)により旋回駆動され、下部走行体1eは左右の走行モータ(油圧モータ)3e,3f(図2参照)により駆動される。ブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c及び旋回モータ16の駆動は、上部旋回体1dの運転室(キャブ)内に設置され油圧信号を出力する操作装置4A,4B(図2参照)によって制御される。
【0017】
図2は本発明の実施の形態に係る油圧ショベルの駆動制御システムの概略図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。この図に示す駆動制御システムは、動力回生装置70と、操作装置4A,4Bと、コントロールバルブ(スプール型方向切換弁)5A,5B,5Cと、油圧信号を電気信号に変換する圧力センサ17,18と、インバータ装置(電力変換装置)13と、チョッパ(電圧変換装置)14と、バッテリ15と、インバータ装置(電力変換装置)12を備えており、制御装置として車体コントローラ(MCU)11及びエンジンコントローラ(ECU)21を備えている。
【0018】
図2において、動力回生装置70は、油路51と、分岐部52と、回生回路(第1回路)53と、流量調整回路(第2回路)54と、圧力センサ20と、車体コントローラ(MCU)11と、インバータ装置(電力変換装置)26を備えている。
【0019】
油路51は、ブームシリンダ3aの縮短時にタンク9に戻る油(戻り油)が流通する戻り油油路であり、ブームシリンダ3aのボトム側油圧室55に接続されている。油路51には当該油路51を複数の油路に分流する分岐部52が設けられている。分岐部52には、回生回路53と、流量調整回路54が接続されている。
【0020】
回生回路(第1回路)53は、チェックバルブ28と、当該チェックバルブ28の下流側に設置され発電機25が接続された油圧モータ24を備えており、当該油圧モータ24を介してボトム側油圧室55からの戻り油をタンク9に導いている。ブーム下げ時における戻り油を回生回路53に導入して油圧モータ24を回転させると発電機25が回転して回生電力を発生させることができる。
【0021】
チェックバルブ28には、オペレータによってブーム下げ操作が行われたときに操作装置4Aから出力される操作信号(油圧信号)が導かれている。チェックバルブ28は、ブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量が第1設定値L1(後述)に達したときに出力される操作信号(圧力P1の油圧信号(図4参照))によって開くように設定されており、これにより操作装置4Aの操作量が第1設定値L1以上になったときに油圧モータ24に戻り油が供給されるようになっている。
【0022】
また、ブーム下げ操作時における油圧モータ24及び発電機25の回転数はインバータ装置26によって制御されている。このように油圧モータ24の回転数をインバータ装置26で制御すると油圧モータ24を通過する油の流量を調整できるので、ボトム側油圧室55から回生回路53に流れる戻り油の流量を調整することができる。すなわち、本実施の形態における油圧モータ24及び発電機25は回生回路53の流量を調整する流量調整手段(第1流量調整手段)として機能しており、インバータ装置26は当該流量調整手段を制御する制御手段として機能している。
【0023】
流量調整回路(第2回路)54は、流量調整回路54の流量を調整する流量調整手段(第2流量調整手段)であるコントロールバルブ(スプール型方向切換弁)5Aを介してボトム側油圧室55からの戻り油をタンク9に導く油圧回路であり、回生回路53とは異なる経路で戻り油をタンク9に導いている。コントロールバルブ5Aにおける一方の受圧部(図2中の右側の受圧部)にはブーム下げ操作時に操作装置4Aから比例弁27を介して出力される操作信号(油圧信号)が入力されており、また、他方の受圧部(図2中の左側の受圧部)にはブーム上げ操作時に操作装置4Aから出力される操作信号(油圧信号)が入力されている。コントロールバルブ5Aのスプールは、これら2つの受圧部に入力される操作信号に応じて移動し、油圧ポンプ6からブームシリンダ3aに供給される圧油の方向及び流量を切り換える。
【0024】
比例弁27は、ブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量に応じた操作信号をコントロールバルブ5Aの受圧部に出力するものであり、これによりボトム側油圧室55からコントロールバルブ5Aを通過する戻り油の流量(すなわち、流量調整回路54を流れる戻り油の流量)を調整している。すなわち、本実施の形態における比例弁27は、コントロールバルブ5A(第2流量調整手段)を制御する制御手段として機能している。 本実施の形態における比例弁27には、ブーム下げ操作時に操作装置4Aから出力される油圧信号が入力されている。そして、比例弁27では、車体コントローラ11における比例弁出力値演算部103(後述)から入力される出力値に応じて操作装置4Aからの油圧信号の圧力を適宜調整し、その調整後の油圧信号をコントロールバルブ5Aの受圧部に出力する構成をとっている。
【0025】
具体的には、ブーム下げ操作時における比例弁27は、(1)操作装置4Aの操作量が後述する第1設定値L1未満の場合には、図2に示す位置(全開位置)に保持されて操作装置4Aからの油圧信号をそのまま出力する。また、(2)操作装置4Aの操作量が第1設定値L1以上かつ第2設定値L2未満(第2設定値L2は第1設定値L1よりも大きい値)の場合は、コントロールバルブ5Aを通過する戻り油の流量が操作装置4Aの操作量に応じて後述のメータリング線図(図4参照)のように変化するように(すなわち、パイロット圧が低減するように)油圧信号を調整する。さらに、(3)操作装置4Aの操作量が第2設定値L2以上の場合には、戻り油のコントロールバルブ5Aの通過を遮断するために、操作装置4Aからのコントロールバルブ5Aへの油圧信号の入力を遮断する(すなわち、比例弁27は全閉され、コントロールバルブ5Aは図2の中立位置に保持される。)。
