説明

作業機械用キャブ

【課題】左右いずれの方向からの側方荷重に対してもキャブ剛性を高めることができ、これによってキャブ本体の傾き量を低減することのできる作業機械用キャブを提供する。
【解決手段】フロアフレーム5上に立設される左右のフロントピラー7,7′、左右のセンタピラー8,8′および左右のリアピラー9,9′と、左右のセンタピラー8,8′と左右のリアピラー9,9′とで囲まれる空間内に配されるようにフロアフレーム5上に設置される運転席10とを備える作業機械用キャブにおいて、左右のセンタピラー8,8′と、左右のセンタピラー8,8′の上端部を繋ぐ中間横梁部材35と、左右のセンタピラー8,8′の下端部を繋ぐ横部材36とで環状構造体37を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばブルドーザ等の作業機械に搭載されて好適な作業機械用キャブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばブルドーザに搭載されているキャブ100は、図6(a)に示されるように、フロアフレーム101にキャブ本体102が一体的に設けられて構成されている。前記キャブ本体102は、フロアフレーム101上に立設される左右のフロントピラー103,103′、左右のセンタピラー104,104′および左右のリアピラー105,105′と、左右のセンタピラー104,104′の上端部を繋ぐ中間横梁部材106とを備えて構成されている。このキャブ100においては、図示されないオペレータが着座する運転席(オペシート)107が、前記左右のセンタピラー104,104′と左右のリアピラー105,105′とで囲まれる空間内に配されるように前記フロアフレーム101上に設置されている。
【0003】
ここで、前記フロアフレーム101は主に、(A)運転席107にオペレータが着座した際におけるオペレータの足元周りに対応する部分が開口され、オペレータの足元周りの床面の外周部分を構成する足元フロア枠プレート108と、この足元フロア枠プレート108に段上がり状に連設され、運転席107に対応する部分が開口されて運転席107の床面の外周部分を構成する運転席フロア枠プレート109とよりなるフロア枠プレート110と、(B)運転席107を取り囲むように前記運転席フロア枠プレート109に連設される左サイドパネル111、リアパネル112および右サイドパネル113と、(C)前記運転席フロア枠プレート109における開口を塞ぐようにその運転席フロア枠プレート109に着脱可能に取着される運転席フロアプレート114とが組み合わされて構成され、略箱型構造を呈している。また、前記運転席107は、サスペンション機能や高さ調節機能を有する台座116を介して前記運転席フロアプレート114に取り付けられている。
【0004】
次に、前記キャブ100に対し、例えばキャブ100を前方より見て要部をスケルトンで表わした図6(b)に示されるように側方荷重Fが作用した場合のキャブ100の変形について、この図6(b)を用いて以下に説明する。図6(b)のスケルトン図において、側方荷重Fがキャブ100の頂部に対し左側(図では右側)から作用すると、左センタピラー104および右センタピラー104′がそれぞれ右側(図では左側)に傾き(図中二点鎖線参照)、たわみ限界領域(deflection−limiting volume:大型の男性運転員が運転席に腰をかけ、通常の着衣でヘルメットを着用した状態を箱形形状で近似させたもの。以下、「DLV」と称する。)とキャブ100の左側部構造部材との隙間が小さくなる。なお、図6(b)に示される例とは逆側から側方荷重Fが作用した場合についても同様に、DLVとキャブ100の右側部構造部材との隙間が小さくなる。
【0005】
近時、オペレータ保護の観点から、側方荷重Fが作用した時にDLVとキャブ本体との接近を低減することが望まれており、このような要望に応え得るものとして、例えば特許文献1にて提案されている建設機械用キャブがある。
【0006】
【特許文献1】特開2005−170332号公報
【0007】
