説明

作業機械の気泡除去装置

【課題】占有スペースが小さく、かつ作動油中に存在する気泡及び作動油中に溶存している気泡核を効率的に除去可能な気泡除去装置を提供する。
【解決手段】作業機械の気泡除去装置100を、高圧導入口11を通して高圧の作動油が導入される高圧室1と、低圧導入口21a,22a,23a,24aを通して低圧の作動油が導入される低圧室2と、これら高圧室1と低圧室2とを仕切る隔壁3と、高圧室1の蓋板1bと隔壁3に固定され下端部が低圧室2内に突出された排気管5から構成する。低圧室2内に旋回流Rを発生させると共に、隔壁3に設けられた絞り4によってジェット噴流Jを発生させ、低圧室2内に噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機械の気泡除去装置に係り、特に、作動油中に溶存している微小な気泡核までも除去可能な気泡除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルや油圧式ホイールローダなどの油圧作業機械では、油圧ポンプから吐出される作動油で油圧アクチュエータが駆動される。したがって、油圧作業機械には、所定量の作動油を貯える作動油タンク、作動油タンクに貯えられた作動油を圧送する油圧ポンプ、油圧ポンプから吐出された作動油の流れを切り換える方向切換弁、方向切換弁を介して導かれた作動油により駆動される油圧アクチュエータ、油圧アクチュエータから戻った作動油を冷却するオイルクーラ等から構成される油圧回路が備えられる。
【0003】
油圧回路中を流れる作動油中に気泡が含まれていると、低圧部分でキャビテーションが発生し、作動油の圧縮性増大に起因する油圧作業機械の動作の不安定化、振動・騒音の増大及びエロージョンに起因する回路破壊の要因となる。従来、このような不都合の発生を防止するため、気泡が混入した作動油に旋回流を生じさせ、作動油よりも比重の小さい気泡を旋回流の中心寄りに集約させて除去する気泡除去装置が備えられている(例えば、特許文献1参照。)。なお、液体に旋回流を生じさせることによって液体中の気泡を除去する技術は、油圧作業機械に特有のものではなく、潤滑油、コート液、塗料、インキ、流動性食品などの脱泡を行う一般的な気泡除去装置にも応用されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、これとは異なる原理を利用した気泡除去技術としては、流体の流れライン中に絞りを設け、絞りの両端間の圧力降下を調整して局所的にキャビテーションを生じさせ、流体内に溶解している気泡核を気泡に成長させて分離するものが従来知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4467558号公報
【特許文献2】特許第3261506号公報
【特許文献3】特開平03−118803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載の気泡除去装置と特許文献3に記載の気泡除去装置とを組み合わせれば、作動油中に存在する気泡のみならず作動油中に溶存している気泡核についても、除去することができるものと考えられる。
【0007】
しかしながら、これら2種の気泡除去装置を個別に設置することは、大きな占有スペースが必要になることから、実現が困難である。
【0008】
また、特許文献3には、絞りの直下の中心位置にガス排出配管のガス導入口を配置する技術が開示されているが、キャビテーションは流体の圧力が高く、かつ流速が大きい部位で発生するので、絞りの壁面に沿った部位で発生するものと考えられ、その中心部にガスが集約するとは考えにくい。したがって、特許文献3に記載の技術によっては、発生した気泡を効率的に除去することが困難であり、この点に改良の余地がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、占有スペースが小さく、かつ作動油中に存在する気泡及び作動油中に溶存している気泡核を効率的に除去可能な気泡除去装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、高圧導入口を通して高圧の作動油が導入される高圧室と、低圧導入口を通して低圧の作動油が導入される低圧室と、前記高圧室と前記低圧室とを仕切る隔壁と、前記高圧室の蓋板及び前記隔壁に固定され、下端部が前記低圧室内に突出された排気管とを有し、前記低圧室は、前記隔壁と対向する位置に作動油排出口を有していて、前記隔壁側から前記作動油排出口側に至るにしたがって直径が小さくなる円錐状に形成されており、前記低圧導入口は、前記低圧室の前記隔壁寄りに形成されていて、低圧の作動油を前記低圧室の内面の接線方向に噴射し、前記隔壁には、前記低圧室内で生じる旋回流に向けて高圧の作動油のジェット噴流を噴射する絞りを設け、前記低圧室内で作動油から分離された気体を、前記排気管を通して外部に排出することを特徴とする。
