説明

侵入型マーカー及びマーカーを画像技術によって視認可能にする装置

【課題】ヒト及び動物を対象とした軟組織における器官及び器官の部位または空洞(void)の正確な位置、動き及び/または歪みをマーキングし、位置を特定し、追跡する装置及び方法の提供。
【解決手段】哺乳類の体内の器官、腫瘍または腫瘍床の位置を特定するための侵入型マーカーにおいて、マーカー1は基端、先端及び連続的な中間部分を有し、その中間部分の少なくとも一部が少なくとも1つの画像技術下で視認可能であり、器官、腫瘍または腫瘍床の動き及び形状の変化に追随するような可撓性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ヒト及び動物を対象とした軟組織における器官及び器官の部位または空洞(void)の正確な位置、動き及び/または歪みをマーキングし、位置を特定し、追跡する装置及び方法に係わる。本発明はさらにこの装置の使用方法にも係わる。
【背景技術】
【0002】
身体部位の位置の特定及び追跡を目的として、侵入型マーカーが多く医療用に用いられている。
【0003】
侵入型マーカーの第1の典型的な用途は下記の通りである:組織の異常は公知の診断手段、例えば、超音波検査、PET、SPECT、CTスキャン、マンモグラム(mammogram)、X線撮影または触診によって発見される。しかし、このような診断手段では悪性腫瘍と良性腫瘍とを区別することはできない。腫瘍を分析するために生体組織検査が行われる。この場合、後の腫瘍の正確な処置のために必要に応じて生体組織検査部位にマーカーが挿入される。乳癌の診断及び治療にはそのようなマーカーが必要である。
【0004】
他の用途では、放射線治療、例えば、中性子ビーム、電子ビームまたはX線の治療を受ける患者を準備するために、侵入型マーカーが使用される。このような治療は、通常、毎日時間を区切って、または部位を区分して実施される。治療は、例えば、25日間に亙って、1日の照射量を3Gyとして行われる。照射線源に対して患者を正確に位置させるため、肉眼で、またはX線画像システムで視認できるマーカーが必要である。例えば、脳腫瘍のように骨格に対して固定位置に存在する腫瘍の場合、骨格をマーカーとして利用することができる。しかし、骨格に対して固定位置に存在しない軟組織の場合、これらのマーカーは役立たない。乳房や前立腺の場合がこれに該当し、平均の動きは30mmぐらいだろう。中性子または重イオン治療または標的の腫瘍に対する照射線量の3次原体を可能にするIMRTのような放射技術とともに、マーカー及びマーキング方法が、治療すべき腫瘍を治療ビームと位置合わせをするために必要である。照射技術は改良されており、ビームの立体位置における1mm以上の精度が最先端であり、従って、これに相当する患者の位置決めにおける精度が要求される。
【0005】
さらに他の用途では、腫瘍のサイズの拡大または縮小を追跡する手段が必要である。シード(seed)のような公知の侵入型マーカーを用いて、マーカーの位置を追跡し、それによって、それらが埋め込まれている器官の位置を追跡することができる。しかし、この器官の形状の変化を追跡することはできない。典型的なシード(seed)は配置された位置から平均2−3mm動く。マーカーの動きは、器官のずれまたは歪みと区別することができない。基本的には、臨床医は点マーカーを用いて2つ以上のマーカー間の組織の挙動を測定することになる。しかし、多くの場合、マーカー間の組織の挙動に関する詳細な知見はない。これは、組織または器官に外的または内的な力が加わって生ずる標的の容積の変化または変形を誤認することになりかねない。
【0006】
前立腺癌のようなある種の癌の治療に複数の治療法の組合わせが最善の結果を生むことが分かっている。前立腺癌の治療においては、ブラキセラピー(brachytherapy)、即ち、器官への放射性インプラントの挿入と、外部からのビーム療法との組み合わせが良い結果を生む。従来採用されているブラキセラピー(brachytherapy)インプラントは、米粒のような形状とサイズを有するシード(seed)である。しかし、このようなシード(seed)には2つの欠点がある:即ち、それらが目的とする位置からずれ易く、超音波画像で視認し難い。
【0007】
侵入型マーカーの必要性は乳癌や前立腺癌のような癌の診断及び治療において顕著である。これらのマーカーは利用される画像技術で容易に視認できることが好ましい。従って、マンモグラム(mammogram)に使用されるX線で視認可能でなければならない。それらはまた、超音波装置または超音波検査で見えること、従って、良好なエコー発生性を有する、即ち、超音波を反射することが必要である。
【0008】
