説明

作物のロースト方法および貯蔵方法

【課題】 比較的水分含有率の高い芋類、かぼちゃ等の野菜、リンゴなどの果実や水分が原料から浸出しやすいそれらの冷凍品を、原料がロースト工程中に製造設備に付着し、形状が崩れる、焦げ付く、設備の清掃が困難になるなどの問題を発生させずにローストする方法を提供する
【解決手段】 芋類、野菜、果実及びそれらの冷凍品からなる群より選ばれる作物を穀物又は粒状無機物と共にローストすることを特徴とする作物のロースト方法及び混合したままの状態で貯蔵することにより高水分の製品水分を急速に低下させる方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芋類、野菜、果実の比較的水分含有率の高い作物や、水分が浸出しやすいそれらの冷凍品を効率的にローストする方法および貯蔵方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芋類、かぼちゃ等の野菜、リンゴなどの果実等は比較的水分含有率が高いことから、常温での貯蔵期間が米や麦等の穀物に比較して短く、そのため冷蔵貯蔵や冷凍貯蔵などが行われているのが現状である。しかし、いずれにしても貯蔵コストが高く、かつ冷凍すると更に水分が浸出しやすくなる等、加工しにくくなる問題もある。よって、作物を収穫後、そのままもしくは裁断して、天日での乾燥及び人為的な乾燥などが行われており、本発明もこれら一次加工技術に属するものである。
【0003】
従来、芋類、かぼちゃ等の野菜、リンゴ等の果実等水分含有率の高い作物の加工技術は、一般的に家庭で供されるような調理方法(蒸す、煮る、焼く、揚げる)であり、主たる目的が調理後速やかに直接飲食する為であるために、調理後の水分が高いなど、貯蔵性は期待できるものではなかった。また、甘味を強めるために一定の温度帯を長時間維持する知見はあるが、煮るよりは焼いた方が甘くなるという生活の知恵的なものであった。貯蔵性の向上については、「干し芋」のように水分を低下させたり、「生芋を冷凍」するなどの加工が施されているが、その場合に風味の向上や改良といわれる効果は期待されていなかった。一方で、芋については一定の条件でローストすることによって香味を改善する手法も取られているが、焼き芋らしさを強調するのではなく香味を減少させる目的で加工が行われていた。
【0004】
しかしながら、芋類、かぼちゃ等の野菜、リンゴなどの果実は比較的水分含有率が高く、それらの作物の冷凍品は水分が浸出しやすいため、ロースト工程中に原料が製造設備に付着し、形状が崩れる、焦げ付く、設備の清掃が困難になるなどの問題が発生する。
【0005】
また、ただ単に作物をローストして乾燥させると、オフフレーバーが生成し、生の原料より香味の良い製品を得ることは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする第1の課題は、比較的水分含有率の高い芋類、かぼちゃ等の野菜、リンゴなどの果実や水分が原料から浸出しやすいそれらの冷凍品を、原料がロースト工程中に製造設備に付着し、形状が崩れる、焦げ付く、設備の清掃が困難になるなどの問題を発生させずにローストする方法を提供することにある。
【0007】
本発明が解決しようとする第2の課題は、作物を乾燥する工程で発生しやすいオフフレーバーの生成を抑制すると共に、フルフラールやフラノン類の甘い芳香を生成させて生の原料より香味の良い製品を製造することができるロースト方法を提供することにある。
【0008】
本発明が解決しようとする第3の課題は、比較的水分含有率の高い作物をローストして常温保存を可能にする為の貯蔵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に関するものである。
(1) 芋類、野菜、果実及びそれらの冷凍品からなる群より選ばれる作物を穀物又は粒状無機物と共にローストすることを特徴とする作物のロースト方法。
(2) 芋類、野菜、果実及びそれらの冷凍品からなる群より選ばれる作物を穀物と共にローストして作物と穀物の香味を相互に移行させることを特徴とする作物及び穀物のロースト方法。
(3) 芋類を、60℃〜70℃の温度かつ水分が蒸発しないような高湿度の環境下で10〜120分蒸焼きにし、その後乾燥した40〜250℃の熱風により水分含有率を20%以下まで乾燥させることを特徴とする芋類のロースト方法。
(4) (1)〜(3)のいずれか1項に記載された方法により製造されたロースト製品またはその粉砕物。
