説明

作業車

【課題】エンジンの出力軸とミッションケースの入力軸との位置関係を精度高く維持し、エンジン近傍の電装品の保護が可能な作業車を構成する。
【解決手段】エンジン31とミッションケース33とを隣接配置し、これらの側部にベルト無段変速装置32を配置し、エンジン31の上部とミッションケース33の上部とを連結プレート41で連結した。エンジン31とミッションケース33との間の間隙30Aにジェネレータ42やスタータモータ43等の電装品が配置され、この上部に連結プレート41が配置されることで、電装品に対する水等の侵入を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力軸の駆動力を無段変速装置からミッションケースの入力軸に伝え、このミッションケースの駆動力を車輪に伝える走行伝動系を備えている作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように構成された作業車として特許文献1には、エンジンとミッションケース(文献ではトランスミッション)とが隣接する位置関係で配置され、このエンジンとミッションケースとの側部にベルト無段変速装置(文献ではベルトコンバータ)を配置した構成が示されている。
【0003】
特許文献1では、エンジンの側面とミッションケースの側面とに接続プレートを連結してこれらを一体化することにより、エンジンの出力軸とミッションケースの入力軸との位置関係を固定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006‐82631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンの出力軸と、ミッションケースの入力軸との間にベルト無段変速装置を備えるものでは、出力軸と入力軸との位置精度を高く維持する観点からも特許文献1に記載されるように接続プレートを備えることが有効となる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるように出力軸の軸芯と入力軸の軸芯とに直交する姿勢で連結プレートを備えたものでは、出力軸と入力軸との間にベルト無段変速装置の無端ベルトから作用する張力により連結プレートの曲げ方向への弾性変形を招くことも考えられた。
【0007】
つまり、連結プレートは板状であるため、無端ベルトからの張力が作用した場合には、曲げ方向に弾性変形を招きやすく、エンジンとミッションケースとの相対的な位置関係も不適正となることが考えられる。特に、無端ベルトからの張力は、出力軸の先端側と入力軸の先端側とを近接させる方向に作用するため、エンジンの出力軸とミッションケースの入力軸とが非平行な状態に陥るものとなり、ベルト無段変速装置の適正な作動が損なわれることも考えられる。
【0008】
このような不都合を解消するために、連結プレートに代えてチャンネル材やパイプ材で成る強固なフレームを備えることも考えられるが、装置の大型化を招く観点において実現性が低い。
【0009】
また、エンジンの近傍にはスタータモータやジェネレータ等の電装品が配置されるものであり、作業車の洗車時や激しい降水時に、電装品に水が侵入して故障を招くこともあり、このような不都合に対しても対策を必要としている。
【0010】
本発明の目的は、エンジンの出力系とミッションケースの入力系との位置関係を精度高く維持する作業車を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴は、エンジンの出力軸の駆動力を無段変速装置からミッションケースの入力軸に伝え、このミッションケースの駆動力を車輪に伝える走行伝動系を備えている作業車であって、
前記エンジンの出力軸と前記ミッションケースの入力軸とが横向き姿勢で備えられ、前記エンジンと前記ミッションケースとが隣接する位置に配置され、このエンジンとミッションケースとの側部位置に前記無段変速装置が配置され、前記エンジンと前記ミッションケースとの間の間隙に電装品が配置されると共に、
前記間隙の上方を覆う領域で、前記エンジンの上部と前記ミッションケースの上部とに連結する連結プレートが備えられている点にある。
【0012】
この構成によると、連結プレートは、エンジンの上部とミッションケースの上部とにおいて間隙を覆う姿勢で配置される。このように連結プレートが配置された場合には、連結プレートのプレート面が、エンジンの出力軸の軸芯と、ミッションケースの入力軸の軸芯とに平行な姿勢に設定されることになる。従って、エンジンの出力軸とミッションケースの入力軸とを接近又は離間させる方向に無段変速装置から力が作用することがあっても、この連結プレートが弾性変形し難い姿勢にあるのでエンジンとミッションケースとの変位を阻止する。また、電装品を覆う領域に連結プレートが配置されるので、作業車の洗車時や激しい降水時に、連結プレートが電装品に水が侵入する不都合を抑制する。
