説明

作業車両の防振装置

【課題】防振材の動作不良を防止し、防振効果の一層の安定化を図るとともに、部品数の減少による部品コストの低減、メンテナンス性の向上を図る。
【解決手段】対向するV字リンクの一方に連結される前構成部材28と、他方に連結される後構成部材29と、構成部材28・29間に介装される圧縮ばね49・50等の防振材から成る防振ユニット27を備えたトラクタの防振装置にて、構成部材28・29の接近により防振材が伸張し、構成部材28・29の離間により防振材が短縮される逆伸縮構造53と、構成部材28・29でダンパ48と圧縮ばね49・50を覆って保護する被覆構造54の少なくとも一方を防振ユニット27に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向する振動体のいずれか一方に連結される第1構成部材と、該振動体のいずれか他方に連結される第2構成部材と、該第2構成部材と前記第1構成部材との間に介装される防振材とから成る防振要素を備えた作業車両の防振装置に関し、特に、コンパクトで防振効果にも優れた防振要素に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トラクタ等の作業車両においては、油圧シリンダと、該油圧シリンダの外周に巻回された圧縮ばねとを有する防振要素を、機体とキャビンとの間に介設することにより、前記油圧シリンダを伸縮してキャビンの姿勢を自在に変更すると同時に、該油圧シリンダの減衰効果と前記圧縮ばねの緩衝効果とによってキャビンの防振性を高めて居住性を向上する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−115826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記技術では、圧縮ばねによる緩衝効果は、機体とキャビンが接近する場合にしか作用しないため、離間方向にも緩衝効果を得るには引張りばねが必要となる。しかし、該引張りばねと前記油圧シリンダ等のダンパとを略同一軸心上に配置するのは難しく、引張りばねとダンパは、防振要素の伸縮方向に並列配置する必要から、横力が発生して防振効果が不安定となり、加えて、構造も大きくなって防振要素の大型化が避けられない、という問題があった。
更に、前記技術では、圧縮ばねは、油圧シリンダの外周に巻回されて外部に露出した状態にあるため、油圧シリンダや圧縮ばねに外部からの粉塵等が付着して動作不良が起こり、防振効果が一層不安定となる、という問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、対向する振動体のいずれか一方に連結される第1構成部材と、該振動体のいずれか他方に連結される第2構成部材と、該第2構成部材と前記第1構成部材との間に介装される防振材とから成る防振要素を備えた作業車両の防振装置において、前記両構成部材同士の接近により防振材が伸張され、前記両構成部材同士の離間により防振材が短縮される逆伸縮構造と、前記第1構成部材・第2構成部材を用いて前記防振材を覆って保護する被覆構造とのうち、少なくとも一方を前記防振要素に設けたものである。
請求項2においては、前記第1構成部材と第2構成部材は、略同一の軸心上を接近・離間可能に配置すると共に、該軸心に対する半径方向から見て両構成部材の先側同士が互いに重複するように配置し、該重複部において、前記第1構成部材の第1先部と、第2構成部材の第2先部との間に、前記防振材を配置するための第1介装空間を形成することにより、前記逆伸縮構造を構成するものである。
請求項3においては、前記第1構成部材には、前記重複部よりも基部側に防振材の支持部を設け、該支持部と前記第2先部との間に、前記防振材を配置するための第2介装空間を形成するものである。
請求項4においては、前記防振要素には、前記防振材を前記軸心に対して軸対称に配置する対称配置構造を設けるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示す効果を奏する。
すなわち、請求項1により、第1構成部材と第2構成部材同士の接近・離間に関わらず、バウンス・ピッチング・ローリング等の振動の種類や配置スペース等の各種条件に適した防振材を用いることができる。例えば、第1構成部材と第2構成部材同士の離間方向にばねの緩衝効果を作用させたい場合、引張りばねの代わりに圧縮ばねを用いることができ、該圧縮ばねとダンパとを略同一軸心上に配置して、横力の発生を抑えて安定した防振効果が得られると共に、引張りばねのような係止部が不要で構造も小さくなって防振要素のコンパクト化が図れる。加えて、第1構成部材と第2構成部材により、ダンパ・ばね等の防振材に外部からの粉塵等が付着しないようにすることができ、防振材の動作不良を防止し、防振効果の一層の安定化が図れる。しかも、この際、防振材を覆うのに別部材を設ける必要がなく、部品数の減少による部品コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができる。
請求項2により、特に複雑な機構を設けることなく、簡単な構成で前記逆伸縮構造を構成することができ、部品コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができる。
請求項3により、防振材間の直接連結のせいで各防振材毎に移動量が異なる場合と違い、前記第1介装空間と第2介装空間の両空間に配置した防振材が移動する移動量を全て略同一とすることができ、各防振材の性能マッチングが容易となり、防振要素の汎用性を高めることができる。更に、前記第1介装空間と第2介装空間の両空間に防振材として圧縮ばねを配置するだけで、両構成部材同士の接近・離間の両方向にばねの緩衝効果を作用させることができ、ステーを用いた組み合わせばねのような複雑なばねを用いる必要がなくなり、更なる、部品コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができる。
請求項4により、防振材を軸心に対して半径方向に略均一に配置することができ、横力の発生を抑えて更に安定した防振効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明に関わる作業車両の全体構成を示す側面図である。
【図2】本発明に係わる防振装置を取り付けたキャビン下部の底面斜視図である。
【図3】防振装置とその周囲の側面図である。
【図4】同じく側面模式図である。
【図5】防振ユニット27の側面図である。
【図6】防振ユニット27でシリンダを取り外した状態の側面図である。
【図7】防振ユニットの回動構造を示す斜視図であって、図7(a)は前回動構造の斜視図、図7(b)は後回動構造の斜視図である。
【図8】別形態の防振ユニット27Aの側面一部断面図である。
【図9】別形態の防振ユニットの側面模式図であって、図9(a)は防振ユニット27Bの側面模式図、図9(b)は防振ユニット27Cの側面模式図、図9(c)は防振ユニット27Dの側面模式図、図9(d)は防振ユニット27Eの側面模式図である。
