説明

作業車両

【課題】エンジンの振動やボンネットロッドへの接触によってボンネットロッドが抜けてボンネットが閉まることがなく、簡単かつ低コストな構造でボンネットを開保持可能な作業車両を提供する。
【解決手段】ボンネット31を開保持するボンネットロッド33を設け、ボンネット31を開支持する際はボンネット31左右幅方向内側に位置し、該ボンネットロッド33の先端部には円形状若しくは多角形状の係合部材33aを設けるとともに、ボンネット31一側縁内には、該係合部材33aと同等若しくは大なる円形状の係合孔54aを設けた。そして、係合部材33aと係合孔54aを嵌合させることによってボンネットロッド33と補強板54を係合させ、ボンネット31を開保持可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業車両のボンネットの開保持方法に関し、詳しくは、簡単な構造かつ低コストでボンネットを開保持する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来トラクタ等の作業車両においては、支持杆(ボンネットロッド)をボンネット内に枢支し、エンジンルームの点検等のメンテナンス作業を行う際にはボンネットを開いて該ボンネットロッドを立ち上げ、該ボンネットロッドの先端部を該ボンネットの被係合部に係合させて、ボンネットを開いた状態で保持する技術が公知となっている(例えば、「特許文献1」参照)。
【特許文献1】実開平5−54166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし前記の従来技術等では、特許文献1のように前記ボンネットロッドと係合孔の係合がピンによるので、エンジンをかけたまま作業した場合のエンジンの振動や、あるいは該ボンネットロッドの機体外側突出部分への作業者等の接触によって該ボンネットロッドと係合孔との係合が外れ、ボンネットが自重により閉じる虞があった。またボンネット側の被係合部が複雑な形の係合孔である場合は該係合孔の加工にコストがかかっていた。
【0004】
本発明は上記の課題を解決するために、エンジンの振動やボンネットロッドへの接触によって該ボンネットロッドが抜けてボンネットが閉まることがなく、簡単かつ低コストな構造でボンネットを開保持可能な作業車両を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0006】
即ち、請求項1においては、機体前部にエンジンを配置してエンジンルーム上方をボンネットで覆い、ボンネットを開保持する支持杆を設けた作業車両において、該支持杆の先端部には円形状若しくは多角形状の係合部材を設けるとともに、ボンネット一側縁内には、前記係合部材と同等若しくは大なる形状の係合孔を設けて、ボンネット開時に係合可能に構成したものである。
【0007】
請求項2においては、前記支持杆の収納時用係止部材を電装部品用ステーに配置したものである。
【0008】
請求項3においては、前記支持杆をボンネットの左右幅方向内側一側方に配置したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0010】
請求項1においては、支持杆がボンネットを開支持する際はボンネット左右幅方向内側に位置しており、さらに該支持杆と係合孔の係合はピンではなく円形状若しくは多角形状の係合部材を用いているので、エンジンの振動や該支持杆への作業者等の接触等によって支持杆と係合孔の係合が外れて該ボンネットが閉まるのを防ぐことができ、機体が斜面等に位置するときにボンネットの重心位置が前後に移動しても、係合孔から支持杆が抜けることがない。
また、ボンネット一側縁内に設けた係合孔が単純な形状であるため、簡単な方法でボンネットを開保持し、さらに係合孔を加工する際のコストを抑えることができる。
【0011】
請求項2においては、前記支持杆の収納用係止部材を従来ある電装部品用ステーに配置することにより、部品点数を少なくすることができる。また、エンジンルーム内に特別なスペースを必要としないため、ボンネットの小型化に寄与できる。
【0012】
請求項3においては、前記支持杆をボンネットの左右幅方向内側一側方に配置するので、ボンネットを開保持して作業を行う際に、該支持杆が片側に位置するため作業を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の技術的範囲は実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる、本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に広く及ぶものである。
図1は作業車両(トラクタ)の全体的な構成を示した側面図である。
図2はボンネットを開いた状態のボンネット側面図である。
図3はボンネットを開いた状態のボンネット平面図である。
図4は収納状態のボンネットロッド側面図である。
図5は収納状態のボンネットロッド平面図である。
図6は収納状態のボンネットロッド斜視図である。
図7は、Aはボンネットロッド平面図、Bはボンネットロッド正面図、Cはボンネットロッド側面図である。
図8はボンネット開保持状態の斜視図である。
図9はボンネットロッドとボンネットの係合状態のボンネット斜視図である。
図10は、Aはボンネットの重心が前方にある時のボンネットロッド係合部分の側面図、Bはボンネットの重心が後方にある時のボンネットロッド係合部分の側面図である。
【0014】
