説明

作業車両および作業車両の制御方法

【課題】本発明の課題は、ブレーキ装置における駆動力のロスを抑制することができると共に、オーバーヒートの発生を抑えることができる作業車両および作業車両の制御方法を提供することにある。
【解決手段】制御部は、ブレーキ装置の回転部材の温度に基づいてブレーキ装置への潤滑油の供給量を制御する第1制御を実行可能である。そして、制御部は、ブレーキ装置が、制動状態である場合は、潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、上記の第1制御において、回転部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断する。制御部は、回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、第1制御を実行可能とし、回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、回転部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油をブレーキ装置に供給する第2制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両および作業車両の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせるブレーキ装置では、摩擦によって回転部材が発熱する。このため、回転部材と固定部材との間に潤滑油を流すことによって、回転部材を冷却し、回転部材の温度上昇を抑制することが行われる。
【0003】
ここで、ブレーキ装置が、回転部材と固定部材とが圧接されていない非制動状態である場合にも、回転部材と固定部材との間に多量の潤滑油が介在している場合、出力軸の駆動力の一部が回転部材から潤滑油に伝わることによって、駆動力のロスが生じる恐れがある。
【0004】
このような駆動力のロスを防止するため、特許文献1に記載の技術では、ブレーキ装置が制動状態である場合に潤滑油の供給量を増大させ、ブレーキ装置が非制動状態である場合には供給量を低減させる潤滑油回路が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭53−034054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ブレーキ装置では、制動状態から非制動状態に切り替えられたときに、回転部材の温度が十分に低下していない場合がある。このような場合、上記のようにブレーキ装置の制動状態・非制動状態の切替に応じて潤滑油の供給量が切り換えられると、回転部材の温度が高い状態でも潤滑油の供給量が低減されてしまい、回転部材がオーバーヒートする恐れがある。また、このようなオーバーヒートを防止するためには、潤滑油の供給量を多量に設定する必要があり、この場合、駆動力のロスを抑制する効果が低減してしまう。
【0007】
本発明の課題は、ブレーキ装置における駆動力のロスを抑制することができると共に、オーバーヒートの発生を抑えることができる作業車両および作業車両の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明に係る作業車両は、ブレーキ装置と、潤滑油供給部と、回転数検知部と、制御部とを備える。ブレーキ装置は、出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせ、且つ、回転部材を潤滑油によって冷却可能な装置である。潤滑油供給部は、潤滑油をブレーキ装置に供給する。回転数検知部は、回転部材の回転数を検知する。制御部は、回転部材の温度に基づいてブレーキ装置への潤滑油の供給量を制御する第1制御を実行可能である。そして、制御部は、ブレーキ装置が、制動状態である場合は、潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、上記の第1制御において、回転部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断する。なお、制動状態とは、回転部材と固定部材とが圧接されることにより、制動力を生じさせる状態である。また、制御部は、回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、第1制御を実行可能とし、回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、回転部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油をブレーキ装置に供給する第2制御を行う。
【0009】
この作業車両では、ブレーキ装置が、制動状態である場合には、比較的多量の第1供給量の潤滑油がブレーキ装置に供給される。これにより、高い冷却能力を確保することができる。また、ブレーキ装置が、制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、潤滑油が常に第2供給量に低減されるのではなく、上記の第1制御において、回転部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第2供給量への変更が判断される。これにより、回転部材の温度の低下が十分ではない場合には第1供給量を維持し、回転部材の温度が十分に低下した場合に第2供給量に低減させることができる。これにより、常時、多量の潤滑油がブレーキ装置に供給される場合と比べて、ブレーキ装置における駆動力のロスを抑制することができる。また、ブレーキ装置の制動状態・非制動状態の切替に応じて供給量が増減される場合と比べて、回転部材の冷却を適切に行うことができ、オーバーヒートの発生を抑えることができる。
【0010】
また、この作業車両では、回転部材の回転数が比較的高回転数である場合に、上記の第1制御が実行可能とされる。これによって、駆動力のロスを抑える効果をさらに向上させることができる。また、回転部材の回転数が比較的低回転数である場合には、第2制御が行われる。第2制御では、回転部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油がブレーキ装置に供給されるため、回転部材の冷却能力を向上させることができる。