【図10】別形態の防振ユニットの側面模式図であって、図10(a)は防振ユニット27Fの側面模式図、図10(b)は防振ユニット27Gの側面模式図である。
【図11】別形態の防振ユニットの側面模式図であって、図11(a)は防振ユニット27Hの側面模式図、図11(b)は防振ユニット27Iの側面模式図、図11(c)は防振ユニット27Jの側面模式図、図11(d)は防振ユニット27Kの側面模式図である。
【図12】別形態の防振装置の側面模式図であって、図12(a)は防振装置16Aの側面模式図、図12(b)は防振装置16Bの側面模式図である。
【図13】別形態の防振装置の側面模式図であって、図13(a)は防振装置16Cの側面模式図、図13(b)は防振装置16Dの側面模式図である。
【図14】別形態の防振装置の側面模式図であって、図14(a)は防振装置16Eの側面模式図、図14(b)は防振装置15の側面模式図である。
【図15】別形態の防振装置15Aの油圧回路図である。
【図16】防振装置の取り付け構造を示す防振装置とその周囲の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、図1の矢印Fで示す方向をトラクタ1の前進方向とし、以下で述べる各部材の位置や方向等は、全てこの前進方向を基準とするものである。
【0009】
まず、本発明に関わるトラクタ1の全体構成について、図1、図2により説明する。
なお、本発明に関わる作業車両は、本実施例のトラクタ1に限らず、コンバインや運搬車等の農業用車両、あるいはバックホーやローダ等の建設機械のような、作業者がキャビンに搭乗して運転操作する作業車両に、広く適用することができる。
【0010】
前記トラクタ1においては、機体14の機体フレーム2が長手方向を前後方向として配置され、該機体フレーム2上にエンジン3が搭載される。そして、該エンジン3の後部には、クラッチハウジング4とミッションケース5が前から順に連設され、該クラッチハウジング4とミッションケース5が、シャーシ6として、機体14の左右略中央で前後方向において一体的に構成される。
【0011】
前記機体フレーム2の前部には、フロントアクスルケース7を介して左右一対の前輪9・9が支承されると共に、前記トランスミッションケース5には、リアアクスルケース8を介して左右一対の後輪10・10が支承されている。これにより、前記エンジン3からの動力が、クラッチハウジング4内の主クラッチにより断接可能とされ、ミッションケース5内のトランスミッションにより変速された後、変速動力として前輪9・9と後輪10・10に伝達され、トラクタ1が走行できるようにしている。
【0012】
前記エンジン3からの動力は、変速後に、ミッションケース5の後部に作業機装着装置11を介して装着された図示せぬ耕耘装置等の作業機にも伝達され、該作業機を駆動できるようにしている。
【0013】
また、前記エンジン3は、ボンネット12で覆われ、該ボンネット12の後方に、キャビン13が設けられている。該キャビン13の内部には、操向ハンドル17が配設され、該操向ハンドル17の後方には運転席18が配設される。そして、前記操向ハンドル17の下方位置には、ブレーキペダル19や図示せぬアクセルペダルが配置され、前記運転席18の側部には、主変速レバー・副変速レバー・PTO操作レバー等の操作レバー群20が設けられている。
【0014】
更に、前記キャビン13は、構造体を構成するフレーム群と被覆部材群とから構成される。前記フレーム群のうち、左右枠部を構成する左右一対のサイドフレームユニット21L・21Rは、いずれも、フロントピラー22、フェンダ23、下部フレーム24等から構成され、このうちの左右の下部フレーム24・24と前記シャーシ6との間に、本発明に係わる左右一対の防振装置16・16が介装されている。
【0015】
次に、該防振装置16・16の構成について、図2乃至図4により説明する。なお、該防振装置16・16は左右で略同一の構造であるため、左右一方の防振装置16、ここでは左側の防振装置16についてのみ説明する。
【0016】
該防振装置16は、前後に設けた一対のV字リンク25・26と、該V字リンク25・26間に介装した防振ユニット27とを備える。
【0017】
このうち前側のV字リンク25は、側面視で直角または鋭角の屈曲部25cと、該屈曲部25cよりも前側の長辺部25aと、該長辺部25aより短くて前記屈曲部25cよりも後側の短辺部25bとを有する。
【0018】
そして、前記長辺部25aは、前記下部フレーム24の前部より垂設したステー40に、外支点25dを介して前後回動自在に連結される。一方、前記屈曲部25cは、前記シャーシ6の前部より立設する前支点台42に、屈曲部支点25fを介して前後回動自在に連結されている。
【0019】
前記後側のV字リンク26は、側面視で直角または鋭角の屈曲部26cと、該屈曲部26cよりも前側の短辺部26bと、該短辺部26bより長くて前記屈曲部26cよりも後側の長辺部26aとを有する。
【0020】
そして、該長辺部26aの後端は、前記下部フレーム24の後部より垂設したステー41で前後方向に長く開口された長孔41aに、外支点26dを介して前後移動可能に連結される。一方、前記屈曲部26cは、前記シャーシ6の後部より立設した後支点台43に、屈曲部支点26fを介して前後回動自在に連結されている。
【0021】
前記防振ユニット27は、本発明に関わる防振要素であって、後で詳述するように、間に防振材を介設した前後の構成部材28・29を備える。このうちの前構成部材28のロッド65は、前方に突出して連結材30の後端に固設され、該連結材30の前部は、前側のV字リンク25の短辺部25b後端に、内支点25eを介して連結される。一方、後構成部材29のロッド70は、後方に突出して連結材31の前端に固設され、該連結材31の後部は、後側のV字リンク26の短辺部26b前端に、内支点26eを介して連結される。
【0022】
これにより、矢印32・33のように、前後のV字リンク25・26が、それぞれ屈曲部支点25f・26fを中心にして前後に回動し、連結材30・31が揺動して連結材30・31間の間隔が激しく伸縮しても、その衝撃力は前記防振ユニット27によって減衰されるようにしている。
【0023】
以上のような構成において、シャーシ6と下部フレーム24との間には、前側のV字リンク25と、後側のV字リンク26と、下部フレーム24より垂設したステー40における長辺部25aの前端とステー41における長辺部26aの後端との間、つまり外支点25d・26d間を結ぶリンク35と、及びシャーシ6より立設した前支点台42における屈曲部25cの端部と後支点台43における屈曲部26cの端部間、つまり屈曲部支点25f・26f間を結ぶリンク34とから成る四節リンク機構36が形成されている。
【0024】
該四節リンク機構36では、前述の如く、下部フレーム24の後部に設けたステー41に前後方向に長い長孔41aが開口され、該長孔41aに沿うように後側のV字リンク26の外支点26dが前後移動可能に連結されており、このスライド構造37によって、前記リンク35のリンク長を可変としている。
【0025】
これにより、四節リンク機構36の変形範囲を拡大し、該四節リンク機構36にシャーシ6の動きができるだけ吸収されるようにして、この動きが下部フレーム24へ伝播するのを抑制し、機体14に対するキャビン13の追従性を抑えるようにしている。
