作業車の速度維持解除構造
【課題】泥土などの付着に起因した解除機構の作動不良が生じる虞を未然に回避する。
【解決手段】車体を定速前進状態に維持する速度維持装置13と、左右一対のブレーキペダル17,18を同時に踏み込み操作した場合に速度維持装置13による車体の定速前進状態での維持を解除する機械式の解除機構26とを備えた作業車の速度維持解除構造において、左右のブレーキペダル17,18を、搭乗運転部4の搭乗面4Bよりも上方に配備した左右向きの支軸21を支点にして前後揺動する吊り下げ式に構成し、解除機構26を支軸21の近くに配備して左右のブレーキペダル17,18に連係し、かつ、機械式連係機構48を介して速度維持装置13に連係し、機械式連係機構48を、支軸21とこの支軸21の直前に立設した搭乗運転部4の前壁4Aとの間から前壁4Aに沿って上下向きに通した後、搭乗面4Bの下方を通して速度維持装置13に連係してある。
【解決手段】車体を定速前進状態に維持する速度維持装置13と、左右一対のブレーキペダル17,18を同時に踏み込み操作した場合に速度維持装置13による車体の定速前進状態での維持を解除する機械式の解除機構26とを備えた作業車の速度維持解除構造において、左右のブレーキペダル17,18を、搭乗運転部4の搭乗面4Bよりも上方に配備した左右向きの支軸21を支点にして前後揺動する吊り下げ式に構成し、解除機構26を支軸21の近くに配備して左右のブレーキペダル17,18に連係し、かつ、機械式連係機構48を介して速度維持装置13に連係し、機械式連係機構48を、支軸21とこの支軸21の直前に立設した搭乗運転部4の前壁4Aとの間から前壁4Aに沿って上下向きに通した後、搭乗面4Bの下方を通して速度維持装置13に連係してある。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置を中立復帰機構の作用に抗して所望の変速状態に維持することで車体を定速前進状態に維持する速度維持装置と、搭乗運転部の足元部位に配備した左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込み操作した場合に前記速度維持装置による車体の定速前進状態での維持を解除する機械式の解除機構とを備えた作業車の速度維持解除構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車の一例であるトラクタでは、左右のブレーキペダルを、搭乗運転部の床下に配備した左右向きの支軸を支点にして前後揺動する状態に構成し、その支軸の近くに解除機構を外部に露出した状態で配備するように構成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−88628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成では、解除機構を搭乗運転部の床下に外部に露出した状態で配備することから、前輪が跳ね上げる泥土などが解除機構に付着し易くなっており、泥土などの付着に起因した解除機構の作動不良を招く虞があった。
【0005】
本発明の目的は、泥土などの付着に起因した解除機構の作動不良が生じる虞を未然に回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、無段変速装置を中立復帰機構の作用に抗して所望の変速状態に維持することで車体を定速前進状態に維持する速度維持装置と、搭乗運転部の足元部位に配備した左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込み操作した場合に前記速度維持装置による車体の定速前進状態での維持を解除する機械式の解除機構とを備えた作業車の速度維持解除構造において、
前記左右のブレーキペダルを、前記搭乗運転部の搭乗面よりも上方に配備した左右向きの支軸を支点にして前後揺動する吊り下げ式に構成し、
前記解除機構を前記支軸の近くに配備して前記左右のブレーキペダルに連係し、かつ、機械式連係機構を介して前記速度維持装置に連係し、
前記機械式連係機構を、前記支軸とこの支軸の直前に立設した前記搭乗運転部の前壁との間から前記前壁に沿って上下向きに通した後、前記搭乗面の下方を通して前記速度維持装置に連係してある。
【0007】
第1の発明によると、搭乗運転部の搭乗面よりも上方に解除機構を配備することから、前輪が跳ね上げる泥土などが解除機構に付着する虞を未然に回避することができる。
【0008】
又、解除機構を搭乗運転部の搭乗面よりも上方に配備しながらも、解除機構から速度維持装置にわたる機械式連係機構を上記のように通すことで、搭乗運転部において機械式連係機構が邪魔になる虞や機械式連係機構によって搭乗運転部の足元空間が狭くなることを防止することができる。
【0009】
従って、搭乗運転部において機械式連係機構が邪魔になる虞や機械式連係機構によって搭乗運転部の足元空間が狭くなることを防止しながら、泥土などの付着に起因した解除機構の作動不良が生じる虞を未然に回避することができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記機械式連係機構を、前記搭乗運転部の床下の車体外部を通して前記速度維持装置に連係してある。
【0011】
第2の発明によると、例えば、搭乗運転部の床板と床板の上面に敷設するフロアマットとの間に機械式連係機構を通す場合などに比較して、搭乗運転部において機械式連係機構が邪魔になる虞や機械式連係機構によって搭乗運転部の足元空間が狭くなることをより確実に防止することができる。
【0012】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、
前記機械式連係機構をレリーズワイヤで構成してある。
【0013】
第3の発明によると、例えば、機械式連係機構を押し引きロッドやクランクアームなどで構成する場合に比較して、機械式連係機構の組み付け性や配索の自由度を高めることができ、解除機構と速度維持装置との連係を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】トラクタの右側面図である。
【図2】搭乗運転部の平面図である。
【図3】解除機構と速度維持装置との連係を示す要部の縦断右側面図である。
【図4】解除機構の構成を示す要部の斜視図である。
【図5】解除機構の構成を示す要部の縦断右側面図である。
【図6】解除機構の構成を示す要部の縦断背面図である。
【図7】解除機構の構成を示す要部の分解斜視図である。
【図8】解除機構の動作を示す要部の縦断右側面図である。
【図9】速度維持装置と変速ペダル及び無段変速装置との連係を示す要部の縦断右側面図である。
【図10】速度維持装置の構成などを示す要部の縦断正面図である。
【図11】定速設定レバーの別の構成を示す要部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る作業車の速度維持解除構造を、作業車の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示すように、この実施形態で例示するトラクタは、その前部に配備した前部フレーム1にエンジン2などを搭載し、その後部に配備したフレーム兼用のトランスミッションケース(以下、T/Mケースと称する)3の上方に搭乗運転部4を形成し、前部フレーム1の左右に、駆動可能な操向輪としての左右一対の前輪5を備え、T/Mケース4の後部の左右に、駆動輪としての左右一対の後輪6を備えて4輪駆動型に構成してある。
【0017】
図1〜3に示すように、搭乗運転部4には、左右の前輪5に操作連係したステアリングホイール7や運転座席8などを備え、搭乗運転空間を形成するキャビン9を装備してある。
【0018】
図1及び図9に示すように、エンジン2からの動力は、主変速装置として備えた無段変速装置の一例である静油圧式無段変速装置(以下、HSTと称する)10、及び、T/Mケース3の内部に副変速装置として備えたギア式変速装置(図示せず)、などを介して、左右の前輪5及び左右の後輪6に伝達する。HST10は、その可変容量ポンプ(図示せず)の斜板角を変更する変速操作軸10Aが車体右外方に向けて突出する状態で備えてある。変速操作軸10Aには、変速操作軸10Aを中立位置に復帰付勢する中立復帰機構11のカム部材を兼ねる操作アーム12を固定してある。
【0019】
