作業用手袋及びその製造方法
【課題】果実袋及び果実傘を用いることなく、果実収穫時の収穫適否を正しく判断でき、さらに作業性を向上させるのみならず収穫基準が変更になった場合にも迅速対応できる作業用手袋及びその製造方法を提供する。
【解決手段】手袋本体2の甲側表面21の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた着色マーク32が設けられ、さらに該着色マーク32が果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,…を複数並べて、手袋本体2に係る親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に設けられる。
【解決手段】手袋本体2の甲側表面21の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた着色マーク32が設けられ、さらに該着色マーク32が果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,…を複数並べて、手袋本体2に係る親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に設けられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に果実収穫時に使用される作業用手袋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
みかんや柿などの果実は、その成熟度と果皮色の色付き度合いとの間に相関がみられ、図11のようなカラーチャートが農林水産省果樹試験場(現独立法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所)によって開発されている。カラーチャートは、長方形の板面に果実の成熟度によって異なる果皮色を段階的に表現した色彩マークがそのカラーチャート本体に貼着されている。共同選果で市場出荷している産地では、統一された品質基準,規格が存在しており、通常、果皮色で果実の成熟度合いを判断して収穫されている。そして、出荷果樹園では果皮色のチエックにこのカラーチャートが広く用いられてきた。
図12のように収穫しようとする果実にカラーチャートを近づけ、予め決められたカラーチャートに在る収穫基準用指定色とその果皮色とを照合,判定し、適合した果実をもぎ取っていく。
【0003】
しかし、果実の収穫作業時に該カラーチャートを使う場合、作業者はその都度ポケット等からカラーチャートを出し入れしなければならず煩わしかった。さらに、その形状が板状であるため、樹上の果実の果皮色を測る際、カラーチャートが枝や葉に触れて、目的の果実に当てづらい面も多かった。さらにいえば、この種のカラーチャートは毎年需要が見込まれるような消耗品でなく、需要が一巡すると販売中止になるものが存在した。入手困難な事態に陥ることもあった。
こうしたなか、果実の収穫適否を判定する新たな発明が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−252268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1は、収穫判定基準付き果実袋及び果実傘の発明であり、果実袋や果実傘を必要としない果実に不向きであった。さらに、果実の判定基準のカラーチャートと同じ色彩の着色部を設けた果実袋又は果実傘であり、その着色部は一色しかなく、収穫間近の天候不順等で収穫基準が変更になった場合に即座に対応できない問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するもので、果実袋及び果実傘を用いることなく、果実収穫時の収穫適否を正しく判断でき、さらに作業性を向上させるのみならず収穫基準が変更になった場合にも迅速対応できる作業用手袋及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、手袋本体(2)の甲側表面(21)の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色(9a)に合わせた着色マーク(32)が設けられることを特徴とする作業用手袋にある。請求項2の発明たる作業用手袋は、請求項1で、着色マーク(32)が、果実(9)の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分(32a,32b,…)を複数並べて形成されることを特徴とする。請求項3の発明たる作業用手袋は、請求項1又は2で、着色マーク(32)が、手袋本体(2)に係る親指部(25)と人差し指部(26)との付け根周りの股部表面(231)に設けられることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の要旨は、剥離性を有する基材(31)に、果実収穫の判定基準となる果皮色(9a)に合わせた面状着色マーク(32)を逆刷りで印刷した熱転写シール材(3)を造った後、手袋本体(2)の甲側表面(21)にその着色マーク(32)側が対向するよう該熱転写シール材(3)を配設し、次いで、該着色マーク(32)に係る基材(31)の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により手袋本体(2)の表面にその着色マーク(32)を転写形成することを特徴とする作業用手袋の製造方法にある。請求項5の発明たる作業用手袋の製造方法は、請求項4で、基材(31)に、果実(9)の成熟度に対応させた色違いの面状着色マーク部分(32a,32b,…)を複数並設する前記着色マーク(32)を逆刷りで印刷した熱転写シール材(3)を造る一方、少なくとも親指相当部(65)及び人差し指相当部(66)と、両者の付け根周りの股相当部(63)とを曲面形成した立体型(5)を作製した後、手袋挿入口(20)から手袋本体(2)を該立体型(5)に嵌め入れ、該立体型(5)の股相当部(63)に、該手袋本体(2)に係る親指部(25)と人差し指部(26)との付け根周りの股部(23)を被せ、続いて、手袋本体(2)の股部表面(231)に、その着色マーク(32)側が対向するよう該熱転写シール材(3)を配設し、次いで、該着色マーク(32)に係る基材(31)の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により前記股部(23)の表面(231)に着色マーク(32)を転写形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の作業用手袋及びその製造方法は、果実袋や果実傘が必要ない果実にあっても、果実収穫時の収穫適否を素早く且つ正確に判断でき、収穫作業の作業性向上に貢献するだけでなく収穫可否の誤判定を大幅削減できるなど優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1における作業用手袋の斜視図である。
【図2】図1の作業用手袋に係る手袋本体と熱転写印刷用型の斜視図である。
【図3】(イ)が熱転写シール材の正面図で、(ロ)が図2の型に装着した手袋本体へ熱転写シール材を当接させる説明斜視図である。
【図4】手袋本体に着色マークを熱転写印刷する説明斜視図である。
【図5】図4のV-V線矢視図である。
【図6】図1の作業用手袋で果実を掴んだ斜視図である。
【図7】図1の作業用手袋で果実の成熟度を判断して収穫する様子を示す説明画像図である。
【図8】作業用手袋を使った場合と使わない場合の対比グラフである。
【図9】実施形態2の作業用手袋の斜視図である。
【図10】図9の作業用手袋で果実の成熟度を判断している様子を示す説明画像図である。
【図11】柿用カラーチャートの斜視図である。
【図12】図11のカラーチャートを使って、果実の成熟度を判断して収穫する様子を示す説明画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る作業用手袋及びその製造方法について詳述する。
(1)実施形態1
図1〜図8は本発明の作業用手袋及びその製造方法の一形態で、図1はその作業用手袋の斜視図、図2は図1の作業用手袋に係る手袋本体と熱転写印刷用型の斜視図、図3は(イ)が熱転写シール材の正面図で、(ロ)が図2の型に装着した手袋本体へ熱転写シール材を当接させる説明斜視図である。図4は手袋本体に着色マークを熱転写印刷する説明斜視図、図5は図4のV-V線矢視図、図6は図1の作業用手袋で果実を掴んだ斜視図、図7は図1の作業用手袋で果実の成熟度を判断して収穫する様子を示す説明画像図、図8は作業用手袋を使った場合と使わない場合の対比グラフである。
【0011】
(1−1)作業用手袋
