作業車両の走行変速装置
【課題】機体の急減速に起因する油圧クラッチ切断時や接続時の変速ショックを低減する。
【解決手段】制御装置29は、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4のみを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断すると略同時に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する一方、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4とともに高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断し、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続すると共に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する。
【解決手段】制御装置29は、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4のみを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断すると略同時に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する一方、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4とともに高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断し、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続すると共に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタなどの作業車両の走行変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧クラッチで構成する主変速装置と高低変速装置をその順に直列に結合し、これら油圧クラッチを制御装置によって断続制御して多段の変速を行う作業車両の走行変速装置が知られている。例えば、特許文献1に示される作業車両の走行変速装置は、4つの油圧クラッチで4段の変速を行う主変速装置と、2つの油圧クラッチで2段の変速を行う高低変速装置とを備え、これら油圧クラッチの断続制御によって8段の変速が可能であり、また、ギヤの選択的な噛み合い操作に基づいて機械的に3段の変速を行う副変速装置との組合せによって合計24段の変速が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−96214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示される作業車両の走行変速装置では、牽引等の重負荷作業で高低変速装置を切換える変速制御を行った場合、変速ショックが大きく、場合によっては機体が一且停止して、その後、再発進するという問題があった。
【0005】
その原因としては、変速にあたって主変速装置と高低変速装置の油圧クラッチを同時に切断すると、高低変速装置から上流側の回転質量に伴う慣性力が失われることや、牽引負荷により惰性走行が阻害されることにより、通常の変速時より機体が急減速してしまい、これが変速ショックと捉えられるものと考えられる。
【0006】
また、特許文献1に示される作業車両の走行変速装置では、5速から4速へのシフトダウン時に、高低変速装置の油圧クラッチを切断した後、回転数合わせのため主変速装置の4速油圧クラッチヘのワンショット出力(暫時接続)を行い、その後、高低変速装置の低速側の油圧クラッチを接続していた。しかしながら、この場合、4速油圧クラッチの暫時の接続により高低変速装置の入力側の回転数は、それまでの1速油圧クラッチが接続していた回転数より上昇して慣性力も増大するので、この上昇した回転数の元に高低変速装置の低速側の油圧クラッチを接続させた際の出力側の回転数は、変速前の回転数より低下しているものの、急減速に伴って低下した車軸側の回転数より高くなっており、その回転数差が大きい状態で油圧クラッチを即座に接続するために、ここで大きな変速ショックが発生すると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、油圧クラッチで構成する主変速装置と高低変速装置をその順に直列に結合し、これら油圧クラッチを制御装置によって断続制御して多段の変速を行う作業車両の走行変速装置において、前記制御装置は、変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチのみを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断すると略同時に、主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御する一方、変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチとともに高低変速装置の油圧クラッチを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断し、その後、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続すると共に、主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することを特徴とする。
また、前記主変速装置の油圧クラッチは、電磁比例減圧弁によって断続制御する一方、高低変速装置の油圧クラッチは、電磁切換弁によって断続制御するように構成し、前記制御装置は、変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチとともに高低変速装置の油圧クラッチを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時間が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断し、その後、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続してから主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することを特徴とする。
また、前記主変速装置と高低変速装置の間に、油圧クラッチで構成する前後進変速装置と、機械的に変速する副変速装置を介装することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時間(例えば、0.4秒)が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断することによって、主変速装置から高低変速装置に至る慣性力を車軸側に暫く伝えておくことができるので、機体の急減速を抑制してゆっくりと減速させることができ、その結果、機体の急減速に起因する油圧クラッチ切断時の変速ショックを低減することができる。
また、高低変速装置の入力側の回転数は、主変速装置の油圧クラッチの現変速段の油圧クラッチが切断された後、高低変速装置の油圧クラッチが切断されるまでのあいだ、車軸側からの逆駆動力を受けて低い回転数になっているので、高低変速装置の油圧クラッチを再度接続する際に、車軸側の回転数との差を少なくし、高低変速装置の油圧クラッチ接続時のショックを低減することができる。
また、請求項2の発明によれば、高低変速装置の油圧クラッチを電磁切換弁によって断続制御するように構成し、走行変速装置のコストダウンを図るものでありながら、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続してから主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することによって、高低変速装置及び主変速装置の油圧クラッチ接続時の変速ショックを低減することができる。
また、請求項3の発明によれば、主変速装置と高低変速装置の間に油圧クラッチで構成する前後進変速装置と、機械的に変速する副変速装置を介装したので、することによって、上記の慣性力をより増大させて変速ショックを一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】トランスミッションケースの全体断面図である。
【図3】変速段と車速の関係を示す説明図である。
【図4】トラクタの油圧構成を示す油圧回路図である。
【図5】操作部の平面図である。
【図6】メータパネルの正面図である。
【図7】制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図8】変速パターンの説明図である。
【図9】シフトダウン制御(ショック低減変速、通常の変速制御)の制御手順(状態遷移)を示すフローチャートである。
【図10】シフトダウン制御のショック低減変速を示すタイミングチャートである。
【図11】シフトダウン制御の通常の変速制御を示すタイミングチャートである。
【図12】シフトアップ制御(ショック低減変速、通常の変速制御)の制御手順(状態遷移)を示すフローチャートである。
【図13】シフトアップ制御のショック低減変速を示すタイミングチャートである。
【図14】シフトアップ制御の通常の変速制御を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、Tはトラクタ(作業車両)であって、該トラクタTには、トランスミッションケース1が搭載されている。図2に示すように、トランスミッションケース1は、主クラッチ機構2を介してエンジンEの動力を入力すると共に、入力した動力を走行動力伝動経路3とPTO動力伝動経路4とに分岐させる。
【0011】
走行動力伝動経路3には、摩擦多板式の油圧クラッチC1〜C4を用いて構成され、4段の変速を行う主変速装置5と、摩擦多板式の油圧クラッチCF、CRを用いて構成され、走行動力の正逆転変速を行う前後進切換装置6と、常時噛合式の歯車変速装置を用いて構成され、機械的に3段の変速を行う副変速装置7と、摩擦多板式の油圧クラッチCL、CHを用いて構成され、高低2段の変速を行う高低変速装置8とが設けられている。
【0012】
