使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法
【課題】使用済みの発電セルから固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収する。
【解決手段】使用済み固体酸化物形燃料電池セルを所定の粒径で最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕し、この微粉末と水とを混合して所定のパルプ濃度のスラリーを作製し、このスラリーに酸を加えて所定のpHに調整する。このスラリーに所定の濃度の捕収剤を添加し、このスラリーを起泡させて金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの金属微粒子を沈殿させ、この沈殿させた金属微粒子をろ過して沈殿物を得る。この沈殿物を硝酸で処理して所定の金属を浸出させ、この処理液から浮遊固形分を除去し、この浮遊固形分が除去された処理液を固液分離して所定の金属を含む浸出残渣を得る。この浸出残渣を洗浄し乾燥して所定の金属を主成分とする固形物を得た後に、この固形物を微粉末に粉砕する。
【解決手段】使用済み固体酸化物形燃料電池セルを所定の粒径で最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕し、この微粉末と水とを混合して所定のパルプ濃度のスラリーを作製し、このスラリーに酸を加えて所定のpHに調整する。このスラリーに所定の濃度の捕収剤を添加し、このスラリーを起泡させて金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの金属微粒子を沈殿させ、この沈殿させた金属微粒子をろ過して沈殿物を得る。この沈殿物を硝酸で処理して所定の金属を浸出させ、この処理液から浮遊固形分を除去し、この浮遊固形分が除去された処理液を固液分離して所定の金属を含む浸出残渣を得る。この浸出残渣を洗浄し乾燥して所定の金属を主成分とする固形物を得た後に、この固形物を微粉末に粉砕する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の廃棄材料に含まれる金属を回収する方法に関する。更に詳しくは、使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルから金属を効率よく回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、使用済みの発電セルを微粉末に粉砕し(第1工程)、この微粉末と水とを混合してパルプ濃度10〜20質量%のスラリーを作製し(第2工程)、このスラリーに酸を加えてpH2〜4に調整し(第3工程)、このpHを調整したスラリーに濃度1〜2.2×10-4mol/リットルの捕収剤を添加し(第4工程)、このスラリーを起泡させて第1金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの第2金属微粒子を沈殿させ(第5工程)、この沈殿させた第2金属微粒子をろ過して沈殿物を得た後に(第6工程)、この沈殿物を洗浄し乾燥してLa,Sr,Ga,Mg,Coを主成分とする固形物を作製し(第7工程)、更にこの固形物を微粉末に粉砕する(第8工程)、固体酸化物燃料電池の発電セルから金属を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この金属の回収方法では、第6工程と第7工程の間に、第6工程で得られた沈殿物を硝酸で処理してSm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる第16工程と、この処理液を固液分離することによりLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得る第17工程とを更に含む。
【0003】
第6工程の次に第16工程を経ることにより、第6工程でろ過して得られた第2金属微粒子の沈殿物から、第5工程の浮遊選鉱で分別しきれなかったSm,Sr,Co及びNiを除去できる。また第16工程の次に第17工程を経ることにより、第16工程の処理液からLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得ることができる。この結果、第6工程と第7工程の間に、第16工程及び第17工程を経ることにより、固体電解質層の原料となる金属を、第16工程及び第17工程を経ない場合より高い電解質品位で回収できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−144219号公報(請求項1及び5、段落[0039]〜段落[0041]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の特許文献1に示された金属の回収方法では、固体電解質層の原料として用いられる回収金属の電解質品位が未だ低い、即ち固体電解質層を構成する回収金属の純度が未だ低いという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、使用済みの固体酸化物形燃料電池の発電セルから固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収することができる、使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、Sm,Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni,Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La,Sr,Ga,Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法において、上記使用済みの発電セルを粉砕して粒径70〜150μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末を作製する第1工程と、この第1工程の微粉末と水とを混合してパルプ濃度が10〜20質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、この第2工程で作製したスラリーに酸を添加して上記スラリーをpH2〜4の範囲に調整する第3工程と、この第3工程でpH調整したスラリーに濃度1.0〜2.2×10-4mol/リットルの捕収剤を添加する第4工程と、この第4工程の捕収剤を添加したスラリーを起泡させて金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの金属微粒子を沈殿させる第5工程と、この第5工程で沈殿させた金属微粒子をろ過して沈殿物を得る第6工程と、この第6工程で得られた沈殿物を硝酸で処理してSm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる第7工程と、この