説明

作業車両用キャブ

【課題】内装ライナ用の金型製造コストが高騰することなく、空調設備からの冷却風を確実に所望の箇所に導くことのできる、作業車両用キャブを提供すること。
【解決手段】作業車両用キャブは、箱状に構成され、オペレータが乗車するキャブ本体5と、背面パネル57上部外側に設けられる空気調節装置6と、天井パネル58の室内側に該天井パネル58と一体的に形成され、空気調節装置6のエア吹出口と略同じ幅で、かつ作業車両の前後方向に延びて空気調節装置6から吹き出されたエアを作業車両の前方に送風するダクト7と、背面パネル57に沿ってダクト両側に形成され、空気調節装置6から吹き出されたエアを背面パネル57に沿って吹き付ける一対のリア吹出用開口部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機を備えた作業車両に設けられる作業車両用キャブに関する。
【背景技術】
【0002】
ブルドーザ等の作業車両は、不整地上で作業を行っているため、転倒時に作業車両用キャブ内のオペレータを保護するために、ROPS(Roll-Over Protective Structures)が採用され、従来は、作業用車両キャブを、ROPSガードと呼ばれるフレームで囲むことにより、転倒時に作業車両用キャブに大きな外力が加わらないようにしていた。
しかし、近年、部品点数の簡素化、構造の簡素化を目的として、このようなROPSガードを用いずに、作業車両用キャブ自体の剛性を向上させ、キャブ内のオペレータの保護を行うことが検討されている。
【0003】
このような剛性を向上させた作業車両用キャブは、キャブを構成する骨組部材として十分な強度を有するものを用い、骨組部材によって構成される枠体全体で強度を確保するように構成されている。
ところで、このような剛性を向上させた作業車両用キャブにおいても、キャブ内のオペレータの作業条件の向上を図るべく、エアコンディショナ等の空調設備が設けられることが多く、このような剛性の高い作業車両用キャブ内部では、空調設備からオペレータに風を送るために、ダクト等の取り回しが必要となる。
ここで、作業車両用キャブは、なるべくコンパクトに構成するのが製造コスト等の観点から好ましく、剛性を確保しつつ、空調設備からの冷却風をキャブ室内全体にまんべんなく循環させるために、作業車両用キャブの天井面の内側に合成樹脂成形によるライナを二重に取り付け、そのライナの間に空調設備からの冷却風を循環させる構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このような構造によれば、二重のライナ間で広く冷却風を循環させることができるので、従来のような天井面に専用のダクトを配設することによる上部空間の減少という問題が生じることがない。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,279,978号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1記載の技術では、二重のライナのためにそれぞれ専用の成形型を作成し、成形用の金型製造コストが高騰してしまうという問題がある。
また、二重のライナの組合せ部分の形状が複雑となってしまい、2つのライナによって形成されるダクトの密閉性を確保するのが困難であり、空調設備からの冷却風が漏れやすく、冷却効率が悪くなる可能性があるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、内装ライナ用の金型製造コストが高騰することなく、空調設備からの冷却風を確実に所望の箇所に導くことのできる、作業車両用キャブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る作業車両用キャブは、作業機を備えた作業車両に設けられる作業車両用キャブであって、
前面パネル、側面パネル、背面パネル、及び天井パネルを備えた箱状に構成され、前記作業車両を操縦するオペレータが乗車するキャブ本体と、
前記背面パネル上部外側に設けられる空気調節装置と、
前記天井パネルの室内側に該天井パネルと一体的に形成され、前記空気調節装置のエア吹出口と略同じ幅で、かつ前記作業車両の前後方向に延びて前記空気調節装置から吹き出されたエアを前記作業車両の前方に送風するダクトと、
前記背面パネルに沿って前記ダクト両側に形成され、前記空気調節装置から吹き出されたエアを前記背面パネルに沿って吹き付ける一対のリア吹出用開口部とを備えていることを特徴とする。
【0008】