図3に示すように、上記の構成によれば、前後進切換装置6による変速によって前進と後進の切り換えができると共に、主変速装置5と高低変速装置8による変速の組み合せによって8段の走行変速が可能であり、さらに、副変速装置7による変速を組み合せることによって24段の走行変速が可能になる。ここで、副変速装置7が備える3段の変速位置のうち、低速位置L及び中速位置Mは、主に作業走行時に選択されるため、変速可能な車速範囲が比較的狭い(超低速〜4km/h程度)のに対し、高速位置Hは、主に路上走行時に選択されるため、変速可能な車速範囲を広く(6〜28km/h)してある。
【0013】
主変速装置5、副変速装置7及び高低変速装置8で変速された走行動力は、前車軸及び後車軸に伝動される。前車軸への動力伝動経路には、前車軸に伝達する動力を高低に変速又は切断する倍速伝動装置9が設けられており、該倍速伝動装置9による動力の変速又は切断によって、旋回時における前輪倍速駆動や4駆、2駆の切換えが行われるようになっている。そして、倍速伝動装置9は、摩擦多板式の油圧クラッチを用いて構成されることにより、円滑な変速や切断が可能となっている。
【0014】
PTO動力伝動経路4には、摩擦多板式の油圧クラッチを用いて構成されるPTOクラッチ10と、常時噛合式の歯車変速装置を用いて構成されるPTO変速装置11とが設けられており、走行状態に影響されない独立したPTO動力伝動系、すなわち、インディペンデントPTO仕様のPTO動力伝動経路4を構成している。
【0015】
本実施形態のトラクタTには、図4に示すような油圧回路が構成されている。この油圧回路は、2つの油圧ポンプP1、P2を備え、一方の油圧ポンプP1から供給される油圧で、倍速伝動装置9、リフトシリンダ12及びリフトロッドシリンダ13を動作させ、他方の油圧ポンプP2から供給される油圧で、ステアリングユニット14、主変速装置5、前後進切換装置6、高低変速装置8、PTOクラッチ10及び自動ブレーキ旋回装置15を動作させるように構成されている。
【0016】
少なくとも、主変速装置5及び高低変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHは、電磁弁の制御にもとづいて作動される。電磁比例減圧弁の昇圧制御にもとづく油圧クラッチの作動制御によれば、変速ショックの少ない円滑な走行変速が可能となるが、主変速装置5及び高低変速装置8の各油圧クラッチC1〜C4、CL、CHをすべて電磁比例減圧弁で制御するものでは、電磁比例減圧弁の必要個数が多くなり、高価な走行変速装置となってしまうという問題がある。また、高低変速装置8の各油圧クラッチCL、CHを電磁比例減圧弁で制御し、主変速装置5の各油圧クラッチC1〜C4を電磁切換弁で制御するようにした場合、安価な走行変速装置とすることが可能であるが、電磁比例減圧弁の昇圧制御にもとづいて円滑な走行変速を行うには、変速の度に高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続しなければならないため、高低変速装置8に設けられる油圧クラッチCL、CHの耐久性を向上させなければならない。
【0017】
そこで、本実施形態のトラクタTでは、図4に示すように、主変速装置5の各油圧クラッチC1〜C4を、それぞれ電磁比例減圧弁16a〜16dの昇圧制御にもとづいて択一的に作動制御し、高低変速装置8の各油圧クラッチCL、CHを、電磁切換弁17の切換え制御にもとづいて作動制御する。このようにすると、主変速装置5及び高低変速装置8の各油圧クラッチC1〜C4、CL、CHをすべて電磁比例減圧弁で制御するものに比べ、走行変速装置を安価に構成することができる。また、変速の度に高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続する必要がないので、高低変速装置8に設けられる油圧クラッチCL、CHの耐久性を向上させるためのコストアップが回避される。尚、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを作動させる油路には、油圧クラッチCL、CHの接続状態を検出すための圧力スイッチ18が設けられ、また、油圧回路の適所には、作動油の温度を検出するための油温センサ19が設けられている。
【0018】
図1及び図5に示すように、トラクタTの機体上には、オペレータが乗車する操作部20が構成されている。操作部20には、オペレータが着座する運転席が設けられると共に、走行操作や作業機Wの操作を行うための各種操作具が設けられている。例えば、運転席21の前方には、機体を操向するためのステアリングハンドルHや、前後進切換装置6を切り換えるための前後進切換レバー22が設けられ、運転席21の左側方には、副変速装置7を切り換えるための副変速レバー23が設けられている。また、副変速レバー23のグリップ部23aには、主変速装置5及び高低変速装置8を変速操作するための変速スイッチ(増速スイッチ24、減速スイッチ25)が設けられると共に、副変速レバー23を高速側に切り換える際に選択的に操作される高速スタートスイッチ26が設けられている。
【0019】
図6に示すように、運転席21の前方には、メータパネル27が設けられている。メータパネル27内には、タコメータや各種のモニタランプが設けられるだけでなく、各種の状態表示や設定表示を行う表示部28が設けられている。本実施形態の表示部28は、液晶パネルで構成されると共に、表示部28の下方位置に設けられる複数の操作スイッチSW1〜SW6で画面の切り換え操作や、各種の設定操作が行われるようになっている。
【0020】
図7に示すように、トラクタTには、マイコンなどを用いて構成される制御装置29が設けられている。本実施形態の制御装置29は、3つのマイコン29a〜29cを用いて構成されており、その入力側には、前述した圧力スイッチ18、油温センサ19、増速スイッチ24、減速スイッチ25、高速スタートスイッチ26、操作スイッチSW1〜SW6に加え、副変速レバー23の操作位置(高速、中速、低速、ニュートラル)を検出する4つの副変速スイッチ30〜33と、前後進切換レバー22の操作位置(前進、後進、ニュートラル)を検出する3つの前後進スイッチ34〜36と、車速を検出する車速センサ37と、エンジン回転を検出するエンジン回転センサ38とが接続されている。また、制御装置29の出力側には、前述した電磁比例減圧弁16a〜16d及び電磁切換弁17のソレノイドバルブや表示部28などが接続されている。尚、以下の説明では、電磁比例減圧弁16a〜16d及び電磁切換弁17のソレノイドバルブを、それぞれの機能をわかり易くするために、適宜、主変速バルブ(1速〜4速)、高低変速バルブ(高速、低速)、又は、主変速バルブ(1〜4)、高低変速バルブ(H、L)という。
【0021】
制御装置29は、予めROMに書き込まれたプログラムにしたがって、主に電磁比例減圧弁16a〜16d及び電磁切換弁17を制御し、図8に示すような変速パターンを現出させる。具体的には、増速スイッチ24の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させるシフトアップ制御、減速スイッチ25の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させるシフトダウン制御、副変速レバー23の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させる副変速操作連動制御、エンジン始動時における主変速装置5及び高低変速装置8の初期変速段を設定する初期変速段設定制御、前後進切換レバー22の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を入り切りさせる前後進操作連動制御などが行われるようになっている。以下、本発明の要旨であるシフトアップ制御及びシフトダウン制御について順次説明する。
【0022】
シフトアップ制御は、増速スイッチ24の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させる制御であり、副変速装置7が低速位置(L速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて1速から8速までシフトアップさせ、副変速装置7が中速位置(M速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて9速から16速までシフトアップさせ、副変速装置7が高速位置(H速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて17速から24速までシフトアップさせる。ただし、主変速装置5及び高低変速装置8による8段階の変速のうち、1〜4速(9〜12速、17〜20速)、5〜8速(13〜16速、21〜24速)の範囲内におけるシフトアップ制御時には、高低変速装置8を切り換えることなく、主変速装置5を一段上の変速段に切り換え、4速から5速(12速から13速、20速から21速)へのシフトアップ制御時には、高低変速装置8を高速段に切り換えると共に、主変速装置5を最低速段に切り換える。
【0023】
シフトダウン制御は、減速スイッチ25の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させる制御であり、副変速装置7が低速位置(L速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて8速から1速までシフトダウンさせ、副変速装置7が中速位置(M速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて16速から9速までシフトダウンさせ、副変速装置7が高速位置(H速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて24速から17速までシフトダウンさせる。ただし、主変速装置5及び高低変速装置8による8段階の変速のうち、4〜1速(12〜9速、20〜17速)、8〜5速(16〜13速、24〜21速)の範囲内におけるシフトダウン制御時には、高低変速装置8を切り換えることなく、主変速装置5を一段下の変速段に切り換え、5速から4速(13速から12速、21速から20速)へのシフトダウン制御時には、高低変速装置8を低速段に切り換えると共に、主変速装置5を最高速段に切り換える。
【0024】
上記のようなシフトアップ制御やシフトダウン制御を行うにあたり、牽引等の重負荷作業で高低変速装置8を切換える変速制御を行った場合、変速ショックが大きく、場合によっては機体が一且停止して、その後、再発進する可能性があった。その原因としては、変速にあたって主変速装置5と高低変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを同時に切断すると、高低変速装置8から上流側の回転質量に伴う慣性力が失われることや、牽引負荷により惰性走行が阻害されることにより、通常の変速時より機体が急減速してしまい、これが変速ショックと捉えられるものと考えられる。
