説明

作業車両

【課題】走行機体の後部上面を覆うリヤカウルに形成された開口部70に、運転座席13を支持する支持ブラケット71を配置し、リヤカウルの内部のうち支持ブラケット71の下方に、ミッションケースを配置した作業車両において、支持ブラケット71やリヤカウル等で囲われたミッションケースの放熱効率を向上させる。
【解決手段】ミッションケースから上向きに突出した変速出力軸に冷却ファン59を取り付ける。支持ブラケット71は平面視矩形状にする。この支持ブラケット71の平板部71bに、ミッションケース側と外部とを連通させる通気口としての小径の連通穴84の群を、冷却ファン59に臨むように前後左右のマトリクス状に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、農作業用のトラクタや土木作業用のホイルローダ等の作業車両に係り、より詳しくは、作業車両のミッションケース又はエンジンを効率よく冷却するための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、作業車両としてのミッドマウント式の芝刈機は、四輪式走行機体の下面のうち左右両前輪と左右両後輪との間に昇降動可能に配置されたモア装置と、当該モア装置から後ろ向きに延びる排出ダクトと、この排出ダクトに連通した芝草収容用の集草ボックスとを備えている。
【0003】
この種の芝刈機の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1の芝刈機では、エンジンが走行機体の前部に搭載されている。一方、ミッションケースは、走行機体の下面のうち左右両後輪の間を通る排出ダクトを避けるために、走行機体の後部上面に配置された運転座席と排出ダクトとの間(運転座席の下方で且つ排出ダクトの上方)に設けられている。
【0004】
この場合、走行機体の後部上面は、上向きの開口部を有するリヤカウルにて覆われており、リヤカウルの開口部には、走行機体における機体フレームの後部に取り付けられた平板状の支持ブラケットを臨ませている。この支持ブラケットにて、運転座席は下方から支持されている。従って、ミッションケースの周囲は、支持ブラケット、リヤカウル及び排出ダクトにて囲われている。
【特許文献1】特開2003−23831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1の芝刈機では、ミッションケースから上向きに突出した伝動軸に冷却ファンが取り付けられており、この冷却ファンの回転駆動にてミッションケースに周囲の空気を吹き付けることによって、ミッションケースに生じた熱を逃がしている(空冷している)。
【0006】
しかし、前述した通り、ミッションケースの周囲は支持ブラケット、リヤカウル及び排出ダクトにて囲われているから、ミッションケースに当たって温められた空気がそのままミッションケースの周囲に溜まり易い傾向にある。このため、芝刈機を長時間運転していると、ミッションケースの冷媒として、一旦温められた空気を使用することになり、ミッションケースの放熱効率(冷却効率)が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本願発明は、このような問題を解消した作業車両を提供することを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この技術的課題を達成するため、請求項1の発明は、走行機体の上面を覆うカバー体に形成された上向きの開口部に、運転座席を支持する支持ブラケットを臨ませており、前記カバー体の内部のうち前記支持ブラケットの下方に、ミッションケースやエンジン等の駆動装置が配置されている作業車両であって、前記駆動装置から上向きに突出した伝動軸に冷却ファンが取り付けられており、前記支持ブラケットには、前記駆動装置側と外部とを連通させる通気口が前記冷却ファンに臨むように形成されているというものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載した作業車両において、前記運転座席は、前記支持ブラケットに対して、前記運転座席を構成する座体の下面前部に位置した横向きの枢支軸回りに上下回動可能に取り付けられている一方、前記支持ブラケットは平面視矩形状に形成されており、この支持ブラケットに、前記通気口として、板厚方向に貫通するスリット状又は小径の連通穴が複数形成されているというものである。