説明

供給弁

【課題】空気呼吸器の着用者に対して速やかに空気を供給することができる供給弁。
【解決手段】供給弁10が中圧空気の流入口27と、中圧空気の供給口25と、ダイアフラム11とを有する。供給弁10はまた、円筒状のハウジング21と、ハウジング21の内周面を軸方向へ往復摺動運動可能な摺動子22とを含む。ハウジング21は、軸方向の一端部における外側にパイロット弁55に向かって付勢されたパイロット弁座40と、軸方向の反対端部における内側にメイン弁座35とを有し、一端部と反対端部との間に流入口27が形成される。面体2の着用者が非吸気状態にあるときには、供給弁10におけるダイアフラム11が作動して、パイロット弁座40がパイロット弁55から離間することによりパイロット弁55が開放状態になるとともに、中圧空気が摺動子22を摺動させてメイン弁65をメイン弁座35から離間させ、中圧空気の面体2への流入が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気呼吸器に使用するのに好適な供給弁に関する。
【背景技術】
【0002】
消防士等がボンベを給気源として着用する空気呼吸器は、従来周知である。また、高圧に圧縮されているボンベの空気を減圧するための高圧減圧弁と、その高圧減圧弁を通過させて得られる中圧空気をさらに大気圧相当にまで減圧して空気呼吸器の着用者に低圧空気を供給するための供給弁も周知であり、その供給弁は給気弁と呼ばれることがある。
【0003】
この種の供給弁の一例は、特表昭58−501656号公報(特許文献1)にパイロット制御二段調節器として開示されている。スキューバパイロット用のものとして使用されるこの調節器は、空気呼吸器使用者の口許の圧力が低下すると、ダイアフラムに変位が生じ、その変位によってリンケージアームが移動する。リンケージアームが移動すると、レバーが起き上がり、ボールの動きを介してピンが動く。ピンが動くことによってパイロット弁が開き、中圧空気が制御室へと流れる。中圧空気の圧力によってポペット弁が開き、ポペット弁を通って減圧された空気が使用者の口許に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表昭58−501656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パイロット弁とポペット弁というように、二つの弁を順次開放しながら空気呼吸器使用者に空気を供給する供給弁では、ダイアフラムに変位が生じてからメイン弁であるポペット弁が開放状態となるまでの間に少なからず時間がかかるということがある。
【0006】
そこで、この発明では、着用状態にある空気呼吸器の内圧がダイアフラムの作動を開始させる設定圧力よりも低くなると、空気呼吸器の着用者に対して速やかに空気を供給することができるように改良された供給弁の提供を課題にしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明が対象とするのは、吸排気可能な面体に取り付け可能であり、圧縮空気供給源からの中圧空気の流入口と、前記面体に対しての前記中圧空気の供給口と、着用状態にある前記面体の内圧が所定圧力よりも低下すると作動するダイアフラムとを有し、前記ダイアフラムが作動して弁が開放状態になると、前記中圧空気が前記供給口を経て前記面体へ供給されることを可能にする供給弁である。
【0008】
かかる供給弁において、この発明が特徴とするところは、以下のとおりである。すなわち、前記供給弁には、円筒状のハウジングと、前記ハウジングの内周面を前記ハウジングの軸方向へ往復摺動運動可能な摺動子とが含まれている。前記ハウジングには、前記軸方向の両端部のうちの一端部における外側にパイロット弁座が形成されていて、前記パイロット弁座が前記ハウジングの外側から内側ヘ向かう方向へ第1ばねによって付勢されているとともに前記ハウジングの外側に設けられる前記ダイアフラムに連結されており、前記一端部の反対端部における内側にはメイン弁座が形成され、前記両端部の間には前記流入口が形成されている。前記摺動子には、前記パイロット弁座に当接可能なパイロット弁と、前記メイン弁座に当接可能なメイン弁とが形成されていて、前記メイン弁が第2ばねによって前記メイン弁座に当接する方向へ付勢されている。