説明

作業用ロボットおよび同作業用ロボットに適用されるコンピュータプログラム

【課題】操作器を用いた操作者によるエンドエフェクタの位置決めや姿勢決めを簡単かつ高精度に行え、作業精度を向上させることができる作業用ロボットを提供する。
【解決手段】作業用ロボット100は、複数の自由度を備えてエンドエフェクタであるシリンジ112を変位させるロボットアーム110と、同ロボットアーム110の作動を制御するスレーブ制御装置120およびマスタ制御装置130と、ロボットアーム110を操作するためのマニピュレータ131aとを備えている。スレーブ制御装置120は、ワーク座標系内にシリンジ112の位置と姿勢を規制するための吸着点APgridの集合である吸着要素パターンAPを設定する。そして、スレーブ制御装置120は、マニピュレータ131aの操作によるシリンジ112の位置姿勢目標値に直近の吸着点APgridを位置姿勢目標補正値として特定し、同位置姿勢目標補正値に向かってシリンジ112を変位させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の自由度を持ち、各自由度に対応するアクチュエータによりエンドエフェクタを変位させることができるロボットアームを備えた作業用ロボットおよび同作業用ロボットに適用されるコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の自由度を持ち、各自由度に対応するアクチュエータによりエンドエフェクタを変位させることができるロボットアームを備えた作業用ロボットが知られている。例えば、複数のアーム部材を順次連結するとともに各連結部にて一方のアーム部材に対して他方のアーム部材を相対変位可能に構成したロボットアームの先端部に、ワークを把持するためのハンドや塗料を噴出するためのスプレーガンなどのエンドエフェクタを設けて、所定の位置に配置されたワークに対して所定の作業、例えば、ワークの変位やワークの塗装を行う産業用多関節ロボットがある。
【0003】
一般に、このような作業用ロボットは、エンドエフェクタを支持するロボットアームの他に、同ロボットアームの作動を制御するための制御装置と、同制御装置に対して操作者からの指示を入力するための操作器とを備えて構成されている。そして、作業用ロボットによる実際の作業は、動作内容を予め作業用ロボット(制御装置)に教示(記憶)して作動させる自動運転、または操作器を用いた操作者による手動運転により行われる。
【0004】
ところが、このような作業用ロボットに対する動作内容の教示作業(所謂ティーチング)や作業用ロボットの手動運転は、操作者による操作器の手動操作によって行われるため、エンドエフェクタを高精度に位置決めおよび姿勢決めすることが困難である。特に、ワークとエンドエフェクタとの位置や姿勢関係が厳密に要求される作業や、微細なワークに対する作業においては、位置や姿勢関係の調整に係る操作者の作業負担が大きく、作業の効率が悪いとともに作業の精度が低いという問題がある。
【0005】
このような操作者による手動操作の困難性および不正確性を解決するため、例えば、下記特許文献1には、作業用ロボットがエンドエフェクタの位置決めに用いる座標系内にエンドエフェクタを強制的に位置決めするための格子点を設定した作業用ロボットが開示されている。この作業用ロボットにおいては、作業用ロボットの動作内容を教示するティーチングの際、操作者が指定した教示点に対して直近の格子点を目標の位置として位置決め位置を変更することにより、操作者による手動操作の困難性、不正確性の解消を図っている。
【特許文献1】特開平02−304601号公報
【0006】
しかしながら、上記した作業用ロボットにおいては、作業用ロボットの動作内容をティーチングペンダント(操作器)などで教示するティーチング型の作業用ロボットを前提としており、操作者の判断に基づく手動操作によってリアルタイムに作業を行う作業用ロボットにおいては、操作者によるエンドエフェクタの操作精度に影響されて正確な位置決めが依然として困難である。また、上記した作業用ロボットにおいては、作業ロボットの動作(位置決め)は、格子点上に限定されるため、その動作は不連続となり、操作者の自然な連続操作を生かしつつ作業性と両立させることはできない。さらに、上記した作業用ロボットにおいては、エンドエフェクタの位置決め位置のみを補正するものであるため、エンドエフェクタの姿勢、換言すれば、エンドエフェクタの向きを正確に決めすることができず、作業用ロボットによる作業精度が未だ不十分であるという問題がある。
【発明の開示】
【0007】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、操作器を用いた操作者によるエンドエフェクタの位置決めおよび/または姿勢決めを簡単かつ高精度に行え、作業用ロボットによる作業精度を向上させることができる作業用ロボットおよび同作業用ロボットに適用されるコンピュータプログラムを提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明の特徴は、複数の自由度を備え、同各自由度ごとに設けられたアクチュエータによってエンドエフェクタを変位可能に保持したロボットアームと、エンドエフェクタの位置および姿勢を決めるためのワーク座標系を備え、ロボットアームの作動を制御する制御装置と、制御装置を介してロボットアームを操作するための操作器とを備えた作業用ロボットにおいて、前記制御装置は、ワーク座標系内におけるエンドエフェクタの位置および/または姿勢を規定するための吸着要素を同ワーク座標系内に設定する吸着要素設定手段と、エンドエフェクタの目標位置および/または目標姿勢に対して直近の吸着要素を特定する吸着要素特定手段と、前記目標位置および/または目標姿勢にエンドエフェクタを変位させる際、前記特定した吸着要素に向ってエンドエフェクタを変位させる位置姿勢補正手段とを備えたことにある。
【0009】
この場合、前記作業用ロボットにおいて、制御装置は、下記数1に示す運動方程式を用いたインピーダンス制御によってロボットアームの作動を制御するとよい。
【数1】

なお、上記数1におけるMは慣性を表すインピーダンスパラメータ、Dは機械抵抗(粘性)を表すインピーダンスパラメータ、Kは剛性(弾性)を表すインピーダンスパラメータ、x(t)は前記エンドエフェクタの前記ワーク座標系における位置および/または姿勢を表す一般化ベクトル、xcmd(t)は前記エンドエフェクタの目標位置および/または目標姿勢を表す一般化ベクトル、f(t)は前記エンドエフェクタに作用する外力を表す一般化ベクトル、xgridは前記特定された吸着要素、変数x(t)およびxcmd(t)の上に付したドット数は、同ドット数だけの微分を表す。