【0025】
また、5速から4速へのシフトダウン時には、通常、高低変速装置8の高速側の油圧クラッチCHを切断した後、回転数合わせのため主変速装置5の4速油圧クラッチC4ヘのワンショット出力を行い、その後、高低変速装置8の低速側の油圧クラッチCLを接続していたが、この場合、4速油圧クラッチC4の暫時の接続により高低変速装置8の入力側の回転数は、それまでの1速油圧クラッチC1が接続していた回転数より上昇して慣性力も増大するので、この上昇した回転数の元に高低変速装置8の低速側の油圧クラッチCLを接続させた際の出力側の回転数は、変速前の回転数より低下しているものの、急減速に伴って低下した車軸側の回転数より高くなっており、その回転数差が大きい状態で油圧クラッチを即座に接続するために、ここで大きな変速ショックが発生すると考えられる。
【0026】
上記のような問題を解決するために、本発明の実施形態に係る制御装置29は、変速スイッチからの変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4のみを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断すると略同時に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する一方、変速スイッチからの変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4とともに高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断し、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続すると共に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する。
【0027】
このようにすると、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時間(例えば、0.4秒)が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断することによって、主変速装置5から高低変速装置8に至る慣性力を車軸側に暫く伝えておくことができるので、機体の急減速を抑制してゆっくりと減速させることができ、その結果、機体の急減速に起因する油圧クラッチ切断時の変速ショックを低減することができる。
【0028】
また、高低変速装置8の入力側の回転数は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4が切断された後、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHが切断されるまでのあいだ、車軸側からの逆駆動力を受けて低い回転数になっているので、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを再度接続する際に、車軸側の回転数との差を少なくし、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを低減することができる。
【0029】
また、本発明の実施形態に係る制御装置29は、上記のような変速制御を行うにあたり、変速指令がシフトダウン指令である場合には、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCHを切断する際の車速が変速目標とする速度に対して所定の割合を乗算した速度以下に減速しているか否かを判断し、これが減速していると判断した場合には、車速が上記所定の割合よりさらに少なくした第2の割合で乗算した速度以下に下がったこと、又は車速が所定の速度以下に下がったことに応じて、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを接続し、その後、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を昇圧制御し、また、これが減速していないと判断した場合には、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を暫時接続して回転数の同期処理を行い、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを接続し、次いで、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を昇圧制御する。
【0030】
このようにすると、シフトダウン時においては、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCHを切断する際の車速が変速目標とする速度に対して所定の割合を乗算した速度以下に減速しているか否かを判断し、その判断結果に応じて変速制御を変更するので、急減速時(例えば、高負荷作業時)と緩減速時(例えば、路上走行時)を区別して最適な変速制御を行うことにより、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを一層低減することができる。
【0031】
また、上記判断において減速していると判断した場合には、車速が上記所定の割合よりさらに少なくした第2の割合で乗算した速度以下に下がったこと、又は車速が所定の速度以下に下がったことに応じて、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを接続し、その後、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を昇圧制御するので、機体が急減速する変速時には、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを、変速ショックが低減される車速まで十分に減速してから接続することになり、その結果、機体の急減速に起因する高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックをより確実に低減することができる。
【0032】
また、上記判断において減速していないと判断した場合には、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を暫時接続して回転数の同期処理を行い、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを接続し、次いで、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を昇圧制御するので、機体が急減速しない通常の変速時には、従来と同様に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を暫時接続して高低変速装置8の回転数の同期処理を行うことによって、高低変速装置8を接続する際の変速ショックを低減することができる。
【0033】
また、本発明の実施形態に係る制御装置29は、変速指令がシフトアップ指令である場合には、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCLを切断する際の車速が、変速前の速度に対して所定の割合を乗算した速度以下に減速しているか否かを判断し、これが減速していると判断した場合には、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を暫時接続して回転数の同期処理を行い、その後、車速が上記所定の割合よりさらに少なくした第2の割合で乗算した速度以下に下がったこと、又は車速が所定の速度以下に下がったことに応じて、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCHを接続し、次いで、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を昇圧制御し、また、これが減速していないと判断した場合には、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を暫時接続して回転数の同期処理を行い、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCHを接続し、次いで、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を昇圧制御する。
【0034】
このようにすると、シフトアップ時においても、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCLを切断する際の車速が、変速前の速度に対して所定の割合を乗算した速度以下に減速しているか否かを判断し、その判断結果に応じて変速制御を変更するので、急減速時と緩減速時を区別して最適な変速制御を行うことにより、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを一層低減することができる。
【0035】
また、シフトアップ時においては、上記判断において減速していると判断した場合であっても、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を暫時接続して回転数の同期処理を行うので、高低変速装置8の入力側の回転数を、現変速段の油圧クラッチC4が接続していた回転数から次変速段の油圧クラッチC1が接続する回転数に下げることことができ、その結果、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCHを接続した際の車軸側の回転数との差を小さくし、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを一層低減することができる。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係るシフトアップ制御及びシフトダウン制御の具体的な制御手順(状態遷移)について、図9〜図14を参照して説明する。
【0037】
図9は、シフトダウン制御(ショック低減変速、通常の変速制御)の制御手順(状態遷移)を示すフローチャート、図10はシフトダウン制御のショック低減変速を示すタイミングチャート、図11はシフトダウン制御の通常の変速制御を示すタイミングチャートである。