その結果、エンジンの出力系とミッションケースの入力系との位置関係を精度高く維持すると共に、エンジン近傍の電装品の保護が可能な作業車が構成された。
【0013】
本発明は、前記エンジンの側部に、このエンジンに冷却風を供給するエンジンブロアが備えられ、このエンジンブロアの冷却風の一部を前記連結プレートの下側に送る冷却風路が形成されても良い。
【0014】
これによると、エンジンブロアからの冷却風を連結プレートの下側に供給することで、連結プレートの下側に冷却風を供給するための専用のブロア類を備えなくとも電装品の放熱が可能となる。
【0015】
本発明は、前記連結プレートに、前記エンジンとミッションケースと無段変速装置とを一体物として吊り上げるための吊金具の取付部が形成さても良い。
【0016】
これによると、作業車を組み立てる際にエンジンとミッションケースとを車体に備える場合や、メンテナンス時にエンジンとミッションケースとを車体から分離する場合に、連結プレートの取付部に吊金具を取付け、この吊金具を介してエンジンとミッションケースとを吊上げることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】作業車の側面図である。
【図2】作業車の伝動構成を示す平面図である。
【図3】フレーム構成を示す斜視図である。
【図4】後車輪のサスペンションの構成を示す側面図である。
【図5】エンジン、ベルト無段変速装置等の配置を示す側面図である。
【図6】エンジン、ベルト無段変速装置等の配置を示す斜視図である。
【図7】エンジン、ベルト無段変速装置等の配置を示す平面図である。
【図8】ベルト無段変速装置における冷却風の流れを平面的に示す図である。
【図9】ベルト無段変速装置における冷却風の流れを側面的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔全体構成〕
図1、図2に示すように、操向操作自在な左右一対の前車輪1と、左右一対の後車輪2とを車体3に備え、この車体3の中央部に運転部10を備え、車体3の後部に荷台4を備え、この荷台4の下方位置に原動部30を備えて作業車が構成されている。
【0019】
この作業車は、原動部30からの駆動力を前車輪1と後車輪2とに伝える4輪駆動型に構成され、農作業や運搬作業等の多目的の作業に使用される。前記運転部10を取り囲む位置には、運転部10を保護する保護フレーム11が備えられている。
【0020】
前記荷台4は、前端側を上昇させて積載物をダンプ式に排出できる機能を有するものであり、その後端位置が軸芯を中心にして揺動自在に車体3に支持されている。また、荷台4の前端側を昇降作動させる油圧式のアクチュエータ(図示せず)が備えられている。
【0021】
前記運転部10には、運転者が着座する運転座席12と、前車輪1を操向制御するステアリングホイール13と、変速レバー14と、走行速度を制御するアクセルペダル15と、前車輪1及び後車輪2のブレーキ装置17を操作するブレーキペダル16とが備えられている。尚、運転座席12に隣接して助手席が配置されるものであるが、この運転部10には、横長の単一のシートベースと、横長の単一のシートバックとで成るベンチシートが備えられている。
【0022】
前記変速レバー14は走行速度の設定と、前進と後進との切換を単一のレバー操作で実現するものであるが、例えば、変速を行うレバーと、前進と後進との切換を行う前後進レバーとの2本のレバーを運転部10に備えても良い。
【0023】
図3に示すように、車体3を構成する車体フレームは、車体前端から運転部10の下方を通過し前記原動部30に達する前後向き姿勢の左右一対のメインフレーム21を有すると共に、左右のメインフレーム21を連結する複数のクロスフレーム22を有している。前記保護フレーム11は、左右一対のサイドフレーム11Aと、この左右のサイドフレーム11Aを連結する複数の横フレーム11Bとで構成されている。この保護フレーム11は、左右一対のメインフレーム21と中間フレーム等を介して連結している。
【0024】
左右一対のサイドフレーム11Aはループ状となる構造を有しており、このサイドフレーム11Aの下端部分と、左右一対のメインフレーム21とを連結する位置に板材で成るステップ23が備えられている。また、運転座席12の後部位置で左右のサイドフレーム11Aに亘る領域にバックプレート24が形成されている。尚、ステップ23が運転者の搭乗面となり、バックプレート24が運転座席12のシートバックを支持する。
【0025】
