説明

作業車の走行制御装置

【課題】 煩わしさの少ない簡単な作業で作業対象領域における自動操向制御用の設定経路を設定することが可能となる作業車の走行制御装置を提供する。
【解決手段】 GPS位置情報算出手段100にて求められる車体の位置情報に基づいて車体が作業対象領域内の設定経路に沿って走行するように操向手段を自動的に操作する自動操向制御を実行する制御状態と自動操向制御を実行しない非制御状態とに切り換え自在な自動操向制御手段JSが、非制御状態において経路設定モードに切り換えられると、車体が操向操作具にて操向手段が操作され且つ作業対象領域の周縁部に沿って移動するときのGPS位置情報算出手段100にて求められる複数の車体の位置情報を記憶し且つ記憶された複数の車体の位置情報に基づいて作業対象領域を特定してその特定した作業対象領域に基づいて設定経路を自動設定する経路設定処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS衛星から送信される電波を受信して車体の位置情報を求めるGPS位置情報算出手段と、前記GPS位置情報算出手段にて求められる前記車体の位置情報に基づいて前記車体が作業対象領域内の設定経路に沿って走行するように操向手段を自動的に操作する自動操向制御を実行する制御状態と、前記自動操向制御を実行しない非制御状態とに切り換え自在な自動操向制御手段と、手動操作式の操向操作具にて前記操向手段を操作する手動操作用の操作手段とが備えられている作業車の走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる作業車の走行制御装置は、作業者が手動で操縦操作することに代えて、例えば作業対象領域としての圃場等において車体を設定経路に沿って自動走行させながら田植え作業や穀稈の刈取作業等を行うことにより、作業者の操縦操作の負担を軽減することを可能にしたものであるが、このような作業車の走行制御装置において、従来では、前記自動操向制御手段が、前記非制御状態に切り換えられた状態で、運転者が搭乗して操向操作具を操作しながら作業対象領域内における作業開始点からその作業対象領域の作業終了位置に至るまで作業車を移動走行させ、その移動走行するに伴って変化する車体の位置を、GPS位置情報算出手段にて逐次計測してその車体の位置情報を経路データとして記憶する構成とし、その作業対象領域にて次回に作業を行なう場合には、記憶している経路データに対応する経路に沿って自動で走行するように自動操向制御を実行するように構成されたものがあった(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平6−113607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構成においては、作業対象領域内における作業開始点すなわち設定経路の開始点に相当する位置からその作業対象領域の作業終了位置すなわち設定経路の終点に相当する位置に至るまで作業車を移動走行させながらGPS位置情報算出手段にて逐次求められる車体の位置情報を経路データとして記憶し、その記憶している位置情報に基づいて次回作業するときの設定経路として設定するようにしていることから、作業対象領域内において長い作業用走行経路の全長にわたり車体を移動させながら、GPS位置情報算出手段にて求められる車体の位置情報を記憶しなければならず、自動操向制御用の設定経路を設定するための作業が手間のかかる煩わしいものとなる不利があった。
【0005】
本発明の目的は、煩わしさの少ない簡単な作業で作業対象領域における自動操向制御用の設定経路を設定することが可能となる作業車の走行制御装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る作業車の走行制御装置は、GPS衛星から送信される電波を受信して車体の位置情報を求めるGPS位置情報算出手段と、
前記GPS位置情報算出手段にて求められる前記車体の位置情報に基づいて前記車体が作業対象領域内の設定経路に沿って走行するように操向手段を自動的に操作する自動操向制御を実行する制御状態と前記自動操向制御を実行しない非制御状態とに切り換え自在な自動操向制御手段と、
手動操作式の操向操作具にて前記操向手段を操作する手動操作用の操作手段とが備えられているものであって、その第1特徴構成は、
前記自動操向制御手段が、
経路設定処理を実行する経路設定モードに切り換え自在に構成され、且つ、
前記非制御状態において前記経路設定モードに切り換えられると、前記車体が前記操向操作具にて前記操向手段が操作され且つ前記作業対象領域の周縁部に沿って移動するときの前記GPS位置情報算出手段にて求められる複数の車体の位置情報を記憶し且つ記憶された複数の前記車体の位置情報に基づいて前記作業対象領域を特定してその特定した前記作業対象領域に基づいて前記設定経路を自動設定する経路設定処理を実行するように構成されている点にある。
【0007】
第1特徴構成によれば、前記自動操向制御手段が、前記自動操向制御を実行しない非制御状態に切り換えられている状態において経路設定モードに切り換えられるときに、運転者が、手動操作にて操向操作具を操作することにより操向手段が操作される状態で車体を作業対象領域の周縁部に沿って移動させるのである。そして、自動操向制御手段が、車体が作業対象領域の周縁部に沿って移動するときのGPS位置情報算出手段にて求められる複数の車体の位置情報を記憶し、その記憶した複数の車体の位置情報に基づいて作業対象領域を特定してその特定した作業対象領域に基づいて自動操向制御用の設定経路を自動設定するのである。
【0008】
つまり、運転者が車体を作業対象領域の周縁部に沿って移動させるときに、車体に備えられたGPS位置情報算出手段を利用して作業対象領域の周縁部における適宜箇所の位置情報を求めてそれを記憶しておき、それら複数の位置情報から車体が作業を行なうべき作業対象領域の外周縁を特定して、その作業対象領域において必要とされる作業を行うための設定経路を演算処理等により自動設定するのである。
その結果、運転者は車体を作業対象領域の周縁部に沿って移動させればよく、作業対象領域内において全域又は略全域を対象として作業するための長い作業用走行経路の全長にわたり車体を移動させながら位置情報を計測する等の煩わしい作業は不要である。
【0009】
従って、第1特徴構成によれば、煩わしさの少ない簡単な作業で自動操向制御用の設定経路を設定することが可能となる作業車の走行制御装置を提供できるに至った。
【0010】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成に加えて、前記自動操向制御手段が、前記経路設定処理において、手動操作式の指令手段による操作指令に基づいて前記車体の位置情報を記憶するように構成されている点にある。
【0011】
第2特徴構成によれば、前記自動操向制御手段が手動操作式の指令手段による操作指令に基づいて車体の位置情報を記憶するように構成されているから、運転者が車体を運転操作しながら適宜箇所に到達したときに指令手段を操作して指令することで、位置情報を記憶させることができる。例えば、直線状の経路を走行するときには直線状の経路における両側端部の2箇所において位置を計測するだけでその直線状の経路の位置情報を特定することが可能であり、運転者は目視によって走行すべき経路の情報は予め判るので、直線状の経路においては、その途中箇所では記憶処理を省略することができるから、記憶する位置情報の個数を極力少なくすることができる。
