説明

使用済みカッタービットの健全度評価方法

【課題】資源の有効利用と環境影響負荷低減を図ることのできる使用済みカッタービットの健全度評価方法を提供すること。
【解決手段】使用済みのカッタービット1を回収する第1のステップ、回収されたカッタービット1の健全度を評価する第2のステップ、カッタービット1の再利用先を選定する第3のステップからなり、第2のステップでは、カッタービット1を構成する母材3と、母材3の先端にロウ付けにて装着された超硬チップ2を分離することなく再利用が可能か否かが判断され、再利用可能と判断されたカッタービット1に対してロウ付け面4における有効ロウ付け面積とロウ付け箇所における疲労限を特定してカッタービットの健全度を評価し、第3のステップでは、有効ロウ付け面積とロウ付け箇所の疲労限からなる評価指標が地山を掘削するのに必要な強度を満足する場合にこの地山をカッタービットの再利用先として選定する健全度評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド工法や推進工法等で適用される掘進機の面盤やカッタースポーク等に装備され、使用された後のカッタービットの健全度を評価し、この評価結果に基づいてその再利用先を検証する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シールド工法や推進工法においては、それらの工法で使用される掘進機が到達立坑に到達すると掘進機はその役割を終了して解体され、スクラップとして処分されるのが一般的である。
【0003】
ところで、この掘進機に装備されているカッタービットは一般に、硬質な母材の隅角に超硬チップがロウ付けされて構成されている。
【0004】
超硬チップは、炭化タングステンやコバルトなどの粉末を圧縮成形し、焼結等して得られるものであり、母材は、たとえばニッケルやクロム、モリブデン、マンガン等を含む合金鋼からなり、したがって、カッタービットはその全体が多くのレアメタルから形成されるものである。
【0005】
しかし、このカッタービットも掘進機の構成部材として既述するように使用後はスクラップの対象となっていることから、昨今の環境影響負荷低減の高まりの中で、使用済みのカッタービットの有効利用が模索されている。
【0006】
また、上記するレアメタルから製造される超硬チップは一般鋼材以上の二酸化炭素を発生させることから、一度製造された超硬チップの有効利用によってその延命を図ることの必要性は、この製造プロセスの問題からも言える。
【0007】
ところで、従来の公開技術である特許文献1,2をはじめとして、摩耗したカッタービットを効率よく、あるいは安全に交換できる発明技術は多岐に亘る一方で、使用済みで摩耗したカッタービットの健全度を適正に評価し、その再利用先を模索する発明技術は存在しない。
【0008】
本発明者等は、資源や資材等の有効利用を図ること、さらには上記する環境影響負荷低減に優れた建設技術への社会的な要請に鑑み、使用済みであっても別途の工事で利用可能性があるカッタービットの健全度を適正に評価し、評価結果に基づいてその再利用先を選定し、選定された再利用先でカッタービットの再利用を図ることのできる新規な発明技術に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−257645号公報
【特許文献2】特開2006−257646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、使用済みのカッタービットであって再利用可能なカッタービットを有効に利用するべく、その健全度を適正に評価してその再利用先を選定することのできる使用済みカッタービットの健全度評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による使用済みカッタービットの健全度評価方法は、掘進機もしくは掘削機に装備された使用済みのカッタービットを回収する第1のステップと、回収されたカッタービットの健全度を評価する第2のステップと、健全度の評価結果に応じて被評価対象のカッタービットの再利用先を選定する第3のステップと、からなり、第2のステップでは、カッタービットを構成する母材と、母材の先端にロウ付けにて装着された超硬チップを分離することなく再利用が可能か否かが判断され、再利用が可能と判断されたカッタービットに対して、ロウ付け面における空隙箇所を除いた有効ロウ付け面積と、ロウ付け箇所における疲労限と、を特定してカッタービットの健全度を評価し、前記第3のステップでは、健全度が評価されたカッタービットのうち、少なくとも前記有効ロウ付け面積とロウ付け箇所の前記疲労限からなる評価指標が地山を掘削するのに必要な強度を満足する場合に、この地山をカッタービットの再利用先として選定するものである。
