説明

作業車両

【課題】操縦座席に搭乗したオペレータの乗り心地を良好な状態に維持できるようにした作業車両を提供しようとするものである。
【解決手段】本願発明の作業車両10は、エンジン8を搭載した走行機体11と、走行機体11の下部に配置されたトラックフレーム17と、駆動輪体16、前後の従動輪体21,22及び複数の転動輪26を介してトラックフレーム17に装着された走行クローラ25とを備える。リンク機構を介してトラックフレーム17を走行機体11に前後揺動可能に取り付ける。リンク機構は前後一対のリンク部材19,20にて構成する。後リンク部材20は、後従動輪体23から最後尾の転動輪26と駆動輪体16とに向かう接線のなす角度θbを二等分する方向と平行状に延びて前高後低状に傾斜させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン等を搭載した走行機体の後部に左右の走行クローラを装設するトラクタ等の作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トラクタといった作業車両における走行機体の後部に、左右の走行クローラを装設すること、つまり、走行機体の前部に左右の前車輪を装設し、走行機体の後部に左右の走行クローラを装設することは、先行技術としての特許文献1〜3等に記載されている。
【0003】
先行技術は、走行機体の後車軸ケースに後車軸を軸支して、後車軸に駆動輪体を取付ける一方、前記後車軸ケースよりも下方の部位に前後方向に延びるトラックフレームを配設して、トラックフレームに走行クローラを装着した構造であって、トラックフレームの前後方向の略中程部を、前記後車軸ケース等の走行機体側に、前記後車軸より適宜距離だけ下方の部位に配設した1本の揺動支点軸にて回動自在に枢着し、トラックフレームをその前部及び後部が互いに逆方向に上下動するように構成している。そして、トラックフレームの前端側に設けた前従動輪体と、後端側に設けた後従動輪体と、前記駆動輪体とにわたって略三角形状に走行クローラを巻掛け、前記駆動輪体にて走行クローラを回転することによって、走行機体を前進移動又は後進移動させるという構成にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−45051号公報
【特許文献2】特開2006−96199号公報
【特許文献3】特開2004−217054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記先行技術の構成では、トラックフレームの走行機体への支持が揺動支点軸による一点支持であるから、揺動支点軸部に荷重が集中し易く、揺動支点軸部の変形等を招来して作動不良を発生させるおそれがあった。また、前進移動時又は後進移動時に、圃場の畦等の凸部を乗り越えるに際して、揺動支点軸部を中心として走行クローラが前上り又は前下りに傾斜し、走行クローラの接地面の前後傾斜角度が大きくなり易いから、走行機体の対地高さも変化し易く、操縦座席に搭乗したオペレータの良好な乗り心地を維持できないという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、これらの現状を検討して改善を施したトラクタ等の作業車両を提供しようとするものである。
【0007】
請求項1の発明は、エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体の下部に配置されたトラックフレームと、駆動輪体、前後の従動輪体及び複数の転動輪を介して前記トラックフレームに装着された走行クローラとを備えており、前記トラックフレームが前記走行機体にリンク機構を介して前後揺動可能に取り付けられている作業車両であって、前記リンク機構が前後一対のリンク部材にて構成されており、前記後リンク部材は、前記後従動輪体から最後尾の前記転動輪と前記駆動輪体とに向かう接線のなす角度を二等分する方向と平行状に延びて前高後低状に傾斜しているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した作業車両において、前記前リンク部材は、前記前従動輪体から先頭の前記転動輪と前記駆動輪体とに向かう接線のなす角度を二等分する方向と平行状に延びて前低後高状に傾斜しているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載した作業車両において、側面視で前記走行クローラの内周側で且つ前記駆動輪体の外周側の領域に、前記各リンク部材の下部側を前記