作業用手袋1は手袋本体2と着色マーク32とを具備する(図1)。
手袋本体2は農作業等での作業用に使用される手袋で、指一本ずつ覆うようにできているグラブと称されるものである。親指部25,人差し指部26,中指部27,薬指部28,小指部29に、五本の指がそれぞれ挿入できる手袋本体2になっている。本発明に係る果樹収穫などの農作業で用いられる手袋本体2は、軍手でもよいが、図2のような手のひら側を滑りにくい素材で形成した複合構造品がより好ましい。ここでの手袋本体2も、布地製原手2bにいわゆる背抜き状態でコーティング膜形成用の配合液を付着させて、手の甲側表面21を布地とし、手のひら表面22をゴム質とする複合構造品である。この手袋本体2は例えば次のように造られる。
【0012】
まず、13乃至18ゲージのハイゲージのナイロン糸で編んだ手袋の形をした原手2bを造り、次いで、水性ポリウレタンとニトリルゴムを含む配合液に、原手2bの手のひら側をディッピングする。その後、引上げて加熱,乾燥させ、図2ごとくの複合構造の手袋本体2が造られる。手首部24を除き、原手2bの手のひら側、及び該手のひらから延設する甲側付近にまで、前記配合液が付着一体化してなる黒色のコーティング膜2aが設けられる。
果実9の収穫では、素手感覚で果実9に傷をつけずに果実9をもぎ取ることが望まれる。ハイゲージの細い白色系ナイロン糸で編んだ原手2bによって素手感覚に近くなり、柔軟性を備え、手HDとの密着性,把持性が増す。優しく収穫することが可能になる。また、手のひら側に前記コーティング膜2aを形成することによって作業性向上が図られる。果皮の表面には果実油が存在し、収穫の際に滑り易くなっているが、これを防止する。
【0013】
着色マーク32は色彩が施された目印片で、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせたスポット面状の着色マーク32になっている。手袋本体2の甲側表面21の一領域に、この着色マーク32が設けられる。着色マーク32の色彩には、赤味,黄味等の色彩、明るさの度合である明度、色の鮮やかさの度合である彩度の三要素からなる有彩色が選定される。
【0014】
また、前記着色マーク32は、手袋本体2の甲側表面21に、果実9の成熟度に対応させた色違いの面状着色マーク部分32a,32b,…を複数並べて形成される。果実生産地では、収穫前の気候変動等によって果実9の成熟度が変化し、果実収穫にあたってその判定基準となる果皮色9aを変更することがある。果実収穫の判定基準となる果皮色9aを変える事態になっても、果実9の各成熟度に合わせた数段階の複数片からなる色違い着色マーク32を、手袋本体2の甲側表面21に設けることで、難なく対応できる。
一方、カラーチャートには色が違う十数種類の色見本を提供するが、生産地や果樹の種類等が特定されると、果実収穫の判定用果皮色9aに合わせた着色マーク32は数種類あれば十分機能する。本実施形態は、手袋本体2に係る手の甲側表面21に、図1のごとく果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,32cを三種類並べて形成する。カラーチャートにある十数種類の色見本から三種類の色を選定し、これらに対応一致させた第一着色マーク部分32a,第二着色マーク部分32b,第三着色マーク部分32cの着色マーク32とする。図1のごとく、各着色マーク部分32a〜32cは、スポット面状にして且つ一片状体である。手袋本体2の甲側表面21に、三つの着色マーク部分32a〜32cを近接させて一列に並設する。
【0015】
ここで、果実収穫の判定適否に直接影響を及ぼす着色マーク32は、手袋本体2の甲側表面21に設けるにあたって、その色が僅かであっても変化することは許されない。製品ロット間にバラツキがあることも許されない。こうしたことから、本着色マーク32は後述するように熱転写印刷によって手袋本体2の甲側表面21に印刷形成される。手袋本体2に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせたその着色マーク32の色彩が、熱転写印刷によって色変化なく精度良く形成される。
【0016】
さらに、前記着色マーク32は、手袋本体2の甲側表面21で且つ手袋本体2に係る親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に設けられる。親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に、着色マーク32を設けるのは、果実9の収穫適否の判定が速やかに且つその判定を見誤ることなく行えるからである。作業者は収穫時にもぎ取ろうとする果実9を掴んだ時、その掴んだ果実9を図6のごとく着色マーク32が取り囲むようになり、果皮色9aと着色マーク32との対比確認を誤判断することなく素早く成し得る。
本実施形態の着色マーク32は、手袋本体2の甲側表面21に、一定の帯幅がある楕円型トラック形状に設けられる。親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に、着色マーク32の該トラック形状が図1のごとくやや屈曲して、その付け根を取り囲む。親指部25と人差し指部26に係る股部23の湾曲に沿う形の着色マーク32となる。着色マーク32は、既述のごとく果実収穫の判定適否に直接影響を及ぼし、各製品間に僅かの色彩のバラツキが許されない。さらに、着色マーク32を設ける該股部表面231は、手の股部23に似せた起伏ある面になっており、手袋本体2への着色が難しくなっている。
そこで、該着色マーク32を有する作業用手袋1は、熱転写印刷技術を用いた以下のような製法によって形成される。
【0017】
(2)作業用手袋の製造方法
作業用手袋の製造方法は、その製造に先立ち、手袋本体2と熱転写シール材3と立体型5を作製準備する。
手袋本体2は、既述のごとく白色ナイロン製の布地原手2bに黒色のコーティング膜2aを付与したものである。手の甲側表面21側を布地のままにする一方、手のひら表面22側は、該布地に黒色のコーティング膜2aを付着一体化させた複合構造品とする。
【0018】
熱転写シール材3は、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた面状着色マーク32を逆刷りで印刷したシール材である。基材31に、果実9の成熟度に対応させた色違いの面状着色マーク部分32a,32b,…を複数並設する着色マーク32を逆刷りで印刷した熱転写シール材3が造られる。剥離性を有するシート状基材31、例えば転写紙31aの表面に剥離膜31bを膜形成した基材31とし、該剥離膜31bの面上に第一着色マーク部分32a,第二着色マーク部分32b,第三着色マーク部分32cをワンセットにした着色マーク32が一定間隔で逆刷り印刷される(図3のイ)。
本実施形態は、図5(イ)のような基材31の剥離膜31b側の面に、ポリエチレン樹脂からなる感熱接着剤と、顔料等とを配合し、カラーチャートに合わせた第一着色マーク部分32a,第二着色マーク部分32b,第三着色マーク部分32c用の混合層MXをそれぞれ形成して熱転写シール材3とする。図5(イ)中、符号εは第一着色マーク部分32aと第二着色マーク部分32b(又は第二着色マーク部分32bと第三着色マーク部分32c)との仕切り用白色系混合層を示す。これに代えて、例えば図5(ロ)のごとくの熱転写シール材3とすることもできる。図5(ロ)では、基材31の剥離膜31bの面に、顔料等からなる各着色マーク部分32a〜32cに合わせた色インク層と、感熱接着剤層33とを積層形成して熱転写シール材3とする。図5(ロ)中、符号βは第一着色マーク部分と第二着色マーク部分(又は第二着色マーク部分と第三着色マーク部分)との仕切り用白色系顔料を含むインク層を示す。
【0019】
立体型5は、少なくとも親指相当部65及び人差し指相当部66と、両者の付け根周りの股相当部63とを曲面形成した立体的印刷型になっている。本実施形態は、図2のごとく金属製支柱7の上端部にアルミニウム製型本体6を固着した専用立体型5とする。支柱7の上端部に型本体6の手首相当部64を固着し、該手首相当部64からこれより先に手の甲相当部61、さらに股相当部63,親指相当部65,人差し指相当部66を延設する。親指相当部65と人差し指相当部66とは図示のごとくL字状に開いた格好とする。手袋本体2を手に嵌めた時の立体的形状により近づけ、転写印刷を良好に仕上げるためである。尚、中指,薬指,小指に対応する部位は省略する。特になくても、これだけで手袋本体2を手に嵌めた状態下で、股部表面231の立体的形状が得られるからである。
【0020】
前記手袋本体2と熱転写シール材3と立体型5を用いて、作業用手袋1の製造が行われる。立体型5に被着した手袋本体2へ熱転写シール材3の着色マーク32を当接させ、その後、加熱,加圧することにより、手袋本体2上に着色マーク32を転写する。