米国特許第5,221,269号は、乳房の病変の位置を特定するためのマーカーとしてのワイヤー(wire)を開示している。マーカーとしてのワイヤー(wire)は、超弾性材料から成り、らせん状コイルに成形されている。マーカーとしてのワイヤー(wire)は、管状のニードル(needle)に挿通されて真っすぐに伸展され、ニードル(needle)から押出されると再びらせん状に復帰する。このコイルの直径は典型的には3cmであり、使用されるワイヤーの直径は300μmである。マーカーを導入する時、ワイヤーの基端は皮膚のレベルに現れる。従って、このマーカーは生体組織検査と治療との間の短期間のマーキングにしか使用され得ず、体内に恒久的に残らないだろう。導入のために用いられるニードル(needle)の先端は、超音波視認性を高めるために複数の半球形のくぼみを含んでいてよい。
【0009】
米国特許第5,234,426号は、先端にらせん状に巻かれたワイヤーを有するシャフトから成るマーカーを開示している。ワイヤーの直径は、0.009乃至0.015インチ(200乃至400μm)である。このマーカーはまた、配置される時、患者の身体から突出する基端を有している。
【0010】
米国特許第6,228,055号は、マーカーとしての塞栓コイルの使用を開示している。塞栓コイルは、血管の病変または奇形を治療するため、静脈または動脈内に恒久的に配置されるように設計されている。そのような管腔内装置は、治療される血管に合わせた外径、典型的には0.5乃至5mm程度の外径を有し、それらが機能を果たすのに充分な機械的強度を与える材料及びサイズからなる。国際公開第02/41786号もまた、生体組織検査マーカーとしての塞栓コイルの使用を開示している。これらの装置には、そのサイズ及び剛度の結果として、侵入型マーカーとして使用するには多くの欠点がある:(i)例えば細いニードル(needle)のような、低侵襲性の介入(intervention)を通じて導入することができない;(ii)腫瘍が悪性であることが生体組織検査で明らかにされない場合には、それらは体内に残される恒久的なマーカーとして容易には受け入れられないかも知れない;(iii)外的要因の影響下に縮小または膨張する軟組織に恒久的に挿入するのに必要な側方及び軸方向の可撓性を欠く;(iv)それらは、療法士が視認できる状態であるべき病変の様相を覆い隠すかも知れない。
【0011】
生体組織検査部位、例えば、乳房の生体組織検査部位をマーキングするために、米国特許第6,425,903号に開示されているようなクリップを使用することは公知である。そのようなクリップを1組配置しても、空洞(cavity)の形状の追跡ができるようにはならない。米国特許第6,356,782号から知られているように、充填体と検知可能なマーカーとを併用することも公知である。しかし、充填体の存在が生体組織検査部位の治癒プロセスを改良することにはならない。
【0012】
ディジタルX線撮影法、マンモグラフィ(mammography)、CT(コンピューター断層撮影)スキャン、MRI(磁気共鳴映像法)、超音波検査法、PET(陽電子放出断層撮影法)などのような医学的画像技術の開発に伴い、器官及び腫瘍の詳細な特徴を検知する手段を利用できるようになった。これらの技術はいずれも長所もあれば短所もあり、それぞれに好適な使用分野がある。空間分解能、組織弁別能力、患者に与える外傷、スピード及びコストにおいてそれぞれ差異がある。従って、これらの異なる画像技術から得たデータ、または角度を変えて、または時間をずらして同じ技術で撮影した画像から得たデータを調整できることが望ましい。X線及び超音波を介して得られた画像を融合する方法は米国特許第5,810,007号から公知である。この方法では、両画像を重ねるために使用される基準点(fiducials)(標点(reference points))となるのが超音波探触子である。プロセスの精度は、超音波探触子の正確な位置に依存し、超音波探触子が取外されたら、異なる時間に撮影された画像の融合に利用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,221,269号
【特許文献2】米国特許第5,234,426号
【特許文献3】米国特許第6,228,055号
【特許文献4】国際公開第02/41786号
【特許文献5】米国特許第6,425,903号
【特許文献6】米国特許第6,356,782号
【特許文献7】米国特許第5,810,007号
【特許文献8】米国特許第6,419,621号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、本発明の目的は、患者の体内に恒久的に残されるのに充分な程度に小さく且つ可撓性のマーカーであって、低侵襲性の技術を介して挿入することができ、器官の形状の変化を示すことができ、挿入中も挿入後もX線や超音波などによる画像技術で容易に視認できるマーカーを提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、放射線ビームで治療されるべき器官または腫瘍の位置を正確に特定する方法及びこの方法において使用されるマーカーを提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、器官または腫瘍の位置及びサイズの変化を追跡する方法、及びこの方法において使用されるマーカーを提供することにある。