(5) (1)〜(3)のいずれか1項に記載された方法によりローストされた作物及び穀物若しくは無機粒状物を分離することなく貯蔵することを特徴とする作物の貯蔵方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、商業スケールのロースターでは困難であった水分含有率の高い作物及び冷凍して水分が浸出しやすい作物の原形を崩すことなく均一にローストすることができる。
【0012】
また、従来製品には無いフルフラールやフラノン類の甘い芳香を持ち、かつ保存性に優れるロースト原料製品を製造することが可能である。
【0013】
原料と麦のように異なる食品原料を使用する場合は、相互に香気成分を付与する効果も期待できる。加えて、ロースト工程中に水分が低下していることから粉末化することが容易である。
【0014】
よって、このロースト芋原料を焼酎等の酒類、茶等の飲料、菓子、パン等の食品に用いることで、従来の素材には無かった特色のある香味を持つ芋風味の食品を製造することが可能になり、かつ原料の収穫期に左右されない安定した製品の供給を実施することが可能になる。
【0015】
さらにまた、本発明方法でローストした作物と穀物若しくは粒状無機物とを分離することなく混合貯蔵することにより、ロースとした作物の水分が穀物若しくは粒状無機物に移行し、作物の水分含量が低下するので、水分含有率の高い作物を常温保存することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のロースト方法の原料となる作物とは、以下のような比較的水分含有率が高いものおよびその冷凍品である。
【0017】
すなわち、比較的水分含有率が高いものとは、たとえばサツマイモ、ジャガイモ、ヤーコン等の芋類、カボチャ、ニンジン、タマネギ等の野菜、リンゴ、ベリー類、柿等の果実である。
【0018】
また、上記芋類、野菜、果実の冷凍品は、ロースト工程中に水分が浸出しやすいが、本発明のロースト方法の作物原料とすることができる。
【0019】
これらの作物原料がロースト工程中に、製造設備に付着し、形状が崩れる、焦げ付く、設備の清掃が困難になるなどの問題を発生させずにローストするためには、穀物又はセラミックス等の粒状無機物と共にローストすればよい。
【0020】
水分含有率が高い作物やこれらの冷凍品と共にローストする穀物としては、例えば小麦、大麦、米、トウモロコシ、ソバ、こうりゃん、大豆、黒豆等を挙げることができる。これらの穀物は水分含有率が低いため、高水分含有率の作物原料と共にローストすることにより、高水分含有率の作物原料から発生した水分を吸収する緩衝材として作用し、高水分含有率の作物原料が製造設備に付着したり、形状が崩れたり、焦げ付くことを防止することができるものと思われる。
【0021】
本発明において、穀物の代わりに粒状無機物を用いてもよい。粒状無機物としては、吸水特性、粒径、比重などが穀物に類似したものを用いればよく、例えば、ゼオライトなどの多孔質粉末を原料に用いた保水性セラミックスの粒状物を挙げることができる。
【0022】
高水分含有率の作物原料と穀物又は粒状無機物の比率は、重量比で1:1〜100、好ましくは1:1〜5程度が望ましいが、目標とする品質及び工程操作上問題のないレベルで調整することができる。
【0023】
穀物又は粒状無機物の割合が2分の1未満の場合は穀物又は粒状無機物による水分吸収が不十分になり、ロースト設備に高水分含有率の作物原料が付着して焦げ付く恐れがある。一方、高水分含有率の作物原料の比率が100分の1未満の場合は、高水分含有率の作物原料のロースト生産性が著しく低下する、もしくは相互に香気成分を付与される効果が著しく低下する可能性があり、好ましくないが、特別に香味の強い原料を用いる場合はこの限りではない。
【0024】
穀物又は粒状無機物の投入時期は特に限定されないが、ロースト開始時に高水分含有率の作物原料と同時もしくは先に製造設備投入すればよい。
【0025】
その結果、作物原料に混合した穀物又は粒状無機物が原料から浸出した水を吸収するとともに、製造設備の表面と原料もしくは原料と原料の間を隔離し、設備の表面に原料が付着することを防止し、製造設備が原料に与える衝撃を緩和する効果を発揮するため、高水分含有率の作物原料が製造設備に付着せず、また原料の形状が崩れない状態で製品化することが可能になる。
【0026】
ローストするための設備は特に限定されないが、例えば熱風焙煎式ロースター、ほうろく鍋等を挙げることができる。
【0027】
高水分含有率の作物原料と穀物又は粒状無機物をローストする条件は作物原料の酒類により異なるが、100〜500℃、5分〜3時間行えばよい。
【0028】