【0012】
本発明の健全度評価方法が対象とする使用済みのカッタービットは、シールド工法や推進工法で適用される掘進機、もしくはTBM(トンネルボーリングマシン)のカッターフェイス(面盤やカッタースポーク)などに装備されたカッタービットや、地中連続壁等を造成する際に地盤を掘削する掘削機(ケーシング等)に装備されたカッタービット、バックホーの爪など、建設工事の全般で使用されるカッタービットを評価対象としている。
【0013】
たとえばシールド工法を例示して本発明の健全度評価方法を説明する。
【0014】
まず、第1のステップとして、シールド掘進機が一定の掘進延長まで到達した段階で、もしくは到達立坑まで到達した段階で、カッターフェイスに装備されて初期の使用耐久を経たカッタービットを回収する。
【0015】
この第1のステップでは、回収されたカッタービットの仕様や使用経歴(施工対象の地山の強度や性状、掘進延長、カッターフェイスの回転数など)がデータとして保存されるのが望ましい。
【0016】
次に、第2のステップとして回収されたカッタービットの健全度を評価する。
【0017】
この健全度の評価では、まず、対象となるシールド掘進機のカッターフェイスから回収されたたとえば数百個のカッタービットの全数を外観観察することにより、カッタービットの外観と、その構成部材である母材および超硬チップそれぞれの状態が確認される。
【0018】
この外観観察により、超硬チップや母材に大きな割れや欠け等があり、その補修が困難でその再利用が不可能と判断されるカッタービットはこの段階で詳細な健全度の評価はおこなわず、たとえば、母材と超硬チップを分離して、超硬チップや母材をそれらの構成メタル素材に戻して原材料の再利用を図ることができる。
【0019】
なお、この外観観察とこの観察に基づいたカッタービットの分離もしくは不分離の判断は、管理者による目視とその判断技量による方法であってもよいし、CCDカメラなどによるカッタービットの撮像と、この撮像データをコンピュータ内に取り込み、コンピュータ内に予め格納されている峻別閾値との比較をコンピュータ内で自動分析するような自動判断システムを適用する方法であってもよい。なお、ここでの峻別閾値としては、たとえば、超硬チップや母材における欠けの面積や全体に対する比率、クラックの長さなどに関する閾値データであり、この閾値データは施工業者等による経験則や強度解析の結果などに基づいて設定される。
【0020】
一方、外観観察の結果、母材と超硬チップを分離することなく、何等の補修も必要なく再利用できそうなカッタービットや、多少の補修によって再利用できそうなカッタービットに対しては、詳細な強度分析をおこなう。なお、この詳細な強度分析は、外観観察で選定されたカッタービット群の中からたとえば数個のサンプルをランダムに抽出すること等によっておこなわれる。
【0021】
ここで、カッタービットの強度は、実際に地山等を直接切削する超硬チップ自体の強度と、この超硬チップと母材の接合界面、すなわちロウ付け面における接合強度のうちの低い方の強度で決定することができる。
【0022】
そして、双方の強度を比較すると、ロウ付け面の接合強度が相対的に低くなるのが一般的であることから、現状のカッタービットのロウ付け面の接合強度を適正に評価すればよいことになる。
【0023】
このロウ付け面における接合強度は、ロウ付け箇所の有する強度限界とロウ付け面積に依存するものであり、これらを特定することでロウ付け面における接合強度を特定することができる。
【0024】
ここで、ロウ付け箇所の有する強度限界は、ロウ材やロウ付けされる超硬チップと母材の素材等によって相違するものの、予め、使用される超硬チップと母材、ロウ材に対してテストピースを作成し、繰り返しの引張り試験をおこなうことで、ロウ付け箇所の疲労限を特定しておき、これをロウ付け箇所の強度限界とするのが望ましい。なお、超硬チップの強度限界も同様の方法で繰り返しの引張り試験をおこなうことで超硬チップの疲労限を特定することができるが、本発明者等によれば、ロウ付け箇所の疲労限に比して超硬チップの疲労限は2倍以上高くなることが特定されている。