【0017】
画像を融合する方法及びこの方法において使用されるマーカーを提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、一形態において、哺乳類の体内の器官、腫瘍または腫瘍床の位置を特定するための侵入型マーカーに係わる。マーカーは、基端、先端及び連続的な中間部分を有する。その中間部分の少なくとも一部は、少なくとも1つの画像方法下で視認可能であり、マーカーが、器官、腫瘍または腫瘍床の動き及び形状の変化に追随することができるような可撓性を有する。好ましい実施態様では、侵入型マーカーはその直径に対する長さの比が10以上である。用途によっては、その比が250を超えることもあるだろう。侵入型マーカーは可撓性ワイヤーを含み、そのワイヤーがらせん状コイルの形態を呈することができ、それによって有利な可撓性が得られる。らせん状コイルマーカーは、ピッチの異なる区分を含むことができる。ピッチの異なる区分は、それぞれ異なる画像技術下での視認可能性に関して異なる特性を有し、長さ方向及び側方の可撓性に関してそれぞれ異なる機械的特性をも有する。マーカーは少なくとも一部が放射線不透過性材料から形成されることができる。それらは、診断用のX線、例えば、100keV程度のエネルギーを有するX線の画像下で視認できる。それらはまた、有利には、治療用ビームとして使用される高エネルギーX線、例えば、3乃至50MeVのX線下で視認可能であってもよい。それらはまた、超音波画像下で視認可能であることが好ましい。マーカーは、その両端及び/または中間点に、器官、腫瘍または腫瘍床にマーカーを固定するための1つまたはそれ以上の組織アンカー(anchors)を含むことができる。それにより、マーカーは、サイズ及び形状の変化、特に長さ方向のサイズの変化に追随する。器官、腫瘍または腫瘍床に固定するための他の手段、例えば、マーカーの組織へのはまり方(grip)を改善する側面構造,例えば、らせん状コイルの外面上の突条(ridges)が使用されてもよい。マーカーは、恒久的な埋め込み(implantaion)に好適な生体適合材料から形成されることが好ましい。そのような材料は、ロジウム、プラチナ、イリジウム、タンタル、チタン、銀、金、ニッケル、これらの金属の合金、及びステンレススチールであってもよい。
【0019】
本発明の他の態様によれば、ひとつまたは複数の区分に所定の線量が供給されるビーム供給装置を利用し、放射線ビームで患者の軟組織の器官、腫瘍または腫瘍床を治療するための方法が提供される。本発明の1つまたは2つ以上のマーカーを、器官、腫瘍または腫瘍床に挿入する。次いで、放射線ビームを受ける患者をおおよその位置に置き、画像技術、例えば、X線画像下でマーカーの画像を形成する。その画像から、器官、腫瘍または腫瘍床の正確な位置、形状及び形状の変化を推測する。次いで、放射線ビームを器官、腫瘍または腫瘍床に向けるために、患者の位置及び/または放射線ビーム供給装置を調整することによって、正確な器官の位置、サイズまたは方向(orientation)に対して正確に治療用ビームを供給する。所定の線量が連続する区分に分けて供給される場合、上記ステップを繰返し、治療の過程で治療されるべき器官がその位置、サイズ及び/または方向(orientation)を変えるなら、それに応じて患者の位置及びビーム供給装置をその都度調整すればよい。
【0020】
本発明のさらなる態様は、器官、腫瘍または腫瘍床の形状、サイズまたは位置の変化を測定する方法に係わる。本発明の1つまたはそれ以上のマーカーが、器官、腫瘍または腫瘍床に挿入される。マーカーは、器官、腫瘍または腫瘍床の動き及び形状の変化に追随するような可撓性を有する。マーカーの長さは追随すべき器官、腫瘍または腫瘍床のサイズに合わせて選択されればよい。器官の連続画像が得られる。マーカーの形状または位置の変化から器官、腫瘍または腫瘍床の形状、サイズまたは位置の変化を推測する。
【0021】
本発明のさらなる態様では、方法が、2つまたはそれ以上のマーカーの、器官、腫瘍または腫瘍床への挿入を含む。2つまたはそれ以上のマーカーの相対的な距離、相対的な方向(orientation)、及び形状または位置の変化から補足的な情報が得られる。
【0022】
本発明の他の態様によれば、方法は、切除空洞の形状、サイズまたは位置の変化を測定するために提供される。切除後、外科医は本発明の1つまたはそれ以上のマーカーを切除空洞の周縁に沿って配置する。本発明のマーカーの可撓性は、マーカーが切除部分の周縁に沿って容易に順応し得るほどである。マーカーは、所定位置に縫合されるかまたは組織アンカー(anchors)手段を介して固定されることができる。器官の連続画像を得ることによって、マーカーの形状または位置の変化から切除空洞の形状、サイズまたは位置の変化を推測することができる。