前記特許文献1に係る建設機械用キャブ200は、油圧ショベルのキャブとして好適に用いられるものであって、図7に示されるように、キャブ200の床板201上で左右方向に延び、床板201の強度を高める床板補強部材202と、この床板補強部材202の左端部とキャブボックス203のセンタピラー204とを連結する連結部材205とからなる補強装置206を設ける構成とされている。したがって、補強装置206は、床板201を補強した上でセンタピラー204の根本部分を強化することができるから、補強装置206は、センタピラー204に対して左方向から作用する荷重に対し、キャブボックス203の強度を高めることができ、キャブ200に対し左側から側方荷重Fが作用した際のキャブボックス203の傾き量を低減することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記特許文献1に係るキャブ200では、キャブ200に対し左側から側方荷重Fが作用した場合には補強装置206によりキャブボックス203の強度を高めることができるものの、これとは逆にキャブ200に対し右側から側方荷重Fが作用した場合には補強装置206が十分に機能しないため、キャブボックス203の強度を高めることができないという問題点がある。つまり、特許文献1に係る技術は、キャブの一側方(具体的には右側方)に作業機が設けられ、右側に転倒した際にその作業機によってキャブが保護される構成の作業機械(具体的には油圧ショベル)にのみ適用し得るものである。したがって、キャブの左右いずれの側方にも作業機が設けられず、転倒する方向によって左右いずれの方向からもキャブに対し側方荷重が作用する構成の作業機械(例えばブルドーザ)に当該技術をそのまま適用することはできない。
【0009】
本発明は、このような問題点等に鑑みてなされたもので、左右いずれの方向からの側方荷重に対してもキャブ剛性を高めることができ、これによってキャブ本体の傾き量を低減することのできる、すなわちDLVとキャブ本体との接近を低減することのできる作業機械用キャブを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明による作業機械用キャブは、
フロアフレーム上に立設される左右のフロントピラー、左右のセンタピラーおよび左右のリアピラーと、
前記左右のセンタピラーと左右のリアピラーとで囲まれる空間内に配されるように前記フロアフレーム上に設置される運転席と、
前記左右のセンタピラーの上端部を繋ぐ中間横梁部材と、
前記左右のセンタピラーの下端部を繋ぐ横部材と、
を備えることを特徴とするものである(第1発明)。
【0011】
本発明において、前記横部材は、前記運転席側に湾曲されているのが好ましい(第2発明)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、左右のセンタピラーと、この左右のセンタピラーの上端部を繋ぐ中間横梁部材と、この左右のセンタピラーの下端部を繋ぐ横部材とによってキャブ前後方向中間部に環状構造体が構築されるので、左右いずれの方向からの側方荷重に対してもキャブ剛性を高めることができる。また、左右のセンタピラーの下端部を繋ぐ横部材により、運転席が設置される床面の変形が抑えられる。したがって、左右の側方荷重に対するキャブ本体の傾き量を低減することができ、DLVとキャブ本体との接近を低減することができる。
【0013】
また、第2発明の構成を採用することにより、オペレータの足元周りのスペースをより広く確保することができ、オペレータの起立・着席動作時におけるオペレータの足と横部材との干渉を未然に防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明による作業機械用キャブの具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下に述べる実施の形態は、作業機械としてブルドーザに搭載されるキャブに本発明が適用された例である。
【0015】
〔第1の実施形態〕
図1には、本発明の第1の実施形態に係るキャブの車体フレームへの組付状態を表わす全体斜視図が示されている。また、図2には第1の実施形態に係るキャブの上方斜視図が、図3には同キャブの下方斜視図がそれぞれ示されている。
【0016】
本実施形態のキャブ1は、図1に示されるように、ブルドーザの車体を形成する車体フレーム2に立設されるキャブ支持ブラケット3に防振マウント装置4を介して弾性的に支持されている。なお、図示による詳細説明は省略するが、前記車体フレーム2内にはエンジンやトランスミッション等のパワートレインが組み込まれ、同車体フレーム2の両側には履帯式走行装置が装備され、同車体フレームの前方にはブレード等の作業機が配備される。
【0017】
前記キャブ1は、図2に示されるように、略箱型構造のフロアフレーム5と、このフロアフレーム5上に一体的に設けられるキャブ本体6とを備えて構成され、上方から見てその前部が先細りの台形状でその後部が矩形状を呈し、全体として截頭六角錐状に形成されている。ここで、前記キャブ本体6は、フロアフレーム5の前端部に立設される左右のフロントピラー7,7′と、同フロアフレーム5の前後方向中間部に立設される左右のセンタピラー8,8′と、同フロアフレーム5の後端部に立設される左右のリアピラー9,9′とを備えて構成されている。そして、このキャブ1においては、図示されないオペレータが着座する運転席(オペシート)10が、前記左右のセンタピラー8,8′と左右のリアピラー9,9′とで囲まれる空間内に配されるように前記フロアフレーム5上に設置されている。
