説明

作業負担度判定装置

【課題】生体信号から被験者の作業負担度を判定する。
【解決手段】作業負担度判定装置1は、周期的に変化する被験者の心電信号及び脈波信号から被験者の各心拍に対応した瞬時心拍数と脈波伝播時間を取得する心電ピーク検出部11、ピーク間時間算出部12、脈波ピーク検出部14及び差分時間算出部15と、1つの脈波伝播時間を取得する毎に直近の連続する第1の所定数の脈波伝播時間に基づいてこの1つの脈波伝播時間に対応した標準化脈波伝播時間を算出する標準化脈波伝播時間算出部16と、1つの瞬時心拍数を取得する毎に直近の連続する第2の所定数の瞬時心拍数に基づいてこの1つの瞬時心拍数に対応した標準化瞬時心拍数を算出する標準化瞬時心拍数算出部13と、標準化脈波伝播時間とこの標準化脈波伝播時間に対応する心拍よりも第3の所定数前の心拍に対応する標準化瞬時心拍数とに基づいて、被験者の作業負担度を判定する判定部19とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体信号から被験者の作業負担度を判定する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体信号から作業者の疲労度や覚醒度を判定する装置として、例えば、特許文献1には、運転者の状態(眠気・散漫・正常・ストレス・緊張)を判定する運転者状態判定装置が記載されている。この装置では、走行中の運転操作情報(アクセル・ブレーキ・ステアリングなどの操作量や操作頻度等)に基づき運転者の運転操作タイプ(攻撃型・慎重型等)を判定し、判定した運転操作タイプに基づいて判定閾値を設定し、生体情報検出部によって運転者の生体情報を検出し、検出した生体情報の検出結果を判定閾値と照合することによって運転者の状態を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−217274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
作業者の疲労度や覚醒度は、短い周期(例えば秒単位)で変化を繰り返すことは一般的には考え難く、ある程度緩やかな時間変化の中で生じる生体変化を捉えることによって判定が可能である。
【0005】
これに対し、作業者の作業負担度は、主に環境要因によって変化するものであり、時には秒単位でダイナミックに変化を繰り返すことがある。このため、上記従来の装置では、被験者の作業負担度を判定することができない。
【0006】
そこで本発明は、生体信号から被験者の作業負担度を判定することが可能な作業負担度判定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明の作業負担度判定装置は、瞬時心拍数取得手段と、脈波伝播時間取得手段と、標準化脈波伝播時間算出手段と、標準化瞬時心拍数算出手段と、判定手段とを備える。
【0008】
瞬時心拍数取得手段は、周期的に変化する被験者の心電信号から被験者の各心拍に対応する瞬時心拍数を繰り返して取得する。脈波伝播時間取得手段は、周期的に変化する被験者の心電信号及び脈波信号から被験者の各心拍に対応する脈波伝播時間を繰り返して取得する。標準化脈波伝播時間算出手段は、脈波伝播時間取得手段が1つの脈波伝播時間を取得する毎に、脈波伝播時間取得手段が取得した直近の連続する第1の所定数の脈波伝播時間に基づいて、この1つの脈波伝播時間に対応した標準化脈波伝播時間を算出する。標準化瞬時心拍数算出手段は、瞬時心拍数取得手段が1つの瞬時心拍数を取得する毎に、瞬時心拍数取得手段が取得した直近の連続する第2の所定数の瞬時心拍数に基づいて、この1つの瞬時心拍数に対応した標準化瞬時心拍数を算出する。判定手段は、標準化脈波伝播時間と、この標準化脈波伝播時間に対応する心拍よりも第3の所定数前の心拍に対応する標準化瞬時心拍数とに基づいて、被験者の作業負担度を判定する。
【0009】
上記判定手段は、標準化脈波伝播時間と、この標準化脈波伝播時間に対応する心拍よりも第3の所定数前の心拍に対応する標準化瞬時心拍数と、所定の演算式とを用いて、被験者の作業負担指標値を算出し、算出した作業負担指標値が予め設定された所定の閾値を超えた場合に被験者の作業負担が高い状態であると判定してもよい。
【0010】
瞬時心拍数とは、被験者の心電信号から検出又は推定した心電波形のピーク間の時間の逆数である。脈波伝播時間とは、被験者の脈波信号から検出又は推定した脈波波形の立ち上がり時(二階微分の正のピーク時)と、その直前の心電波形のピーク時との間の時間である。
【0011】
被験者の作業負担が増大すると、これに応じて瞬時心拍数は増加し、脈波伝播時間は減少する。但し、瞬時心拍数は心臓自律神経系によって制御されており、脈波伝播時間は血管自律神経系によって変化がもたらされるため、ストレス(作業負担)に対する応答の速さは異なり、脈波伝播時間の減少は、瞬時心拍数の増加から若干遅れて発生する傾向を示す。すなわち、瞬時心拍数と脈波伝播時間のストレスに対する応答との間には、時間的なずれが生じる。上記構成では、瞬時心拍数取得手段は、心電信号から被験者の各心拍に対応する瞬時心拍数を繰り返して取得し、脈波伝播時間取得手段は、脈波信号から被験者の各心拍に対応する脈波伝播時間を繰り返して取得し、判定手段は、取得被験者の脈波伝播時間と、この脈波伝播時間に対応する心拍よりも前(第3の所定数前)の心拍に対応した被験者の瞬時心拍数とに基づいて、被験者の作業負担度を判定する。従って、被験者の作業負担度を、被験者の生体信号(心電信号及び脈波信号)から瞬時に且つ的確に判定することができる。