【0011】
第2発明に係る作業車両は、第1発明の作業車両であって、制御部は、第1制御において、回転部材の温度が所定の目標温度より低い場合に潤滑油の供給量を第1供給量から第2供給量に低減する。
【0012】
この作業車両では、第1制御において、回転部材の温度が所定の目標温度より低い温度まで低下した場合に潤滑油の供給量が第1供給量から第2供給量に低減される。これにより、回転部材の温度に対して精度よく潤滑油の供給量を変更することができる。
【0013】
第3発明に係る作業車両は、第1発明の作業車両であって、制御部は、第1制御において、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、第1供給量の潤滑油の供給により回転部材の温度が所定の目標温度に下降するまでに要する潤滑油供給時間を算出し、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた時点から潤滑油供給時間が経過した場合に、潤滑油の供給量を第1供給量から第2供給量に低減する。
【0014】
この作業車両では、第1制御において、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、潤滑油供給時間が経過するまで第1供給量の潤滑油が供給される。このため、ブレーキ装置が非制動状態である場合でも高い冷却能力で回転部材を冷却することができる。また、潤滑油供給時間が経過した場合に、潤滑油の供給量が第1供給量から第2供給量に低減されることにより、ブレーキ装置での駆動力のロスを抑えることができる。
【0015】
第4発明に係る作業車両は、第3発明の作業車両であって、制御部は、第1制御において、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた時点から潤滑油供給時間が経過する前にブレーキ装置が非制動状態から制動状態に切り換えられた場合は、その後に、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り換えられた時点からの潤滑油供給時間を再算出する。
【0016】
この作業車両では、回転部材の温度が十分に低下していない状態でブレーキ装置が制動状態にされると、その後にブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り換えられた時点からの潤滑油供給時間が改めて算出される。これにより、ブレーキ操作が断続的に繰り返された場合でも、回転部材を十分に冷却することができる。
【0017】
第5発明に係る作業車両は、ブレーキ装置と、潤滑油供給部と、回転数検知部と、制御部とを備える。ブレーキ装置は、出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせ、且つ、回転部材を潤滑油によって冷却可能な装置である。潤滑油供給部は、潤滑油をブレーキ装置に供給する。回転数検知部は、回転部材の回転数を検知する。制御部は、固定部材の温度に基づいてブレーキ装置への潤滑油の供給量を制御する第1制御を実行可能である。そして、制御部は、ブレーキ装置が、制動状態である場合は、潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、上記の第1制御において、固定部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断する。なお、制動状態とは、回転部材と固定部材とが圧接されることにより、制動力を生じさせる状態である。制御部は、回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、第1制御を実行可能とし、回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、固定部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油をブレーキ装置に供給する第2制御を行う。
【0018】
この作業車両では、ブレーキ装置が、制動状態である場合には、比較的多量の第1供給量の潤滑油がブレーキ装置に供給される。これにより、高い冷却能力を確保することができる。また、ブレーキ装置が、制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、潤滑油が常に第2供給量に低減されるのではなく、上記の第1制御において、固定部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第2供給量への変更が判断される。これにより、固定部材の温度の低下が十分ではない場合には第1供給量を維持し、固定部材の温度が十分に低下した場合に第2供給量に低減させることができる。これにより、常時、多量の潤滑油がブレーキ装置に供給される場合と比べて、ブレーキ装置における駆動力のロスを抑制することができる。また、ブレーキ装置の制動状態・非制動状態の切替に応じて供給量が増減される場合と比べて、回転部材の冷却を適切に行うことができ、オーバーヒートの発生を抑えることができる。
【0019】
また、この作業車両では、回転部材の回転数が比較的高回転数である場合に、上記の第1制御が実行可能とされる。これによって、駆動力のロスを抑える効果をさらに向上させることができる。また、回転部材の回転数が比較的低回転数である場合には、第2制御が行われる。第2制御では、固定部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油がブレーキ装置に供給されるため、回転部材の冷却能力を向上させることができる。
【0020】