【0021】
詳しくは、先ず、手袋挿入口20を大きくして図2の白抜き矢印のごとく該手袋挿入口20から手袋本体2を立体型5の型本体6に嵌め入れる。そして、型本体6の股相当部63に、該手袋本体2に係る親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部23を被せる(図3)。親指相当部65を手袋本体2の親指部25が覆い、また人差し指相当部66を手袋本体2の人差し指が覆うが、手袋本体2の中指部27,薬指部28,小指部29は垂れ下がる。
【0022】
次に、手袋本体2の手首部24を把持して図3の白抜き矢印方向に引っ張り、手袋本体2(主に原手2b)が伸びる状態にする。実際の果実収穫の使用にあたり、作業用手袋1に手を入れた時に手袋本体2が伸びることを想定し、着色マーク32が剥離したり、伸びて着色マーク32の色が薄まったりするのを防止する。斯かる状態を保って、次工程の着色マーク32が印刷される。
【0023】
続いて、手袋本体2への着色マーク32の印刷に入る。印刷するにあたって、手袋本体2の甲側表面21に熱転写シール材3の着色マーク32側が対向するよう該熱転写シール材3を配設する。具体的には、図4のごとく手袋本体2の股部表面231に、その着色マーク32側の混合層MXが当接するよう熱転写シール材3を配設する。そして、図4の手袋本体2の手首部24を把持して白抜き矢印方向に引張り、手袋本体2が伸びる状態を保ったまま、該着色マーク32に係る基材31の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により股部23の表面231に着色マーク32を転写形成する。
【0024】
図5(イ)で、ヒータ付き押し当て部材8は、その本体81を加温でき、且つその当て面81aが股相当部63の起伏面631と同形状になっている。立体型5に嵌めた手袋本体2の股部表面231に、着色マーク32側を対向させて熱転写シール材3を配置,セットする。その後、加温状態にある押し当て部材本体81を該熱転写シール材3に当て、熱転写シール材3に係る基材31の背面側から加熱,加圧する熱転写印刷により、股部23の表面231上に着色マーク32の図柄を転写形成する。熱転写シール材3への押し当て部材8の加熱,加圧は、120〜150℃で約10秒という長い時間を費やす。実際の果実収穫作業において、着色マーク32の剥がれやその色の変色が起きない品質確保を得るためである。加熱,加圧により、熱転写シール材3の混合層MXが基材31から剥がれると同時に、該混合層MX中の感熱接着剤が溶融し、該感熱接着剤と顔料が一体となって手袋本体2の股部表面231に接着し、所望の着色マーク32を印刷完成させる。手袋本体2の股部表面231に、果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,32cを複数(ここでは三個)並べた着色マーク32を有する作業用手袋1が出来上がる。
【0025】
こうして、極早生ウンシュウ用と早生ウンシュウ用のミカン収穫に使うための作業用手袋1(図6)を二種類と、図7に見られるような柿収穫に使う作業用手袋1を製造した。柿の作業用手袋1には、カラーチャートの値3、3.5及び4とほぼ同色の着色マーク部分32a,32b,32cを有する着色マーク32が、親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に設けられた。
【0026】
(3)評価試験
前記作業用手袋1の実用性を調べるため、評価試験を行った。実用性評価は柿に「前川次郎」を用い、樹上果実9の測色作業にかかる時間(試験1)と収穫可否の誤判定率(試験2)で評価した。
試験1では、約30個の果実9を連続して測色する時間を計測した。条件は、調査開始から終了までの間、カラーチャートを手に持ったままの場合と、毎回胸ポケットから出し入れする場合、および柿収穫に使う作業用手袋1を手に嵌めた場合とした。その結果を図8(イ)に示す。
本作業用手袋1は、手に嵌めた状態で収穫可否を判断することができ、また測色作業時、枝葉が邪魔となる遭遇機会が少ない。そのため、本作業用手袋1による測色の作業時間は、カラーチャートを手に持ったままの場合と、胸ポケットから出し入れする場合に対して、収穫作業時間がそれぞれ40%、60%短縮された。
【0027】
また、試験2では、成熟初期(H22.10.26)の樹上果を用いて、次のように行った。柿収穫初心者A,Bが達観により収穫の可否を判定して収穫し(赤道部がカラーチャートで3.5が収穫可)、次いで、カラーチャート使用に慣れている者Cがその収穫した柿について、カラーチャートの対応値を読みとった。達観により収穫の可否を判定して収穫するとは、収穫前にカラーチャートで目合わせして確認し、収穫時にはカラーチャートを見ずに収穫の可否を判定して収穫することをいう。
次に、柿収穫初心者A,Bが柿収穫に使う作業用手袋1を手に嵌めて、収穫可否を判定して収穫し、次いで、カラーチャート使用に慣れている者Cがその収穫した柿について、カラーチャートの対応値を読みとった。
【0028】
ここで、収穫基準に達していない果実9なのに収穫可能と判断した場合(ケース1)、及び収穫基準に達している果実9であるにもかかわらず収穫不可能と判断した場合(ケース2)を、誤判定とした。こうして得たケース1,2の結果を図8(ロ)に示す。
ケース1の誤判定率は、作業者Aが13.8%で作業者Bが20.0%であったが、作業用手袋1を使用することにより、それぞれ2.8%、0.0%に減少した。ケース2の誤判定率は作業者Aが9.5%、作業者Bが11.5%であったが、作業用手袋1を使用することにより、それぞれ7.1%、5.7%に減少した。収穫可否の誤判定率は、達観で収穫した場合(ケース1と2の合計)は、作業者Aが12%、作業者Bが16%であったが、作業用手袋1を使用することにより両者とも4%に減少した(図8のハ)。
【0029】
(2)実施形態2
(2−1)作業用手袋1
本実施形態は、図9のような手袋本体2の甲側表面21の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた着色マーク32が設けられた作業用手袋1である。図9はその作業用手袋の斜視図、図10が図9の作業用手袋で果実の成熟度を判断している説明画像図を示す。手袋本体2は手のひら側に実施形態1のような黒色のコーティング膜2aを設けず、布製原手2bがそのまま手袋本体2になる。
熱転写シール材3は、基材31に果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,32cを逆刷りで印刷したシール材である。剥離性を有するシート状基材31の表面に縦一列に並べた第一着色マーク部分32a,第二着色マーク部分32b,第三着色マーク部分32cをワンセットにした着色マーク32が、一定間隔で逆刷り印刷される(図3のイ)。
そうして、その手袋本体2に係る親指部25の甲側表面21に、該着色マーク32が設けられる。果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,32cを複数(ここでは三個)有する着色マーク32とし、これら着色マーク部分を並設する。親指部25の甲側表面21で、親指部25の付け根からその指部が伸びる方向に向けて、着色マーク部分32a,32b,32cを縦一列に並べる。各着色マーク部分は正方形で、複数並設してなる着色マーク32の全体形状は図示のごとく略長方形の形をしている。他の構成は実施形態1と同様で、その説明を省く。実施形態1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0030】
(2−2)作業用手袋の製造方法
本作業用手袋の製造方法は、実施形態1と同様、基材31に着色マーク32を逆刷り印刷された熱転写シール材3に係る着色マーク32を、手袋本体2へ対向,当接させ、その後、加熱,加圧することにより、手袋本体2上に着色マーク32を転写する。前記手袋本体2と前記熱転写シール材3とを備えるが、実施形態1のような立体型5を準備しない。代わりに金属製平板Fを準備する。
該金属製平板F上に、手袋本体2を置き、例えば図9のごとく親指部25の甲側表面21が上を向いた状態にして、該親指部25を手のひら側へ折り重ねる。次いで、手袋本体2の甲側表面21に着色マーク32側が対向するよう熱転写シール材3を配設する。その後、着色マーク32に係る基材31の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により手袋本体2の表面にその着色マーク32を転写形成し、図9ごとくの所望の作業用手袋1を製造する。他の構成は実施形態1と同様で、その説明を省く。実施形態1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0031】