第7工程の処理液から浮遊固形分を除去する第8工程と、この第8工程で浮遊固形分が除去された処理液を固液分離することによりLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得る第9工程と、この第9工程で得られた浸出残渣を洗浄し乾燥してLa,Sr,Ga,Mg及びCoを主成分とする固形物を得る第10工程と、この第10工程で得られた固形物を微粉末に粉砕する第11工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の観点の方法では、使用済みの固体酸化物形燃料電池の発電セルを、粒径70〜150μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕し、この微粉末と水とを混合して作製されたスラリーに酸を加えた後に捕収剤を添加し、このスラリーを起泡させて金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの金属微粒子を沈殿させ、この沈殿させた金属微粒子をろ過して得られた沈殿物を硝酸で処理して所定の金属を浸出させ、この処理液から固体酸化物層にとって不純物となる浮遊固形分を除去し更に固液分離して所定の金属を含む浸出残渣を得た後に、この浸出残渣を洗浄し乾燥して得られた所定の金属を主成分とする固形物を微粉末に粉砕したので、使用済みの固体酸化物形燃料電池の発電セルから固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明実施形態の使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルから金属を回収する方法を示す工程図である。
【図2】実施例1と比較例1及び2の微粉末の粒度分布をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。固体酸化物形燃料電池は、一般に、空気極層と燃料極層の間に固体電解質層が配された積層構造を有する発電セルと、この発電セルの空気極層の外側に積層させた空気極集電体と、発電セルの燃料極の外側に積層させた燃料極集電体と、空気極集電体の外側に積層された空気極集電体側セパレータと、燃料極集電体の外側に積層された燃料極側セパレータとを備える。
【0011】
発電セルの固体電解質層に使用される材料は、酸化物イオン伝導体であり、例えば、一般式:La1-XSrXGa1-Y-ZMgYAZO3(式中、AはCo,Fe,Ni及びCuからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素、X=0.05〜0.3、Y=0〜0.29、Z=0.01〜0.3、Y+Z=0.025〜0.3)で表されるランタンガレート系酸化物イオン伝導体などが使用される。また発電セルの燃料極層は、例えば、一般式:Ce1-mBmO2(式中、BはSm,La,Gd,Y及びCaからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素、mは0<m≦0.4)で表されるB(但し、BはSm,La,Gd,Y及びCaからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素を示す。以下、同じ)ドープされたセリア粒とニッケル粒とで構成された多孔質焼結体からなることが知られている。更に空気極は、(Sm,Sr)CoO3や、(La,Sr)MnO3などのセラミックスで構成されている。
【0012】
本発明は、Sm,Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni,Ce及びSmの元素を含む燃料極層との間に、La,Sr,Ga,Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルから金属を回収する方法である。具体的には、例えば、空気極層が(Sm0.5Sr0.5)CoO3のセラミックスにより構成され、燃料極層がCe0.8Sm0.2O2とニッケル粒とで構成された多孔質焼結体により構成され、固体電解質層がLa0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.05O3のランタンガレート系酸化物イオン伝導体により構成された発電セルなどから金属を回収する方法である。
【0013】
本発明の実施の形態では、図1に示すように、次の第1工程1〜第11工程11を経ることにより、上記使用済みの発電セルのうち固体電解質層を構成する金属(固体電解質層の原料となる金属)を高い純度で回収することができる。第1工程1では、使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルを粉砕し、粒径が10〜200μm、好ましくは40〜70μmの範囲内であって、しかも粒径70〜150μm、好ましくは100〜130μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末を作製する。粉砕には衝撃作用による粉砕能力に優れ、摩砕作用により単体分離性が向上し、細かく粉砕し過ぎない等の理由から、複数の金属球を用いた振動ボールミルではなく、タングステンカーバイドセルなどを用いた振動型ディスクミルにて粉砕することが好適である。また粉砕後の微粉末の平均粒径を10〜200μmの範囲内に限定したのは、下限値未満では後述の第5工程5における浮遊選鉱の速度が遅くなり効率が低下してしまい、上限値を越えると粒子が重くなり過ぎ、第5工程5で浮遊すべき金属微粒子の浮揚が困難になるからである。更に粉砕後の微粉末の粒度分布において最大ピークとなる粒径を70〜150μmの範囲内に限定したのは、下限値未満では浮遊選鉱の速度が遅くなり、捕収剤の消費量が増加したり、ろ過性が悪化するなどの不具合があり、上限値を越えると粒子が重くなり過ぎ、第5工程5で浮遊すべき金属微粒子の浮揚が困難になるからである。なお、微粉末の平均粒径及び粒度分布は、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製のFRA9220)を用いて測定した。また、微粉末の平均粒径としては、上記分析計で測定されたメディアン径を用いた。更に、微粉末の最大ピークとなる粒度分布の粒径としては、上記分析計で測定されたモード径(最頻粒子径)を用いた。
【0014】
第2工程2では、第1工程1で粉砕した微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が10〜20質量%の範囲内、好ましくは12.5質量%となるようにスラリーを作製する。パルプ濃度を10〜20質量%の範囲内に限定したのは、下限値未満では回収率が低下し、上限値を越えると電解質品位が低下するからである。
【0015】