【0010】
このように構成した請求項1に係る発明の特徴によれば、エンドエフェクタが変位するワーク座標系内にエンドエフェクタの位置や姿勢を規定するための吸着要素を設定して、エンドエフェクタを変位させる際、エンドエフェクタの目標位置や目標姿勢に直近の吸着要素にエンドエフェクタが変位するように構成されている。このため、操作者は、所謂ティーチング型の作業用ロボットであっても、または操作者の判断に基づく手動操作によってリアルタイムに作業を行う作業用ロボットでもあっても、作業用ロボットの形式に関わらずエンドエフェクタの位置決めや姿勢決めを正確に行うことができる。この場合、操作者はワーク座標系における必要とされる任意の位置に吸着要素を配置するだけでエンドエフェクタを高精度に位置・姿勢決めを正確に行うことができる。また、本発明によれば、エンドエフェクタの位置のほかエンドエフェクタの姿勢も規制することができる。この結果、操作器を用いた操作者によるエンドエフェクタの位置決めや姿勢決めを簡単かつ高精度に行え、作業用ロボットによる作業精度を向上させることができる。
【0011】
また、請求項2に係る発明の特徴は、前記作業用ロボットにおいて、吸着要素設定手段は、複数の吸着要素の集合からなる吸着要素パターンをワーク座標系内に設定することにある。このように構成した請求項2に係る発明の特徴によれば、吸着要素ごとにエンドエフェクタの位置や姿勢決めを行うことができる。このため、エンドエフェクタの位置や姿勢を微調整したり、ワークに対して異なる位置や姿勢から連続的に作業を実行したりすることができ、作業精度や作業効率を向上させることができるとともに多様な作業を実行させることができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明の特徴は、前記作業用ロボットにおいて、位置姿勢補正手段は、前記特定された吸着要素に向うエンドエフェクタの変位の程度を調整するための変位調整手段を備えたことにある。このように構成した請求項3に係る発明の特徴によれば、作業用ロボットによる作業中においてエンドエフェクタの吸着要素への変位が不要の場合には、エンドエフェクタの吸着機能を縮小、または無効とすることができ、操作者は、自由な操作が可能となる。すなわち、操作者による自由な操作が必要な作業と、吸着機能によるエンドエフェクタの正確な位置・姿勢決めとを自由に選択して作業を行うことができる。これにより、作業用ロボットの操作性が向上するとともに、適応範囲を広範することができる。
【0013】
また、請求項4に係る発明の特徴は、前記作業用ロボットにおいて、操作器は、位置姿勢補正手段によってエンドエフェクタを変位させる際、操作者による操作感を変化させることができる操作感変更手段を備えることにある。このように構成した請求項4に係る発明の特徴によれば、エンドエフェクタに作用する外力や吸着力の大きさを操作器の操作により把握することができ、より正確で適確な操作を行うことができる。この結果、作業用ロボットによる作業性および作業精度を向上させることができる。
【0014】
また、請求項5に係る発明の特徴は、前記作業用ロボットにおいて、位置姿勢補正手段は、ロボットアームにおける前記各自由度ごとに前記特定された吸着要素に向うエンドエフェクタの変位の可否を選択可能なことにある。このように構成した請求項5に係る発明の特徴によれば、位置決めや姿勢決めが必要な自由度ごとに規制の可否を選択できる。この結果、操作者による自由な操作と、位置・姿勢の規制による正確な位置・姿勢決めとにより作業用ロボットで実現できる作業の種類が増加し、作業用ロボットの適用範囲、用途の幅を一層広げることができる。
【0015】
また、請求項6に係る発明の特徴は、前記作業用ロボットにおいて、吸着要素設定手段は、ワーク座標系内に配置された物体の内部に相当する空間に吸着要素を設定することにある。このように構成した請求項6に係る発明の特徴によれば、エンドエフェクタの目標位置を物体の内部空間に指示した場合、エンドエフェクタは物体の内部空間に設定された吸着要素に向って変位しようとするため、物体に接触したエンドエフェクタは物体を押圧する。すなわち、エンドエフェクタを物体に押し付けた状態の作業を行わせることができる。この結果、作業用ロボットで実現できる作業の種類が増加し、作業用ロボットの適用範囲、用途の幅を一層広げることができる。
【0016】
また、請求項7に係る発明の特徴は、前記作業用ロボットにおいて、さらに、ワーク座標系内におけるエンドエフェクタを撮影するための撮影手段と、制御装置に備えられ、撮影手段にて撮影されたエンドエフェクタ画像とワーク座標系内に設定された吸着要素を表す吸着要素画像とを合成する画像合成手段と、前記合成された画像を表示する表示手段とを備えたことにある。
【0017】
このように構成した請求項7に係る発明の特徴によれば、操作器を操作してエンドエフェクタの位置決めや姿勢決めを行う際、操作者は、表示手段に表示されたエンドエフェクタと吸着要素との位置関係を確認しながらエンドエフェクタの操作を行うことができる。この結果、作業用ロボットにおける作業性および作業精度を向上させることができる。
【0018】
また、請求項8に係る発明の特徴は、前記作業用ロボットにおいて、さらに、複数の吸着要素の集合からなる吸着要素パターンを複数組記憶する吸着要素パターン記憶手段を備え、吸着要素設定手段は、前記記憶された吸着要素パターンを選択的にワーク座標系内に設定することにある。
【0019】
このように構成した請求項8に係る発明の特徴によれば、作業用ロボット100に実行させる作業の内容やワークWKの形状などに応じて適宜吸着要素パターンを切換ながらエンドエフェクタの位置決めや姿勢決めを行うことができる。この結果、作業用ロボットで実現できる作業の種類が増加し、作業用ロボットの適用範囲、用途の幅を一層広げることができる。
【0020】
また、本発明は作業用ロボットの発明として実施できるだけでなく、同作業用ロボットに用いられるコンピュータプログラムの発明としても実施できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(作業用ロボット100の構成)
以下、本発明に係る作業用ロボットの一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る作業用ロボット100の構成を模式的に示した構成概略図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。この作業用ロボット100は、ワークWKの表面に液状の接着剤を滴状に塗布するものである。
