説明

作業車両

【課題】ラジエータの前方に配設するボンネットのロック機構に、ラジエータの冷却風中に含まれる塵埃が付着することによって生ずるロック機構の作動不良を未然に防止することができる作業車両を提供する。
【解決手段】ボンネット6を閉状態に保持するロック機構12の前面にロック機構12に対する塵埃の付着を防止する遮蔽体5を配設する。また、遮蔽体5はロック機構12のフック19側に配設し、ボンネット6を開状態とした際にロック機構12のキャッチャー21,22側の前面が開放されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとエンジンの前方に設けたラジエータを開閉自在なボンネットにより覆う作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両において、エンジンとエンジンの前方に設けたラジエータを開閉自在なボンネットによって覆う共に、ボンネットを閉じ状態に保持するロック機構を設けることは周知の技術である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−253741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、ボンネットのロック機構はラジエータの前方に配設されており、エンジン等のメンテナンスを行う際には、レバー等によってロック機構を解除してボンネットを開状態として作業を行う。しかし、係るロック機構は、ラジエータの冷却風の取入れ通路に臨んでいるため冷却風と共に吸い込んだ塵埃がロック機構に付着し易く、また、付着した塵埃はロック機構の動きを悪くして、最悪の場合にはボンネットが開かなくなる虞がある。
そこで、本発明は、係る問題点に鑑みて、ボンネットのロック機構の機能障害を未然に防止することができる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明は、第1にエンジンとエンジンの前方に設けたラジエータを開閉自在なボンネットにより覆ってなる作業車両において、前記ボンネットを閉状態に保持するロック機構の前面にロック機構に対する塵埃の付着を防止する遮蔽体を配設することを特徴とする。また、第2に前記遮蔽体はロック機構のフック側に配設し、ボンネットを開状態とした際にロック機構のキャッチャー側の前面が開放されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
以上のように構成する本発明の作業車両は、ボンネットのロック機構の前面に遮蔽体を配設して、ロック機構に対する塵埃の付着を防止するため、ロック機構の機能障害を未然に防止することができる。また、遮蔽体をロック機構のフック側に配設すると、ボンネットを開状態とした際にロック機構のキャッチャー側の前面が開放されるため、仮に塵埃の付着を防ぎきれなかった際にも部品点数が多く込み合ったキャッチャー部分の整備を遮蔽体に邪魔されることなく迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】作業車両であるトラクタの斜視図である。
【図2】トラクタの前側の斜視図である。
【図3】(A)は遮蔽体の一部を切り欠いた状態のボンネットの斜視図であり、(B)は遮蔽体を取り除いた状態のボンネットの要部正面図であり、(C)はボンネットの要部正面図である。
【図4】(A)は遮蔽体を取り除いた状態のロック機構の正面図であり、(B)はロック機構の背面側斜視図である。
【図5】(A)はロック解除機構の他例を示す一部正面図であり、(B)、(C)及び(D)はワイヤ取付部の平面図、正面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、作業車両であるトラクタの斜視図である。図示するトラクタは、前後一対の前輪1及び後輪2によって支持された機体フレーム3上の後半部に操縦部を覆うキャビン4を設け、機体フレーム3上におけるキャビン4前方に固設されたエンジン(図示しない)、ラジエータ15等を開閉自在にボンネット6によって覆うことにより走行機体7を構成し、該走行機体7の後方にロータリー耕耘装置等の作業機(図示しない)を昇降自在に連結できるようにしている。
【0009】