図9は、主変速装置5及び高低変速装置8を断続制御するシフトダウン制御(5速から4速)の例として、副変速装置7を中速位置Mとした13速から12速へのシフトダウン制御を示しており、この図に示すように、13速の状態では、主変速バルブ(1速)及び高低変速バルブ(高速)をONとする(S101)。この状態で減速スイッチ25が操作されたら、主変速バルブ(1速)をOFFとした後(S102)、0.4秒の経過を待ってから車速の確認を行う(S103)。ここで、現在の車速が目標速度の80%を超えている場合は通常の変速制御を行う一方、現在の車速が目標速度の80%以下の場合はショック低減変速を行う。
【0038】
通常の変速制御では、まず、高低変速バルブ(高速)をOFFにすると共に、主変速バルブ(4速)にワンショット出力を行う(S104)。その後、0.4秒経過したら、高低変速バルブ(低速)をONにすると共に、主変速バルブ(4速)に低電流出力を行う(S105)。その後、圧力スイッチ18がONとなったら、すなわち高低変速装置8の低速側の油圧クラッチCLが接続状態となったら、主変速バルブ(4速)の昇圧制御により主変速装置8の4速用の油圧クラッチC4を接続させ(S106)、12速へのシフトダウンが完了する(S107)。
【0039】
一方、ショック低減変速では、まず、高低変速バルブ(高速)及び主変速バルブ(4速)をOFFにする(S108)。その後、車速が目標車速の40%以下に下がったこと、車速が0.2km/h以下に下がったこと、または、1秒以上経過(タイムアウト)したことに応じて、高低変速バルブ(低速)をONにする(S109)。その後、圧力スイッチ18がONとなったら、主変速バルブ(4速)の昇圧制御により主変速装置8の4速用の油圧クラッチC4を接続させ(S110)、12速へのシフトダウンが完了する(S107)。
【0040】
図12は、シフトアップ制御(ショック低減変速、通常の変速制御)の制御手順(状態遷移)を示すフローチャート、図13はシフトアップ制御のショック低減変速を示すタイミングチャート、図14はシフトアップ制御の通常の変速制御を示すタイミングチャートである。
図12は、主変速装置5及び高低変速装置8を断続制御するシフトアップ制御(4速から5速)の例として、副変速装置7を中速位置Mとした12速から13速へのシフトアップ制御を示しており、この図に示すように、12速の状態では、主変速バルブ(4速)及び高低変速バルブ(低速)をONとする(S201)。この状態で増速スイッチ24が操作されたら、主変速バルブ(4速)をOFFとした後(S202)、0.4秒の経過を待ってから車速の確認を行う(S203)。ここで、現在の車速が変速前の速度の80%を超えている場合は通常の変速制御を行う一方、現在の車速が変速前の速度の80%以下の場合はショック低減変速を行う。
【0041】
通常の変速制御では、まず、高低変速バルブ(低速)をOFFにすると共に、主変速バルブ(1速)にワンショット出力を行う(S204)。その後、0.4秒経過したら、高低変速バルブ(高速)をONにすると共に、主変速バルブ(1速)に低電流出力を行う(S205)。その後、圧力スイッチ18がONとなったら、主変速バルブ(1速)の昇圧制御により主変速装置8の1速用の油圧クラッチC1を接続させ(S206)、13速へのシフトアップが完了する(S207)。
【0042】
一方、ショック低減変速では、まず、高低変速バルブ(低速)をOFFにすると共に、主変速バルブ(1速)にワンショット出力を行い(S208)、その後、0.4秒経過したら、主変速バルブ(1速)をOFFにする(S209)。その後、車速が変速前の走行速度の40%以下に下がったこと、車速が0.2km/h以下に下がったこと、または、1秒以上経過(タイムアウト)したことに応じて、高低変速バルブ(高速)をONにする(S210)。その後、圧力スイッチ18がONとなったら、主変速バルブ(1速)の昇圧制御により主変速装置8の1速用の油圧クラッチC1を接続させ(S211)、13速へのシフトアップが完了する(S207)。
【0043】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、油圧クラッチC1〜C4、CL、CHで構成する主変速装置5と高低変速装置8をその順に直列に結合し、これら油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを制御装置29によって断続制御して多段の変速を行うトラクタTの走行変速装置において、制御装置29は、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4のみを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断すると略同時に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する一方、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4とともに高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断し、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続すると共に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御するので、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時間(例えば、0.4秒)が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断することによって、主変速装置5から高低変速装置8に至る慣性力を車軸側に暫く伝え、機体の急減速を抑制してゆっくりと減速させることができ、その結果、機体の急減速に起因する油圧クラッチ切断時の変速ショックを低減することができる。
【0044】
また、高低変速装置8の入力側の回転数は、主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4の現変速段の油圧クラッチC1〜C4が切断された後、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHが切断されるまでのあいだ、車軸側からの逆駆動力を受けて低い回転数になっているので、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを再度接続する際に、車軸側の回転数との差を少なくし、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを低減することができる。
【0045】
また、主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4は、電磁比例減圧弁16a〜16dによって断続制御する一方、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CRは、電磁切換弁17によって断続制御するように構成し、制御装置29は、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4とともに高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時間が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断し、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続してから主変速装置8の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御するので、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを電磁切換弁17によって断続制御するように構成し、走行変速装置のコストダウンを図るものでありながら、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続してから主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御することによって、高低変速装置8及び主変速装置5の油圧クラッチ接続時の変速ショックを低減することができる。
【0046】
また、主変速装置5と高低変速装置8の間に、油圧クラッチCF、CRで構成する前後進変速装置6と、機械的に変速する副変速装置7を介装するので、上記の慣性力をより増大させて変速ショックを一層低減することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 トランスミッションケース
5 主変速装置
6 前後進切換装置
7 副変速装置
8 高低変速装置
16 電磁比例減圧弁
17 電磁切換弁
23 副変速レバー
24 増速スイッチ
25 減速スイッチ
29 制御装置
C 油圧クラッチ
T トラクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタなどの作業車両の走行変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧クラッチで構成する主変速装置と高低変速装置をその順に直列に結合し、これら油圧クラッチを制御装置によって断続制御して多段の変速を行う作業車両の走行変速装置が知られている。例えば、特許文献1に示される作業車両の走行変速装置は、4つの油圧クラッチで4段の変速を行う主変速装置と、2つの油圧クラッチで2段の変速を行う高低変速装置とを備え、これら油圧クラッチの断続制御によって8段の変速が可能であり、また、ギヤの選択的な噛み合い操作に基づいて機械的に3段の変速を行う副変速装置との組合せによって合計24段の変速が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−96214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示される作業車両の走行変速装置では、牽引等の重負荷作業で高低変速装置を切換える変速制御を行った場合、変速ショックが大きく、場合によっては機体が一且停止して、その後、再発進するという問題があった。
【0005】