第3工程3では、第2工程2で作製したスラリーに酸を添加して、スラリーをpH2〜4の範囲内、好ましくはpH3に調整する。スラリーのpHを2〜4の範囲内に限定したのは、スラリーのpHが上記範囲から外れると、電解質品位が低下するからである。またpH調整に使用する酸は、緩衝作用によりpH調整が容易であるという理由から、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸を使用することが好ましく、また粒子表面を清浄に保つという理由から、硝酸や硫酸などを使用することが好ましい。
【0016】
第4工程4では、第3工程3でpH調整したスラリーに濃度1.0〜2.2×10-4mol/リットル、好ましくは1.2〜2.0mol/リットルの捕収剤を添加する。捕収剤の濃度を1.0〜2.2×10-4mol/リットルの範囲内に限定したのは、下限値未満では電解質品位が低下し、上限値を越えると回収率が低下するからである。捕収剤には、空気極層と燃料極層に対する捕収効果が認められるという理由により、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムなどが好ましい。
【0017】
第5工程5では、第4工程4で捕収剤を添加したスラリーに、必要に応じ起泡剤として少量のメチルイソブチルカービノールやパイン油を添加し、浮遊選鉱法により、浮遊する金属微粒子と、沈殿する金属微粒子とに分離する。浮遊選鉱は、その選別原理により多油浮選法、水面浮選法、及び泡沫浮選法の3者に分類されるが、本発明では、これらのうちの泡沫浮遊選鉱法により選鉱を行う。泡沫浮遊選鉱法とは、微粉末原鉱と水の混合物に、少量の起泡剤、捕収剤などを加えて、機械的に気泡を導入し、その気泡に特定の鉱物微粒子を付着させ、空気の浮力で表面に鉱物微粒子を浮揚させて選鉱する方法である。本発明の第5工程5では、この泡沫浮遊選鉱法により、気泡に付着して浮揚し浮遊する金属微粒子と、気泡に付着せずに沈降して沈殿する金属微粒子とに分離する。気泡に付着して浮揚し浮遊する金属微粒子は、主に空気極層に含まれるSm、Sr及びCoを含む金属微粒子と、燃料極層に含まれるNi、Ce及びCoを含む金属微粒子である。一方、気泡に付着せずに沈降して沈殿する金属微粒子は、主に固体電解質層に含まれるLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属微粒子である。このように、主に固体電解質層の金属微粒子が沈殿する技術的理由は、空気極層、燃料極層に比べて捕収剤による疎水性被膜形成の作用が小さいためであると推察される。
【0018】
第6工程6では、第5工程5で沈殿させた金属微粒子をろ過し、この金属微粒子の沈殿物を得る。
【0019】
第7工程7では、第6工程6で得られた金属微粒子の沈殿物を、濃度0.8〜4mol/リットル、好ましくは1.5〜2mol/リットルの硝酸で処理して、Sm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる。第6工程6でろ過して得られた金属微粒子の沈殿物は、この第7工程7を経ることにより、第5工程5の浮遊選鉱で分別しきれなかったSm,Sr,Co及びNiを除去できるため、高い電解質品位で固体電解質層の金属を回収できる。硝酸の濃度を0.8〜4mol/リットルの範囲内に限定したのは、下限値未満では空気極層や燃料極層の一部が浸出し難く、上限値を越えると燃料極層に含まれるNiが酸化被膜を形成して浸出し難くなるからである。また、硝酸で処理する際の温度は、10〜40℃、好ましくは15〜30℃に設定される。硝酸で処理する際の温度が10〜40℃の範囲内であれば、空気極層、燃料極層を選択的に浸出させる点において好適であり、下限値未満では浸出速度が低下し、上限値を越えると固体電解質層が浸出してしまい、好ましくない。更に、第6工程で得られた金属微粒子の沈殿物を硝酸で処理すると、浮揚して浮遊する僅かな固形分が発生する。この浮遊固形分が発生するのは次の理由によるものと考えられる。第6工程で得られた金属微粒子の沈殿物を硝酸で処理すると、多孔質の燃料極層を構成する成分のうちニッケル粒は溶けるけれども、Ce0.8Sm0.2O2はあまり溶けない。また燃料極層中のニッケル粒は固体電解質とCe0.8Sm0.2O2との接着剤の役割を果たしている。このニッケル粒が溶け出すと、Ce0.8Sm0.2O2を多く含む固形分が気泡を取込んだ状態で浮揚し、浮遊固形分となる。このCe0.8Sm0.2O2を多く含む固形分は固体電解質層にとって不純物であるため、Ce0.8Sm0.2O2を多く含む固形分を除去することは、固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収するためには好ましい。
【0020】
第8工程8では、第7工程7の処理液から固体電解質層にとって不純物となる浮遊固形分を除去する。この浮遊固形分を除去する方法としては、網やヘラを用いて浮遊固形分をすくい取る方法や、処理液を浮遊固形分とともにオーバーフローさせる方法などが挙げられる。この浮遊固形分は、固体電解質層にとっては不純物であるけれども、空気極層や燃料極層等の他の部材の原料として活用できる。
【0021】
第9工程9では、第8工程8の浮遊固形分が除去された処理液を、例えば、ろ過のような方法で固液分離することにより、La,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得る。
【0022】
第10工程10では、第9工程9で得られた浸出残渣を洗浄した後、乾燥させて、La,Sr,Ga,Mg及びCoを主成分とする固形物を得る。洗浄及び乾燥は、特に限定されるものではないが、水、エタノール又はイソプロパノールで洗浄することが好ましく、乾燥は熱風乾燥にて、120〜150℃の温度で乾燥することが好ましい。
【0023】
第11工程11では、第10工程10で得られた固形物を、平均粒径が0.5〜10μmの範囲内、好ましくは1.3μmである微粉末に粉砕する。平均粒径が0.5〜10μmの範囲内にある微粉末は、固体電解質の緻密体を作製する点において好適だからである。また粉砕には、粒径分布の狭い粒子が安定して得られ、過度の粉砕を防いで粒度調整が容易である等の理由から、複数のセラミック球を用いた回転ボールミルにて粉砕することが好適である。
【0024】
以上、本発明の実施の形態における第1工程1〜第11工程11を経ることにより、特に第1工程1において粒径70〜150μm、好ましくは100〜130μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕し、第8工程8において処理液から固体電解質層にとって不純物となる浮遊固形分を除去することにより、使用済みの固体酸化物形燃料電池の発電セルから、固体電解質層を構成する金属、即ち固体電解質層の原料となる金属を高い純度で回収することができる。
【0025】