(3)効果
このように構成した作業用手袋1およびその製造方法は、手袋本体2の甲側表面21の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた着色マーク32が設けられるので、カラーチャートを手に持つ必要がない。収穫作業にあたっては殆どの場合、手袋が使用される。その作業用手袋1に着色マーク32を設けることで、その都度ポケット等からカラーチャートを出し入れしなければならなかった煩わしさから開放される。さらに、樹上の果実9の果皮色9aを測る際、カラーチャートが枝や葉に触れて、目的の果実9に当てづらいといった困難さからも開放される。収穫時に本作業用手袋1を嵌めることにより、収穫動作の範囲内で果皮色の判定評価ができる。勿論、収穫後の選果作業時にも、本作業用手袋1を嵌めることにより果皮色の判定評価が可能になる。
評価試験の試験1からも明らかなように、本作業用手袋1は携帯性,操作性の点でカラーチャートよりも格段に優れる。また、特許文献1のごとく果実袋や果実傘を必要としないミカンや柿のような果実9にも幅広く適用できる優れものになっている。着色マーク32は甲側表面21の一領域にスポット面状に設けるので、手袋本体2の全面に施す場合に比べて低コストで生産できる。
【0032】
また、手袋本体2の甲側表面21に、着色マーク32が果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,…を複数並べて形成されると、収穫基準が変更になった場合でも迅速対応できる。収穫間近の天候不順等で収穫基準が変更になった場合も即座に対応できる。特許文献1の発明は着色部が一色しかなく、適熟果の色の年次変動に対応できないし、また収穫直前等で変更になった場合に対応できないが、本発明によればこうした事態も円滑対応できる。その一方で、カラーチャートのように十数種類なくても、通常の果樹園生産地では、それに合った数種類の色違いの着色マーク部分32a,32b,…があれば足りる。本色違い着色マーク部分32a,32b,…を数種類備える作業用手袋1はその実用性が高い。
【0033】
さらに、着色マーク32が、手袋本体2に係る親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に設けられると、本作業用手袋1で果実9を掴んだときに、図6,図7のごとく股部23の湾曲に沿う形で設けた着色マーク32が果実9を取り囲むようになり、果皮色9aと着色マーク32との対比を誤認することなく素早く行うことができる。スポット面状の着色マーク32であるので、その視認も素早くなし得る。図9の親指部25に着色マーク32を設けた作業用手袋1でもよいが、斯かる場合、図10のような姿態で果皮色9aと着色マーク32との対比を行った後、収穫判定に適合したら果実9を掴みなおしてその果実9をもぎ取らねばならない。これに対し、着色マーク32が図6,図7のごとく手袋本体2の股部表面231に設けられると、収穫判定に適合したらそのまま果実9を掴んで収穫でき、作業性向上により一層役立つ作業用手袋1になる。果皮色9aと着色マーク32との対比判定を迅速且つ正確に実施でき、さらに、これと同時に収穫作業ができる。作業性向上のみならず収穫可否の誤判定を削減できる画期的な作業用手袋1になっている。評価試験の試験2からも明らかなように、本作業用手袋1は収穫時の誤判定が極めて少なくなる。
【0034】
加えて、作業用手袋の製造方法において、手袋本体2の甲側表面21にその着色マーク32側が対向,当接するよう該熱転写シール材3を配設し、次に、該着色マーク32に係る基材31の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により手袋本体2の表面にその着色マーク32を転写形成すると、塗装等による着色マーク32の形成に比べ、果皮色9aに対応させる色彩について、より精度の高いものが得られる。量産になっても、ロット間のバラツキもなくすことができる。剥離性を有する基材31に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた面状着色マーク32を逆刷りで印刷した熱転写シール材3を用いれば、予め果皮色9aに色合わせした着色マーク32のその色を、手袋本体2に確実且つ正確に印刷できる。また、手袋本体2を共通化でき、熱転写シール材3だけを種々備えるだけで、在庫をさほどもたずに市場のさまざまなニーズに対応できる。
【0035】
さらに、実施形態1の立体型5を備え、手袋本体2を該立体型5に嵌めると、手袋本体2の股部23が、作業用手袋1を手に嵌めた際の股部23に似せた立体型5の起伏ある股相当部63にぴったり当接するので、本来着色が難しいとされる起伏のある股部表面231でも、次工程の熱転写印刷により着色マーク32の転写形成が綺麗に仕上がる。転写する箇所が手袋本体2の股部23で起伏があり、着色マーク32を単に転写するだけでは、シワ等ができ転写が上手くいかない虞があるが、上記立体型5を備えてこれを克服する。
さらにいえば、立体型5に嵌めた手袋本体2を図4の白抜き矢印方向に引張り、手袋本体2が伸びた状態で熱転写印刷するので、実際の収穫作業で本作業用手袋1を手HDに嵌め、手袋本体2が伸びた状態になっても、その伸びで着色マーク32が剥離したり着色マーク32の色が薄まったりといった事態も回避できる。耐久性に富み、品質安定した作業用手袋1が出来上がる。
このように、本作業用手袋1およびその製造方法は、果実収穫時の収穫適否を的確に判断できばかりか、従来になく収穫時の作業性向上を果たし、さらに着色マーク32の品質安定化を図るなど、極めて有益である。
【0036】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。手袋本体2,着色マーク32,熱転写シール材3等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。実施形態では、手袋本体2を標準Mサイズとしたが、Lサイズ,Sサイズ用の手袋本体2,立体型5を準備すれば、実施形態と同様の製法で、サイズが違う作業用手袋も同様に作製できる。
【符号の説明】
【0037】
1 作業用手袋
2 手袋本体
20 手袋挿入口
21 甲側表面
23 股部
231 股部表面(親指部と人差し指部との付け根周りの股部表面)
25 親指部
26 人差し指部
3 熱転写シール材
31 基材
32 着色マーク
32a 着色マーク部分(第一着色マーク部分)
32b 着色マーク部分(第二着色マーク部分)
32c 着色マーク部分(第三着色マーク部分)
5 立体型
63 股相当部
65 親指相当部
66 人差し指相当部
9 果実
9a 果皮色
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に果実収穫時に使用される作業用手袋及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
みかんや柿などの果実は、その成熟度と果皮色の色付き度合いとの間に相関がみられ、図11のようなカラーチャートが農林水産省果樹試験場(現独立法人農業・食品産業技術総合研究機構果樹研究所)によって開発されている。カラーチャートは、長方形の板面に果実の成熟度によって異なる果皮色を段階的に表現した色彩マークがそのカラーチャート本体に貼着されている。共同選果で市場出荷している産地では、統一された品質基準,規格が存在しており、通常、果皮色で果実の成熟度合いを判断して収穫されている。そして、出荷果樹園では果皮色のチエックにこのカラーチャートが広く用いられてきた。
図12のように収穫しようとする果実にカラーチャートを近づけ、予め決められたカラーチャートに在る収穫基準用指定色とその果皮色とを照合,判定し、適合した果実をもぎ取っていく。
【0003】
しかし、果実の収穫作業時に該カラーチャートを使う場合、作業者はその都度ポケット等からカラーチャートを出し入れしなければならず煩わしかった。さらに、その形状が板状であるため、樹上の果実の果皮色を測る際、カラーチャートが枝や葉に触れて、目的の果実に当てづらい面も多かった。さらにいえば、この種のカラーチャートは毎年需要が見込まれるような消耗品でなく、需要が一巡すると販売中止になるものが存在した。入手困難な事態に陥ることもあった。
