説明

使用済み核燃料の再処理溶液のマイクロ波加熱方法

【課題】核燃料の再処理溶液を、加熱ムラを発生させることなく、効率的に加熱粉体化できる方法を提供すること。
【解決手段】円筒型マイクロ波オーブンを用いて使用済み核燃料の再処理溶液を加熱粉体化する方法である。加熱時に例えば開放同軸型マイクロ波センサーを用いて、再処理溶液の複素比誘電率及び誘電損率をリアルタイムに測定して、再処理溶液の相状態を検出し、検出された再処理溶液の相状態(液相、液固混相、固相)に応じて、直線偏波、直交偏波、又は円偏波が、マイクロ波オーブンへ給電される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉、高速増殖炉等の原子力発電所で使用された使用済み核燃料の再処理溶液の処理プロセスにおいて、再処理溶液の固形化(粉末化)のための水分蒸発及び脱硝工程において使用されるマイクロ波加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料サイクルの一環として、原子力発電所の使用済み核燃料からMOX燃料(UO2+PuO2)が製造されている。この製造過程において,使用済み核燃料からウラン及びプルトニウムを含んだ再処理溶液が生成され、再処理溶液を加熱し粉末化することでMOX燃料の原料粉末が生成される。再処理溶液の粉末化のための水分蒸発及び脱硝工程においては、マイクロ波加熱を利用すること有望視されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、通常、マイクロ波で食品、樹脂、廃液などを加熱する場合、均一にマイクロ波が照射されないため、加熱ムラが発生する。このため、電子レンジなどでは、ターンテーブルなどを使用してマイクロ波照射の均一化を図っている(例えば、特許文献1を参照)。さらに、加熱ムラをなくし、加熱対象物を均一に加熱する方法として、加熱対象物の特性をセンサーで検知して、マイクロ波の共振モードを制御する方法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。さらにまた、従来の直線偏波では均一加熱が困難であるとして、最近では、加熱対象物を円筒形のチャンバに入れ、加熱対象物に円偏波を照射し、均一に加熱する方法も行われている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-190659号公報
【特許文献2】特開平10-64677号公報
【特許文献3】特開2009-100675号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. Suzuki, T. Yamamoto, K. Ishii, Y. Kihara. K. Fujii, S. Horii, A. Kaneko, and Y. Abe “Discussion on artificial geyser affecting vessel design for innovative de-nitration.” Proc.of Global 2009, Paper 9175, Paris, France, Sept. 2009.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、本発明の課題を明確化するために、核燃料サイクルについて図を参照して簡単に説明する。図1に核燃料サイクルの概略説明図を示す。現在の商用原子力発電所においては、主として、ウラン燃料を用いた軽水炉による発電が行われている。しかし、燃料となるウランは有限であるため、ウラン資源の有効利用を目的とした高速増殖炉の開発が進められている。また、発電に用いられたウラン燃料は使用済み核燃料と呼ばれ、ウラン以外に核反応によって生じたプルトニウム及び不純物が含まれている。再処理工場では,固体の使用済み核燃料が濃硝酸により溶解される。その後,不純物等が取り除かれ,硝酸プルトニウム溶液と硝酸ウラニル溶液の混合溶液である再処理溶液が生成される。この再処理溶液を加熱して水分蒸発及び脱硝を行なうことで上述したMOX燃料の原料粉末が製造される。
【0007】
このような再処理溶液の加熱においては、加熱対象物である再処理溶液が加熱によって液相→ 液固混相(半固相)→ 固相へと相状態が遷移し、これに伴い、その電気定数も大きく変化する。そのため、効率的な加熱を実現するためには、上述の従来方法のように、単純に、直線偏波のマイクロ波の共振モードを変更するとか、円偏波をそのまま採用しても加熱ムラは解消しないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、核燃料の再処理溶液を、加熱ムラを発生させることなく、効率的に加熱粉体化できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明では、基本的には、被加熱対象物である再処理溶液の相状態に応じて、すなわち、被加熱対象物の電気定数及び熱伝導率等の物性値変化に応じた加熱を行い、加熱ムラの防止を図っている。