【0026】
また、このようなスライド構造37を有する前記四節リンク機構36において、機体14の動きに追従してキャビン13が前後に振動する際には、防振装置16の各構成部材は次のように動作する。
【0027】
キャビン13が機体14の前方に移動しようとすると、前側のV字リンク25は、屈曲部支点25fを中心に矢印44の方向に回転して、防振ユニット27には引張力38が作用し、該引張力38により、後側のV字リンク26も、その屈曲部支点26fを中心に矢印46の方向に回転しようとする。
【0028】
逆に、キャビン13が機体14の後方に移動しようとすると、前側のV字リンク25は、屈曲部支点25fを中心に矢印45の方向に回転して、防振ユニット27には圧縮力39が作用し、該圧縮力39により、後側のV字リンク26も、その屈曲部支点26fを中心に矢印47の方向に回転しようとする。
【0029】
これにより、キャビン13の前方移動時には、前側のV字リンク25における屈曲部支点25f・外支点25d間のような前側の上下の支点間の高低差(以下、「前部高低差」とする。)Hfは減少し、後側のV字リンク26における屈曲部支点26f・外支点26d間のような後側の上下の支点間の高低差(以下、「後部高低差」とする。)Hrは増加する。
【0030】
逆に、キャビン13の後方移動時には、前部高低差Hfは増加し、後部高低差Hrは減少しようとするが、外支点26dが前述の如く長孔41a内を容易に前後移動可能であることから、該後部高低差Hrの減少程度は小さい。
【0031】
すなわち、V字リンク25・26の回動支点である屈曲部支点25f・26fを機体14側に配置すると共に、前後方向に移動可能な支点(以下、「変位支点」とする)である外支点26dをキャビン13側後部に配置するので、キャビン13が前後振動によっても後下方には大きく沈み込まないようにすることができ、キャビン13の後下方の機体14上に、部品や装置が設置される等してキャビン13の十分な下降空間が確保できない場合であっても、防振装置の適用が可能となる。
【0032】
次に、前記防振ユニット27の詳細構成について、図5乃至図7により説明する。
該防振ユニット27は、前述の如く、前後の構成部材28・29を備える。このうち、前構成部材28は、前記ロッド65と、該ロッド65の後端に連結されたシリンダ66とから成り、いずれも同一の軸心75上に配置される。
【0033】
該シリンダ66は、筒体68の軸心方向の前後開口をそれぞれ天板67と底板69により閉塞して構成され、そのうちの天板67と筒体68は、各々のフランジ部67a・68a間を複数のボルト60・ナット61により締結して連結され、筒体68と底板69は、筒体68のパイプ部68bの後端開口に、底板69の円盤状のばね受け部69aが溶接等により固設されている。そして、該ばね受け部69aの軸心略中央には、軸孔69cが穿孔され、該軸孔69cの内側に、Oリングやブッシュ等の軸受け部材59が嵌設されている。
【0034】
更に、前記天板67のフランジ部67aの後側面には、円盤状の凸板部67bが固設され、同様に、前記底板69のばね受け部69aの前側面にも、円盤状の凸板部69bが固設されている。
【0035】
前記後構成部材29は、前記ロッド70と、該ロッド70の先端に連結されると共に前記シリンダ66の内部空間を前後方向に移動するピストン71とから成り、いずれも、前記前構成部材28と同一の軸心75上に配置される。
【0036】
該ピストン71は、ピストン本体部71aと、該ピストン本体部71aの前後略中央の外周上に設けた溝部に嵌合されたピストンリング71bと、前記ピストン本体部71a前後側面のそれぞれに設けた凹状のばね受け部71c・71dとから構成される。
【0037】
更に、前記ロッド70は、前記軸受け部材59内に挿通されており、ロッド70の外周とシリンダ66の軸孔69cの内周間の隙間を小さくしつつ、摺動性に優れた部材でロッド70を保持できるようにしている。
【0038】
すなわち、シリンダ66内を移動するピストン71のロッド70と、シリンダ66に穿孔した軸孔69cとの間に、前記軸受け部材59を介装するので、ロッド70をガイドしながら摺動させることができ、ロッド70摺動時の倒れを防止しつつ、該ロッド70先端のピストン71のシリンダ66内の移動を円滑なものとしている。
【0039】
また、このような両構成部材28・29の間には、前後の圧縮ばね49・50とダンパ48とが介装される。
【0040】
このうちの前圧縮ばね49は、その内径は、天板67に設けた凸板部67bの外径よりも大きく形成されると共に、前圧縮ばね49の外径は、ピストン71に設けた前ばね受け部71cの内径よりも小さく形成されている。これにより、前圧縮ばね49は、その先端を凸板部67bの外周面とパイプ部68bの内周面との間に介設し、前圧縮ばね49の後端を前ばね受け部71cの内周面内に挿入して、天板67とピストン71との間の空間(以下、「前介装空間」とする)51内に、前圧縮ばね49が保持できるようにしている。
【0041】
前記後圧縮ばね50も、その内径は、シリンダ66の底板69に設けた凸板部69bの外径よりも大きく形成されると共に、後圧縮ばね50の外径は、ピストン71に設けた後ばね受け部71dの内径よりも小さく形成されている。これにより、後圧縮ばね50は、その後端を凸板部69bの外周面とパイプ部68bの内周面との間に介設し、後圧縮ばね50の前端を後ばね受け部71dの内周面内に挿入して、底板69とピストン71との間の空間(以下、「後介装空間」とする)52内に、後圧縮ばね49が保持できるようにしている。そして、該後介装空間52は、軸心75に対する半径方向、つまり図中の矢印80で示す方向から見て、前構成部材28の底板69側と後構成部材29のピストン71側とが互いに重複する重複部83内に形成される。
【0042】
すなわち、前後の圧縮ばね49・50を、配置する前後の介装空間51・52内に設けた段付き部である凸板部67b・69bと、前後のばね受け部71c・71dとに嵌合させるので、圧縮ばね49・50の位置ずれを防止して、防振ユニット27の組立性の向上と、使用中の圧縮ばね49・50のばね外れの防止とを図ることができる。
【0043】
なお、前記ばね受け部71c・71dは、それぞれの凹部の長さ62・63を変更可能な構成、例えば、前ばね受け部71cの前縁端部71c1または後ばね受け部71dの後縁端部71d1にリング状のスペーサを積層し固定する等してもよい。これにより、ピストン71が天板67や底板69に当接するまでの移動距離を変更可能とし、ばね受け部71c・71dをストロークストッパとして機能させることができ、圧縮ばね49・50による緩衝効果を防振ユニット27への要求仕様に応じて調整することができる。
【0044】
前記ダンパ48は、作動油が封入されているダンパシリンダ48aと、該ダンパシリンダ48a内のシリンダ室48bを摺動するダンパピストン48cと、該ダンパピストン48cに後端が固設されると共に前端が前記ダンパシリンダ48aの外部まで延設されるダンパロッド48dとから構成され、これにより、ダンパ機能が発揮される。
