説明

作業用手袋および作業用手袋の製造方法

【課題】長期間使用しても防着性が維持され、粘着テープを取り扱う作業等においても作業効率の向上が図られる作業用手袋の提供。
【解決手段】着用者の手を覆う繊維製の手袋本体3と、通気性を有し手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域に積層されたコート層5とを備え、上記コート層5が、ウレタン樹脂を主成分とし、変性シリコーンオイルを含有する作業用手袋1であり、上記変性シリコーンオイルとしては、ポリエーテル変性シリコーンなどの非反応性変性シリコーンオイルを採用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業用手袋および作業用手袋の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
作業用手袋は、例えば梱包作業等を行う場合に用いられている。そして、この種の作業用手袋としては、繊維製の手袋本体に通気性を有する樹脂製のコート層を滑止のために被着させたものが公知である。しかし、このような作業用手袋を着用して粘着テープ等を取り扱う作業を行っている際に粘着テープの粘着面がコート層に接触すると、粘着面にコート層が貼着する。このコート層の粘着面への貼着は作業効率が低下するばかりか、コート層の一部が手袋本体から剥離してしまい、コート層の滑止効果が低下する。
【0003】
また、粘着物質等を取り扱う作業に鑑みて、例えば特開平9−132804号公報所載のものが提案されている。この特開平9−132804号公報所載の作業用手袋は、手袋本体の一面又はその一部を、フッ素繊維布帛にウレタン樹脂等の耐薬品性樹脂をコーティングした素材で構成したものである。
【0004】
しかし、上記公報所載の作業用手袋は、フッ素繊維布帛に耐薬品性樹脂がコーティングされ、耐薬品性樹脂からなるコート層が外表面に表出するよう設けられている場合にあっては、防着性(貼着しにくさ)は向上されていない。つまり、粘着テープの粘着面が上記作業用手袋に接触した際に、コート層が粘着面に接触することになり、コート層が粘着面へ貼着してしまうため、作業効率の低下やコート層の剥離という問題を有する。また、フッ素繊維は高価であり、このため上記作業用手袋も高価となってしまう。
【0005】
なお、ごはんを取り扱うための手袋として特開2002−105721号公報所載のものが提案されている。この公報所載の手袋は、手袋本体の外表面に設けられたゴムラテックス層に、シリコーンオイルを浸透、含浸させて、形成されている。しかし、既に形成されたゴムラテックス層にシリコーンオイルを浸透、含浸させるものであるので、シリコーンオイルが容易にブリードしてしまう。このブリードしたシリコーンオイルが洗濯等によって表面から除去されてしまい、これにより手袋の防着性が低下するため長期間の使用によりコート層の粘着面への貼着が起こり易くなるという問題を有する。また、上記ブリードしたシリコーンオイルは、把持した取扱物に移行(転写)されてしまうという不都合を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−132804号公報
【特許文献2】特開2002−105721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、長期間使用しても防着性が維持され、粘着テープを取り扱う作業等においても作業効率の向上が図られる作業用手袋およびその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
着用者の手を覆う繊維製の手袋本体と、
通気性を有するとともに上記手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域に積層されたコート層とを備え、
上記コート層が、ウレタン樹脂を主成分とし、変性シリコーンオイルを含有する作業用手袋である。
【0009】
当該作業用手袋は、コート層に含まれた変性シリコーンによって防着性が得られるので、例えば粘着テープを取り扱う作業を行う際に着用した場合に、粘着テープの粘着面と接触してもコート層が粘着面に貼着しにくく、このため作業を効率的に行うことができ、また粘着面への貼着によるコート層の剥離を防止することができる。また、変性シリコーンオイルはその変性基によってウレタン樹脂との相溶性が高くコート層で安定的に存在する。このようにシリコーンオイルがコート層に安定的に存在することによって、変性シリコーンオイルがブリードしにくく、当該作業用手袋を長期間使用しても防着性が維持される。
【0010】
当該作業用手袋にあっては、上記変性シリコーンオイルが、非反応性変性シリコーンオイルである構成を採用することができ、これにより非反応性変性シリコーンオイルは、ウレタン樹脂との極性相互作用等によってコート層内で安定的に存在することができるとともに、防着性が効果的に発揮されるという利点を有する。