【0026】
圧力センサ20は、ブーム下げ操作時に操作装置4Aからコントロールバルブ5Aに出力される油圧信号の圧力(パイロット圧)を検出するためのもので、操作装置4Aとコントロールバルブ5Aの受圧部を接続するパイロット管路(油路)に取り付けられている。圧力センサ20は車体コントローラ11と接続されており、油圧信号の圧力の検出値を電気信号に変換して車体コントローラ11に出力している。ところで、操作装置4Aから出力される油圧信号の圧力は操作装置4Aの操作量に比例しているため、圧力センサ20で検出した油圧信号の圧力からブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量を算出することができる。すなわち、本実施の形態における圧力センサ20は操作装置4Aの操作量を検出する手段(操作量検出手段)として機能している。なお、操作装置4Aの操作量を検出する他の手段としては、操作装置4Aにおける操作レバーの位置を検出するポジションセンサも利用することができる。
【0027】
操作装置4A,4Bは、エンジン7に接続されたパイロットポンプ41から供給される作動油を2次圧に減圧してブームシリンダ3a、アームシリンダ3b、バケットシリンダ3c及び旋回モータ16を制御するための油圧信号を発生する。
【0028】
操作装置4Aは、ブームシリンダ3aの駆動を制御するコントロールバルブ5Aの受圧部と、アームシリンダ3bの駆動を制御するコントロールバルブ5Bの受圧部にパイロット管路を介して接続されており、操作レバーの傾倒方向に応じて各コントロールバルブ5A,5Bの受圧部に油圧信号を出力する。コントロールバルブ5A,5Bは、操作装置4Aから入力される油圧信号に応じて位置を切り換えられ、油圧ポンプ6から吐出される圧油の流れをその切換位置に応じて制御することでブームシリンダ3a、アームシリンダ3bの駆動を制御する。
【0029】
操作装置4Bは、バケットシリンダ3cの駆動を制御するコントロールバルブ5Cの受圧部と2つのパイロット管路を介して接続されており、操作レバーの傾倒方向に応じてコントロールバルブ5Cの受圧部に油圧信号を出力する。コントロールバルブ5Cは、操作装置4Bから入力される油圧信号に応じて位置を切り換えられ、油圧ポンプ6から吐出される圧油の流れをその切換位置に応じて制御することでバケットシリンダ3cの駆動を制御する。
【0030】
また、操作装置4Bは、コントロールバルブ5Cの受圧部に接続する上記2つのパイロット管路に加え、他の2つのパイロット管路に接続されている。また、当該他の2つのパイロット管路のうち、上部旋回体1dが左旋回するように旋回モータ16を駆動する油圧信号が通過するものには圧力センサ17が取り付けられており、上部旋回体1dが右旋回するように旋回モータ16を駆動する油圧信号(圧油)が通過するものには圧力センサ18が取り付けられている。圧力センサ17,18は、操作装置4Bから出力される油圧信号の圧力を検出してその圧力に対応する電気信号に変換する信号変換手段として機能するもので、変換した電気信号を車体コントローラ11に出力可能に構成されている。圧力センサ17,18から車体コントローラ11に出力された電気信号は、インバータ装置13を介して旋回モータ16(電動アクチュエータ)の駆動を制御する操作信号として利用される。
【0031】
コントロールバルブ5E,5Fの受圧部はパイロット管路を介して運転室内に設置された走行操作装置(図示せず)と接続されている。コントロールバルブ5E,5Fは、当該走行操作装置から入力される油圧信号に応じて位置を切り換えられ、油圧ポンプ6から吐出される圧油の流れをその切換位置に応じて制御することで走行モータ3e,3fの駆動を制御する。
【0032】
車体コントローラ(MCU)11は、ブームシリンダ3aにおけるボトム側油圧室55から回生回路53に分流する戻り油の流量と、当該ボトム側油圧室55から流量調整回路54に分流する戻り油の流量とを算出し、当該算出した流量の戻り油が2つの回路53,54に流れるようにインバータ装置26及びコントロールバルブ5Aを制御する機能を有している。また、車体コントローラ11は、インバータ装置26及び比例弁27と接続されており、これらに対して操作信号を出力している。さらに、車体コントローラ11は圧力センサ20と接続されており、圧力センサ20の検出値を入力している。
【0033】
また、車体コントローラ11は、圧力センサ17,18から入力される電気信号に基づいてインバータ装置13を介して旋回モータ16の駆動を制御する役割を有する。具体的には、圧力センサ17から電気信号が入力されたときにはその電気信号に対応した速度で上部旋回体1dを左旋回させ、圧力センサ18から電気信号が入力されたときにはその電気信号に対応した速度で上部旋回体1dを右旋回させる。また、車体コントローラ11は、上部旋回体1dの旋回制動時には旋回モータ16から電気エネルギーを回収する動力回生制御も行う。さらに、その動力回生制御時に発生した回生電力や、動力変換機(発電電動機)10によって発生された電力の余剰電力(例えば、油圧ポンプ6の負荷が軽い場合等)をバッテリ15に充電する制御も行う。
【0034】
次に、本実施の形態に係る車体コントローラ11が備えるボトム側油圧室55からの戻り油の流量調整機能について図を参照しつつ説明する。
【0035】