【0012】
また、標準化脈波伝播時間算出手段及び標準化瞬時心拍数算出手段は、脈波伝播時間及び瞬時心拍数をそれぞれ標準化し、判定手段は、標準化された脈波伝播時間及び瞬時心拍数(標準化脈波伝播時間及び標準化瞬時心拍数)に基づいて判定を行うので、作業者(被験者)の個人差(例えば体格)に起因する脈波伝播時間及び瞬時心拍数の値の大小による判定への影響が低減され、各作業者に対して共通の判定方法及び基準値を用いて作業負担度を判定することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生体信号から被験者の作業負担度を瞬時に且つ的確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態にかかる作業負担度判定装置及び作業負担度表示装置のブロック構成図である。
【図2】図1の作業負担度判定装置が検出又は推定する心電波形と脈波波形の一例を示す図である。
【図3】図1の作業負担度判定装置が実行する作業負担度判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態の作業負担度判定装置1は車両に搭載され、車両の運転者を被験者とし、運転者の作業負担度を判定する。
【0016】
運転者の作業負担度とは、運転者の作業負担の度合いであり、周期的に変化する運転者の心電信号と脈波信号とに基づき後述する方法によって算出された指標値(対数化作業負担レベルY)を、予め設定された閾値と比較することにより判定される。
【0017】
図1に示すように、作業負担度判定装置1は、心電センサ2と心電アンプ3と脈波センサ4と脈波アンプ5とコントロールユニット6とを備え、車室には作業負担度表示装置7が設けられている。
【0018】
心電センサ2は、ステアリングホイール(図示省略)の左右に設けられた電極(左側にプラス電極、右側にマイナス電極)と、ステアリングホイールのホーン部(図示省略)に取り付けられた電位差検出部(図示省略)とを有する。運転者の左右の手がそれぞれの電極に触れることで、電極間に電位差が生じる。電極間の電位差は、電位差検出部により検出され、心電検出信号として心電センサ2から心電アンプ3に送られる。心電アンプ3は、受信した心電検出信号を増幅して所定時間毎にコントローラユニット6に送信する。
【0019】
脈波センサ4は、ステアリングホイールに設けられた図示しないLED(Light Emitting Diode)と、フォトダイオード(図示省略)とを有する。LEDは、ステアリングホイールを握る運転者の指に向かって赤外線を発する。フォトダイオードは、運転者の指に流れる血液の血流量により逐次変化する反射散乱光を検出し、脈波検出信号として脈波アンプ5に送信する。脈波アンプ5は、受信した脈波検出信号を増幅して所定時間毎にコントローラユニット6に送信する。
【0020】
コントロールユニット6は、CPU(Central Processing Unit)とROM(Read Only Memory)とRAM(Random Access Memory)とを備える。ROM及びRAMは、コントロールユニット6の記憶部17を構成し、ROMは、CPUによって読み出される種々のプログラム(瞬時心拍数算出プログラム、脈波伝播時間算出プログラム、標準化瞬時心拍数算出プログラム、標準化脈波伝播時間算出プログラム、作業負担度判定プログラムを含む)や種々のデータ(後述の作業負担度判定処理において用いられる演算式(4)及び閾値Y0)を予め記憶している。なお、ROMに記憶される種々のデータは、実験やシミュレーションなどによって得られた測定値や理論値に基づいて設定される。また、これらのデータは、各プログラムに含まれた状態で記憶されてもよい。
【0021】
CPUは、瞬時心拍数算出プログラムに従って瞬時心拍数算出処理を実行する心電ピーク検出部11及びピーク間時間算出部12、脈波伝播時間算出プログラムに従って脈波伝播時間算出処理を実行する脈波ピーク検出部14及び差分時間算出部15、標準化瞬時心拍数算出プログラムに従って標準化瞬時心拍数算出処理を実行する標準化瞬時心拍数算出部13、標準化脈波伝播時間算出プログラムに従って標準化脈波伝播時間算出処理を実行する標準化脈波伝播時間算出部16、並びに作業負担度判定プログラムに従って作業負担度判定処理を実行する作業負担指標値算出部18及び判定部19として機能する。
【0022】
RAMには、瞬時心拍数算出処理及び脈波伝播時間算出処理において検出された値を時系列に記憶する検出データ記憶領域と、標準化瞬時心拍数算出処理、標準化脈波伝播時間算出処理及び作業負担度判定処理において算出された値を時系列に記憶する算出結果記憶領域とが予め設定されている。
【0023】
検出データ記憶領域及び算出結果記憶領域は、記憶可能なデータ数の上限(上限データ数)が予め設定された領域であり、記憶されている検出値又は算出値のデータ数が上限データに達すると、各検出部及び各算出部は、新規の検出値を検出または新規の算出値を算出した際に、既に記憶されている検出値または算出値のうち最初に記憶された最も古い検出値または算出値を削除し、新規の検出値または算出値を記憶させる。なお、上限データ数は、後述する作業負担度判定処理が確実に実行可能な数に設定されている。
【0024】