【0012】
又、経路の途中位置に障害物が存在するときには、その障害物を回避させる状態で作業対象領域を設定するために適宜位置における位置情報を記憶させることができるが、そのときにも、必要最小限の位置で位置情報を記憶させることにより、記憶する位置情報の個数を極力少なくすることができる。
【0013】
従って、第2特徴構成によれば、記憶する位置情報の個数を極力少なくすることができて、記憶すべき情報量が少なくなり且つ演算処理が簡素になることにより、構成の簡素化を図ることが可能となる。
【0014】
本発明の第3特徴構成は、第1特徴構成に加えて、前記自動操向制御手段が、前記経路設定処理において、予め設定された設定時間毎に前記車体の位置情報を記憶するように構成されている点にある。
【0015】
第3特徴構成によれば、前記自動操向制御手段は予め設定された設定時間毎に車体の位置情報を記憶するものであるから、運転者が車体を作業対象領域の周縁部に沿って移動させるときに、車体の位置情報を記憶するための操作指令を実行する必要がなく、運転者は車体の操縦操作に専念することができ、煩わしさなく位置情報を記憶することができる。
【0016】
従って、第3特徴構成によれば、位置情報を記憶させるときに運転者が車体の操縦操作以外に特別な指令操作を行う必要がないことから、一層簡単な作業で自動操向制御用の設定経路を設定することが可能となる。
【0017】
本発明の第4特徴構成は、第1特徴構成〜第3特徴構成のいずれかに加えて、前記車体の方位変位情報を検出するジャイロ装置が備えられ、
前記自動操向制御手段が、前記車体が前記設定経路のうちの直線状経路部分に沿って走行するように自動操向制御を実行するときには、前記GPS位置情報算出手段にて求められる車体の位置情報及び前記ジャイロ装置にて検出される前記車体の方位変位情報に基づいて制御を実行し、且つ、前記車体が前記設定経路のうちの曲線状経路部分に沿って走行するように自動操向制御を実行するときには、前記ジャイロ装置にて検出される前記車体の方位変位情報のみに基づいて制御を実行するように構成されている点にある。
【0018】
第4特徴構成によれば、車体が設定経路のうちの直線状経路部分に沿って走行するように自動操向制御を実行するときには、GPS位置情報算出手段にて求められる車体の位置情報及びジャイロ装置にて検出される車体の方位変位情報に基づいて制御を実行する。GPS位置情報算出手段により車体の位置情報を求める処理には、所定の時間がかかるので、実際に位置情報が求められるのは設定時間前の位置情報であるから、設定時間が経過する間に車体の向きが変化すると誤差が生じるおそれがある。そこで、直線状経路部分に沿って走行するように自動操向制御を実行するときには、設定時間毎にGPS位置情報算出手段により求められる車体の位置情報をジャイロ装置にて検出される車体の方位変位情報に基づいて補正することで正確な位置を求めて自動操向制御を適正に実行することができる。
【0019】
そして、曲線状経路部分に沿って走行するときには、GPS位置情報算出手段により求められる車体の位置情報は誤差が大きいことから、ジャイロ装置にて検出される前記車体の方位変位情報のみに基づいて自動操向制御を適正に実行することができる。
【0020】
従って、第4特徴構成によれば、車体の走行状態に応じてGPS位置情報算出手段の検出情報とジャイロ装置の検出情報とを適切に使い分けることで、直線状経路部分に沿って走行する場合及び曲線状経路部分に沿って走行する場合のいずれにおいても、自動操向制御を適正に実行することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る作業車の走行制御装置の実施形態を作業車としてのコンバインに適用した場合について説明する。
【0022】
図1に示すように、左右一対のクローラ式走行装置1、1で支持された車体の前部に、刈取昇降シリンダ2にて横軸芯P1周りに駆動昇降自在に刈取部3が支持され、車体の前部の右側に運転部4が備えられ、車体の後部の左側に脱穀部5が備えられ、車体の後部の右側にグレンタンク6が備えられて、作業車の一例である自脱型のコンバインが構成されている。
【0023】
前記刈取部3は、先端部に付設された分草具7、穀稈の引き起こし装置8、引き起こした穀稈の株元を切断する刈刃9、先端側で刈取穀稈を受け取って脱穀部5のフィードチェーンに受け渡す縦搬送装置10等を備えている。
【0024】
次に、動力伝達系を図8に示す。車体に搭載されたエンジンEの出力は、脱穀クラッチモータ11にて入切操作自在な脱穀クラッチ12を介して脱穀部に伝達されるとともに、無段変速装置13を介してミッション部14に伝達され、ミッション部40からの動力は左右両側のクローラ式走行装置1に供給される一方、刈取クラッチモータ15にて入切操作自在な刈取クラッチ16を介して刈取部3にも伝達される構成となっている。前記ミッション部14には、詳述はしないが、一方の走行装置1を他方の走行装置1より低速で駆動する緩旋回状態、一方の走行装置1を停止状態にするブレーキ旋回状態、一方の走行装置1を他方の走行装置1と逆向き状態に駆動する逆転旋回状態の夫々に切り換え自在な周知構成の操向手段としての旋回状態切換機構17が備えられている。この旋回状態切換機構17の切り換え操作は、後述する刈高操向レバー18の機体横幅方向への揺動操作により行われる構成となっている。詳述はしないが、この旋回状態切換機構17は、油圧制御弁を手動で切り替えることで複数の油圧クラッチを入切すること等により旋回状態を切り換える構成となっている。
【0025】
前記無段変速装置13は、運転部4に備えられた手動操作式の変速レバー19にて手動で変速操作可能に連動連係されている。この変速レバー19は、運転部4における運転座席20の左側箇所に機体前後方向に揺動操作自在に設けられている。つまり、変速レバー19が前後操作範囲の中間部に位置する中立位置から前方側に操作されると無段変速装置13が前進方向での走行速度が増速し、変速レバー19が中立位置から後方側に操作されると無段変速装置13が後進方向での走行速度が増速する構成となっている。
【0026】
運転部4には、刈取部3を昇降操作する刈取昇降指令具と車体を左右に旋回操作する旋回操作指令具とに兼用構成された十字操作式の刈高操向レバー18が設けられている。この刈高操向レバー18を後方側に揺動操作すると刈取部3が上昇し、前方側に揺動操作すると刈取部3が下降する構成となっている。
【0027】
すなわち、図7に示すように、前記刈取昇降シリンダ2に対する圧油供給状態を切り換える油圧制御弁21、前記脱穀クラッチモータ11、前記刈取クラッチモータ15等の作動を制御するためのマイクロコンピュータを備えて構成される制御装置Hが備えられ、刈高操向レバー18を後方側に揺動操作するとオンする刈取上昇スイッチ22と、刈高操向レバー18を前方側に揺動操作するとオンする刈取下降スイッチ23とが設けられ、これらのスイッチの情報が制御装置Hに入力される。
【0028】