【0010】
具体的には、本発明の1つの観点に係る加熱方法は、マイクロ波オーブンを用いて、使用済み核燃料の再処理溶液を加熱する方法であって、前記再処理溶液の相状態に応じて、少なくとも、液相状態においては直線偏波を、固相状態においては円偏波を、前記マイクロ波オーブンに給電することを特徴としている。そして、好適には、前記再処理溶液の相状態を、開放同軸型マイクロ波センサーを用いて、複素比誘電率及び誘電損率をリアルタイムに検出することによって決定し、被加熱対象物である再処理溶液をその相状態に応じて効率的に加熱するようにしている。
【発明の効果】
【0011】
先に説明したように、本発明では、使用済み核燃料の再処理溶液という、被加熱対象物の特異性を考慮し、従来、食品や樹脂などの乾燥で行っているように単一種類の偏波のみを用いるのではなく、被加熱対象物の相状態を検出し、その相状態に適した加熱手段を適用している。したがって、本発明の加熱方法を採用することによって、使用済み核燃料の再処理溶液であっても加熱ムラが発生しない、極めて良好な粉体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】核燃料サイクルの概略説明図である。
【図2】立方体型マイクロ波オーブンの給電モデルの一例の説明図である。
【図3】立方体型マイクロ波オーブンでの縦給電モデルの電界分布の説明図である。
【図4】立方体型マイクロ波オーブンの縦給電モデルにおける再処理溶液の吸収電力分布の説明図である。
【図5】立方体型マイクロ波オーブンの横給電モデルの電界分布の説明図である。
【図6】立方体型マイクロ波オーブンの横給電モデルにおける再処理溶液の吸収電力分布の説明図である。
【図7】円筒型マイクロ波オーブンの給電モデルの一例の説明図である。
【図8】円筒型マイクロ波オーブンの円偏波給電方法の説明図である。
【図9】円筒型マイクロ波オーブンの各相状態に対する円偏波給電のみの電界分布の説明図である。
【図10】円筒型マイクロ波オーブンの各相状態における再処理溶液の吸収電力分布(水平面)の説明図である。
【図11】円筒型マイクロ波オーブンの各相状態における再処理溶液の吸収電力分布(垂直面)の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図2以降を参照しながら、本発明について説明する。再処理溶液のマイクロ波加熱における定量的な電力吸収特性を明らかにするために、3次元FDTD(Finite-difference time-domain method;有限差分時間領域法)解析を行い、各相状態の電力吸収特性の比較検討を行った。解析は、立方体型マイクロ波オーブンモデルと円筒型マイクロ波オーブンモデルを使用して行った。以下それぞれのオーブンでの試験について説明する。
【0014】
<立方体型マイクロ波オーブン>
1.解析モデル
1.1.立方体型マイクロ波オーブン
【0015】
図2に、この実験で用いたマイクロ波オーブンモデルを示す.本実験ではキャビティ上面及び側面から給電を行うモデルをそれぞれ縦給電及び横給電モデルとした。導波管は110mm× 11Ommの断面を有する正方形導波管、キャビティはl辺が300mmの立方体とした。再処理溶液はオーブン底より50mmの高さ、 オーブン側面よりそれぞれ75mm離れた位置に配置した。
表1 に縦給電及び横給電モデルにおける入力偏波を示す。なお、ここでは、円偏波入力は位相差90°の直交する2つの直線偏波を用いて実現しているが、円筒導波管の内壁に、軸方向に特定形状のフィンを取り付けることによって、円偏波を形成しても良い。 また、図2の例では、入力波の周波数は2.45GHz、入力電力は1000Wとした。
【0016】
【表1】

【0017】
FDTD 法における空気中及び再処理溶液中の空間離散間隔はそれぞれ1.Omm及び0.25mmとし、媒質表面から空気中に向かって徐々に変化させている。また,導波管終端部における吸収境界条件としてMurの1次境界条件を用いた。
【0018】
1.2.再処理溶液の複素比誘電率
再処理溶液の電力吸収特性解析を行なうためには、媒質の複素比誘電率(εr=εr-jεr)が必要となる。再処理溶液のεrは水に比べ非常に高く、高導電率性を有することが知られている。一方、εrの詳細な値は報告されていない。本実験では、εrの実部として硝酸のεr=80、虚部として50℃における再処理溶液のεr=390を用いた。
2.縦給電における偏波の影響
2.1.電界分布
【0019】
図3 に縦給電モデルにおけるオープン内電界分布を示す。観測面はキャビティ中心を通るzx及びyz平面とした。
入力偏波による違いを比較すると、直線偏波ではzx及びyz平面において異なる電界分布を示す事が分かる。一方, 円偏波ではどちらの平面でも同様の電界分布が示されている。また、 入力偏波によらず媒質内部に電界が浸透しない様子が確認された。