図2及び図4〜図7に示すように、原動部30には空冷式のエンジン31と、乾式のベルト無段変速装置32と、ミッションケース33とが備えられている。ミッションケース33にはギヤ変速機構(図示せず)と差動機構(図示せず)とが内蔵されている。このミッションケース33の下端部には差動機構からの駆動力を後車輪2に伝える左右一対の後輪駆動軸34と、この後輪駆動軸34を収容する後車軸ケース35とが備えられている。
【0026】
ミッションケース33の下端部で前方に突出する動力取出軸36が備えられている。車体3の下部には動力取出軸36の駆動力が伝えられる中間軸37が備えられ、車体3の前部には中間軸37の駆動力が伝えられる差動ケース38に伝えられ、この差動ケース38の駆動力を前車輪1に伝える前輪駆動軸39が備えられている。
【0027】
ミッションケース33の動力取出軸36と中間軸37との間にカルダンジョイント等の自在継手が介装され、これと同様に、前後の中間軸37の間、及び、中間軸37と差動ケース38の入力軸との間にも自在継手が備えられている。また、差動ケース38の出力軸と前輪駆動軸39との間にカルダンジョイント等の自在継手が介装され、これと同様に、前輪駆動軸39と前車輪1の車軸との間にも自在継手が介装されている。
【0028】
図面には示していないが、ミッションケース33には動力取出軸36に駆動力を伝える伝動状態と駆動力を遮断する遮断状態とに切換自在なクラッチ機構を備えている。このクラッチ機構は運転者の操作により切換が可能となるものであり、伝動状態に設定することで、後車輪2と前車輪1とを同時に駆動する4輪駆動状態が現出し、クラッチ機構を遮断状態に設定することで後車輪2のみを駆動する2輪駆動状態が現出する。
【0029】
尚、左右一対の前輪駆動軸39の軸端と、左右一対の後輪駆動軸34の軸端とにはブレーキ装置17が備えられている。これらのブレーキ装置17は、前記ブレーキペダル16の操作により前車輪1と後車輪2とに制動力を作用させるように機能する。
【0030】
前記ミッションケース33のギヤ変速機構(図示せず)は、前記変速レバー14の操作によって操作されるものである。このギヤ変速機構は、変速レバー14の操作に従い、車体3の走行速度の変更と、走行方向の切換(前進と後進との切換)を実現する。
【0031】
〔サスペンション〕
左右の前車輪1は、ストラット式のインディペンデントフロントサスペンションによって車体フレームにマウントされている。つまり、車体フレームにロアアーム(図示せず)の基端側が揺動自在に支持され、このロアアームの揺動端部に前車輪1の車軸が支承されている。このロアアームと車体フレームとの間にコイルスプリングとショックアブソーバとで成るサスペンションユニット25(図1を参照)が備えられ、これにより前車輪1が車体にマウントされているのである。
【0032】
このサスペンションにより左右の前車輪1は、路面の起伏に応じて独立して上下作動でき、この上下作動に衝撃を伴う場合には、その衝撃をサスペンションユニット25が吸収する。
【0033】
図1、図4及び図5に示すように、左右の後車輪2は、リジッドアクスルサスペンションによって車体フレームにマウントされている。つまり、左右のメインフレーム21に対して左右一対の補助フレーム26が備えられている。この補助フレーム26に対して後車軸ケース35が支持され、この後車軸ケース35と車体フレームとの間にコイルスプリングとショックアブソーバとで成るサスペンションユニット25が備えられ、これにより後車輪2が車体にマウントされているのである。
【0034】
左右一対の補助フレーム26は、L字状に屈曲形成した左右一対のサイドメンバ26Aと、この左右一対のサイドメンバ26Aの前端とメインフレーム21とを揺動自在に連結するロアアーム26Bと、左右一対のサイドメンバ26Aの上端とメインフレーム21とを揺動自在に連結するアッパーアーム26Cとを備えている。また、左右一対のサイドメンバ26Aは連結フレーム28によって連結され、この連結フレーム28にエンジン31の底部が連結状態で支持される。
【0035】
具体的な構造として、メインフレーム21の中間部の下面のブラケット21Aに対して、ロアアーム26Bの前端がゴムブッシュを介して揺動自在に連結されている。このロアアーム26Bの後端がゴムブッシュを介してサイドメンバ26Aの前端のブラケット26Lに対して揺動自在に連結されている。また、メインフレーム21の後部の下面のブラケット21Bに対してアッパーアーム26Cの前端がゴムブッシュを介して揺動自在に連結されている。このアッパーアーム26Cの後端がサイドメンバ26Aの後端のブラケット26Hに対して揺動自在に連結されている。更に、左右のサイドメンバ26Aはラテラルロッド27によりメインフレーム21に支持されている。
【0036】