なお、以下の第12工程12〜第28工程28を経ることにより、第5工程5で浮遊した金属微粒子から、使用済みの発電セルの電解質層に含まれる金属を回収できる。第12工程12では、上記第5工程15で浮遊選鉱法により泡に付着して浮揚し浮遊する金属微粒子を、濃度0.8〜4mol/リットルの硝酸で処理して、Sm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる。この泡に付着して浮揚し浮遊する金属微粒子は、主に燃料極層及び空気極層の原料である金属が含まれるけれども、第5工程5で沈殿しきれなかった固体電解質層の原料である金属も多く含まれるため、固体電解質層の原料である金属も回収できる。また硝酸で処理する際の温度は10〜40℃、好ましくは15〜25℃である。
【0026】
第13工程13では、第12工程12の処理液を、例えば、ろ過のような方法で固液分離することによりLa,Sr,Ga,Mg,Co及びCeを含む浸出残渣を得る。第14工程14では、第13工程13で得られた浸出残渣を濃度5〜12mol/リットルの塩酸で浸出処理してLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む金属を浸出させる。また塩酸で処理する際の温度は60〜80℃に設定される。第15工程15では、第14工程14の処理液をろ過することによりLa,Sr,Ga,Mg及びCoを主として含有するろ液を得る。
【0027】
第16工程16では、第15工程15で得られたろ液にアルカリを加えた後、炭酸塩を加えて沈殿を析出させる。アルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが挙げられる。アルカリを加えた後のpHとしては8〜12が好ましい。第17工程17では、第16工程16で生成した沈殿を、例えば、ろ過のような固液分離を行った後、洗浄してLa,Sr,Ga及びMgの酸化物と、Srの炭酸塩を得る。第18工程18では、第17工程17で得られた酸化物と炭酸塩を焼成し、ランタンガレート系酸化物とした後、平均粒径が0.5〜10μmの範囲内、好ましくは1.3μmである微粉末に粉砕する。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0029】
<実施例1>
図1に示すように、先ず使用済みの発電セルを、タングステンカーバイドセルなどを用いた振動型ディスクミルで、平均粒径が47μmである微粉末であって、しかも粒径105μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕した後(第1工程1)、蒸留水700ミリリットルに、この微粉末100gを入れ、パルプ濃度が12.5質量%になるようにスラリーを作製した(第2工程2)。このスラリーに酒石酸を添加してpHを3に調整し(第3工程3)、捕収剤の濃度が1.85×10-4mol/リットルとなるように、捕収剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを所定量添加した(第4工程4)。次いでこのスラリーを浮選機(太田機械製作所製:ファーレンワルド浮選試験機)にて起泡させることにより、泡に付着させて浮揚し浮遊する金属微粒子と、沈降して沈殿する金属微粒子とに分離した(浮遊選鉱法:第5工程5)。このときの撹拌機の回転速度を1300〜1400rpmとし、エアの送量を400〜600ミリリットル/分とした。次に沈殿させた金属微粒子をろ過により回収した後(第6工程6)、この沈殿物を濃度2mol/リットルの硝酸600ミリリットルに入れて、室温で2時間浸出処理を行った(第7工程7)。この浸出処理で処理液に発生した浮遊固形分をヘラで取り除いた後(第8工程8)、処理液を固液分離して浸出残渣を得た(第9工程9)。更にこの浸出残渣を水で洗浄し乾燥させた後に(第10工程10)、回転ボールミルで粉砕して平均粒径1.3μmの固体電解質層を構成する金属となる微粉末を得た(第11工程11)。
【0030】
<比較例1>
第1工程において、使用済みの発電セルを、タングステンカーバイドセルなどを用いた振動型ディスクミルで、平均粒径が37μmである微粉末であって、しかも粒径60μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕したこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層を構成する金属となる微粉末を得た。
【0031】
<比較例2>
浸出処理で処理液に発生した浮遊固形分をヘラで取り除くという第8工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層を構成する金属となる微粉末を得た。
【0032】
<比較試験1及び評価>
実施例1と比較例1及び2の第1工程で作製された微粉末の平均粒径及び粒度分布を、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製のFRA9220)を用いて測定した。その結果を表1及び図2に示す。
【0033】
また、実施例1と比較例1及び2で得られた微粉末0.2gを王水で溶解した後、蒸発・乾固し、希塩酸で再溶解して不溶分を除去し、更にICP分析装置(ジャーレルアッシュ社製:ICAP−88)で電解質品位を測定した。その結果を、第8工程(浮遊固形分の除去)の有無とともに、表1に示す。
【0034】
【表1】
表1から明らかなように、第1工程で作製された微粉末の粒度分布における最大ピーク時の粒径が60μmと小さい比較例1では、電解質品位が98.5%と低く、また第8工程で浮遊固形分を除去しなかった比較例2では、電解質品位が98.0%と低かったのに対し、第1工程で作製された微粉末の粒度分布における最大ピーク時の粒径が100μmと比較的大きく、しかも第8工程で浮遊固形分を除去した実施例1では、電解質品位が99.3%と高くなった。これらのことから、第1工程で作製された微粉末の粒度分布における最大ピーク時の粒径が70〜150μmの範囲内に入っており、また第8工程で固体電解質層にとって不純物となる浮遊固形分を除去することが、使用済みの発電セルから固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収するために効果的であることが確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の廃棄材料に含まれる金属を回収する方法に関する。更に詳しくは、使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルから金属を効率よく回収する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、使用済みの発電セルを微粉末に粉砕し(第1工程)、この微粉末と水とを混合してパルプ濃度10〜20質量%のスラリーを作製し(第2工程)、このスラリーに酸を加えてpH2〜4に調整し(第3工程)、このpHを調整したスラリーに濃度1〜2.2×10-4mol/リットルの捕収剤を添加し(第4工程)、このスラリーを起泡させて第1金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの第2金属微粒子を沈殿させ(第5工程)、この沈殿させた第2金属微粒子をろ過して沈殿物を得た後に(第6工程)、この沈殿物を洗浄し乾燥してLa,Sr,Ga,Mg,Coを主成分とする固形物を作製し(第7工程)、更にこの固形物を微粉末に粉砕する(第8工程)、固体酸化物燃料電池の発電セルから金属を回収する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この金属の回収方法では、第6工程と第7工程の間に、第6工程で得られた沈殿物を硝酸で処理してSm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる第16工程と、この処理液を固液分離することによりLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得る第17工程とを更に含む。