第6発明に係る作業車両の制御方法は、出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせ、且つ、回転部材を潤滑油によって冷却可能なブレーキ装置と、潤滑油をブレーキ装置に供給する潤滑油供給部と、回転部材の回転数を検知する回転数検知部と、ブレーキ装置への潤滑油の供給量を制御する制御部とを備える作業車両の制御方法であって、制御部が回転部材の温度を計算によって求めるステップと、ブレーキ装置が、回転部材と固定部材とが圧接された制動状態である場合は、潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、回転部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断するステップと、を備える。また、第6発明に係る作業車両の制御方法は、回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、第1制御を実行可能とし、回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、回転部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油をブレーキ装置に供給する第2制御を行うステップをさらに備える。
【0021】
この作業車両の制御方法では、ブレーキ装置が、制動状態である場合には、比較的多量の第1供給量の潤滑油がブレーキ装置に供給される。これにより、高い冷却能力を確保することができる。また、ブレーキ装置が、制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、潤滑油が常に第2供給量に低減されるのではなく、回転部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第2供給量への変更が判断される。これにより、回転部材の温度の低下が十分ではない場合には第1供給量を維持し、回転部材の温度が十分に低下した場合に第2供給量に低減させることができる。これにより、常時、多量の潤滑油がブレーキ装置に供給される場合と比べて、ブレーキ装置における駆動力のロスを抑制することができる。また、ブレーキ装置の制動状態・非制動状態の切替に応じて供給量が増減される場合と比べて、回転部材の冷却を適切に行うことができ、オーバーヒートの発生を抑えることができる。
【0022】
また、この作業車両の制御方法では、回転部材の回転数が比較的高回転数である場合に、上記の第1制御が実行可能とされる。これによって、駆動力のロスを抑える効果をさらに向上させることができる。また、回転部材の回転数が比較的低回転数である場合には、第2制御が行われる。第2制御では、回転部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油がブレーキ装置に供給されるため、回転部材の冷却能力を向上させることができる。
【0023】
第7発明に係る作業車両の制御方法は、出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせ、且つ、回転部材を潤滑油によって冷却可能なブレーキ装置と、潤滑油をブレーキ装置に供給する潤滑油供給部と、回転部材の回転数を検知する回転数検知部と、ブレーキ装置への潤滑油の供給量を制御する制御部とを備える作業車両の制御方法であって、制御部が固定部材の温度を計算によって求めるステップと、ブレーキ装置が、回転部材と固定部材とが圧接された制動状態である場合は、潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、固定部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断するステップと、を備える。また、第6発明に係る作業車両の制御方法は、回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、第1制御を実行可能とし、回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、固定部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油をブレーキ装置に供給する第2制御を行うステップをさらに備える。
【0024】
この作業車両の制御方法では、ブレーキ装置が、制動状態である場合には、比較的多量の第1供給量の潤滑油がブレーキ装置に供給される。これにより、高い冷却能力を確保することができる。また、ブレーキ装置が、制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、潤滑油が常に第2供給量に低減されるのではなく、固定部材の温度に基づいて潤滑油の供給量の第1供給量から第2供給量への変更が判断される。これにより、固定部材の温度の低下が十分ではない場合には第1供給量を維持し、固定部材の温度が十分に低下した場合に第2供給量に低減させることができる。これにより、常時、多量の潤滑油がブレーキ装置に供給される場合と比べて、ブレーキ装置における駆動力のロスを抑制することができる。また、ブレーキ装置の制動状態・非制動状態の切替に応じて供給量が増減される場合と比べて、回転部材の冷却を適切に行うことができ、オーバーヒートの発生を抑えることができる。
【0025】
また、この作業車両の制御方法では、回転部材の回転数が比較的高回転数である場合に、上記の第1制御が実行可能とされる。これによって、駆動力のロスを抑える効果をさらに向上させることができる。また、回転部材の回転数が比較的低回転数である場合には、第2制御が行われる。第2制御では、固定部材の温度およびブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油がブレーキ装置に供給されるため、回転部材の冷却能力を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ブレーキ装置における駆動力のロスを抑制することができると共に、オーバーヒートの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】作業車両の概略システム構成図。
【図2】ブレーキ装置の構成を示す断面図。
【図3】作業車両の制御フローチャート。
【図4】本発明の作業車両の制御内容を示すタイミングチャート。
【図5】従来の作業車両の制御内容を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
〔構成〕
本発明の第1実施形態に係る作業車両1の概略システム構成図を図1に示す。この作業車両1は、例えばブルドーザであり、エンジン2、動力伝達機構3、一対の走行装置4a,4b、一対のブレーキ装置5a,5b、潤滑油供給部6、各種の操作部32−35、各種のセンサ41−43、制御部7などを備えている。