心電ピーク検出部11は、増幅された心電検出信号をコントロールユニット6が心電アンプ3から受信すると、受信した心電検出信号から心臓の電気的な活動の様子を示す心電検出値を算出し、心電検出値を記憶部17の検出データ記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させる。
【0025】
心電ピーク検出部11は、検出データ記憶領域に記憶された心電検出値に基づき、心臓の電気的な活動の時間変化を表す心電波形(図2参照)を所定時間毎に検出又は推定する。例えば、心電検出値によって心電波形が取得可能なように心電検出信号の検出間隔を短く設定した場合は、心電検出値に基づき心電波形を検出する。また、心電検出信号の検出間隔を比較的長く設定した場合は、心電検出値に基づき、検出値と検出値の間を所定の方法によって補間し、心電波形を推定する。心電ピーク検出部11は、検出又は推定した心電波形から計測可能な全ての正側のピーク(R0、R1、R2)を検出する。検出される正側のピークは、1回の心拍毎に血液を左心室から大動脈に送り出すときに生じるR波である。また、心電ピーク検出部11は、各ピーク(R波)の発生時刻(t0、t1、t2)を心電ピーク検出時刻として記憶部17の検出データ記憶領域に記憶させる。
【0026】
ピーク間時間算出部12は、記憶された心電ピーク検出時刻を用いて、連続するピーク間の時刻の差分(R−R間隔)をピーク間時間T(T1=t1−t0、T2=t2−t1)として算出し、算出したピーク間時間T(秒)から瞬時心拍数H(1分間の拍数)を算出する。瞬時心拍数Hは、心電信号から検出又は推定した心電波形のピーク間時間Tの逆数であり、次式(1)により求められる。
【0027】
H=60/T・・・(1)
【0028】
また、ピーク間時間算出部12は、算出した瞬時心拍数Hと記憶部17の算出結果記憶領域に既に記憶されている瞬時心拍数Hとを比較し、新規に算出された瞬時心拍数Hを最新のデータとして算出結果記憶領域に追加して記憶させる。
【0029】
以上のとおり、心電センサ2と心電アンプ3と心電ピーク検出部11とピーク間時間算出部12とは、周期的に変化する被験者の心電信号から被験者の各心拍に対応した瞬時心拍数Hを繰り返して取得する瞬時心拍数取得手段を構成する。
【0030】
なお、心電波形を検出又は推定する時間間隔を短く設定し、正側のピークが発生したか否かを逐次判定し、新規のピークが発生する毎に瞬時心拍数Hを算出し、算出した瞬時心拍数Hを記憶部17の算出結果記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させてもよい。
【0031】
脈波ピーク検出部14は、増幅された脈波検出信号をコントロールユニット6が脈波アンプ5から受信すると、受信した脈波検出信号から脈波検出値を算出し、脈波検出値を記憶部17の検出データ記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させる。
【0032】
脈波ピーク検出部14は、検出データ記憶領域に記憶された脈波検出値に基づき、血流量の時間変化を表す脈波波形(図2参照)を所定時間毎に検出又は推定する。例えば、脈波検出値によって脈波波形が取得可能なように脈波検出信号の検出間隔を短く設定した場合は、脈波検出値に基づき脈波波形を検出する。また、脈波検出信号の検出間隔を比較的長く設定した場合は、脈波検出値に基づき、検出値と検出値との間を所定の方法によって補間し、脈波波形を推定する。脈波ピーク検出部14は、検出又は推定した脈波の立ち上がり点の時刻(p0、p1、p2)を検出し、記憶部17の検出データ記憶領域に記憶させる。脈波の立ち上がり点は、時間関数である脈波を時間で2階微分した2階微分関数の正側のピークである。したがって、脈波ピーク検出部14は、脈波の2階微分関数の正側のピークを計測可能な限り全て検出し、検出した2階微分関数の正側の各ピークの発生時刻を、脈波の立ち上がり点の時刻として記憶部17の検出データ記憶領域に記憶させる。
【0033】
各心拍に対応する脈波伝播時間は、脈波信号から検出又は推定した脈波波形の立ち上がり時(2階微分関数の正のピーク時)と、その直前の心電波形のピーク時との間の時間である。差分時間検出部15は、脈波波形における脈波の立ち上がり点の時刻(p0、p1、p2)と心電波形における直近のR波が発生した時刻(t0、t1、t2)との差分(P0=p0−t0、P1=p1−t1、P2=p2−t2)を、各心拍に対応する脈波伝播時間P(P0、P1、P2)として算出する。差分時間算出部15は、算出した脈波電波時間Pと算出結果記憶領域に既に記憶されている脈波伝播時間Pとを比較し、新規に算出された脈波伝播時間Pを最新のデータとして算出結果記憶領域に追加して記憶させる。
【0034】
以上のとおり、脈波センサ4と脈波アンプ5と脈波ピーク検出部14と差分時間算出部15とは、周期的に変化する被験者の心電信号と脈波信号から被験者の各心拍に対応した脈波伝播時間を繰り返して取得する脈波伝播時間取得手段を構成する。
【0035】
なお、脈波波形を検出又は推定する時間間隔を短く設定し、脈波の2階微分関数の正側のピークが発生したか否かを逐次判定し、新規のピークが発生する毎に脈波伝播時間Pを算出し、算出した脈波伝播時間Pを記憶部17の算出結果記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させてもよい。
【0036】