【0025】
一方、ロウ付け面積は、全ロウ付け面から空隙箇所を除いた有効ロウ付け面積のことである。
【0026】
これら2つの要素、すなわち、ロウ付け箇所の疲労限と有効ロウ付け面積を特定することにより、これらを母材と超硬チップがロウ付けされてなるカッタービットの強度特性とし、その再利用先を選定する際の評価指標とすることができる。
【0027】
次に、第3のステップでは、第2のステップでその強度特性が特定されたカッタービットの再利用先を選定する。
【0028】
この再利用先の選定に当たり、今後、トンネル工事や掘削工事等が予定されている全国各地の地山に対して、あるいは、工事予定の有無に関わらず全国各地の地山に対して、各地山の地盤強度を特定する。
【0029】
地山の地盤強度の特定方法は多岐に亘る。その一例として、たとえば、今後、トンネル工事が予定されている地域が複数あり、それぞれの地山の地盤強度を設定する。この地盤強度は、既に地盤調査や載荷試験等がおこなわれている場合には、その地盤調査結果を適用して、たとえばその1軸圧縮強度や3軸圧縮強度、ヤング率等を用いて設定すればよいし、試験がおこなわれていない場合には、ボーリング試験によるサンプリングとサンプルを用いた載荷試験(1軸圧縮試験、3軸圧縮試験など)を実施して同様に地山の地盤強度の設定をおこなえばよい。
【0030】
そして、上記複数の地山のうち、評価対象となっているカッタービットの評価指標が、特定されている地山の地盤強度よりも高いものをその再利用先に設定することができる。
【0031】
また、仮に上記複数の地山の地盤強度がいずれも評価対象のカッタービットの評価指標よりも高い場合には、このカッタービットの評価指標が上回ることのできる地山が現れるまで適所に回収された使用済みのカッタービットを保管すればよい。
【0032】
なお、予め多数の地山の地盤強度データが得られていれば、カッタービットの再利用先が決定する可能性も高まることから、先行して全国各地の地山の地盤強度データを特定し、蓄積しておくのが好ましい。
【0033】
上記する本発明による使用済みカッタービットの健全度評価方法によれば、これまでスクラップ処理されていた使用済みのカッタービットの現状の強度を適正に評価し、カッタービットを構成する母材と超硬チップを分離する必要がないと判断されたカッタービットに対し、これが再利用可能な地山を選定してその再利用を図ることにより、カッタービットの延命と、これに起因するレアメタルの有効利用と、その製造プロセスで生じ得る二酸化炭素の排出抑制を図ることが可能となる。
【0034】
また、本発明による使用済みカッタービットの健全度評価方法の他の実施の形態は、前記第2のステップにおいて、以下の2つの方法のいずれか一種を実施して有効ロウ付け面積を特定するものであり、その一方は、(1)ロウ付け面を削り出して空隙面積を特定し、全ロウ付け面積から空隙面積を差し引く方法であり、他方は、(2)超音波探傷試験をおこない、かつ、探傷試験で得られる画像を二値化処理して二値化画像を求め、この二値化画像から空隙面積を特定し、全ロウ付け面積から空隙面積を差し引く方法である。
【0035】
複数の抽出サンプルに対して上記(1)、もしくは(2)の方法で複数の有効ロウ付け面積を特定したら、それらの平均値をもってカッタービットの全サンプルの有効ロウ付け面積としてもよいし、カッターフェイスのエリアごとに有効ロウ付け面積を特定してもよい。なお、複数の抽出サンプルを2つのグループに分けて、一方は上記(1)の方法で有効ロウ付け面積を特定し、他方は上記(2)の方法で有効ロウ付け面積を特定してもよい。
【0036】
(1)のロウ付け面を削り出して確認する方法では、有効ロウ付け面積を直接確認できるメリットがあるし、(2)の超音波探傷試験と二値化処理による方法では、非破壊によって有効ロウ付け面積の特定を効率的に実施できるメリットがある。
【0037】
