説明

作業艇と複合型作業艇の格納スペース及びこの格納スペースに収容された作業艇と複合型作業艇の降下・揚収方法

【課題】 レセス又は暴露甲板上に設けられた作業艇及び複合型作業艇の両者を収容することのできる格納スペース、及びこの格納スペースに収容された作業艇と複合型作業艇の降下・揚収方法を提供する。
【解決手段】 船体壁をくりぬいて形成した凹所に、門型フレーム5と油圧シリンダとからなるクレーンと、門型フレーム5に掛けられたワイヤロープ14を繰出し又は巻上げするウインチと、凹所の床4に前後に摺動可能に設けられた複合型作業艇の格納台20と、この格納台20の上部に設けられた作業艇の受け台40とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に搭載する作業艇と複合型作業艇の両者を収容する格納スペース、及びこの格納スペースに収容された作業艇と複合型作業艇の降下・揚収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶には、従来から作業艇及び複合型作業艇が搭載されているが、一般に、作業艇は、船体側壁をくりぬいて形成した凹所(以下、レセスという)に搭載され、複合型作業艇は暴露甲板上などに搭載されていた(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】世界の艦船 2004.N0620(第5、85、120−122頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、複合型作業艇は大形化する傾向にあり(従来は全長4.5m程度であったが、最近では全長7.5m程度のものが計画されている)、そのため、その降下・揚収にあたっては、例えば物資類用のデッキクレーンを兼用することが考えられているが、そのためには、複合型作業艇をデッキクレーンの近傍に搭載する必要があり、搭載位置の設定に問題があった。
また、近年の船舶においては、省スペース化、配置の効率化が設計上において重要な問題になっており、作業艇や複合型作業艇の搭載場所にも種々制約がなされている。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、船体側壁のレセス又は暴露甲板上に、作業艇及び複合型作業艇の両者を収容することのできる格納スペース、及びこの格納スペースに収容された作業艇と複合型作業艇の降下・揚収方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る作業艇と複合型作業艇の格納スペースは、船体側壁をくりぬいて形成した凹所に、門型フレームと油圧シリンダとからなるクレーンと、前記門型フレームに掛けられたワイヤロープを繰出し又は巻上げするウインチと、前記凹所の床に前後に摺動可能に設けられた複合型作業艇の格納台と、該格納台の上部に設けられた作業艇受け台とを備えたものである。
【0007】
また、本発明に係る作業艇と複合型作業艇の格納スペースは、船体壁をくりぬいて形成した凹所に、下部が前記凹所の床に回動可能に支持された門型フレーム及び該門型フレームを傾動させる油圧シリンダと、先端部にフックを有し、複数のシープを介して前記門型フレームの上部に設けたシープに掛けられたワイヤロープを繰出し、巻上げするウインチと、前記門型フレームの内側において前記凹所の床に前後方向に摺動可能に設けられた複合型作業艇の格納台と、該格納台の上方に設けられた作業艇受け台とを備えたものである。
【0008】
また、本発明に係る作業艇と複合型作業艇の格納スペースは、船艇の暴露甲板上に、上記の門型フレーム、油圧シリンダ、ウインチ、複合型作業艇の格納台及び作業艇受け台を設けたものである。
【0009】
さらに、本発明に係る作業艇と複合型作業艇の降下・揚収方法は、上記の格納スペースに収容された作業艇と複合型作業艇を降下・揚収するにあたり、前記作業艇を降下する場合は、該作業艇にフックを掛けてワイヤロープを少量巻上げたのち、門型フレームを傾動させて前記作業艇を舷側に振出し、前記ワイヤロープを繰出して該作業艇を海面に着水させ、前記複合型作業艇を降下する場合は、該複合型作業艇が搭載された格納台を前進させたのち前記門型フレームを該複合型作業艇の直上まで傾動させてフックを掛け、前記ワイヤロープを少量巻上げたのち前記格納台を後退させ、前記門型フレームを傾動させて前記複合型作業艇を舷側に振出し、前記ワイヤロープを繰出して該複合型作業艇を海面に着水させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る格納スペースによれば、作業艇と複合型作業艇の両者を収容することができるので、複合型作業艇の搭載場所に困ることがなく、船舶の省スペース化、配置の効率化を実現することができる。