【0003】
第6工程の次に第16工程を経ることにより、第6工程でろ過して得られた第2金属微粒子の沈殿物から、第5工程の浮遊選鉱で分別しきれなかったSm,Sr,Co及びNiを除去できる。また第16工程の次に第17工程を経ることにより、第16工程の処理液からLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得ることができる。この結果、第6工程と第7工程の間に、第16工程及び第17工程を経ることにより、固体電解質層の原料となる金属を、第16工程及び第17工程を経ない場合より高い電解質品位で回収できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−144219号公報(請求項1及び5、段落[0039]〜段落[0041]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の特許文献1に示された金属の回収方法では、固体電解質層の原料として用いられる回収金属の電解質品位が未だ低い、即ち固体電解質層を構成する回収金属の純度が未だ低いという問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、使用済みの固体酸化物形燃料電池の発電セルから固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収することができる、使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、Sm,Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni,Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La,Sr,Ga,Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法において、上記使用済みの発電セルを粉砕して粒径70〜150μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末を作製する第1工程と、この第1工程の微粉末と水とを混合してパルプ濃度が10〜20質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、この第2工程で作製したスラリーに酸を添加して上記スラリーをpH2〜4の範囲に調整する第3工程と、この第3工程でpH調整したスラリーに濃度1.0〜2.2×10-4mol/リットルの捕収剤を添加する第4工程と、この第4工程の捕収剤を添加したスラリーを起泡させて金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの金属微粒子を沈殿させる第5工程と、この第5工程で沈殿させた金属微粒子をろ過して沈殿物を得る第6工程と、この第6工程で得られた沈殿物を硝酸で処理してSm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる第7工程と、この第7工程の処理液から浮遊固形分を除去する第8工程と、この第8工程で浮遊固形分が除去された処理液を固液分離することによりLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得る第9工程と、この第9工程で得られた浸出残渣を洗浄し乾燥してLa,Sr,Ga,Mg及びCoを主成分とする固形物を得る第10工程と、この第10工程で得られた固形物を微粉末に粉砕する第11工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の第1の観点の方法では、使用済みの固体酸化物形燃料電池の発電セルを、粒径70〜150μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕し、この微粉末と水とを混合して作製されたスラリーに酸を加えた後に捕収剤を添加し、このスラリーを起泡させて金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの金属微粒子を沈殿させ、この沈殿させた金属微粒子をろ過して得られた沈殿物を硝酸で処理して所定の金属を浸出させ、この処理液から固体酸化物層にとって不純物となる浮遊固形分を除去し更に固液分離して所定の金属を含む浸出残渣を得た後に、この浸出残渣を洗浄し乾燥して得られた所定の金属を主成分とする固形物を微粉末に粉砕したので、使用済みの固体酸化物形燃料電池の発電セルから固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明実施形態の使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルから金属を回収する方法を示す工程図である。
【図2】実施例1と比較例1及び2の微粉末の粒度分布をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。固体酸化物形燃料電池は、一般に、空気極層と燃料極層の間に固体電解質層が配された積層構造を有する発電セルと、この発電セルの空気極層の外側に積層させた空気極集電体と、発電セルの燃料極の外側に積層させた燃料極集電体と、空気極集電体の外側に積層された空気極集電体側セパレータと、燃料極集電体の外側に積層された燃料極側セパレータとを備える。
【0011】
発電セルの固体電解質層に使用される材料は、酸化物イオン伝導体であり、例えば、一般式:La1-XSrXGa1-Y-ZMgYAZO3(式中、AはCo,Fe,Ni及びCuからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素、X=0.05〜0.3、Y=0〜0.29、Z=0.01〜0.3、Y+Z=0.025〜0.3)で表されるランタンガレート系酸化物イオン伝導体などが使用される。また発電セルの燃料極層は、例えば、一般式:Ce1-mBmO2(式中、BはSm,La,Gd,Y及びCaからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素、mは0<m≦0.4)で表されるB(但し、BはSm,La,Gd,Y及びCaからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素を示す。以下、同じ)ドープされたセリア粒とニッケル粒とで構成された多孔質焼結体からなることが知られている。更に空気極は、(Sm,Sr)CoO3や、(La,Sr)MnO3などのセラミックスで構成されている。