図3は本発明の実施の形態に係る車体コントローラ11の構成図である。この図に示す車体コントローラ11は、ROMやRAM等で構成される記憶部(記憶手段)105と、第1設定流量演算部100及び第2設定流量演算部101(流量演算手段)と、モータ指令値演算部102と、比例弁出力値演算部103を備えている。
【0036】
記憶部105には、ブーム下げ操作時(ブームシリンダ3aが縮短される場合)に回生回路53及び流量調整回路54を流れる戻り油の流量(ボトム側油圧室55からのメータアウト流量)が操作装置4Aの操作量ごとに記憶されており、さらに、ブーム下げ操作時の戻り油を流す回路を選択する基準として操作装置4Aの操作量の設定値(第1設定値L1及び第2設定値L2)が記憶されている。図4は本発明の実施の形態に係る記憶部105に記憶されたメータリング線図である。本実施の形態では、ブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量と、回生回路53及び流量調整回路54を流れる戻り油の流量(メータアウト流量)との関係は、この図に示すように操作装置4Aの操作量の関数であるメータリング線図の形式で定義されている。
【0037】
図4に示したメータリング線図としては、実線で示した回生回路線図61及び流量調整回路線図62と、1点鎖線で示した合計流量線図63がある。
【0038】
回生回路線図61は、操作装置4Aの操作量と回生回路53側を流れる戻り油の流量との関係を示したメータリング線図であり、流量調整回路線図62は、操作装置4Aの操作量と流量調整回路54側を流れる戻り油の流量との関係を示したメータリング線図である。
【0039】
合計流量線図63は、回生回路53及び流量調整回路54に係るメータアウト流量の合計流量と操作装置4Aの操作量との関係を示したメータリング線図である。図4に示すように、合計流量線図63が示す合計流量は、操作装置4Aの操作量の増加に比例して増加している。また、合計流量線図63は、ボトム側油圧室55からの戻り油の全てを流量調整回路54のみに流した場合に得られるメータリング線図(すなわち、回生回路53を備えず動力源がエンジンのみである油圧ショベル(以下において「通常の油圧ショベル」と称することがある)におけるメータリング線図)と同じに設定されている。
【0040】
これらのメータリング線図61,62,63が示すように、操作装置4Aの操作量が第1設定値L1未満の場合(以下において「微操作域」と称することがある)には、合計流量線図63は流量調整回路線図62に一致している。そして、流量調整回路54の流量は、合計流量と同様に、操作装置4Aの操作量の増加に比例して増加している。すなわち、このとき、ボトム側油圧室55からの戻り油は全て流量調整回路54に流されるようになっており、回生回路53はチェックバルブ28によって閉じられている。このように本実施の形態において微操作域で流量調整回路54のみに戻り油を流す構成とした理由は、微操作域ではブームシリンダ3aの微操作性(インチング性能)が重要視されるため、油圧モータ24と比較して流量の制御性に優れたコントロールバルブ5Aのみで流量制御することがインチング性能確保の観点から好ましいからである。
【0041】
また、操作装置4Aの操作量が第2設定値L2(第1設定値L1よりも大きな値)以上の場合(以下において「フル回生域」と称することがある)には、合計流量線図63は回生回路線図61に一致している。そして、回生回路53の流量は、合計流量と同様に、操作装置4Aの操作量の増加に比例して増加している。すなわち、このとき、ボトム側油圧室55からの戻り油は全て回生回路53に流されるようになっており、流量調整回路54はコントロールバルブ5Aによって閉じられている。このように本実施の形態においてフル回生域で回生回路53のみに戻り油を流す構成とした理由は、操作装置4Aの操作量が大きいフル回生域では大量の戻り油が発生するため、当該戻り油を利用して回生量を大きくすることが燃費性能を向上させる観点から好ましいからである。
【0042】
一方、操作量が第1設定値L1以上かつ第2設定値L2未満の場合(以下において「中間域」と称することがある)には、回生回路53と流量調整回路54の双方に戻り油が流されている。具体的には、操作装置4Aの操作量が第1設定値L1から第2設定値L2まで増加する間に、流量調整回路線図62は第1設定値L1のときの合計流量q1からゼロに向かって漸減している。一方、回生回路線図61は、ゼロから第2設定値L2のときの合計流量q2に向かって、流量調整回路線図62が漸減した分だけ漸増するように設定されている。このように中間域で流量調整回路54側を漸減させつつ回生回路側53の流量を漸増させると、微操作域からフル回生域へ滑らかに遷移させることができる。また、フル回生域から微操作域へも滑らかに遷移させることができる。なお、既述のように合計流量線図63は通常の油圧ショベルのものと同じになるように設定されており、オペレータの操作フィーリングが保持されている。
【0043】
上記のように、回生回路線図61が示す回生回路53の流量は、L1以降は、操作装置4Aの操作量の増加に比例して増加し、合計流量に対する回生回路53の流量の割合もL1以降は操作量に比例して増加する。また、流量調整回路線図62が示す流量調整回路54の流量は、L1まで操作量の増加に比例して増加するが、L1からL2までは操作量の増加に反比例して減少する。また、合計流量に対する流量調整回路53の流量の割合は、L1以降は操作量の増加に反比例して減少する。
【0044】
