説明

作業環境モニタシステム

【課題】カードを携帯していた者がどのような環境に置かれていたかを把握し、その人の体調面の管理を行う作業環境モニタシステムを提供する。
【解決手段】本発明の作業環境モニタシステムは、時間を計測する計時手段と、温度を検出する温度検出手段と、前記計時手段で計測された時間データと、前記温度検出手段によって検出された温度データとを対応づけて記憶する記憶部と、を有する携帯可能なカードと、前記記憶部されたデータに基づいて、所定条件を満たす温度データの時間積分値を算出する積分値算出手段(ステップS102)と、前記積分値算出手段によって算出された温度データの時間積分値と、所定値とを比較する比較手段(ステップS103)と、前記時間積分値が前記所定値より大きい場合に警告を行う警告手段(ステップS104)と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入退場などにおいて広く用いられているICカードを利用し、現場作業員の労務環境をモニタする作業環境モニタシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設作業に携わる作業員は、過酷な労働環境下で重労働に従事している者が多い。このような過酷な労働環境の影響により作業員の体調が十分でないと、作業員同士の安全上の問題点が発生したり、或いは、担当作業の質が低下し、施工品質が落ちたりすることとなる。すなわち、建設現場における施工を管理する上では、作業員の健康の管理を行うことも重要な要素となる。
【0003】
しかし、現状の作業管理では、日々の気温によって対策を講じる程度が限界である。例えば、今日は温度が高いから水分の補給に気をつけよう、と朝礼時点で注意する、などがおもな現状である。特に作業員個々人がどのような作業環境下で仕事をしてきたか等は、知る手段がない。
【0004】
ところで、近年、現場の入退場管理行う際に、IDカードなどをベースとした入退管理を行うことが、広く実施されるようになってきた。このような入退管理を行うシステムとしては、例えば、特許文献1(特開2006−20877号公報)には、入場者を特定するための入場者データの入力を受け付ける入場者情報入力装置と、入場者情報入力装置から出力される入場者データを受信して表示するとともに、カード発行を許可するか否かを示す指示データの入力を施設の訪問先の端末から受け付けるカード発行指示装置と、カード発行指示装置からカード発行を許可する指示データを受信した場合に入退場を許可するための許可データをカードに設けられた記録媒体に書き込むカード発行装置を有するシステムが開示されている。
【特許文献1】特開2006−20877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のシステムでは、人の存否の管理を行うことが主要な機能であり、それぞれの人が、どのような環境に置かれていたかなどを把握し、人の体調面についてまで管理を行うことができない、という問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記課題を解決するものであって、請求項1に係る発明は、時間を計測する計時手段と、温度を検出する温度検出手段と、前記計時手段で計測された時間データと、前記温度検出手段によって検出された温度データとを対応づけて記憶する記憶部と、を有する携帯可能なカードと、前記記憶部されたデータに基づいて、所定条件を満たす温度データの時間積分値を算出する積分値算出手段と、前記積分値算出手段によって算出された温度データの時間積分値と、所定値とを比較する比較手段と、前記時間積分値が前記所定値より大きい場合に警告を行う警告手段と、を有することを特徴とする作業環境モニタシステムである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の作業環境モニタシステムは、携帯可能なカードに内蔵される温度検出手段によって検出された温度データに基づいて、所定条件を満たす温度データの時間積分値を算出し、この時間積分値が所定値より大きい場合に警告を行うシステムであるので、このよう
な本発明の作業環境モニタシステムによれば、カードを携帯していた者が、どのような環境に置かれていたかなどを把握し、その人の体調面についてまで管理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムで用いるICカードの概要を説明する図である。
【図2】本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムにおけるICカードを作業員が携帯し作業に従事する様子を示している。