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した作業車両において、前記支持ブラケットは、前記走行機体の前後方向に沿って位置調節移動可能に構成されており、前記カバー体における前記開口部の前縁寄り部位と後縁寄り部位とのうち少なくとも一方又は双方には、平面視で前記開口部の一部を覆う保護カバーが位置固定的に配置されており、前記支持ブラケットと前記保護カバーとは、前記支持ブラケットの前後移動位置に拘らず、それぞれの少なくとも一部が平面視で互いに重複するように構成されているというものである。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3に記載した作業車両において、前記保護カバーには、板厚方向に貫通するスリット状又は小径の連通穴が複数形成されているというものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によると、走行機体の上面を覆うカバー体に形成された上向きの開口部に、運転座席を支持する支持ブラケットが配置され、前記カバー体の内部のうち前記支持ブラケットの下方に駆動装置が配置され、前記駆動装置から上向きに突出した伝動軸に冷却ファンが取り付けられ、前記支持ブラケットには、前記駆動装置側と外部とを連通させる通気口が前記冷却ファンに臨むように形成されているから、前記冷却ファンの回転駆動にて、前記カバー体外の空気を、前記通気口を介して前記カバー体内の前記駆動装置に吹き付けることができる。そして、前記カバー体外から取り込まれた空気が前記駆動装置の外面に沿って下向きに流れることにより、前記駆動装置からの放熱が促進される。
【0013】
従って、前記駆動装置の周囲は前記支持ブラケットや前記カバー体等にて囲われているものの、前記カバー体外の空気を冷媒として利用でき、前記駆動装置を効率よく冷却できる(放熱効率が向上する)という効果を奏する。
【0014】
請求項2の構成によると、前記運転座席は、前記支持ブラケットに対して、前記運転座席を構成する座体の下面前部に位置した横向きの枢支軸回りに上下回動可能に取り付けられている一方、前記支持ブラケットは平面視矩形状に形成されているから、前記運転座席が前向きに倒れ込むように跳ね上げ回動した状態でも、前記駆動装置の上面は前記支持ブラケットに覆われていてほとんど露出しない。
【0015】
しかも、この支持ブラケットに、前記通気口として、板厚方向に貫通するスリット状又は小径の連通穴が複数形成されているから、当該小径の連通穴の存在にて、前記支持ブラケットの通気性を確保しつつも、これら連通穴に人の手指が差し込まれるおそれは回避できる。
【0016】
従って、例えば運転停止後に前記運転座席を跳ね上げ回動させたときに、人の手指が前記駆動装置に不用意に当たってやけどしたりするおそれを防止でき、安全性が高いという効果を奏する。
【0017】
請求項3の構成によると、前記支持ブラケットは、前記走行機体の前後方向に沿って位置調節移動可能に構成されており、前記カバー体における前記開口部の前縁寄り部位と後縁寄り部位とのうち少なくとも一方には、平面視で前記開口部の一部を覆う保護カバーが位置固定的に配置されており、前記支持ブラケットと前記保護カバーとは、前記支持ブラケットの前後移動位置に拘らず、それぞれの少なくとも一部が平面視で互いに重複するように構成されているから、前記保護カバーと前記支持ブラケットとの存在により、前記カバー体の前記開口部を、前記支持ブラケットの前後移動位置に拘らず、常時覆われた状態に維持できる。
【0018】
このため、例えば前記運転座席の位置調節操作時や前記運転座席を跳ね上げ回動させたとき等に、前記カバー体における前記開口部の下方にある前記駆動装置に人の手指が不用意に接触するおそれを確実に回避でき、安全性をより一層向上できるという効果を奏する。
【0019】