【0023】
本発明の他の態様によれば、方法は、哺乳類体内における解剖学的部位の境界をマーキングするために提供される。例えば、超音波画像または蛍光透視法などの、解剖学的部位をディスプレイ上に表示し、解剖学的部位の境界が識別され得る画像技術に従ってリアルタイム画像を得る。リアルタイム−ディスプレイに案内されて、本発明の1つまたはそれ以上のマーカーを挿入し、問題の解剖学的部位の境界にマーカーの先端及び/または基端を位置させる。この方法の好ましい実施態様では、問題の解剖学的部位が前立腺部位であり、境界が前立腺尖、前立腺底、前立腺−直腸の境界、前立腺の側面の境界、結腸、尿道、膀胱、精嚢、神経血管束及び尿道球の境界を含む。リアルタイム画像は、有利には、経直腸的超音波探触子によって得ることができる。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、1つまたはそれ以上の画像技術(例えば、X線撮影、CTスキャン、超音波検査)によって得られる解剖学的部位の複数の画像を融合する方法に係わる。本発明の1つまたはそれ以上のマーカーを問題の解剖学的部位またはその近傍に挿入する。本発明のマーカーを示す解剖学的部位の画像を得る。次いで、画像は、それぞれの画像上でマーカーのサイズ、形状及び位置を整合させるように画像のスケール(scale)及び方向(orientation)を修正するために処理される。
【0025】
画像を融合する方法の変化では、解剖学的部位またはその近傍に2つまたはそれ以上のマーカーを挿入する。次いで、画像のスケール(scale)及び方向(orientation)を修正するために、2つまたはそれ以上のマーカーの相対的な距離及び相対的な方向を利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1a−1dは、本発明の1対のマーカーが器官の形状の変化を追跡するためにどのように使用され得るのかを示す。
【図2】図2a及び2bは、本発明の1対の平行なマーカーが器官の形状の変化を追跡するためにどのように使用され得るのかを示す。
【図3】図3aは、侵入型マーカー挿入後の器官を示す。図3bは、一部でサイズが増大した後の同器官及びマーカーを示し、図3cはサイズが減少した後の同器官及びマーカーを示す。
【図4】図4は、生体組織検査部位をマーキングするために使用される挿入されたマーカーを示す。
【図5】図5は、前立腺に挿入された1組のマーカーを示す概略図である。
【図6】図6は、1組のマーカーを前立腺に位置させるために使用される装置の斜視図である。
【図7】図7は、マーカーが一定のピッチを有するらせん状コイルである本発明のマーカーを示す側面図である。
【図8】図8は、マーカーが高ピッチの区分と低ピッチの区分とを有するらせん状コイルである本発明のマーカーの側面図である。
【図9】図9a−9dは、種々の画像技術で得られた本発明のマーカーの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のコイル形状マーカーは、乳房や前立腺のような軟組織器官に挿入されたときに、その器官の形状の変化に追随するように軸方向にも横方向にも可撓性を有する。マーカーの横方向の可撓性は、それらが挿入される組織の可撓性と同等でなければならない。コイル形状マーカーは形状の変化に対していかなる機械的抵抗も示さない。ニードル中を通っての挿入後、マーカーはほぼ直線状である。治療の影響下で、または自然な成長またはストレス下で器官の形状が変化すると、可撓性のマーカーは湾曲した形状を呈する。コイル形状マーカーは、これが挿入された器官を把持し、縦方向の形状変化に追随することが経験されている。従って、器官のサイズの拡大及び形状の変化を追跡するために、マーカーの形状の変化及び相対的な位置を追跡する。本発明のマーカーは、超音波画像法において優れた可視性を有するから、超音波画像技術で繰返し検査を行うことができ、それによって、度重なるX線の照射を回避する。
【0028】
2つまたはそれ以上のコイル形状マーカーの器官への固定が、体内での器官の位置の追跡を可能にする。このことは特に、乳房や前立腺のような軟組織器官に対して必要である。膀胱や結腸の内容物によっては、前立腺が数cmずれることがある。外部ビームによる治療は、1mm以上の精度をもって進められる。
【0029】