【0011】
かかる構成によると、低圧室を円錐状に形成し、低圧導入口から導入された低圧の作動油を低圧室の内面の接線方向に噴射するので、低圧室内で作動油の旋回流が発生し、低圧の作動油中に混入した気泡を旋回流の中心側に集約させて除去することができる。また、高圧室と低圧室との間に絞りを設け、該絞りから噴射されるジェット噴流を低圧室内に噴射するので、ジェット噴流内で局部的なキャビテーションが発生し、高圧の作動油中に溶存した微小な気泡核が気泡となる。このようにして発生した気泡も旋回流によりその中心側に集約され、排気管から除去される。さらに、かかる構成によると、気泡の除去機構と気泡核の除去機構とを一体化できるので、作業機械における気泡除去装置の占有スペースを小さくすることができる。
【0012】
また本発明は、前記構成の作業機械の気泡除去装置において、前記絞りは、前記高圧室側に向けて配置される小径の第1ノズル孔と、前記低圧室側に向けて配置される前記第1ノズル孔よりも大径の第2ノズル孔とを有する二段構造であることを特徴とする。
【0013】
絞りを二段絞り構造にすると、大径の第2ノズル孔の全体がキャビテーションを発生させるための負圧領域として機能するので、効率的にキャビテーションを発生させることができて、高圧の作動油中からの気泡の除去効率を高めることができる。
【0014】
また本発明は、前記構成の作業機械の気泡除去装置において、前記隔壁に複数の前記絞りを備え、これら複数の前記絞りを前記低圧室の中心軸に関して軸対称の位置に設定すると共に、これら複数の前記絞りから噴射される各ジェット噴流を、前記低圧室内で生じる旋回流の接線方向に噴射することを特徴とする。
【0015】
かかる構成によると、複数の絞りから噴射される各ジェット噴流を、低圧室内で生じる旋回流の接線方向に噴射するので、低圧室内で生じる旋回流がジェット噴流の噴射によって強化され、作動油中からの気泡の除去をより効率化することができる。
【0016】
また本発明は、前記構成の作業機械の気泡除去装置において、前記低圧室に複数の前記低圧導入口を設け、これら複数の前記低圧導入口を前記低圧室の中心軸に関して軸対称の位置に設定して、これら複数の前記低圧導入口から前記低圧室の同一方向に作動油を噴射することを特徴とする。
【0017】
かかる構成によると、複数の低圧導入口が低圧室の中心軸に関して軸対称の位置に設定され、かつ各低圧導入口から作動油が低圧室の同一方向に噴射されるので、低圧室の周方向における旋回流の速度変化を小さくすることができ、作動油中からの気泡の除去をより効率化することができる。
【0018】
また本発明は、前記構成の作業機械の気泡除去装置において、作業機械に搭載される油圧回路中のデリベリ回路を前記高圧導入口に接続し、前記油圧回路中のリターン回路を前記低圧導入口に接続し、前記油圧回路中のオイルタンクに前記作動油排出口を接続したことを特徴とする。
【0019】
デリベリ回路は、油圧ポンプの吐出側回路であり、高圧の作動油が流通する。これに対してリターン回路は、油圧アクチュエータを出てオイルタンクに戻る回路であり、低圧の作動油が流通する。したがって、デリベリ回路を気泡除去装置の高圧導入口に接続し、リターン回路を気泡除去装置の低圧導入口に接続すれば、油圧作業機械の油圧回路に特別な高圧回路及び低圧回路を備える必要がないので、気泡除去装置の設置を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の気泡除去装置は、高圧の作動油を導入する高圧室と、低圧の作動油を導入し、その内部で旋回流を発生させる低圧室と、これらの各室を仕切る隔壁と、高圧室内の作動油をジェット噴流にして低圧室内の旋回流に噴射する絞りとを一体に構成したので、小型に構成することができ、作業機械における気泡除去装置の占有スペースを小さくすることができる。また、低圧室内において旋回流を生じさせるので、低圧の作動油中の気泡を除去できると共に、高圧室と低圧室とを仕切る隔壁に絞りを設けて、高圧室内に導入された高圧の作動油をジェット噴流にして低圧室内に噴射するので、高圧の作動油中に溶存された微小な気泡核も除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態に係る気泡除去装置の縦断面図である。