【図3】本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムにおけるデータ処理用の構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムにおけるデータ処理のためのフローチャートを示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムで用いられる熱累積Hsumの概念を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る作業環境モニタシステムは、建設作業に携わる作業員の作業員の健康管理を行い、もって、建設現場における施工を管理することをその主な目的としている。このような管理を行う上では、各作業員にICカードを配布するようにして、このICカードによって、ICカードを携帯していた者が、どのような環境に置かれていたかなどを把握するようにしている。そこで、まず、本実施形態に係る作業環境モニタ
図1は本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムで用いるICカードの概要を説明する図である。図1において、100はICカード、102はバス、103はROM、104はRAM、105は不揮発性記憶部、106は温度検出部、107は計時部、108は無線通信部をそれぞれ示している。また、図1(A)はICカード100のカードの外観を、また、図1(B)はICカード100のブロック構成を、図1(C)はICカード100の書き換え可能な不揮発性記憶部105のデータ構造を、それぞれ示す図となっている。
【0010】
ICカード100において、CPU101はバス102を通じてICカード100内の各部と接続されている。このうちROM103はICカード100の各部を制御するためのプログラムを格納した書き換え不能な不揮発性メモリである。また、RAM104はプログラムを実行するときに必要となる一時的なデータおよび画像等を含んだ通信データを一時的に格納するランダム・アクセス・メモリである。
【0011】
不揮発性記憶部105は、フラッシュメモリなどの、リーダーライターなどにより、書き換え可能なメモリである。温度検出部106は、ICカード100周辺の温度を検出するセンサであり、計時部107は時刻、時間を計測することが可能なものである。この温度検出部106で検出された温度データ及び、計時部107で計測された時間、時刻データは不揮発性記憶部105に格納される。
【0012】
また、無線通信部108は、アンテナコイルを有し、10cm以内程度の比較的近い距離で無線データ通信を行うためのユニットである。不揮発性記憶部105に記憶されている情報は、このような無線通信部108を読み出せるようになっている。また、無線通信部108を介して、所定情報を不揮発性記憶部105に書き込むことができるようになっている。
【0013】
図1(C)はICカード100の書き換え可能な不揮発性記憶部105の記憶内容を模
式的に図示したものである。このような不揮発性記憶部105には、例えば図示するように「作業員IDデータ」及び「時刻-検出温度データ」を記憶させることができるように
なっている。
「作業員IDデータ」は現場で作業に従事する作業員の一人一人に付与された唯一無二の固有IDに係るデータであり、「時刻-検出温度データ」は、計時部107で計測された
時間データと、温度検出部106によって検出された温度データとを対応づけたデータである。この「時刻-検出温度データ」は、ICカード100、すなわち当該ICカード1
00を携帯する作業員が、置かれた温度環境の履歴情報となる。
【0014】
なお、不揮発性記憶部105には、上記の「作業員IDデータ」及び「時刻-検出温度
データ」の他に、作業員の管理を行う上で有用な記憶データを記憶させることも可能である。
【0015】
現在の建設現場においては、入退場などの管理のためにICカードなどを用いることが一般的になりつつある。本発明に係る作業環境モニタシステムでは、このようなICカードをさらに拡張し、上記のような温度記録機能を持つものとしている。
【0016】
例えば、建設現場における施工を管理する場合においては、図1に示したICカード100を作業員の人数分用意した上で、作業員一人一人に対して固有の作業員IDデータを発行する。そして、固有の作業員IDデータを不揮発性記憶部105に記憶したICカード100を、それぞれの作業員に配布する。作業員はこのICカード100を携帯し、作業に従事するような運用を実施する。図2は本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムにおけるICカードを作業員が携帯し作業に従事する様子を示している。作業員が従事している間は、ICカード100は、計時部107によって計測データを計測し、温度検出部106で作業環境の温度を検出する。そして、作業期間中、計時部107で計測された時間データと、温度検出部によって検出された温度データとを対応づけた時刻-検出