まず、本発明に係る作業車両の一実施の形態としてのトラクタ1の全体構成について説明する。なお、本実施例では進行方向に向かって前後左右を決定している。
トラクタ1は、図1に示すように、機体の前後に前輪2・2および後輪3・3を支承する。前部のボンネット31は、その前下部に設けた枢支軸32によって機体フレームに開閉可能に枢支され、該ボンネット31(エンジンルーム)の内部にはエンジン5を配置し、ボンネット31の後方にはステアリングハンドル6を設けており、ステアリングハンドル6の後方には座席シート7を配設している。また、座席シート7の側部には図示しない主変速レバー、作業機昇降レバー等が配設されている。
【0015】
エンジン5は、機体フレーム8上に防振支持されており、エンジン5の後部にはドライブシャフト9や、ミッションケース11等が配設されている。エンジン5の駆動力は、ドライブシャフト9によってミッションケース11へ伝達され、ミッションケース11によって変速されて図示しないリアアクスルを介して後輪3・3を駆動し、さらにミッションケース11から図示しない前輪駆動軸を介して前輪2・2にも駆動力を伝達できるようにしている。
【0016】
ボンネット31の後部には、ダッシュボード23が設けられ、ダッシュボード23は図示しないパワステバルブや燃料タンク等を覆ってカバーし、ダッシュボード23上には計器パネルやキースイッチ、前後進切換レバー22等が配置されている。ダッシュボード23の後下部には側下部に至って、図示しないステップカバーが配設されてステップ25が形成され、ステップ25はステー等を介して機体フレーム8に固設されている。
【0017】
図2及び図3に示すようにボンネット31の内部は、ボンネット31の前方下部に配置される前記エンジン5の他に、該エンジンの上方に配置されるエアクリーナ35、該エアクリーナ35から後方に延設される一次吸気ホース34、エアクリーナ35とエンジン5を繋ぐ二次吸気ホース36、エンジン5の右上方に配置され、エンジン5と図示しない排気管で連結されるマフラー39、マフラー39の後方から機体右下前方に延設される排気ホース40、ボンネット31内後方で機体フレーム8に立設されるラジエータブラケット48、エンジン5の後方で該ラジエータブラケット48に設置されるラジエータ41及び該ラジエータブラケット48に左上後方から前方に向けて回動可能に枢支されるボンネットロッド33等により構成される。
【0018】
前記エアクリーナ35は、ボンネット31後方の吸気口から一次吸気ホース34を通じて空気を吸入し、空気中に含まれる粉塵を除去した上で二次吸気ホース36を通じてエンジン5に空気を送っている。エンジン5から排出される排気ガスはマフラー39を経由した後、該マフラー39の後方から機体右下前方へと通じる排気ホース40より放出される。また、ラジエータ41はボンネット31後方から空気を取り込み、熱交換して温度を下げた上で冷却水をエンジン5に循環させている。
【0019】
ここで本実施例では、ボンネット31後方の吸気口からエアクリーナ35へ空気を送っている一次吸気ホース34は、ラジエータ41の左側方からエンジン5の左側方を通ってエアクリーナ35と接続されている。このため、ラジエータ41の上方に障害物がないので、ラジエータスクリーン55のメンテナンスの際に該ラジエータスクリーン55を上下に着脱しやすく、一次吸気ホース34がラジエータ41の上部に配置されてラジエータスクリーン55着脱の支障となっていた従来構造に比べてメンテナンスが容易な構成になっている。
【0020】
一方、ボンネット31は前下部が枢支軸32によって、機体フレーム8上に上下回動可能に枢支され、前後反対側にロック部が構成されている。即ち、図4乃至図6に示すように、機体フレーム8に立設されたラジエータブラケット48は正面視四角形状に枠状に構成されて、上端の左右中央部に係合部材46が左右回動可能に軸支されて、ロック方向に図示しないバネにより付勢されている。該係合部材46の側部から上方に延設したレバー部42が形成され、さらに該係合部材46の左右両側のラジエータブラケット48上にバネ44、44が配置され、ボンネット31を閉じた時にガタつかないようにしている。また図8に示すように、該ボンネット31の後上部の左右方向中央内部には係合ピン43が後方に向かって配置され、前記係合部材46と係合可能に配設されてロック部を構成している。該係合ピンの左右両側下方には前記バネ44、44に当接する当接片45、45が配置されている。
【0021】
ボンネット31が閉じられている時は係合部材46によって該係合ピン43が係合されており、ボンネット31は機体に固定されている。メンテナンス等でボンネット31を開ける際にはレバー42及び係合部材46を右に回動し、係合部材46と係合ピン43の係合を外す。すると圧縮されていたバネ44、44が当接片45、45及びボンネット31を上方に付勢し、ボンネット31が開くのである。
【0022】
ここで、本発明に係るボンネットロッド33について説明する。図4乃至図7に示すように、前記ボンネットロッド33は、前部先端を機体外側に向かってL字状に折り曲げられており、折り曲げた先端部分にワッシャ等で構成した円形の係合部材33aが配置されている。そして、前記ラジエータブラケット48の左右一側(本実施例では左側)上端部に支持部材49が固設され、該ボンネットロッド33の後端が該支持部材49に形成した枢支孔に挿入して上下回動可能に軸支されている。
【0023】