図3に戻り、第1設定流量演算部100は、記憶部105に記憶されたメータリング線図とブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量に基づいて回生回路53側を流れる戻り油の流量Q1(第1設定流量)を演算する処理を実行する部分であり、第2設定流量演算部101は、記憶部105に記憶されたメータリング線図とブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量に基づいて流量調整回路54側に流れる戻り油の流量Q2(第2設定流量)を演算する処理を実行する部分である。
【0045】
第1設定流量演算部100及び第2設定流量演算部101には圧力センサ20の検出値が入力されており、第1設定流量演算部100及び第2設定流量演算部101は当該検出値に基づいて操作装置4Aの操作量を算出する。ここでは、操作装置4Aの操作量が第1設定値L1に達するときの油圧信号の圧力をP1とするとともに、当該操作量が第2設定値L2に達するときの油圧信号の圧力をP2とする(図4には操作量の設定値L1,L2と圧力の設定値P1,P2を併記している)。圧力センサ20の検出値に基づいて操作装置4Aの操作量を算出すると、第1設定流量演算部100及び第2設定流量演算部101は、当該算出した操作量に対応する流量Q1,Q2を記憶部105から出力されるメータリング線図に基づいて算出し、各回路53,54の目標流量として設定する。第1設定流量演算部100は算出した流量Q1をモータ指令値演算部102に出力し、第2設定流量演算部101は算出した流量Q2を比例弁出力値演算部103に出力する。
【0046】
モータ指令値演算部102は、第1設定流量演算部100で演算された流量Q1を回生回路53の油圧モータ24で吸い込むために必要な油圧モータ24の回転数を演算し、油圧モータ24を当該演算した回転数で回転させるための回転数指令値をインバータ装置26に出力する部分である。モータ指令値演算部102で演算された回転数指令値を入力したインバータ装置26は当該回転数指令値に基づいて油圧モータ24及び発電機25を回転させ、これにより回生回路53には第1設定流量演算部100で演算された流量の戻り油が流れる。
【0047】
比例弁出力値演算部103は、第2設定流量演算部101で演算された流量調整回路流量Q2を流量調整回路54のコントロールバルブ5Aに通過させるために必要な比例弁27の出力値(すなわち、比例弁27からコントロールバルブ5Aの受圧部に出力される油圧信号の圧力(パイロット圧))を演算し、当該演算した出力値を比例弁27から出力させるための指令値を比例弁27に出力する部分である。比例弁出力値演算部103で演算された出力値を入力した比例弁27は当該出力値に基づいて操作信号をコントロールバルブ5Aに出力し、これにより流量調整回路54には第2設定流量演算部101で演算された流量の戻り油が流れる。
【0048】
図2に戻り、エンジンコントローラ(ECU)21は、オペレータによってエンジン7の目標回転数が入力されるエンジン回転数入力装置(例えば、エンジンコントロールダイヤル(図示せず))等からの指令に従って、エンジン7が当該目標回転数で回転するように燃料噴射量とエンジン回転数を制御する部分である。
【0049】
エンジン(原動機)7の出力軸には動力変換機(発電電動機)10が連結されており、動力変換機10の出力軸には油圧ポンプ6とパイロットポンプ41が接続されている。
【0050】
動力変換機10は、エンジン7の動力を電気エネルギーに変換してインバータ装置12,13に電気エネルギーを出力する発電機としての機能に加え、バッテリ15から供給される電気エネルギーを利用して、油圧ポンプ6をアシスト駆動する電動機としての機能を有する。
【0051】
油圧ポンプ6は、油圧アクチュエータ3a,3b,3c,3e,3fに圧油を供給するメインのポンプであり、パイロットポンプ41は、操作装置4A,4B及び走行操作装置を介してコントロールバルブ5A,5B,5C,5D,5E,5Fに操作信号として出力される圧油を供給する。なお、油圧ポンプ6に接続される油圧管路にはリリーフ弁8が設置されており、リリーフ弁8はその管路内の圧力が過度に上昇した場合にタンク9に圧油を逃がす。
【0052】
インバータ装置12は、車体コントローラ11からの出力に基づいて動力変換機10の駆動制御を行うもので、バッテリ15の電気エネルギーを交流電力に変換して動力変換機10に供給し、油圧ポンプ6をアシスト駆動する。
【0053】
インバータ装置13は、車体コントローラ11からの出力に基づいて旋回モータ16の駆動制御を行うもので、動力変換機10又は蓄電装置15から出力される電力を電動モータ16に供給する。
【0054】
チョッパ14は、インバータ装置12,13,26が接続された直流電力ラインの電圧を制御する。バッテリ(蓄電装置)15は、チョッパ14を介してインバータ装置12,13,26に電力を供給したり、動力変換機10が発生した電気エネルギーや発電機25及び電動モータ16から回生される電気エネルギーを蓄える。バッテリ15以外の蓄電装置としては、例えば、キャパシタを用いることができ、キャパシタ及びバッテリの両方を用いても良い。
【0055】
上記のように構成される動力回生装置において、まず、ブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量が第1設定値L1未満の場合には、圧力センサ20の検出圧力がP1未満となるので、ボトム側油圧室55からのメータアウト流量は図4の微操作域で制御されることとなる。これにより、まず、車体コントローラ11における第1設定流量演算部100は、回生回路線図61に基づいて流量Q1としてゼロをモータ指令値演算部102に出力する。また、第2設定流量演算部101は、圧力センサ20の検出値から操作装置4Aの操作量を演算し、当該演算した操作量と流量調整回路線図62に基づいて流量Q2を演算する。そして、当該演算した流量Q2を比例弁出力値演算部103に出力する。