【0012】
本発明は、Sm,Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni,Ce及びSmの元素を含む燃料極層との間に、La,Sr,Ga,Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルから金属を回収する方法である。具体的には、例えば、空気極層が(Sm0.5Sr0.5)CoO3のセラミックスにより構成され、燃料極層がCe0.8Sm0.2O2とニッケル粒とで構成された多孔質焼結体により構成され、固体電解質層がLa0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.15Co0.05O3のランタンガレート系酸化物イオン伝導体により構成された発電セルなどから金属を回収する方法である。
【0013】
本発明の実施の形態では、図1に示すように、次の第1工程1〜第11工程11を経ることにより、上記使用済みの発電セルのうち固体電解質層を構成する金属(固体電解質層の原料となる金属)を高い純度で回収することができる。第1工程1では、使用済み固体酸化物形燃料電池の発電セルを粉砕し、粒径が10〜200μm、好ましくは40〜70μmの範囲内であって、しかも粒径70〜150μm、好ましくは100〜130μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末を作製する。粉砕には衝撃作用による粉砕能力に優れ、摩砕作用により単体分離性が向上し、細かく粉砕し過ぎない等の理由から、複数の金属球を用いた振動ボールミルではなく、タングステンカーバイドセルなどを用いた振動型ディスクミルにて粉砕することが好適である。また粉砕後の微粉末の平均粒径を10〜200μmの範囲内に限定したのは、下限値未満では後述の第5工程5における浮遊選鉱の速度が遅くなり効率が低下してしまい、上限値を越えると粒子が重くなり過ぎ、第5工程5で浮遊すべき金属微粒子の浮揚が困難になるからである。更に粉砕後の微粉末の粒度分布において最大ピークとなる粒径を70〜150μmの範囲内に限定したのは、下限値未満では浮遊選鉱の速度が遅くなり、捕収剤の消費量が増加したり、ろ過性が悪化するなどの不具合があり、上限値を越えると粒子が重くなり過ぎ、第5工程5で浮遊すべき金属微粒子の浮揚が困難になるからである。なお、微粉末の平均粒径及び粒度分布は、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製のFRA9220)を用いて測定した。また、微粉末の平均粒径としては、上記分析計で測定されたメディアン径を用いた。更に、微粉末の最大ピークとなる粒度分布の粒径としては、上記分析計で測定されたモード径(最頻粒子径)を用いた。
【0014】
第2工程2では、第1工程1で粉砕した微粉末と水とを混合し、パルプ濃度が10〜20質量%の範囲内、好ましくは12.5質量%となるようにスラリーを作製する。パルプ濃度を10〜20質量%の範囲内に限定したのは、下限値未満では回収率が低下し、上限値を越えると電解質品位が低下するからである。
【0015】
第3工程3では、第2工程2で作製したスラリーに酸を添加して、スラリーをpH2〜4の範囲内、好ましくはpH3に調整する。スラリーのpHを2〜4の範囲内に限定したのは、スラリーのpHが上記範囲から外れると、電解質品位が低下するからである。またpH調整に使用する酸は、緩衝作用によりpH調整が容易であるという理由から、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸を使用することが好ましく、また粒子表面を清浄に保つという理由から、硝酸や硫酸などを使用することが好ましい。
【0016】
第4工程4では、第3工程3でpH調整したスラリーに濃度1.0〜2.2×10-4mol/リットル、好ましくは1.2〜2.0mol/リットルの捕収剤を添加する。捕収剤の濃度を1.0〜2.2×10-4mol/リットルの範囲内に限定したのは、下限値未満では電解質品位が低下し、上限値を越えると回収率が低下するからである。捕収剤には、空気極層と燃料極層に対する捕収効果が認められるという理由により、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルスルホン酸ナトリウム又はオレイン酸ナトリウムなどが好ましい。
【0017】
第5工程5では、第4工程4で捕収剤を添加したスラリーに、必要に応じ起泡剤として少量のメチルイソブチルカービノールやパイン油を添加し、浮遊選鉱法により、浮遊する金属微粒子と、沈殿する金属微粒子とに分離する。浮遊選鉱は、その選別原理により多油浮選法、水面浮選法、及び泡沫浮選法の3者に分類されるが、本発明では、これらのうちの泡沫浮遊選鉱法により選鉱を行う。泡沫浮遊選鉱法とは、微粉末原鉱と水の混合物に、少量の起泡剤、捕収剤などを加えて、機械的に気泡を導入し、その気泡に特定の鉱物微粒子を付着させ、空気の浮力で表面に鉱物微粒子を浮揚させて選鉱する方法である。本発明の第5工程5では、この泡沫浮遊選鉱法により、気泡に付着して浮揚し浮遊する金属微粒子と、気泡に付着せずに沈降して沈殿する金属微粒子とに分離する。気泡に付着して浮揚し浮遊する金属微粒子は、主に空気極層に含まれるSm、Sr及びCoを含む金属微粒子と、燃料極層に含まれるNi、Ce及びCoを含む金属微粒子である。一方、気泡に付着せずに沈降して沈殿する金属微粒子は、主に固体電解質層に含まれるLa、Sr、Ga、Mg及びCoを含む金属微粒子である。このように、主に固体電解質層の金属微粒子が沈殿する技術的理由は、空気極層、燃料極層に比べて捕収剤による疎水性被膜形成の作用が小さいためであると推察される。
【0018】
第6工程6では、第5工程5で沈殿させた金属微粒子をろ過し、この金属微粒子の沈殿物を得る。
【0019】