トラックフレームに軸支する下端枢着軸が配置されているというものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体の下部に配置されたトラックフレームと、駆動輪体、前後の従動輪体及び複数の転動輪を介して前記トラックフレームに装着された走行クローラとを備えており、前記トラックフレームが前記走行機体にリンク機構を介して前後揺動可能に取り付けられている作業車両であって、前記リンク機構が前後一対のリンク部材にて構成されており、前記後リンク部材は、前記後従動輪体から最後尾の前記転動輪と前記駆動輪体とに向かう接線のなす角度を二等分する方向と平行状に延びて前高後低状に傾斜しているから、前記後リンク部材の長手方向である前記二等分方向を、前記走行クローラの前進側の駆動合力とほぼ平行状に延出させることが可能になる。このため、前記作業車両が前進方向に移動する際は、前記後リンク部材に対して圧縮力となるように前記前進側の駆動合力が作用する。すなわち、前記前進側の駆動合力のうち前記後リンク部材に曲げ力として作用する成分が低減されることになる。従って、前記後リンク部材の前記トラックフレームに対する支持強度を容易且つ十分に確保できるという効果を奏する。
【0011】
請求項2の発明によると、前記前リンク部材は、前記前従動輪体から先頭の前記転動輪と前記駆動輪体とに向かう接線のなす角度を二等分する方向と平行状に延びて前低後高状に傾斜しているから、前記前リンク部材の長手方向である前記二等分方向を、前記走行クローラの後進側の駆動合力とほぼ平行状に延出させることが可能になる。このため、前記作業車両が後進方向に移動する際は、前記前リンク部材に対して圧縮力となるように前記後進側の駆動合力が作用する。すなわち、前記後進側の駆動合力のうち前記前リンク部材に曲げ力として作用する成分が低減されることになる。従って、前記前リンク部材の前記トラックフレームに対する支持強度を容易且つ十分に確保できるという効果を奏する。
【0012】
請求項3の発明によると、側面視で前記走行クローラの内周側で且つ前記駆動輪体の外周側の領域に、前記各リンク部材の下部側を前記トラックフレームに軸支する下端枢着軸が配置されているから、前記作業車両の進行方向前後から見て、前記前後の従動輪体や前記複数の転動輪の左右方向中心付近(厚み方向中心付近)に、前記前後の下端枢着軸を接近させて配置することが可能になる。このため、前記前後の従動輪体や前記複数の転動輪に加わる荷重(前記走行クローラの押し上げ圧力)に対して、前記前後の下端枢着軸の左右方向のオフセット量を少なくでき、前記前後の下端枢着軸の支持強度を簡単に向上できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態におけるトラクタの側面図である。
【図2】トラクタの平面図である。
【図3】クローラ走行装置の拡大側面図である。
【図4】トラックフレーム周辺の側面断面図である。
【図5】クローラ走行装置の右後方視の分解斜視図である。
【図6】クローラ走行装置の左後方視の分解斜視図である。
【図7】トラックフレーム支持部の右後方視の分解斜視図である。
【図8】トラックフレーム支持部の左側視の分解斜視図である。
【図9】前後リンク部材の通常傾斜姿勢を示すクローラ走行装置の拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態をトラクタに適用した場合の図面に基づき説明する。図1〜図4に示す如く、図中符号10は、トラクタを示す。トラクタ10は、走行機体11と、走行機体11の前部を支持する左右一対の前車輪12と、前記走行機体11の後部を支持する左右一対の後クローラ走行装置13とを備えている。前記走行機体11には、エンジン8を搭載すると共に、操縦座席9を設けている。
【0015】
図1〜図4に示す如く、前記走行機体11の後部にミッションケース40を搭載する。ミッションケース40の左右両側に左右の後車軸ケース14を設けている。走行機体11に後車軸ケース14を介して後クローラ走行装置13を着脱可能に取付ける。後車軸ケース14内に後車軸15の一端側を軸支し、その後車軸15の一端側に減速用ファイナルギヤ(図示省略)を軸支する。後車軸ケース14から後車軸15の他端側を突出させ、その後車軸15の他端側に駆動輪体16を取付けている。一方、前記後車軸ケース14よりも下方に、前後方向に延設したトラックフレーム17を配設する。前記後車軸ケース14にフランジ部材18を着脱可能に締結固定する。前記後車軸15よりも前側に配設する前リンク部材19と、前記後車軸15よりも後側に配設する後リンク部材20とを備える。フランジ部材18に各リンク部材19,20を介してトラックフレーム17を前後揺動可能に連結している。すなわち、フランジ部材18(走行機体11とも言える)、前後一対のリンク部材19,20及びトラックフレーム17とは、四節リンク構造をなしている。