請求項4の構成によると、前記保護カバーには、板厚方向に貫通するスリット状又は小径の連通穴が複数形成されているから、前記カバー体外の空気を取り込むための通気口の面積が増え、前記カバー体外の空気を取り込み易くなる。従って、前記駆動装置の放熱効率の向上に寄与できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本願発明を具体化した実施形態を図面(図1〜図12)に基づいて説明する。図1は芝刈機の側面図、図2は芝刈機の平面図、図3は動力伝達系統の一部を示す走行機体前部の側面図、図4は動力伝達系統の一部を示す走行機体後部の側面図、図5はモア装置の側面図、図6はモア装置の平面図、図7は図1のVII−VII視正面断面図、図8は図1のVIII−VIII視背面断面図、図9は運転座席が最後位置にある状態での運転座席周辺の側面断面図、図10は運転座席が最前位置にある状態での運転座席周辺の側面断面図、図11は運転座席が最後位置にある状態での支持ブラケットの平面図、図12は運転座席が最前位置にある状態での支持ブラケットの平面図である。
【0021】
(1).芝刈機の概要
まず、主として図1及び図2を参照しながら、作業車両としての芝刈機の概要について説明する。
【0022】
図1及び図2に示すように、実施形態における芝刈機の走行機体1は、平面視略門型の機体フレーム2を備えている。機体フレーム2は、その左右両側の前後に配置された左右の前輪3及び左右の後輪4にて支持されている。左右両後輪4は、機体フレーム2の左右両外側面に固着された一対の門型ブラケット19の下端外側に装着されている。
【0023】
走行機体1の上面前部を覆うフロントカウル5上に設けられたボンネット6には、動力源としてのエンジン7が内蔵されている。ボンネット6の上面後部には、操向丸ハンドル9を有する操縦コラム部8が搭載されている。この場合、操向丸ハンドル9を回動操作することにより、その操作量(回動量)に応じて左右両前輪3のかじ取り角(操向角度)が変わるように構成されている。操縦コラム部8の裏面(後面)側には、走行機体1の車速を適宜調節するための変速ペダル10と、走行機体1を制動操作するためのブレーキペダル11とが設けられている。
【0024】
走行機体1の上面後部を覆うカバー体としてのリヤカウル12上には運転座席13が設けられている。運転座席13の左側には、後述するモア装置20を昇降操作するためのモア昇降レバー14が前後回動可能に設けられている。運転座席13の右側には、後述するPTO軸46からモア装置20への動力伝達を継断操作するためのPTOクラッチレバー15が前後回動可能に設けられている。PTOクラッチレバー15の後方には、後述する集草ボックス29の姿勢を切り替え操作するための姿勢切り替えレバー16が前後回動可能に設けられている。
【0025】
リヤカウル12の内部のうち運転座席13と後述する排出ダクト28との間の箇所(運転座席13の下方で且つ排出ダクト28の上方)には、静油圧式無段変速機等を有するミッションケース17が配置されている。ミッションケース17は、エンジン7からの動力を適宜変速して左右両後輪4に伝達するためのものである。実施形態のミッションケース17は、その左右端部を機体フレーム2のうち門型ブラケット19内に位置した上面部分にボルト締結することによって、機体フレーム2にて支持されている。ミッションケース17は特許請求の範囲に記載した駆動装置に相当する。なお、ミッションケース17の後方には燃料タンク18が搭載されている。
【0026】
機体フレーム2の下面のうち左右両前輪3と左右両後輪4との間には、モア装置20が前後一対のリンク杆21,22を介して昇降動可能に装着されている。モア装置20は、下向き開口椀状のモアケース23内に、水平回転可能な左右一対のロータリ刈刃24を備えている(図5及び図6参照)。また、モアケース23における左右両側の前後には、下降時にモア装置20の刈高さを微調節するためのゲージ車輪25が取り付けられている(計4つ)。
【0027】
モアケース23の上面には、後ろ向きに延びていて上方及び後方に向けて開口したダクト部26が一体的に設けられている。ダクト部26における上向きの開口26aは、断面下向きコ字状に形成された上カバー体27にて覆われている。ダクト部26の後端部及び上カバー体27の後端部は、機体フレーム2の下面のうち左右両後輪4の間に配置された排出ダクト28の前面開口内に差し込まれており、当該ダクト部26における後ろ向きの開口26bを排出ダクト28の内部に臨ませている。従って、モア装置20のダクト部26は、排出ダクト28を介して走行機体の後部に配置された集草ボックス29に連通している。