【0056】
モータ指令値演算部102は、第1設定流量演算部100の演算結果に基づいて生成した回転数指令値をインバータ装置26に出力し、インバータ装置26は当該回転数指令値に基づいて油圧モータ24及び発電機25を停止させた状態で保持する。なお、このとき操作装置4Aからチェックバルブ28に出力される油圧信号の圧力はP1未満であるので、チェックバルブ28は閉じたまま保持されている。そのため、モータ指令値演算部102からインバータ装置26への回転数指令値に関わらず、ボトム側油圧室55からの戻り油が回生回路53(油圧モータ24)に流れることはない。
【0057】
一方、比例弁出力値演算部103は、第2設定流量演算部101の演算結果に基づいて、比例弁27を全開に保持する指令値を比例弁27に出力する。これにより、操作装置4Aから出力された油圧信号がそのままコントロールバルブ5Aの受圧部に作用し、コントロールバルブ5Aのスプールが移動する。これにより、通常の油圧ショベルと同様に、流量調整回路54には、操作装置4Aの操作量に応じた流量Q2の戻り油が流れる。
【0058】
次に、ブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量が第1設定値L1以上かつ第2設定値L2未満の場合には、圧力センサ20の検出圧力がP1以上かつP2未満となるので、ボトム側油圧室55からのメータアウト流量は図4の中間域で制御されることとなる。これにより、車体コントローラ11における第1設定流量演算部100及び第2設定流量演算部101は、圧力センサ20の検出値から操作装置4Aの操作量を演算し、当該演算した操作量と図4のメータリング線図に基づいて流量Q1及び流量Q2を演算する。そして、第1設定流量演算部100は、当該演算した流量Q1をモータ指令値演算部102に出力し、第2設定流量演算部101は、当該演算した流流量Q2を比例弁出力値演算部103に出力する。
【0059】
モータ指令値演算部102は、第1設定流量演算部100の演算結果に基づいて生成した回転数指令値をインバータ装置26に出力し、インバータ装置26は当該回転指令値に基づいて油圧モータ24及び発電機25の回転数を制御する。また、このとき操作装置4Aからチェックバルブ28に出力される油圧信号の圧力はP1以上となっているので、チェックバルブ28は開いた状態で保持されており、ボトム側油圧室55と回生回路53は連通した状態となっている。これにより、流量Q1に保持された戻り油がボトム側油圧室55から回生回路53に流れ込み、モータ指令値演算部102で演算した回転数で油圧モータ24が回転して回生電力が発生する。
【0060】
一方、比例弁出力値演算部103は、第2設定流量演算部101の演算結果に基づいて生成した指令値を比例弁27に出力し、比例弁27は比例弁出力値演算部103で演算された出力値(圧力)まで低減した油圧信号をコントロールバルブ5Aの受圧部に出力する。これによりコントロールバルブ5Aのスプールが適宜移動して、流量Q2に保持された戻り油が流量調整回路54に流れる。
【0061】
さらに、ブーム下げ操作時における操作装置4Aの操作量が第2設定値L2以上の場合には、圧力センサ20の検出圧力がP2以上となるので、ボトム側油圧室55からのメータアウト流量は図4のフル回生域で制御されることとなる。これにより、車体コントローラ11における第1設定流量演算部100は、圧力センサ20の検出値から操作装置4Aの操作量を演算し、当該演算した操作量と回生回路線図61に基づいて流量Q1を演算する。そして、当該演算した流量Q1をモータ指令値演算部102に出力する。また、第2設定流量演算部101は、流量調整回路線図62に基づいて流量Q2としてゼロを比例弁出力値演算部103に出力する。
【0062】
モータ指令値演算部102は、第1設定流量演算部100の演算結果に基づいて生成した回転数指令値をインバータ装置26に出力し、インバータ装置26は当該回転指令値に基づいて油圧モータ24及び発電機25の回転数を制御する。また、このときも操作装置4Aからチェックバルブ28に出力される油圧信号の圧力はP1以上となっているので、ボトム側油圧室55と回生回路53は連通した状態となっている。これにより、ボトム側油圧室55からの戻り油の全量が回生回路53に流れ込み、モータ指令値演算部102で演算した回転数で油圧モータ24が回転して回生電力が発生する。
【0063】
一方、比例弁出力値演算部103は、第2設定流量演算部101の演算結果に基づいて、比例弁27を全閉に保持する指令値を比例弁27に出力する。これにより、操作装置4Aから出力された油圧信号は遮断され、コントロールバルブ5Aのスプールは中立位置に保持される。これにより、ボトム側油圧室55からの戻り油がコントロールバルブ5Aを通過することはない。
【0064】
上記のように構成した本実施の形態に係る動力回生装置によれば、ブーム下げ操作時においてボトム側油圧室55から排出される戻り油の合計流量(メータアウト流量)は、常に図4に示した合計流量線図63に基づいて制御されることになるので、オペレータの操作フィーリングを良好に保持することができる。その際、戻り油の流量制御に用いるメータリング線図を本実施の形態のように通常の油圧ショベルのものと同じものにすれば、戻り油による回生の有無に関わらずオペレータの操作フィーリングを良好に保持できる。
【0065】
さらに、本実施の形態では、通常の油圧ショベルと同じメータリング線図を利用することに加え、戻り油を流す回路と各回路の戻り油の流量を操作装置4Aの操作量の大きさに応じて変更している。このように回路と流量を適宜変更すると、(1)主に流量調整回路54に戻りを流すことで達成される微操作性の向上と、(2)主に回生回路53に戻り油を流すことで達成される燃費向上とのバランスを任意かつ容易に設定することができる。