第7工程7では、第6工程6で得られた金属微粒子の沈殿物を、濃度0.8〜4mol/リットル、好ましくは1.5〜2mol/リットルの硝酸で処理して、Sm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる。第6工程6でろ過して得られた金属微粒子の沈殿物は、この第7工程7を経ることにより、第5工程5の浮遊選鉱で分別しきれなかったSm,Sr,Co及びNiを除去できるため、高い電解質品位で固体電解質層の金属を回収できる。硝酸の濃度を0.8〜4mol/リットルの範囲内に限定したのは、下限値未満では空気極層や燃料極層の一部が浸出し難く、上限値を越えると燃料極層に含まれるNiが酸化被膜を形成して浸出し難くなるからである。また、硝酸で処理する際の温度は、10〜40℃、好ましくは15〜30℃に設定される。硝酸で処理する際の温度が10〜40℃の範囲内であれば、空気極層、燃料極層を選択的に浸出させる点において好適であり、下限値未満では浸出速度が低下し、上限値を越えると固体電解質層が浸出してしまい、好ましくない。更に、第6工程で得られた金属微粒子の沈殿物を硝酸で処理すると、浮揚して浮遊する僅かな固形分が発生する。この浮遊固形分が発生するのは次の理由によるものと考えられる。第6工程で得られた金属微粒子の沈殿物を硝酸で処理すると、多孔質の燃料極層を構成する成分のうちニッケル粒は溶けるけれども、Ce0.8Sm0.2O2はあまり溶けない。また燃料極層中のニッケル粒は固体電解質とCe0.8Sm0.2O2との接着剤の役割を果たしている。このニッケル粒が溶け出すと、Ce0.8Sm0.2O2を多く含む固形分が気泡を取込んだ状態で浮揚し、浮遊固形分となる。このCe0.8Sm0.2O2を多く含む固形分は固体電解質層にとって不純物であるため、Ce0.8Sm0.2O2を多く含む固形分を除去することは、固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収するためには好ましい。
【0020】
第8工程8では、第7工程7の処理液から固体電解質層にとって不純物となる浮遊固形分を除去する。この浮遊固形分を除去する方法としては、網やヘラを用いて浮遊固形分をすくい取る方法や、処理液を浮遊固形分とともにオーバーフローさせる方法などが挙げられる。この浮遊固形分は、固体電解質層にとっては不純物であるけれども、空気極層や燃料極層等の他の部材の原料として活用できる。
【0021】
第9工程9では、第8工程8の浮遊固形分が除去された処理液を、例えば、ろ過のような方法で固液分離することにより、La,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得る。
【0022】
第10工程10では、第9工程9で得られた浸出残渣を洗浄した後、乾燥させて、La,Sr,Ga,Mg及びCoを主成分とする固形物を得る。洗浄及び乾燥は、特に限定されるものではないが、水、エタノール又はイソプロパノールで洗浄することが好ましく、乾燥は熱風乾燥にて、120〜150℃の温度で乾燥することが好ましい。
【0023】
第11工程11では、第10工程10で得られた固形物を、平均粒径が0.5〜10μmの範囲内、好ましくは1.3μmである微粉末に粉砕する。平均粒径が0.5〜10μmの範囲内にある微粉末は、固体電解質の緻密体を作製する点において好適だからである。また粉砕には、粒径分布の狭い粒子が安定して得られ、過度の粉砕を防いで粒度調整が容易である等の理由から、複数のセラミック球を用いた回転ボールミルにて粉砕することが好適である。
【0024】
以上、本発明の実施の形態における第1工程1〜第11工程11を経ることにより、特に第1工程1において粒径70〜150μm、好ましくは100〜130μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕し、第8工程8において処理液から固体電解質層にとって不純物となる浮遊固形分を除去することにより、使用済みの固体酸化物形燃料電池の発電セルから、固体電解質層を構成する金属、即ち固体電解質層の原料となる金属を高い純度で回収することができる。
【0025】
なお、以下の第12工程12〜第28工程28を経ることにより、第5工程5で浮遊した金属微粒子から、使用済みの発電セルの電解質層に含まれる金属を回収できる。第12工程12では、上記第5工程15で浮遊選鉱法により泡に付着して浮揚し浮遊する金属微粒子を、濃度0.8〜4mol/リットルの硝酸で処理して、Sm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる。この泡に付着して浮揚し浮遊する金属微粒子は、主に燃料極層及び空気極層の原料である金属が含まれるけれども、第5工程5で沈殿しきれなかった固体電解質層の原料である金属も多く含まれるため、固体電解質層の原料である金属も回収できる。また硝酸で処理する際の温度は10〜40℃、好ましくは15〜25℃である。
【0026】
第13工程13では、第12工程12の処理液を、例えば、ろ過のような方法で固液分離することによりLa,Sr,Ga,Mg,Co及びCeを含む浸出残渣を得る。第14工程14では、第13工程13で得られた浸出残渣を濃度5〜12mol/リットルの塩酸で浸出処理してLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む金属を浸出させる。また塩酸で処理する際の温度は60〜80℃に設定される。第15工程15では、第14工程14の処理液をろ過することによりLa,Sr,Ga,Mg及びCoを主として含有するろ液を得る。
【0027】
第16工程16では、第15工程15で得られたろ液にアルカリを加えた後、炭酸塩を加えて沈殿を析出させる。アルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが挙げられる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムが挙げられる。アルカリを加えた後のpHとしては8〜12が好ましい。第17工程17では、第16工程16で生成した沈殿を、例えば、ろ過のような固液分離を行った後、洗浄してLa,Sr,Ga及びMgの酸化物と、Srの炭酸塩を得る。第18工程18では、第17工程17で得られた酸化物と炭酸塩を焼成し、ランタンガレート系酸化物とした後、平均粒径が0.5〜10μmの範囲内、好ましくは1.3μmである微粉末に粉砕する。
【実施例】
【0028】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0029】
<実施例1>
図1に示すように、先ず使用済みの発電セルを、タングステンカーバイドセルなどを用いた振動型ディスクミルで、平均粒径が47μmである微粉末であって、しかも粒径105μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕した後(第1工程1)、蒸留水700ミリリットルに、この微粉末100gを入れ、パルプ濃度が12.5質量%になるようにスラリーを作製した(第2工程2)。このスラリーに酒石酸を添加してpHを3に調整し(第3工程3)、捕収剤の濃度が1.85×10-4mol/リットルとなるように、捕収剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを所定量添加した(第4工程4)。次いでこのスラリーを浮選機(太田機械製作所製:ファーレンワルド浮選試験機)にて起泡させることにより、泡に付着させて浮揚し浮遊する金属微粒子と、沈降して沈殿する金属微粒子とに分離した(浮遊選鉱法:第5工程5)。このときの撹拌機の回転速度を1300〜1400rpmとし、エアの送量を400〜600ミリリットル/分とした。次に沈殿させた金属微粒子をろ過により回収した後(第6工程6)、この沈殿物を濃度2mol/リットルの硝酸600ミリリットルに入れて、室温で2時間浸出処理を行った(第7工程7)。この浸出処理で処理液に発生した浮遊固形分をヘラで取り除いた後(第8工程8)、処理液を固液分離して浸出残渣を得た(第9工程9)。更にこの浸出残渣を水で洗浄し乾燥させた後に(第10工程10)、回転ボールミルで粉砕して平均粒径1.3μmの固体電解質層を構成する金属となる微粉末を得た(第11工程11)。