【0028】
モア装置20を地面に這わせた状態でロータリ刈刃24を後述のように回転させた場合は、地面に植立した芝草が適宜高さに刈り取られる。刈り取られた芝草は、ロータリ刈刃24の回転で生じた搬送風に乗って、モア装置20から排出ダクト28を経由して集草ボックス29に収容される。
【0029】
排出ダクト28は断面下向きコ字状に形成されており、当該排出ダクト28内の底部には、断面上向きコ字状の底カバー体53が取り付けられている。底カバー体53の後端部は排出ダクト28の左右側板に対して枢着ピン54にて上下回動可能に枢着されている。底カバー体53の前端部は、モア装置20の昇降動に連動して底カバー体53が枢着ピン54回りに上下回動するように、左右一対の連杆55を介してモアケース23上に立設された連結ブラケット52に連結されている。底カバー体53の左右巾寸法は、上カバー体27の左右巾寸法よりも大きく、且つ排出ダクト28の左右巾寸法よりも小さくなるように設定されている。
【0030】
なお、排出ダクト28の底部のうち底カバー体53の後方には、当該箇所を塞ぐための固定板56が設けられている(図1参照)。従って、排出ダクト28の後半部はほぼ筒状の形態になっている。
【0031】
集草ボックス29は前面を開口した略箱型のものであり、前面の受け入れ口を除く周囲は網又は布製の袋体30で覆われている。集草ボックス29の上面には、袋体30の網目を通り抜ける塵埃が走行機体1側へ回り込むのを防ぐための防塵カバー体31が取り付けられている。
【0032】
集草ボックス29の上面のうち受け入れ口寄りの部位は、機体フレーム2の後端部に回動可能に軸支された左右長手の回動支軸32に固着されている。集草ボックス29は、姿勢切り替えレバー16の前後回動操作にて油圧シリンダ(図示せず)を伸縮駆動させることにより、受け入れ口が排出ダクト28の後端口に対面する集草姿勢(図1の実線状態参照)と、受け入れ口が地面に対面する放出姿勢(図1の二点鎖線状態参照)とに切り替わるように、回動支軸32回りに上下回動する構成となっている。
【0033】
(2).動力伝達系統
次に、図1〜図6を参照しながら、芝刈機の動力伝達系統について説明する。実施形態の芝刈機では、エンジン7の回転動力の一部を左右両後輪4に配分する二輪駆動方式が採用されている。
【0034】
すなわち、エンジン7の回転動力の一部は、このエンジン7に前後外向きに突設された出力軸34の後端部から、前後両端に自在継手を有する推進軸35、ミッションケース17の前方に配置された走行用ギヤケース36、無端入力ベルト37及び伝動プーリ38,39を介して、ミッションケース17に伝達される。
【0035】
図4に示すように、2つの伝動プーリ38,39のうち一方38は、走行用ギヤケース36から上向きに突出した中継軸57に被嵌されている。他方の伝動プーリ39は、ミッションケース17から上向きに突出した変速入力軸58に被嵌されている。変速入力軸58の上端には冷却ファン59が取り付けられている。冷却ファン59は、伝動プーリ39と共に変速入力軸58回りに回転駆動することによって、ミッションケース17に向かう下向きの気流を発生させるように構成されている。この冷却ファン59による空気の吹き付けにより、ミッションケース17に生じた熱を逃がしている(空冷している)。変速入力軸58は特許請求の範囲に記載した伝動軸に相当する。
【0036】
ミッションケース17にまで伝達された回転動力は、ミッションケース17に左右外向きに突設された後輪駆動軸40から、無端チェーン41及びスプロケット42,43を介して、走行機体1の後部に設けられた左右長手の後車軸44に伝達される。その結果、後車軸44の左右両端に取り付けられた後輪4が回転駆動する。
【0037】
他方、エンジン7の他の回転動力は、出力軸34の前端部から、PTO用無端ベルト45を介して、機体フレーム2の下面前部に軸支されたPTO軸46に伝達される。次いで、このPTO軸46から、前後両端に自在継手を有していて伸縮可能な中間軸47、モアケース23の上面のうち機体フレーム2より右側の箇所に配置されたモア用ギヤボックス48及びモア用無端ベルト49を介して、モアケース23のうち平面視でダクト部26を挟んだ左右両側に回転可能に軸支された縦長のロータリ軸50に動力伝達される。その結果、左ロータリ刈刃24は平面視で時計方向に回転駆動し、右ロータリ刈刃24は平面視で反時計方向に回転駆動する。