【0022】
この作業用ロボット100は、ロボットアーム110を備えている。ロボットアーム110は、主として、支持機構111とシリンジ112とで構成されている。支持機構111は、複数のアーム部材を順次連結するとともに各連結部にて一方のアーム部材に対して他方のアーム部材を相対変位可能に組み付けて構成されている。シリンジ112は、支持機構111の先端部に同支持機構111に対して相対変位可能な状態で組み付けられており、図示しないタンクから供給される液滴状の接着剤を吐出する。
【0023】
ロボットアーム110における支持機構111およびシリンジ112の各連結部(関節部)には、図示しないアクチュエータが設けられており、支持機構111の先端部に保持されたシリンジ112の位置および姿勢(向き)を6自由度で変位させることができる。また、ロボットアーム110におけるシリンジ112には、エンドエフェクタであるシリンジ112に加わる外力を検出するための力センサ113が設けられている。この場合、シリンジ112に加わる外力は、ロボットアーム110の作業領域に固有に設定される直交3軸(X,Y,Z)の座標軸からなるワーク座標系における3つの軸方向の並進力および同3つの軸回りのモーメントである。
【0024】
このロボットアーム110には、スレーブ制御装置120が接続されている。スレーブ制御装置120は、CPU、ROM、RAM、ハードディスクおよびI/Oインターフェースなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、図4に示すロボットアーム制御プログラムを実行することによりロボットアーム110の作動を制御する。このスレーブ制御装置120が内蔵するROMやハードディスクなどによって構成された記憶装置120aには、前記ロボットアーム制御プログラムの他、ロボットアーム110の作業領域に固有に設定されるに前記ワーク座標系やシリンジ112の位置および姿勢を規定するための吸着要素パターンAPが記憶されている。
【0025】
そして、スレーブ制御装置120は、これらのワーク座標系および吸着要素パターンAPと、マスタ制御装置130から出力される各種指令信号と、ロボットアーム110に設けられた力センサ113から出力される外力の検出値とを用いてインピーダンス制御によりロボットアーム110の作動を制御する。また、スレーブ制御装置120は、力センサ113から出力される外力の検出値と、シリンジ112の位置、速度、加速度とを表す現在位置ベクトルをマスタ制御装置130に出力する。
【0026】
ここで、インピーダンス制御とは、ロボットアーム110に保持されたシリンジ112の位置と、同シリンジ112に作用する外力とを用いてシリンジ112の変位に「硬さ」や「柔らかさ」を持たせるようにロボットアーム110の作動を制御する方法である。
【0027】
このスレーブ制御装置120には、マスタ制御装置130が接続されている。マスタ制御装置130は、CPU、ROM、RAM、ハードディスクおよびI/Oインターフェースなどからなるマイクロコンピュータによって構成されるとともに、操作者からの指示を入力するための入力装置131、および操作者に対して作業用ロボット100の作動状況を表示するための表示装置132をそれぞれ備えている。マスタ制御装置130は、入力装置131を介して入力される操作者からの指示に従ってスレーブ制御装置120および撮影機140の作動をそれぞれ制御するとともに、スレーブ制御装置120および撮影機140から入力した情報に基づいて作業用ロボット100の作動状況などの情報を表示装置132に表示させる。
【0028】
このマスタ制御装置130に内蔵されたROMやハードディスクによって構成された記憶装置130aには、前記ワーク座標系および吸着要素パターンAPの他、撮影機140に固有に設定される直交3軸(X,Y,Z)の座標軸からなる操作者座標系、同操作者座標系の座標値とワーク座標系の座標値とを相互に座標変換するための座標変換係数、および図3に示す手動操作プログラムが記憶されている。また、マスタ制御装置130は、画像処理部130bと座標変換部130cとを備えている。画像処理部130bは、撮影機140によって撮影した画像、または同画像に記憶装置130aに記憶されている吸着要素パターンAPを表す画像を合成した合成画像を生成して表示装置132に表示させる。座標変換部130cは、記憶装置130aに記憶されている座標変換係数を用いて操作者座標系の座標値とワーク座標系の座標値とを相互に座標変換する。
【0029】
入力装置131は、ロボットアーム110と同様の自由度を備え、ロボットアーム110を操作するための運動指令ベクトル信号を出力するマニピュレータ131aと、作業用ロボット100が備える各種機能の実行を指示するための複数のキーを備えた手元操作箱131bとから構成されている。一方、表示装置132は、作業用ロボット100の作動状況を表す各種情報を表示するための液晶ディスプレイで構成されている。
【0030】
また、マスタ制御装置130には、撮影機140が接続されている。撮影機140は、ロボットアーム110の作業領域の外側に配置されており、同作業領域内を撮影した動画画像データをマスタ制御装置130の画像処理部130cに出力する。この場合、撮影機140から出力される画像データは、撮影機140固有の座標系である操作者座標系で表されている。なお、撮影機140における撮影倍率は、マスタ制御装置130を介して操作者によって適宜調整される。
【0031】
(作業用ロボット100の作動)
次に、上記のように構成した作業用ロボット100の作動について説明する。まず、操作者は、作業用ロボット100における図示しない電源スイッチを投入する。これにより、作業用ロボット100は、図示しないプログラムを実行することにより原点復帰した後、操作者からの指示の入力を待つ待機状態となる。次に、操作者は、ロボットアーム110の作業領域内にワークWKを配置するとともに、入力装置131における手元操作箱131bを操作して撮影機140の作動を開始させる。これにより、表示装置132には、ロボットアーム110の作業領域内の様子がリアルタイムで表示される。そして、操作者は、ワークWKの上面に接着剤を塗布する作業を開始する。本実施形態においては、図2に示すように、操作者による手動操作によってワークWK上における仮想円C(二点鎖線で示す)の円周上の4つのポイントP〜Pに液滴状の接着剤の塗布を行う。
【0032】