第2発明に係る作業車両用キャブは、第1発明において、
前記ダクトは、後方から前方に送風口断面が略等しいストレート状のダクトであることを特徴とする。
第3発明に係る作業車両用キャブは、第1発明又は第2発明において、
前記ダクトには、その延出方向前方端面に開口された前方側エア吹出用開口部と、該ダクトの中間部分下面に開口された天井側エア吹出用開口部とが形成され、
前記ダクトは、前記キャブ本体室内側に設けられる内装ライナによって被覆され、
この内装ライナには、前記前方側エア吹出用開口部に応じた位置に設けられる3つのエア吹出口と、前記天井側エア吹出用開口部に応じた位置に設けられる2つのエア吹出口と、前記リア吹出用開口部に応じた位置に設けられる2つのエア吹出口とを備えていることを特徴とする。
【0009】
第4発明に係る作業車両用キャブは、第1発明乃至第3発明のいずれかにおいて、
前記ダクトは板金材料から構成され、前記金属製の天井パネル室内側に断続溶接によって接合され、
前記ダクト及び前記天井パネルの当接部がシール部材によって被覆されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、ダクトが空気調節装置のエア吹出口と略同じ幅に構成されていることにより、空気調節装置から吹き出されたエアの大部分を前方に送風することができるので、作業車両用キャブの前方を効率的に冷却、暖房することができる上、ダクトの左右に形成されたリア吹出用開口部により、空気調節装置から吹き出されたエアの一部を、背面パネルに設けられるガラス窓等に吹き付けてガラス窓に曇りが生じることを防止できる。
また、ダクトをキャブ本体と一体化することにより、ダクト構成部材を少なくすることができ、製造コストが高騰することもなく、ダクトを薄型化することができるので、剛性の高い作業車両用キャブであっても、上部空間が必要以上に狭くなることがなく、かつエアの漏れ等も生じさせることなく、空気調節装置から吹き出されたエアをキャブ内の所望の位置に導くことができる。
【0011】
第2発明によれば、ダクトの送風口断面が後方から前方に略等しいストレート状のダクトとして構成されることにより、ダクト内での圧力損失による送風効率の低下を招くことがなく、キャブ前方側に確実にエアを送ることができる。
第3発明によれば、ダクトの延出方向前方端面に前方側吹出用開口部が開口形成され、ダクトの中間部分下面に天井側吹出用開口部が形成され、内装ライナが各開口部の開口位置に応じたエア吹出口を備えていることにより、前方部分のエア吹出口からエアを吹き出すことにより、作業車両用キャブ前方に設けられた窓ガラスが曇ることを防止でき、天井側吹出口によりオペレータにエアを吹き付けることが可能となるので、作業車両用キャブの適宜の位置でエアを吹き付けて操縦環境の向上を図ることができる。
【0012】
第4発明によれば、ダクトが天井パネルに断続溶接されて接合されることにより、天井パネルに溶接による歪み等が生じることを防止することができる上、ダクト及び天井パネルの当接部がシール部材によって被覆されることにより、ダクトの密閉性を確保して空気調節装置からのエアを確実に目的とするところに導くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
(1)全体構成
図1には、本発明の実施形態に係る作業機械としてのブルドーザ1が示されており、このブルドーザ1は、車両本体2、走行装置3、作業機4、及びキャブ5を備えて構成される。
車両本体2は、鋼製のメインフレームを備え、このメインフレームの走行方向前方に搭載される駆動用のエンジン21と、図示を略したが、エンジン21によって動作する油圧回路を備え、メインフレーム後方にはキャブ5が設けられている。
走行装置3は、メインフレームの下部側方に設けられる一対の走行体31を備え、この走行体31は、走行方向に沿って延びるトラックフレーム32と、このトラックフレーム32の後端に設けられ、油圧モータにより駆動する駆動輪33と、トラックフレーム32の前端に設けられる遊動輪34と、駆動輪33及び遊動輪34に巻装される履帯35とを備えている。
【0014】
作業機4は、車両本体2のメインフレーム前端に設けられ、土工板41、リフトシリンダ42、及び図示を略したがフレームを備えて構成され、フレーム及びリフトシリンダ42は、車両本体2に対して上下方向に揺動自在に設けられ、その先端には土工板41がフレームに対して揺動自在に設けられ、リフトシリンダ42の伸縮によって土工板41の上下位置を変更できるようになっている。