なお、(2)の方法では、二値化処理における閾値の設定がこの処理方法で最も重要なものとなる。この閾値の設定は、管理者や施工業者の経験則によって設定してもよいし、一つのサンプルに対して最初に超音波探傷試験をおこない、得られた画像に対して複数の閾値のもとで二値化画像を求めておき、次にこのサンプルの削り出しをおこなって実際のロウ付け面を現し、このロウ付け面と二値化画像を比較して実際のロウ付け面を最も精緻に反映しているものの閾値を特定し、この閾値を使用してそのほかのサンプルに対して上記(2)の方法で有効ロウ付け面積を求めてもよい。
【0038】
また、本発明による使用済みカッタービットの健全度評価方法の好ましい実施の形態は、前記第3のステップにおいて、前記評価指標が、全ロウ付け面積に対する前記有効ロウ付け面積の比率をロウ付け箇所の前記疲労限に乗じた値から設定されるものである。
【0039】
ロウ付け箇所の疲労限に対して、全ロウ付け面積に対する有効ロウ付け面積の比率を乗じることで、空隙の存在が考慮された実際のロウ付け箇所における強度を算定することができる。
【0040】
次にロウ付け箇所の強度と地山の地盤強度とを比較する評価指標の設定をおこなう。ビットの先端部に作用する荷重が地山の地盤強度に達することによって、地山の掘削が行われると考えられることから、ビット先端部に地山の地盤強度相当の荷重を載荷した際にロウ付け箇所に発生する応力とロウ付け箇所の強度を比較する。
【0041】
ビット先端部の荷重とロウ付け箇所に発生する応力の関係は、ビットの形状などによって異なる。そこで、実際に回収されたカッタービットに対して掘削時に作用する方向から静的荷重を載荷させる静的荷重載荷試験をおこない、その結果を用いて、ビット先端部の荷重とロウ付け箇所に発生する応力の関係を設定することができる。
【0042】
例えば、載荷試験時に荷重−ひずみ関係を求め、求められた荷重−ひずみ関係を構造解析にてシミュレートし、この構造解析にて求められたロウ付け箇所の引張り応力と荷重の関係を用いることができる。そして、ロウ付け箇所の応力が上記するロウ付け箇所の強度となる場合のビット先端部に作用させることのできる最大荷重としてこれを評価指標とし、地山の地盤強度と比較することができる。
【0043】
さらに、本発明による使用済みカッタービットの健全度評価方法の他の実施の形態は、前記第3のステップにおいて、前記評価指標には、有効ロウ付け面積と疲労限からの評価指標のほかに、使用済み超硬チップの厚みと長さ、幅、にげ角およびすくい角と、再利用先で想定される掘削距離、カッタービットが装備される機器の回転速度、該機器の外径のいずれか一種もしくは複数がさらに含まれるものである。
【0044】
使用済みの超硬チップは使用前の状態に比して多少なりとも摩耗しているのが一般的であること、再利用先のたとえばシールド工事や推進工事における施工条件(地山の強度、掘削距離、掘進機の機器(カッターフェイス)の外径、機器の回転速度、パス数)によって、超硬チップの必要量(必要摩耗限界長さと根入れ長さの和)と必要厚さ、必要ビット幅や逃げ角、すくい角が決定される。
【0045】
したがって、カッタービットの有効ロウ付け面積およびロウ付け箇所における疲労限からの評価指標と地山の強度を比較してその再利用先を選定することのほかに、使用済み超硬チップの現状の長さと幅、厚さ、逃げ角やすくい角等も評価対象としておくことにより、たとえば再利用先のシールド工法における上記施工条件で決定される超硬チップの必要量等を満足した場合にこれを評価対象のカッタービットの再利用先に決定することもできる。
【発明の効果】
【0046】
以上の説明から理解できるように、本発明の使用済みカッタービットの健全度評価方法によれば、使用済みのカッタービットを回収し、回収されたカッタービットの健全度を評価し、健全度の評価結果に応じて被評価対象のカッタービットの再利用先を選定する方法において、再利用が可能と判断されたカッタービットに対して、ロウ付け面における有効ロウ付け面積と、ロウ付け箇所における疲労限と、を少なくとも特定してカッタービットの健全度を評価し、少なくともこの有効ロウ付け面積とロウ付け箇所の疲労限からなる評価指標と地山の有する強度を比較してカッタービットの再利用先を選定し、使用済みカッタービットのさらなる有効利用をおこなうことで、資源の有効利用と環境影響負荷低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の使用済みカッタービットの健全度評価方法を説明したフロー図である。