【0066】
この点に関し、上記の実施の形態では、微操作域では流量調整回路54のみに戻り油を流し、フル回生域では回生回路53のみに戻り油を流している。このように操作装置4Aの操作量に応じて戻り油を流す回路を適宜変更すると、微操作性が重視される微操作域ではインチング性能が確保でき、さらに、戻り油の流量が多く回生量の増大が期待されるフル回生域では燃費性能を向上させることができる。さらに、本実施の形態では、微操作域とフル回生域の間に位置する中間域において、操作装置4Aの操作量の増加に合わせて流量調整回路54の流量Q2を漸減しつつ、その一方で回生回路53の流量Q1を漸増させている。このように中間域での戻り油の流量を制御すると、微操作性を重視する微操作域と燃費性能を重視するフル回生域との遷移をスムーズにすることができる。
【0067】
上記の実施の形態では、ブーム下げ操作時の戻り油を流す回路を選択する基準となる操作装置4Aの操作量(第1設定値L1及び第2設定値L2)を固定して利用していたが、この操作量(第1設定値L1及び第2設定値L2)はオペレータによって変更可能にしても良い。
【0068】
図5は本発明の実施の形態において第1設定値L1及び第2設定値L2を新たな設定値L1’,L2’に変更したときのメータリング線図である。この図に示すように、新たな設定値L1’,L2’は、第1設定値L1及び第2設定値L2に偏差ΔL1,ΔL2を加算したものに相当し、当該偏差ΔL1,ΔL2加算後のメータリング線図61A,62Aは、合計流量(合計流量線図63)を保持しつつ、図4に示したものと比較して微操作域が拡大しフル回生域が縮小したものとなっている。
【0069】
本実施の形態における偏差ΔL1,ΔL2の量の調整は、車体コントローラ11に接続された設定値変更装置(設定値変更手段)29(図2参照)によって行う。本実施の形態における設定値変更装置29は、図2に示したようにダイヤル式であり、ダイヤルの回転量に応じて第1設定値及び第2設定値に偏差(ΔL1及びΔL2)が加えられる。これにより微操作域が終了する操作量及びフル回生域が開始する操作量をオペレータが所望する値に適宜変更することができる。設定値の具体的な変更方法としては、例えば、基準位置からダイヤルを右方向に回転させた場合には当該回転量に比例した偏差を第1設定値L1及び第2設定値L2に加算したものを新たな設定値とし、他方、当該基準位置からダイヤルを左方向に回転させた場合には当該回転量に比例した偏差を第1設定値L1及び第2設定値L2から減算したものを新たな設定値とするものがある。
【0070】
このように第1設定値L1及び第2設定値L2を変更可能にすると、オペレータの嗜好や作業内容に応じて微操作域が終了する操作量とフル回生域が開始する操作量を容易に変更することができるので、オペレータが所望する微操作性とエネルギー回生のバランスをとることができる。
【0071】
なお、ここでは、第1設定値L1及び第2設定値L2の双方を一度のダイヤル操作で変更する設定値変更装置29について説明したが、第1設定値L1及び第2設定値L2の少なくとも一方を他の値に変更可能な他の設置値変更装置を利用しても良いし、第1設定値L1及び第2設定値L2を個別に変更可能なものを利用しても良い。
【0072】
また、上記では、設定値変更装置29の回転量を調整して第1設定値L1及び第2設定値L2を適宜変更することで微操作域とフル回生域を変更する場合について説明したが、オペレータの指示に基づいて各設定値L1,L2を他の設定値(L1’,L2’)に切り換えることで微操作域とフル回生域を変更可能に構成しても良い。この場合の動力回生装置の具体的構成例としては、第1設定値L1、第1設定値L1に代替する第1代替設定値L1’、第2設定値L2、及び第2設定値L2に代替する第2代替設定値L2’を車体コントローラ11の記憶部105に記憶しておき、操作装置4Aの操作レバーに取り付けられ車体コントローラ11に接続した設定値切換装置30(図2参照)の切り換え位置(ON/OFF)に応じて、戻り油の流量Q1,Q2を演算する際に用いる設定値を設定値L1,L2と代替設定値L1’,L2’との間で切り換え可能に構成したものがある。
【0073】
このように動力回生装置を構成すると、例えば、主たる作業では設定値L1,L2を利用して作業し、当該主たる作業の間に一時的に行われる特定の作業では代替設定値L1’,L2’を利用して作業することとし、当該主たる作業と当該特定作業を連続して行う場合には設定値切換装置30の切替位置を切り換えるだけで各作業に適した微操作域及びフル回生域に変更することができるので、作業効率を向上させることができる。
【0074】
なお、ここでは、2つの設定値L1,L2を代替設定値L1’,L2’にそれぞれ切り換える場合について説明したが、2つの設定値L1,L2の一方だけを代替設定値に切り換えても良い。さらに、通常は図4に示すメータリング線図に基づいて制御し、設定値切換装置30を動作させた場合には、操作装置4Aの操作量の全域に渡って回生回路53に戻り油を流さずに流量調整回路54のみに戻り油を流す制御に一時的に切り換えるように構成しても良い。
【0075】
次の本発明の他の実施の形態について説明する。図6は本発明の他の実施の形態に係る油圧ショベルの駆動制御システムの概略図である。この図に示す動力回生装置70Aは、圧力センサ31と、回転数センサ32と、車体コントローラ11Aを備えている。
【0076】