左右のサイドメンバ26Aの上面に対してホルダ26Eにより後車軸ケース35が連結され、このホルダ26Eに対してサスペンションユニット25の下端部が連結されている。また、前述したように左右のサイドメンバ26Aを連結する連結フレーム28にエンジン31の底部が支持されている。このような構造からエンジン31とミッションケース33とは左右のサイドメンバ26Aに支持されることになる。
【0037】
これにより、左右の後車輪2は路面の起伏に応じて昇降する際には、後車軸ケース35の昇降に伴いミッションケース33とエンジン31とベルト無段変速装置32とが一体的に上下作動する。そして、この上下作動に衝撃を伴う場合には、その衝撃をサスペンションユニット25が吸収する。
【0038】
〔原動部〕
図4〜図8に示すように、原動部30にはクランク軸31C(図8を参照)を横向き姿勢にしてエンジン31が配置され、この後方に隣接する位置に入力軸33Aを横向き姿勢にしてミッションケース33が配置され、このミッションケース33の後方に横に長い姿勢のマフラー40が配置され、エンジン31とミッションケース33との側部位置にベルト無段変速装置32が配置されるレイアウトが採用されている。マフラー40は、横長円柱状に形成され、その下端側が補助フレーム26から延出されたブラケットに固定されている。
【0039】
エンジン31は、クランク軸31Cが支持されるシリンダブロック31Aに対して、シリンダヘッド31Bを連結した構造を有している。シリンダヘッド31Bは、シリンダブロック31Aに対して斜め前方上方に向かう姿勢で連結され、これにより、シリンダブロック31Aの上面とシリンダヘッド31Bとのレベル差を小さくしてエンジン全体の上下方向のコンパクト化が図られている。
【0040】
エンジン31とミッションケース33とは前後方向に隣接して配置されるため、エンジン31の上部(シリンダブロック31Aの上部)と、ミッションケース33の上部との間に間隙30Aが形成されている。シリンダブロック31Aの上面には斜め後方上方に突出する左右一対の連結突起31Dが形成され、ミッションケース33の上面には上方に突出する左右一対の連結突起33Dが形成されている。前述した間隙30Aの上方を覆う位置でエンジン31の上面及びミッションケース33の上面より上方に離れた位置に水平姿勢となる横平板状の連結プレート41を配置し、この連結プレート41の前端を複数のボルト41Aにより連結突起31Dの後端側の水平面部に連結し、この連結プレート41の後端を複数のボルト41Aにより連結突起33Dの上端の水平面部に連結している。連結プレート41は、側面視で逆V字状に屈曲した形状に形成され、その上面側に上方に突出する複数の前後向き突条41Cが形成され、その後部にミッションケース33のメンテナンス用の開口部33Eを避ける切り欠き部41Dが形成されている。
【0041】
連結プレート41が水平姿勢で備えられているため、エンジン31の出力軸65Aとミッションケース33の入力軸33Aとの間にベルト無段変速装置32の無端ベルト63の張力が作用することがあっても、この連結プレート41がエンジン31とミッションケース33との相対的な位置関係の変位を阻止する。つまり、エンジン31の出力軸65Aとミッションケース33の入力軸33Aとは略等しいレベルで横向き姿勢で配置されている。従って、連結プレート41の幅方向が出力軸65Aの軸芯の方向と、入力軸33Aの軸芯方向と略一致することになる。
【0042】
図8に示すようにベルト無段変速装置32は、出力軸65Aに駆動プーリ61を備え、入力軸33Aに従動プーリ62を備え、これらに無端ベルト63を巻回することで構成されている。前述したように、連結プレート41の幅方向を出力軸65Aの軸芯の方向と、入力軸33Aの軸芯方向と略一致させているため、無端ベルト63から作用する張力は夫々の軸芯の外端側を接近させる方向に作用することになり、この張力を連結プレート41の横幅方向で受け止めることになる。従って、連結プレート41によってエンジン31とミッションケース33との相対的な位置関係の変位を阻止できるのである。
【0043】
また、出力軸65Aと入力軸33Aとを非平行な姿勢に変化させる力をプレートの幅方向で受け止め得る姿勢であれば、連結プレート41は、出力軸65Aの軸芯と入力軸33Aの軸芯とを基準にして多少傾斜していても良い。尚、エンジン31の出力軸65Aは後述するように、エンジン31からの駆動力が伝えられる遠心クラッチ65の出力軸65Aであるが、遠心クラッチ65を省略してエンジン31のクランク軸31Cを出力軸として変速ケース64内に延出し、この出力軸(クランク軸31C)に駆動プーリ61を備える構成を採用しても良い。
【0044】