【0011】
上記非反応性変性シリコーンオイルとしては、ポリエーテル変性シリコーンを好適に用いることができ、ポリエーテル基とウレタン樹脂との極性相互作用によって、変性シリコーンオイルがコート層で安定的に存在することができる。
【0012】
また、当該作業用手袋にあっては、上記変性シリコーンオイルが、反応性変性シリコーンオイルである構成を採用することができる。これにより、変性シリコーンオイルが有する反応性の官能基によってウレタン樹脂と好適に結合して、変性シリコーンオイルがコート層でより安定的に存在することができる。
【0013】
上記反応性変性シリコーンオイルとしては、カルビノール変性シリコーンが好適に用いることができ、カルビノール変性シリコーンの水酸基がウレタン樹脂と好適に結合して、変性シリコーンオイルがコート層でより安定的に存在することができる。
【0014】
また、当該作業用手袋にあっては、変性シリコーンオイルの配合量が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましい。上記下限値未満の場合には、粘着テープの粘着面等に対する防着性が十二分に発揮できない場合があり、また上記上限値を超えると当該作業用手袋同士のタック性(コート層同士を重ね合わせた際のコート層同士の粘着性)が生じてしまうおそれがあるためである。
【0015】
さらに、当該作業用手袋にあっては、上記コート層が、ウレタン樹脂、変性シリコーンオイル及び溶剤を含む樹脂組成物を上記手袋本体の外面の少なくとも掌領域に被着し、被着した樹脂組成物から溶剤を抽出することで形成されていることが好ましい。これにより、コート層が多孔質化するので、当該作業用手袋の通気性が得られ、手が蒸れにくく快適に着用することができる。また、コート層を形成する樹脂組成物に変性シリコーンオイルが含まれるので、従来のように既に形成されたゴムラテックス層にシリコーンオイルを浸透させて含有させるものに比して、シリコーンオイルがコート層でより安定的に存在することになる。
【0016】
また、本発明は、
着用者の手を覆う繊維製の手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域にコート層を形成するコート層形成工程を有し、
上記コート層形成工程が、
上記手袋本体に主成分のウレタン樹脂、変性シリコーンオイル及び溶剤を含む樹脂組成物を被着する樹脂組成物被着工程と、
被着した樹脂組成物から溶剤を抽出する多孔質化工程とを有する作業用手袋の製造方法である。
【0017】
当該製造方法によって製造された作業用手袋にあっては、コート層が通気性を有するので、長時間着用していても手が蒸れることを防止できるとともに、上述のように変性シリコーンオイルがコート層に安定的に存在することにより、長期間防着性が維持される。
【0018】
なお、当該発明にあっては、「掌領域」とは、被把持物を握った際に内側の面であって手首よりも指先までの領域(指を含む)を意味し、「コート層が少なくとも掌領域に形成される」とは、コート層がこの掌領域の全面又は一部に形成されることを意味する。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、当該作業用手袋にあっては、粘着テープの粘着面等に接触しても変性シリコーンオイルを含有するコート層が粘着面に貼着しにくいので、粘着テープ等を取り扱う作業の際に着用しても作業効率が低下せず、またコート層が剥離しにくく、さらに変性シリコーンオイルがコート層に安定的に存在するので上記効果が長期間維持されるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る作業用手袋の装着状態を正面側(掌側)から見た説明図である。
【図2】図1の作業用手袋の装着状態を背面側(甲側)から見た説明図である。
【図3】転写試験において転写シートに転写した状態の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0022】
図1及び図2に示す作業用手袋1は、着用者の手を覆う繊維製の手袋本体3と、この手袋本体3の外面のうち掌領域に積層されたコート層5とを備えている。
【0023】
手袋本体3は、ウーリーナイロン等からなる繊維によって手袋状に編製されて形成されており、通気性を有している。なお、手袋本体3の生地の厚みは、0.6mm程度とすることができ、掌中央部において0.2mm以上1.0mm以下が好ましく、より好ましくは0.4mm以上0.8mm以下である。上記下限値よりも薄いと手袋本体3の強度に欠け、また上記上限値よりも大きいと着用時における作業性が低下するためである。なお、この厚みは、例えば商品名「ダイヤルシクネスゲージDS−1211(新潟精機株式会社製)」を用いて、掌中央の任意の5箇所において測定した結果の平均値とすることができる。
【0024】