標準化瞬時心拍数算出部13は、瞬時心拍数Hが記憶部17の算出結果記憶領域に記憶される毎に、この瞬時心拍数Hに対応した標準化瞬時心拍数Hzを算出する。標準化瞬時心拍数Hzの算出において、標準化瞬時心拍数算出部13は、記憶された全ての瞬時心拍数Hの平均値Haveと標準偏差Hsdとを算出する。次に、記憶された瞬時心拍数Hのうち直近の連続する所定数(本実施形態では10個)の瞬時心拍数H(最後に記憶した最新の瞬時心拍数Hを含む)を抽出し、これら10個の瞬時心拍数Hの平均値Hmを算出し、次式(2)によって標準化瞬時心拍数Hzを算出する。
【0037】
Hz=(Hm−Have)/Hsd・・・(2)
【0038】
標準化瞬時心拍数算出部13は、算出した標準化瞬時心拍数Hzを記憶部17の算出結果記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させる。
【0039】
以上のとおり、標準化瞬時心拍数算出部13は、ピーク間時間算出部12が瞬時心拍数を取得する毎に、直近の連続する所定数の瞬時心拍数に基づいて、この取得した瞬時心拍数に対応した標準化瞬時心拍数を算出する標準化瞬時心拍数算出手段を構成する。
【0040】
標準化脈波伝播時間算出部16は、記憶部17の算出結果記憶領域に脈波伝播時間Pが記憶される毎に、この脈波伝播時間Pに対応した標準化脈波伝播時間Pzを算出する。標準化脈波伝播時間Pzの算出において、標準化脈波伝播時間算出部16は、記憶された全ての脈波伝播時間Pの平均値Paveと標準偏差Psdとを算出する。次に、記憶された脈波伝播時間Pのうち直近の連続する所定数(本実施形態では10個)の脈波伝播時間P(最後に記憶した最新の脈波伝播時間Pを含む)を抽出し、これら10個の脈波伝播時間Pの平均値Pmを算出し、次式(3)によって標準化脈波伝播時間Pzを算出する。
【0041】
Pz=(Pm−Pave)/Psd・・・(3)
【0042】
標準化脈波伝播時間算出部16は、算出した標準化脈波伝播時間Pzを記憶部17の算出結果記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させる。
【0043】
以上のとおり、標準化脈波伝播時間算出部16は、差分時間算出部15が脈波伝播時間を取得する毎に、直近の連続する所定数の脈波伝播時間に基づいて、この取得した脈波伝播時間に対応した標準化脈波伝播時間を算出する標準化脈波伝播時間算出手段を構成する。
【0044】
なお、本実施形態では、直近の連続する10個の瞬時心拍数H及び脈波伝播時間Pを用いて標準化瞬時心拍数Hz及び標準化脈波伝播時間Pzの算出している。これは、実験やシミュレーションの結果、5〜15個の瞬時心拍数H及び脈波伝播時間Pを用いた場合に、後述する作業負担度処理の判定結果の精度が高くなることが確認されたためである。したがって、標準化瞬時心拍数Hz及び標準化脈波伝播時間Pzの算出に用いる瞬時心拍数H及び脈波電波時間Pの数は、例えば5〜15個の範囲において任意に設定可能である。
【0045】
図2に示す心電波形のR波と脈波波形の脈波の立ち上がりは、基本的に1心拍に1回発生する。R波R2と脈波の立ち上がり時刻p2に対応する脈波の立ち上がりは、同一の心拍に起因して生じる。したがって、R波R2が生じた時刻t2と脈波の立ち上がり点の時刻p2を用いて算出された脈波伝播時間P2及びR波R1−R2間時間T2を用いて算出された瞬時心拍数Hは、R波R2及び脈波の立ち上がり時刻p2に対応する脈波の立ち上がりを発生させる同一の心拍に対応する。同様に、記憶部17の算出結果記憶領域に記憶されている脈波電波時間P2の1個前の脈波伝播時間P1及びR波R0−R1間時間T1を用いて算出された1個前の瞬時心拍数Hは、R波R1及び脈波の立ち上がり時刻p1に対応する脈波の立ち上がりを発生させる心拍、すなわちR波R2及び脈波の立ち上がり時刻p2に対応する脈波の立ち上がりを発生させる心拍の1拍前の心拍に対応する。すなわちn個前の瞬時心拍数H及び脈波伝播時間Pはn拍前の心拍に対応する。
【0046】
標準化瞬時心拍数Hz及び標準化脈波伝播時間Pzは、それぞれ心拍に対応した瞬時心拍数H及び脈波伝播時間Pが算出される毎に、算出された瞬時心拍数H及び脈波伝播時間Pに対応して求められることから、記憶部17の算出結果記憶領域に記憶されているn個前の標準化瞬時心拍数Hz及び標準化脈波伝播時間Pzは、n拍前の心拍に対応する。
【0047】
作業負担指標値算出部18は、標準化脈波伝播時間Pzが算出される毎に、対数化作業負担レベルYを算出する。対数化作業負担レベルYの算出において、作業負担指標値算出部18は、記憶部17の算出結果記憶領域に記憶された直近の標準化脈波伝播時間Pzとこの標準化脈波伝播時間Pzが対応する心拍の5拍前の心拍に対応する標準化瞬時心拍数Hz(すなわち直近の標準化瞬時心拍数Hzから5個前の標準化瞬時心拍数Hz)とを読み出し、次式(4)によって対数化作業負担レベルYを算出する。
【0048】
Y=K1+K2×Hz+K3×Pz+K4×Pz+K5×Hz・・・(4)
【0049】
上式(4)の定数K1〜K5は、実験やシミュレーションなどによって得られた測定値や理論値に基づいて予め設定される。本実施形態では、K1=0.50、K2=0.092、K3=−0.081、K4=−0.02、K5=−0.009である。
【0050】
