説明

作業機

【課題】運転席の背面側からミッションケースと後輪フェンダーとの間に合理的な機構を構成することによって、泥落とし作業負担を軽減することのできる作業機を提供する点にある。
【解決手段】運転席5を備えた走行機体にロータリー耕耘装置を昇降駆動するリフトアーム11を備える。運転席5の背面側からリフトアーム11の昇降作動範囲の両横側方に亘る範囲で後部カバー体20を設ける。後部カバー体20を、運転席5の背面側に位置する上カバー体部20Aと、リフトアーム11の昇降作動範囲の両横側方に位置し上カバー体部20Aより機体前方側に位置する下カバー体部20Bと、上カバー体部20Aと下カバー体部20Bとを連結する斜め姿勢の中間カバー体部20Cとで構成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転席を備えた走行機体に対地作業装置を昇降駆動するリフトアームを備えている作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
作業機の一例である農用トラクタでは、運転部ステップの左側部分と左の後輪フェンダー部とを一体形成した左側カバー形成体、運転部ステップの右側部分と右の後輪フェンダー部とを一体形成した右側カバー形成体、及び、運転部ステップの中央部分とミッションの上方を被覆する部分とを一体形成した中間カバー形成体を夫々、支持枠体に着脱自在に取付け形成していた(特許文献1)。
【0003】
左右の後輪フェンダーと、その左右の後輪フェンダーの中間に位置するセンターカバーが設けてある。そのセンターカバーは、運転席の背面側に位置する上センターカバー部と、運転席を載置した水平姿勢の中間センターカバー部と、中間センターカバー部の先端からステップまで立ち下げてある下センターカバー部とで構成してある(特許文献なし)。
【特許文献1】特開2006−96320号公報(段落〔0083〕から〔0103〕,図9から図12)
【特許文献2】特許第3469411号公報(段落〔0009〕から〔0011〕,図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構成においては、運転席の背面側にカバー体が存在しないので、対地作業装置の跳ね上げる泥土が運転部に持ち込まれる虞があり、未だ改善の余地があった。
一方、特許文献2の構成においては、ミッションケースと後輪フェンダーとの間の横側方空間が後方に開放状態となるので、上センターカバー部と中間センターカバー部の背面部に対地作業装置の跳ね上げる泥土が付着し易く、泥落とし等の整備作業が負担の大きなものとなる虞があった。
【0005】
本発明の目的は、運転席の背面側からミッションケースと後輪フェンダーとの間に合理的な機構を構成することによって、泥落とし作業負担を軽減することのできる作業機を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔構成〕
請求項1に係る発明の特徴構成は、運転席を備えた走行機体に対地作業装置を昇降駆動するリフトアームを備え、前記運転席の背面側から前記リフトアームの昇降作動範囲の両横側方に亘る範囲で後部カバー体を設け、前記後部カバー体を、前記運転席の背面側に位置する上カバー体部と、前記リフトアームの両横側方に位置し前記上カバー体部より機体前方側に位置する下カバー体部と、前記上カバー体部と前記下カバー体部とを連結する斜め姿勢の中間カバー体部とで構成してある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0007】
〔作用効果〕
ミッションケースと後輪フェンダーとの間の空間となる、リフトアームの両横側方に、後部カバー体の下カバー体部を配置構成することによって、ミッションケースと後輪フェンダーとの間の空間への後方入り口部分を閉塞することができる。
これによって、ミッションケースと後輪フェンダーとの間の空間内への泥土の侵入を阻止できる。
また、下カバー体部の上方側には傾斜姿勢の中間カバー体部がリフトアームの上方をカバーし、かつ、更に上方でかつ後方側に上カバー体部が設けてあるところから、対地作業装置で跳ね上げられる泥土や埃も、中間カバー体部及び上カバー体部によって進路が遮断されて、運転操縦部まで侵入することは少なくなる。