具体的には、操作者は、入力装置131における手元操作箱131bを操作して接着剤の塗布作業の実行をマスタ制御装置130に指示する。この指示に応答してマスタ制御装置130は、記憶装置130aに記憶されている手動操作プログラムの実行をステップS100にて開始して、ステップS102にて、ロボットアーム制御プログラムの実行をスレーブ制御装置120に指示する。これにより、スレーブ制御装置120は、記憶装置120aに記憶されているロボットアーム制御プログラムの実行をステップS200にて開始する。
【0033】
マスタ制御装置130は、ステップS104にて、吸着要素パターンAPを設定するか否かの入力を待つ。吸着要素パターンAPは、ロボットアーム110のシリンジ112の位置および姿勢(向き)を規定するための座標値データおよび角度データからなる座標ベクトルデータの集合であり、1つの座標ベクトルデータによって表された1つの吸着点APgridは下記数2によって構成されている。下記数2において、x,y,zは直交3軸の座標値であり、φx,φy,φzは同直交3軸の回転角である。
【数2】

【0034】
この吸着要素パターンAPは、操作者によって予めスレーブ制御装置120およびマスタ制御装置130の各記憶装置120a,130aにそれぞれ記憶されている。この場合、記憶装置120aに記憶されている吸着要素パターンAPは、ワーク座標系によって表されており、記憶装置130aに記憶されている吸着要素パターンAPは操作者座標系によって表されている。本実施形態においては、図5(A)に示すように、仮想円CにおけるポイントP〜Pから上方に向って錘状に広がって配置された16個の吸着点APgridの集合を吸着要素パターンAPとして用いる。すなわち、吸着要素パターンAPを構成する複数の吸着点APgridが本発明に係る吸着要素である。なお、図5(A)においては、吸着要素パターンAPを構成する各吸着点APgridの座標位置とベクトルとを丸点と同丸点を貫く破線で表している。
【0035】
マスタ制御装置130は、手元操作箱131bを介して操作者によって吸着要素パターンAPの設定のオンまたはオフが入力されると、ステップS104にて「Yes」と判定してステップS106に進む。ステップS106において、マスタ制御装置130は、操作者によって指定された吸着要素パターンAPの設定または非設定の設定状態を記憶するとともに、同設定状態をスレーブ制御装置120に出力する。また、マスタ制御装置130は、吸着要素パターンAPを設定した場合には、撮影機140によって撮影した画像に吸着要素パターンAPを表す画像を画像処理部130bにて合成し、同合成した画像を表示装置132に表示させる(図5(A)参照)。これにより、操作者は、ワーク座標系および操作者座標系に吸着要素パターンAPが設定されたこと、およびワークWKと吸着要素パターンAPとの位置関係を容易に把握することができる。
【0036】
一方、スレーブ制御装置120は、記憶装置120aに記憶されているロボットアーム制御プログラムの実行をステップS200にて開始している。具体的には、スレーブ制御装置120は、ステップS202にて、ロボットアーム制御プログラムの実行の停止指令の有無の検出し、ステップS204にて、吸着要素パターンAPの設定入力の有無の検出(ステップS204)をそれぞれ実行する。そして、スレーブ制御装置120は、ステップS204にてマスタ制御装置130から吸着要素パターンAPの設定または非設定の設定結果を入力した場合には、ステップS206にて同設定結果を記憶する。このステップS106,S206における吸着要素パターンAPの設定が、本発明に係る吸着要素設定手段に相当する。
【0037】
次に、マスタ制御装置130は、ステップS108にて、吸着要素パターンAPの設定の変更の指示の有無を検出し、吸着要素パターンAPの設定の変更の指示が操作者により入力されない限り、「No」と判定してステップS110に進む。また、吸着要素パターンAPの設定の変更の指示が操作者により入力された場合には、マスタ制御装置130は、ステップS108にて、「Yes」と判定してステップS104に戻る。これにより、再度、吸着要素パターンAPの設定または非設定を選択することができる。
【0038】
次に、マスタ制御装置130は、ステップS110にて、手動操作プログラムの実行の停止の指示の有無を検出し、同手動操作プログラムの実行の停止の指示が操作者により入力されない限り、「No」と判定してステップS112に進む。また、手動操作プログラムの実行の停止の指示が操作者により入力された場合には、マスタ制御装置130は、ステップS110にて、「Yes」と判定してステップS120に進む。
【0039】
次に、マスタ制御装置130は、ステップS112にて、ロボットアーム110の位置姿勢目標値を取得する。この位置姿勢目標値は、ロボットアーム110のシリンジ112の目標位置および目標姿勢を指定するための座標値データおよび角度データからなる座標ベクトルデータであり、操作者によるマニピュレータ131aの操作に応じて生成される運動指令値である。したがって、マスタ制御装置130は、操作者によってマニピュレータ131aが操作されているとき、同マニピュレータ131aの操作に応じた運動指令値を位置姿勢目標値として取得する。
【0040】
具体的には、操作者は、表示装置132に表示されたロボットアーム110の作業領域内の様子と吸着要素パターンAPとの合成画像を確認しながら、シリンジ112の先端部が接着剤を塗布するポイントP〜Pのいずれかの位置の近傍に位置するようにマニピュレータ131aを操作する。これにより、マニピュレータ131aは、操作者の操作に応じた運動指令値をマスタ制御装置130に出力し、マスタ制御装置130は同出力された運動指令値を位置姿勢目標値として取得する。
【0041】
次に、マスタ制御装置130は、ステップS114にて、取得した位置姿勢目標値をワーク座標系によって表された位置姿勢目標値に座標変換してスレーブ制御装置120に出力する。この座標変換は、操作者座標系によって表された位置姿勢目標値をワーク座標系によって表された位置姿勢目標値に座標変換するものであり、記憶装置130aに記憶した座標変換係数を用いて座標変換部130cにより行われる。
【0042】
一方、スレーブ制御装置120は、ステップS208にて、マスタ制御装置130から出力される位置姿勢目標値を取得する。そして、スレーブ制御装置120は、ステップS210にて、位置姿勢目標補正値を計算する。具体的には、スレーブ制御装置120は、吸着要素パターンAPを構成する各座標ベクトルデータ(吸着点APgrid)と入力した位置姿勢目標値との差を計算し、同差が最小である座標ベクトルデータを直近の吸着要素となる位置姿勢目標補正値として特定して記憶する。
【0043】