前記圧縮空気供給源との接続下に着用されている前記面体の前記供給弁は、前記面体の着用者が非吸気状態にあると、前記パイロット弁が前記パイロット弁座に当接するとともに、前記メイン弁が前記メイン弁座に当接している中立状態にある。前記着用者が吸気状態にあると、着用されている前記面体では前記ダイアフラムが作動し、前記パイロット弁座が前記第1ばねの付勢に抗する方向へ動いて前記パイロット弁から離間して前記パイロット弁が開放状態となる。前記パイロット弁が開放状態になることにより前記流入口から流入する前記中圧空気が前記摺動子を前記第2ばねの付勢に抗する方向へ摺動させる。前記摺動子が前記方向へ摺動することにより、前記メイン弁が前記メイン弁座から離間して開放状態となり、前記中圧空気が、前記メイン弁と前記メイン弁座との間を通って前記供給口へと流れて前記面体の内部への流入が可能になる。
【0009】
この発明の実施形態の一つにおいて、前記ハウジングには、前記一端部に前記ハウジングの内外に通じるパイロット弁案内孔が形成される一方、前記反対端部には前記供給口が形成される。前記摺動子は、前記ハウジングにおける前記一端部から前記反対端部に向かって順に並ぶ第1軸部と、第2軸部と、第3軸部とを含む少なくとも三つの軸部を有する。前記第1軸部は、前記パイロット弁案内孔に前記軸方向へ往復摺動運動可能かつ気密状態で嵌合するとともに前記パイロット弁案内孔から前記ハウジングの外へ突出する部分に前記パイロット弁が形成されている部位と、前記ハウジングの内周面との間にパイロット室を画成している部位とを含んでいて、前記パイロット弁の外側と前記パイロット室とに向かって開口する通気路が形成されている。前記第2軸部は、前記ハウジングの内周面に前記軸方向へ往復摺動運動可能かつ気密状態で嵌合していて、前記流入口と前記パイロット室とにつながる導圧孔を含む。前記第3軸部は、前記ハウジングの内周面との間に前記流入口につながる中圧空気流入部を画成しているとともに、前記中圧空気流入部を前記供給口に対して開閉するための前記メイン弁を含み、前記供給弁の前記中立状態において、前記メイン弁は前記メイン弁座に対して前記第2ばねの付勢下に離間可能に当接している。前記ダイアフラムからは前記ハウジングに向かって第1レバーが延びる一方、前記ハウジングの外側には前記パイロット弁座を含み前記第1ばねによって付勢されている旋回可能な第2レバーが設けられている。前記第1レバーと前記第2レバーとは、前記ダイアフラムが作動したときの前記ダイアフラムの動きが前記第1レバーを介して前記第2レバーに伝えられるように連結されている。着用されている前記面体の前記内圧が低下して前記ダイアフラムが作動すると、前記第1レバーに連結された前記第2レバーが前記第1ばねの付勢に抗して旋回するとともに前記パイロット弁座が前記パイロット弁から離間して前記パイロット弁が開放状態となる。前記パイロット弁が前記開放状態になると前記パイロット室の空気圧が低下して、前記流入口へ流入する前記中圧空気が前記摺動子を前記第2ばねの付勢に抗する方向へ摺動させることにより、前記メイン弁が前記メイン弁座から離間して開放状態となり、前記中圧空気は、前記面体の内部への流入が可能になる。
【0010】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記パイロット弁と前記メイン弁とが、前記摺動子における両端部のうちの一端部とその反対端部とに形成されている。
【0011】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記パイロット弁と前記メイン弁とは、前記ハウジングの前記軸方向へ同時に動く。
【0012】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記ハウジングと前記摺動子とが、前記ハウジングの内部に前記パイロット室を画成し、前記パイロット室が前記第1軸部と同軸の環状空間である。
【0013】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記摺動子には、前記パイロット室と前記中圧空気流入口とにつながる導圧孔が形成されている。
【0014】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記パイロット室は、前記摺動子が前記軸方向へ往復摺動運動すると、前記パイロット室の内容積が増減する。