そして、制御装置Hは、刈取上昇スイッチ22がオンすると刈取昇降シリンダ2が上昇操作するように油圧制御弁21を切り換え、刈取下降スイッチ23がオンすると刈取昇降シリンダ2が下降操作するように油圧制御弁21を切り換えるように制御する。又、手動操作にて入切自在な脱穀入切スイッチ24及び刈取入切スイッチ25が設けられ、制御装置Hは、脱穀入切スイッチ24の操作状態により脱穀クラッチモータ11を切り換え制御し、刈取入切スイッチ25の操作状態により刈取クラッチモータ15を切り換えるように制御する。
【0029】
連係構成について詳述はしないが、前記刈取操向レバー18と前記旋回状態切換機構17とが機械的に連係されており、刈高操向レバー18を左側に揺動操作すると車体が左旋回し、右側に揺動操作すると機体が右旋回するように、且つ、刈高操向レバー18の中立位置からの倒し角が大きくなるほど、前記緩旋回状態、前記ブレーキ旋回状態、及び、前記逆回転旋回状態に順次切り換わる、すなわち順次旋回力が大きくなるように旋回状態が切り換わるように構成されている。
従って、操向操作具としての刈取操向レバー18と操向手段としての旋回状態切換機構17とを機械的に連係する構成により手動操作用の操作手段が構成されている。
【0030】
そして、このコンバインは、変速レバー19及び刈高操向レバー18を運転座席20に着座した運転者により手動で操作する手動操縦状態と、変速レバー19及び刈高操向レバー18を夫々後述するような各別に備えられた駆動操作機構により操作することで予め設定される設定経路に沿って走行するように自動制御される自動操縦状態とに切り換え可能に構成されている。
【0031】
説明を加えると、図2に示すように、刈高操向レバー18の機体後方側の近傍に位置させて、その刈高操向レバー18を機体横幅方向に操作する操向用の駆動操作機構26が備えられている。
図3〜図5に示すように、操向用の駆動操作機構26は、運転部4の座席前方側の操作パネル27Aに取付部としての連結具28Aを介してネジ止め固定されるフレーム部28に、操向用の電動モータ29(以下、操向用モータという)により回転駆動されるネジ軸30が機体横幅方向に沿う状態で回転自在に支持されており、このネジ軸30に螺合する雌ネジ部31を備えてネジ軸30の回転に伴ってネジ軸30の軸芯方向にスライド移動するスライド部材32が設けられている。
【0032】
スライド部材32にレバー保持部としての左右一対のレバー保持具33がボルト固定され、この左右一対のレバー保持具33は前記刈高操向レバー18に左右両側から接当作用する位置に備えられている。一対のレバー保持具33は、取り付け用の板体33Aとその板体33Aに溶接固定された補強用棒体33Bとで構成されている。
【0033】
又、図3に示すように、前記フレーム部28のネジ軸30の軸芯方向に沿って延びる箇所は断面略U字型に形成され、その断面略U字型の左右両側の上縁部に前記スライド部材32の被案内部32aが接当して、スライド部材32がネジ軸30の軸芯周りでの回動が阻止され且つ軸芯方向に沿って移動自在に案内される構成となっている。従って、枠体28の断面略U字型の左右両側の上縁部により、スライド部材32のネジ軸30の軸芯周りでの回動を阻止し且つ軸芯方向に沿ってスライド部材32を移動自在に案内する案内部Gが構成されている。
【0034】
従って、前記操向用モータ29を回転駆動することにより前記ネジ軸30が回動操作されるに伴って、雌ネジ部31が螺進してスライド部材32がネジ軸30の軸芯方向に沿ってスライド移動することにより、レバー保持具33にて刈高操向レバー18を機体横幅方向に揺動操作可能な構成となっている。
【0035】
前記操向用モータ29の出力軸34と前記ネジ軸30とは伝動チェーン35により連動連結されるが、モータ側スプロケット36がネジ軸側スプロケット37よりも大径に形成されており、操向用モータ29として減速機構を備えた汎用の安価な電動モータを用いるようにしながらネジ軸30を極力高速で回転させて迅速に操向操作を行えるようにしている。
【0036】
又、前記フレーム部28の機体横幅方向中間の機体後方側箇所から上方に向かって延びる状態で設けられた支持部38に、前後軸芯周りで回転自在な検出用回転軸39を有するポテンショメータ40が備えられ、このポテンショメータ40の検出用揺動アーム41の揺動端部と前記スライド部材32に前後軸芯周りで回動自在に支持された中継リンク42の他端部とがピンを介して枢支連結され、スライド部材32のスライド移動に伴ってポテンショメータ40の検出用揺動アーム41が揺動する構成となっており、このポテンショメータ40によりスライド部材32のスライド位置すなわち、刈高操向レバー18の左右揺動操作量を検出することができるように構成されている。
【0037】
図2及び図3に示すように、前記操向用モータ29は平面視で運転座席20の機体横幅方向の略中央位置に位置し、且つ、側面視でネジ軸30の上方側に位置する状態で配備されており、しかも、後方側ほど上方に向くように斜め姿勢となるように配備されており、運転座席20に運転者が着座する場合に運転中に足が操向用モータ29に接触したり、運転部4への乗り降りの際に邪魔にならないようにしている。
【0038】
次に、前記変速レバー19を操作するための変速用の駆動操作機構43について説明する。
この変速用の駆動操作機構43は、図2及び図6に示すように、運転部4における運転座席20の左側に位置するパネル部分に、その左側のパネル部分に備えられる各種の操作具に干渉しないように上方に位置させる状態で前後一対の縦フレーム44を介して取り付け固定されている。
【0039】
この変速用の駆動操作機構43は、主要部の構成は操向用の駆動操作機構26と同じであり、前記縦フレーム44に固定されたフレーム部45に電動モータ(以下、変速用モータという)46によって回転駆動されるネジ軸47が機体前後方向に沿う回転軸芯を備える状態で回転自在に支持されており、このネジ軸47に螺合する雌ネジ部48を備えてネジ軸47の回転に伴ってネジ軸47の軸芯方向にスライド移動するスライド部材49が設けられている。そして、このスライド部材49に前後方向に延びる操作ロッド50の後方側端部が連結用板体50Aを介して横軸芯周りで回動自在に枢支連結され、この操作ロッド50の前方側端部が変速レバー19に装着された連結具51に対して横軸芯周りで回動自在に枢支連結されている。
【0040】
従って、変速用モータ46を回転駆動することにより前記ネジ軸47が回動操作されるに伴って、雌ネジ部48が螺進してスライド部材49がネジ軸47の軸芯方向に沿ってスライド移動することにより、操作ロッド50及び連結具51にて変速レバー19を機体前後方向に揺動操作可能な構成となっている。
【0041】
前記変速用の駆動操作機構43には、前記操向用の駆動操作機構26と同様に、フレーム部45の前後方向中間の運転座席側箇所から上方に向かって延びる状態で設けられた支持部52に、機体横幅方向に沿う軸芯周りで回転自在な検出用回転軸53を有するポテンショメータ54が備えられ、このポテンショメータ54の検出用揺動アーム55の揺動端部と前記スライド部材49に横軸芯周りで回動自在に支持された中継リンク56の他端部とがピンを介して枢支連結され、スライド部材49のスライド移動に伴ってポテンショメータ54の検出用揺動アーム55が揺動する構成となっており、このポテンショメータ54によりスライド部材49のスライド位置すなわち、変速レバー19の揺動操作量を検出することができるように構成されている。