その原因としては、変速にあたって主変速装置と高低変速装置の油圧クラッチを同時に切断すると、高低変速装置から上流側の回転質量に伴う慣性力が失われることや、牽引負荷により惰性走行が阻害されることにより、通常の変速時より機体が急減速してしまい、これが変速ショックと捉えられるものと考えられる。
【0006】
また、特許文献1に示される作業車両の走行変速装置では、5速から4速へのシフトダウン時に、高低変速装置の油圧クラッチを切断した後、回転数合わせのため主変速装置の4速油圧クラッチヘのワンショット出力(暫時接続)を行い、その後、高低変速装置の低速側の油圧クラッチを接続していた。しかしながら、この場合、4速油圧クラッチの暫時の接続により高低変速装置の入力側の回転数は、それまでの1速油圧クラッチが接続していた回転数より上昇して慣性力も増大するので、この上昇した回転数の元に高低変速装置の低速側の油圧クラッチを接続させた際の出力側の回転数は、変速前の回転数より低下しているものの、急減速に伴って低下した車軸側の回転数より高くなっており、その回転数差が大きい状態で油圧クラッチを即座に接続するために、ここで大きな変速ショックが発生すると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、油圧クラッチで構成する主変速装置と高低変速装置をその順に直列に結合し、これら油圧クラッチを制御装置によって断続制御して多段の変速を行う作業車両の走行変速装置において、前記制御装置は、変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチのみを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断すると略同時に、主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御する一方、変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチとともに高低変速装置の油圧クラッチを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断し、その後、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続すると共に、主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することを特徴とする。
また、前記主変速装置の油圧クラッチは、電磁比例減圧弁によって断続制御する一方、高低変速装置の油圧クラッチは、電磁切換弁によって断続制御するように構成し、前記制御装置は、変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチとともに高低変速装置の油圧クラッチを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時間が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断し、その後、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続してから主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することを特徴とする。
また、前記主変速装置と高低変速装置の間に、油圧クラッチで構成する前後進変速装置と、機械的に変速する副変速装置を介装することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時間(例えば、0.4秒)が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断することによって、主変速装置から高低変速装置に至る慣性力を車軸側に暫く伝えておくことができるので、機体の急減速を抑制してゆっくりと減速させることができ、その結果、機体の急減速に起因する油圧クラッチ切断時の変速ショックを低減することができる。
また、高低変速装置の入力側の回転数は、主変速装置の油圧クラッチの現変速段の油圧クラッチが切断された後、高低変速装置の油圧クラッチが切断されるまでのあいだ、車軸側からの逆駆動力を受けて低い回転数になっているので、高低変速装置の油圧クラッチを再度接続する際に、車軸側の回転数との差を少なくし、高低変速装置の油圧クラッチ接続時のショックを低減することができる。
また、請求項2の発明によれば、高低変速装置の油圧クラッチを電磁切換弁によって断続制御するように構成し、走行変速装置のコストダウンを図るものでありながら、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続してから主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することによって、高低変速装置及び主変速装置の油圧クラッチ接続時の変速ショックを低減することができる。
また、請求項3の発明によれば、主変速装置と高低変速装置の間に油圧クラッチで構成する前後進変速装置と、機械的に変速する副変速装置を介装したので、することによって、上記の慣性力をより増大させて変速ショックを一層低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】トラクタの側面図である。
【図2】トランスミッションケースの全体断面図である。
【図3】変速段と車速の関係を示す説明図である。
【図4】トラクタの油圧構成を示す油圧回路図である。
【図5】操作部の平面図である。
【図6】メータパネルの正面図である。
【図7】制御装置の入出力を示すブロック図である。
【図8】変速パターンの説明図である。
【図9】シフトダウン制御(ショック低減変速、通常の変速制御)の制御手順(状態遷移)を示すフローチャートである。
【図10】シフトダウン制御のショック低減変速を示すタイミングチャートである。
【図11】シフトダウン制御の通常の変速制御を示すタイミングチャートである。
【図12】シフトアップ制御(ショック低減変速、通常の変速制御)の制御手順(状態遷移)を示すフローチャートである。
【図13】シフトアップ制御のショック低減変速を示すタイミングチャートである。
【図14】シフトアップ制御の通常の変速制御を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1において、Tはトラクタ(作業車両)であって、該トラクタTには、トランスミッションケース1が搭載されている。図2に示すように、トランスミッションケース1は、主クラッチ機構2を介してエンジンEの動力を入力すると共に、入力した動力を走行動力伝動経路3とPTO動力伝動経路4とに分岐させる。
【0011】
走行動力伝動経路3には、摩擦多板式の油圧クラッチC1〜C4を用いて構成され、4段の変速を行う主変速装置5と、摩擦多板式の油圧クラッチCF、CRを用いて構成され、走行動力の正逆転変速を行う前後進切換装置6と、常時噛合式の歯車変速装置を用いて構成され、機械的に3段の変速を行う副変速装置7と、摩擦多板式の油圧クラッチCL、CHを用いて構成され、高低2段の変速を行う高低変速装置8とが設けられている。
【0012】
図3に示すように、上記の構成によれば、前後進切換装置6による変速によって前進と後進の切り換えができると共に、主変速装置5と高低変速装置8による変速の組み合せによって8段の走行変速が可能であり、さらに、副変速装置7による変速を組み合せることによって24段の走行変速が可能になる。ここで、副変速装置7が備える3段の変速位置のうち、低速位置L及び中速位置Mは、主に作業走行時に選択されるため、変速可能な車速範囲が比較的狭い(超低速〜4km/h程度)のに対し、高速位置Hは、主に路上走行時に選択されるため、変速可能な車速範囲を広く(6〜28km/h)してある。
【0013】
主変速装置5、副変速装置7及び高低変速装置8で変速された走行動力は、前車軸及び後車軸に伝動される。前車軸への動力伝動経路には、前車軸に伝達する動力を高低に変速又は切断する倍速伝動装置9が設けられており、該倍速伝動装置9による動力の変速又は切断によって、旋回時における前輪倍速駆動や4駆、2駆の切換えが行われるようになっている。そして、倍速伝動装置9は、摩擦多板式の油圧クラッチを用いて構成されることにより、円滑な変速や切断が可能となっている。
【0014】
PTO動力伝動経路4には、摩擦多板式の油圧クラッチを用いて構成されるPTOクラッチ10と、常時噛合式の歯車変速装置を用いて構成されるPTO変速装置11とが設けられており、走行状態に影響されない独立したPTO動力伝動系、すなわち、インディペンデントPTO仕様のPTO動力伝動経路4を構成している。
【0015】
本実施形態のトラクタTには、図4に示すような油圧回路が構成されている。この油圧回路は、2つの油圧ポンプP1、P2を備え、一方の油圧ポンプP1から供給される油圧で、倍速伝動装置9、リフトシリンダ12及びリフトロッドシリンダ13を動作させ、他方の油圧ポンプP2から供給される油圧で、ステアリングユニット14、主変速装置5、前後進切換装置6、高低変速装置8、PTOクラッチ10及び自動ブレーキ旋回装置15を動作させるように構成されている。
【0016】
少なくとも、主変速装置5及び高低変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHは、電磁弁の制御にもとづいて作動される。電磁比例減圧弁の昇圧制御にもとづく油圧クラッチの作動制御によれば、変速ショックの少ない円滑な走行変速が可能となるが、主変速装置5及び高低変速装置8の各油圧クラッチC1〜C4、CL、CHをすべて電磁比例減圧弁で制御するものでは、電磁比例減圧弁の必要個数が多くなり、高価な走行変速装置となってしまうという問題がある。また、高低変速装置8の各油圧クラッチCL、CHを電磁比例減圧弁で制御し、主変速装置5の各油圧クラッチC1〜C4を電磁切換弁で制御するようにした場合、安価な走行変速装置とすることが可能であるが、電磁比例減圧弁の昇圧制御にもとづいて円滑な走行変速を行うには、変速の度に高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続しなければならないため、高低変速装置8に設けられる油圧クラッチCL、CHの耐久性を向上させなければならない。
【0017】