こうしたなか、果実の収穫適否を判定する新たな発明が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−252268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1は、収穫判定基準付き果実袋及び果実傘の発明であり、果実袋や果実傘を必要としない果実に不向きであった。さらに、果実の判定基準のカラーチャートと同じ色彩の着色部を設けた果実袋又は果実傘であり、その着色部は一色しかなく、収穫間近の天候不順等で収穫基準が変更になった場合に即座に対応できない問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するもので、果実袋及び果実傘を用いることなく、果実収穫時の収穫適否を正しく判断でき、さらに作業性を向上させるのみならず収穫基準が変更になった場合にも迅速対応できる作業用手袋及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、手袋本体(2)の甲側表面(21)の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色(9a)に合わせた着色マーク(32)が設けられることを特徴とする作業用手袋にある。請求項2の発明たる作業用手袋は、請求項1で、着色マーク(32)が、果実(9)の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分(32a,32b,…)を複数並べて形成されることを特徴とする。請求項3の発明たる作業用手袋は、請求項1又は2で、着色マーク(32)が、手袋本体(2)に係る親指部(25)と人差し指部(26)との付け根周りの股部表面(231)に設けられることを特徴とする。
請求項4に記載の発明の要旨は、剥離性を有する基材(31)に、果実収穫の判定基準となる果皮色(9a)に合わせた面状着色マーク(32)を逆刷りで印刷した熱転写シール材(3)を造った後、手袋本体(2)の甲側表面(21)にその着色マーク(32)側が対向するよう該熱転写シール材(3)を配設し、次いで、該着色マーク(32)に係る基材(31)の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により手袋本体(2)の表面にその着色マーク(32)を転写形成することを特徴とする作業用手袋の製造方法にある。請求項5の発明たる作業用手袋の製造方法は、請求項4で、基材(31)に、果実(9)の成熟度に対応させた色違いの面状着色マーク部分(32a,32b,…)を複数並設する前記着色マーク(32)を逆刷りで印刷した熱転写シール材(3)を造る一方、少なくとも親指相当部(65)及び人差し指相当部(66)と、両者の付け根周りの股相当部(63)とを曲面形成した立体型(5)を作製した後、手袋挿入口(20)から手袋本体(2)を該立体型(5)に嵌め入れ、該立体型(5)の股相当部(63)に、該手袋本体(2)に係る親指部(25)と人差し指部(26)との付け根周りの股部(23)を被せ、続いて、手袋本体(2)の股部表面(231)に、その着色マーク(32)側が対向するよう該熱転写シール材(3)を配設し、次いで、該着色マーク(32)に係る基材(31)の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により前記股部(23)の表面(231)に着色マーク(32)を転写形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の作業用手袋及びその製造方法は、果実袋や果実傘が必要ない果実にあっても、果実収穫時の収穫適否を素早く且つ正確に判断でき、収穫作業の作業性向上に貢献するだけでなく収穫可否の誤判定を大幅削減できるなど優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1における作業用手袋の斜視図である。
【図2】図1の作業用手袋に係る手袋本体と熱転写印刷用型の斜視図である。
【図3】(イ)が熱転写シール材の正面図で、(ロ)が図2の型に装着した手袋本体へ熱転写シール材を当接させる説明斜視図である。
【図4】手袋本体に着色マークを熱転写印刷する説明斜視図である。
【図5】図4のV-V線矢視図である。
【図6】図1の作業用手袋で果実を掴んだ斜視図である。
【図7】図1の作業用手袋で果実の成熟度を判断して収穫する様子を示す説明画像図である。
【図8】作業用手袋を使った場合と使わない場合の対比グラフである。
【図9】実施形態2の作業用手袋の斜視図である。
【図10】図9の作業用手袋で果実の成熟度を判断している様子を示す説明画像図である。
【図11】柿用カラーチャートの斜視図である。
【図12】図11のカラーチャートを使って、果実の成熟度を判断して収穫する様子を示す説明画像図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る作業用手袋及びその製造方法について詳述する。
(1)実施形態1
図1〜図8は本発明の作業用手袋及びその製造方法の一形態で、図1はその作業用手袋の斜視図、図2は図1の作業用手袋に係る手袋本体と熱転写印刷用型の斜視図、図3は(イ)が熱転写シール材の正面図で、(ロ)が図2の型に装着した手袋本体へ熱転写シール材を当接させる説明斜視図である。図4は手袋本体に着色マークを熱転写印刷する説明斜視図、図5は図4のV-V線矢視図、図6は図1の作業用手袋で果実を掴んだ斜視図、図7は図1の作業用手袋で果実の成熟度を判断して収穫する様子を示す説明画像図、図8は作業用手袋を使った場合と使わない場合の対比グラフである。
【0011】
(1−1)作業用手袋
作業用手袋1は手袋本体2と着色マーク32とを具備する(図1)。
手袋本体2は農作業等での作業用に使用される手袋で、指一本ずつ覆うようにできているグラブと称されるものである。親指部25,人差し指部26,中指部27,薬指部28,小指部29に、五本の指がそれぞれ挿入できる手袋本体2になっている。本発明に係る果樹収穫などの農作業で用いられる手袋本体2は、軍手でもよいが、図2のような手のひら側を滑りにくい素材で形成した複合構造品がより好ましい。ここでの手袋本体2も、布地製原手2bにいわゆる背抜き状態でコーティング膜形成用の配合液を付着させて、手の甲側表面21を布地とし、手のひら表面22をゴム質とする複合構造品である。この手袋本体2は例えば次のように造られる。
【0012】
まず、13乃至18ゲージのハイゲージのナイロン糸で編んだ手袋の形をした原手2bを造り、次いで、水性ポリウレタンとニトリルゴムを含む配合液に、原手2bの手のひら側をディッピングする。その後、引上げて加熱,乾燥させ、図2ごとくの複合構造の手袋本体2が造られる。手首部24を除き、原手2bの手のひら側、及び該手のひらから延設する甲側付近にまで、前記配合液が付着一体化してなる黒色のコーティング膜2aが設けられる。
果実9の収穫では、素手感覚で果実9に傷をつけずに果実9をもぎ取ることが望まれる。ハイゲージの細い白色系ナイロン糸で編んだ原手2bによって素手感覚に近くなり、柔軟性を備え、手HDとの密着性,把持性が増す。優しく収穫することが可能になる。また、手のひら側に前記コーティング膜2aを形成することによって作業性向上が図られる。果皮の表面には果実油が存在し、収穫の際に滑り易くなっているが、これを防止する。
【0013】
着色マーク32は色彩が施された目印片で、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせたスポット面状の着色マーク32になっている。手袋本体2の甲側表面21の一領域に、この着色マーク32が設けられる。着色マーク32の色彩には、赤味,黄味等の色彩、明るさの度合である明度、色の鮮やかさの度合である彩度の三要素からなる有彩色が選定される。
【0014】
また、前記着色マーク32は、手袋本体2の甲側表面21に、果実9の成熟度に対応させた色違いの面状着色マーク部分32a,32b,…を複数並べて形成される。果実生産地では、収穫前の気候変動等によって果実9の成熟度が変化し、果実収穫にあたってその判定基準となる果皮色9aを変更することがある。果実収穫の判定基準となる果皮色9aを変える事態になっても、果実9の各成熟度に合わせた数段階の複数片からなる色違い着色マーク32を、手袋本体2の甲側表面21に設けることで、難なく対応できる。
一方、カラーチャートには色が違う十数種類の色見本を提供するが、生産地や果樹の種類等が特定されると、果実収穫の判定用果皮色9aに合わせた着色マーク32は数種類あれば十分機能する。本実施形態は、手袋本体2に係る手の甲側表面21に、図1のごとく果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,32cを三種類並べて形成する。カラーチャートにある十数種類の色見本から三種類の色を選定し、これらに対応一致させた第一着色マーク部分32a,第二着色マーク部分32b,第三着色マーク部分32cの着色マーク32とする。図1のごとく、各着色マーク部分32a〜32cは、スポット面状にして且つ一片状体である。手袋本体2の甲側表面21に、三つの着色マーク部分32a〜32cを近接させて一列に並設する。