【0015】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記第1軸部と前記第3軸部とが前記第2軸部よりも径が小さく形成されている。
【0016】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記第2ばねは、前記第1軸部を周回するように前記パイロット室に収納されていて前記軸方向において伸縮するコイルばねである。
【0017】
この発明の実施形態の他の一つにおいて、前記摺動子には、前記第2軸部と前記第3軸部との間に、これら両軸部の径よりも小さい径を有する第4軸部が形成されている。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る供給弁は、パイロット弁とメイン弁とが一つの摺動子に形成されていて、パイロット弁が開放状態になることによって摺動子がハウジングの内部を摺動するとメイン弁もまた開放状態となるから、この供給弁が使用されている空気呼吸器では、面体の内圧に対応してダイアフラムが作動すると、中圧空気が供給口を通って面体の内部に速やかに進入する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】空気呼吸器の斜視図。
【図2】図1の空気呼吸器に使用されている供給弁の側面図。
【図3】供給弁の断面を示す図2と同様な図。
【図4】供給弁が給気状態にあるときの図3と同様な図。
【図5】供給弁の一態様を例示する図3と同様な図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照してこの発明に係る供給弁の詳細を説明すると、以下のとおりである。
【0021】
図1は、供給弁10が使用されている空気呼吸器1の斜視図である。図の空気呼吸器1は着用状態にあるものであるが、着用者の図示は省略されている。その空気呼吸器1には、吸排気可能に形成されている面体2と、面体2に取り付けられた供給弁10から延びる給気ホース4とが含まれていて、給気ホース4が減圧弁とそく止弁(いずれも図示せず)とを介して高圧用空気ボンベ(図示せず)につながっている。供給弁10はその大部分が面体2に取り付けられたカバー部材8によって被覆された状態にあり、図にはカバー部材8に形成された開孔8aの内側に供給弁10におけるダイアフラム11の一部分と給気用ホース4とが見えている。通常は約30MPaに設定されているボンベの高圧空気は、減圧弁によって約0.7〜0.9MPaにまで減圧された中圧空気S(図3参照)となり、供給弁10を通過して大気圧相当の圧力になった状態で面体2の内部へ進み、面体2の着用者(図示せず)に吸気として使用される。ただし、この発明において、中圧空気Sは、それが供給弁10を通過した後にも中圧空気Sと呼ばれることがある。また、図1において、着用者の呼気は、面体2に設けられた排気用逆止弁(図示せず)を通って排出される。その面体2には、透明プラスチック製のアイピース6やヘッドバンド7等も含まれている。図1におけるD−D線は、面体2の幅方向において、ダイアフラム11を二等分する線である。
【0022】
図2は、図1におけるカバー部材8を破断して、その内側に納まる供給弁10の側面を示す図であるが、図2では、図1に示したカバー部材8の開口8aとダイアフラム11とが図の上方に位置するように供給弁10はその向きが変化させてあり、図2における上下方向が双頭矢印Aで示されている。カバー部材8は、ダイアフラム11の前方(図2における上方)に位置する前方部材8dとダイアフラム11から面体2に向かって延びる後方部材8eとを含んでいて、後方部材8eにおける周縁部8bが面体2に対して気密状態で取り付けられている。ただし、説明を簡略化するために、図2では面体2の図示が省略されている。供給弁10は、慣用のダイアフラム11が使用されているアクチュエータ12と、アクチュエータ12とは別体の給気ユニット13とを含んでいる。ダイアフラム11は、円錐台形に形成されていて、頂部11aと基部11bとを有する。頂部11aは、カバー部材8における開孔8aの周縁部と頂部11aとの間に介在する陽圧スプリング9によって図の下方に向かって押圧されている。基部11bは、後方部材8eの取付け部8cに対して気密状態で固定されている。ダイアフラム11からは第1レバー16が給気ユニット13にまで延びている。給気ユニット13では、図の側方へ延びる接続口27(図3参照)に給気ホース4が接続され、図の下方へ延びる中圧空気供給口25(図3参照)に面体2の内部につながる通気用パイプ2aが接続されている。ただし、図2では、パイプ2aが仮想線で示されている。