【0018】
前記フロアフレーム5は、その基底部に配されるフロア枠プレート11を備えている。このフロア枠プレート11は、運転席10にオペレータが着座した際におけるオペレータの足元周りに対応する部分が開口され、オペレータの足元周りの床面の外周部分を構成する足元フロア枠プレート12と、この足元フロア枠プレート12に後述する横部材36を介して段上がり状に連設され、運転席10に対応する部分が開口されて運転席10の床面の外周部分を構成する運転席フロア枠プレート13とにより構成されている。
【0019】
前記運転席フロア枠プレート13には、運転席10を取り囲むように左サイドパネル14、リアパネル15および右サイドパネル16がそれぞれ連設されている。こうして、フロアフレーム5においては、主に運転席フロア枠プレート13、左サイドパネル14、リアパネル15および右サイドパネル16によって前方に開放された平面視略コの字状の箱形構造体が構築され、この箱形構造体により運転席10周りのフレーム剛性を高めるようにされている。
【0020】
さらに、前記運転席フロア枠プレート13には、その開口を塞ぐように運転席フロアプレート25が着脱可能に取り付けられ、この運転席フロアプレート25に、サスペンション機能や高さ調節機能を有する台座26を介して前記運転席10が取り付けられている。
【0021】
前記キャブ本体6において、その上端部には、前記左右のフロントピラー7,7′、左右のセンタピラー8,8′および左右のリアピラー9,9′を繋ぐルーフ枠にルーフパネルが貼り付けられてなるルーフ部30が形成されている。
【0022】
前記左センタピラー8の上端部と前記右センタピラー8′の上端部は、キャブ本体6の中間位置で左右方向に延びる中間横梁部材35により接続されている。また、前記左センタピラー8の下端部と前記右センタピラー8′の下端部は、左右方向に延びる四角筒状パイプよりなる横部材36によって接続されている。こうして、左右のセンタピラー8,8′と、左右のセンタピラー8,8′の上端部を繋ぐ中間横梁部材35と、左右のセンタピラー8,8′の下端部を繋ぐ横部材36とによってキャブ前後方向中間部に環状構造体37が構築され、この環状構造体37によりキャブ本体6の剛性が高められるようになっている。ここで、前記足元フロア枠プレート12と前記運転席フロア枠プレート13は前記横部材36を介して連設されているから、横部材36は足元フロア枠プレート12および運転席フロア枠プレート13のそれぞれの剛性を高める補強部材としても機能し、左右のセンタピラー8,8′の左右方向の変形に伴うフロア枠プレート11の変形を抑えることができる。さらに、前記横部材36はその左右両側部の前面が左右のセンタピラー8,8′の後面に突き合わされた状態でそれら左右のセンタピラー8,8′に接合されるとともに、前記横部材36の左右方向中間部は運転席10側に湾曲されて運転席フロアプレート25の直下に配されている。これにより、オペレータの足元周りのスペースをより広く確保することができ、オペレータの起立・着席動作時におけるオペレータの足と横部材36との干渉を未然に防ぐことができる。また、前記横部材36の左右方向中間部が運転席10側に湾曲されて運転席フロアプレート25の直下に配されているから、運転席10の実質的な取付面を形成する運転席フロアプレート25を補強することができる。
【0023】
次に、以上に述べたように構成されるキャブ1において、例えばキャブ1を前方より見て要部をスケルトンで表わした図4に示されるように左側(図では右側)から側方荷重F(従来のキャブ100に作用させた側方荷重と同じ大きさ)が作用した場合のキャブ1の変形について、この図4を用いて以下に説明する。図4のスケルトン図において、側方荷重Fがキャブ1の頂部に対し左側(図では右側)から作用すると、左センタピラー8および右センタピラー8′がそれぞれ右側(図では左側)に傾き(図中二点鎖線参照)、DLVとキャブ1の左側部構造部材との隙間が小さくなる。
【0024】