【0016】
図1〜図4に示す如く、前記トラックフレーム17の前端側にテンション調節機構22を介して前従動輪体21を取付ける。トラックフレーム17の後端側に後従動輪体23を支持軸24にて取付ける。前記駆動輪体16と、前記前従動輪体21と、前記後従動輪体23との三者には、履帯としての合成ゴム製の走行クローラ25を、略三角形状に巻掛けしている。前記駆動輪体16(後車軸15)を適宜速度で正回転又は逆回転させて、走行クローラ25を正回転又は逆回転駆動することによって、走行機体11が前進走行又は後退走行するように構成している。
【0017】
なお、複数の転動輪26及びクローラガイド体41を備える。前記トラックフレーム17に前記複数の転動輪26を回転自在に設けている。実施形態の転動輪26は、前後に三つ並べて配置されている。クローラガイド体41は、走行クローラ25の左右方向への外れ防止、及び、走行クローラ25に等間隔に埋設された複数の芯金体(図示省略)を押さえるためのものであり、トラックフレーム17に締結固定されている。走行クローラ25の内周面のうち前従動輪体21と後従動輪体23との間の内周面(走行クローラ25の接地側の内周面)に、複数の転動輪26及びクローラガイド体41を接触させる。クローラガイド体41は側面視逆T字状の舟形に形成されている。複数の転動輪26及びクローラガイド体41によって、走行クローラ25の接地側を着地支持するように構成している。
【0018】
図3及び図4に示す如く、前記フランジ部材18に前後の上端枢着軸27,28を設ける。前記後車軸15と平行に前後の上端枢着軸27,28を延設する。前後の上端枢着軸27,28に、前リンク部材19及び後リンク部材20の上端側ボス部を回転自在に軸支する。前記トラックフレーム17に前後の下端枢着軸30,31を設ける。前リンク部材19は、その下端が前記トラックフレーム17に前下端枢着軸30にて回転自在に連結されている。この場合、トラックフレーム17の上部前端側に立設された前支柱171の上端側ボス部に、前下端枢着軸30のうち前リンク部材19の下端側から外向きに突出した部分が回動可能に軸支されている。すなわち、前リンク部材19の下端側ボス部と前支柱171の上端側ボス部とが、前下端枢着軸30を介して回動可能に連結されている。前上端枢着軸27よりも前下端枢着軸30を前側に位置させ、前リンク部材19を前向きに傾斜させて支持している。
【0019】
また、図3及び図4に示す如く、後リンク部材20は、その下端が前記トラックフレーム17に後下端枢着軸31にて回転自在に連結されている。この場合、トラックフレーム17の上部後端側に立設された後支柱172の上端側ボス部に、後下端枢着軸31のうち後リンク部材20の下端側から外向きに突出した部分が回動可能に軸支されている。すなわち、後リンク部材20の下端側ボス部と後支柱172の上端側ボス部とが、後下端枢着軸31を介して回動可能に連結されている。後上端枢着軸28よりも後下端枢着軸31を後側に位置させ、後リンク部材20を後ろ向きに傾斜させて支持している。これにより、前後のリンク部材19,20は、前記トラクタ10における側面視(図3、図4)において、互いに下広がりのハ字状の配設になっている。図3及び図4に示すように、前後の下端枢着軸30,31は、トラクタ10の側面視において、走行クローラ25の内周側で且つ駆動輪体16の外周側の領域に位置している。なお、走行クローラ25は、前記トラクタ10における側面視(図3及び図4)において、前記後車軸15を通る鉛直線から前従動輪体21までの距離Dfが、前記鉛直線から後従動輪体23までの距離Dbよりも大きい略三角形状に張設される。
【0020】
上記の構成により、トラクタ10を前進走行させた場合、走行クローラ25が地面から前進反力を受けることによって、走行機体11に対してトラックフレーム17が前方向に移動し、走行クローラ25が前上がり姿勢に傾斜する。即ち、前記トラックフレーム17が、前記走行機体11に対して前方向に移動するとき、前上端枢着軸27を支点として水平面からの傾斜角度が小さくなるように、前リンク部材19が倒れる方向に回動する。また、後上端枢着軸28を支点として水平面からの傾斜角度が大きくなるように、後リンク部材20が起立する方向に回動する。その結果、走行クローラ25が前上がりに傾斜して、前進移動する。