また、スレーブ制御装置120は、特定した位置姿勢目標補正値をマスタ制御装置130に出力する。このステップS210における位置姿勢目標補正値の計算が、本発明に係る吸着要素特定手段に相当する。なお、スレーブ制御装置120は、前記ステップS206にて吸着要素パターンAPを非設定とした場合には、このステップS210の処理を実行せずステップS212にスキップする。
【0044】
次に、スレーブ制御装置120は、ステップS212にて、ロボットアーム110の位置・姿勢決め制御を実行する。具体的には、スレーブ制御装置120は、下記数3および数4に示す運動方程式に基づいてロボットアーム110の位置および姿勢をインピーダンス制御する。
【数3】

【数4】

【0045】
前記数3および数4において、Mは慣性を表すインピーダンスパラメータ、Dは機械抵抗(粘性)を表すインピーダンスパラメータ、Kは剛性(弾性)を表すインピーダンスパラメータ、x(t)はシリンジ112のワーク座標系における現在の位置および姿勢を表す一般化ベクトル、xcmd(t)はシリンジ112の変位の目標位置および目標姿勢を表す一般化ベクトル(すなわち、位置姿勢目標値)、f(t)はシリンジ112に作用する外力を表す一般化ベクトル、fgrid(t)はシリンジ112を前記特定した吸着要素(位置姿勢目標補正値)に向って変位させるための吸着力を表す一般化ベクトル、xgridは前記特定された吸着点APgrid(位置姿勢目標補正値)、Wは吸着力fgrid(t)を調節するための吸着度係数である。また、変数x(t)およびxcmd(t)の上に付したドット数は、同ドット数だけの微分を示す。
【0046】
前記数3は、多関節作業用ロボットをインピーダンス制御する場合において、一般的に用いられる運動方程式の右辺に、W・fgridを加算したものであり、本発明の本質的部分の1つである。この数3および数4によれば、ロボットアーム110のシリンジ112に作用する外力f(t)=0の場合、ロボットアーム110のシリンジ112の先端部は吸着度係数Wの値に対応する吸着力fgrid(t)で位置姿勢目標補正値xgridに向って変位する。すなわち、ロボットアーム110のシリンジ112は、操作者が指定した位置姿勢目標値xcmd(t)に直近の位置姿勢目標補正値xgridに向って変位する。そして、本実施形態の場合、吸着度係数Wは下記数5に示すように設定されている。
【数5】

【0047】
前記数5において、vmaxはロボットアーム110におけるシリンジ112が位置姿勢目標補正値xgridに向う変位、すなわち、シリンジ112の位置・姿勢決めの吸着機能を無効とするための速度指令ベクトルの上限値であり、vminは同シリンジ112の位置・姿勢決めの吸着機能を有効とするための速度指令ベクトルの下限値である。したがって、前記数3〜数5によれば、ロボットアーム110におけるシリンジ112の変位の速度がvmin以下のとき、吸着力fgrid(t)がそのまま作用してシリンジ112の位置・姿勢決めの吸着機能が実行される。一方、シリンジ112の変位の速度がvmax以上のとき、吸着力fgrid(t)=0となりシリンジ112の位置・姿勢決めの吸着機能が無効となる。また、ロボットアーム110におけるシリンジ112の変位の速度がvminより大きくかつvmaxより小さいとき、同シリンジ112の変位の速度の大きさに応じた吸着力fgrid(t)によりシリンジ112の位置・姿勢決めの吸着機能が実行される。
【0048】
すなわち、ロボットアーム110のシリンジ112が静止または静止と看做せるほどの速度でゆっくり移動している場合にのみシリンジ112の位置・姿勢の吸着機能が作用し、シリンジ112が速く移動している場合には、シリンジ112の位置・姿勢の吸着機能が作用しない。これにより、シリンジ112の移動時におけるシリンジ112の位置・姿勢の吸着機能が無くなり、操作者の指示した通りにシリンジ112が変位してシリンジ112の自然な位置・姿勢決めの操作が行える。そして、シリンジ112が静止と看做せるほどの変位速度以下に減速した際には、シリンジ112の位置・姿勢決めの吸着機能が作用、具体的には、シリンジ112が位置姿勢目標補正値xgridに向って変位して正確な位置・姿勢決めが行われる。すなわち、このステップS212におけるロボットアーム110の位置姿勢決め制御が、本発明に係る変位調整手段を含む位置姿勢補正手段に相当する。そして、スレーブ制御装置120は、ステップS212の処理の実行後、ステップS202に戻ってステップS202〜ステップS212の一連の処理を繰り返し実行する。
【0049】
なお、シリンジ112に外力f(t)が作用している場合、例えば、シリンジ112がワークWKに接触している場合には、力センサ113によって検出される外力f(t)と平衡となる位置および姿勢にシリンジ112が位置・姿勢決めされる。
【0050】
一方、マスタ制御装置130は、ステップS116にて、スレーブ制御装置120から出力(ステップS210)される位置姿勢目標補正値を取得する。そして、マスタ制御装置130は、ステップS118にて、ロボットアーム110のシリンジ112が位置・姿勢決めされる位置および方向(向き)を表示装置132に表示する。具体的には、マスタ制御装置130は、前記ステップS116にて入力した位置姿勢目標補正値を記憶装置130aに記憶した座標変換係数を用いて操作者座標系によって表された位置姿勢目標補正値に座標変換する。そして、マスタ制御装置130は、図5(B)に示すように、位置姿勢目標補正値に対応する吸着要素パターンAPにおける吸着点APgridの座標値Txと同座標値に向かうシリンジ112の変位の方向Tvとを表示装置132にそれぞれ表示させる。これにより、操作者はシリンジ112が位置決めしようとする位置および姿勢を容易に把握することができる。なお、図5(B)は、ポイントP1にシリンジ112を位置・姿勢決めする場合を示している。
【0051】
そして、マスタ制御装置130は、ステップS118の処理の実行後ステップS108に戻り、ステップS108〜ステップS118の処理を繰り返し実行する。すなわち、操作者がマニピュレータ131aを操作してシリンジ112の位置・姿勢決めを行う間、ステップS108〜ステップS118の各処理が繰り返し実行され、シリンジ112の目標となる位置および姿勢がマニピュレータ131aの操作に応じて連続的に変化(換言すれば、位置姿勢目標補正値が連続的に遷移)しながら位置・姿勢決めが実行される。この場合、操作者は、目的とするシリンジ112の位置および姿勢に近い位置および姿勢にシリンジ112の位置および姿勢をマニピュレータ131aによって操作するだけで、シリンジ112の位置・姿勢を吸着機能により目的とする位置および姿勢に簡単に決めることができる。そして、図5(C)に示すように、シリンジ112の位置および姿勢が操作者の意図する位置および姿勢に決められた場合には、操作者は手元操作箱131bを操作して接着剤の塗布を行う。これにより、ワークWK上において操作者が意図する位置に意図する姿勢によって接着剤を正確に塗布することができる。
