説明

作業機

【課題】
作業機において、通常状態では十分な気密性を有しながら、緊急時には簡単な動作で脱出用窓を開放できるようにする。
【解決手段】
作業機100は、下部走行体1と、キャブ4を有する上部旋回体2と、フロント6とを備える。キャブを構成する天井壁面25及び4周面21〜24の少なくともいずれかの壁面に取り外し可能に脱出用窓を設ける。脱出用窓は透明または半透明な窓部材31と、この窓部材の4周部を挟持する弾性体からなる挟持部材32と、この挟持部材と一体的に形成された突起状の複数の窓保持部33を有する。窓保持部は弾性変形しながら壁面に形成した複数の係止部34に係止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建設機械等の作業機に係り、特にその緊急脱出時に使用される脱出窓を備えた作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
建設機械は不整地でも使用されるので、万が一の転倒等にも対応できるよう、緊急脱出用の窓が備えられている。この緊急脱出用窓には、通常時には気密性が求められ、緊急時には素早く手軽な動作で脱出経路が確保されることが求められている。このような車両用の窓の構造の例が、特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載の車両用窓ガラスにおいては、溝状くぼみを有するU字型輪郭部を窓ガラスのほぼ全周縁部に取り付けられている。U字型輪郭部は、窓枠との間で変形しながら押圧力を発生するリップを有し、U字型輪郭部の溝部には接着剤組成物が導入される。接着剤組成物はU字型輪郭部には接着しないが窓枠には接着し、U字型輪郭部には押圧力により、機械的に接触している。緊急時には、窓ガラスを内側から容易にかつ迅速に押し出せるように、可撓性コードが溝状くぼみの底部に配設されている。緊急時には、このコードを引き抜くと、U字型輪郭部が変形し、接着剤組成物がU字型輪郭部から飛び出し、窓ガラスが外側へ押し出される。
【0004】
作業機からの緊急脱出用窓構造の他の例が、特許文献2に記載されている。この公報に記載の脱出窓においては、窓ガラスを窓枠に保持し、窓枠に形成した溝と作業機の側板のフランジ部(周縁部)とを断面U字型の帯状挟持対で保持している。この帯状挟持体は窓ガラスのほぼ全周にわたり形成されるが、窓枠は一部が欠損しており、この欠損部にひも付きの細長部材を配置する。帯状挟持体は細長部材のほぼ中央に切れ目を有しており、ひも付きの細長部材を引っ張ると、帯状挟持体の窓枠の保持が外れ、窓枠が外側に押し出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−109671号公報
【特許文献2】特開平09−263124号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】田村、小松 「油圧ショベルにおける安全に対する取り組み」 建設機械 2008年1月号 23頁〜26頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に記載の従来の車両では、ほぼ垂直に配置される窓枠に窓を取り付けている。その際、窓の周縁部に沿って緊急脱出用の可撓性のコードを配置し、窓枠の下辺中央部付近にコードの両端部をはみ出させている。しかしながら、油圧ショベル等の建設機械では、窓を緊急に取り外す必要があるような事態は、例えば横転等のような重大事故の際であり、そのような事態においても建設機械のオペレータが迅速かつ容易に脱出するには、コードを引き抜く動作は必ずしも適しているわけではない。
【0008】
つまり、この引用文献1では対象が自動車等の車両であるから、横転等の事故はほとんどありえず、搭乗者は座席に着座した状態を保つことが多く、コードを取り外すのが比較的容易である。これに対し、横転事故では搭乗者は座席に着座していても、横向きまたは逆さ向き等の重力方向と異なる姿勢になるので、コードを引き抜く動作が困難になる。また、横転等の事故では、コードを引き抜くスペースも限られる。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の緊急脱出用窓枠構造では、特許文献1と同様に窓枠の下辺中央部に、窓を固定する挟持体を外して窓部を開放するひも付きの細長部材を配置することが開示されている。しかしながらこの公報に記載のものにおいても、横転事故のような重大事故時に、オペレータが体の向きや姿勢を確保できず、また動作スペースが限られる状況で、素早く窓を開放する動作をさせることについては、考慮されていない。