【0021】
一方、トラクタ10を後進走行させた場合、地面から後進反力を受けることによって、走行機体11に対してトラックフレーム17が後ろ方向に移動し、走行クローラ25が前下がり姿勢に傾斜する。即ち、前記トラックフレーム17が、前記走行機体11に対して後方向に移動するとき、前上端枢着軸27を支点として水平面からの傾斜角度が大きくなるように、前リンク部材19が起立する方向に回動する。また、後上端枢着軸28を支点として水平面からの傾斜角度が小さくなるように、後リンク部材20が倒れる方向に回動する。その結果、走行クローラ25が前下がりに傾斜して、後進移動する。
【0022】
なお、旋回内側の走行クローラ25の駆動を中断して、左方向または右方向に旋回移動する場合、前進走行の際には旋回内側の走行クローラ25が前下がりに傾斜し、後進走行の際には旋回内側の走行クローラ25が前上がりに傾斜する。
【0023】
また、前後の下端枢着軸30,31を、トラクタ10の側面視において、走行クローラ25の内周側で且つ駆動輪体16の外周側の領域に位置させるので、トラクタ10の進行方向前後から見て、前後の従動輪体21,23や複数の転動輪26の左右方向中心付近(厚み方向中心付近)に、前後の下端枢着軸30,31を接近させて配置することが可能になる。このため、前後の従動輪体21,23や複数の転動輪26に加わる荷重(走行クローラ25の押し上げ圧力)に対して、前後の下端枢着軸30,31の左右方向のオフセット量を少なくでき、前後の下端枢着軸30,31の支持強度を簡単に向上できるという利点がある。
【0024】
前上端枢着軸27を支点とした前リンク部材19の前方回動と、後上端枢着軸28を支点とした後リンク部材20の後方回動とをそれぞれ規制するストッパとしての前後の規制ピン34,34a,35,35aをフランジ部材18に設けている。前上端枢着軸27を支点として前リンク部材19(後リンク部材20)の下端側が前方回動する範囲を前規制ピン34(前規制ピン34a)にて設定している。後上端枢着軸28を支点として後リンク部材20(前リンク部材19)の下端側が後方回動する範囲を後規制ピン35(後規制ピン35a)にて設定している。走行機体11に対する走行クローラ25の前後移動が、前後の規制ピン34,34a,35,35aにて制限されるように構成している。
【0025】
そして、前記走行機体11の前部が下がるようにピッチング(前傾動作)した場合、前リンク部材19は、前下端枢着軸30を支点として水平面からの傾斜角度が小さくなるように倒れる方向に回動する。一方、後リンク部材20は、前記トラックフレーム17に対して、後下端枢着軸31を支点として水平面からの傾斜角度が大きくなるように起立する方向に回動する。これにより、走行機体11に対して、走行クローラ25が前上がり姿勢に支持される。
【0026】
また、前記走行機体11の前部が上がるようにピッチング(後傾動作)した場合、前リンク部材19は、前下端枢着軸30を支点として水平面からの傾斜角度が大きくなるように起立する方向に回動する。一方、後リンク部材20は、後下端枢着軸31を支点として水平面からの傾斜角度が小さくなるように倒れる方向に回動する。これにより、走行機体11に対して、走行クローラ25が前下がり姿勢に支持される。
【0027】
ところで、フランジ部材18、前後一対のリンク部材19,20及びトラックフレーム17によって構成される四節リンク構造において、その一つの節である前記トラックフレーム17がその長手方向に運動するときにおける「瞬間中心」は、前リンク部材19の延長線と、後リンク部材20の延長線とが互いに交わる交点に位置している。前記トラックフレーム17は、この「瞬間中心」を中心としてその長手方向に運動する。
【0028】
この場合、前記前後のリンク部材19,20は、下広がりのハ字状に配設されていることにより、前記瞬間中心は、前記走行機体11が前下がりにピッチングしたときには、機体後方側に移動し、前記走行機体11が前上がりにピッチングしたときには、機体前方側に移動することになり、前記後車軸15の高さに近似した高さの位置に前記瞬間中心を保持することができる。これにより、前記走行機体11がピッチングする際に、トラックフレーム17に対して走行機体11が前後移動する距離を、先行技術の前後移動距離に比べ、大幅に縮小できる。
【0029】