図1〜3及び図9に示すように、搭乗運転部4の右足元部位には変速ペダル14を配備してある。変速ペダル14は、T/Mケース3を左右向きに貫通する変速用の回転軸15の右端部に、回転軸15よりも車体前側に位置する前側操作部14A、回転軸15よりも車体後側に位置する後側操作部14B、及び、回転軸15よりも下側に位置する連係アーム部14C、を有する状態で固定してある。そして、その前側操作部14Aの踏み込み操作に連動して前側操作部14Aの踏み込み操作量に応じた操作量で変速操作軸10Aが前進増速方向に回動し、又、その後進変速部14Bの踏み込み操作に連動して後進変速部14Bの踏み込み操作量に応じた操作量で変速操作軸10Aが後進増速方向に回動し、更に、それらの踏み込み操作の解除に伴って変速操作軸10Aが中立復帰機構11の作用で減速方向に回動して中立位置に復帰するように、その連係アーム部14Cを押し引きリンク16と操作アーム12とを介して変速操作軸10Aに操作連係してある。
【0020】
つまり、変速ペダル14の前側操作部14Aを踏み込み操作することで、そのときの踏み込み操作量に応じた速度で車体を前進させることができる。逆に、変速ペダル14の後側操作部14Bを踏み込み操作することで、そのときの踏み込み操作量に応じた速度で車体を後進させることができる。そして、それらの踏み込み操作を解除することで車体を減速停止させることができる。
【0021】
図1〜7に示すように、搭乗運転部4の右足元部位には左右一対のブレーキペダル17,18を左右に並べて配備してある。左右のブレーキペダル17,18は、ステアリングホイール7の下方に備えた操縦パネル19と、この操縦パネル19で覆われる隔壁20との間で、キャビン9の床板9Aよりも上方の位置に、後傾斜姿勢のステアリングポスト7Aと隔壁20との間を通る状態で左右向きに配備した制動用の回転軸(支軸)21を支点にして前後揺動する吊り下げ式に構成してある。回転軸21は、隔壁20に左右一対のブラケット22を介して固定した筒状の支持部材23で支持してある。
【0022】
左側のブレーキペダル17は、その上部に固定したボス部17Aを制動用の回転軸21に外嵌固定してある。そして、その回転軸21の左端部に固定したアーム部21Aを、機械連係式の制動用連係機構24を介して、左側の後輪6を制動する左側のサイドブレーキ25の操作軸25Aに固定したアーム部25Bに連動連結してある。
【0023】
右側のブレーキペダル18は、その上部に固定したボス部18Aを制動用の回転軸21に相対回転可能に外嵌してある。そして、そのボス部18Aに固定した第1アーム部18Bを、制動用連係機構24を介して、右側の後輪6を制動する右側のサイドブレーキ25の操作軸25Aに固定したアーム部25Bに連動連結してある。
【0024】
各制動用連係機構24は、左側のブレーキペダル17のアーム部21A又は右側のブレーキペダル18の第1アーム部18Bにピン連結した上下向きの第1押し引きロッド24A、第1押し引きロッド24Aの上下方向での押し引き運動を前後向きの押し引き運動に変換するクランクアーム24B、及び、クランクアーム24Bから対応するサイドブレーキ25のアーム部25Bにわたる長さ調節可能なターンバックル式の第2押し引きロッド24C、などを備えて構成してある。
【0025】
左右のブレーキペダル18は、それらのボス部17A,18Aにそれぞれ外嵌した捻りバネ27の作用で踏み込み解除位置に向けて復帰揺動する。そして、その復帰揺動で、支持部材23の右端部に支持板28を介して固定した左右向きの受止ピン29に各ブレーキペダル17,18の基端部後方箇所(上端部後方箇所)が接当することで踏み込み解除位置に復帰するように構成してある。
【0026】
つまり、旋回時に捻りバネ27の作用に抗して旋回内側のブレーキペダル17,18を踏み込み操作することで、ステアリング操作のみによる通常旋回状態から旋回内側の後輪6を制動して車体の旋回半径を小さくする制動旋回状態に切り換えることができる。又、走行中に捻りバネ27の作用に抗して左右のブレーキペダル17,18を同時に踏み込み操作することで、左右の後輪6を同時に制動することができて車体を制動減速又は制動停止させることができる。そして、左右のブレーキペダル17,18の踏み込み操作を解除することで左右の後輪6に対する制動を解除することができる。
【0027】
尚、隔壁20は、エンジン2などを搭載する前部フレーム1の上方に形成したエンジンルームとキャビン9で形成した搭乗運転空間とを仕切るためにエンジンルームと搭乗運転空間との間に立設した搭乗運転部4の前壁4Aであり、キャビン9のフロントパネルの一部を形成するものである。
【0028】
左右のブレーキペダル17,18は、右側のブレーキペダル18の遊端側(下部側)に備えた「L」字状の連結ピン30の左右方向への摺動操作で、左右のブレーキペダル17,18の単独操作が阻止された連結状態と、左右のブレーキペダル17,18の単独操作が許容された連結解除状態とに切り換え可能に構成してある。連結ピン30には、右側のブレーキペダル18に固定した案内板18Cに形成した「U」字状の案内溝18Caに係合案内される係合ピン30Aを固定してある。そして、連結ピン30で左右のブレーキペダル17,18を連結した後、この連結で案内溝18Caの左前端部まで移動した係合ピン30Aを案内溝18Caの左後端部まで移動させることで、左右のブレーキペダル17,18を連結状態に維持することができ、又、連結ピン30による左右のブレーキペダル17,18の連結を解除した後、この連結解除で案内溝18Caの右前端部まで移動した係合ピン30Aを案内溝18Caの右後端部まで移動させることで、左右のブレーキペダル17,18を連結解除状態に維持することができる。
【0029】
つまり、旋回内側の後輪6を制動してまで旋回半径を小さくする必要のない路上などでの移動走行時には、左右のブレーキペダル17,18を連結状態に維持しておくことで、車体を制動減速又は制動停止させる際に、左右のブレーキペダル17,18を踏み損なうことに起因した片ブレーキ状態の発生を防止することができる。又、旋回内側の後輪6を制動してまで旋回半径を小さくする必要のある作業走行時には、左右のブレーキペダル17,18を連結解除状態に維持しておくことで、旋回内側のブレーキペダル17,18を単独で踏み込み操作することができ、旋回内側の後輪6を制動した小回り旋回が可能になる。
【0030】
図1及び図3〜7に示すように、左側のブレーキペダル17の基端側(上部側)には、複数の係合凹部17Baを前後向きの鋸刃状に整列形成した係合部材17Bを固定してある。受止ピン29には、各係合凹部17Baに係合可能な係合爪31Aを備えた駐車レバー31のボス部31Bを相対回転可能に外嵌してある。駐車レバー31は、そのボス部31Bに外嵌した捻りバネ32の作用で右側面視左回りに揺動し、この揺動で下方の制動解除位置に到達した状態では、その係止爪31Aが係合部材17Bの揺動領域から外れた退避位置に位置して各係合凹部17Baとの係合を回避する。又、捻りバネ32の作用に抗して制動解除位置から上方に揺動操作すると、その係止爪31Aが係合部材17Bの揺動領域に入り込んで所定の係止位置での各係合凹部17Baとの係合が可能になる。そして、その係止爪31Aを係合部材17Bのいずれかの係合凹部17Baに係合させると、その係合状態を捻りバネ32の作用で維持することができる。又、この係合状態では左側のブレーキペダル17の踏み込み操作が可能になっており、その踏み込み操作を行うと、係止爪31Aが係合部材17Bの揺動領域から外れるとともに捻りバネ32の作用で駐車レバー31が制動解除位置に復帰する。
【0031】
つまり、例えば、連結状態に切り換えた左右のブレーキペダル17,18を踏み込み操作して車体を制動停止させた後、駐車レバー31を制動解除位置から上方に揺動操作して、係止爪31Aを係合部材17Bのいずれかの係合凹部17Baに係合させることで、左右のブレーキペダル17,18を制動位置に保持することができ、車体を制動停止状態に維持することができる。又、この制動停止状態で、左右のブレーキペダル17,18の踏み込み操作を行うと、係止爪31Aと係合凹部17Baとが係合を解除して駐車レバー31が制動解除位置に復帰し、この状態で左右のブレーキペダル17を踏み込み操作を解除すると、左右のブレーキペダル17が踏み込み解除位置に復帰することから、車体の制動停止を解除することができる。
【0032】
図1〜3、図9及び図10に示すように、このトラクタには、所望の前進速度での車速の維持を可能にする速度維持装置13を装備してある。速度維持装置13は、搭乗運転部4における運転座席8の左側方箇所に配備した定速設定レバー33などから構成してある。定速設定レバー33は、左右向きの支軸34に相対回転可能に外嵌するボス部33Aaを下部に備えた下部レバー33Aの上端部に、把持部33Baを上部に備えた上部レバー33Bの下端部を、前後向きの連結軸33Cを介して左右揺動可能に連結して構成してある。又、下部レバー33Aのアーム部33Abに、一端部を車体の固定部に係止した引っ張りバネ35の他端部を係止することで後方に揺動付勢してある。