【0015】
ここで、果実収穫の判定適否に直接影響を及ぼす着色マーク32は、手袋本体2の甲側表面21に設けるにあたって、その色が僅かであっても変化することは許されない。製品ロット間にバラツキがあることも許されない。こうしたことから、本着色マーク32は後述するように熱転写印刷によって手袋本体2の甲側表面21に印刷形成される。手袋本体2に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせたその着色マーク32の色彩が、熱転写印刷によって色変化なく精度良く形成される。
【0016】
さらに、前記着色マーク32は、手袋本体2の甲側表面21で且つ手袋本体2に係る親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に設けられる。親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に、着色マーク32を設けるのは、果実9の収穫適否の判定が速やかに且つその判定を見誤ることなく行えるからである。作業者は収穫時にもぎ取ろうとする果実9を掴んだ時、その掴んだ果実9を図6のごとく着色マーク32が取り囲むようになり、果皮色9aと着色マーク32との対比確認を誤判断することなく素早く成し得る。
本実施形態の着色マーク32は、手袋本体2の甲側表面21に、一定の帯幅がある楕円型トラック形状に設けられる。親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に、着色マーク32の該トラック形状が図1のごとくやや屈曲して、その付け根を取り囲む。親指部25と人差し指部26に係る股部23の湾曲に沿う形の着色マーク32となる。着色マーク32は、既述のごとく果実収穫の判定適否に直接影響を及ぼし、各製品間に僅かの色彩のバラツキが許されない。さらに、着色マーク32を設ける該股部表面231は、手の股部23に似せた起伏ある面になっており、手袋本体2への着色が難しくなっている。
そこで、該着色マーク32を有する作業用手袋1は、熱転写印刷技術を用いた以下のような製法によって形成される。
【0017】
(2)作業用手袋の製造方法
作業用手袋の製造方法は、その製造に先立ち、手袋本体2と熱転写シール材3と立体型5を作製準備する。
手袋本体2は、既述のごとく白色ナイロン製の布地原手2bに黒色のコーティング膜2aを付与したものである。手の甲側表面21側を布地のままにする一方、手のひら表面22側は、該布地に黒色のコーティング膜2aを付着一体化させた複合構造品とする。
【0018】
熱転写シール材3は、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた面状着色マーク32を逆刷りで印刷したシール材である。基材31に、果実9の成熟度に対応させた色違いの面状着色マーク部分32a,32b,…を複数並設する着色マーク32を逆刷りで印刷した熱転写シール材3が造られる。剥離性を有するシート状基材31、例えば転写紙31aの表面に剥離膜31bを膜形成した基材31とし、該剥離膜31bの面上に第一着色マーク部分32a,第二着色マーク部分32b,第三着色マーク部分32cをワンセットにした着色マーク32が一定間隔で逆刷り印刷される(図3のイ)。
本実施形態は、図5(イ)のような基材31の剥離膜31b側の面に、ポリエチレン樹脂からなる感熱接着剤と、顔料等とを配合し、カラーチャートに合わせた第一着色マーク部分32a,第二着色マーク部分32b,第三着色マーク部分32c用の混合層MXをそれぞれ形成して熱転写シール材3とする。図5(イ)中、符号εは第一着色マーク部分32aと第二着色マーク部分32b(又は第二着色マーク部分32bと第三着色マーク部分32c)との仕切り用白色系混合層を示す。これに代えて、例えば図5(ロ)のごとくの熱転写シール材3とすることもできる。図5(ロ)では、基材31の剥離膜31bの面に、顔料等からなる各着色マーク部分32a〜32cに合わせた色インク層と、感熱接着剤層33とを積層形成して熱転写シール材3とする。図5(ロ)中、符号βは第一着色マーク部分と第二着色マーク部分(又は第二着色マーク部分と第三着色マーク部分)との仕切り用白色系顔料を含むインク層を示す。
【0019】
立体型5は、少なくとも親指相当部65及び人差し指相当部66と、両者の付け根周りの股相当部63とを曲面形成した立体的印刷型になっている。本実施形態は、図2のごとく金属製支柱7の上端部にアルミニウム製型本体6を固着した専用立体型5とする。支柱7の上端部に型本体6の手首相当部64を固着し、該手首相当部64からこれより先に手の甲相当部61、さらに股相当部63,親指相当部65,人差し指相当部66を延設する。親指相当部65と人差し指相当部66とは図示のごとくL字状に開いた格好とする。手袋本体2を手に嵌めた時の立体的形状により近づけ、転写印刷を良好に仕上げるためである。尚、中指,薬指,小指に対応する部位は省略する。特になくても、これだけで手袋本体2を手に嵌めた状態下で、股部表面231の立体的形状が得られるからである。
【0020】
前記手袋本体2と熱転写シール材3と立体型5を用いて、作業用手袋1の製造が行われる。立体型5に被着した手袋本体2へ熱転写シール材3の着色マーク32を当接させ、その後、加熱,加圧することにより、手袋本体2上に着色マーク32を転写する。
【0021】
詳しくは、先ず、手袋挿入口20を大きくして図2の白抜き矢印のごとく該手袋挿入口20から手袋本体2を立体型5の型本体6に嵌め入れる。そして、型本体6の股相当部63に、該手袋本体2に係る親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部23を被せる(図3)。親指相当部65を手袋本体2の親指部25が覆い、また人差し指相当部66を手袋本体2の人差し指が覆うが、手袋本体2の中指部27,薬指部28,小指部29は垂れ下がる。
【0022】
次に、手袋本体2の手首部24を把持して図3の白抜き矢印方向に引っ張り、手袋本体2(主に原手2b)が伸びる状態にする。実際の果実収穫の使用にあたり、作業用手袋1に手を入れた時に手袋本体2が伸びることを想定し、着色マーク32が剥離したり、伸びて着色マーク32の色が薄まったりするのを防止する。斯かる状態を保って、次工程の着色マーク32が印刷される。
【0023】
続いて、手袋本体2への着色マーク32の印刷に入る。印刷するにあたって、手袋本体2の甲側表面21に熱転写シール材3の着色マーク32側が対向するよう該熱転写シール材3を配設する。具体的には、図4のごとく手袋本体2の股部表面231に、その着色マーク32側の混合層MXが当接するよう熱転写シール材3を配設する。そして、図4の手袋本体2の手首部24を把持して白抜き矢印方向に引張り、手袋本体2が伸びる状態を保ったまま、該着色マーク32に係る基材31の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により股部23の表面231に着色マーク32を転写形成する。
【0024】
図5(イ)で、ヒータ付き押し当て部材8は、その本体81を加温でき、且つその当て面81aが股相当部63の起伏面631と同形状になっている。立体型5に嵌めた手袋本体2の股部表面231に、着色マーク32側を対向させて熱転写シール材3を配置,セットする。その後、加温状態にある押し当て部材本体81を該熱転写シール材3に当て、熱転写シール材3に係る基材31の背面側から加熱,加圧する熱転写印刷により、股部23の表面231上に着色マーク32の図柄を転写形成する。熱転写シール材3への押し当て部材8の加熱,加圧は、120〜150℃で約10秒という長い時間を費やす。実際の果実収穫作業において、着色マーク32の剥がれやその色の変色が起きない品質確保を得るためである。加熱,加圧により、熱転写シール材3の混合層MXが基材31から剥がれると同時に、該混合層MX中の感熱接着剤が溶融し、該感熱接着剤と顔料が一体となって手袋本体2の股部表面231に接着し、所望の着色マーク32を印刷完成させる。手袋本体2の股部表面231に、果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,32cを複数(ここでは三個)並べた着色マーク32を有する作業用手袋1が出来上がる。
【0025】
こうして、極早生ウンシュウ用と早生ウンシュウ用のミカン収穫に使うための作業用手袋1(図6)を二種類と、図7に見られるような柿収穫に使う作業用手袋1を製造した。柿の作業用手袋1には、カラーチャートの値3、3.5及び4とほぼ同色の着色マーク部分32a,32b,32cを有する着色マーク32が、親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に設けられた。