さらに、図1、図2に示す如く、ロータリ耕耘爪2を有するロータリ耕耘作業機1を備える。前記走行機体11の後部から後方側にロワーリンク3及びトップリンク4(三点リンク機構)を突出し、ロワーリンク3及びトップリンク4にロータリ耕耘作業機1を装着する。前記走行機体11の後部(ミッションケース40上部)に油圧リフト機構5を設ける。油圧リフト機構5のリフトアーム6にリフトロッド7を介してロワーリンク3の前後中間部を連結する。油圧リフト機構5の操作にてロータリ耕耘作業機1を昇降動させる一方、ロータリ耕耘爪2にて圃場の耕土を耕耘するように構成している。なお、ロータリ耕耘作業機1に代えて、各種作業機をトラクタ10に装着できることは云うまでもない。
【0030】
次いで、図5〜図8を参照しながら、前記トラックフレーム17、リンク部材19,20、フランジ部材18の取付け構造を説明する。図5〜図8に示す如く、フランジ部材18は、鋼板製で平板形状の第1ブラケット体51と、鋼板製で平板形状の第2ブラケット体52と、鋼板製で平板形状の前後の第3ブラケット体53,54と、鋼板製で平板形状の前後中の横桟形ブラケット体55,56,57を有する。第1ブラケット体51と第2ブラケット体52は、同一形状に形成する。前後の第3ブラケット体53,54に前後の横桟形ブラケット体55,56をそれぞれ溶接固定している。
【0031】
そして、大径側の前後2本の規制ピン34,35の一端側を、第1ブラケット体51と第2ブラケット体52に片持ち状にボルト61締結する。第1ブラケット体51と第2ブラケット体52の対向する面に、各規制ピン34,35の他端側を突出させる。さらに、前後中の横桟形ブラケット体55,56,57の両端面を、第1ブラケット体51と第2ブラケット体52に両持ち状にボルト62締結する。また、小径側の前後2本の規制ピン34a,35aの両端ネジ部を、第1ブラケット体51と第2ブラケット体52に両持ち状にナット63締結する。
【0032】
また、前後のリンク部材19,20の上端側ボス部に前後の上端枢着軸27,28を貫通させた状態で、前後の上端枢着軸27,28の両端部を、第1ブラケット体51と第2ブラケット体52に軸押え板体64を介して両持ち状にボルト65締結する。なお、軸押え板体64をナット63締結し、軸押え板体64の軸心回りの回動を防止している。
【0033】
一方、前記第1ブラケット体51に座板体66を溶接固定する。第1ブラケット体51と座板体66を、後車軸ケース14にそれぞれボルト67,68締結する。また、後車軸ケース14に前後の第3ブラケット体53,54をそれぞれボルト69,70締結する。第1ブラケット体51と、第3ブラケット体53,54の間に、後車軸ケース14を挟持状に着脱可能に固着させる。組立作業において、第1ブラケット体51に第2ブラケット体52を固着して、フランジ部材18に前後のリンク部材19,20を設けた状態にユニット構成する。その後、後車軸ケース14の底面側に、ユニット構造のフランジ部材18を、後車軸ケース14の下方側から当接させて、第1ブラケット体51と座板体66と第3ブラケット体53,54をボルト67,68,69,70締結し、後車軸ケース14にフランジ部材18を介して前後のリンク部材19,20を組付けるように構成している。
【0034】
さらに、前記座板体66に振れ止めブラケット体44を溶接固定する。耕耘作業機1(左右のロワーリンク3)が、左右方向に多少の揺動を許容した状態で、必要以上に左右に揺動しないように、スタビライザとしての左右のターンバックル式チェックチェン体45を設ける。ロワーリンク3の前後幅中間にチェックチェン体45の一端側をピン46連結し、振れ止めブラケット体44にチェックチェン体45の他端側を着脱可能にピン47連結している。
【0035】
図1、図3及び図4に示す如く、エンジン8を搭載する走行機体11と、走行機体11の前部下側に設ける左右の前車輪12と、走行機体11の後部下側に設けるトラックフレーム17と、トラックフレーム17に装着する左右の走行クローラ25とを備え、走行クローラ25に回転力を伝達する後車軸15と、走行機体11にトラックフレーム17を揺動可能に支持する揺動支点軸としての前後の上端枢着軸27,28とを、離間させて設ける作業車両10において、後車軸15が軸支されるアクスルケースとしての後車軸ケース14の直下に前後の上端枢着軸27,28を配置し、前後の上端枢着軸27,28に設ける前リンク部材19及び後リンク部材20を介して、後車軸ケース14にトラックフレーム17を連結している。従って、例えば前進移動時、または後進移動時、圃場の畔などの凸部を乗越える場合、前後の上端枢着軸27,28を中心として走行クローラ25が前上り又は前下りに傾斜しても、走行クローラ25の接地面の前後傾斜角度が従来よりも小さくなる。即ち、走行機体11の対地高さが従来よりも変化しにくく、操縦座席9に搭乗したオペレータの乗り心地を良好な状態に維持できる。