作業機の一例である農用トラクタでは、例えば図1及び図2に示すように、リフトアームの上方に運転席が位置するような構成になることが多い。このような構成において、上カバー体部、上カバー体部よりも機体前方側に位置する下カバー体部、斜め姿勢の中間カバー体部により、後部カバー体を構成することによって、後部カバー体を無理なく配置することができる。例えば運転席を前後に位置調整自在に構成した場合、上カバー体部の位置を運転席に干渉しない程度に機体後方側に位置させることも、後部カバー体の形状(特に斜め姿勢の中間カバー体部)によって無理なく行うことができる。
【0008】
〔構成〕
請求項2に係る発明の特徴構成は、請求項1に係る発明において、前記後部カバー体の両側方に配置されている左右のフェンダーに亘って上連結フレームを架設し、前記左右のフェンダーと前記リフトアームを支持するミッションケースとに亘って下連結フレームとを架設し、前記上連結フレームと前記下連結フレームに前記後部カバー体を着脱自在に取り付けてある点にあり、その作用効果は次の通りである。
【0009】
〔作用効果〕
後部カバー体を上下連結フレームに着脱自在に構成したので、付着した泥土を落とす等の整備作業時には、取り外して行うことができ、整備作業が容易である。また、後部カバー体を取り外すことによって、ミッションケースと後部フェンダーとの間の空間に面する部分への整備作業も容易に行えるようになる。
しかも、後部カバー体を取り外すことによって、対地作業装置等に対する視認性を確保することができる。
後部カバー体を着脱自在に構成すべく、上下連結フレームを導入することによって、これら連結フレームが左右フェンダーを連結して、左右フェンダー自体の強度向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
対地作業装置として、ロータリー耕耘装置(図示せず)等を備える農用トラクタAについて説明する。図1に示すように、農用トラクタAは、前後車輪1、2を装備した走行機体8の前部側に、エンジン3、そのエンジン3を覆うエンジンボンネット6、エンジンボンネット6の後部にステアリングホイール7、走行機体8の後部側に、左右の後輪フェンダ4、左右後輪フェンダ4の間に運転席5、運転席5の下方にミッションケース9を配置して構成してある。
【0011】
ミッションケース9の上端部に左右一対のリフトアーム11を支持し、リフトアーム11の下方に左右一対のロアーリンク12、ロアーリンク12の上方に単一のアッパーリンク13を配置して、3点リンク式の昇降装置10を設けてある。その昇降装置10にロータリー耕耘装置を連結し、作業機を構成してある。
【0012】
運転席5の取付構造について説明する。図4に示すように、ミッションケース9に載置された支持フレーム14にスライドガイド体15を取付固定してある。スライドガイド体15に案内されてスライド移動可能なスライド体16を設け、そのスライド体16の先端から更に機体前方側に向けて受止アーム17を延出し、受止アーム17の先端に筒状の支持ボス18を取り付け固定してある。
【0013】
一方、運転席5の底面にはブラケット5Aが取り付けてあり、このブラケット5Aと支持ボス18とを連結ピン(図示せず)を介して連結することによって運転席5をスライド体16に取り付けることができる。そして、運転席5は、支持ボス18の軸芯周りで上下揺動可能に構成してある。運転席5の底面でブラケット5Aの後方側には、皿状受け部5Bを設けてあり、スライド体16の上面との間に付勢バネ19を介在させて、運転席5を支持する構成を採っている。
以上のような構成によって、運転席5をスライド体16と伴にスライド移動させると、運転席5の位置を調節可能である。
【0014】
次に、運転席5の着座部5Cの構造について説明する。図5及び図6に示すように、運転席5は、スライド体16に支持される着座部5Cと、着座部5Cから延設される背もたれ部5Dを一体形成してある。着座部5Cは、左右の嵩高い囲い込み部5Eと、左右の囲い込み部5Eの中間に位置して山形に盛り上がる受止部5Fとを備え、囲い込み部5Eと受止部5Fとの間に左右一対のV字状に凹入する排水用溝部5aを設けてある。
排水用溝部5aは、背もたれ部5Dの基端部近く位置する奥側端5bから着座部5Cの前端に臨む先端5cに掛けて、その底面が徐々に下降する下り傾斜がつけてあり、排水を良好に行えるようになっている。この下り傾斜は走行機体8が水平状態にある場合においても、下り傾斜が維持されるように構成する。