【0033】
上部レバー33Bの下部には、その左方に配備した係合部材36の右側縁に前後向きの鋸刃状に整列形成した複数の係合凹部36Aに係合する係合片33Bbを固定装備してある。連結軸33Cには、上部レバー33Bを左方に揺動付勢することで係合片33Bbの係合凹部36Aとの係合保持を可能にする捻りバネ33Dを外嵌してある。係合部材36は、定速設定レバー33の前進変速領域に対応する箇所に複数の係合凹部36Aを形成してあり、定速設定レバー33の中立位置及び中立位置から後方の操作領域に対応する箇所には、上部レバー33Bの係合片33Bbを摺動案内する案内部36Bを形成してある。
【0034】
下部レバー33Aの右横には、支軸34に相対揺動可能に外嵌した揺動アーム37を配備してある。揺動アーム37は、上下一対の連係部37A,37Bを備え、平面視「L」字状に形成した上側連係部37Aの前壁部分37Aaが下部レバー33Aの前方に位置するように構成してある。又、下側連係部37Bを、変速用の回転軸15の左端部に固定したアーム部15Aに連係アーム38を介して連係してある。連係アーム38は、回転軸15のアーム部15Aに一端部をピン連結した第1アーム38A、第1アーム38Aの他端部から後上方に延出する状態に第1アーム38Aの他端部に一端部を固定した第2アーム38B、及び、第2アーム38Bの他端部から後上方に延出する状態に第2アーム38Bの他端部に一端部を固定した長さ調節可能なターンバックル式の連係ロッド38Cによって、変速ペダル14の中立位置と定速設定レバー33の中立位置とを対応させた状態で、変速用の回転軸15のアーム部15Aと揺動アーム37の下側連係部37Bとにわたるように構成してある。
【0035】
上記の構成から、定速設定レバー33をその操作領域における前進変速領域よりも後方側に操作すると、引っ張りバネ35の作用で、その操作領域の後端位置である退避位置まで復帰揺動する。すると、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aから後方側に大きく離れて、変速ペダル14の前進増速操作及び後進増速操作に連動した揺動アーム37の前後揺動を許容する。
【0036】
又、定速設定レバー33を退避位置から前方の前進変速領域に操作すると、その操作に伴って、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aに後方から接当し、その前進変速領域において定速設定レバー33を更に前方(増速方向)に操作すると、その操作に連動して、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aを前回り方向に押圧操作し、この押圧操作に連動して、変速ペダル14が変速用の回転軸15を支点にして前進増速方向に揺動するとともに、変速ペダル14に操作連係したHST10の変速操作軸10Aが前進増速方向に回動する。
【0037】
そして、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に位置させると、捻りバネ33Dの作用で、定速設定レバー33の係合片33Bbが係合部材36のいずれかの係合凹部36Aに係合することで、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に保持することができ、この保持により、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aをそのときの揺動位置にて後方から受け止め保持する状態となり、これにより、中立復帰機構11の作用による変速ペダル14の中立方向への復帰揺動及び変速操作軸10Aの中立方向への復帰回動を阻止することができる。
【0038】
つまり、速度維持装置13は、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に操作することで、HST10の変速状態を、そのときの定速設定レバー33の操作位置に対応した前進増速状態に維持することができ、車体の走行状態を、定速設定レバー33の操作位置に対応した一定の速度で車体を前進させる定速前進状態に維持することができる。そして、この定速前進状態では、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aを後方からの片当たりで受け止め支持するだけであって、変速ペダル14の増速操作に伴う上側連係部37Aの前方への揺動は許容していることから、定速設定レバー33で設定した前進速度よりも高速側での変速ペダル14の操作に基づく増減速が可能となっている。
【0039】
図3〜10に示すように、制動用の回転軸21に近い回転軸21の上方箇所には、速度維持装置13による車体の定速前進状態での維持を所定の制動操作に連動して解除する機械式の解除機構26を配備してある。以下、解除機構26の構成ついて説明する。
【0040】
左側のブレーキペダル17は、そのボス部17Aから上方に延出するアーム部17Cを備えている。右側のブレーキペダル18は、そのボス部18Aから上方に延出する第2アーム部18Dを備えている。そして、左側のアーム部17C及び右側の第2アーム部18Dは、左側のアーム部17Cのボス部17Aからの延出長さが、右側の第2アーム部18Dのボス部18Aからの延出長さよりも長くなるように形成してある。
【0041】
左側のアーム部17Cの延出端部には、左右向きの連係ピン39に一端部を相対揺動可能に外嵌した第1リンク40と第2リンク41のうちの第1リンク40の他端部を左右向きの第1連結ピン42を介して連結してある。右側の第2アーム部18Dの延出端部には、第2リンク41の他端部を左右向きの第2連結ピン43を介して連結してある。
【0042】
左側のアーム部17Cと右側の第2アーム部18Dとの間には、隔壁20から後方に延出した支持板44に左右向きの支軸45を介して上下揺動可能に連結した揺動板46を配備してある。揺動板46は、その後上部と支持板44とにわたって架設した引っ張りバネ47によって、その上縁部が支持板44の受止部44Aに接当して、その後部が制動用の回転軸21の真上に位置する基準姿勢に揺動復帰する。
【0043】
揺動板46の後部には、連係ピン39を介した揺動板46の左右のブレーキペダル17,18との連動揺動を規制するカム溝46Aを形成してある。カム溝46Aは、揺動板46が基準姿勢で、かつ、左側のブレーキペダル17が踏み込み解除位置に位置する状態において、第1連結ピン42を中心にした下側の円弧となる第1案内部46aと、揺動板46が基準姿勢で、かつ、右側のブレーキペダル17が踏み込み解除位置に位置する状態において、第2連結ピン43を中心にした上側の円弧となる第2案内部46bとを備えた「V」字状に形成してある。そして、揺動板46の前部を機械式連係機構としてのレリーズワイヤ48を介して速度維持装置13に操作連係してある。
【0044】
その連係について詳述すると、揺動板46の前部には、アウタワイヤ48Aの一端部を隔壁20に固定したレリーズワイヤ48におけるインナワイヤ48Bの一端部をピン連結してある。レリーズワイヤ48は、その揺動板46にピン連結した一端側を、制動用の回転軸21とこの回転軸21の直前に立設した隔壁20との間を通して、制動用連係機構24の第1押し引きロッド24A及び隔壁20に沿って上下向きに配索してある。残りの他端側は、キャビン9の床板9Aにおける右前端部に第1押し引きロッド用の第1貫通孔とともに穿設した第2貫通孔に通してキャビン9(搭乗運転部4)の床下の車体外部に引き出し、キャビン9の座席支持板9Bにおける左後部に穿設した第3貫通孔までT/Mケース3に沿って配索し、その第3貫通孔に通して再びキャビン9の内部に引き込んである。引き込んだレリーズワイヤ48の他端側は、定速設定レバー33の下部レバー33Aに沿って配索し、アウタワイヤ48Aの他端部を下部レバー33Aの上部に固定し、インナワイヤ48Bの他端部を、定速設定レバー33の上部レバー33Bにおける前後向きの連結軸33Cよりも上側の位置に、その位置に対してインナワイヤ48Bが車体内側から延出する状態でピン連結してある。
【0045】
上記の構成から、左側のブレーキペダル17を踏み込み操作すると、そのアーム部17Cが後方に揺動し、この揺動に伴って第1リンク40が連係ピン39を後方に引き出す一方で、第2リンク41が第2連結ピン43を支点にして揺動することから、連係ピン39は、基準姿勢で位置する揺動板46の第2案内部46bに沿って移動する〔図8の(b)参照〕。これにより、揺動板46は基準姿勢を維持することになり、この揺動板46にレリーズワイヤ48を介して連係した定速設定レバー33の上部レバー33Bが係合部材36に接当した状態を維持する。