【0023】
図3は、図2の供給弁10の断面を示す図であるが、この断面は図1におけるD−D線に沿って供給弁10を切断することにより得られる。図2,3の供給弁10は中立状態にあり、かような供給弁10において、円錐台形に形成された中空のダイアフラム11は、頂部11aに天板11dが取り付けられていて、その天板11dからは軸部14が垂下している。第1レバー16は、互いに離間並行する一対のレバー部分16a,16bを有するものであって、図2には一対のうちの一方のレバー部分16aが示され、図3にはもう一方のレバー部分16bが示されている。一対のレバー部分16a,16bの間には、ダイアフラム11の軸部14が進入している。また、図3のレバー部分16bに示された部分16cは、これら一対のレバー部分16a,16bを連結している部位の断面を示している。各レバー部分16a,16bは上端部17a,17bと下端部18a,18bとを有し(図2を併せて参照)、上端部17a,17bは軸部14と交差する方向へ延びていて、天板11dに接触しているか、またはごく僅かだけ離間している。下端部18a,18bは給気ユニット13にまで延びている。
【0024】
このような図3のダイアフラム11と第1レバー16との間において、ダイアフラム11は、頂部11aとそれと一体の天板11dとが上下方向Aにおいて下降したり上昇したりすることができるもので、たとえば、着用された面体2の内圧が所定の値よりも低下すると、その低下した内圧に対応してダイアフラム11の天板11dが第1レバー16の上端部17a,17bを押し下げながら下降する。
【0025】
給気ユニット13は、円筒状のハウジング21と、ハウジング21に収納されていてハウジング21における周壁24の内周面24aに対して上下方向Aへ摺動可能である摺動子22とを含んでいる。図3には、ハウジング21の内径を二等分する中心線C−Cも記載されている。
【0026】
ハウジング21は、周壁24と頂壁26とによって画成されていて、周壁24には給気ホース4の端部を着脱可能な接続口27と、面体2から延びる通気用パイプ2aを着脱可能な中圧空気供給口25とが形成されており、接続口27は供給弁10における中圧空気Sの流入口となる。頂壁26には、パイロット弁案内孔として使用される頂部透孔29が形成されている。その頂部透孔29には、摺動子22の第1軸部28に形成された後記パイロット弁55を含む上方部位28aが上下方向Aへ摺動可能に挿入されている。上方部位28aには、透孔29の周面に気密状態で密着するO−リング28bが取り付けられている。ハウジング21の下端部31は、中圧空気供給口25に取り付けられた通気用パイプ2aを介して面体2の内部に向かって開放された状態にある。下端部31の内側には、環状部材32が挿入されていて、環状部材32と周壁24の内周面24aとの間が環状部材32に取り付けられたO−リング32aによって気密状態に保たれている。環状部材32は内周面24aに沿って延びる環状の頂面33を有し、その頂面33は、内周面24aからハウジング21の中心軸Cに向かって下り勾配になっている。頂面33はまた、内周面24aを一周する平滑な面に形成されたメイン弁座35を含んでいる。なお、供給弁10において、頂面33は中心軸Cに向かって上り勾配となるようにその形状を変更することも可能である。
【0027】
ハウジング21における周壁24の外周面24bには、この発明において第2レバーと呼ぶことのあるパイロットレバー36がプレート部37を介して取り付けられている。プレート部37は、外周面24bに固定されており、パイロットレバー36は、プレート部37に設けられた軸部38を中心に双頭矢印Bで示される時計方向と反時計方向とに旋回運動可能に取り付けられていて、パイロットレバー36の下端部36aと周壁24の外周面24bとの間に介在した付勢手段である第1ばね39によって図における時計方向へ付勢されている。パイロットレバー36の上端部36bでは、その上端部36bに形成された透孔36cに金属や硬質プラスチック等の非弾性材料で形成されたブロック41が嵌められている。そのブロック41の下面の一部分は、パイロット弁座40であって、パイロット弁座40は合成ゴム等の弾性材料で形成されている。上端部36bではまた、アクチュエータ12から延びた第1レバー16の下端部18a,18bが上下方向Aの下方から当接しているか、または当接可能な位置にある。