【0010】
接着固定式の窓ガラスが取り付けられた窓から、緊急避難するためには、窓ガラスを気密材から外し、窓ガラスを保持している部材を取り除くという2つの操作が必要である。しかしながら、緊急時の慌てている状態で、この2つの操作を手際よく行うには困難が伴う。
【0011】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、通常状態では十分な気密性を有しながら、緊急脱出等が必要な緊急時には簡単な動作で脱出用窓を開放できるようにすることにある。本発明の他の目的は、緊急時には窓ガラスを気密材から外し、窓ガラスを保持している部材を取り除くという作業を、同時または一つの動作で可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明の特徴は、下部走行体と、キャブを有する上部旋回体と、フロントとを備える作業機において、前記キャブを構成する天井面及び4周面の少なくともいずれかの壁面に取り外し可能に脱出用窓を設け、この脱出用窓は透明または半透明な窓部材と、この窓部材の4周部を挟持する弾性体からなる挟持部材と、この挟持部材と一体的に形成された突起状の複数の窓保持部とを有し、この窓保持部は弾性変形しながら前記壁面に形成した複数の係止部に係止することにある。
【0013】
そしてこの特徴において、前記窓保持部は、先端部に大径部を有する段差状の突起であり、前記壁面に形成した係止部は、この突起が係止する穴であるのがよく、前記壁面に形成する複数の係止部は、この作業機の外表面側に形成されており、前記脱出用窓を内部から押したときにこの脱出用窓が作業機外部側に外れるように構成されていることが望ましい。また、前記壁面がキャブに設けられた操作席の背後に位置する背部壁面であることが好ましく、前記窓保持部はゴムであり、先端部側が切頭円錐形状で根元側が円柱形状であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建設機械の脱出用窓に用いる窓部材の外周部に弾性体からなる挟持部材を設け、この挟持部材に突起状の複数の窓保持部を設けて、この窓保持部を壁面に設けた複数の係止部に係止して窓部材を脱出用窓として利用するようにしたので、通常状態では十分な機密性を有しながら、緊急脱出等が必要な緊急時には簡単な動作で脱出用窓を開放できる。また、緊急時には窓部材を挟持部材から外し、窓部材を保持している部材を取り除くという作業が、同時または一つの動作で可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る作業機の一実施例の側面図。
【図2】図1に示した作業機のキャブの斜視図。
【図3】図2に示したキャブの背部壁面の内面からの視図。
【図4】図3に示したキャブ背部壁面に形成された脱出用窓の詳細を示す図。
【図5】図4中のA部の詳細図。
【図6】図5中のB部材の縦断面図。
【図7】本発明に係る作業機に用いる脱出用窓の他の実施例の図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のいくつかの実施例を、図面を用いて説明する。図1に、キャブ4を有する作業機100の一実施例を、正面図で示す。図2は、図1に示した作業機100からキャブ4の部分を取り出して示した斜視図である。図3は、キャブ4を構成する背部壁面の正面図であり、図2に示したキャブ4内からの視図である。図4は、背部壁面の上部を構成する脱出窓部の正面図であり、図5は脱出窓部を保持する保持部の拡大斜視図、図6は保持部に用いる保持手段の縦断面図である。
【0017】
作業機100は、例えば掘削用の油圧ショベルである。図1に示した作業機100は、油圧ショベルであり、無限軌道履帯を取り付けた下部走行体1と、この下部走行体1上に旋回可能に搭載された上部旋回体2とを有している。下部走行体1と上部旋回体2の間には、上部旋回体2の旋回を制御する旋回装置3が設けられている。上部旋回体2では、前部に作業者が搭乗して操作するキャブ4を、後部にはこの作業機100を駆動および制御するためのエンジンや油圧ポンプが格納された機械室5が配置されている。
【0018】
上部旋回体2の前方には、俯仰動可能にフロント6が取り付けられている。フロント6は、基端側が旋回体2に取り付けられたブーム7と、このブーム7の基端側とは反対端側に接続されるアーム8と、アーム8の先端に取り付けられ掘削等に供するバケット等のアタッチメント9とから構成される。そして、これらブーム7およびアーム8、バケット9には、それぞれブームシリンダ10、アームシリンダ11、バケットシリンダ12等の油圧アクチュエータが配設されている。図示を省略したが、キャブ4内には運転席が配設されており、操作レバー等の操作手段が取り付けられている。