【0026】
(3)評価試験
前記作業用手袋1の実用性を調べるため、評価試験を行った。実用性評価は柿に「前川次郎」を用い、樹上果実9の測色作業にかかる時間(試験1)と収穫可否の誤判定率(試験2)で評価した。
試験1では、約30個の果実9を連続して測色する時間を計測した。条件は、調査開始から終了までの間、カラーチャートを手に持ったままの場合と、毎回胸ポケットから出し入れする場合、および柿収穫に使う作業用手袋1を手に嵌めた場合とした。その結果を図8(イ)に示す。
本作業用手袋1は、手に嵌めた状態で収穫可否を判断することができ、また測色作業時、枝葉が邪魔となる遭遇機会が少ない。そのため、本作業用手袋1による測色の作業時間は、カラーチャートを手に持ったままの場合と、胸ポケットから出し入れする場合に対して、収穫作業時間がそれぞれ40%、60%短縮された。
【0027】
また、試験2では、成熟初期(H22.10.26)の樹上果を用いて、次のように行った。柿収穫初心者A,Bが達観により収穫の可否を判定して収穫し(赤道部がカラーチャートで3.5が収穫可)、次いで、カラーチャート使用に慣れている者Cがその収穫した柿について、カラーチャートの対応値を読みとった。達観により収穫の可否を判定して収穫するとは、収穫前にカラーチャートで目合わせして確認し、収穫時にはカラーチャートを見ずに収穫の可否を判定して収穫することをいう。
次に、柿収穫初心者A,Bが柿収穫に使う作業用手袋1を手に嵌めて、収穫可否を判定して収穫し、次いで、カラーチャート使用に慣れている者Cがその収穫した柿について、カラーチャートの対応値を読みとった。
【0028】
ここで、収穫基準に達していない果実9なのに収穫可能と判断した場合(ケース1)、及び収穫基準に達している果実9であるにもかかわらず収穫不可能と判断した場合(ケース2)を、誤判定とした。こうして得たケース1,2の結果を図8(ロ)に示す。
ケース1の誤判定率は、作業者Aが13.8%で作業者Bが20.0%であったが、作業用手袋1を使用することにより、それぞれ2.8%、0.0%に減少した。ケース2の誤判定率は作業者Aが9.5%、作業者Bが11.5%であったが、作業用手袋1を使用することにより、それぞれ7.1%、5.7%に減少した。収穫可否の誤判定率は、達観で収穫した場合(ケース1と2の合計)は、作業者Aが12%、作業者Bが16%であったが、作業用手袋1を使用することにより両者とも4%に減少した(図8のハ)。
【0029】
(2)実施形態2
(2−1)作業用手袋1
本実施形態は、図9のような手袋本体2の甲側表面21の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた着色マーク32が設けられた作業用手袋1である。図9はその作業用手袋の斜視図、図10が図9の作業用手袋で果実の成熟度を判断している説明画像図を示す。手袋本体2は手のひら側に実施形態1のような黒色のコーティング膜2aを設けず、布製原手2bがそのまま手袋本体2になる。
熱転写シール材3は、基材31に果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,32cを逆刷りで印刷したシール材である。剥離性を有するシート状基材31の表面に縦一列に並べた第一着色マーク部分32a,第二着色マーク部分32b,第三着色マーク部分32cをワンセットにした着色マーク32が、一定間隔で逆刷り印刷される(図3のイ)。
そうして、その手袋本体2に係る親指部25の甲側表面21に、該着色マーク32が設けられる。果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,32cを複数(ここでは三個)有する着色マーク32とし、これら着色マーク部分を並設する。親指部25の甲側表面21で、親指部25の付け根からその指部が伸びる方向に向けて、着色マーク部分32a,32b,32cを縦一列に並べる。各着色マーク部分は正方形で、複数並設してなる着色マーク32の全体形状は図示のごとく略長方形の形をしている。他の構成は実施形態1と同様で、その説明を省く。実施形態1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0030】
(2−2)作業用手袋の製造方法
本作業用手袋の製造方法は、実施形態1と同様、基材31に着色マーク32を逆刷り印刷された熱転写シール材3に係る着色マーク32を、手袋本体2へ対向,当接させ、その後、加熱,加圧することにより、手袋本体2上に着色マーク32を転写する。前記手袋本体2と前記熱転写シール材3とを備えるが、実施形態1のような立体型5を準備しない。代わりに金属製平板Fを準備する。
該金属製平板F上に、手袋本体2を置き、例えば図9のごとく親指部25の甲側表面21が上を向いた状態にして、該親指部25を手のひら側へ折り重ねる。次いで、手袋本体2の甲側表面21に着色マーク32側が対向するよう熱転写シール材3を配設する。その後、着色マーク32に係る基材31の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により手袋本体2の表面にその着色マーク32を転写形成し、図9ごとくの所望の作業用手袋1を製造する。他の構成は実施形態1と同様で、その説明を省く。実施形態1と同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0031】
(3)効果
このように構成した作業用手袋1およびその製造方法は、手袋本体2の甲側表面21の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた着色マーク32が設けられるので、カラーチャートを手に持つ必要がない。収穫作業にあたっては殆どの場合、手袋が使用される。その作業用手袋1に着色マーク32を設けることで、その都度ポケット等からカラーチャートを出し入れしなければならなかった煩わしさから開放される。さらに、樹上の果実9の果皮色9aを測る際、カラーチャートが枝や葉に触れて、目的の果実9に当てづらいといった困難さからも開放される。収穫時に本作業用手袋1を嵌めることにより、収穫動作の範囲内で果皮色の判定評価ができる。勿論、収穫後の選果作業時にも、本作業用手袋1を嵌めることにより果皮色の判定評価が可能になる。
評価試験の試験1からも明らかなように、本作業用手袋1は携帯性,操作性の点でカラーチャートよりも格段に優れる。また、特許文献1のごとく果実袋や果実傘を必要としないミカンや柿のような果実9にも幅広く適用できる優れものになっている。着色マーク32は甲側表面21の一領域にスポット面状に設けるので、手袋本体2の全面に施す場合に比べて低コストで生産できる。
【0032】
また、手袋本体2の甲側表面21に、着色マーク32が果実9の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分32a,32b,…を複数並べて形成されると、収穫基準が変更になった場合でも迅速対応できる。収穫間近の天候不順等で収穫基準が変更になった場合も即座に対応できる。特許文献1の発明は着色部が一色しかなく、適熟果の色の年次変動に対応できないし、また収穫直前等で変更になった場合に対応できないが、本発明によればこうした事態も円滑対応できる。その一方で、カラーチャートのように十数種類なくても、通常の果樹園生産地では、それに合った数種類の色違いの着色マーク部分32a,32b,…があれば足りる。本色違い着色マーク部分32a,32b,…を数種類備える作業用手袋1はその実用性が高い。
【0033】
さらに、着色マーク32が、手袋本体2に係る親指部25と人差し指部26との付け根周りの股部表面231に設けられると、本作業用手袋1で果実9を掴んだときに、図6,図7のごとく股部23の湾曲に沿う形で設けた着色マーク32が果実9を取り囲むようになり、果皮色9aと着色マーク32との対比を誤認することなく素早く行うことができる。スポット面状の着色マーク32であるので、その視認も素早くなし得る。図9の親指部25に着色マーク32を設けた作業用手袋1でもよいが、斯かる場合、図10のような姿態で果皮色9aと着色マーク32との対比を行った後、収穫判定に適合したら果実9を掴みなおしてその果実9をもぎ取らねばならない。これに対し、着色マーク32が図6,図7のごとく手袋本体2の股部表面231に設けられると、収穫判定に適合したらそのまま果実9を掴んで収穫でき、作業性向上により一層役立つ作業用手袋1になる。果皮色9aと着色マーク32との対比判定を迅速且つ正確に実施でき、さらに、これと同時に収穫作業ができる。作業性向上のみならず収穫可否の誤判定を削減できる画期的な作業用手袋1になっている。評価試験の試験2からも明らかなように、本作業用手袋1は収穫時の誤判定が極めて少なくなる。