【0042】
そして、このコンバインでは、GPS衛星から送信される電波を受信して設定時間間隔で車体の位置情報を求めるGPS位置情報算出手段100と、車体の方位変位情報の一例としての縦軸芯周りでの車体の角速度変位を検出するジャイロ装置57とが備えられ、前記制御装置Hが、前記GPS位置情報算出手段100にて求められる車体の位置情報及びジャイロ装置57にて検出される車体の方位変位情報に基づいて車体が設定経路に沿って走行するように操向用モータ29及び変速用モータ46を制御するように構成されている。
【0043】
前記操向用の駆動操作機構26を装着して制御装置Hにより操向用モータ29を制御することでGPS位置情報算出手段100にて求められる車体の位置情報に基づいて車体が作業対象領域内の設定経路に沿って走行するように操向手段としての旋回状態切換機構17を自動的に操作する自動操向制御を実行することができ、操向用の駆動操作機構26全体を取り外すか又はレバー接当具33を取り外すことで、手動操作により刈高操向レバー18を操作可能な状態に切り換わることになる。
従って、制御装置Hと前記操向用の駆動操作機構26とを利用して、自動操向制御を実行する制御状態と前記自動操向制御を実行しない非制御状態とに切り換え自在な自動操向制御手段JSが構成され、前記操向用の駆動操作機構26が操向用の駆動操作機構26全体を取り外すか又はレバー接当具33を取り外すことで、手動操作により刈高操向レバー18を操作可能な状態に切り換えられている状態が非制御状態に対応する。
【0044】
次に、前記GPS位置情報算出手段100について説明する。
作業対象となる圃場の外部における地上側の適宜箇所に、その地点の重力方向に対して水平方向を東西及び南北方向で表した局地水平座標系E(東方向),N(北方向),H(地球中心からの高さ方向)において高精度に位置(上記座標系E,N,Hでの座標値)が判っている地上側の基準位置に設置されて、図10に示すように、少なくとも4個のGPS衛星58からのスペクトラム拡散変調された電波(搬送波信号)を受信するGPS基準局R(以後、単に基準局Rともいう)用のアンテナ59aと、このアンテナ59aの受信信号を処理して搬送波の位相情報を得るGPS受信機59と、そのGPS受信機59からの搬送波位相情報を車体側に向けて送信するための送信アンテナ60aを備えた地上側通信手段としての送受信機60とが設けられている。
【0045】
又、車体側には、前記GPS衛星58からの電波(搬送波信号)を受信するGPS移動局I(以後、単に移動局Iともいう)用のアンテナ61aと、上記アンテナ61aの受信信号を処理して搬送波の位相情報を得るGPS受信機61と、前記地上側の送受信機60からの送信情報を受信するためのアンテナ62aを備えた車体側通信手段としての送受信機62とが設けられている。
【0046】
前記基準局R及び移動局Iの各GPS受信機59、61は、図11に示すように、同様の構成になるものであって、夫々のアンテナ59a、61aで受信した電波信号は、先ず高周波信号処理部63、64に入力して低周波数に変換される。その低周波数変換された信号は、C/Aコード解析部65、66にて衛星番号等が解読されるとともに、搬送波位相計測部67、68において、上記衛星番号に応じて作成されるC/Aコードと相関をとって搬送波が再生され、さらに内蔵した時計69、70にて設定時間間隔で搬送波の位相が計測される。同時に、C/Aコード解析部65、66からの情報に基づいて、航路メッセージ解読部71、72にて衛星位置情報等が判別される。そして、上記各部からの情報は、夫々の制御用のコンピュータ73、74に入力されて各基準局R及び移動局Iにおける搬送波位相情報が求められる。
【0047】
さらに、基準局R側コンピュータ73から出力された基準局Rでの搬送波位相情報が、前記地上側の送受信機60を経て送信アンテナ60aから送信され、車体側のアンテナ61aで受信され、送受信機62を経て移動局I側コンピュータ74に入力され、その移動局I側コンピュータ74において、基準局R及び移動局Iでの両搬送波位相情報に基づいて二重位相差情報が求められる。そして、上記GPS受信機61を利用して、移動局Iでの搬送波位相情報及び前記送受信機62が受信した基準局Rでの搬送波位相情報から求めた二重位相差情報に基づいて、前記基準位置つまり基準局Rに対する移動局Iつまり作業車Vの位置を所定時間間隔の時系列のGPS位置データとして求めるGPS位置情報算出手段100が構成されている。そして、このGPS受信機61で得られたGPS位置データが制御装置Hに入力されている。
【0048】
ここで、二重位相差情報について概略を説明すると、異なる2つのGPS衛星58からの各搬送波信号を2つの受信局(基準局R及び移動局I)夫々で受信して、各GPS衛星58ごとに対応する2つの位相差を求め、さらにこれら2つの位相差の差分をとったものを二重位相差と呼ぶ。これによって各GPS衛星58での送信信号の位相乱れの影響が除去されるとともに、各受信局の位相計測用の時計の同期ずれの影響が除去され、最終的に、衛星側及び受信局側での誤差の影響を少なくした精度のよい位相差情報が得られる。尚、後述の位置ベクトルrを求めるために、実際は、異なる4つのGPS衛星58からの各搬送波信号に基づいて、独立した3つの二重位相差が求められることになる。
【0049】
前記GPS位置情報算出手段100による3つの二重位相差情報に基づく車体の位置検出について具体的に説明する。先ず最初に、コンバインの車体を前記局地水平座標系E,N,Hにおいて高精度に位置座標値が判っている地点に位置させ、移動局側及び基準局側の各GPS受信機59,61の受信情報から前記3つの二重位相差を計算し、基準局R及び車体間の相対位置が判っていることから上記二重位相差情報に含まれる搬送波波長の整数倍の不確定(整数値バイアス)を確定させる。次に、図9に示すように、車体を圃場内の任意の地点に移動させたときの3つの二重位相差情報より、基準局Rから車体への位置ベクトルrが求まり、基準局Rの基準位置と上記求めた位置ベクトルrとから、作業車Vの車体位置が判別される。前記GPS受信情報からの車体位置の検出は、所定時間間隔(100msec)毎に時系列のGPS位置データとして求められる。
【0050】
又、コンバインの車体には、上記したようなGPS衛星から送信される電波を受信して設定時間が経過する毎に車体の位置情報を求める構成とは別に、車体の方位変位情報の一例としての縦軸芯周りでの車体の角速度を検出するジャイロ装置57が備えられている。このジャイロ装置57は、縦軸芯周りでの角速度を検出することにより車体の方位変位量を検出することが可能な、いわゆる1軸型のジャイロセンサにて構成されている。
【0051】
前記制御装置Hは、車体が設定経路のうちの直線状経路部分に沿って走行するように自動操向制御を実行するときには、GPS位置情報算出手段100にて求められる車体の位置情報及びジャイロ装置57にて検出される車体の方位変位情報に基づいて制御を実行し、且つ、車体が設定経路Lのうちの曲線状経路部分に沿って走行するように自動操向制御を実行するときには、ジャイロ装置57にて検出される車体の方位変位情報のみに基づいて制御を実行するように構成されている.