【0028】
摺動子22は、図3において上方から下方に向かって並ぶ第1軸部28と、第2軸部46と、第3軸部47とを含む少なくとも三つの軸部を有しているもので、図示例では第2軸部46と第3軸部47との間にこれら両軸部46,47よりも径の小さい第4軸部50も形成されている。
【0029】
第1軸部28は、上方部位28aに加えて、上方部位28aと同径の円柱状に形成されている下方部位28cを含んでいる。下方部位28cは、周壁24の内周面24aから離間して、内周面24aとの間にパイロット室48を形成している。そのパイロット室48はまた、ハウジング21と摺動子22とによって形成され、第1軸部28を軸とする環状空間といえるものである。そのパイロット室48には、付勢手段であるコイル状の第2ばね49が第1軸部28を周回するように納められている。第1軸部28にはまた、それを径方向において貫通して両端がパイロット室48に開口する第1通気路51と、第1通気路51から中心線Cに沿って延びていて第1軸部28の頂部53に開口54を有する第2通気路52とが形成されている。開口54を含む頂部53は、パイロット弁座40が離間可能に当接するパイロット弁55を形成しており、図では、パイロット弁55とパイロット弁座40とが気密状態で当接している。
【0030】
第2軸部46は、その外周面56に取り付けられたO−リング57を介して周壁24の内周面24aに摺動可能かつ気密状態で当接している。第2軸部46はまた、環状の上面58と下面59とを有し、上面58と下面59との間には導圧孔60が形成されている。その導圧孔60は、上面58において開口していて内径が大きい上部61と、下面59において開口していて内径が小さい下部62とを有している。下面59は、周壁24に形成されている接続口27よりも上方に位置している。ちなみに、空気呼吸器1で使用される供給弁10の好ましい導圧孔60の一例において、上部61は0.8mm以上の径を有し、下部62は0.2mm以下の径を有する。
【0031】
第3軸部47は、周壁24の内周面24aから離間した状態にあって、第3軸部47と内周面24aとの間には空隙である中圧空気流入部63が画成されている。第3軸部47の下端はハウジング21におけるメイン弁座35に対して離間可能かつ気密状態で当接するメイン弁65を含んでいる。図示例のメイン弁65は、合成ゴム等の弾性材料で形成され、メイン弁座35は金属や硬質プラスチック等の非弾性材料で形成されているが、この発明は、メイン弁65に非弾性材料を使用し、メイン弁座35に弾性材料を使用することもできる。なお、メイン弁座35が形成されている環状部材32の頂面33が中心軸Cに向かって上り勾配であるときには、メイン弁65もまた中心軸Cに向かって上り勾配となるように形状を変更することができる。
【0032】
第4軸部50は、第2軸部46および第3軸部47よりも径が小さく形成されている。その結果として、摺動子22では、第2軸部46の径をあまり大きくすることなく、第2軸部46に導圧孔60を形成することができるという効果が得られる。しかし、その効果を必要としないときには、第4軸部50を省いて、第2軸部46の直下に第3軸部47を形成することができる。
【0033】
図3において中立状態にある給気ユニット13では、パイロット室48に納まるコイル状の第2ばね49がハウジング21の頂壁26と摺動子22における第2軸部46の上面58とに圧接して蓄勢状態にあり、摺動子22をハウジング21の下方に向かって押圧し、第3軸部47に形成されているメイン弁65とハウジング21に形成されているメイン弁座35とを密着させている。このような密着状態は、次のようにして可能になる。すなわち、給気ホース4からは中圧空気Sがハウジング21の内部に形成されている中圧空気流入部63に供給され、その中圧空気Sが第2軸部46に形成されている導圧孔60を通り、パイロット室48に進入している。それゆえ、パイロット室48と中圧空気流入部63との間においては空気圧が等しく、摺動子22は、第2ばね49の作用により下方に向かって付勢され、メイン弁65がメイン弁座35に気密状態で密着する。図3においてはまた、摺動子22の第1軸部28に形成されているパイロット弁55が、第1ばね39の付勢下にあるパイロットレバー36に形成されたパイロット弁座40に気密状態で密着している。