【0052】
操作者は、接着剤を塗布する他のポイントP2〜P4に対しても同様の手順で接着剤の塗布を行う。そして、すべてのポイントP1〜P4に対して接着剤の塗布が完了した場合には、操作者は、手元操作箱131bを操作して手動操作プログラムの実行の停止をマスタ制御装置130に指示する。これにより、マスタ制御装置130は、ステップS110にて、「Yes」と判定してステップS120に進む。ステップS120においてマスタ制御装置130は、ロボットアーム制御プログラムの実行の停止をスレーブ制御装置120に指示する。そして、マスタ制御装置130は、ステップS122にて、ロボットアーム制御プログラムの実行を停止する。
【0053】
一方、スレーブ制御装置120は、マスタ制御装置130からロボットアーム制御プログラムの実行の停止指示を入力すると、ステップS202にて「Yes」と判定してステップS214に進み、同ステップS214にてロボットアーム制御プログラムの実行を停止する。これにより、ワークWKに対する接着剤の塗布作業が終了する。
【0054】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、シリンジ112が変位するワーク座標系内にシリンジ112の位置および姿勢を規定するための吸着要素パターンAPを設定して、シリンジ112を変位させる際、シリンジ112の位置姿勢目標値に対して直近の吸着要素APgridにシリンジ112が変位するように構成している。このため、操作者は、所謂ティーチング型の作業用ロボット100であっても、または操作者の判断に基づく手動操作によってリアルタイムに作業を行う作業用ロボット100でもあっても、作業用ロボット100の形式に関わらずシリンジ112の位置決めや姿勢決めを正確に行うことができる。この場合、操作者はワーク座標系における必要とされる任意の位置に吸着要素パターンAPを配置するだけでシリンジ112を高精度に位置・姿勢決めを行うことができる。また、シリンジ112の位置に加えて姿勢も規制することができる。この結果、マニピュレータ131aを用いた操作者によるシリンジ112の位置決めや姿勢決めを簡単かつ高精度に行え、作業用ロボット100による作業精度を向上させることができる。
【0055】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0056】
例えば、上記実施形態においては、ワークWKの上面に接着剤を塗布するためにシリンジ112の先端部がワークWKに接触しないように吸着要素パターンAPを設定して接着剤を塗布するように構成した。しかし、シリンジ112などのエンドエフェクタをワークWKに接触させるとともに、所定の力で同ワークWKを押圧しながら作業を実行させることも可能である。例えば、図6(A)に示すように、ワークWKの表面に形成された穴部H内に接着剤を充填する場合、シリンジ112の先端部をワークWKの表面に所定の押圧力で押し当てた状態で接着剤を吐出する必要がある。
【0057】
具体的には、図6(B)に示すように、吸着点APgrid1〜APgrid6の集合によって構成される吸着要素パターンAPの一部(APgrid3〜APgrid6)をワークWKの内部に相当する空間にも設定する。そして、操作者は、前記手動操作プログラムにおけるステップS112にてシリンジ112を位置決めする際、ワークWKの内部に設定された吸着要素パターンAP(例えば、吸着点APgrid4)付近にシリンジ112を位置決めさせるようにマニピュレータ131aを操作する(図6(B)において位置姿勢目標値xcmd(t))。これにより、スレーブ制御装置120は、前記ロボットアーム制御プログラムにおけるステップS210にて、吸着点APgrid4を位置姿勢目標補正値xgridとして特定する。その結果、前記数3および数4における吸着力fgrid(t)がシリンジ112の現在位置x(t)と位置姿勢目標補正値xgridとの差の大きさ応じて大きくなる。すなわち、ワークWKの表面にシリンジ112の先端部が接触した場合、操作者がマニピュレータ131aを操作してシリンジ112の現在位置x(t)と位置姿勢目標補正値xgridとの差を大きくするほど、シリンジ112がワークWKの表面を押圧する力が大きくなる。
【0058】
図7は、ワークWKの表面にシリンジ112の先端部を接触させた状態で、シリンジ112をワークWKに押し当てるようにマニピュレータ131aを操作した場合における吸着力fgrid(t)の変化を示している。図7によれば、ワークWKの内部に向ってシリンジ112を押し込む方向に運動指令値が変化するに従って、シリンジ112に作用する吸着力fgrid(t)が吸着点APgridごとに増加している。したがって、操作者は、ワークWKの内部に相当する空間内にも吸着要素パターンAPを設定するとともに、同ワーク内部に設定した吸着要素パターンAPを位置姿勢目標補正値xgridとすることにより、シリンジ112でワークWKの表面を所定の押圧力で押圧しながら穴部H内に接着剤を充填することができる。
【0059】
また、上記実施形態においては、吸着要素パターンAPをワークWKの上方に向かって錘状に広がって配置された複数の吸着点APgridの集合で構成した。しかし、吸着要素パターンAPを構成する吸着点APgridの数や配置は、作業用ロボット100に実行させる作業の内容やワークWKの形状などに応じて適宜設計させるものであり、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、吸着点APgridを格子状、放射状、円周状、円筒状または関数曲線状に配置して吸着要素パターンAPを構成してもよいし、各吸着点APgridの相互の間隔を等間隔のほか、線形または対数状に設定してもよい。また、作業用ロボット100に実行させる作業の内容によっては、1つの吸着点APgrid(吸着要素)のみを設定してエンドエフェクタの位置・姿勢決めをすることも可能である。さらには、作業用ロボット100による作業中に吸着要素パターンAPを構成する吸着点APgridの追加や配置変更を可能としてよい。これらによれば、上記実施形態と同様の効果が期待できるとともに、作業用ロボット100で実現できる作業の種類が増加し、作業用ロボット100の適用範囲、用途の幅を一層広げることができる。
【0060】