図1a、1b、1c、1dは、本発明のマーカーを利用してどのように器官の形状変化が追跡され得るのかを示す。図1aでは、2つのマーカー1、2が器官3に挿入されている(ここではゲルが充填されたバルーンとしてあらわされている)。挿入後のマーカーは直線状である。図1bでは、器官が上方から均一な圧力を受けており、マーカーの相対的な方向の変化から、器官の形状変化が推測され得る。同様に、図1cでは、器官が上方から均一な張力を受けており、マーカーがこれに対応する相対的な位置の変化を示す。図1dでは、器官が不均一な圧力、例えば、体内のストレス(膨満した膀胱または胃、ガス、腫脹など)、局部的成長(腫瘍)からのストレス、外部的ストレス(患者と接触している衣類やハードウェア)、体重変化、水分含量の変化などに起因する不均一な圧力を受けている。これらはマーカー1の中間部分の形状変化に反映される。
【0030】
平行に挿入された本発明の2つまたはそれ以上の侵入型マーカーの利用が、図2a及び2bで示されているような、よりよい形状変化の追跡を可能にする。
【0031】
図3a、3b及び3cに示すように、本発明の侵入型マーカーを使用すれば、器官または腫瘍の変化を追跡することができる。図3aでは、1つまたはそれ以上のマーカーが問題の部位4を挟んで平行に且つ直線的に挿入されている。連続画像がしばらくしてとられ、問題の部位のサイズの拡大(図3b)または縮小(図3c)を示すことができる。重要なのは、追跡のために使用される画像技術がマーカーを視認できることであって、問題の部位そのものを視認できなくてもよい。従って、より高速であって、より低侵襲性または患者にとってより快適な画像技術が使用され得る。特に、超音波画像技術が使用され得る。
【0032】
本発明の侵入型マーカーの他の用途として、“切除床(excision bed)”のマーキングがある。具体的には、例えば乳腺腫瘤摘出の場合のように、多くの医療処置において、組織の一部が外科的に除去される。このような場合、放射線治療や補足的外科的切除などの術後処置のためには、同じ組織ボリューム(volume)に戻り得ることが重要である。治癒プロセスが完了するまで、この“空の”ボリューム(volume)は病気と定められるから、このボリューム(volume)に隣接する組織に配置された細長い(elongated)可撓性マーカーが、位置の詳細な描写(description)を提供することができる。この場合、点マーカーは、軟組織または腫瘍ボリューム(volume)のマーキングに関して上述したような欠点があるとともに、典型的には2−3mmの動きがマーカーを切除ボリューム(volume)に陥らせ、単に、この組織間隙中に“浮いている”だけにさせる可能性があるというさらなる問題がある。本発明の侵入型マーカーの延長された長さがこの可能性を排除する。これらの場合、細長い(elongated)マーカーは、標的組織へ挿入されるか、または切開方法が用いられた場合には、適切な位置に縫合されればよい。図4は、表面下の切除床6(乳腺腫瘤摘出によって形成された空洞)及び皮膚上の手術痕8を示しているヒト乳房5を示す。外科医は、切除床の周縁に沿って連続長さ部分のマーカー7を配置するか、または切除床の周りに戦略的に配置された複数の長さ部分を配置するという選択肢を有するだろう。
【0033】
本発明のマーカーは、前立腺癌の外部放射線照射療法において特に有用である。前立腺(またはその他の)癌があると診断された患者は、種々の外科的選択肢(前立腺全摘出術またはその他の病変組織の外科的切除)及びそれらの治療のために評価すべき非外科的選択肢を有する。これらの非外科的選択肢は、放射線療法、ホルモン療法、低体温療法、高体温療法、薬物療法、遺伝子療法を含む。従来、放射線療法と外科的切除療法だけが、10年間80%以上の無病生存率を示しており、業界における注意の標準を表している。放射線療法が目指しているのは、器官(この場合には前立腺)に対して可能な限り多くの(所定線量を上限とする)放射線照射を行い、周辺の組織に照射される放射線を極力少なくしてこの処理の合併症(または副作用)を軽減することである。その結果、過去20年に亙る外部照射法の進歩は、器官の形状と一致するように照射することに焦点が当てられてきた。毎年、刊行物は、より効率的な方法での照射を目標とすることがきで、隣接組織への線量を絶えず軽減させることにおいて進歩を示している。現時点では、これらの療法のうち最も精度の高いもの(陽子照射療法)は、所期の標的位置の0.1mmに放射線を局限させる能力を必要とする。
【0034】
図5は、前立腺9に適用された場合の、解剖学的部位の境界をマーキングする方法を示す。細長い(elongated)マーカー10が、前立腺/直腸境界の近傍で前立腺9に挿入されている。このようなマーカーは、典型的には長さが4cmであり、高さ調整に使用される。細長い(elongated)マーカー11及び12は、前立腺の左右両側に配置され、中央平面における腺の横幅を画定する。これらのマーカーは左右を整合させるためマーカー10と併用される。マーカー13は、前立腺尖を示し、患者位置の頭側−脚側の整合に利用される。マーカー14は、前立腺底を示し、これも頭側−脚側の整合に利用される。一旦配置されると、これらのマーカーは、腺の位置、サイズ及び方向の変化に追随し、それによって器官のサイズ拡大または縮小の追跡を可能にし、放射線治療中の正確な位置決め及び方向制御を可能にする。