作物原料をローストする方法としては、原料を、原料投入ラインやロースター本体、製品ラインの運転に支障の無い大きさで、かつ目標とする品質が得られる一片10〜30mm程度の立方体及び同程度の容積を持つ各種形状に裁断する。サイズが大きければロースト工程中の中心部の温度は上がリにくく、焦げ臭が付かないが、水分は下がりにくいなどの特性を持つ。また、必要に応じて原料の腐食部やキズのある部分を取り除く。このままローストしても良いが、一時的に保存が必要であれば切断した状態のまま冷凍する。
【0029】
第2の本発明は、芋類、野菜、果実及びそれらの冷凍品からなる群より選ばれる作物を穀物と共にローストして作物と穀物の香味を相互に移行させることを特徴とする作物及び穀物のロースト方法に関するものである。
【0030】
作物原料と穀物を共にローストすることにより、作物と穀物の香味を相互に移行させることができる。
【0031】
例えば、立方体に切断し、冷凍したサツマイモを大麦と1:2の比率で混合し、70℃〜160℃まで昇温しながら90分ローストする事により、主に大麦の方に焼き芋様の香味を移行させることができると同時に芋には麦の香ばしい香気を移行させることが出来る。
【0032】
第3の本発明は、サツマイモやジャガイモなど水分の高く、澱粉を多く含有する原料を、60℃〜70℃の温度かつ水分が蒸発しないような高湿度の環境を正確に制御・維持しながら10〜120分蒸焼きにし、芋自体の持つ糖化酵素や蛋白分解酵素など各種酵素の働きによって内容物を分解させる。その後に乾燥した40〜250℃の熱風により水分を20%以下、好ましくは10%以下まで乾燥させると共に、メーラード反応やカラメル化反応によってフルフラールやフラノン類の甘い芳香を生成させて保存性と香味に優れるロースト芋を製造する方法に関するものである。
【0033】
すなわち、芋類などの使用する原料の澱粉含有率が高く、かつカラメル的な香味を付与したい場合は、切断した生原料もしくは冷凍原料をロースターなど温度管理が可能かつ均一に加熱できる装置で糖化に適した60℃〜70℃まで加熱する。60℃〜70℃に到達したら、その温度を維持し、熱風を循環するなどして水分が蒸発しないような高湿度の環境下で10〜120分蒸焼きにし、原料自体の持つ糖化酵素や蛋白分解酵素など各種酵素の働きによって内容物を分解させる。その後に生成した糖やアミノ酸によるメーラード反応及びカラメル化反応を促進する為に、40〜250℃の乾燥した熱風を吹き込んで昇温し、目標とする香味を獲得すると共に水分を20%以下、好ましくは10%以下まで乾燥させる事により、貯蔵性や粉砕特性を向上させる。澱粉含有率が低い原料や、もしくはカラメル的な香味を付与したくない場合は、上述の蒸焼き工程を省略する。
【0034】
なお、目標とする製品の色度や香味によっては、ロースターなどの加熱装置内で水分含有率を好ましい範囲である10%以下にするのが困難な場合がある。しかし、混合ローストする高水分含有率で粒径の大きな材料が製品水分含有率10%以上であっても、粒径の小さい材料の製品水分含有率は10%を下回る場合がある。例えば、イモと麦を混合ローストした場合に、ロースト芋の方が水分含有率10%以上であっても、ロースト麦の方が水分含有率10%を下回るようであれば、双方を混合したまま密閉しておくことによって水分含有率の低いロースト麦がロースト芋の水分を吸収し、ロースト芋の水分含有率を低下させることが可能である。この高水分の製品水分含有率が低下する間さえ低温に保持しておけば、その間の腐敗を防ぐことができ、かつ製品水分含有率が低下後には常温保存を可能にする事ができ、流通・貯蔵コスト的にメリットが出る。
【実施例1】
【0035】
サツマイモを生産地で、腐食部分などを切断、除去した後に1辺約1cmの立方体に
裁断し、貯蔵及び輸送の為に冷凍した。原料としては、その冷凍サツマイモ4kgに対して二条大麦を5kgした。10kgスケールのロースターを事前に100℃(以後ロースト内部温度)まで予熱し、先に二条大麦を投入し、芋投入時に芋がロースターの加熱部に直接接触しにくいようにした。大麦投入後に温度が低下した為70℃まで昇温した後に、冷凍サツマイモ4kgを投入した。再度温度が低下した為、73℃まで昇温し、その段階で熱風循環を開始して蒸焼きを開始した。そのまま60分蒸焼きを継続し、ロースト中の芋内部の澱粉が糖化し、蜜状になっている状態を確認して循環を解除し、昇温を開始した。
【0036】
工程時間150分経過した時点で目標最高温度の180℃に到達したため、ロースト中の芋にカラメル的な香気が付与され目標の品質に到達したかどうかを連続的にサンプリングし、官能的に調査した。その結果、工程時間165分の時点で目標の品質に到達したことを確認できた為、ロースターから冷却装置に排出し、冷風で速やかに製品温度を低下させて工程を終了した(図1参照)。本発明方法によりローストした芋は、形状が崩れることがなく、また焦げ付くことはなかった。
【0037】