【0038】
左右両ロータリ刈刃24の回転により、モアケース23から集草ボックス29に向けて後ろ向きに流れる搬送風が形成される。この搬送風がロータリ刈刃24にて刈り取られた芝草を集草ボックス29にまでスムーズに搬送する。
【0039】
なお、モアケース23の上面に位置したモア用ギヤボックス48やモア用無端ベルト49等はモア用カバー体51にて覆われている(図5及び図6参照)。このモア用カバー体51は、圃場にこぼれ落ちた刈り取り後の芝草やほこり等がモア用ギヤボックス48等に付着(堆積)することを防止するためのものである。
【0040】
(3).運転座席の支持構造
次に、図7〜図12を参照しながら、運転座席の支持構造について説明する。ここで、図7では便宜上、後述する枢支軸77の図示を省略している。また、図8では、後述する前保護カバー81と枢支軸77との図示を省略している。
【0041】
リヤカウル12の後部上面板12aには上向きの開口部70が形成されている。当該開口部70の下方にはミッションケース17及び冷却ファン59が位置している。この上向きの開口部70には、運転座席13を支持する支持ブラケット71が前後移動可能に配置されている。この支持ブラケット71は、運転座席13の位置をオペレータの体格に合わせて調節するために前後移動可能に構成されており、実施形態では、機体フレーム2における左右一対の門型ブラケット19の上部に、左右一対の移動案内手段72を介して走行機体1の進行方向(前後方向)に位置調節移動可能に取り付けられている。
【0042】
実施形態の支持ブラケット71は、平面視略矩形で且つ断面下向きコ字状に形成されたものであり、その左右側板から外向きに突出した張り出し部71aが、機体フレーム2のうち左右の門型ブラケット19の上部内面側にボルト締結された断面略Z字状の受け部材73に対して、移動案内手段72を介して連結されている。
【0043】
左右の移動案内手段72は、受け部材73における水平板部の前部上面にボルト締結された固定レール74と、支持ブラケット71における張り出し部71aの下面にボルト締結された可動レール75とにより構成されている。
【0044】
固定レール74は前後に長い断面逆Ω字状に形成されている一方、可動レール75は前後に長い下向き開口略樋状に形成されている。この可動レール75を固定レール74に対して前後スライド可能に被嵌することによって、支持ブラケット71ひいては運転座席13が、最後位置(図9及び図11参照)から最前位置(図10及び図12参照)までの摺動ストロークで前後スライドするように構成されている。
【0045】
なお、支持ブラケット71の内側で且つ一方の可動レール75の前部には、略L字棒状に形成された回動式の座席調節レバー76が取り付けられている。座席調節レバー76は前後に延びる回動軸76a回りに回動操作可能に構成されている。この座席調節レバー76の回動操作にて、回動軸76aから外向きに突出した係合爪76bを固定レール74及び可動レール75の左右内側に凹み形成された複数の係合凹所(図示せず)に係脱させることにより、支持ブラケット71ひいては運転座席13の前後位置が段階的に変更・調節可能になっている。係合爪76bは、ばね部材(図示せず)にて常時係合方向に付勢されている。
【0046】
支持ブラケット71の前端部は、運転座席13における座体13aの下面前部に対して左右横向きの枢支軸77にて起伏(上下)回動可能に軸支されている。このため、運転座席13は、枢支軸77を回動中心として、背もたれ13bが前方に倒れる方向に跳ね上げ回動可能となっている(図9及び図10の一点鎖線状態参照)。
【0047】
支持ブラケット71のうち座体13aに対峙する平板部71bには、その後部寄りの左右両側に、合成樹脂のような弾性材製の座席受け体78が設けられている。これら座席受け体78は、オペレータが運転座席13に座ったときに座体13aの下面に当接して、当該座体13aを受ける(下方から支持する)ためのものである。
【0048】
平板部71bのうち一方の座席受け体78より前方の箇所には、オペレータが運転座席13に座っていないときに、当該運転座席13を少しだけ浮き上げ回動させる(図9及び図10の実線状態参照)方向に付勢するためのコイル状の浮かせばね79が設けられている。