このような走行装置3及び作業機4を操作するオペレータは、キャブ5内に乗車してブルドーザ1を走行させ、作業機4を操作することにより、地均し等の整地作業をブルドーザ1に行わせる。
【0015】
(2)キャブ5の構造
本実施形態に係るブルドーザ1は、図1に示されるように、メインフレーム上に従来のROPSガードが設けられておらず、このためキャブ5は、自身の構造で転倒時の外力に耐えうる構造が採用されている。
具体的には、キャブ5は、図2に示されるように、平面視略ベース型六角形状のフレーム51を備え、このフレーム51は、車両本体2のメインフレーム上に立設される鋼管製の2本の主柱52と、側面に立設される鋼管製の2本の柱53と、前方側に立設される柱54と、図2では図示を略したが各柱52、53、54の上下端を連結する梁とを備えて構成される。
【0016】
このようなフレーム51の前面部分は前面パネル55で覆われ、側面部分は側面パネル56で覆われ、背面部分は背面パネル57で覆われ、天面は天井パネル58で覆われ、キャブ5は箱状に構成されている。
また、前面パネル55、側面パネル56、及び背面パネル57のそれぞれには、開口部が形成され、窓ガラス551、552、561、571が嵌め込まれ、キャブ5に乗車したオペレータは、これらの開口部から前方、側方、後方を確認しつつブルドーザ1を操縦する。尚、図2では図示を略したが、走行方向左側側面パネルには、扉が柱53に対して回動自在に設けられ、オペレータはこの扉から乗降する。
【0017】
(3)空気調節装置6の構造
このようなキャブ5の背面側上端には、図2に示されるように、空気調節装置6が設けられている。
この空気調節装置6は、図3に示されるように、キャブ5の背面上部に設けられる装置本体61と、車両本体2のメインフレーム上に設けられるヒータ装置62と、装置本体61及びヒータ装置62と、図示を略したがエンジン21に設けられる冷却水循環配管及びコンプレッサとを接続する配管部材63とを備えて構成される。
装置本体61は、図3では図示を略したが、キャブ5のフレーム51を構成する主柱52の上端側面に固定され、エアコンユニット611及びコンデンサ612を備えて構成される。
【0018】
エアコンユニット611には、キャブ5の室内に臨むように、空気吹出口613及び空気取入口614が形成され、キャブ5室内の空気を空気取入口614から取り込んで、コンデンサ612で熱交換を行った後、空気吹出口613から冷気を吹き出す。尚、図示を略したがエアコンユニット611の下面には外気を取り込む外気取入口が形成されている。
コンデンサ612は、配管部材63を介して供給される冷媒を用いて熱交換を行う熱交換器として構成される。
【0019】
ヒータ装置62は、足下ヒータ621及びウォータバルブ622を備えて構成される。
足下ヒータ621は、キャブ5の室内の操縦者の足下部分を暖めるヒータであり、図3では図示を略したが、ウォータバルブ622には温水取出配管が接続され、この温水取出配管の先端は、エンジン21の冷却水循環配管と接続され、エンジン21を冷却した冷却水の一部は、これら温水取出配管を流れ、足下ヒータ621で熱交換が行われてキャブ5の室内下部空間を暖める。
【0020】
配管部材63は、エンジン21からの温水やエンジン21近傍に設けられるコンプレッサからの冷媒を、キャブ5の下部を通してキャブ5の主柱52の側面から装置本体に供給する複数の配管から構成され、温水中継配管631、温水戻り配管632、冷媒ディスチャージ配管633、冷媒サクション配管634、及びドレン配管635を備えて構成される。
温水中継配管631は、ヒータ装置62のウォータバルブ622に供給された温水の一部をエアコンユニット611に送る中継部材であり、エンジン21から取り出された温水の一部は、この温水中継配管631を介してエアコンユニット611に供給される。
【0021】
温水戻り配管632は、温水中継配管631を介してエアコンユニット611に供給され、エアコンユニット611内で熱交換が行われた後の温水をエンジン21に戻す配管部材である。
冷媒ディスチャージ配管633は、図3では図示を略したが、エンジン21の近傍に設けられたコンプレッサによって圧縮された冷媒を、コンデンサ612に送る配管であり、コンプレッサが配置される車両本体前方からヒータ装置62の側方を通って、キャブ5の側面後端の主柱52の側面から上に延びてコンデンサ612に接続される。
【0022】
冷媒サクション配管634は、液相から気相への変化によってキャブ5室内の空気を熱交換によって冷却した後の冷媒をコンプレッサに再び戻す配管であり、エアコンユニット611から冷媒ディスチャージ配管633とは反対側の主柱52(図3では図示略)に沿って下方に延び、キャブ5の下部略中央部分で冷媒ディスチャージ配管633に沿って延び、コンプレッサに接続される。