2.2.吸収電力分布
【0020】
図4 に縦給電モデルにおける再処理溶液の吸収電力分布を示す。観測面は媒質の上側表面であるxy平面、媒質中心を通るzx及びyz平面とした。尚, 吸収電力分布P[W/m3]は1/2・σE2より求めた。図4(a)より、直線偏波に比べ円偏波の方が媒質の上側表面における吸収電力分布のむらを低減出来る事が明らかとなった。また、図4(b)及び(c)より、媒質表面のみに吸収電力が集中する事が示された。
3.横給電における偏波の影響
3.1.電界分布
【0021】
図5に横給電モデルにおけるオープン内電界分布を示す。観測面は縦給電モデルと同様にキャビティ中心を通るzx及びyz平面とした。図5より、zx及びyz平面のそれぞれにおいて,入力偏波によらず媒質近傍で同傾向の電界分布を示す事が分かる.また,縦給電の場合と同様に媒質内部に電界が浸透しない様子が示された。
3.2.吸収電力分布
【0022】
図6 に横給電モデルにおける再処理溶液の吸収電力分布を示す。観測面は媒質の上側表面であるxy平面、媒質中心を通るzx及びyz平面とした。図6(a)より、 媒質の上側表面では入力偏波によらず同傾向の吸収電力分布を示す事が分かる。また、 図6(b)及び(c)より、 縦給電の場合と同様に媒質表面のみに吸収電力が集中する事が示された。
【0023】
ここでは、高導電率溶液のマイクロ波加熱における電力吸収特性解析を行った。具体的には導波管取付け位置及び各入力偏波に対する特性の比較を行った。その結果, 縦給電モデルにおいては円偏波を用いることにより, 媒質表面における吸収電力分布のむらが低減される事がわかった。一方、本実験における横給電モデルにおいては円偏波及び直線偏波による吸収電力分布に大きな変化が無いことがわかった。
【0024】
<円筒型マイクロ波オーブン>
4.円筒型マイクロ波オーブンモデル
【0025】
図7に本実験で用いたマイクロ波オーブンモデルを示す。本実験では直径350mm、高さ350mmの円筒形オーブンの上面に、直径90mm、高さ200mmの円形導波管を接続した。再処理溶液は直径250mm、厚さ30mmとし、オーブン底より50mmの高さ、オーブン側面よりそれぞれ50mm離れた位置に配置した。
【0026】
再処理溶液の電力吸収特性解析を行なうためには、物質の複素比誘電率(εr=εr-jεr)が必要となる。本実験では、液相状態(εr=80、εr=390)、液固混相状態(εr=42.5、εr=16)、固相状態(εr=5、εr= 9)の3つを想定し、解析を行った。固相は酸化ウラン粉末の実測値、液相は硝酸の数値を代入した。液固混相は液相と固相の中間の値を用いた。入力偏波には円偏波を用いており、円偏波入力は位相差90°の直交する2つの直線偏波を用いて実現している(図8参照)。また、入力波の周波数は2.45GHz,入力電力は1000Wとした。また、導波管終端部における吸収境界条件としてMurの1次境界条件を用いた。
5.各相状態における電力吸収特性
【0027】
再処理溶液の加熱特性を把握するために,ここでは各相状態におけるオーブン内の電界分布及び再処理溶液の電力吸収分布について解析を行った。ここでは、円偏波入力が使用された。
5.1.電界分布
【0028】
図9に各相状態におけるオーブン内電界分布を示す。観測面はキャビティ中心を通るzx平面及びyz平面とした。入力には円偏波を用いていることから, 相状態によらずzx平面及びyz平面どちらも同じ分布を示している。また, 液相→ 液固混相→ 固相と相状態が変化するにつれ, 導波管及びオーブン内の定在波が小さくなっているが, 分布の大きな変化は見られなかつた。
【0029】
なお、実際の試験では、電界の大きさや吸収電力分布の大きさをカラーで色分けして観察した。そのため、図9の下部に、電界の大きさを示す基準カラーが示されているが、白黒のため、少し説明を加えておく。電界が0付近の黒くなっている部分は、ブルーであり、電界が大きくなるに従って、スカイブルー、グリーン、イエローグリーン、イエロー、オレンジと変化し、紙面右端の電界が2.5×104近くの黒っぽい部分はレッドを示している。電界の大きさは、大まかにはこのようなカラーの順番で表わされている。図9の(a-1)、(a-2)、(b-1)、(b-2)、(c-1)及び(c-2)のいずれの写真も、黒っぽい部分はブルーに相当する電界を示し、分散しているやや白っぽい部分はスカイブルーに相当する電界を示している。また、円筒導波管部分は図9の写真では黒白黒白の領域で表わされているが、黒っぽい部分はブルー、完全に白っぽい部分はイエローグリーンに対応する電界分布になっている。
5.2.吸収電力分布
【0030】
図10及び図11に各相状態おける再処理溶液の吸収電力分布を示す。観測面は媒質の上側表面及び媒質中心内部断面のxy平面,媒質中心を通るzx平面及びyz平面とした。なお、吸収電力分布P[W/m3]は1/2・σE2より求めた。