【0029】
〔エンジン2〕
エンジン2は、ディーゼルエンジンであり、図示しない燃料噴射ポンプからの燃料の噴射量が調整されることにより、エンジン2の出力が制御される。具体的には、実際のエンジン回転数が制御部7によって設定されたエンジン回転数になるように、負荷に応じてエンジン回転数と燃料噴射量とが調整される。エンジン2からの駆動力は、動力取出装置8を介して、動力伝達機構3や、後述する油圧ポンプ30に分配される。
【0030】
〔動力伝達機構3〕
動力伝達機構3は、エンジン2からの駆動力を一対の走行装置4a,4bに伝達する機構であり、トルクコンバータ9、トランスミッション10、ベベルギヤ11、横軸12、一対の操向クラッチ13a,13b、一対の出力軸14a,14bなどを有する。
【0031】
トルクコンバータ9は、エンジン2からの駆動力をトランスミッション10に伝達する。
【0032】
トランスミッション10は、エンジン2から出力軸14a,14bに伝達される駆動力を変速するための装置であり、駆動力をトルクコンバータ9からベベルギヤ11に伝達する。トランスミッション10は、制御部7からの制御信号によって制御されることにより、前進と後進と切り替える。また、トランスミッション10は、制御部7からの制御信号によって制御されることにより、速度段の切替を行う。例えば、前進1〜3速および後進1〜3速の切り替えが可能である。トランスミッション10から出力されたエンジン2の駆動力は、ベベルギヤ11に伝達される。
【0033】
図2に示すように、ベベルギヤ11に伝えられた動力は、横軸12および操向クラッチ13aを介して出力軸14aに伝えられる。操向クラッチ13aは、クラッチピストン15によってクラッチディスク16を皿バネにより圧接、また油圧により切断することによりON/OFFを行う。なお、図2では、一対の操向クラッチ13a,13bのうち一方の操向クラッチ13aのみを図示しているが、他方の操向クラッチ13bも同様の構造である。また、左右一対の操向クラッチ13aと左右一対のブレーキ装置5a,5bとで、作業車両1の操向装置を構成している。
【0034】
〔一対の走行装置4a,4b〕
一対の走行装置4a,4bは、図1に示すように、それぞれ、スプロケット17a,17bと、スプロケット17a,17bに巻回される履帯18a,18bとを有している。スプロケット17a,17bは、動力伝達機構3の出力軸14a,14bに連結されており、エンジン2からの駆動力は、動力伝達機構3を介してスプロケット17a,17bにそれぞれ伝達される。スプロケット17a,17bが回転駆動されると、スプロケット17a,17bに巻回された履帯18a,18bが駆動され、これにより作業車両1が走行する。
【0035】
〔一対のブレーキ装置5a,5b〕
一対のブレーキ装置5a,5bのうち一方のブレーキ装置5aの構造を図2に示す。なお、他方のブレーキ装置5bも同様の構造である。このブレーキ装置5aは、いわゆる湿式多板式のブレーキ装置であり、複数のブレーキディスク20(回転部材)と、複数の固定プレート21(固定部材)と、ブレーキピストン22とを有している。ブレーキディスク20は固定プレート21の間にそれぞれ配置されており、横軸12および出力軸14aと共に回転する複数のブレーキディスク20と、車体側に固定された固定プレート21とが圧接されることによって制動力が発生する。なお、このブレーキ装置5aは、ブレーキピストン22に油圧がかけられていない状態において、皿バネの付勢力によってブレーキディスク20と固定プレート21とが圧接された制動状態となる。また、ブレーキピストン22に油圧がかけられることによって、ブレーキピストン22が皿バネの付勢力に抗してブレーキディスク20と固定プレート21とを離反させる。これにより、ブレーキ装置5aが非制動状態となる。
【0036】
ブレーキ装置5aの制動状態・非制動状態の切り替えが繰り返えされると、ブレーキディスク20に摩擦熱が発生する。このブレーキ装置5aでは、後述する潤滑油供給部6から供給される潤滑油によって、ブレーキディスク20の潤滑および冷却を行うことができる。図2に示すように、潤滑油供給部6から供給される潤滑油は、矢印のように潤滑油供給路23を通り、ブレーキ用供給路24aとクラッチ用供給路24bとの二つの経路に分岐する。なお、図2では、ブレーキ用供給路24aとクラッチ用供給路24bとは重なって配置されており、ブレーキ用供給路24aは、クラッチ用供給路24bの後方に位置している。ブレーキ用供給路24aに送られた潤滑油は、ブレーキ用供給口25を通り、ブレーキディスク20の隙間を通ってブレーキディスク20を潤滑および冷却する。また、クラッチ用供給路24bに送られた潤滑油は、クラッチ用供給口26を通り、クラッチディスク16の隙間を通ってクラッチディスク16を潤滑および冷却する。ブレーキディスク20の隙間を通った潤滑油およびクラッチディスク16の隙間を通った潤滑油は、図示しない回収経路を通って潤滑油供給部6に回収される。
【0037】
〔潤滑油供給部6〕
潤滑油供給部6は、図1に示すように、油圧ポンプ30と、流量切替弁31とを有しており、潤滑油をブレーキ装置5a,5bに供給する。
【0038】
油圧ポンプ30は、動力取出装置8を介して伝達されるエンジン2からの駆動力によって駆動される固定容量ポンプであり、上述したブレーキ装置5a,5bを冷却するための潤滑油を吐出する。
【0039】
流量切替弁31は、制御部7からの制御信号によって制御される電磁弁であり、ブレーキ装置5a,5bに供給される潤滑油の供給量を切り替える。流量切替弁31は、油圧ポンプ30から吐出された潤滑油の全量(以下、「第1供給量」と呼ぶ)をブレーキ装置5a,5bに供給する第1状態と、油圧ポンプ30から吐出された潤滑油を第1供給量より少ない第2供給量に減量してブレーキ装置5a,5bに供給する第2状態とに切り替え可能である。流量切替弁31が非励磁状態である場合には、バネの付勢力によって流量切替弁31は第1状態とされる。流量切替弁31が励磁状態である場合には、流量切替弁31は第2状態とされる。
【0040】
〔各種の操作部32−35〕