【0034】
加えて、作業用手袋の製造方法において、手袋本体2の甲側表面21にその着色マーク32側が対向,当接するよう該熱転写シール材3を配設し、次に、該着色マーク32に係る基材31の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により手袋本体2の表面にその着色マーク32を転写形成すると、塗装等による着色マーク32の形成に比べ、果皮色9aに対応させる色彩について、より精度の高いものが得られる。量産になっても、ロット間のバラツキもなくすことができる。剥離性を有する基材31に、果実収穫の判定基準となる果皮色9aに合わせた面状着色マーク32を逆刷りで印刷した熱転写シール材3を用いれば、予め果皮色9aに色合わせした着色マーク32のその色を、手袋本体2に確実且つ正確に印刷できる。また、手袋本体2を共通化でき、熱転写シール材3だけを種々備えるだけで、在庫をさほどもたずに市場のさまざまなニーズに対応できる。
【0035】
さらに、実施形態1の立体型5を備え、手袋本体2を該立体型5に嵌めると、手袋本体2の股部23が、作業用手袋1を手に嵌めた際の股部23に似せた立体型5の起伏ある股相当部63にぴったり当接するので、本来着色が難しいとされる起伏のある股部表面231でも、次工程の熱転写印刷により着色マーク32の転写形成が綺麗に仕上がる。転写する箇所が手袋本体2の股部23で起伏があり、着色マーク32を単に転写するだけでは、シワ等ができ転写が上手くいかない虞があるが、上記立体型5を備えてこれを克服する。
さらにいえば、立体型5に嵌めた手袋本体2を図4の白抜き矢印方向に引張り、手袋本体2が伸びた状態で熱転写印刷するので、実際の収穫作業で本作業用手袋1を手HDに嵌め、手袋本体2が伸びた状態になっても、その伸びで着色マーク32が剥離したり着色マーク32の色が薄まったりといった事態も回避できる。耐久性に富み、品質安定した作業用手袋1が出来上がる。
このように、本作業用手袋1およびその製造方法は、果実収穫時の収穫適否を的確に判断できばかりか、従来になく収穫時の作業性向上を果たし、さらに着色マーク32の品質安定化を図るなど、極めて有益である。
【0036】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。手袋本体2,着色マーク32,熱転写シール材3等の形状,大きさ,個数,材質等は用途に合わせて適宜選択できる。実施形態では、手袋本体2を標準Mサイズとしたが、Lサイズ,Sサイズ用の手袋本体2,立体型5を準備すれば、実施形態と同様の製法で、サイズが違う作業用手袋も同様に作製できる。
【符号の説明】
【0037】
1 作業用手袋
2 手袋本体
20 手袋挿入口
21 甲側表面
23 股部
231 股部表面(親指部と人差し指部との付け根周りの股部表面)
25 親指部
26 人差し指部
3 熱転写シール材
31 基材
32 着色マーク
32a 着色マーク部分(第一着色マーク部分)
32b 着色マーク部分(第二着色マーク部分)
32c 着色マーク部分(第三着色マーク部分)
5 立体型
63 股相当部
65 親指相当部
66 人差し指相当部
9 果実
9a 果皮色
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手袋本体(2)の甲側表面(21)の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色(9a)に合わせた着色マーク(32)が設けられることを特徴とする作業用手袋。
【請求項2】
前記着色マーク(32)が、果実(9)の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分(32a,32b,…)を複数並べて形成される請求項1に記載の作業用手袋。
【請求項3】
前記着色マーク(32)が、手袋本体(2)に係る親指部(25)と人差し指部(26)との付け根周りの股部表面(231)に設けられる請求項1又は2に記載の作業用手袋。
【請求項4】
剥離性を有する基材(31)に、果実収穫の判定基準となる果皮色(9a)に合わせた面状着色マーク(32)を逆刷りで印刷した熱転写シール材(3)を造った後、手袋本体(2)の甲側表面(21)にその着色マーク(32)側が対向するよう該熱転写シール材(3)を配設し、次いで、該着色マーク(32)に係る基材(31)の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により手袋本体(2)の表面にその着色マーク(32)を転写形成することを特徴とする作業用手袋の製造方法。
【請求項5】
前記基材(31)に、果実(9)の成熟度に対応させた色違いの面状着色マーク部分(32a,32b,…)を複数並設する前記着色マーク(32)を逆刷りで印刷した熱転写シール材(3)を造る一方、少なくとも親指相当部(65)及び人差し指相当部(66)と、両者の付け根周りの股相当部(63)とを曲面形成した立体型(5)を作製した後、手袋挿入口(20)から手袋本体(2)を該立体型(5)に嵌め入れ、該立体型(5)の股相当部(63)に、該手袋本体(2)に係る親指部(25)と人差し指部(26)との付け根周りの股部(23)を被せ、続いて、手袋本体(2)の股部表面(231)に、その着色マーク(32)側が対向するよう該熱転写シール材(3)を配設し、次いで、該着色マーク(32)に係る基材(31)の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により前記股部(23)の表面(231)に着色マーク(32)を転写形成する請求項4記載の作業用手袋の製造方法。
【請求項1】
手袋本体(2)の甲側表面(21)の一領域に、果実収穫の判定基準となる果皮色(9a)に合わせた着色マーク(32)が設けられることを特徴とする作業用手袋。
【請求項2】
前記着色マーク(32)が、果実(9)の成熟度に対応させた色違いの着色マーク部分(32a,32b,…)を複数並べて形成される請求項1に記載の作業用手袋。
【請求項3】
前記着色マーク(32)が、手袋本体(2)に係る親指部(25)と人差し指部(26)との付け根周りの股部表面(231)に設けられる請求項1又は2に記載の作業用手袋。
【請求項4】
剥離性を有する基材(31)に、果実収穫の判定基準となる果皮色(9a)に合わせた面状着色マーク(32)を逆刷りで印刷した熱転写シール材(3)を造った後、手袋本体(2)の甲側表面(21)にその着色マーク(32)側が対向するよう該熱転写シール材(3)を配設し、次いで、該着色マーク(32)に係る基材(31)の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により手袋本体(2)の表面にその着色マーク(32)を転写形成することを特徴とする作業用手袋の製造方法。
【請求項5】
前記基材(31)に、果実(9)の成熟度に対応させた色違いの面状着色マーク部分(32a,32b,…)を複数並設する前記着色マーク(32)を逆刷りで印刷した熱転写シール材(3)を造る一方、少なくとも親指相当部(65)及び人差し指相当部(66)と、両者の付け根周りの股相当部(63)とを曲面形成した立体型(5)を作製した後、手袋挿入口(20)から手袋本体(2)を該立体型(5)に嵌め入れ、該立体型(5)の股相当部(63)に、該手袋本体(2)に係る親指部(25)と人差し指部(26)との付け根周りの股部(23)を被せ、続いて、手袋本体(2)の股部表面(231)に、その着色マーク(32)側が対向するよう該熱転写シール材(3)を配設し、次いで、該着色マーク(32)に係る基材(31)の背面側から熱を加えて、熱転写印刷により前記股部(23)の表面(231)に着色マーク(32)を転写形成する請求項4記載の作業用手袋の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−132111(P2012−132111A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283066(P2010−283066)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(594156880)三重県 (58)
【出願人】(390035792)三重化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(594156880)三重県 (58)
【出願人】(390035792)三重化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】
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