【図2】実施形態に係る気泡除去装置の横断面図である。
【図3】図1のA部拡大図である。
【図4】気泡除去装置を備えた油圧回路の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る気泡除去装置の実施形態を、図を参照しながら説明する。
【0023】
図1及び図2に示すように、実施形態に係る気泡除去装置100は、円筒形の胴部1aと該胴部1aの上端部を覆う蓋板1bとからなる有蓋円筒形の高圧室1と、高圧室1の下端部にこれと一体に形成された中空円錐状の低圧室2と、高圧室1と低圧室2とを仕切る隔壁3と、隔壁3設けられた複数個の絞り4と、蓋板1bと隔壁3とに貫通保持され、下部開口が低圧室2の上部中心位置に配設された排気管5をもって構成されている。
【0024】
高圧室1には、高圧の作動油を導入するための高圧導入口11が設けられる。高圧導入口11は、高圧室1について1つのみ設ければ足りる。
【0025】
低圧室2の隔壁3寄りの部分には、図2に示すように、複数個(図2の例では、4個)の低圧導入口21a,22a,23a,24aが設けられる。これら複数個の低圧導入口21a,22a,23a,24aは、低圧室2の周方向に等分に配設される。また、各低圧導入口21a,22a,23a,24aの内側には、低圧の作動油を低圧室2の内面の接線方向に導くための案内板21b,22b,23b,24bが設けられる。これにより、低圧導入口21a,22a,23a,24aを通って低圧室2内に導入された低圧の作動油が、案内板21b,22b,23b,24bに導かれて低圧室2の内面の接線方向に流れるので、低圧室2内には低圧の作動油の旋回流Rが発生する。周知のように旋回流Rの中心部位には軽量の気泡が集まるので、集まった気体を排気管5を通して外部に排出することができる。
【0026】
なお、低圧室2に設けられる低圧導入口21a,22a,23a,24a及び案内板21b,22b,23b,24bの数は、4個に限られるものではなく、1個又は任意の複数個とすることができる。複数個の低圧導入口21a,22a,23a,24a及び案内板21b,22b,23b,24bを設ける場合には、安定な旋回流Rを生成するため、低圧室2の周方向に等間隔で配置することが好ましい。
【0027】
低圧室2の下端部には、作動油排出口25が開口されており、気泡及び気泡核が除去された作動油は、この作動油排出口25を通して外部に排出される。
【0028】
隔壁3は、図1に示すように、センタ孔3aを有する傘状に形成されており、該センタ孔3a内に排気管5が貫通固定されると共に、外周部が高圧室1を構成する胴部1aの内面に固定される。隔壁3には、図2に示すように、複数個(図2の例では、4個)の絞り4が設けられる。これらの各絞り4は、高圧室1と低圧室2との作動油の圧力差を利用して、低圧室2内に高圧室1内の作動油のジェット噴流Jを噴射するもので、図2に示すように、各ジェット噴流Jが低圧室2内において生成された旋回流Rの接線方向に噴射されるように配置される。これにより、低圧室2内に強力な旋回流Rが生成され、作動油に混入された気泡の除去が効率化される。また、低圧室2内にジェット噴流Jを噴射すると、局部的なキャビテーションが発生し、高圧の作動油内に溶存している微小な気泡核が成長して気泡となるので、これについても旋回流Rの作用により作動油から分離され、排気管5を通って外部に排出される。
【0029】
なお、隔壁3に設けられる絞り4の数は、4個に限られるものではなく、1個又は任意の複数個とすることができる。複数個の絞り4を設ける場合には、安定で強力な旋回流Rを生成するため、低圧室2の軸方向に関して軸対称の位置(隔壁3の周方向に等間隔)で配置することが好ましい。
【0030】
実施形態に係る絞り4は、図3に拡大して示すように、高圧室1側に向けて配置された小径の第1ノズル孔4aと、低圧室2側に向けて配置された、第1ノズル孔4aよりも大径の第2ノズル孔4bとを有する二段構造になっている。かかる構成によると、大径の第2ノズル孔4bがキャビテーションを発生させるための負圧領域として機能するため、効率的にキャビテーションを発生させることができて、高圧の作動油中からの気泡の除去効率を高めることができる。
【0031】