また、前記間隙30Aに電装品としてジェネレータ42とスタータモータ43とが配置され、これらの上方を覆う位置に連結プレート41が配置されている。このような配置であるため作業車の洗車時や激しい降水時に、連結プレート41がジェネレータ42とスタータモータ43に水が侵入する不都合を抑制する。尚、間隙30Aに配置される電装品としてはジェネレータ42やスタータモータ43に限らず、例えば、ヒューズやエンジン用の電気配線なども含まれる。
【0045】
この作業車では、組み立て作業時にはエンジン31とミッションケース33とを連結プレート41で連結しておき、これにベルト無段変速装置32を備えた一体化物を車体に搭載している。また、メンテナンス時には一体化物を車体から分離する形態での作業が行われる。このような作業を容易に行うために一体化物を吊上げるための吊金具(図示せず)の取付部41Bを連結プレート41に形成することも可能である。この取付部41Bは連結プレート41に形成したネジ孔で構成され、このネジ孔に螺合する形態で吊金具を支持することになる。尚、取付部41Bとして単純な貫通孔を形成しても良い。この場合、吊金具にボルト部を挿通し、これにナットを螺合して連結固定する等の連結構造の採用が可能となる。
【0046】
尚、一体化物を吊上げる際には、安定的な吊り上げを実現するために、左右の後車軸ケース35等の複数箇所に吊金具を取り付け、複数の吊金具に力を作用させて吊上げることが望ましい。
【0047】
エンジン31の側部のうち、ベルト無段変速装置32と反対側の側面にエンジンブロア50が備えられている。このエンジンブロア50は、エンジン31の駆動力で回転するファン50Aと、このファン50Aを収容するケース50Bとを備え、ケース50Bには、吸気用開口50Cと、その後部から間隙30Aの横側に向けて膨出した膨出部分50Dが形成されている。
【0048】
このような構成から、エンジン31の稼動時にはファン50Aの回転に伴い、ケース50Bの吸気用開口50Cから吸引した冷却風の殆どをケース50Bの一方の端部からシリンダブロック31Aとシリンダヘッド31Bに供給する。また、このように冷却風を供給する場合には、その冷却風の一部をケース50Bの他方の端部の膨出部分50Dから、図7に示す如く冷却風路30Rを介して前記連結プレート41の下面の間隙30Aに送り込んでいる。そして、この冷却風路30Rから間隙30Aに供給される冷却風は、間隙30Aに配置された電装品としてのジェネレータ42とスタータモータ43とを冷却する。
【0049】
図1、図7に示すように、前記バックプレート24の背面側で前記運転部10と荷台4との間の空間にエンジン31の吸気用の第1エアクリーナ45と、ベルト無段変速装置32の冷却風の吸気用の第2エアクリーナ46とが配置されている。
【0050】
エンジン31のシリンダヘッド31Bには吸気管47が接続しており、この吸気管47の先端が前記第1エアクリーナ45に接続している。シリンダヘッド31Bに排気管48が接続し、この排気管48の終端に前記マフラー40が接続している。このマフラー40は筒状構造を有しており、長手方向を車体の横方向に沿わせた横長姿勢でミッションケース33の後方位置に配置されている。このマフラー40の上面部を取り囲む位置に鋼板等の金属製の遮熱板49が備えてられ、この遮熱板49とマフラー40の外面との間に隙間が形成されている。また、エンジン31の側部に遠心クラッチ65が備えられ、この遠心クラッチ65の近傍の吸気部51に吸気ダクト67が接続しており、この吸気ダクト67の先端が第2エアクリーナ46に接続している。
【0051】
〔原動部:ベルト無段変速装置〕
図8に示すように、ベルト無段変速装置32は、ベルト巻回径の変更が可能な駆動プーリ61と、ベルト巻回径の変更が可能な従動プーリ62とに亘ってゴム製の無端ベルト63を巻回し、これらを変速ケース64に収容した構成を有している。尚、無端ベルト63として金属ベルトを用いても良い。
【0052】
エンジン31のクランク軸31Cから回転駆動力が伝えられる遠心クラッチ65が備えられ、この遠心クラッチ65の出力軸65Aに駆動プーリ61が備えられている。ミッションケース33の入力軸33Aには従動プーリ62が備えられている。遠心クラッチ65の出力軸65Aがクランク軸31Cと同軸芯上に配置され、これがエンジン31の出力軸65Aである。
【0053】
前記遠心クラッチ65はクランク軸31Cの回転速度が設定値未満である場合に遮断状態にあり、クランク軸31Cの回転力を出力軸65Aに伝達しない。また、クランク軸31Cの回転速度が設定値を超える場合には連結状態に達し、クランク軸31Cの回転力を出力軸65Aに伝える作動を行う。
【0054】
駆動プーリ61は、出力軸65Aの基端側(エンジン31に近接する側)に配置される固定シーブ61Aと、出力軸65Aの先端側に配置される可動シーブ61Bとを備えている。また、出力軸65Aの突出端には可動シーブ61Bの位置を調節する巻回径調節機構66を備えている。