本実施形態のキャブ1では、左右のセンタピラー8,8′と、この左右のセンタピラー8,8′の上端部を繋ぐ中間横梁部材35と、この左右のセンタピラー8,8′の下端部を繋ぐ横部材36とによってキャブ前後方向中間部に環状構造体37が構築され、この環状構造体37によりキャブ本体6の剛性が高められるので、キャブ本体6の変形を従来のキャブ本体102のそれよりも抑えることができる。また、横部材36によってフロア枠プレート11の剛性を高めることができる。したがって、キャブ本体6の傾き量θ,θを従来のキャブ100におけるそれ(θ11,θ12:図6(b)参照)よりも低減することができ、DLVとキャブ本体6との接近を低減することができる。なお、キャブ1に対し、図4に示される例とは逆側から側方荷重Fが作用した場合についても、環状構造体37によりキャブ本体6の変形を抑えることができ、また横部材36によってフロア枠プレート11の変形を抑えることができるのは言うまでもない。
【0025】
〔第2の実施形態〕
図5には、本発明の第2の実施形態に係るキャブの上方斜視図が示されている。なお、本実施形態において、先の実施形態と同一または同様のものについては図に同一符号を付すに留めてその詳細な説明を省略することとし、以下においては、先の実施形態と異なる点を中心に説明することとする。
【0026】
先の実施形態においては、左右方向中間部が運転席10側に湾曲されている横部材36により左右のセンタピラー8,8′の下端部が接続されているのに対し、本実施形態においては、全体が左右方向に真直ぐに延びる横部材36Aにより左右のセンタピラー8,8′の下端部が接続されている。それ以外の点については先の実施形態と同様である。本実施形態によっても、左右のセンタピラー8,8′と中間横梁部材35と横部材36Aとで構築される環状構造体37Aによりキャブ本体6Aの剛性が高められるとともに、横部材36Aによりフロア枠プレート11の剛性が高められるので、先の実施形態と基本的に同様の作用効果を得ることができる。
【0027】
なお、前記各実施形態においては、溶着等によりフロアフレーム5とキャブ本体6(6A)とが一体不可分な構造のキャブ1(1A)に本発明が適用された例を示したが、これに限定されず、フロアフレームとキャブ本体とがそれぞれ独立に構成され、これらフロアフレームとキャブ本体とを締結ボルトにより固定する構造のキャブに対しても本発明を適用することができる。
【0028】
また、前記各実施形態においては、略箱型構造のフロアフレーム5上に左右のフロントピラー7,7′、左右のセンタピラー8,8′および左右のリアピラー9,9′が立設される構造のキャブ1(1A)に本発明が適用された例を示したが、これに限定されず、平板状のフロアフレーム上に左右のフロントピラー、左右のセンタピラーおよび左右のリアピラーが立設される構造のキャブにも本発明を適用することができる。
【0029】
また、前記各実施形態においては、作業機械としてブルドーザに搭載されるキャブ1(1A)に本発明が適用された例を示したが、その他の作業機械として例えばホイールローダ等に搭載されるキャブに本発明を適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るキャブの車体フレームへの組付状態を表わす全体斜視図
【図2】第1の実施形態に係るキャブの上方斜視図
【図3】第1の実施形態に係るキャブの下方斜視図
【図4】第1の実施形態に係るキャブの前方視要部スケルトン図
【図5】第2の実施形態に係るキャブの上方斜視図
【図6】従来のキャブの上方斜視図(a)および同キャブの前方視要部スケルトン図(b)
【図7】特許文献1に係る建設機械用キャブを一部破断して表わす外観斜視図
【符号の説明】
【0031】
1,1A キャブ
5 フロアフレーム
6,6A キャブ本体
7,7′ フロントピラー
8,8′ センタピラー
9,9′ リアピラー
10 運転席
35 中間横梁部材
36,36A 横部材
37,37A 環状構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロアフレーム上に立設される左右のフロントピラー、左右のセンタピラーおよび左右のリアピラーと、
前記左右のセンタピラーと左右のリアピラーとで囲まれる空間内に配されるように前記フロアフレーム上に設置される運転席と、
前記左右のセンタピラーの上端部を繋ぐ中間横梁部材と、
前記左右のセンタピラーの下端部を繋ぐ横部材と、
を備えることを特徴とする作業機械用キャブ。
【請求項2】
前記横部材は、前記運転席側に湾曲されている請求項1に記載の作業機械用キャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−126682(P2008−126682A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310046(P2006−310046)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】