説明

作業車両

【課題】表示装置に表示される画像の視認性を向上させる。
【解決手段】油圧ショベル1は、運転室25と、作業機3と、表示装置47と、表示位置演算部46とを備える。作業機3は、運転室25内のオペレータの操作により動作する。表示装置47は、運転室25に設けられ、所定の画像を表示する。表示位置演算部46は、表示装置47における画像の表示位置を作業機3の動きに応じて変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、作業車両には、車両の状態を表示する表示装置が備えられている。オペレータは、作業車両を操作しながら表示装置を目視することが多いため、視認性の高い表示装置が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、向きを変更可能に表示装置を取り付ける取付構造が開示されている。ここでは、固定ボルトを弛めることによって、オペレータが表示装置の取付角度を自由に変更することができる。
【特許文献1】特開2000−355958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、作業車両には、各種の作業を行うための作業機が備えられており、オペレータは、作業機を操作しながら表示装置を目視する。この作業機の位置は運転状況に応じて大きく変化する。このため、従来の表示装置では、上記のように表示装置の取付角度が変更可能であっても、作業機が動作すると表示装置と作業機との視差が大きくなる。その結果、視認性が低下する。
【0005】
本発明の課題は、表示装置に表示される画像の視認性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る作業車両は、運転室と、作業機と、表示装置と、表示位置変更部とを備える。作業機は、運転室内のオペレータの操作により動作する。表示装置は、運転室に設けられ、所定の画像を表示する。表示位置変更部は、表示装置における画像の表示位置を作業機の動きに応じて変更する。
【0007】
この作業車両では、作業機の動きに追従して表示装置における画像の表示位置が自動的に変更される。このため、作業機が動作した場合でも、表示される画像と作業機との視差を小さく維持することができる。これにより、表示装置に表示される画像の視認性を向上させることができる。
【0008】
第2発明に係る作業車両は、第1発明の作業車両であって、表示位置変更部は、表示位置のうち、作業機の先端部と運転室内のオペレータの視点位置とを結ぶ直線と交差する位置に画像を表示させる。
【0009】
この作業車両では、オペレータの視野において、作業機の先端部に近接して画像を表示させることができる。作業機の先端部は、オペレータが作業機を操作する際に注視する部分である。このため、表示装置に表示される画像の視認性をより向上させることができる。
【0010】
第3発明に係る作業車両は、第2発明の作業車両であって、視点位置を設定するための視点位置設定部をさらに備える。
【0011】
この作業車両では、視点位置設定部によりオペレータごとに視点位置を設定することができる。このため、オペレータの視点位置の個人差に関わらず、画像の視認性を向上させることができる。
【0012】
第4発明に係る作業車両は、第1発明から第3発明のいずれかの作業車両であって、表示装置は、運転室の前面に設けられオペレータが前方を視認可能な透明ディスプレイである。
【0013】
この作業車両では、透明ディスプレイ上において作業機に近接して見える位置に画像が表示される。このため、作業機の動作が見えるように視野を確保しながら、画像の視認性を向上させることができる。
【0014】
第5発明に係る作業車両は、第1発明から第3発明のいずれかの作業車両であって、表示装置は、運転室の前面の側部において上下方向に沿って設けられた表示パネルである。
【0015】
この作業車両では、運転室の前面の側部に配置された表示装置上において、画像の表示位置が変更される。このため、作業機の動作が見えるように視野を確保しながら、画像の視認性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る作業車両では、作業機の動きに追従して表示装置における画像の表示位置が自動的に変更される。このため、作業機が動作した場合でも、表示される画像と作業機との視差を小さく維持することができる。これにより、表示装置に表示される画像の視認性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
<第1実施形態>
〔構成〕
本発明の第1実施形態にかかる油圧ショベル1を図1に示す。この油圧ショベル1は、車両本体2と作業機3とを備える。
【0018】
車両本体2は、下部走行体21と、上部旋回体22とを有する。下部走行体21は履帯23,24を有しており、履帯23,24が回転駆動されることにより、油圧ショベル1は走行する。上部旋回体22は、下部走行体21に対して旋回可能に設けられている。また、上部旋回体22の前部左側には運転室25が設けられている。運転室25には、オペレータが着座するシート26(図3参照)や操作部27(図3参照)が設けられている。操作部27は、各種のレバーやスイッチを有しており、オペレータは、操作部27を操作することにより、油圧ショベル1の走行や作業機3の動作を制御することができる。