また、本発明に係る降下・揚収方法によれば、同じ門型フレームを使用して格納スペースの上下に収容された作業艇及び複合型作業艇を、互いに干渉することなく、それぞれ降下・揚収することができるので、きわめて便利であり、作業能率を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[実施の形態1]
図1は一部を省略して示した本発明の実施の形態1に係る作業艇及び複合型作業艇の格納スペースの正面図、図2は図1のA−A断面図である。
図において、1は船体側壁をくりぬいたレセスを壁3及び床4で囲んで形成した箱状の格納スペースで、実施例では、開口部2の船首尾方向の長さを15m、高さを6m、格納庫1の奥行を4.5mとした。
【0012】
5は脚部6a,6bとその上端部に設けた横材6cとからなり、クレーンを形成する門型フレームで、脚部6a,6bの下端部は床4に回動可能に支持されている。7a,7b(7bは図示してない)は門型フレーム5の脚部6a,6bの背面側に設けられた油圧シリンダで、下端部は床4に回動可能に支持されており、そのアクチュエータ8は門型フレーム5の脚部6a,6bの上部に連結されている。
【0013】
10は格納庫1の奥に設置されたウインチで、図3に示すように、駆動源であるモータ11とワイヤロープが巻かれるドラム12aとからなる主動ウインチ10aと、ワイヤロープが巻かれるドラム12bからなる従動ウインチ10bと、主動ウインチ10aの回転を従動ウインチ10bに伝達するユニバーサルシャフト13とからなっている。
【0014】
主動ウインチ10aのドラム12aに巻かれたワイヤロープ14は、床4に設けたシープ15aから門型フレーム5の脚部6aの下部に設けたシープ15b,15cを経て、横材6cの端部に設けたシープ15dに掛けられたのち、横材6cの前面側に設けたシープ15eに掛けられており、ワイヤロープ14の先端部にはフック16aが取付けられている。
また、従動ウインチ10bのドラム12bに巻かれたワイヤロープ14も、同様にシープ15f,15g,15h,15iを経てシープ15jに掛けられており、ワイヤロープ14の先端部にはフック16bが取付けられている。
【0015】
上記のような門型フレーム5は、油圧シリンダ7a,7bのアクチュエータ8を前進又は後退させることにより、脚部6a,6bの下端部を中心に前後方向に傾動することができる。
また、主動ウインチ10aのモータ11によりドラム12aを回転すると、その回転はユニバーサルシャフト13を介して従動ウインチ10bのドラム12bに伝達され、両ドラム12a,12bを同方向に回転させて、これに巻かれたワイヤロープ14を繰出し又は巻上げて、フック16a,16bを下降又は上昇させる。
【0016】
20は門型フレーム5の脚部6a,6bの間において、床4上に設置された複合型作業艇の格納台で、図4に示すように、床4の前後方向に所定の間隔で設置された一対のレール21a,21bを有し、このレール21a,21bの前部にはローラ22が設けられており、ローラ22の後部側上面には突部23が設けられて断面凸字状に形成されている。24はローラ22の後部側に設けられたストッパである。
【0017】
25はテーブルで、その下面のレール21a,21bと対向する位置には、H形断面のスライド基部26a,26bが固定されており、スライド基部26a,26bの後部側下面には、レール21a,21bの突部23に摺動可能に嵌合される1個又は複数のコ字状の摺動部材27が固定されている。
【0018】
29,30はレール21a,21bの間において床4に固定された軸受部で、両軸受部29,30間にはねじ棒31が回転自在に支持されている。32は両軸受部29,30の間において床4に固定されてねじ棒31に連結され、ねじ棒31を回転駆動する駆動源であるモータである。33は中心部に設けためねじがねじ棒31に螺合された可動部材で、テーブル25の下面に固定されており、これらによりテーブル駆動部28を構成している。
【0019】
このような下面にテーブル駆動部28を備えたテーブル25は、スライド基部26a,26bをレール21a,21b上に位置させてその前部をローラ22上に載置し、摺動部材27をレール21a,21bの突部23に嵌合する。なお、両軸受部29,30及びモータ32は、テーブル25に干渉しない高さになっている。
【0020】