【0045】
ここで、図7(a)に示すように、前記天板67の凸板部67bの後側面には、軸心に対する半径方向から見て後方に開いたU字状の支持ステー57aが固設され、該支持ステー57aで対向する支持板部57a1・57a1間には、一端に大径頭部を有する支軸57bが挿通して支持されると共に、突出した他端には、抜け止めピン57dが係合されて抜け止め防止される。そして、該支軸57b上には、回転ローラ57cが回動可能に外嵌され、これにより、前回動構造57が形成される。
【0046】
更に、図7(b)に示すように、前記ピストン71に設けた前ばね受け部71cの前側面にも、軸心75に対する半径方向から見て前方に開いたU字状の支持ステー58aが固設され、該支持ステー58aの対向する支持板部58a1・58a1間には、一端に大径頭部を有する支軸58bが挿通して支持されると共に、突出した他端には、抜け止めピン58dが係合されて抜け止め防止される。そして、該支軸58b上にも、回転ローラ58cが回動可能に外嵌され、これにより、後回動構造58が形成される。
【0047】
このうちの前回動構造57の回転ローラ57c後端に前記ダンパロッド48dの前端が固設されると共に、後回動構造58の回転ローラ58c前端に前記ダンパシリンダ48aの後端が固設されている。
【0048】
すなわち、ダンパ48の前端は、前回動構造57を介してシリンダ66の天板67に回動可能に連結されると共に、ダンパ48の後端は、後回動構造58を介してピストン71に回動可能に連結されるので、ダンパ48伸縮時のガタや傾斜移動に起因するこじれの発生を抑制して、ダンパ48内の焼付きや破損を防止することができ、防振ユニット27の部品コストの低減やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0049】
以上のような構成において、共通の軸心75に沿って、前構成部材28が矢印76の方向に移動し、後構成部材29が矢印77の方向に移動すると、つまり両構成部材28・29同士が離間すると、前記前介装空間51の前後長(以下、「前空間長」とする)81は伸張されるが、前記後介装空間52の前後長(以下、「後空間長」とする)82は逆に短縮される。
【0050】
この際、前介装空間51にあるダンパ48・前圧縮ばね49のうち、ダンパ48の長さ72は伸張され、後介装空間52にある後圧縮ばね50の長さ74は逆に短縮される。このため、ダンパ48の伸張方向の減衰効果と、後圧縮ばね50の短縮方向の緩衝効果が同時に作用し、高い防振性能が得られる。
【0051】
反対に、前構成部材28が矢印78の方向に移動し、後構成部材29が矢印79の方向に移動すると、つまり両構成部材28・29同士が接近すると、前空間長81は短縮されるが、後空間長82は逆に伸張される。
【0052】
この際、前介装空間51にあるダンパ48・前圧縮ばね49のうち、いずれの長さ72・73も短縮される。このため、ダンパ48の短縮方向の減衰効果と、前圧縮ばね49の短縮方向の緩衝効果が作用し、やはり高い防振性能が得られるのである。
【0053】
つまり、前記後介装空間52の後空間長82の伸張・短縮は、前後の構成部材28・29間の接近・離間の動きと逆になるため、本実施例の如く、後圧縮ばね50を後介装空間52に配置することにより、構成部材28・29間の接近方向だけでなく離間方向にも緩衝効果を作用させることができる。これにより、両構成部材28・29の離間時には後圧縮ばね50が短縮され、両構成部材28・29の接近時には前圧縮ばね49が短縮されることとなり、簡単な構成で、ばねの緩衝効果が常に作用できるようにしている。
【0054】
更に、前記ダンパ48と後圧縮ばね50は、軸心75の周囲ではなく、軸心75上でピストン71等を挟んで前後に配置され、しかも、該ピストン71が前後移動すると、略同一の移動量だけ、ダンパ48と後圧縮ばね50の一方を短縮し他方を伸張させることができる。
【0055】
加えて、前記ダンパ48と圧縮ばね49・50は、全て同一の軸心75上に配置されている。すなわち、防振材を軸心75に対して軸対称に配置する対称配置構造55が設けられている。
【0056】
更に、前介装空間51にあるダンパ48・前圧縮ばね49、後介装空間52にある後圧縮ばね50のいずれも、前記シリンダ66やピストン71によって覆われており、外部からの粉塵等の侵入を抑制できるようにしている。
【0057】
すなわち、対向する振動体であるV字リンク25・26の一方であるV字リンク25に連結される第1構成部材である前構成部材28と、他方であるV字リンク26に連結される第2構成部材である後構成部材29と、該後構成部材29と前記前構成部材28との間に介装される防振材であるダンパ48と圧縮ばね49・50とから成る防振要素である防振ユニット27を備えた作業車両であるトラクタ1の防振装置16において、前記両構成部材28・29同士の接近により防振材が伸張され、前記両構成部材28・29同士の離間により後圧縮ばね50が短縮される逆伸縮構造53と、前記前構成部材28・後構成部材29を用いて前記ダンパ48と圧縮ばね49・50を覆って保護する被覆構造54とのうち、少なくとも一方を前記防振ユニット27に設けたので、前構成部材28と後構成部材29同士の接近・離間に関わらず、バウンス・ピッチング・ローリング等の振動の種類や配置スペース等の各種条件に適した防振材を用いることができる。例えば、前構成部材28と後構成部材29同士の離間方向にばねの緩衝効果を作用させたい場合、引張りばねの代わりに圧縮ばねである後圧縮ばね50を用いることができ、該後圧縮ばね50とダンパ48とを略同一軸心75上に配置して、横力の発生を抑えて安定した防振効果が得られると共に、引張りばねのような係止部が不要で構造も小さくなって防振ユニット27のコンパクト化が図れる。加えて、前構成部材28と後構成部材29により、ダンパ48、圧縮ばね49・50等の防振材に外部からの粉塵等が付着しないようにすることができ、ダンパ48と圧縮ばね49・50の動作不良を防止し、防振効果の一層の安定化が図れる。しかも、この際、ダンパ48と圧縮ばね49・50を覆うのに別部材を設ける必要がなく、部品数の減少による部品コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができる。なお、本実施例の防振ユニット27には、構成部材28・29同士の接近により伸張する防振材は設けていないが、この伸張する防振材としてダンパ48を設けた場合については、後述の防振ユニット27D・27E・27I・27Jで説明している。
【0058】
更に、前記第1構成部材である前構成部材28と第2構成部材である後構成部材29は、略同一の軸心75上を接近・離間可能に配置すると共に、該軸心75に対する半径方向、つまり矢印80で示す方向から見て、両構成部材28・29の先側が互いに重複するように配置し、該重複部83において、前記前構成部材28の第1先部である底板69と、後構成部材29の第2先部であるピストン71との間に、前記防振材である後圧縮ばね50を配置するための第1介装空間である後介装空間52を形成することにより、前記逆伸縮構造53を構成するので、特に複雑な機構を設けることなく、簡単な構成で前記逆伸縮構造53を構成することができ、部品コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0059】