【0035】
図6は、ニードル(needle)16及びTRUS(経直腸的超音波)と経腹的に整列させるように設計された直線的なテンプレート17を用いて、図5に示したようなパターンで細長い(elongated)マーカーを配置するのに使用される公知の装置15と、プッシャーワイヤーを用いて細長い(elongated)マーカー1をこれらのニードル(needle)を介して挿入するパターン化した方法を示す。前立腺マーカーは、直腸を通って指で(digitally)挿入され、触覚による誘導及び/または超音波画像による誘導で位置決めすることもできる。
【0036】
図7は、50×200μmの矩形断面を有し、コイル軸心に沿って側方へ広がるようにコイル巻きされた、長さ5cm、外径500μm(0.5mm)のコイル形状マーカー1を示す。マーカーの長さは使用目的に応じて選択すればよく、前立腺尖及び前立腺底のように器官の縦方向両端部をマーキングするには1cmの短さでもよく、例えば、生体組織検査部位の場合には10cm以上のものが使用されればよい。使用目的に応じて、外径は25μm乃至2500μmの範囲から選択でき、ワイヤー断面は直径10μm乃至2500μmの円形でもよいし、10μm乃至500μmのサイズを有する矩形でもよい。アスペクト比、即ち、外径に対する長さの比は図示例では100であるが、10乃至250以上のアスペクト比が、可撓性、X線及び超音波可視性の優れた組合わせを与えるということがわかっている。らせんコイルのもう1つの特性は、連続する2つの巻き間の軸方向長さとして定義できるピッチである。
【0037】
特定の使用目的に好適なコイルのその他の例を以下に述べる:

例1
主に超音波または診断用X線画像技術と併用されるコイル

材質 ロジウム
らせん外径 350μm
らせん内径 250μm
矩形ワイヤーのサイズ 200×50μm
ワイヤーのピッチ 240+/−40μm

例2
主に診断用X線、蛍光透視鏡または超音波のためのコイル

材質 プラチナ
らせん外径 500μm
らせん内径 350μm
円形ワイヤー 直径75μm
ワイヤーのピッチ 90+/−9μm

例3
主にポータルイメージング(高エネルギーX線)のためのコイル

材質 金
らせん外径 2.0mm
らせん内径 1.2mm
ワイヤーの直径 0.4mm
ワイヤーのピッチ 0.48+/−0.08mm

【0038】
本発明のコイルを使用することによって得られる側方の可撓性は極めて高い。この可撓性は一端から水平に固定されたらせんコイルの垂れ下がりを測定することで容易に評価できる。他端は自重に応じて垂れ下がる。外径350μm、ワイヤーの矩形断面200μm×50μm、ピッチ220μm、自由長35.5mmのステンレススチール製コイルの垂れ下がりは2.9mmであることが分かった。
【0039】
図8は、ピッチの異なる区分を有するコイル形状マーカーの好ましい実施形態を示す。高ピッチ区分18(密でないコイル)はすぐれた可撓性を提供するのに対して、低ピッチ区分19(密なコイル)はX線及び超音波によるすぐれた透過性を提供する。
【0040】
図9a−9dは、種々の画像技術:蛍光透視(図9a)、CT(図9b)、X線(図9c)及び超音波(図9d)から得られた本発明のマーカーコイルの画像を示す。
【0041】
本発明の発明者が得た所見によれば、参考のためにここに示された米国特許第6,419,621号に開示されているらせんコイルは、本発明の侵入型マーカーとして有効に利用することができる。より正確には、この文献は、放射性コイル形状ワイヤーを開示している。このような放射性コイル形状ワイヤーは、イオン注入技術またはアイソトープ薄膜蒸着により前駆物質の荷電粒子の加速ビームにさらされるアクティベーションプロセスによって得られる。侵入型マーカーとして使用できるコイルは、アクティベーション以前のコイルである。これは、同じ材料を、侵入型マーカーとしても、ブラキセラピー(brachytherapy)素子をつくるための前駆物質としても使用可能にする。このようなコイルは、アクティベーション後に使用されてもよく、ブラキセラピー(brachytherapy)素子として、及びマーカーとして、同時に、ブラキセラピー(brachytherapy)/遠隔照射療法において使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の体内の器官、腫瘍または腫瘍床の位置を特定するための侵入型マーカーであって、前記マーカーが基端、先端及び連続的な中間部分を有し、前記マーカーの中間部分の少なくとも一部が少なくとも1つの画像技術下で視認可能であり、前記器官、腫瘍または腫瘍床の動き及び形状の変化に追随するような可撓性を有することを特徴とする前記侵入型マーカー。
【請求項2】
前記中間部分が、所定の直径及び所定の長さを有し、前記直径に対する前記長さの比が10以上であることを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項3】