そこで、本実施形態のトラクタTでは、図4に示すように、主変速装置5の各油圧クラッチC1〜C4を、それぞれ電磁比例減圧弁16a〜16dの昇圧制御にもとづいて択一的に作動制御し、高低変速装置8の各油圧クラッチCL、CHを、電磁切換弁17の切換え制御にもとづいて作動制御する。このようにすると、主変速装置5及び高低変速装置8の各油圧クラッチC1〜C4、CL、CHをすべて電磁比例減圧弁で制御するものに比べ、走行変速装置を安価に構成することができる。また、変速の度に高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続する必要がないので、高低変速装置8に設けられる油圧クラッチCL、CHの耐久性を向上させるためのコストアップが回避される。尚、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを作動させる油路には、油圧クラッチCL、CHの接続状態を検出すための圧力スイッチ18が設けられ、また、油圧回路の適所には、作動油の温度を検出するための油温センサ19が設けられている。
【0018】
図1及び図5に示すように、トラクタTの機体上には、オペレータが乗車する操作部20が構成されている。操作部20には、オペレータが着座する運転席が設けられると共に、走行操作や作業機Wの操作を行うための各種操作具が設けられている。例えば、運転席21の前方には、機体を操向するためのステアリングハンドルHや、前後進切換装置6を切り換えるための前後進切換レバー22が設けられ、運転席21の左側方には、副変速装置7を切り換えるための副変速レバー23が設けられている。また、副変速レバー23のグリップ部23aには、主変速装置5及び高低変速装置8を変速操作するための変速スイッチ(増速スイッチ24、減速スイッチ25)が設けられると共に、副変速レバー23を高速側に切り換える際に選択的に操作される高速スタートスイッチ26が設けられている。
【0019】
図6に示すように、運転席21の前方には、メータパネル27が設けられている。メータパネル27内には、タコメータや各種のモニタランプが設けられるだけでなく、各種の状態表示や設定表示を行う表示部28が設けられている。本実施形態の表示部28は、液晶パネルで構成されると共に、表示部28の下方位置に設けられる複数の操作スイッチSW1〜SW6で画面の切り換え操作や、各種の設定操作が行われるようになっている。
【0020】
図7に示すように、トラクタTには、マイコンなどを用いて構成される制御装置29が設けられている。本実施形態の制御装置29は、3つのマイコン29a〜29cを用いて構成されており、その入力側には、前述した圧力スイッチ18、油温センサ19、増速スイッチ24、減速スイッチ25、高速スタートスイッチ26、操作スイッチSW1〜SW6に加え、副変速レバー23の操作位置(高速、中速、低速、ニュートラル)を検出する4つの副変速スイッチ30〜33と、前後進切換レバー22の操作位置(前進、後進、ニュートラル)を検出する3つの前後進スイッチ34〜36と、車速を検出する車速センサ37と、エンジン回転を検出するエンジン回転センサ38とが接続されている。また、制御装置29の出力側には、前述した電磁比例減圧弁16a〜16d及び電磁切換弁17のソレノイドバルブや表示部28などが接続されている。尚、以下の説明では、電磁比例減圧弁16a〜16d及び電磁切換弁17のソレノイドバルブを、それぞれの機能をわかり易くするために、適宜、主変速バルブ(1速〜4速)、高低変速バルブ(高速、低速)、又は、主変速バルブ(1〜4)、高低変速バルブ(H、L)という。
【0021】
制御装置29は、予めROMに書き込まれたプログラムにしたがって、主に電磁比例減圧弁16a〜16d及び電磁切換弁17を制御し、図8に示すような変速パターンを現出させる。具体的には、増速スイッチ24の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させるシフトアップ制御、減速スイッチ25の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させるシフトダウン制御、副変速レバー23の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させる副変速操作連動制御、エンジン始動時における主変速装置5及び高低変速装置8の初期変速段を設定する初期変速段設定制御、前後進切換レバー22の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を入り切りさせる前後進操作連動制御などが行われるようになっている。以下、本発明の要旨であるシフトアップ制御及びシフトダウン制御について順次説明する。
【0022】
シフトアップ制御は、増速スイッチ24の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させる制御であり、副変速装置7が低速位置(L速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて1速から8速までシフトアップさせ、副変速装置7が中速位置(M速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて9速から16速までシフトアップさせ、副変速装置7が高速位置(H速)に切り換えられている状態では、増速スイッチ24の操作に応じて17速から24速までシフトアップさせる。ただし、主変速装置5及び高低変速装置8による8段階の変速のうち、1〜4速(9〜12速、17〜20速)、5〜8速(13〜16速、21〜24速)の範囲内におけるシフトアップ制御時には、高低変速装置8を切り換えることなく、主変速装置5を一段上の変速段に切り換え、4速から5速(12速から13速、20速から21速)へのシフトアップ制御時には、高低変速装置8を高速段に切り換えると共に、主変速装置5を最低速段に切り換える。
【0023】
シフトダウン制御は、減速スイッチ25の操作に応じて主変速装置5及び高低変速装置8を変速させる制御であり、副変速装置7が低速位置(L速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて8速から1速までシフトダウンさせ、副変速装置7が中速位置(M速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて16速から9速までシフトダウンさせ、副変速装置7が高速位置(H速)に切り換えられている状態では、減速スイッチ25の操作に応じて24速から17速までシフトダウンさせる。ただし、主変速装置5及び高低変速装置8による8段階の変速のうち、4〜1速(12〜9速、20〜17速)、8〜5速(16〜13速、24〜21速)の範囲内におけるシフトダウン制御時には、高低変速装置8を切り換えることなく、主変速装置5を一段下の変速段に切り換え、5速から4速(13速から12速、21速から20速)へのシフトダウン制御時には、高低変速装置8を低速段に切り換えると共に、主変速装置5を最高速段に切り換える。
【0024】
上記のようなシフトアップ制御やシフトダウン制御を行うにあたり、牽引等の重負荷作業で高低変速装置8を切換える変速制御を行った場合、変速ショックが大きく、場合によっては機体が一且停止して、その後、再発進する可能性があった。その原因としては、変速にあたって主変速装置5と高低変速装置8の油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを同時に切断すると、高低変速装置8から上流側の回転質量に伴う慣性力が失われることや、牽引負荷により惰性走行が阻害されることにより、通常の変速時より機体が急減速してしまい、これが変速ショックと捉えられるものと考えられる。
【0025】
また、5速から4速へのシフトダウン時には、通常、高低変速装置8の高速側の油圧クラッチCHを切断した後、回転数合わせのため主変速装置5の4速油圧クラッチC4ヘのワンショット出力を行い、その後、高低変速装置8の低速側の油圧クラッチCLを接続していたが、この場合、4速油圧クラッチC4の暫時の接続により高低変速装置8の入力側の回転数は、それまでの1速油圧クラッチC1が接続していた回転数より上昇して慣性力も増大するので、この上昇した回転数の元に高低変速装置8の低速側の油圧クラッチCLを接続させた際の出力側の回転数は、変速前の回転数より低下しているものの、急減速に伴って低下した車軸側の回転数より高くなっており、その回転数差が大きい状態で油圧クラッチを即座に接続するために、ここで大きな変速ショックが発生すると考えられる。
【0026】
上記のような問題を解決するために、本発明の実施形態に係る制御装置29は、変速スイッチからの変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4のみを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断すると略同時に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する一方、変速スイッチからの変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4とともに高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断し、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続すると共に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する。
【0027】
このようにすると、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時間(例えば、0.4秒)が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断することによって、主変速装置5から高低変速装置8に至る慣性力を車軸側に暫く伝えておくことができるので、機体の急減速を抑制してゆっくりと減速させることができ、その結果、機体の急減速に起因する油圧クラッチ切断時の変速ショックを低減することができる。
【0028】
また、高低変速装置8の入力側の回転数は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4が切断された後、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHが切断されるまでのあいだ、車軸側からの逆駆動力を受けて低い回転数になっているので、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを再度接続する際に、車軸側の回転数との差を少なくし、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを低減することができる。