瞬時心拍数Hは心臓自律神経系によって制御されており、脈波伝播時間Pは血管自律神経系によって変化がもたらされるものであるため、ストレス(作業負担)に対する応答の速さが異なる。そのため瞬時心拍数Hと脈波伝播時間Pのストレスに対する応答には、時間的なずれが生じる。被験者のストレスが増大すると、これに応じて瞬時心拍数Hは増加し、脈波伝播時間Pは減少するが、脈波伝播時間Pの減少は、瞬時心拍数Hの増加から若干遅れて発生する傾向を示す。したがって、対数化作業負担レベルYの算出には、直近の標準化脈波伝播時間Pzと直近の標準化瞬時心拍数Hzから数個前のいずれかの標準化瞬時心拍数Hzを用いる。直近の標準化瞬時心拍数Hzから数個前の標準化瞬時心拍数Hzであれば、任意の標準化瞬時心拍数Hzを用いることが可能である。本実施形態では、実験やシミュレーションの結果、4〜6個前の標準化瞬時心拍数Hzを用いることが好適であると確認されたため、対数化作業負担レベルYの算出に用いる標準化瞬時心拍数Hzとして、直近の標準化瞬時心拍数Hzから5個前の標準化瞬時心拍数Hzを用いている。
【0051】
また、作業負担指標値の算出処理によるCPUの負荷を軽減させたい場合は、式(4)に代えて次式(5)を用いてもよい。
【0052】
Y=K1+K2×Hz+K3×Pz・・・(5)
【0053】
判定部19は、記憶部17の算出結果記憶領域に記憶された対数化作業負担レベルYと記憶部17に記憶された閾値Y0とを読み出して比較し、対数化作業負担レベルYが閾値Y0を越えたとき、運転者の作業負担度が高い状態であると判定する。本実施形態では、閾値Y0として0.5が設定され、対数化作業負担レベルYが0.5を超えたときに、運転者の作業負担度が高い状態であると判定される。すなわち、作業負担指標値算出部18と判定部19とは、被験者の作業負担度を判定する判定手段を構成する。
【0054】
判定部19は、運転者の作業負担度が高い状態と判定すると、運転者の作業負担度が高い状態であることを示す作業負担度高状態検出信号を作業負担度表示装置7へ送信する。
【0055】
なお、閾値Y0の数値及び個数は、任意に設定可能である。例えば、運転者の作業負担が比較的軽い状態であっても作業負担度が高い状態と判定したい場合は、閾値を低く設定すればよい。また、複数の閾値を0.3、0.5、0.7のように段階的に設定し、それぞれの閾値と対数化作業負担レベルYとを比較することにより運転者の作業負担度を詳細に判定してもよい。この場合、対数化作業負担レベルYが0.7を超えているとき、運転者の作業負担度が非常に高い状態であると判定し、0.5を超えて0.7以下であるとき、運転者の作業負担度が高い状態と判定し、0.3を超えて0.5以下であるとき、運転者の作業負担度がやや高い状態と判定し、0.3以下であるとき、運転者の作業負担度が低い状態であると判定する。また、運転者の作業負担度が非常に高い状態と判定したときは作業負担度非常高状態検出信号を送信し、運転者の作業負担度が高い状態と判定したときは作業負担度高状態検出信号を送信し、運転者の作業負担度がやや高い状態と判定したときは作業負担度やや高状態検出信号送信し、運転者の作業負担度が低い状態であると判定したときは何れの信号も送信しない。
【0056】
作業負担度表示装置7は、表示部8と制御部9と画面記憶部10とを有し、作業負担度表示処理を実行する。表示部8は、液晶ディスプレイであり、運転中の運転者が容易に視認可能な位置(例えばインストルメントパネル)に取り付けられる。作業負担度表示処理において、制御部9は、作業負担度判定装置1から受信する作業負担度の判定結果を示す信号に基づき、判定結果に対応する表示画面を画面記憶部10から読み出し、表示部8に表示させる。画面記憶部10は、判定結果を報知する警告画面を記憶している。警告画面は、例えば、「作業負担が高い状態です。運転に注意してください。」などのメッセージを表示する警告画面である。運転者の作業負担度が高い状態と判定され、作業負担度判定装置1から作業負担度高状態検出信号を受信すると、制御部9は、警告画面を画面記憶部10から読み出し、表示部8に表示させる。一方、運転者の作業負担度が高い状態ではないと判定され、作業負担度判定装置1から作業負担度高状態検出信号を受信しないときは、警告画面は表示されない。
【0057】
なお、閾値を複数設けた上述の例においても同様に、制御部9は、受信した信号に応じた警告画面を表示させる。すなわち、作業負担度非常高状態検出信号に対応する「作業負担度が非常に高い状態です。運転に十分注意してください。」というメッセージを赤色の文字、且つ通常の文字サイズよりも大きな文字サイズで表示する警告画面、作業負担度高状態検出信号に対応する「作業負担度が高い状態です。運転に注意してください。」というメッセージを通常の文字サイズよりも大きな文字サイズで表示する警告画面、作業負担度やや高状態検出信号に対応する「作業負担度がやや高い状態です。安全運転を心がけましょう。」というメッセージを通常の文字サイズで表示する警告画面を画面記憶部10から読み出し、表示部8に表示させる。なお、同例において、制御部9は、警告画面に表示部8の画面上に一列に表示される3本のバーからなるバーインジケータを表示させてもよい。判定部19から作業負担度非常高状態検出信号を受信した場合、3本のバーを全て赤色で表示させ、作業負担度高状態検出信号を受信したときは画面上左端及び中央の2本のバーを赤色、右端のバーのみを緑色で表示させ、作業負担度やや高状態検出信号を受信したときは、左端のバーのみを赤色、その他2本のバーを緑色で表示させ、いずれの信号も受信しないときは3本のバーを全て緑色に表示させる。