ドレン配管635は、エアコンユニット611及びコンデンサ612の熱交換により生じた結露水を外部に排出する配管であり、エアコンユニット611の下部側面から主柱52に沿って下方に延びて主柱52の下部近傍で外部に結露水を排出する。
【0023】
(4)キャブ5の室内構造
前述した構造のキャブ5の室内部分には、図4に示されるように、空気調節装置6の空気吹出口613及び空気取入口614に応じた幅寸法を有するダクト7と、このダクト7をさらに覆う内装ライナ8とが設けられている。
ダクト7は、基端が空気調節装置6の空気吹出口613を塞ぎ、空気調節装置6から吹き出された空気をキャブ5の前方に送るダクト本体71と、このダクト本体71の先端に設けられ、ダクト本体71から送られてきた空気を左右に分配してキャブ5の室内前方に供給する分岐部72とを備えて構成される。
【0024】
ダクト本体71は、板金部材を折り曲げ加工した断面C字形状のストレート状の部材として形成され、キャブ5の天井パネル58の室内側面に溶接接合される。尚、本実施形態では、天井パネル58の室内側面には、柱53の上端を連結する補強梁581が設けられているため、ダクト本体71の略中央は、この補強梁581の部分で、補強梁581の下面外方向に突出している。
分岐部72は、やはり板金部材を折り曲げ加工して形成される箱状体として構成され、ダクト本体71の先端部分を覆うように装着され、天井パネル58の下面に溶接により固定される。
【0025】
内装ライナ8は、ケナフ等の繊維質材料とバインダとしての合成樹脂とを混練して成形した成形品を、平面視略ベース型形状に組み合わせて構成され、適度な弾性を有し、ブルドーザ1の転倒時に操縦者の頭上を保護する部材として機能する。
この内装ライナ8には、基端部分に突出部81、側縁部分と略中央部分に側縁部分を横切るように膨出部82が形成され、突出部81及び膨出部82には、詳しくは後述するが、空気吹出口や、ブルドーザ1の操縦用の機器を取り付けるための開口部が複数形成されている。
【0026】
(5)キャブ5の室内の空気吹出口の詳細構成
(5-1)吹出口のレイアウト
キャブ5の室内天井面は、図5に示されるように、前後方向略中央にダクト7が配設され、これを覆うように内装ライナ8が形成され、内装ライナ8には、ダクト7の幅方向内側に複数の空気吹出用の開口が形成されている。
この内装ライナ8の突出部81の両端には、吹出口811、812が形成されている。
これら吹出口811、812は、ダクト7の側方下部で開口し、背面パネル57に設けられた窓ガラス571に沿って空気を吹き付け、窓ガラス571に曇りや霜等が付着するのを防止する。
【0027】
膨出部82には、ダクト本体71の下部に応じた位置に吹出口821、822が形成されている。
これら吹出口821、822は、膨出部82の傾斜面に沿って配置され、キャブ5の斜め下方に開口し、オペレータがキャブ5室内に着座した際、空気をオペレータに吹き付けるために形成されている。
内装ライナ8の前方部分には、前面パネルに設けられる窓ガラス552の傾斜面に沿って吹出口831、832が形成され、その中央には、バックミラーの前側に吹出口833が形成されている。
吹出口831、832は、窓ガラス552に空気を吹き付け、窓ガラス552に曇りや霜等が付着するのを防止し、吹出口833は、窓ガラス551に空気を吹き付け、窓ガラス551に曇りや霜等が付着するのを防止する。
【0028】
このような吹出口811、812、821、822、831、832、833が形成された内装ライナ8には、さらに膨出部82の内側側面に開口部が形成され、この開口部には、ブルドーザ1の操縦用の機器84、85の操作盤が露出して設けられている。つまり、これらの機器84、85は、ダクト7の配設位置を避けてキャブ5の室内上端側縁に設けられ、キャブ5下部に操縦用機器を設けないようにして、キャブ5の小型化を図っている。
【0029】
(5-2)各吹出口とダクト7との納まり
次に、前述した内装ライナ8に形成された吹出口とダクト7との納まり部分について説明する。
図6には、図5のVI−VI線における断面図が示されている。
ダクト本体71は、空気調節装置6の空気吹出口613の幅寸法と略同じ幅寸法の開口幅を有し、内部には分岐部等は一切形成されていない直管状に構成され、このダクト本体71の内装ライナ8の吹出口811、812、821、822に応じた位置には、空気調節装置6からの空気を吹き出す開口が形成され、各開口には、風向を調節するためのルーバが設けられている。また、先端側の分岐部72についても吹出口831、832、833に応じた位置に開口が形成され、各開口にはルーバが設けられている。