【0015】
後部カバー体20について説明する。図2及び図3、図9に示すように、後部カバー体20は、運転席5の背もたれ部5Dの背面側に位置する上下向き姿勢の上カバー体部20Aと、リフトアーム11の昇降作動範囲の両横側方に位置し上カバー体部20Aより機体前方側に位置する上下向き姿勢の下カバー体部20Bと、上カバー体部20Aと下カバー体部20Bとを連結する斜め姿勢の中間カバー体部20Cとで構成してある。
【0016】
下カバー体部20Bは、図3に示すように、中央に位置するミッションケース9とそのミッションケース9の上端に枢支されているリフトアーム11の昇降範囲との干渉を回避すべく、中央部に大きな凹入部を形成して左右一対の分割部20bを形成している。上カバー体部20Aと下カバー体部20Bの分割部20bには、更に、横側端位置に切り欠き部20a、20cが設けてあり、後車軸ケース21より立ち上げ形成されたロプス22との干渉を回避する構成を採っている。
【0017】
後部カバー体20の取付構造について説明する。図2及び図3、図5に示すように、後部カバー体20の両側方に配置されている左右の後輪フェンダー4の上端に亘って上連結フレーム23を架設する。左の後輪フェンダー4とミッションケース3の左側面、及び、右の後輪フェンダー4とミッションケース3の右側面とに亘って下連結フレーム24を架設する。
【0018】
上連結フレーム23はチャンネル部材でなる長尺部分23Aとその長尺部分23Aの両端に取り付け固定してあるアングル状のブラケット23Bとで構成してある。アングル状のブラケット23Bを左右の後輪フェンダー4に取り付け固定して、上連結フレーム23が左右の後輪フェンダー4に亘って架設してある。長尺部分23Aの左右二箇所に板状のブラケット23aが立ち下げ形成してあり、その板状のブラケット23aに後部カバー体20の上カバー体部20Aがボルト23b止め固定してある。
【0019】
下連結フレーム24は、斜め姿勢のチャンネル部材でなる長尺部分24Aと、その長尺部分24Aの後輪フェンダー側に取り付け固定してある板状のブラケット24Bと、その長尺部分24Aのミッションケース側に取り付け固定してある屈曲板状のブラケット24Cとで構成してある。
左右の長尺部分24Aの二箇所ずつに後部カバー体20の下カバー体部20Bをボルト24b止め固定してある。
このようなボルト止め構成を採ることによって、上連結フレーム23と下連結フレーム24に後部カバー体20を着脱自在に取り付けてある。
【0020】
図2及び図3、図9に示すように、中間カバー体部20Cと下カバー体部20Bには、前向きに僅かに突出する膨出部20e、20fとが形成してあり、板状の後部カバー体20の強度向上を図っている。そして、下カバー体部20Bに形成された膨出部20fを、下連結フレーム24の長尺部分24Aに当接させて、ボルト24bで連結固定している。
このように、膨出形成されて強度アップされた膨出部20fを利用してボルト24bで連結してあるので、より強固な連結構造を構成できる。
【0021】
図3及び図5に示すように、後部カバー体20の前方位置には、上連結フレーム23とミッションケース上面とを連結して、上連結フレーム23の強化を図る補強板25を設けてある。補強板25は、上連結フレーム23の左右中央位置とミッションケース上面とに亘って架設されるものであり、一定の横幅を有し、略後部カバー体20の上カバー体部20A、中間カバー体部20C、下カバー体部20Bに沿った屈曲形状を呈している。
【0022】
以上、後部カバー体20を導入することによって、次のような利点がある。
(1) ロータリー耕耘装置等から跳ね上げられる泥土や埃が、運転席側に飛散してくるのを阻止できる。
(2) ロータリー耕耘装置等に対する視認性を確保するためや洗車時には、後部カバー体20を取り外すことができる。
【0023】
〔第2実施形態〕
ここでは、運転席5が前後にスライドしない形態について説明する。主として、第1実施形態と異なる部分についてのみ記載する。図10に示すように、ミッションケース9の上面にチャンネル状の横向きフレーム30を架設し、その横向きフレーム30より前方上向きに支持フレーム31を延設してある。支持フレーム31は左右一対のものであり、両支持フレーム31の間にボス部31Aを取付固定してある。
【0024】