【0058】
次に、コントロールユニット6が実行する瞬時心拍数算出処理、脈波伝播時間算出処理、標準化瞬時心拍数算出処理、標準化脈波伝播時間算出処理、作業負担度判定処理について説明する。
【0059】
まず、瞬時心拍数算出処理について説明する。本処理は、心電検出データ蓄積処理と瞬時心拍数算出処理とを含む。
【0060】
心電検出データ蓄積処理はコントロールユニット6が心電アンプ3より増幅心電検出信号を受信する毎に開始される。本処理が開始されると、心電ピーク検出部11は、受信した増幅心電検出信号から心臓の電気的な活動の様子を示す心電検出値を算出し、心電検出値を記憶部17の検出データ記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させて、本処理を終了する。
【0061】
瞬時心拍数算出処理は、所定時間毎に開始される。本処理が開始されると心電ピーク検出部11は、検出データ記憶領域に記憶された心電検出値に基づき、心臓の電気的な活動の時間変化を表す心電波形を検出又は推定する。次に、心電ピーク検出部11は、検出又は推定した心電波形から計測可能な全ての正側のピーク(最大値)を検出し、検出したピークが発生したときの時刻を心電ピーク検出時刻として記憶部17の検出データ記憶領域に記憶させる。次に、ピーク間時間算出部12が、記憶された心電ピーク検出時刻に基づき連続するピーク間の時刻の差分をピーク間時間Tとして算出し、算出したピーク間時間Tを用いて式(1)により瞬時心拍数Hを算出する。また、ピーク間時間算出部12は、算出した瞬時心拍数Hと記憶部17の算出結果記憶領域に既に記憶されている瞬時心拍数Hとを比較し、新規に算出された瞬時心拍数Hを最新のデータとして算出結果記憶領域に追加して記憶させて、本処理を終了する。
【0062】
次に脈波伝播時間算出処理について説明する。本処理は、脈波検出データ蓄積処理と脈波伝播時間算出処理とを含む。
【0063】
脈波検出データ蓄積処理はコントロールユニット6が脈波アンプより増幅脈波検出信号を受信する毎に開始される。本処理が開始されると、脈波ピーク検出部14は、受信した増幅脈波検出信号から血流量の変化の様子を示す脈波検出値を算出し、脈波検出値を記憶部17の検出データ記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させて、本処理を終了する。
【0064】
脈波伝播時間算出処理は、所定時間毎に開始される。本処理が開始されると脈波ピーク検出部14は、検出記憶データ記憶領域に記憶された所定時間毎の脈波検出値に基づき、血流量の時間変化を表す脈波波形を検出又は推定する。次に、脈波ピーク検出部14は、検出又は推定した脈波波形に基づき脈波を2階微分し、脈波の2階微分関数の正側のピーク(最大値)を計測可能な限り全て検出する。脈波ピーク検出部14は検出した2階微分関数の正側のピークが発生したときの時刻を脈波の立ち上がり点の時刻として検出し、記憶部17の検出データ記憶領域に記憶させる。差分時間算出部15は、脈波の立ち上がり点の時刻と記憶部17に記憶された脈波の立ち上がり点の時刻の直近の心電ピーク検出時刻との差分を算出し、脈波伝播時間Pを算出する。次に差分時間算出部15は、算出した脈波電波時間Pと算出結果記憶領域に既に記憶されている脈波伝播時間Pとを比較し、新規に算出された脈波伝播時間Pを最新のデータとして算出結果記憶領域に追加して記憶させて、本処理を終了する。
【0065】
次に標準化瞬時心拍数算出処理について説明する。本処理は、算出結果記憶領域に瞬時心拍数Hが記憶される毎に開始される。標準化瞬時心拍数算出部13は、記憶部17の算出結果記憶領域に記憶された全ての瞬時心拍数Hの平均値Haveと標準偏差Hsdとを算出する。次に記憶された瞬時心拍数Hのうち直近の連続する10個の標準瞬時心拍数Hを抽出し、これら10個の瞬時心拍数Hの平均値Hmを算出し、式(2)によって標準化瞬時心拍数Hzを算出する。標準化瞬時心拍数算出部13は、算出した標準化瞬時心拍数Hzを記憶部17の算出結果記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させて、本処理を終了する。
【0066】
次に標準化脈波伝播時間算出処理について説明する。本処理は、算出結果記憶領域に脈波伝播時間Pが記憶される毎に開始される。標準化脈波伝播時間算出部16は、算出結果記憶領域に記憶された全ての脈波伝播時間Pの平均値Paveと標準偏差Psdとを算出する。次に記憶された脈波伝播時間Pのうち直近の連続する10個の脈波伝播時間Pを抽出し、これら10個の脈波伝播時間Pの平均値Pmを算出し、式(3)によって標準化脈波伝播時間Pzを算出する。標準化脈波伝播時間算出部16は、算出した標準化脈波伝播時間Pzを記憶部17の算出結果記憶領域に時系列に順次蓄積して記憶させて、本処理を終了する。
【0067】
次に作業負担度判定処理について図2のフローチャートを参照して説明する。
【0068】
本処理は、上記標準化脈波伝播時間算出処理が終了する毎に開始される。本処理が開始されると、作業負担指標値算出部18は、記憶部17の算出結果記憶領域に記憶された直近の標準化脈波伝播時間Pzを読み出し(ステップ1)、ステップ2に移行する。
【0069】