実施形態に気泡除去装置100は、図4に示すように、作業機械に搭載された作業用油圧回路200のデリベリ回路(油圧ポンプ201の吐出側回路)202を高圧導入口11に接続し、オイルタンク203へのリターン回路204を低圧導入口21a,22a,23a,24aに接続し、オイルタンク203に作動油排出口25を接続することにより、作業用油圧回路200に組み込まれる。デリベリ回路202には、油圧ポンプ201から吐出された高圧の作動油が流通し、リターン回路204には、コントロールバルブ205を介して、図示しない油圧アクチュエータからオイルタンク203に戻る低圧の作動油が流通するので、図4の構成によると、作業用油圧回路200に特別な高圧回路及び低圧回路を備える必要がなく、気泡除去装置100の設置を容易に行うことができる。
【0032】
上述のように、実施形態に気泡除去装置100は、高圧の作動油を導入する高圧室1と、低圧の作動油を導入し、その内部で旋回流Rを発生させる低圧室2と、これらの各室1,2を仕切る隔壁3と、高圧室1内の作動油をジェット噴流Jにして低圧室2内の旋回流Rに噴射する絞り4とを一体に構成したので、小型に構成することができ、作業機械における気泡除去装置100の占有スペースを小さくすることができる。また、低圧室2内において旋回流Rを生じさせるので、低圧の作動油中の気泡を除去できると共に、高圧室1と低圧室2とを仕切る隔壁3に絞り4を設けて、高圧室内に導入された高圧の作動油をジェット噴流Jにして低圧室2内に噴射するので、高圧の作動油中に溶存された微小な気泡核も除去することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 高圧室
1a 胴部
1b 蓋板
2 低圧室
3 隔壁
4 絞り
5 排気管
11 高圧導入口
21a,22a,23a,24a 低圧導入口
21b,22b,23b,24b 案内板
25 作動油排出口
100 気泡除去装置
200 作業用油圧回路
201 油圧ポンプ
202 デリベリ回路
203 オイルタンク
204 リターン回路
205 コントロールバルブ
J ジェット噴流
R 旋回流


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧導入口を通して高圧の作動油が導入される高圧室と、低圧導入口を通して低圧の作動油が導入される低圧室と、前記高圧室と前記低圧室とを仕切る隔壁と、前記高圧室の蓋板及び前記隔壁に固定され、下端部が前記低圧室内に突出された排気管とを有し、
前記低圧室は、前記隔壁と対向する位置に作動油排出口を有していて、前記隔壁側から前記作動油排出口側に至るにしたがって直径が小さくなる円錐状に形成されており、
前記低圧導入口は、前記低圧室の前記隔壁寄りに形成されていて、低圧の作動油を前記低圧室の内面の接線方向に噴射し、
前記隔壁には、前記低圧室内で生じる旋回流に向けて高圧の作動油のジェット噴流を噴射する絞りを設け、前記低圧室内で作動油から分離された気体を、前記排気管を通して外部に排出することを特徴とする作業機械の気泡除去装置。
【請求項2】
前記絞りは、前記高圧室側に向けて配置される小径の第1ノズル孔と、前記低圧室側に向けて配置される前記第1ノズル孔よりも大径の第2ノズル孔とを有する二段構造であることを特徴とする請求項1に記載の作業機械の気泡除去装置。
【請求項3】
前記隔壁に複数の前記絞りを備え、これら複数の前記絞りを前記低圧室の中心軸に関して軸対称の位置に設定すると共に、これら複数の前記絞りから噴射される各ジェット噴流を、前記低圧室内で生じる旋回流の接線方向に噴射することを特徴とする請求項1に記載の作業機械の気泡除去装置。
【請求項4】
前記低圧室に複数の前記低圧導入口を設け、これら複数の前記低圧導入口を前記低圧室の中心軸に関して軸対称の位置に設定して、これら複数の前記低圧導入口から前記低圧室の同一方向に作動油を噴射することを特徴とする請求項1に記載の作業機械の気泡除去装置。
【請求項5】
作業機械に搭載される油圧回路中のデリベリ回路を前記高圧導入口に接続し、前記油圧回路中のリターン回路を前記低圧導入口に接続し、前記油圧回路中のオイルタンクに前記作動油排出口を接続したことを特徴とする請求項1に記載の作業機械の気泡除去装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−2031(P2013−2031A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130524(P2011−130524)
【出願日】平成23年6月10日(2011.6.10)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】