各種の操作部32−35は、図示しない運転室に内装されており、オペレータによって操作されることにより作業車両1に各種の動作を行わせることができる。また、これらの操作部32−35による操作内容は、操作信号として制御部7へ送られる。操作部32−35には、スロットル操作部32、変速操作部33、ステアリング操作部34、ブレーキ操作部35などがある。
【0041】
スロットル操作部32は、エンジン回転数の変更を指示するためのものである。スロットル操作部32によって指定されたエンジン回転数は制御部7に入力され、制御部7はエンジン回転数が指定された回転数になるようにエンジン2を制御する。
【0042】
変速操作部33は、トランスミッション10の速度段の切替を指示するためのものである。この作業車両1では、前進・後進のそれぞれにおいて、第1速から第3速までの速度段の切替が可能である。オペレータが変速操作部33を操作すると、制御部7は、変速操作部33によって指定された速度段にトランスミッション10を切り替える。これにより、オペレータは、手動で速度段の切替を行うことができる。なお、制御部7による判断によって自動的にトランスミッション10の変速が行われてもよい。
【0043】
ステアリング操作部34は、作業車両1の前進・後退の切替、直進・旋回の切替、旋回方向の切替を指示するためのものである。オペレータは、ステアリング操作部34を操作することによりトランスミッション10の前進状態および後進状態を切り替えることができる。また、オペレータは、ステアリング操作部34を操作することにより、作業車両1の直進・旋回の切替、旋回方向の切替、旋回速度の調整を行うことができる。具体的には、ステアリング操作部34からの操作信号に応じて、制御部7が、一対の操向クラッチ13a,13bおよび一対のブレーキ装置5a,5bの制御を行うことにより、上記操向の切替が行われる。例えば、両方の操向クラッチ13a,13bがONにされ、且つ、両方のブレーキ装置5a,5bが非制動状態にされると、作業車両1は直進する。この状態から、一方の操向クラッチ13aがOFFにされると、作業車両1は緩旋回する。また、一方の操向クラッチ13aがOFFにされ、且つ、OFFにされた操向クラッチ13aと同じ側のブレーキ装置5aが制動状態にされると、車両は信地旋回する。上記と逆方向に旋回する場合は、操向クラッチ13bがOFFにされ、ブレーキ装置5bが制動状態にされる。また、両方の操向クラッチ13a,13bがOFFにされ、両方のブレーキ装置5a,5bが制動状態にされると車両は停止する。
【0044】
ブレーキ操作部35は、作業車両1の減速を指示するためのものである。ブレーキ操作部35が操作されると、制御部7は、ブレーキ操作部35の操作量に応じてブレーキ装置5a,5bの制動力を制御する。これにより、オペレータは、ブレーキ操作部35を操作することによって、作業車両1を減速・停止させることができる。
【0045】
なお、図示していないが、この作業車両1は、ブレードなどの作業機と、作業機を駆動するための油圧シリンダおよび油圧シリンダに圧油を供給する作業機用油圧ポンプなどを備えており、図示しない作業機操作部が操作されることにより、作業機による各種の作業を行うことができる。
【0046】
〔各種のセンサ41−43〕
各種のセンサには、エンジン回転数センサ41、ベベルギヤ回転数センサ42、潤滑油温度センサ43などがある。
【0047】
エンジン回転数センサ41は、エンジン2の実際のエンジン回転数を検出する。
【0048】
ベベルギヤ回転数センサ42は、ベベルギヤ11の回転数を検出する。なお、ベベルギヤ回転数センサ42によって検出されたベベルギヤ11の回転数からブレーキ装置5a,5bのブレーキディスク20の回転数が求められるため、ベベルギヤ回転数センサ42は、ブレーキディスク20の回転数を検知する回転数検知部として機能する。
【0049】
潤滑油温度センサ43は、潤滑油の温度を検出する。
【0050】
これらのセンサ41−43によって検出された情報は、検出信号として制御部7に入力される。
【0051】
〔制御部7〕
制御部7は、マイクロコンピュータや数値演算プロセッサ等の演算処理装置やメモリーなどによって構成されている。制御部7は、操作部32−35からの操作信号、各種のセンサ41−43からの検出信号、制御部7に記憶されている制御データなどに基づいて、エンジン2、動力伝達機構3、ブレーキ装置5a,5b、潤滑油供給部6などの制御を行う。ここで、制御部7は、ブレーキディスク20の温度に基づいてブレーキ装置5a,5bへの潤滑油の供給量を制御する第1制御と、ブレーキディスク20の温度およびブレーキ装置5a,5bの制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油をブレーキ装置5a,5bに供給する第2制御とを選択的に実行することができる。以下、制御部7が行うブレーキ装置5a,5bへの潤滑油の供給量の制御について、図3のフローチャートおよび図4のタイミングチャートに基づいて詳細に説明する。なお、図3のフローチャートで示される制御は、作業車両1のエンジン起動後に、常時、繰り返して実行される。
【0052】
〔潤滑油の供給量の制御〕
まず、第1ステップS1において、トランスミッション10の速度段が前進の第1速であるか否かが判断される。ここでは、変速操作部33から制御部7に送られた操作信号に基づいて、トランスミッション10の速度段が検知される。トランスミッション10の速度段が前進の第1速である場合には、第4ステップS4に進む。
【0053】
第4ステップS4では、流量切替弁31が第1状態にされ、第1供給量の潤滑油がブレーキ装置5a,5bに供給される。このように、トランスミッション10の速度段が前進の第1速である場合には、ブレーキディスク20の温度およびブレーキ装置5a,5bの制動状態・非制動状態に関わらず所定量の潤滑油をブレーキ装置5a,5bに供給する第2制御が行われる。
【0054】
第1ステップS1において、トランスミッション10の速度段が前進第1速の低速速度段ではない場合、すなわち、前進第2速、第3速の高速速度段である場合又は後進第1速〜第3速である場合は、第2ステップS2に進む。
【0055】
第2ステップS2では、ブレーキ装置5a,5bが制動状態であるか否かが判断される。ブレーキ装置5a,5bの少なくとも一方が制動状態である場合には、第3ステップS3に進む。
【0056】
第3ステップS3では、ブレーキディスク温度