【0046】
逆に、右側のブレーキペダル18を踏み込み操作すると、その第2アーム部18Dが後方に揺動し、この揺動に伴って第2リンク41が連係ピン39を後方に引き出す一方で、第1リンク40が第1連結ピン42を支点にして揺動することから、連係ピン39は、基準姿勢で位置する揺動板46の第1案内部46aに沿って移動する〔図8の(c)参照〕。これにより、揺動板46は基準姿勢を維持することになり、この揺動板46にレリーズワイヤ48を介して連係した定速設定レバー33の上部レバー33Bが係合部材36に接当した状態を維持する。
【0047】
そして、左右のブレーキペダル17,18を同時に踏み込み操作すると、それらのアーム部17C及び第2アーム部18Dが後方に揺動し、これらの揺動に伴って第1リンク40及び第2リンク41の双方が連係ピン39を後方に引き出すことから、連係ピン3はが、基準姿勢で位置する揺動板46のカム溝46Aに沿って移動せずに揺動板46を後下方に押圧する〔図8の(d)参照〕。これにより、揺動板46は基準姿勢から連係ピン39による押圧方向に揺動し、この揺動板46にレリーズワイヤ48を介して連係した定速設定レバー33の上部レバー33Bが、その揺動板46に連動して係合部材36に接当した状態から係合部材36から離れた状態に揺動変位する。
【0048】
つまり、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に位置させた定速前進状態において、ステアリング操作とともに旋回内側のブレーキペダル18を踏み込み操作する制動旋回を行っても、それに伴う解除機構26の作動で、定速設定レバー33の上部レバー33Bが係合部材36から離れずに係合片33Bbの係合凹部36Aとの係合を維持することから、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に保持することができ、HST10の変速状態を、そのときの定速設定レバー33の操作位置に対応した前進増速状態に維持することができて、車体の走行状態を定速前進状態に維持することができる。その結果、定速前進状態を維持しながら制動旋回を行うことができる。
【0049】
一方、左右のブレーキペダル17,18を同時に踏み込み操作する制動減速又は制動停止を行うと、それに伴う解除機構26の作動で、定速設定レバー33の上部レバー33Bが係合部材36から離れて係合片33Bbの係合凹部36Aとの係合を解除することから、引っ張りバネ35の作用で定速設定レバー33を退避位置まで復帰揺動させることができ、HST10の変速状態を、中立復帰機構11の作用で変速操作軸10Aを中立位置に復帰させた零速状態とすることができて、速度維持装置13による車体の定速前進状態を解除することができる。その結果、制動減速又は制動停止をスムーズに行うことができる。
【0050】
又、上記のように作動する解除機構26を前述したように制動用の回転軸21の上方箇所に配備することで、操縦パネル19の内部におけるステアリングポスト7Aと隔壁20との間の空間を解除機構26の配置空間に有効利用することができる。更に、前述したように解除機構26を構成することで、ステアリングポスト7Aと隔壁20との間の空間に解除機構26をコンパクトに配備することができる。そして、これらの点から、解除機構26をキャビン9の内部における操縦パネル19で覆われた位置に、前輪5が跳ね上げる泥土などの付着を回避した状態で配備することができ、これにより、キャビン9の内部空間を狭めることなく、泥土などの付着に起因した解除機構26の作動不良を防止することができる。
【0051】
図3〜6及び図10に示すように、キャビン9の床板9Aにおける左前端部にも第1押し引きロッド用の第1貫通孔を穿設してある。そして、左右の第1貫通孔には、第1押し引きロッド24Aを案内するゴム製のブーツ49を装着してある。又、レリーズワイヤ48を挿通する第2貫通孔及び第3貫通孔には、レリーズワイヤ48を保護し、かつ、レリーズワイヤ48との隙間を塞いでキャビン9の気密性や防塵性を高めるグロメット50を装着してある。
【0052】
尚、図3、図5及び図6に示す符号51は、キャビン内部の床板9Aの上面に敷設したフロアマットであり、このフロアマット51の上面51Aで搭乗運転部4の搭乗面4Bを形成してある。
【0053】
ちなみに、図11に示すように、定速設定レバー33の下部レバー33Aを、キャビン9の座席支持板9Bよりも下方に位置する左右向きの支軸34(図10参照)に相対回転可能に外嵌するボス部33Aa(図10参照)を備えたレバー基端部33A1と、このレバー基端部33A1から上方に延出するレバー中間部33A2とに分割した上下2分割構造に構成してもよい。
【0054】
この構成では、レバー基端部33A1に、ボス部33Aaから上方に延出する連結部33Acを備え、この連結部33Acの延出長さを、左右向きの支軸34にレバー基端部33A1を装着した後にキャビン9を組み付けた際に、連結部33Acがキャビン9の座席支持板9Bに形成した開口(図示せず)を通ってキャビン9の内部に突出する状態となる長さに設定することで、キャビン9の組み付け後に、その連結部33Acにレバー中間部33A2を連結するなどの組み付け作業を行うことで、定速設定レバー33を簡単に組み付けることができる。
【0055】
つまり、キャビン9を装備する仕様での定速設定レバー33の組み付け性を向上させることができる。又、この構成を、定速設定レバー33に隣接配備した副変速レバー52(図2及び図10参照)などの他のレバーにも採用することで、それらのレバーの組み付け性をも向上させることができる。
【0056】
又、レバー基端部33A1とレバー中間部33A2との連結構造に関しては、レバー中間部33A2の下端部に、前後一対で左右向きのスプリングピン33Adを装備し、かつ、前後のスプリングピン33Adの間にボルト挿通用の単一の貫通孔33Aeを穿設し、レバー基端部33A1の連結部33Acに、スプリングピン圧入用の前後一対の貫通孔33Afを穿設し、かつ、前後の貫通孔33Afの間にボルト螺合用の単一のネジ孔33Agを穿設するように構成すれば、前後のスプリングピン33Adを対応する貫通孔33Afに圧入した後、レバー基端部33A1の連結部33Acとレバー中間部33A2の下端部とを1本のボルト53で連結するだけで、レバー基端部33A1にレバー中間部33A2をガタツキのない状態に簡単に連結することができる。
【0057】
〔別実施形態〕
【0058】
〔1〕無段変速装置10としては、ベルト式の無段変速装置や油圧機械式の無段変速装置(HMT)などであってもよい。
【0059】
〔2〕速度維持装置13としては、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に摩擦保持するように構成したものであってもよい。又、変速ペダル14の踏み込み操作に連動して前後方向に移動する鋸歯状の被係合部を備えた第1係合部材と、定速設定レバー33の係合位置への操作に連動して第1係合部材の被係合部に係合し、定速設定レバー33の解除位置への操作に連動して第1係合部材の被係合部との係合を解除する鋸歯状の係合部を備えた第2係合部材とを備えて構成したものであってもよい。
【0060】
〔3〕機械式連係機構48としては、キャビン9の床板9Aとフロアマット51との間を通すように構成したものであってもよい。又、押し引きロッドやクランクアームなどで構成したものであってもよい。
【0061】
〔4〕作業車としてはキャビン9を装備しないものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る作業車の速度維持解除構造は、トラクタ、草刈機、乗用田植機、及びコンバインなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
4 搭乗運転部
4A 前壁
4B 搭乗面
10 無段変速装置
11 中立復帰機構
13 速度維持装置
17 ブレーキペダル
18 ブレーキペダル
21 支軸
26 解除機構