加えて、前記第1構成部材である前構成部材28には、前記重複部83よりも基部側に、防振材であるダンパ48・前圧縮ばね49の支持部である天板67を設け、該天板67と前記第2先部であるピストン71との間に、前記ダンパ48・前圧縮ばね49を配置するための第2介装空間である前介装空間51を形成するので、防振材間の直接連結のせいで各防振材毎に移動量が異なる場合と違い、前記後介装空間52と前介装空間51の両空間に配置したダンパ48と圧縮ばね49・50が移動する移動量を全て略同一とすることができ、各防振材の性能マッチングが容易となり、防振要素である防振ユニット27の汎用性を高めることができる。更に、前介装空間51と後介装空間52の両空間に防振材として圧縮ばね49・50を配置するだけで、両構成部材28・29同士の接近・離間の両方向に圧縮ばね49・50の緩衝効果を作用させることができ、ステーを用いた組み合わせばねのような複雑なばねを用いる必要がなくなり、更なる、部品コストの低減、メンテナンス性の向上を図ることができる。
【0060】
更に、前記防振要素である防振ユニット27には、前記防振材であるダンパ48と圧縮ばね49・50を前記軸心75に対して軸対称に配置する対称配置構造55を設けるので、ダンパ48と圧縮ばね49・50を軸心75に対して半径方向に略均一に配置することができ、横力の発生を抑えて更に安定した防振効果が得られる。
【0061】
次に、前記防振ユニット27の別形態について、図5乃至図11により説明する。
図8に示す防振ユニット27Aは、図5乃至図7に示す前記防振ユニット27におけるシリンダ66・ピストン71の構造を簡素化すると共に、ダンパ48前後の回動構造57・58を省略したものである。
【0062】
つまり、該防振ユニット27Aも、ロッド65・シリンダ89から成る前構成部材28Aと、ロッド70・ピストン85から成る後構成部材29Aとを備えるが、このうちのシリンダ89においては、筒体87の前端開口の外周面に外ねじが形成されると共に、天板86から後方に突出した筒部86aの内周面には内ねじが形成されており、該筒部86aに筒体87の前端が螺挿されることにより、天板86と筒体87とはフランジ部を設けることなく簡単な締結構造によって組み立てるようにしている。更に、ばね受け部88aと凸板部88bから成る底板88の軸孔88cには、前記ロッド70が直接摺動される。
【0063】
前記ピストン85は、ピストン本体部85aと、該ピストン本体部85a前側面に設けた凹状の前ばね受け部85bとのみから構成されており、前記防振ユニット27に設けたピストン71のピストンリング71bや後側面のばね受け部71dは省略されている。
【0064】
前記ロッド65は、その途中部がボルト90・ナット91により天板86に締結固定されると共に、該ロッド65の先部は、前記筒体87内に挿入され、ダンパ84のダンパ部84a前面に直接連結される。更に、該ダンパ84のダンパロッド84bは、ピストン85の前ばね受け部85b前面に直接連結されており、前記防振ユニット27のような前後の回動構造57・58は省略されている。
【0065】
これにより、トラクタ1の仕様によっては、ロッド70が受ける圧縮力や引張力が軸心75と略平行に保てると共にロッド70にかかる衝撃力が小さく、ロッド70摺動時の倒れや、ダンパ84伸縮時のガタや傾斜移動に起因するこじれが発生しない場合には、該防振ユニット27Aによって対応することができる。従って、前記軸受け部材59、回動構造57・58を省略して、部品コストの低減やメンテナンス性の向上が図れると共に、シリンダ89の組立構造やピストン71の摺動構造を簡素化して、コンパクト化も図ることができる。
【0066】
また、図9は、前記防振ユニット27・27Aにおける防振材であるダンパ48や圧縮ばね49・50の構成を変更することにより、対称配置構造55は設けずに逆伸縮構造53と被覆構造54を併設したものである。
このうちの図9(a)に示す防振ユニット27Bは、底板69とピストン71との間の後介装空間52で、前記後圧縮ばね50をロッド70の側方に隣接して配置したものである。これにより、ダンパ48・前圧縮ばね49を省略して、部品コストの低減やメンテナンス性の向上を図ると共に、横力は発生するものの、後圧縮ばね50の組立構造を簡素化して、防振ユニット27Bの組立性を高めることができる。
【0067】
図9(b)に示す防振ユニット27Cは、前記防振ユニット27Bの前介装空間51で、前記後圧縮ばね50と略同一軸心上にダンパ48を追加配置したものである。これにより、両構成部材28・29の離間時には、後圧縮ばね50が短縮され、両構成部材28・29の接近時にはダンパ48が短縮されて、簡単な構成で後圧縮ばね50の緩衝効果かダンパ48の減衰効果のいずれかを常に発揮することができ、前記防振ユニット27Bよりも防振性能が向上する。
【0068】
図9(c)に示す防振ユニット27Dは、前記防振ユニット27Cの前後の介装空間51・52にそれぞれ配置したダンパ48と後圧縮ばね50を前後で入れ替えたものである。これにより、両構成部材28・29の離間時には、ダンパ48が短縮され、両構成部材28・29の接近時には、ダンパ48が伸張しつつ、後圧縮ばね50の代わりの前圧縮ばね49が短縮されて、ダンパ48・後圧縮ばね50の一方しか機能しない前記防振ユニット27Cよりも、防振性能が更に向上する。
【0069】
図9(d)に示す防振ユニット27Eは、前記防振ユニット27Dの前圧縮ばね49を省略した上で、後介装空間52内にロッド70を挟んでダンパ48と反対側に後圧縮ばね50を配置したものである。これにより、両構成部材28・29の離間時には、ダンパ48・後圧縮ばね50が同時に短縮され、両構成部材28・29の接近時には、ダンパ48が伸張されることから、両構成部材28・29の接近時にダンパ48・前圧縮ばね49が同時に機能する前記防振ユニット27Dに比べ、両構成部材28・29の離間時における防振性能の方を高く設定できる。
【0070】
また、図10は、前記防振ユニット27・27Aにおける防振材であるダンパ48と圧縮ばね49・50の構成を変更することにより、対称配置構造55は設けずに被覆構造54のみを設けたものである。
このうちの図10(a)に示す防振ユニット27Fは、天板67とピストン71との間の前介装空間51で、前記前圧縮ばね49が軸心75からずれて配置されたものである。これにより、ダンパ48・後圧縮ばね50を省略して、部品コストの低減やメンテナンス性の向上を図ると共に、横力は発生するものの、前圧縮ばね49の組立構造を簡素化して、防振ユニット27の組立性を高めることができる。
【0071】
図10(b)に示す防振ユニット27Gは、前記防振ユニット27Fの前介装空間51内で、軸心75を挟んで前圧縮ばね49と反対側にダンパ48を追加配置したものである。これにより、両構成部材28・29の離間時には、ダンパ48が伸張し、両構成部材28・29の接近時には、ダンパ48・前圧縮ばね49が同時に短縮されるようにして、簡単な構成で前圧縮ばね49の緩衝効果かダンパ48の減衰効果を常に発揮することができ、前記防振ユニット27Fに比べて防振性能が向上する。