が算出される。ここでは、以下のようにしてブレーキディスク温度

が算出される。
【0057】
単位時間当たりのブレーキディスク20の発熱量

単位時間当たりのブレーキディスク20の放熱量

単位時間当たりのブレーキディスク20の蓄熱量

とすると、


(1)
である。
【0058】
なお、

について、Tは、ブレーキトルクであり、ブレーキディスク径、ブレーキディスク20の枚数、ブレーキディスク20の摩擦係数などのブレーキディスク20の諸元データと、ブレーキディスク20の圧接力とから算出される。ブレーキディスク20の諸元データは、予め制御部7に記憶されている。ブレーキディスク20の圧接力は、ブレーキ操作部35やステアリング操作部34からの操作信号に基づいて算出される。また、Nは、ブレーキディスク20の回転数であり、ベベルギヤ回転数センサ42が検出したベベルギヤ11の回転数から算出される。
【0059】
また、

について、

は、エンジン起動後、n回目に算出されたブレーキディスク20の温度である。

は、潤滑油の温度である。

は、潤滑油の供給量である。
【0060】
上記(1)式の

を比熱cで除して時間tで積分することにより、ブレーキディスク温度の変化量

が求まる。
【0061】
すなわち、




である。なお、ブレーキディスク温度の初期値tr(0)は、潤滑油温度

に等しいと見なす。
【0062】
なお、ブレーキ装置5a,5bが制動状態である場合は、

であり、ブレーキ装置5a,5bが非制動状態である場合は、

である。
【0063】
これより、ブレーキディスク温度

が算出され、制御部7によってブレーキディスク温度が把握される。なお、このブレーキディスク温度

は、次回のブレーキディスク温度

の演算に用いられる。
【0064】
次に、第4ステップS4において、流量切替弁31が第1状態とされる。これにより、図4の期間T1,T3,T5,T7,T9,T12のように、第1供給量Q1の潤滑油がブレーキ装置5a,5bに供給される。すなわち、ブレーキ装置5a,5bが制動状態である場合には、ブレーキディスク20の発熱量が比較的大きいため、多量の潤滑油がブレーキ装置5a,5bに供給されることにより、ブレーキ装置5a,5bの冷却能力が高められる。
【0065】
第2ステップS2において、ブレーキ装置5a,5bの両方が非制動状態である場合は、第5ステップS5に進む。
【0066】
第5ステップS5では、ブレーキディスク温度

が算出される。ここでは、上記の第3ステップS3と同様にしてブレーキディスク温度

が算出される。
【0067】
次に、第6ステップS6において、第5ステップS5で算出されたブレーキディスク温度

が所定の目標温度αより小さいか否かが判断される。
【0068】
ブレーキディスク温度

が目標温度αより低くない場合には、第4ステップS4に進み、第1供給量の潤滑油がブレーキ装置5aに供給される。すなわち、図4における期間T2,T4,T6,T8,T10,T13のように、ブレーキ操作部35からの操作信号(ブレーキ信号)がオフになっており、ブレーキ装置5a,5bが非制動状態となっていても、ブレーキディスク温度が十分に低下していない場合には、第1供給量の潤滑油が供給されることにより、高い冷却能力が維持される。
【0069】
ブレーキディスク温度

が所定の目標温度αより低い場合には、第7ステップS7に進み、第2供給量の潤滑油がブレーキ装置5aに供給される。すなわち、図4における期間T11,T14のように、ブレーキ操作部35からのブレーキ信号がオフになっており、すなわち、ブレーキ装置5aが非制動状態であり、且つ、ブレーキディスク温度が十分に低下している場合には、潤滑油の供給量が第2供給量Q2に低減される。これにより、ブレーキ装置5a,5bにおける駆動力のロスが抑えられる。
【0070】
なお、ブレーキ装置5aは、上記のようなポジティブブレーキではなく、ネガティブブレーキであってもよい。
【0071】
このように、ブレーキ装置5a,5bが制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、第5ステップS5〜第7ステップS7において、ブレーキディスク温度に基づいて潤滑油の供給量を制御する第1制御が行われる。
【0072】
〔特徴〕
この作業車両1では、ブレーキ装置5a,5bが制動状態である場合には、比較的多量の潤滑油がブレーキ装置5a,5bに供給されることにより、高い冷却能力が維持される。また、ブレーキ装置5a,5bが制動状態から非制動状態に切り替えられても、ブレーキディスク温度が高い間は、高い冷却能力が維持される。そして、ブレーキディスク温度が十分に低下した場合に潤滑油の供給量が低減される。
【0073】
これにより、常時、多量の潤滑油がブレーキ装置5a,5bに供給される場合と比べて、ブレーキ装置5a,5bにおける駆動力のロスを抑制することができる。
【0074】
また、ブレーキ装置5a,5bの制動状態・非制動状態の切替に応じて供給量が増減される場合は、図5に示すように、ブレーキ信号がオフになるとブレーキディスク20の温度が十分に下がっていない状態でも潤滑油の供給量が低減されてしまう。このため、断続的にブレーキ操作部35が操作されてブレーキ装置5a,5bの制動状態と非制動状態との切替が短時間に繰り返されると、実線L2で示すように、ブレーキディスク温度が上昇して、オーバーヒートが発生してしまう。
【0075】
しかし、この作業車両1では、ブレーキ装置5a,5bが制動状態から非制動状態に切り替えられても、ブレーキディスク温度が十分に低下するまで高い冷却能力が維持されるため、ブレーキディスク20の冷却を適切に行うことができ(図4の実線L1および図5の波線L1参照)、オーバーヒートの発生を抑えることができる。
【0076】
また、この作業車両1では、トランスミッション10が、ブレーキ装置5a,5bでの駆動力の抑制効果の高い高速速度段である場合に、上記の第1制御が実行可能とされ、ブレーキ装置5a,5bでの駆動力の抑制効果が低い低速速度段では、上記の第1制御は行われない。このため、トランスミッション10が低速速度段である場合のブレーキ装置5a,5bの冷却能力をより向上させることができる。
【0077】
また、ブレーキディスク20は高速で回転するため、ブレーキディスク温度を温度センサによって直接的に測定する場合には、耐久性の高い高価な温度センサが必要となる。また、ブレーキディスク20に隣接する固定プレート21に温度センサを取り付け、測定された固定プレート21の温度をブレーキディスク温度として代用することによっても、ブレーキディスク温度を求めることが可能である。制動状態では固定プレート21とブレーキディスク20とが密着しているからである。しかし、この場合も高価な温度センサが必要となる。これに対して、この作業車両1では、制御部7は、ブレーキディスク温度を計算によって求めているため、制御部7は、安価な構成でブレーキディスク温度を把握することができる。
【0078】
<第2実施形態>
上記の実施形態では、第6ステップS6において、ブレーキディスク温度