上記エンジン及びラジエータ15等は、左右の側方が左右一対のサイドカバー8によって覆われる他、正面側が前照灯を備えるフロントグリル9によって覆われ、上方側がボンネット6によって覆われている。言換えると、左右のサイドカバー8とフロントグリル9とボンネット6とによりエンジンを収容するエンジンルーム11が形成され、このエンジンルーム11の上方側が後端部を支点に前方側が上下揺動するボンネット6によって開閉されるようになっている。
【0010】
図2は、トラクタの前側の斜視図であり、図3(A)は、ボンネットの斜視図であり、(B)及び(C)は、ボンネットの要部正面図である。上述のボンネット6は、上下揺動によって、前方に向かって斜め上方を向きエンジンルーム11上方側を開状態とする開姿勢と、前後水平となってエンジンルーム11を閉状態とする閉姿勢とに切換可能に構成されており、後述のロック機構12によってボンネット6は閉姿勢でロックされる一方で、該ロック機構12によるボンネット6の閉状態のロック解除はロック解除機構によって行われる。
【0011】
前記ロック解除機構は、フロントグリル9の下端側の左右一方側(図示する例では右側)に配置された解除操作具14と、該解除操作具14と上記ロック機構12とを連結するワイヤ等の連係機構16から構成されている。これにより、ボンネット6が閉状態でロックされている場合に、上記解除操作具14による解除操作を行うことによってボンネット6の閉状態のロックが解除される。詳細については後述する。
【0012】
次に、図4により、前記ロック機構について詳述する。
図4(A)はロック機構の正面図であり、(B)はロック機構の背面側斜視図である。ロック機構12は、ボンネット6におけるエンジンルーム11側の面である内面を構成する左右内側面の一方側から他方側に架設固定された左右方向に延びる板状の支持部材であるボンネット側支持ブラケット17と、エンジンルーム11においてエンジンの前方側に近接配置されたラジエータ15の上端側に固着された左右方向の支持部材であるエンジンルーム側支持ブラケット18と、L字状又はコの字状(図示する例ではコの字状)に屈曲形成された金属製の棒状部材であってボンネット側支持ブラケット17下面の左右方向中央部に両端の内の少なくとも一端側が固着されたフック19と、ボンネット6のキャッチャーを構成するエンジンルーム側支持ブラケット18上面の左右方向中央部に溶着等で固着されて上方側が開放された凹部20を有する金属製板状の受け部材21と、該受け部材21に取付支持されたラッチ22と、上記受け部材21に固設されている当接部材23とから構成されている。
【0013】
ボンネット6の閉状態時、ボンネット側支持ブラケット17の下面と、エンジンルーム側支持ブラケット18の上面とが、互いに上下で向い合い、この際にフック19の前後方向を向いた箇所(ロック部24)の周面が受け部材21の凹部20に挿入された状態になる。この凹部20に挿入されたフック19の凹部20からの抜出しをラッチ22によって防止することにより、ボンネット6が閉状態でロックされる。
【0014】
前記ラッチ22は、表裏が前後を向いた左右方向に長い板状の受け部材21における凹部20の下方側箇所に形成された取付孔に挿通されるボルト27によって左右回動自在に、該受け部材21に支持されており、該回動支点側から上方側に突出形成された係合部28と、側方側に突出形成されたアーム状の規制部29と、下方側に突出形成された連結部31とを有している。
【0015】
係合部28は凹部20内に挿入されたフック19のロック部24に引っ掛るように係合して該フック19の上方側への移動を規制可能に構成されている。規制部29の先端側は受け部材21側に屈曲形成される一方で、受け部材21の規制部29突出側には前記取付孔を中心とする円弧状の規制孔32が穿設され、該規制孔32には規制部29の先端側が挿入されるため、ラッチ22の左右回動範囲は、規制部29が規制孔32内を円弧状に移動する範囲内に限定される。
【0016】
規制部29が規制孔32の一端側に移動するまで回動されたラッチ22は、係合部28が正面視において凹部20の開放端側を塞ぐとともに凹部20内にフック19が挿入されている場合には該フック19と係合してボンネット6を閉状態でロックするロック姿勢に切換えられる一方で、規制部29が規制孔32の他端側に移動するまで回動されたラッチ22は、凹部20の開放端側を解放して凹部20内からのフック19の抜出しが自在な状態とすることによりボンネット6の閉状態でのロックを解除するロック解除姿勢に切換えられる。