48 機械式連係機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、無段変速装置を中立復帰機構の作用に抗して所望の変速状態に維持することで車体を定速前進状態に維持する速度維持装置と、搭乗運転部の足元部位に配備した左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込み操作した場合に前記速度維持装置による車体の定速前進状態での維持を解除する機械式の解除機構とを備えた作業車の速度維持解除構造に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車の一例であるトラクタでは、左右のブレーキペダルを、搭乗運転部の床下に配備した左右向きの支軸を支点にして前後揺動する状態に構成し、その支軸の近くに解除機構を外部に露出した状態で配備するように構成したものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−88628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の構成では、解除機構を搭乗運転部の床下に外部に露出した状態で配備することから、前輪が跳ね上げる泥土などが解除機構に付着し易くなっており、泥土などの付着に起因した解除機構の作動不良を招く虞があった。
【0005】
本発明の目的は、泥土などの付着に起因した解除機構の作動不良が生じる虞を未然に回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、無段変速装置を中立復帰機構の作用に抗して所望の変速状態に維持することで車体を定速前進状態に維持する速度維持装置と、搭乗運転部の足元部位に配備した左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込み操作した場合に前記速度維持装置による車体の定速前進状態での維持を解除する機械式の解除機構とを備えた作業車の速度維持解除構造において、
前記左右のブレーキペダルを、前記搭乗運転部の搭乗面よりも上方に配備した左右向きの支軸を支点にして前後揺動する吊り下げ式に構成し、
前記解除機構を前記支軸の近くに配備して前記左右のブレーキペダルに連係し、かつ、機械式連係機構を介して前記速度維持装置に連係し、
前記機械式連係機構を、前記支軸とこの支軸の直前に立設した前記搭乗運転部の前壁との間から前記前壁に沿って上下向きに通した後、前記搭乗面の下方を通して前記速度維持装置に連係してある。
【0007】
第1の発明によると、搭乗運転部の搭乗面よりも上方に解除機構を配備することから、前輪が跳ね上げる泥土などが解除機構に付着する虞を未然に回避することができる。
【0008】
又、解除機構を搭乗運転部の搭乗面よりも上方に配備しながらも、解除機構から速度維持装置にわたる機械式連係機構を上記のように通すことで、搭乗運転部において機械式連係機構が邪魔になる虞や機械式連係機構によって搭乗運転部の足元空間が狭くなることを防止することができる。
【0009】
従って、搭乗運転部において機械式連係機構が邪魔になる虞や機械式連係機構によって搭乗運転部の足元空間が狭くなることを防止しながら、泥土などの付着に起因した解除機構の作動不良が生じる虞を未然に回避することができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記機械式連係機構を、前記搭乗運転部の床下の車体外部を通して前記速度維持装置に連係してある。
【0011】
第2の発明によると、例えば、搭乗運転部の床板と床板の上面に敷設するフロアマットとの間に機械式連係機構を通す場合などに比較して、搭乗運転部において機械式連係機構が邪魔になる虞や機械式連係機構によって搭乗運転部の足元空間が狭くなることをより確実に防止することができる。
【0012】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、
前記機械式連係機構をレリーズワイヤで構成してある。
【0013】
第3の発明によると、例えば、機械式連係機構を押し引きロッドやクランクアームなどで構成する場合に比較して、機械式連係機構の組み付け性や配索の自由度を高めることができ、解除機構と速度維持装置との連係を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】トラクタの右側面図である。
【図2】搭乗運転部の平面図である。
【図3】解除機構と速度維持装置との連係を示す要部の縦断右側面図である。
【図4】解除機構の構成を示す要部の斜視図である。
【図5】解除機構の構成を示す要部の縦断右側面図である。
【図6】解除機構の構成を示す要部の縦断背面図である。
【図7】解除機構の構成を示す要部の分解斜視図である。
【図8】解除機構の動作を示す要部の縦断右側面図である。
【図9】速度維持装置と変速ペダル及び無段変速装置との連係を示す要部の縦断右側面図である。
【図10】速度維持装置の構成などを示す要部の縦断正面図である。
【図11】定速設定レバーの別の構成を示す要部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明に係る作業車の速度維持解除構造を、作業車の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1に示すように、この実施形態で例示するトラクタは、その前部に配備した前部フレーム1にエンジン2などを搭載し、その後部に配備したフレーム兼用のトランスミッションケース(以下、T/Mケースと称する)3の上方に搭乗運転部4を形成し、前部フレーム1の左右に、駆動可能な操向輪としての左右一対の前輪5を備え、T/Mケース4の後部の左右に、駆動輪としての左右一対の後輪6を備えて4輪駆動型に構成してある。
【0017】
図1〜3に示すように、搭乗運転部4には、左右の前輪5に操作連係したステアリングホイール7や運転座席8などを備え、搭乗運転空間を形成するキャビン9を装備してある。
【0018】
図1及び図9に示すように、エンジン2からの動力は、主変速装置として備えた無段変速装置の一例である静油圧式無段変速装置(以下、HSTと称する)10、及び、T/Mケース3の内部に副変速装置として備えたギア式変速装置(図示せず)、などを介して、左右の前輪5及び左右の後輪6に伝達する。HST10は、その可変容量ポンプ(図示せず)の斜板角を変更する変速操作軸10Aが車体右外方に向けて突出する状態で備えてある。変速操作軸10Aには、変速操作軸10Aを中立位置に復帰付勢する中立復帰機構11のカム部材を兼ねる操作アーム12を固定してある。
【0019】
図1〜3及び図9に示すように、搭乗運転部4の右足元部位には変速ペダル14を配備してある。変速ペダル14は、T/Mケース3を左右向きに貫通する変速用の回転軸15の右端部に、回転軸15よりも車体前側に位置する前側操作部14A、回転軸15よりも車体後側に位置する後側操作部14B、及び、回転軸15よりも下側に位置する連係アーム部14C、を有する状態で固定してある。そして、その前側操作部14Aの踏み込み操作に連動して前側操作部14Aの踏み込み操作量に応じた操作量で変速操作軸10Aが前進増速方向に回動し、又、その後進変速部14Bの踏み込み操作に連動して後進変速部14Bの踏み込み操作量に応じた操作量で変速操作軸10Aが後進増速方向に回動し、更に、それらの踏み込み操作の解除に伴って変速操作軸10Aが中立復帰機構11の作用で減速方向に回動して中立位置に復帰するように、その連係アーム部14Cを押し引きリンク16と操作アーム12とを介して変速操作軸10Aに操作連係してある。
【0020】
つまり、変速ペダル14の前側操作部14Aを踏み込み操作することで、そのときの踏み込み操作量に応じた速度で車体を前進させることができる。逆に、変速ペダル14の後側操作部14Bを踏み込み操作することで、そのときの踏み込み操作量に応じた速度で車体を後進させることができる。そして、それらの踏み込み操作を解除することで車体を減速停止させることができる。
【0021】
図1〜7に示すように、搭乗運転部4の右足元部位には左右一対のブレーキペダル17,18を左右に並べて配備してある。左右のブレーキペダル17,18は、ステアリングホイール7の下方に備えた操縦パネル19と、この操縦パネル19で覆われる隔壁20との間で、キャビン9の床板9Aよりも上方の位置に、後傾斜姿勢のステアリングポスト7Aと隔壁20との間を通る状態で左右向きに配備した制動用の回転軸(支軸)21を支点にして前後揺動する吊り下げ式に構成してある。回転軸21は、隔壁20に左右一対のブラケット22を介して固定した筒状の支持部材23で支持してある。
【0022】
左側のブレーキペダル17は、その上部に固定したボス部17Aを制動用の回転軸21に外嵌固定してある。そして、その回転軸21の左端部に固定したアーム部21Aを、機械連係式の制動用連係機構24を介して、左側の後輪6を制動する左側のサイドブレーキ25の操作軸25Aに固定したアーム部25Bに連動連結してある。
【0023】
右側のブレーキペダル18は、その上部に固定したボス部18Aを制動用の回転軸21に相対回転可能に外嵌してある。そして、そのボス部18Aに固定した第1アーム部18Bを、制動用連係機構24を介して、右側の後輪6を制動する右側のサイドブレーキ25の操作軸25Aに固定したアーム部25Bに連動連結してある。