【0030】
背面パネル57の窓ガラス571に空気を吹き付ける吹出口811、812は、図5のVII−VII線における断面図である図7に示されるように、ダクト7の側方下端に形成されている。
このため、ダクト本体71は、天井パネル58の下面に沿って設けられ、空気調節装置6の空気吹出口から吹き出された空気をキャブ5の前方に送り出す主送風部711と、この主送風部711の基端側に空気調節装置6の空気吹出口を覆うように配置され、空気調節装置6から吹き出された空気の一部を吹出口811、812から吹き出すための分岐部712とを備えている。
【0031】
分岐部812は、下部中央に凹部が形成されており、図7では図示を略したが、この部分には、空気調節装置6の空気取入口614がキャブ5の室内に開口している。
この分岐部812は、図7のVIII−VIII線における断面図である図8にも示されるように、上部の分岐管712Aによって空気調節装置6からの空気を水平方向に分岐させ、曲折部712Bによって下方にその流れを曲折させ、吹出口812から窓ガラス571の室内面に沿って空気を流すようになっている。
【0032】
吹出口821、822は、図6に示されるように、内装ライナ8の膨出部82の傾斜面に形成され、各吹出口821、822には、前述と同様に風向調整用のルーバが設けられている。この膨出部82の内側には補強梁581がキャブ5の幅方向に横断し、ダクト本体71の流路の一部を塞いでいる。
そして、空気調節装置6の空気吹出口613から吹き出された空気は、ダクト本体71の前方に流れ、補強梁581の側面に当たり乱流を形成し、その一部が吹出口821、822から吹き出される。他の一部の空気は、補強梁581の下面に沿って流れ、キャブ5の前方に配置される分岐部72に供給される。
【0033】
吹出口833は、図6に示されるように、分岐部72の略中央で内装ライナ8の下面側に開口形成され、分岐部72の下部開口には、前述と同様にルーバが設けられている。
一方、吹出口831、832は、図5のIX−IX線における断面図となる図9に示されるように、吹出口833の両側にずれた位置に下方の窓ガラス552の傾斜面に沿った方向に開口形成され、同様にルーバが設けられている。
分岐部72には、図4に示されるように、先端部分が次第に幅狭となる壁が形成され、ダクト本体71から供給された空気は、この壁によって方向が変えられ、吹出口831、832、833からキャブ5の室内下方に吹き出されることとなる。
【0034】
(6)ダクト7と天井パネル58との接合構造及びキャブ5の製造手順
前述したダクト7を構成するダクト本体71と天井パネル58とは、図10に示されるように、ダクト本体71の折曲先端面と天井パネル58の室内面とを断続溶接91によって溶接され、ダクト本体71及び天井パネル58の当接部外側をダクト本体71の外側からシール部材92によって被覆されている。分岐部72及び天井パネル58も同様の構造によって溶接接合される。
【0035】
そして、このようなダクト7を備えたキャブ5を製造する場合、まず溶接等によってフレーム51を組み立てた後、前面パネル55、側面パネル56、背面パネル57、及び天井パネル58をフレーム51に溶接接合し、さらに、天井パネル58の室内側面にダクト7を断続溶接91によって接合固定するとともにシール部材92を塗布した後、機器84、85をフレーム51に取り付け、最後に、内装ライナ8でダクト7を覆い、フレーム51に適宜取り付ける。
【0036】
(7)本実施形態の作用及び効果
前述した本実施形態によれば、天井パネル58に、空気調節装置6の空気吹出口613と略同じ幅のストレート状のダクト7が直接固定されているので、空気吹出口613から吹き出された空気の大部分を前方に送風することができ、キャブ5の前方を効率的に冷却、暖房することができる。また、ダクト本体71の分岐部712によって吹出口811、812からも空気を吹き出せるようになっているので、キャブ5の後部側の冷却、暖房が損なわれることがない。
【0037】
また、ダクト7が天井パネル58に直接固定される構成とすることにより、内装ライナ8との取り合い空間を低減して薄型化を図ることができ、図6に示されるように、オペレータの上部空間Rを十分に確保して、キャブ5の小型化を促進することができる。