が所定の目標温度αより小さいか否かが判断されているが、第1供給量の潤滑油の供給によりブレーキディスク温度が目標温度に下降するまでに要する潤滑油供給時間が算出され、ブレーキ装置5a,5bが制動状態から非制動状態に切り替えられた時点から潤滑油供給時間が経過した場合に、潤滑油の供給量が第1供給量から第2供給量に低減されてもよい。例えば、図4において、期間T13に相当する時間が潤滑油供給時間として算出され、期間T12の終了時点(図4のP1参照)から潤滑油供給時間(T13)が経過したときに、潤滑油の供給量が第1供給量Q1から第2供給量Q2に低減される。この場合、潤滑油供給時間(T13)は、例えば、図4の時点P1における潤滑油温度Tp1を期間T13で一定と見なして、第5ステップS5で算出されたブレーキディスク温度

と目標温度αとより算出することができる。
【0079】
また、この場合、ブレーキ装置5a,5bが制動状態から非制動状態に切り替えられた時点から潤滑油供給時間が経過する前にブレーキ装置5a,5bが非制動状態から制動状態に切り換えられた場合は、その後に、ブレーキ装置5a,5bが制動状態から非制動状態に切り換えられた時点からの潤滑油供給時間が再算出される。これにより、ブレーキ操作部35が断続的に操作された場合でも、適切な潤滑油供給時間を確保することができる。
【0080】
<第3実施形態>
上記の実施形態では、第1ステップS1において、トランスミッション10の速度段が前進の第1速であるか否かが判断され、トランスミッション10の速度段が前進の第1速である場合には、第1制御が行われず第2制御が行われる。しかし、上記の判断に代えて又は上記の判断と併せて以下のような判断が行われてもよい。
【0081】
すなわち、ブレーキディスク20の回転数が所定値を越えているか否かが判断され、ブレーキディスク20の回転数が所定値を越えている場合には第1制御が実行可能とされ、ブレーキディスク20の回転数が所定値以下である場合には、第2制御が行われてもよい。
【0082】
この場合も、ブレーキ装置5a,5bでの駆動力の抑制効果の高い場合に、第1制御が実行可能とされ、ブレーキ装置5a,5bでの駆動力の抑制効果が低い場合には第1制御は行われず第2制御が行われる。これにより、ブレーキ装置5a,5bの冷却能力をより向上させることができる。
【0083】
<他の実施形態>
(a)
ブレーキディスク温度の算出方法は、上記のものに限られず、他の手法によって算出されてもよい。例えば、日本国特許公開公報−特開平11−72129号に記載のブレーキ摩擦材の温度推定方法が用いられてもよい。
【0084】
また、固定プレート21の温度がブレーキディスク温度として求められてもよい。
【0085】
(b)
上記の実施形態では、トランスミッション10の速度段が前進第1速である場合に第2制御が行われているが、他の速度段においても第2制御が行われるような制御が行われてもよい。例えば、前進第1速および前進第2速において第2制御が行われてもよい。また、全ての速度段において第1制御が行われてもよい。換言すれば、少なくともブレーキ装置5a,5bが非制動状態であり、回転部材が高速回転する高次の速度段(例えば前進第3速)である場合において第1制御を行うことにより、駆動力のロスを十分に抑制することができる。
【0086】
(c)
上記の実施形態では、第2供給量は少量の供給量とされているが、第2供給量がゼロとされてもよい。
【0087】
(d)
上記の実施形態では、一対のブレーキ装置5a,5bの少なくとも一方が制動状態である場合には第2制御が行われ、一対のブレーキ装置5a,5bの両方が非制動状態である場合に第1制御が実行可能とされている。しかし、ブレーキ装置5a,5bのそれぞれについて独立して潤滑油の供給量を変更可能として、供給量の変更が独立して判断されてもよい。
【0088】
(e)
上記の実施形態では、潤滑油の第1供給量Q1から第2供給量Q2への低減はステップ状に制御されているが、漸減するように制御されてもよい。
【0089】
(f)
上記の実施形態では、作業車両1としてブルドーザが例示されているが他の作業車両に本発明が適用されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、ブレーキ装置における駆動力のロスを抑制することができると共に、オーバーヒートの発生を抑えることができる効果を有し、作業車両および作業車両の制御方法として有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 作業車両
5a,5b ブレーキ装置
6 潤滑油供給部
7 制御部
10 トランスミッション
20 ブレーキディスク(回転部材)
21 固定プレート(固定部材)
42 ベベルギヤ回転数センサ(回転数検知部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせ、且つ、前記回転部材を潤滑油によって冷却可能なブレーキ装置と、
前記潤滑油を前記ブレーキ装置に供給する潤滑油供給部と、
前記回転部材の回転数を検知する回転数検知部と、
前記回転部材の温度に基づいて前記ブレーキ装置への前記潤滑油の供給量を制御する第1制御を実行可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ブレーキ装置が、前記回転部材と前記固定部材とが圧接された制動状態である場合は、前記潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、前記ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、前記第1制御において、前記回転部材の温度を計算によって求め、算出した前記回転部材の温度に基づいて前記潤滑油の供給量の前記第1供給量から前記第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断し、
前記制御部は、前記回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、前記第1制御を実行可能とし、前記回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、前記回転部材の温度および前記ブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の前記潤滑油を前記ブレーキ装置に供給する第2制御を行う、