【0024】
各制動用連係機構24は、左側のブレーキペダル17のアーム部21A又は右側のブレーキペダル18の第1アーム部18Bにピン連結した上下向きの第1押し引きロッド24A、第1押し引きロッド24Aの上下方向での押し引き運動を前後向きの押し引き運動に変換するクランクアーム24B、及び、クランクアーム24Bから対応するサイドブレーキ25のアーム部25Bにわたる長さ調節可能なターンバックル式の第2押し引きロッド24C、などを備えて構成してある。
【0025】
左右のブレーキペダル18は、それらのボス部17A,18Aにそれぞれ外嵌した捻りバネ27の作用で踏み込み解除位置に向けて復帰揺動する。そして、その復帰揺動で、支持部材23の右端部に支持板28を介して固定した左右向きの受止ピン29に各ブレーキペダル17,18の基端部後方箇所(上端部後方箇所)が接当することで踏み込み解除位置に復帰するように構成してある。
【0026】
つまり、旋回時に捻りバネ27の作用に抗して旋回内側のブレーキペダル17,18を踏み込み操作することで、ステアリング操作のみによる通常旋回状態から旋回内側の後輪6を制動して車体の旋回半径を小さくする制動旋回状態に切り換えることができる。又、走行中に捻りバネ27の作用に抗して左右のブレーキペダル17,18を同時に踏み込み操作することで、左右の後輪6を同時に制動することができて車体を制動減速又は制動停止させることができる。そして、左右のブレーキペダル17,18の踏み込み操作を解除することで左右の後輪6に対する制動を解除することができる。
【0027】
尚、隔壁20は、エンジン2などを搭載する前部フレーム1の上方に形成したエンジンルームとキャビン9で形成した搭乗運転空間とを仕切るためにエンジンルームと搭乗運転空間との間に立設した搭乗運転部4の前壁4Aであり、キャビン9のフロントパネルの一部を形成するものである。
【0028】
左右のブレーキペダル17,18は、右側のブレーキペダル18の遊端側(下部側)に備えた「L」字状の連結ピン30の左右方向への摺動操作で、左右のブレーキペダル17,18の単独操作が阻止された連結状態と、左右のブレーキペダル17,18の単独操作が許容された連結解除状態とに切り換え可能に構成してある。連結ピン30には、右側のブレーキペダル18に固定した案内板18Cに形成した「U」字状の案内溝18Caに係合案内される係合ピン30Aを固定してある。そして、連結ピン30で左右のブレーキペダル17,18を連結した後、この連結で案内溝18Caの左前端部まで移動した係合ピン30Aを案内溝18Caの左後端部まで移動させることで、左右のブレーキペダル17,18を連結状態に維持することができ、又、連結ピン30による左右のブレーキペダル17,18の連結を解除した後、この連結解除で案内溝18Caの右前端部まで移動した係合ピン30Aを案内溝18Caの右後端部まで移動させることで、左右のブレーキペダル17,18を連結解除状態に維持することができる。
【0029】
つまり、旋回内側の後輪6を制動してまで旋回半径を小さくする必要のない路上などでの移動走行時には、左右のブレーキペダル17,18を連結状態に維持しておくことで、車体を制動減速又は制動停止させる際に、左右のブレーキペダル17,18を踏み損なうことに起因した片ブレーキ状態の発生を防止することができる。又、旋回内側の後輪6を制動してまで旋回半径を小さくする必要のある作業走行時には、左右のブレーキペダル17,18を連結解除状態に維持しておくことで、旋回内側のブレーキペダル17,18を単独で踏み込み操作することができ、旋回内側の後輪6を制動した小回り旋回が可能になる。
【0030】
図1及び図3〜7に示すように、左側のブレーキペダル17の基端側(上部側)には、複数の係合凹部17Baを前後向きの鋸刃状に整列形成した係合部材17Bを固定してある。受止ピン29には、各係合凹部17Baに係合可能な係合爪31Aを備えた駐車レバー31のボス部31Bを相対回転可能に外嵌してある。駐車レバー31は、そのボス部31Bに外嵌した捻りバネ32の作用で右側面視左回りに揺動し、この揺動で下方の制動解除位置に到達した状態では、その係止爪31Aが係合部材17Bの揺動領域から外れた退避位置に位置して各係合凹部17Baとの係合を回避する。又、捻りバネ32の作用に抗して制動解除位置から上方に揺動操作すると、その係止爪31Aが係合部材17Bの揺動領域に入り込んで所定の係止位置での各係合凹部17Baとの係合が可能になる。そして、その係止爪31Aを係合部材17Bのいずれかの係合凹部17Baに係合させると、その係合状態を捻りバネ32の作用で維持することができる。又、この係合状態では左側のブレーキペダル17の踏み込み操作が可能になっており、その踏み込み操作を行うと、係止爪31Aが係合部材17Bの揺動領域から外れるとともに捻りバネ32の作用で駐車レバー31が制動解除位置に復帰する。
【0031】
つまり、例えば、連結状態に切り換えた左右のブレーキペダル17,18を踏み込み操作して車体を制動停止させた後、駐車レバー31を制動解除位置から上方に揺動操作して、係止爪31Aを係合部材17Bのいずれかの係合凹部17Baに係合させることで、左右のブレーキペダル17,18を制動位置に保持することができ、車体を制動停止状態に維持することができる。又、この制動停止状態で、左右のブレーキペダル17,18の踏み込み操作を行うと、係止爪31Aと係合凹部17Baとが係合を解除して駐車レバー31が制動解除位置に復帰し、この状態で左右のブレーキペダル17を踏み込み操作を解除すると、左右のブレーキペダル17が踏み込み解除位置に復帰することから、車体の制動停止を解除することができる。
【0032】
図1〜3、図9及び図10に示すように、このトラクタには、所望の前進速度での車速の維持を可能にする速度維持装置13を装備してある。速度維持装置13は、搭乗運転部4における運転座席8の左側方箇所に配備した定速設定レバー33などから構成してある。定速設定レバー33は、左右向きの支軸34に相対回転可能に外嵌するボス部33Aaを下部に備えた下部レバー33Aの上端部に、把持部33Baを上部に備えた上部レバー33Bの下端部を、前後向きの連結軸33Cを介して左右揺動可能に連結して構成してある。又、下部レバー33Aのアーム部33Abに、一端部を車体の固定部に係止した引っ張りバネ35の他端部を係止することで後方に揺動付勢してある。
【0033】
上部レバー33Bの下部には、その左方に配備した係合部材36の右側縁に前後向きの鋸刃状に整列形成した複数の係合凹部36Aに係合する係合片33Bbを固定装備してある。連結軸33Cには、上部レバー33Bを左方に揺動付勢することで係合片33Bbの係合凹部36Aとの係合保持を可能にする捻りバネ33Dを外嵌してある。係合部材36は、定速設定レバー33の前進変速領域に対応する箇所に複数の係合凹部36Aを形成してあり、定速設定レバー33の中立位置及び中立位置から後方の操作領域に対応する箇所には、上部レバー33Bの係合片33Bbを摺動案内する案内部36Bを形成してある。
【0034】
下部レバー33Aの右横には、支軸34に相対揺動可能に外嵌した揺動アーム37を配備してある。揺動アーム37は、上下一対の連係部37A,37Bを備え、平面視「L」字状に形成した上側連係部37Aの前壁部分37Aaが下部レバー33Aの前方に位置するように構成してある。又、下側連係部37Bを、変速用の回転軸15の左端部に固定したアーム部15Aに連係アーム38を介して連係してある。連係アーム38は、回転軸15のアーム部15Aに一端部をピン連結した第1アーム38A、第1アーム38Aの他端部から後上方に延出する状態に第1アーム38Aの他端部に一端部を固定した第2アーム38B、及び、第2アーム38Bの他端部から後上方に延出する状態に第2アーム38Bの他端部に一端部を固定した長さ調節可能なターンバックル式の連係ロッド38Cによって、変速ペダル14の中立位置と定速設定レバー33の中立位置とを対応させた状態で、変速用の回転軸15のアーム部15Aと揺動アーム37の下側連係部37Bとにわたるように構成してある。
【0035】
上記の構成から、定速設定レバー33をその操作領域における前進変速領域よりも後方側に操作すると、引っ張りバネ35の作用で、その操作領域の後端位置である退避位置まで復帰揺動する。すると、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aから後方側に大きく離れて、変速ペダル14の前進増速操作及び後進増速操作に連動した揺動アーム37の前後揺動を許容する。
【0036】