さらに、断続溶接91によってダクト本体71及び天井パネル58を接合することにより、天井パネル58に溶接による歪みが生じることを防止できるため、キャブ5の天井面の外観意匠が損なわれることがない。
また、シール部材92によってこの断続溶接91の部分を被覆することにより、ダクト本体71の密閉性を確保して、ダクト本体71内で確実に前方に空気を送ることができる。
【0038】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。尚、以下の説明では、既に説明した部分と同一の部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
前述した第1実施形態では、図10に示されるように、ダクト7及び天井パネル58は断続溶接91によって接合されていた。
これに対して第2実施形態に係るダクトと天井パネルの接合構造は、図11に示されるように、ダクト10の天井パネル58との当接面に折返し部101を形成し、折返し部101と、天井パネル58との間をウェルドボンド102によって接着固定した点が相違する。
ウェルドボンド102は、エポキシ樹脂等の2液反応硬化型の接着剤であり、ダクト10の折返し部101にウェルドボンド102を塗布して天井パネル58に接着した後、熱等によってウェルドボンド102を硬化させることにより、ダクト10は、天井パネル58に接着固定される。
【0039】
このような本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様の作用及び効果を享受できる上、溶接工数を減らすことができるため、製造工程の簡素化を図ることができる。また、溶接工程により接合していないので、ダクト10の取付は、内装ライナ8の取付前であれば特に制限されることはない。
さらに、ウェルドボンド102であれば、ダクト10と天井パネル58との当接面を接着面に沿って塞ぐことができるので、第1実施形態の場合のようなシール部材を必要としない。
【0040】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
前述の第1実施形態では、図10に示されるように、ダクト7の側面部分は、板金部分が露出していた。
これに対して第3実施形態に係るダクト構成では、図12に示されるように、ダクト7の側面部分に断熱材11が設けられている点が相違する。
断熱材11は、発泡ポリウレタン等の合成樹脂発泡体から構成され、ダクト7の延出方向に沿って側面部分を覆うように設けられている。
【0041】
このような第3実施形態によれば、前述した第1実施形態で述べた効果に加え、空気調節装置からの冷却空気をダクト7で送風する際に、ダクト7の側面部分に結露が生じることを防止することができる。これにより、天井パネル58及び内装ライナ8間の空間に結露水が溜まることを防止することができ、キャブの上部側面に設けられる操縦機器等が結露水で濡れることがない。
【0042】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態について説明する。
前述の第1実施形態では、図10に示されるように、ダクト7及び天井パネル58は、断続溶接91によって接合されていた。
これに対して第4実施形態に係るダクト7と天井パネル58との接合構造は、図13に示されるように、天井パネル58に折返し部を備えたブラケット93を断続溶接し、図14に示されるように、天井パネル58とダクト7との間に空間を持たせ、ダクト7をブラケット93の折返し部にボルトナット94によって固定している点が相違する。
【0043】
このような本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様の作用及び効果を享受できる上、天井パネル58とダクト7との間に空間が形成されるので、空気による断熱層を設けたことになり、空気調節装置6で調節された空気は、外気の影響を受けにくく、ダクトに結露が生じることも防ぐことができる。
尚、本実施形態では、天井パネル58とダクト本体71との間を空間としているが、その空間にセルロースを主体として断熱材やグラスウールを主体として断熱材を配置してもよい。
【0044】
〔実施形態の変形〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
前記実施形態は、ブルドーザ1のキャブ5として本発明を採用していたが、これに限らず、油圧ショベルや他の建設機械のキャブとして本発明を採用してもよい。