温度データを不揮発性記憶部105に記憶する。以上のようにして、作業員一人一人のICカード100に、それぞれの作業員がどのような温度環境に置かれて作業に従事していたのかに係るデータを蓄積・収集する。
【0017】
次に、作業環境の温度情報が記録されたICカード100のデータを処理する方法の1
つについて説明する。図3は本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムにおけるデータ処理用の構成例を示す図である。図3において、200はパーソナルコンピュータであり、210はこのパーソナルコンピュータ200の適当なインターフェイスに接続されたカードリーダーライターを示している。パーソナルコンピュータ200は、演算装置や記憶手段、通信手段などを備える、現在広く普及している一般的なものを用いることができる。また、カードリーダーライター210は、パーソナルコンピュータ200に設けられているUSBインターフェイスなどに接続され、パーソナルコンピュータ200からの指令に基づいて、近接しているICカード100の不揮発性記憶部105のデータを読み取ったり、或いは、ICカード100の不揮発性記憶部105にデータを書き込んだりするものである。このような図3に係るデータ処理用システム構成例では、カードリーダーライター210上にICカード100を載置し、カードリーダーライター210からICカード100に記憶されている、作業員一人分の温度環境データをパーソナルコンピュータ200側に取り込んでいる状態を示している。
【0018】
次に、上記パーソナルコンピュータ200側におけるデータ処理についてより詳しく説明する。図4は本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムにおけるデータ処理のためのフローチャートを示す図である。このようなフローチャートはパーソナルコンピュータ200側で実行されるものであり、このような処理を実行することによって、作業員が適切な温度環境で作業に従事していたか否かに係る判定を行い、これが不適切であれば警
告を行うようにするものである。
【0019】
図4において、ステップS100で、処理ルーチンが開始されると、続いてステップS101に、進み、ステップS101において、ICカード100の不揮発性記憶部105に記憶されている「作業員IDデータ」及び「時刻-検出温度データ」を読み込む。
【0020】
次のステップS102においては、熱環境下でどれだけ過ごしてきたかをあらわす、熱累積なる指標を算出する。この熱累積については、より上位の概念として特許請求の範囲において「所定条件を満たす温度データの時間積分値」として表現している。
【0021】
この熱累積は、例えば、所定時間(例えば、1日、午前中など)の作業の間にどの程度の熱環境にさらされたのか、を示す指標である。熱累積Hsumは、時間軸に対する温度H
(t)の累積値であり、H(t)>Hstdmaxであるtについて、Hsum=Σ(H(t)−
stdmax)・Δtを計算することによって求める。(ただし、Δtはサンプリングの時間間隔であり、Hstdmaxは標準的な活動に適した温度の最大値である。)熱累積Hsumの値
が大きいほど、高温の環境下で長時間働いたことを示すことになる。
【0022】
図5は本発明の実施形態に係る作業環境モニタシステムで用いられる熱累積Hsumの概
念を説明する図である。熱累積Hsumは、Hstdmaxより高い温度環境でどの程度作業を行
ったかを示す目安となるものである。より厳密には、ステップS102で算出している熱累積Hsumは、図5における斜線部の面積を算出しているものであり、この面積が広けれ
ば広いほど、高温環境に長時間さらされていたことを現している。
【0023】
ステップS103では、ステップS102で求めた熱累積Hsumと、所定値であるHoとを比較して、Hsum>Hoが成立するか否かを判定する。すなわち、ステップS103においては、作業者の熱累積Hsumが所定の閾値を超えているか否かが判定される。
【0024】
近年、熱中症など屋外作業・活動中の負荷による健康被害も多い。ステップS103の判定ステップにおいては、例えば、熱中症の発生事例などを元に、温度と、熱累積の値において適当な閾値を設定するとよい。
【0025】
ステップS103における判定結果がYESであるときにはステップS104に進み、判定結果がNOであるときにはステップS105に進む。
【0026】
ステップS104では、作業員の熱累積Hsumが閾値を超えて体調面での懸念があるこ