なお、手袋本体3を構成する繊維は、ウーリーナイロンに限定されるものではなく、種々の繊維を採用することが可能であり、例えばポリエステル等から構成することも可能である。また、手袋状に形成する手段としては、例えば縫い目なく編み上げるシームレス編製を採用することが可能であるが、その他、例えば甲部を構成する生地と掌部を構成する生地とを縫い合わせて手袋状に設けることも可能である。
【0025】
また、手袋本体3の袖部3aは、周方向に伸縮性を有しており、これにより径方向に拡縮可能に設けられている。また、手袋本体3の袖部3aよりも指先側の部分も、周方向に伸縮性を有し、径方向に拡縮可能に設けられている。ここで、袖部3aは、他の部分(袖部3aから指先側の部分)よりも大きな伸縮性を有し、想定される着用者の手首よりも収縮状態が小さくなるよう設けられていることが好ましく、これにより着用した際により高いフィット感が得られることになる。
【0026】
上記コート層5は、手袋本体3の外面のうち掌領域に形成されている。このコート層5は、手袋本体3に含浸されており、具体的には手袋本体3の掌領域の全面にわたってコート層5を形成する液状の樹脂組成物(コート層形成材料)が被着され、この材料が固化することによって形成されている。なお、図示例では、手袋本体3の掌領域のみならず掌領域の裏面側である甲領域(被把持物を握った際に外側の面であって手首よりも指先までの領域)の外周にも図2に示すように形成されているが、甲領域の中央部には形成されない所謂背抜き状にコート層5は設けられている。なお、このコート層5は袖部3aに形成されないことが好ましいが、製造工程上袖部3aにコート層5が形成されるものであっても、本願発明の意図する範囲内である。
【0027】
このコート層5は、ウレタン樹脂を主成分とし、変性シリコーンオイルを含有している。また、コート層5は、多孔質状態に設けられ、通気性を有している。ここで、コート層5を構成する材料としては、湿式加工用のポリウレタン溶液を採用することが好ましく、この湿式加工用ポリウレタン樹脂としては例えば商品名クリスボン8006HVLD(DIC株式会社製)を用いることができる。このように湿式加工用のポリウレタン溶液を用いることで、この湿式加工用のポリウレタン溶液は粘度が低いので、コート層5を比較的薄い層に形成することができ、当該作業用手袋1の柔軟性が阻害されない。また、コート層5は、ポリウレタン溶液、変性シリコーンオイル及び溶剤を含むコート層形成材料を手袋本体に被着し、被着したコート層形成材料から溶剤を抽出することで形成されている。上記溶剤としては、例えばDMF(N,N−ジメチルホルムアミド)を用いることができ、このDMFに湿式加工用ポリウレタン樹脂及び変性シリコーンオイルを溶解したものをコート層形成材料として用いることができる。
【0028】
なお、当該作業用手袋1は、掌側における外面と内面との間の透湿度が、1000g/m2・24h以上15000g/m2・24h以下であることが好ましく、より好ましくは、4000g/m2・24h以上12000g/m2・24h以下である。上記下限値よりも小さいと着用者が長時間着用すると掌が蒸れてしまうという問題が生ずる可能性があるためである。また、上記上限値よりも大きく設ける場合には、例えばコート層5の厚みや面積等が不十分となり、コート層5による十分なグリップ力が得られないおそれがあるためである。なお、上記透湿度は、JIS−L−1099A法(繊維製品の透湿度試験方法)にて測定される数値である。
【0029】
上記コート層5に含有される変性シリコーンオイルとしては、非反応性変性シリコーンオイルを用いることができ、これにより防着性がより優れるという利点を有する。これは必ずしも明らかではないが、非反応性変性シリコーンオイルは、ウレタン樹脂との極性相互作用等によってコート層内で安定的に存在することができ、つまりポリウレタン樹脂の未反応のイソシアネート基と無関係に(反応せずに)コート層内で安定的に存在することができるので、ウレタン樹脂のイソシアネート基を比較的に少ない状態とすることが可能であり、このためイソシアネート基による防着性の低下が少なく、結果として防着性が優れるものと考えられる。
【0030】
また、非反応性変性シリコーンオイルとしては、ポリエーテル変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、親水性特殊変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルを用いることができるが、特にポリエーテル変性シリコーンオイルを用いることが好ましい。このようにポリエーテル変性シリコーンを用いることにより、ポリエーテル基とウレタン樹脂との極性相互作用によって、変性シリコーンオイルがコート層で安定的に存在することができる。このポリエーテル変性シリコーンオイルとしては、例えば商品名「DOW CORNING TORAY 8211 ADDITIVE(東レ・ダウコーニング株式会社製)」を用いることができる。
【0031】