いま、モータ32によりねじ棒31を回転させると、これに螺合された可動部材33が矢印方向に移動し、これに固定されたテーブル25も、スライド基部26a,26bがレール21a,21b上を摺動して矢印方向に移動し、摺動部材27がストッパ24に当って停止する。これにより、テーブル25は、図5に示すように、格納庫1の開口部2から舷側に押し出される(図11参照)。モータ32を逆方向に回転すれば、テーブル25は元の位置に戻る。
なお、複合型作業艇の格納台20は上記の構造に限定するものではなく、例えばテーブル駆動部28に油圧シリンダを用いるなど、テーブルを格納庫から舷側に押出し、また元の位置に戻せるものであれば、他の構造であってもよい。
【0021】
再び図1、図2において、41a,41bは門型フレーム5の脚部6a,6bの間において、後壁3に取付けられた支持腕で、両支持腕41a,41bには作業艇受け台40a,40b(以下、両者を合わせて40と記す)が設けられている。
【0022】
このように構成した格納スペース1には、図6、図7に示すように、作業艇受け台40上には作業艇50が搭載され、格納台20上には複合型作業艇60が搭載されて2段重ねに収容され、それぞれワイヤロープ等により固定される。図8は図6の上面図、図9は複合型作業艇60のみを収容した状態を示す上面図である。
【0023】
次に、上記のようにして格納スペース1に収容された作業艇50及び複合型作業艇60の降下手順の一例について説明する。
作業艇50を降下させる場合は、図10に示すように、固定したワイヤロープ等を外したのち、作業艇50のフック受けにワイヤロープ14のフック16a,16bを掛ける。そして、ウインチ10によりワイヤロープ14を少量巻上げて作業艇50を吊り上げ、作業艇受け台40から浮かせて、ウインチ10を停止する。
【0024】
次に、油圧シリンダ7a,7bのアクチュエータ9を前進させて、破線で示すように門型フレーム5を開口部2側に傾動させ、作業艇50を舷側まで振出す。ついで、ウインチ10を駆動してワイヤロープ14を繰出し、作業艇50を下降させて海面に着水させる。そして、フック16a,16bをフック受けから切り離し、ウインチ10によりワイヤロープ14を巻上げると共に、油圧シリンダ7a,7bのアクチュエータ9を後退させて、門型フレーム5を元の位置に戻す。これにより、作業艇50の降下作業は終了する。
作業艇50を揚収(引き上げ)する場合は、上記と逆の手順によればよい。
【0025】
複合型作業艇60を下降させる場合は、図11に示すように、固定したワイヤロープを取外したのち、格納台20のテーブル駆動部28のモータ32を駆動して、複合型作業艇60が搭載されたテーブル25を開口部2から張り出させる。ついで、油圧シリンダ7a,7bにより門型フレーム5を複合型作業艇60の直上まで傾動させ、ウインチ10のワイヤロープ14のフック16a,16bを複合型作業艇60のフック受けに掛ける。そして、ウインチ10を駆動してワイヤロープ14を少量巻上げて、複合型作業艇60を吊上げる。この状態でテーブル駆動部28のモータ32を駆動し、テーブル25を後退させて元の位置に戻す。
【0026】
次に、油圧シリンダ7a,7bにより門型フレーム25をさらに傾動させ、複合型作業艇60を舷側まで振出したのち、ワイヤロープ14を繰出して下降させ、海面に着水したのちフック16a,16bを切離せば、複合型作業艇60の降下作業は終了する。
複合型作業艇60を揚収(引き上げ)する場合は、上記と逆の手順によればよい。
このように、本実施の形態によれば、上部に収容された作業艇50に干渉することなく、複合型作業艇60を降下・揚収することができる。
なお、複合型作業艇60が1点吊りの場合は、ウインチ10の両フック16a,16bを複合型作業艇60のフック受けに掛けてもよく、あるいは、門型フレーム5の両脚部6a,6bの中間部に別のウインチを設け、先端部にフックを有するワイヤロープを門型フレーム5の横材6cの中央部に設けたシープに掛けて、複合型作業艇60を1点で吊るようにしてもよい。なお、これら作業艇50及び複合型作業艇60の降下・揚収作業は、別に設けた制御部により自動的に行われる。
【0027】
以上、レセスに設けた格納スペース1に収容された作業艇50及び複合型作業艇60の降下・揚収手順について説明したが、これはその一例を示すもので、これに限定するものではなく、適宜変更することができる。
【0028】
[実施の形態2]
実施の形態1では、船体側壁に設けたレセスに作業艇50及び複合型作業艇60を上下2段に収容する格納スペース1を設けた場合について説明したが、本実施の形態は、船舶の暴露甲板上に、実施の形態1の場合と同様の門型フレーム5、これを駆動する油圧シリンダ7、ウインチ10やワイヤ15等、複合型作業艇の格納台20、及び作業艇受け台40からなる格納スペース1を設けたものである。