又、定速設定レバー33を退避位置から前方の前進変速領域に操作すると、その操作に伴って、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aに後方から接当し、その前進変速領域において定速設定レバー33を更に前方(増速方向)に操作すると、その操作に連動して、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aを前回り方向に押圧操作し、この押圧操作に連動して、変速ペダル14が変速用の回転軸15を支点にして前進増速方向に揺動するとともに、変速ペダル14に操作連係したHST10の変速操作軸10Aが前進増速方向に回動する。
【0037】
そして、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に位置させると、捻りバネ33Dの作用で、定速設定レバー33の係合片33Bbが係合部材36のいずれかの係合凹部36Aに係合することで、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に保持することができ、この保持により、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aをそのときの揺動位置にて後方から受け止め保持する状態となり、これにより、中立復帰機構11の作用による変速ペダル14の中立方向への復帰揺動及び変速操作軸10Aの中立方向への復帰回動を阻止することができる。
【0038】
つまり、速度維持装置13は、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に操作することで、HST10の変速状態を、そのときの定速設定レバー33の操作位置に対応した前進増速状態に維持することができ、車体の走行状態を、定速設定レバー33の操作位置に対応した一定の速度で車体を前進させる定速前進状態に維持することができる。そして、この定速前進状態では、定速設定レバー33の下部レバー33Aが揺動アーム37の上側連係部37Aを後方からの片当たりで受け止め支持するだけであって、変速ペダル14の増速操作に伴う上側連係部37Aの前方への揺動は許容していることから、定速設定レバー33で設定した前進速度よりも高速側での変速ペダル14の操作に基づく増減速が可能となっている。
【0039】
図3〜10に示すように、制動用の回転軸21に近い回転軸21の上方箇所には、速度維持装置13による車体の定速前進状態での維持を所定の制動操作に連動して解除する機械式の解除機構26を配備してある。以下、解除機構26の構成ついて説明する。
【0040】
左側のブレーキペダル17は、そのボス部17Aから上方に延出するアーム部17Cを備えている。右側のブレーキペダル18は、そのボス部18Aから上方に延出する第2アーム部18Dを備えている。そして、左側のアーム部17C及び右側の第2アーム部18Dは、左側のアーム部17Cのボス部17Aからの延出長さが、右側の第2アーム部18Dのボス部18Aからの延出長さよりも長くなるように形成してある。
【0041】
左側のアーム部17Cの延出端部には、左右向きの連係ピン39に一端部を相対揺動可能に外嵌した第1リンク40と第2リンク41のうちの第1リンク40の他端部を左右向きの第1連結ピン42を介して連結してある。右側の第2アーム部18Dの延出端部には、第2リンク41の他端部を左右向きの第2連結ピン43を介して連結してある。
【0042】
左側のアーム部17Cと右側の第2アーム部18Dとの間には、隔壁20から後方に延出した支持板44に左右向きの支軸45を介して上下揺動可能に連結した揺動板46を配備してある。揺動板46は、その後上部と支持板44とにわたって架設した引っ張りバネ47によって、その上縁部が支持板44の受止部44Aに接当して、その後部が制動用の回転軸21の真上に位置する基準姿勢に揺動復帰する。
【0043】
揺動板46の後部には、連係ピン39を介した揺動板46の左右のブレーキペダル17,18との連動揺動を規制するカム溝46Aを形成してある。カム溝46Aは、揺動板46が基準姿勢で、かつ、左側のブレーキペダル17が踏み込み解除位置に位置する状態において、第1連結ピン42を中心にした下側の円弧となる第1案内部46aと、揺動板46が基準姿勢で、かつ、右側のブレーキペダル17が踏み込み解除位置に位置する状態において、第2連結ピン43を中心にした上側の円弧となる第2案内部46bとを備えた「V」字状に形成してある。そして、揺動板46の前部を機械式連係機構としてのレリーズワイヤ48を介して速度維持装置13に操作連係してある。
【0044】
その連係について詳述すると、揺動板46の前部には、アウタワイヤ48Aの一端部を隔壁20に固定したレリーズワイヤ48におけるインナワイヤ48Bの一端部をピン連結してある。レリーズワイヤ48は、その揺動板46にピン連結した一端側を、制動用の回転軸21とこの回転軸21の直前に立設した隔壁20との間を通して、制動用連係機構24の第1押し引きロッド24A及び隔壁20に沿って上下向きに配索してある。残りの他端側は、キャビン9の床板9Aにおける右前端部に第1押し引きロッド用の第1貫通孔とともに穿設した第2貫通孔に通してキャビン9(搭乗運転部4)の床下の車体外部に引き出し、キャビン9の座席支持板9Bにおける左後部に穿設した第3貫通孔までT/Mケース3に沿って配索し、その第3貫通孔に通して再びキャビン9の内部に引き込んである。引き込んだレリーズワイヤ48の他端側は、定速設定レバー33の下部レバー33Aに沿って配索し、アウタワイヤ48Aの他端部を下部レバー33Aの上部に固定し、インナワイヤ48Bの他端部を、定速設定レバー33の上部レバー33Bにおける前後向きの連結軸33Cよりも上側の位置に、その位置に対してインナワイヤ48Bが車体内側から延出する状態でピン連結してある。
【0045】
上記の構成から、左側のブレーキペダル17を踏み込み操作すると、そのアーム部17Cが後方に揺動し、この揺動に伴って第1リンク40が連係ピン39を後方に引き出す一方で、第2リンク41が第2連結ピン43を支点にして揺動することから、連係ピン39は、基準姿勢で位置する揺動板46の第2案内部46bに沿って移動する〔図8の(b)参照〕。これにより、揺動板46は基準姿勢を維持することになり、この揺動板46にレリーズワイヤ48を介して連係した定速設定レバー33の上部レバー33Bが係合部材36に接当した状態を維持する。
【0046】
逆に、右側のブレーキペダル18を踏み込み操作すると、その第2アーム部18Dが後方に揺動し、この揺動に伴って第2リンク41が連係ピン39を後方に引き出す一方で、第1リンク40が第1連結ピン42を支点にして揺動することから、連係ピン39は、基準姿勢で位置する揺動板46の第1案内部46aに沿って移動する〔図8の(c)参照〕。これにより、揺動板46は基準姿勢を維持することになり、この揺動板46にレリーズワイヤ48を介して連係した定速設定レバー33の上部レバー33Bが係合部材36に接当した状態を維持する。
【0047】
そして、左右のブレーキペダル17,18を同時に踏み込み操作すると、それらのアーム部17C及び第2アーム部18Dが後方に揺動し、これらの揺動に伴って第1リンク40及び第2リンク41の双方が連係ピン39を後方に引き出すことから、連係ピン3はが、基準姿勢で位置する揺動板46のカム溝46Aに沿って移動せずに揺動板46を後下方に押圧する〔図8の(d)参照〕。これにより、揺動板46は基準姿勢から連係ピン39による押圧方向に揺動し、この揺動板46にレリーズワイヤ48を介して連係した定速設定レバー33の上部レバー33Bが、その揺動板46に連動して係合部材36に接当した状態から係合部材36から離れた状態に揺動変位する。
【0048】
つまり、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に位置させた定速前進状態において、ステアリング操作とともに旋回内側のブレーキペダル18を踏み込み操作する制動旋回を行っても、それに伴う解除機構26の作動で、定速設定レバー33の上部レバー33Bが係合部材36から離れずに係合片33Bbの係合凹部36Aとの係合を維持することから、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に保持することができ、HST10の変速状態を、そのときの定速設定レバー33の操作位置に対応した前進増速状態に維持することができて、車体の走行状態を定速前進状態に維持することができる。その結果、定速前進状態を維持しながら制動旋回を行うことができる。
【0049】