【図2】(a)はシールド掘進機のカッターフェイスの正面図であり、(b)はカッターフェイスに装備されたカッタービットの写真図である。
【図3】カッタービットの斜視図であって、透視されたロウ付け面をともに示した図である。
【図4】カッタービットを構成する超硬チップとロウ付け面における破断までの繰り返し引張り試験の結果を示したグラフである。
【図5】ロウ付け面における全ロウ付け面積、空隙面積、有効ロウ付け面積を説明した図である。
【図6】(a)は削り出しによるロウ付け面の写真図であり、(b)は超音波探傷試験で得られた画像図であり、(c)は(b)の画像図を二値化処理してなる二値化画像を示した図である。
【図7】(a)、(b)ともに、地山の強度算定に際し、カッタービットに作用する荷重モデルを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、図面を参照して本発明の使用済みカッタービットの健全度評価方法を説明する。なお、図示例は、シールド掘進機のカッターフェイスに装備された使用済みカッタービットを取り上げて説明しているが、推進工法に適用される掘進機やTBMのカッターフェイスに装備されたカッタービット、掘削機(ケーシング等)に装備されたカッタービットやバックホーの爪など、健全度の評価とこれに基づく再利用先の選定の対象となるカッタービットは建設分野の全般に適用されるものである。
【0049】
図1は、本発明の使用済みカッタービットの健全度評価方法を説明したフロー図である。本発明の健全度評価方法では、まず、使用済みカッタービットの回収をおこなう(ステップS1:本発明の健全度評価方法の第1のステップ)。
【0050】
ここで、回収されるカッタービットは、図2aで示すシールド掘進機のカッターフェイス10に装備された多数のカッタービット1であり、このシールド掘進機が到達立坑に到達してその役割を終了した段階で、掘進機の解体がおこなわれ、この解体に伴ってカッターフェイス10から取り外されたものである。
【0051】
カッターフェイス10から取り外されたカッタービット1は、図2bの写真図で示すように、カッターフェイス10に直接固定された母材3と、この母材3の先端に設けられた切り込みにロウ付けされた超硬チップ2とから構成されている。
【0052】
ここで、母材3は、たとえばニッケルやクロム、モリブデン、マンガン等を含む合金鋼からなり、超硬チップ2は、炭化タングステンやコバルトなどの粉末を圧縮成形し、焼結等して得られるものである。
【0053】
図1に戻り、使用済みのカッタービットが回収されたら、次に、各カッタービットの外観観察をおこなう(ステップS2)。
【0054】
この外観観察により、たとえば超硬チップに修復不能な割れや欠けが存在していてカッタービットに対して、これをその構成部材である母材と超硬チップに分離する必要があるか否かの判断がおこなわれる(ステップS3)。
【0055】
ここで、この外観観察の方法として次の2つの方法を挙げることができる。
【0056】
その一つは、管理者による目視とその判断技量によって分離の可否を判断する方法であり、観察対象数が少ない場合に有効である。
【0057】
一方、外観観察の方法の他の一つは、CCDカメラなどによるカッタービットの撮像と、この撮像データをコンピュータ内に取り込み、コンピュータ内に予め格納されている閾値との比較をコンピュータ内で自動分析するような自動判断システムを適用する方法である。このシステムにおいて、上記する閾値としては、たとえば、超硬チップや母材における欠けの面積や全体に対する比率、クラックの長さなどに関する閾値データとなる。
【0058】
外観観察の結果、修復不能な割れや欠け等が存在せず、カッタービットを母材と超硬チップに分離する必要がないと判断されたものに対してはさらなる健全度の評価が実施される。一方、割れや欠けが修復不能であるカッタービットに対しては、これを母材と超硬チップに分離し、それぞれを構成材料であるレアメタルや鋼材にまで戻し、原材料として新たな利用方法を検討する(ステップS6)。
【0059】
なお、この外観観察で摩耗した超硬チップの残存長さ等をさらに計測してもよく、残存長さに閾値を設けておいて、超硬チップが閾値未満の残存長さとなっているカッタービットも上記する分離の対象としてもよい。
【0060】
