説明

使用済み触媒からの貴金属回収方法

【課題】 石油精製などに使用されるワッカー触媒のように、有機物が付着している触媒から、湿式処理によって貴金属を回収する際に、発泡を抑えて高温で処理することができ、高い回収率で貴金属を回収する方法を提供する。
【解決手段】 有機物が付着しているワッカー触媒のような使用済み触媒を、2重量%以下の分散剤と3〜9重量%の水系洗剤が添加された王水に投入し、45〜95℃に加熱して、触媒に含まれるパラジウムなどの貴金属を溶解抽出した後、得られた抽出液から貴金属を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製に使用されているワッカー触媒などの使用済み触媒から、湿式処理により貴金属を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、貴金属を含む各種の触媒については、その使用済みになった触媒を廃棄する前に、含有されている貴金属を分離回収することが行われている。例えば、エチレンやプロピレンなどの直接酸化に使用されるワッカー触媒は、活性成分としてPdClを含んでいる。そのため、使用済みのワッカー触媒についても、パラジムの回収が行われている。
【0003】
上記ワッカー触媒のように石油精製などに用いた使用済み触媒には、可燃性物質を含む種々の有機物が付着している。そのため、有機物が付着したワッカー触媒などの使用済み触媒からの貴金属の回収には、従来から一般に乾式処理が行われている。しかし、乾式処理では、有害ガスが発生する可能性があるほか、触媒の主成分であるカーボンが乾式処理時に飛散し、貴金属の回収率が低下するという欠点があった。
【0004】
一方、使用済み触媒から、湿式法により貴金属を回収する方法も知られている。例えば、特開2004−218012公報や特開2005−139483公報には、塩素を含有する塩酸又は王水で触媒に含まれる貴金属を溶解することにより、使用済み触媒から貴金属を回収する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、このような方法により有機物が付着した触媒を処理すると、処理中に発泡が起こりやすい。一般に貴金属の回収率を高めるためには、可能な限り高温で処理することが望ましいが、高温で処理するほど発泡が激しくなる。発泡を抑えるため低温で処理すると貴金属回収率が低くなり、また発泡を伴う高温での処理では一度に多量の処理をすることができず、いずれの場合もコストが非常に高くなるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2004−218012公報
【特許文献2】特開2005−139483公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、石油精製などに使用され種々の有機物が付着している使用済み触媒から、湿式処理によって貴金属を回収する際に、発泡を抑えて高温で処理することができ、高い回収率で貴金属を回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明が提供する有機物が付着した使用済み触媒から貴金属を回収する方法は、使用済み触媒を2重量%以下の分散剤と3〜9重量%の水系洗剤が添加された王水に投入し、加熱して触媒に含まれる貴金属を抽出し、得られた抽出液から貴金属を回収することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡単な湿式処理でありながら、発泡を抑えて高温で処理することができ、従って有機物が付着した使用済み触媒から、パラジウムなどの貴金属を90%以上の高い抽出率で回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の湿式処理による貴金属の回収方法では、有機物が付着した使用済み触媒中の貴金属を加熱溶解して抽出する際に、2重量%以下の分散剤及び3〜9重量%の水系洗剤を添加した王水を使用する。使用する分散剤としては、ナフタリンスルホン酸ソーダ・ホルマリン濃縮物などが好ましい。また、水系洗剤としては、水系であれば特に制限はないが、グリコール系溶剤とノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤からなる水系洗剤などを好適に使用することができる。
【0011】
上記分散剤と水系洗剤の添加により、有機物が付着した使用済み触媒中の貴金属を溶解抽出する際に、抽出率を高めるために高温に加熱しても、発泡を抑えることができる。ただし、分散剤の添加量が2重量%を超えるか、あるいは水系洗剤の添加量が3重量%未満又は9重量%を超える場合には、高温での処理ほど発泡が起こりやすくなり、抽出操作が困難になる。また、処理温度については、室温又は常温では貴金属の抽出率が低く、90%以上の高い抽出率を得るためには、45〜95℃の範囲が好ましい。
【0012】
上記のごとく使用済み触媒から貴金属を溶解抽出することによって、得られた抽出液から従来公知の通常の手法に従って貴金属を回収することができる。例えば、貴金属がパラジウム(Pd)の場合、その抽出液を80℃以上に加熱して塩化アンモニウムを投入し、沈殿物(パラジウム塩)を回収する。そして、原子吸光分析により液中のパラジウムが0.2g/リットル以下になるまで、塩化アンモニウムを投入して回収を行う。
【実施例】
【0013】
[実施例1]
2リットルの王水に、1重量%の分散剤(ナフタリンスルホン酸ソーダ・ホルマリン濃縮物30重量%、水70重量%)と、5重量%の水系洗剤(グリコール系溶剤5重量%、ノニオン界面活性剤10重量%、アニオン界面活性剤12重量%、水73重量%)とを添加した。
【0014】
この添加剤を加えた王水と、これら添加剤を加えていない王水に、それぞれ使用済みワッカー触媒100gを投入し、異なる処理温度でそれぞれ2時間の溶解抽出を行った。上記添加剤を加えた王水と、これら添加剤を加えていない王水について、得られたPdの抽出率を処理温度ごとに下記表1に示す。
【0015】
【表1】