【0049】
そして、平板部71bのうち浮かせばね79より前方の箇所には、運転座席13にオペレータが座っているか否かを検出するための座席スイッチ80が設けられている。当該座席スイッチ80は、これが座体13aの下面に接触しているか否かにより、運転座席13における枢支軸77回りの回動の有無、すなわち運転座席13にオペレータが座っているか否かを検出する接触式(リミットスイッチ式)のものである。
【0050】
オペレータが運転座席13に座って座体13aの下面が座席スイッチ80に当接している間は、エンジン7の始動を許可すると共に、エンジン7から左右両後輪4及びモア装置20への動力伝達を許容するように設定されている。オペレータが運転座席13から離れて、運転座席13の後部が浮かせばね79の弾性付勢力にて浮き上がり、座体13aの下面が座席スイッチ80から離れた場合は、エンジン7の駆動を停止するか、又はエンジン7から左右両後輪4及びモア装置20への動力伝達を自動的に遮断するように設定されている。
【0051】
図9及び図11に示すように、支持ブラケット71の平板部71bは、支持ブラケット71(運転座席13)が最後位置にある状態で、平面視においてリヤカウル12の開口部70の略3/4程度を覆う大きさに設定されている。
【0052】
リヤカウル12の開口部70のうち前縁寄り部位及び後縁寄り部位には、平面視で開口部70の一部を覆う保護カバー81,82が位置固定的に配置されている。そして、支持ブラケット70と前後の保護カバー81,82とは、支持ブラケット71の前後移動位置に拘らず、それぞれの少なくとも一部が平面視で互いに重複するように構成されている。実施形態では、左右両受け部材73の前部側に、側面視階段状の前保護カバー81が設けられている一方、同じく左右両受け部材73の後部側に、平面視略矩形で且つ断面下向きコ字状の後ろ保護カバー82が設けられている。
【0053】
前保護カバー81は、左右両受け部材73の前端部間に跨って取り付けられた横桟部材83(図7、図9及び図10参照)にボルト締結されている。前保護カバー81における上半部81aの左右巾寸法は、支持ブラケット71における平板部71bの左右巾寸法より小さく設定されており、この上半部81aは支持ブラケット71の内側に前方から差し込まれている。このため、当該上半部81aの存在が支持ブラケット71の前後スライド移動を妨げる(干渉する)ことはない。
【0054】
また、実施形態では、前保護カバー81における上半部81aの少なくとも一部が、支持ブラケット71の前後移動位置に拘らず、支持ブラケット71の平板部71bに対して、平面視で常に重複(オーバーラップ)するように構成されている。
【0055】
前保護カバー81の下半部81bは、正面視で左右の門型ブラケット19に跨って延びているものの、左右両移動案内手段72より下方に位置している(図7、図9及び図10参照)。このため、当該下半部81bが支持ブラケット71の前後スライド移動を干渉することもない。前保護カバー81における下半部81bの前端部は、リヤカウル12における開口部70の前縁部の下側に差し込まれている。
【0056】
後ろ保護カバー82においては、その左右側板から外向きに突出した張り出し部82aが受け部材73における水平板部の後部上面にボルト締結されている。後ろ保護カバー82における平板部82bの左右巾寸法は、支持ブラケット71における平板部71bの左右巾寸法より小さく設定されており、支持ブラケット71が最後位置にある状態では、支持ブラケット71が干渉することなく後ろ保護カバー82に上方から被さるように構成されている。すなわち、後ろ保護カバー82の存在も支持ブラケット71の前後スライド移動を妨げない。
【0057】
また、実施形態では、後ろ保護カバー82における平板部82bの少なくとも一部が、支持ブラケット71の前後移動位置に拘らず、支持ブラケット71の平板部71bに対して、平面視で常に重複(オーバーラップ)するように構成されている。
【0058】
かかる構成から明らかなように、前後の保護カバー81,82の存在により、リヤカウル12における開口部70のほとんどは、支持ブラケット71の前後移動位置に拘らず、常時覆われた状態に維持されている。
【0059】