【0052】
又、前記制御装置Hは、モード設定スイッチ76の切り換え操作に基づいて、自動操向制御を実行する自動走行モードと経路設定処理を実行する経路設定モードとに切り換え自在に構成されている。そして、前記非制御状態において前記経路設定モードに切り換えられると、車体が操向操作具としての刈高操向レバー18にて旋回状態切換機構17が操作され且つ作業対象領域の周縁部に沿って移動するときのGPS位置情報算出手段100にて求められる複数の車体の位置情報を記憶し且つ記憶された複数の車体の位置情報に基づいて作業対象領域を特定してその特定した作業対象領域に基づいて設定経路を自動設定する経路設定処理を実行するように構成されている。
【0053】
説明を加えると、前記操向用の駆動操作機構26が操向用の駆動操作機構26全体を取り外すか又はレバー接当具33を取り外すことで、手動操作により刈高操向レバー18を操作可能な状態に切り換えられ、モード設定スイッチ76を操作して制御装置Hを経路設定モードに設定している状態で、運転者が手動操作にて運転しながら作業対象領域の周縁部に沿って移動させ、適宜位置において位置指定スイッチ77を操作する経路作成用の運転操作を行う。位置指定スイッチ77が操作されると、制御装置Hはその地点でのGPS位置情報算出手段100にて求められるコンバインの車体の位置情報を読み込んで記憶する。そのような記憶処理を複数の位置にて行い、記憶される複数の車体の位置情報に基づいて刈取作業を行なう領域である作業対象領域を特定し、その作業対象領域内においてコンバインを自動で走行させながら刈取作業を行うための設定経路を演算処理によって自動設定するのである。つまり、コンバインの刈取り作業幅や作業行程切換用の旋回走行を行うときに他物と干渉しないように間隔をあけるための余裕領域等を考慮して、極力、効率よく刈取作業を行うための設定経路を自動的に設定することになる。
従って、前記位置指定スイッチ77が手動操作式の指令手段として機能し、制御装置Hは、その位置指定スイッチ77による操作指令に基づいて車体の位置情報を記憶するように構成されている。
【0054】
前記設定経路Lとしては、例えば、図9に示すように、作業開始点stから作業を開始し、未刈穀稈列の端縁に沿って刈取作業を行う1つの作業行程の終端部に至ると、車体を略直交する方向に向きを換えて車体を走行させて次回の刈取作業を行うように、いわゆる周り刈り形態で収穫作業を行い、このような走行を繰り返して、作業対象領域内の全ての植立穀稈を刈り取るように走行する形態で設定されることになる。
【0055】
このような作業形態では、刈取作業行程の終端部で旋回走行するときは、直進経路に沿って走行している状態から左側斜め方向に傾斜するように前進走行させて走行停止し、次に、前記直進経路と交差する次の直進経路の手前箇所に位置し且つ車体の前後方向が前記次の直進経路に沿う姿勢になるように後進走行させて走行停止し、その後、次の直進経路に沿って直進走行させる作業行程切換用の旋回走行を行うようになっている。従って、作業行程切換用の旋回走行では、操向用モータ29の操作による車体の進行方向の向き変更操作だけでなく、変速用モータ46の操作により前進状態から停止状態及び後進状態への切り換えも行われることになる。
【0056】
そして、モード設定スイッチ76を操作して自動走行モードに設定しておくと、上記したように設定した設定経路Lに沿って自動で走行させることができる。つまり、自動走行モードが指令されると、制御装置Hは、GPS位置情報算出手段100にて求められる現在のGPS位置データ及びジャイロ装置57により検出される車体の方位の変化情報に基づいて求められる現在時刻での車体の位置を前記地上側での位置座標(E,N,H座標系)を基準とする座標値として求めて、その座標値と前記走行経路Lに対する車体の位置を求め、車体が設定経路Lに沿って走行するように操向制御する。具体的には、操向用モータ29を操作して車体を操向操作するのであるが、このとき、上記したような作業行程切換用の旋回走行を行うときは変速用モータ46を操作して前進走行状態と後進走行状態との切り換えも行うことになる。又、制御装置Hは、このような車体の走行用の制御に加えて、刈取クラッチ16や脱穀クラッチ12の入切操作並びに刈取部3の昇降操作も自動で行うようになっている。
【0057】
さらに、制御装置Hは、車体を旋回走行させるときは、ジャイロ装置57にて検出される車体の方位変位情報に基づいて、車体の旋回角速度が許容旋回角速度としての許容値以下に抑制される状態で車体が設定経路Lに沿って旋回走行するように操向制御する。
【0058】
そして、制御装置Hは、GPS位置情報算出手段100にて求められる車体の位置情報及びジャイロ装置57にて検出される車体の方位変位情報がいずれも適正に検出されている適正検出状態であるか車体の位置情報及び車体の方位変位情報のうち少なくともいずれか一方が適正に得られていない不適正検出状態であるかを判別するように構成されている。又、前記適正検出状態であることが判別されているときと前記不適正検出状態であることが判別されているときとで表示内容を異ならせる形態で、且つ、車体外方から表示内容を目視可能な状態で判別結果を表示する判別状態表示手段78が備えられている。
【0059】
又、前記GPS位置情報算出手段100が、GPS衛星58から送信される電波を適正に受信している適正受信モード、電波を受信しているものの車体の位置情報が不安定である不安定受信モード及び電波を受信できていない受信不能モードのいずれかに切り換わり、前記判別状態表示手段78が、前記適正受信モード、前記不安定受信モード、及び、前記受信不能モードにて互いに異なる表示内容となるように構成されている。
【0060】
前記各モードについて説明を加えると、4個のGPS衛星58からの電波が全て良好に受信されているときは前記適正受信モードと判別する。この適正受信モードでは、計測誤差が±2cm程度であって高精度で位置を計測できる。
【0061】
又、4個のGPS衛星58のうち、いずれかのものの電波が適正に受信されていない状態、例えば、GPS衛星58からの電波を直接アンテナ61aにて受信する直接受信波と、GPS衛星58からの電波が地面にて一旦反射したのちにアンテナ61aにて受信する間接受信波とがあるような場合には車体の位置情報として2つの検出値が同時に求められる等、動作が不安定になるおそれがある。このような場合には前記検出状態判別手段103が前記不安定受信モードと判別する。この不安定受信モードでは計測誤差が±1m程度と大きなものとなり、計測精度が悪くなる。
【0062】