【0072】
また、図11は、前記防振ユニット27・27Aと同様な対称配置構造55を設けたものである。
このうちの図11(a)に示す防振ユニット27Hは、図9(b)の前記防振ユニット27Cにおけるダンパ48・後圧縮ばね50を軸心75上に配置したものであり、図11(b)に示す防振ユニット27Iは、図9(b)の前記防振ユニット27Dにおける前圧縮ばね49・ダンパ48を軸心75上に配置したものであり、いずれの防振材も、軸心75に対して軸対称に配置されている。これにより、ダンパ48と圧縮ばね49・50を軸心75に対して半径方向に略均一に配置することができ、防振ユニット27・27Aと同様に、横力の発生を抑えることができ、安定した防振効果が得られる。
【0073】
図11(c)に示す防振ユニット27Jは、前記防振ユニット27Iの後介装空間52で、複数のダンパ48が、軸心75を中心とした同一円周上に軸対称に配置したものである。これにより、後介装空間52におけるダンパ48の減衰効果を増加させることができ、防振ユニット27Iに比べて、防振性能が更に向上する。
【0074】
図11(d)に示す防振ユニット27Kは、前記防振ユニット27・27Aから後圧縮ばね50を省略したものであり、対称配置構造55・被覆構造54は設けつつ、部品コストの低減やメンテナンス性の向上を図ることができる。
【0075】
次に、前記防振装置16の別形態について、図4、図12乃至図16により説明する。
図12は、前記防振装置16と同様に、後下方へのキャビン13の沈み込みを小さくしたものである。
このうちの図12(a)に示す防振装置16Aは、図4に示す前記防振装置16を前後反転し更に上下反転させたものである。該防振装置16Aにおいて、キャビン13側にある下部フレーム24が、機体14側にあるシャーシ6よりも前方に移動しようとすると、後側のV字リンク25は、屈曲部支点25fを中心に矢印92の方向に回転して内支点25eが後方に牽引され、防振ユニット27には引張力38が作用する。そして、該引張力38により、前側のV字リンク26の外支点26dが、屈曲部支点26fを中心に回転して矢印95の方向に移動しようとする。
【0076】
逆に、下部フレーム24がシャーシ6よりも後方に移動しようとすると、後側のV字リンク25は、屈曲部支点25fを中心に矢印96の方向に回転して内支点25eが後方に押動され、防振ユニット27には圧縮力39が作用する。そして、該圧縮力39により、前側のV字リンク26の外支点26dが、屈曲部支点26fを中心に回転して矢印97の方向に移動しようとする。
【0077】
これにより、キャビン13の前方移動時には、前側のV字リンク26がシャーシ6から受ける反力により、屈曲部支点26fが上方に押し上げられて前部高低差Hfは増加し後部高低差Hrは減少しようとする。しかし、外支点26dが長孔41a内を前後移動自在であることから、前方に移動中のキャビン13の自重によって、外支点26dが前方に押し返されて矢印97の方向に移動し、その結果、前部高低差Hfも大きく減少する。一方、後部高低差Hrも減少しようとするが、前方に移動中のキャビン13の自重の影響が小さいことから、後部高低差Hrの減少程度は小さい。
【0078】
逆に、前記キャビン13の後方移動時には、前側のV字リンク26がシャーシ6から受ける反力により、屈曲部支点26fが下方に引き下げられて前部高低差Hfは減少し後部高低差Hrは増加しようとする。
【0079】
すなわち、防振装置16Aにおいて、回動支点である屈曲部支点25f・26fをキャビン13側に配置すると共に、変位支点である外支点26dを機体14側前部に配置するので、キャビン13は前後振動によっても後下方には大きく沈み込まないようにすることができ、キャビン13の後下方の機体14上に部品や装置が設置される等して十分な下降空間が確保できない場合であっても、防振装置16Aの適用が可能となる。
【0080】
図12(b)に示す防振装置16Bは、前記V字リンク25・26の代わりに、上下途中部間に前記防振ユニット27を介装したI字リンク98・99を使用したものである。
【0081】
詳しくは、前側のI字リンク98の上支点98aと下支点98bは、それぞれ、下部フレーム24の前部より垂設し長孔41aを開口した前側のステー41と、シャーシ6より立設した前支点台42に連結されると共に、後側のI字リンク99の上支点99aと下支点99bは、それぞれ、下部フレーム24の後部より垂設した後側のステー40と、シャーシ6より立設した後支点台43に連結される。そして、前記上支点98a・99aは、それぞれ、前記下支点98b・99bよりも内側位置に配置されている。
【0082】
このような防振装置16Bにおいて、下部フレーム24がシャーシ6よりも前方に移動しようとすると、後側のI字リンク99は、下支点99bを中心に矢印100の方向に回転して、防振ユニット27には圧縮力39が作用する。そして、該圧縮力39により、前側のI字リンク99の上支点98aが、下支点98bを中心に回転して矢印101の方向に移動しようとする。
【0083】
逆に、下部フレーム24がシャーシ6よりも後方に移動しようとすると、後側のI字リンク99は、下支点99bを中心に矢印102の方向に回転して、防振ユニット27には引張力38が作用する。そして、該引張力38により、前側のI字リンク99の上支点98aが、下支点98bを中心に回転して矢印103の方向に移動しようとする。
【0084】
これにより、キャビン13の前方移動時には、前部高低差Hfは増加し後部高低差Hrは減少しようとする。しかし、上支点98aが長孔41a内を前後移動自在であることから、前方に移動中のキャビン13の自重によって、上支点98aが後方に押し返されて矢印103の方向に移動し、その結果、前部高低差Hfも大きく減少する。一方、後部高低差Hrも減少しようとするが、前方に移動中のキャビン13の自重の影響が小さいことから、後部高低差Hrの減少程度は小さい。
【0085】
逆に、前記キャビン13の後方移動時には、前部高低差Hfは減少し後部高低差Hrは増加しようとする。
【0086】
すなわち、防振装置16Bにおいて、I字リンク98・99における回動支点である下支点98b・99bを機体14側に配置すると共に、変位支点である上支点98aをキャビン13側前部に配置するので、キャビン13は前後振動によっても後下方には大きく沈み込まないようにすることができ、キャビン13の後下方の機体14上に部品や装置が設置される等して十分な下降空間が確保できない場合であっても、該防振装置16Bの適用が可能となる。
【0087】
また、図13は、前記防振装置16・16A・16Bとは異なり、前下方へのキャビン13の沈み込みを小さくしたものである。
このうち図13(a)に示す防振装置16Cは、前記防振装置16を前後反転させたものであり、下部フレーム24がシャーシ6よりも前方に移動しようとすると、内支点25eが前方に押動され、後側のV字リンク25は、屈曲部支点25fを中心に矢印45Aの方向に回転して、防振ユニット27には圧縮力39が作用する。そして、該圧縮力39により、前側のV字リンク26の外支点26dが、屈曲部支点26fを中心に矢印47Aの方向に回転しようとする。これにより、キャビン13の前方移動時には、後部高低差Hrは増加し、前部高低差Hfは減少するが、外支点26dが長孔41a内を前後移動可能であることから、該前部高低差Hfの減少程度は小さい。