とから、警告表示を行うようにする。なお、このような警告報知処理を実行する方法としては、パーソナルコンピュータ200のディスプレイ画面への表示による方法、或いは、パーソナルコンピュータ200に内蔵される音声発生装置による方法、或いは、作業員が所有する携帯電話などの携帯端末に電子メールを送信して警告する方法、或いは、現場の監督者の携帯電話に、当該監督者が管理する作業員が不適切な(高温の)作業環境下で作業に従事し、体調面について注意を向ける必要がある旨の電子メールを発信する方法などの種々の態様があり得る。
【0027】
ステップS105では、作業員の熱累積Hsumが閾値を超えておらず、作業時の温度環
境による体調面での心配はないことから、安全報知処理を実行する。このような安全報知処理を実行する方法としても、ステップS104における場合と同様に種々の態様があり得る。
【0028】
ステップS106では、パーソナルコンピュータ200に内蔵されているハードディスクなどの記憶領域に、作業員IDデータ毎に、当該作業日における時刻―検出温度データ
のログを記憶し、ステップS107で、処理ルーチンを終了する。
【0029】
以上のような本発明の作業環境モニタシステムでは、これまで説明してきたように、携帯可能なICカード100に内蔵される温度検出部106によって検出された温度データに基づいて、所定条件を満たす温度データの時間積分値(熱累積Hsum)を算出し、この
時間積分値(熱累積Hsum)が所定値より大きい場合に警告を行うシステムであるので、
このような本発明の作業環境モニタシステムによれば、ICカード100を携帯していた者が、どのような環境に置かれていたかなどを把握し、その人の体調面についてまで管理を行うことが可能となるのである。
【0030】
また、本発明の作業環境モニタシステムは、温度記録できるICカード100を携帯し、常に作業員がどのような温度環境で作業してきかの履歴を記録し、そのデータを元に作業者管理を行うものであり、監督者は当該データについて適宜モニタリングすることができ、特定の作業員が特に高い温度の環境下で作業が続いた場合などは、適切な対策を促すなどの指示を出すことが可能となる。
【0031】
なお、上記実施形態では、作業員が高温環境下にさらされることによる体調問題が発生する場合について説明したが、低温環境下における体調管理が問題となる場合でも本発明の作業環境モニタシステムを利用することができる。
【0032】
この場合、先の実施形態のステップS104の熱累積の算出においては、H(t)<Hstdminであるtについて、Hsum=Σ|H(t)−Hstdmin|・Δtを計算するようにす
ればよい。(ただし、Δtはサンプリングの時間間隔であり、Hstdminは標準的な活動に適した温度の最小値である。)なお、ステップSステップS103における熱累積値判断のための閾値としては、例えば、凍傷の発生事例などに基づき、その値を決定すればよい。
【0033】
以上、本発明の作業環境モニタシステムは、携帯可能なカードに内蔵される温度検出手段によって検出された温度データに基づいて、所定条件を満たす温度データの時間積分値を算出し、この時間積分値が所定値より大きい場合に警告を行うシステムであるので、このような本発明の作業環境モニタシステムによれば、カードを携帯していた者が、どのような環境に置かれていたかなどを把握し、その人の体調面についてまで管理を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
100・・・ICカード、102・・・バス、103・・・ROM、104・・・RAM、105・・・不揮発性記憶部、106・・・温度検出部、107・・・計時部、108・・・無線通信部、200・・・パーソナルコンピュータ、210・・・カードリーダーライター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間を計測する計時手段と、温度を検出する温度検出手段と、前記計時手段で計測された時間データと、前記温度検出手段によって検出された温度データとを対応づけて記憶する記憶部と、を有する携帯可能なカードと、
前記記憶部されたデータに基づいて、所定条件を満たす温度データの時間積分値を算出する積分値算出手段と、
前記積分値算出手段によって算出された温度データの時間積分値と、所定値とを比較する比較手段と、
前記時間積分値が前記所定値より大きい場合に警告を行う警告手段と、を有することを特徴とする作業環境モニタシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−95999(P2011−95999A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249161(P2009−249161)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】