GPS衛星58からの電波が受信できていない場合には前記受信不能モードと判別する。このような状態になるのは、例えば、他の建物等の外物によってGPS衛星58からの電波が遮られるような場合がある。このときは車体の位置の計測はできないことになる。
【0063】
前記判別状態表示手段78は、図1に示すように、車体の運転部を覆うキャビンの上部に立設する状態で備えられ、圃場の外部の畦等から目視することが可能なように見やすい2つの表示ランプ79、80にて構成されている。このGPS用の表示ランプ79は、GPS位置情報算出手段100が前記適正受信モードに切り換わると緑色の表示ランプ79aが点灯し、不安定受信モードに切り換わると黄色の表示ランプ79bが点灯し、前記受信不能モードに切り換わると赤色の表示ランプ79cが点灯するようになっており、異なる表示内容としての表示色が切り換わるように構成されている。又、ジャイロ用の表示ランプ80はジャイロ装置57の検出状態が異常であれば青色に点灯する青色表示ランプにて構成され、検出状態が正常であれば消灯するように構成されている。
【0064】
図9に示すように、作業対象となる圃場の外周部には、コンバインが自動走行しているときに、圃場の外部に脱出して車体が暴走することが無いように、車体が圃場から外方に向けて脱出しようとすることを検出する光式の車体検出装置81が設けられ、この光式の車体検出装置81は、車体が圃場から後記するレーザー光により作成される境界線より外方に向けて移動しようとすることを検出すると、車体に備えられた非常用受信機82に無線送信によって非常停止信号を送信して、車体を停止させるように構成されている。
【0065】
前記光式の車体検出装置81は、圃場の外周縁に沿ってレーザー光を発光する発光装置81Aが対角に位置する2箇所の角部に夫々設けられ、他の2箇所の角部にレーザー光を受光する受光装置81Bが備えられ、受光装置81Bはレーザー光が受信されなくなると、その受光装置81Bに備えられた無線送信機81Cにより非常用受信機82に無線送信によって非常停止信号を送信する構成となっている。
【0066】
図19に示すように、前記発光装置81Aは、レーザー光を発光させる発光部とその発光部を駆動するためのバッテリーとを内蔵してユニット状に組付けられて持ち運び可能で且つ圃場の畦等に容易に設置可能なように三脚式の設置部W1が備えられる構成となっている。又、レーザー光を投射する投光部81Dはレーザー光投射方向を変更調整可能に設けられている。前記受光装置81Bも同様に、レーザー光を受光するための処理装置や無線送信機81C等を駆動するためのバッテリーを内蔵してユニット状に組付けられて持ち運び可能で且つ圃場の畦等に容易に設置可能なように三脚式の設置部W1が備えられる構成となっている。又、レーザー光を受光する受光部81Eは受光方向を変更調整可能に設けられている。
【0067】
尚、発光装置や受光装置は、三脚式の設置部W1に代えて、図20に示すように、土中に打ち込み挿入可能な挿入式支持部W2を備えるものでもよい。
【0068】
次に、図12、図13、図15〜図17に示すフローチャートに基づいて制御装置Hの制御動作について説明する。尚、畦から作業開始地点stまでは手動操縦により又は他の運搬車両により車体を移動させる。そして、この制御は、圃場の外部にいる管理者が図示しない無線通信装置にて開始を指令することで処理を開始する構成となっている。又、この処理は単位時間(例えば、20msec)毎に繰り返し実行することになる。
【0069】
図12に示すように、モード設定スイッチ76が操作されて経路設定モードが設定されていると経路設定処理を実行する(ステップ1、2)。この経路設定処理を実行するときは、運転者が手動操縦によって運転して走行しながら位置指定スイッチ77を操作することになる。
【0070】
図13を参照しながら前記経路設定処理について説明する。
制御装置Hは、位置指定スイッチ77が操作されると、その地点での前記GPS位置情報算出手段100にて求められるコンバインの車体の位置情報を読み込み記憶する(ステップ21、22)。このような位置情報を読み込む処理を、位置指定スイッチ77が数秒間以上連続して操作されることにより外周部の走行が終了したことが指令されるまで繰り返し実行し(ステップ23)、記憶されている複数の位置情報により外周部経路すなわち、刈取作業を行なうための作業対象領域Saを設定する(ステップ24)。
【0071】
このとき、運転者は圃場の外周縁に沿って手動操縦によって運転して走行しながら、適宜箇所において運転者が位置指定スイッチ77を操作することになる。従って、図14(イ)に示すように、傾斜状態の圃場への進入路やその他の障害物Sgがある場合には、それらを避けるように車体の位置を変化させて適宜箇所にて位置情報を読み込み、そのような障害物Sgが存在する箇所を作業対象領域Saから除外する状態で外周部経路が設定されることになる。又、図14(ロ)に示すような作業対象領域Saが4辺が夫々略直線となる外形であるときは、丸点で示すように4つの角部の位置情報を読み込むだけの処理で対応でき、さらに、図14(ハ)に示すような4つの角部が全て角度が約90度となる長方形であれば、丸点で示すように対角の2つの角部の位置情報を読み込むだけの処理で対応できる。
【0072】
次に、設定された作業対象領域Saから、その作業対象領域Sa内でコンバインが自動操縦によって刈取作業を行なうための作業用の設定経路を自動設定する(ステップ25)。つまり、コンバインの刈取り作業幅や作業行程切換用の旋回走行を行うときに畦や植立茎稈等の他物と干渉しないように間隔をあけるための余裕領域等を考慮して、極力効率よく刈取作業が行えるような作業用の走行経路すなわち設定経路Lを自動的に設定することになる。
【0073】
そして、制御モードが自動走行モードであれば、先ず作業開始処理を実行する(ステップ3)。すなわち、脱穀クラッチ12及び刈取クラッチ16を入り操作し、変速レバー19を刈取用の設定速度まで変速して刈取部3を下降させ直進走行を開始する。このような直進走行を開始したのちは、直進用走行制御を実行することになる(ステップ4)。
【0074】
次に、図15及び図16を参照しながら直進用走行制御について説明する。
前記GPS位置情報算出手段100による算出されるGPS位置データを設定時間(100msec)が経過する毎に読み込み(ステップ41、42)、前記GPS位置データにより車体の位置を算出する(ステップ43)。又、当該処理を実行する単位時間(20msec)毎にジャイロ装置57の検出情報を読み込み、その検出情報に基づいて前回の検出方位からの車体の方位変位量を算出する(ステップ44、45)。