【0030】
<比較例1>
第1工程において、使用済みの発電セルを、タングステンカーバイドセルなどを用いた振動型ディスクミルで、平均粒径が37μmである微粉末であって、しかも粒径60μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末に粉砕したこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層を構成する金属となる微粉末を得た。
【0031】
<比較例2>
浸出処理で処理液に発生した浮遊固形分をヘラで取り除くという第8工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により固体電解質層を構成する金属となる微粉末を得た。
【0032】
<比較試験1及び評価>
実施例1と比較例1及び2の第1工程で作製された微粉末の平均粒径及び粒度分布を、マイクロトラック粒度分析計(日機装株式会社製のFRA9220)を用いて測定した。その結果を表1及び図2に示す。
【0033】
また、実施例1と比較例1及び2で得られた微粉末0.2gを王水で溶解した後、蒸発・乾固し、希塩酸で再溶解して不溶分を除去し、更にICP分析装置(ジャーレルアッシュ社製:ICAP−88)で電解質品位を測定した。その結果を、第8工程(浮遊固形分の除去)の有無とともに、表1に示す。
【0034】
【表1】
表1から明らかなように、第1工程で作製された微粉末の粒度分布における最大ピーク時の粒径が60μmと小さい比較例1では、電解質品位が98.5%と低く、また第8工程で浮遊固形分を除去しなかった比較例2では、電解質品位が98.0%と低かったのに対し、第1工程で作製された微粉末の粒度分布における最大ピーク時の粒径が100μmと比較的大きく、しかも第8工程で浮遊固形分を除去した実施例1では、電解質品位が99.3%と高くなった。これらのことから、第1工程で作製された微粉末の粒度分布における最大ピーク時の粒径が70〜150μmの範囲内に入っており、また第8工程で固体電解質層にとって不純物となる浮遊固形分を除去することが、使用済みの発電セルから固体電解質層を構成する金属を高い純度で回収するために効果的であることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm,Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni,Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La,Sr,Ga,Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法において、
前記発電セルを粉砕して粒径70〜150μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末を作製する第1工程と、
前記第1工程の微粉末と水とを混合してパルプ濃度が10〜20質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、
前記第2工程で作製したスラリーに酸を添加して前記スラリーをpH2〜4の範囲に調整する第3工程と、
前記第3工程でpH調整したスラリーに濃度1.0〜2.2×10-4mol/リットルの捕収剤を添加する第4工程と、
前記第4工程の捕収剤を添加したスラリーを起泡させて金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの金属微粒子を沈殿させる第5工程と、
前記第5工程で沈殿させた金属微粒子をろ過して沈殿物を得る第6工程と、
前記第6工程で得られた沈殿物を硝酸で処理してSm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる第7工程と、
前記第7工程の処理液から浮遊固形分を除去する第8工程と、
前記第8工程で浮遊固形分が除去された処理液を固液分離することによりLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得る第9工程と、
前記第9工程で得られた浸出残渣を洗浄し乾燥してLa,Sr,Ga,Mg及びCoを主成分とする固形物を得る第10工程と、
前記第10工程で得られた固形物を微粉末に粉砕する第11工程と
を含むことを特徴とする金属の回収方法。
【請求項1】
Sm,Sr及びCoの元素を含む空気極層と、Ni,Ce及びSmの元素を含む燃料極層の間に、La,Sr,Ga,Mg及びCoの元素を含む固体電解質層が配された積層構造を有する使用済み固体酸化物形燃料電池セルから金属を回収する方法において、
前記発電セルを粉砕して粒径70〜150μmで最大ピークとなる粒度分布を有する微粉末を作製する第1工程と、
前記第1工程の微粉末と水とを混合してパルプ濃度が10〜20質量%となるようにスラリーを作製する第2工程と、
前記第2工程で作製したスラリーに酸を添加して前記スラリーをpH2〜4の範囲に調整する第3工程と、
前記第3工程でpH調整したスラリーに濃度1.0〜2.2×10-4mol/リットルの捕収剤を添加する第4工程と、
前記第4工程の捕収剤を添加したスラリーを起泡させて金属微粒子を泡に付着させるとともに残りの金属微粒子を沈殿させる第5工程と、
前記第5工程で沈殿させた金属微粒子をろ過して沈殿物を得る第6工程と、
前記第6工程で得られた沈殿物を硝酸で処理してSm,Sr,Co及びNiを含む金属を浸出させる第7工程と、
前記第7工程の処理液から浮遊固形分を除去する第8工程と、
前記第8工程で浮遊固形分が除去された処理液を固液分離することによりLa,Sr,Ga,Mg及びCoを含む浸出残渣を得る第9工程と、
前記第9工程で得られた浸出残渣を洗浄し乾燥してLa,Sr,Ga,Mg及びCoを主成分とする固形物を得る第10工程と、
前記第10工程で得られた固形物を微粉末に粉砕する第11工程と
を含むことを特徴とする金属の回収方法。
【図1】
【図2】
【図2】
【公開番号】特開2012−178304(P2012−178304A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41338(P2011−41338)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)
【Fターム(参考)】
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