作業車両。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1制御において、前記回転部材の温度が所定の目標温度より低い場合に前記潤滑油の供給量を前記第1供給量から前記第2供給量に低減する、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記制御部は、前記ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、前記第1制御において、前記第1供給量の潤滑油の供給により前記回転部材の温度が所定の目標温度に下降するまでに要する潤滑油供給時間を算出し、前記ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた時点から前記潤滑油供給時間が経過した場合に、前記潤滑油の供給量を前記第1供給量から前記第2供給量に低減する、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1制御において、前記ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた時点から前記潤滑油供給時間が経過する前に前記ブレーキ装置が非制動状態から制動状態に切り換えられた場合は、その後に、前記ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り換えられた時点からの前記潤滑油供給時間を再算出する、
請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせ、且つ、前記回転部材を潤滑油によって冷却可能なブレーキ装置と、
前記潤滑油を前記ブレーキ装置に供給する潤滑油供給部と、
前記回転部材の回転数を検知する回転数検知部と、
前記固定部材の温度に基づいて前記ブレーキ装置への前記潤滑油の供給量を制御する第1制御を実行可能な制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ブレーキ装置が、前記回転部材と前記固定部材とが圧接された制動状態である場合は、前記潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、前記ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、前記第1制御において、前記固定部材の温度を計算によって求め、算出した前記固定部材の温度に基づいて前記潤滑油の供給量の前記第1供給量から前記第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断し、
前記制御部は、前記回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、前記第1制御を実行可能とし、前記回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、前記固定部材の温度および前記ブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の前記潤滑油を前記ブレーキ装置に供給する第2制御を行う、
作業車両。
【請求項6】
出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせ、且つ、前記回転部材を潤滑油によって冷却可能なブレーキ装置と、前記潤滑油を前記ブレーキ装置に供給する潤滑油供給部と、前記回転部材の回転数を検知する回転数検知部と、前記ブレーキ装置への前記潤滑油の供給量を制御する制御部とを備える作業車両の制御方法であって、
前記制御部が前記回転部材の温度を計算によって求めるステップと、
前記ブレーキ装置が、前記回転部材と前記固定部材とが圧接された制動状態である場合は、前記潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、前記ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、前記回転部材の温度に基づいて前記潤滑油の供給量の前記第1供給量から前記第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断する第1制御を行なうステップと、
前記回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、前記第1制御を実行可能とし、前記回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、前記回転部材の温度および前記ブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の前記潤滑油を前記ブレーキ装置に供給する第2制御を行うステップと、
を備える作業車両の制御方法。
【請求項7】
出力軸と共に回転する回転部材と車体側に固定された固定部材とが圧接することによって制動力を生じさせ、且つ、前記回転部材を潤滑油によって冷却可能なブレーキ装置と、前記潤滑油を前記ブレーキ装置に供給する潤滑油供給部と、前記回転部材の回転数を検知する回転数検知部と、前記ブレーキ装置への前記潤滑油の供給量を制御する制御部とを備える作業車両の制御方法であって、
前記制御部が前記固定部材の温度を計算によって求めるステップと、
前記ブレーキ装置が、前記回転部材と前記固定部材とが圧接された制動状態である場合は、前記潤滑油の供給量を所定の第1供給量とし、前記ブレーキ装置が制動状態から非制動状態に切り替えられた場合には、前記固定部材の温度に基づいて前記潤滑油の供給量の前記第1供給量から前記第1供給量より少ない第2供給量への変更を判断する第1制御を行なうステップと、
前記回転部材の回転数が所定値を越えている場合には、前記第1制御を実行可能とし、前記回転部材の回転数が前記所定値以下である場合には、前記固定部材の温度および前記ブレーキ装置の制動状態・非制動状態に関わらず所定量の前記潤滑油を前記ブレーキ装置に供給する第2制御を行うステップと、
を備える作業車両の制御方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−91491(P2013−91491A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−276719(P2012−276719)
【出願日】平成24年12月19日(2012.12.19)
【分割の表示】特願2009−532151(P2009−532151)の分割
【原出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】