【0017】
このラッチ22は、弾性部材33によってロック姿勢側に常時付勢されている。この弾性部材33を構成する引張スプリングは、その一端がラッチ22の連結部31に連結され、他端が受け部材21のラッチ22を支持する側の面に溶接等で固着された係止ブラケット36に連結されている。このようにして、弾性部材33によりロック姿勢で保持されるラッチ22は、上述のロック解除機構によってロック解除姿勢に切換えられる他、ボンネット6の閉作動時におけるラッチ22とフック19との当接によってもロック解除姿勢に切換えられる。
【0018】
まず、ボンネット6の閉作動時におけるラッチ22のロック姿勢からロック解除姿勢への切換作動について説明すると、ボンネット6を開姿勢から閉姿勢に切換える過程において、ラッチ22がロック姿勢状態である場合、フック19のロック部24は、受け部材21の上縁部から上方側に突出した係合部28の上縁部に接触するが、この係合部28の上縁部は、ロック解除姿勢側に向って上方傾斜したガイド端部37を構成しており、閉作動時にボンネット6の自重によってフック19のロック部24がこのガイド端部37を滑り落ちることにより、ラッチ22が弾性部材33の弾性力に抗してロック解除姿勢に切換るように回動される。
【0019】
このボンネット閉作動に伴うラッチ22のロック解除姿勢への切換作動によって、フック19のロック部24が凹部20に挿入されると、ロック部24とガイド端部37との当接が解除され、弾性部材33によってラッチ22が再びロック姿勢に切換えられ、ボンネット6が閉状態でロックされる。すなわち、開姿勢から閉姿勢への切換時、ボンネット6は自動的に閉状態でロックされる。
【0020】
なお、受け部材21の上縁部における凹部20を挟んだ係合部28とは反対側箇所は、凹部20に向って下方傾斜された案内端部38を構成しており、ラッチ22のロック姿勢時、案内端部38とガイド端部37とによって正面視楔状をなす案内スペースを形成し、この案内スペースによって、下方移動するフック19が凹部20にスムーズにガイドされる。
【0021】
続いて、ロック解除機構によるラッチ22のロック解除姿勢への切換について説明すると、連係機構16をなすワイヤーはアウターワイヤー41と該アウターワイヤー41内を軸方向に移動するインナーワイヤー42とによって構成されており、アウターワイヤー41の一端側が受け部材側である上述の係止ブラケット36に係止され且つ他端側がフロントグリル9側の機体フレーム3に係止されるとともに、インナーワイヤー42の一端側が係合部28の先端部に接続され且つ他端側が引き操作可能な解除操作具14に接続されている。
【0022】
解除操作具14の引き操作を行うと、ワイヤー(さらに具体的にはインナーワイヤー42)によって、ロック姿勢のラッチ22が弾性部材33の弾性力に抗してロック解除姿勢側に回動されるように引張られ、ラッチ22がロック解除姿勢に切換えられる。一方、解除操作具14の引き操作を解除すると、ワイヤーの引き作動が解除され、弾性部材33によって、ラッチ22がロック姿勢に切換えられる。
【0023】
なお、当接部材23は、下部に挿通孔が穿設された正面視方形状の板状部材であって、合成樹脂により一体的に成形されており、受け部材21のラッチ22とは反対側の面である背面側にラッチ22を支持する単一のボルト27及びナット30によって取付固定される。この当接部材23の上端側に正面視凹部20に沿って凹状に下方に窪む切欠き状部を切抜き形成し、この上方側を開放された切欠き状部を形成する当接部材23の縁部分を、厚み方向における受け部材21側に一体的に突出させることにより、凹部20に厚み方向から嵌合させることが可能な当接部を構成している。
【0024】
上記構成により、凹部20の周面が当接部材23の当接部によって覆われるため、凹部20に挿入されたフック19のロック部24の外周面(周面)が、当接部の内周面(周面)に当接し、フック19と受け部材21との金属同士の直接の接触が防止される。このため、エンジン等の振動により凹部20に挿入された金属製のフック19が振動して接触音が発生した場合でも、該接触音は、金属同士の接触による接触音よりも小さい金属と合成樹脂との接触音であるため、静音性が向上する。
【0025】