【0055】
この巻回径調節機構66は、出力軸65Aの回転速度が高速化するほど可動シーブ61Bを固定シーブ61Aに接近する方向に移動させて駆動プーリ61のベルト巻回径の拡大を図る。これとは逆に、出力軸65Aの回転速度が低速化するほど可動シーブ61Bを固定シーブ61Aから離間させる方向に移動させ駆動プーリ61のベルト巻回径の縮小を図る。
【0056】
従動プーリ62は、入力軸33Aの基端側(ミッションケース33に近接する側)に配置される可動シーブ62Aと、入力軸33Aの先端側に配置される固定シーブ62Bと、可動シーブ62Aを固定シーブ62Bに接近させる方向に付勢力を作用させるコイルバネ62Cとを有している。
【0057】
このコイルバネ62Cは、無端ベルト63に作用する張力に対応して従動プーリ62の可動シーブ62Aの位置を決めるための付勢力を作用させる。つまり、駆動プーリ61のベルト巻回径が変化した場合には、無端ベルト63に作用する張力が変化する。この張力が増大するほど可動シーブ62Aを固定シーブ62Bから離間させ、張力が減少するほど可動シーブ62Aを固定シーブ62Bに接近させる作動を実現する。従って、駆動プーリ61のベルト巻回径が小さい場合には、従動プーリ62のベルト巻回径が大きい値に設定され、これとは逆に、駆動プーリ61のベルト巻回径が拡大した場合には、従動プーリ62のベルト巻回径が小さい値に設定される。
【0058】
図8に示すように、変速ケース64は、車体側(ミッションケース33とエンジン31との少なくとも一方)に支持されるケース本体64Aと、このケース本体64Aに対して分離自在に支持されるカバー体64Bとを備えている。ケース本体64Aの壁面のうちエンジン側には冷却風導入口64Cが形成され、この壁面のうちミッションケース側には、前記カバー体64Bと反対側(ミッションケース33側)に膨らむ膨出部64Dが形成され、ケース本体64Aの外周位置に主フランジ面64Eが形成されている。ケース本体64Aのうちエンジン側(前部側)には出力軸65Aと直交する姿勢の平坦な縦壁面64Wが形成され、このケース本体64Aのうちミッションケース側(後部側)には縦壁面64Wよりミッションケース33側に膨らむ膨出壁64Xが形成され、この膨出壁64Xによって前記膨出部64Dが構成される。このように膨出部64Dが構成されることにより従動プーリ62よりミッションケース側には広い空間が形成されることになる。
【0059】
図9に示すように、前記膨出部64Dには、従動プーリ62の回転によって作り出される風圧を利用して後方側に冷却風を送り出すため、従動プーリ62の外周の上部より車体3の後方側に排出部64Fが形成されている。従動プーリ62は同図に示す矢印Rで示す方向に回転するものであり、変速ケース64に取り入れた冷却風は変速ケース64の内部を冷却するとともに排出部64Fの方向に流動することになる。このような構成から、排出部64Fから冷却風が排出される場合には、従動プーリ62の回転に伴い、この従動プーリ62の上部に接する略水平姿勢の接線に沿う方向で車体3の後方側の排出部64Fの方向に向かう風圧が冷却風に作用することになり、この風圧を利用して排出部64Fから冷却風が効率的に排出されることになる。
【0060】
カバー体64Bは、駆動プーリ61と、巻回径調節機構66と、従動プーリ62とを収容し得る形状で、外周に副フランジ面64Gを形成した構造を有している。この変速ケース64では、前記主フランジ面64Eと副フランジ面64Gとの間にゴム等のシール材を挟み込む形態で、ケース本体64Aとカバー体64Bとをボルト等によって連結することになる。
【0061】
このような構成であるため、アクセルペダル15の操作によりエンジン31の回転速度が設定値を超えた場合には、遠心クラッチ65がクランク軸31Cの駆動力を出力軸65Aに伝える。この伝動の初期には出力軸65Aが低速で回転するため、巻回径調節機構66が、駆動プーリ61のベルト巻回径を小さい値に設定し、これと連係して従動プーリ62のベルト巻回径が大きい値に設定される。これによりエンジン31の駆動力を低速度(大きい減速比)でミッションケース33の入力軸33Aに伝える。また、エンジン31の回転速度が更に上昇した場合には、出力軸65Aの高速回転化に伴い巻回径調節機構66が、駆動プーリ61のベルト巻回径を拡大し、これと連係して従動プーリ62のベルト巻回径が小さい値に設定される。これによりエンジン31の駆動力が高速度(低い減速比)でミッションケース33の入力軸33Aに伝えられる。
【0062】
〔原動部:ベルト無段変速装置の冷却構成〕