【0088】
図13(b)に示す防振装置16Dは、前記防振装置16Aを前後反転させたものであり、下部フレーム24がシャーシ6よりも前方に移動しようとすると、前側のV字リンク25は、屈曲部支点25fを中心に矢印96Aの方向に回転して内支点25eが後方に押動され、防振ユニット27には圧縮力39が作用する。そして、該圧縮力39により、後側のV字リンク26の外支点26dも、屈曲部支点26fを中心に矢印97Aの方向に移動しようとする。これにより、前記キャビン13の前方移動時には、後部高低差Hrは減少し前部高低差Hrは増加しようとする。
【0089】
すなわち、防振装置16Cにおいて、V字リンク25・26の回動支点である屈曲部支点25f・26fを機体14側に配置すると共に、前後方向に移動可能な変位支点である外支点26dをキャビン13側前部に配置し、また、防振装置16Dにおいては、回動支点である屈曲部支点25f・26fをキャビン13側に配置すると共に、変位支点である外支点26dを機体14側後部に配置するので、キャビン13の前下方の機体14上に部品や装置が設置される等して十分な下降空間が確保できない場合であっても、該防振装置16C・16Dの適用が可能となる。
【0090】
以上のように、外支点26dのような変位支点と、屈曲部支点25f・26fのような回動支点の配置構成、及び防振ユニット27に作用する引張力・圧縮力のような作用力の種類を変更することにより、様々な仕様のトラクタ1に対応することができ、適切な防振装置を設けることができ、高い防振性能が得られると共に、組立性の向上、製造コストの低減も図ることができる。
【0091】
また、図14は、防振装置内に部品や装置などの障害物104が存在しても、十分な防振性能を発揮できるようにしたものである。
このうちの図14(a)に示す防振装置16Eは、前後のV字リンク25・26間に障害物104が存在しても、前記防振装置16と同様な防振性能を発揮できるようにしたものである。
【0092】
つまり、前側のV字リンク25の連結材30には、前側の防振ユニット27を介して障害物104の前部が連結されると共に、該障害物104の後部には、後側の防振ユニット27を介して後側のV字リンク26の連結材31が連結されている。
【0093】
これにより、防振装置16Eを、前側のV字リンク25・防振ユニット27からなる前防振部105と、後側のV字リンク26・防振ユニット27から成る後防振部106とから構成し、これら前防振部105・後防振部106を独立して機能させることができる。
【0094】
すなわち、防振装置16Eにおいて、前防振部105・後防振部106を互いに独立した防振部として構成すると共に、該前防振部105・後防振部106の各防振ユニット27を障害物104に連結するので、たとえ該障害物104によって前後のV字リンク25・26間の空間が遮断されても、独立して機能する前防振部105・後防振部106により、十分な防振性能を確保することができる。更に、防振装置16Eにかかる衝撃力を複数の防振ユニット27・27に分散させることができ、部品寿命の向上も図れる。
【0095】
また、図14(b)に示す防振装置15は、前記障害物104に防振ユニット27を連結できなくても、前記防振装置16Eと同様な防振性能を発揮できるようにしたものである。
【0096】
つまり、障害物104より前方には、下部フレーム24前部より垂設するステー115の上支点111と、シャーシ6前部より立設する前支点台117の下支点112との間に、四節リンクから成るパンタグラフ状リンク109と防振ユニット27が介設されると共に、障害物104より後方には、下部フレーム24後部より垂設するステー116の上支点113と、シャーシ6後部より立設する後支点台118の下支点114との間に、四節リンクから成るパンタグラフ状リンク110と防振ユニット27が介設される。
【0097】
これにより、防振装置15を、前側のパンタグラフ状リンク109・防振ユニット27からなる前防振部107と、後側のパンタグラフ状リンク110・防振ユニット27から成る後防振部108とから構成し、これら前防振部107・後防振部108を独立して機能させることができ、しかも、前記防振装置16Eとは異なり、障害物104とも独立して機能する。
【0098】
すなわち、防振装置15において、前防振部107・後防振部108は、互いに独立すると共に、該前防振部107・後防振部108の間の障害物104とも独立した構成とするので、たとえ該障害物104によって前後のパンタグラフ状リンク109・110間の空間が遮断され、更に、障害物104に前防振部107・後防振部108の各防振ユニット27が連結できない場合であっても、障害物104から独立して機能する前防振部107・後防振部108により、十分な防振性能が得られる。
【0099】
なお、前防振部107を構成するパンタグラフ状リンク109と、後防振部108を構成するパンタグラフ状リンク110とは、いずれも略鉛直方向のみに揺動するため、前記外支点26dのような変位支点は不要である。
【0100】
また、図15に示す防振装置15Aは、前記防振装置15の防振ユニット27の長さを変更し、キャビン13の初期高さを自在に設定できるようにしたものである。
【0101】
つまり、防振装置15Aにおいて、前後の防振ユニット119は、いずれも、前記圧縮ばね49・50のようなばね120と前記ダンパ48とを左右に並列して構成される。このうちの前側の防振ユニット119のダンパ48で作動油を充填したシリンダ室48bには、油路128・127を介して油圧ポンプ122の吐出側が連通され、該油圧ポンプ122の吸引側には、油路126を介して油溜まり121が連通されている。更に、シリンダ室48bには、油路129・130から、調圧用のリリーフ弁124・油路131を介して、油溜まり125が連通されている。
【0102】
同様に、後側の防振ユニット119のシリンダ室48bにも、油路132・127を介して油圧ポンプ122の吐出側が連通され、該油圧ポンプ122の吸引側には、油路126を介して油溜まり121が連通されている。更に、シリンダ室48bには、油路133・130から、可変式のリリーフ弁124・油路131を介して、油溜まり125が連通されている。
【0103】
このような構成において、図示せぬコントローラ等からの信号により油圧ポンプ122が作動すると、油溜まり121から作動油が吸い上げられ、該作動油は、油路126・127・128を通って前側の防振ユニット119のシリンダ室48bに圧送されると共に、油路126・127・132を通って後側の防振ユニット119のシリンダ室48bにも圧送される。
【0104】