また、ラジエータ41の前面に取り付けられたファンシュラウド47の左右一側前部上にボンネットロッド33の中途部を係止する部材が配設されている。即ち、ファンシュラウド47の左上部前面にステー50が前方に突設して設けられ、該ステー50にヒューズボックス52やリレー53等の電装部品を取り付けるとともに、フック状の係止部材51が一体的に設置されている。このような構成において、ボンネットロッド33を収納する際には、該係止部材51にボンネットロッド33の中途部を係止してボンネット31を閉じるのである。このように、ボンネットロッド33のステー50は電装部品のステー50と兼用可能としているので部品点数を少なくすることができ、エンジンルーム内に特別なスペースを必要としないため、ボンネット31の小型化に寄与できる。
【0024】
一方図8に示すように、ボンネット31の内部における左右両側の後方側端には補強板54が縦方向に固定されて、該補強板54と前記係合ピン43の取付プレートを正面視逆U字状に連結してボンネット31内面に固定することで、ボンネット31の開放側後部の強度をアップしている。該補強板54の中途部には前記係合部材33aと同等若しくは大なる円形状の係合孔54aが開口されている。該係合孔54aが位置する部分とボンネット31内面との間には所定の空間が形成されている。そして、ボンネット31を開いた状態に保持する際には、前記ボンネットロッド33の一側を係止部材51から外して上方に回動させて立ち上げ、ボンネットロッド33先端の係合部材33aを該補強板54の係合孔54aに挿入して先端部を嵌合させ、図2、図3及び図9に示すようにボンネットロッド33と補強板54を係合させてボンネット31を固定するのである。
【0025】
このように、ボンネットロッド33が略直線状で、ボンネット31を開支持する際はボンネット31の左右幅方向内側に位置しており、さらに該ボンネットロッド33と補強板54の係合はピンではなく円形状の係合部材33aを用いているので、エンジン5の振動や該ボンネットロッド33への作業者等の接触等によってボンネットロッド33と補強板54の係合が外れて該ボンネット31が閉まるのを防ぐことができる。
【0026】
そして、機体が斜面等に位置するときは図10Aに示すように、ボンネット31の重心位置が前にあって補強板54が前方(図中aの方向)に移動しても係合部材33aは係合孔54aから抜けることはない。同様に図10Bに示すようにボンネット31の重心位置が後にあって補強板54が後方(図中bの方向)に移動しても係合部材33aは係合孔54aから抜けることはない。また、ボンネット31の重心が左右方向に移動しても抜けることはない。つまり、係合部材33aと係合孔54aがピッタリと合致した位置で側方へ回動しない限り抜き出すことはできない。つまり、係合部材33aを浮かした状態でないと外せないので、ボンネット31の荷重の掛かった状態では自然に抜け出ることはないのである。
【0027】
また、ボンネット31を開保持して作業を行う際に、ボンネットロッド33が片側に位置するので作業を行い易い。さらに、ボンネット31一側縁内に設けた係合孔54aは単純な形状であるため、簡単な方法でボンネット31を開保持し、さらに係合孔54aを加工する際のコストを抑えることができる。
なお、ボンネットロッド33先端の係合部材33a及び補強板54の係合孔54aは円形状に限定されるものではなく、多角形状等他の形状でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】作業車両(トラクタ)の全体的な構成を示した側面図。
【図2】ボンネットを開いた状態のボンネット側面図。
【図3】ボンネットを開いた状態のボンネット平面図。
【図4】収納状態のボンネットロッド側面図。
【図5】収納状態のボンネットロッド平面図。
【図6】収納状態のボンネットロッド斜視図。
【図7】Aはボンネットロッド平面図、Bはボンネットロッド正面図、Cはボンネットロッド側面図。
【図8】ボンネット開保持状態の斜視図。
【図9】ボンネットロッドとボンネットの係合状態のボンネット斜視図。
【図10】Aはボンネットの重心が前方にある時のボンネットロッド係合部分の側面図、Bはボンネットの重心が後方にある時のボンネットロッド係合部分の側面図。
【符号の説明】
【0029】
1 トラクタ
5 エンジン
31 ボンネット
33 ボンネットロッド
35 エアクリーナ
41 ラジエータ
54 補強板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体前部にエンジンを配置してエンジンルーム上方をボンネットで覆い、ボンネットを開保持する支持杆を設けた作業車両において、
該支持杆の先端部には円形状若しくは多角形状の係合部材を設けるとともに、
ボンネット一側縁内には、前記係合部材と同等若しくは大なる形状の係合孔を設けて、ボンネット開時に係合可能に構成したことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記支持杆の収納時用係止部材を電装部品用ステーに配置した、請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記支持杆は、ボンネットの左右幅方向内側一側方に配置したことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−49919(P2008−49919A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229752(P2006−229752)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】