【0034】
図4は、図3と同様な図であるが、面体2の着用者(図示せず)の呼吸動作が吸気している状態にあり、供給弁10はその面体2に対して中圧空気Sを供給している給気状態にある。ただし、図4では、ダイアフラム11の図示が省略され、天板11dの一部分と軸部14とのみが仮想線で示されている。図3の面体2が着用されて面体2の内圧が低下し始め、その内圧がダイアフラム11の作動を開始させる所定圧に達すると、ダイアフラム11は天板11dが第1レバー16の上端部17a,17bを押し下げながら下降する。すると、第1レバー16の下端部18a,18bが上昇して、パイロットレバー36を第1ばね39の付勢に抗して図の双頭矢印Bで示される反時計方向へ旋回させる。すると、パイロットレバー36に形成されているパイロット弁座40が摺動子22に形成されているパイロット弁55から離間してパイロット弁55が開放状態となり、摺動子22における第1、第2通気路51,52が面体2の内部に向かって開放状態となる。
【0035】
パイロット弁55が開放状態になると、パイロット室48に進入していた中圧空気Sが第1,第2通気路51,52を通り抜け、空気Sとなって面体2の内部へ向かい、パイロット室48における空気の圧力が低下する。一方、ハウジング21における中圧空気流入部63には中圧空気Sが接続口27から流入している。その中圧空気Sは、パイロット室48と中圧空気流入部63とをつないでいる導圧孔60を通ってパイロット室48へ進入しようとするのだが、その導圧孔60には中圧空気Sのパイロット室48への進入速度を抑えるように作用する内径の小さい下部62が含まれている。それゆえ、図4の給気ユニット13では、パイロット室48が開放状態にあって内部の空気圧が低下する一方、第2軸部46にはその下面59に中圧空気Sの圧力が作用しており、摺動子22は、それを下降させるように作用する第2ばね49の圧力と、それを上昇させるように作用する中圧空気Sの圧力との差によって、上下方向Aの上方へ移動する。上方へ移動した摺動子22では、メイン弁65がメイン弁座35から離間し、メイン弁65とメイン弁座35との間には通気可能な間隙70が形成される。すると、給気ホース4から供給される中圧空気Sは、中圧空気流入部63と間隙70とを通って環状部材32の内側へ進入し、さらに、供給口25を通って面体2の内部へ吸気用の低圧空気Sとなって進入する。
【0036】
着用者の吸気動作が停止すると、すなわち呼吸動作が非吸気状態になると、進入して来る空気Sによって面体6の内圧が次第に高くなり、下降していたダイアフラム11が上昇して図3の状態に復帰する方向へ動き、パイロット弁座40がパイロット弁55を閉じる方向へ動く。また、ハウジング21の内部においては、中圧空気Sが導圧孔60を通ってパイロット室48に進入して、パイロット室48の空気圧と中圧空気流入部63の空気圧とが等しくなる。その結果として、第2ばね49の作用によって摺動子22が下方へ移動し、メイン弁65とメイン弁座35とが密着して、中圧空気Sが供給口25を通って面体6へ進入することを遮る図3の状態に復帰する。パイロット室48は、このように摺動子22が上下方向Aへ摺動することに伴ってその内容積が減少したり増加したりする。
【0037】
図5は、供給弁10の一態様を例示する図3と同様な図である。図5における供給弁10もまた、ハウジング21と摺動子22とを有し、摺動子22には第1軸部28と、第2軸部46と、第3軸部47と、第4軸部50とが形成されている。ただし、この摺動子22では、第1軸部28の径d1が第2軸部46の径d2よりも小さく、第2軸部46の径d2が第3軸部47の径d3よりも小さく、第4軸部50の径d4が第2軸部46と第3軸部47との径d2,d3よりも小さく形成されている。
【0038】
このように、この発明に係る供給弁10は、パイロット弁55とメイン弁65とを使用するものではあるが、これらパイロット弁55とメイン弁65とは、摺動子22の摺動方向における両端部のそれぞれに形成されていて、パイロット弁55が開放されて摺動子22が上下方向Aの上方へ移動すれば、メイン弁65も上方へ移動してメイン弁65の速やかな開放が可能になる。したがって、この供給弁10を使用する空気呼吸器1では、面体6の内圧が所定の圧力よりも低くなったときに、その内圧に対するレスポンスとしての面体1への吸気用空気の供給が速やかで、つまり面体1への吸気用空気の供給に遅れがなく、空気呼吸器1の着用者は楽に呼吸をすることができる。