遠心クラッチ65を取り囲むクラッチケース52がエンジン31のシリンダブロック31Aに連結し、このクラッチケース52が変速ケース64のケース本体64Aに連結している。これにより、クラッチケース52がエンジン31と変速ケース64との中間に挟み込まれる位置に配置される。クラッチケース52には吸気部51が形成され、このクラッチケース52に連結するケース本体64Aには前記冷却風導入口64Cが形成され、吸気部51に対して前記第2エアクリーナ46からの冷却風を供給する吸気ダクト67が接続している。このような構成から、冷却風は吸気部51からクラッチケース52の内部に流れ込み、このクラッチケース52の内部から冷却風導入口64Cを介して変速ケース64の内部に送り込まれ、変速ケース64の内部を冷却することになる。尚、吸気部51は、ケース本体64Aに形成されるものでも良い。
【0063】
前述した冷却風導入口64Cは、前記出力軸65Aを取り囲む領域に形成され、駆動プーリ61の固定シーブ61Aのうち冷却風導入口64Cに対向する部位には多数の吸気用フィン61Cが形成されている。また、可動シーブ62A、固定シーブ62Bには排気用フィンとして機能し得る補強用の多数のリブ62Dが形成されている。
【0064】
図8、図9に示すように、排出部64Fは円筒状に形成され、ケース本体64Aの後部上部からやや斜め後方上方に向く状態で延出されており、この排出部64Fに対して排気ダクト68が接続している。この排気ダクト68は、その基端部において排気方向を下方に向けると共に、車体内方側に向けるように中間位置に屈曲部68Aが形成され、この屈曲部68Aにおいて冷却風の排出経路を縮小する(排出経路の断面積を小さくする)絞り部68Bを備えている。更に、この排気ダクト68の終端部(排気方向の下流側)の排気開口68Cは、マフラー40の長手方向に沿う方向(横方向)に拡大する形状に形成され、その排気方向を車体3の後方に向かわせることでマフラー40の長手方向に対して直交する方向で、このマフラー40と遮熱板49との隙間に冷却風を排出するように構成されている。排気ダクト68には排出部64Fから送り出された排気を絞り部68Bに向けて案内する後方下方向きの上部案内面68Dと、絞り部68Bからの排気を下方に向けて案内する前方下方向きの下部案内面68Eと、絞り部68Bからの排気を排気開口68Cに向けて案内する先端湾曲面68Fが形成されている。尚、排気開口68Cからマフラー40に対して排気を送り出す方向として、マフラー40の長手方向に対して直交する方向であれば排気方向が水平である必要はなく、例えば、排気開口68Cからの排気をマフラー40に対して斜め上方や、斜め下方から吹き付けても良い。
【0065】
このような構成から、駆動プーリ61の駆動回転に伴い吸気用フィン61Cが負圧を作り出し、この負圧により第2エアクリーナ46で吸引された外気が吸気ダクト67を介し冷却風として冷却風導入口64Cから変速ケース64の内部に吸引される。このように吸引された冷却風は変速ケース64の内部を駆動プーリ61から従動プーリ62の方向に流れ、このように流れる際に、駆動プーリ61と従動プーリ62と無端ベルト63とに接触して熱を奪い、これらを冷却する。
【0066】
そして、変速ケース64の内部の熱を奪った冷却風は、ケース本体64Aに形成された膨出部64Dに流れ込み、従動プーリ62の回転に伴う風の流れに伴い、排出部64Fから変速ケース64の外部に排出される。また、排出部64Fから冷却風が排気ダクト68に送り出される際には、絞り部68Bにおいて流れが抑制されるため変速ケース64の内圧を高めることになる。このように変速ケース64の内圧が高まることからケース本体64Aの主フランジ面64Eとカバー体64Bの副フランジ面64Gとの間から水や塵埃の侵入を防止できるものとなる。そして、排気ダクト68の終端に達した冷却風は排気開口68Cからマフラー40と遮熱板49との隙間に供給され、マフラー40の放熱も実現する。
【0067】
〔実施形態の効果〕
このように本発明によると、変速ケース64に供給された冷却風を駆動プーリ61と、従動プーリ62と、無端ベルト63とに接触させて冷却を実現する。また、冷却風を変速ケース64のケース本体64Aから供給し、このケース本体64Aの排出部64Fから冷却風を排出する構成であるので、カバー体64Bを取り外す作業を行う際にも、冷却風を供給するダクトや、冷却風を送り出す排気用のダクト等を取り外す必要がなく作業を容易に行える。
【0068】