次に、ロック機構12の前面に配設する遮蔽体5について説明する。遮蔽体5はボンネット側支持ブラケット17と一体に形成される。詳しくは、図3(C)及び図4(B)に示すように、フック19の前方側において支持ブラケット17の前部が下方に向けて折り曲げられて遮蔽体5が構成される。そして、ボンネット6の閉状態時、遮蔽体5の下端がエンジンルーム側支持ブラケット18の上面に近接して、ロック機構12の前面が遮蔽体5によって覆われる。また、ボンネット6の開状態時には遮蔽体5がロック機構12のフック19側(即ち、ボンネット6側)に配設されているから、ロック機構12のキャッチャー(受け部材21とラッチ22)側の前面は図2に示すように開放される。
【0026】
該構成により、ボンネット6を閉じた状態の時には、ロック機構12の前面側が遮蔽体5によって閉ざされる。また、エンジンを始動するとラジエータ15の後方に設けた図示しないラジエータファンが回転して、ボンネット6の前面に形成した通風孔a、並びにフロントグリル9に形成した通風孔bを通してラジエータの冷却風がエンジンルーム11内に吸引される。そして、この冷却風中に塵埃が含まれていた場合には、その塵埃がロック機構12に付着しようとするがロック機構12の前面側には遮蔽体5が設けられているため、塵埃は遮蔽体5に付着してロック機構12には付着することが防止される。従って、ロック機構12に対する塵埃の付着に伴う作動不良(特にボンネット6が開かなくなる機能障害)を遮蔽体5によって未然に防止することができる。
【0027】
また、エンジンを停止してボンネット6を開いた状態の時には、ロック機構12のキャッチャー(受け部材21とラッチ22)側の前面は開放される。そのため、仮に遮蔽体5によって塵埃の付着を防ぎきれなかった際にも遮蔽体5によって邪魔されることなく、キャッチャー部分に付着した塵埃を能率的に取り除いて整備することができる。
【0028】
なお、図5はロック解除機構の他例を示すものであり、インナーワイヤー42の一端側が係合部28の先端部に接続される。この場合、係合部28の先端部には段付きピン28aが固着されており、一方、インナーワイヤー42の一端側には端末金具42aが固定されている。ここで、端末金具42aは外筒42bの中に中筒42cを入れて、スプリング42dで中筒42cを上方に付勢している。また、外筒42bと中筒42cには段付きピン28aの頭部を挿通可能な孔42e、42fが穿たれている。
【0029】
従って、インナーワイヤー42を係合部28の先端部に接続する際には、外筒42bから突出する中筒42cのボタン42gをスプリング42dに抗して押し下げて孔42e、42fの中心を合致させ、段付きピン28aの頭部を孔42e、42fに挿通し、ボタン42gの押し下げを解除する。これにより、中筒42cはスプリング42dによって段付きピン28aの小径部28bが接当するまで上昇し、それにより端末金具42aが段付きピン28aの頭部によって抜け止めされて連結される。また、インナーワイヤー42を係合部28から取り外す際には、上記と逆の手順を踏めばよく、これにより工具や抜け止めピン等を用いることなく簡単にインナーワイヤー42を係合部28に脱着することができる利点がある。
【符号の説明】
【0030】
5 遮蔽体
6 ボンネット
12 ロック機構
15 ラジエータ
19 フック
21 受け部材
22 ラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとエンジンの前方に設けたラジエータを開閉自在なボンネットにより覆ってなる作業車両において、前記ボンネットを閉状態に保持するロック機構の前面にロック機構に対する塵埃の付着を防止する遮蔽体を配設することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記遮蔽体はロック機構のフック側に配設し、ボンネットを開状態とした際にロック機構のキャッチャー側の前面が開放されることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71510(P2013−71510A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210535(P2011−210535)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】