【0039】
また、この供給弁10では、摺動子22を速やかに移動させるうえにおいて、第2軸部46の上面58や下面59の面積を大きくするだけでよいから、換言すると上面58や下面59の面積を大きくするときにハウジング21の内容積を必ずしも大きくする必要がないから、供給弁10を小型化することが容易である。
【0040】
また、供給弁10におけるメイン弁65は、摺動子22が上方へ摺動すれば確実に開放状態となるから、供給弁10は、摺動子22の摺動距離を短くしておくことが可能であって、このことによっても供給弁10の小型化が可能になる。
【0041】
このようなメイン弁65は、金属や硬質プラスチック等の非弾性材料で形成された摺動子22の一部分として形成されている。一方、メイン弁がゴムシートの如き弾性シートだけで形成される従来技術では、そのメイン弁を開放することが容易なものにしたいときには、弁の径を大きくしなければならないということがあり、その結果として供給弁が大きなものになるということがある。このような従来技術と比較すると、この発明に係る供給弁10では、従来技術の如くメイン弁の径を大きくするという必要性がなく、その意味においても小型化することが容易である。
【0042】
この発明に係る供給弁10のパイロット室48はメイン弁65の大きさに拘束されることなく設計することが可能であり、メイン弁65は第2軸部46の径に拘束されることなく設計することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 空気呼吸器
6 面体
10 供給弁
11 ダイアフラム
16 第1レバー
22 摺動子
25 供給口
27 流入口(接続口)
28 第1軸部
29 パイロット弁案内孔(頂部透孔、透孔)
35 メイン弁座
36 第2レバー(パイロットレバー)
39 第1ばね
46 第2軸部
47 第3軸部
49 第2ばね
48 パイロット室
50 第4軸部
55 パイロット弁
60 導通孔
63 圧縮空気流入部
65 メイン弁
中圧空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸排気可能な面体に取り付け可能であり、圧縮空気供給源からの中圧空気の流入口と、前記面体に対しての前記中圧空気の供給口と、着用状態にある前記面体の内圧が所定圧力よりも低下すると作動するダイアフラムとを有し、前記ダイアフラムが作動して弁が開放状態になると、前記中圧空気が前記供給口を経て前記面体へ供給されることを可能にする供給弁であって、
前記供給弁には、円筒状のハウジングと、前記ハウジングの内周面を前記ハウジングの軸方向へ往復摺動運動可能な摺動子とが含まれており、
前記ハウジングには、前記軸方向の両端部のうちの一端部における外側にパイロット弁座が形成されていて、前記パイロット弁座が前記ハウジングの外側から内側ヘ向かう方向へ第1ばねによって付勢されているとともに前記ハウジングの外側に設けられる前記ダイアフラムに連結されており、前記一端部の反対端部における内側にはメイン弁座が形成され、前記両端部の間には前記流入口が形成されており、
前記摺動子には、前記パイロット弁座に当接可能なパイロット弁と、前記メイン弁座に当接可能なメイン弁とが形成されていて、前記メイン弁が第2ばねによって前記メイン弁座に当接する方向へ付勢されており、
前記圧縮空気供給源との接続下に着用されている前記面体の前記供給弁は、前記面体の着用者が非吸気状態にあると、前記パイロット弁が前記パイロット弁座に当接するとともに、前記メイン弁が前記メイン弁座に当接している中立状態にあり、
前記着用者が吸気状態にあると、着用されている前記面体では前記ダイアフラムが作動し、前記パイロット弁座が前記第1ばねの付勢に抗する方向へ動いて当接していた前記パイロット弁から離間して前記パイロット弁が開放状態となり、前記パイロット弁が開放状態になることにより前記流入口から流入する前記中圧空気が前記摺動子を前記第2ばねの付勢に抗する方向へ摺動させ、前記摺動子が前記方向へ摺動することにより前記メイン弁が前記メイン弁座から離間して開放状態となり、前記中圧空気が、前記メイン弁と前記メイン弁座との間を通って前記供給口へと流れて前記面体の内部への流入が可能になることを特徴とする前記供給弁。