【0019】
次に、図2を用いてキャブ4について説明する。通常キャブ4は、作業機の100左前方に設けられる。そのため、左側壁面23に開閉可能な扉が設けられており、右側壁面21にはほぼ床面まで視界を確保できる透明の窓が形成されている。また、天井壁面25には、必要に応じて開閉可能な天窓が設けられることもあり、その場合、視界の確保等に利用される。
【0020】
前方壁面22は、透明なシールド板で形成されており、ほぼ足元から天井壁面までの視界が確保されている。これにより、運転席からの死角の少ない広範囲の視界を確保し、作業者への負担、疲労を軽減し、かつ周囲作業者の安全も確保している。作業者が着座する運転席(図2では図示を省略)の後方には、上部に透明の窓が設けられた背部壁面24が設けられている。背部壁面24の下部は室内空調のための空調機等を保護するのに使用される。ここで、前方及び後方の窓面積を拡大し、視界を向上させるために、キャブピラー26は、高強度で小断面のパイプとなっている。
【0021】
このように構成したキャブ4を有する作業機100では、非特許文献1に記載されているように、従来はキャブからの緊急脱出用にガラスを破砕可能なハンマを標準装備していた。また、天窓を脱出可能な大型、かつ開放可能な構造としていた。しかし、この非特許文献1に記載されているように、油圧ショベルの事故の33%が転落及び横転に起因するものであるから、転倒や落石のリスクを伴う悪条件の現場でも作業者の安全を確保するために、更なる安全策の要求が高まっている。
【0022】
そこで作業機100が横転したり落石があっても、損傷が最も少ないと考えられる作業機100の部位であるキャブ4の背部壁面24の窓を、本発明では脱出用窓30として利用している。特に図3に示すように、視界確保のために背部壁面24の窓面積を確保しているので、作業者が脱出するのには、背部壁面24に比べて変形が生じやすい天窓よりも、背部壁面24が適している。
【0023】
背部壁面24に形成した脱出用窓30の詳細を、図4ないし図6を用いて以下に説明する。図4(a)は、脱出用窓30の正面図であり、図4(b)は脱出用窓30の断面図である。脱出用窓30は、図3に示した背部壁面24のキャブピラー26間に取り付けられる。脱出用窓30の大きさは、例えばバケット容量1.2mクラスの作業機100では、幅方向に800mm程度、高さ方向に600mm程度である。
【0024】
図4(a)に示すように、脱出用窓30は、透明な強化ガラスで構成される矩形状の窓部材31と、この窓部材31の周囲の4辺を覆い窓部材31を保持する枠状部材32とを有している。枠状部材32の各辺の中間部及び角部には、複数個の窓保持部33が形成されている。複数個の窓保持部33は、枠状部材32に一体的に形成されている。枠状部材32は、断面Πの字型をしており、Πの中間にガラスの窓部材31を保持している。窓状部材32の材質は、硬質ゴムである。
【0025】
図5に、図4のA部を拡大して斜視図で示す。この図5では、窓保持部33を枠状部材32と一体的に形成しているが、枠状部材32に穴を形成し、この穴に窓保持部材33aを締まり嵌めや接着剤を併用して嵌合させるようにしてもよい。なお、別部材の窓保持部材33aを、接着剤等を使用して枠状部材32に嵌合させて使用する場合には、この嵌合部の強度が、後述するキャブピラー26への窓保持部材33aの取り付け強度以下にする必要がある
図5で示した窓保持部33は、先端側が切頭円錐形をしており、その下部に切頭円錐の半径よりも小径の軸が形成されており、全体として、茸形状となっている。脱出用窓30をキャブピラー26に取り付けたときの断面形状を、図6に示す。キャブピラー26の外表面には、この脱出用窓30を取り付けるための取り付け穴34が形成されている。
【0026】
キャブ4内は図示しない空調機で空調されているので、通常使用時に背部壁面24の脱出用窓取り付け部、すなわちキャブピラー26の取り付け穴34の形成部近傍は、気密になる必要がある。そのため、取り付け穴34に窓保持部33を嵌合させたときに、窓保持部33に作用する引っ張り力が、枠状部材32とキャブピラー26間の押圧力に変換されて、枠状部材32がキャブピラー26に密着されるようにする。窓保持部32の寸法及び個数は、この確保する押圧力に応じて決定される。
【0027】
例えば、窓保持部33の軸部41の直径φd1は、φd1=10〜15mm程度にし、切頭円錐部42の最大直径φd2は、φd2=15〜20mm程度にする。また、軸部41の取り付け前の軸長L1は、キャブピラー26に形成した取り付け穴34の穴深さL2よりも短くする。これにより、枠状部材32とキャブピラー26間の押圧力を確保する。