また、上記実施形態においては、シリンジ112の位置・姿勢決めに用いる吸着要素パターンAPを1つとしたが、当然、これに限定されるものではない。すなわち、2つ以上の吸着要素パターンAPを記憶装置120a,130aに記憶しておき、作業用ロボット100における作業の内容に応じて適宜選択してシリンジ112の位置・姿勢決めを行えるように構成してもよい。これによれば、幅広い内容の作業を作業用ロボット100に実行させることができる。
【0061】
また、上記実施形態においては、シリンジ112の位置および姿勢を吸着要素パターンAPを構成する吸着点APgridによって規制(吸着)して、正確な位置・姿勢決めを実現するように構成した。しかし、シリンジ112の位置および姿勢のうちのどちらか一方のみを規制するように構成しても良いことは当然である。すなわち、エンドエフェクタの位置および姿勢の規制は、作業用ロボット100に実行させる作業の内容に応じて適宜決定すればよい。また、エンドエフェクタの位置および姿勢を規制する際、エンドエフェクタの自由度(各座標軸および同各座標軸回り)ごとに規制するように構成してもよい。この場合、例えば、前記数3における運動方程式のW・fgrid(t)に各自由度ごとの吸着機能のオン・オフを規定した選択行列S(対角成分が1または0であり、その他の成分がすべて0の対角行列)を乗算すればよい。これによれば、操作者による自由な操作と位置・姿勢の規制による正確な位置・姿勢決めとにより作業用ロボット100で実現できる作業の種類が増加し、作業用ロボット100の適用範囲、用途の幅を一層広げることができる。
【0062】
また、上記実施形態においては、シリンジ112の吸着力fgrid(t)の大きさを吸着度係数Wで調整するように構成した。しかし、シリンジ112の吸着力fgrid(t)の大きさを調整する必要がない場合、すなわち、シリンジ112の位置および姿勢を常にいずれかの吸着点APgridで規制(吸着)する場合には、前記数3における吸着度係数Wは不要である。また、上記実施形態においては、シリンジ112の吸着力fgrid(t)の大きさをシリンジ112の変位速度の大きさに応じてコントロールするように構成した。しかし、シリンジ112の吸着力fgrid(t)の大きさは、他の方法でも実現可能である。例えば、ロボットアーム110が備えるエンドエフェクタの作業時(例えば、ワークWKを把持しているときやワークWKに塗料を吹き付けているとき)にのみ吸着力fgrid(t)を大きくするように構成してもよいし、入力装置131の手元操作箱131bにジョグダイヤルを設けて操作者により自由に調整できるように構成してもよい。これらによっても、上記実施形態と同様の効果が期待できる。
【0063】
また、上記実施形態においては、シリンジ112に作用する外力をマニピュレータ131aの操作感(操作反力)に反映させる所謂力覚提示機能を採用しない構成としたが、当然、これに限定されるものではなく、シリンジ112に作用する外力をマニピュレータ131aの操作感(操作反力)に反映させる構成(操作感変更手段)としてもよい。この場合、シリンジ112に作用する外力に代えてまたは加えて、シリンジ112に作用する吸着力fgrid(t)の大きさに応じてマニピュレータ131aの操作反力の大きさを変化させるように構成してもよい。これによれば、シリンジ112に作用する吸着力fgrid(t)の大きさをマニピュレータ131aの操作により把握することができ、より正確で適確な操作を行うことができる。
【0064】
また、上記実施形態においては、操作者による手動操作によって作業用ロボット100を制御してワークWKの上面に接着剤を塗布するように構成した。しかし、作業用ロボット100にワークWKの上面に接着剤を塗布する作業内容を予め教示(登録)することにより自動運転によって接着剤の塗布作業を実行させるように構成してもよい。この場合、作業用ロボット100に対する作業内容のティーチング時にシリンジ112の位置・姿勢の規制(吸着)を作用させる。これにより、シリンジ112が作業を行う位置および姿勢を正確に作業用ロボット100に教示することができ、上記実施形態と同様に作業精度を向上させることができる。
【0065】
また、上記実施形態においては、操作者座標系およびワーク座標系に設定した吸着要素パターンAP、および位置姿勢目標補正値を表す各画像を作業用ロボット100の作業領域を撮影した画面内合成して表示するように構成した。これは、操作者による操作を支援するための機能であり、シリンジ112の位置・姿勢決めに必須の構成要件ではない。したがって、撮影機140や撮影機140による撮影画像を処理する画像処理部130bは必ずしも必要ではない。ただし、操作者とロボットアーム110が離れている場合や微細なワークWKに対して作業(シリンジ112の位置・姿勢決め)を行う場合には、ロボットアーム110の作業領域を撮影するとともに、同撮影画像に吸着要素パターンAPや位置姿勢目標補正値を表す各画像を合成して表示する機能は作業精度の向上には極めて有用である。この場合、例えば、表示装置132に表示させている画像の倍率に応じて操作者座標系およびワーク座標系に設定する吸着要素パターンAPや、吸着点APgridの間隔を変更・調整することにより、より作業性および作業精度を向上させることができる。
【0066】
また、上記実施形態においては、マスタ制御装置130とスレーブ制御装置120の2つの制御装置を用いて作業用ロボット100を構成したが、これら2つの制御装置の機能を集約した1つの制御装置によって作業用ロボット100を構成してもよいことは当然である。
【0067】
また、上記実施形態においては、ワークWKの上面に接着剤を塗布する作業用ロボット100に本発明を適用した。しかし、本発明は、複数の自由度を備えてエンドエフェクタを同自由度ごとに変位させることができる作業用ロボットに広く適用できるものである。例えば、生産工場内において、溶接作業や組立て作業を行う産業用ロボット、ヒトや動物の診断や治療を行う際に用いられる医療用ロボット、海底や宇宙空間などで人手に変わって作業を行うマニュピレーションロボットなどに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業用ロボットの構成を模式的に示した構成概略図である。
【図2】図1に示す作業用ロボットで加工されるワークを示す説明図である。
【図3】図1に示す作業用ロボットにおけるマスタ制御装置によって実行される手動操作プログラムのフローチャートである。
【図4】図1に示す作業用ロボットにおけるスレーブ制御装置によって実行されるロボットアーム制御プログラムのフローチャートである。
【図5】(A)〜(C)は、ワーク座標系におけるワーク近傍に設定される吸着要素パターン、およびシリンジの位置姿勢決めを説明するための説明図である。