運転席5の底面にはブラケット5Aが取り付けてあり、ブラケット5Aには支持フレーム31との取付点を変更可能な3つの取付孔5aが設けてある。一方、横向きフレーム30の上面には、運転席5の後端部を弾性支持する付勢バネ32を設けてあり、付勢バネ32の上端に受け具33を装着してある。
以上のような構成によって、固定式の運転席5の支持構造が構成してある。
【0025】
後部カバー体20の取付構造について説明する。後部カバー体20は、第1実施形態で示したように、前記した上下向き姿勢の上カバー体部20Aと、上下向き姿勢の下カバー体部20Bと、斜め姿勢の中間カバー体部20Cとで構成してある。
【0026】
左右両後輪フェンダー4に亘って上連結フレーム23を架設するとともに、左の後輪フェンダー4とミッションケース3の左側面、及び、右の後輪フェンダー4とミッションケース3の右側面とに亘って下連結フレーム24を架設する。
上連結フレーム23の左右二箇所に板状のブラケット23aが立ち下げ形成してあり、その板状のブラケット23aに後部カバー体20の上カバー体部20Aがボルト止め固定してある。下連結フレーム24の二箇所ずつに後部カバー体20の下カバー体部20Bをボルト止め固定してある点は、第1実施形態と同一である。
このようなボルト止め構成を採ることによって、上連結フレーム23と下連結フレーム24に後部カバー体20を着脱自在に取り付けてある。尚、ここでは、ロプス22について採用していないので、ロプス22との干渉を回避するための切り欠き部20a、20cについては、後部カバー体20には設けられてはいない。
【0027】
〔他の実施形態〕
(1) 対地作業装置としては、ロータリー耕耘装置以外にプラウ等の作業装置を取り付けてもよい。
(2) 後部カバー体20としては、泥土を受け止める後面に耐摩耗性や撥水性を発揮するコーティングを適宜施してよい。
(3) 後部カバー体20としては、着脱自在なものでなくともよい。
(4) 後部カバー体20において、下カバー体部20Bをリフトアーム11の基部よりも、少し機体前方側(図面2の紙面左方側)に位置させるように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】農用トラクタの全体側面図
【図2】後部カバー体と運転席を取り付けた状態を示す側面図
【図3】後部カバー体を取り付けた状態を示す正面図
【図4】後部カバー体と運転席を示す側面図
【図5】後部カバー体を取り付ける連結フレームを示す背面図
【図6】運転席を示す縦断正面図
【図7】運転席を示す側面図
【図8】運転席を示す斜視図
【図9】後部カバー体を示す斜視図
【図10】後部カバー体と運転席との別実施構造を示す側面図
【符号の説明】
【0029】
4 後輪フェンダ(フェンダ)
5 運転席
8 走行機体
9 ミッションケース
11 リフトアーム
20 後部カバー体
20A 上カバー体部
20B 下カバー体部
20C 中間カバー体部
23 上連結フレーム
24 下連結フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転席を備えた走行機体に対地作業装置を昇降駆動するリフトアームを備え、前記運転席の背面側から前記リフトアームの昇降作動範囲の両横側方に亘る範囲で後部カバー体を設け、前記後部カバー体を、前記運転席の背面側に位置する上カバー体部と、前記リフトアームの両横側方に位置し前記上カバー体部より機体前方側に位置する下カバー体部と、前記上カバー体部と前記下カバー体部とを連結する斜め姿勢の中間カバー体部とで構成してある作業機。
【請求項2】
前記後部カバー体の両側方に配置されている左右のフェンダーに亘って上連結フレームを架設し、前記左右のフェンダーと前記リフトアームを支持するミッションケースとに亘って下連結フレームとを架設し、前記上連結フレームと前記下連結フレームに前記後部カバー体を着脱自在に取り付けてある請求項1記載の作業機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−12999(P2010−12999A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175977(P2008−175977)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】