母材と超硬チップに分離する必要がないと判断されたカッタービットに対しては、その評価指標と再利用先となり得る地山の強度比較がおこなわれる(ステップS4)。
【0061】
ここで、カッタービットの評価指標には、図3で示すロウ付け面4における有効ロウ付け面積とロウ付け箇所における疲労限からなる評価指標のほかに、超硬チップの厚みtと長さH(摩耗限界長さh1、根入れ長さh2)、幅B、にげ角θ2およびすくい角θ1などがある。
【0062】
カッタービットの強度に関して言えば、実際に地山等を直接切削する超硬チップ自体の強度と、この超硬チップと母材のロウ付け面における接合強度のうちの低い方の強度で決定することができる。
【0063】
ここで、図4には、本発明者等によるカッタービットを構成する超硬チップとロウ付け面における破断までの繰り返し引張り試験の結果を示したグラフである。
【0064】
同図で示す結果は一般論として解釈できるものであるが、超硬チップの疲労限(その応力値以下になると繰り返し載荷を何回行っても破壊しない応力値)はロウ付け箇所の疲労限に比して2倍以上(より詳細には2.5倍以上)となっており、したがって、カッタービットの強度はロウ付け箇所の疲労限で律則される。
【0065】
一方、このロウ付け箇所のロウ付け面積は、図5で模擬するように、その全面積Saがロウ付けされているわけでなく、ロウ付け面に空隙が存在し(空隙面積Sv)、したがって、有効ロウ付け面積Srは、Sa−Svで求められ、上記するロウ付け箇所の疲労限も、全ロウ付け面積Saに対する有効ロウ付け面積Srの比α(=Sr/Sa)を乗じて低減するのがロウ付け面における空隙を考慮した安全サイドの強度評価となる。
【0066】
このロウ付け面における有効ロウ付け面積の特定方法として、次の2つの方法を挙げることができる。
【0067】
その一つの方法は、ロウ付け面を削り出して空隙面積を特定し、全ロウ付け面積から空隙面積を差し引く方法であり、図6aは削り出しによるロウ付け面の写真図である。
【0068】
また、他の方法は、超音波探傷試験をおこない、かつ、探傷試験で得られる画像を二値化処理して二値化画像を求め、この二値化画像から空隙面積を特定し、全ロウ付け面積から空隙面積を差し引く方法である。
【0069】
図6bは、超音波探傷試験で得られる画像図であり、図6cは、図6bの画像図を二値化処理してなる二値化画像を示した図である。
【0070】
図6aと図6b、および図6bと図6cを比較すると明りょうとなるが、多数のカッタービットの中からサンプルとして1つもしくは複数を抜き出して実際にロウ付け面を削り出すまでもなく、非破壊の超音波探傷試験にてその探傷画像を求め、この画像に基づいて可及的に精緻な二値化画像を作成することで精度のよい有効ロウ付け面積の特定が可能となる。
【0071】
なお、図示する二値化画像を作成する際の二値化処理時の閾値は171であるが、これは探傷深さにも依存するものであり、たとえば探傷深さが20mmの場合には、閾値を150〜160程度の範囲内に設定するのがよいとの知見を本発明者等は得ている。
【0072】
カッタービットの強度をロウ付け箇所の疲労限と有効ロウ付け面積比αの積で決定したら、次に、対象地山の強度を決定する。
【0073】
ここで、対象地山は、複数用意されているのがカッタービットの再利用先の決定可能性を高めることから有効である。
【0074】
次に、実際に回収されたカッタービットに対して掘削時に作用する方向から静的荷重を載荷させる静的荷重載荷試験をおこない、この試験によって荷重−ひずみ関係を求め、求められた荷重−ひずみ関係を構造解析にてシミュレートし、この構造解析にて求められたロウ付け箇所の最大引張り応力が、上記するロウ付け箇所の疲労限と有効ロウ付け面積の比率の積と同程度となる場合の荷重強度をもって、このカッタービットが再利用可能な地盤強度の最大値とすることができる。なお、このカッタービットに作用する構造解析における荷重モデルを図7a,bに記載しており、図7aは、シールド掘進機の掘進方向でカッタービットに作用する荷重q1をモデル化しており、図7bは、シールド掘進機のカッターフェイスの回転方向でカッタービットに作用する荷重q2をモデル化している。
【0075】
上記するステップS2〜S4までが、本発明の健全度評価方法の第2のステップとなる。
【0076】