【図6】(A),(B)は、本発明の変形例に係る吸着要素パターン、およびシリンジの位置姿勢決めを説明するための説明図である。
【図7】運動指令値の変化に対してシリンジに生じる吸着力を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0069】
WK…ワーク、P〜P…ポイント、AP…吸着要素パターン、APgrid…吸着点、C…仮想円、100…作業用ロボット、110…ロボットアーム、111…支持機構、112…シリンジ、113…力センサ、120…スレーブ制御装置、120a…記憶装置、130…マスタ制御装置、130a…記憶装置、131…入力装置、131a…マニピュレータ、131b…手元操作箱、132…表示装置、140…撮影機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の自由度を備え、同各自由度ごとに設けられたアクチュエータによってエンドエフェクタを変位可能に保持したロボットアームと、
前記エンドエフェクタの位置および姿勢を決めるためのワーク座標系を備え、前記ロボットアームの作動を制御する制御装置と、
前記制御装置を介して前記ロボットアームを操作するための操作器とを備えた作業用ロボットにおいて、
前記制御装置は、
前記ワーク座標系内における前記エンドエフェクタの位置および/または姿勢を規定するための吸着要素を同ワーク座標系内に設定する吸着要素設定手段と、
前記エンドエフェクタの目標位置および/または目標姿勢に対して直近の前記吸着要素を特定する吸着要素特定手段と、
前記目標位置および/または目標姿勢に前記エンドエフェクタを変位させる際、前記特定した吸着要素に向って前記エンドエフェクタを変位させる位置姿勢補正手段とを備えたことを特徴とする作業用ロボット。
【請求項2】
請求項1に記載した作業用ロボットにおいて、
前記吸着要素設定手段は、複数の前記吸着要素の集合からなる吸着要素パターンを前記ワーク座標系内に設定する作業用ロボット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した作業用ロボットにおいて、
前記位置姿勢補正手段は、前記特定された吸着要素に向う前記エンドエフェクタの変位の程度を調整するための変位調整手段を備えた作業用ロボット。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した作業用ロボットにおいて、
前記操作器は、前記位置姿勢補正手段によって前記エンドエフェクタを変位させる際、
操作者による操作感を変化させることができる操作感変更手段を備える作業用ロボット。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載した作業用ロボットにおいて、
前記位置姿勢補正手段は、前記ロボットアームにおける前記各自由度ごとに前記特定された吸着要素に向う前記エンドエフェクタの変位の可否を選択可能な作業用ロボット。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した作業用ロボットにおいて、
前記吸着要素設定手段は、前記ワーク座標系内に配置された物体の内部に相当する空間に前記吸着要素を設定する作業用ロボット。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1つに記載した作業用ロボットにおいて、さらに、
前記ワーク座標系内における前記エンドエフェクタを撮影するための撮影手段と、
前記制御装置に備えられ、前記撮影手段にて撮影されたエンドエフェクタ画像と前記ワーク座標系内に設定された吸着要素を表す吸着要素画像とを合成する画像合成手段と、
前記合成された画像を表示する表示手段とを備えた作業用ロボット。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載した作業用ロボットにおいて、さらに、
複数の前記吸着要素の集合からなる吸着要素パターンを複数組記憶する吸着要素パターン記憶手段を備え、
前記吸着要素設定手段は、前記記憶された吸着要素パターンを選択的に前記ワーク座標系内に設定する作業用ロボット。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載した作業用ロボットにおいて、
前記制御装置は、下記数1に示す運動方程式を用いたインピーダンス制御によって前記ロボットアームの作動を制御する作業用ロボット。
【数1】

なお、上記数1におけるMは慣性を表すインピーダンスパラメータ、Dは機械抵抗(粘性)を表すインピーダンスパラメータ、Kは剛性(弾性)を表すインピーダンスパラメータ、x(t)は前記エンドエフェクタの前記ワーク座標系における位置および/または姿勢を表す一般化ベクトル、xcmd(t)は前記エンドエフェクタの目標位置および/または目標姿勢を表す一般化ベクトル、f(t)は前記エンドエフェクタに作用する外力を表す一般化ベクトル、xgridは前記特定された吸着要素、変数x(t)およびxcmd(t)の上に付したドット数は、同ドット数だけの微分を表す。
【請求項10】
複数の自由度を備え、同各自由度ごとに設けられたアクチュエータによってエンドエフェクタを変位可能に保持したロボットアームと、
前記エンドエフェクタの位置および姿勢を決めるためのワーク座標系を備え、前記ロボットアームの作動を制御する制御装置と、
前記制御装置を介して前記ロボットアームを操作するための操作器とを備えた作業用ロボットに適用されるコンピュータプログラムおいて、
前記制御装置に、
前記ワーク座標系内における前記エンドエフェクタの位置および/または姿勢を規定するための吸着要素を同ワーク座標系内に設定させる吸着要素設定ステップと、
前記エンドエフェクタの目標位置および/または目標姿勢に対して直近の前記吸着要素を特定する吸着要素特定ステップと、
前記目標位置および/または目標姿勢に前記エンドエフェクタを変位させる際、前記特定した吸着要素に向って前記エンドエフェクタを変位させる位置姿勢補正ステップとを実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−274191(P2009−274191A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130225(P2008−130225)
【出願日】平成20年5月17日(2008.5.17)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】