【請求項2】
前記ハウジングには、前記一端部に前記ハウジングの内外に通じるパイロット弁案内孔が形成される一方、前記反対端部には前記供給口が形成され、
前記摺動子は、前記ハウジングにおける前記一端部から前記反対端部に向かって順に並ぶ第1軸部と、第2軸部と、第3軸部とを含む少なくとも三つの軸部を有し、
前記第1軸部は、前記パイロット弁案内孔に前記軸方向へ往復摺動運動可能かつ気密状態で嵌合するとともに前記パイロット弁案内孔から前記ハウジングの外へ突出する部分に前記パイロット弁が形成されている部位と、前記ハウジングの内周面との間にパイロット室を画成している部位とを含んでいて、前記パイロット弁の外側と前記パイロット室とに向かって開口する通気路が形成されており、
前記第2軸部は、前記ハウジングの内周面に前記軸方向へ往復摺動運動可能かつ気密状態で嵌合していて、前記流入口と前記パイロット室とにつながる導圧孔を含み、
前記第3軸部は、前記ハウジングの内周面との間に前記流入口につながる中圧空気流入部を画成しているとともに、前記中圧空気流入部を前記供給口に対して開閉するための前記メイン弁を含み、前記供給弁の前記中立状態において、前記メイン弁は前記メイン弁座に対して前記第2ばねの付勢下に離間可能に当接しており、
前記ダイアフラムからは前記ハウジングに向かって第1レバーが延びる一方、前記ハウジングの外側には前記パイロット弁座を含み前記第1ばねによって付勢されている旋回可能な第2レバーが設けられており、前記第1レバーと前記第2レバーとは、前記ダイアフラムが作動したときの前記ダイアフラムの動きが前記第1レバーを介して前記第2レバーに伝えられるように連結されており、
着用されている前記面体の前記内圧が低下して前記ダイアフラムが作動すると、前記第1レバーに連結された前記第2レバーが前記第1ばねの付勢に抗して旋回するとともに前記パイロット弁座が前記パイロット弁から離間して前記パイロット弁が開放状態となり、前記パイロット弁が前記開放状態になると前記パイロット室の空気圧が低下して、前記流入口へ流入する前記中圧空気が前記摺動子を前記第2ばねの付勢に抗する方向へ摺動させることにより、前記メイン弁が前記メイン弁座から離間して開放状態となり、前記中圧空気は、前記面体の内部への流入が可能になる請求項1記載の供給弁。
【請求項3】
前記パイロット弁と前記メイン弁とが、前記摺動子における両端部のうちの一端部とその反対端部とに形成されている請求項1または2記載の供給弁。
【請求項4】
前記パイロット弁と前記メイン弁とは、前記ハウジングの前記軸方向へ同時に動く請求項1〜3のいずれかに記載の供給弁。
【請求項5】
前記ハウジングと前記摺動子とが前記ハウジングの内部に前記パイロット室を画成し、前記パイロット室が前記第1軸部と同軸の環状空間である請求項2〜4のいずれかに記載の供給弁。
【請求項6】
前記摺動子には、前記パイロット室と前記中圧空気流入口とにつながる導圧孔が形成されている請求項2〜5のいずれかに記載の供給弁。
【請求項7】
前記パイロット室は、前記摺動子が前記軸方向へ往復摺動運動すると、前記パイロット室の内容積が増減する請求項2〜6のいずれかに記載の供給弁。
【請求項8】
前記第1軸部と前記第3軸部とが前記第2軸部よりも径が小さく形成されている請求項2〜7のいずれかに記載の供給弁。
【請求項9】
前記第2ばねは、前記第1軸部を周回するように前記パイロット室に収納されていて前記軸方向において伸縮するコイルばねである請求項2〜8のいずれかに記載の供給弁。
【請求項10】
前記摺動子には、前記第2軸部と前記第3軸部との間に、これら両軸部の径よりも小さい径を有する第4軸部が形成されている請求項2〜9のいずれかに記載の供給弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−229763(P2011−229763A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104481(P2010−104481)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000162940)興研株式会社 (75)
【Fターム(参考)】