なお、上記変性シリコーンオイルとしては、反応性シリコーンオイルオイルを用いることができる。反応性変性シリコーンオイルを採用した場合には、変性シリコーンオイルの反応性の変性基によってウレタン樹脂のイソシアネート基と好適に結合して、変性シリコーンオイルがコート層で安定的に存在することができる。反応性シリコーンオイルとしては、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシ変性シリコーオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、異種官能基変性シリコーンオイルを用いることができるが、特にカルビノール変性シリコーンオイルを用いることが好ましい。これにより、カルビノール変性シリコーンオイルの水酸基がウレタン樹脂のイソシアネート基と好適に結合して、変性シリコーンオイルがコート層で安定的に存在することができる。
【0032】
また、上記変性シリコーンオイルは溶解度パラメータ(SP値)が約10のものが用いられ、この変性シリコーンオイルの溶解度パラメータが9以上11以下のものを好適に用いることができる。なお、ウレタン樹脂は溶解度パラメータが約11のものが用いられ、このウレタン樹脂の溶解度パラメータは10以上12以下のものが好適に用いられる。ここで、溶解度パラメータとは、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE,FEBRUARY,1974,Vol.14,No.2,ROBERT F.FEDORS.(147〜154頁)」においてFedorsらが提案した方法によって計算されるものである。
【0033】
さらに、上記変性シリコーンオイルの配合量は、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、5質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。上記下限値未満の場合には、粘着テープの粘着面等に対する防着性が十二分に発揮できない場合があるためである。一方、上記上限値を超える場合には、当該作業用手袋同士のタック性(コート層同士を重ね合わせた際のコート層同士の粘着性)が生じてしまうおそれがあり、例えば左右一対の当該作業用手袋が包装袋に収容され、この商品(一対の当該作業用手袋)が購入され、購入者が包装袋を開封した際に左右一対の作業用手袋同士が互いに貼り合わされたような状態となってしまい、購入者に不快感を与えるおそれがあるためである。
【0034】
上記構成からなる当該作業用手袋1にあっては、手袋本体3の外表面にはコート層5が設けられており、手袋本体3の繊維が露出していないため、コート層5が十分なグリップ力を発揮し、被把持物を確実に把持することができる。しかも、当該作業用手袋1は、コート層5に含まれた変性シリコーンによって防着性が得られるので、粘着テープを取り扱う作業を行う際に着用した場合に、粘着テープの粘着面と接触してもコート層5が粘着面に貼着しにくく、このため作業を効率的に行うことができる。また、コート層5が防着性に優れるため、粘着面への貼着によるコート層5の剥離を防止することができる。特に、変性シリコーンオイルはその変性基によってウレタン樹脂との相溶性が高くコート層5でより安定的に存在する。さらに、変性シリコーンオイルがコート層形成材料に含まれているので、従来のように既に形成されたコート層にシリコーンオイルを浸透及び含有させるものに比して、シリコーンオイルがコート層5でより安定的に存在する。このようにシリコーンオイルがコート層5に安定的に存在することによって、シリコーンオイルがブリードしにくい。このため、当該作業用手袋1を洗濯してもシリコーンオイルが除去されにくく、当該作業用手袋1を長期間使用しても防着性が維持される。また、上記のようにシリコーンオイルがブリードしにくいため、当該作業用手袋1を装着して把持した取扱物に対してシリコーンオイルが移行(転写)しにくい。
【0035】
さらに、当該作業用手袋1にあっては、コート層5が多孔質化され、通気性を有するので、手が蒸れにくく快適に着用することができる。
【0036】
次に、上記構成からなる本実施形態の作業用手袋1の製造方法について概説するが、本発明の製造方法はこれに限定されるものではない。また、以下の製造方法の説明において、上記作業用手袋の説明と重複する場合には、その説明を省略することがある。
【0037】
本実施形態の製造方法は、着用者の手を覆う繊維製の手袋本体3を形成する手袋形成工程と、形成された手袋本体3の掌領域にコート層5を形成するコート層形成工程とを有している。
【0038】
上記手袋形成工程は、ウーリーナイロン等からなる繊維により手袋状に編製して、手袋本体3を形成する工程である。
【0039】
また、上記コート層形成工程は、上記手袋本体3に主成分のウレタン樹脂、変性シリコーンオイル及び溶剤を含むコート層形成材料を被着するコート層材料被着工程と、上記手袋本体に被着したコート層形成材料の溶剤を抽出する多孔質化工程とを有する。