ステップ2では、作業負担指標値算出部18が、ステップ1で読み出された直近の標準化脈波伝播時間Pzが対応する心拍の5拍前の心拍に対応する標準化瞬時心拍数Hz(すなわち直近の標準化瞬時心拍数Hzから5個前の標準化瞬時心拍数Hz)を読み出し、ステップ3に移行する。
【0070】
ステップ3では、作業負担指標値算出部18が、ステップ1で読み出した直近の標準化脈波伝播時間Pzとステップ2で読み出した5個前の標準瞬時心拍数Hzを用いて式(4)によって対数化作業負担レベルYを算出し、ステップ4に移行する。
【0071】
ステップ4では、判定部19が、記憶部17に記憶された閾値Y0を読み出し、ステップ5に移行する。
【0072】
ステップ5では、判定部19が、ステップ3で算出した対数化作業負担レベルYとステップ4で記憶部17から読み出した閾値Y0とを比較する。比較の結果、対数化作業負担レベルYが閾値Y0を越えている場合(ステップ5:YES)はステップ6に移行し、対数化作業負担レベルYが閾値以下の場合(ステップ5:NO)はステップ8に移行する。
【0073】
ステップ6では、判定部19が運転者の作業負担度が高い状態であると判定し、ステップ7に移行する。
【0074】
ステップ7では、判定部19が作業負担度高状態検出信号を作業負担度表示装置に送信して本処理を終了する。
【0075】
ステップ8では、判定部19が運転者の作業負担度が高い状態ではないと判定し、本処理を終了する。
【0076】
なお、本実施形態では、本処理は、上記標準化脈波伝播時間算出処理が終了する毎に開始されるとしたが、判定のリアルタイム性を損なわない範囲の短い周期で所定時間毎に開始されてもよい。また、インストルパネルに設けられた作業負担度判定処理開始指示部(図示省略)からの運転者の指示に応じて開始されてもよい。
【0077】
次に作業負担度表示装置における作業負担度表示処理について説明する。
【0078】
作業負担度表示装置の制御部9が作業負担度判定装置から送信された、作業負担度高状態検出信号を受信すると、中央に「作業負担度が高い状態です。運転に注意してください。」というメッセージを表示する警告画面を画面記憶部10から読み出し、表示部8に表示させて、本処理を終了する。
【0079】
本実施形態によれば、判定部19は、周期的に変化する運転者の心電信号及び脈波信号から算出した直近の標準化脈波伝播時間Pzと直近の標準化瞬時心拍数Hzから5個前の標準化瞬時心拍数Hzとを用いて、標準化脈波伝播時間Pzが算出される毎に、運転者の作業負担度を判定することができるので、運転者の生体信号(心電信号及び脈波信号)から作業負担度を瞬時に且つ的確に判定することができる。
【0080】
また、標準化脈波伝播時間算出部16及び標準化瞬時心拍数算出部13が瞬時心拍数及び脈波伝播時間をそれぞれ標準化し、判定部19は、標準化脈波伝播時間Pz及び標準化瞬時心拍数Hzを用いて運転者の作業負担度を判定するので、運転者の個人差(例えば体格)に起因する脈波伝播時間及び瞬時心拍数の値の大小による判定への影響が低減され、共通の判定方法及び基準値を用いて作業負担度を判定することができる。
【0081】
また、判定部19は標準化脈波伝播時間Pzと直近の標準化瞬時心拍数Hzから5個前の心拍に対応する標準化瞬時心拍数Hzとに基づいて、被験者の作業負担度を判定するので、作業負担度の判定精度が向上する。
【0082】
また、心電センサ2と脈波センサ4をステアリングホイールに設けたので、心電信号及び脈波信号を検出するための器具で運転者を拘束することなく心電信号及び脈波信号を検出することができる。
【0083】
また、作業負担度を、予め記憶させた運転者の標準状態における生体信号との比較などで判定するのではなく、その都度、検出した心電信号及び脈波信号に基づき作業負担度を判定するため、事前に運転者の標準状態における生体信号などの情報を記憶させておく必要がない。そのため、事前に記憶させた情報を特定するために個人認証を行う必要がなく、運転者は認証のための作業(ID及びパスワードの入力など)に煩わされることがない。
【0084】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、この実施形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。
【0085】
例えば、本実施形態においては、標準化瞬時心拍数Hzと標準化脈波伝播時間Pzを算出するために、いずれも直近の連続する10個の瞬時心拍数H及び脈波伝播時間Pを用いたが、異なる個数の瞬時心拍数H及び脈波伝播時間Pを用いてもよい。すなわち標準化瞬時心拍数Hzの算出には直近の連続する5個の瞬時心拍数Hを用い、標準化脈波伝播時間Pzの算出には直近の連続する15個の脈波伝播時間Pを用いてもよい。
【0086】
また、作業負担度判定処理の開始時において直近の標準化瞬時心拍数Hzと作業負担判定処理開始後、標準化脈波伝播時間Pzが更に5個算出されるのを待って、算出された作業負担判定処理開始時の標準化脈波伝播時間Pzから5個後の標準化脈波伝播時間Pzを用いて対数化作業負担レベルYを算出してもよい。
【0087】
また、車両に警告音や音声ガイダンスを発するスピーカー(図示省略)を設け、作業負担度判定装置1から受信する作業負担度の判定結果を示す信号に基づき、運転者に注意を促す警告音や音声ガイダンスを発生させてもよい。例えば、作業負担度高状態検出信号を受信したときは、「作業負担が高い状態です。運転に注意してください。」という音声ガイダンスを発生させる。これにより運転者は音声により自身の作業負担度を認識できる。