【0075】
そして、前記ジャイロ装置57の検出情報が異常であるか否かを判別する(ステップ46)。すなわち、直進走行するように操向制御されているとき、具体的には、前記ポテンショメータ40にて検出される刈高操向レバー18の位置が中立位置にあるときに、ジャイロ装置57にて検出される車体の方位変位量が設定許容量未満である場合には、車体の方位変位情報がいずれも適正に検出されている適正検出状態であると判別し、ジャイロ装置57にて検出される車体の方位変位量が設定許容量を超えている場合には、車体の方位変位情報が適正に得られていない不適正検出状態であると判別する。
【0076】
前記ジャイロ装置57が適正な検出状態であるときは、そのときGPS位置情報算出手段100が前記適正受信モードであれば適正検出状態であると判別してGPS用表示ランプ79の緑色表示ランプ79aを点灯させる(ステップ47、48)。GPS位置情報算出手段100が前記不安定受信モードであれば不適正検出状態であると判別してGPS用表示ランプ79の黄色表示ランプ79bを点灯させる(ステップ49)。GPS位置情報算出手段100が前記受信不能モードであれば不適正検出状態であると判別してGPS用表示ランプ79の赤色表示ランプ79cを点灯させる(ステップ50)。又、前記不適正検出状態が設定時間(0.5秒間)以上継続しているときは、それ以上の走行は危険であるから車体を非常停止させ、赤色表示ランプ79cを点滅表示する(ステップ52、54)。
【0077】
GPS位置情報算出手段100が前記適正受信モードであれば、設定時間毎に前記GPS位置データにより算出される車体の位置情報とジャイロ装置57の検出情報とに基づいて車体の現在位置を求める(ステップ51)。
【0078】
この位置の求め方について説明を加えると、図18に示すように、前記GPS位置データにより車体の位置を算出する処理は設定時間(100msec)毎に行われ、ジャイロ装置57による方位変位量を算出する処理は単位時間(20msec)毎に行われるが、前記GPS位置データにより求められた車体の位置GP1,GP2‥を基にしてその位置から方位変位量データJD並びにそのときの車速の情報から求められる位置変位量を加味して単位時間毎に現在位置を求めるのである。
説明を加えると、上述したように、前記方位変位量データJDは単位時間(20msec)毎に得られるが、基となる車体の位置GP1,GP2‥は、現在時刻よりも100msec前に計測された位置である。そこで、この位置情報が得られる100msec経過毎に、基となる位置情報(100msec前のデータ)を今回得られた位置データにて補正することで、正確な位置情報を得ることができるようになっている。
尚、車速の情報は、前記変速用の駆動操作機構43におけるポテンショメータ54による変速レバーの操作位置の情報により求めることができる。
【0079】
そして、上記したようにして求められる車体の現在位置が設定経路L上に位置するように、操向用モータ29を制御する(ステップ55)。例えば、車体の現在位置が設定経路Lから設定量を越えて大きく離間しているときは、前記前記ブレーキ旋回状態に対応する操作位置を目標位置として刈高操向レバー18を操作するように操向用モータ29を制御し、車体の現在位置が設定経路Lからの離間距離が設定量未満であるときは、前記緩旋回状態に対応する操作位置を目標位置として刈高操向レバー18を操作するように操向用モータ29を制御する。
【0080】
そして、GPS位置情報算出手段100が前記適正受信モードである状態から前記設定時間よりも短い短時間だけ前記不安定受信モードや前記受信不能モードになっている場合には、そのような前記不安定受信モードや前記受信不能モードになっている間だけ、前記GPS位置データを採用せずに、前記ジャイロ装置57の検出情報により算出される車体の現在方位を最終的な車体の現在方位として、その情報に基づいて車体が設定経路に沿って走行するように操向用モータ29を制御する(ステップ53、55)。
【0081】
又、ステップ46にて前記ジャイロ装置57が不適正な検出状態であることが判別すると、ジャイロ用表示ランプとしての青色ランプ80を点灯させて異常を表示する(ステップ56)。そして、GPS位置情報算出手段100が前記適正受信モードであれば緑色表示ランプ79aを点灯させ(ステップ57、58)、ジャイロ装置のデータを用いないでGPS位置情報のみに基づいて車速の位置を求めて、車体の位置が設定経路Lに沿って走行するように操向用モータ29を制御する(ステップ61、55)。
【0082】
又、GPS位置情報算出手段100が前記不安定受信モードであれば黄色表示ランプ79bを点灯させ(ステップ59)、GPS位置情報算出手段100が前記受信不能モードであれば赤色表示ランプ79cを点灯させる(ステップ60)。前記不適正検出状態が設定時間(0.5秒間)以上継続しているときは、それ以上の走行は危険であるから車体を非常停止させ、赤色表示ランプ79cを点滅表示する(ステップ62、54)。前記不適正検出状態が設定時間(0.5秒間)より短い間はそのときの状態を維持する(ステップ62)。コンバインではこのような短時間の間に大きく向き変更することは少ないと考えられるから、短時間の間はそのままの操向状態で走行を継続するのである。
【0083】
刈取作業の対象となる直進走行経路の終点に到達すると、刈取作業を終了し、次の刈取作業対象となる直進走行経路に向けて車体を約90度旋回させる旋回箇所に至ったことを判別すると、旋回用走行制御を実行する(ステップ5〜8)。
【0084】
次に、図17を参照しながら旋回用走行制御について説明する。
この旋回用走行制御においては、GPS位置データは用いないで、ジャイロ装置57の検出情報を読み込み、その検出情報から前回の検出方位からの車体の方位変位量を算出して車体の現在方位を算出する(ステップ81、82)。そして、その車体の現在方位の情報に基づいて、前回の直進走行経路に対して約90度向き変更した次回の直進走行経路に向かうように上述したような作業行程切換用の旋回走行を行う(ステップ83)。この旋回走行の際に、前記ジャイロ装置57の検出情報から車体の旋回角速度が予め設定された許容値を超えているときは、操向用モータ29の操作量を設定量ずつ小側に補正することにより、車体の旋回角速度が予め設定された許容値を超えない状態で旋回走行を行うようにしている(ステップ84、85)。
旋回走行が終了した後は、次の直進走行経路に沿って刈取作業を実行するのであり、以降、このような処理を繰り返して設定経路に沿って車体を走行させながら圃場内の刈取作業が全て終了するまで実行することになる。