支持ブラケット71の平板部71b及び後ろ保護カバー82の平板部82bには、ミッションケース17側と外部とを連通させる通気口として、板厚方向(上下方向)に貫通する長円形状の連通穴84,85が前後左右のマトリクス状に並べて複数個形成されている。実施形態では、ミッションケース17の上面側にある冷却ファン59をマトリクス状の連通穴84,85の群に下方から臨ませるように、ミッションケース17及び冷却ファン59と、支持ブラケット71及び後ろ保護カバー82との位置関係が設定されている。連通穴84,85は人の手指を差し込めない程度の小径に設定されている。
【0060】
(4).作用効果
以上の構成によると、ミッションケース17から上向きに突出した変速入力軸58に冷却ファン59が取り付けられ、支持ブラケット71には、ミッションケース17側と外部とを連通させる通気口としての連通穴84が冷却ファン59に臨むように形成されているから、冷却ファン59の回転駆動により、リヤカウル12外の空気を、連通穴84を介してリヤカウル12内のミッションケース17に向けて吹き付けることができる。そして、リヤカウル12外から取り込まれた空気がミッションケース17の外面に沿って下向きに流れることにより、ミッションケース17からの放熱が促進されることになる。
【0061】
従って、実施形態の構成によると、ミッションケース17の周囲が支持ブラケット71、前後の保護カバー81,82、リヤカウル12及び排出ダクト28にて囲われているものの、リヤカウル12外の空気を冷媒として利用でき、ミッションケース17を効率よく冷却できる(放熱効率が向上する)のである。
【0062】
なお、温められた空気は、ミッションケース17の周囲に形成された下向きの気流に乗って、リヤカウル12の左右側板と排出ダクト28の左右側板との間の隙間等から外部に吐き出されることになる。
【0063】
また、運転座席13は、支持ブラケット71に対して、座体13aの下面前部に位置した横向きの枢支軸77回りに上下回動可能に取り付けられている一方、支持ブラケット71は平面視矩形状に形成されているから、運転座席13が前向きに倒れ込むように跳ね上げ回動した状態でも、ミッションケース17の上面は支持ブラケット71に覆われていてほとんど露出しない。しかも、支持ブラケット71に形成された通気口は小径の連通穴84の群であるから、支持ブラケット71の通気性を確保するものでありながら、人の手指が差し込まれるおそれを回避できる。
【0064】
従って、例えば運転停止後に運転座席13を跳ね上げ回動させたときに、人の手指がミッションケース17に不用意に当たってやけどしたりするおそれを防止でき、安全性が高いのである。
【0065】
更に、支持ブラケット71は、走行機体1の前後方向に沿って位置調節移動可能に構成されており、リヤカウル12における開口部70の前縁寄り部位と後縁寄り部位とには、平面視で開口部70の一部を覆う保護カバー81,82が位置固定的に配置されており、支持ブラケット71と前後の保護カバー81,82とは、支持ブラケット71の前後移動位置に拘らず、それぞれの少なくとも一部が平面視で互いに重複するように構成されているから、これら前後の保護カバー81,82と支持ブラケット71との存在により、リヤカウル12における開口部70のほとんどを、支持ブラケット71の前後位置に拘らず常時覆われた状態に維持できる。
【0066】
このため、例えば運転座席13の位置調節操作時や前記運転座席を跳ね上げ回動させたとき等に、リヤカウル12における開口部70の下方にあるミッションケース17に人の手指が不用意に接触するおそれを確実に回避でき、安全性をより一層向上できる。
【0067】
実施形態では、後ろ保護カバー82の平板部82bにも、通気口としての小径の連通穴85が複数形成されているから、リヤカウル12外の空気を取り込むための通気口の面積が増え、リヤカウル12外の空気を取り込み易くなる。従って、ミッションケース17の放熱効率の向上に寄与できる。
【0068】
(5).その他
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば駆動装置はミッションケースに限らず、エンジンであってもよいし、ミッションケース及びエンジンの両方であってもよい。すなわちカバー体(実施形態ではリヤカウル)の内部のうち支持ブラケットの下方に、エンジンが配置されていてもよいし、ミッションケースとエンジンとの両方が配置されていてもよい。