すると、前後のダンパ48・48のダンパロッド48d・48dが下方に押し出され、前後の防振ユニット119・119のロッド65・65が下方向に伸張して、前部高低差Hf・後部高低差Hrが増加し、キャビン13が上昇する。この際、前後のシリンダ室48b・48b内の作動油は、いずれもリリーフ弁124によって調圧されており、キャビン13の高さは所定の初期高さに保持される。更に、キャビン13を昇降させるには、図示せぬ操作レバー等の操作手段を操作して、前記リリーフ弁124のリリーフ圧調整部124aに信号を送り、リリーフ圧を変更することによって行う。
【0105】
すなわち、防振ユニット119を構成するダンパ48に、該ダンパ48を有する防振ユニット119の上下高さである前部高低差Hf・後部高低差Hrを変更可能な高さ調整構造を設けるので、キャビン13の初期高さを自在に調整することができる。これにより、通常作業時には、キャビン13を通常高さよりも高くして周囲の視界性を確保し、納屋などへの入庫時には、キャビン13を通常高さにし、ローダ作業時などには、キャビン13を通常高さよりも低くして前方上方の視界性を確保する、といったことができ、各作業の作業効率を高めることができる。
【0106】
次に、前記防振装置16の取り付け構成について、図3、図4、図16により説明する。
図3、図4に示す前後のV字リンク25・26は、キャビン13側の下部フレーム24に対しては、それぞれ、該下部フレーム24下面のステー40・41に直接取り付けられ、機体14側のシャーシ6に対しては、それぞれ、シャーシ6上面の支点台42・43に直接取り付けられている。
【0107】
これに対し、図16に示すように、V字リンク25の前部上方にある下部フレーム24の下面には、箱状で剛性に優れた支持体137が固設される。そして、該支持体137の底板部137aには、V字リンク25の外支点25dを支持するステー40が締結固定されている。
【0108】
一方、シャーシ6の上面で前側のV字リンク25の下方には、防振台135が固定され、該防振台135上に、V字リンク25の屈曲部支点25fを支持する前支点台42が固定されている。同様に、シャーシ6の上面で後側のV字リンク26の下方にも、防振台136が固定され、該防振台136上に、V字リンク26の屈曲部支点26fを支持する後支点台43が固定されている。
【0109】
このうちの支持体137の後板部137bの背面と、下部フレーム24の下面とから、該下部フレーム24におけるフレーム凹部24aが形成され、該フレーム凹部24a内を、動作中のV字リンク25の短辺部25bが前後回動できるようにしている。
【0110】
これにより、防振装置16を配置するのに必要な、下部フレーム24とシャーシ6間の上下方向の空間を小さくできると共に、V字リンク25と下部フレーム24とを強固に連結することができる。
【0111】
すなわち、キャビン13側への取付け部である下部フレーム24に、V字リンク25の可動部分である短辺部25bが移動可能な空間であるフレーム凹部24aを設けたので、防振装置16のための設置空間を小さくしてトラクタ1のコンパクト化が図れる。
【0112】
更に、フレーム凹部24aは、下部フレーム24に箱状の支持体137を設け、該支持体137にV字リンク25を連結することにより形成するので、下部フレーム24とV字リンク25との連結強度を高めることができる。
【0113】
また、前記防振台135においては、前記前支点台42を固定した取付け板140と前記シャーシ6との間に防振ゴム138を介装した上で、取付け板140から複数のボルト141を下方に向かって螺挿し、取付け板140をシャーシ6に締結固定する。この際、ボルト141の外周と防振ゴム138との間に、筒状のカラー139を介装し、防振効果を高めるようにしている。後側の防振台136においても、同様に、前記後支点台43を固定した取付け板140と前記シャーシ6との間に防振ゴム138を介装している。
【0114】
これにより、前後のV字リンク25・26と機体14側のシャーシ6との間に防振台135を介設することができ、機体14側から防振装置16への衝撃力が減衰されるようにしている。
【0115】
すなわち、V字リンク25・26と機体14側のシャーシ6との間に防振構造の防振台136を介装したので、防振装置16への衝撃力を減衰させて、防振装置16の防振性能を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、対向する振動体のいずれか一方に連結される第1構成部材と、該振動体のいずれか他方に連結される第2構成部材と、該第2構成部材と前記第1構成部材との間に介装される防振材とから成る防振要素を備えた、全ての作業車両の防振装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0117】
1 トラクタ(作業車両)
16 防振装置
25・26 V字リンク(振動体)
27 防振ユニット(防振要素)
28 前構成部材(第1構成部材)
29 後構成部材(第2構成部材)
48 ダンパ(防振材)
49 前圧縮ばね(防振材)
50 後圧縮ばね(防振材)
51 前介装空間(第2介装空間)
52 後介装空間(第1介装空間)
53 逆伸縮構造
54 被覆構造54
55 対称配置構造
67 天板(支持部)
69 底板(第1先部)
71 ピストン(第2先部)
75 軸心
83 重複部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する振動体のいずれか一方に連結される第1構成部材と、該振動体のいずれか他方に連結される第2構成部材と、該第2構成部材と前記第1構成部材との間に介装される防振材とから成る防振要素を備えた作業車両の防振装置において、前記両構成部材同士の接近により防振材が伸張され、前記両構成部材同士の離間により防振材が短縮される逆伸縮構造と、前記第1構成部材・第2構成部材を用いて前記防振材を覆って保護する被覆構造とのうち、少なくとも一方を前記防振要素に設けたことを特徴とする作業車両の防振装置。
【請求項2】
前記第1構成部材と第2構成部材は、略同一の軸心上を接近・離間可能に配置すると共に、該軸心に対する半径方向から見て両構成部材の先側同士が互いに重複するように配置し、該重複部において、前記第1構成部材の第1先部と、第2構成部材の第2先部との間に、前記防振材を配置するための第1介装空間を形成することにより、前記逆伸縮構造を構成することを特徴とする請求項1に記載の作業車両の防振装置。
【請求項3】
前記第1構成部材には、前記重複部よりも基部側に防振材の支持部を設け、該支持部と前記第2先部との間に、前記防振材を配置するための第2介装空間を形成することを特徴とする請求項2に記載の作業車両の防振装置。
【請求項4】
前記防振要素には、前記防振材を前記軸心に対して軸対称に配置する対称配置構造を設けることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の作業車両の防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−1167(P2013−1167A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131536(P2011−131536)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】