【0019】
作業機3は、上部旋回体22の前部中央位置に取り付けられている。作業機3は、ブーム31、アーム32およびバケット33と、これらを駆動する油圧シリンダ34〜36とを有する。ブーム31は、中央部で屈曲した形状を有する。ブーム31の基端部は上部旋回体22に回動可能に取り付けられている。ブーム31はブームシリンダ34が伸縮することにより駆動される。アーム32の基端部は、ブーム31の先端部に回動可能に取り付けられている。アーム32は、アームシリンダ35が伸縮することにより駆動される。バケット33は、アーム32の先端部に回動可能に取り付けられている。バケット33は、バケットシリンダ36が伸縮することにより駆動される。
【0020】
また、この油圧ショベル1は、図2に示す画像表示システム4を備えている。この画像表示システム4は、作業機3の動作に応じて所定の画像G(図3参照)の表示位置を変更して表示させる。画像表示システム4は、画像生成部41と、バケット角度センサ42と、アーム角度センサ43と、ブーム角度センサ44と、視点位置設定部45と、表示位置演算部46と、表示装置47とを有する。
【0021】
画像生成部41は、表示装置47に表示する画像Gを生成する。ここでの画像Gとは、車両の状態を示す情報を含んだものであり、例えば、車速計、エンジン回転計、燃料計、油温計などをグラフィック表示したものである。画像生成部41は、油圧ショベル1の動力系を制御するコントローラ(図示せず)と接続されており、各種のセンサによって検知された情報やコントローラによる制御内容に関する情報などを示すデータが画像生成部41に伝達される。画像生成部41は、受信したデータに基づいて画像Gを生成する。
【0022】
バケット角度センサ42は、バケット33の所定の基準位置からの相対角度を検出する。
【0023】
アーム角度センサ43は、アーム32の所定の基準位置からの相対角度を検出する。
【0024】
ブーム角度センサ44は、ブーム31の所定の基準位置からの相対角度を検出する。
【0025】
視点位置設定部45は、オペレータの視点位置を設定するための装置である。視点位置設定部45は、シート26の位置を検出するシート位置センサ48と、オペレータが画像Gの位置を手動で調整するための調整装置49とを有する。視点位置設定部45は、シート26の位置とオペレータによって設定された画像Gの位置とから、オペレータの視点位置を算出して表示位置演算部46へ出力する。
【0026】
表示装置47は、図3に示すように、運転室25の前面に設けられ所定の画像Gを表示するディスプレイパネルである。この表示装置47は透明ディスプレイであり、オペレータは、表示装置47を通して前方を視認することができる。
【0027】
表示位置演算部46は、表示装置47における画像Gの表示位置を演算し、算出した表示位置に画像Gを表示させる。表示位置演算部46は、表示装置47のうち、作業機3の先端部と運転室25内のオペレータの視点位置とを結ぶ直線と交差する位置D(図5参照)を表示位置として演算する。この表示位置は作業機3の動きに応じて上下方向に変化するため、表示位置演算部46は、作業機3の動きに応じて画像Gの表示位置を上下方向に変更する。
【0028】
なお、上記の画像生成部41および表示位置演算部46は、CPUなどの演算装置やRAM,ROMなどの記憶装置によって実現される。
【0029】
〔画像表示処理の手順〕
以下、この画像表示システム4において行われる画像表示処理の手順について、図4に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0030】
ステップS1では、表示装置47に表示するデータが取得される。ここでは、画像生成部41に、画像を生成するためのデータが入力される。
【0031】
ステップS2では、取得されたデータに基づいて画像Gが作成される。ここでは、画像生成部41が、ステップS1で入力されたデータに基づいて画像Gを作成する。
【0032】
また、ステップS3では、現在の作業機3の構成部材の角度と視点位置とが取得される。ここでは、バケット角度センサ42、アーム角度センサ43、ブーム角度センサ44が検知した角度情報が表示位置演算部46に入力される。また、視点位置設定部45からオペレータの視点位置情報が表示位置演算部46に入力される。
【0033】
次に、ステップS4では、表示装置47上の表示位置の座標が演算される。ここでの演算方法については、後に説明する。
【0034】
そして、ステップS5では、ステップS4において算出された座標に画像Gが表示される。ここでは、表示位置演算部46から表示装置47に指令信号が出力され、算出された座標の位置に画像Gが表示される。
【0035】
以下、表示位置の座標の演算方法について図5に基づいて詳細に説明する。
【0036】
まず、図5における各点を以下のように定義する。
【0037】
O:表示装置47の表示座標の原点
M:ブーム31の車両本体2への取り付け位置
B:アーム32とブーム31の接続点
A:バケット33とアーム32の接続点
Q:バケット33の先端であり、オペレータが注視する点
E:オペレータの着座時の視点位置
D:表示装置47上における画像Gを表示する位置。
【0038】
ここで、オペレータからバケット33の先端部への視線ベクトルをLとすると、ベクトルLは、以下の「数1」式のように表せる。
【0039】
【数1】