マーカーが可撓性ワイヤーを含むことを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項4】
可撓性ワイヤーの少なくとも一部がらせん状コイルの形態を呈することを特徴とする請求項3に記載の侵入型マーカー。
【請求項5】
前記部分がピッチの異なる区分を含むことを特徴とする請求項4に記載の侵入型マーカー。
【請求項6】
前記マーカーの少なくとも一部が放射線不透過性材料から形成されることを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項7】
前記マーカーの少なくとも一部が超音波画像下において視認できることを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項8】
前記マーカーの少なくとも一部が診断用のX線下で視認できることを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項9】
前記マーカーの少なくとも一部が治療用高エネルギーX線下で視認できることを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項10】
マーカーが1つまたはそれ以上の組織アンカーを含むことを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項11】
マーカーが、前記器官、腫瘍または腫瘍床に埋め込むための手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項12】
マーカーが恒久的な埋め込みに好適な生体適合材料から成ることを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項13】
ワイヤーが、ロジウム、プラチナ、イリジウム、タンタル、チタン、銀、金、ニッケル、これらの金属の合金、及びステンレススチールから成る群から選択された生体適合材料から成ることを特徴とする請求項1に記載の侵入型マーカー。
【請求項14】
ひとつまたは複数の区分に所定の線量が供給されるビーム照射装置を利用し、患者の軟組織の器官、腫瘍または腫瘍床を治療する方法であって、
a)1つまたはそれ以上のマーカーを前記器官、腫瘍または腫瘍床に挿入し、前記マーカーが、基端、先端及び連続的な中間部分を有し、少なくとも1つの画像技術下で視認可能であり、前記器官、腫瘍または腫瘍床の動き及び形状の変化に追随するような所定の長さ及び可撓性を有し;
b)前記放射線ビームを受けるように前記患者を位置させ;
c)1つまたはそれ以上の前記画像技術で前記1つまたはそれ以上のマーカーの1つまたはそれ以上の画像を形成し;
d)前記1つまたはそれ以上の画像から前記器官、腫瘍または腫瘍床の位置、形状及び形状の変化を推測し;
e)前記放射線ビームを前記器官、腫瘍または腫瘍床に向けるため、患者の位置及び/または放射線ビーム供給装置を調整し;
f)前記治療用ビーム区分の1つを供給し;
g)前記所定の線量に達するまでステップ(b)乃至(f)を繰返す
ステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項15】
前記マーカーが請求項1から13までのいずれか1項に記載のマーカーであることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
器官、腫瘍または腫瘍床の形状、サイズまたは位置の変化を測定する方法であって、
−1つまたはそれ以上のマーカーを前記器官、腫瘍または腫瘍床に挿入し、前記マーカーが、基端、先端及び連続的な中間部分を有し、少なくとも1つの画像技術で視認可能であり、前記器官、腫瘍または腫瘍床のサイズに見合う長さと、前記器官、腫瘍または腫瘍床の動き及び形状の変化に追随するような可撓性を有し;
−前記画像技術によって前記器官の連続画像を得;
−前記マーカーの形状または位置の変化から前記器官、腫瘍または腫瘍床の形状、サイズまたは位置の変化を推測する
ステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項17】
前記マーカーが請求項1から13までのいずれか1項に記載のマーカーであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
器官、腫瘍または腫瘍床の形状、サイズまたは位置の変化を測定する方法であって、
−2つまたはそれ以上のマーカーを前記器官、腫瘍または腫瘍床に挿入し、前記マーカーが、基端、先端及び連続的な中間部分を有し、少なくとも1つの画像技術で視認可能であり、前記器官、腫瘍または腫瘍床のサイズに見合う長さと、前記器官、腫瘍または腫瘍床の動き及び形状の変化に追随するような可撓性を有し;