【0088】
また、作業負担度判定装置1が運転者の作業負担度が高い状態と判定したときに、運転者の誤操作に起因する事故を未然に防ぐように車両を制御してもよい。例えば、車両にエンジン出力制御部(図示省略)を設け、作業負担度判定装置1から受信する作業負担度の判定結果を示す信号に基づき、エンジン(図示省略)の出力を制御してもよい。エンジン出力制御部は、作業負担度高状態検出信号を受信したとき、エンジンのインジェクタの燃料噴射量を通常時よりも下げて、又は、エンジンのスロットルバルブを通常時よりも閉めて、エンジンの出力を下げるように制御する。これにより、運転者がブレーキを踏むつもりであったにもかかわらず間違えてアクセルを踏んでしまったときのような誤操作による車両速度の上昇を抑制し、事故発生の可能性を低減することができる。また、車両にブレーキ制御部(図示省略)を設け、作業負担度判定装置1から受信する作業負担度の判定結果を示す信号に基づき、車両のブレーキ(図示省略)を制御してもよい。ブレーキ制御部は、作業負担度高状態検出信号を受信すると、運転者のフットブレーキの踏み込みによってホイールシリンダの制動圧が高まり制動力を発生させるドラム式ブレーキにおけるホイールシリンダの制動圧を予め所定圧に高めておくように制御する。これにより運転者が誤操作に気づき咄嗟にブレーキ操作をするときに、強くフットブレーキを踏み込まなくても、高い制動力を発生させることができる。そのため運転者の誤操作に起因する事故の発生の可能性を低減することができる。また、車両の前に突然に障害物が出現したときなどの衝突事故発生の可能性を低減することができる。
【0089】
また、基地局との無線通信機能を有する送受信部(図示省略)を備えた配送車などの営業車両を基地局に駐在する運行管理者が管理する場合に、送受信部は作業負担度判定装置1から受信した作業負担度高状態検出信号を基地局へ送信してもよい。これにより作業負担度高状態検出信号を受信した基地局において、運行管理者は運転者の作業負担度を把握でき、作業負担度が高い状態と判定されている運転者に対して、休憩を指示するなどして、的確な運行管理を行うことができる。
【0090】
すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、被験者の瞬時心拍数と脈波伝播時間から被験者の作業負担度を判定する装置に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0092】
1:作業負担度判定装置
2:心電センサ(瞬時心拍数取得手段)
3:心電アンプ(瞬時心拍数取得手段)
4:脈波センサ(脈波伝播時間取得手段)
5:脈波アンプ(脈波伝播時間取得手段)
6:コントロールユニット
7:作業負担度表示装置
8:表示部
9:制御部
10:画面記憶部
11:心電ピーク検出部(瞬時心拍数取得手段)
12:ピーク間時間算出部(瞬時心拍数取得手段)
13:標準化瞬時心拍数算出部(標準化瞬時心拍数算出手段)
14:脈波ピーク検出部(脈波伝播時間取得手段)
15:差分時間算出部(脈波伝播時間取得手段)
16:標準化脈波伝播時間算出部(標準化脈波伝播時間算出手段)
17:記憶部
18:作業負担指標値算出部(判定手段)
19:判定部(判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に変化する被験者の心電信号から当該被験者の各心拍に対応した瞬時心拍数を繰り返して取得する瞬時心拍数取得手段と、
周期的に変化する被験者の心電信号及び脈波信号から当該被験者の各心拍に対応した脈波伝播時間を繰り返して取得する脈波伝播時間取得手段と、
前記脈波伝播時間取得手段が1つの脈波伝播時間を取得する毎に、当該脈波伝播時間取得手段が取得した直近の連続する第1の所定数の脈波伝播時間に基づいて、前記1つの脈波伝播時間に対応した標準化脈波伝播時間を算出する標準化脈波伝播時間算出手段と、
前記瞬時心拍数取得手段が1つの瞬時心拍数を取得する毎に、当該瞬時心拍数取得手段が取得した直近の連続する第2の所定数の瞬時心拍数に基づいて、前記1つの瞬時心拍数に対応した標準化瞬時心拍数を算出する標準化瞬時心拍数算出手段と、
前記標準化脈波伝播時間と、当該標準化脈波伝播時間に対応する心拍よりも第3の所定数前の心拍に対応する前記標準化瞬時心拍数とに基づいて、前記被験者の作業負担度を判定する判定手段と、を備えた
ことを特徴とする作業負担度判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業負担判定装置であって、
前記判定手段は、前記標準化脈波伝播時間と、当該標準化脈波伝播時間に対応する心拍よりも第3の所定数前の心拍に対応する前記標準化瞬時心拍数と、所定の演算式とを用いて、前記被験者の作業負担指標値を算出し、算出した作業負担指標値が予め設定された所定の閾値を超えた場合に前記被験者の作業負担が高い状態であると判定する
ことを特徴とする作業負担度判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−85670(P2012−85670A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232251(P2010−232251)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】