【0031】
ここで、図10の白黒写真では吸収電力分布の大きさが感覚的にしか理解できないため、図10の下部に示された電力の大きさを示す基準カラーを用いて、言葉で説明を加えておく。基準カラーを示す図において、電力が0付近の黒くなっている部分は、ブルーであり、電力が大きくなるに従って、スカイブルー、グリーン、イエローグリーン、イエロー、オレンジと変化し、紙面右端の電力が9.6×106近くの黒っぽい部分はレッドを示している。このことは、後述する図11においても同様である。
【0032】
さて、図10の(a-1)(b-1)(c-1)(c-2)の写真と図10の(a-2)(b-2)の写真では、黒っぽい部分がブルーに対応する吸収電力分布であるのか、レッドに対応する吸収電力分布であるのか不明である。これは、カラー写真を白黒の濃淡で示したために、異なる色がたまたま同一の白黒の濃淡で示されているだけである。従って、電力分布の状態について、以下に一層詳細に説明する。(a-1)においては、中央部の黒っぽい部分はレッド、その周辺部の狭い円周部分がオレンジからイエローであり、幅広の白っぽく写っている部分は、イエローグリーンからグリーンであり、周辺部のやや黒っぽい帯はブルーに相当する吸収電力分布にある。また、(a-2)においては、黒っぽい部分全体がブルーに相当する吸収電力分布を示している。また、(b-1)においては、中央部の黒っぽい部分はレッドであり、その周囲に順にオレンジ、イエロー、グリーンに対応する吸収電力分布となっている。(b-1)の最外周の黒っぽい部分はレッドに対応する吸収電力分布である。(b-2)においては、中央部の僅かに白っぽい部分はスカイブルーであり、その周囲にある大部分を占める黒っぽい部分はブルーである。また、その外周にあるやや白っぽい部分はスカイブルーに対応する吸収電力分布となっている。(c-1)においては、全体がレッドに対応する吸収電力分布を示した。最後に、(c-2)において、中央部の白っぽい部分はオレンジからイエローであり、その周囲のかなり広い円周領域はイエローグリーン、その周囲の細いやや黒っぽい円周領域はグリーンになっている。最外周の黒っぽい細い円周領域は、レッドであり、先のグリーンの領域と最外周のレッドの領域との間にはイエローの吸収電力分布が形成された。
【0033】
さらに、図11の(a-1)及び(a-2)の黒い部分は、いずれもブルーに相当する吸収電力分布になっている。また、同図の(b-1)及び(b-2)においては、表面付近の黒い部分はレッドで、深さ方向にオレンジ、イエロー、スカイブルーに変化し、底面付近の黒っぽい部分はブルーに相当する吸収電力分布になっている。さらに、固相の吸収電力分布を示す(c-1)及び(c-2)においても、液相と同様に、表面の黒い部分がレッドで、深さ方向にオレンジ、イエロー、スカイブルーに変化し、底面付近の黒っぽい部分はブルーに相当する吸収電力分布になっているが、ここではかなり深い位置までレッド領域が入り込んでいる。
【0034】
これらの結果より、液相状態では媒質上側表面のみに電力が集中し媒質内部での吸収は見られないのに対し、液相状態から液固混相状態へと変化することにより、媒質内部でも吸収が行われることが明らかとなった。その後、液固混相状態から固相状態へと変化することで液固混相状態よりも媒質内部で高い吸収を示す。しかし、最も電力を吸収しやすい固相状態と言えども、その底側における吸収率は、固相上面部ほどの強い吸収を示さないことが明らかとなった。
【0035】
本モデルではオーブン上側より給電を行っている。そのため、どの相状態でも媒質上面部に電力が集中し、液相→ 液固混相→ 固相への相状態の変化と共に被加熱層上面部での吸収が強くなることが明らかとなった。しかし、特に固相状態においては、上面部だけではなく被加熱層側面においても非常に高い吸収を示す。また、各相状態のzx平面とyz平面において同様の吸収電力分布を示すことがわかる。
【0036】
本実験では, 使用済み核燃料再処理溶液のマイクロ波均一加熱を目的として各相状態における電力吸収特性解析を行った。 その結果、液相では被加熱層上側表面のみに電力が集中するのに対し、液固混相、固相へと相状態が変化するにつれ、被加熱層の内部でも電力を吸収するようになることが明らかになった。 このこと及び前述の各種試験から、少なくとも液相においては円偏波よりも直線偏波を使用することが望ましく、固相においては円偏波による加熱が望ましいことがわかった。また、一方、各相状態における電界分布は、定在波の強さが変化するものの、分布の大きな変化は見られなかった。
【0037】
なお、円筒型オ−ブンに被加熱溶液である使用済み核燃料の再処理溶液を満たした脱硝皿をセットする際、オ−ブンの底面に直径40 mm、高さ50 mm 程度の陶器製の円筒8個を45度間隔で円形に並べ、底面から浮かせて脱硝皿の出し入れの操作が容易に行えるようにしているが、これらの陶器製の円筒を同寸法のマイクロ波センサ−に置き換える事により、脱硝皿の支持と誘電率測定の機能を同時に得ることができる。この場合、マイクロ波センサ−が被加熱容器である脱硝皿に接触するので、使用済み核燃料の再処理溶液の相変化に伴って時間遅れのない、比誘電率リアルタイム計測が行える。