−前記画像技術によって前記器官の連続画像を得;
−前記マーカーの相対敵な距離、相対的な方向、及び形状または位置の変化から前記器官、腫瘍または腫瘍床の形状、サイズまたは位置の変化を推測する
ステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項19】
前記マーカーが請求項1から13までのいずれか1項に記載のマーカーであることを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
切除空洞の形状、サイズまたは位置の変化を測定する方法であって、
−1つまたはそれ以上のマーカーを前記切除空洞の周縁に沿って配置し、前記マーカーが、基端、先端及び連続的な中間部分を有し、少なくとも1つの画像技術で視認可能であり、前記切除空洞のサイズに見合う長さと、前記切除空洞の周縁の湾曲に順応できるような可撓性を有し;
−前記画像技術によって前記器官の連続画像を得;
−前記マーカーの形状または位置の変化から前記切除空洞の形状、サイズまたは位置の変化を推測する
ステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項21】
前記マーカーが請求項1から13までのいずれか1項に記載のマーカーであることを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
哺乳類の体内における解剖学的部位の境界をマーキングする方法であって、
−前記解剖学的部位をディスプレイ上に表示する画像技術に従ってリアルタイム画像を得;
−前記ディスプレイ上の前記解剖学的部位の境界を識別し;
−1つまたはそれ以上のマーカーを挿入し、前記マーカーが、基端、先端及び連続的な中間部分を有し、前記画像技術で視認可能であり、所定の長さを有し;
−前記スクリーン上の前記画像によって案内される前記解剖学的部位の境界に前記マーカーの先端及び/または基端を位置させる
ステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項23】
解剖学的部位が前立腺部位であり、前記境界が、前立腺尖、前立腺底、前立腺−直腸境界、前立腺の側方の境界、結腸、尿道、膀胱、精嚢、神経血管束及び尿道球の境界を含むことを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項24】
リアルタイム画像が経直腸的超音波探触子によって得ることを特徴とする請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記マーカーが請求項1から13までのいずれか1項に記載のマーカーであることを特徴とする請求項22に記載の方法。
【請求項26】
1つまたはそれ以上の画像技術によって得られる解剖学的部位の複数の画像を融合する方法であって、
−1つまたはそれ以上のマーカーを挿入し、前記マーカーが、基端、先端及び連続的な中間部分を有し、前記画像技術で視認可能であり、所定の長さを有し;
−前記解剖学的部位の前記複数の画像を得;
−前記画像のそれぞれにおいて前記1つまたはそれ以上のマーカーのサイズ、形状及び位置を整合させるように前記画像のスケール及び方向を修正する
ステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項27】
前記マーカーが請求項1から13までのいずれか1項に記載のマーカーであることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
1つまたはそれ以上の画像技術によって得られる解剖学的部位の複数の画像を融合する方法であって、
−2つまたはそれ以上のマーカーを挿入し、前記マーカーが、基端、先端及び連続的な中間部分を有し、前記画像技術で視認可能であり、所定の長さを有し;
−前記解剖学的部位の前記複数の画像を得;
−前記画像のそれぞれにおいて前記2つまたはそれ以上のマーカーの相対的な距離、サイズ、形状及び位置を整合させるように前記画像のスケール及び方向を修正する
ステップを含むことを特徴とする前記方法。
【請求項29】
前記マーカーが請求項1から13までのいずれか1項に記載のマーカーであることを特徴とする請求項28に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−139509(P2012−139509A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−8510(P2012−8510)
【出願日】平成24年1月18日(2012.1.18)
【分割の表示】特願2004−542110(P2004−542110)の分割
【原出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【出願人】(502017227)
【Fターム(参考)】