【0029】
また、本発明の実施形態に係る制御装置29は、上記のような変速制御を行うにあたり、変速指令がシフトダウン指令である場合には、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCHを切断する際の車速が変速目標とする速度に対して所定の割合を乗算した速度以下に減速しているか否かを判断し、これが減速していると判断した場合には、車速が上記所定の割合よりさらに少なくした第2の割合で乗算した速度以下に下がったこと、又は車速が所定の速度以下に下がったことに応じて、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを接続し、その後、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を昇圧制御し、また、これが減速していないと判断した場合には、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を暫時接続して回転数の同期処理を行い、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを接続し、次いで、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を昇圧制御する。
【0030】
このようにすると、シフトダウン時においては、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCHを切断する際の車速が変速目標とする速度に対して所定の割合を乗算した速度以下に減速しているか否かを判断し、その判断結果に応じて変速制御を変更するので、急減速時(例えば、高負荷作業時)と緩減速時(例えば、路上走行時)を区別して最適な変速制御を行うことにより、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを一層低減することができる。
【0031】
また、上記判断において減速していると判断した場合には、車速が上記所定の割合よりさらに少なくした第2の割合で乗算した速度以下に下がったこと、又は車速が所定の速度以下に下がったことに応じて、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを接続し、その後、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を昇圧制御するので、機体が急減速する変速時には、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを、変速ショックが低減される車速まで十分に減速してから接続することになり、その結果、機体の急減速に起因する高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックをより確実に低減することができる。
【0032】
また、上記判断において減速していないと判断した場合には、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を暫時接続して回転数の同期処理を行い、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCLを接続し、次いで、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を昇圧制御するので、機体が急減速しない通常の変速時には、従来と同様に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC4を暫時接続して高低変速装置8の回転数の同期処理を行うことによって、高低変速装置8を接続する際の変速ショックを低減することができる。
【0033】
また、本発明の実施形態に係る制御装置29は、変速指令がシフトアップ指令である場合には、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCLを切断する際の車速が、変速前の速度に対して所定の割合を乗算した速度以下に減速しているか否かを判断し、これが減速していると判断した場合には、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を暫時接続して回転数の同期処理を行い、その後、車速が上記所定の割合よりさらに少なくした第2の割合で乗算した速度以下に下がったこと、又は車速が所定の速度以下に下がったことに応じて、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCHを接続し、次いで、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を昇圧制御し、また、これが減速していないと判断した場合には、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を暫時接続して回転数の同期処理を行い、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCHを接続し、次いで、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を昇圧制御する。
【0034】
このようにすると、シフトアップ時においても、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCLを切断する際の車速が、変速前の速度に対して所定の割合を乗算した速度以下に減速しているか否かを判断し、その判断結果に応じて変速制御を変更するので、急減速時と緩減速時を区別して最適な変速制御を行うことにより、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを一層低減することができる。
【0035】
また、シフトアップ時においては、上記判断において減速していると判断した場合であっても、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1を暫時接続して回転数の同期処理を行うので、高低変速装置8の入力側の回転数を、現変速段の油圧クラッチC4が接続していた回転数から次変速段の油圧クラッチC1が接続する回転数に下げることことができ、その結果、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCHを接続した際の車軸側の回転数との差を小さくし、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを一層低減することができる。
【0036】
次に、本発明の実施形態に係るシフトアップ制御及びシフトダウン制御の具体的な制御手順(状態遷移)について、図9〜図14を参照して説明する。
【0037】
図9は、シフトダウン制御(ショック低減変速、通常の変速制御)の制御手順(状態遷移)を示すフローチャート、図10はシフトダウン制御のショック低減変速を示すタイミングチャート、図11はシフトダウン制御の通常の変速制御を示すタイミングチャートである。
図9は、主変速装置5及び高低変速装置8を断続制御するシフトダウン制御(5速から4速)の例として、副変速装置7を中速位置Mとした13速から12速へのシフトダウン制御を示しており、この図に示すように、13速の状態では、主変速バルブ(1速)及び高低変速バルブ(高速)をONとする(S101)。この状態で減速スイッチ25が操作されたら、主変速バルブ(1速)をOFFとした後(S102)、0.4秒の経過を待ってから車速の確認を行う(S103)。ここで、現在の車速が目標速度の80%を超えている場合は通常の変速制御を行う一方、現在の車速が目標速度の80%以下の場合はショック低減変速を行う。
【0038】
通常の変速制御では、まず、高低変速バルブ(高速)をOFFにすると共に、主変速バルブ(4速)にワンショット出力を行う(S104)。その後、0.4秒経過したら、高低変速バルブ(低速)をONにすると共に、主変速バルブ(4速)に低電流出力を行う(S105)。その後、圧力スイッチ18がONとなったら、すなわち高低変速装置8の低速側の油圧クラッチCLが接続状態となったら、主変速バルブ(4速)の昇圧制御により主変速装置8の4速用の油圧クラッチC4を接続させ(S106)、12速へのシフトダウンが完了する(S107)。
【0039】
一方、ショック低減変速では、まず、高低変速バルブ(高速)及び主変速バルブ(4速)をOFFにする(S108)。その後、車速が目標車速の40%以下に下がったこと、車速が0.2km/h以下に下がったこと、または、1秒以上経過(タイムアウト)したことに応じて、高低変速バルブ(低速)をONにする(S109)。その後、圧力スイッチ18がONとなったら、主変速バルブ(4速)の昇圧制御により主変速装置8の4速用の油圧クラッチC4を接続させ(S110)、12速へのシフトダウンが完了する(S107)。
【0040】
図12は、シフトアップ制御(ショック低減変速、通常の変速制御)の制御手順(状態遷移)を示すフローチャート、図13はシフトアップ制御のショック低減変速を示すタイミングチャート、図14はシフトアップ制御の通常の変速制御を示すタイミングチャートである。
図12は、主変速装置5及び高低変速装置8を断続制御するシフトアップ制御(4速から5速)の例として、副変速装置7を中速位置Mとした12速から13速へのシフトアップ制御を示しており、この図に示すように、12速の状態では、主変速バルブ(4速)及び高低変速バルブ(低速)をONとする(S201)。この状態で増速スイッチ24が操作されたら、主変速バルブ(4速)をOFFとした後(S202)、0.4秒の経過を待ってから車速の確認を行う(S203)。ここで、現在の車速が変速前の速度の80%を超えている場合は通常の変速制御を行う一方、現在の車速が変速前の速度の80%以下の場合はショック低減変速を行う。
【0041】
通常の変速制御では、まず、高低変速バルブ(低速)をOFFにすると共に、主変速バルブ(1速)にワンショット出力を行う(S204)。その後、0.4秒経過したら、高低変速バルブ(高速)をONにすると共に、主変速バルブ(1速)に低電流出力を行う(S205)。その後、圧力スイッチ18がONとなったら、主変速バルブ(1速)の昇圧制御により主変速装置8の1速用の油圧クラッチC1を接続させ(S206)、13速へのシフトアップが完了する(S207)。
【0042】