【0028】
このように構成した作業機100のキャブ4において、非常時の脱出方法を以下に説明する。作業者は横転等により作業機100が傾き、非常事態と感じたら運転席を降り、背後にある脱出用窓30を手で押す。作業機100では非常事態には左右の側面やフロントのある前面には、脱出ルートを確保しにくく、また天井面も変形することが想定される。一方、背後の比較的構造強度が高い脱出用窓30は変形することが少ないので、手でも開放できる。脱出用窓30を手で押せば、脱出用窓30をキャブピラー26に取り付けている係合部が作業機100の外表面側に設けられているので、脱出用窓30はキャブ4の外側に落ちるだけで内側に入ることはなく、広い退避路を確保できる。また、脱出用窓30とキャブピラー26間は、手で押しても取れる程度の密着強度であるから、場合によっては、事故の衝撃だけで脱出用窓30の係合部が外れることもある。この場合でも脱出用窓30がキャブ4の内部に入ることがないので、作業者が負傷する可能性は低下する。
【0029】
本発明に係る脱出用窓30の他の例を、図7に示す。本実施例が上記実施例と異なるのは、枠状部材32aの断面形状を平面ではなく、凹凸を有する形状としたことにある。このような形状とすることにより、枠状部材32aとキャブピラー26の密着度を高めて、窓保持部33の応力を低減させ、窓保持部33の信頼性が向上する、または、窓保持部33を小型化することが可能になる。
【0030】
上記実施例では、窓保持部自体を弾性変形させてキャブピラーに密着させるようにしているが、窓保持部を剛性の高い材料とし、窓保持部とキャブピラー間にシート状の弾性材やシリコンゴムのような弾性材を介在させるようにしても、上記実施例と同様の効果が得られる。さらに、窓保持部の断面形状を茸形としたが、形状はこれに限るものではなく、クリスマスツリー型等であってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…下部走行体、2…上部旋回体、3…旋回装置、4…キャブ、5…機械室、6…フロント、7…ブーム、8…アーム、9…バケット、10…ブームシリンダ、11…アームシリンダ、12…バケットシリンダ、21…右側壁面、22…前方壁面、23…左側壁面、24…背部壁面、25…天井壁面、26…キャブピラー、30…脱出用窓、31…窓部材、32…枠状部材、33…窓保持部、33a…窓保持部材、34…取り付け穴、41…軸部、42…切頭円錐部
100…作業機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体と、キャブを有する上部旋回体と、フロントとを備える作業機において、前記キャブを構成する天井壁面及び4周面の少なくともいずれかの壁面に取り外し可能に脱出用窓を設け、この脱出用窓は透明または半透明な窓部材と、この窓部材の4周部を挟持する弾性体からなる挟持部材と、この挟持部材と一体的に形成された突起状の複数の窓保持部を有し、この窓保持部は弾性変形しながら前記壁面に形成した複数の係止部に係止することを特徴とする作業機。
【請求項2】
前記窓保持部は、先端部に大径部を有する段差状の突起であり、前記壁面に形成した係止部は、この突起が係止する穴であることを特徴とする請求項1に記載の作業機。
【請求項3】
前記壁面に形成する複数の係止部は、この作業機の外表面側に形成されており、前記脱出用窓を内部から押したときにこの脱出用窓が作業機外部側に外れるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の作業機。
【請求項4】
前記壁面がキャブに設けられた操作席の背後に位置する背部壁面であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の作業機。
【請求項5】
前記窓保持部はゴムであり、先端部側が切頭円錐形状で根元側が円柱形状であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の作業機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−104234(P2013−104234A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249199(P2011−249199)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】