【0038】
以上まとめると、本発明では、円筒型マイクロ波オーブンを用い、加熱時に使用済み核燃料の再処理溶液の相状態を、例えば開放同軸型マイクロ波センサーを用いて、複素比誘電率及び誘電損率をリアルタイムに検出し、検出された再処理溶液の相状態(液相、液固混相、固相)に応じて、それぞれの特性に合った偏波を照射することによって効率的な加熱が行えることがわかる。すなわち、液相では直線偏波を、固相では円偏波を照射し、液固混相では、特に試験を行っていないが、理論的に直交偏波による加熱が望ましいと考えられる。
【0039】
以上の説明では、直線偏波、直交偏波及び円偏波の切り替え加熱を行うことについて説明したが、相状態の変化に関係なく、比誘電率の変化に応じて、それらの偏波の合成波を使用して加熱すると、さらに加熱ムラが解消される可能性が高い。
【符号の説明】
【0040】
10、11 導波管
20 オーブン内部(キャビティ)
30 再処理溶液の入った脱硝皿

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み核燃料の再処理溶液を、マイクロ波オーブンを用いて加熱する方法であって、
前記再処理溶液の相状態に応じて、少なくとも、液相では直線偏波を、そして固相では円偏波を、前記マイクロ波オーブンに給電することを特徴とする使用済み核燃料の再処理溶液のマイクロ波加熱方法。
【請求項2】
少なくとも底面が円形の陶器製の脱硝皿に使用済み核燃料の再処理溶液を入れ、マイクロ波オーブンを用いて加熱する方法であって、
前記再処理溶液の複素比誘電率及び誘電損率を、開放同軸型マイクロ波センサーでリアルタイムに検出することによって、前記再処理溶液の相状態を測定し、
測定された前記再処理溶液の相状態に応じて、少なくとも、液相では直線偏波を、そして固相では円偏波を、前記マイクロ波オーブンに給電することを特徴とする使用済み核燃料の再処理溶液のマイクロ波加熱方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加熱方法において、前記開放同軸型マイクロ波センサーが、前記脱硝皿の底面と接触可能な状態で設けられ、前記脱硝皿の前記マイクロ波オーブン底面への支持体を兼ねていることを特徴とする使用済み核燃料の再処理溶液のマイクロ波加熱方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の加熱方法において、前記円偏波を前記オーブンの上面側から給電し、前記直線偏波を前記オーブンの側面側から給電することを特徴とする使用済み核燃料の再処理溶液のマイクロ波加熱方法。
【請求項5】
請求項4に記載の加熱方法において、前記円偏波を互いに90度の角度で配置された、2個の矩形導波管によって発生させることを特徴とする使用済み核燃料の再処理溶液のマイクロ波加熱方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の加熱方法において、前記再処理溶液の相状態が、液相状態、液固混相状態、そして固相状態へと変化するに伴い、給電形態を、直線偏波、直交偏波、円偏波に順次切り替えて給電することを特徴とする使用済み核燃料の再処理溶液のマイクロ波加熱方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の加熱方法において、前記マイクロ波オーブンの本体内部の形状が円筒型をしており、前記円偏波をトランペット型又はベル型のホーンアンテナを用いて、被加熱対象物である再処理溶液の上方から与えることを特徴とする使用済み核燃料の再処理溶液のマイクロ波加熱方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−16378(P2013−16378A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149056(P2011−149056)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年1月6日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.110 No.359」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年2月28日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会 2011年総合大会講演論文集(DVD−ROM)」に発表
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】