一方、ショック低減変速では、まず、高低変速バルブ(低速)をOFFにすると共に、主変速バルブ(1速)にワンショット出力を行い(S208)、その後、0.4秒経過したら、主変速バルブ(1速)をOFFにする(S209)。その後、車速が変速前の走行速度の40%以下に下がったこと、車速が0.2km/h以下に下がったこと、または、1秒以上経過(タイムアウト)したことに応じて、高低変速バルブ(高速)をONにする(S210)。その後、圧力スイッチ18がONとなったら、主変速バルブ(1速)の昇圧制御により主変速装置8の1速用の油圧クラッチC1を接続させ(S211)、13速へのシフトアップが完了する(S207)。
【0043】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、油圧クラッチC1〜C4、CL、CHで構成する主変速装置5と高低変速装置8をその順に直列に結合し、これら油圧クラッチC1〜C4、CL、CHを制御装置29によって断続制御して多段の変速を行うトラクタTの走行変速装置において、制御装置29は、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4のみを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断すると略同時に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御する一方、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4とともに高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断し、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続すると共に、主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御するので、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時間(例えば、0.4秒)が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断することによって、主変速装置5から高低変速装置8に至る慣性力を車軸側に暫く伝え、機体の急減速を抑制してゆっくりと減速させることができ、その結果、機体の急減速に起因する油圧クラッチ切断時の変速ショックを低減することができる。
【0044】
また、高低変速装置8の入力側の回転数は、主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4の現変速段の油圧クラッチC1〜C4が切断された後、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHが切断されるまでのあいだ、車軸側からの逆駆動力を受けて低い回転数になっているので、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを再度接続する際に、車軸側の回転数との差を少なくし、高低変速装置8の油圧クラッチ接続時のショックを低減することができる。
【0045】
また、主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4は、電磁比例減圧弁16a〜16dによって断続制御する一方、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CRは、電磁切換弁17によって断続制御するように構成し、制御装置29は、変速指令に基づいて主変速装置5の油圧クラッチC1〜C4とともに高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを断続制御する際は、主変速装置5の現変速段の油圧クラッチC1〜C4を切断して所定の時間が経過した後、高低変速装置8の現変速段の油圧クラッチCL、CHを切断し、その後、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続してから主変速装置8の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御するので、高低変速装置8の油圧クラッチCL、CHを電磁切換弁17によって断続制御するように構成し、走行変速装置のコストダウンを図るものでありながら、高低変速装置8の次変速段の油圧クラッチCL、CHを接続してから主変速装置5の次変速段の油圧クラッチC1〜C4を昇圧制御することによって、高低変速装置8及び主変速装置5の油圧クラッチ接続時の変速ショックを低減することができる。
【0046】
また、主変速装置5と高低変速装置8の間に、油圧クラッチCF、CRで構成する前後進変速装置6と、機械的に変速する副変速装置7を介装するので、上記の慣性力をより増大させて変速ショックを一層低減することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 トランスミッションケース
5 主変速装置
6 前後進切換装置
7 副変速装置
8 高低変速装置
16 電磁比例減圧弁
17 電磁切換弁
23 副変速レバー
24 増速スイッチ
25 減速スイッチ
29 制御装置
C 油圧クラッチ
T トラクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧クラッチで構成する主変速装置と高低変速装置をその順に直列に結合し、これら油圧クラッチを制御装置によって断続制御して多段の変速を行う作業車両の走行変速装置において、
前記制御装置は、
変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチのみを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断すると略同時に、主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御する一方、
変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチとともに高低変速装置の油圧クラッチを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断し、その後、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続すると共に、主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することを特徴とする作業車両の走行変速装置。
【請求項2】
前記主変速装置の油圧クラッチは、電磁比例減圧弁によって断続制御する一方、高低変速装置の油圧クラッチは、電磁切換弁によって断続制御するように構成し、
前記制御装置は、変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチとともに高低変速装置の油圧クラッチを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時間が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断し、その後、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続してから主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することを特徴とする請求項1記載の作業車両の走行変速装置。
【請求項3】
前記主変速装置と高低変速装置の間に、油圧クラッチで構成する前後進変速装置と、機械的に変速する副変速装置を介装することを特徴とする請求項1又は2記載の作業車両の走行変速装置。
【請求項1】
油圧クラッチで構成する主変速装置と高低変速装置をその順に直列に結合し、これら油圧クラッチを制御装置によって断続制御して多段の変速を行う作業車両の走行変速装置において、
前記制御装置は、
変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチのみを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断すると略同時に、主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御する一方、
変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチとともに高低変速装置の油圧クラッチを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時問が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断し、その後、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続すると共に、主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することを特徴とする作業車両の走行変速装置。
【請求項2】
前記主変速装置の油圧クラッチは、電磁比例減圧弁によって断続制御する一方、高低変速装置の油圧クラッチは、電磁切換弁によって断続制御するように構成し、
前記制御装置は、変速指令に基づいて主変速装置の油圧クラッチとともに高低変速装置の油圧クラッチを断続制御する際は、主変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断して所定の時間が経過した後、高低変速装置の現変速段の油圧クラッチを切断し、その後、高低変速装置の次変速段の油圧クラッチを接続してから主変速装置の次変速段の油圧クラッチを昇圧制御することを特徴とする請求項1記載の作業車両の走行変速装置。
【請求項3】
前記主変速装置と高低変速装置の間に、油圧クラッチで構成する前後進変速装置と、機械的に変速する副変速装置を介装することを特徴とする請求項1又は2記載の作業車両の走行変速装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−57361(P2013−57361A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195840(P2011−195840)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】
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