【0036】
図3及び図4に示す如く、前後の上端枢着軸27,28と前後の下端枢着軸30,31とによって揺動支点軸を形成し、後車軸ケース14に前後の上端枢着軸27,28を設け、トラックフレーム17に前後の下端枢着軸30,31を設け、前記各枢着軸27,28,30,31に前後のリンク部材20,21の上下端部をそれぞれ連結している。したがって、トラックフレーム17の走行機体11への支持荷重が大きくても、前後の上端枢着軸27,28及び前後の下端枢着軸30,31のそれぞれの支持荷重を低減でき、作業車両10の大型化を簡単に達成できる。また、前記各枢着軸27,28,30,31部の変形等による作動不良の発生などを低減でき、耐荷重または耐久性なども向上できる。
【0037】
図1、図3及び図4に示す如く、エンジン8を搭載する走行機体11と、走行機体11の前部下側に設ける左右の前車輪12と、走行機体11の後部下側に設けるトラックフレーム17と、トラックフレーム17に装着する左右の走行クローラ25と、走行クローラ25に回転力を伝達する後車軸15と、トラックフレーム17に設ける複数の転動輪26とを備え、複数の転動輪26を介して走行クローラ25の接地側を支持する作業車両10において、後車軸15の直下に設ける2本の上の枢着軸としての前上端枢着軸27及び後上端枢着軸28と、トラックフレーム17に設ける2本の下の枢着軸としての前下端枢着軸30及び後下端枢着軸31の間に2本のリンク部材19,20を連結し、後車軸15の前方と後方に2本の上の前上端枢着軸27及び後上端枢着軸28を振分けて配置し、トラックフレーム17上面側のうち複数の転動輪26の間の上面側に2本の下の前下端枢着軸30及び後下端枢着軸31の一方を配置している。従って、複数の転動輪26の間に設ける前下端枢着軸30の支持高さを低くできる。上下の前上端枢着軸27及び前下端枢着軸30の軸受構造を低コスト化または軽量化できるものでありながら、走行クローラ25の接地反力に対して、前下端枢着軸30の軸受構造を強度的に有利に構成できる。また、リンク部材19のボス体長さを簡単に確保でき、汎用性の高いブッシュを使用して、前下端枢着軸30に前リンク部材19のボス体を軸支できる。
【0038】
図3及び図4に示す如く、トラックフレーム17に後従動輪体23を介して走行クローラ25の後部接地側を支持する構造であって、後従動輪体23に隣接する転動輪26と後従動輪体23の間で、トラックフレーム17上面側に2本の前下端枢着軸30及び後下端枢着軸31の他方を配置している。従って、後従動輪体23に隣接する転動輪26と後従動輪体23の間に設ける後下端枢着軸31の支持高さを低くできる。走行クローラ25の接地反力に対して、後下端枢着軸31の軸受構造を強度的に有利に構成できる。また、リンク部材19,20のボス体長さを簡単に確保でき、汎用性の高いブッシュを使用して、後下端枢着軸31に後リンク部材20のボス体を軸支できる。
【0039】
図4に示す如く、前記2本のリンク部材19,20を機体側面視でハの字状に配置し、2本のリンク部材19,20の上端側の間隔よりも、2本のリンク部材19,20の下端側の間隔が大きくなるように構成している。したがって、従来の単一支点構造に比べ、走行クローラ25から走行機体11側に向けて突出させる前記2本のリンク部材19,20の出代を少なくすることができ、前記2本のリンク19,20部材が揺動するときに、2本のリンク部材19,20に付着した泥土が周辺の構成部品に干渉する等の不具合の発生を容易に低減できる。
【0040】
図3及び図4に示す如く、エンジン8を搭載する走行機体11と、前記走行機体11の下部に設けられ且つ走行クローラ25を巻回支持するトラックフレーム17とを備えており、前記走行機体11にリンク機構を介して前記トラックフレーム17を前後揺動可能に取り付けている作業車両10であって、前記リンク機構を前後一対のリンク部材19,20にて構成し、前記走行機体11、前記前後一対のリンク部材19,20及び前記トラックフレーム17が四節リンク構造をなしているから、当該四節リンク構造の存在によって、例えばトラクタ10の畝跨ぎ作業における畝又は背の高い作物から離間させて前記走行機体11を支持することが可能になり、畝又は背の高い作物等に対して十分なスペースを確保できる。しかも、畝又は背の高い作物等に対して十分なスペースを確保できる構造でありながら、前記四節リンク構造の平行リンク近似動作によって、前記走行クローラ25の前後傾斜姿勢が大きく変化するのを防止できる。また、前記走行クローラ25の接地抵抗の大幅な変動等を防止でき、圃場の乱れや蛇行走行等のおそれを低減できる利点もある。