【0040】
上記コート層材料被着工程は、手袋本体3を立体型に被せて、手袋本体3の掌領域をコート層形成材料に浸漬させる工程である。このコート層形成材料は、例えば商品名クリスボン8006HVLD(DIC株式会社製)等の湿式加工用のポリウレタン樹脂を、例えばDMF等の溶剤に溶かし、これに変性シリコーンオイルを添加したものを用いることができる。
【0041】
また、上記多孔質化工程は、上記手袋本体3に浸漬したコート層形成材料のうち溶剤を水に置換すべく手袋本体3を一定時間以上湯浴し、その後乾燥してコート層5を多孔質化する工程である。
【0042】
上記方法によれば、上記利点を有する当該作業用手袋1を製造することができる。
【0043】
尚、本発明は上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0044】
つまり、上記実施形態においては、手袋本体3の掌領域全域にわたってコート層を形成するものについて説明したが、掌領域の一部のみにコート層を設けることも可能であり、例えば、手袋本体3の指先部分のみに上記コート層を設けることも可能であり、より具体的には例えば手袋本体3の指先部分の掌領域及び甲領域にコート層を設けて所謂指サック状のコート層とすることもできる。また、掌領域のみならず甲領域の広い範囲又は全域にわたってコートを形成することも適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
[実施例1]
湿式加工用ポリウレタン樹脂(DIC株式会社製「クリスボン8006HVLD」)100質量部とN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)200質量部を混合し、ポリウレタン樹脂溶液を作製した。さらにポリウレタン樹脂成分100質量部に対して、変性シリコーンオイルとしてポリエーテル変性シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「DOW CORNING TORAY 8211 ADDITIVE」)を有効成分で5質量部になるように添加した溶液をコート層形成材料として形成した。
【0047】
13ゲージの手袋編機(株式会社島精機製「商品名N-SFG」)によって280デニールのウーリーナイロンを編製し、手袋本体を作製した。
【0048】
上記作成した手袋本体を浸漬用手型に被せ、コート層形成材料に浸漬した。コート層形成材料が浸透した手袋本体を50℃の温水槽中に60分浸漬した後、120℃で20分乾燥させ、手型から手袋を抜くことで実施例1の手袋を作製した。
【0049】
[実施例2]
コート層形成材料の変性シリコーンオイルとして、反応性カルビノール変性シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「DOW CORNING TORAY SF8427」)を有効成分で5質量部になるように添加したものを用いた以外は実施例1と同様にして、実施例2の手袋を得た。
【0050】
[比較例1]
シリコーンオイルを含まないコート層形成材料を用いた以外は実施例1と同様として、比較例1の手袋を得た。
【0051】
[比較例2]
コート層形成材料の変性シリコーンオイルの代わりにストレートシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「DOW CORNING TORAY SH200」を有効成分で5質量部になるように添加したものを用いた以外は実施例1と同様にして、比較例2の手袋を得た。
【0052】
<評価>
上記製造した手袋(実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2)について、下記評価を行った。
【0053】
(防着性能)
防着性能試験は、作製した手袋から切り出した試験片の80×25mm部分に粘着テープを0.01kg/cmの力で1時間圧着後、引張速度300mm/minで粘着テープを70mm引き剥がした時の平均応力を測定した。この測定した結果についての防着性能の評価は、実際に手に装着して粘着テープを取扱った際の作業性との相関性から、以下のように判断した。
A:防着性能あり(平均応力1.8(N)未満)
B:防着性能ややあり(平均応力1.8(N)以上2.0(N)未満)
C:防着性能なし(平均応力2.0(N)以上)
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、実施例1及び実施例2の手袋は、比較例1及び比較例2よりも平均応力の値が小さく、優れた防着性能が発揮されている。
【0056】
(防着性能の持続性)