圧力センサ(圧力検出手段)31は、ブームシリンダ3aのボトム側圧力を検出するものであり、本実施の形態では流量調整回路54における分岐部52とコントロールバルブ5Aの間の位置に取り付けられている。圧力センサ31は、車体コントローラ11Aに接続されており、検出値を車体コントローラ11Aにおけるメータリング線図補正部104(図7参照)に出力している。
【0077】
回転数センサ(回転数検出手段)32は、エンジン7の実回転数を検出するものであり、ECU21に接続されている。回転数センサ32の検出値はECU21を介して車体コントローラ11Aにおけるメータリング線図補正部104に出力されている。
【0078】
図7は本発明の他の実施の形態に係る車体コントローラ11Aの構成図である。この図に示す車体コントローラ11Aはメータリング線図補正部104を備えている。メータリング線図補正部104は、記憶部105に記憶されたメータリング線図61,62を圧力センサ31及び回転数センサ32の検出値に応じて補正する処理を適宜実行する部分であり、補正後のメータリング線図61B,62B(図8参照)を第1設定流量演算部100及び第2設定流量演算部101に出力している。
【0079】
図8は本発明の他の実施の形態における補正後のメータリング線図61B,62Bを示す図である。この図に示したメータリング線図としては、回生回路線図61Bと、流量調整回路線図62Bがある。回生回路線図61Bは、図4の回生回路線図61を補正したメータリング線図であり、流量調整回路線図62Bは、図4の流量調整回路線図62を補正したメータリング線図である。合計流量線図63Bは、補正後の回生回路線図61B及び流量調整回路線図62Bによって規定される各回路53,54の合計流量と操作装置4Aの操作量との関係を示したメータリング線図である。合計流量線図63Bが示す合計流量は、図4の場合と同様に操作装置4Aの操作量の増加に比例して増加している。
【0080】
本実施の形態におけるメータリング線図補正部104は、圧力センサ31によって検出される圧力及び回転数センサ32によって検出されるエンジン実回転数の増加に伴ってメータアウト流量(合計流量)が減少するように図4の線図61,62をそれぞれ補正して線図61B,62Bを作成する。この図に示す補正後の線図(補正線図)61B,62B,63Bは、圧力センサ31によって検出された圧力が線図61,62,63に対応する圧力(基準圧力)より大きかったため、当該基準圧力と検出圧力の偏差の大きさに基づいてメータアウト流量が減少するように作成した場合のものである。ここでは図示して説明しないが、圧力センサ31の検出圧力が基準圧力より小さい場合には、図4の線図61,62,63よりもメータアウト流量を増加させたものを補正線図とすれば良い。回転数センサ32の検出回転数に基づいてメータリング線図を補正する場合についても同様である。
【0081】
補正線図61B,62Bの入力を受けた第1設定流量演算部100及び第2設定流量演算部101は、圧力センサ20の検出値から操作装置4Aの操作量を演算し、当該演算した操作量と当該補正線図61B,62Bに基づいて流量Q1と流量Q2を演算し、演算した流量Q1,Q2をモータ指令値演算部102及び比例弁出力値演算部103に出力する。以降の処理は先の実施の形態と同様に行われ、これにより流量調整回路54と回生回路53における戻り油の流量が補正線図61B,62Bに基づいて制御される。
【0082】
ところで、ブーム1aに作用する負荷が変化すると、ブームシリンダ3aのボトム側油圧室55からの戻り油の流量(メータアウト流量)が当該負荷の大きさに応じて変化してしまう。そのため、負荷が変化する際にもメータリング線図を固定にして運用すると、ブーム負荷の変動によってブーム下げの速度が変化し、ブーム下げ時の操作フィーリングにオペレータが違和感を覚える結果となる。また、ブーム1aに作用する負荷が変化すると、エンジン7の実回転数が変動し、エンジン7に連結された油圧ポンプ6の回転数が変化する。そのため、ブームシリンダ3aに供給される圧油の流量も変化するので、ボトム側油圧室55からの戻り油の流量がエンジン回転数に応じて変化してしまう。その結果、先の場合と同様に、オペレータが操作フィーリングに違和感を覚えることになる。
【0083】
そこで、本実施の形態では、これらの点を鑑みてブームシリンダ3aのボトム側圧力とエンジン7の実回転数の増加に伴ってメータアウト流量が減少するようにメータリング線図を補正することとした。このようにメータリング線図を補正すると、ブーム1aに作用する負荷が変化してもブーム下げ操作時におけるメータアウト流量の変化を抑制することができるので、オペレータの操作フィーリングを良好に保持することができる。
【0084】
なお、ここでは、ブームシリンダ3aのボトム側圧力とエンジン7の実回転数の増加に伴ってメータアウト流量が減少するようにメータリング線図を補正することとしたが、ブームシリンダ3aのボトム側圧力及びエンジン7の実回転数の少なくとも一方の増加に伴ってメータアウト流量が減少するようにメータリング線図を補正すれば良い。
【0085】
また、先に説明した場合と同様に、本実施の形態においても、ブーム下げ操作時の戻り油を流す回路を選択する基準となる操作装置4Aの操作量(第1設定値L1及び第2設定値L2)をオペレータによって変更可能にしても良い。
【0086】
ところで、本実施の形態ではボトム側圧力及びエンジン回転数の変化に伴って、流量調整回路54に係る流量調整回路線図62B)と回生回路53に係る回生回路線図61Bとの間に不整合が生じるおそれがある。図9はこれら2つの線図61B,62Bの間に不整合が生じた場合を示す図である。この図に示すAの部分に2つの線図61B,62Bに不整合が生じている。このように不整合が生じるとブーム下げ操作時にショックが生じるので、流量調整回路54に係るメータリング線図は次の図10に示すような形状とすることが好ましい。