【0041】
次に、図3、図4及び図9を参照しながら、前後リンク部材19,20の基本傾斜姿勢について説明する。例えば走行機体11の停止時等において、前後リンク部材19,20は、図3、図4及び図9に示す基本傾斜姿勢に安定的に保持される。換言すると、前後リンク部材19,20は、トラクタ10の側面視において、互いに下広がりのハ字状に配置されている。
【0042】
図9に示す実施形態では、後従動輪体23から最後尾の転動輪26に向かう第1の接線をTL1と、後従動輪体23から駆動輪体16に向かう第2の接線をTL2と、第1の接線TL1と第2の接線TL2とのなす角度をθbとした場合、後リンク部材20は角度θbを二等分する矢印A方向と平行状に延びていて、前高後低状に傾斜している。後リンク部材20の長手方向である矢印A方向は、走行クローラ25の前進側の駆動合力Ffとほぼ平行状に延びることになる。このため、トラクタ10が前進方向に移動する際は、後リンク部材20に対して圧縮力となるように走行クローラ25の前進側の駆動合力Ffが作用する。すなわち、前進側の駆動合力Ffのうち後リンク部材20に曲げ力として作用する成分が低減されることになる。従って、後リンク部材20のトラックフレーム17に対する支持強度を容易且つ十分に確保できる。
【0043】
また、前従動輪体21から先頭の転動輪26に向かう第3の接線をTL3と、前従動輪体21から駆動輪体16に向かう第4の接線をTL4と、第3の接線TL3と第4の接線TL4とのなす角度をθfとした場合、前リンク部材19は角度θfを二等分する矢印B方向と平行状に延びていて、前高後低状に傾斜している。前リンク部材19の長手方向である矢印B方向は、走行クローラ25の後進側の駆動合力Fbとほぼ平行状に延びることになる。このため、トラクタ10が後進方向に移動する際は、前リンク部材19に対して圧縮力となるように走行クローラ25の後進側の駆動合力Fbが作用する。すなわち、後進側の駆動合力Fbのうち後リンク部材20に曲げ力として作用する成分が低減されることになる。従って、前リンク部材19のトラックフレーム17に対する支持強度も容易且つ十分に確保できる。
【符号の説明】
【0044】
A 角度θbを二等分する方向
B 角度θfを二等分する方向
Fb 走行クローラの後進側の駆動合力
Ff 走行クローラの前進側の駆動合力
TL1〜TL4 接線
θb 第1の接線と第2の接線とのなす角度
θf 第3の接線と第4の接線とのなす角度
8 エンジン
11 走行機体
12 前車輪
15 後車軸
17 トラックフレーム
18 フランジ部材
19 前リンク部材(リンク機構)
20 後リンク部材(リンク機構)
21 前従動輪体
23 後従動輪体
25 走行クローラ
26 転動輪
30 前下端枢着軸
31 後下端枢着軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを搭載した走行機体と、前記走行機体の下部に配置されたトラックフレームと、駆動輪体、前後の従動輪体及び複数の転動輪を介して前記トラックフレームに装着された走行クローラとを備えており、前記トラックフレームが前記走行機体にリンク機構を介して前後揺動可能に取り付けられている作業車両であって、
前記リンク機構が前後一対のリンク部材にて構成されており、
前記後リンク部材は、前記後従動輪体から最後尾の前記転動輪と前記駆動輪体とに向かう接線のなす角度を二等分する方向と平行状に延びて前高後低状に傾斜している、
作業車両。
【請求項2】
前記前リンク部材は、前記前従動輪体から先頭の前記転動輪と前記駆動輪体とに向かう接線のなす角度を二等分する方向と平行状に延びて前低後高状に傾斜している、
請求項1に記載した作業車両。
【請求項3】
側面視で前記走行クローラの内周側で且つ前記駆動輪体の外周側の領域に、前記各リンク部材の下部側を前記トラックフレームに軸支する下端枢着軸が配置されている、
請求項1又は2に記載した作業車両。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−86765(P2013−86765A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231990(P2011−231990)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)