手袋1に対して水30(質量比)で手袋を30分間洗濯した後に乾燥させた。このように洗濯及び乾燥した手袋について、上記防着性能試験と同様の試験を行った。つまり、手袋から切り出した試験片の80×25mm部分に粘着テープを圧着し、引張速度300mm/minで粘着テープを70mm引き剥がした時の平均応力を測定した。この測定結果の防着性能(防着性能の持続性)の評価も上記防着性能試験と同様の評価基準によった。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示すように、実施例1及び実施例2の手袋は、比較例1及び比較例2よりも平均応力の値が小さく、優れた防着性能が維持されている。
【0059】
(転写性)
転写性試験は、作製した手袋を手に装着した状態で、人差指を転写シートに押し付け、押し付けた箇所への転写の有無を目視にて確認した。転写シートとは転写の有無によってブリードの有無を調べるものであり、転写されている場合には転写が目視できるものである(図3参照)。転写性の評価は、目視により行った。
【0060】
【表3】

【0061】
表3に示すように、実施例1及び実施例2は、シリコーンオイルを含有する比較例2と異なり、転写が起こらなかった。
【0062】
[実施例1−1〜1−4]
ポリエーテル変性シリコーンオイルの含有量を変更させた以外は実施例1と同様にして、実施例1−1〜1−4の手袋を得た。ポリウレタン樹脂成分100質量部に対して、ポリエーテル変性シリコーンオイルを有効成分で、実施例1−1については0.5質量部、実施例1−2については1質量部、実施例1−3については20質量部、実施例1−4については30質量部にそれぞれなるように添加した溶液をコート層形成材料として形成した。
【0063】
<評価>
上記製造した手袋(実施例1−1〜1−4)について、実施例1とともに下記評価を行った。
【0064】
(防着性能及びタック性)
防着性能については既述の防着性能試験と同様の試験を行った。また、タック性は、完成した手袋をコート層が互いに接触するように重ね合わせ、この手袋同士にくっつきが生じるような粘着性が存在するか否かを判断した。
防着性
A:防着性能あり(平均応力1.8(N)未満)
B:防着性能ややあり(平均応力1.8(N)以上2.0(N)未満)
C:防着性能なし(平均応力2.0(N)以上)
タック性
A:タック性なし
B:タック性ややあり
C:タック性あり
【0065】
【表4】

【0066】
表4に示すように、実施例1−2〜1−4及び実施例1は防着性に優れ、また実施例1−1〜1−3及び実施例1はタック性に優れることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明の作業用手袋は、例えば工場等において作業者が着用して用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 作業用手袋
3 手袋本体
3a 袖部
5 コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の手を覆う繊維製の手袋本体と、
通気性を有するとともに上記手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域に積層されたコート層とを備え、
上記コート層が、ウレタン樹脂を主成分とし、変性シリコーンオイルを含有する作業用手袋。
【請求項2】
上記変性シリコーンオイルが、非反応性変性シリコーンオイルである請求項1に記載の作業用手袋。
【請求項3】
上記非反応性変性シリコーンオイルが、ポリエーテル変性シリコーンを含む請求項2に記載の作業用手袋。
【請求項4】
上記変性シリコーンオイルが、反応性変性シリコーンオイルである請求項1に記載の作業用手袋。
【請求項5】
上記反応性変性シリコーンオイルが、カルビノール変性シリコーンを含む請求項4に記載の作業用手袋。
【請求項6】
上記変性シリコーンオイルの配合量が、ウレタン樹脂成分100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下である請求項1から請求項5の何れか1項に記載の作業用手袋。
【請求項7】
上記コート層が、ウレタン樹脂、変性シリコーンオイル及び溶剤を含む樹脂組成物を上記手袋本体の外面の少なくとも掌領域に被着し、被着した樹脂組成物から溶剤を抽出することで形成されている請求項1から請求項6の何れか1項に記載の作業用手袋。
【請求項8】
着用者の手を覆う繊維製の手袋本体の外面のうち少なくとも掌領域にコート層を形成するコート層形成工程を有し、
上記コート層形成工程が、
上記手袋本体に主成分のウレタン樹脂、変性シリコーンオイル及び溶剤を含む樹脂組成物を被着する樹脂組成物被着工程と、
被着した樹脂組成物から溶剤を抽出する多孔質化工程とを有する作業用手袋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−255221(P2012−255221A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116218(P2011−116218)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】