一方、左右のブレーキペダル17,18を同時に踏み込み操作する制動減速又は制動停止を行うと、それに伴う解除機構26の作動で、定速設定レバー33の上部レバー33Bが係合部材36から離れて係合片33Bbの係合凹部36Aとの係合を解除することから、引っ張りバネ35の作用で定速設定レバー33を退避位置まで復帰揺動させることができ、HST10の変速状態を、中立復帰機構11の作用で変速操作軸10Aを中立位置に復帰させた零速状態とすることができて、速度維持装置13による車体の定速前進状態を解除することができる。その結果、制動減速又は制動停止をスムーズに行うことができる。
【0050】
又、上記のように作動する解除機構26を前述したように制動用の回転軸21の上方箇所に配備することで、操縦パネル19の内部におけるステアリングポスト7Aと隔壁20との間の空間を解除機構26の配置空間に有効利用することができる。更に、前述したように解除機構26を構成することで、ステアリングポスト7Aと隔壁20との間の空間に解除機構26をコンパクトに配備することができる。そして、これらの点から、解除機構26をキャビン9の内部における操縦パネル19で覆われた位置に、前輪5が跳ね上げる泥土などの付着を回避した状態で配備することができ、これにより、キャビン9の内部空間を狭めることなく、泥土などの付着に起因した解除機構26の作動不良を防止することができる。
【0051】
図3〜6及び図10に示すように、キャビン9の床板9Aにおける左前端部にも第1押し引きロッド用の第1貫通孔を穿設してある。そして、左右の第1貫通孔には、第1押し引きロッド24Aを案内するゴム製のブーツ49を装着してある。又、レリーズワイヤ48を挿通する第2貫通孔及び第3貫通孔には、レリーズワイヤ48を保護し、かつ、レリーズワイヤ48との隙間を塞いでキャビン9の気密性や防塵性を高めるグロメット50を装着してある。
【0052】
尚、図3、図5及び図6に示す符号51は、キャビン内部の床板9Aの上面に敷設したフロアマットであり、このフロアマット51の上面51Aで搭乗運転部4の搭乗面4Bを形成してある。
【0053】
ちなみに、図11に示すように、定速設定レバー33の下部レバー33Aを、キャビン9の座席支持板9Bよりも下方に位置する左右向きの支軸34(図10参照)に相対回転可能に外嵌するボス部33Aa(図10参照)を備えたレバー基端部33A1と、このレバー基端部33A1から上方に延出するレバー中間部33A2とに分割した上下2分割構造に構成してもよい。
【0054】
この構成では、レバー基端部33A1に、ボス部33Aaから上方に延出する連結部33Acを備え、この連結部33Acの延出長さを、左右向きの支軸34にレバー基端部33A1を装着した後にキャビン9を組み付けた際に、連結部33Acがキャビン9の座席支持板9Bに形成した開口(図示せず)を通ってキャビン9の内部に突出する状態となる長さに設定することで、キャビン9の組み付け後に、その連結部33Acにレバー中間部33A2を連結するなどの組み付け作業を行うことで、定速設定レバー33を簡単に組み付けることができる。
【0055】
つまり、キャビン9を装備する仕様での定速設定レバー33の組み付け性を向上させることができる。又、この構成を、定速設定レバー33に隣接配備した副変速レバー52(図2及び図10参照)などの他のレバーにも採用することで、それらのレバーの組み付け性をも向上させることができる。
【0056】
又、レバー基端部33A1とレバー中間部33A2との連結構造に関しては、レバー中間部33A2の下端部に、前後一対で左右向きのスプリングピン33Adを装備し、かつ、前後のスプリングピン33Adの間にボルト挿通用の単一の貫通孔33Aeを穿設し、レバー基端部33A1の連結部33Acに、スプリングピン圧入用の前後一対の貫通孔33Afを穿設し、かつ、前後の貫通孔33Afの間にボルト螺合用の単一のネジ孔33Agを穿設するように構成すれば、前後のスプリングピン33Adを対応する貫通孔33Afに圧入した後、レバー基端部33A1の連結部33Acとレバー中間部33A2の下端部とを1本のボルト53で連結するだけで、レバー基端部33A1にレバー中間部33A2をガタツキのない状態に簡単に連結することができる。
【0057】
〔別実施形態〕
【0058】
〔1〕無段変速装置10としては、ベルト式の無段変速装置や油圧機械式の無段変速装置(HMT)などであってもよい。
【0059】
〔2〕速度維持装置13としては、定速設定レバー33を所望の前進変速位置に摩擦保持するように構成したものであってもよい。又、変速ペダル14の踏み込み操作に連動して前後方向に移動する鋸歯状の被係合部を備えた第1係合部材と、定速設定レバー33の係合位置への操作に連動して第1係合部材の被係合部に係合し、定速設定レバー33の解除位置への操作に連動して第1係合部材の被係合部との係合を解除する鋸歯状の係合部を備えた第2係合部材とを備えて構成したものであってもよい。
【0060】
〔3〕機械式連係機構48としては、キャビン9の床板9Aとフロアマット51との間を通すように構成したものであってもよい。又、押し引きロッドやクランクアームなどで構成したものであってもよい。
【0061】
〔4〕作業車としてはキャビン9を装備しないものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係る作業車の速度維持解除構造は、トラクタ、草刈機、乗用田植機、及びコンバインなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
4 搭乗運転部
4A 前壁
4B 搭乗面
10 無段変速装置
11 中立復帰機構
13 速度維持装置
17 ブレーキペダル
18 ブレーキペダル
21 支軸
26 解除機構
48 機械式連係機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速装置を中立復帰機構の作用に抗して所望の変速状態に維持することで車体を定速前進状態に維持する速度維持装置と、搭乗運転部の足元部位に配備した左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込み操作した場合に前記速度維持装置による車体の定速前進状態での維持を解除する機械式の解除機構とを備えた作業車の速度維持解除構造において、
前記左右のブレーキペダルを、前記搭乗運転部の搭乗面よりも上方に配備した左右向きの支軸を支点にして前後揺動する吊り下げ式に構成し、
前記解除機構を前記支軸の近くに配備して前記左右のブレーキペダルに連係し、かつ、機械式連係機構を介して前記速度維持装置に連係し、
前記機械式連係機構を、前記支軸とこの支軸の直前に立設した前記搭乗運転部の前壁との間から前記前壁に沿って上下向きに通した後、前記搭乗面の下方を通して前記速度維持装置に連係してある作業車の速度維持解除構造。
【請求項2】
前記機械式連係機構を、前記搭乗運転部の床下の車体外部を通して前記速度維持装置に連係してある請求項1に記載の作業車の速度維持解除構造。
【請求項3】
前記機械式連係機構をレリーズワイヤで構成してある請求項1又は2に記載の作業車の速度維持解除構造。
【請求項1】
無段変速装置を中立復帰機構の作用に抗して所望の変速状態に維持することで車体を定速前進状態に維持する速度維持装置と、搭乗運転部の足元部位に配備した左右一対のブレーキペダルを同時に踏み込み操作した場合に前記速度維持装置による車体の定速前進状態での維持を解除する機械式の解除機構とを備えた作業車の速度維持解除構造において、
前記左右のブレーキペダルを、前記搭乗運転部の搭乗面よりも上方に配備した左右向きの支軸を支点にして前後揺動する吊り下げ式に構成し、
前記解除機構を前記支軸の近くに配備して前記左右のブレーキペダルに連係し、かつ、機械式連係機構を介して前記速度維持装置に連係し、
前記機械式連係機構を、前記支軸とこの支軸の直前に立設した前記搭乗運転部の前壁との間から前記前壁に沿って上下向きに通した後、前記搭乗面の下方を通して前記速度維持装置に連係してある作業車の速度維持解除構造。
【請求項2】
前記機械式連係機構を、前記搭乗運転部の床下の車体外部を通して前記速度維持装置に連係してある請求項1に記載の作業車の速度維持解除構造。
【請求項3】
前記機械式連係機構をレリーズワイヤで構成してある請求項1又は2に記載の作業車の速度維持解除構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−67239(P2013−67239A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206141(P2011−206141)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】
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