【0029】
本実施の形態における作業艇50及び複合型作業艇60の降下・揚収手順は、実施の形態1の場合と同様なので、説明を省略する。
本実施の形態においても実施の形態1の場合とほぼ同様の効果を得ることができるが、さらに、作業艇50及び複合型作業艇60をデッキクレーンの近傍に搭載する必要がないので、格納スペース1の設置場所の自由度を大幅に拡大することができる。なお上記の説明では、本発明に係る格納スペース1に作業艇及び複合型作業艇を収容する場合について説明したが、これに限定するものではなく、例えば内火艇等の小型艇を収容してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施の形態に係る一部を省略した作業艇と複合型作業艇の格納スペースの正面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2のウインチの斜視図である。
【図4】図1の複合型作業艇の格納台の斜視図である。
【図5】図4の複合型作業艇の格納台の作用説明図である。
【図6】図1の格納スペースに作業艇と複合型作業艇を収容した状態を示す正面図である。
【図7】図6のB−B断面図である。
【図8】図6の上面図である。
【図9】格納スペースに複合型作業艇のみを収容した状態を示す上面図である。
【図10】格納スペースに収容された作業艇の降下・揚収手順の説明図である。
【図11】格納スペースに収容された複合型作業艇の降下・揚収手順の説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 格納スペース、4 床、5 門型フレーム、7a,7b 油圧シリンダ、10 ウインチ、10a 主動ウインチ、10b 従動ウインチ、14 ワイヤロープ、16a,16b フック、20 複合型作業艇の格納台、25 テーブル、28 テーブル駆動部、40 作業艇の受け台、50 作業艇、60 複合型作業艇。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体側壁をくりぬいて形成した凹所に、
門型フレーム及び該門型フレームを傾動させる油圧シリンダと、前記門型フレームに掛けられたワイヤロープを繰出し又は巻上げするウインチと、前記凹所の床に前後に摺動可能に設けられた複合型作業艇の格納台と、該格納台の上部に設けられた作業艇受け台とを備えたことを特徴とする作業艇と複合型作業艇の格納スペース。
【請求項2】
船体側壁をくりぬいて形成した凹所に、
下部が前記凹所の床に回動可能に支持された門型フレーム及び該門型フレームを傾動させる油圧シリンダと、
先端部にフックを有し、複数のシープを介して前記門型フレームの上部に設けたシープに掛けられたワイヤロープを繰出し、巻上げするウインチと、
前記門型フレームの内側において前記凹所の床に前後方向に摺動可能に設けられた複合型作業艇の格納台と、
該格納台の上方に設けられた作業艇受け台とを備えたことを特徴とする作業艇と複合型作業艇の格納スペース。
【請求項3】
船舶の暴露甲板上に、
請求項1又は2の門型フレーム、油圧シリンダ、ウインチ、複合型作業艇の格納台及び作業艇受け台を設けたことを特徴とする作業艇と複合型作業艇の格納スペース。
【請求項4】
請求項1,2又は3のいずれかの格納スペースに収容された作業艇又は複合型作業艇を降下・揚収するにあたり、
前記作業艇を降下する場合は、該作業艇にフックを掛けてワイヤロープを少量巻上げたのち、門型フレームを傾動させて前記作業艇を舷側に振出し、前記ワイヤロープを繰出して該作業艇を海面に着水させ、
前記複合型作業艇を降下する場合は、該複合型作業艇が搭載された複合型作業艇の格納台を前進させたのち前記門型フレームを該複合型作業艇の直上まで傾動させてフックを掛け、前記ワイヤロープを少量巻上げたのち前記格納台を後退させ、前記門型フレームを傾動させて前記複合型作業艇を舷側に振出し、前記ワイヤロープを繰出して該複合型作業艇を海面に着水させることを特徴とする作業艇又は複合型作業艇の降下・揚収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−123839(P2006−123839A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317624(P2004−317624)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)