【0069】
また、支持ブラケットを矩形枠体にて構成し、この枠体で囲まれた内側の開口を通気口としてもよい。連通穴の平面視形状は、スリット状、円形状、三角形状、四角形状等、様々な形状を採用できる。前保護カバーに連通穴を設けてもよい。
【0070】
更に、保護カバーは必ずしも、リヤカウルにおける開口部の前縁部と後縁部との両方に設ける必要はなく、リヤカウルの開口部を常時覆われた状態に維持できるのであれば、支持ブラケットと保護カバーとの大きさ・配置関係等によっては、開口部の前縁部と後縁部とのいずれか一方のみに保護カバーを設けることも可能である。
【0071】
その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】芝刈機の側面図である。
【図2】芝刈機の平面図である。
【図3】動力伝達系統の一部を示す走行機体前部の側面図である。
【図4】動力伝達系統の一部を示す走行機体後部の側面図である。
【図5】モア装置の側面図である。
【図6】モア装置の平面図である。
【図7】図1のVII−VII視正面断面図である。
【図8】図1のVIII−VIII視背面断面図である。
【図9】運転座席が最後位置にある状態での運転座席周辺の側面断面図である。
【図10】運転座席が最前位置にある状態での運転座席周辺の側面断面図である。
【図11】運転座席が最後位置にある状態での支持ブラケットの平面図である。
【図12】運転座席が最前位置にある状態での支持ブラケットの平面図である。
【符号の説明】
【0073】
1 走行機体
2 機体フレーム
7 エンジン
12 カバー体としてのリヤカウル
13 運転座席
13a 座体
13b 背もたれ
17 駆動装置としてのミッションケース
19 門型ブラケット
58 変速入力軸
59 冷却ファン
70 上向きの開口部
71 支持ブラケット
71a 張り出し部
71b 平板部
72 移動案内手段
77 枢支軸
81 前保護カバー
82 後ろ保護カバー
84,85 通気口としての連通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体の上面を覆うカバー体に形成された上向きの開口部に、運転座席を支持する支持ブラケットが配置されており、前記カバー体の内部のうち前記支持ブラケットの下方に、ミッションケースやエンジン等の駆動装置が配置されている作業車両であって、
前記駆動装置から上向きに突出した伝動軸に冷却ファンが取り付けられており、前記支持ブラケットには、前記駆動装置側と外部とを連通させる通気口が前記冷却ファンに臨むように形成されていることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記運転座席は、前記支持ブラケットに対して、前記運転座席を構成する座体の下面前部に位置した横向きの枢支軸回りに上下回動可能に取り付けられている一方、
前記支持ブラケットは平面視矩形状に形成されており、この支持ブラケットに、前記通気口として、板厚方向に貫通するスリット状又は小径の連通穴が複数形成されていることを特徴とする請求項1に記載した作業車両。
【請求項3】
前記支持ブラケットは、前記走行機体の前後方向に沿って位置調節移動可能に構成されており、
前記カバー体における前記開口部の前縁寄り部位と後縁寄り部位とのうち少なくとも一方又は双方には、平面視で前記開口部の一部を覆う保護カバーが位置固定的に配置されており、
前記支持ブラケットと前記保護カバーとは、前記支持ブラケットの前後移動位置に拘らず、それぞれの少なくとも一部が平面視で互いに重複するように構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載した作業車両。
【請求項4】
前記保護カバーには、板厚方向に貫通するスリット状又は小径の連通穴が複数形成されていることを特徴とする請求項3に記載した作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−308071(P2007−308071A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140780(P2006−140780)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】