【0016】
上記表1から分るように、添加剤なしの王水の場合、25℃(常温)でもPdの抽出が可能であるが、抽出率が低く、加熱すると発泡が起こって抽出が不可能となった。一方、上記添加剤を加えた王水の場合には、45〜95℃の処理温度でも発泡が起こらず、90%を超える高い抽出率でPdを回収することができ、処理温度の上昇に伴ってPd抽出率も増加した。
【0017】
[実施例2]
2リットルの王水に、1重量%の分散剤(ナフタリンスルホン酸ソーダ・ホルマリン濃縮物30重量%、水70重量%)を添加すると共に、試料ごとに1〜10重量%の範囲で濃度を変えて水系洗剤(グリコール系溶剤5重量%、ノニオン界面活性剤10重量%、アニオン界面活性剤12重量%、水73重量%)を添加した。
【0018】
これらの添加剤を加えた王水に、それぞれ使用済みワッカー触媒100gを投入し、異なる処理温度(25℃、50℃、90℃)で、それぞれ2時間の溶解抽出を行った。水系洗剤の添加量が異なる各試料について、処理温度ごとに得られたPdの抽出率を下記表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
この結果から、水系洗剤を3〜9重量%の範囲で添加した場合は、高い処理温度でも発泡が起こらず、90%以上の高いPd抽出率が得られることが分る。ただし、水系洗剤の添加量が3重量%の試料2では、処理温度が90℃になると発泡が起こった。一方、水系洗剤の添加量が3〜9重量%の範囲以外では、加熱すると発泡が起こることから、抽出が不可能であった。
【0021】
[実施例3]
2リットルの王水に、試料ごとに2〜10重量%の範囲で濃度を変えた分散剤(ナフタリンスルホン酸ソーダ・ホルマリン濃縮物30重量%、水70重量%)を添加すると共に、5重量%の水系洗剤(グリコール系溶剤5重量%、ノニオン界面活性剤10重量%、アニオン界面活性剤12重量%、水73重量%)を添加した。
【0022】
これらの添加剤を加えた王水に、それぞれ使用済みワッカー触媒100gを投入し、異なる処理温度(25℃、50℃、90℃)で、それぞれ2時間の溶解抽出を行った。水系洗剤の添加量が異なる各試料について、処理温度ごとに得られたPdの抽出率を下記表3に示す。
【0023】
【表3】

【0024】
上記表3の結果から分るように、25℃(常温)ではPdの抽出が可能であるが抽出率が低く、抽出率を高めるために50℃に加熱すると、分散剤の添加量が2重量%の試料のみ発泡がなく、90%を超える抽出率でPdを抽出することができた。しかし、この分散剤の添加量が2重量%の試料も、処理温度が90℃になると発泡が起こり、抽出が困難になった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物が付着した使用済み触媒から貴金属を回収する方法であって、該使用済み触媒を、2重量%以下の分散剤と3〜9重量%の水系洗剤が添加された王水に投入し、加熱して触媒に含まれる貴金属を抽出し、得られた抽出液から貴金属を回収することを特徴とする貴金属回収方法。
【請求項2】
前記加熱温度が45〜95℃であることを特徴とする、請求項1に記載の貴金属回収方法。
【請求項3】
前記使用済み触媒がパラジウムを含むワッカー触媒であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の貴金属回収方法。



【公開番号】特開2008−31502(P2008−31502A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204104(P2006−204104)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(503404707)大口電子株式会社 (7)
【Fターム(参考)】