【0040】
また、点Dは、ベクトルLとY軸との交点であり、位置Dのy座標の値 Dyは下記の「数2」式のように表せる。
【0041】
【数2】

【0042】
ここで、hは、ベクトルLとX軸とのなす角度である。
【0043】
Ex,Eyは、視点位置設定部45からのオペレータの視点位置情報から得られる。
【0044】
また、Qx,Qyは、以下の「数3」式および「数4」式から得られる。
【0045】
【数3】

【0046】
ここで、|M|、|B|、|A|、|Q|は、作業機3の各構成部品の長さであり、図5におけるOM間の距離、MB間の距離、BA間の距離、AQ間の距離をそれぞれ示している。
【0047】
θB、θA、θQは、位置B、A、Qについて、各角度センサ42〜44で検出した基準位置からの相対角度(ラジアン)である。
【0048】
θM0は、原点から見たブーム31の車体本体2への取付点への方向を示し、OMのx軸正方向に対する角度である。
【0049】
θB0、θA0、θQ0は、点B、A、Qが基準位置にあるときの絶対角度である。ここでの絶対角度は、x軸正方向を0ラジアンとして、反時計回りの方向を正とする。
【0050】
上記の「数3」式より、Q点の座標(Qx,Qy)は以下の「数4」式のように表せる。
【0051】
【数4】


そして、上記の「数2」式および「数4」式より、画像Gの表示位置の座標Dyは、以下の「数5」式のように表せる。
【0052】
【数5】

【0053】
〔特徴〕
この油圧ショベル1では、作業機3の動きに応じて表示装置47における画像Gの表示位置が自動的に変更される。このため、作業機3が大きく動作しても、オペレータから見て画像Gが作業機3の先端部の近くに位置するように、画像Gが自動的に移動する。例えば、図6に示すように、作業機3の動きに合わせて、画像Gの表示位置が点Dから点D’に変更される。これにより、表示装置47に表示される画像Gの視認性を向上させることができる。
【0054】
<第2実施形態>
本発明の第2実施形態に係る油圧ショベルは、図7に示す画像表示システム5を備える。この画像表示システム5は、プロジェクタ51とスクリーン52(図8参照)と角度変更装置53とを有する表示装置50を備える。
【0055】
プロジェクタ51は、図8に示すように、運転室25の天井部に取り付けられており、運転室25のスクリーン52に画像Gを投影する。
【0056】
スクリーン52は、運転室25の前面に設けられており、光を透過する。このため、オペレータは、スクリーン52を通して前方を視認することができる。
【0057】
角度変更装置53は、プロジェクタ51の向きを上下に変更することにより、画像Gの投影方向を上下に変更する。
【0058】
他の構造については、第1実施形態に係る油圧ショベル1と同様である。
【0059】
以下、この画像表示システム5において行われる画像表示処理の手順について、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0060】
まず、ステップS11では、現在の作業機3の構成部材の角度と視点位置とが取得される。ここでは、バケット角度センサ42、アーム角度センサ43、ブーム角度センサ44が検知した角度情報が表示位置演算部46に入力される。また、視点位置設定部45からオペレータの視点位置情報が表示位置演算部46に入力される。
【0061】
次に、ステップS12において、投影角度が演算される。
【0062】
そして、ステップS13において、プロジェクタ51の投影角度の変更が角度変更装置53に出力される。ここでは、プロジェクタ51の投影角度が、ステップS12で算出された角度となるように、角度変更装置53に指令信号が出力される。これにより、プロジェクタ51の向きが変更される。また、プロジェクタ51からスクリーン52に画像Gが投影される。
【0063】
以下、上記のステップS12における投影角度の演算方法について図10に基づいて説明する。図10において、Tは、プロジェクタ51の取付支点であり、点Tを中心に投影角度が変化する。Oは、スクリーン52上の投影位置の原点である。また、θtはプロジェクタ51の投影角度である。他の点については、第1実施形態と同様である。
【0064】
プロジェクタ51の投影角度θtは下記の「数6」式で得られる
【0065】
【数6】