また、前記実施形態では、ダクト7はダクト本体71及び分岐部72とから構成されていたが、これに限らず、板金加工によって可能な限り一体構成であっても構わないし、造りやすさに応じて、複数の板金加工部品を組合せてダクトを構成してもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造等としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、ブルドーザ、油圧ショベルのオペレータが乗車する作業車両用キャブに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態に係る作業車両を表す概要斜視図。
【図2】本実施形態におけるキャブ内部の構造を表す概要斜視図。
【図3】本実施形態におけるキャブに設けられる空気調節装置の構造を表す概要斜視図。
【図4】本実施形態におけるキャブ内部の構造を表す分解斜視図。
【図5】本実施形態における天井部分の空気吹出口のレイアウトを表す平面図。
【図6】図5のVI−VI線における断面図。
【図7】図5のVII−VII線における断面図。
【図8】図7のVIII−VIII線における断面図。
【図9】図5のIX−IX線における断面図。
【図10】本実施形態におけるダクト及び天井パネルの接合構造を表す部分斜視図。
【図11】本発明の第2実施形態に係るダクトの接合構造を表す部分斜視図。
【図12】本発明の第3実施形態に係るダクトの接合構造を表す部分斜視図。
【図13】本発明の第4実施形態に係るダクトの接合構造を表す分解斜視図。
【図14】本発明の第4実施形態に係るダクトの接合構造を表す断面図。
【符号の説明】
【0047】
5…キャブ(キャブ本体)、6…空気調節装置、7…ダクト、8…内装ライナ、58…天井パネル、91…断続溶接、92…シール部材、811、812…吹出口(リア吹出用開口部)、821、822…吹出口(天井側エア吹出用開口部)、831、832、833…吹出口(前方側エア吹出用開口部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機を備えた作業車両に設けられる作業車両用キャブであって、
前面パネル、側面パネル、背面パネル、及び天井パネルを備えた箱状に構成され、前記作業車両を操縦するオペレータが乗車するキャブ本体と、
前記背面パネル上部外側に設けられる空気調節装置と、
前記天井パネルの室内側に該天井パネルと一体的に形成され、前記空気調節装置のエア吹出口と略同じ幅で、かつ前記作業車両の前後方向に延びて前記空気調節装置から吹き出されたエアを前記作業車両の前方に送風するダクトと、
前記背面パネルに沿って前記ダクト両側に形成され、前記空気調節装置から吹き出されたエアを前記背面パネルに沿って吹き付ける一対のリア吹出用開口部とを備えていることを特徴とする作業車両用キャブ。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両用キャブにおいて、
前記ダクトは、送風口断面が後方から前方に略等しいストレート状のダクトであることを特徴とする作業車両用キャブ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の作業車両用キャブにおいて、
前記ダクトには、その延出方向前方端面に開口された前方側エア吹出用開口部と、該ダクトの中間部分下面に開口された天井側エア吹出用開口部とが形成され、
前記ダクトは、前記キャブ本体室内側に設けられる内装ライナによって被覆され、
この内装ライナは、前記前方側エア吹出用開口部に応じた位置に設けられる3つのエア吹出口と、前記天井側エア吹出用開口部に応じた位置に設けられる2つのエア吹出口と、前記リア吹出用開口部に応じた位置に設けられる2つのエア吹出口とを備えていることを特徴とする作業車両用キャブ。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の作業車両用キャブにおいて、
前記ダクトは板金材料から構成され、前記金属製の天井パネル室内側に断続溶接によって接合され、
前記ダクト及び前記天井パネルの当接部がシール部材によって被覆されていることを特徴とする作業車両用キャブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−231520(P2007−231520A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51040(P2006−51040)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】