製造終了時の芋の水分含有率は、16.2%と常温保存するには高すぎる値であったが、一緒にローストした麦と混合した状態で貯蔵することによって、より低い水分含有率の麦に芋の水分が吸収され、ロースト直後に麦から芋を分離して保存したものの水分含有率より低くなった。芋と麦の混合貯蔵34日後には、水分含有率は8.2%となり、常温保存に耐えられるレベルになったことから、この水分低下の期間さえ冷暗所で貯蔵すれば、その後は容易に常温貯蔵が可能になることが分かる(図2参照)。
【0038】
(比較例1)
サツマイモ400gを1辺約1cmの立方体に裁断し、蓋付きの容器に入れて500Wの電子レンジで6分間加熱し、その後約10分間蒸らし、乾燥機に移して60℃で10時間乾燥した「蒸し+乾燥芋」を調製した。
【0039】
(実験例1)
なお、実施例1で調製したロースト芋と、比較例1で調製した「蒸し+乾燥芋」との官能検査を8人のパネラーで行った(無回答はカウントしなかった)。官能検査は、固体試料および抽出液で行い、その結果を図3に示した。官能検査用の抽出液は、試料:水=1:10の重量比率で、6分間煮出した後20分間静置してから冷却したものを使用した。図3の結果から、本発明のロースト法により調製した芋は、蒸して乾燥させた芋に比較して、固体、抽出液とも、焼芋香味に優れ、好ましい香味と感じたパネラーが多かった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の技術を用いることにより、水分含有率の高い作物や冷凍して水分が浸出しやすい作物をローストの原料に用いる場合においても、原料と混合した緩衝材が製造設備の表面と原料もしくは原料と原料の間を隔離し、製造設備が原料に与える衝撃を緩和し、過剰な原料の表面水を吸着する効果を発揮するため原料が製造設備に付着せず、また原料の形状が崩れない状態で製品化することが可能になる。加えて、蒸焼きによる糖化工程を適用することにより、従来製品には無いフルフラールやフラノン類の甘い芳香を持ち、かつ保存性に優れるロースト製品が製造できる。また、芋と麦のように異なる食品原料を使用する場合は、相互に香気成分を付与する効果も期待できるため、例えば芋の香りのするロースト麦、もしくは麦の香りのするロースト芋を作ることができる。また、水分が低下していることから粉末化することが容易であり、各種粉末と均一に混合して使用することが容易である。よって、このロースト芋原料を焼酎等の酒類、飲料、菓子、パン等の食品に用いることで、従来の素材では製造できなかった特色のある香味を持つ風味の食品を容易に製造することが可能になり、かつ原料作物の収穫期に左右されない安定した原料供給を実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1の昇温条件を示すグラフ。
【図2】実施例1で調製したロースト芋の貯蔵中の水分推移を示すグラフ。
【図3】実施例1で調製したロースト芋と、比較例1で調製した「蒸し+乾燥芋」を比較した官能検査結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芋類、野菜、果実及びそれらの冷凍品からなる群より選ばれる作物を穀物又は粒状無機物と共にローストすることを特徴とする作物のロースト方法。
【請求項2】
芋類、野菜、果実及びそれらの冷凍品からなる群より選ばれる作物を穀物と共にローストして作物と穀物の香味を相互に移行させることを特徴とする作物及び穀物のロースト方法。
【請求項3】
芋類を、60℃〜70℃の温度かつ水分が蒸発しないような高湿度の環境下で10〜120分蒸焼きにし、その後乾燥した40〜250℃の熱風により水分含有率を20%以下まで乾燥させることを特徴とする芋類のロースト方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された方法により製造されたロースト製品またはその粉砕物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された方法によりローストされた作物及び穀物若しくは無機粒状物を分離することなく貯蔵することを特徴とする作物の貯蔵方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−53915(P2007−53915A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240116(P2005−240116)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【出願人】(597104396)アサヒビールモルト株式会社 (8)
【Fターム(参考)】