再利用先の候補である地山が複数存在する場合は、地山ごとに上記方法でその強度を特定し、ロウ付け箇所の疲労限と有効ロウ付け面積比の積からの評価指標が地山強度以上となる地山をその再利用先に決定する(ステップS5)。
【0077】
なお、再利用先の決定方法は上記方法以外にも、使用済み超硬チップの現状の長さと幅、厚さ、逃げ角やすくい角に関する計測データを使用して、これらの計測データが、再利用先のシールド工法における施工条件(シールド掘進機の掘削距離、カッターフェイスの回転速度、カッターフェイスの外径など)で決定される超硬チップの必要量、幅、厚さ、逃げ角やすくい角等を満足した場合に、この地山をカッタービットの再利用先に決定する方法もある。
【0078】
上記する本発明の使用済みカッタービットの健全度評価方法によれば、従来はスクラップ処理されていた使用済みのカッタービットを、その強度を適正に評価した上で、その再利用が可能な地山を選定し、新たな地山におけるシールド工事等でその再利用を図ることができる。したがって、カッタービットの製造時に使用されるレアメタル等の資源の有効利用と、それを原材料に戻した後に別途の製品を製造する際に発生し得る二酸化炭素の抑制による環境影響負荷低減を図ることができる。
【0079】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0080】
1…カッタービット、2…超硬チップ、3…母材、10…カッターフェイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘進機もしくは掘削機に装備された使用済みのカッタービットを回収する第1のステップと、
回収されたカッタービットの健全度を評価する第2のステップと、
健全度の評価結果に応じて被評価対象のカッタービットの再利用先を選定する第3のステップと、からなり、
第2のステップでは、カッタービットを構成する母材と、母材の先端にロウ付けにて装着された超硬チップを分離することなく再利用が可能か否かが判断され、再利用が可能と判断されたカッタービットに対して、ロウ付け面における空隙箇所を除いた有効ロウ付け面積と、ロウ付け箇所における疲労限と、を特定してカッタービットの健全度を評価し、
前記第3のステップでは、健全度が評価されたカッタービットのうち、少なくとも前記有効ロウ付け面積とロウ付け箇所の前記疲労限からなる評価指標が地山を掘削するのに必要な強度を満足する場合に、この地山をカッタービットの再利用先として選定する、使用済みカッタービットの健全度評価方法。
【請求項2】
前記第2のステップにおいて、以下の2つの方法のいずれか一種を実施して有効ロウ付け面積を特定する、
(1)ロウ付け面を削り出して空隙面積を特定し、全ロウ付け面積から空隙面積を差し引く方法、
(2)超音波探傷試験をおこない、かつ、探傷試験で得られる画像を二値化処理して二値化画像を求め、この二値化画像から空隙面積を特定し、全ロウ付け面積から空隙面積を差し引く方法、
請求項1に記載の使用済みカッタービットの健全度評価方法。
【請求項3】
前記第3のステップにおいて、前記評価指標が、全ロウ付け面積に対する前記有効ロウ付け面積の比率をロウ付け箇所の前記疲労限に乗じた値から設定される、請求項1または2に記載の使用済みカッタービットの健全度評価方法。
【請求項4】
前記第3のステップにおいて、前記評価指標には、有効ロウ付け面積と疲労限のほかに、使用済み超硬チップの厚みと長さ、幅、にげ角およびすくい角と、再利用先で想定される掘削距離、カッタービットが装備される機器の回転速度、該機器の外径のいずれか一種もしくは複数がさらに含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の使用済みカッタービットの健全度評価方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−246952(P2011−246952A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120782(P2010−120782)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【出願人】(594086152)株式会社丸和技研 (13)
【Fターム(参考)】