【0066】
ここで、Tx,Tyは、それぞれプロジェクタ51の取付支点Tのx,y座標である。またDyは画像Gを投影すべき表示位置のy座標であり、第1実施形態の「数5」式より得られる。
【0067】
なお、投影される画像Gの生成処理は、第1実施形態のステップS1およびステップS2と同様である。
【0068】
<他の実施形態>
(a)
表示装置として、図11に示すような表示パネル60が用いられてもよい。この表示パネル60は、運転室25の前面の側部において上下方向に沿って設けられており、運転室25のピラー25aに沿って配置されている。
【0069】
(b)
上記の実施形態では、作業車両として油圧ショベル1が用いられているが、他の作業車両が用いられてもよい。例えば、図12に示すようなホイールローダが用いられてもよい。この場合、図5および図10における点Aを点Qと同一座標とし、ベクトルQAとABとのなす角度を任意にとれば、第1実施形態および第2実施形態の演算式を用いて表示位置の座標を算出することができる。
【0070】
また、上記の実施形態では、作業アタッチメントしてバケット33が用いられているが、ブレーカやカッターなどの他の作業アタッチメントが用いられてもよい。
【0071】
(c)
上記の実施形態では、視点位置設定部45は、オペレータが画像Gの表示位置を調整することにより視点位置を設定している。しかし、視点位置設定部45による視点位置の設定方法はこれに限られない。例えば、視点位置設定部45が、オペレータの目の位置を自動的に認識して視点位置を設定する装置であってもよい。
【0072】
(d)
上記の実施形態では、作業機3の動きに応じて画像Gの表示位置が上下方向に変更されているが、表示位置の変更方向はこれに限られない。例えば、作業機が左右方向に動作するものであれば、画像Gの表示位置が左右方向に変更されてもよい。また、上下左右の全ての方向に表示位置が変更されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、表示装置に表示される画像の視認性を向上させる効果を有し、作業車両として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】油圧ショベルの外観斜視図。
【図2】画像表示システムの構成を示すブロック図。
【図3】表示装置の配置を示す模式図。
【図4】画像表示処理の手順を示すフローチャート。
【図5】表示位置の座標の演算方法を説明するための図。
【図6】表示位置の変更の一例を示す図。
【図7】第2実施形態に係る画像表示システムの構成を示すブロック図。
【図8】第2実施形態に係る表示装置を示す模式図。
【図9】第2実施形態に係る画像表示処理の手順を示すフローチャート。
【図10】第2実施形態に係る表示位置の座標の演算方法を説明するための図。
【図11】他の実施形態に係る表示装置を示す模式図。
【図12】他の実施形態に係るホイールローダでの表示位置の座標の演算方法を説明するための図。
【符号の説明】
【0075】
1 油圧ショベル(作業車両)
3 作業機
25 運転室
45 視点位置設定部
46 表示位置演算部(表示位置変更部)
47,50,60 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転室と、
前記運転室内のオペレータの操作により動作する作業機と、
前記運転室に設けられ所定の画像を表示する表示装置と、
前記表示装置における前記画像の表示位置を前記作業機の動きに応じて変更する表示位置変更部と、
を備える作業車両。
【請求項2】
前記表示位置変更部は、前記表示位置のうち、前記作業機の先端部と前記運転室内のオペレータの視点位置とを結ぶ直線と交差する位置に前記画像を表示させる、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記視点位置を設定するための視点位置設定部をさらに備える、
請求項2に記載の作業車両。
【請求項4】
前記表示装置は、前記運転室の前面に設けられオペレータが前方を視認可能な透明ディスプレイである、
請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。
【請求項5】
前記表示装置は、前記運転室の前面の側部において上下方向に沿って設けられた表示パネルである、
請求項1から3のいずれかに記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−243073(P2009−243073A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88616(P2008−88616)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】