ケース本体64Aには、カバー体64Bと反対側(ミッションケース33側)に膨らむ膨出部64Dが形成され、この膨出部64Dに対して排出部64Fが形成されている。この排出部64Fでは従動プーリ62の回転に伴い従動プーリ62の上部から排出部64Fに向けて接線方向に作用する風圧を冷却風に作用させることになり、冷却風の排出を効率的に行えるものにしている。また、膨出部64Dでは従動プーリ62から離間した広い空間が形成されるため、この膨出部64Dから冷却風が排出部64Fに排出される際にも、プーリや無端ベルトに阻害されることなく効率的な排出が行われる。更に、排出部64Fから排気ダクト68に冷却風が送られる際には、絞り部68Bにおいて流れを制限することで変速ケース64の内圧を高め、ケース本体64Aとカバー体64Bとの連結面からの雨水や塵埃の侵入を阻止している。
【0069】
更に、排気ダクト68の排気開口68Cから排出される冷却風を、排気ダクト68の排気開口68Cからマフラー40の長手方向に沿う広い領域に送り出し、しかも、この冷却風を車体3の後方側に排出することにより遮熱板49との隙間に供給するので、車体3の走行時においても外部からの空気の流れに影響されることなくマフラー40の表面に達し、マフラー40の冷却を良好に行えるものとなる。
【0070】
特に、ベルト無段変速装置32は無端ベルト63には強い張力が作用し、この張力が出力軸65Aと入力軸33Aとに作用し、出力軸65Aと入力軸33Aとが非平行姿勢となる方向に向けてエンジン31とミッションケース33とに力が作用する。これに対して、この張力の作用に強く抗する姿勢で連結プレート41がエンジン31とミッションケース33との上部に連結されることにより、エンジン31とミッションケース33との相対姿勢を高精度で維持できる。
【0071】
また、連結プレート41がエンジン31とミッションケース33との間の間隙30Aの上方を覆う位置に配置されるので、空間に配置されるジェネレータ42やスタータモータ43等の電装品に対する水の侵入を阻止できるものとなる。これにより車体を高圧洗車した場合や激しい降水時にも水が電装品に侵入して作動不良に陥る不都合を解消している。
【0072】
〔別実施の形態〕
本発明は、上記した実施の形態以外に以下のように構成しても良い。
【0073】
(a)無段変速装置として、静油圧式変速装置のように流体を制御することにより変速を行う構成のものを備えても良い。この無段変速装置が備えられるものでも入力系と出力系の軸芯の位置関係を精度高く維持して良好な作動を現出する。
【0074】
(b)エンジンの上部とミッションケースの上部とに連結する連結プレートを複数備える。このように複数の連結プレートを備えることにより、エンジンとミッションケースとの相対姿勢を一層強固に維持する。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、エンジンとミッションケースが隣接する位置関係で配置され、エンジンとミッションケースとの側部に無段変速装置を備えている作業車全般に利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1、2 車輪(前車輪、後車輪)
30A 間隙
30R 冷却風路
31 エンジン
32 無段変速装置(ベルト無段変速装置)
33 ミッションケース
33A 入力軸
41 連結プレート
41B 取付部
42 電装品(ジェネレータ)
43 電装品(スタータモータ)
50 エンジンブロア
65A 出力軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの出力軸の駆動力を無段変速装置からミッションケースの入力軸に伝え、このミッションケースの駆動力を車輪に伝える走行伝動系を備えている作業車であって、
前記エンジンの出力軸と前記ミッションケースの入力軸とが横向き姿勢で備えられ、前記エンジンと前記ミッションケースとが隣接する位置に配置され、このエンジンとミッションケースとの側部位置に前記無段変速装置が配置され、前記エンジンと前記ミッションケースとの間の間隙に電装品が配置されると共に、
前記間隙の上方を覆う領域で、前記エンジンの上部と前記ミッションケースの上部とに連結する連結プレートが備えられている作業車。
【請求項2】
前記エンジンの側部に、このエンジンに冷却風を供給するエンジンブロアが備えられ、このエンジンブロアの冷却風の一部を前記連結プレートの下側に送る冷却風路が形成されている請求項1記載の作業車。
【請求項3】
前記連結プレートに、前記エンジンとミッションケースと無段変速装置とを一体物として吊り上げるための吊金具の取付部が形成されている請求項1又は2記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−51507(P2012−51507A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196925(P2010−196925)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】