【0087】
図10は、本発明の他の実施の形態において、流量調整回路54側を流れる戻り油の流量Q2と操作装置4Aの操作量との関係を示す流量調整回路線図62Cを示す図である。この図において、流量調整回路線図62Cは、第1設定値L1で最大値をとる凸状の形状をしており、その第1設定値の前後で滑らかな曲線状に変化するように形成されている(図中のBの部分参照)。すなわち、流量調整回路線図62Cを示す関数は、第1設定値において微分可能になっている。
【0088】
このように流量調整回路線図62Cを形成すると、ブーム1aに作用する負荷が変化する場合に、流量調整回路54を主体とした微操作域から回生回路53に流量を生じる中間域に徐々に遷移しても(又はその逆の方向に遷移しても)、ブーム1aの負荷の変化によって生じる流量の誤差の影響を小さくできる。これによりブーム下げ操作時にショックが生じることが抑制されるので、ブーム下げ時の操作フィーリングにオペレータが違和感を覚えることなく、良好な操作フィーリングを保持することができる。
【0089】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、各種の変更が可能である。例えば、上記の各実施の形態では、エンジン7に動力変換機10を連結させ、当該動力変換機10が、エンジン7の動力を電気エネルギーに変換してインバータ12,13等に電気エネルギーを出力する発電機としての機能と、その電気エネルギーの一部を利用して油圧ポンプ6をアシスト駆動する電動機としての機能とを発揮する構成としているが、この動力変換機10を省略してエンジン7に油圧ポンプ6を直結しても良い。同様に、上部旋回体1dの駆動源として電動機16を備えることとしたが、これに代えて油圧モータを用いても良い。
【符号の説明】
【0090】
1a ブーム
3a ブームシリンダ
4A 操作装置
5A コントロールバルブ
6 油圧ポンプ
7 エンジン
9 タンク
11 車体コントローラ
15 バッテリ
20 圧力センサ
24 油圧モータ
25 発電機
27 比例弁
28 チェックバルブ
31 圧力センサ
32 回転数センサ
51 油路
52 分岐部
53 回生回路(第1回路)
54 流量調整回路(第2回路)
55 ボトム側油圧室
70 動力回生装置
100 第1設定流量演算部
101 第2設定流量演算部
102 モータ指令値演算部
103 比例弁出力値演算部
104 メータリング線図補正部
105 記憶部
Q1 回生回路流量(第1設定流量)
Q2 流量調整回路流量(第2設定流量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作量に応じた操作信号を出力する操作装置と、この操作装置から出力される操作信号に基づいて伸縮する油圧シリンダと、エンジンによって駆動され前記油圧シリンダに圧油を供給する油圧ポンプとを備える作業機械の動力回生装置において、
前記油圧シリンダの油圧室に接続され、当該油圧室からの戻り油のエネルギーを電気エネルギーに変換するための回生手段を介して当該戻り油をタンクに導く第1回路と、
前記油圧室に接続され、当該油圧室からの戻り油をタンクに導く第2回路と、
前記操作装置の操作量ごとに定められた第1設定流量に基づいて、前記第1回路を流れる戻り油の流量を調整する第1流量調整手段と、
前記操作装置の操作量ごとに定められた第2設定流量に基づいて、前記第2回路を流れる戻り油の流量を調整する第2流量調整手段とを備え、
前記第1設定流量及び前記第2設定流量は、前記油圧シリンダに作用する油圧負荷の増加に伴って減少するように補正されることを特徴とする作業機械の動力回生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機械の動力回生装置において、
前記第1設定流量と前記第2設定流量の合計値は、前記操作装置の操作量の増加に比例し、
前記合計値における前記第1設定流量の割合は、前記操作装置の操作量の増加に比例することを特徴とする作業機械の動力回生装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の作業機械の動力回生装置において、
前記第2設定流量は、前記操作装置の操作量の関数で定義されており、
当該関数は、所定の操作量で最大値をとり、当該所定の操作量の前後で滑らかに変化していることを特徴とする作業機械の動力回生装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の作業機械の動力回生装置において、
前記油圧シリンダに作用する油圧負荷の変化は、前記油圧シリンダのボトム側圧力及び前記エンジンの実回転数のうち少なくとも一方によって検出されることを特徴とする作業機械の動力回生装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の作業機械の動力回生装置において、
前記回生手段は、発電機に接続され、前記油圧室からの戻り油で駆動する油圧モータであり、
前記第1設定流量及び前記第2設定流量は、前記油圧シリンダが縮短される場合における前記操作装置の操作量ごとに記憶手段に記憶されていることを特徴とする作業機械の動力回生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−68291(P2013−68291A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208129(P2011−208129)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】