【0085】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
【0086】
(1)上記実施形態では、前記制御装置が、手動操作式の指令手段としての位置指定スイッチによる操作指令に基づいて前記記憶処理を実行する構成としたが、このような構成に代えて、例えば、手動指令スイッチにより開始を指令してから手動指令スイッチを再度操作して終了を指令するまで、予め設定された設定時間毎に前記記憶処理を実行するように構成するものでもよい。この場合、前記記憶処理を指令する構成以外の構成は上記実施形態と同じである。
【0087】
(2)上記実施形態では、前記車体の方位変位情報を検出するジャイロ装置が備えられる構成を例示したが、ジャイロ装置に代えて地磁気センサ等の他の形式の方位検出手段を用いるようにしてもよく、又、このような方位検出手段を備えずに、GPS位置情報算出手段の検出情報のみに基づいて自動操向制御を実行する構成としてもよい。
【0088】
(3)上記実施形態では、手動操作式の操向操作具にて操向手段を操作する手動操作用の操作手段として、機械的に連係される構成を示したが、このような構成に代えて、手動操作式の操向操作具の操作量をポテンショメータにて検出し、そのポテンショメータの検出情報に基づいて制御装置により作動が制御されるアクチュエータにより操向手段を操作する構成としてもよい。
【0089】
又、自動操向制御手段として、制御装置とは別に、操向用の駆動操作機構が着脱自在に設けられて、この操向用の駆動操作機構により操向操作具を駆動操作して操向手段を操作する構成としたが、このような構成に代えて、例えば、操作手段に備えられる油圧クラッチや他のアクチュエータを制御装置により直接制御する構成としてもよい。
【0090】
(4)上記実施形態では、左右一対のクローラ式走行装置を備える作業車であって、旋回走行するときに、左右走行装置の速度差にて旋回を行い、作業行程切換用の旋回走行を行うときは前進走行と後進走行とを繰り返す構成としたが、このような構成に代えて、車輪式の作業車であって車輪の向きを変化させて操向するような構成の作業車であってもよい。そして、このような作業車の場合には、制御装置は車輪の向きを変化させて旋回する構成とし、上記実施形態における作業行程切換用の旋回走行を実行しない構成、すなわち、操向用のアクチュエータのみ操作し、変速用のアクチュエータは操作しない構成としてもよい。
【0091】
(5)上記実施形態では、作業車がコンバインである場合について説明したが、本発明は、例えば田植え用作業車、農用トラクター等、各種作業車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】コンバインの側面図
【図2】運転部の平面図
【図3】操向用の駆動操作機構の構成を示す側面図
【図4】操向用の駆動操作機構の構成を示す切欠正面図
【図5】操向用の駆動操作機構の構成を示す切欠平面図
【図6】変速用の駆動操作機構の構成を示す側面図
【図7】制御ブロック図
【図8】伝動状態を示す図
【図9】作業車と予定走行経路を示す概略平面図
【図10】作業車及び基準局を示す概略側面図
【図11】GPS受信系の構成を示すブロック図
【図12】制御作動のフローチャート
【図13】制御作動のフローチャート
【図14】作業対象領域を示す図
【図15】制御作動のフローチャート
【図16】制御作動のフローチャート
【図17】制御作動のフローチャート
【図18】検出情報の時間経過に伴う変位を示す図
【図19】車体検出装置を示す図
【図20】車体検出装置を示す図
【符号の説明】
【0093】
17 操向手段
18 操向操作具
57 ジャイロ装置
77 指令手段
100 GPS位置情報算出手段
JS 自動操向制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS衛星から送信される電波を受信して車体の位置情報を求めるGPS位置情報算出手段と、
前記GPS位置情報算出手段にて求められる前記車体の位置情報に基づいて前記車体が作業対象領域内の設定経路に沿って走行するように操向手段を自動的に操作する自動操向制御を実行する制御状態と前記自動操向制御を実行しない非制御状態とに切り換え自在な自動操向制御手段と、
手動操作式の操向操作具にて前記操向手段を操作する手動操作用の操作手段とが備えられている作業車の走行制御装置であって、
前記自動操向制御手段が、
経路設定処理を実行する経路設定モードに切り換え自在に構成され、且つ、
前記非制御状態において前記経路設定モードに切り換えられると、前記車体が前記操向操作具にて前記操向手段が操作され且つ前記作業対象領域の周縁部に沿って移動するときの前記GPS位置情報算出手段にて求められる複数の車体の位置情報を記憶し且つ記憶された複数の前記車体の位置情報に基づいて前記作業対象領域を特定してその特定した前記作業対象領域に基づいて前記設定経路を自動設定する経路設定処理を実行するように構成されている作業車の走行制御装置。
【請求項2】
前記自動操向制御手段が、前記経路設定処理において、手動操作式の指令手段による操作指令に基づいて前記車体の位置情報を記憶するように構成されている請求項1記載の作業車の走行制御装置。
【請求項3】
前記自動操向制御手段が、前記経路設定処理において、予め設定された設定時間毎に前記車体の位置情報を記憶するように構成されている請求項1記載の作業車の走行制御装置。
【請求項4】
前記車体の方位変位情報を検出するジャイロ装置が備えられ、
前記自動操向制御手段が、前記車体が前記設定経路のうちの直線状経路部分に沿って走行するように自動操向制御を実行するときには、前記GPS位置情報算出手段にて求められる車体の位置情報及び前記ジャイロ装置にて検出される前記車体の方位変位情報に基づいて制御を実行し、且つ、前記車体が前記設定経路のうちの曲線状経路部分に沿って走行するように自動操向制御を実行するときには、前記ジャイロ装置にて検出される前記車体の方位変位情報のみに基づいて制御を実行するように構成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車の走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−245003(P2009−245003A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88356(P2008−88356)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】